(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162062
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】マイクロホン
(51)【国際特許分類】
H04R 19/04 20060101AFI20241114BHJP
H04R 1/22 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
H04R19/04
H04R1/22 320
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023077241
(22)【出願日】2023-05-09
(71)【出願人】
【識別番号】000115636
【氏名又は名称】リオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120592
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 崇裕
(74)【代理人】
【識別番号】100184712
【弁理士】
【氏名又は名称】扇原 梢伸
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 平
【テーマコード(参考)】
5D018
5D021
【Fターム(参考)】
5D018BA03
5D021CC14
5D021CC20
(57)【要約】
【課題】必要なサイズの通気孔を容易に形成することができる技術を提供する。
【解決手段】マイクロホン100は、振動板1と、背極板2と、振動板枠上部3と、振動板枠下部4と、通気路5と、を備えている。振動板枠上部3は、振動板1が取り付けられる振動板枠11の振動板1側の部材を構成する。振動板枠下部4は、振動板1が取り付けられる振動板枠11のケース6側の部材を構成する。振動板枠上部3と振動板枠下部4とは、振動板枠11を構成する。振動板枠下部4は、熱圧着等の接着手段により貼り合わされた振動板枠下部1層目41及び振動板枠下部2層目42(貼り合わされた2枚の板状部材)を含む。振動板枠下部1層目41と振動板枠下部2層目42との貼り合わされる面には、振動板1の一方の面と他方の面との通気を確保する通気路5が形成されている。通気路5は、振動板1の両面を繋ぐ孔である。通気路5は、エッチングにより形成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動板と、
前記振動板を取り付ける振動板枠と、
前記振動板に対して前記振動板枠と反対側に配置される背極板と、を備え、
前記振動板枠は、貼り合わされた複数枚の板状部材を含み、
前記板状部材の貼り合わされる面には、前記振動板の一方の面と他方の面との通気を確保する通気路が形成されていることを特徴とするマイクロホン。
【請求項2】
請求項1に記載のマイクロホンにおいて、
前記通気路は、エッチングにより形成されていることを特徴とするマイクロホン。
【請求項3】
請求項1に記載のマイクロホンにおいて、
前記通気路は、前記板状部材の貼り合わされる面の片方の面又は両方の面に形成されていることを特徴とするマイクロホン。
【請求項4】
請求項1に記載のマイクロホンにおいて、
前記振動板枠は、貼り合わされた3枚以上の板状部材を含み、
前記通気路は、前記板状部材のそれぞれの貼り合わされる面に形成されており、
前記板状部材は、上層の通気路と下層の通気路とを繋ぐ貫通孔を有することを特徴とするマイクロホン。
【請求項5】
請求項1に記載のマイクロホンにおいて、
前記通気路は、長さ、幅、深さのうち少なくとも1つが異なる複数の通気路を備えており、必要に応じて前記複数の通気路のうち不必要な通気路を閉じて周波数特性を選択可能であることを特徴とするマイクロホン。
【請求項6】
請求項1に記載のマイクロホンにおいて、
前記振動板は、電気的に接地されていることを特徴とするマイクロホン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロホンに関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロホンの低域特性は、気圧調整孔と呼ばれるマイクロホン内部(振動膜後側)と外部(振動膜前面)とを繋ぐ小さな孔の形状の影響が大きい。
【0003】
一般的な計測用マイクロホンでは、特許文献1に示されるようにマイクロホンケースの円周部に沿うような気圧調整スペーサで低域を伸ばして広い測定周波数範囲(例えば1~20,000Hz)を得る技術が報告されている。
【0004】
また、特許文献2は、振動板枠の上面に溝を設け、マイクロホンケースを利用して気圧調整孔を調整する方法が開示されている。さらに、補聴器に使用されるような小型のマイクロホンでは、振動膜にレーザ等で微小な孔をあけている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-023016号公報
【特許文献2】特開2009-182758号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的な計測用マイクロホンでは、特許文献1で示された方法で低域の周波数特性を得ることが可能であるが、補聴器に使用されるような超小型のマイクロホンでは、圧入、ねじによる締め付け等を用いることが構造上難しいことや、特許文献1で示された方法では寸法(音響抵抗は通気路が狭く長いほど大きくなり、音響抵抗が大きければカットオフ周波数が低周波領域側に伸びる(また、断面積の方がより支配的である))が足りないこと等から、十分低域まで周波数特性を伸ばすことができない。
【0007】
また、特許文献2が示す方法では、マイクロホンケースに振動板枠を取り付ける際に、マイクロホンケースと振動板枠との間に隙間が発生する可能性や溝部を傷つける可能性があり、隙間や傷があるとそこでマイクロホンの外部或いは内部とつながり気圧調整孔の長さが短くなってしまうため、必要なサイズの気圧調整孔(通気孔)が作成できない。
【0008】
そこで本発明は、必要なサイズの通気孔を容易に形成することができる技術の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するため以下の解決手段を採用する。なお、以下の解決手段はあくまで例示であり、本発明はこれに限定されるものではない。
【0010】
解決手段1:本解決手段のマイクロホンは、振動板と、前記振動板を取り付ける振動板枠と、前記振動板に対して前記振動板枠と反対側に配置される背極板と、を備え、前記振動板枠は、貼り合わされた複数枚の板状部材を含み、前記板状部材の貼り合わされる面には、前記振動板の一方の面と他方の面との通気を確保する通気路が形成されていることを特徴とするマイクロホンである。
【0011】
本解決手段によれば、板状部材の貼り合わされる面に通気路が形成されているため、板状部材の貼り合わされる面において自由な形状と自由な長さの通気路を形成することができ、必要なサイズの通気路(気圧調整孔)を容易に形成することができる。
【0012】
また、本解決手段によれば、通気路は、振動板枠の板状部材に形成されているため、マイクロホンのケースに通気路を形成する方式と比較して、ケースへの取付けの自由度が高い。
【0013】
解決手段2:本解決手段のマイクロホンは、上述したいずれかの解決手段において、前記通気路は、エッチングにより形成されていることを特徴とするマイクロホンである。
【0014】
本解決手段によれば、通気路は、エッチングにより形成されているため、様々な形状の通気路を自在に形成することができる。
【0015】
解決手段3:本解決手段のマイクロホンは、上述したいずれかの解決手段において、前記通気路は、前記板状部材の貼り合わされる面の片方の面又は両方の面に形成されていることを特徴とするマイクロホンである。
【0016】
本解決手段によれば、通気路は、板状部材の貼り合わされる面の片方の面又は両方の面に形成されているため、片方の面に通気路を形成することにより通気路の断面積を小さくすることができ、両方の面に通気路を形成することにより通気路の断面積を大きくすることができる。
【0017】
解決手段4:本解決手段のマイクロホンは、上述したいずれかの解決手段において、前記振動板枠は、貼り合わされた3枚以上の板状部材を含み、前記通気路は、前記板状部材のそれぞれの貼り合わされる面に形成されており、前記板状部材は、上層の通気路と下層の通気路と(複数の通気路のうち一の通気路と他の通気路と)を繋ぐ貫通孔を有することを特徴とするマイクロホンである。
【0018】
本解決手段によれば、通気路は、3枚以上の板状部材のそれぞれの貼り合わされる面に形成されており、貫通孔によって上層の通気路と下層の通気路とを繋ぐことができるため、通気路の長さをより一層長く確保することができる。
【0019】
解決手段5:本解決手段のマイクロホンは、上述したいずれかの解決手段において、前記通気路は、長さ、幅、深さのうち少なくとも1つが異なる複数の通気路を備えており、必要に応じて前記複数の通気路のうち不必要な通気路を閉じて周波数特性を選択可能であることを特徴とするマイクロホンである。
【0020】
本解決手段によれば、複数の通気路を利用して周波数特性を選択可能であるため、マイクロホンの性能を自在に変化させることができる。
【0021】
解決手段6:本解決手段のマイクロホンは、上述したいずれかの解決手段において、前記振動板は、電気的に接地されていることを特徴とするマイクロホンである。
【0022】
本解決手段によれば、振動板は、電気的に接地されているため、板状部材を金属製とすることもでき、金属製以外の樹脂製とすることもできる。
【0023】
その他の解決手段:上述したいずれかの解決手段のマイクロホンを製造するマイクロホンの製造方法であって、前記通気路は、エッチングにより形成されていることを特徴とするマイクロホンの製造方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、必要なサイズの通気孔を容易に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】第1実施形態のマイクロホン100を示す断面図である。
【
図2】振動板枠上部3及び振動板枠下部4の詳細を示す図である。
【
図3】第1実施形態のマイクロホン100の製造方法を示す図である。
【
図4】マイクロホンの周波数特性の評価結果を示す図である。
【
図5】第2実施形態のマイクロホンの振動板枠下部4-2を示す図である。
【
図6】第2実施形態のマイクロホンの製造方法を示す図である。
【
図7】第3実施形態のマイクロホンの振動板枠下部4-3等を示す図である。
【
図8】エッチング加工後の通気路となる溝を持つシリコンウェハの概念を示す図である。
【
図9】第4実施形態のマイクロホン100-4を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
〔第1実施形態〕
以下、本発明の第1実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、第1実施形態のマイクロホン100を示す断面図である。
図1に示すように、第1実施形態のマイクロホン100は、振動板1と、背極板2と、振動板枠上部3と、振動板枠下部4と、通気路5と、ケース6と、カバー7と、回路基板8と、背気室9と、凸部10と、を備えている。
【0027】
振動板1は、音圧(気圧)の変化を受けて変位する。背極板2は、中央に孔の開いた部材であり、負(或いは正)に帯電し、振動板1の変位に伴い、背極板・振動板間の電位差が変化する。背極板2の振動板1と対向する面には、樹脂フィルムが貼り付けられており、エレクトレットにより電荷が貯められるようになっている。振動板1は、電気的に接地することができる。
【0028】
振動板枠上部3は、振動板1が取り付けられる振動板枠11の振動板1側の部材を構成する。振動板枠下部4は、振動板1が取り付けられる振動板枠11のケース6側の部材を構成する。
【0029】
振動板枠下部4は、熱圧着等の手段により貼り合わされた振動板枠下部1層目41及び振動板枠下部2層目42(貼り合わされた2枚の板状部材)を含む。振動板枠下部1層目41と振動板枠下部2層目42との貼り合わされる面には、振動板1の一方の面(
図1中上側の面、背気室9側の面)と他方の面(
図1中下側の面、振動板枠下部4側の面)との通気を確保する通気路5(マイクロホン100の内部と外部とを繋ぐ通気路5)が形成されている(矢印X参照)。矢印Xの左端側は、マイクロホン100の内部であり、矢印Xの右端側は、マイクロホン100の外部(外気に触れる部分)である。また、通気路5は、振動板1の両面を繋ぐ孔である。通気路5は、エッチングにより形成されている。なお、
図1の通気路5の形状は、理解を容易にするために、簡略化して図示している。
【0030】
ケース6には、振動板枠11が取り付けられる。カバー7には、回路基板8が取り付けられる。回路基板8には、インピーダンス変換器等が組み込まれている。背気室9は、振動板1の背後の空間部分である。凸部10は、振動板1と背極板2との距離を一定に保つ部材である。凸部10は、背極板2と一体のもの(背極板2を工具等で叩いて形成したもの)であってもよく、背極板2と別体のもの(背極板2に別部材を取り付けたもの)であってもよい。振動板枠上部3と振動板枠下部4とは、振動板枠11を構成しており、振動板枠11には、振動板1が取り付けられる。背極板2は、振動板1に対して振動板枠11と反対側に配置される。なお、マイクロホン100には、必要に応じて信号を取り出すための端子等も含まれている。
【0031】
図2は、振動板枠上部3及び振動板枠下部4の詳細を示す図である。
図2(A)は振動板枠上部3の上面を示しており、
図2(B)は振動板枠上部3の側面を示しており、
図2(C)は振動板枠下部1層目41の上面を示しており、
図2(D)は振動板枠下部1層目41の側面を示しており、
図2(E)は振動板枠下部1層目41の下面を示しており、
図2(F)は振動板枠上部3と振動板枠下部4とを接合した状態を示しており、
図2(G)は振動板枠上部3と振動板枠下部4とを接合した状態の側面を示しており、
図2(H)は振動板枠下部2層目42の上面を示しており、
図2(I)は振動板枠下部2層目42の側面を示しており、
図2(J)は振動板枠下部2層目42の下面を示している。
【0032】
図2(A)に示すように、振動板枠上部3は、平面視で長方形状の部材であり、角部は円弧状に面取りされている。また、振動板枠上部3には、振動板枠上部3の大部分を占める円形(長円形)の開口部3aが形成されている。
図2(B)に示すように、振動板枠上部3は、薄板状の部材である。
【0033】
図2(C)に示すように、振動板枠下部1層目41は、平面視で長方形状の部材であり、角部は直線状に面取りされている。また、振動板枠下部1層目41には、中央部に、開口部3aよりも小さい円形の1層目開口部41aが形成されている。振動板枠下部1層目41は、振動板枠上部3よりも小さいサイズとなっている。
図2(D)に示すように、振動板枠下部1層目41は、薄板状の部材である。振動板枠下部1層目41は、振動板枠上部3よりも薄い部材となっている。
【0034】
図2(E)に示すように、振動板枠下部1層目41の下面には、1層目下面溝41bが形成されている。1層目下面溝41bは、振動板枠下部1層目41の下面の上端の中央から下方に向かって直線状に延び、そこから右回り(時計回り)の渦巻き状になって振動板枠下部1層目41の中心に向かい、最終的に1層目開口部41aに繋がっている。
図2(F)に示すように、振動板枠上部3と振動板枠下部4とを接合すると、振動板枠上部3の開口部3aの中心に、振動板枠下部1層目41の1層目開口部41aが位置する。
【0035】
図2(G)に示すように、振動板枠上部3及び振動板枠下部4は、それぞれ薄板状の部材であり、振動板枠下部4の方が小さいサイズの部材となっている。なお、振動板枠上部3と振動板枠下部4との厚みは、同一の厚みであってもよく、異なる厚みであってもよい。
【0036】
図2(H)に示すように、振動板枠下部2層目42は、平面視で長方形状の部材であり、角部は直線状に面取りされている。また、振動板枠下部2層目42には、中央部に、開口部3aよりも小さい円形の2層目開口部42aが形成されている。振動板枠下部2層目42の上面には、2層目上面溝42bが形成されている。2層目上面溝42bは、振動板枠下部2層目42の上面の上端の中央から下方に向かって直線状に延び、そこから左回り(反計回り)の渦巻き状になって振動板枠下部2層目42の中心に向かい、最終的に開口部3aに繋がっている。なお、1層目下面溝41bと2層目上面溝42bとは、反転させる(ひっくり返すと)と同じ形状の溝となっている。
【0037】
図2(I)に示すように、振動板枠下部2層目42は、薄板状の部材である。振動板枠下部2層目42は、振動板枠下部1層目41と同じ厚みの部材であり、振動板枠上部3よりも薄い部材となっている。
図2(J)に示すように、振動板枠下部2層目42の下面は、振動板枠下部1層目41の上面(
図2(C))と同一の形状となっている。
【0038】
このように、振動板枠下部4は、薄い2枚の板状部材(振動板枠下部1層目41及び振動板枠下部2層目42)が貼り合わされることにより形成されている。すなわち、振動板枠下部4は、2枚の板状部材に分割されている(分けられている)。
【0039】
そして、
図2(E)及び
図2(H)に示すように、振動板枠下部1層目41と振動板枠下部2層目42とが貼り合わされる面(接合面)に、貼り合わせた時に同位置にくる溝をエッチング処理等で作成して、振動板枠下部1層目41及び振動板枠下部2層目42が貼り合わされたときにマイクロホン100の外部と内部とを繋ぐ通気路5(気圧調整孔、
図1の矢印X参照)を形成する。
【0040】
通気路5の溝は、必ずしも2枚の板状部材の両面に掘る必要はなく、片面のみに掘られていてもよい。また、2つの板状部材に形成する溝は、渦巻き状に限らず、ジグザグした形状等の任意の形状を適用することができる。通気路5の溝を渦巻き状に形成することで、ジグザグ状の形状よりも、通気路の長さを長く確保することができる。一方、通気路5の溝をジグザグ状に形成することで、任意の場所に通気路を配置したり、異なる種類の通気路を形成したりすることができる。
【0041】
また、片面にしか溝を形成しない場合、通気路の断面は半長円状(かまぼこ状)になるので、両面に溝を形成した場合と比較して、通気路の断面積は小さくなる。通気路の断面積が小さくなると、空気がより通りづらくなるので、両面に溝を形成したより短い長さで所望の音響抵抗が得られる。すなわち、同じ周波数特性を目指す場合には、両面と片面とであれば、片面の方が溝の長さ(距離)を短くすることができる。ただし、これは、同じ周波数特性を目指す場合であって、同じ周波数特性を目指さない場合(例えば設計や加工の都合により通気路の断面積を大きくしたい事情がある場合等)には、両面に溝を形成することが有効である。
【0042】
図3は、第1実施形態のマイクロホン100の製造方法を示す図である。
第1実施形態のマイクロホン100の製造方法は、エッチング工程S10と、貼り合わせ工程S11と、組立工程S12と、を含んでいる。
【0043】
エッチング工程S10は、第1実施形態の振動板枠11を構成する部材をエッチングにより形成する工程である。第1実施形態では、エッチング(第1のエッチング加工)によって形状を決定しつつ開口部を形成し、ハーフエッチング(板状部材を貫通させずに厚みの半分(もしくは所望の深さ)で止めるエッチング、第2のエッチング加工)によって溝を形成する。エッチングの手順は、例えば、以下の手順を採用することができる。ただし、振動板枠に通気路を形成することができれば、以下の手順に限定されるものではない(以下の実施形態でも同様)。
【0044】
(1)振動板枠上部3用の1枚の大きな板状部材の上面にエッチングを行うことにより、
図2(A)に示す形状及び開口部3aを有する振動板枠上部3を複数形成する。
(2)振動板枠下部1層目41用の1枚の大きな板状部材の上面にエッチングを行い、下面にハーフエッチングを行うことにより、
図2(C)に示す形状及び1層目開口部41aを有し、かつ、
図2(E)に示す1層目下面溝41bを有する振動板枠下部1層目41を複数形成する。
(3)振動板枠下部2層目42用の1枚の大きな板状部材の上面にハーフエッチングを行い、下面にエッチングを行うことにより、
図2(H)に示す2層目上面溝42bを有し、かつ、
図2(J)に示す形状及び2層目開口部42aを有する振動板枠下部2層目42を複数形成する。
【0045】
そして、このエッチング工程S10には、振動板枠下部1層目41及び振動板枠下部2層目42に溝を形成する工程が含まれている。具体的には、振動板枠下部1層目41と振動板枠下部2層目42とが貼り合わされる面に、一つの筒状の通気路を形成するようにハーフエッチングを用いて渦巻き状の溝(1層目下面溝41b及び2層目上面溝42b)を形成する。なお、ハーフエッチングにより形成する溝は半長円状になり、半長円状の溝と半長円状の溝とを重ね合わせることで断面が長円形の通気路となる。なお、エッチングの深さが浅い場合には、通気路の断面が楕円状になる場合もある。通気路の幅は、数ミクロンから数百ミクロン程度(好ましくは、数十ミクロン程度)であることが好ましい。
【0046】
貼り合わせ工程S11は、振動板枠下部1層目41及び振動板枠下部2層目42、振動板枠上部3を貼り合わせる工程である。振動板枠下部1層目41及び振動板枠下部2層目42に関しては、それぞれの部材に形成した溝が内側に配置されるように(1層目下面溝41b及び2層目上面溝42bが重なるように)、振動板枠下部1層目41と振動板枠下部2層目42とを重ねて接合する。この貼り合わせ工程S11では、エッチング工程S10で複数形成された部材(振動板枠上部3、振動板枠下部1層目41、振動板枠下部2層目42)を1枚ずつ貼り合わせて振動板枠11を形成する。なお、振動板枠下部1層目41と振動板枠下部2層目42とを貼り合わせると、振動板枠下部4となる。
【0047】
組立工程S12は、各種部品を組み立てて、マイクロホン100を完成させる工程である。具体的には、貼り合わせ工程S11で貼り合わせた振動板枠上部3と振動板枠下部4の振動板枠上部3側に振動板1を取り付けて振動膜を作り、振動板枠下部4側をケース6に固定して、振動板1側に背極板2を載せて固定する。背極板2と回路基板8の入力部とは、リード線等を介して導通させ信号を取り出す。振動板枠下部4、ケース6、カバー7、及び回路基板8のグランド部を導通させマイクロホン100が完成する(
図1参照)。
【0048】
図4は、マイクロホンの周波数特性の評価結果を示す図である。縦軸は10Hzにおける感度レベルを基準(=0dB)とした感度レベル、横軸はマイクロホンに与えた音の周波数[Hz]を示している。
低域のカットオフ周波数は、通気路5の音響抵抗、背気室の音響コンプライアンスにより決定される。通気路5の幅と深さを一定にし、通気路5の長さを35mm、15mmとしたときの周波数特性の実測値は、計算結果とよく一致した。よって、本実施形態のような細長い通気路5であっても、周波数特性については良好な数値が得られることが明確となった。また、通気路5の長さ、幅、深さ等を調整することで、所望の周波数特性を計算通りに得ることも可能である。
【0049】
以上説明したように、第1実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)第1実施形態によれば、振動板枠下部1層目41及び振動板枠下部2層目42の貼り合わされる面に通気路5が形成されているため、振動板枠下部1層目41及び振動板枠下部2層目42の貼り合わされる面において自由な形状と自由な長さの通気路5を形成することができ、必要なサイズの通気路5を容易に形成することができる。
【0050】
(2)第1実施形態によれば、通気路5は、振動板枠下部4に形成されているため(振動板枠下部4内に形成されているため)、通気路5を1つの部品のようなものとして取り扱うことができ、マイクロホン100のケース6に通気路を形成する方式と比較して、ケース6への取付けの自由度が高い。
【0051】
(3)第1実施形態によれば、通気路5は、エッチングにより形成されているため、様々な形状の通気路5を自在に形成することができる。
(4)第1実施形態によれば、通気路5は、振動板枠下部1層目41及び振動板枠下部2層目42の貼り合わされる面の片方の面又は両方の面に形成することができるため、片方の面に通気路5を形成することにより通気路5の容積を小さくすることができ、両方の面に通気路5を形成することにより通気路5の断面積を大きくすることができ、通気路5の容積を自在に調整することができる。
【0052】
(5)第1実施形態によれば、通気路5を渦巻き状のような構造にすることで巻数に応じて通気路5の長さを調整することが可能となり、周波数特性を低域まで延ばすことができる(
図3参照)。
(6)先行技術である特許文献2に対して、第1実施形態では通気路5が一体的に形成されているため、通気路5の形状のバラツキを小さくすることができ、取り付け時に網等の部材(合成樹脂製のメッシュ材)を必要としない等の利点もある。
【0053】
(7)第1実施形態によれば、少ないスペースで十分な大きさ(長さ)の通気路5を形成することができるため、圧入、ねじによる締め付け等を用いることが構造上難しく、また、マイクロホン100の円周部のみでは十分な大きさの通気路5を作ることができない小型マイクロホン(例えば補聴器用等のマイクロホン)に有効に適用できる。
(8)第1実施形態によれば、振動板1は、電気的に接地されているため、板状部材(振動板枠下部1層目41及び振動板枠下部2層目42)を金属製とすることもでき、金属製以外の樹脂製とすることもできる。
【0054】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の各実施形態の説明では、第1実施形態と同様の内容については説明を省略する。
図5は、第2実施形態のマイクロホンの振動板枠下部4-2を示す図である。
図5(A)は振動板枠上部3の上面を示しており、
図5(B)は振動板枠下部1層目51の上面を示しており、
図5(C)は振動板枠下部1層目51の下面を示しており、
図5(D)は振動板枠下部2層目52の上面を示しており、
図5(E)は振動板枠下部2層目52の下面を示しており、
図5(F)は振動板枠下部3層目53の上面を示しており、
図5(G)は振動板枠下部3層目53の下面を示しており、
図5(H)は振動板枠下部4-2の積層構造を示している。
第1実施形態と第2実施形態との異なる点は、振動板枠下部4が、振動板枠下部4-2に変更された点である。その他の点は、第1実施形態と同様である。
【0055】
図5(A)に示すように、振動板枠上部3は、第1実施形態のものと同様の構成である。
【0056】
図5(B)に示すように、振動板枠下部1層目51は、平面視で長方形状の部材である。また、振動板枠下部1層目51には、中央部に円形の1層目開口部51aが形成されている。
図5(C)に示すように、振動板枠下部1層目51の下面には、1層目下面溝51bが形成されている。1層目下面溝51bは、振動板枠下部1層目51の下面の左下角の少し右上の場所から、振動板枠下部1層目51の下面の左側部分を上下に大きく3往復し、その後、振動板枠下部1層目51の下面の中央部分を1層目開口部51aまでの間で小さく3往復し、さらに、振動板枠下部1層目51の下面の右側部分を上下に大きく3往復し、最終的に、振動板枠下部1層目51の下面の右下角の少し左側の端部に繋がっている。
【0057】
図5(D)に示すように、振動板枠下部2層目52は、平面視で長方形状の部材である。また、振動板枠下部2層目52には、中央部に円形の2層目開口部52aが形成されている。振動板枠下部2層目52の上面には、2層目上面溝52bが形成されている。2層目上面溝52bは、振動板枠下部2層目52の上面の左下角の少し右側の端部から、振動板枠下部2層目52上面の左側部分を上下に大きく3往復し、その後、振動板枠下部2層目52の上面の中央部分を2層目開口部52aまでの間で小さく3往復し、さらに、振動板枠下部2層目52の上面の右側部分を上下に大きく3往復し、最終的に、振動板枠下部2層目52の上面の右下角の少し左上の貫通孔52cに繋がっている。なお、1層目下面溝51bと2層目上面溝52bとは、反転させる(ひっくり返すと)と同じ形状の溝となっている。
【0058】
図5(E)に示すように、振動板枠下部2層目52の下面には、2層目下面溝52dが形成されている。2層目下面溝52dは、振動板枠下部2層目52の下面の左下角の少し右上の貫通孔52cから、振動板枠下部2層目52の下面の左側部分を上下に大きく3往復し、その後、振動板枠下部2層目52の下面の中央部分を2層目開口部52aまでの間で小さく3往復し、さらに、振動板枠下部2層目52の下面の右側部分を上下に大きく2往復し、最終的に、振動板枠下部2層目52の上面の右側を通過して2層目開口部52aに繋がっている。
【0059】
図5(F)に示すように、振動板枠下部3層目53は、平面視で長方形状の部材である。また、振動板枠下部3層目53には、中央部に円形の3層目開口部53aが形成されている。振動板枠下部3層目53の上面には、3層目上面溝53bが形成されている。3層目上面溝53bは、3層目開口部53aから上方に向かい、振動板枠下部3層目53の上面の左側を通過して、振動板枠下部3層目53の上面の左側部分を上下に大きく2往復し、その後、振動板枠下部3層目53の上面の中央部分を3層目開口部53aまでの間で小さく3往復し、さらに、振動板枠下部3層目53の上面の右側部分を上下に大きく2往復し、最終的に、振動板枠下部3層目53の上面の右下角の少し左上の場所まで繋がっている。なお、2層目下面溝52dと3層目上面溝53bとは、反転させる(ひっくり返すと)と同じ形状の溝となっている。
図5(G)に示すように、振動板枠下部3層目53の下面は、振動板枠下部1層目51の上面(
図5(B))と同様の形状となっている。
【0060】
このように、第2実施形態では、振動板枠下部4-2を3つの層(3枚の板状部材)に分けている。具体的には、
図5(H)に示すように、振動板枠下部4-2は、上から順番に、振動板枠下部1層目51、振動板枠下部2層目52及び振動板枠下部3層目53といった3つの層を備えている。そして、第2実施形態の通気路は、振動板枠下部1層目51と振動板枠下部2層目52との間にある孔(矢印B)から、貫通孔52c(矢印A)を経由して、2層目開口部52a及び3層目開口部53aまで繋がっている。また、振動板枠下部2層目52は、上層の通気路(1層目下面溝51b及び2層目上面溝52bにより形成される通気路)と下層の通気路(2層目下面溝52d及び3層目上面溝53bにより形成される通気路)とを繋ぐ貫通孔52cを有する。
【0061】
図6は、第2実施形態のマイクロホンの製造方法を示す図である。
第2実施形態のマイクロホンの製造方法は、エッチング工程S20と、貼り合わせ工程S21と、組立工程S22と、を含んでいる。
【0062】
エッチング工程S20は、第2実施形態の振動板枠11を構成する部材をエッチングにより形成する工程である。第2実施形態では、エッチングによって形状を決定しつつ開口部及び貫通孔を形成し、ハーフエッチングによって溝を形成する。エッチングの手順は、例えば、以下の手順を採用することができる。
【0063】
(1)振動板枠上部3用の1枚の大きな板状部材の上面にエッチングを行うことにより、
図5(A)に示す形状及び開口部3aを有する振動板枠上部3を複数形成する。
(2)振動板枠下部1層目51用の1枚の大きな板状部材の上面にエッチングを行い、下面にハーフエッチングを行うことにより、
図5(B)に示す形状及び1層目開口部51aを有し、かつ、
図5(C)に示す1層目下面溝51bを有する振動板枠下部1層目51を複数形成する。
(3)振動板枠下部2層目52用の1枚の大きな板状部材の上面にエッチング及びハーフエッチングを行い、下面にハーフエッチングを行うことにより、
図5(D)に示す形状、2層目開口部52a、2層目上面溝52b及び貫通孔52cを有し、かつ、
図5(E)に示す2層目下面溝52dを有する振動板枠下部2層目52を複数形成する。
(4)振動板枠下部3層目53用の1枚の大きな板状部材の上面にハーフエッチングを行い、下面にエッチングを行うことにより、
図5(F)に示す3層目上面溝53bを有し、かつ、
図5(G)に示す形状及び3層目開口部53aを有する振動板枠下部3層目53を複数形成する。
【0064】
そして、このエッチング工程S20には、振動板枠下部1層目51の下面と、振動板枠下部2層目52の上面に、一つの通気路を形成するようにハーフエッチングを用いて溝(1層目下面溝51b及び2層目上面溝52b)を形成し(
図5(C)(D)参照)、振動板枠下部2層目52の下面と、振動板枠下部3層目53の上面に、一つの通気路となるようにハーフエッチングを用いて溝(2層目下面溝52d及び3層目上面溝53b)を形成する工程が含まれている(
図5(E)(F)参照)。
【0065】
また、このエッチング工程S20には、貫通孔52cを形成する工程が含まれている。具体的には、振動板枠下部2層目52に、振動板枠下部2層目52の上面と下面の両面の溝が一本の溝となるような貫通孔52cをエッチングによって形成する(
図5矢印A参照)。貫通孔52cは、エッチングによって形状を決定する際及び開口部を形成する際に一緒に形成することができるので、貫通孔52cを形成するための特別な工程を必要とせずに、簡単に貫通孔52cを形成することができる。溝は振動板枠の中央の開口部と振動板枠の外部とを繋ぐ通気路となるようになればよいので、溝の形状は必要な通気路の容積(音響抵抗)が得られるように任意に設定することができる。
【0066】
貼り合わせ工程S21は、振動板枠下部1層目51、振動板枠下部2層目52、振動板枠下部3層目53及び振動板枠上部3を貼り合わせる工程である。振動板枠下部1層目51、振動板枠下部2層目52及び振動板枠下部3層目53に関しては、それぞれの部材に形成した溝が内側に配置されるように(1層目下面溝51b及び2層目上面溝52bが重なるように、かつ、2層目下面溝52d及び3層目上面溝53bが重なるように)、振動板枠下部1層目51、振動板枠下部2層目52及び振動板枠下部3層目53を重ねて接合する。この貼り合わせ工程S21では、エッチング工程S20で複数形成された部材(振動板枠上部3、振動板枠下部1層目51、振動板枠下部2層目52、振動板枠下部3層目53)を1枚ずつ貼り合わせて振動板枠11を形成する。なお、振動板枠下部1層目51と振動板枠下部2層目52と振動板枠下部3層目53とを貼り合わせると、振動板枠下部4-2となる。
【0067】
組立工程S22は、各種部品を組み立てて、第2実施形態のマイクロホンを完成させる工程である。具体的には、貼り合わせ工程S21で貼り合わせた振動板枠上部3と振動板枠下部4-2の振動板枠上部3側に振動板1を取り付けて振動膜を作り、振動板枠下部4-2側をケース6に固定して、振動板1側に背極板2を載せて固定する。背極板2と回路基板8の入力部とは、リード線等を介して導通させ信号を取り出す。振動板枠下部4-2、ケース6、カバー7、及び回路基板8のグランド部を導通させ第2実施形態のマイクロホンが完成する。
【0068】
このように、第2実施形態によれば、第1実施形態の効果に加えて、以下のような効果がある。
(1)第2実施形態によれば、振動板枠下部4-2を3つの層で構成しているため、各層の間に形成される溝(通気路)の長さをより一層長く確保することができる。
(2)第2実施形態によれば、1層目と2層目の間に形成される溝と、2層目と3層目の間に形成される溝とを異なる形状の溝にすることができるため、より一層、自由な溝の設計が可能になる。
(3)第2実施形態によれば、振動板枠下部4-2を3層に分割し、2層目の上下面に通気路となる溝を掘り、2層目に貫通孔52cをあけて上方の通気路と下方の通気路とを繋ぎ、2段構成の通気路を形成することができるため、周波数特性をさらに低域まで伸ばすことが可能となる。
【0069】
〔第3実施形態〕
次に、本発明の第3実施形態について図面を参照しながら説明する。
図7は、第3実施形態のマイクロホンの振動板枠下部4-3等を示す図である。
図7(A)は振動板枠上部3-3の上面を示しており、
図7(B)は振動板枠下部1層目61の上面を示しており、
図7(C)は振動板枠下部1層目61の下面を示しており、
図7(D)は振動板枠下部2層目62の上面を示しており、
図7(E)は振動板枠下部2層目62の下面を示しており、
図7(F)は振動板枠11-3の積層構造を示している。なお、
図7(F)では、理解を容易にするために、振動板枠上部3-3の厚み及びサイズを変更して図示している。
【0070】
第1実施形態と第3実施形態との異なる点は、振動板枠上部3が振動板枠上部3-3に変更され、マイクロホンの振動板枠下部4がマイクロホンの振動板枠下部4-3に変更された点である。その他の点は、第1実施形態と同様である。
【0071】
図7(A)に示すように、振動板枠上部3-3は、平面視で長方形状の部材である。また、振動板枠上部3には、振動板枠上部3の大部分を占める方形の開口部3a-3が形成されている。
【0072】
図7(B)に示すように、振動板枠下部1層目61は、平面視で長方形状の部材である。また、振動板枠下部1層目61には、中央部に円形の1層目開口部61aが形成されている。
図7(C)に示すように、振動板枠下部1層目61の下面には、1層目下面溝61bが形成されている。1層目下面溝61bは、1層目第1下面溝61b-1及び1層目第2下面溝61b-2といった2種類の溝を含んでいる。
【0073】
1層目第1下面溝61b-1は、振動板枠下部1層目61の下面の右上角の少し下の端部から、振動板枠下部1層目61の下面の上側を通過して振動板枠下部1層目61の下面の左側に向かい、振動板枠下部1層目61の下面の左側部分を上下に大きく3往復し、その後、振動板枠下部1層目61の下面の中央部分で1層目開口部61aに繋がっている。
【0074】
一方、1層目第2下面溝61b-2は、振動板枠下部1層目61の下面の右下角の少し左の端部から、振動板枠下部1層目61の下面の右側部分を上下に大きく2往復し、その後、振動板枠下部1層目61の下面の中央部分で1層目開口部61aに繋がっている。
【0075】
図7(D)に示すように、振動板枠下部2層目62は、平面視で長方形状の部材である。また、振動板枠下部2層目62には、中央部に円形の2層目開口部62aが形成されている。振動板枠下部2層目62の上面には、2層目上面溝62bが形成されている。2層目上面溝62bは、2層目第1上面溝62b-1及び2層目第2上面溝62b-2といった2種類の溝を含んでいる。
【0076】
2層目第1上面溝62b-1は、振動板枠下部2層目62の上面の左上角の少し下の端部から、振動板枠下部2層目62の上面の上側を通過して振動板枠下部2層目62の上面の右側に向かい、振動板枠下部2層目62の上面の右側部分を上下に大きく3往復し、その後、振動板枠下部2層目62の上面の中央部分で2層目開口部42aに繋がっている。
【0077】
一方、2層目第2上面溝62b-2は、振動板枠下部2層目62の上面の左下角の少し右の端部から、振動板枠下部2層目62の上面の左側部分を上下に大きく2往復し、その後、振動板枠下部2層目62の上面の中央部分で2層目開口部62aに繋がっている。なお、1層目下面溝61bと2層目上面溝62bとは、反転させる(ひっくり返すと)と同じ形状の溝となっている。
【0078】
図7(E)に示すように、振動板枠下部2層目62の下面は、振動板枠下部1層目61の上面(
図7(B))と同様の形状となっている。
【0079】
このように、第3実施形態では、振動板枠下部4-3を2つの層(2枚の板状部材)に分けている。具体的には、
図7(F)に示すように、振動板枠下部4-3は、上から順番に、振動板枠下部1層目61及び振動板枠下部2層目62といった2つの層を備えている。そして、第3実施形態の通気路は、振動板枠下部1層目61と振動板枠下部2層目62との間にある孔(矢印B1)から、1層目開口部61a及び2層目開口部62a(矢印A1、矢印A2)を経由して、振動板枠下部1層目61と振動板枠下部2層目62との間にある孔(矢印B2)まで繋がっている。
【0080】
第3実施形態の振動板枠下部4-3では、長さの異なる独立した2つの通気路を形成するように溝を形成し(
図7ではA1-B1とA2-B2の2つの通気路が形成されており、A2-B2の通気路の方が長くなっており、A1-B1の組に比べてより低い周波数まで平坦な特性が得られるようになっている)、必要とする周波数特性に応じて不必要な通気路の入り口を閉じるようにすることができる(
図7(C)(D)参照)。
【0081】
例えば、A1-B1の通気路が不要であれば、B1付近を接着剤等で閉じることにより、A1-B1の通気路の機能しなくなり、A2-B2の通気路だけが機能するようになる。一方、A2-B2の通気路が不要であれば、B2付近を接着剤等で閉じることにより、A2-B2の通気路の機能しなくなり、A1-B1の通気路だけが機能するようになる。
【0082】
第3実施形態の2つの通気路は、長さを異なるものするだけでなく、長さ(通気路の全長)、幅(通気路の進行方向に対する左右方向の長さ)、深さ(通気路の進行方向に対する上下方向の長さ)のうち少なくとも1つが異なる通気路とすることができる。また、第3実施形態の2つの通気路は、いずれか一方の通気路を閉じて利用することができる。これにより、第3実施形態のマイクロホンは、2種類の通気路(A1-B1のみ、A2-B2のみ)を選択可能なマイクロホンとなっている。
【0083】
このように、第3実施形態によれば、第1実施形態の効果に加えて、複数の通気路(複数種類の溝)を利用して周波数特性を選択可能であるため、マイクロホンの性能を自在に変化させることができる。
また、第3実施形態によれば、2種類の通気路を構成して適宜2本の通気路を使うか1本にするかで通気路の長さを自在に変えることができる。
さらに、第3実施形態によれば、2本の通気路の太さ(幅、深さ)や長さを異なるように変えれば、いずれの通気路を使用するかによって、製造時に周波数特性の低域部の調整ができるため、同一の製品で複数の周波数特性を備えたマイクロホンとすることができる。
【0084】
〔第4実施形態〕
次に、本発明の第4実施形態について図面を参照しながら説明する。
図8は、エッチング加工後の通気路となる溝を持つシリコンウェハの概念を示す図である。
シリコンウェハ300では、事前にエッチング加工等を施したウェハを貼り合わせることができる。2枚のシリコンウェハが貼り合わされる面の片方の面又は両方の面に通気路5-4となる溝をエッチングで掘り、シリコンウェハを貼り合わせる。その後、貼り合わせたシリコンウェハを加工、ダイシングすることで上述した各実施形態と同様の通気路を持ったMEMS(Micro Electro Mechanical Systems:微小電気機械システム)マイクロホンを製造することができる。
【0085】
図9は、第4実施形態のマイクロホン100-4を示す図である。
マイクロホン100-4は、第1シリコンウェハ200と、第2シリコンウェハ300と、固定電極となるバックプレート400と、第1シリコンウェハ上部500と、音声で振動するダイヤフラム600と、を備えている。
第2シリコンウェハ300は、上述した実施形態の振動板枠11に相当し、バックプレート400は、背極板2に相当し、第1シリコンウェハ上部500は凸部10に相当し、ダイヤフラム600は、振動板1に相当する。
【0086】
そして、
図8に示す第2シリコンウェハ300に通気路5-4となる溝をエッチングで形成し、これに、
図9に示す第1シリコンウェハ200を貼り付ける。その後、一般的なMEMSマイクロホンの製造工程により、第1シリコンウェハ200を加工して、バックプレート400やダイヤフラム600を形成する。そして、取り付け後にダイシングラインDLに沿ってシリコンウェハをカットすると、上述した実施形態と同様の通気路を持つMEMSマイクロホンを製造することができる。この通気路5-4は、ダイヤフラム600の一方の面(
図9中上側の面、バックプレート400側の面)と他方の面(
図9中下側の面、第2シリコンウェハ300側の面)との通気を確保する通気路(ダイヤフラム600の両面を繋ぐ(マイクロホン100-4の内部と外部とを繋ぐ)通気路)となる。なお、
図8の矢印Y部分は、製造工程中にエッチングされるため、開口部となる(
図9矢印Z参照)。また、第1シリコンウェハ200の下面には、第2シリコンウェハ300の上面に形成した溝と同様の形状の溝を形成してもよく、溝を形成しなくてもよい。
【0087】
このように、第4実施形態によれば、シリコンウェハ同士の貼り合わされる面に通気路5-4(溝)を形成することができるため、部品の取り付けスペースがより少ないMEMSマイクロホンであっても、長い通気路を形成することができるだけでなく、別途、ダイヤフラム600の両面を繋ぐ気圧調整孔を形成する必要もなくなる。
【0088】
本発明は、上述した各実施形態に制約されることなく、種々に変形して実施することができる。
(1)通気路となる溝は、エッチングで形成する例で説明したが、スクリーン印刷で形成してもよく、切削で形成してもよい。
(2)通気路となる溝の断面形状は、任意であり、例えば、長円形状でもよく、楕円形状でもよく、円形状でもよく、半円形状でもよく、方形状でもよく、V字状でもよい。
(3)通気路となる溝の長さ、幅、深さは、マイクロホンの仕様に合わせて自由に変更することができる。
【0089】
(4)通気路となる溝は、振動板枠11のいずれかの場所に形成すればよい。上述した実施形態では、振動板枠下部4を2層や3層にして各層の間に形成する例で説明したが、振動板枠上部3を2層や3層にして各層の間に形成に形成してもよく、振動板枠上部3と振動板枠下部4とを1層ずつにして、振動板枠上部3と振動板枠下部4との間に形成してもよい。
(5)振動板枠下部4を4層以上にして、各層の間に通気路を形成するようにしてもよい。振動板枠上部3についても同様である。
(6)板状部材の貼り合わせは、熱圧着で行う例で説明したが、スクリーン印刷等で接着剤を塗布して貼り合わせる手法であってもよく、感光性のある接着剤で通気路を露光・現像してから貼り合わせる手法であってもよい。
(7)振動板1は、電気的に接地されているため、板状部材は金属板以外の樹脂板であってもよい。
【符号の説明】
【0090】
1 振動板
2 背極板
3、3-3 振動板枠上部
4、4-2、4-3 振動板枠下部
5、5-4 通気路
6 ケース
7 カバー
8 回路基板
9 背気室
10 凸部
11、11-3 振動板枠
41、51、61 振動板枠下部1層目
41a、51a、61a 1層目開口部
41b、51b、61b 1層目下面溝
42、52、62 振動板枠下部2層目
42a、52a、62a 2層目開口部
52d 2層目下面溝
53 振動板枠下部3層目
53a 3層目開口部
53b 3層目上面溝
100、100-4 マイクロホン
200 第1シリコンウェハ
300 第2シリコンウェハ
400 バックプレート
500 第1シリコンウェハ上部
600 ダイヤフラム