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特開2024-162009半導体光センサを用いた光波長の特定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162009
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】半導体光センサを用いた光波長の特定方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/66 20060101AFI20241114BHJP
   G01J 1/02 20060101ALI20241114BHJP
   H01L 31/10 20060101ALN20241114BHJP
【FI】
H01L21/66 Y
G01J1/02 B
H01L31/10 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023077131
(22)【出願日】2023-05-09
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度 国立研究開発法人科学技術振興機構 研究成果展開事業産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム 産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許願
(71)【出願人】
【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
(72)【発明者】
【氏名】崔 容俊
(72)【発明者】
【氏名】澤田和明
【テーマコード(参考)】
2G065
4M106
5F149
【Fターム(参考)】
2G065AB04
2G065AB11
2G065BA02
2G065BA07
2G065BA28
2G065BB25
4M106AA07
4M106AB09
4M106BA05
4M106CA17
4M106CA21
4M106DH12
4M106DJ20
5F149AA11
5F149AB02
5F149BA18
5F149BA25
5F149FA02
5F149FA05
5F149GA04
5F149XB15
5F149XB41
(57)【要約】
【課題】
生体細胞等の観察手段である蛍光顕微鏡に用いる半導体光センサでは、発生する光起電流が入射光の波長と強度に依存することから、光起電流のみからは波長を特定することができなかった。
【解決手段】
半導体光センサの光電荷変換領域にポテンシャルピークを形成し、その障壁により光起電流を2経路に分岐、検出し、検出した光起電流比が入射光の強度に依存しないことを利用して、基準の入射光を用いて、ポテンシャルピークの位置を予め特定しておき、未知の入射光の光起電流比から波長を特定する。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板上の所定の領域に絶縁膜を介して透明性電極を備えた、入射光により電荷を発生する光電荷変換領域を有し、
当該光電荷変換領域からの電荷排出を第1及び第2の電荷排出経路の2経路に分割するポテンシャル分布を与え、当該第1及び第2の電荷排出経路は第1及び第2の光起電流検出電極に接続され、当該第1及び第2の光起電流検出電極から検出される第1及び第2の光起電流を検出する手段を有する半導体光センサを使用するものであって、
予め光波長が特定された入射光のもとで前記透明性電極に所定のフォトゲート電位を印加して前記第1及び第2の光起電流の電流比を取得し、当該電流比から当該フォトゲート電位に対する空乏層深さを求め、
特定対象となる光の波長を有する入射光によって、特定される電流比と前記空乏層深さから特定対象となる光の吸収係数を求め、当該吸収係数から対象光の波長を特定することを特徴とする光波長の特定方法。
【請求項2】
半導体基板上の所定の領域に絶縁膜を介して透明性電極を備えた、入射光により電荷を発生する光電荷変換領域を有し、
当該光電荷変換領域からの電荷排出経路を2経路に分割するポテンシャル分布を与え、第1及び第2の電荷排出経路は第1及び第2の光起電流検出電極に接続され、当該第1及び第2の光起電流検出電極から検出した第1及び第2の光起電流の電流比を次式で規定し、
I1/I2={exp(-αW)-exp(-αWpn)}/{1-exp(-αW)} (1)、
(I1は第1の光起電流、I2は第2の光起電流、αは吸収係数、Wはポテンシャルピークの位置、Wpnはポテンシャルピークの位置の最深位置である)
当該電流比を求める手段を有する半導体光センサを使用するものであって、
予め光波長が特定された入射光のもとで前記透明性電極に所定のフォトゲート電位を印加して前記第1及び第2の光起電流の電流比を取得し、当該電流比から当該フォトゲート電位に対する空乏層深さを求め、
特定対象となる光の波長を有する入射光によって、特定される電流比と前記空乏層深さから特定対象となる光の吸収係数を求め、当該吸収係数から対象光の波長を特定することを特徴とする光波長の特定方法
【請求項3】
前記半導体基板は第1の伝導型を有し、前記光電荷発生領域は第1の伝導型を有し、前記第1の電荷排出経路は第2の伝導型を有し、前記第2の電荷排出経路は前記光電荷発生領域の一部であって、第1の伝導型を有することを特徴とする請求項2記載の光波長の特定方法。
【請求項4】
前記半導体基板は第2の伝導型を有し、前記光電荷発生領域は第1の伝導型を有し、前記第1の電荷排出経路は前記半導体基板の一部であって、第2の伝導型を有し、前記第2の電荷排出経路は前記光電荷発生領域の一部であって第1の伝導型を有することを特徴とする請求項2記載の光波長の特定方法。
【請求項5】
前記光電荷発生領域はエピタキシャル成長層であることを特徴とする請求項4記載の光波長の特定方法。
【請求項6】
前記吸収係数αまたは前記ポテンシャルピークの位置wのいずれか一方は、前記第1の光起電流I1及び前記第2の光起電流I2を用いて、式(10)から、
I1/(I1+I2)= exp(-αw) (10)、
他方を求めることを特徴とする請求項2乃至は請求項5記載の光波長の特定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフォトトランジスタまたはフォトダイオードを用いた光波長の特定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体細胞の活動状態を観察する方法として蛍光観察法がよく用いられる。当該方法は、生体細胞に特定の波長を有するレーザー光等を励起光として照射し、生体細胞に標識された蛍光物質が発する蛍光の波長及び強度を計測し、生体細胞の活動状態を分析するものである。蛍光の検出には半導体フォトトランジスタ等が用いられる。
【0003】
ここで、蛍光の光強度は励起光と比べて微弱であり、生体細胞自身が反射する励起光の強度が強いことが一般的である。蛍光観察法では励起光と蛍光の波長が異なることから、励起光に相当する波長を遮断する光学フィルタや蛍光の波長帯のみを通過させる光学フィルタを組み合わせた光学系が必要となり、観察機器は大型化する。さらに、蛍光物質を変更した場合や励起光に対して複数波長の蛍光が発生する場合は、光学フィルタを交換する必要があり複数回の観察が必要である。ここで、蛍光の波長を特定することができれば、波長毎に強度を特定できるので、一度の励起光の照射で生体細胞の活動状態を観察できる。
【0004】
フォトトランジスタを用いた強度検出では波長に応じて変化する光の侵入深さをもとに計測する。禁制帯幅が1.11eVであるSi半導体基板を用いたフォトトランジスタでは、Si表面での光強度φ0と深さwにおける光強度φWの関係は式(2)で表され、深さwにおける光量gWは式(3)で表される。
φW=φ0 exp(-αw) (2)
gW=φ0{1-exp(-αw)} (3)
ここで、αは光の吸収係数であり、波長λに依存する。光の吸収係数は材料毎に評価されている。したがって、光の吸収係数αを求めることができれば、波長λを決定することができる。Si半導体の具体的な光の吸収係数は非特許文献2に開示されている。非特許文献2に光の波長250~1450nmの範囲で10nmごとに吸収係数が開示されており、端数の波長の吸収係数は前後の波長の吸収係数から補完すればよい。
【0005】
光量に電気素量qと受光面積Sを乗ずることによって表面から深さwまでに吸収された入射光により発生する電流値を求めることができる。
I=-(φ0qSλ/hc)・{1-exp(-λw)} (4)
ここで、hはプランク定数であり、cは光速度である。
【0006】
蛍光観察において、励起光の光源として半導体レーザやLEDを用いた場合、励起光の波長スペクトルは急峻ではなく、一定の半値幅を有している。さらに、生体・細胞試料から発せされる蛍光や燐光は波長スペクトルにおいて複数のピーク波長を有することがある。このため、蛍光観察では重心波長と全光強度を相関付けることが一般的な解析手段となっている。重心波長λCは、波長λにおける光強度φ(λ)と波長lを乗算した値を積分し、当該積分値を全光量で除して求めた波長であり、式(5)で表される。
λC=[∫λφ(λ)dλ]/[∫φ(λ)dλ] (5)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7-326790号公報
【特許文献2】特開2022-012325号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Yong-Joon Choi and et.al, "Demonstrating a filter-free wavelength sensor with double-well structure and its application," biosensors 2022, 12(11), 1033.
【非特許文献2】M. A. Green, "Self-consistent optical parameters of intrinsic silicon at 300 K including temperature coefficients," Solar Energy Materials and Solar Cells, vol. 92, pp. 1305-1310, 2008.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1には、p型シリコン基板に深さの異なる位置に複数のn型領域が形成され、各n型領域はシリコン基板の表面に設けられた電極と接続されたフォトダイオード構造が開示されている。当該フォトダイオードでは、各n型領域の光起電流値を読み出すことで、入射光の強度を計測できることが示されている。
【0010】
特許文献2には、p型シリコン基板に光入射面を備え、入射光の吸収によりキャリアを発生する領域と、当該領域から光入射方向に対して斜め方向にキャリアを移動させる一対の駆動電界印加電極と、光入射方向と直交方向の異なる位置に複数の検出電極が設けられた光センサ構造が開示されている。
【0011】
しかしながら、特許文献1に示される光センサでは、複数のフォトダイオードを並列に接続したものと同等の機能を与えるためのエピタキシャル層構造を備えるため、素子構造が複雑であり、製造コストも高くなるという課題がある。また、各n型領域が形成される深さが固定されるために、入射光の波長に適した深さにn型領域を形成できるとは限らず、精度の高い分離が難しいという課題もある。
【0012】
特許文献2に示される光センサでは、入射光は波長が長いほど深く侵入するために、駆動電界の影響を受ける距離が短く、入射光に対して垂直方向に位置する検出電極で検出される光起電流が大きくなる。一方、光の波長が短いほど浅い領域でキャリアが発生するために駆動電界の影響を受ける距離が長くなり、入射光に対して垂直方向に位置する検出電極で検出される光起電流が小さくなる。この現象を用いて、各々の検出電極における光起電流から入射光の強度が計測できることが示されている。
【0013】
前記光センサの構造では、p型シリコン基板表面から光を入射させるが、光と直交方向、すなわち、p型シリコン基板の側面に駆動電界印加電極を設ける必要があるとともに、検出電極もp型シリコン基板の裏面に設ける必要があり、製作工程が複雑であった。
【0014】
特許文献1、2における課題を解決するために、非特許文献1が提案されている。非特許文献1には、p型シリコン基板にn型拡散領域を形成し、当該n型拡散領域の所定の領域にp型拡散領域が形成された二重拡散層を備える構造が開示されている。当該n型拡散領域内で電位の鞍を発生させ、電荷を侵入深さに応じて振り分けて異なる電極から光起電流を取り出すことで、電流比から入射光強度が特定できることが示されている。非特許文献1では入射光の波長は重心波長で規格化した値を利用している。
【0015】
生体・細胞試料から発する蛍光が複数の波長を有する場合、非特許文献1による検出方法においても、各波長における光強度を特定するに至っていない。このように、重心波長を利用する場合、複数の波長を有する励起光や生体・細胞試料からの蛍光の波長スペクトル情報が消失するという課題があり、詳細な生命科学現象の観察には不適切である。
【0016】
非特許文献1には、二重拡散層を備えるフォトゲート型トランジスタにおいて、入射光の波長が一定であれば、光強度に依らず、フォトゲート電極から検出した光起電流と半導体基板側から検出した光起電流の比が一定になることが示されているが、未知の入射光の波長を特定することはできない。
【0017】
従来技術では、複数の波長を有する入射光について、波長毎に光強度を求めることができなかった。従来技術に示される方法は入射光に含まれる波長成分が判明していることを前提として適用されている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本願発明者らは、前記事情を鑑み、Si半導体基板内に二重拡散層を有するフォトトランジスタを用いて、当該フォトトランジスタの拡散領域にポテンシャルピークを発生させ、入射光により発生した光起電流を当該ポテンシャルピークにより2経路に分離して検出し、当該起電流の比から任意の入射光の波長を特定する方法を見出した。ここで、ポテンシャルピークとは、前記拡散領域内に形成される電位分布における電位の極値のことを指している。
【0019】
本発明の第1の局面は、半導体基板上の所定の領域に絶縁膜を介して透明性電極を備えた、入射光により電荷を発生する光電荷変換領域を有し、
当該光電荷変換領域からの電荷排出を第1及び第2の電荷排出経路の2経路に分割するポテンシャル分布を与え、当該第1及び第2の電荷排出経路は第1及び第2の光起電流検出電極に接続され、当該第1及び第2の光起電流検出電極から検出される第1及び第2の光起電流を検出する手段を有する半導体光センサを使用するものであって、
予め光波長が特定された入射光のもとで前記透明性電極に所定のフォトゲート電位を印加して前記第1及び第2の光起電流の電流比を取得し、当該電流比から当該フォトゲート電位に対する空乏層深さを求め、
特定対象となる光の波長を有する入射光によって、特定される電流比と前記空乏層深さから特定対象となる光の吸収係数を求め、当該吸収係数から対象光の波長を特定することを特徴とする。
【0020】
本発明の第2の局面は、半導体基板上の所定の領域に絶縁膜を介して透明性電極を備えた、入射光により電荷を発生する光電荷変換領域を有し、
当該光電荷変換領域からの電荷排出経路を2経路に分割するポテンシャル分布を与え、第1及び第2の電荷排出経路は第1及び第2の光起電流検出電極に接続され、当該第1及び第2の光起電流検出電極から検出した第1及び第2の光起電流の電流比を次式で規定し、
I1/I2={exp(-αW)-exp(-αWpn)}/{1-exp(-αW)} (1)、
(I1は第1の光起電流、I2は第2の光起電流、aは吸収係数、Wはポテンシャルピークの位置、Wpnはポテンシャルピークの位置の最深位置である)
当該電流比を求める手段を有する半導体光センサを使用するものであって、
予め波長が特定された入射光のもとで前記透明性電極に所定のフォトゲート電位を印加して前記第1及び第2の光起電流の電流比を取得し、当該電流比から式(1)を用いて、当該フォトゲート電位に対する空乏層深さを求め、
特定対象となる波長を有する入射光によって、特定される電流比と前記空乏層深さから特定対象となる光の吸収係数を求め、当該吸収係数から対象光の波長を特定することを特徴とする。
【0021】
本発明の第3の局面は、第2の局面において、前記半導体基板は第1の伝導型を有し、前記光電荷発生領域は第1の伝導型を有し、前記第1の電荷排出経路は第2の伝導型を有し、前記第2の電荷排出経路は前記光電荷発生領域の一部であって、第1の伝導型を有することを特徴とする。
【0022】
本発明の第4の局面は、第2の局面において、前記半導体基板は第2の伝導型を有し、前記光電荷発生領域は第1の伝導型を有し、前記第1の電荷排出経路は前記半導体基板の一部であって、第2の伝導型を有し、前記第2の電荷排出経路は前記光電荷発生領域の一部であって第1の伝導型を有することを特徴とする。
【0023】
光電荷変換領域においてポテンシャルピークを持つ場合、第1及び第2の光起電流検出電極から検出される第1及び第2光起電流は、式(2)、式(3)で表される。式(5)及び式(6)の比は式(1)で表される。ここで、Wはポテンシャルピークが存在する深さである。また、Wpnは第1及び第2の拡散層間に形成されるpn接合の深さであり、pn接合の形成位置によって定まる。ポテンシャルピークの位置WはWpnよりは深くならない。
I1=-(φ0qSλ/hc)・{exp(-αW)-exp(-αWpn)} (7)
I2=-(φ0qSλ/hc)・{1-exp(-αW)} (6)
I1/I2={exp(-αW)-exp(-αWpn)}/{1-exp(-αW)} (1)
【0024】
I1及びI2の和は、式(8)で表され、フォトゲート電位、すなわち、ポテンシャルピークの位置Wが変化しても変動しない。
I1+I2=-(φ0qSλ/hc)・{1-exp(-αWpn)} (8)
【0025】
式(1)は光の強度によらず電流比が一定となることを示している。一方で、光の吸収係数αが波長λに依存するためにポテンシャルピークの位置Wが不明な場合は波長を特定することはできない。ここで、入射光の波長λ0が既知であれば、対応する吸収係数α0が特定できるために、式(1)の電流比I1/I2とフォトゲート電位VPGからポテンシャルピークの位置Wを求めることができる。フォトゲート電位VPGに対応してポテンシャルピークの位置Wを記録することにより、未知の光が入射した場合において、フォトゲート電位VPGに対するポテンシャルピークの位置Wは変化しないために未知の入射光の吸収係数を求めることができ、未知の入射光の波長を特定できる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、従来の分光装置のように回折格子や光学フィルタを用いることなく、1つの光検出器で波長を特定でき、簡便な構成で高精度かつ小型な波長の特定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】第1の実施形態で用いる半導体装置の概略断面図である。
図2】第2の実施形態で用いる半導体装置の概略断面図である。
図3】第3の実施形態で用いる半導体装置の概略断面図である。
図4】第1の実施形態の半導体装置の製造における第1工程から第3工程を示した説明図である。
図5】第1の実施形態の半導体装置の製造における第4工程から第5工程を示した説明図である。
図6】第1の実施形態の半導体装置の製造における第6工程から第7工程を示した説明図である。
図7】第1の実施形態の半導体装置の製造における第8工程から第9工程を示した説明図である
図8】第1の実施形態で用いる半導体装置の平面図である。
図9】第2の実施形態で用いる半導体装置内の電位分布を説明するシミュレーション結果である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下では、図面を参照し、実施形態を説明する。
<第1の実施形態>
本実施形態による半導体装置101の断面概略図を図1に示す。本実施形態の半導体装置101は、透明性電極7をゲート電極として備えるフォトゲート型トランジスタであり、光入射により半導体内で発生した電荷の外部への流出経路をフォトゲート電位で制御する機能を有している。
【0029】
図1に示す半導体装置101は二重拡散層を備えた構造であり、半導体基板1の所定の領域に第1の電荷走行経路となる第1の拡散層2を備え、当該第1の拡散層2の所定の領域に光電荷変換領域となる第2の拡散層3を備え、当該第2の拡散層3の領域上に絶縁膜6を介してフォトゲート電位を印加する透明性電極7を備えている。第1及び第2の拡散層2, 3はそれぞれ逆極性の伝導型である。半導体基板1の伝導型がp型であれば、第1の拡散層2はn型とし、第2の拡散層3はp型とする。
【0030】
半導体基板1上には半導体基板1に接続された第1の電位固定電極11、第1の拡散層2に接続される第1の光起電流検出電極13、第2の拡散層3に接続される第2の電位固定電極12、透明性電極7に接続されるフォトゲート電極14及び第2の光起電流検出電極15に区画される。第1及び第2の電位固定電極11, 12、ならびに第1の光起電流検出電極13は接続する領域に対して高濃度で同極性の伝導型から成るコンタクト領域5a, 5b, 5cを備え、オーミック接触としている。第2の光起電流検出電極15と第2の拡散層3との接続は逆極性の伝導型から成るコンタクト領域5dを備え、ダイオード接触として外部からの電荷流入を阻止しておく。
【0031】
前記第2の拡散層3が光電荷変換領域として機能する。光電荷変換領域では入射光により電子・ホール対が発生する。第1及び第2の光電流検出電極13, 15に所定の電位を印加しておき、発生した電子を検出し、発生したホールは接地電位に固定された第1及び第2の電位固定電極11, 12に到達する。この場合、ホールは光起電流として検出しないこととする。
【0032】
第1の実施形態において、半導体基板1は濃度2×1014cm-3程度のp型とし、第1の拡散層2であるn型拡散層は濃度1×1012cm-3、拡散深さは6.5μmとし、第2の拡散層3であるp型拡散層は濃度2×1012cm-3、拡散深さは2.5μmとする。不純物分布は2次イオン質量分析法(Secondary Ion Mass Spectrometry)で別途分析することとし、隣接する逆極性の伝導型の領域とキャリア濃度が同一になる位置を拡散深さとした。コンタクト領域はp型、n型ともに濃度は4×1018cm-3程度である。ゲート絶縁膜6にはSiO2を用い、膜厚は60nmとした。透明性電極7にはpoly-Siを用い、膜厚は300nmとし、入射光は充分に透過し、光電荷変換領域3に到達するようにした。透明性電極7にはITO(酸化インジウムスズ)材料を用いても構わない。電極材料にはAlを用い、膜厚は0.7μmとした。
【0033】
<第2の実施形態>
図2に示す半導体装置102は、単一拡散層3aを備えた構造であり、半導体基板1の所定の領域に光電荷変換領域となる拡散層3aを備え、当該拡散層3aの所定の領域上に絶縁膜6を介して透明性電極7を備えている。半導体基板1び拡散層3aはそれぞれ逆極性の伝導型である。半導体基板1の伝導型をn型とすれば、拡散層3aはp型とする。
【0034】
半導体基板1上には、半導体基板1に接続される第1の光起電流検出電極13、拡散層に接続される電位固定電極11a、透明性電極7に接続されるフォトゲート電極14、拡散層3aに接続される第2の光起電流検出電極15が区画される。第1の光起電流検出電極11a及び電位固定電極13は接続する拡散層3aに対して高濃度で同極性の伝導型から成るコンタクト領域5a, 5cを備え、オーミック接触としている。第2の光起電流検出電極15と拡散層3aとの接続は逆極性の伝導型から成るコンタクト領域5dを備え、ダイオード接触として外部からの電荷流入を阻止しておく。
【0035】
第2の実施形態において、半導体基板1は濃度5.0×1013 cm-3程度のn型とし、p型拡散層3aは濃度2.5×1013cm-3、拡散深さは3μmである。コンタクト領域5a, 5c, 5dはp型、n型ともに不純物濃度は1018cm-3程度である。ゲート絶縁膜6はSiO2を用い、膜厚は60 nmとした。透明性電極7にはpoly-Siを用い、膜厚は300nmとした。電極材料及び透明性電極材料は第1の実施形態と同じである。
【0036】
<第3の実施形態>
図3に示す半導体装置103はエピタキシャル成長層3bを備えた構造であり、半導体基板1の所定の領域に光電荷変換領域であるエピタキシャル成長層3bを備え、当該エピタキシャル成長層3bの所定の領域上に絶縁膜6を介して透明性電極7を備え、半導体基板1の裏面に第1の光起電流検出電極13を備えている。半導体基板1の伝導型がn型であれば、エピタキシャル成長層3bはp型である。
【0037】
第3の実施形態では、エピタキシャル成長層3bに接続される電位固定電極11a、透明性電極7に接続されるフォトゲート電極14、エピタキシャル成長層3aに接続される第2の光起電流検出電極15が半導体基板1上に区画され、第1の光起電流検出電極13は半導体基板1の裏面に区画される。
【0038】
一般にSi半導体基板の厚みは数100μm~1mm程度である。第3の実施形態では、光電荷変換領域として機能するエピタキシャル成長層3bの深さを深く設定できるために、光起電流を捕集する領域を深くすることができる。すなわち、Si半導体基板1に対して吸収係数が小さい波長帯(1050nm程度)まで検出範囲を拡大することができる。
【0039】
また、第3の実施形態では、光電荷変換領域をエピタキシャル成長層3bとして形成したが、拡散層で形成してもよい。第3の実施形態では、半導体基板1の裏面から第1の光起電流として基板電流を検出すると簡便である。
<第1の実施形態による半導体装置の製造方法>
【0040】
本実施形態1の半導体装置101の製造方法を図4~7を用いて説明する。第1及び第2の工程は二重拡散層の形成工程であり、第3~第5の工程はチャネルストッパー形成工程、素子間分離工程、ゲート絶縁膜形成工程及びフォトゲート形成工程であり、第6~第9の工程はコンタクト領域形成工程、コンタクトホール形成工程、電極形成工程、層間絶縁膜形成及び遮光層形成工程である。
【0041】
第1工程は第1の拡散層2形成工程である。具体例として、Si半導体基板1の伝導型はp型であり、キャリア濃度は2.24×10-14cm-3、シート抵抗は60ohm・cmであり、結晶面方位は(100)である。
【0042】
先ず、Si半導体基板1を保護するために酸化膜10aを形成する。具体例として、1050℃の熱酸化により膜厚50nmのSiO2膜を形成した。次に、イオン注入法によりn型拡散層2を形成する。n型拡散層2を形成する領域はレジストを用いたフォトリソグラフィ法により区画する。具体的には、500μm×500μmの4角形状の領域を区画し、n型不純物としてPH3ガスから電離させたP(リン)を加速電圧150keV、ドーズ量1×1012cm-2で注入し、イオン注入後はレジストを除去する。イオン注入により発生した結晶欠陥を回復させ、不純物拡散深さを拡張するためにドライブイン拡散を施した。具体例として、N2ガス雰囲気中で1150℃、1530min(25時間30分)の熱処理を加えた。
【0043】
第2工程は第2の拡散層3形成工程である。p型拡散層3を形成する領域はフォトリソグラフィ法により区画した。具体例として、400μm×400μmの領域を区画し、p型不純物としてBF3ガスから電離させたB(ボロン)を加速電圧80keV、ドーズ量2×1012cm-2で注入した。イオン注入後はN2ガス雰囲気でドライブイン拡散を施す。具体例として、1150℃、270min(4時間30分)の熱処理を加えた。図4は二重拡散層形成後の形状を示している。
【0044】
第3工程はチャネルストッパー形成工程である。二重拡散層形成後は、コンタクト領域となる拡散領域の一部にチャネルストッパーを設けておくことが望ましい。p型半導体基板1にはn型チャネルストッパー4b、n型半導体基板にはp型チャネルストッパー4aを形成する。具体例として、n型チャネルストッパー4bにはn型不純物としてPを加速電圧60keV、ドーズ量6.0×1013cm-2で注入し、p型チャネルストッパー4aにはp型不純物としてBを加速電圧60keV、ドーズ量6.0×1013cm-2で注入する。活性化処理は継続する工程の酸化膜形成時に行われる。
【0045】
第4工程は素子間分離工程である。具体例として、フィールド酸化膜10bとなるSiO2膜を成長させるために1050℃、55min(4時間)のウェット酸化を行う。フィールド酸化膜10bの膜厚は400nmとした。各電極及びフォトゲート電極14を形成する領域はフォトリソグラフィ法を用いた選択エッチングによりフィールド酸化膜10bを除去する。
【0046】
第5工程は透明性電極形成工程である。先ず、ゲート絶縁膜6を全面に形成する。具体例として、950℃、15minでウェット酸化を行う。ゲート絶縁膜6の膜厚は70nmとなる。透明性電極材料にはpoly-Siを用いた。poly-Si膜をCVD(Chemical Vapor Deposition)法などで全面に堆積し、フォトリソグラフィ法を用いた選択エッチングにより不要な領域のpoly-Siを除去した。具体例として、poly-Si膜厚は70nmで、選択エッチングにはXeF2ガスを用いた反応性イオンエッチング法を用いた。透明性電極7の区画は300μm×300μmである。
【0047】
第6工程はコンタクト領域形成工程である。p型拡散層3と第2の光起電流検出電極15のコンタクト面にはn型不純物をドーピングし、ダイオード接触としておく。n型拡散層2と第1の光起電流検出電極13のコンタクト面にはn型不純物をドーピングし、p型拡散層3と第2の電位固定電極12とのコンタクト面にはp型不純物をドーピングし、p型半導体基板1と第1の電位固定電極11のコンタクト面にはp型不純物をドーピングし、これらのコンタクト面はオーミック接触としておく。コンタクト面のイオン注入は、高濃度で浅くドーピングすることが望ましい。具体例として、n型不純物として、Pをドーズ量4×1015cm-2、加速電圧60keVで注入し、p型不純物として、Bをドーズ量4×1015cm-2、加速電圧60keVで注入した。イオン注入後に絶縁膜となるオルトケイ酸テトラエチル(TEOS:Tetraethyl orthosilicate)膜をCVD等により形成する。活性化アニールは1000℃、20分間である。
【0048】
第7工程はコンタクトホール形成工程である。フォトリソグラフィによりコンタクトホール開口部のTEOS膜10及びゲート絶縁膜6形成時のSiO2層を除去する。
【0049】
第8工程は電極形成工程である。Alを電極材料としてスパッタ法で全面に形成し、電極以外の領域はRIEにより除去した。他、真空蒸着法でも成膜でき、エッチングはウエットエッチングでも可能である。その後、層間絶縁層16となるPE-TEOS(Plasma Enhanced CVD TEOS)膜を堆積させる。
【0050】
第9工程は遮光層形成工程である。ここでは、東京応化工業のブラックレジストBK-8310を用い、リソグラフィによりフォトゲート領域のみを開口した。遮光層17の膜厚は1.5μmである。その他ではAlを遮光材とすることもできる。
【0051】
図8は実施形態1による半導体装置101の平面図である。4角形状のフォトゲート領域を中心として、所定の間隔で離合して外周側に向かって、フォトゲート電極14、第2の電位固定電極12、第1の光起電流検出電極13、第1の電位固定電極11が一部を残して周回して形成されている。これらの電極が周回していない領域に第2の光起電流検出電極15が接続されている。透明性電極7が形成された領域は300μm×300μmに区画される。
【0052】
<拡散層内の電位分布>
第2の実施形態を例として、拡散層3a内のポテンシャル分布について説明する。図9は、段落0033から段落0035に記載した拡散層3aの形成条件を基に拡散層深さと拡散層3a内のポテンシャル分布をフォトゲート電位をパラメータとして計算した結果である。計算にはリンク・リサーチ社製デバイスシミュレータSPECTRAを用いた。
【0053】
Si半導体基板1の伝導型をn型とすると、光電荷変換領域となる拡散層3aの伝導型はp型である。Si半導体基板1にプラス電位VDDを印加し、拡散層3aを接地電位に接続し、フォトゲート電極14に0Vを印加する。拡散層3aの表面側は0V 、Si半導体基板1内はVDDとなり、pn接合界面付近は0V近傍からVDDに変化する電位分布となる。ここで、最表面の電位が若干正側にシフトしているのはSi表面の影響である。フォトゲート電極14にプラス電位を印加すると、拡散層3aの表面側がプラス電位となり、拡散層3a内で一旦0V付近まで電位が減少し、Si半導体基板1側でVDDとなるポテンシャル分布を示す。すなわち、拡散層3a内でポテンシャル分布のピークが形成される。
【0054】
図9の例では、フォトゲート電位-1Vで最表面で最小値-0.34V、フォトゲート電位3Vで深さ1.46μmで最小値0.53V、フォトゲート電位5Vで深さ1.56μmで最小値1.86Vとなっており、フォトゲート電位を増大させるとポテンシャルピークの深さが深くなることが示されている。
【0055】
光入射により電位分布のピークより表面側で発生した電子は第2の光起電流検出電極15に流出し、電位分布のピークよりSi半導体基板1側で発生した電子は第1の光起電流検出電極11aに流出する。フォトゲート電位を更に増大させると、拡散層3aの表面側の電位は増大し、電界強度に大きな変化がないことから、拡散層3a内で発生する電位分布のピークは表面側から深い位置に移動する。フォトゲート電位により第1及び第2の光起電流検出電極11a, 15に流出する電荷量を可変することができる。
【0056】
第1の実施形態では、p型半導体基板1、n型拡散層2、p型拡散層3が形成され、p型拡散層3が光電荷変換領域となっている。p型半導体基板1が接地電位に固定されているが、p型拡散層3内の電位分布は第2の実施形態と同様である。また、第3の実施形態も光電荷変換領域内の電位分布は第2の実施形態と同様に説明できる。
【0057】
<光波長の特定>
未知の入射光の波長を特定する手順を説明する。Si半導体の光吸収係数は非特許文献2に記載されている数値を用いる。実験に用いる光源として、東京インスツルメント社製可変波長レーザ光源LDTLS(登録商標)を用いた。
【0058】
第1ステップとして、基準となる波長が特定された光を照射する。ここでは、波長600nmの光を照射し、第1及び第2の光起電流を測定する。ポテンシャルピークの位置は式(1)を用いて求められるが、式(2)を利用することもできる。表面での入射光の強度は光起電流の総和(I1+I2)に変換され、深さwにおける入射光の強度は第1の光電流(I1)に変換されることから、式(9)が成立する。
φW=φ0・exp(-α600w) (2)
φW/φ0=I1/(I1+I2) (9)

ここで、φ0は拡散層表面における強度であり、φwは深さwにおける強度である。α600は波長600nmにおけるSiの光吸収係数であり、4175cm-1である。フォトゲート電位3Vでは、第1の光起電流I1は514.519nA、第2の光起電流I2は354.092nAであり、式(1)による電流比は1.453、式(9)による電流比は0.5923となる。また、前記電流比及び波長600nmの時の吸収係数α600から式(2)を用いて拡散層の深さwを求めると1.254μmとなる。
【0059】
第2ステップとして、未知の波長を有する入射光として照射すると、第1の光起電流I1は1490.93nA、第2の光起電流I2は414.74nAと計測され、式(9)による電流比は0.7824となる。式(2)から吸収係数を逆算すると1957cm-1となり、波長は約697.1nmと特定できる。予め、可変レーザ光源の波長を700nmに設定しておいたので、5nm以下の誤差で入射光の波長が特定できることを確認した。
【0060】
第3ステップとして、式(4)を用いて入射光の強度を算出する。式(4)において、第2の光起電流I2を414.74nA、電気素量qを1.602×10-19C、受光面積Sを0.3mm×0.3mm、入射光の波長を697.1nm、吸収係数を1957cm-1、拡散層の深さwを1.254×10-4cm、プランク定数hを6.62×10-34m2kg/s、光速度cを3×108m/sとすれば、入射光の表面における強度f0は3.77mW/cm2となる。
【0061】
以上により、未知の入射光の波長と強度を特定することができる。本願発明は前記発明の実施形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載の趣旨を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。

【符号の説明】
【0062】
1 半導体基板、シリコン基板
2 第1の拡散層
3 第2の拡散層、光電荷変換領域
3a 拡散層、光電荷変換領域
3b エピタキシャル成長層、光電荷変換領域
4 チャネルストッパー層
4a 第1の拡散層に形成するチャネルストッパー層
4b 半導体基板、第2の拡散層に形成するチャネルストッパー層
5 コンタクト領域
5a 半導体基板に形成するコンタクト領域
5b 第1の拡散層に形成するコンタクト領域
5c 第2の拡散層または光電荷変換領域に形成するコンタクト領域
5d 第2の拡散層または光電荷変換領域に形成する逆伝導型のコンタクト領域
6 ゲート絶縁膜
7 透明性電極
10 絶縁膜
10a 酸化膜
10b フィールド酸化膜
11 第1の電位固定電極
11a 電位固定電極
12 第2の電位固定電極
13 第1の光起電流検出電極
14 フォトゲート電極
15 第2の光起電流検出電極
16 層間絶縁膜
17 遮光層
101、102、103 半導体装置






図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9