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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162002
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】誘導電動機
(51)【国際特許分類】
   H02K 17/16 20060101AFI20241114BHJP
【FI】
H02K17/16 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023077119
(22)【出願日】2023-05-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】藤田 康平
【テーマコード(参考)】
5H013
【Fターム(参考)】
5H013LL04
5H013NN05
(57)【要約】
【課題】簡単な構成で高出力化を図ることができる誘導電動機を提供すること。
【解決手段】誘導電動機10のロータ12は、ロータ12の周方向へ間隔を空けて設けられるロータコイル27を有する。ロータコイル27は、ロータ12における導体バー30よりも径方向内側において、ステータ13からの磁束Jに起因する誘導電流により、導体バー30から発生する磁束の向きと合致する向きに磁束Fを発生する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータの軸方向の一端を形成する第1エンドリングと、前記ロータの軸方向の他端を形成する第2エンドリングと、前記第1エンドリング及び前記第2エンドリングを前記ロータの軸方向に連結し、前記ロータの周方向に並べられた複数の導体バーを有する前記ロータと、
前記ロータの外周を囲繞するとともにステータコイルが巻き付けられたステータと、を備え、
前記ロータは、前記ロータの周方向へ間隔を空けて設けられるとともに、前記ロータにおける前記導体バーよりも前記ロータの径方向内側において、前記ステータからの磁束に起因する誘導電流により、前記導体バーから発生する磁束の向きと合致する向きに磁束を発生するロータコイルを有することを特徴とする誘導電動機。
【請求項2】
前記導体バーと前記ロータコイルとは、前記ロータの径方向にオーバーラップしている請求項1に記載の誘導電動機。
【請求項3】
前記ロータは、前記第1エンドリング、前記第2エンドリング、及び前記複数の導体バーを備える誘導部と、
前記誘導部の内側に嵌合され、当該誘導部と一体回転するコア部と、を備え、
前記コア部は、前記ロータの周方向に離れて配置された複数のコア形成部と、前記ロータの周方向に隣り合う前記コア形成部の間で延びる巻付部と、を備える請求項1又は請求項2に記載の誘導電動機。
【請求項4】
前記巻付部は、前記コア部の径方向中央位置よりも径方向外側に配置され、前記ロータコイルは、前記コア部の径方向中央位置よりも径方向外側に配置されている請求項3に記載の誘導電動機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導電動機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、誘導電動機が開示されている。特許文献1に開示された誘導電動機は、ロータと、ステータと、を備える。ステータは、ロータの外周を間隙を空けて囲繞すると共に、ステータは、分布巻きされたステータコイルを備える。ロータは、ロータシャフトと、ロータシャフトに固着された一対のエンドリングと、一対のエンドリングを連結する複数の連結部材と、を備える。ロータは、一対のエンドリングを複数の連結部材で連結した、かご型導体構造である。
【0003】
特許文献1の誘導電動機は、高い出力トルクを得るために、ステータとロータとの間のエアギャップを小さく維持するためのエアギャップ維持機構を備える。エアギャップ維持機構は、ステータの径方向内端に設けられた複数の凹部と、ロータの径方向外端に設けられた複数の凹条部と、凹部及び凹条部に保持された鉄球と、を備える。鉄球は、ステータに対して回転自在に保持されている。ロータの回転時、複数の凹条部が、ステータの凹部に保持された鉄球に回転接触するため、ロータとステータとのエアギャップが最小に維持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-216517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献1の誘導電動機は、高い出力トルクを得るために、ステータに形成した凹部と、ロータに形成した凹条部と、凹部及び凹条部に保持させた鉄球と、を必要としている。このため、特許文献1の誘導電動機は、高い出力トルクを得るために、構造が複雑化している。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題点を解決するための誘導電動機は、ロータの軸方向の一端を形成する第1エンドリングと、前記ロータの軸方向の他端を形成する第2エンドリングと、前記第1エンドリング及び前記第2エンドリングを前記ロータの軸方向に連結し、前記ロータの周方向に並べられた複数の導体バーを有する前記ロータと、前記ロータの外周を囲繞するとともにステータコイルが巻き付けられたステータと、を備え、前記ロータは、前記ロータの周方向へ間隔を空けて設けられるとともに、前記ロータにおける前記導体バーよりも前記ロータの径方向内側において、前記ステータからの磁束に起因する誘導電流により、前記導体バーから発生する磁束の向きと合致する向きに磁束を発生するロータコイルを有することを要旨とする。
【0007】
これによれば、ステータからの磁束は、ロータを通過する。このロータを通過する磁束によってロータコイルに磁束が発生する。ロータコイルに発生した磁束は、導体バーに発生した磁束の向きと合致する。ロータコイルに発生した磁束の向きと、導体バーに発生した磁束の向きとが合致しない場合と比べると、ロータに発生する磁束密度を大きくできるため、誘導電動機のトルクを大きくできる。よって、新たな部品を追加することなく、しかも、新たな部品を設けるための新たな構造を設けることなく、誘導電動機のトルクを大きくできる。その結果、誘導電動機は、簡単な構成で高出力化を図ることができる。
【0008】
誘導電動機について、前記導体バーと前記ロータコイルとは、前記ロータの径方向にオーバーラップしていてもよい。
これによれば、導体バーを避けてロータを通過する磁束を、ロータコイルに鎖交させることができる。このため、ロータコイルに効率良く磁束を発生させることができる。
【0009】
誘導電動機について、前記ロータは、前記第1エンドリング、前記第2エンドリング、及び前記複数の導体バーを備える誘導部と、前記誘導部の内側に嵌合され、当該誘導部と一体回転するコア部と、を備え、前記コア部は、前記ロータの周方向に離れて配置された複数のコア形成部と、前記ロータの周方向に隣り合う前記コア形成部の間で延びる巻付部と、を備えていてもよい。
【0010】
これによれば、ロータは、誘導部とコア部とに分割されている。このため、誘導部から分離されたコア部の巻付部にロータコイルを巻き付けることができる。そして、ロータコイルの巻き付けたコア部を誘導部に嵌合することで、ロータにロータコイルを設けることができる。よって、ロータにロータコイルを容易に設けることができる。
【0011】
誘導電動機について、前記巻付部は、前記コア部の径方向中央位置よりも径方向外側に配置され、前記ロータコイルは、前記コア部の径方向中央位置よりも径方向外側に配置されていてもよい。
【0012】
これによれば、ステータからの磁束は、ロータでの最短経路を通過するため、ロータにおけるコア部の径方向外側を通過しやすい。巻付部は、コア部における径方向中央位置よりも径方向外側に配置されている。これにより、巻付部に巻き付けられたロータコイルもコア部における径方向中央位置よりも径方向外側に配置される。その結果、巻付部に巻き付けられたロータコイルに磁束を鎖交させやすくなる。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、簡単な構成で高出力化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、誘導電動機を示す断面図である。
図2図2は、ロータを模式的に示す斜視図である。
図3図3は、コア部を模式的に示す斜視図である。
図4図4は、巻付部、導体バー、及び巻線を示す部分拡大図である。
図5図5は、別例の誘導電動機を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、誘導電動機を具体化した一実施形態を図1図4にしたがって説明する。
<誘導電動機>
図1及び図2に示すように、誘導電動機10は、ロータコイル27を有するロータ12と、ロータ12の外周を囲繞するとともにステータコイル18が巻き付けられたステータ13と、を備える。誘導電動機10は、例えば、スクロール型圧縮機を駆動させる駆動部である。
【0016】
<ステータ>
ステータ13は、円筒状のステータコア14を備える。ステータコア14は、例えば複数の電磁鋼板が積層されることにより形成される。ステータコア14は、円筒状のヨーク15と、ヨーク15の内周面から径方向に延びる複数のティース16と、を備える。複数のティース16は、ステータコア14の周方向に間隔をあけて配置されるとともに、ヨーク15の軸方向全体に亘って延在している。ステータコア14の周方向に隣り合うティース16の間には、スロット17が設けられている。ステータ13は、U相、V相、及びW相のステータコイル18を備える。各相のステータコイル18の一部は、スロット17を通過している。ステータコイル18は、ステータコア14に対して分布巻きによって巻き付けられている。三相のステータコイル18は、図示しないが、例えば、Y結線されている。なお、三相のステータコイル18の結線態様は、Y結線に限られず任意であり、例えばデルタ結線でもよい。そして、図示しないインバータ装置によって三相のステータコイル18が所定のパターンで通電されることにより、ステータコイル18に磁束が発生するとともに、ステータ13の内周側には回転磁界が発生する。
【0017】
<ロータ>
ロータ12は、ステータ13の内側に配置されている。ロータ12の外周面と、ステータ13の内周面との間には、一定のエアギャップが確保されている。
【0018】
ロータ12は、誘導部29と、誘導部29の内側に嵌合されたコア部21と、を備える。ロータ12の中心軸線Lの延びる方向は、ロータ12の軸方向である。コア部21は、例えば複数の電磁鋼板をロータ12の軸方向に積層して形成されている。なお、図3では、電磁鋼板の積層状態の図示は省略している。
【0019】
<コア部>
図3及び図4に示すように、コア部21は、ロータ12の周方向に離れて配置された複数のコア形成部22と、ロータ12の周方向に隣り合うコア形成部22の間で延びる複数の巻付部23と、を一体に備える。複数のコア形成部22の各々、及び複数の巻付部23の各々は、ロータ12の軸方向全体に亘って延在している。
【0020】
複数のコア形成部22の各々は、内側円弧面22aと、外側円弧面22bと、内側円弧面22aと外側円弧面22bとを繋ぐ一対の側面22cと、ロータ12の軸方向両端の端面22dと、を備える。内側円弧面22aは、ロータ12の径方向におけるコア形成部22の一端面であるとともに、外側円弧面22bは、ロータ12の径方向におけるコア形成部22の他端面である。内側円弧面22aの円弧の長さは、外側円弧面22bの円弧の長さより短い。
【0021】
ロータ12を軸方向に見て、複数の内側円弧面22aは、1つの内側仮想円M1上に位置している。また、ロータ12を軸方向に見て、複数の外側円弧面22bは、1つの外側仮想円M2上に位置している。図4に示すように、内側仮想円M1は、回転軸11の外周面に沿っているため、回転軸11の外周面に沿う実線で示している。同じく、外側仮想円M2は、誘導部29の内周面に沿っているため、誘導部29の内周面に沿う実線で示している。複数の内側円弧面22aよりも径方向内側には、回転軸11が挿通されている。回転軸11は、コア部21と一体回転する。
【0022】
図4に示すように、ロータ12の周方向に対面する側面22cは、互いに平行である。このため、対面する側面22c間の距離は、ロータ12の径方向のいずれの位置でも同じである。
【0023】
巻付部23は、ロータ12の周方向に隣り合うコア形成部22の側面22c同士を繋いでいる。ロータ12を軸方向に見て、巻付部23は、ロータ12の周方向に延びる円弧な板状である。また、巻付部23は、側面22cでの径方向の位置のうち、径方向中央位置よりも径方向外側に配置されている。対面する側面22c間の最短距離を巻付部23の寸法Kとする。
【0024】
巻付部23の板厚方向は、ロータ12の径方向と一致する。巻付部23は、板厚方向に互いに反対面となる外側面23a及び内側面23bを有する。ロータ12を軸方向に見て、外側面23a及び内側面23bの各々は円弧状である。図3に示すように、巻付部23は、外側面23aと内側面23bを繋ぐ軸方向端面23cを備える。軸方向端面23cは、ロータ12の軸方向における巻付部23の両端面である。巻付部23の軸方向端面23cは、コア形成部22の端面22dと同一面上に位置している。
【0025】
コア部21における巻付部23よりも径方向外側には、外側凹条24が形成されている。外側凹条24は、巻付部23の外側面23aと、外側面23aよりも径方向外側に位置する側面22cの一部との間に画定されている。外側凹条24は、コア部21の外周面から巻付部23に向けて凹んでいる。外側凹条24は、ロータ12の軸方向の全体に亘って延びる。
【0026】
コア部21における巻付部23よりも径方向内側には、内側凹条25が形成されている。内側凹条25は、巻付部23の内側面23bと、内側面23bよりも径方向内側に位置する側面22cの一部との間に画定されている。内側凹条25は、コア部21の内周面から巻付部23に向けて凹んでいる。内側凹条25は、ロータ12の軸方向の全体に亘って延びる。
【0027】
図1及び図4に示すように、巻付部23には、ロータコイル27が巻き付けられている。ロータコイル27は、ロータ12の周方向への巻付部23の全体に亘って巻き付けられている。ロータコイル27を形成する巻線26は、複数層に重ねられている。また、巻線26は、外側凹条24及び内側凹条25を画定した一対の側面22cの間の全体に亘って巻付部23に巻き付けられている。したがって、各ロータコイル27の周方向への幅Wは、巻付部23の寸法Kと同じである。なお、「幅Wは、巻付部23の寸法Kと同じである」とは、巻線26の巻き付け態様によって、巻付部23の寸法Kより僅かに短くなることも当然含む。また、巻付部23の寸法K、ひいてはロータコイル27の幅Wは、後述する導体バー30の直径Mと同じ又は僅かに異なる。
【0028】
図2に示すように、ロータコイル27の一部は、外側凹条24及び内側凹条25に収容されるとともに、ロータコイル27のその他の一部は、巻付部23の軸方向端面23c及びコア形成部22の端面22dよりも突出している。そして、ロータコイル27を形成した巻線26は、外側凹条24及び内側凹条25にてロータ12の軸方向に延びている。また、ロータコイル27を形成した巻線26は、コア部21の外側では、巻付部23を挟む外側凹条24と内側凹条25とに架け渡されるように延びている。このため、巻線26は、各軸方向端面23cに沿ってロータ12の径方向へ延びるように巻付部23に巻き付けられている。そして、巻付部23に巻き付けられた巻線26により、ロータコイル27が形成されるとともに、複数の巻付部23に巻線26が巻き付けられることにより、ロータコイル27が複数形成される。それら複数のロータコイル27は、直列に接続されている。
【0029】
<誘導部>
図1図2及び図4に示すように、誘導部29は、誘導部本体291と、複数の導体バー30と、第1エンドリング31と、第2エンドリング32と、を備える。
【0030】
誘導部本体291は、例えば複数の電磁鋼板を積層して形成されている。誘導部本体291には、複数の貫通孔29aが形成されている。複数の貫通孔29aは、ロータ12の周方向に等間隔を空けて配置されている。複数の導体バー30の各々は、直径Mの丸棒状であるとともに、貫通孔29aに挿通されている。導体バー30の外周面は、貫通孔29aを画定した内周面に沿っている。導体バー30の長さは、ロータ12の軸方向へのコア部21の寸法と同じであるが、長くてもよい。複数の導体バー30の各々は、ロータ12の軸方向に誘導部本体291を貫通するとともに、誘導部本体291の両端面から突出している。導体バー30において、誘導部本体291から突出した一端部には第1エンドリング31が接合されているとともに、誘導部本体291から突出した他端部には第2エンドリング32が接合されている。したがって、複数の導体バー30は、第1エンドリング31及び第2エンドリング32をロータ12の軸方向に連結するとともに、ロータ12の周方向に並べられている。
【0031】
誘導部29において、第1エンドリング31と、第2エンドリング32と、複数の導体バー30とから、かご型誘導体が形成されている。
そして、コア部21は、誘導部29における誘導部本体291の内側に嵌合されている。この嵌合により、誘導部29とコア部21とが一体化されるとともに、ロータ12が形成されている。ロータ12において、一方のコア形成部22の端面22d、及び一方の巻付部23の軸方向端面23cは、第1エンドリング31の外端面と同一面上に位置しているとともに、他方のコア形成部22の端面22d、及び他方の巻付部23の軸方向端面23cは、第2エンドリング32の外端面と同一面上に位置している。
【0032】
誘導部29の内側にコア部21を嵌合するとき、コア部21の巻付部23には、ロータコイル27が巻き付けられている。このため、誘導部29の内側にコア部21を嵌合することにより、ロータ12が形成されると同時に、ロータ12にロータコイル27が設けられる。
【0033】
また、各外側凹条24は、誘導部本体291の内周面によって覆われる。すると、ロータ12には、巻付部23の外側面23aと、一対の側面22cと、誘導部本体291の内周面とによって画定された空隙Hが形成される。また、コア部21の内側に回転軸11が挿通されると、ロータ12には、巻付部23の内側面23bと、一対の側面22cと、回転軸11の外周面とによって画定された空隙Hが形成される。したがって、ロータ12は、巻付部23を径方向に挟む一対の空隙Hを備えている。
【0034】
上記より、図2に示すように、ロータ12は、第1エンドリング31、第2エンドリング32、及び複数の導体バー30を備える誘導部29と、誘導部29の内側にて当該誘導部29と一体回転するコア部21と、を備える。したがって、ロータ12は、当該ロータ12の軸方向の一端を形成する第1エンドリング31と、ロータ12の軸方向の他端を形成する第2エンドリング32と、第1エンドリング31及び第2エンドリング32をロータ12の軸方向に連結し、ロータ12の周方向に並べられた複数の導体バー30と、を有する。
【0035】
ロータ12において、ロータコイル27は、ロータ12の中心軸線Lを中心に周方向へ間隔を空けて設けられるとともに、ロータ12における導体バー30よりもロータ12の径方向内側に設けられている。詳細には、複数の導体バー30の各々は、巻付部23及びロータコイル27よりも径方向外側に配置されている。導体バー30と、巻付部23及びロータコイル27とは、ロータ12の径方向に互いの全長をオーバーラップさせる位置に設けられている。巻付部23に巻き付けられたロータコイル27は、幅W全体を導体バー30にオーバーラップして配置されている。
【0036】
ロータコイル27の巻線26は、巻付部23を挟む空隙Hにてロータ12の軸方向に延びている。また、ロータコイル27の巻線26は、巻付部23を挟む空隙Hに架け渡されている。そして、ロータコイル27において、巻付部23を挟む空隙Hに架け渡された部分によってコイルエンド28が形成されている。したがって、複数のロータコイル27の各々は、コア部21の軸方向の両端面、詳細には、巻付部23の軸方向端面23c及び端面22dから軸方向外側へ突出したコイルエンド28を備える。そして、ロータコイル27における巻付部23の軸方向の両端面から突出したコイルエンド28において、巻線26はロータ12の径方向に延びている。
【0037】
<実施形態の作用>
誘導電動機10の駆動時、図示しないインバータ装置からの交流電力が、ステータコイル18に供給されると、ステータ13の内側には回転磁界が発生する。
【0038】
図4に示すように、回転磁界におけるステータ13からの磁束Jは、ロータ12の外周面からロータ12に入る。磁束Jは、ロータ12を通過してロータ12の外周面から出る。磁束Jは、導体バー30を避けつつ、ロータ12における最短経路を通過する。このとき、磁束Jは、巻付部23を通過する。このため、磁束Jは、ロータコイル27の内側を通過する。
【0039】
導体バー30には、磁束Jに起因した起電力が発生する。導体バー30は、第1エンドリング31及び第2エンドリング32によって短絡しているため、導体バー30には、起電力に起因して誘導電流が流れる。すると、導体バー30には、誘導電流に起因して磁束が発生する。この導体バー30に発生した磁束に基づく電磁力が発生するため、ロータ12が回転する。
【0040】
ロータコイル27は、磁束Jの通過する巻付部23に巻き付けられている。このため、巻付部23に磁束Jが通過すると、ロータコイル27の巻線26には、磁束Jに起因した起電力が発生して、ロータコイル27に誘導電流が流れる。すると、ロータコイル27には、ステータ13からの磁束Jに起因する誘導電流により、磁束Fが発生する。
【0041】
ロータコイル27から発生する磁束Fの向きは、導体バー30から発生する磁束の向きと合致するように、巻線26は巻付部23に巻き付けられている。つまり、ロータコイル27は、導体バー30よりもロータ12の径方向内側において、ステータ13からの磁束Jに起因する誘導電流により、導体バー30から発生する磁束の向きと合致する向きに磁束Fを発生する。このため、ロータ12において、ロータコイル27に鎖交する磁束Jに基づいて発生する磁束Dの密度は、矢印に示すように、コイルエンド28において、巻線26がロータ12の周方向に延びる場合と比べて大きくなる。
【0042】
そして、ロータ12に発生するトルクは、磁束密度と誘導電流と導体の積によって決まる。誘導電流と導体が一定であれば、磁束密度が大きくなれば、トルクは大きくなる。なお、導体は、ロータコイル27及び導体バー30である。
【0043】
ここで、ロータコイル27及び導体バー30の長さを変更せず、ロータコイル27の巻き付け方を異ならせた場合を比較例とする。比較例でのロータコイル27の巻き付け方は、コイルエンド28での巻線26が周方向に延びるものとする。比較例では、巻線26の延びる方向が実施形態とほぼ90度異なるため、ロータコイル27から発生する磁束Fの向きは、導体バー30から発生する磁束と合致しない。
【0044】
ステータ13に供給される交流電力を一定とし、かつロータコイル27及び導体バー30の長さを変更しないのであれば、実施形態では、比較例と比べて磁束密度が大きくなる。よって、比較例と比べて、トルクが大きくなる。
【0045】
上記のように、かご型の誘導部29を用いた誘導電動機10では、回転磁界の速度が、ロータ12の回転速度より速いうちは、相互の回転速度にズレが生じるため、[すべり]が発生する。そして、ロータ12から発生するトルクが上昇していき、トルク最大になると、[すべり]はゼロになる。誘導電動機10においては、上記したようにトルクを大きくできるため、[すべり]の期間を短くできる。
【0046】
また、誘導電動機10において、磁束Jが巻付部23を通過して、磁束Jがロータコイル27に鎖交する時点は、ロータ12の回転角度で認識できる。そして、磁束Jが巻付部23を通過した時点で、ロータ12から発生するトルクが大きくなる。
【0047】
誘導電動機10を駆動部とするスクロール型圧縮機において、最大トルクが必要となる時点で、ステータ13からの磁束Jがロータコイル27に鎖交するように、巻付部23及びロータコイル27の周方向での位置が調節されている。
【0048】
スクロール型圧縮機では、固定側のスクロールに対する可動側のスクロールの旋回に伴って、両スクロール間に形成される圧縮室は徐々に小さくなっていく。これに伴って、圧縮室に閉じ込められた流体は、徐々に圧縮されていく。そして、圧縮室が最小になった最大圧縮時は、その最大圧縮に伴う圧縮反力に耐え得るように、誘導電動機10として最大トルクが必要になる時点である。このとき、誘導電動機10において、最大トルクが発生できるように、巻付部23及びロータコイル27の周方向での位置が調節されている。
【0049】
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)誘導電動機10において、ステータ13からの磁束Jによって、ロータコイル27から発生する磁束Fは、導体バー30から発生する磁束の向きに合致する。このため、ロータコイル27から発生する磁束Fが、導体バー30から発生する磁束の向きに合致しない場合と比べると、ロータ12から発生する磁束Dの密度を大きくできるため、トルクを大きくできる。よって、例えば、特許文献1のように、新たな部品を追加することなく、しかも、新たな部品を設けるための新たな構造を設けることなく、簡単な構成で誘導電動機10を高出力化できる。
【0050】
(2)ロータコイル27は、ロータ12における導体バー30よりも内周に近い位置に設けられている。このため、磁束Jは、導体バー30を避けてロータ12を通過したとき、導体バー30よりも中心軸線Lに近い位置を通過する。これにより、ロータコイル27から磁束Fを効率良く発生させることができる。
【0051】
(3)巻付部23及びロータコイル27は、ロータ12の径方向内側に導体バー30と並んで配置されている。そして、ロータコイル27は、幅W全体を導体バー30にオーバーラップして配置されている。このため、導体バー30を避けてロータ12を通過する磁束Jをロータコイル27に鎖交させることができる。このため、ロータコイル27に効率良く磁束Fを発生させることができる。
【0052】
(4)磁束Jは、ロータ12では最短経路を通過するため、ロータ12の径方向外側を通過しやすい。巻付部23及びロータコイル27は、ロータ12における径方向中央位置よりも径方向外側に配置されている。これにより、巻付部23に巻き付けられたロータコイル27に磁束Jを鎖交させやすくなる。
【0053】
(5)外側凹条24は、誘導部29によって径方向に閉じられた空間となる。よって、誘導部29の内側にコア部21が嵌合された状態では、巻付部23に対するロータコイル27の巻き付け作業が行いにくい。しかし、ロータ12は、誘導部29とコア部21とに分割できるため、誘導部29から分離されたコア部21の巻付部23にロータコイル27を巻き付けることができる。そして、ロータコイル27の巻き付けたコア部21を誘導部29に嵌合できる。よって、コイルエンド28にて巻線26を径方向に延ばしたロータ12であるが故、巻付部23が周方向に延びるロータ12であっても、ロータ12にロータコイル27を容易に設けることができる。
【0054】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
図5に示すように、実施形態のロータ12において、ロータ12の周方向に隣り合うロータコイル27の間に補助コイル35を設けてもよい。この場合、ロータ12には、ロータ12の周方向に隣り合う巻付部23の間に、補助コイル35を巻き付けるための補助巻付部33が設けられるとともに、その補助巻付部33に補助巻線34が巻き付けられる。このように構成すると、補助コイル35に対し、導体バー30から発生した磁束が通過する。これにより、補助コイル35からも磁束が発生する。このため、補助コイル35により、さらにロータ12から発生する磁束密度を大きくできる。
【0055】
○ロータコイル27は、幅Wの一部だけを導体バー30にオーバーラップして配置されていてもよい。この場合、巻付部23の一部だけが、導体バー30に径方向へオーバーラップする。又は、ロータコイル27は、幅W全体を導体バー30にオーバーラップさせずに配置されていてもよい。この場合、巻付部23の全部が、導体バー30に径方向へオーバーラップしない。
【0056】
○ロータコイル27の幅Wは、導体バー30の直径Mより小さくてもよいし、大きくてもよい。
○ロータコイル27は、コア部21における径方向中央位置に配置されていてもよいし、径方向中央位置よりも径方向内側に配置されていてもよい。
【0057】
○誘導部29は、第1エンドリング31と、第2エンドリング32と、複数の導体バー30と、から形成されていてもよい。つまり、誘導部29は、誘導部本体291を備えていなくてもよい。
【0058】
○ロータ12は、誘導部29とコア部21とが分割されない構造であってもよい。この場合、積層された複数の電磁鋼板よりなるロータ本体の導体バー30よりもロータ12の径方向内側に貫通孔29aが形成されるとともに、予め巻かれたロータコイルを貫通孔29aに挿通するようにしてもよい。この場合、コア部21には巻付部23が形成されていない。
【0059】
○コア部21において、外側凹条24及び内側凹条25における巻線26以外の部分に樹脂をモールドして空隙Hを無くしてもよい。
○ロータ12の巻付部23の数は任意である。
【符号の説明】
【0060】
10…誘導電動機、12…ロータ、13…ステータ、18…ステータコイル、21…コア部、22…コア形成部、23…巻付部、27…ロータコイル、29…誘導部、30…導体バー、31…第1エンドリング、32…第2エンドリング。
図1
図2
図3
図4
図5