(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162023
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】電動車両
(51)【国際特許分類】
B62K 5/007 20130101AFI20241114BHJP
B62B 5/00 20060101ALI20241114BHJP
B62B 3/00 20060101ALI20241114BHJP
A61G 5/04 20130101ALI20241114BHJP
【FI】
B62K5/007
B62B5/00 G
B62B3/00 B
A61G5/04 701
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023077165
(22)【出願日】2023-05-09
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 亮矢
(72)【発明者】
【氏名】天川 貴文
【テーマコード(参考)】
3D011
3D050
【Fターム(参考)】
3D011AA07
3D011AC01
3D011AD03
3D011AD04
3D011AD18
3D050AA04
3D050DD03
3D050EE08
3D050EE15
3D050FF06
3D050KK14
(57)【要約】
【課題】走行性を損なわずに設計パラメータの変更を容易に行うことができる電動車両を提供する。
【解決手段】電動車両は、1つ以上のフレームと、駆動輪を備える駆動輪ユニットと、従動輪を備える従動輪ユニットと、を有し、駆動輪ユニットと従動輪ユニットとは、ユニット単位で交換可能に1つ以上のフレームに対してそれぞれ独立に取り付けられている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上のフレームと、
駆動輪を備える駆動輪ユニットと、
従動輪を備える従動輪ユニットと、
を有し、
前記駆動輪ユニットと前記従動輪ユニットとは、ユニット単位で交換可能に前記1つ以上のフレームに対してそれぞれ独立に取り付けられている電動車両。
【請求項2】
前記従動輪は、全方向に回転可能である請求項1に記載の電動車両。
【請求項3】
前記駆動輪ユニットは、制御部によって制御されるモータと、第1のばねと、第1の1対のリンクとを備える第1のサスペンションを有する請求項1に記載の電動車両。
【請求項4】
前記第1のサスペンションは、車体上下方向と車体前後方向からなる面と平行な面内でのみ揺動する請求項3に記載の電動車両。
【請求項5】
前記従動輪ユニットは、第2のばねと第2の1対のリンクとを備える第2のサスペンションを有する請求項1~4のいずれか1項に記載の電動車両。
【請求項6】
前記従動輪は、オムニホイールまたはキャスターであり、前記従動輪の中心軸と垂直な面内を揺動する請求項5に記載の電動車両。
【請求項7】
前記第2のサスペンションの第2の揺動軸が、前記従動輪の中心軸より車体後方かつ車体鉛直方向下側に配置され、
前記第2のばねは、前記第2の揺動軸及び前記従動輪の中心軸より車体上側に位置し、前記従動輪の重力に由来して前記第2の1対のリンクのうち前記従動輪が取り付けられている側のリンクに対し前記第2の揺動軸の周りに働くモーメントにさらにモーメントを付加する方向に配置される請求項5に記載の電動車両。
【請求項8】
前記従動輪のトー角は、トーアウトまたは0に設定される請求項1に記載の電動車両。
【請求項9】
前記従動輪の地面との接地面の中心は、前記駆動輪の地面との接地面の中心より車体内側に配置される請求項1記載の電動車両。
【請求項10】
前記第1のサスペンションの第1の揺動軸が、前記駆動輪の中心軸より車体前方かつ車体鉛直方向下側に配置され、
前記第1のばねは、前記第1の揺動軸より車体上側に取り付けられ、前記駆動輪の重力に由来して前記第1の1対のリンクのうち前記駆動輪が取り付けられている側のリンクに対し前記第1の揺動軸の周りに働くモーメントにさらにモーメントを付加する方向に配置される請求項3に記載の電動車両。
【請求項11】
前記モータは、車体外側から前記第1の1対のリンクのうち前記駆動輪が取り付けられる側のリンクに締結され、前記駆動輪は、前記モータに対して車体外側から締結される請求項3に記載の電動車両。
【請求項12】
前記駆動輪ユニットは車体の左右両側に設けられ、左右両側に設けられた前記駆動輪ユニットの前記第1のサスペンションの揺動軸は同軸にされている請求項3に記載の電動車両。
【請求項13】
前記オムニホイールまたは前記キャスターは、車体外側から車軸に対して締結される請求項6に記載の電動車両。
【請求項14】
異なる機能ごとに構成された複数の制御ユニットをさらに備え、各制御ユニットの筐体は、車体外側から前記1つ以上のフレームに締結される請求項1に記載の電動車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電動車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電動車両は、2つの従動輪と2つの駆動輪とにより構成されるものが多く知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、前輪側車体と、前輪側車体に取外し可能に連結された後輪側車体とを備え、後輪側車体を前輪側車体から取外して車両後方に傾けると自立状態となり、後輪側車体には前輪側車体との連結に用いられる凹部が設けられ、後輪側車体が自立状態の時に、前輪側車体の後端側に設けられ連結に用いられるクロスメンバが上記凹部により支持可能となる電動車両が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術は、分解・組み立て容易な構造となっているが、同一機体または同一機種での交換のみが可能であり、対象とする環境や用途に対する変更に対応することが難しく、そのような変更に無理に対応しようとすると走行性能を損なう可能性がある。
【0006】
例えば、フレームと各車輪ユニットは一体となっているため、車輪ユニットの一部を変更し設計パラメータを変更しようとすると、局所的な変更となるか、フレームごとの変更となるため、機体全体のバランスや走行性能へ悪影響を及ぼしたり、変更に大きな手間を要したりする。
【0007】
本開示は、前記従来の課題を解決するもので、走行性を損なわずに設計パラメータの変更を容易に行うことができる電動車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本開示に係る電動車両の一態様は、1つ以上のフレームと、駆動輪を備える駆動輪ユニットと、従動輪を備える従動輪ユニットと、を有し、前記駆動輪ユニットと前記従動輪ユニットとは、ユニット単位で交換可能に前記1つ以上のフレームに対してそれぞれ独立に取り付けられている。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、走行性を損なわずに設計パラメータの変更を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本実施の形態における電動車両を左前方斜めから見た斜視図である。
【
図2】
図2は、本実施の形態における電動車両を左後方斜めから見た斜視図である。
【
図3】
図3は、本実施の形態における電動車両の車体部のユニットごとの分解図である。
【
図4】
図4は、本実施の形態における駆動輪ユニットを示す斜視図である。
【
図5】
図5は、本実施の形態における駆動輪ユニットの左車輪側のモータとタイヤの分解図である。
【
図6】
図6は、本実施の形態における車体部の車輪の位置関係を示す図である。
【
図7】
図7は、本実施の形態における従動輪ユニットを示す斜視図である。
【
図8】
図8は、本実施の形態における従動輪ユニットの従動輪を示す分解図である。
【
図9】
図9は、本実施の形態における従動輪に用いられるオムニホイールの概念図である。
【
図10】
図10は、本実施の形態における車体部の車輪配置を示す図である。
【
図11】
図11は、本実施の形態における上面から見た車体部の車輪配置の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、いずれも本開示の一具体例を示すものである。したがって、以下の実施の形態で示される構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態等は、一例であって本開示を限定する主旨ではない。よって、以下の実施の形態における構成要素のうち独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0012】
また、各図は、模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。なお、各図において、実質的に同一の構成に対しては同一の符号を付しており、重複する説明は省略又は簡略化する。
【0013】
本開示の電動車両は、電動式車両とも呼ばれ、例えば、屋外、屋内、施設、私有地などにおいて物品を搬送する移動ロボットや、屋外、屋内、施設、私有地などにおいて人が移動のために搭乗する電動車椅子の走行部として用いられる。
【0014】
図1は、本実施の形態における電動車両1を左前方斜めから見た斜視図である。
図2は、本実施の形態における電動車両1を左後方斜めから見た斜視図である。
図1、
図2に示すように、実施形態における電動車両1は、車体部2と本体部3とを有している。
【0015】
車体部2は、複数のフレーム10と、駆動輪タイヤ11a及びモータ11b等を含む駆動輪ユニット11と、従動輪12aを含む従動輪ユニット12とを有し、電動車両1の移動に関する機能を有する。
【0016】
本体部3は、電動車両1における積載などの機能を有し、積載機能としては物品を搬送するための収納構造や人が搭乗するため椅子などの例が挙げられる。なお、本体部3は、前述の例に限定されず、本体部3が特段の機能を有していなくてもよく、または存在しなくてもよい。
【0017】
電動車両1は、駆動輪ユニット11と従動輪ユニット12とを、それぞれ左右1対以上有する。駆動輪ユニット11は左右1対であることが望ましいが、従動輪ユニット12は左右1対ある場合に限定されず、左右2対以上あってもよい。
【0018】
また、実施形態に係る電動車両1の駆動輪ユニット11と従動輪ユニット12は、電動車両1が有する車輪の数が4個の場合、従動輪ユニット12が前輪側、駆動輪ユニット11が後輪側となることが望ましいが、その逆であってもよい。なお、駆動輪ユニット11と従動輪ユニット12との車輪の数は2輪に限定されず、1輪や3輪以上であってもよい。
【0019】
図3は、本実施の形態における電動車両の車体部のユニットごとの分解図である。電動車両1の車体部2は複数のフレーム10を有しており、複数のフレーム10のうちの1つ以上のフレーム10に対して、各機能を持つユニットがフレーム10の外側からそれぞれ独立に締結される。なお、フレーム10は複数に限定されず、1つのフレームで形成されていてもよい。
【0020】
フレーム10に対してそれぞれ独立に取り付けられるユニットには、駆動輪ユニット11、従動輪ユニット12、制御部ユニット13、バッテリーユニット14、であり、それ以外にも、センサなどの検出部ユニット15、車輪を持つ転倒防止ユニット16がある。
【0021】
各ユニットが、フレーム10に対して外側から、ユニット単位で交換可能にそれぞれ独立に固定されるので、ユニットの交換またはユニットの仕様変更により、電動車両1の仕様変更が容易に可能である。
【0022】
また、各ユニットにおいて後述の構成を維持しながら設計パラメータを変更することで、走行性能を損なわずに設計パラメータの変更が可能である。さらに、フレーム10に対して各ユニットを外側からそれぞれ独立に取り付けることや、各ユニットにおいて外側から分解可能な構造をとることでメンテナンスも容易となる。
【0023】
制御部ユニット13は、1つのコンピュータや基板により、車両すべての判断及び制御を行ってもよく、複数のコンピュータや基板により判断及び制御を行ってもよい。複数のコンピュータや基板による制御を行う場合は、大きな機能ごとにコンピュータや基板のユニットを構成し、類似の機能を持つコンピュータや基板ごとに制御部ユニットを構成して筐体に搭載し、そのような制御部ユニット及びその筐体は機能ごとに別のユニットを構成することが望ましい。
【0024】
例えば、モータ制御部、電源変換供給基板及び安全用基板で1つの制御ユニット、自律移動のためのセンサなどの検出部ユニット15の情報処理及び判断を行うコンピュータとそれを他の制御ユニットと中継させる中継器で1つの制御ユニット、遠隔からの監視や車体の操縦を行うためのコンピュータ及びその周辺機器で1つの制御ユニット、灯火類やその周辺機器による1つの制御ユニットを構成してもよい。
【0025】
図4は、本実施の形態における駆動輪ユニット11を示す斜視図である。駆動輪ユニット11は、モータ制御部によって制御されるモータと、ばねと、リンクなどを備えるサスペンションを有する。
【0026】
具体的には、駆動輪ユニット11は、駆動輪タイヤ11a、モータ11b、減速機11c、駆動輪サスペンション第一リンク11d、駆動輪サスペンション第二リンク11e、駆動輪サスペンションばね11f、駆動輪サスペンション軸11g、駆動輪ストッパ11h、駆動輪サスペンションばね受け部11i、及びブレーキ11jを有する。
図3に示すように、駆動輪ユニット11は、駆動輪ユニット締結部11mによりフレーム10と締結される。
【0027】
ただし、減速機11cはモータ11bの仕様によっては存在しなくてもよく、モータ11bと減速機11cが一体になっているものを使用してもよい。また、モータ11bはブレーキ11jを備えていなくてもよい。さらに、必要に応じてダンパーを設けてもよい。
【0028】
駆動輪サスペンション第一リンク11dと駆動輪サスペンション第二リンク11eとは、駆動輪サスペンション軸11gにより接続され、駆動輪サスペンション第二リンク11eは駆動輪サスペンション軸11g(揺動軸)を中心に揺動する。
【0029】
このとき、駆動輪サスペンション軸11gは、車体前後方向と垂直な方向、つまり車体左右方向と平行となる方向に設けられ、駆動輪サスペンション第二リンク11eは車体上下方向と車体前後方向からなる面と平行な面内でのみで揺動する。すなわち、駆動輪ユニット11のサスペンションは、車体上下方向と車体前後方向からなる面と平行な面内でのみ揺動する。
【0030】
図5は、本実施の形態における駆動輪ユニット11の左車輪側のモータとタイヤの分解図である。駆動輪ユニット11において、モータ11bと駆動輪タイヤ11aとは、次のように締結される。
【0031】
すなわち、モータ11bは、駆動輪サスペンション第二リンク11eに、車体外側から締結される。さらに、駆動輪タイヤ11aは、モータ11bと直接または減速機11cを介して、車体外側から接続される。このとき、駆動輪タイヤ11aの中心軸と駆動輪サスペンション軸11gは平行となる。
【0032】
図4に示すように、駆動輪サスペンション第二リンク11eを2つの板に分け、それら2つの板は駆動輪サスペンション第一リンク11dを挟んだ状態で駆動輪サスペンション軸11gにより接続され、駆動輪サスペンション第二リンク11eの2つの板の間は、駆動輪サスペンションばね受け部11i及び締結用シャフトにより締結されている。
【0033】
図6は、本実施の形態における車体部2の車輪の位置関係を示す図である。駆動輪ユニット11における、リンクや軸の配置は以下のような構成となる。駆動輪ユニット11が後輪または中輪の場合、駆動輪サスペンション軸11gはタイヤ中心軸11kより車体前方かつ車体鉛直方向下側に配置される。
【0034】
また、駆動輪サスペンションばね11fは、駆動輪サスペンション第一リンク11dに設けられた駆動輪サスペンションばね受け部11iと駆動輪サスペンション第二リンク11eに設けられた駆動輪サスペンションばね受け部11iの間に配置される。
【0035】
このとき、駆動輪サスペンションばね11fは、駆動輪サスペンション軸11gより車体上側に位置し、駆動輪サスペンション第二リンク11eに対して、車体後方と車体下方の間の方向に復元力が働く向きで配置される。
【0036】
また、駆動輪サスペンションばね11fは、駆動輪サスペンションばね11fの下のリンクに対して、つまり駆動輪の軸が取り付けられている側の駆動輪サスペンション第二リンク11eに対して、駆動輪サスペンション軸11gの周りにおける駆動輪タイヤ11aの重力に由来するモーメントにさらにモーメントを付加する方向に配置される。駆動輪サスペンションばね11fは、圧縮バネで自然長から圧縮された状態でセットされているため、駆動輪サスペンションばね11fが駆動輪サスペンション第二リンク11eに与える駆動輪サスペンション軸11gの周りのモーメントは、
図4の時計周りのモーメントとなるためである。
【0037】
これにより、地面の凹凸や段差に対して、駆動輪タイヤ11aが滑らかになじむようになり、サスペンションが動きやすくなり、さらに、ブレーキ時の制動力に対して駆動輪サスペンション軸11g周りの重力由来のトルクが逆らうように働くために、ブレーキにより接地力が落ちることを抑制できる。
【0038】
駆動輪ユニット11が前輪として構成されるとき、軸の位置関係及びばねの位置は、駆動輪ユニット11が後輪として構成されるときと比べて、車体前後方向が逆転するように配置される。
【0039】
駆動輪ユニット11のサスペンションの可動域は、駆動輪サスペンション軸11g周りの駆動輪サスペンション第一リンク11dに対する駆動輪サスペンション第二リンク11eの回転角度で定義される。可動域は、駆動輪ストッパ11hを設けることなどにより制限される。
【0040】
可動域を大きくするほど、路面の凹凸に駆動輪タイヤ11aがなじみやすくなる一方、駆動輪サスペンションばね11fにストロークの大きいばねを用いる必要がある。ストロークの大きいばねは、概して、ストロークの小さいばねに比べ、剛性が低いものとなり、車体が揺れやすくなる。
【0041】
駆動輪ストッパ11hは、駆動輪サスペンション第一リンク11dに取り付けられたゴム材料のカラーであり、駆動輪サスペンション第二リンク11e自身間の締結リンクが駆動輪ストッパ11hと接するとき、所望の可動域となるよう設置されている。駆動輪ストッパ11hの締結部は、駆動輪サスペンションばね11fの変更を容易にするため、可動域内でアクセスできるように露出されることが望ましい。
【0042】
駆動輪の走行性能に係る仕様は、以下の観点で、駆動輪ユニット11内で変更ができる。すなわち、1回転での進行量やモータのトルクを推進力に変換するときの設計パラメータとなる車輪径は、駆動輪タイヤ11aを変更することで変更可能である。回転速度やトルクは、モータ11bや減速機11cの仕様により決定される。
【0043】
サスペンションの特性は、可動域、駆動輪サスペンションばね11fのばね剛性、及び、ばねの長さやストローク、ばねを接続する駆動輪サスペンション第一リンク11dの駆動輪サスペンションばね受け部11iと駆動輪サスペンション第二リンク11eの駆動輪サスペンションばね受け部11iとの間の位置関係、駆動輪サスペンション軸11gと駆動輪タイヤ11aの中心軸との間の位置関係により決定される。これらは前述の位置関係を崩さない範囲で、求められる仕様に対して変更が可能である。
【0044】
駆動輪ユニット11は、フレーム10に対して所望の車輪位置となるように締結される。このとき、フレーム10の左右のユニットにおける駆動輪サスペンション軸11gが同軸になるよう配置される。この締結においては、駆動輪ユニット11をフレーム10に差し込んだ状態で締結するような方法をとってもよく、締結専用のブラケットやブロックなどの駆動輪ユニット締結部11mを、フレーム10側、または駆動輪ユニット11側に設けてもよい。
【0045】
本実施の形態に係る電動車両1においては、駆動輪ユニット締結部11mとして、フレーム10に締結用のブラケットを設け、そのブラケットを介して駆動輪ユニット11をフレーム10へ締結している。このとき、左右の駆動輪ユニット11の駆動輪サスペンション第一リンク11dの1つの面をフレーム10の面に合わせることで、駆動輪サスペンション軸11gを同軸にする。
【0046】
図7は、本実施の形態における従動輪ユニット12を示す斜視図である。従動輪ユニット12は、ばねとリンクなどを備えるサスペンションを有する。
【0047】
具体的には、従動輪ユニット12は、従動輪12a、従動輪サスペンション第一リンク12d、従動輪サスペンション第二リンク12e、従動輪サスペンションばね12f、従動輪サスペンション軸12gを有している。従動輪ユニット12には、必要に応じてダンパーを設けてもよい。
【0048】
図8は、本実施の形態における従動輪ユニット12の従動輪12aを示す分解図である。従動輪12aは全方向車輪であり、特にオムニホイール20であることが望ましい。従動輪12aがオムニホイール20である場合、従動輪12aは、車軸シャフト12bを回転中心として車体外側から内側に向かって車軸シャフト12b先端に設けられたねじ部に接続され、車軸シャフト12bに対して従動輪締結用ナット12cにより車体外側から締結されることが望ましい。
【0049】
従動輪サスペンション第一リンク12dと従動輪サスペンション第二リンク12eとは、従動輪サスペンション軸12gにより接続され、従動輪サスペンション第二リンク12eは、従動輪サスペンション軸12g(揺動軸)を中心に揺動する。これにより、オムニホイール20は、従動輪12aの車輪中心軸と垂直な面内を揺動する。
【0050】
図9は、本実施の形態における従動輪12aに用いられるオムニホイール20の概念図である。オムニホイール20とは、複数のローラ22により構成される全方向車輪であり、ホイール21の車輪外周上に外周を中心としてそれぞれが回転するローラ22が並ぶことで、車輪回転方向とオムニホイール20の車輪軸23方向の移動を可能にする車輪である。
【0051】
なお、オムニホイールと呼ばれる全方向車輪は
図9に示す構造以外にも存在し、本実施の形態に用いられるオムニホイールは
図9の構成に限定されない。また、車輪はオムニホイールに限定されず、キャスター等の他の車輪であってもよい。
【0052】
図6に示したように、従動輪ユニット12において、リンクや軸の配置は以下のような構成となる。従動輪ユニット12が前輪の場合、従動輪サスペンション軸12gは従動輪中心軸12jより車体後方かつ車体鉛直方向下側に配置される。オムニホイール車輪軸23は、
図8に示した車軸シャフト12bの中心軸と一致することが多い。
【0053】
また、従動輪サスペンションばね12fは、従動輪サスペンション第一リンク12dに設けられた従動輪サスペンションばね受け部12iと従動輪サスペンション第二リンク12eに設けられた従動輪サスペンションばね受け部12iの間に配置される。
【0054】
このとき、従動輪サスペンションばね12fは、従動輪中心軸12j及び従動輪サスペンション軸12gより車体上側に位置し、従動輪サスペンション第二リンク12eに対して、車体前方と車体下方の間の方向に復元力が働く向きで配置される。
【0055】
また、従動輪サスペンションばね12fは、従動輪サスペンションばね12fの下のリンクに対して、つまり従動輪の軸が取り付けられている側の従動輪サスペンション第二リンク12eに対して、従動輪サスペンション軸12gの周りにおける従動輪12aの重力に由来するモーメントにさらにモーメントを付加する方向に配置される。従動輪サスペンションばね12fは、圧縮バネで自然長から圧縮された状態でセットされているため、従動輪サスペンションばね12fが従動輪サスペンション第二リンク12eに与える従動輪サスペンション軸12gの周りのモーメントは、
図7の反時計周りのモーメントとなるためである。
【0056】
従動輪ユニット12が後輪として構成されるとき、軸の位置関係及びばねの位置は、従動輪ユニット12が前輪として構成されるときと比べて、車体前後方向が逆転するように配置される。
【0057】
従動輪ユニット12のサスペンションの可動域は、従動輪サスペンション軸12g周りの従動輪サスペンション第二リンク12eの回転角度で定義される。可動域は、従動輪ストッパ12hを設けることなどにより制限される。
【0058】
可動域を大きくするほど、従動輪サスペンションばね12fにはストロークの大きいばねを用いる必要があり、ストロークを十分に活かすためには、ストロークの小さいばねに比べて剛性が低いものを選定することになる。
【0059】
可動域が大きい、または、ばねの剛性が小さいほど、段差接触時の衝撃や段差を降りたときの衝撃が吸収されやすくなり、路面の凹凸にして従動輪の車輪がなじみやすくなり、また、車体へ路面の凹凸による振動が伝わりづらくなる。ただし、その一方、急加速・急停止時に車体が揺れやすくなる。
【0060】
従動輪ストッパ12hは、従動輪サスペンション第一リンク12dに取り付けられたゴム材料のカラーであり、従動輪サスペンション第二リンク12eが従動輪ストッパ12hと接するとき、所望の可動域の限界となるよう設置されている。従動輪ストッパ12hの締結部は、従動輪サスペンションばね12fの変更を容易にするため、可動域内でアクセスできるように露出されることが望ましい。
【0061】
オムニホイール20は、車輪の前後方向に存在する段差については通常の車輪と同様に車輪の外周により乗り越える一方、車輪の側方に存在する段差については車輪の外周上に配置されるローラ22によって段差を乗り越える。このローラ22は、オムニホイール20の外径に比べ小さい外径を有する。
【0062】
一般的に、車輪の段差乗り越え性能は、車輪径が大きいほど、大きな段差を乗り越え可能となる。オムニホイール20を用いて構成される車両は、オムニホイール20のトー角が0以下または0に近い場合、車体側方に存在する段差に対する乗り越え性能が低くなる。
【0063】
そのため、従動輪12aがオムニホイール20である場合には、従動輪ユニット12に後述する構成を適用しながら求める車体仕様に対して設計パラメータを変更することで、電動車両1の走行性能を損なわない構成を実現できる。
【0064】
図10は、本実施の形態における車体部2の車輪配置を示す図である。
図10では、フレーム10と駆動輪ユニット11と従動輪ユニット12のみを示している。
図11は、本実施の形態における上面から見た車体部2の車輪配置の概念図である。
【0065】
従動輪ユニット12の従動輪12aがオムニホイール20であるとき、オムニホイール20のトー角は、進行方向に対してトーアウトに設定される。つまり、従動輪ユニット12が前輪として構成されるときは、前向き進行方向に対して前方が外側に開くように傾斜をつけて配置される。
図11に示すように、この時のトー角をθとする。
【0066】
この場合、従動輪ユニット12内でのサスペンションの軸の位置関係を満たすため、駆動輪サスペンション第一リンク11dが折れ曲がった構造とされるか、または駆動輪サスペンション第一リンク11dが2つ以上の部品で構成され、その間で角度を付けるような構成とされる。このような角度を付けた部品を変更することで、トー角の設計パラメータの変更が、従動輪ユニット12内で完結できるようになる。
【0067】
従動輪ユニット12のオムニホイール20のトー角θをトーアウトに設定することで、ローラ22の外周に加えホイール21の外周でも段差を乗り越えるため、トー角θが0の場合に比べ、側方の段差に対する乗り越え性能が向上する。
【0068】
また、電動車両1が直進している場合でもオムニホイール20のローラ22が回転するため、ローラ22内も摩耗位置が常に変化し、トー角が0の場合に比べて耐久性が向上する。なお、従動輪ユニット12が後輪として構成されるときは、従動輪ユニット12は、前向き進行方向に対して後方が外側に開くように傾斜をつけて配置される。
【0069】
従動輪ユニット12の従動輪12aは、前向き進行方向に対して前方が外側に開くように傾斜をつけて配置されることに加え、駆動輪ユニット11の駆動輪タイヤ11aに比べて車体内側に配置される。例えば、従動輪12aの地面との接地面の中心は、駆動輪タイヤ11aの地面との接地面の中心より車体内側に配置される。
【0070】
従動輪12aが車体内側に配置されることで、旋回時に側方の段差に対して従動輪12aが接触する際に、段差に対して傾斜して接触するため、前方の段差に対する乗り越え性能を低下させずに、トー角が0でない場合と同様に、オムニホイール20の外周とローラ22の外周の双方で側方の段差を容易に乗り越えることができる。
【0071】
従動輪ユニット12の従動輪12aの車体内側への配置は、
図11に示すように、従動輪12aの地面との接点と駆動輪タイヤ11aの地面との接点とを結ぶ線分に対して車体前後方向のなす角度Φにより設定される。
【0072】
つまり、車輪が内側に配置されるほど前述のなす角度Φは大きくなる。角度Φが大きいほど、側方の段差を乗り越える性能は向上されるものの、機器を搭載可能な車体内部の容積が小さくなる。
【0073】
本実施の形態においては、θが5°、Φが5°と設定されており、旋回して段差に侵入するときに全体で10°となるようそれぞれの角度が設定されている。
【0074】
従動輪ユニット12は、フレーム10に対して所望の車輪位置となるよう締結される。このとき、左右の従動輪ユニット12は、フレーム10に対して左右対称となるように配置される。
【0075】
従動輪ユニット12の締結においては、従動輪ユニット12をフレーム10に差し込んだ状態で締結するような方法をとってもよく、締結専用のブラケットやブロックなどの従動輪ユニット締結部12kを、フレーム10側、または従動輪ユニット12側に設けてもよい。
【0076】
従動輪ユニット12は、従動輪サスペンション第一リンク12dの一部を車体前方向からフレーム10に差し込み、従動輪サスペンション第一リンク12dの左右からフレーム10に締結される。
【0077】
従動輪の走行性能に係る仕様は、以下のようにして、従動輪ユニット12内で変更ができる。段差性能や車体バランスに影響を与える車輪径は、従動輪12aを変更することで変更可能である。
【0078】
段差乗り越え性能や地面の凹凸への対応、及び、衝撃吸収の性能に影響を与えるサスペンションの特性は、可動域、従動輪サスペンションばね12fのばね剛性、及び、ばねの長さやストローク、ばねを接続する従動輪サスペンション第一リンク12dの従動輪サスペンションばね受け部12iと従動輪サスペンション第二リンク12eの従動輪サスペンションばね受け部12iとの間の位置関係、従動輪サスペンション軸12gと従動輪12aの中心軸との間の位置関係により決定される。これらは前述の位置関係を崩さない範囲で、求められる仕様に対して変更が可能である。
【0079】
また、従動輪12aの段差乗り越え性能、及び、耐久性に影響を与えるオムニホイール20のトー角は、前述の通り、従動輪サスペンション第一リンク12dの形状を変更することで設定が可能である。なお、従動輪12aは前向き進行方向に対して前方が外側に開くように傾斜をつけて配置される構成に限定されず、トー角を0に設定し、従動輪12aは平行にしてもよい。
【0080】
駆動輪タイヤ11aに対する従動輪12aの配置の位置関係は、従動輪ユニット12の従動輪サスペンション第一リンク12d、従動輪サスペンション第二リンク12e、または車軸シャフト12bを変更することによっても変更ができ、フレーム10を変更することによっても変更ができる。
【0081】
電動車両1の制御部ユニット13は、性能変更やメンテナンス性の観点から、以下のように構成される。すなわち、制御部ユニット13は、上述のように機能ごとにまとめて構成され、
図3に示したように、制御部筐体13aの内部にコンピュータや基板である制御部機器13bが搭載される。
【0082】
制御部ユニット13と、別の制御部ユニット13、モータ11b、及び検出部ユニット15などと接続する配線は、制御部筐体13aの1つの面に集められたコネクタ13cを介して接続される。
【0083】
各制御部ユニット13は、コネクタ13cが車体外側を向くようにし、制御部筐体13aの側面に設けられた制御部締結部13dを介してフレーム10に、車体外側からボルトなどの締結部品を用いて締結される。
【0084】
電動車両1には、車体を動かすための動力源であるバッテリーが搭載される。バッテリーの方式は、車体備え付けの充電式でもよく、交換式でもよい。本実施の形態においては、電動車両1は、交換式のバッテリーユニット14を搭載している。
【0085】
バッテリーユニット14には、バッテリーコネクタ部、バッテリー固定部、フレーム10との締結部があり、車体部2からバッテリー本体を取り外しできる構造を有している。バッテリーコネクタ部は、ばねと可動部を備えており、バッテリーの多少の動きに付随してコネクタが追従する構造をしている。バッテリーユニット14は、
図3に示すように、フレーム10に対して直接取り付けられる。
【0086】
電動車両1には、電動車両1が周囲の状況を認識するための検出部ユニット15が搭載されていてもよい。検出部ユニット15から得られた情報は、制御部ユニット13内の制御機器において処理される。それらの情報を元に電動車両1の動きが決定され、その判断を元に電動車両1は制御される。
【0087】
また、検出部ユニット15は、ユニットとしてフレーム10に締結され、検出したい情報に基づいてセンサの種類や配置場所が決定される。本実施の形態においては、センサとして二次元測域センサが用いられている。検出部ユニット15は、車体部2に配置されてもよく、本体部3に搭載されてもよい。
【0088】
さらに、電動車両1は、後ろ側に倒れることを抑制することを目的として、転倒防止ユニット16を搭載している。転倒防止ユニット16では、駆動輪タイヤ11aや従動輪12aと比較して小さい直径を有する従動輪が、回転軸とともに搭載されている。
【0089】
電動車両1が後輪を中心に後ろ側へ倒れたときに所望の角度で地面と接地するような位置に、フレーム10に対して外側から締結されるように配置される。例えば、転倒防止ユニット16は、車体が後ろ側へ25°程度倒れたときに接地するように配置されている。
【0090】
本実施の形態における電動車両1を使用する際には、車体外形上に外装を取り付けてもよい。但し、外装は各ユニットの変更及びメンテナンス性を維持するため、各ユニットへのアクセスがし易いように、分割された構造や固定された構造であることが望ましい。
【0091】
なお、本実施の形態は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本開示の電動車両は、電動車椅子や移動ロボット等の電動車両に広く利用することができる。
【符号の説明】
【0093】
1 電動車両
2 車体部
3 本体部
4 制御部
10 フレーム
11 駆動輪ユニット
12 従動輪ユニット
13 制御部ユニット
14 バッテリーユニット
15 検出部ユニット
16 転倒防止ユニット
11a 駆動輪タイヤ
11b モータ
11c 減速機
11d 駆動輪サスペンション第一リンク
11e 駆動輪サスペンション第二リンク
11f 駆動輪サスペンションばね
11g 駆動輪サスペンション軸
11h 駆動輪ストッパ
11k タイヤ中心軸
11m 駆動輪ユニット締結部
12a 従動輪
12b 車軸シャフト
12c 従動輪締結用ナット
12d 従動輪サスペンション第一リンク
12e 従動輪サスペンション第二リンク
12f 従動輪サスペンションばね
12g 従動輪サスペンション軸
12h 従動輪ストッパ
12i 従動輪サスペンションばね受け部
12j 従動輪中心軸
12k 従動輪ユニット締結部
13a 制御部筐体
13b 制御部機器
13d 制御部締結部
20 オムニホイール
21 ホイール
22 ローラ
23 オムニホイール車輪軸