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  • 特開-糖化酵素の回収方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161979
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】糖化酵素の回収方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/42 20060101AFI20241114BHJP
   C13K 1/02 20060101ALN20241114BHJP
【FI】
C12N9/42
C13K1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023077090
(22)【出願日】2023-05-09
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 清夏
(72)【発明者】
【氏名】中井 葉子
(72)【発明者】
【氏名】中島 嘉樹
(72)【発明者】
【氏名】田中 英樹
(57)【要約】
【課題】活性が良好な状態で糖化酵素を回収する方法を提供する。
【解決手段】セルロース及び糖化酵素を準備する準備工程と、前記セルロースと前記糖化酵素とを混合して糖化反応を行う糖化工程と、前記糖化工程を経た反応物を液相及び固相に分離する分離工程と、前記液相から、糖と、前記糖化酵素とを回収する回収工程と、を含み、前記回収工程において、前記液相における前記糖の濃度が調整される、糖化酵素の回収方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース及び糖化酵素を準備する準備工程と、
前記セルロースと前記糖化酵素とを混合して糖化反応を行う糖化工程と、
前記糖化工程を経た反応物を液相及び固相に分離する分離工程と、
前記液相から、糖と、前記糖化酵素とを回収する回収工程と、
を含み、
前記回収工程において、前記液相における前記糖の濃度が調整される、糖化酵素の回収方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記回収工程では、前記液相における前記糖の濃度が0.5g/L以上に調整される、回収方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
前記回収工程では、前記液相における前記糖の濃度が1g/L以上50g/L以下に調整される、回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖化酵素の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースを糖化することによりグルコースを得ることが、いわゆるカーボンマイナス、バイオマスの有効利用、バイオエタノールへの応用等の観点から注目されている。例えば、特許文献1には、リグノセルロース系バイオマスを酵素で糖化する糖化工程と、糖化工程終了後に酵素を回収する酵素回収工程を含むリグノセルロース系バイオマスの糖化方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-223113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
引用文献1に開示されるように、バイオマスを糖化する酵素を回収することは、酵素が高価であるなどの理由で行われる場合がある。しかしながら、回収される酵素は、活性が不十分となる場合が多く、より活性が高い状態で酵素を回収方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る糖化酵素の回収方法の一態様は、
セルロース及び糖化酵素を準備する準備工程と、
前記セルロースと前記糖化酵素とを混合して糖化反応を行う糖化工程と、
前記糖化工程を経た反応物を液相及び固相に分離する分離工程と、
前記液相から、糖と、前記糖化酵素とを回収する回収工程と、
を含み、
前記回収工程において、前記液相における前記糖の濃度が調整される。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】糖化酵素を回収する装置の概略を模式的に示す図。
図2】糖化酵素の凝集の糖濃度依存性の実験結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下に本発明の実施形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の例を説明するものである。本発明は以下の実施形態になんら限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形形態も含む。なお、以下で説明される構成の全てが本発明の必須の構成であるとは限らない。
【0008】
1.糖化酵素の回収方法
本実施形態に係る糖化酵素の回収方法は、セルロース及び糖化酵素を準備する準備工程と、セルロースと糖化酵素とを混合して糖化反応を行う糖化工程と、糖化工程を経た反応物を液相及び固相に分離する分離工程と、液相から、糖と、糖化酵素とを回収する回収工程と、を含み、回収工程において、液相における糖の濃度が調整される。
【0009】
1.1.準備工程
準備工程では、セルロース及び糖化酵素を準備する。
【0010】
1.1.1.セルロース
セルロースは、β-1,4-グルコシド結合を有する多糖である。セルロースは、植物に多く含まれている。本実施形態で用いるセルロースは、紙、パルプ等に由来してもよい。原料に紙を用いると、原料をより容易に調達できる。また紙は、印刷済みの古紙を含んでもよい。印刷済みの古紙としては、コピー用紙、新聞、雑誌等が挙げられる。印刷済みの古紙を用いると、環境資源や埋蔵資源の節約等になり、廃棄物を削減できるので好適である。
【0011】
本実施形態では、セルロースは、セルロース以外の成分とともに用いられてもよい。セルロース以外の成分としては、例えば、木材由来の成分として、リグニン、ヘミセルロース、加工された木材の成分として、填料、顔料、樹脂成分、粘土類、バインダー、トナー、油分、水分等が挙げられる。
【0012】
セルロースを紙から得る場合には、セルロースのほかに填料等を含むことになるが、原料をより容易に調達できる。また紙は、印刷済みの古紙を含んでもよい。印刷済みの古紙としては、コピー用紙、新聞、雑誌等が挙げられる。印刷済みの古紙を用いると、環境資源や埋蔵資源の節約等になり、廃棄物を削減できるので好適である。
【0013】
紙、古紙等は、粉砕された状態で用いられてもよい。粉砕は、例えば、シュレッダー等により切断して行われてもよく、乾式解繊機等により粉砕されて行われてもよい。さらに粉砕は、例えば、湿式の離解により行われてもよい。原料が粉砕又は粗砕された状態であると、原料中に含まれるセルロース以外の成分をセルロースから遊離させやすくなり、かつセルロースが糖化槽に導入される液体に接しやすくなるので、糖化工程の効率を向上できる場合がある。また、粉砕された古紙等は、表面積が増大することで各工程の効率を向上できる。
【0014】
セルロースの原料は、滅菌された状態で用いられることがより好ましい。滅菌の手法としては、例えば、加熱、紫外線照射等が挙げられる。このようにすれば、糖化反応により生じるグルコース等が、原料由来の微生物等により消費されにくくなり、糖の収率が高まることがある。
【0015】
1.1.2.糖化酵素
糖化酵素としては、β-1,4-グルコシド結合を切断してセルロースを糖に分解する作用を有するものであれば、用いることができる。セルロース分解酵素の例としては、エンドグルカナーゼ、セロビオヒドロラーゼ及び、セロビアーゼ(β-グルコシダーゼ)等が挙げられる。セルロース分解酵素のより具体的な例としては、セルラーゼSS(ナガセケムテックス株式会社製)、Accellerase Duet(GENENCOR社製)、Cellic Ctec2(Novozymes社製)、Cellic Ctec3(Novozymes社製)、及びメイセラーゼ(Meiji seika ファルマ株式会社製)等が挙げられ、これらの酵素は複数種を併用してもよい。また、セルロース表面に存在するキシランを同時に分解し、糖化効率を高めるためにキシラナーゼを併用してもよい。
【0016】
糖化酵素は、粉体、溶液又は分散液として、糖化工程で使用する糖化槽に導入されてもよい。また、糖化酵素は、必要に応じて糖化槽に追加的に導入されてもよい。
【0017】
1.2.糖化工程
糖化工程では、糖化槽に、セルロースと、糖化酵素と、を導入し、適宜のpH、温度で撹拌することにより、糖化反応を行い、セルロースが糖化された反応物を得る。
【0018】
1.2.1.糖化槽
糖化槽は、セルロース及び糖化酵素を導入でき、内容物を撹拌できるものであれば特に限定されない。糖化槽の規模についても限定されず、ビーカー、フラスコ等の実験室規模であってもよいし、パイロットプラント規模であってもよく、さらには商業プラント規模であってもよい。
【0019】
糖化槽は、容器と蓋体とを備えてもよい。糖化槽は、セルロースや糖化酵素の導入口、緩衝液や水の導入口、反応物の取り出し口、内部を撹拌するための機構、内部観察用の窓、加熱・冷却用のヒーター、冷媒配管、ジャケット等、その他配管類を適宜に備えてもよい。さらに、糖化槽は、液面計、温度計等を備えてもよく、それらの設置のための開口を有してもよい。
【0020】
撹拌機構としては、例えば、マグネチックスターラー及び撹拌子、撹拌用モーター、シャフト及び撹拌羽根等が挙げられ、規模や内容物の撹拌効率に応じて適宜選択することができる。
【0021】
1.2.2.糖化酵素の導入
糖化酵素は、糖化反応液として、糖化槽に導入されてもよい。糖化反応液は、糖化酵素を含み、水を主成分とする。糖化反応液には、糖化酵素、水の他に、例えば、酵素反応に有用な物質、pH調節剤、界面活性剤等が含有されてもよい。また、糖化反応液に対して本実施形態の回収方法により回収された糖化酵素を添加してもよい。
【0022】
水としては、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水又は超純水のようなイオン性不純物を極力除去したものであることが好ましい。また、紫外線照射又は過酸化水素添加等により滅菌した水を用いると、反応液を長期保存する場合、酵素反応中、酵素反応後にカビやバクテリアの発生を抑制できるので好ましい。
【0023】
糖化反応液は、pH調節剤を含んでもよい。pH調節剤としては、酢酸、クエン酸、リン酸などの有機酸、無機酸、有機アルカリ、無機アルカリ及びそれらのナトリウム塩などの塩から選ばれる1種以上、緩衝液を構成する物質、等を例示できる。
【0024】
糖化反応液は、界面活性剤を含んでもよい。界面活性剤は、酵素反応を阻害しないものであれば、特に制限なく使用できる。糖化反応液に界面活性剤を配合することにより、セルロースに対して糖化反応液が濡れやすくなり、糖化反応の効率を向上できる。
【0025】
また、界面活性剤を用いる場合、消泡効果を有する界面活性剤を含むことがより好ましい。消泡効果を有する界面活性剤は、消泡剤と称する場合がある。消泡剤としては、特に制限されないが、例えば、シリコーン系消泡剤、ポリシロキサン系消泡剤、アセチレングリコール系消泡剤、ポリエーテル系消泡剤、脂肪酸エステル系消泡剤等が挙げられる。
【0026】
シリコーン系界面活性剤の市販品としては、例えば、3次元シロキサン「FOAM BAM(登録商標)MS-575」(製品名、Munzing社製)、KM-71、KM-75(製品名、信越化学工業株式会社製)、BYK-093、BYK-094(製品名、BYK社製)等が挙げられる。
【0027】
ポリシロキサン系消泡剤の市販品としては、KM-73A、KM-73E、KM-71、KM-85、KM-89、KM-98、KM-7752、KS-531、KS-540、KS-530、KS-537、KS-538(製品名、信越化学工業株式会社製)、BYK-020、BYK-021、BYK-022、BYK-023、BYK-024、B
YK-044、BYK-094(製品名、BYK社製)、TSA6406、TSA780、TSA739、TSA775(製品名、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)等が挙げられる。
【0028】
アセチレングリコール系消泡剤としては、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール及び2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのアルキレンオキサイド付加物、並びに2,4-ジメチル-5-デシン-4-オール及び2,4-ジメチル-5-デシン-4-オールのアルキレンオキサイド付加物等が挙げられる。また、アセチレングリコール系消泡剤の市販品としては、例えば、オルフィン104シリーズ、オルフィンE1010等のEシリーズ(製品名、エアープロダクツ社製)、サーフィノール 465、61、DF110D(製品名、日信化学工業株式会社製)等が挙げられる。
【0029】
糖化反応液が消泡剤を含むことにより、発泡しにくく、発泡したとしても消泡しやすくなるので、糖化槽からの溢れや、配管の詰まり等をさらに抑制することができる。
【0030】
糖化反応液は、上記の消泡剤で挙げた以外の界面活性剤を含んでもよい。そのような界面活性剤として、以下に限定されないが、例えば、シリコーン系、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル系、多環フェニルエーテル系、ソルビタン誘導体、フッ素系、ノニオン系の界面活性剤等が挙げられる。
【0031】
1.2.3.糖化反応のpH
糖化工程における糖化反応液のpHは、使用する糖化酵素の至適pHに応じて調整される。例えば用いる酵素がCellic Ctec2(Novozymes社製)である場合には、糖化反応液のpHは、4.5以上6.0以下、好ましくは5.0以上5.7以下である。pHの調節は、上述のpH調整剤を添加することにより行うことができる。また、pHの調節は、糖化酵素を糖化反応液に添加する前に行われることがより好ましい。さらに、糖化反応液にセルロースが混合されると、糖化反応液のpHが高くなることがある。そのような場合には、糖化反応液のpHを上記範囲に適宜調整することが好ましい。
【0032】
pHは、酢酸ナトリウム、酢酸、塩酸、硫酸、水酸化ナトリウム水溶液などを糖化反応液に添加することにより調節できる。また、糖化反応液のpHをモニターできるように構成した場合、糖化工程中にpHを調節してもよい。例えば、糖化槽内を撹拌中にpHが所定のpHよりも高くなった場合には、酢酸、塩酸、硫酸などを添加し、pHが所定のpHよりも低くなった場合には、水酸化ナトリウム水溶液などを添加する。
【0033】
1.2.4.糖化反応の温度
糖化工程における糖化反応液の液体の温度は、用いる酵素の至適温度に調節されることが好ましい。例えば用いる酵素がCellic Ctec2(Novozymes社製)である場合には、糖化反応液の温度は、40℃以上55℃以下、好ましくは48℃以上51℃以下、より好ましくは49℃以上50℃以下である。
【0034】
糖化槽内の液体の温度は、適宜の加熱装置、冷却装置、制御装置などを用いて調節される。
【0035】
1.2.5.撹拌
糖化工程では、糖化槽内にセルロース及び糖化反応液を導入し、これを撹拌することによりセルロース由来の糖を生成させる。糖化工程は、糖化酵素の能力や全体の規模に依存するが、2時間以上1週間以内の時間行われる。糖化工程が行われる時間は、典型的には、10時間以上5日以内、より好ましくは1日以上4日以内、さらに好ましくは1日以上3日以内である。
【0036】
糖化工程における撹拌は、上述した適宜の撹拌機構により行われる。撹拌の際のモーターの回転速度等は、糖化槽の規模や構成、撹拌子又は撹拌羽根の形状糖に応じて適宜設定できる。
【0037】
1.2.6.反応物
糖化工程により生成した反応物は、液相に水、pH調整剤、糖、糖化酵素などを含むが、さらに固相として、未反応のセルロース、セルロースと糖化酵素の複合体、糖化酵素の凝集体、及び、その他の夾雑物を含む場合がある。
【0038】
また、反応物は、糖化反応に適した4.5以上6.0以下、好ましくは5.0以上5.7以下のpHとなっている。後述の実験例で示すように、このようなpHであると、含有される糖の濃度が低すぎると、糖化酵素の凝集体が生成することが判明している。
【0039】
1.3.分離工程
分離工程は、糖化工程で得られた反応物を、液相及び固相に分離する工程である。分離工程は、例えば、濾過やフィルター処理による固液分離、デカンテーションや遠心分離による上澄み液(液相)及び沈殿物(固相)の分離、及びこれらの組み合わせ等により行うことができる。また、濾紙やフィルターを用いる場合には、タンパク質が結合しにくい性質を有するものを用いることが好ましく、例えば、セルロースアセテート膜、ポリエーテルスルホン膜、ポリカーボネート膜、ガラスフィルター、セラミックフィルター等を用いることがより好ましい。
【0040】
分離工程で得られる液相には、糖化酵素が含まれている。この液相から糖化酵素が回収され、リサイクルに用いることができる。さらに、分離工程では液体状態で糖化酵素が分離されるため、糖化酵素へのダメージを小さく抑えることができ、リサイクル時の糖化酵素の活性も高く維持できる。
【0041】
1.4.回収工程
回収工程では、分離工程で得られた液相から、糖と、糖化酵素とを回収する。回収工程においては、液相における糖の濃度が調整される。これにより、糖化酵素の凝集を抑制できるので、凝集による酵素へのダメージを低減できる。そのため、回収された糖化酵素を再利用する場合に、高い活性を発現できる。
【0042】
回収工程では、液相における糖の濃度が0.5g/L以上に調整されることが好ましい。このようにすれば、さらに糖化酵素の活性の低下を抑制できる。また、液相における糖の濃度は1g/L以上に調整されることがより好ましい。さらに、回収工程では、液相における糖の濃度は、1g/L以上50g/L以下、より好ましくは1g/L以上30g/L以下、さらに好ましくは1g/L以上10g/L以下に調整されることが好ましい。このようにすれば、さらに糖化酵素の活性の低下を抑制できる。
【0043】
分離工程を経た液相には、水、pH調整剤、糖、糖化酵素などが含まれる。糖化酵素は、水、pH調整剤、糖に比較して分子量が大きく、適切な分画分子量の限外濾過を用いれば、糖化酵素を回収することができる。
【0044】
他方、回収工程で限外濾過を行うことにより、濾液における糖の濃縮も可能であり、糖化工程において生成された糖を回収することができる。
【0045】
1.5.その他の工程
本実施形態の糖化酵素の回収方法は、その他の工程を含んでもよい。そのような工程としては、例えば、セルロースを滅菌する滅菌工程、回収した糖化酵素をリサイクルするために糖化槽に導入するリサイクル工程、得られた糖を精製する精製工程、及び、得られた糖を濃縮する濃縮工程などが挙げられる。これらの工程は、適宜に組み合わせることができ、適宜のタイミングで行われることができる。
【0046】
またなお、本実施形態の糖化酵素の回収方法は、バッチ式プロセスであっても連続プロセスであっても適用することができる。
【0047】
1.6.装置の一例
ここで、本実施形態の糖化酵素の回収方法を実施可能な装置の一例について、図を参照しながら説明する。図1は、糖化酵素を回収する装置の概略を模式的に示す図である。
【0048】
図1に示すように、装置は、糖化槽、分離装置1、循環ポンプ、限外濾過フィルター、循環流路、及び、分離装置2を少なくとも有している。そして、糖化槽で反応した反応物が、各矢印で示すように流通される。
【0049】
図1に示すように糖化槽において、糖化工程が行われる。糖化槽の詳細は上述の通りである。糖化槽で得られた反応物は、分離装置1に移送され、液相及び固相に分離される。固相は、図示の例では残渣として系から除去される。液相は、循環流路に導入され、循環ポンプにより加圧されながら循環流路を循環する。
【0050】
循環流路は、限外濾過器に接続されており、限外濾過器により濾過された濾液が、糖液として回収される。一方、限外濾過器の機能により、循環流路内の液相から、糖が除去されるとともに、循環する液相に糖化酵素が濃縮する。
【0051】
ここで、循環流路内において、糖が除去され、液相の糖の濃度が1g/L未満に低下すると、糖化酵素の凝集が生じやすくなる。そのような場合には、分離装置1を経た液相が循環流路に追加され、循環流路内の液相に糖が供給され、糖の濃度が1g/L以上に維持される。これにより、液相中での糖化酵素の凝集が抑制される。
【0052】
なお、循環流路内への糖の供給は、水、緩衝液などに糖を含有させ、これを供給して循環流路内の液相の糖の濃度が1g/L以上に維持されてもよい。
【0053】
循環流路内の液相に糖化酵素が初頭の濃度に濃縮されたら、回収酵素として循環流路から排出される。回収酵素は、糖化槽に導入されて再利用される。糖化槽に戻される酵素液には、糖が含まれないことが好ましいが、凝集を抑制するために、糖の濃度が1g/L以上に維持される。
【0054】
他方、限外濾過の濾液である糖液は、必要に応じて分離装置2により、緩衝液(溶媒)と糖濃縮液とに分離されてもよい。これにより、糖を濃縮液として回収できるとともに、緩衝液を再利用することもできる。分離装置2としては、例えばセラミック膜、有機膜などを採用できる。
【0055】
このように、図1に示したような装置によれば、本実施形態の糖化酵素の回収方法を容易に実施することができる。なお、本実施形態の糖化酵素の回収方法を容易に実施する装置は、上記に限定されず、実験室規模であってもよいし、パイロットプラント規模であってもよく、さらには商業プラント規模であってもよい。さらに、装置は、連続式であってもバッチ式であってもよい。さらに、図示しない適宜の構成を有してもよい。
【0056】
1.7.作用効果
本実施形態の回収方法によれば、回収工程において、糖化酵素の凝集が抑制される。これにより、凝集による糖化酵素の劣化を抑制することができる。またこれにより、糖化酵素をリサイクルした場合の活性を低下させにくい。
【0057】
2.実験例
以下、糖化酵素の凝集の実験例を示すが、本発明はこの例に限定されるものではない。
【0058】
図2は、糖化酵素の凝集の糖濃度依存性の実験結果を示す図である。糖化酵素としては、Cellic Ctec2(Novozymes社製)を用いた。酢酸ナトリウム緩衝液を用い、pHが4.3及び5.0の緩衝液を作成した。酵素濃度は、5%基質に対して7.5%に相当する量とした。
【0059】
グルコース標準液を用いて、図2中に示す値となるように糖濃度を調整した。それぞれの糖化酵素緩衝液を、マイクロチューブに封入し、2時間静置後に写真撮影をした。
【0060】
図2にみられるように、pHが4.3である場合、並びに、pHが5であり、かつグルコース濃度が1g/L以上である場合に、凝集物の沈殿が見られないことが判明した。これに対して、pHが5でありグルコースを含まない場合には、濁り、沈殿が生じることが判明した。この沈殿は、糖化酵素の凝集物であると考えられる。
【0061】
上述した実施形態及び変形例は一例であって、これらに限定されるわけではない。例えば、各実施形態及び各変形例を適宜組み合わせることも可能である。
【0062】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成、例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【0063】
上述した実施形態及び変形例から以下の内容が導き出される。
【0064】
糖化酵素の回収方法は、
セルロース及び糖化酵素を準備する準備工程と、
前記セルロースと前記糖化酵素とを混合して糖化反応を行う糖化工程と、
前記糖化工程を経た反応物を液相及び固相に分離する分離工程と、
前記液相から、糖と、前記糖化酵素とを回収する回収工程と、
を含み、
前記回収工程において、前記液相における前記糖の濃度が調整される。
【0065】
この回収方法によれば、回収工程において、糖化酵素の凝集が抑制される。これにより、凝集による糖化酵素の劣化を抑制することができる。またこれにより、糖化酵素をリサイクルした場合の活性を低下させにくい。
【0066】
上記回収方法において、
前記回収工程では、前記液相における前記糖の濃度が0.5g/L以上に調整されてもよい。
【0067】
この回収方法によれば、さらに糖化酵素の活性の低下を抑制できる。
【0068】
上記回収方法において、
前記回収工程では、前記液相における前記糖の濃度が1g/L以上50g/L以下に調整されてもよい。
【0069】
この回収方法によれば、さらに糖化酵素の活性の低下を抑制できる。
図1
図2