(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162094
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】真空バルブ用高誘電率樹脂、及び真空バルブ
(51)【国際特許分類】
H01H 33/662 20060101AFI20241114BHJP
【FI】
H01H33/662 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023077295
(22)【出願日】2023-05-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平井 宏光
(72)【発明者】
【氏名】浅利 直紀
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 芳充
(72)【発明者】
【氏名】中村 勇介
(72)【発明者】
【氏名】竪山 智博
【テーマコード(参考)】
5G026
【Fターム(参考)】
5G026RA02
5G026RB03
(57)【要約】
【課題】 高誘電率粒子の含有量を低減し、高誘電率樹脂の粘度上昇や高誘電率粒子の沈降を抑制する。
【解決手段】 実施形態に係る真空バルブ用高誘電率樹脂は、導電性を持ち、粒子径が小さく長さが長い繊維状のアスペクト比を有する導電性繊維状粒子と、前記導電性繊維状粒子を分散する樹脂とを含み、
前記導電性繊維状粒子は、前記樹脂中にランダムな方向を向いて分散するように配列している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を持ち、粒子径が小さく長さが長い繊維状のアスペクト比を有する導電性繊維状粒子と、
前記導電性繊維状粒子を分散する樹脂とを含み、
前記導電性繊維状粒子は、前記樹脂中にランダムな方向を向いて分散するように配列している真空バルブ用高誘電率樹脂。
【請求項2】
前記樹脂中に分散された非導電性粒子をさらに含み、前記非導電性粒子は、前記樹脂内における前記導電性繊維状粒子間の領域、及びそれ以外の領域にランダムに配置されている請求項1に記載の真空バルブ用高誘電率樹脂。
【請求項3】
前記導電性繊維状粒子は、体積抵抗率が10-1Ωcm以下、粒子径が100nm以上、10μm以下、長さが1μm以上、100μm以下、前記粒子径に対する前記長さで表されるアスペクト比が1.25以上、100以下である請求項1に記載の真空バルブ用高誘電率樹脂。
【請求項4】
前記導電性繊維状粒子は、炭素の六員環ネットワークを有する請求項1に記載の真空バルブ用高誘電率樹脂。
【請求項5】
前記導電性繊維状粒子は、前記真空バルブ用高誘電率樹脂全体の体積を100%したときに0.5体積%以上5体積%以下である請求項1に記載の真空バルブ用高誘電率樹脂。
【請求項6】
前記非導電性粒子は、1010Ωcm以上の体積抵抗率を有する請求項2に記載の真空バルブ用高誘電率樹脂。
【請求項7】
両端に開口を有する絶縁容器、及び両端の前記開口と各々接合部にて接合された一対の封着金具を備えた真空容器と、
前記真空容器内に切離可能に対向配置された一対の電極と、
少なくとも一方の前記接合部の外表面において前記絶縁容器と前記封着金具と導通可能な金属部材と空気とが接する三重点を被覆する請求項1ないし6のいずれか1項に記載の真空バルブ用高誘電率樹脂とを含む真空バルブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、真空バルブ用高誘電率樹脂、及び真空バルブに関する。
【背景技術】
【0002】
3つの媒体が一点で接する箇所をトリプルジャンクションとよび、トリプルジャンクション部分は非常に高電界となることが知られている。また、電極の端部などその先端曲率が小さい箇所は高電界となる。それら高電界箇所の電界緩和方法の1つとして高誘電率材料を高電界箇所に配置する方法がある。この方法では、比誘電率の高い高誘電率粒子を樹脂に混入して高誘電率樹脂を作成し、トリプルジャンクション部分に塗布する。スイッチギヤに用いられる真空バルブの封着金具端部にはセラミック、金属、及び樹脂が接するトリプルジャンクションが存在しており、そのトリプルジャンクション部分に高誘電率樹脂を配置することができる。高誘電率粒子としては、チタン酸バリウム(BATIO3)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)などの比誘電率が100を超えるような粒子があげられる。しかしなから、樹脂全体を高誘電率化するために比誘電率の高い粒子を多量に混入すると、樹脂の粘度が増加することにより、ボイドなどの欠陥ができやすくなり、及び高誘電率粒子は概ね比重が大きいことにより、樹脂重量を増加させ、及び高誘電率粒子が樹脂中で沈降しやすくなることから、扱いが難しくなるという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-182877号公報
【特許文献2】国際公開第2022/202792号
【特許文献3】特開2022-134821号公報
【特許文献4】特開2014-216210号公報
【特許文献5】特許第7143195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の実施形態は、高誘電率粒子の含有量を低減し、高誘電率樹脂の粘度上昇や高誘電率粒子の沈降を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態によれば、導電性を持ち、粒子径が小さく長さが長い繊維状のアスペクト比を有する導電性繊維状粒子と、前記導電性繊維状粒子を分散する樹脂とを含み、前記導電性繊維状粒子は、前記樹脂中にランダムな方向を向いて分散するように配列している真空バルブ用高誘電率樹脂が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】実施形態に係る真空バルブ用高誘電率樹脂の断面構造を表すモデル図である。
【
図2】実施例1-1の導電性繊維状粒子含有量と比誘電率との関係を表すグラフ図である。
【
図3】比較例1の高誘電率粒子含有量と比誘電率との関係を表すグラフ図である。
【
図4】実施例1-1の導電性繊維状粒子と体積抵抗率との関係を表すグラフ図である。
【
図5】実施形態に係る真空バルブ用高誘電率樹脂の他の断面構造を表すモデル図である。
【
図6】実施例2-1の導電性繊維状粒子含有量と比誘電率との関係を表すグラフ図である。
【
図7】実施形態にかかる真空バルブの一例を表す概略的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
第1実施形態に係る真空バルブ用高誘電率樹脂は、導電性繊維状粒子と、導電性繊維状粒子を分散する樹脂とを含む。導電性繊維状粒子は、粒子径が小さく長さが長い繊維状のアスペクト比をもち、ランダムな方向を向いて高誘電率樹脂中に分散するように配列している。
【0008】
また、第2実施形態に係る真空バルブは、上記第1実施形態に係る真空バルブ用高誘電率樹脂を用いた真空バルブであって、両端に開口を有する絶縁容器、及び両端の前記開口と各々接合部にて接合された一対の封着金具を備えた真空容器と、真空容器内に切離可能に対向配置された一対の電極と、導電性繊維状粒子、及び導電性繊維状粒子を分散する樹脂を含む真空バルブ用高誘電率樹脂とを備え、真空バルブ用高誘電率樹脂は、少なくとも一方の接合部の外表面において、絶縁容器と、封着金具と導通可能な金属部材と、空気とが接する三重点(トリプルジャンクション)を被覆している。導電性繊維状粒子は、粒子径が小さく長さが長い繊維状のアスペクト比をもち、ランダムな方向を向いて高誘電率樹脂中に分散するように配列している。
【0009】
実施形態によれば、真空バルブ用高誘電率樹脂に、導電性繊維状粒子を用いることにより、より少ない含有量で十分な誘電率を得ることが可能となり、樹脂における沈降を抑制して均一な分散を維持することができる。このため、真空バルブ用高誘電率樹脂の重量の増加、及び粘度の上昇を抑制し得る。
また、実施形態によれば、粘度が上昇しにくく、十分な高誘電率を有する真空バルブ用高誘電率樹脂を用いることにより、真空バルブに適用した際にボイドなどの欠陥を発生しにくく、真空バルブのトリプルジャンクション(以下、TJと表記する)の高電界を十分に緩和し得る。
【0010】
以下、実施の形態について、図面を参照して説明する。
なお、開示はあくまで一例にすぎず、当業者において、発明の主旨を保っての適宜変更であって容易に想到し得るものについては、当然に本発明の範囲に含有されるものである。また、図面は説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して、詳細な説明を適宜省略することがある。
【0011】
実施例1
図1に、第1実施形態に係る真空バルブ用高誘電率樹脂の断面構造を表すモデル図を示す。
【0012】
図示するように、第1実施形態に係る真空バルブ用高誘電率樹脂1は、導電性繊維状粒子2とそれを分散させる樹脂4とで構成されている。導電性繊維状粒子2は、導電性を有し、粒子径が小さく長さが長い繊維状のアスペクト比をもつ。また、導電性繊維状粒子2は、高誘電率樹脂1中にランダムな方向を向いて分散するように配列している。導電性繊維状粒子2は、ランダムな方向を向いて分散するように配列していないと、導電性繊維状粒子2同士が接触して導電経路を形成しやすくなるとともに高誘電率樹脂1の誘電率に異方性が生じる可能性があり、高誘電率樹脂1全体の抵抗率が低下して絶縁性がなくなる傾向がある。
【0013】
真空バルブ用高誘電率樹脂1は、この状態で例えば断面上側の面1aに正の電圧、断面下側の面1bを接地として電圧を印加すると、真空バルブ用高誘電率樹脂1の内部に分散された導電性繊維状粒子2は電極のように作用し、導電性繊維状粒子2同士が対向している箇所は小さなコンデンサのように機能する。これにより真空バルブ用高誘電率樹脂1は、その内部に多数の小さなコンデンサがあるような状態となり、真空バルブ用高誘電率樹脂1全体として静電容量が増加、すなわち比誘電率が増加する。また、導電性繊維状粒子は、粒子径が小さく長さが長い形状を有することから、真空バルブ用高誘電率樹脂内において沈降しにくく、均一に分散した状態を維持しやすい。このように、第1実施形態に係る真空バルブ用高誘電率樹脂1によれば、高誘電性粒子として導電性繊維状粒子2を用いると、そのコンデンサのような機能により、他の形状例えば球状の高誘電性粒子を用いた高誘電率樹脂における球状の高誘電性粒子の含有量よりも少ない含有量で十分な誘電率を得ることが可能となり、これにより、真空バルブ用高誘電率樹脂の重量の増加、及び粘度の上昇を抑制し得る。
【0014】
実施形態では、導電性繊維状粒子2として、金属と同程度の導電性、かつ樹脂などの疎水性液体への分散を考慮して、炭素の六員環ネットワークで構成されたもの使用することができる。
炭素の六員環ネットワークで構成されたものの例として、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンマイクロファイバー、及びグラフェンなどがあげられる。さらには、炭素の六員環ネットワークで構成されたものとして、カーボンナノファイバーを用いることができる。カーボンナノファイバーは、カーボンナノチューブよりも直径が大きく数100nm程度である。
【0015】
実施形態に使用される導電性繊維状粒子2は、体積抵抗率を10-1Ωcm以下にすることができる。また、実施形態に使用される導電性繊維状粒子2の大きさは、粒子径が100nm以上10μm以下、長さが1μm以上100μm以下、粒子径に対する長さで表されるアスペクト比が1.25以上100以下にすることができる。導電性繊維状粒子2が上記大きさであると、比誘電率増加の効果を十分得られ、かつ粒子同士を凝集しにくくすることができる。
【0016】
導電性繊維状粒子2は、粒径が小さく、粒径と長さの比が大きい方が粒子の表面積が大きくなり、すなわちコンデンサの電極面積が大きくなることと同義のため、比誘電率増加の効果が高くなる傾向がある。しかし、少なくとも、導電性繊維状粒子2の粒子径が100nmよりも小さいか、または長さが1μmより短いと、粒子同士が凝集してその効果が低下してしまう傾向がある。カーボンナノチューブは表面積が非常に大きいが粒子径が数10nmと細いために凝集しやすい傾向がある。カーボンマイクロファイバーは粒子径が数10~100μmと太いため凝集しにくく分散させやすいが表面積が小さくなる傾向がある。また、例えば、導電性繊維状粒子として、例えば銀や銅などの金属でできた金属ナノワイヤと呼ばれるものがあるが、金属でできているため非常に導電性が高く、カーボンナノチューブと同様の大きさにすることが可能であるが、分散させる液体が樹脂などの疎水性である場合、凝集して分散が困難となる傾向がある。
導電性繊維状粒子2の含有量について、高誘電率化するには多く分散させる方が良いが、一方、分散量を多くすると導電性繊維状粒子2同士が接触し導電経路を形成していくため樹脂全体の抵抗率が低下していき絶縁物ではなくなる傾向がある。
【0017】
導電性繊維状粒子2の含有量は、真空バルブ用高誘電率樹脂1全体の体積を100%したときに0.5体積%以上5体積%以下にすることができる。0.5体積%未満であると、十分な比誘電率が得られない傾向があり、5体積%を超えると、高誘電率樹脂1全体の重量の増加、導電性繊維状粒子2の沈降、および粘度の上昇の抑制が困難となる傾向がある。
導電性繊維状粒子2を分散する樹脂4として、例えばエポキシ樹脂などを用いることができる。樹脂4がエポキシ樹脂であるとき硬化剤としては、ポリエーテルアミンを用いることができる。
【0018】
実施例1-1
図1に示す構成を有する実施例1-1の真空バルブ用高誘電率樹脂を以下のように調製し、試料を作成して、その比誘電率を測定し、その粘度について観察した。
樹脂はエポキシ樹脂(誘電率4程度)、導電性繊維状粒子はカーボンナノファイバー(CNF)を使用した。エポキシ樹脂は、主剤にビスフェノールA、硬化剤にポリエーテルアミンを使用した。CNFは直径200~800nm、長さ1~20μmの繊維状のアスペクト比をもつものを使用した。
【0019】
まず、この主剤、硬化剤、及び1、3、及び5体積%のCNFを各々混合して分散させ、3種類の未硬化の樹脂混合物を調製した。主剤と硬化剤の混合、CNFの分散には遊星攪拌装置を使用した。
次に、各樹脂混合物を金型へ流し込み、室温硬化させ、試料として、縦100mm、横100mm、厚さ2mmの大きさの高誘電率樹脂の板を3種類作製した。
3つの試料に対し、周波数100kHzで比誘電率の測定を実施した。比誘電率は、エヌエフ回路設計ブロック社製LCZメーター2340を用い、JIS K 6911「熱硬化性プラスチック一般試験方法」に則り測定した。
得られた結果をグラフにプロットした。
【0020】
図2に、実施例1-1についてCNF含有量と比誘電率との関係を表すグラフ図を示す。
図示するように、例えばCNF含有量が5体積%の試料では比誘電率23となり、大きく比誘電率が向上し高誘電率化することが可能であることがわかった。粘度については、1体積%のCNFを含む樹脂混合物、及びCNF含有量が3体積%の樹脂混合物は、主剤にビスフェノールA、硬化剤にポリエーテルアミンを含み、何も混合していない状態のエポキシ樹脂と比較して、若干の増粘はあるものの金型への流し込みは問題なく実施できる程度であった。CNF含有量が5体積%の試料では明らかに増粘していたが、金型への流し込みは可能であった。また、試料の板にボイドなどの欠陥は見られなかった。
【0021】
比較例1
比較として、高誘電率粒子としてBTOを使用した真空バルブ用高誘電率樹脂について調べた。
主剤にビスフェノールA、硬化剤にポリエーテルアミンを使用し、この主剤、硬化剤、及び高誘電率粒子として、18、30、40、及び50体積%のチタン酸バリウム(BTO)を実施例1-1と同様にして各々混合して分散させ、4種類の未硬化の樹脂混合物を調製した。BTOの粒径は6~8μm、形状は球状のものを使用した。
各樹脂混合物を用いて、実施例1-1と同様にして、試料を作成し、比誘電率の測定を行った。
得られた結果をグラフにプロットした。
【0022】
図3に、比較例1について、BTOの含有量と比誘電率との関係を表すグラフ図を示す。
図示するように、18体積%の含有量で比誘電率は8~10程度、30体積%で15~16程度の比誘電率、40体積%で20程度の比誘電率、50体積%で25程度の比誘電率となった。30体積%の含有量で粘度はかなり高くBTO粒子の沈降が発生していた。例えばCNF含有量が5体積%の試料の比誘電率23と同程度とするにはBTO含有量は約10倍の50体積%程度が必要となる。しかしながら、BTO含有量50体積%では増粘しすぎて樹脂の流動性が乏しく、金型へ流し込むことが難しかったため、金属板に樹脂を挟み圧力をかけてプレスして成形を行った。このように、導電性繊維状粒子を使用することにより、より少ない含有量で高誘電率かつ増粘を抑制した樹脂を作製することが可能となることがわかった。
【0023】
なお、
図1では、導電性繊維状粒子は途中で屈曲しない直線状であり、円柱形状、あるいは直方体のイメージで描かれているが、そのような形状を限定するものではなく、途中で屈曲していてもよく、形状が円柱形状や直方体でなくともよい。
試料として、実施例1-1と同様にして、1、3、及び5体積%のCNFを含む作成された真空バルブ用高誘電率樹脂を作成し、体積抵抗率を測定した。
【0024】
図4に、実施例1-1について、CNFの含有量と体積抵抗率との関係を表すグラフ図を示す。
図示するように、CNF5体積%の試料では体積抵抗率が3.4×10
9Ωcmとなり、CNF1体積%の試料では1×10
15Ωcm以上であるため、大きく抵抗率が低下することが分かる。絶縁性を維持するため抵抗率としては1×10
9Ωcm以上にすることが可能であり、つまり導電性繊維状粒子の含有量としては樹脂混合物全体の体積を100%としたときに導電性繊維状粒子の含有量は5体積%以下にすることができる。一方、導電性繊維状粒子の含有量は、少なすぎても誘電率を上昇させる効果が得られない傾向があるため、
図2の結果から予測し、樹脂のみの誘電率以上とするためには導電性繊維状粒子の含有量を0.5体積%以上にすることができる。
【0025】
実施例2
第1実施形態に係る真空バルブ用高誘電率樹脂は、非導電性粒子をさらに含むことができる。
図5は、実施例2に係る真空バルブ用高誘電率樹脂の断面構造を表すモデル図を示す。
図示するように、実施例2に係る真空バルブ用高誘電率樹脂1は、導電性繊維状粒子2と、非導電性粒子3と、それを分散させる樹脂4とで構成されている。導電性繊維状粒子2は、導電性をもち粒子径が小さく長さが長い繊維状のアスペクト比をもつ。また、導電性繊維状粒子2は、ランダムな方向を向いて高誘電率樹脂1中に分散するように配列している。また、非導電性粒子3は、高誘電率樹脂1内における導電性繊維状粒子2間の領域、及びそれ以外の領域にランダムに配置することができる。また、導電性繊維状粒子2を分散させる際に、非導電性粒子3を合わせて分散させることで、さらなる高誘電率化、樹脂の機械的特性の向上、粘度の調整といった効果が期待できる。例えば高誘電率粒子としてBTOを導電性繊維状粒子2とともに分散させた場合、導電性繊維状粒子2のみを樹脂中に分散させた場合よりさらに高誘電率化が可能となる。
【0026】
非導電性粒子は、1010Ωcm以上の体積抵抗率を有することができる。
非導電性粒子3としては、高誘電率化の目的、機械的特性の向上目的、または粘度の調整目的で種々の非導電性粒子材料を使用することが可能である。高誘電率化の目的では例えばチタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、酸化チタン、酸化アルミニウム、ニオブ酸マグネシウム酸バリウム、チタン酸ネオジウム酸バリウム、ジルコニアなどがあげられる。機械的特性の向上目的では破砕シリカ、球状シリカ、ゴム粒子、酸化アルミニウム、酸化マグネシウムなどがあげられる。粘度の調整目的では、数10nm~数μmの微小シリカを分散すると粘度上昇に寄与し、10μmを超える球状シリカを分散すると同量の破砕シリカを分散した場合と比較して粘度を低くすることが出来る。
【0027】
実施例2-1
図5に示す構成を有する真空バルブ用高誘電率樹脂の一例を以下のように調整し、試料を作成して、その比誘電率を測定し、その粘度を観察した。
実施例1-1と同様の主剤、硬化剤及びCNFを使用し、CNFの含有量を1、3、及び5体積%とし、さらに非導電性粒子としてチタン酸バリウム(BTO)18体積%を混合して分散させ、3種類の未硬化の樹脂混合物を調製した。BTOは、6~8μmの粒径を有し、球状のものを使用した。
これらの樹脂混合物を用いて、実施例1と同様にして3つの試料を作成し、実施例1-1と同様にして周波数100kHzで比誘電率の測定を実施した。
得られた結果をグラフにプロットした。
【0028】
図6に、実施例2-1についてCNFの含有量と比誘電率との関係を表すグラフ図を示す。
図示するように、例えばCNF含有量が5体積%、かつBTO含有量が18体積%の試料では、比誘電率は37程度となり、実施例1-1のCNF含有量が5体積%の試料が比誘電率23程度であることと比較して、さらに大きく比誘電率が向上し、高誘電率化することが可能であることがわかった。CNFとBTOを同時に分散させた場合の体積抵抗率は、CNFのみを同体積分散させた場合とほぼ同じであった。
【0029】
また、粘度については、同じ比誘電率を実現する場合、例えば比誘電率23程度とすると、BTOのみでは50体積%、CNFのみでは5体積%、CNFとBTO両方ではCNF3体積%、BTO18体積%の含有量が各々必要であった。CNFのみ分散させた場合より、CNF、BTOを両方分散させた場合の方が粘度は高いが、金型に流し込むことは容易な程度の粘度であり、取り扱いに差はなかった。また、試料の板にボイドなどの欠陥は見られなかった。これに対し、BTOのみ50体積%含む樹脂は、金型へ流し込むことが難しいほどの粘度となってしまい扱いが難しかった。実施形態に使用される非導電性粒子は、導電性を持つ場合、導電性繊維状粒子と接触して導電経路を形成し、樹脂全体が導電性となってしまうため、その体積抵抗率が10
9Ωcm以上であることが望ましい。また、
図5において非導電性粒子は球形で描かれているが、粒子の形状は、球形に限定するものではなく、不定形、円柱状、直方体、及び楕円体等の種々の形状を用いることが可能であり、2種類以上の形状及び/または材質を有する粒子が含まれていてもよい。
【0030】
実施例3
図7に、実施例3として、第2実施形態にかかる真空バルブの一例を表す概略的な断面図を示す。
図示するように、真空バルブ100は、両端に開口部を有し、例えばアルミナ磁器等よりなる筒状のセラミックス容器10と、一方の開口部に封着された固定側封着金具11と、他方の開口部に封着された可動側封着金具12とを備えており、真空バルブ100内は真空が維持されている。固定側封着金具11及び可動側封着金具12は、各々、導電体であり、例えばステンレス鋼等の金属材料により形成することができる。固定側封着金具11には中央開口部が設けられ、固定側通電軸13が貫通固定されている。固定側通電軸13のセラミックス容器10内の端部に固定側接点14が固着されている。固定側接点14に対向し、切離自在の一対の接点となる可動側接点15は、可動側封着金具12に設けられた中央開口部を移動自在に貫通する可動側通電軸16の端部に固着されている。この可動側通電軸16では、中央部分より可動側封着金具12側の部分がセラミックス容器10の外に導出される部分となっており、その部分に、気密封止のための伸縮自在の筒状のベローズ17が配設されている。ベローズ17の自由端17-2は可動側通電軸16の中央部分に封着され、固定端17-1は可動側封着金具12の中央開口部に封着されている。固定側接点14と可動側通電軸16の周囲には、筒状のアークシールド18が設けられている。
【0031】
アークシールド18は、筒状のアークシールド本体18-1と、アークシールド本体18-1の外側面を支持するリング状の支持部18-2とを備えている。アークシールドは導電体であり、例えばステンレス鋼等の金属材料により形成することができる。
絶縁容器としてのセラミックス容器10は2室型であり、第1開口端10-1a及び第2開口端10-1bを有する固定側の第1セラミックス容器10-1と、両端に第3開口端10-2a及び第4開口端10-2bを有する可動側の第2セラミックス容器10-2とに分かれている。第1セラミックス容器10-1と第2セラミックス容器10-2との間にアークシールド18を固定する支持部18-2が設けられ、第2開口端10-1b及び第3開口端10-2aは支持部18-2に、各々接合して固着されている。
【0032】
また、固定側封着金具11は、円盤状の固定側封着板11-1と、固定側封着板11-1の内面の外周側に設けられた封着部11-2とを有し、封着部11-2は第1開口端10-1aに接合して封着されている。可動側封着金具12は円盤状の固定側封着板12-1と、封着板12-1の内面の外周側に設けられた封着部12-2とを有し、封着部12-2は第4開口端10-2bに接合して封着され、真空容器としての真空バルブ100を構成している。
このとき、固定側封着金具11の封着部11-2と第1開口端10-1aの間が第1接合部51、第2開口端10-1bと支持部18-2の間が第2接合部52、第3開口端10-2aと支持部18-2の間が第3接合部53、可動側封着金具12の封着部12-2と第4開口端10-2bの間が第4接合部54となる。
【0033】
図8に、
図7の第1接合部付近の領域101を拡大した図を示す。
図示するように、第1接合部51の外表面には、固定側封着金具11と導通可能な金属部材と、第1セラミックス容器10-1の絶縁体と、その外表面の空気とが重なるTJ41-1が存在する。第1実施形態に係る真空バルブ用高誘電率樹脂層43-1は、TJ41-1を覆うように設けることができる。第1接合部51と同様に、第2接合部52、第3接合部53、第4接合部54の外表面には、封着部11-2または12-2の金属と第1セラミックス容器10の絶縁体と、空気とが重なるTJが存在し、これを覆うように第1実施形態に係る真空バルブ用高誘電率樹脂層を設けることができる。
このように、第2実施形態に係る真空バルブ100が構成されている。
【0034】
また、真空バルブ100の周りに、図示しない絶縁層を設けることができる。絶縁材料として例えばエポキシ樹脂を用いることができる。
絶縁層の外周には、図示しない接地層をさらに設けることができる。また、絶縁層の固定側通電軸13側の端部、絶縁層の可動側通電軸16の端部には、各々、図示しない界面接続部を設けることが可能であり、同様の界面接続部と接続可能にすることができる。これにより、モールド真空バルブを構成することが可能である。
【0035】
第2実施形態によれば、各接合部51、52、53、54において絶縁容器と封着金具と導通可能な金属部材との間の外表面のTJのうち少なくとも1つ例えばTJ41-1を覆う第1真空バルブ用高誘電率樹脂層43-1を真空容器外に設けることにより、高電界を緩和することができる。
封着金具と導通可能な金属部材としては、例えば封着金具を構成する金属部材、及び封着金具との接合強度を改善するために絶縁容器に設けられたメタライズ部などがあげられる。
【0036】
ここでは、実施形態に係る高誘電率樹脂をTJに適用した真空バルブを例に説明したが、その他の機器でもTJは存在しているため、実施形態に係る高誘電率樹脂は、空バルブ以外の機器に用いても構わない。また、他のTJの構造体例えばメタライズ部を有するセラミックス部材とメタライズ部と接する金属部材とを有する構造において、セラミックス部材と金属部材との間にメタライズ部の先端を被覆するように使用することができる。
【0037】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0038】
1…真空バルブ用高誘電率樹脂、2…導電性繊維状粒子、3…非導電性粒子、10…絶縁容器、10-1a…第1開口端、10-1b…第2開口端、10-2…第2セラミックス容器、10-2a…第3開口端、10-2b…第4開口端、11…固定側封着金具、11-2、12-2……封着部、12…可動側封着金具、13…固定側通電軸、14…固定側接点(電極)、15…可動側接点(電極)、16…可動側通電軸、41-1…トリプルジャンクション(3重点)、43-1…真空バルブ用高誘電率樹脂層、100…真空バルブ