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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162107
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】二酸化炭素回収システム
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/32 20060101AFI20241114BHJP
   C25B 1/01 20210101ALI20241114BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20241114BHJP
   C25B 15/02 20210101ALI20241114BHJP
【FI】
B01D53/32
C25B1/01 Z
C25B9/00 Z
C25B15/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023077325
(22)【出願日】2023-05-09
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001472
【氏名又は名称】弁理士法人かいせい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 喜幸
【テーマコード(参考)】
4K021
【Fターム(参考)】
4K021AA09
4K021BB03
4K021CA06
4K021DB04
(57)【要約】
【課題】CO回収に必要なエネルギを低減することができる二酸化炭素回収システムを提供する。
【解決手段】電気化学セル101の作用極104および対極106に接続された電源部21と、電源部を制御して、作用極と対極との間に第1電圧を印加することでCO吸着材にCOを吸着させる吸着工程と、作用極と対極との間に第1電圧とは異なる第2電圧を印加する、または作用極と対極との間に電圧を印加しないことでCO吸着材からCOを脱離させる脱離工程と、を切り替える制御装置20と、を備え、吸着工程では、対極から作用極に電子が供給され、CO吸着材は電子が供給されることに伴ってCOを吸着し、脱離工程では、作用極から対極に電子が供給され、CO吸着材は電子を放出するとともにCOを脱離し、さらに、脱離工程においてCO吸着材から放出された電子を利用するバッテリ22を備える。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CO吸着材を含む作用極(104)と、対極(106)と、を有する電気化学セル(101)を備え、
電気化学反応によってCOを含有するCO含有ガスからCOを分離する二酸化炭素回収システムであって、
前記作用極および前記対極に接続された電源部(21)と、
前記電源部を制御して、前記作用極と前記対極との間に第1電圧を印加することで前記CO吸着材にCOを吸着させる吸着工程と、前記作用極と前記対極との間に前記第1電圧とは異なる第2電圧を印加する、または前記作用極と前記対極との間に電圧を印加しないことで前記CO吸着材からCOを脱離させる脱離工程と、を切り替える制御部(20)と、を備え、
前記吸着工程では、前記対極から前記作用極に電子が供給され、前記CO吸着材は電子が供給されることに伴ってCOを吸着し、
前記脱離工程では、前記作用極から前記対極に電子が供給され、前記CO吸着材は電子を放出するとともにCOを脱離し、
さらに、前記脱離工程において前記CO吸着材から放出された電子を利用する電子利用部(22、101B)を備える二酸化炭素回収システム。
【請求項2】
前記脱離工程において前記CO吸着材から放出された電子を蓄える蓄電部(22)を備え、
前記制御部は、前記吸着工程において、前記蓄電部に蓄えられた電子を前記作用極に供給し、
前記電子利用部は、前記蓄電部を含む請求項1に記載の二酸化炭素回収システム。
【請求項3】
前記電気化学セルは、複数設けられており、
前記制御部は、複数の前記電気化学セルのうちの少なくとも1つの電気化学セル(101A)を前記脱離工程に切り替えるとともに、他の電気化学セル(101B)を吸着工程に切り替え、
前記制御部は、前記少なくとも1つの電気化学セルの前記脱離工程において前記CO吸着材から放出された電子を、前記他の電気化学セルの前記CO吸着材に供給し、
前記電子利用部は、前記他の電気化学セルを含む請求項1に記載の二酸化炭素回収システム。
【請求項4】
前記制御部は、前記脱離工程において前記作用極と前記対極との間を流れる放電電流の波形が予め定めた基準波形に近づくように、電気特性を制御する請求項1ないし3のいずれか1つに記載の二酸化炭素回収システム。
【請求項5】
前記制御部は、前記電気化学セルの劣化度合いに応じて前記基準波形を調整する請求項4に記載の二酸化炭素回収システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、COを含有するCO含有ガスからCOを回収する二酸化炭素回収システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に、CO(二酸化炭素)が含まれる混合ガスから回収対象ガスであるCOを回収する二酸化炭素回収システムが開示されている。特許文献1の二酸化炭素回収システムは、電気化学反応によってCOを吸着する電気化学セルを備えている。
【0003】
電気化学セルは、作用極、対極、電解質部等を有している。作用極は、混合ガスからCOを吸収するCO吸着材を含んでいる。対極は、作用極と電子の授受を行う電気活性補助材を含んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-203193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
二酸化炭素回収システムでは、電気化学セルにおける作用極と対極の間の電位差を変化させることで、電気化学セルによるCOの吸着と脱離を切り替えている。具体的には、COの吸着時には、対極から作用極に電子が供給され、CO吸着材は電子が供給されることに伴ってCOを吸着する。COの脱離時には、作用極から対極に電子が供給され、CO吸着材は電子を放出するとともにCOを脱離する。
【0006】
ここで、本発明者の検討によると、COの脱離時にCO吸着材から放出された電子は、主にジュール熱として消費されており、有効に活用されていないことが明らかになった。このため、CO回収時のエネルギ効率に関して改善の余地がある。
【0007】
本発明は、上記点に鑑みて、CO回収に必要なエネルギを低減することができる二酸化炭素回収システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の二酸化炭素回収システムは、CO吸着材を含む作用極(104)と、対極(106)と、を有する電気化学セル(101)を備え、
電気化学反応によってCOを含有するCO含有ガスからCOを分離する二酸化炭素回収システムにおいて、
作用極および対極に接続された電源部(21)と、
電源部を制御して、作用極と対極との間に第1電圧を印加することでCO吸着材にCOを吸着させる吸着工程と、作用極と対極との間に第1電圧とは異なる第2電圧を印加する、または作用極と対極との間に電圧を印加しないことでCO吸着材からCOを脱離させる脱離工程と、を切り替える制御部(20)と、を備え、
吸着工程では、対極から作用極に電子が供給され、CO吸着材は電子が供給されることに伴ってCOを吸着し、
脱離工程では、作用極から対極に電子が供給され、CO吸着材は電子を放出するとともにCOを脱離し、
さらに、脱離工程においてCO吸着材から放出された電子を利用する電子利用部(22、101B)を備える。
【0009】
これによれば、電子利用部(22、101B)にて、脱離工程においてCO吸着材から放出された電子を利用することができる。したがって、脱離工程においてCO吸着材から放出された電子を有効に活用することができるので、CO回収に必要なエネルギを低減することが可能となる。
【0010】
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1実施形態に係る二酸化炭素回収システムの全体構成を示す概念図である。
図2】第1実施形態におけるCO回収装置を示す斜視図である。
図3】第1実施形態における複数の電気化学セルが積層された状態を示す斜視図である。
図4】第1実施形態における電気化学セルを示す斜視図である。
図5】第1実施形態に係る二酸化炭素回収システムの電気的構成を説明するための説明図である。
図6】第1実施形態に係る二酸化炭素回収システムの電気制御部を示すブロック図である。
図7】第1実施形態の工程切替制御に関するフローチャートである。
図8】第1実施形態の工程切替制御に関するタイムチャートである。
図9】第2実施形態に係る二酸化炭素回収システムの電気的構成を説明するための説明図である。
図10】第3実施形態に係る二酸化炭素回収システムの電気的構成を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
【0013】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態について図面を用いて説明する。図1に示すように、本実施形態の二酸化炭素回収システム1は、CO回収装置10、ポンプ11、流路切替弁12およびCO利用装置13を備えている。
【0014】
CO回収装置10は、供給ガスからCO(二酸化炭素)を分離して回収する装置である。CO回収装置10は、COを吸着および脱離する吸着部100を有している。
【0015】
供給ガスは、COを含有するCO含有ガスである。供給ガスは、CO以外のガスも含有している。供給ガスは、例えば大気や内燃機関の排気ガスを用いることができる。本実施形態では、供給ガスとして大気を用いている。
【0016】
CO回収装置10は、供給ガスが供給され、供給ガスからCOが回収された後の排出ガス(以下、CO除去ガスともいう)、あるいは供給ガスから回収したCOを排出する。CO回収装置10および吸着部100の構成については、後で詳細に説明する。
【0017】
ポンプ11は、供給ガスをCO回収装置10に供給し、COまたは排出ガスをCO回収装置10から排出する。図1に示す例では、CO回収装置10のガス流れ方向の下流側にポンプ11が設けられているが、CO回収装置10のガス流れ上流側にポンプ11が設けられていてもよい。
【0018】
流路切替弁12は、CO回収装置10から排出される出ガスの流路を切り替える三方弁である。流路切替弁12は、CO回収装置10から排出ガス(すなわち、CO除去ガス)が排出される場合は、出ガスの流路を大気側に切り替え、CO回収装置10からCOが排出される場合は、出ガスの流路をCO利用装置13側に切り替える。
【0019】
CO利用装置13は、COを利用する装置である。CO利用装置13としては、例えばCOを貯蔵する貯蔵タンクやCOを燃料に変換する変換装置を用いることができる。変換装置は、COをメタン等の炭化水素燃料に変換する装置を用いることができる。炭化水素燃料は、常温常圧で気体の燃料であってもよく、常温常圧で液体の燃料であってもよい。
【0020】
次に、本実施形態のCO回収装置10を図2図4を用いて説明する。図2図4において、紙面手前から紙面奥側に向かう方向がガス流れ方向であり、紙面上下方向がセル積層方向である。
【0021】
図2に示すように、CO回収装置10は、吸着部100および収容部110を備えている。収容部110は、箱状に形成されており、例えば金属材料を用いて構成することができる。
【0022】
吸着部100は、電気化学セル101を有している。電気化学セル101は、収容部110に収容されている。CO回収装置10は、電気化学セル101の電気化学反応によってCOの吸着および脱離を行い、供給ガスからCOを分離して回収する。
【0023】
収容部110は、2つの開口部を有している。これら2つの開口部は、供給ガスを内部に導入させる導入部110aと、排出ガスやCOを内部から排出させる排出部(図示せず)である。ガス流れ方向は、供給ガスが収容部110を通過する際の流れ方向であり、収容部110の導入部110aから排出部に向かう方向である。
【0024】
図2において、供給ガスは、紙面手前側から紙面奥側に向かって流れるようになっている。このため、収容部110は、図中の手前側が導入部110aとなっており、図中の奥側が排出部となっている。なお、収容部110の導入部110aおよび排出部には、それぞれを開閉する開閉部材(図示せず)が設けられている。
【0025】
収容部110の内部には、複数の電気化学セル101が積層して配置されている。複数の電気化学セル101が積層されているセル積層方向は、ガス流れ方向に直交する方向となっている。個々の電気化学セル101は板状に構成されており、板面がセル積層方向と交わるように配置されている。
【0026】
図3は、複数の電気化学セル101が積層された状態を示している。図4は、1個の電気化学セル101を示している。図4では、作用極集電層103などの電気化学セル101の構成要素を、それぞれ間隔を設けて図示しているが、実際はこれらの構成要素は接するように積層して配置されている。
【0027】
図3に示すように、隣接する電気化学セル101の間には、所定の隙間が設けられている。隣接する電気化学セル101の間に設けられた隙間は、供給ガスが流れるガス流路102を構成している。
【0028】
図3および図4に示すように、電気化学セル101は、作用極集電層103、作用極104、対極集電層105、対極106およびセパレータ107を備えている。隣り合う電気化学セル101は、ガス流路102を挟んで一方の作用極集電層103と他方の対極集電層105が対向している。
【0029】
図4に示すように、作用極104と対極106との間には、電解物質である電解液108が設けられている。本実施形態では、作用極104、対極106およびセパレータ107は、電解液108で飽和されている。
【0030】
作用極集電層103、作用極104、対極集電層105、対極106、セパレータ107は、それぞれ板状に構成されている。電気化学セル101は、作用極集電層103、作用極104、対極集電層105、対極106、セパレータ107が積層された積層体として構成されている。個々の電気化学セル101の作用極集電層103等が積層されている方向と、複数の電気化学セル101が積層されているセル積層方向は、同一方向である。
【0031】
作用極集電層103は、COを含んだ供給ガスが通過可能な孔を有する多孔質の導電性材料である。作用極集電層103としては、ガス透過性と導電性を有していればよく、例えば金属材料や炭素質材料を用いることができる。本実施形態では、作用極集電層103として金属多孔質体を用いている。
【0032】
作用極104は、CO吸着材、導電性物質、バインダを含んでいる。CO吸着材、導電性物質およびバインダは、混合物の状態で用いられる。
【0033】
CO吸着材は、電子を受け取ることで二酸化炭素を吸着し、電子を放出することで吸着していたCOを脱離する。CO吸着材としては、例えばポリアントラキノンを用いることができる。
【0034】
導電性物質は、CO吸着材への導電路を形成する。導電性物質としては、例えばカーボンナノチューブ、カーボンブラック、グラフェン等の炭素材料を用いることができる。
【0035】
バインダは、CO吸着材や導電性物質を保持するために設けられている。バインダとしては、例えば導電性樹脂を用いることができる。導電性樹脂としては、導電性フィラーとしてAg等を含有するエポキシ樹脂やポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素樹脂等を用いることができる。
【0036】
対極集電層105は導電性材料である。対極集電層105としては、例えば金属材料や炭素質材料を用いることができる。本実施形態では、対極集電層105として金属板を用いている。
【0037】
対極106は、電気活性補助材、導電性物質、バインダを含んでいる。対極106の導電性物質、バインダは、作用極104と同様の構成であるので説明を省略する。本実施形態では、対極106は、電子供与剤となる活物質を有する材質で構成されている。
【0038】
対極106の電気活性補助材は、作用極104のCO吸着材との間で電子の授受を行う補助的な電気活性種である。電気活性補助材としては、例えば金属イオンの価数が変化することで、電子の授受を可能とする金属錯体を用いることができる。このような金属錯体としては、フェロセン、ニッケロセン、コバルトセン等のシクロペンタジエニル金属錯体、あるいはポルフィリン金属錯体等を挙げることができる。これらの金属錯体は、ポリマーでもモノマーでもよい。
【0039】
セパレータ107は、作用極104と対極106の間に配置されており、作用極104と対極106を分離している。セパレータ107は、作用極104と対極106の物理的な接触を防いで電気的短絡を抑制するとともに、イオンを透過させる絶縁性イオン透過膜である。セパレータ107としては、セルロース膜やポリマー、ポリマーとセラミックの複合材料等を用いることができる。
【0040】
電気化学セル101には、作用極集電層103と対極集電層105に接続されたパワーユニット21が設けられている。パワーユニット21は、作用極104と対極106に所定の電圧を印加し、作用極104と対極106の電位差を変化させることができる。作用極104は負極であり、対極106は正極である。パワーユニット21の詳細については後述する。
【0041】
電気化学セル101は、作用極104と対極106の電位差を変化させることで、作用極104にCOを吸着させる吸着工程と、作用極104からCOを脱離させる脱離工程を切り替えて作動することができる。吸着工程は電気化学セル101を充電する充電工程であり、脱離工程は電気化学セル101を放電する放電工程である。
【0042】
吸着工程では、作用極104と対極106の間に第1電圧V1が印加され、対極106から作用極104に電子が供給される。第1電圧V1では、作用極電位<対極電位となっている。第1電圧V1は、例えば0.5~2.0Vの範囲内とすることができる。
【0043】
脱離工程では、作用極104と対極106の間に第2電圧V2が印加され、作用極104から対極106に電子が供給される。第2電圧V2は、第1電圧V1と異なる電圧である。第2電圧V2は、第1電圧V1より低い電圧であればよく、作用極電位と対極電位の大小関係は限定されない。つまり、脱離工程では、作用極電位<対極電位でもよく、作用極電位=対極電位でもよく、作用極電位>対極電位でもよい。第2電圧V2は0Vであってもよい。すなわち、脱離工程では、作用極104と対極106の間に電圧を印加しなくてもよい。
【0044】
次に、本実施形態の電解液108について説明する。本実施形態の二酸化炭素回収システム1では、電解液108は、供給ガス、作用極104および対極106の少なくとも1つに対して耐付加反応性および耐置換反応の少なくとも一方を有する物質を採用している。例えば、電解液108は、供給ガス、作用極104および対極106の少なくとも1つに対して付加反応および置換反応の少なくとも一方が生じない物質を用いることができる。
【0045】
具体的には、電解液108は、作用極104と対極106との間に電圧が印加された際に、供給ガス、作用極104および対極106の少なくとも1つに対して耐酸化還元反応性を有する物質を用いることができる。例えば、電解液108は、作用極104と対極106との間に電圧が印加された際に、供給ガス、作用極および対極の少なくとも1つに対して酸化還元反応を示さない物質を用いることができる。電解液108としては、例えばイオン液体を用いることができる。イオン液体は、常温常圧下で不揮発性を有する液体の塩である。
【0046】
次に、本実施形態の二酸化炭素回収システム1の作動工程について説明する。二酸化炭素回収システム1は、吸着工程および脱離工程を実行可能に構成されている。二酸化炭素回収システム1は、吸着工程、脱離工程、吸着工程、脱離工程、…の順に切り替えて作動する。二酸化炭素回収システム1の作動は、制御装置20によって制御される。
【0047】
吸着工程は、吸着部100が供給ガスに含まれるCOを吸着する吸着工程である。吸着工程では、ポンプ11が作動して吸着部100に供給ガスが供給される。吸着工程では、作用極104と対極106の間に印加される電圧を第1電圧V1とする。これにより、対極106の電気活性補助材による電子供与と、作用極104のCO吸着材の電子求引を同時に実現できる。
【0048】
対極106の電気活性補助材は電子を放出して酸化状態となり、対極106から作用極104に電子が供給される。作用極104のCO吸着材は、電子を受け取って還元状態となる。
【0049】
還元状態となったCO吸着材はCOの結合力が高くなり、供給ガスに含まれるCOを結合して吸着する。これにより、CO回収装置10は、供給ガスからCOを回収することができる。
【0050】
脱離工程では、出ガスの流路がCO利用装置13側となるように流路切替弁12を切り替える。脱離工程では、作用極104と対極106の間に印加される電圧を第2電圧V2とする。これにより、作用極104のCO吸着材による電子供与と、対極106の電気活性補助材の電子求引を同時に実現できる。
【0051】
作用極104のCO吸着材は、電子を放出して酸化状態となる。CO吸着材は、COの結合力が低下し、COを脱離して放出する。対極106の電気活性補助材は、電子を受け取って還元状態となる。
【0052】
CO吸着材から放出されたCOは、吸着部100から排出され、CO利用装置13に供給される。
【0053】
次に、本実施形態の二酸化炭素回収システム1の電気的構成について説明する。図5に示すように、二酸化炭素回収システム1は、制御装置20、パワーユニット21、バッテリ22、第1スイッチ装置23、第2スイッチ装置24および可変抵抗器25を備えている。
【0054】
制御装置20は、CPU、ROM及びRAM等を含む周知のマイクロコンピュータとその周辺回路から構成される。制御装置20は、ROMに記憶された制御プログラムに従って各種演算や処理を行う。
【0055】
また、制御装置20は、ポンプ11および流路切替弁12の制御を行う。制御装置20は、CO回収装置10の電気化学セル101に印加する電圧の制御、第1スイッチ装置23および第2スイッチ装置24の開閉制御を行う。
【0056】
パワーユニット21は、二酸化炭素回収システム1の電源装置である。パワーユニット21は、制御装置20の指令に従って、CO回収装置10、ポンプ11および流路切替弁12等に電源を供給する電源部である。パワーユニット21は、制御装置20の指令に従って、電気化学セル101に所定の電圧を印加することで、作用極と対極との電位差を変化させる。
【0057】
パワーユニット21には、外部電源である電力供給装置から電力供給される。本実施形態では、電力供給装置として商用系統電源を用いている。パワーユニット21は、商用系統電源から供給された交流電流を直流電流に変換して電気化学セル101に供給する。
【0058】
バッテリ22は、電気化学セル101に対して充放電可能に構成された蓄電部である。バッテリ22は、電気化学セル101に電気的に接続されている。
【0059】
第1スイッチ装置23は、制御装置20の指令に従って、パワーユニット21と電気化学セル101との通電をONまたはOFFする第1充放電切替部である。第2スイッチ装置24は、制御装置20の指令に従って、電気化学セル101とバッテリ22との通電をONまたはOFFする第2充放電切替部である。第1スイッチ装置23および第2スイッチ装置24は、例えば、アナログスイッチなどを有し、制御装置20によりアナログスイッチの開閉が切り替えられることで、通電をONまたはOFFする。
【0060】
可変抵抗器25は、一端が第2スイッチ装置24に接続され、他端がバッテリ22に接続される。制御装置20は、可変抵抗器25に対して抵抗値を指定する信号を出力することで、可変抵抗器25の抵抗値を制御する。本実施形態では、可変抵抗器25として、例えばデジタルポテンショメータを採用している。
【0061】
次に、本実施形態の二酸化炭素回収システム1における電気制御部の概要について説明する。図6に示すように、制御装置20は、CPU、ROMおよびRAM等を含む周知のマイクロコンピュータとその周辺回路から構成されている。制御装置20は、そのROM内に記憶された制御プログラムに基づいて各種演算、処理を行い、その出力側に接続された各種制御対象機器の作動を制御する。制御対象機器は、CO回収装置10、ポンプ11、流路切替弁12、第1スイッチ装置23、第2スイッチ装置24および可変抵抗器25等である。
【0062】
制御装置20の入力側には、CO濃度センサ30および放電電流センサ31が接続されている。制御装置20には、CO濃度センサ30および放電電流センサ31の検出信号が入力される。
【0063】
CO濃度センサ30は、吸着部100でCOを吸着された後の排出ガスに含まれるCOの濃度(以下、排出ガスCO濃度という)を検出するCO濃度検出部である。放電電流センサ31は、脱離工程において作用極104と対極106との間を流れる放電電流の電流値を検出する放電電流検出部である。
【0064】
制御装置20は、吸着状態検出部201および工程切替部202を有している。吸着状態検出部201は、吸着部100のCO吸着状態を検出する。本実施形態では、CO吸着状態として、吸着部100に吸着されたCO量(以下、吸着CO量という)を用いている。吸着状態検出部201は、CO濃度センサ30により検出された排出ガスCO濃度に基づいて、吸着CO量を検出する。
【0065】
工程切替部202は、二酸化炭素回収システム1の複数の作動工程を切り替える切替制御部である。すなわち、工程切替部202は、吸着工程を含む複数の工程を切り替える。工程切替部202は、吸着部100のCO吸着状態に基づいて、吸着工程から次の工程に移行するタイミングを決定する。本実施形態では、工程切替部202は、吸着状態検出部201により算出された吸着CO量に基づいて、吸着工程から脱離工程に移行するタイミングを決定する。
【0066】
続いて、本第1実施形態に係る二酸化炭素回収システム1による吸着工程および脱離工程の切替制御について、図7に示すフローチャートを参照して説明する。
【0067】
図7に示すように、まず、ステップS100において、吸着工程を開始する。具体的には、制御装置20は、予め定めた圧送能力を発揮するようにポンプ11の作動を制御する。制御装置20は、第1スイッチ装置23を、パワーユニット21と電気化学セル101との通電をONするように切り替える。制御装置20は、第2スイッチ装置24を、電気化学セル101とバッテリ22との通電をOFFするように切り替える。制御装置20は、作用極104と対極106の間に印加される電圧を第1電圧V1とする。
【0068】
次に、ステップS110では、吸着工程が完了したか否かを判定する。具体的には、電気化学セル101への吸着CO量が、予め定めた吸着CO量の上限値(以下、基準吸着量上限値という)以上になっているか否かを判断する。
【0069】
吸着CO量は、次のように算出することができる。まず、大気に含まれるCO濃度とCO濃度センサ30により検出された排出ガスCO濃度との差から、吸着部100に吸着されたCOの濃度(以下、吸着CO濃度という)を算出する。そして、吸着CO濃度と吸着部100を流れるCOの流速との積から、吸着CO量を算出する。
【0070】
ステップS110にて、吸着CO量が基準吸着量上限値以上となっておらず、吸着工程が完了していないと判定された場合はし、ステップS110を繰り返す。一方、ステップS110にて、吸着CO量が基準吸着量上限値以上となっており、吸着工程が完了したと判定された場合は、ステップS120へ進む。
【0071】
ステップS120では、吸着工程の次の工程である脱離工程に遷移する。具体的には、制御装置20は、出ガスの流路がCO利用装置13側となるように流路切替弁12を切り替える。制御装置20は、第1スイッチ装置23を、パワーユニット21と電気化学セル101との通電をOFFするように切り替える。制御装置20は、第2スイッチ装置24を、電気化学セル101とバッテリ22との通電をONするように切り替える。
【0072】
さらに、制御装置20は、作用極104と対極106の間に印加される電圧を第2電圧V2とする。本実施形態では、第2電圧を0Vとしている。すなわち、本実施形態では、脱離工程時に作用極104と対極106の間に電圧を印加しない。
【0073】
次に、ステップS130では、脱離工程における作用極104と対極106との間を流れる放電電流の波形(以下、放電電流波形という)を検出する。具体的には、制御装置20は、放電電流センサ31により検出された放電電流の電流値に基づいて放電電流波形を検出する。
【0074】
次に、ステップS140では、ステップS130で検出された放電電流波形が予め定めた基準波形に近づくように、電気特性を制御する放電電流制御を行う。具体的には、制御装置20は、放電電流波形が基準波形に近づくように、可変抵抗器25の抵抗値を制御する。基準波形は、予め制御装置20に記憶されている。
【0075】
ここで、電気化学セル101の劣化により、脱離工程における放電電流波形は変化する。このため、本実施形態では、制御装置20は、電気化学セル101の劣化度合いに応じて基準波形を調整している。
【0076】
次に、ステップS150では、脱離工程が完了したか否かを判定する。具体的には、例えば、放電電流センサ31により検出された放電電流の電流値が所定時間一定値を維持しているか否かを判断する。
【0077】
ステップS150にて、放電電流の電流値が所定時間一定値を維持しておらず、脱離工程が完了していないと判定された場合は、ステップS130に戻る。一方、ステップS150にて、放電電流の電流値が所定時間一定値を維持しており、脱離工程が完了したと判定された場合は、ステップS100に戻る。
【0078】
図8に示すように、吸着工程では、電気化学セル101の作用極104と対極106の間に第1電圧V1が印加される。これにより、対極106から作用極104に電子が供給され、作用極104のCO吸着材は電子が供給されることに伴ってCOを吸着する。
【0079】
次の脱離工程では、電気化学セル101の作用極104と対極106の間の印加電圧が0Vとされる。これにより、作用極104から対極106に電子が供給され、作用極104のCO吸着材は電子を放出するとともにCOを脱離する。CO吸着材から放出された電子はバッテリ22に蓄えられる。すなわち、電気化学セル101からの放電電荷により、バッテリ22が充電される。したがって、バッテリ22は、脱離工程においてCO吸着材から放出された電子を利用する電子利用部の一例に相当する。
【0080】
脱離工程では、電気化学セル101からの放電時に、放電電流波形が基準波形に近づくように可変抵抗器25の抵抗値が制御される。具体的には、図8の実線A1に示すように、最初は急速に放電させ、その後はゆっくりと徐々に放電させる。
【0081】
次の吸着工程では、電気化学セル101の作用極104と対極106の間に第1電圧V1が印加される。このとき、バッテリ22に蓄えられた電子が電気化学セル101の作用極104に補助的に供給される。したがって、脱離工程後の吸着工程では、バッテリ22に充電された電荷を補助的に利用している。
【0082】
以上説明したように、本実施形態の二酸化炭素回収システム1では、脱離工程においてCO吸着材から放出された電子を蓄えるバッテリ22を備えている。このため、吸着工程において、バッテリ22に蓄えられた電子を電気化学セル101の作用極104に補助的に供給することができる。その結果、CO回収に必要なエネルギを低減することが可能となる。
【0083】
また、本実施形態では、図7のステップS140に示すように、制御装置20が、脱離工程において放電電流波形が基準波形に近づくように、電気特性を制御している。具体的には、電気化学セル101からの放電時に、最初は急速に放電させ、その後はゆっくりと徐々に放電させている。これによれば、電気化学セル101からCOを早期に脱離させつつ、電気化学セル101に与えるダメージを最小限にすることができる。
【0084】
さらに、本実施形態では、電気化学セル101の劣化度合いに応じて放電電流の基準波形を調整している。これによれば、電気化学セル101の実際の状態に対応して、電気化学セル101の放電電流を制御することができる。
【0085】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について図面に基づいて説明する。本第2実施形態は、上記第1実施形態と比較して、電力供給装置として太陽光発電装置40を用いた点が異なる。
【0086】
図9に示すように、太陽光発電装置40は、太陽光パネル41および太陽光発電用バッテリ42(以下、発電用バッテリ42という)を備えている。太陽光パネル41は、入射した外光を光電変換して発電する発電部である。
【0087】
発電用バッテリ42は、太陽光パネル41にて発電された電力を蓄える。発電用バッテリ42は、電気化学セル101に対して充放電可能に構成されている。したがって、発電用バッテリ42は、蓄電部の一例に相当する。
【0088】
その他の構成は、第1実施形態と同様である。したがって、第2実施形態の二酸化炭素回収システム1においても、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。さらに、第2実施形態では、太陽光発電装置40の発電用バッテリ42が、電気化学セル101に対して充放電可能に構成されている。このため、脱離工程においてCO吸着材から放出された電子を蓄えるためのバッテリを別途設ける必要がない。その結果、二酸化炭素回収システム1の構成を簡素化することが可能となる。
【0089】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について図面に基づいて説明する。本第3実施形態は、上記第1実施形態と比較して、電子利用部の構成が異なる。
【0090】
図10に示すように、本実施形態の二酸化炭素回収システム1は、複数の電気化学セル101A、101Bを備えている。具体的には、本実施形態の二酸化炭素回収システム1は、複数の電気化学セル101A、101Bとして、第1セル101Aおよび第2セル101Bを備えている。
【0091】
第1セル101Aおよび第2セル101Bは、電気的に接続されるとともに、並列に配置されている。第1セル101Aと第2セル101Bとの間には、第2スイッチ装置24および可変抵抗器25が接続されている。
【0092】
第1セル101Aおよび第2セル101Bは、互いに異なる作動工程が実行されるように構成されている。すなわち、制御装置20は、第1セル101Aに吸着工程を実行させるとともに、第2セル101Bに脱離工程を実行させる。その後、第1セル101Aを脱離工程に切り替えるとともに、第2セル101Bを吸着工程に切り替える。
【0093】
そして、制御装置20は、第1セル101Aの脱離工程においてCO吸着材から放出された電子を、第2セル101BのCO吸着材に供給する。このとき、第2セル101Bは、第1セル101Aの脱離工程においてCO吸着材から放出された電子を利用する電子利用部の一例に相当する。
【0094】
その他の構成は、第1実施形態と同様である。したがって、第3実施形態の二酸化炭素回収システム1においても、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0095】
(他の実施形態)
本発明は上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、以下のように種々変形可能である。また、上記各実施形態に開示された手段は、実施可能な範囲で適宜組み合わせてもよい。
【0096】
(1)例えば、上述した実施形態では、二酸化炭素回収システム1を、吸着工程および脱離工程を実行可能に構成した例について説明したが、この態様に限定されない。例えば、二酸化炭素回収システム1を、吸着工程、掃気工程および脱離工程を実行可能に構成するとともに、吸着工程、掃気工程、脱離工程、吸着工程、掃気工程、脱離工程…の順に切り替えて作動させてもよい。
【0097】
具体的には、掃気工程では、収容部110における導入部110aの開閉部材を閉じた状態で、ポンプ11を作動させる。掃気工程では、出ガスの流路が大気側となるように流路切替弁12を切り替える。これにより、収容部110内に存在するガスが大気に排出される。このとき、吸着部100内のCOは、作用極104のCO吸着材に吸着されたままの状態である。
【0098】
(2)上述した実施形態では、可変抵抗器25としてデジタルポテンショメータを採用した例について説明したが、可変抵抗器25はこの態様に限定されない。例えば、可変抵抗器25として、並列に配置された複数の抵抗素子と、各抵抗素子への通電をONまたはOFFする複数のスイッチとを設けてもよい。
【0099】
(3)上述した実施形態では、脱離工程時に作用極104と対極106の間に印加する第2電圧V2を0Vに設定した例について説明したが、この態様に限定されない。例えば、第2電圧V2は、第1電圧V1より低い電圧であれば任意の電圧に設定することができる。
【符号の説明】
【0100】
20 制御装置(制御部)
21 パワーユニット(電源部)
22 バッテリ(電子利用部)
101 電気化学セル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10