(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024016204
(43)【公開日】2024-02-06
(54)【発明の名称】抗TRKBモノクローナル抗体および使用の方法
(51)【国際特許分類】
C07K 16/28 20060101AFI20240130BHJP
C07K 16/40 20060101ALI20240130BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20240130BHJP
【FI】
C07K16/28
C07K16/40 ZNA
C12N15/13
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023191236
(22)【出願日】2023-11-09
(62)【分割の表示】P 2020517858の分割
【原出願日】2018-11-28
(31)【優先権主張番号】62/592,657
(32)【優先日】2017-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】597160510
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】REGENERON PHARMACEUTICALS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(74)【代理人】
【識別番号】100216105
【弁理士】
【氏名又は名称】守安 智
(72)【発明者】
【氏名】スーザン・ディー・クロール
(72)【発明者】
【氏名】ミン・ガオ
(72)【発明者】
【氏名】イン・フー
(57)【要約】 (修正有)
【課題】TrkBに特異的に結合する抗体およびそれを使用する方法を提供する。
【解決手段】インビトロにおいて網膜神経節細胞の生存を増強する効果により示される神経保護性のアゴニスト抗体が開示され、これらのアゴニスト抗体は、緑内障を含む眼の障害などの処置において用いることができる。加えて、他の神経細胞疾患または障害が、部分的に神経細胞の損傷により特徴付けられるものを含め、これらのアゴニスト抗体での処置により利益を得る。ある種の実施形態において、本発明は、TrkBに結合し、細胞シグナル伝達を仲介する抗体を含む。本発明の抗体は、注射用に賦形剤を用いて製剤化された完全ヒト非天然抗体であってもよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トロポミオシン受容体キナーゼB(TrkB)に特異的に結合する単離された抗体またはその抗原結合フラグメントであって、配列番号2、18、34、49、59、および68からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)に含有される3つの重鎖相補性決定領域(CDR)(HCDR1、HCDR2、およびHCDR3);ならびに
配列番号10、26、42、53、63、および72からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)に含有される3つの軽鎖CDR(LCDR1、LCDR2、およびLCDR3)を含む、前記単離された抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項2】
配列番号2/10、18/26、34/42、49/53、59/63、および68/72からなる群より選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対のCDRを含む、請求項1に記載の単離された抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項3】
配列番号2/10、18/26、34/42、49/53、59/63、および68/72からなる群より選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む、請求項1または2に記載の単離された抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項4】
(a)配列番号4、20、36、50、60、および69からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するHCDR1ドメイン;
(b)配列番号6、22、38、51、61、および70からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するHCDR2ドメイン;
(c)配列番号8、24、40、52、62、および71からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するHCDR3ドメイン;
(d)配列番号12、28、44、54、64、および73からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するLCDR1ドメイン;
(e)配列番号14、30、46、55、65、および74からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するLCDR2ドメイン;ならびに
(f)配列番号16、32、48、56、66、および75からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するLCDR3ドメイン
を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の単離された抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項5】
(a)配列番号4-6-8-12-14-16;(b)配列番号20-22-24-28-30-32;(c)配列番号36-38-40-44-46-48;(d)配列番号50-51-52-54-55-56;(e)配列番号60-61-62-64-65-66;および(f)配列番号69-70-71-73-74-75からなる群より選択される6つのCDRのセット(HCDR1-HCDR2-HCDR3-LCDR1-LCDR2-LCDR3)を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の単離された抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項6】
25℃または37℃において表面プラズモン共鳴により測定される約300nM未満のKDでヒトTrkBに結合する、請求項1~5のいずれか1項に記載の単離された抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項7】
25℃または37℃において表面プラズモン共鳴により測定される、約150nM未満、約50pM未満、約100pM未満からなる群より選択されるKDで、ヒトTrkBに結合する、請求項6に記載の単離された抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項8】
25℃または37℃において表面プラズモン共鳴により測定される約10分より長い、約40分より長い、約120分より長いからなる群より選択される解離半減期(t1/2)で、ヒトTrkBに結合する、請求項1~5のいずれか1項に記載の単離された抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項9】
約100pM未満のEC50で、BDNFの非存在下で、TrkBを発現するように操作された細胞において、ヒトTrkBシグナル伝達を活性化する、請求項1~5のいずれか1項に記載の単離された抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項10】
約100pM未満のEC50で、BDNFの存在下で、TrkBを発現するように操作された細胞において、ヒトTrkBシグナル伝達の活性化を増強する、請求項1~5のいずれか1項に記載の単離された抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項11】
ヒト化TrkBマウスの海馬に注射した場合に、TrkBリン酸化の増加により示されるTrkB活性化を示す、請求項1~5のいずれか1項に記載の単離された抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項12】
初代マウス皮質ニューロンをアゴニスト抗TrkB抗体と共にインキュベートした後に示される、MAPK/ERKおよびPI3K/Aktシグナル伝達経路の活性化を示す、請求項1~5のいずれか1項に記載の単離された抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項13】
TrkBヒト化ラットにおける視神経横断切断モデルにおいて示される、網膜神経節細胞の生存を増強する、請求項1~12のいずれか1項に記載の単離された抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項14】
ヒト化TrkBマウスにおいて体重減少を促進する、請求項1~12のいずれか1項に記載の単離された抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項15】
ヒト化TrkBマウスにおいて体脂肪量の減少を促進する、請求項1~12のいずれか1項に記載の単離された抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項16】
ヒト化TrkBマウスにおいて食物および水の摂取量の減少を促進する、請求項1~12のいずれか1項に記載の単離された抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項17】
ヒト化TrkBマウスにおいて自発運動活動を増大させる、請求項1~12のいずれか1項に記載の単離された抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項18】
(a)アゴニスト抗体である特性;
(b)25℃または37℃において表面プラズモン共鳴により測定される約200nM未満のKDでヒトTrkBに結合する特性;
(c)25℃または37℃において表面プラズモン共鳴により測定される約10分よりも長い解離半減期(t1/2)でヒトTrkBに結合する特性;
(d)約100pM未満のEC50で、脳由来神経栄養因子(BDNF)の非存在下で、ヒトTrkBを発現するように操作された細胞において、ヒトTrkBシグナル伝達を活性化する特性;
(e)ヒトTrkB受容体についてホモ接合性である(TrkBhu/hu)マウスの海馬に注射した場合に、TrkBリン酸化を増強する特性;
(f)ヒトTrkB受容体についてホモ接合性である(TrkBhu/hu)マウスに注射した場合に、体重減少を促進する特性;
(g)ヒト化TrkBラットにおける視神経横断切断モデルにおいて評価される、網膜神経節細胞(RGC)の生存を増大させる特性;
(h)MAPK/ERKおよびPI3K/Aktシグナル伝達経路を活性化する特性;
(i)インビトロにおいて神経細胞の生存を増強/増大する特性;ならびに
(j)5nM未満のIC50でBDNFおよび/またはNT-4へのTrkBの結合を遮断する特性
からなる群より選択される1つまたはそれ以上の特性を示す、請求項1~12のいずれか1項に記載の単離された抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項19】
請求項1~12のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント、および薬学的に許容し得る担体もしくは希釈剤を含む医薬組成物。
【請求項20】
請求項1~12のいずれか1項に記載の抗TrkB抗体またはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド配列を含む、単離された核酸分子。
【請求項21】
請求項20に記載のポリヌクレオチド配列を含むベクター。
【請求項22】
請求項21に記載のベクターを発現する細胞。
【請求項23】
TrkBにより仲介される生物学的活性を増強するための組成物の使用であって、
TrkBを、生物学的有効量の請求項1~12のいずれか1項に記載のアゴニスト抗TrkB抗体と接触させること、またはTrkBを、生物学的有効量の請求項1~5のいずれか1項に記載のアゴニスト抗TrkB抗体を含有する医薬組成物と接触させることを含む前記使用。
【請求項24】
生物学的活性は、神経細胞の保護または神経細胞の生存であり、神経細胞の保護または神経細胞の生存は、TrkBがアゴニスト抗TrkB抗体と接触すると増強される、請求項23に記載の使用。
【請求項25】
TrkBをアゴニスト抗TrkB抗体と接触させることは、網膜神経節細胞(RGC)の神経保護および生存をもたらす、請求項23に記載の使用。
【請求項26】
TrkB活性もしくは発現に関連する疾患もしくは障害を処置もしくは予防するため、またはTrkB活性もしくは発現に関連する該疾患もしくは障害に関連する少なくとも1つの症状を改善するための組成物の使用であって、かかる処置を必要とする対象に、治療上有効量の請求項1~12のいずれか1項に記載のアゴニスト抗TrkB抗体を投与すること、または治療上有効量の請求項1~12のいずれか1項に記載のアゴニスト抗TrkB抗体を含有する医薬組成物を投与することを含む前記使用。
【請求項27】
疾患または障害は、緑内障、糖尿病性網膜症、加齢性黄斑変性、虚血性視神経症、視神経炎、網膜虚血、光受容体変性、網膜色素変性、および網膜動脈もしくは静脈閉塞からなる群より選択される眼の疾患または障害である、請求項26に記載の使用。
【請求項28】
疾患または障害は、緑内障である、請求項27に記載の使用。
【請求項29】
対象において体重の低減を達成するための組成物の使用であって、請求項1~5のいずれか1項に記載のTrkBに特異的な抗体もしくはその抗原結合フラグメントであるTrkBアゴニスト、または該抗体もしくはその抗原結合フラグメントを含む医薬組成物を、該対象に投与することを含む前記使用。
【請求項30】
対象において体脂肪量の低減を達成するための組成物の使用であって、請求項1~5のいずれか1項に記載のTrkBに特異的な抗体もしくはその抗原結合フラグメントであるTrkBアゴニスト、または該抗体もしくはその抗原結合フラグメントを含む医薬組成物を、該対象に投与することを含む前記使用。
【請求項31】
対象において神経細胞の生存を促進するための組成物の使用であって、方法は、治療上有効量の請求項1~5のいずれか1項に記載のTrkBに特異的な抗体もしくはその抗原結合フラグメントであるTrkBアゴニスト、または治療上有効量の該抗体もしくはその抗原結合フラグメントを含む医薬組成物を、該対象に投与することを含む前記使用。
【請求項32】
TrkBを接触させることは、請求項1~12のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントを含む注射用製剤を患者に注射することにより実行される、請求項23~31のいずれか1項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗トロポミオシン受容体キナーゼB(TrkB)モノクローナル抗体に関する。より具体的には、本発明は、抗TrkBモノクローナル抗体を含む組成物およびこれらの抗体を使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トロポミオシン受容体キナーゼB(TrkB)は、TrkAおよびTrkCを含む単一膜貫通型受容体チロシンキナーゼのファミリーに属する。これらの受容体キナーゼは、神経細胞の生存および発生に必要とされるニューロトロフィンの活性を仲介する。ニューロトロフィンには、神経成長因子(NGF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン-3(NT-3)、およびニューロトロフィン-4/5(NT-4/5)が含まれるが、これらに限定されない。(非特許文献1)。
【0003】
TrkBは、BDNFの高親和性受容体であるが(非特許文献2)、NT4/5に結合することも知られている。trkBへのBDNFの結合は、受容体の二量体化を引き起こし、受容体上の特定のチロシン残基の自己リン酸化、ならびにマイトジェン活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)、ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3K)、およびホスホリパーゼC-γ(PLC-γ)を含むシグナル伝達経路の活性化をもたらす。(非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5、非特許文献6、非特許文献7)。BDNFに結合した後、TrkBは、神経細胞の分化および生存を含む、ニューロトロフィンの複数の作用を仲介する。
【0004】
TrkBは、神経細胞の生存、分化、および機能において主要な役割を果たすため、TrkBアゴニストは、多数の神経変性障害および代謝障害の処置に関して治療的見込みを有し得る。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Lo, K Yら、J. Biol. Chem., 280:41744~52頁(2005年)
【非特許文献2】Minichielloら、Neuron 21:335~45頁(1998年)
【非特許文献3】Jingら、Neuron 9:1067~1079頁(1992年)
【非特許文献4】Barbacid、J. Neurobiol. 25:1386~1403頁(1994年)
【非特許文献5】Bothwell、Ann. Rev. Neurosci. 18:223~253頁(1995年)
【非特許文献6】SegalおよびGreenberg、Ann. Rev. Neurosci. 19:463~489頁(1996年)
【非特許文献7】KaplanおよびMiller、Curr. Opinion Neurobiol. 10:381~391頁(2000年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ある種のTrkBアゴニストが、米国特許出願公開第2010/0150914号、米国特許出願公開第2003/0157099号、米国特許出願公開第2010/0196
390号、および米国特許出願公開第2017/0157099号に記載されている。しかしながら、本明細書に記載されるものなど、神経細胞の生存および神経保護特性を示すことに加えて、特異性の好転を提供する、さらなるTrkBアゴニストの同定および開発に対する必要性が依然として存在している。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、トロポミオシン受容体キナーゼB(TrkB)に特異的に結合する、単離されたモノクローナル抗体およびその抗原結合フラグメントを提供する。本発明の単離された抗体およびその抗原結合フラグメントは、TrkB活性または発現に関連する疾患および障害を処置するのに有用である。
【0008】
広範な態様において、本発明は、TrkBを活性化し、神経細胞の生存を促進する抗TrkBアゴニスト抗体を提供する。これらの抗体は、神経機能を好転させるため、ならびに神経系損傷および/または慢性神経変性疾患に関連する神経細胞の損傷を含む細胞変性により部分的に特徴付けられる任意の疾患または障害を処置するために、用いることができる。
【0009】
ある種の実施形態において、抗TrkB抗体は、眼の種々の疾患または障害を処置するために有用であり得、緑内障などであるがこれに限定されない眼の疾患を処置するために、眼内または硝子体内へのデリバリー用に製剤化することができる。
【0010】
本発明の抗体は、全長(例えば、IgG1またはIgG4抗体)であるか、または抗原結合部分(例えば、Fab、F(ab’)2、もしくはscFvフラグメント)のみを含み、機能性に影響するように、例えば、残りのエフェクター機能を除去するように修飾される(Reddyら、2000年、J.Immunol.164:1925~1933頁)。
【0011】
本発明の典型的な抗TrkB抗体を、本明細書における表1および2に挙げる。表1に、典型的な抗TrkB抗体の重鎖可変領域(HCVR)、軽鎖可変領域(LCVR)、重鎖相補性決定領域(HCDR1、HCDR2、およびHCDR3)、ならびに軽鎖相補性決定領域(LCDR1、LCDR2、およびLCDR3)のアミノ酸配列識別名を記載する。表2に、典型的な抗TrkB抗体のHCVR、LCVR、HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2、およびLCDR3の核酸配列識別名を記載する。
【0012】
本発明は、表1に挙げられるHCVRアミノ酸配列のいずれか、またはそれに対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列から選択されるアミノ酸配列を含むHCVRを含む、TrkBに特異的に結合する抗体またはその抗原結合フラグメントを提供する。
【0013】
本発明はまた、表1に挙げられるLCVRアミノ酸配列のいずれか、またはそれに対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列から選択されるアミノ酸配列を含むLCVRを含む、TrkBに特異的に結合する抗体またはその抗原結合フラグメントも提供する。
【0014】
本発明はまた、表1に挙げられるLCVRアミノ酸配列のいずれかと対形成される表1に挙げられるHCVRアミノ酸配列のいずれかを含む、HCVRとLCVRアミノ酸配列対(HCVR/LCVR)を含む、TrkBに特異的に結合する抗体またはその抗原結合フラグメントも提供する。ある種の実施形態によると、本発明は、表1に挙げられる典型的な抗TrkB抗体のいずれかに含有されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む抗
体またはその抗原結合フラグメントを提供する。
【0015】
従って、第1の態様において、本発明は、トロポミオシン受容体キナーゼB(TrkB)に特異的に結合する単離された抗体またはその抗原結合フラグメントであって、表1に記載のアミノ酸配列またはそれに対して少なくとも90%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列を有する3つの重鎖可変領域(HCVR)に含有される3つの重鎖相補性決定領域(CDR)(HCDR1、HCDR2、およびHCDR3);ならびに表1に記載のアミノ酸配列またはそれ対して少なくとも90%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列を有する軽鎖可変領域(LCVR)に含有される3つの軽鎖CDR(LCDR1、LCDR2、およびLCDR3)を含む、単離された抗体またはその抗原結合フラグメントを提供する。
【0016】
1つの実施形態において、抗TrkB抗体またはその抗原結合フラグメントは、
(a)アゴニスト抗体である特性;
(b)25℃または37℃において表面プラズモン共鳴により測定される約200nM未満のKDでヒトTrkBに結合する特性;
(c)25℃または37℃において表面プラズモン共鳴により測定される約10分よりも長い解離半減期(t1/2)でヒトTrkBに結合する特性;
(d)約35~82pMの範囲にあるEC50で、ヒトTrkBを発現するように操作された細胞において、脳由来神経栄養因子(BDNF)の非存在下で、ヒトTrkBシグナル伝達を活性化する特性;
(e)ヒトTrkB受容体についてホモ接合性である(TrkBhu/hu)マウスの海馬に注射した場合に、TrkBリン酸化を増強する特性;
(f)ヒトTrkB受容体についてホモ接合性である(TrkBhu/hu)マウスに注射した場合に、体重減少を促進する特性;
(g)ヒト化TrkBラットにおける視神経横断切断モデルにおいて評価される網膜神経節細胞(RGC)の生存を増大させる特性;
(h)MAPK/ERKおよびPI3K/Aktシグナル伝達経路を活性化する特性;
(i)インビトロにおいて神経細胞の生存を増大する特性;ならびに
(j)5nM未満のIC50で、TrkBのBDNFおよび/またはNT-4への結合を遮断する特性
からなる群より選択される1つまたはそれ以上の特性を示す。
【0017】
1つの実施形態において、本発明は、トロポミオシン受容体キナーゼB(TrkB)に特異的に結合する抗体またはその抗原結合フラグメントであって:(a)表1に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)の相補性決定領域(CDR);および(b)表1に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)のCDRを含む抗体またはその抗原結合フラグメントを提供する。
【0018】
1つの実施形態において、TrkBに特異的に結合する抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号2、18、34、49、59、および68からなる群より選択されるHCVR配列のいずれか1つ、またはそれに対して少なくとも90%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列に含有される3つの重鎖CDR(HCDR1、HCDR2、およびHCDR3)、ならびに配列番号10、26、42、53、63、および72からなる群より選択されるLCVR配列のいずれか1つ、またはそれに対して少なくとも90%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列に含有される3つの軽鎖CDR(LCDR1、LCDR2、およびLCDR3)を含む。
【0019】
1つの実施形態において、TrkBに特異的に結合する単離された抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号2、18、34、49、59、および68からなる群より
選択されるアミノ酸配列を有するHCVRを含む。
【0020】
1つの実施形態において、TrkBに特異的に結合する単離された抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号10、26、42、53、63、および72からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するLCVRを含む。
【0021】
1つの実施形態において、TrkBに特異的に結合する単離された抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号2、18、34、49、59、および68からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するHCVR、ならびに配列番号10、26、42、53、63、および72からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するLCVRを含む。
【0022】
1つの実施形態において、TrkBに特異的に結合する単離された抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号2/10、18/26、34/42、49/53、59/63、および68/72からなる群より選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対のCDRを含む。
【0023】
1つの実施形態において、TrkBに特異的に結合する単離された抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号2/10、18/26、および34/42からなる群より選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対のCDRを含む。
【0024】
1つの実施形態において、TrkBに特異的に結合する単離された抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号2/10、18/26、34/42、49/53、59/63、および68/72からなる群より選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む。
【0025】
1つの実施形態において、TrkBに特異的に結合する単離された抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号2/10、18/26、および34/42からなる群より選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む。
【0026】
本発明はまた、表1に挙げられるHCDR1アミノ酸配列のいずれか、またはそれに対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1(HCDR1)を含む、TrkBに特異的に結合する抗体またはその抗原結合フラグメントも提供する。
【0027】
本発明はまた、表1に挙げられるHCDR2アミノ酸配列のいずれか、またはそれに対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2(HCDR2)を含む、TrkBに特異的に結合する抗体またはその抗原結合フラグメントも提供する。
【0028】
本発明はまた、表1に挙げられるHCDR3アミノ酸配列のいずれか、またはそれに対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3(HCDR3)を含む、TrkBに特異的に結合する抗体またはその抗原結合フラグメントも提供する。
【0029】
本発明はまた、表1に挙げられるLCDR1アミノ酸配列のいずれか、またはそれに対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列から選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖
CDR1(LCDR1)を含む、TrkBに特異的に結合する抗体またはその抗原結合フラグメントも提供する。
【0030】
本発明はまた、表1に挙げられるLCDR2アミノ酸配列のいずれか、またはそれに対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列から選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2(LCDR2)を含む、TrkBに特異的に結合する抗体またはその抗原結合フラグメントも提供する。
【0031】
本発明はまた、表1に挙げられるLCDR3アミノ酸配列のいずれか、またはそれに対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列から選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3(LCDR3)を含む、TrkBに特異的に結合する抗体またはその抗原結合フラグメントも提供する。
【0032】
本発明はまた、表1に挙げられるLCDR3アミノ酸配列のいずれかと対形成される表1に挙げられるHCDR3アミノ酸配列のいずれかを含む、HCDR3とLCDR3アミノ酸配列対(HCDR3/LCDR3)を含む、TrkBに特異的に結合する抗体またはその抗原結合フラグメントも提供する。ある種の実施形態によると、本発明は、表1に挙げられる典型的な抗TrkB抗体のいずれかに含有されるHCDR3/LCDR3アミノ酸配列対を含む抗体またはその抗原結合フラグメントを提供する。ある種の実施形態において、HCDR3/LCDR3アミノ酸配列対は、8/16、24/32、40/48、52/56、62/66、および71/75からなる群より選択される。
【0033】
本発明はまた、表1に挙げられる典型的な抗TrkB抗体のいずれかに含有される6つのCDRのセット(すなわち、HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2、LCDR3)を含む、TrkBに特異的に結合する抗体またはその抗原結合フラグメントも提供する。ある種の実施形態において、HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2、LCDR3アミノ酸配列セットは:(a)配列番号4、6、8、12、14、16;(b)配列番号20、22、24、28、30、32;(c)配列番号36、38、40、44、46、48;(d)配列番号50、51、52、54、55、56;(e)配列番号60、61、62、64、65、66;および(f)配列番号69、70、71、73、74、75からなる群より選択される。
【0034】
関連する実施形態において、本発明は、表1に挙げられる典型的な抗TrkB抗体のいずれかにより定義される、HCVR/LCVRアミノ酸配列対に含有される6つのCDRのセット(すなわち、HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2、LCDR3)を含む、TrkBに特異的に結合する抗体またはその抗原結合フラグメントを提供する。例えば、本発明は、2/10、18/26、34/42、49/53、59/63、および68/72からなる群より選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対に含有されるHCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2、LCDR3アミノ酸配列セットを含む、TrkBに特異的に結合する抗体またはその抗原結合フラグメントを含む。HCVRおよびLCVRアミノ酸配列内のCDRを同定する方法および技術は、当該技術分野において周知であり、これを用いて、本明細書において開示される特定されたHCVRおよび/またはLCVRアミノ酸配列内のCDRを同定することができる。CDRの境界を同定するために用いられる典型的な慣例は、例えば、Kabat定義、Chothia定義、およびAbM定義を含む。一般的な用語において、Kabat定義は配列可変性に基づき、Chothia定義は、構造上のループ領域の位置に基づき、AbM定義は、KabatとChothiaのアプローチの間で妥協したものである。例えば、Kabat、「Sequences of Proteins of Immu
nological Interest」、National Institutes of Health、Bethesda、Md.(1991年);Al-Lazikaniら、J.Mol.Biol.273:927~948頁(1997年);およびMartinら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA86:9268~9272(1989年)を参照。公的データベースも、抗体内のCDR配列を同定するために利用可能である。
【0035】
1つの実施形態において、本発明は、TrkBに特異的に結合する単離された抗体またはその抗原結合フラグメントであって:
(a)配列番号4、20、36、50、60、および69からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するHCDR1ドメイン;
(b)配列番号6、22、38、51、61、および70からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するHCDR2ドメイン;
(c)配列番号8、24、40、52、62、および71からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するHCDR3ドメイン;
(d)配列番号12、28、44、54、64、および73からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するLCDR1ドメイン;
(e)配列番号14、30、46、55、65、および74からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するLCDR2ドメイン;ならびに
(f)配列番号16、32、48、56、66、および75からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するLCDR3ドメインを含む、単離された抗体またはその抗原結合フラグメントを提供する。
【0036】
1つの実施形態において、本発明は、TrkBに特異的に結合する単離された抗体またはその抗原結合フラグメントであって:
(a)配列番号4、20、および36からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するHCDR1ドメイン;
(b)配列番号6、22、および38からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するHCDR2ドメイン;
(c)配列番号8、24、および40からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するHCDR3ドメイン;
(d)配列番号12、28、および44からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するLCDR1ドメイン;
(e)配列番号14、30、および46からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するLCDR2ドメイン;ならびに
(f)配列番号16、32、および48からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するLCDR3ドメインを含む、単離された抗体またはその抗原結合フラグメントを提供する。
【0037】
1つの実施形態において、単離された抗体またはその抗原結合フラグメントは:
(a)配列番号4-6-8-12-14-16;(b)配列番号20-22-24-28-30-32;(c)配列番号36-38-40-44-46-48;(d)配列番号50-51-52-54-55-56;(e)配列番号60-61-62-64-65-66;および(f)配列番号69-70-71-73-74-75からなる群より選択される6つのCDRのセット(HCDR1-HCDR2-HCDR3-LCDR1-LCDR2-LCDR3)を含む。
【0038】
1つの実施形態において、TrkBに結合する単離された抗体またはその抗原結合フラグメントは、TrkBへの結合について参照抗体と競合する抗体またはその抗原結合フラグメントを含み、ここで、参照抗体は、配列番号2/10、18/26、34/42、4
9/53、59/63、および68/72からなる群より選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む。
【0039】
1つの実施形態において、TrkBに結合する単離された抗体またはその抗原結合フラグメントは、参照抗体と同一のエピトープに結合する抗体またはその抗原結合フラグメントを含み、ここで、参照抗体は、配列番号2/10、18/26、34/42、49/53、59/63、および68/72からなる群より選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む。
【0040】
1つの実施形態において、単離された抗体またはその抗原結合フラグメントは、25℃または37℃において表面プラズモン共鳴により測定される約300nM未満のKDでヒトTrkBに結合する。
【0041】
1つの実施形態において、単離された抗体またはその抗原結合フラグメントは、25℃または37℃において表面プラズモン共鳴により測定される約200nM未満のKDでヒトTrkBに結合する。
【0042】
1つの実施形態において、単離された抗体またはその抗原結合フラグメントは、25℃または37℃において表面プラズモン共鳴により測定される約150nM未満のKDでヒトTrkBに結合する。
【0043】
1つの実施形態において、単離された抗体またはその抗原結合フラグメントは、25℃または37℃において表面プラズモン共鳴により測定される約50nM未満のKDでヒトTrkBに結合する。
【0044】
1つの実施形態において、単離された抗体またはその抗原結合フラグメントは、25℃または37℃において表面プラズモン共鳴により測定される約100pM未満のKDでヒトTrkBに結合する。
【0045】
1つの実施形態において、単離された抗体またはその抗原結合フラグメントは、25℃または37℃において表面プラズモン共鳴により測定される約10分よりも長い解離半減期(t1/2)でヒトTrkBに結合する。
【0046】
1つの実施形態において、単離された抗体またはその抗原結合フラグメントは、25℃または37℃において表面プラズモン共鳴により測定される約40分よりも長いt1/2でヒトTrkBに結合する。
【0047】
1つの実施形態において、単離された抗体またはその抗原結合フラグメントは、25℃または37℃において表面プラズモン共鳴により測定される約120分よりも長いt1/2でヒトTrkBに結合する。
【0048】
1つの実施形態において、TrkBに結合する単離された抗体またはその抗原結合フラグメントは、約100pM未満のEC50で、TrkBを発現するように操作された細胞において、BDNFの非存在下で、ヒトTrkBシグナル伝達を活性化する。
【0049】
1つの実施形態において、TrkBに結合する単離された抗体またはその抗原結合フラグメントは、約35pM~約82pMの範囲にあるEC50で、TrkBを発現するように操作された細胞において、BDNFの非存在下で、ヒトTrkBシグナル伝達を活性化する。
【0050】
1つの実施形態において、TrkBに結合する単離された抗体またはその抗原結合フラグメントは、約100pM未満のEC50で、TrkBを発現するように操作された細胞において、BDNFの存在下で、ヒトTrkBシグナル伝達の活性化を増強する。
【0051】
1つの実施形態において、ヒト化TrkBマウスの海馬に注射した場合に、TrkBリン酸化の増加により示されるTrkB活性化を示す、TrkBに結合する単離された抗体またはその抗原結合フラグメント。
【0052】
1つの実施形態において、TrkBに結合する単離された抗体またはその抗原結合フラグメントは、初代マウス皮質ニューロンをアゴニスト抗TrkB抗体と共にインキュベートした後に示される、MAPK/ERKおよびPI3K/Aktシグナル伝達経路の活性化を示す。
【0053】
1つの実施形態において、TrkBに結合する単離された抗体またはその抗原結合フラグメントは、TrkBヒト化ラットにおける視神経横断切断モデルにおいて示される、網膜神経節細胞の生存を増強/増大させる。
【0054】
1つの実施形態において、TrkBに結合する単離された抗体またはその抗原結合フラグメントは、インビトロにおいて神経細胞の生存を増強/増大させる。
【0055】
1つの実施形態において、TrkBに結合する単離された抗体またはその抗原結合フラグメントは、ヒト化TrkBマウスにおいて体重減少を促進する。
【0056】
1つの実施形態において、TrkBに結合する単離された抗体またはその抗原結合フラグメントは、ヒト化TrkBマウスにおいて体脂肪量の減少を促進する。
【0057】
1つの実施形態において、TrkBに結合する単離された抗体またはその抗原結合フラグメントは、ヒト化TrkBマウスにおいて食物および水の摂取量の減少を促進する。
【0058】
1つの実施形態において、TrkBに結合する単離された抗体またはその抗原結合フラグメントは、ヒト化TrkBマウスにおける自発運動活動の増大を促進する。
【0059】
1つの実施形態において、本発明は、TrkBに特異的に結合し、約5nM未満のIC50でTrkBのBDNFへの結合を遮断する抗TrkB抗体またはその抗原結合フラグメントを提供する。
【0060】
1つの実施形態において、本発明は、TrkBに特異的に結合し、約500pM未満のIC50でTrkBのBDNFへの結合を遮断する抗TrkB抗体またはその抗原結合フラグメントを提供する。
【0061】
1つの実施形態において、本発明は、TrkBに特異的に結合し、約200pM未満のIC50でTrkBのBDNFへの結合を遮断する抗TrkB抗体またはその抗原結合フラグメントを提供する。
【0062】
第2の態様において、本発明は、抗TrkB抗体またはその部分をコードする核酸分子を提供する。例えば、本発明は、表1に挙げられるHCVRアミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子を提供し;ある種の実施形態において、核酸分子は、表2に挙げられるHCVR核酸配列のいずれか、またはそれに対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列から選択されるポリヌクレオチド配列を含む。
【0063】
本発明はまた、表1に挙げられるLCVRアミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子も提供し;ある種の実施形態において、核酸分子は、表2に挙げられるLCVR核酸配列のいずれか、またはそれに対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列から選択されるポリヌクレオチド配列を含む。
【0064】
本発明はまた、表1に挙げられるHCDR1アミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子も提供し;ある種の実施形態において、核酸分子は、表2に挙げられるHCDR1核酸配列のいずれか、またはそれに対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列から選択されるポリヌクレオチド配列を含む。
【0065】
本発明はまた、表1に挙げられるHCDR2アミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子も提供し;ある種の実施形態において、核酸分子は、表2に挙げられるHCDR2核酸配列のいずれか、またはそれに対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列から選択されるポリヌクレオチド配列を含む。
【0066】
本発明はまた、表1に挙げられるHCDR3アミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子も提供し;ある種の実施形態において、核酸分子は、表2に挙げられるHCDR3核酸配列のいずれか、またはそれに対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列から選択されるポリヌクレオチド配列を含む。
【0067】
本発明はまた、表1に挙げられるLCDR1アミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子も提供し;ある種の実施形態において、核酸分子は、表2に挙げられるLCDR1核酸配列のいずれか、またはそれに対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列から選択されるポリヌクレオチド配列を含む。
【0068】
本発明はまた、表1に挙げられるLCDR2アミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子も提供し;ある種の実施形態において、核酸分子は、表2に挙げられるLCDR2核酸配列のいずれか、またはそれに対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列から選択されるポリヌクレオチド配列を含む。
【0069】
本発明はまた、表1に挙げられるLCDR3アミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子も提供し;ある種の実施形態において、核酸分子は、表2に挙げられるLCDR3核酸配列のいずれか、またはそれに対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列から選択されるポリヌクレオチド配列を含む。
【0070】
本発明はまた、HCVRをコードする核酸分子も提供し、ここで、HCVRは、3つのCDRのセット(すなわち、HCDR1、HCDR2、HCDR3)を含み、ここで、HCDR1、HCDR2、HCDR3アミノ酸配列セットは、表1に挙げられる典型的な抗TrkB抗体のいずれかにより定義される通りである。
【0071】
本発明はまた、LCVRをコードする核酸分子も提供し、ここで、LCVRは、3つのCDRのセット(すなわち、LCDR1、LCDR2、LCDR3)を含み、ここで、L
CDR1、LCDR2、LCDR3アミノ酸配列セットは、表1に挙げられる典型的な抗TrkB抗体のいずれかにより定義される通りである。
【0072】
本発明はまた、HCVRおよびLCVR両方をコードする核酸分子も提供し、ここで、HCVRは、表1に挙げられるHCVRアミノ酸配列のいずれかのアミノ酸配列を含み、ここで、LCVRは、表1に挙げられるLCVRアミノ酸配列のいずれかのアミノ酸配列を含む。ある種の実施形態において、核酸分子は、表2に挙げられるHCVR核酸配列のいずれか、またはそれに対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列から選択されるポリヌクレオチド配列、および表2に挙げられるLCVR核酸配列のいずれか、またはそれに対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列から選択されるポリヌクレオチド配列を含む。本発明のこの態様によるある種の実施形態において、核酸分子は、HCVRおよびLCVRをコードし、ここで、HCVRおよびLCVRはいずれも、表1に挙げられる同一の抗TrkB抗体に由来する。
【0073】
第3の態様において、本発明は、抗TrkB抗体の重鎖または軽鎖可変領域を含むポリペプチドを発現する能力を有する組み換え発現ベクターを提供する。例えば、本発明は、上述の核酸分子、すなわち、表1に記載のHCVR、LCVR、および/またはCDR配列のいずれかをコードする核酸分子のいずれかを含む組み換え発現ベクターを含む。かかるベクターが導入される宿主細胞、ならびに抗体もしくは抗体フラグメントの産生が可能となる条件下で宿主細胞を培養すること、ならびにそのようにして産生される抗体および抗体フラグメントを回収することにより、抗体またはその部分を産生する方法もまた、本発明の範囲に含まれる。
【0074】
本発明は、修飾されたグリコシル化パターンを有する抗TrkB抗体を含む。ある実施形態において、不所望なグリコシル化部位を取り除くための修飾が有用であり得るか、または例えば、抗体依存性細胞傷害活性(ADCC)機能を増大させるために、オリゴ糖鎖上に存在するフコース部分を欠く抗体が有用であり得る(Shieldら(2002年)JBC277:26733頁を参照)。他の適用において、ガラクトシル化という修飾は、補体依存性細胞傷害(CDC)を修飾するために成される。
【0075】
第4の態様において、本発明は、TrkBに特異的に結合する少なくとも1つの本発明の抗体またはその抗原結合フラグメント、および薬学的に許容し得る担体を含む医薬組成物を提供する。
【0076】
関連する態様において、本発明は、抗TrkB抗体および第2の治療剤の組み合わせである組成物を特徴付ける。1つの実施形態において、第2の治療剤は、抗TrkB抗体と有利に併用される任意の薬剤である。第2の治療剤は、神経変性疾患または障害の少なくとも1つの症状を改善するのに有用であり得る。
【0077】
第5の態様において、本発明は、TrkBにより仲介される生物学的活性を増強するための方法であって、TrkBを生物学的有効量の表1のアゴニスト抗TrkB抗体と接触させること、またはTrkBを生物学的有効量の表1のアゴニスト抗TrkB抗体を含有する医薬組成物と接触させることを含む方法を提供する。
【0078】
ある種の実施形態において、生物学的活性は、神経細胞の保護または神経細胞の生存であり、神経細胞の保護または神経細胞の生存は、TrkBがアゴニスト抗TrkB抗体と接触すると増強される。
【0079】
ある種の実施形態において、生物学的活性は、神経保護および網膜神経節細胞(RGC)の生存である。
【0080】
第6の態様において、本発明は、本発明の抗TrkB抗体または抗体の抗原結合部分を用いて、TrkB活性もしくは発現に関連する疾患もしくは障害、またはその疾患もしくは障害に関連する少なくとも1つの症状を処置するための治療方法を提供する。本発明のこの態様による治療方法は、治療上有効量の、本発明の抗体または抗体の抗原結合フラグメントを含む医薬組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む。処置される障害は、TrkBを標的化することおよび/またはTrkBにより仲介される細胞シグナル伝達を活性化することにより、好転されるか、改善されるか、阻害されるか、または予防される、任意の疾患または状態である。
【0081】
1つの実施形態において、本発明の抗TrkB抗体は、網膜ニューロンの損傷または死を予防する方法を提供し得る。1つの実施形態において、本発明の抗TrkB抗体は、網膜の変性が生じる病理疾患を処置する方法を提供し得る。1つの実施形態において、本発明の抗TrkB抗体は、眼の手術、光への曝露、または他の環境的外傷の前または後に、生体の眼を処置し、それによって網膜細胞の変性を予防する方法を提供し得る。1つの実施形態において、本発明の抗TrkB抗体は、光受容体損傷および生体の眼の変性を予防する方法を提供し得る。1つの実施形態において、本発明の抗TrkB抗体は、可能性としてp75受容体などの他の受容体との交差反応性に起因する、副作用を誘導することなく、網膜ニューロンを保護する方法を提供し得る。1つの実施形態において、本発明の抗TrkB抗体は、損傷した光受容体が回復または再生することを可能にする方法を提供し得る。
【0082】
ある種の実施形態において、本発明の抗体で処置しようとする疾患または障害は、緑内障、糖尿病性網膜症、加齢性黄斑変性、虚血性視神経症、視神経炎、網膜虚血、光受容体変性、網膜色素変性、レーバー先天黒内障、レーバー依存性視神経萎縮症、アッシャー症候群、シュタルガルト病、および網膜動脈もしくは静脈閉塞からなる群より選択される、眼の疾患または障害である。
【0083】
本発明の1つまたはそれ以上の抗TrkB抗体で処置することができる他の病的状態は、網膜剥離、光性網膜症(photic retinopathy)、手術により誘導される網膜症(機械的もしくは光に誘導されるかのいずれか)、毒素性網膜症、未熟児の網膜症、CMVもしくはAIDSに関連するHIV網膜症などのウイルス性網膜症、ブドウ膜炎、静脈もしくは動脈閉塞または他の血管障害に起因する虚血性網膜症、外傷もしくは眼の浸透病変に起因する網膜症、末梢硝子体網膜症、または遺伝性網膜変性を含む。
【0084】
1つの実施形態において、本発明のアゴニスト抗TrkB抗体で処置しようとする眼の疾患または障害は、緑内障である。
【0085】
本発明の第7の態様は、対象において体重の低減を達成するための方法であって、表1のTrkBアゴニスト抗体、または抗体もしくはその抗原結合フラグメントを含む医薬組成物を、対象に投与することを含む方法を提供する。
【0086】
関連する態様において、本発明は、対象において体脂肪量の低減を達成するための方法であって、表1のTrkBアゴニスト抗体、または抗体もしくはその抗原結合フラグメントを含む医薬組成物を、対象に投与することを含む方法を提供する。
【0087】
本発明の第8の態様は、対象において神経細胞の生存を促進する方法であって、治療上有効量の表1のTrkBアゴニスト抗体、または治療上有効量の抗体もしくはその抗原結
合フラグメントを含む医薬組成物を、対象に投与することを含む方法を提供する。
【0088】
1つの実施形態において、上で記載された方法は、アゴニスト抗TrkB抗体またはその抗原結合フラグメントを、それを必要とする対象に投与することによって達成することができ、ここで、アゴニスト抗TrkB抗体は、表1に記載のアミノ酸配列またはそれに対して少なくとも90%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列を有する重鎖可変領域(HCVR)に含有される3つの重鎖相補性決定領域(CDR)(HCDR1、HCDR2、およびHCDR3)、ならびに表1に記載のアミノ酸配列またはそれに対して少なくとも90%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列を有する軽鎖可変領域(LCVR)に含有される3つの軽鎖CDR(LCDR1、LCDR2、およびLCDR3)を含む。
【0089】
1つの実施形態において、本発明の方法は、本発明のアゴニストTrkB抗体を投与することによって達成することができ、ここで、抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号2、18、34、49、59、および68からなる群より選択されるHCVR配列のいずれか1つ、またはそれに対して少なくとも90%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列に含有される3つの重鎖CDR(HCDR1、HCDR2、およびHCDR3)、ならびに配列番号10、26、42、53、63、および72からなる群より選択されるLCVR配列のいずれか1つ、またはそれに対して少なくとも90%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列に含有される3つの軽鎖CDR(LCDR1、LCDR2、およびLCDR3)を含む。
【0090】
1つの実施形態において、抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号2、18、34、49、59、および68からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するHCVRを含む。
【0091】
1つの実施形態において、抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号10、26、42、53、63、および72からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するLCVRを含む。
【0092】
1つの実施形態において、抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号2、18、34、49、59、および68からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するHCVR、ならびに配列番号10、26、42、53、63、および72からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するLCVRを含む。
【0093】
1つの実施形態において、抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号2/10、18/26、34/42、49/53、59/63、および68/72からなる群より選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対のCDRを含む。
【0094】
1つの実施形態において、抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号2/10、18/26、34/42、49/53、59/63、および68/72からなる群より選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む。
【0095】
1つの実施形態において、抗体またはその抗原結合フラグメントは:
(a)配列番号4、20、36、50、60、および69からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するHCDR1ドメイン;
(b)配列番号6、22、38、51、61、および70からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するHCDR2ドメイン;
(c)配列番号8、24、40、52、62、および71からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するHCDR3ドメイン;
(d)配列番号12、28、44、54、64、および73からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するLCDR1ドメイン;
(e)配列番号14、30、46、55、65、および74からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するLCDR2ドメイン;ならびに
(f)配列番号16、32、48、56、66、および75からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するLCDR3ドメインを含む。
【0096】
1つの実施形態において、抗体またはその抗原結合フラグメントは:(a)配列番号4-6-8-12-14-16;(b)配列番号20-22-24-28-30-32;(c)配列番号36-38-40-44-46-48;(d)配列番号50-51-52-54-55-56;(e)配列番号60-61-62-64-65-66;および(f)配列番号69-70-71-73-74-75からなる群より選択される6つのCDRのセット(HCDR1-HCDR2-HCDR3-LCDR1-LCDR2-LCDR3)を含む。
【0097】
1つの実施形態において、本発明の抗TrkB抗体で処置しようとする疾患または障害は、肥満、および肥満から生じる任意の併発症である。
【0098】
TrkB活性または発現に関連する任意の疾患または障害は、本発明の抗体での処置に適していることが想定される。これらの疾患は、神経変性状態におけるものまたは神経損傷の後など、細胞の変性が明らかである任意の疾患を含み得る。
【0099】
他の実施形態は、次の詳細な説明の記載から明らかになるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【
図1】TRKBアゴニスト抗体H4H9816P2またはアイソタイプ対照抗体の海馬への直接的な注射の1時間後、4時間後、および18時間後における、ホモ接合性ヒト化TRKBマウスにおける総TRKBレベルおよびホスホ-TRKBレベルを評価するウエスタンブロットを示す図である。
【
図2】TrkBアゴニスト抗体H4H9816P2が、MAPK/ERKおよびPI3K/Aktの下流経路を活性化したことを示す図である。この図は、出生後1日目のホモ接合性ヒト化TRKB仔マウスから単離した初代皮質ニューロンを種々のTrkBアゴニスト抗体またはBDNFで処置した15分後および2時間後における、ホスホ-TrkB、総TrkB、ホスホ-Akt、総AKT、ホスホ-ERK、および総ERKのウエスタンブロットを示す。
【
図3】3つのTrkBアゴニスト抗体が、インビトロにおいてSH-SY5Y細胞の生存を用量依存的に増加させたことを示す図である。アイソタイプ対照抗体は、細胞生存に影響を有さなかった。
【
図4】TrkB
hu/huマウスおよび野生型マウスにおける抗TrkBアゴニスト抗体H4H9816P2の薬物動態プロファイルを示す図である。マウスには、0日目に、10mg/kgの単回皮下用量を投与した。血清中の総H4H9816P2の濃度を、Gyrosイムノアッセイを用いて測定した。投薬の6時間後、1日後、2日後、3日後、6日後、9日後、16日後、21日後、および30日後におけるデータ点は、抗体の平均濃度を示す。H4H9816P2の総抗体濃度は、TrkB
hu/huマウスについては黒色の実線円として表し、野生型マウスについては黒色の実線四角形として表す。データは、平均±標準偏差としてプロットした。
【
図5】抗マウスTrkBモノクローナル抗体がマウスまたはラットのTrkBとそのリガンドであるBDNF(脳由来神経栄養因子)との間の相互作用を遮断する能力を示す、
図5Aおよび5Bからなる図である。ELISAに基づく方法を用いて、ある濃度範囲の抗マウスTrkBモノクローナル抗体およびアイソタイプ対照モノクローナル抗体の存在下において、マウスTrkB.hFc(2つのグラフのある
図5A)およびラットTrkB.mmh(2つのグラフのある
図5B)の、BDNFでコートしたプレートへの結合を評価した。挿入図(2つのグラフのある
図5A)は、マウスTrkB.hFc(REGN2277)のBDNFへの結合の用量応答曲線を780pMのEC
50値と共に示す。挿入図(2つのグラフのある
図5B)は、ラットTrkB.mmh(REGN1808)のBDNFへの結合の用量応答曲線を2.2nMのEC
50値と共に示す。モル濃度(M)は、モノクローナル抗体の抗体濃度を示す。エラーバーは、標準偏差を表す。
【発明を実施するための形態】
【0101】
本発明が記載される前に、本発明は、記載される特定の方法および実験条件に制限されず、方法および条件自体が変動することは理解されるべきである。本明細書において用いられる専門用語は、特定の実施形態を記載する目的のためのみであることも理解されるべきであり、本発明の範囲は、添付の請求項によってのみ制限されるので、制限であることは意図されない。
【0102】
別段定義されない限り、本明細書において用いられる全ての技術および科学用語は、本発明が属する当業者により一般的に理解されるのと同一の意味を有する。本明細書において用いられる用語「約」は、特定の引用される数値を参照して用いられる場合、その値が、1%を上回ることなしに、引用された値から変動し得ることを意味する。例えば、本明細書において用いられる表現「約100」は、99および101、ならびにその間の全ての値(例えば、99.1、99.2、99.3、99.4など)を含む。
【0103】
本明細書において記載されるものと類似または同等な任意の方法および材料が、本発明の実施または試験において用いられるが、好ましい方法および材料がここで記載される。本明細書において言及される全ての特許、出願、および非特許刊行物は、参照によってその全体として本明細書に組み入れられる。
【0104】
定義
「トロポミオシン受容体キナーゼB」としても知られている「TrkB」などの表現は、受託番号NP_001018074.1のアミノ酸残基32から430に記載のアミノ酸配列を含むヒト受容体(別の種に由来すると指定されていない限り)を指す。myc-myc-ヘキサヒスチジンタグを含有するヒトTrkBは、配列番号76として示される(アミノ酸残基1~399がヒトTrkBであり、アミノ酸残基400~427がmyc-myc-ヘキサヒスチジンタグである)。ヒトTrkBタンパク質を含有する他のフォーマットは、マウスFc領域(残基400~632)を有するヒトTrkB(残基1~399)である配列番号77、およびヒトFc領域(残基400~626)を有するヒトTrkB(残基1~399)である配列番号78を含め、本明細書に記載されている。マウスTrkBは、受託番号NP_001020245のアミノ酸残基32から429に記載されているアミノ酸配列を含む。myc-myc-ヘキサヒスチジンタグを含有するマウスTrkBは、配列番号79として示される(アミノ酸残基1~398がマウスTrkBであり、アミノ酸残基399~426がmyc-myc-ヘキサヒスチジンタグである)。マウスTrkBタンパク質を含有する他のフォーマットは、マウスFc領域(残基399~631)を有するマウスTrkB(残基1~398)である配列番号80、およびヒトFc領域(残基399~625)を有するマウスTrkB(残基1~398)である配列番号81を含め、本明細書に記載されている。ウサギTrkBは、受託番号XP_002721319.1のアミノ酸残基32から430に記載のアミノ酸配列を含む。myc-myc-ヘキサヒスチジンタグを含有するウサギTrkBは、配列番号82として示される(アミノ酸残基1~399がウサギTrkBであり、アミノ酸残基400~427がmyc-myc-ヘキサヒスチジンタグである)。ウサギTrkBタンパク質を含有する他のフォーマットは、マウスFc領域(残基400~632)を有するウサギTrkB(
残基1~399)である配列番号83を含め、本明細書に記載されている。ラットTrkBは、受託番号NP_036863.1のアミノ酸残基32から429に記載のアミノ酸配列を含む。myc-myc-ヘキサヒスチジンタグを含有するラットTrkBは、配列番号84として示される(アミノ酸残基1~398がラットTrkBであり、アミノ酸残基399~426がmyc-myc-ヘキサヒスチジンタグである)。ラットTrkBタンパク質を含有する他のフォーマットは、マウスFc領域(残基399~631)を有するラットTrkB(残基1~398)である配列番号85を含め、本明細書に記載されている。アカゲザル(マカク・マラッタ(Macaca mulatta))TrkBは、配列番号95として示され(受託番号NP_001248226.1のアミノ酸32から838)、カニクイザル(マカク・ファシクラリス(Macaca fascicularis))TrkBは、配列番号9
6として示される(受託番号XP_005582102.1のアミノ酸32から838)。
【0105】
ヒト「TrkA」タンパク質は、配列番号86として示され、アミノ酸1~375がTrkAであり(V263L、C300Sを有する受託番号NP_001012331.1のアミノ酸34~414)、アミノ酸376~378がGPGリンカーであり、アミノ酸379~605がヒトFcである。
【0106】
ヒト「TrkC」タンパク質は、配列番号87として示され、アミノ酸1~398がTrkCであり(受託番号NP_001012338.1のアミノ酸32~429)、アミノ酸399~426がmyc-myc-hisタグである。
【0107】
マウス「TrkC」タンパク質は、配列番号88として示され、アミノ酸1~398がTrkCであり(受託番号NP_032772.3のアミノ酸32~429)、アミノ酸399~426がmyc-myc-hisタグである。
【0108】
カニクイザル「TrkC」タンパク質は、配列番号89として示され、アミノ酸1~398がTrkCであり(受託番号XP_015308837.1のアミノ酸32~429)、アミノ酸399~426がmyc-myc-hisタグである。
【0109】
ある種の例において、TrkBタンパク質の外部ドメインならびに膜貫通型および細胞質ドメインを含む、TrkBタンパク質を発現する細胞株を調製した。例えば、配列番号91は、受託番号NP_001018074.1のアミノ酸32~822)またはUniprot Q16620-1に含有される3つ全てのドメインを含有するヒトTrkBタンパク質であり、アミノ酸1~398が外部ドメインであり、膜貫通型/細胞質領域は、アミノ酸残基約399~790により定義される。1つの例において、マウスTrkB(受託番号NP_032771.1のアミノ酸32~476、配列番号92も参照)を発現するTrkB細胞株を調製した。別の例において、受託番号NP_001020245.1のアミノ酸32~429(配列番号93も参照)またはUniprot番号P15209-1に由来するマウスTrkBの外部ドメイン、ならびにヒトTrkB膜貫通型および細胞質ドメイン(受託番号NP_001018074.1のアミノ酸431~822(配列番号91も参照))を有するキメラTrkBタンパク質を発現する細胞株を調製した。アフリカミドリザル(クロロセブス・サベウス(Chlorocebus sabaeus))TrkB(受
託番号XP_007967815.1のアミノ酸32~822(配列番号94も参照))を発現する細胞株もまた、調製した。
【0110】
用語「脳由来神経栄養因子」または「BDNF」は、TrkBのリガンドを指し、BDNFのアミノ酸配列は、配列番号90に示される(アイソフォームA 1~120、受託番号NP_733928.1のアミノ酸129~247、MetがN末端に付加されている)。本明細書に記載されるある種の実験において、BDNFの供給源は、R & D
Systems、248-BD/CFである。
【0111】
本明細書におけるタンパク質、ポリペプチド、およびタンパク質フラグメントへの参照は全て、非ヒト種に由来することが明示的に示されない限り、それぞれのタンパク質、ポリペプチド、またはタンパク質フラグメントのヒトバージョンを指すことを意図している。従って、表現「TrkB」は、非ヒト種に由来すること、例えば、「サルTrkB」、「マウスTrkB」、「ラットTrkB」などであることが示されない限り、ヒトTrkBを意味する。
【0112】
本明細書において用いられる表現「抗TrkB抗体」は、単一の特異性を有する1価の抗体、ならびにTrkBに結合する第1のアームおよび第2の(標的)抗原に結合する第2のアームを含み、抗TrkBアームが、本明細書において表1に記載のHCVR/LCVRまたはCDR配列のいずれかを含む、二重特異性抗体の両方を含む。表現「抗TrkB抗体」はまた、薬物または毒素(すなわち、細胞毒性剤)に結合した抗TrkB抗体またはその抗原結合部分を含む抗体-薬物複合体(ADC)も含む。表現「抗TrkB抗体」はまた、放射性核種に結合した抗TrkB抗体またはその抗原結合部分を含む抗体-放射性核種複合体(ARC)も含む。
【0113】
本明細書において用いられる用語「抗TrkB抗体」は、TrkBまたはTrkBの一部分に特異的に結合するかまたはそれと相互作用する少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含む、任意の抗原結合分子または分子複合体を意味する。用語「抗体」は、ジスルフィド結合により相互結合された2つの重(H)鎖および2つの軽(L)鎖である4つのポリペプチド鎖を含む免疫グロブリン分子、ならびにその多量体(例えば、IgM)を含む。それぞれの重鎖は、重鎖可変領域(本明細書においてHCVRまたはVHと略される)および重鎖定常領域を含む。重鎖定常領域は、CH1、CH2、およびCH3の3つのドメインを含む。それぞれの軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書においてLCVRまたはVLと略される)および軽鎖定常領域を含む。軽鎖定常領域は、1つのドメイン(CL1)を含む。VHおよびVL領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保存される領域が散在した相補性決定領域(CDR)と呼ばれる、高頻度可変性の領域にさらに細分される。それぞれのVHならびにVLは、次の順序:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4でアミノ末端からカルボキシ末端まで配置された、3つのCDRおよび4つのFRを含む。本発明の異なる実施形態において、抗TrkB抗体(もしくはその抗原結合部分)のFRは、ヒト生殖系列配列と同一であるか、または天然または人工的に修飾される。アミノ酸連続配列は、2つまたはそれ以上のCDRの隣り合った解析に基づき定義される。
【0114】
本明細書において用いられる用語「抗体」は、全長抗体分子の抗原結合フラグメントも含む。本明細書において用いられる用語、抗体の「抗原結合部分」、抗体の「抗原結合フラグメント」などは、任意の酵素的に得られる、合成された、または遺伝子操作された、抗原に特異的に結合して複合体を形成するポリペプチドまたは糖タンパク質を含む。抗体の抗原結合フラグメントは、例えば、タンパク質分解消化、または抗体可変ドメインおよび場合により定常ドメインをコードするDNAの操作および発現を伴う組み換え遺伝子操作技術のような任意の適切な標準的技術を用いて、完全抗体分子から得ることができる。かかるDNAは公知であり、および/または例えば、市販の供給源、DNAライブラリー(例えば、ファージ-抗体ライブラリーを含む)から容易に入手可能であるか、もしくは合成することができる。DNAは、配列決定され、化学的に、または分子生物学技術を用いることにより操作されて、例えば、1つもしくはそれ以上の可変および/もしくは定常ドメインが適切な配置に配置されるか、またはコドンが導入されるか、システイン残基が作製されるか、アミノ酸が修飾されるか、付加されるか、もしくは欠損される。
【0115】
抗原結合フラグメントの非限定的な例は、(i)Fabフラグメント、(ii)F(ab’)2フラグメント、(iii)Fdフラグメント、(iv)Fvフラグメント、(v)一本鎖Fv(scFv)分子、(vi)dAbフラグメント、および(vii)抗体の超可変領域を模倣するアミノ酸残基からなる最小認識単位(例えば、CDR3ペプチドのような単離された相補決定領域(CDR))、または限定されたFR3-CDR3-FR4ペプチドを含む。ドメイン特異的抗体、単一ドメイン抗体、ドメインが欠損した抗体、キメラ抗体、CDRが移植された抗体、二重特異性抗体、三重特異性抗体、四重特異性抗体、ミニボディ、ナノボディ(例えば、1価のナノボディ、2価のナノボディなど)、小モジュラー免疫薬(SMIP)、およびサメ可変IgNARドメインのような他の操作された分子もまた、本明細書において用いられる、表現「抗原結合フラグメント」に包含される。
【0116】
抗体の抗原結合フラグメントは、少なくとも1つの可変ドメインを典型的に含む。可変ドメインは、任意のサイズまたはアミノ酸組成であり、少なくとも1つのCDRを一般的に含み、1つまたはそれ以上のフレームワーク配列に隣接されるか、もしくはインフレームである。VLドメインと繋がったVHドメインを有する抗原結合フラグメントにおいて、VHおよびVLドメインは、任意の適切な配置で相対的に位置する。例えば、可変領域は、二量体であり、VH-VH、VH-VL、またはVL-VLの二量体を含有する。あるいは、抗体の抗原結合フラグメントは、単量体VHまたはVLドメインを含有する。
【0117】
ある種の実施形態において、抗体の抗原結合フラグメントは、少なくとも1つの定常ドメインに共有結合した少なくとも1つの可変ドメインを含有する。本発明の抗体の抗原結合フラグメント内に見出される可変ドメインおよび定常ドメインの非限定的な典型的配置は、(i)VH-CH1;(ii)VH-CH2;(iii)VH-CH3;iv)VH-CH1-CH2;(v)VH-CH1-CH2-CH3;(vi)VH-CH2-CH3;(vii)VH-CL;(viii)VL-CH1;(ix)VL-CH2;(x)VL-CH3;(xi)VL-CH1-CH2;(xii)VL-CH1-CH2-CH3;(xiii)VL-CH2-CH3;および(xiv)VL-CLを含む。上で挙げられる典型的な配置のいずれかを含む、可変および定常ドメインの任意の配置において、可変ならびに定常ドメインは、互いに直接的に結合されるか、または完全もしくは部分的ヒンジもしくはリンカー領域により結合されるか、のいずれかである。ヒンジ領域は、少なくとも2個(例えば、5個、10個、15個、20個、40個、60個、またはそれ以上)のアミノ酸からなり、単一のポリペプチド分子における隣接する可変および/または定常ドメイン間の可動性または半可動性の結合をもたらす。さらに、本発明の抗体の抗原結合フラグメントは、(例えば、ジスルフィド結合による)互いにおよび/または1つもしくはそれ以上の単量体VHもしくはVLドメインと非共有結合的に会合した、上で挙げられた可変ならびに定常ドメインの配置のいずれかのホモ-二量体またはヘテロ-二量体(または他の多量体)を含む。
【0118】
全長抗体分子と同様に、抗原結合フラグメントは、単特異性または多特異性(例えば、二重特異性)である。抗体の多特異性抗原結合フラグメントは、少なくとも2つの異なる可変ドメインを典型的には含み、ここで、それぞれの可変ドメインは、別々の抗原、または同一抗原上の異なるエピトープに特異的に結合する能力がある。本明細書において開示される典型的な二重特異性抗体フォーマットを含む、任意の多特異性抗体フォーマットは、当該技術分野において利用可能な慣例的技術を用いて、本発明の抗体の抗原結合フラグメントの文脈において使用するために適合される。
【0119】
ある種の例において、例えば、例として神経腫瘍細胞の成長または増殖を阻害するために、TrkBと拮抗することが望ましい場合がある。しかしながら、本発明の抗体は、アゴニスト抗体として作用し、これは、神経細胞の生存のエンハンサーおよび神経保護剤と
しての機能を果たす。本発明の抗体は、TrkBとそのリガンドであるBDNFとの間の相互作用を増強することによって機能し得る。あるいは、本発明の抗体は、TrkBのそのリガンドとの相互作用を増強することを含まないメカニズムを通じて、TrkBシグナル伝達を仲介することができる。
【0120】
本明細書において用いられる用語「ヒト抗体」は、天然に存在しないヒト抗体を含むことが意図される。この用語は、非ヒト哺乳類において、または非ヒト哺乳類の細胞において、組み換え的に産生される抗体を含む。用語は、ヒト対象から単離された、またはヒト対象において生じた抗体を含むことは意図されない。
【0121】
本発明の抗体は、ある実施形態において、組み換えおよび/または天然に存在しない、ヒト抗体であり得る。本明細書において用いられる用語「組み換えヒト抗体」は、宿主細胞にトランスフェクトした組み換え発現ベクターを用いて発現された抗体(以下にさらに記載される)、組み換えコンビナトリアルヒト抗体ライブラリーから単離された抗体(以下にさらに記載される)、ヒト免疫グロブリン遺伝子に関してトランスジェニックである動物(例えば、マウス)から単離された抗体(例えば、Taylorら(1992年) Nucl. Acids Res. 20:6287~6295頁を参照)、またはヒト免疫グロブリン遺伝子配列を他のDNA配列にスプライシングすることを含む任意の他の手段によって調製、発現、作製、もしくは単離された抗体など、組み換え手段によって調製、発現、作製、または単離された全てのヒト抗体を含むことが意図される。ある種の実施形態において、かかる組み換えヒト抗体は、インビトロ変異誘発(またはヒトIg配列に関してトランスジェニックな動物が用いられる場合には、インビボでの体細胞変異誘発)に供され、これによって、組み換え抗体のVH領域およびVL領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖系列VHおよびVL配列に関連するが、インビボでヒト抗体生殖系列レパートリー内には天然に存在し得ない配列となる。
【0122】
ヒト抗体は、ヒンジの不均一性に関連付けられた2つの形態で存在し得る。1つの形態において、免疫グロブリン分子は、二量体が重鎖の鎖間ジスルフィド結合によって一緒に保持されている、およそ150~160kDaの安定な四本鎖構築物を含む。第2の形態において、二量体は、鎖間ジスルフィド結合によって結合されず、共有結合した軽鎖および重鎖で構成される約75~80kDaの分子が形成される(半抗体)。これらの形態は、親和性精製後であっても、分離することが極めて困難であった。
【0123】
種々のインタクトなIgGアイソタイプにおける第2の形態の出現頻度は、抗体のヒンジ領域のアイソタイプに関連する構造的違いに起因するが、これに限定されない。ヒトIgG4ヒンジのヒンジ領域における単一のアミノ酸置換は、第2の形態の出現を、ヒトIgG1ヒンジを用いて典型的に観察されるレベルまで、有意に低減することができる(Angalら(1993年) Molecular Immunology 30:105頁)。本発明は、ヒンジ領域、CH2領域、またはCH3領域に1つまたはそれ以上の変異を有する抗体を包含し、これは、例えば、産生時に、所望される抗体形態の収率を好転させるために望ましい可能性がある。
【0124】
用語「特異的に結合する」または「に特異的に結合する」などは、抗体もしくはその抗原結合フラグメントが、生理的条件下で比較的安定である抗原との複合体を形成することを意味する。特異的結合は、少なくとも約1×10-6Mまたはそれよりも低い平衡解離定数によって特徴付けることができる(例えば、KDが小さいほど、より強固な結合を示す)。2つの分子が特異的に結合するかどうかを決定する方法は、当該技術分野において周知であり、例えば、平衡透析、表面プラズモン共鳴などを含む。本明細書において記載される通り、TrkBに特異的に結合する抗体は、表面プラズモン共鳴、例えば、BIACORE(商標)により同定されている。さらに、TrkBタンパク質および1つもしく
はそれ以上のさらなる抗原に結合する多特異性抗体、またはTrkBの2つの異なる領域に結合する二重特異性抗体は、それにもかかわらず、本明細書において用いられる「特異的に結合する」抗体とみなされる。
【0125】
本発明の抗体は、単離された抗体であり得る。本明細書において用いられる「単離された抗体」は、同定されており、その天然の環境の少なくとも1つの成分から分離および/または回収されている抗体を意味する。例えば、生物の少なくとも1つの成分から、または抗体が天然に存在するかもしくは天然に産生される組織もしくは細胞から、分離されているかまたは取り出されている抗体は、本発明の目的で、「単離された抗体」である。単離された抗体はまた、組み換え細胞内のインサイチュの抗体を含む。単離された抗体は、少なくとも1つの精製または単離工程に供されている抗体である。ある種の実施形態によると、単離された抗体は、他の細胞材料および/または化学物質を実質的に含まなくてもよい。
【0126】
本明細書において開示される抗TrkB抗体は、重鎖および軽鎖可変ドメインのフレームワークおよび/またはCDR領域における1つまたはそれ以上のアミノ酸置換、挿入および/または欠損を含む。かかる変異は、本明細書において開示されるアミノ酸配列を、例えば、公開抗体配列データベースから入手可能な配列と比較することにより、容易に確認することができる。一旦得られると、1つまたはそれ以上の変異を含有する抗体および抗原結合フラグメントは、結合特異性の好転、結合親和性の増大、アンタゴニストもしくはアゴニスト生物学的特性の好転または増強(場合によっては)、免疫原性の低減などのような1つまたはそれ以上の所望の特性について容易に試験することができる。この一般的な方法において得られる抗体および抗原結合フラグメントは、本発明に包含される。
【0127】
本発明はまた、1つもしくはそれ以上の保存的置換を有する、本明細書において開示されるHCVR、LCVR、および/またはCDRアミノ酸配列のいずれかの変異体を含む抗TrkB抗体も含む。例えば、本発明は、例えば、本明細書において表1に記載されるHCVR、LCVR、および/もしくはCDRアミノ酸配列のいずれかに関連する10もしくはそれ以下、8つもしくはそれ以下、6つもしくはそれ以下、4つもしくはそれ以下などの保存的アミノ酸置換を有する、HCVR、LCVR、ならびに/またはCDRアミノ酸配列を有する抗TrkB抗体を含む。
【0128】
用語「エピトープ」は、パラトープとしても公知の抗体分子の可変領域における特異的抗原結合部位と相互作用する、抗原決定因子を指す。単一の抗原は、1つより多くのエピトープを有する。従って、異なる抗体は、抗原上の異なる範囲に結合し、異なる生物学的作用を有する。エピトープは、立体構造であってもよく、または直線状であってもよい。立体構造エピトープは、直線状ポリペプチド鎖の異なるセグメントのアミノ酸が空間的に並置されることによって産生される。直線状エピトープは、ポリペプチド鎖における隣接するアミノ酸残基によって産生されるものである。ある種の状況において、エピトープは、抗原上の糖の部分、リン酸基、またはスルホニル基を含み得る。
【0129】
核酸もしくはそのフラグメントに言及している場合、用語「実質的な同一性」または「実質的に同一の」は、適切なヌクレオチド挿入または欠損を伴うかたちで別の核酸(もしくはその相補鎖)と最適に整列されると、以下で考察される通り、FASTA、BLAST、またはGapのような、配列同一性の任意の周知のアルゴリズムにより測定される、少なくとも約95%、より好ましくは、少なくとも約96%、97%、98%、または99%のヌクレオチド塩基のヌクレオチド配列同一性が存在することを示す。参照核酸分子に対する実質的な同一性を有する核酸分子は、ある種の例において、参照核酸分子によりコードされるポリペプチドと同一または実質的に類似のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする。
【0130】
ポリペプチドに適用される場合、用語「実質的な類似性」または「実質的に類似の」は、2つのペプチド配列が、例えば、デフォルトギャップウェイトを用いたプログラムGAPまたはBESTFITにより、最適に整列されると、少なくとも95%の配列同一性、なおより好ましくは、少なくとも98%、または99%の配列同一性を共有することを意味する。好ましくは、残基位置は、同一でなく、保存的アミノ酸置換により異なる。「保存的アミノ酸置換」は、アミノ酸残基が、類似の化学的特性(例えば、電荷または疎水性)を有する側鎖(R基)を有する別のアミノ酸残基により置換されているものである。一般に、保存的アミノ酸置換は、タンパク質の機能的特性を実質的に変化させない。2つまたはそれ以上のアミノ酸配列が、保存的置換により互いに異なる場合において、パーセント配列同一性または類似性の程度は、置換の保存的性質を補正するよう上方調節される。この調節を成す手段は、当業者に周知である。例えば、Pearson(1994年)Methods Mol.Biol.24:307~331頁を参照(参照によって本明細書に組み入れられる)。類似の化学的特性を有する側鎖を有するアミノ酸の群の例は、(1)脂肪族側鎖:グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、およびイソロイシン;(2)脂肪族-ヒドロキシル側鎖:セリン、およびスレオニン;(3)アミド含有側鎖:アスパラギン、およびグルタミン;(4)芳香族側鎖:フェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファン;(5)塩基性側鎖:リジン、アルギニン、およびヒスチジン;(6)酸性側鎖:アスパラギン酸塩、およびグルタミン酸塩、ならびに(7)硫黄含有側鎖はシステイン、およびメチオニンである、を含む。好ましい保存的アミノ酸置換基は:バリン-ロイシン-イソロイシン、フェニルアラニン-チロシン、リジン-アルギニン、アラニン-バリン、グルタミン酸塩-アスパラギン酸塩、およびアスパラギン-グルタミンである。あるいは、保存的置換は、Gonnetら(1992年)Science256:1443~1445頁(参照によって本明細書に組み入れられる)において開示されるPAM250対数尤度行列において正の値を有する任意の変化である。「中程度の保存的」置換は、PAM250対数尤度行列において負でない値を有する任意の変化である。
【0131】
配列同一性とも称される、ポリペプチドの配列類似性は、配列解析ソフトウェアを用いて典型的に測定される。タンパク質解析ソフトウェアは、保存的アミノ酸置換を含む、様々な置換、欠損、および他の修飾に割り当てられる類似性の測定を用いて、類似の配列を一致させる。例えば、GCGソフトウェアは、生物の異なる種由来の相同な諸ポリペプチドの間、または野生型タンパク質とその変異タンパク質の間のような、密接に関連するポリペプチド間の配列相同性または配列同一性を決定するためのデフォルトパラメーターで用いられるGapおよびBestfitのようなプログラムを含む。例えば、GCG Version 6.1を参照。ポリペプチド配列はまた、デフォルトまたは推奨パラメーターを用いたFASTA;GCG Version 6.1におけるプログラムを用いても比較される。FASTA(例えば、FASTA2、およびFASTA3)は、クエリーと検索配列の間の最適オーバーラップの領域の整列化およびパーセント配列同一性をもたらす(上記、Pearson(2000年))。本発明の配列を、異なる生物由来の多数の配列を含有するデータベースと比較する上での別の好ましいアルゴリズムは、デフォルトパラメーターを用いた、コンピュータープログラムBLAST、特に、BLASTPまたはTBLASTNである。例えば、Altschulら(1990年)J.Mol.Biol.215:403~410頁、およびAltschulら(1997年)Nucleic Acids Res.25:3389~402頁を参照(それぞれが、参照によって本明細書に組み入れられる)。
【0132】
抗体の生物学的特徴
本発明は、25℃または37℃において表面プラズモン共鳴により測定される約200nM未満のKDでヒトTrkBに結合する抗TrkB抗体を含む。ある種の実施形態によると、本発明は、約600pM未満、約300pM未満、約200pM未満、約150p
M未満、約100pM未満、約80pM未満、約50pM未満、約40pM未満、約30pM未満、約20pM未満、約10pM未満、約5pM未満、約3pM未満、または約1pM未満のKDでヒトTrkBに結合する抗TrkB抗体を含む。
【0133】
本発明は、25℃または37℃において表面プラズモン共鳴により測定される約10分を上回る解離半減期(t1/2)でヒトTrkBに結合する抗TrkB抗体を含む。ある種の実施形態によると、本発明は、約20分よりも長い、約50分よりも長い、約100分よりも長い、約120分よりも長い、約150分よりも長い、約300分よりも長い、約350分よりも長い、約400分よりも長い、約450分よりも長い、約500分よりも長い、約550分よりも長い、約600分よりも長い、約700分よりも長い、約800分よりも長い、約900分よりも長い、約1000分よりも長い、約1100分、または約1200分よりも長いt1/2でヒトTrkBに結合する抗TrkB抗体を含む。
【0134】
本発明は、サルTrkB、またはマウスもしくはラットTrkBに結合する場合もしない場合もある抗TrkB抗体を含む。本明細書において用いられる場合、抗体が、表面プラズモン共鳴などの抗原結合アッセイにおいて試験した場合に、約1000nMより大きいKDを示すか、またはかかるアッセイにおいていずれの抗原結合も示さない場合、抗体は、特定の抗原(例えば、サル、マウス、またはラットTrkB)に「結合しない」。本明細書のこの態様により、抗体が特定の抗原に結合するかしないかを決定するために用いることができる別のアッセイフォーマットは、ELISAである。
【0135】
本発明は、約100pM未満のEC50で、TrkB受容体を発現するように操作された細胞においてヒトTrkBシグナル伝達を活性化する抗TrkB抗体を含む。実施例5に記載されるアッセイフォーマットまたは実質的に類似のアッセイフォーマットを用いて、EC50値は、TrkBにより仲介されるシグナル伝達を観察されるシグナルの半最大値まで活性化するのに必要とされる抗体の濃度として計算することができる。それ故、ある種の実施形態によると、本発明は、本明細書において実施例5に記載されるアッセイフォーマットまたは実質的に類似のアッセイを用いて測定される、約500pM未満、約400pM未満、約300pM未満、約200pM未満、約100pM未満、約90pM未満、約80pM未満、約70pM未満、約60pM未満、約50pM未満、約40pM未満、約30pM未満、約20pM未満、約10pM未満、または約5pM未満のEC50で、BDNFの存在下または非存在下で、TrkB受容体を発現するように操作された細胞においてヒトTrkBシグナル伝達を仲介する抗TrkB抗体を含む。
【0136】
本発明は、実施例6において示されるように、ヒトTrkB受容体を発現するようにヒト化されたマウスにおいて海馬への直接的な注射の後に、TrkBリン酸化によって示されるように、TrkB受容体を活性化する抗TrkB抗体を含む。
【0137】
本発明は、ヒトTrkB受容体を発現するようにヒト化されたマウスにおいて体重減少を促進する抗TrkB抗体を含む。本発明の抗体はまた、これらのマウスにおいて体脂肪量の減少を促進し、自発運動活動を増大させ、同時に食物および水の摂取量を減少させるように機能する(実施例7を参照)。
【0138】
本発明の抗体は、ヒトTrkB受容体を発現するようにヒト化されたラットにおいて、視神経横断切断モデルにおいて試験した場合、網膜神経節細胞(RGC)の生存を促進する。実施例8を参照。
【0139】
本発明の抗体は、ヒト化TrkBマウスから得られた初代マウス皮質ニューロンの本発明の抗体への曝露によって示されるように、下流経路MAPK/ERKおよびPI3K/Aktを活性化する。(実施例9を参照)。
【0140】
本発明のアゴニスト抗TrkB抗体はまた、実施例10において示されるように、用量依存性様式でSH-SY5Y細胞の生存を促進する。
【0141】
本発明は、約5nMのIC50でTrkBのBDNFへの結合を遮断する抗TrkB抗体を含む。例えば、実施例12において示されるように、試験した3つ全ての抗体は、マウスまたはラットTrkBのBDNFへの結合を、50%を上回って遮断した。実施例12に記載されるアッセイフォーマットまたは実質的に類似のアッセイフォーマットを用いて、IC50値は、抗体の非存在下において観察される最大シグナルと比較した場合に、TrkBのBDNFへの結合を遮断するのに必要とされる抗体の濃度として計算することができる。それ故、ある種の実施形態によると、本発明は、本明細書において実施例12に記載されるアッセイフォーマットまたは実質的に類似のアッセイを用いて測定される、約5nM未満、約4nM未満、約3nM未満、約2nM未満、約1nM未満、約900pM未満、約800pM未満、約700pM未満、約600pM未満、約500pM未満、約400pM未満、約300pM未満、約200pM未満、約100pM未満、約90pM未満、約80pM未満、約70pM未満、約60pM未満、約50pM未満、約40pM未満、約30pM未満、または約20pM未満のIC50で、TrkBのBDNFへの結合を遮断する抗TrkB抗体を含む。1つの実施形態において、本発明のTrkB抗体は、約180pM~約4nMの範囲にあるIC50で、TrkBのBDNFへの結合を遮断する。
【0142】
本発明の抗体の結合特徴(例えば、本明細書において上で言及されている結合特徴のいずれか)は、「表面プラズモン共鳴により測定される」に関して開示される場合、抗体と抗原との間の相互作用に関する関連する結合特徴が、表面プラズモン共鳴機器(例えば、Biacore(登録商標)機器、GE Healthcare)を用いて、本明細書において実施例3および4に説明されている標準的なBiacoreアッセイ条件または実質的に類似のアッセイフォーマットを用いて測定されることを意味する。ある種の実施形態において、結合パラメーターは、25℃で測定されるが、他の実施形態においては、結合パラメーターは、37℃で測定される。
【0143】
本発明は、TrkBに特異的に結合する抗体またはその抗原結合フラグメントであって、表1に挙げられるHCVRおよび/またはLCVRアミノ酸配列のいずれかから選択されるアミノ酸配列を含むHCVRおよび/またはLCVRを含む抗体またはその抗原結合フラグメントを含む。
【0144】
本発明の抗体は、前述の生物学的特徴のうちの1つもしくはそれ以上、または任意のその組み合わせを有する。本発明の抗体の生物学的特徴の前述の一覧は、排他的であることを意図するものではない。本発明の抗体の他の生物学的特徴は、本明細書における実施例を含む本開示の説明から当業者に明白であろう。
【0145】
エピトープマッピングおよび関連技術
本発明の抗体が結合するエピトープは、TrkBタンパク質の3個またはそれ以上(例えば、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個、もしくはそれ以上)のアミノ酸の単一の連続配列からなる。あるいは、エピトープは、TrkBの複数の非連続アミノ酸(またはアミノ酸配列)からなる。ある実施形態において、エピトープは、TrkBの表面上またはその付近に、例えば、そのリガンドであるBDNFと相互作用するドメインに位置する。他の実施形態において、エピトープは、TrkBリガンドと相互作用しないTrkBの表面上またはその付近に、例えば、抗体が、かかるエピトープに結合したときに、TrkBとそのリガンドとの間の相互作用を妨害しない、TrkBの表面上の位置
に、位置する。
【0146】
当業者に公知の種々の技術を用いて、抗体が、ポリペプチドもしくはタンパク質内の「1個またはそれ以上のアミノ酸と相互作用する」かどうかを決定することができる。典型的な技術は、例えば、Antibodies、Harlow and Lane(Cold Spring Harbor Press、Cold Spring Harb.、NY)において記載されるもののような、慣例的交差-遮断アッセイ、アラニンスキャンニング変異解析、ペプチドブロット解析(Reineke、2004年、Methods
Mol Biol 248:443~463頁)、およびペプチド切断解析を含む。加えて、抗原のエピトープ切除、エピトープ抽出、および化学修飾のような方法が利用される(Tomer、2000年、Protein Science 9:487~496頁)。抗体が相互作用するポリペプチド内のアミノ酸を同定するために用いられる別の方法は、質量分析により検出される水素/ジュウテリウム交換である。一般的な用語において、水素/ジュウテリウム交換方法は、目的のタンパク質をジュウテリウム標識すること、続いて、抗体をジュウテリウムで標識されたタンパク質に結合させることを含む。次に、タンパク質/抗体複合体を、水に移し、抗体により保護される残基(これはジュウテリウム標識されたままとなる)以外の全ての残基で水素-ジュウテリウム交換が起こるようにする。抗体の解離後、標的タンパク質は、タンパク質分解酵素切断および質量分析に供され、それにより、抗体が相互作用する特異的アミノ酸に対応するジュウテリウムで標識された残基が明らかにされる。例えば、Ehring (1999年) Analytical Biochemistry 267(2):252~259頁、EngenおよびSmith(2001年) Anal. Chem. 73:256A~265A頁を参照。
【0147】
本発明は、本明細書に記載される特定の典型的な抗体(例えば、本明細書において表1に記載のアミノ酸配列のいずれかを含む抗体)のいずれかと同一のエピトープに結合する抗TrkB抗体を含む。同様に、本発明は、TrkBへの結合について、本明細書に記載される特定の典型的な抗体(例えば、本明細書において表1に記載のアミノ酸配列のいずれかを含む抗体)のいずれかと競合する抗TrkB抗体も含む。
【0148】
当該技術分野において公知であり本明細書において例示される慣例的方法を用いることにより、抗体が、参照抗TrkB抗体と同一のエピトープに結合するか、または結合について参照抗TrkB抗体と競合するかどうかを容易に決定することができる。例えば、試験抗体が、本発明の参照抗TrkB抗体と同一のエピトープに結合するかを決定するために、参照抗体をTrkBタンパク質に結合させることを可能にする。次に、試験抗体がTrkB分子に結合する能力が評価される。試験抗体は、参照抗TrkB抗体との飽和結合後にTrkBに結合することができるなら、試験抗体は、参照抗TrkB抗体より異なるエピトープに結合すると結論付けることができる。他方、試験抗体は、参照抗TrkB抗体との飽和結合後にTrk分子に結合することができないなら、次に、試験抗体は、本発明の参照抗TrkB抗体により結合されるエピトープと同一のエピトープに結合する。次に、さらなる慣例的実験(例えば、ペプチド変異および結合解析)を行い、試験抗体の結合の観察された欠如が、事実上、参照抗体と同一のエピトープへの結合に起因するかどうか、または立体的遮断(もしくは別の現象)が、観察された結合の欠如の原因であるかどうかを確認される。この選別の実験は、ELISA、RIA、Biacore、フローサイトメトリー、または当該技術分野において利用可能な任意の他の定量的もしくは定性的抗体結合アッセイを用いて行われる。本発明のある種の実施形態によると、例えば、1倍、5倍、10倍、20倍、または100倍過剰の一方の抗体が、競合的結合アッセイにおいて測定した場合に、他方の結合を、少なくとも50%阻害するが、好ましくは、75%、90%、またはさらには99%阻害する場合、2つの抗体は、同一の(または重複する)エピトープに結合する(例えば、Junghansら、Cancer Res.199
0年50:1495~1502頁を参照)。あるいは、一方の抗体の結合を低減または除去する抗原における本質的に全てのアミノ酸変異が、他方の結合を低減または除去する場合、2つの抗体は同一のエピトープに結合するとみられる。一方の抗体の結合を低減または除去するアミノ酸変異のサブセットのみが、他方の結合を低減または除去する場合、2つの抗体は「重複するエピトープ」を有する。
【0149】
抗体が、結合について参照抗TrkB抗体と競合するかを決定するために、上で記載された結合方法論は、2つの方針で行われる。第1の方針において、参照抗体を、飽和条件下でTrkBタンパク質に結合させることを可能にし、続いて、試験抗体のTrkB分子への結合が評価される。第2の方針において、試験抗体を、飽和条件下でTrkB分子に結合させることを可能にし、続いて、参照抗体のTrkB分子への結合が評価される。両方の方針において、第1の(飽和)抗体のみが、TrkB分子に結合する能力があるなら、次に、試験抗体と参照抗体は、TrkBへの結合について競合すると結論付けられる(例えば、本明細書において実施例4に記載されるアッセイフォーマットを参照されたく、ここでは、TrkBタンパク質をセンサーチップに捕捉し、TrkBでコートしたセンサーチップを、参照抗体[mAb-1]および試験抗TrkB抗体[mAb-2]で逐次的および両方の結合順序で処置する)。当業者により理解される通り、結合について参照抗体と競合する抗体は、参照抗体と一致するエピトープに必ずしも結合しないが、重複または隣接するエピトープに結合することにより、参照抗体の結合を立体的に遮断する。
【0150】
ヒト抗体の調製
本発明の抗TrkB抗体は、完全ヒトであるが非天然である抗体であり得る。完全ヒトモノクローナル抗体を含むモノクローナル抗体を作製するための方法は、当該技術分野において公知である。任意のかかる公知の方法を、本発明の文脈において用いて、ヒトTrkBに特異的に結合するヒト抗体が作られる。
【0151】
VELOCIMMUNE(登録商標)技術(例えば、US6,596,541、Regeneron Pharmaceuticals、VELOCIMMUNE(登録商標))、またはモノクローナル抗体を作製する任意の他の公知の方法を用いて、ヒト可変領域およびマウス定常領域を有する、アレルゲンに対する高親和性キメラ抗体が、まず単離される。VELOCIMMUNE(登録商標)技術は、マウスが、抗原刺激に応答して、ヒト可変領域およびマウス定常領域を含む抗体を産生するように、内在性マウス定常領域部位に作動可能に結合したヒト重鎖および軽鎖可変領域を含むゲノムを有する遺伝子導入マウスの作製に関与する。抗体の重鎖および軽鎖の可変領域をコードするDNAが単離され、ヒト重鎖および軽鎖定常領域をコードするDNAに作動可能に結合される。次に、DNAは、完全ヒト抗体を発現する能力がある細胞において発現される。
【0152】
一般的に、VELOCIMMUNE(登録商標)マウスを、目的の抗原でチャレンジし、リンパ系細胞(例えば、B細胞)を、抗体を発現するマウスから回収する。リンパ系細胞を、ミエローマ細胞株と融合させて、不死化ハイブリドーマ細胞株を調製し、かかるハイブリドーマ細胞株をスクリーニングおよび選択して、目的の抗原に特異的な抗体を産生するハイブリドーマ細胞株を同定する。重鎖および軽鎖の可変領域をコードするDNAを単離し、所望されるアイソタイプの重鎖および軽鎖の定常領域に連結させることができる。かかる抗体タンパク質を、CHO細胞などの細胞において産生させることができる。あるいは、抗原特異的キメラ抗体または軽鎖および重鎖の可変ドメインをコードするDNAを、抗原特異的リンパ球から直接的に単離してもよい。
【0153】
以下の実験の節に記載される通り、ヒト可変領域およびマウス定常領域を有する単離された高親和性キメラ抗体を、親和性、選択性、エピトープなどを含む、望ましい特徴について特徴付けおよび選択する。マウス定常領域を、次に、所望されるヒト定常領域と置き
換えて、本発明の完全ヒト抗体、例えば、野生型または修飾されたIgG1またはIgG4を生成する。選択される定常領域は、具体的な使用に応じて変動し得るが、高親和性の抗原結合および標的特異性の特徴は、可変領域に存在する。
【0154】
ある種の実施形態において、ヒトTrkB受容体を発現するように操作されたマウスまたはラットにおいて抗ヒトTrkB抗体を試験することが望ましい場合がある。これらのマウスまたはラットは、抗TrkB抗体が、ヒトTrkBにのみ結合し、マウスまたはラットTrkBとは交差反応しない状況において、有益であり得る。本発明におけるある種の実施例は、ヒトtrkBを発現するように遺伝子修飾されたマウスおよびラットを用いて実行した。当業者に公知の任意の方法を、かかるTrkBヒト化マウスおよびラットを生成するために用いることができる。
【0155】
一般的に、本発明の抗体は、非常に高い親和性を有し、典型的には、固相または液相のいずれかに固定された抗原への結合により測定した場合、約10-12~約10-9MのKDを有する。
【0156】
生物学的等価物
本発明の抗TrkB抗体および抗体フラグメントは、記載される抗体のものと異なるが、ヒトTrkBに結合する能力を保持する、アミノ酸配列を有するタンパク質を包含する。かかる変異体抗体および抗体フラグメントは、親配列と比較された場合、アミノ酸の1つまたはそれ以上の付加、欠失、または置換を含むが、記載される抗体のものと実質的に等価物である生物学的活性を示す。同様に、本発明のDNA配列をコードする抗TrkB抗体は、開示される配列と比較された場合、ヌクレオチドの1つまたはそれ以上の付加、欠失、または置換を含むが、本発明の抗TrkB抗体または抗体フラグメントに実質的な生物学的等価物である抗TrkB抗体または抗体フラグメントをコードする配列を含む。かかるバリアントアミノ酸およびDNA配列の例は、上で考察されている。
【0157】
2つの抗原結合タンパク質、または抗体は、例えば、吸収の速度および程度が、類似の実験条件下で同一のモル用量、単回用量もしくは複数回用量いずれかで投与される場合、有意な相違を示さない医薬等価物もしくは医薬代替物であるなら、生物学的等価物とみなされる。ある抗体は、その吸収の程度において等価物であるが、その吸収の速度において等価物でないなら、等価物または医薬代替物とみなされ、かかる吸収の速度における相違が意図的であり、標識において反映され、例えば、慢性的使用の際の有効な身体薬物濃度の到達に必須ではなく、研究される特定の薬物製品にとって医薬的に有意でないとみなされるので、生物学的等価物であると依然みなされる。
【0158】
1つの実施形態において、2つの抗原結合タンパク質の安全性、純度、および有効性において臨床上有意義な相違はないなら、2つの抗原結合タンパク質は生物学的等価物である。
【0159】
1つの実施形態において、2つの抗原結合タンパク質は、患者が、切り替えることなく継続される療法と比較して、免疫原性における臨床上有意な変化、もしくは損なわれた効能を含む副作用のリスクの増大を予期せずに、参照産物と生物学的産物の間で1回またはそれ以上切り替えられるなら、生物学的等価物である。
【0160】
1つの実施形態において、2つの抗原結合タンパク質は、それら両方が、使用の条件もしくは複数の条件についての作用の通常のメカニズムまたは複数のメカニズムにより、かかるメカニズムが公知である限り、作用するなら、生物学的等価物である。
【0161】
生物学的等価物は、インビボおよびインビトロの方法により実証される。生物学的等価
物の測定は、例えば、(a)抗体もしくはその代謝産物の濃度が、血液、血漿、血清、もしくは他の生物学的体液において時間の関数として測定される、ヒトまたは他の哺乳類におけるインビボ試験;(b)ヒトインビボバイオアベイラビリティデータと相関し、それを十分に予測するインビトロ試験;(c)抗体(もしくはその標的)の適切な急性薬理作用が、時間の関数として測定される、ヒトまたは他の哺乳類におけるインビボ試験;および(d)抗体の安全性、効能(efficacy)、もしくはバイオアベイラビリティもしくは生物学的均等性を確立する、十分に制御された臨床試験、を含む。
【0162】
本発明の抗TrkB抗体の生物学的等価物は、例えば、残基もしくは配列の種々の置換を成すこと、または生物学的活性のため必要とされない末端もしくは内部残基もしくは配列を欠損させることにより、構築される。例えば、生物学的活性に必須でないシステイン残基は、欠損されるか、または他のアミノ酸で置換されて、再生の際に不必要または不正確な分子内ジスルフィド架橋の形成が防止される。他の文脈において、生物学的等価物抗体は、アミノ酸変更を含む抗TrkB抗体変異体を含み、抗体のグリコシル化特徴、例えば、グリコシル化を除去するか、または取り除く変異を修飾する。
【0163】
種選択性および種交差反応性
本発明は、ある種の実施形態によると、ヒトTrkBに結合するが、他の種に由来するTrkBには結合しない抗TrkB抗体を提供する。本発明はまた、ヒトTrkBに、および1つまたはそれ以上の非ヒト種に由来するTrkBに結合する抗TrkB抗体を含む。例えば、本発明の抗TrkB抗体は、ヒトTrkBに結合し得るが、場合に応じて、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、アレチネズミ、ブタ、ネコ、イヌ、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ウマ、ラクダ、カニクイザル、マーモセット、アカゲザル、またはチンパンジーのTrkBのうちの1つまたはそれ以上に結合する場合も結合しない場合もある。本発明のある種の典型的な実施形態によると、ヒトTrkBに特異的に結合するが、マウスまたはラットTrkBには結合しないか、またはわずかにのみ結合する抗TrkB抗体が、提供される。
【0164】
多特異性抗体
本発明の抗体は、単特異性または多特異性(例えば、二重特異性)である。多特異性抗体は、1つの標的ポリペプチドの異なるエピトープに特異的であるか、または1つより多くの標的ポリペプチドに特異的な抗原結合ドメインを含有する。例えば、Tuttら、1991年、J.Immunol.147:60~69頁、Kuferら、2004年、Trends Biotechnol.22:238~244頁を参照。本発明の抗TrkB抗体は、別の機能性分子、例えば、別のペプチドまたはタンパク質に結合するか、またはそれと共発現される。例えば、抗体またはそのフラグメントは、第2の結合特異性を有する二重特異性もしくは多特異性抗体を作り出すための別の抗体もしくはそのフラグメントのような、1つまたはそれ以上の他の分子実体に、(例えば、化学的架橋結合、遺伝子融合、非共有結合的会合、またはその他により)機能的に結合される。
【0165】
本発明は、二重特異性抗体であって、免疫グロブリンの一方のアームが、ヒトTrkBに結合し、免疫グロブリンの他方のアームが、第2の抗原に特異的である、二重特異性抗体を含む。TrkBに結合するアームは、本明細書において表1に記載のHCVR/LCVRまたはCDRアミノ酸配列のいずれかを含み得る。
【0166】
本発明の文脈において用いられる典型的な二重特異性抗体フォーマットは、第1の免疫グロブリン(Ig)CH3ドメイン、および第2のIg CH3ドメインの使用を含み、ここで、第1および第2のIg CH3ドメインは、少なくとも1個のアミノ酸により互いに異なり、ここで、少なくとも1個のアミノ酸相違が、アミノ酸相違を欠く二重特異性抗体と比較して、タンパク質Aへの二重特異性抗体の結合を低減する。1つの実施形態に
おいて、第1のIg CH3ドメインは、タンパク質Aに結合し、第2のIg CH3ドメインは、H95R修飾(IMGTエキソンナンバリングによる;EUナンバリングによりH435R)のようなタンパク質A結合を低減するか、または消失させる、変異を含有する。第2のCH3は、Y96F修飾(IMGTによる;EUによりY436F)をさらに含む。第2のCH3内で見出されるさらなる修飾は:IgG1抗体の場合において、D16E、L18M、N44S、K52N、V57M、ならびにV82I(IMGTによる;EUにより、D356E、L358M、N384S、K392N、V397M、およびV422I);IgG2抗体の場合において、N44S、K52N、ならびにV82I(IMGT;EUにより、N384S、K392N、およびV422I);ならびにIgG4抗体の場合において、Q15R、N44S、K52N、V57M、R69K、E79Q、ならびにV82I(IMGTによる;EUにより、Q355R、N384S、K392N、V397M、R409K、E419Q、およびV422I)を含む。上で記載された二重特異性抗体フォーマットにおけるバリエーションは、本発明の範囲内であると考えられる。
【0167】
本発明の文脈において用いられる他の典型的な二重特異性フォーマットは、限定されることなく、例えば、scFv-ベースもしくは二重特異性抗体二重特異性フォーマット、IgG-scFv融合体、二重可変ドメイン(DVD)-Ig、クアドローマ、knobs-into-holes、共通軽鎖(例えば、knobs-into-holesを有する共通軽鎖など)、CrossMab、CrossFab、(SEED)body、ロイシンジッパー、Duobody、IgG1/IgG2、二重作用Fab(DAF)-IgG、ならびにMab2二重特異性フォーマットを含む(例えば、前述のフォーマットの説明のため、Kleinら、2012年、mAbs4:6、1~11頁、およびそこで引用される参考文献を参照)。二重特異性抗体はまた、ペプチド/核酸結合を用いても構築され、例えば、ここで、直交性化学反応性(orthogonal chemical reactivity)を有する非天然のアミノ酸を用いて、部位特異的抗体-オリゴヌクレオチド結合を生じ、次に、規定された組成、原子価、および幾何学を有する多量体複合体に自己アセンブルする(例えば、Kazaneら、J.Am.Chem.Soc.[Epub:2012年12月4日]を参照)。
【0168】
治療製剤および投与
本発明は、本発明の抗TrkB抗体またはその抗原結合フラグメントを含む医薬組成物を提供する。本発明の医薬組成物は、適切な担体、賦形剤、または輸送、デリバリー、寛容の好転などをもたらす他の薬剤と共に製剤化される。多数の適切な製剤は、全ての医薬化学者に公知の処方書:Remington’s Pharmaceutical Sciences、Mack Publishing Company、Easton、PAにおいて見出される。これらの製剤は、例えば、粉末、ペースト、軟膏、ジェル、ワックス、油、脂質、脂質(陽イオンまたは陰イオン)含有ベシクル(例えば、LIPOFECTIN(商標)、Life Technologies、Carlsbad、CA)、DNA結合体、無水吸収ペースト、水中油型および油中水型エマルジョン、エマルジョンカルボワックス(種々の分子量のポリエチレングリコール)、半固体ジェル、ならびにカルボワックスを含有する半固体混合物を含む。Powellら、「Compendium of excipients for parenteral formulations」PDA(1998年)J Pharm Sci Technol52:238~311頁も参照。
【0169】
患者に投与される抗体の用量は、患者の年齢およびサイズ、標的疾患、状態、投与経路などに依存して変動する。好ましい用量は、典型的に、体重または体表面積に応じて計算される。成人患者の場合には、本発明の抗体を、通常、体重1kg当たり約0.01~約20mg、より好ましくは体重1kg当たり約0.02~約7、約0.03~約5、また
は約0.05~約3mgの単回用量で静脈内投与することが有利であり得る。状態の重症度に依存して、処置の頻度および持続時間は調節される。抗TrkB抗体を投与するのに有効な投薬量およびスケジュールは、経験的に決定され、例えば、患者の進行を、周期的な評価によりモニターし、必要に応じて用量を調節することができる。さらに、当該技術分野において周知の方法を用いて投薬量の種間増減を行ってもよい(例えば、Mordentiら、1991年、Pharmaceut. Res. 8:1351頁)。
【0170】
種々のデリバリーシステムが公知であり、これを用いて、本発明の医薬組成物、例えば、リポソームにおけるカプセル封入、微粒子、マイクロカプセル、変異ウイルスを発現する能力がある組み換え細胞、受容体により仲介されるエンドサイトーシスが投与される(例えば、Wuら、1987年、J.Biol.Chem.262:4429~4432頁を参照)。導入の方法は、硝子体内、眼内、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内、硬膜外、および経口経路を含むが、これらに限定されない。組成物は、任意の好都合な経路により、例えば、注入もしくはボーラス注射により、上皮もしくは皮膚粘膜裏層(例えば、経口粘膜、直腸、および腸粘膜など)を通じた吸収により、投与され、他の生物学的に活性な剤と一緒に投与される。投与は全身または局所である。
【0171】
本発明の医薬組成物は、標準的な針およびシリンジで皮下または静脈内にデリバリーされる。加えて、皮下デリバリーに関して、ペンデリバリー装置は、本発明の医薬組成物のデリバリーにおいて容易に適用される。かかるペンデリバリー装置は、再利用可能であるか、または使い捨てである。再利用可能なペンデリバリー装置は、医薬組成物を含有する置換可能なカートリッジを一般に利用する。カートリッジ内の医薬組成物の全てが投与されると、カートリッジは空になり、空のカートリッジは容易に廃棄され、医薬組成物を含有する新しいカートリッジで置き換えられる。次に、ペンデリバリー装置は再利用される。使い捨てのペンデリバリー装置には、置換可能なカートリッジは存在しない。むしろ、使い捨てのペンデリバリー装置は、装置内のリザーバーにおいて保持される医薬組成物が予め充填される。リザーバーは、医薬組成物が空になると、全体の装置は廃棄される。
【0172】
多数の再利用可能なペン、および自動注射デリバリー装置は、本発明の医薬組成物の皮下デリバリーにおいて適用される。例は、AUTOPEN(商標)(Owen Mumford、Inc.、Woodstock、UK)、DISETRONIC(商標)ペン(Disetronic Medical Systems、Bergdorf、Switzerland)、HUMALOG MIX75/25(商標)ペン、HUMALOG(商標)ペン、HUMALIN70/30(商標)ペン(Eli Lilly and Co.、Indianapolis、IN)、NOVOPEN(商標)I、II、およびIII(Novo Nordisk、Copenhagen、Denmark)、NOVOPEN JUNIOR(商標)(Novo Nordisk、Copenhagen、Denmark)、BD(商標)ペン(Becton Dickinson、Franklin Lakes、NJ)、OPTIPEN(商標)、OPTIPEN PRO(商標)、OPTIPEN STARLET(商標)、ならびにOPTICLIK(商標)(sanofi-aventis、Frankfurt、Germany)(2、3例のみを挙げる)を含むが、これらに限定されない。本発明の医薬組成物の皮下デリバリーにおいて適用される、使い捨てのペンデリバリー装置の例は、SOLOSTAR(商標)ペン(sanofi-aventis)、FLEXPEN(商標)(Novo Nordisk)、およびKWIKPEN(商標)(Eli Lilly)、SURECLICK(商標)Autoinjector(Amgen、Thousand Oaks、CA)、PENLET(商標)(Haselmeier、Stuttgart、Germany)、EPIPEN(Dey、L.P.)、ならびにHUMIRA(商標)ペン(Abbott Labs、Abbott Park、IL)(2、3例のみを挙げる)を含むが、これらに限定されない。
【0173】
ある種の状況において、医薬組成物は、制御放出システムにおいてデリバリーされる。1つの実施形態において、ポンプが用いられる(Langer(上記)、Sefton、1987年、CRC Crit. Ref. Biomed. Eng. 14:201頁を参照)。別の実施形態において、ポリマー材料が用いられ、Medical Applications of Controlled Release、Langer and Wise (eds.)、1974年、CRC Pres., Boca Raton, Floridaを参照。なお別の実施形態において、制御放出システムは、組成物の標的の近くに置かれ、従って、少量の全身性用量ののみが必要とされる(例えば、Goodson、1984年、in Medical Applications of Controlled Release、上記、2巻、115~138頁を参照)。他の制御放出システムは、Langer、1990年、Science 249:1527-1533頁による説明において考察されている。
【0174】
注射可能な調製物は、静脈内、硝子体内、眼内、皮下、皮内、および筋内注射用形態、点滴注入用形態などを含む。これらの注射可能な調製物は、公的に公知の方法により調製される。例えば、注射可能な調製物は、例えば、注射のため通常用いられる無菌の水性媒体もしくは油性媒体において、上で記載された抗体またはその塩を溶解、懸濁、または乳化することにより、調製される。注射用水性媒体として、例えば、生理的食塩水、グルコースを含有する等調溶液、および他の補助剤などが存在し、アルコール(例えば、エタノール)、多価アルコール(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン性界面活性剤[例えば、ポリソルベート80、HCO-50(硬化ヒマシ油のポリオキシエチレン(50mol)付加物)]などのような適切な溶解剤と併用で用いられる。油性媒体として、例えば、ゴマ油、大豆油などが利用され、安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどのような溶解剤と併用して用いられる。従って、調製される注射は、適切なアンプルに好ましく充填される。
【0175】
有利には、上で記載された経口または非経口使用用医薬組成物は、有効成分の用量に適合するよう適した単位用量における投薬形態に調製される。単位用量におけるかかる投薬形態は、例えば、錠剤、ピル、カプセル剤、注射(アンプル剤)、坐剤などを含む。含有される前述の抗体の量は、一般に、単位用量において;特に、注射の形態において1つの投薬形態当たり約5~約500mg、他の投薬形態のため約5~約100mg、および約10~約250mgの前述の抗体が含有されることが好ましい。
【0176】
抗体の治療上の使用
本発明は、それを必要とする対象に、抗TrkB抗体(例えば、本明細書において表1に記載のHCVR/LCVRまたはCDR配列のいずれかを含む抗TrkB抗体)を含む治療組成物を投与することを含む方法を含む。治療組成物は、本明細書において開示される抗TrkB抗体またはその抗原結合フラグメントのいずれか1つまたはそれ以上、ならびに薬学的に許容し得る担体または希釈剤を含み得る。
【0177】
本発明の抗体は、とりわけ、TrkB発現または活性に関連するかまたはそれにより仲介される任意の疾患または障害の処置、予防、および/または改善に有用である。本発明のTrkBアゴニスト抗体は、神経機能を好転させるために用いることができ、細胞変性により、特に、神経細胞の損傷または神経細胞の変性により部分的に特徴付けられる、任意の疾患または状態、例えば、急性神経系損傷または慢性神経変性疾患を処置または予防するために用いることができる。
【0178】
本発明は、眼の疾患または障害の処置または予防を、かかる処置を必要とする患者に、本明細書の他の箇所に開示される抗TrkB抗体またはその抗原結合フラグメントを投与
することにより行う、方法を含む。
【0179】
1つの実施形態において、本発明の抗TrkB抗体は、網膜ニューロンの損傷または死を予防する方法を提供し得る。1つの実施形態において、本発明の抗TrkB抗体は、網膜の変性が生じる病理疾患を処置する方法を提供し得る。1つの実施形態において、本発明の抗TrkB抗体は、眼の手術、光への曝露、または他の環境的外傷の前または後に、眼を処置し、それによって網膜細胞の変性を予防する方法を提供し得る。1つの実施形態において、本発明の抗TrkB抗体は、光受容体損傷および眼の変性を予防する方法を提供し得る。1つの実施形態において、本発明の抗TrkB抗体は、副作用を誘導することなく、網膜ニューロンを保護する方法を提供し得る。1つの実施形態において、本発明の抗TrkB抗体は、損傷した光受容体が回復または再生することを可能にする方法を提供し得る。
【0180】
ある種の実施形態において、本発明の抗TrkB抗体のうちの1つまたはそれ以上を用いることで処置することができる眼疾患は、緑内障、糖尿病性網膜症、加齢性黄斑変性もしくは他の黄斑症、虚血性視神経症、視神経炎、網膜虚血、光受容体変性、網膜色素変性、レーバー先天黒内障、レーバー依存性視神経萎縮症、アッシャー症候群、シュタルガルト病、および網膜動脈もしくは静脈閉塞からなる群より選択される。
【0181】
本発明の1つまたはそれ以上の抗TrkB抗体で処置することができる他の病的状態は、網膜剥離、光性網膜症、手術により誘導される網膜症(機械的もしくは光に誘導されるかのいずれか)、毒素性網膜症、未熟児の網膜症、CMVもしくはAIDSに関連するHIV網膜症などのウイルス性網膜症、ブドウ膜炎、静脈もしくは動脈閉塞または他の血管障害に起因する虚血性網膜症、外傷もしくは眼の浸透病変に起因する網膜症、末梢硝子体網膜症、または遺伝性網膜変性を含む。
【0182】
1つの実施形態において、本発明の抗TrkB抗体は、眼内または硝子体内へのデリバリーのために製剤化することができる。
【0183】
本発明はまた、卒中または外傷性脳損傷など、他の中枢または末梢神経系疾患または障害を処置するための方法も提供する。さらに、本発明の抗体は、神経細胞の生存を促進するように作用し、神経保護物質として作用するため、これらのアゴニスト抗体のいずれか1つまたはそれ以上は、神経系への損傷により引き起こされるか、または神経変性疾患を含め、神経系に対して大きな影響を有する疾患により引き起こされる細胞損傷の回復または修復における最重要事項が神経細胞の生存である、中枢神経系疾患または障害を患う患者を処置するのに有益であることを実証し得る。
【0184】
本明細書において記載される処置の方法の文脈において、抗TrkB抗体は、単独療法として(すなわち、唯一の治療剤として)、または1つもしくはそれ以上のさらなる治療剤との併用で投与される。
【0185】
併用療法および製剤
本発明は、本明細書に記載される抗TrkB抗体のいずれかを、1つまたはそれ以上のさらなる治療上活性な成分との組み合わせで含む組成物および治療製剤、ならびにかかる組み合わせを、それを必要とする対象に投与することを含む、処置の方法を含む。
【0186】
本発明の抗TrkB抗体は、眼内圧を低下させるのを助ける薬物(IOP低下薬)、ニューロトロフィン、およびVEGFトラップ、例えば、アフリベルセプト(EYLEA(登録商標))などの血管内皮成長因子(VEGF)のアンタゴニストからなる群より選択される1つまたはそれ以上のさらなる治療上活性な成分と共に共製剤化される、および/
またはそれとの併用で投与される。本発明のTrkB抗体と併用することができる他の医薬は、プロスタグランジン類似体(例えば、ZIOPTAN(商標)、XALATAN(登録商標))、ベータ遮断薬(例えば、TIMOPTIC XE(登録商標)、ISTALOL(登録商標)、BETOPTIC(登録商標)S)、アルファ-2アドレナリンアゴニスト(例えば、アプラクロニジン)、炭酸脱水酵素阻害剤(例えば、TRUSOPT(登録商標)、AZOPT(登録商標))、コリン作動剤(例えば、ISOPTO(登録商標)CARPINE、PILOPINE HS(登録商標)ゲル)、または併用治療薬(ベータ遮断剤に炭酸脱水酵素阻害剤を加えたもの、例えば、COMBIGAN(商標)、COSOPT(登録商標))を含むが、これらに限定されない。
【0187】
本発明の抗TrkB抗体は、抗ウイルス剤、抗生物質、鎮痛剤、抗酸化剤、COX阻害剤、および/またはNSAIDとの併用で投与してもよく、および/または共製剤化してもよい。抗TrkB抗体は、幹細胞療法、緑内障濾過手術、レーザー手術、または遺伝子療法を含む、他の種類の治療法との併用で用いることができる。
【0188】
さらなる治療上活性な成分、例えば、上で挙げられた薬剤のいずれかまたはその誘導体は、本発明の抗TrkB抗体の投与の直前に、それと同時に、またはその直後に、投与される(本開示の目的のため、かかる投与治療計画は、さらなる治療上活性な成分と「併用した」抗TrkB抗体の投与とみなされる)。本発明は、本発明の抗TrkB抗体が、本明細書において他の箇所で記載される通り、さらなる治療上活性な成分のうちの1つまたはそれ以上と共製剤化された、医薬組成物を含む。
【0189】
投与治療計画
本発明のある種の実施形態によると、複数回用量の抗TrkB抗体(または抗TrkB抗体、および本明細書において言及される、さらなる治療上活性な剤のいずれかの併用を含む医薬組成物)は、定義される時間経過にわたり、対象に投与される。本発明のこの態様による方法は、対象に、複数回用量の本発明の抗TrkB抗体を連続して投与することを含む。本明細書において用いられる「連続して投与すること」は、それぞれの用量の抗TrkB抗体が、対象に、時間における異なる点において、例えば、予め決定された間隔(例えば、時間、日、週、または月)により隔てられた異なる日において投与されることを意味する。本発明は、患者に、単回開始用量の抗TrkB抗体、続いて、1つまたはそれ以上の2次用量の抗TrkB抗体、場合により、続いて、1つまたはそれ以上の3次用量の抗TrkB抗体を連続して投与することを含む方法を含む。
【0190】
用語「開始用量」、「2次用量」、および「3次用量」は、本発明の抗TrkB抗体の投与の時間的な並びを指す。従って、「開始用量」は、処置計画の開始時に投与される用量であり(「ベースライン用量」としても言及される);「2次用量」は、開始用量の後に投与される用量であり;「3次用量」は、2次用量後に投与される用量である。開始、2次、および3次用量は、全て、同一量の抗TrkB抗体を含有するが、一般に、投与の頻度の点で互いに異なる。しかしながら、ある種の実施形態において、開始、2次、および/または3次用量において含有される抗TrkB抗体の量は、処置の経過中、互いに異なる(例えば、必要に応じて、上方もしくは下方調節される)。ある種の実施形態において、2回またはそれ以上(例えば、2、3、4、もしくは5回)の用量は、処置治療計画の開始時に、「添加用量」として投与され、続いて、あまり頻繁でない基盤で投与される続く用量(例えば、「維持用量」)が投与される。
【0191】
本発明のある種の典型的な実施形態において、それぞれの2次および/または3次用量は、直前の先行する用量の後、1~26(例えば、1、11/2、2、21/2、3、31/2、4、41/2、5、51/2、6、61/2、7、71/2、8、81/2、9、91/2、10、101/2、11、111/2、12、121/2、13、131/
2、14、141/2、15、151/2、16、161/2、17、171/2、18、181/2、19、191/2、20、201/2、21、211/2、22、221/2、23、231/2、24、241/2、25、251/2、26、261/2、またはそれ以上)週で投与される。本明細書において用いられる語句「直前の先行する用量」は、複数回投与の並びにおいて、中断のない用量の並びで、まさに次の用量の投与に先立ち患者に投与される、抗TrkB抗体の用量を意味する。
【0192】
本発明のこの態様による方法は、患者に、任意の数の2次および/または3次用量の抗TrkB抗体を投与することを含む。例えば、ある種の実施形態において、単回2次用量のみが患者に投与される。他の実施形態において、2回またはそれ以上(例えば、2、3、4、5、6、7、8回、もしくはそれ以上)の2次用量が患者に投与される。同様に、ある種の実施形態において、単回の3次用量のみが患者に投与される。他の実施形態において、2回またはそれ以上(例えば、2、3、4、5、6、7、8回、もしくはそれ以上)の3次用量が患者に投与される。投与治療計画は、特定の対象の生涯にわたって無期限に、またはかかる処置が治療上必要となくなるかもしくは有利でなくなるまで、行われる。
【0193】
複数回の2次用量を含む実施形態において、それぞれの2次用量は、他の2次用量と同一の頻度で投与される。例えば、それぞれの2次用量は、直前の先行する用量の1~2週間または1~2カ月後に投与される。同様に、複数回の3次用量を含む実施形態において、それぞれの3次用量は、他の3次用量と同一の頻度で投与される。例えば、それぞれの3次用量は、直前の先行する用量の2~12週間後に投与される。本発明のある種の実施形態において、2次および/または3次用量が患者に投与される頻度は、処置治療計画の経過にわたり変動する。投与の頻度もまた、医師による処置の経過中、臨床検査に従い個々の患者のニーズに依存して調節される。
【0194】
本発明は、投与治療計画を含み、ここで、2~6回の添加用量は、患者に、第1の頻度(例えば、1週間に1回、2週間毎に1回、3週間毎に1回、1カ月に1回、2カ月に1回など)で投与され、続いて、2回またはそれ以上の維持用量が、あまり頻繁でない基盤で患者に投与される。例えば、本発明のこの態様によると、添加用量が、1カ月に1回の頻度で投与されるなら、次に、維持用量が、6週間毎に1回、2カ月毎に1回、3カ月毎に1回などで患者に投与される。
【0195】
抗体の診断上の使用
本発明の抗TrkB抗体はまた、例えば、診断の目的のため、試料中のTrkBまたはTrkBを発現する細胞を検出および/または測定するためにも用いることができる。例えば、抗TrkB抗体またはそのフラグメントは、TrkBの異常な発現(例えば、過剰発現、過少発現、発現の欠如など)により特徴付けられる状態または疾患を診断するために用いることができる。TrkBについての典型的な診断アッセイは、例えば、患者から得た試料を、本発明の抗TrkB抗体と接触させることを含み、ここで、抗TrkB抗体は、検出可能な標識もしくはレポーター分子で標識される。あるいは、未標識の抗TrkB抗体は、検出可能に標識されたそれ自体である2次抗体と組み合わせた診断適用において用いられる。検出可能な標識またはレポーター分子は、3H、14C、32P、35S、もしくは125Iのようなラジオアイソトープ;フルオレセインイソチオシアネート、もしくはローダミンのような蛍光もしくは化学発光部分;またはアルカリホスファターゼ、ベータ-ガラクトシダーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、もしくはルシフェラーゼのような酵素である。試料中のTrkBを検出または測定するために用いられる特異的な典型的アッセイは、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、および蛍光活性化細胞分取(FACS)を含む。
【0196】
本発明によるTrkB診断アッセイにおいて用いられる試料は、患者から得ることができる任意の組織または体液試料を含み、正常もしくは病理条件下で、TrkBタンパク質、またはそのフラグメントいずれかの検出可能な量を含有する。一般に、健常患者(例えば、異常なTrkBレベルまたは活性に関連する疾患または状態を罹患していない患者)から得られた特定の試料中のTrkBのレベルを測定して、ベースラインまたは標準的なTrkBのレベルをまず確立する。このベースラインTrkBレベルを、次に、TrkB関連疾患または状態を有することが疑われる個体から得られた試料において測定されたTrkBのレベルに対して比較する。
【実施例0197】
以下の実施例は、当業者に本発明の方法および組成物の作り方、ならびに用い方の完全な開示または記載を提供するために記述するものであり、本発明者らが彼らの発明とみなすものの範囲を制限することは意図されない。用いた数字(例えば、量、温度など)に関する正確さを保証するよう試みられたが、実験上の誤差および自差がある程度あることは考慮されるべきである。別段示されなければ、部分は重量部であり、分子量は平均分子量であり、温度は摂氏におけるものであり、室温は約25℃であり、圧力は雰囲気においてであるか、または雰囲気に近い。
米国特許7582298号(参照によって、全体として本明細書に具体的に組み入れる)において記載される通り、ミエローマ細胞に融合させることなく、抗原陽性マウスB細胞から抗TrkB抗体も直接的に単離した。この方法を用いて、いくつかの完全ヒト抗TrkB抗体(すなわち、ヒト可変ドメインおよびヒト定常ドメインを有する抗体)を得て;この方法で作製した典型的な抗体を、次の:H4H9780P、H4H9814P、およびH4H9816P2と命名した。