(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162040
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】タップ
(51)【国際特許分類】
B23G 5/06 20060101AFI20241114BHJP
【FI】
B23G5/06 Z
B23G5/06 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023077191
(22)【出願日】2023-05-09
(71)【出願人】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100192614
【弁理士】
【氏名又は名称】梅本 幸作
(74)【代理人】
【識別番号】100158355
【弁理士】
【氏名又は名称】岡島 明子
(72)【発明者】
【氏名】芦田 孝則
(72)【発明者】
【氏名】栗田 祐希
(72)【発明者】
【氏名】山崎 格
(57)【要約】
【課題】ねじ穴加工で発生する切りくずを分断した後、これらの切りくずを速やかに外部へ排出することで、ねじ加工時における切り屑詰まりや切り屑の噛み込みを低減し、ねじ加工面へのむしれも抑制できるタップを提供する。
【解決手段】
食付き部1および完全山部2を有するらせん状のねじ部10と、ねじ部10を分断するように形成された溝部21,22,23と、を備えるタップ50において、溝部21,22,23を、ねじ部10全域に形成される第1溝21A,22A,23Aおよび完全山部2における切刃31,32,33に隣接して形成される第2溝21B,22B,23Bから構成する。また、第2溝21B,22B,23Bを第1溝21A,22A,23Aに対してタップ50の回転方向RTの反対側に配置する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
食付き部および完全山部を有するらせん状のねじ部と、前記ねじ部を分断するように形成された溝部と、を備えるタップにおいて、前記溝部は、前記前記ねじ部の全域に形成される第1溝と、前記完全山部における切刃に隣接して形成される第2溝と、を有しており、前記第2溝は、前記第1溝に対して前記タップの回転方向の反対側に位置していることを特徴とするタップ。
【請求項2】
前記第2溝のねじれ角θ2は前記第1溝のねじれ角θ1よりも大きく、かつ前記第2溝のねじれ角θ2と前記第1溝のねじれ角θ1との差は5°以上であることを特徴とする請求項1に記載のタップ。
【請求項3】
前記第1溝のねじれ角θ1は30°以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のタップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被削材に対して切削加工によりねじ穴を形成するタップに関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、タップの切削加工により発生した切りくずは種々の形態を呈しており、その形態によってタップの加工性能が大きく左右されてきた。例えば、止まり穴用のタップでは溝のねじれ角を30°以上にすることでコイル状の切りくずを優先的に排出していた。また、タップの先端部分に本来の溝に加えて別個の溝(副溝)をさらに設けることで切りくずを分断させることもできる。さらには、特許文献1ないし3に開示されているように溝のねじれ角を0°、つまりタップの回転軸とほぼ平行にすることで切りくずを分断させて排出させることもできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平1-171725号公報
【特許文献2】特許第5756562号公報
【特許文献3】特許第5816368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、タップのねじれ角を小さくすると、分断された切りくずが外部へ排出する効果が低減し、タップの溝内に残存した切りくずによって切れ刃が損傷するという問題があった。溝内の切りくずを効率的に排出するには、ねじ穴加工の工程を複数に分割するステップ加工が有効であるが、加工時間(サイクルタイム)が長くなるという別の問題が発生する。
【0005】
そこで、本発明ではねじ穴加工で発生する切りくずを分断した後、これらの切りくずを速やかに外部へ排出することで、ねじ加工時における切り屑詰まりや切り屑の噛み込みを低減し、ねじ加工面へのむしれも抑制できるタップを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述した課題を解決するために、本発明のタップは食付き部および完全山部を有するらせん状のねじ部と、当該ねじ部を分断するように形成された溝部を備えるタップにおいて、これらの溝部をねじ部全域わたって形成する第1溝と完全山部における切刃に隣接して形成する第2溝から形成し、当該第2溝を第1溝に対してタップの回転方向の反対側に配置した。
【0007】
また、第2溝のねじれ角θ2を第1溝のねじれ角θ1よりも大きくして、第2溝のねじれ角θ2と第1溝のねじれ角θ1との差を5°以上とすることもできる。さらに、第1溝のねじれ角θ1は30°以上としても構わない。
【発明の効果】
【0008】
本発明のタップにより、食付き部の切れ刃によって加工された被削材(切り屑)は、ねじれ角の小さい第1溝でカール径を縮小した状態で、第2溝へ移行して、タップに噛みこむことなく、速やかにタップの外部へ排出される。したがって、ねじ加工時における切り屑の詰まりや噛み込みを低減し、ねじ加工面の損傷を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態を示すタップ50の正面図である。
【
図2】本発明の一実施形態を示すタップ50の右側面図である。
【
図3】本発明の一実施形態を示すタップ50の斜視図である。
【
図4】
図2に示すタップ50のA-A線位置での断面図である。
【
図5】
図2に示すタップ50のB-B線位置での断面図である。
【
図6】
図2に示すタップ50のC-C線位置での断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明であるタップの形態について図面を用いて説明する。本発明の一実施形態であるタップ50の正面図を
図1、右側面図を
図2、斜視図を
図3に示す。タップ50は、
図1に示すように被削材に対してねじ加工を行うねじ部10およびこのねじ部10を分断するように形成された溝部21A,21B,22A,22B,23A,23Bから形成されている。ねじ部10によって切削加工された被削材の切りくずは、溝部 21A,21B,22A,22B,23A,23Bを通してタップ50の外部へ排出される。また、ねじ部10は
図1に示す様に食付き部1と完全山部2から形成されており、溝部は第1溝21A,22A,23Aおよび第2溝21B,22B,23Bから形成されている。
【0011】
図2に示すタップ50のA-A線位置での断面図(回転軸Oに垂直な断面視)を
図4、同B-B線位置での断面図(回転軸Oに垂直な断面視)を
図5、同C-C線位置での断面図(回転軸Oに垂直な断面視)を
図6にそれぞれ示す。溝部の一部を構成する第1溝21A空~23Aは、
図4ないし
図6に示す様にねじ部10全域に形成される。一方、第2溝21B~23Bは
図5および
図6に示す様に完全山部2における切刃31~33に隣接して形成される。また、第2溝21B~23Bは、第1溝21A~23Aに対してタップ50の回転方向RTの反対側に位置する。つまり、タップ50の食付き部1における溝部は第1溝21A~23Aのみであり、完全山部2における溝部は3条の第1溝21A~23Aと3条の第2溝21B~23Bが併存している。
【0012】
また、
図2に示す様に第2溝21B~23Bのねじれ角θ2は、第1溝21A~23Aのねじれ角θ1よりも大きい。同時に、第2溝21B,22B,23Bのねじれ角θ2と前記第1溝21A~23Aのねじれ角θ1との差は5°以上とする。この場合、第1溝21A~23Aのねじれ角θ1を30°以上とすることが好適である。
【実施例0013】
(実施例1)
実施形態のタップの溝のねじれ角の差異による切りくず形状を確認するため、いくつかの溝のねじれ角を変化させたタップを用いて切削加工比較試験(以下、本試験という)を行ったので、その試験結果について説明する。本試験で使用したタップは、
図1ないし
図6に示す第1溝および第2溝を有する形態のタップであり、第1溝のねじれ角θ1=15°,30°,45°の3水準、第2溝のねじれ角θ2=40°(固定)の仕様とした。タップ寸法は、M8×1.25ピッチの共通仕様とした。
【0014】
本試験に使用した被削材およびその加工条件などを下記のとおりとした。
・被削材:機械構造用炭素鋼(S48C)
・切削速度:5m/min
・ねじ穴深さ:26mm
・下穴径:φ6.8mm
・冷却方式:水溶性切削油剤を外部給油
・使用設備:横形M/C
【0015】
本試験を行った結果、第1溝のねじれ角θ1=15°であるタップを用いた切削加工により発生した切り屑は分断された形状でタップの外部に排出された。これに対して、第1溝のねじれ角θ1=30°および45°の2種類のタップを用いた切削加工試験では、発生した切りくずが螺旋状に連なった形状であり、分断された切りくずは全く発生しなかった。
【0016】
(実施例2)
次に、実施例1と同様に実施形態のタップの溝のねじれ角の差異による切りくず形状を確認するため、いくつかの溝のねじれ角を変化させたタップを用いて切削加工比較試験(以下、本試験という)を行ったので、その試験結果について説明する。本試験で使用したタップは、実施例1と同様に
図1ないし
図6に示す第1溝および第2溝を有する形態のタップであり、第1溝のねじれ角θ1=
8°,16°,24°,32°,40°の5水準、第2溝のねじれ角θ2=45°(固定)の仕様とした。タップ寸法は、M7×1.00ピッチの共通仕様とした。
【0017】
本試験に使用した被削材およびその加工条件などを下記のとおりとした。
・被削材:低炭素鋼(S25C)
・切削速度:39m/min
・ねじ穴深さ:13mm
・下穴径:φ6.1mm
・冷却方式:水溶性切削油剤を外部給油
・使用設備:横形M/C
【0018】
本試験を行った結果、第1溝のねじれ角θ1=8°であるタップを用いた切削加工により発生した切り屑は分断された形状でタップの外部に排出された。また、第1溝のねじれ角θ1=16°,24°,32°の3種類のタップを用いた切削加工により発生した切り屑はコイル状となったが、タップとの巻き付きが発生して、切削加工試験が中断した。これに対して、第1溝のねじれ角θ1=40°のタップを用いた切削加工試験では、発生した切りくずが螺旋状に連なった形状であり、分断された切りくずは全く発生しなかった。
【0019】
以上の試験結果より、本発明のタップの様にねじ部全域に形成される溝(第2溝)に加えて、前記食付き部の切刃に隣接したねじれ角が1°以上10°以下の範囲である溝(第1溝)を設けて、食付き部における回転軸に垂直な断面視において第1溝および第2溝が占める断面積をタップが占める断面積よりも大きくすることで、穴加工時に加工された被削材がねじれ角の小さい第1溝で分断された後、切りくずはねじれ角の大きい第2溝へ移行して速やかにタップの外部へ排出されるので、切削加工後に発生する切りくずの排出特性に有効であることが分かった。