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2024-162039制限解除装置、航路計画装置及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162039
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】制限解除装置、航路計画装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   B63B 79/40 20200101AFI20241114BHJP
   B63H 21/21 20060101ALI20241114BHJP
   F02D 29/02 20060101ALI20241114BHJP
   G08G 3/00 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
B63B79/40
B63H21/21
F02D29/02 A
G08G3/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023077190
(22)【出願日】2023-05-09
(71)【出願人】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100140718
【弁理士】
【氏名又は名称】仁内 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100145481
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 昌邦
(74)【代理人】
【識別番号】100211122
【弁理士】
【氏名又は名称】白石 卓也
(72)【発明者】
【氏名】川谷 聖
(72)【発明者】
【氏名】藤原 真
【テーマコード(参考)】
3G093
5H181
【Fターム(参考)】
3G093AA19
3G093CA09
3G093CB15
3G093DB29
5H181BB04
5H181CC12
5H181FF14
(57)【要約】
【課題】主機の出力制限に関して航海の安全性を考慮したより高度な技術を提供する。
【解決手段】制限解除装置は、船舶を推進させる主機への燃料投入量を調整して前記船舶の推進力を制御する推進力制御機能と、前記主機の出力を所定の上限値内に制限する出力制限機能と、を有する制御部と、前記船舶が航海している領域の気象及び海象の少なくとも一方に関連する気海象情報を取得する取得部と、前記気海象情報に基づいて前記出力制限機能を解除する解除条件を満たすか否かを判定する判定部と、前記判定部が前記解除条件を満たすと判定した場合、前記出力制限機能による前記上限値の緩和、前記出力制限機能の解除、又は、前記出力制限機能の解除を促す報知、のうち少なくとも1つを行う解除部とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶を推進させる主機への燃料投入量を調整して前記船舶の推進力を制御する推進力制御機能と、前記主機の出力を所定の上限値内に制限する出力制限機能と、を有する制御部と、
前記船舶が航海している領域の気象及び海象の少なくとも一方に関連する気海象情報を取得する取得部と、
前記気海象情報に基づいて前記出力制限機能を解除する解除条件を満たすか否かを判定する判定部と、
前記判定部が前記解除条件を満たすと判定した場合、前記出力制限機能による前記上限値の緩和、前記出力制限機能の解除、又は、前記出力制限機能の解除を促す報知、のうち少なくとも1つを行う解除部と
を備える制限解除装置。
【請求項2】
前記解除部は、前記判定部が前記解除条件を満たすと判定した場合、前記上限値の緩和として前記上限値をより大きな値に設定する請求項1に記載の制限解除装置。
【請求項3】
前記気海象情報は、風速情報と波高情報とを含み、
前記解除条件は、前記風速情報により示される風速が閾値を超えること、又は、前記波高情報により示される波高が閾値を超えること、という条件を含む、請求項1又は請求項2に記載の制限解除装置。
【請求項4】
前記出力制限機能が解除されたことに応じて、前記出力制限機能を解除した時刻を記憶部に出力する出力部を更に備える請求項1又は請求項2に記載の制限解除装置。
【請求項5】
前記出力制限機能は、前記主機の出力を示す軸馬力を前記上限値内に制限する請求項1又は請求項2に記載の制限解除装置。
【請求項6】
前記出力制限機能は、前記燃料投入量を前記上限値内に制限する請求項1又は請求項2に記載の制限解除装置。
【請求項7】
船舶を推進させる主機への燃料投入量を調整して前記船舶の推進力を制御する推進力制御機能と、前記主機の出力を所定の上限値内に制限する出力制限機能と、を有する船舶から、前記出力制限機能が起動状態から解除状態に切り替わった時点を少なくとも含む所定期間における前記船舶の航海領域の気象及び海象の少なくとも一方を示す気海象情報を受信する受信部と、
前記受信部が受信した情報に基づいて前記船舶の前記出力制限機能の解除条件を推定する解除条件推定部と、
前記解除条件推定部が推定した前記解除条件と、出発地と、目的地と、前記出発地と前記目的地を含む航海領域の将来の気海象情報と、目標所要時間と、に基づいて、前記船舶の計画航路を作成する航路計画部と
を備える航路計画装置。
【請求項8】
前記航路計画部は、
前記船舶が前記計画航路に沿って航海したときの前記船舶での燃料消費量を推定する燃料消費量推定部と、
前記燃料消費量推定部により推定した前記燃料消費量が所定値未満となるよう前記計画航路を作成する作成部と
を有し、
前記燃料消費量推定部は、前記航海領域のうち前記将来の気海象情報が前記解除条件を満たす領域における前記船舶の燃料消費量の推定値を、前記航海領域のうち前記将来の気海象情報が前記解除条件を満たさない領域における前記船舶の燃料消費量の推定値よりも大きい値として推定する、請求項7に記載の航路計画装置。
【請求項9】
船舶を推進させる主機への燃料投入量を調整して前記船舶の推進力を制御する推進力調整機能と、前記主機の出力を所定の上限値内に制限する出力制限機能と、を有する制限解除装置のコンピュータに、
前記船舶が航海している領域の気象及び海象の少なくとも一方に関連する気海象情報を取得する取得手順と、
前記気海象情報に基づいて前記出力制限機能を解除する解除条件を満たすか否かを判定する判定手順と、
前記判定手順が前記解除条件を満たすと判定した場合、前記出力制限機能による前記上限値の緩和、前記出力制限機能の解除、又は、前記出力制限機能の解除を促す報知、のうち少なくとも1つを行う解除手順と
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制限解除装置、航路計画装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
IMO(International Maritime Organization:国際海事機関)は、GHG(Greenhouse Gas:温室効果ガス)の排出削減目標(例えば、2030年までに輸送量あたり2008年比40%以上削減、2050年までに総排出量50%以上削減等)を掲げている。また、2023年には既存船の燃費規制(EEXI(Energy Efficiency Existing Ship Index)規制およびCII(Carbon Intensity Indicator)規制)が導入され、法規制の点からも燃費の低減が要求されている。実際、荷主から航行時のエンジン負荷上限等を指定されて航行する例も増加している。
【0003】
上述した燃費規制等に関連し、船舶主機の出力を制限する装置(例えば、Shaft Power Limitation;ShaPoLi、Engine Power Limitation;EPL)のニーズが高まっている。例えば、船舶主機への燃料投入量に上限値を設ける構成が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2018-514459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、主機の出力を制限する際には航海の安全性も考慮する必要がある。
【0006】
上記事情に鑑み、本発明は、主機の出力制限に関して航海の安全性を考慮したより高度な技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、船舶を推進させる主機への燃料投入量を調整して前記船舶の推進力を制御する推進力制御機能と、前記主機の出力を所定の上限値内に制限する出力制限機能と、を有する制御部と、前記船舶が航海している領域の気象及び海象の少なくとも一方に関連する気海象情報を取得する取得部と、前記気海象情報に基づいて前記出力制限機能を解除する解除条件を満たすか否かを判定する判定部と、前記判定部が前記解除条件を満たすと判定した場合、前記出力制限機能による前記上限値の緩和、前記出力制限機能の解除、又は、前記出力制限機能の解除を促す報知、のうち少なくとも1つを行う解除部とを備える制限解除装置である。
【0008】
上記構成によれば、航海の状況が不良(荒天時等)であるときに安全に航海できる。つまり、主機の出力制限の要請に応えるとともに航海の安全性を確保することができる。
【0009】
前記解除部は、前記判定部が前記解除条件を満たすと判定した場合、前記上限値の緩和として前記上限値をより大きな値に設定してもよい。
【0010】
上記構成によれば、出力制限を緩和して安全に航海できる。
【0011】
前記気海象情報は、風速情報と波高情報とを含み、前記解除条件は、前記風速情報により示される風速が閾値を超えること、又は、前記波高情報により示される波高が閾値を超えること、という条件を含むものであってもよい。
【0012】
上記構成によれば、風速や波高による危険を回避して安全に航海できる。
【0013】
前記出力制限機能が解除されたことに応じて、前記出力制限機能を解除した時刻を記憶部に出力する出力部を更に備えてもよい。
【0014】
上記構成によれば、出力制限機能の解除の実績を報告し、検証することができる。
【0015】
前記出力制限機能は、前記主機の出力を示す軸馬力を前記上限値内に制限してもよい。
【0016】
上記構成によれば、航海の状況が不良であるときには軸馬力の制限を解除等して安全に航海できる。
【0017】
前記出力制限機能は、前記燃料投入量を前記上限値内に制限してもよい。
【0018】
上記構成によれば、航海の状況が不良であるときには燃料投入量の制限を解除等して安全に航海できる。
【0019】
本発明の一態様は、船舶を推進させる主機への燃料投入量を調整して前記船舶の推進力を制御する推進力制御機能と、前記主機の出力を所定の上限値内に制限する出力制限機能と、を有する船舶から、前記出力制限機能が起動状態から解除状態に切り替わった時点を少なくとも含む所定期間における前記船舶の航海領域の気象及び海象の少なくとも一方を示す気海象情報を受信する受信部と、前記受信部が受信した情報に基づいて前記船舶の前記出力制限機能の解除条件を推定する解除条件推定部と、前記解除条件推定部が推定した前記解除条件と、出発地と、目的地と、前記出発地と前記目的地を含む航海領域の将来の気海象情報と、目標所要時間と、に基づいて、前記船舶の計画航路を作成する航路計画部とを備える航路計画装置である。
【0020】
上記構成によれば、出力制限の解除等を考慮し、計画通りに就航できる。つまり、出力制限機能が解除等される状況も考慮して計画航路が作成されるため、実際に出力制限機能が解除等されたときであっても計画通りに就航できる。
【0021】
前記航路計画部は、前記船舶が前記計画航路に沿って航海したときの前記船舶での燃料消費量を推定する燃料消費量推定部と、前記燃料消費量推定部により推定した前記燃料消費量が所定値未満となるよう前記計画航路を作成する作成部とを有し、前記燃料消費量推定部は、前記航海領域のうち前記将来の気海象情報が前記解除条件を満たす領域における前記船舶の燃料消費量の推定値を、前記航海領域のうち前記将来の気海象情報が前記解除条件を満たさない領域における前記船舶の燃料消費量の推定値よりも大きい値として推定してもよい。
【0022】
上記構成によれば、出力制限の解除中の燃料消費量を出力制限の起動中の燃料消費量よりも大きな値として推定し、正確に計画航路を作成することができる。
【0023】
船舶を推進させる主機への燃料投入量を調整して前記船舶の推進力を制御する推進力調整機能と、前記主機の出力を所定の上限値内に制限する出力制限機能と、を有する制限解除装置のコンピュータに、前記船舶が航海している領域の気象及び海象の少なくとも一方に関連する気海象情報を取得する取得手順と、前記気海象情報に基づいて前記出力制限機能を解除する解除条件を満たすか否かを判定する判定手順と、前記判定手順が前記解除条件を満たすと判定した場合、前記出力制限機能による前記上限値の緩和、前記出力制限機能の解除、又は、前記出力制限機能の解除を促す報知、のうち少なくとも1つを行う解除手順とを実行させるためのプログラムである。
【0024】
上記構成によれば、航海の状況が不良であるときに安全に航海できる。つまり、主機の出力制限の要請に応えるとともに航海の安全性を確保することができる。
【発明の効果】
【0025】
主機の出力制限に関して航海の安全性を考慮したより高度な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】実施形態に係る船舶1等の概略構成図である。
図2】推進制御システム20Aの機能構成等の説明図である。
図3】推進制御システム20Aの動作の一例を示すフローチャートである。
図4】馬力、燃料消費量の説明図である。
図5】航路計画装置40の機能構成等の説明図である。
図6】推進制御システム20Bの機能構成等の説明図である。
図7】推進制御システム20Cの機能構成等の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
<船舶等>
図1は、実施形態に係る船舶1等の概略構成図である。船舶1は、図1に示すように、推進制御システム20Aと、推進部30と、軸馬力計33と、を備える。推進部30は、例えば、エンジン(主機)31と、プロペラ32と、を備える。
【0028】
また、図示は省略したが、船舶1は、風速計、波高計、潮流計、加速度センサ、喫水計、船体トリムセンサのうちの1つ以上のセンサ(計測装置)を備える。また、船舶1は、外部のプロバイダが提供する気海象データ(現在又は最新の気海象データ、将来の気海象データ(予報))を取得(受信)する。
【0029】
エンジン31は、プロペラ32を回転させて船舶1の船体を推進させる推進力を発生させる推進機構である。プロペラ32は、エンジン31によって駆動(回転)させられる、例えばスクリュープロペラである。
【0030】
推進制御システム20A(後述の推進制御システム20B、推進制御システム20Cも同様)は、推進部30による船舶1の推進力を制御する。推進制御システム20Aの詳細は後述する。
【0031】
軸馬力計33は、エンジン31のエンジン出力実値を計測する。軸馬力計33による計測値は、推進制御システム20Aに出力される。
【0032】
また、船舶1は、船外(外部)と通信可能である。例えば、地上の航路計画装置40と通信する。航路計画装置40の詳細は後述する。
【0033】
(推進制御システム20A)
図2は、推進制御システム20Aの機能構成等の説明図である。推進制御システム20Aは、図2に示すように、入力装置200と、出力制御部210と、情報取得部220と、取得情報記憶部230と、制限制御部240と、通信部270と、表示部280と、を備える。入力装置200は、上限値記憶部201と、入力部202と、を備える。出力制御部210は、エンジン制御部211と、出力制限部212と、を備える。制限制御部240は、解除条件記憶部242と、判定部243と、解除部244と、を備える。
【0034】
推進制御システム20A内の制限制御部240を含む部分(例えば、出力制御部210、制限制御部240、情報取得部220)を制限解除装置と称してもよい。
【0035】
上限値記憶部201は、エンジン31の出力上限値を記憶する。つまり、出力制限機能(後述)を作動させる作動条件を記憶する。例えば、上限値記憶部201は、出力上限値として、軸馬力の上限値(軸馬力上限値)を記憶する。なお、当該上限値は、燃費規制等に基づいてあらかじめ設定しておいてもよい。
【0036】
入力部202は、操作者(船長を含む乗組員)による入力操作を受け付ける。例えば、入力部202は、ハンドルなどによって目標エンジン回転数の入力操作を受け付ける。入力部202は、目標エンジン回転数の入力があった場合、入力された目標エンジン回転数(目標エンジン回転数指令)と、上限値記憶部201に記憶されている軸馬力上限値と、を出力制御部210(エンジン制御部211、出力制限部212)に出力する。
【0037】
エンジン制御部211は、入力部202からの目標エンジン回転数に基づき、エンジン31の負荷(ポンプラック位置(以下、単にラック位置と称する)に応じて燃料噴射量をコントロールする燃料噴射装置のラック位置)を制御する。具体的には、エンジン制御部211は、入力部202からの目標エンジン回転数と、エンジン31に取り付けられたエンジン回転数センサ(非図示)から送られる実エンジン回転数と、を比較し、実エンジン回転数が目標エンジン回転数に近づくようにフィードバック制御を行う。つまり、エンジン制御部211は、目標エンジン回転数よりも実エンジン回転数の方が小さい場合、増速のため燃料噴射装置のラック位置を燃料噴射量増量側へ移動させるように制御し、目標エンジン回転数よりも実エンジン回転数の方が大きい場合、減速のため燃料噴射装置のラック位置を燃料噴射量減量側へ移動させるように制御する。このように、エンジン制御部211は、船舶1の推進力を制御する推進力調整機能を有する。
【0038】
出力制限部212は、入力部202からの軸馬力上限値と、軸馬力計33からのエンジン出力実値とを、比較し、エンジン出力実値が軸馬力上限値を超えないように、エンジン制御部211によるラック位置(燃料噴射量)の制御を制限する。このように、出力制限部212は、出力制限機能を有する。
【0039】
つまり、出力制御部210(エンジン制御部211、出力制限部212)は、入力部202からの軸馬力上限値と、軸馬力計33からのエンジン出力実値とを、比較し、エンジン出力実値が軸馬力上限値を超えない範囲において、実エンジン回転数が目標エンジン回転数に近づくようにラック位置を制御する。
【0040】
なお、詳細は後述するが、出力制限部212の出力制限機能は、解除部244によって解除される場合がある。出力制限機能が解除されているときには、出力制御部210は、「エンジン出力実値が軸馬力上限値を超えない範囲において」なる制限を無視し、実エンジン回転数が目標エンジン回転数に近づくようにラック位置を制御する。
【0041】
情報取得部220は、外部のプロバイダからの提供情報(例えば、風速、波高、潮流等のうちの1つ以上の気海象データ)や、各種センサ(風速計、波高計、潮流計、加速度センサ、喫水計、船体トリムセンサ等のうちの1つ以上のセンサ)からの計測値(風速、波高、潮流、複数の加速度センサの計測値に基づく船体の揺動、喫水、船体トリムのうちの1つ以上)を取得する。情報取得部220は、取得日時やその時点での船体位置情報とともに取得した情報を取得情報記憶部230に記憶する。つまり、取得情報記憶部230には、夫々の取得日時や船体位置情報とともに取得情報が記憶される。
【0042】
情報取得部220は、プロバイダの提供情報とセンサの計測値とを区別可能に取得情報記憶部230に記憶する。例えば、情報取得部220は、プロバイダから風速を取得し、風速計から風速を取得した場合には、前者をプロバイダの風速、後者を風速計の風速として夫々を区別可能に取得情報記憶部230に記憶する。
【0043】
なお、センサの計測値は、揺動等も含め、気海象に関係する情報であるとも言えるため、以下の説明において、プロバイダの提供情報(気海象データ)と、センサの計測値とを、気海象情報と総称する場合がある。つまり、情報取得部220は、プロバイダからの提供情報やセンサからの計測値を気海象情報として取得し、取得した気海象情報(プロバイダの提供情報、センサの計測値)を、プロバイダの提供情報であるかセンサの計測値であるかを区別可能に、また夫々の取得日時とともに、取得情報記憶部230に記憶する。
【0044】
取得情報記憶部230に記憶される気海象情報は、レポート(出力制限の解除/起動に関するレポート)の作成に用いられるほか、一部が推定用情報(後述)として航路計画装置40に送信される。
【0045】
解除条件記憶部242は、出力制限部212による制限を解除する際の条件である解除条件を記憶する。解除条件は、情報取得部220によって取得された気海象情報(取得情報記憶部230に記憶されている気海象情報)と比較される情報(閾値)である。例えば、解除条件記憶部242は、解除条件として「風速≧A(m/s)」や「波高≧B(m)」を記憶する。
【0046】
判定部243は、情報取得部220によって取得された気海象情報が解除条件記憶部242に記憶されている解除条件を満たしているかを判定する。例えば、解除条件記憶部242に記憶されている解除条件が「風速≧A(m/s)」であるときに、判定部243は、情報取得部220によって取得された風速がA(m/s)以上であれば、情報取得部220によって取得された気海象情報が解除条件記憶部242に記憶されている解除条件を満たしているかと判定する。
【0047】
判定部243は、解除条件が複数ある場合には、全部の解除条件を満たしている場合に情報取得部220によって取得された気海象情報が解除条件記憶部242に記憶されている解除条件を満たしていると判定してもよいし、少なくとも一部の解除条件を満たしている場合に情報取得部220によって取得された気海象情報が解除条件記憶部242に記憶されている解除条件を満たしていると判定してもよい。例えば、解除条件記憶部242に「風速≧A(m/s)」と「波高≧B(m)」とが記憶されている場合、判定部243は、情報取得部220によって取得された風速がA(m/s)以上であり、かつ情報取得部220によって取得された波高がB(m)以上であれば、情報取得部220によって取得された気海象情報が解除条件記憶部242に記憶されている解除条件を満たしていると判定してもよいし、情報取得部220によって取得された風速がA(m/s)以上であるか、情報取得部220によって取得された波高がB(m)以上であれば、情報取得部220によって取得された気海象情報が解除条件記憶部242に記憶されている解除条件を満たしていると判定してもよい。
【0048】
なお、判定部243は、プロバイダの提供情報もセンサの計測値も解除条件と比較可能である場合、現場の値を用いる方が適切であるため、センサの計測値を解除条件と比較する。例えば、解除条件記憶部242に「風速≧A(m/s)」が記憶されている場合であって、情報取得部220がプロバイダの風速と風速計の風速とを取得している場合、判定部243は、プロバイダの風速とA(m/s)とを比較するのではなく風速計の風速とA(m/s)とを比較する。
【0049】
判定部243は、判定後、判定日時とともに判定結果を取得情報記憶部230に記憶する。つまり、取得情報記憶部230には、情報取得部220による取得情報(プロバイダの提供情報、センサの計測値)と判定部243の判定結果とが、取得日時や判定日時とともに記憶される。また、判定部243は、判定後、判定結果を解除部244に出力する。なお、プロバイダの提供情報を用いる場合、あるいは現場のセンサ計測値を用いる場合のいずれであっても、瞬時の値ではなく平均化処理後の値を用いてもよい。
【0050】
解除部244は、出力制限部212の出力制限機能が起動している状態(起動状態)において判定部243が解除条件を満していると判定した場合には出力制限機能を解除する。例えば、解除部244は、出力制限機能を解除する指令(出力制限解除指令)を出力制限部212に出力する。解除部244は、出力制限機能を解除したときは、出力制限機能を解除した旨の情報を表示部280に出力してもよい。
【0051】
解除部244は、出力制限部212の出力制限機能が解除されている状態(解除状態)において判定部243が解除条件を満していないと判定した場合には出力制限機能を起動させる。例えば、解除部244は、出力制限機能を起動させる指令(出力制限起動指令)を出力制限部212に出力する。解除部244は、出力制限機能を起動させたときは、出力制限機能を起動させた旨の情報を表示部280に出力してもよい。
【0052】
なお、出力制限部212の出力制限機能が起動状態であるか解除状態であるかは、出力制御部210や制限制御部240において認識可能であればよい。例えば、出力制限機能が起動状態であるか解除状態であるかを示した情報を出力制御部210や制限制御部240が参照可能な記憶部(非図示)に記憶してもよいし、出力制限機能が起動状態であるか解除状態であるかを示した情報を出力制御部210や制限制御部240が保持してもよい。また、出力制限が解除状態にある間は解除条件を満たしている取得情報(プロバイダの提供情報、センサの計測値)を記憶部(非図示)に記憶するようにしてもよい。
【0053】
なお、出力制限機能が起動状態であるときに満たしていなかった解除条件を満たした場合には出力制限機能が起動状態から解除状態に変化するのに対し、出力制限機能が解除状態であるときに満たしていた解除条件を満たさなくなった場合には出力制限機能が解除状態から起動状態に変化するため、出力制限機能が解除状態であるときに参照する解除条件を起動条件と称してもよい。出力制限機能が起動状態であるときに参照する解除条件と、出力制限機能が解除状態であるときに参照する解除条件(起動条件)とは同一(共通)である(後述するヒステリシスを持たせる場合を除く)。
【0054】
以上のように、出力制御部210(エンジン制御部211、出力制限部212)は、解除部244から出力制限解除指令を入力する迄の間(出力制限機能の起動中)は、軸馬力計33からの入力部202からの軸馬力上限値と、軸馬力計33からのエンジン出力実値とを、比較し、エンジン出力実値が軸馬力上限値を超えない範囲において、実エンジン回転数が目標エンジン回転数に近づくようにラック位置を制御する。
【0055】
一方、出力制御部210(エンジン制御部211、出力制限部212)は、解除部244から出力制限解除指令を入力してから出力制限解除指令を入力する迄の間(出力制限機能の解除中)は、単に、実エンジン回転数が目標エンジン回転数に近づくようにラック位置を制御する。つまり、出力制限機能の解除中には、「エンジン出力実値が軸馬力上限値を超えない範囲において」なる制限は無視される。
【0056】
通信部270は、無線通信機能を有し、例えば航路計画装置40と通信する。例えば、通信部270は、取得情報記憶部230に記憶されている情報を航路計画装置40に送信する。具体的には、通信部270は、解除条件の推定に用いられる情報(以下、推定用情報)として、取得情報記憶部230に記憶されている情報の一部を航路計画装置40に送信する。
【0057】
取得情報記憶部230には、上述したように情報取得部220による取得情報(プロバイダの提供情報、センサの計測値)と判定部243の判定結果とが、取得日時や判定日時とともに記憶されているが、通信部270は、下記(A)~(C)のうちの何れかのように、推定用情報として、取得情報記憶部230に記憶されている情報の一部を航路計画装置40に送信してもよい。
【0058】
(A)通信部270は、推定用情報として、取得情報記憶部230に記憶されている情報のうち、判定部243が解除条件を満たしていないと判定した後に最初に解除条件を満たしていると判定したときのプロバイダの提供情報(出力制限機能を起動状態から解除状態に変化させたときのプロバイダの提供情報)を航路計画装置40に送信する。
(B)通信部270は、推定用情報として、取得情報記憶部230に記憶されている情報のうち、判定部243が解除条件を満たしていないと判定した後に最初に解除条件を満たしていると判定したときのプロバイダの提供情報(出力制限機能を起動状態から解除状態に変化させたときのプロバイダの提供情報)、及び、判定部243が解除条件を満していると判定した後に最初に解除条件を満していないと判定したときのプロバイダの提供情報(出力制限機能を解除状態から起動状態に変化させたときのプロバイダの提供情報)を航路計画装置40に送信する。
(C)通信部270は、推定用情報として、取得情報記憶部230に記憶されている情報のうち、プロバイダの提供情報と夫々の取得日時、及び、判定部243の判定結果と夫々の判定日時を航路計画装置40に送信する。なお、上記(C)の情報から、取得日時と判定日時とに基づいて、上記(B)の情報(出力制限機能を起動状態から解除状態に変化させたときのプロバイダの提供情報、出力制限機能を解除状態から起動状態に変化させたときのプロバイダの提供情報)を抽出可能である。
【0059】
つまり、通信部270は、推定用情報として、出力制限機能が起動状態から解除状態に切り替わった時点を少なくとも含む船舶1の航海領域の気海象情報(プロバイダの提供情報)を航路計画装置40に送信する。なお、解除条件にヒステリシスを持たせる場合(後述)には、出力制限機能が起動状態から解除状態に切り替わった時点の気海象情報(プロバイダの提供情報)に加え、出力制限機能が解除状態から起動状態に切り替わった時点の気海象情報(プロバイダの提供情報)も別途必要になるため、通信部270は、上記(B)の情報、又は、上記(C)の情報を送信する。
【0060】
また例えば、通信部270は、計画航路(計画航路情報)を航路計画装置40から受信する。なお、通信部270は、上限値記憶部201に記憶されている上限値を航路計画装置40に送信してもよい。
【0061】
表示部280は、例えば、航路計画を表示する。表示部280は、出力制限機能を解除した旨の情報を表示してもよい。表示部280は、出力制限機能を起動させた旨の情報を表示してもよい。
【0062】
なお、上記では、判定部243は判定結果を解除部244に出力すると説明したが、解除条件を満たしていないと判定した後に最初に解除条件を満たしていると判定した場合や解除条件を満していると判定した後に最初に解除条件を満していないと判定した場合(つまり、出力制限機能の状態が変化(起動状態から解除状態に変化、解除状態から起動状態に変化)する場合に判定結果を解除部244に出力し、出力制限機能の状態が変化しない場合には判定結果を解除部244に出力しなくてもよい。
【0063】
また、上記では、判定部243は判定結果を取得情報記憶部230に記憶すると説明したが、出力制限機能の状態が変化する場合に判定結果を取得情報記憶部230に記憶し、出力制限機能の状態が変化しない場合には判定結果を取得情報記憶部230に記憶しなくてもよい。
【0064】
図3は、推進制御システム20Aの動作の一例を示すフローチャートである。具体的には、図3のフローチャートは、出力制限の解除/起動に関する動作の一例を示している。情報取得部220は、気海象情報を取得して取得情報記憶部230に記憶する(ステップS1)。続いて、判定部243は、解除条件を満たしているか否かを判定する(ステップS2)。
【0065】
判定部243は、解除条件を満していると判定した場合(ステップS2:YES)、出力制限機能が起動状態であるか否かを判断する(ステップS3)。判定部243は、起動状態であると判断した場合(ステップS3:YES)、判定日時とともに判定結果を取得情報記憶部230に記憶する(ステップS4)。続いて、解除部244は、出力制限機能を解除(例えば、出力制限解除指令を出力制限部212に出力)し(ステップS5)、本フローチャートは終了する。起動状態でないと判断した場合(ステップS3:NO)、本フローチャートは終了する。
【0066】
判定部243は、解除条件を満たしていないと判定した場合(ステップS2:NO)、出力制限機能が解除状態であるか否かを判断する(ステップS6)。判定部243は、解除状態であると判断した場合(ステップS6:YES)、判定日時とともに判定結果を取得情報記憶部230に記憶する(ステップS7)。続いて、解除部244は、出力制限機能を起動(例えば、出力制限起動指令を出力制限部212に出力)し(ステップS8)、本フローチャートは終了する。解除状態でないと判断した場合(ステップS6:NO)、本フローチャートは終了する。
【0067】
以上、図2及び図3を用いて推進制御システム20Aについて説明したが、推進制御システム20Aは、以下のように、構成、動作等してもよい。図4は、馬力、燃料消費量の説明図である。
【0068】
図2及び図3では、出力制限部212の出力制限機能が起動状態であるときに判定部243が解除条件を満していると判定した場合、解除部244は、出力制限機能を解除(出力制限解除指令を出力制限部212に出力)すると説明したが、出力制限機能の解除に代えて出力制限機能を緩和してもよい(出力制限機能を作動し難くしてもよい)。例えば、解除部244は、出力制限部212の出力制限機能が起動状態であるときに判定部243が解除条件を満していると判定した場合、入力部202が出力する軸馬力上限値(上限値記憶部201に記憶されている軸馬力上限値。軸馬力上限値aとする)よりも値が大きい軸馬力上限値(軸馬力上限値bとする)を出力制限部212に出力してもよい。この場合、出力制限部212は、入力部202が出力した軸馬力上限値aに代えて解除部244が出力した軸馬力上限値bに従って出力制限機能を作動させる。軸馬力上限値bは軸馬力上限値aよりも大きいため、出力制限機能は作動し難くなる(出力制限機能は緩和される)。
【0069】
解除部244は、入力部202が軸馬力上限値bを出力制限部212に出力するように入力部202に指示してもよい。
【0070】
また、解除部244は、出力制限機能を段階的に緩和してもよい。例えば、解除条件として「風速≧15(m/s)」と「風速≧20(m/s)」とを設定しておき、解除部244は、判定部243が「風速≧15(m/s)」を満しているが「風速≧20(m/s)」を満たしていないと判定した場合には軸馬力上限値bを出力制限部212に出力し(又は入力部202に指示し)、判定部243が「風速≧20(m/s)」を満していると判定した場合には軸馬力上限値bよりも値が大きい軸馬力上限値(軸馬力上限値cとする)を出力制限部212に出力(又は入力部202に指示)してもよい。軸馬力上限値bは軸馬力上限値aよりも大きく、軸馬力上限値cは軸馬力上限値bよりも大きいため、出力制限機能は段階的に作動し難くなる(出力制限機能は段階的に緩和される)。
【0071】
また、解除部244は、出力制限機能を解除(又は緩和)した場合、出力制限機能を解除(又は緩和)した旨の報知(例えば、表示部280への表示)を行ってもよい。当該報知は、判定部243が行ってもよい。
【0072】
また、解除部244は、出力制限機能の解除(又は緩和)に代えて又は加えて、出力制限機能の解除を促す報知(例えば、表示部280への表示)を行ってもよい。当該報知は、判定部243が行ってもよい。なお、入力部202は、報知を確認した操作者の操作に基づいて、出力制限解除指令を出力制限部212に出力する。
【0073】
また、解除部244は、出力制限機能の解除(又は緩和)に代えて又は加えて、出力制限機能の緩和を促す報知(例えば、表示部280への表示)を行ってもよい。当該報知は、判定部243が行ってもよい。なお、入力部202は、報知を確認した操作者の操作に基づいて、軸馬力上限値b(又は、軸馬力上限値c)を出力制限部212に出力する。
【0074】
また、図2及び図3では、出力制限部212は、入力部202からの軸馬力上限値と、軸馬力計33からのエンジン出力実値(計測値)とを、比較し、エンジン出力実値が軸馬力上限値を超えないように、エンジン制御部211によるラック位置の制御を制限すると説明したが、出力制限部212は、入力部202からの軸馬力上限値と、軸馬力計33の計測値にエンジン31から軸馬力計33の手前までの回転慣性質量とエンジン回転数の加減速度から算出されるエンジンの回転加減速に消費される出力分を加算した値とを、比較し、上記加算値(計測値+消費出力部)が軸馬力上限値を超えないように、エンジン制御部211によるラック位置の制御を制限してもよい。
【0075】
また、出力制限部212は、軸馬力計33からのエンジン出力実値に代えて(軸馬力計33を使用せずに)、エンジン回転数とラック位置から推定される推定エンジン出力値(図4(A)参照)を用いて、出力制限を行ってもよい。つまり、出力制限部212は、入力部202からの軸馬力上限値と、エンジン回転数とラック位置から推定される推定エンジン出力値とを、比較し、推定エンジン出力値が軸馬力上限値を超えないように、エンジン制御部211によるラック位置の制御を制限してもよい。また、出力制限部212は、船速や船速変化、エンジン回転数、エンジン回転数の変化などからモデル化した状態式等から得られる推定エンジン出力値を用いて、出力制限を行ってもよい。
【0076】
また、エンジン出力に代えて燃料消費量によって出力を制限してもよい。上限値記憶部201には燃料消費量の上限値(燃料消費量上限値)を記憶し、入力部202は燃料消費量上限値を出力制限部212に出力し、出力制限部212は、例えば、エンジン回転数とラック位置から推定される燃料消費量(図4(B)参照)を用いて、出力制限を行ってもよい。つまり、出力制限部212は、入力部202からの燃料消費量上限値と、エンジン回転数とラック位置から推定される推定燃料消費量とを、比較し、推定燃料消費量が燃料消費量上限値を超えないように、エンジン制御部211によるラック位置の制御を制限してもよい。
【0077】
(航路計画装置40)
図5は、航路計画装置40の機能構成等の説明図である。航路計画装置40は、図5に示すように、上限値記憶部401と、通信部410と、推定用情報記憶部411と、解除条件推定部420、解除条件記憶部421と、情報取得部430と、取得情報記憶部431と、入力部440と、航海情報記憶部441と、モデル記憶部451と、航路計画部460と、を備える。航路計画部460は、計画航路作成部461と、燃料消費量推定部462と、を備える。
【0078】
上限値記憶部401は、エンジン31の出力に関する上限値を記憶する。例えば、上限値記憶部401は、軸馬力上限値を記憶する。なお、船舶1が燃料消費量に基づいて出力を制限する場合には、上限値記憶部401は、燃料消費量上限値を記憶する。上限値記憶部401に記憶する上限値は、燃費規制等に基づいてあらかじめ設定しておく。なお、船舶1から上限値を受信して上限値記憶部401に記憶してもよい。
【0079】
通信部410は、無線通信機能を有し、例えば船舶1と通信する。例えば、通信部410は、船舶1から推定用情報(解除条件の推定に用いられる情報)を受信する。推定用情報は、船舶1の出力制限機能が起動状態から解除状態に切り替わった時点を少なくとも含む船舶1の航海領域の気海象情報(プロバイダの提供情報)である。推定用情報は、推定用情報記憶部411に記憶される。
【0080】
また例えば、通信部410は、航路計画部460(計画航路作成部461)が作成した計画航路(計画航路情報)を船舶1に送信する。
【0081】
解除条件推定部420は、推定用情報記憶部411に記憶されている推定用情報に基づいて、船舶1が出力制限機能を解除する解除条件(例えば、「風速≧Ap(m/s)」等)を推定する。例えば、解除条件推定部420は、出力制限機能が解除されたときの風速が所定の範囲内に収まっている場合(所定の範囲内の一の風速になったときに出力制限機能が解除されるといった傾向がみられる場合(所定割合以上の場合))には、風速が解除条件であると推定し、上述の所定の範囲内の全風速の平均値Apを算出してもよい。また、解除条件推定部420は、出力制限機能が解除されたときの潮流が所定の範囲内に収まっていない場合(所定の範囲内の一の潮流になったときに出力制限機能が解除されるといった傾向がみられない場合(所定割合未満の場合))には、潮流は解除条件ではないと推定してもよい。解除条件推定部420は、推定した解除条件を解除条件記憶部421に記憶する。
【0082】
情報取得部430は、外部のプロバイダからの提供情報(例えば、風速、波高、潮流等のうちの1つ以上のデータ。将来の気海象データ(予報))を取得する。情報取得部430は、取得日時とともに取得した情報を取得情報記憶部431に記憶する。つまり、取得情報記憶部431には、夫々の取得日時とともに取得情報が記憶される。
【0083】
入力部440は、操作者(計画航路の作成担当者)による入力操作を受け付ける。例えば、入力部440は、船舶1の航海情報(出発地、目的地、出発時刻、目標到着時刻(又は目標所要時間)等)の入力操作を受け付ける。入力部440は、入力された航海情報を航海情報記憶部441に記憶する。
【0084】
モデル記憶部451は、航路計画部460による航路計画(航路計算)において用いられる各種のモデルを記憶する。例えば、モデル記憶部451は、エンジンモデル、船体モデル、プロペラモデル等を記憶する。エンジンモデルは、エンジンの出力や燃費の推定に用いられる。エンジンモデルは、ラック位置とエンジン回転数から、エンジン出力や燃料消費量を算出可能なモデルである(図4)。船体モデルやプロペラモデルは、船舶の運動性能(波・風・潮流などの環境条件や、エンジン出力を変化させたときの船速変化)の計算に用いられる。
【0085】
上述したモデルは、例えば、設計時点の情報や陸上・海上試験時の試験結果を基に作成してもよい。また、上述したモデルは、就航中に測定した測定値に基づいて適宜、更新(補正)されてもよい。
【0086】
航路計画部460は、解除条件推定部420が推定した解除条件と、航海情報記憶部441に記憶されている航海情報(出発地、目的地、出発時刻、目標到着時刻(又は目標所要時間)等)と、取得情報記憶部431に記憶されている船舶1の航海領域(出発地と目的地を含む海域)の将来の気海象情報(プロバイダの提供情報)と、に基づいて船舶1の計画航路を作成する。航路計画部460が出力する航路計画は、出発地から目標地までのウェイポイント(通過点位置)、各ウェイポイント間の設定船速、各ウェイポイントの通過予定時刻などを含むものであってもよい。
【0087】
例えば、航路計画部460は、モデル記憶部451に記憶されているモデルを用いて、船舶1の燃料消費量が所定値未満となるよう計画航路を作成する。ここで、航路計画部460は、解除条件推定部420が推定した解除条件と情報取得部430が取得した将来の気海象データとに基づいて船舶1が出力制限機能を解除する航路上の航海領域を推定し、出力制限機能を解除する航路上の燃料消費量の推定値を、出力制限機能を解除しない航路上の燃料消費量の推定値よりも大きい値として推定する。
【0088】
つまり、航路計画部460の計画航路作成部461は、航海情報記憶部441に記憶されている航海情報に基づいて計画航路を作成する。航路計画部460の燃料消費量推定部462は、船舶1が計画航路(計画航路作成部461が候補として作成した計画航路)に沿って航海(航行)したときの船舶1での燃料消費量を推定する。
【0089】
計画航路作成部461は、燃料消費量推定部462が推定した燃料消費量が所定値未満となるように計画航路を作成する。計画航路作成部461は、推定燃料消費量が所定値未満となる計画航路を作成できた場合に処理を終了(候補とした計画航路を最終的な計画航路として処理を終了)してもよいし、所定値未満であって最小の推定燃料消費量となる計画航路を作成して処理を終了してもよい。
【0090】
燃料消費量推定部462は、船舶1が出力制限機能を解除して航海した場合の燃料消費量の推定値を、船舶1が出力制限機能を解除せずに航海した場合の燃料消費量の推定値よりも大きな値として推定する。より詳細には、燃料消費量推定部462は、解除条件記憶部421に記憶されている解除条件と取得情報記憶部431に記憶されている提供情報(将来の気海象データ)とに基づいて船舶1が出力制限機能を解除する航路上の航海領域を推定し、計画航路作成部461が候補として作成した計画航路上の航海領域のうち船舶1が出力制限機能を解除する航路上の航海領域(将来の気海象情報が解除条件を満たす領域)における船舶1の燃料消費量の推定値を、上記計画航路上の航海領域のうち船舶1が出力制限機能を解除しない航路上の航海領域(将来の気海象情報が解除条件を満たさない領域)における船舶1の燃料消費量の推定値よりも大きい値として推定する。
【0091】
航路計画部460(計画航路作成部461)によって作成された計画航路(計画航路情報)は、通信部410によって船舶1に送信される。
【0092】
以上、推進制御システム20A及び航路計画装置40について説明した。推進制御システム20Aによれば、航海の安全性を考慮した出力制限による航海が可能になる。つまり、仮に荒天時にも通常通りに出力制限を起動させた場合(所定の上限値内にエンジン出力を制限した場合)、荒天時の航海に必要な推進力が得られないため、安全に航海できない可能性があるが、推進制御システム20Aは、荒天時には出力制限を解除又は緩和するため、安全に航海することができる。航路計画装置40によれば、航海の安全性を考慮した出力制限による航路計画の立案が可能になる。つまり、仮に出力制限を常に適用して航路計画を立案した場合、荒天時における航海の安全性を確保した航路計画を立案することができなくなることに加え、荒天時に安全性を確保するために推進力をあげると航路計画上の速度と実際の速度とが一致しなくなるため、計画通りに就航できなくなる可能性があるが、航路計画装置40は、荒天時における出力制限の解除等を考慮して航路計画を立案するため、上述のような問題は生じなくなる。
【0093】
(推進制御システム20B)
推進制御システム20Aに代えて推進制御システム20Bを用いてもよい。図6は、推進制御システム20Bの機能構成等の説明図である。図6に示すように、推進制御システム20Bは、制限制御部250を備える点が、制限制御部240を備える推進制御システム20Aと異なる。制限制御部250は、リスク値算出部251と、解除条件記憶部252と、判定部253と、解除部254と、を備える。
【0094】
推進制御システム20B内の制限制御部250を含む部分(例えば、出力制御部210、制限制御部250、情報取得部220)を制限解除装置と称してもよい。
【0095】
以下、推進制御システム20Bについて、推進制御システム20Aと異なる部分について説明する(同様の部分については説明を省略する)。
【0096】
リスク値算出部251は、情報取得部220によって取得された気海象情報(取得情報記憶部230に記憶されている気海象情報)から航海の危険度であるリスク値Rを算出する。リスク値Rは、下記式1によって表される。
【0097】
リスク値R=f(風速、波高…)…(1)
【0098】
なお、例えば、風速、波高等について、プロバイダの提供情報としてもセンサの計測値としても取得している場合には、現場の値を用いる方が適切であるため、センサの計測値を用いてリスク値Rを算出する。
【0099】
解除条件記憶部252は、解除条件を記憶する。解除条件記憶部252が記憶する解除条件は、リスク値算出部251によって算出されたリスク値Rと比較される情報(閾値)である。一例として、解除条件記憶部242は、解除条件として「リスク値R≧300」等を記憶する。
【0100】
判定部253は、リスク値算出部251によって算出されたリスク値Rが解除条件記憶部252に記憶されている解除条件を満たしているかを判定する。例えば、解除条件記憶部252に解除条件として「リスク値≧300」が記憶されている場合、判定部253は、リスク値算出部251によって算出されたリスク値Rが300以上であるかを判定する。
【0101】
判定部253は、判定後、判定日時とともに判定結果を取得情報記憶部230に記憶する。つまり、取得情報記憶部230には、情報取得部220による取得情報(プロバイダの提供情報、センサの計測値)と判定部253の判定結果とが、取得日時や判定日時とともに記憶される。また、判定部253は、判定結果を解除部254に出力する。解除部254の動作は、推進制御システム20Aの解除部244の動作と同様である。
【0102】
以上、推進制御システム20Bについて説明したが、推進制御システム20Bによれば、推進制御システム20Aと同様、航海の安全性を考慮した出力制限による航海が可能になる。
【0103】
なお、推進制御システム20Bは、リスク値の算出に代えてリスク値を推定してもよい。例えば、気海象情報(プロバイダの提供情報)を入力すると、出力としてリスク値(推定値)を出力するリスク値算出モデルを機械学習によって生成し、生成したリスク値算出モデルを用いてリスク値(乗組員の体感によるリスク値)を推定してもよい。
【0104】
なお、リスク値算出モデルの生成(学習)には、例えば、下記の教師データを用いる。
気海象情報1(プロバイダの提供情報)-乗組員の体感によるリスク値1(入力値)
気海象情報2(プロバイダの提供情報)-乗組員の体感によるリスク値2(入力値)

気海象情報N(プロバイダの提供情報)-乗組員の体感によるリスク値N(入力値)
【0105】
(推進制御システム20C)
推進制御システム20Aや推進制御システム20Bに代えて推進制御システム20Cを用いてもよい。図7は、推進制御システム20Cの機能構成等の説明図である。図7に示すように、推進制御システム20Cは、制限制御部260を備える点が、制限制御部240を備える推進制御システム20Aや制限制御部250を備える推進制御システム20Bと異なる。制限制御部260は、上限リスク値記憶部262と、出力上限値算出部263と、を備える。
【0106】
推進制御システム20C内の制限制御部260を含む部分(例えば、出力制御部210、制限制御部260、情報取得部220)を制限解除装置と称してもよい。
【0107】
以下、推進制御システム20Cについて、推進制御システム20Aや推進制御システム20Bと異なる部分について説明する(同様の部分については説明を省略する)。
【0108】
上限リスク値記憶部262は、リスクの上限値である上限リスク値を記憶する。
【0109】
出力上限値算出部263は、情報取得部220によって取得された気海象情報(取得情報記憶部230に記憶されている気海象情報)と、上限リスク値記憶部262に記憶されている上限リスク値と、を用いて、エンジン31の出力上限値(軸馬力上限値又は燃料消費量上限値)を算出する。例えば、出力上限値算出部263は、下記式2を満たす最小の出力値の出力上限値として算出してもよい。
【0110】
上限リスク値Rmax=f(出力値、風速、波高…)…(2)
【0111】
なお、例えば、風速、波高等について、プロバイダの提供情報としてもセンサの計測値としても取得している場合には、現場の値を用いる方が適切であるため、センサの計測値を用いる。
【0112】
出力上限値算出部263は、出力上限値の算出後、算出日時とともに算出結果である上限出力値を取得情報記憶部230に記憶する。つまり、取得情報記憶部230には、情報取得部220による取得情報(プロバイダの提供情報、センサの計測値)と出力上限値算出部263によって算出された上限出力値とが、取得日時や算出日時とともに記憶される。なお、通信部270は、プロバイダの提供情報と、出力上限値算出部263によって算出された上限出力値とを、航路計画装置40に送信する。また、出力上限値算出部263は、上限出力値を入力装置200(上限値記憶部201)に出力する。
【0113】
つまり、入力装置200(入力部202)が出力制御部210(出力制限部212)に出力する出力上限値(軸馬力上限値又は燃料消費量上限値)は、出力上限値算出部263によって、上限リスク値を超えない範囲で自動的に調整(更新)される。換言すれば、出力上限値算出部263は、推進制御システム20Aの解除部244や推進制御システム20Bの解除部254と同様、荒天時には出力制限を緩和する。
【0114】
以上、推進制御システム20Cについて説明したが、推進制御システム20Cによれば、推進制御システム20Aや推進制御システム20Bと同様、航海の安全性を考慮した出力制限による航海が可能になる。
【0115】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【0116】
例えば、本明細書で開示した実施形態のうち、複数の機能が分散して設けられているものは、当該複数の機能の一部又は全部を集約して設けても良く、逆に複数の機能が集約して設けられているものを、当該複数の機能の一部又は全部が分散するように設けることができる。機能が集約されているか分散されているかにかかわらず、発明の目的を達成できるように構成されていればよい。
【0117】
例えば、上記実施形態では、解除条件にヒステリシスを持たせていないが、ヒステリシスを持たせてもよい。例えば、推進制御システム20Aにおいて、起動状態から解除状態への解除条件が例えば「風速≧20(m/s)」である場合、ヒステリシスを持たせないのならば、解除状態から起動状態への解除条件(起動条件)は「風速<20(m/s)」となるが、ヒステリシスを持たせるのならば、解除状態から起動状態への解除条件(起動条件)は例えば「風速<18(m/s)」としてもよい。
【0118】
以上に示した実施形態に係る装置(例えば、推進制御システム20A、推進制御システム20B、推進制御システム20C、制限解除装置、航路計画装置40等)の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶して、この記憶媒体に記憶されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより、処理を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、オペレーティングシステム(OS:Operating System)あるいは周辺機器等のハードウェアを含むものであってもよい。また、「コンピュータ読み取り可能な記憶媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ等の書き込み可能な不揮発性メモリ、DVD(Digital Versatile Disc)等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。
【0119】
更に、「コンピュータ読み取り可能な記憶媒体」とは、インターネット等のネットワークあるいは電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合の情報処理装置やクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(例えばDRAM(Dynamic Random Access Memory))のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。また、上記のプログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)あるいは電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。また、上記のプログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。更に、上記のプログラムは、前述した機能をコンピュータシステムに既に記憶されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【符号の説明】
【0120】
1…船舶
20A、20B、20C…推進制御システム
30…推進部
31…エンジン
32…プロペラ
33…軸馬力計
40…航路計画装置
200…入力装置
201…上限値記憶部
202…入力部
202…制御部
210…出力制御部
212…出力制限部
211…エンジン制御部
220…情報取得部
230…取得情報記憶部
240…制限制御部
242…解除条件記憶部
243…判定部
244…解除部
250…制限制御部
251…リスク値算出部
252…解除条件記憶部
253…判定部
254…解除部
260…制限制御部
262…上限リスク値記憶部
263…出力上限値算出部
270…通信部
280…表示部
401…上限値記憶部
410…通信部
411…推定用情報記憶部
420…解除条件推定部
421…解除条件記憶部
430…情報取得部
431…取得情報記憶部
440…入力部
441…航海情報記憶部
451…モデル記憶部
460…航路計画部
461…計画航路作成部
462…燃料消費量推定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7