(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162114
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】工業油循環再生管理方法、工業油循環再生管理システム、および、再生工業油組成物製造方法
(51)【国際特許分類】
C10M 175/00 20060101AFI20241114BHJP
C10M 175/02 20060101ALI20241114BHJP
C10M 137/02 20060101ALI20241114BHJP
C10M 129/76 20060101ALI20241114BHJP
C10M 101/02 20060101ALI20241114BHJP
C10N 70/00 20060101ALN20241114BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20241114BHJP
C10N 40/12 20060101ALN20241114BHJP
C10N 40/00 20060101ALN20241114BHJP
C10N 40/02 20060101ALN20241114BHJP
C10N 40/04 20060101ALN20241114BHJP
C10N 40/30 20060101ALN20241114BHJP
C10N 40/22 20060101ALN20241114BHJP
C10N 40/24 20060101ALN20241114BHJP
【FI】
C10M175/00
C10M175/02
C10M137/02
C10M129/76
C10M101/02
C10N70:00
C10N30:00 Z
C10N40:12
C10N40:00 A
C10N40:02
C10N40:04
C10N40:30
C10N40:22
C10N40:24
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023077339
(22)【出願日】2023-05-09
(71)【出願人】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】弁理士法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤尾 祐司
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA07A
4H104BB35C
4H104BH02C
4H104DA02A
4H104JA03
4H104JA04
4H104JA05
4H104LA20
(57)【要約】
【課題】工業油組成物を適正に循環再生することができる工業油循環再生管理方法、工業油循環再生管理システム、および、再生工業油組成物製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】工業油循環再生管理システムにおいて実行される工業油循環再生管理方法、再生工業油組成物製造方法は、工業油使用装置2から使用済みの工業油組成物C1を回収する回収工程と、回収した使用済みの工業油組成物C1から基油を含む再生油組成物C2を再生する再生工程と、工業油使用装置2で再使用する再生後の工業油組成物C1の組成を決定する組成決定工程と、組成決定工程で決定された組成に基づいて、再生後の再生油組成物C2に機能性添加剤を添加して、再生後の工業油組成物C1を製造する製造工程とを含み、組成決定工程では、組成の決定において、再生油組成物C2に添加する機能性添加剤を調整することで、循環再生される工業油組成物C1を管理する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油と機能性添加剤とを含む工業油組成物を使用する工業油使用装置から使用済みの前記工業油組成物を回収する回収工程と、
回収した前記使用済みの前記工業油組成物から前記基油を含む再生油組成物を再生する再生工程と、
前記工業油使用装置で再使用する再生後の前記工業油組成物の組成を決定する組成決定工程と、
前記組成決定工程で決定された前記組成に基づいて、再生後の前記再生油組成物に前記機能性添加剤を添加して、前記工業油使用装置で再使用する前記再生後の前記工業油組成物を製造する製造工程とを含み、
前記組成決定工程では、前記組成の決定において、前記再生油組成物に添加する前記機能性添加剤を調整することで、循環再生される前記工業油組成物を管理する、
工業油循環再生管理方法。
【請求項2】
回収した前記使用済みの前記工業油組成物の状態を分析する分析工程を含み、
前記組成決定工程では、前記分析工程での分析結果に基づいて、前記工業油使用装置で再使用する前記再生後の前記工業油組成物の組成を決定する、
請求項1に記載の工業油循環再生管理方法。
【請求項3】
前記組成決定工程では、前記再生油組成物の循環総量、前記工業油使用装置での使用に伴った前記工業油組成物の劣化傾向、前記工業油使用装置の稼働状況、前記工業油使用装置の稼働予測、前記使用済みの前記工業油組成物から前記再生油組成物を再生する再生装置における再生能力、前記再生装置の稼働率、前記工業油組成物を製造する製造装置における製造能力、前記製造装置の稼動率、前記製造装置と前記工業油使用装置と前記再生装置との相互間で前記工業油組成物または前記再生油組成物を輸送する輸送体における輸送能力、前記輸送体の稼働率、前記工業油組成物または前記再生油組成物を貯留する貯留設備の貯留能力、および、前記貯留設備の稼働率のうちの少なくとも1つに基づいて、前記工業油使用装置で再使用する前記再生後の前記工業油組成物の組成を決定する、
請求項1または請求項2に記載の工業油循環再生管理方法。
【請求項4】
前記工業油組成物の管理は、予め想定される使用期間経過後の前記使用済みの前記工業油組成物の品質の管理を含み、
前記組成決定工程では、前記組成の決定において、前記再生油組成物に添加する前記機能性添加剤を調整することで、前記使用期間経過後の前記使用済みの前記工業油組成物の品質を管理する、
請求項1に記載の工業油循環再生管理方法。
【請求項5】
前記組成決定工程では、前記使用期間経過後の前記使用済みの前記工業油組成物の品質が目標の品質となるように、前記再生後の前記工業油組成物の前記組成を調整する、
請求項4に記載の工業油循環再生管理方法。
【請求項6】
前記工業油組成物の管理は、循環再生される前記再生油組成物の循環再生サイクルの管理を含み、
前記組成決定工程では、前記組成の決定において、前記再生油組成物に添加する前記機能性添加剤を調整することで、当該再生油組成物の循環再生サイクルを管理する、
請求項1または請求項4に記載の工業油循環再生管理方法。
【請求項7】
前記組成決定工程では、前記工業油使用装置における前記再生後の前記工業油組成物の耐用期間が目標の期間となるように、前記再生後の前記工業油組成物の前記組成を調整する、
請求項6に記載の工業油循環再生管理方法。
【請求項8】
前記組成決定工程では、複数の前記工業油使用装置ごとに、それぞれ、当該工業油使用装置で再使用される前記再生後の前記工業油組成物の前記組成を調整する、
請求項1に記載の工業油循環再生管理方法。
【請求項9】
前記工業油組成物は、
前記基油として鉱油(A1)または合成油(A2)と、
酸化防止剤として下記式(B)で表される中性亜リン酸エステル誘導体および下記式(C)で表される2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体と、
前記機能性添加剤とを含み、
前記再生工程では、前記使用済みの前記工業油組成物を精製処理する精製処理工程により、前記使用済みの前記工業油組成物から前記基油を含む前記再生油組成物を再生し、前記精製処理として、吸着処理または水素化脱硫処理あるいは減圧蒸留処理を行い、
前記製造工程では、前記再生後の前記再生油組成物に、前記酸化防止剤と、前記機能性添加剤とを添加する添加工程を含み、
前記工業油使用装置で使用する前の前記工業油組成物に比較して、前記使用済みの前記工業油組成物の方が、前記機能性添加剤の含有率が少ない、
請求項1に記載の工業油循環再生管理方法。
【化1】
(上記式(B)中、R
b21~R
b24は、それぞれ独立に、炭素原子数10~16の脂肪族炭化水素基を表し、R
b25~R
b28は、それぞれ独立に、炭素原子数1~6の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表し、R
b291およびR
b292は、それぞれ独立に、水素原子または炭素原子数1~5の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表し、R
b291およびR
b292の炭素原子数の合計は、1~5である。)
【化2】
(上記式(C)中、R
c1は、炭素原子数1~12の直鎖もしくは分枝状のアルキル基である。)
【請求項10】
基油と機能性添加剤とを含む工業油組成物を使用する工業油使用装置から回収した使用済みの前記工業油組成物から前記基油を含む再生油組成物を再生する再生装置と、
前記工業油使用装置で再使用する再生後の前記工業油組成物の組成を決定する組成決定装置と、
前記組成決定装置により決定された前記組成に基づいて、再生後の前記再生油組成物に前記機能性添加剤を添加して、前記工業油使用装置で再使用する前記再生後の前記工業油組成物を製造する製造装置とを備え、
前記組成決定装置は、前記組成の決定において、前記再生油組成物に添加する前記機能性添加剤を調整することで、循環再生される前記工業油組成物を管理する、
工業油循環再生管理システム。
【請求項11】
前記工業油使用装置から回収した前記使用済みの前記工業油組成物の状態を分析する分析装置を備え、
前記組成決定装置は、前記分析装置による分析結果に基づいて、前記工業油使用装置で再使用する前記再生後の前記工業油組成物の組成を決定する、
請求項10に記載の工業油循環再生管理システム。
【請求項12】
前記工業油組成物は、
前記基油として鉱油(A1)または合成油(A2)と、
酸化防止剤として下記式(B)で表される中性亜リン酸エステル誘導体および下記式(C)で表される2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体と、
前記機能性添加剤とを含み、
前記再生装置は、前記使用済みの前記工業油組成物を精製処理することにより、前記使用済みの前記工業油組成物から前記基油を含む前記再生油組成物を再生し、前記精製処理として、吸着処理または水素化脱硫処理あるいは減圧蒸留処理を行い、
前記製造装置は、前記再生後の前記再生油組成物に、前記酸化防止剤と、前記機能性添加剤とを添加することにより、前記再生後の前記工業油組成物を製造し、
前記工業油使用装置で使用する前の前記工業油組成物に比較して、前記使用済みの前記工業油組成物の方が、前記機能性添加剤の含有率が少ない、
請求項10又は請求項11に記載の工業油循環再生管理システム。
【化3】
(上記式(B)中、R
b21~R
b24は、それぞれ独立に、炭素原子数10~16の脂肪族炭化水素基を表し、R
b25~R
b28は、それぞれ独立に、炭素原子数1~6の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表し、R
b291およびR
b292は、それぞれ独立に、水素原子または炭素原子数1~5の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表し、R
b291およびR
b292の炭素原子数の合計は、1~5である。)
【化4】
(上記式(C)中、R
c1は、炭素原子数1~12の直鎖もしくは分枝状のアルキル基である。)
【請求項13】
基油と機能性添加剤とを含む工業油組成物を使用する工業油使用装置から使用済みの前記工業油組成物を回収する回収工程と、
回収した前記使用済みの前記工業油組成物から前記基油を含む再生油組成物を再生する再生工程と、
前記工業油使用装置で再使用する再生後の前記工業油組成物の組成を決定する組成決定工程と、
前記組成決定工程で決定された前記組成に基づいて、再生後の前記再生油組成物に前記機能性添加剤を添加して、前記工業油使用装置で再使用する前記再生後の前記工業油組成物を製造する製造工程とを含み、
前記組成決定工程では、前記組成の決定において、前記再生油組成物に添加する前記機能性添加剤を調整することで、循環再生される前記工業油組成物を管理する、
再生工業油組成物製造方法。
【請求項14】
回収した前記使用済みの前記工業油組成物の状態を分析する分析工程を含み、
前記組成決定工程では、前記分析工程での分析結果に基づいて、前記工業油使用装置で再使用する前記再生後の前記工業油組成物の組成を決定する、
請求項13に記載の再生工業油組成物製造方法。
【請求項15】
前記工業油組成物は、
前記基油として鉱油(A1)または合成油(A2)と、
酸化防止剤として下記式(B)で表される中性亜リン酸エステル誘導体および下記式(C)で表される2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体と、
前記機能性添加剤とを含み、
前記再生工程では、前記使用済みの前記工業油組成物を精製処理する精製処理工程により、前記使用済みの前記工業油組成物から前記基油を含む前記再生油組成物を再生し、前記精製処理として、吸着処理または水素化脱硫処理あるいは減圧蒸留処理を行い、
前記製造工程では、前記再生後の前記再生油組成物に、前記酸化防止剤と、前記機能性添加剤とを添加する添加工程を含み、
前記工業油使用装置で使用する前の前記工業油組成物に比較して、前記使用済みの前記工業油組成物の方が、前記機能性添加剤の含有率が少ない、
請求項13又は請求項14に記載の再生工業油組成物製造方法。
【化5】
(上記式(B)中、R
b21~R
b24は、それぞれ独立に、炭素原子数10~16の脂肪族炭化水素基を表し、R
b25~R
b28は、それぞれ独立に、炭素原子数1~6の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表し、R
b291およびR
b292は、それぞれ独立に、水素原子または炭素原子数1~5の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表し、R
b291およびR
b292の炭素原子数の合計は、1~5である。)
【化6】
(上記式(C)中、R
c1は、炭素原子数1~12の直鎖もしくは分枝状のアルキル基である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工業油循環再生管理方法、工業油循環再生管理システム、および、再生工業油組成物製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、使用後の工業油組成物である廃油から再生重油を得る廃油再生処理システムが記載されている。具体的には、特許文献1には、廃油から遠心分離により不純物を除去する不純物除去工程と、不純物を除去した廃油を加熱し、さらに廃油に混入していた不純物を蒸発して除去し蒸留により再生重油を得る蒸留工程とを備える廃油再生処理システムが記載されている。ここで得られた再生重油は、燃料油として使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記廃油回収再生処理システムは、例えば、上記のように使用後の工業油組成物が燃料油として使用されるためCO2削減等の点で問題があるのみならず、当該工業油組成物の循環再生技術の社会実装の点で更なる改善の余地がある。
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、工業油組成物を適正に循環再生することができる工業油循環再生管理方法、工業油循環再生管理システム、および、再生工業油組成物製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る工業油循環再生管理方法は、基油と機能性添加剤とを含む工業油組成物を使用する工業油使用装置から使用済みの前記工業油組成物を回収する回収工程と、回収した前記使用済みの前記工業油組成物から前記基油を含む再生油組成物を再生する再生工程と、前記工業油使用装置で再使用する再生後の前記工業油組成物の組成を決定する組成決定工程と、前記組成決定工程で決定された前記組成に基づいて、再生後の前記再生油組成物に前記機能性添加剤を添加して、前記工業油使用装置で再使用する前記再生後の前記工業油組成物を製造する製造工程とを含み、前記組成決定工程では、前記組成の決定において、前記再生油組成物に添加する前記機能性添加剤を調整することで、循環再生される前記工業油組成物を管理する。
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る工業油循環再生管理システムは、基油と機能性添加剤とを含む工業油組成物を使用する工業油使用装置から回収した使用済みの前記工業油組成物から前記基油を含む再生油組成物を再生する再生装置と、前記工業油使用装置で再使用する再生後の前記工業油組成物の組成を決定する組成決定装置と、前記組成決定装置により決定された前記組成に基づいて、再生後の前記再生油組成物に前記機能性添加剤を添加して、前記工業油使用装置で再使用する前記再生後の前記工業油組成物を製造する製造装置とを備え、前記組成決定装置は、前記組成の決定において、前記再生油組成物に添加する前記機能性添加剤を調整することで、循環再生される前記工業油組成物を管理する。
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る再生工業油組成物製造方法は、基油と機能性添加剤とを含む工業油組成物を使用する工業油使用装置から使用済みの前記工業油組成物を回収する回収工程と、回収した前記使用済みの前記工業油組成物から前記基油を含む再生油組成物を再生する再生工程と、前記工業油使用装置で再使用する再生後の前記工業油組成物の組成を決定する組成決定工程と、前記組成決定工程で決定された前記組成に基づいて、再生後の前記再生油組成物に前記機能性添加剤を添加して、前記工業油使用装置で再使用する前記再生後の前記工業油組成物を製造する製造工程とを含み、前記組成決定工程では、前記組成の決定において、前記再生油組成物に添加する前記機能性添加剤を調整することで、循環再生される前記工業油組成物を管理する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る工業油循環再生管理方法、工業油循環再生管理システム、および、再生工業油組成物製造方法は、工業油組成物を適正に循環再生することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施形態に係る工業油循環再生管理システムの概略構成を表すブロック図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る工業油組成物の組成を模式的に表した模式図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係る使用済みの工業油組成物の組成の一例を模式的に表した模式図である。
【
図4】
図4は、実施形態に係る使用済みの工業油組成物の組成の一例を模式的に表した模式図である。
【
図5】
図5は、実施形態に係る使用済みの工業油組成物の組成の一例を模式的に表した模式図である。
【
図6】
図6は、実施形態に係る使用済みの工業油組成物の組成の一例を模式的に表した模式図である。
【
図7】
図7は、実施形態に係る使用済みの工業油組成物の組成の一例を模式的に表した模式図である。
【
図8】
図8は、実施形態に係る使用済みの工業油組成物の分析の一例(液体クロマトグラフィー)を説明する線図である。
【
図9】
図9は、実施形態に係る使用済みの工業油組成物の分析の一例(液体クロマトグラフィー)を説明する線図である。
【
図10】
図10は、実施形態に係る使用済みの工業油組成物の分析の一例(液体クロマトグラフィー)を説明する線図である。
【
図11】
図11は、実施形態に係る使用済みの工業油組成物の分析の他の一例(赤外分光分析)を説明する線図である。
【
図12】
図12は、実施形態に係る使用済みの工業油組成物の分析の他の一例(赤外分光分析)を説明する線図である。
【
図13】
図13は、実施形態に係る工業油循環再生管理方法、再生工業油組成物製造方法の各工程の流れの一例を表す図である。
【
図14】
図14は、実施形態に係る工業油循環再生管理方法、再生工業油組成物製造方法において選択可能な機能性添加剤の一例について説明する模式図である。
【
図15】
図15は、実施形態に係る工業油循環再生管理方法、再生工業油組成物製造方法における組成決定工程の流れの一例を表す図である。
【
図16】
図16は、実施形態に係る工業油循環再生管理方法、再生工業油組成物製造方法における組成決定工程の流れの一例を表す図である。
【
図17】
図17は、実施形態に係る工業油循環再生管理方法、再生工業油組成物製造方法における組成決定工程の流れの一例を表す図である。
【
図18】
図18は、実施形態に係る工業油循環再生管理方法、再生工業油組成物製造方法の各工程の流れの他の一例を表す図である。
【
図19】
図19は、実施形態に係る工業油循環再生管理方法、再生工業油組成物製造方法における組成決定工程の他の一例を説明する模式的なブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0012】
[実施形態]
<工業油循環再生管理システムの概要>
図1に示す本実施形態の工業油循環再生管理システムSys1は、製造装置1と、工業油使用装置2と、分析装置3と、再生装置4と、組成決定装置5と、輸送体6と、貯留設備7とを備える。本実施形態の工業油循環再生管理システムSys1は、これらが相互に連携することで、工業油使用装置2で使用される工業油組成物C1を適正に循環再生することができるシステムを構成するものである。
【0013】
典型的には、工業油循環再生管理システムSys1は、製造装置1によって製造された工業油組成物C1を工業油使用装置2において使用した後、当該使用済みの工業油組成物C1を回収して再生装置4によって再生油組成物C2に再生する。そして、工業油循環再生管理システムSys1は、この再生油組成物C2を原材料として、製造装置1によって再び工業油組成物C1を製造し、当該再生後の工業油組成物C1を工業油使用装置2において再使用することで当該工業油組成物C1を循環再生させる。つまり、この工業油循環再生管理システムSys1は、いわゆる工業油組成物C1の水平リサイクルシステムを構成するものである。このとき、工業油循環再生管理システムSys1は、組成決定装置5において、工業油使用装置2で再使用する再生後の工業油組成物C1の組成を、目的に応じて適宜調整することで、循環再生される工業油組成物C1を適正に管理することができる。
【0014】
本実施形態の工業油循環再生管理システムSys1は、上記のように工業油組成物C1を再生、循環、管理するための技術を社会実装するものであり、これにより、例えば、CO2削減・カーボンニュートラルのみならず、いわゆる、SDGs(Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標))、環境負荷低減、循環経済(サーキュラーエコノミー)等の観点からも幅広く実社会に貢献することができるシステムを実現したものである。
【0015】
以下、各図を参照して工業油循環再生管理システムSys1の各構成、および、工業油循環再生管理システムSys1において実行される工業油循環再生管理方法、再生工業油組成物製造方法について詳細に説明する。なお、以下では、まず、この工業油循環再生管理システムSys1において管理対象となる工業油組成物C1の概要について説明し、その後、工業油循環再生管理システムSys1の各構成等について詳細に説明する。
【0016】
<管理対象となる工業油組成物>
工業油循環再生管理システムSys1における管理対象となる工業油組成物C1は、基油と、工業油使用装置2における使用用途に応じて添加される機能性添加剤とを含むものである。工業油組成物C1は、製造装置1によって製造され、工業油使用装置2において使用される。工業油使用装置2で使用された使用済みの工業油組成物C1は、回収され再生装置4によって基油を含む再生油組成物C2に再生され、当該再生油組成物C2が再び工業油組成物C1の原材料として使用される。この間、工業油組成物C1は、輸送体6等を介して製造装置1と工業油使用装置2と再生装置4との相互間、さらに言えば、これらが設置された各拠点間(例えば、製造工場P1、使用工場P2、再生工場P3間)を輸送されつつ当該工業油循環再生管理システムSys1内を循環する。
【0017】
本実施形態の工業油組成物C1は、工業油使用装置2においていわゆる機械油として使用される。ここでは一例として、工業油組成物C1は、工業油使用装置2において機械潤滑または金属加工に使用されるものとして説明する。
【0018】
なお、以下の説明では、工業油使用装置2で使用する前の工業油組成物C1を単に「使用前の工業油組成物C1」という場合がある。また、上記機械潤滑に使用する前の工業油組成物C1を「機械潤滑使用前の工業油組成物C1」、上記金属加工に使用する前の工業油組成物を「金属加工使用前の工業油組成物C1」という場合がある。同様に、工業油使用装置2で使用した後の使用済みの工業油組成物C1を単に「使用済みの工業油組成物C1」という場合がある。また、上記機械潤滑に使用した後の工業油組成物C1を「機械潤滑使用済みの工業油組成物C1」、上記金属加工に使用した後の工業油組成物を「金属加工使用済みの工業油組成物C1」という場合がある。また、再生された再生油組成物C2を原材料として製造された工業油組成物C1を単に「再生後の工業油組成物C1」という場合がある。
【0019】
より具体的には、使用前の工業油組成物C1は、基油として鉱油(A1)または合成油(A2)を含む。
【0020】
鉱油(A1)としては、具体的には、米国石油協会(American Petroleum Institute:API)が定める基油カテゴリーにおいてグループ1、グループ2およびグループ3に属する基油が挙げられる。グループ1に属する基油は、たとえば、溶剤精製法(Solvent Refining)により得られる基油である。グループ2に属する基油は、たとえば、水素化精製法(Hydrotreating)により得られる基油である。グループ3に属する基油は、たとえば、水素化分解法(Hydrocracking)により得られる基油である。また、合成油(A2)としては、具体的には、米国石油協会が定める基油カテゴリーにおいてグループ4およびグループ5等に属する基油が挙げられる。グループ4に属する基油は、たとえば、化学合成により得られるポリアルファオレフィン(Polyalfaolefin:PAO)が挙げられる。グループ5等に属する基油は、たとえば、植物油や水素化植物油およびその誘導体が挙げられる。基油は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0021】
また、使用前の工業油組成物C1は、酸化防止剤として中性亜リン酸エステル誘導体および2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体を含む。
【0022】
中性亜リン酸エステル誘導体は、下記式(B)で表される。中性亜リン酸エステル誘導体は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。中性亜リン酸エステル誘導体は、2量体であるため、蒸発しにくく、効率よく酸化防止性能を発揮できる。
【0023】
【0024】
式(B)中、Rb21~Rb24は、それぞれ独立に、炭素原子数10~16の脂肪族炭化水素基を表す。
【0025】
炭素原子数10~16の脂肪族炭化水素基は、直鎖、分枝または環状の脂肪族炭化水素基であってもよく、飽和または不飽和の脂肪族炭化水素基であってもよい。炭素原子数10~16の脂肪族炭化水素基としては、具体的にはデシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基(セチル基)などの直鎖状のアルキル基が好適に用いられる。
【0026】
Rb25~Rb28は、それぞれ独立に、炭素原子数1~6の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表す。
【0027】
炭素原子数1~6の直鎖もしくは分枝状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、イソプロピル基、sec-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、イソペンチル基、t-ペンチル基、ネオペンチル基、イソヘキシル基が挙げられる。
【0028】
中性亜リン酸エステルは、Rb25~Rb28に特定の置換基を有しているため、酸化防止性能に加えて、耐摩耗性にも優れる。これは、Rb25~Rb28に特定の置換基を有していると、摺動部に付着させた工業油組成物C1の膜がより強固になるためであると考えられる。
【0029】
特に、Rb25およびRb27が炭素原子数1~6、好ましくは1~3の直鎖状のアルキル基であり、Rb26およびRb28が炭素原子数3~6、好ましくは3~4の分枝状のアルキル基であると、耐摩耗性の改善の効果がより高まる。
【0030】
Rb291およびRb292は、それぞれ独立に、水素原子または炭素原子数1~5の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表す。
【0031】
炭素原子数1~5の直鎖もしくは分枝状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、イソプロピル基、sec-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、イソペンチル基、t-ペンチル基、ネオペンチル基が挙げられる。
【0032】
ただし、Rb291およびRb292の炭素原子数の合計は、1~5である。したがって、たとえばRb291が水素原子のときは、Rb292は炭素原子数1~5の直鎖もしくは分枝状のアルキル基であり、Rb291がメチル基のときは、Rb292は炭素原子数1~4の直鎖もしくは分枝状のアルキル基であり、Rb291がエチル基のときは、Rb292は炭素原子数2~3の直鎖もしくは分枝状のアルキル基である。
【0033】
工業油組成物C1の膜がより強固になるため、Rb291が水素原子であり、Rb292が炭素原子数1~5の直鎖もしくは分枝状のアルキル基であることがより好ましい。
【0034】
2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体は、下記式(C)で表される。2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0035】
【0036】
式(C)中、Rc1は、炭素原子数1~12の直鎖もしくは分枝状のアルキル基である。炭素原子数1~12の直鎖もしくは分枝状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、イソブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、t-ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、イソヘプチル基、n-オクチル基、イソオクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基が挙げられる。上記アルキル基であると、2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体の相溶性が向上する。
【0037】
使用前の工業油組成物C1において、基油100質量部に対して、中性亜リン酸エステル誘導体は、0.001質量部以上6質量部以下の量で含まれることが好ましい。また、基油100質量部に対して、2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体は、0.001質量部以上6質量部以下の量で含まれることが好ましい。酸化防止剤が上記の量で含まれていると、酸化防止機能をより長期に渡って持続できる。
【0038】
さらに、上記使用前の工業油組成物C1は、酸化防止剤として、さらに、ヒンダードアミン化合物を含むことが好ましい。
【0039】
ヒンダードアミン化合物は、下記式(D)で表される。ヒンダードアミン化合物は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0040】
【0041】
Rd21およびRd22は、それぞれ独立に、炭素原子数1~10の脂肪族炭化水素基を表す。
【0042】
炭素原子数1~10の脂肪族炭化水素基は、直鎖、分枝または環状の脂肪族炭化水素基であってもよく、飽和または不飽和の脂肪族炭化水素基であってもよい。
【0043】
炭素原子数1~10の脂肪族炭化水素基としては、具体的にはメチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、イソプロピル基、sec-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、イソペンチル基、t-ペンチル基、ネオペンチル基、イソヘキシル基、2-エチルヘキシル基などの直鎖もしくは分枝状のアルキル基が好適に用いられる。これらのうちで、耐久性の向上の観点から炭素原子数5~10の直鎖もしくは分枝状のアルキル基がより好ましい。
【0044】
Rd23は、炭素原子数1~10の2価の脂肪族炭化水素基を表す。
【0045】
炭素原子数1~10の2価の脂肪族炭化水素基としては、メチレン基、1,2-エチレン基、1,3-プロピレン基、1,4-ブチレン基、1,5-ペンチレン基、1,6-ヘキシレン基、1,7-ヘプチレン基、1,8-オクチレン基、1,9-ノニレン基、1,10-デシレン基、3-メチル-1,5-ペンチレン基などの2価の直鎖もしくは分枝状のアルキレン基が好適に用いられる。これらのうちで、耐久性の向上の観点から炭素原子数5~10の2価の直鎖もしくは分枝状のアルキレン基がより好ましい。
【0046】
高温における耐久性の向上の観点から、上記の内でRd21、Rd22およびRd23の炭素原子数の和が16~30であることがより好ましい。
【0047】
使用前の工業油組成物C1において、ヒンダードアミン化合物を用いる場合は、基油100質量部に対して、0.002質量部以上5質量部以下の量で含まれることが好ましい。
【0048】
使用前の工業油組成物C1は、機械潤滑または金属加工に用いられるため、さらに、機能性添加剤を含む。使用前の工業油組成物C1を機械潤滑に用いるときは、基油および酸化防止剤とともに、さらに、機能性添加剤として、たとえば、油性剤、金属不活性剤を含むことが好ましい。
【0049】
機械潤滑使用前の工業油組成物C1に含まれる油性剤としては、硫黄化合物が挙げられる。上記油性剤としては、たとえば、ジアルキルジチオリン酸亜鉛が好適に用いられる。機械潤滑使用前の工業油組成物C1にジアルキルジチオリン酸亜鉛が含まれていると、高温で使用する際にも、摺動性が向上され、摩耗を防止できる。また、機械潤滑使用前の工業油組成物C1に含まれる金属不活性剤としては、たとえば、ベンゾトリアゾール誘導体が好適に用いられる。機械潤滑使用前の工業油組成物C1にベンゾトリアゾール誘導体が含まれていると、高温で使用する際にも、金属表面が保護でき、腐食を防止できる。機械潤滑使用前の工業油組成物C1において、上記油性剤および金属不活性剤を組み合わせると、より長期に渡って機械を潤滑できる。
【0050】
ジアルキルジチオリン酸亜鉛が有するアルキル基は、第一級(プライマリー)タイプのアルキル基、第二級(セカンダリー)タイプのアルキル基が挙げられる。第一級(プライマリー)タイプのアルキル基および第二級(セカンダリー)タイプのアルキル基の両方を1分子中に有していてもよい。アルキル基は、直鎖であっても、分枝状であってもよい。アルキル基の炭素原子数は、特に制限はないが、摩耗を防止する観点から、3~12であることが好ましく、3~8であることがより好ましい。ジアルキルジチオリン酸亜鉛は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0051】
ベンゾトリアゾール誘導体は、好ましくは下記式(E)で表される。このようなベンゾトリアゾール誘導体が含まれていると、高温で使用する際にも、腐食をより防止できる。
【0052】
【0053】
上記式(E)中、Re1は、水素原子または炭素原子数1~18のアルキル基を表し、Re2およびRe3は、それぞれ独立に、炭素原子数1~18のアルキル基を表す。ベンゾトリアゾール誘導体は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0054】
機械潤滑使用前の工業油組成物C1において、基油100質量部に対して、油性剤は、0.1質量部以上5質量部以下の量で含まれることが好ましい。また、機械潤滑使用前の工業油組成物において、基油100質量部に対して、金属不活性剤は、0.01質量部以上5質量部以下の量で含まれることが好ましい。
【0055】
使用前の工業油組成物C1を金属加工に用いるときは、基油および酸化防止剤とともに、さらに、機能性添加剤として、たとえば、極圧剤、金属不活性剤を含むことが好ましい。
【0056】
金属加工使用前の工業油組成物C1に含まれる極圧剤としては、たとえば、硫黄化合物が好適に用いられる。具体的には活性硫黄化合物が挙げられる。金属加工使用前の工業油組成物C1に活性硫黄化合物が含まれていると、高温で使用する際にも、加工性が向上できる。また、金属加工使用前の工業油組成物C1に含まれる金属不活性剤としては、たとえば、チアジアゾール誘導体が好適に用いられる。金属加工使用前の工業油組成物にチアジアゾール誘導体が含まれていると、高温で使用する際にも、金属表面が保護でき、腐食を防止できる。また、銅系金属の加工も可能となる。金属加工使用前の工業油組成物C1において、上記極圧剤および金属不活性剤を組み合わせると、より長期に渡って金属を加工できる。
【0057】
活性硫黄化合物は、分子内に活性硫黄を含有する化合物であればよい。ここで、活性硫黄化合物とは、たとえば、硫黄原子を含有し金属原子およびリン原子を含有しない化合物のうち、硫黄含量が1質量%になるように精製鉱油で希釈したものについて、JIS K2513(石油製品-銅板腐食試験方法;試験管法、100℃で1時間加熱)に準じて測定した銅板腐食が2~4であるものをいう。なお、一方、硫黄原子を含有し金属原子およびリン原子を含有しない化合物のうち、上記の試験法で、銅板腐食が1である化合物を不活性硫黄化合物という。活性硫黄化合物としては、ポリサルファイド、硫化油脂、粉末硫黄、硫化鉱油、硫化エステル、硫化オレフィンが挙げられる。これらのうちで、硫化オレフィンが好適に用いられる。活性硫黄化合物は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらの活性硫黄化合物と、原料や硫黄含量が近似していても、製造条件等により、不活性硫黄化合物である場合がある。
【0058】
チアジアゾール誘導体は、好ましくは2,5-ビス(アルキルジチオ)-1,3,4-チアジアゾールであり、下記式(F)で表される。このようなチアジアゾール誘導体が含まれていると、高温で使用する際にも、腐食をより防止できる。
【0059】
【0060】
上記式(F)中、Rf1およびRf2は、それぞれ独立に、炭素原子数1~20のアルキル基を示し、aおよびbは、それぞれ独立に、1、2または3を表す。チアジアゾール誘導体は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0061】
金属加工使用前の工業油組成物C1において、基油100質量部に対して、極圧剤は、0.01質量部以上10質量部以下の量で含まれることが好ましい。また、金属加工使用前の工業油組成物C1において、基油100質量部に対して、金属不活性剤は、0.01質量部以上10質量部以下の量で含まれることが好ましい。
【0062】
また、金属加工使用前の工業油組成物C1において、上述した金属不活性剤を含まない場合は、銅系金属以外、たとえば鉄を含む金属の加工に好適に用いることができる。また、金属加工使用前の工業油組成物C1において、上述した金属不活性剤を含まない場合は、極圧剤として、活性硫黄化合物の代わりに不活性硫黄化合物を用いてもよい。
【0063】
使用前の工業油組成物C1は、さらに、その他の機能性添加剤が含まれていてもよい。その他の機能性添加剤としては、塩素化パラフィンが挙げられる。その他の機能性添加剤は、使用前の工業油組成物C1について長期の使用等の効果を妨げない範囲で含まれていることが好ましい。
【0064】
機械潤滑使用前の工業油組成物C1は、40℃の動粘度(JIS K 2283)が15cSt以上100cSt以下であることが好ましく、32cSt以上68cSt以下であることがより好ましい。また、金属加工使用前の工業油組成物C1は、40℃の動粘度(JIS K 2283)が2cSt以上40cSt以下であることが好ましい。特に、切削加工使用前の工業油組成物C1は、40℃の動粘度(JIS K 2283)が10cSt以上40cSt以下であることがより好ましい。
【0065】
使用前の工業油組成物C1は、機械潤滑の場合は、タービン油、油圧作動油、軸受油、ギア油、圧縮機油、トラクション油として、公知の方法で使用することができる。また、使用前の工業油組成物C1は、金属加工の場合は、切削加工油、圧延油、絞り・抽伸油、洗浄油、塑性加工油、打ち抜き油、熱処理油、熱媒体油として、公知の方法で使用することができる。これら使用により、使用前の工業油組成物C1は、機械潤滑または金属加工に使用した使用済み工業油組成物C1となる。
【0066】
使用済みの工業油組成物C1には、機械潤滑に使用した使用済みの工業油組成物C1を交換するときに用いるフラッシングオイルが混合されていてもよい。なお、フラッシングオイルも、上記基油および酸化防止剤を含んでいることが好ましい。
【0067】
例えば、
図2に示すように、使用済みの工業油組成物C1では、通常、機能性添加剤の大部分は消費されていると考えられる。また、使用済みの工業油組成物C1には、通常、使用中に分解、化合等によって変質し、機能を失った機能性添加剤、基油および酸化防止剤である変質成分が含まれている。さらに、使用済みの工業油組成物C1には、通常、使用中に発生し混入した金属や摩耗粉等の固体などの不純物成分も含まれている。使用済みの工業油組成物C1は、変質成分および不純物成分が含まれているため、茶色等に着色していることが多い。つまり、工業油使用装置2で使用する前の工業油組成物C1に比較して、使用済みの工業油組成物C1の方が、機能性添加剤の含有率が少ない。一方、使用済みの工業油組成物C1には、通常、使用前の状態のまま残存している基油、酸化防止剤および機能性添加剤も含まれている。使用済みの工業油組成物C1にも、基油および酸化防止剤が高い割合で残存できる理由は、酸化防止剤そのものが高い安定性を有することの他、酸化防止剤により基油の変質が抑えられることによる。
【0068】
<再生油組成物の再生>
本実施形態の工業油循環再生管理システムSys1では、上述のような使用済みの工業油組成物C1を精製処理する精製処理工程により、使用済みの工業油組成物C1から基油を含む再生油組成物C2を再生する(言い換えれば、再生油組成物C2を製造する。)。
【0069】
<再生油組成物の再生:再生の具体例1>
一例として、この工業油循環再生管理システムSys1では、上記精製処理として、吸着処理を行うものとすることができる。つまり、この具体例1では、精製処理工程では、上述した機械潤滑または金属加工に使用した使用済みの工業油組成物C1に対して、精製処理、すなわち吸着処理を行う。
【0070】
吸着処理に用いる吸着剤は、たとえば、酸性白土、活性白土またはシリカ・マグネシア系製剤である。酸性白土は、シリカ-アルミナ-シリカの三層構造を有するモンモリロナイト属の粘土鉱物と可溶性ケイ酸とを主成分とする粘土である。活性白土は、天然に産出する酸性白土(モンモリロナイト系粘土)を硫酸などの鉱酸で処理して得られ、大きい比表面積と吸着能とを有する多孔質構造を有する化合物である。活性白土は、粒子状であることが好ましい。活性白土の粒子径は、たとえば、0.1μm以上100μm以下であることが好ましく、10μm以上50μm以下であることがより好ましい。ここで、活性白土の粒径は、レーザ回折・散乱法で測定される体積基準で測定したメジアン径である。また、活性白土の比表面積は、1m2/g以上500m2/g以下であることが好ましく、50m2/g以上350m2/g以下であることがより好ましい。ここで、活性白土の比表面積は、BET方法で測定される値である。シリカ・マグネシア系製剤は、シリカ成分とマグネシア成分とを含有している。シリカ・マグネシア系製剤では、シリカ成分層がマグネシア成分層をサンドイッチした三層構造部分をシリカの微粒子からなるマトリックス相が包含した状態を形成している。吸着剤は、極性基を有する物質を選択的に吸着することができる。変質成分および不純物成分等の除去能力の観点から、活性白土、シリカ・マグネシア系製剤を用いることが好ましい。さらに、変質成分および不純物成分等の除去能力の高さから使用量も抑えられるため、シリカ・マグネシア系製剤を用いることがより好ましい。吸着剤は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0071】
吸着処理では、使用済みの工業油組成物C1と、吸着剤とを接触させる。これにより、吸着剤が、使用済みの工業油組成物C1中の変質成分および不純物成分を吸着し、変質成分および不純物成分が除去できる。このため、吸着剤処理により得られた再生油組成物C2では、着色度合いが低減されている。なお、吸着剤により、基油に元々含まれている不純物成分(硫黄含有成分)や、その不純物成分が使用によって変質した変質成分も、一部は除去されると考えられる。
【0072】
具体的には、吸着処理では、まず、使用済みの工業油組成物C1に吸着剤を添加し、混合物を得る。変質成分および不純物成分を好適に除去するため、吸着剤は、使用済みの工業油組成物100質量部に対して10質量部以上の量で接触させることが好ましく、10質量部以上100質量部以下の量で接触させることがより好ましい。
【0073】
次いで、混合物を攪拌する。攪拌方法としては、攪拌機による攪拌、プロペラ攪拌、自転公転による遊星攪拌、攪拌棒による攪拌、攪拌を誘発する管中を流す連続攪拌などが挙げられる。攪拌時間は、混合物中で吸着剤と使用済みの工業油組成物C1とが充分接触できる条件であればよく、5分以上が好ましい。撹拌は、好ましくは室温(たとえば15℃)以上、より好ましくは80℃以上130℃以下で行う。撹拌を行う温度が低すぎると粘度が高く攪拌効率が落ちる場合がある。一方、撹拌を行う温度が高すぎると、機能性添加剤が熱分解して、新たな変質成分が生成する場合がある。
【0074】
最後に、混合物から、変質成分および不純物成分を吸着した吸着剤等の固形分を分離除去して、再生油組成物C2を得る。分離除去方法としては、遠心分離、フィルター濾過が挙げられる。遠心分離の条件やフィルターの目開きは、特に制限されず、固形分が分離除去できればよい。フィルターの目開きは、たとえば、4μm以下であることが好ましい。また、遠心濾過の場合は、固形分が沈降し、上澄み(液体)成分と分離できる条件であればよい。
【0075】
上述した吸着処理は、複数回行ってもよい。なお、この場合は、複数回で用いる吸着剤は、その合計量が、使用済みの工業油組成物100質量部に対して10質量部以上の量となるように接触させることが好ましく、10質量部以上100質量部以下の量で接触させることがより好ましい。また、吸着処理にて使用した吸着剤は、セメント製造時の熱源、増量剤として活用可能である。
【0076】
このような吸着処理により、変質成分および不純物成分の多くが除去されるとともに、使用前の状態のまま残存している酸化防止剤および機能性添加剤も除去される。したがって、得られた再生油組成物C2は、大部分が、工業油組成物C1が使用される前の状態のままで残存している基油で構成されていると考えられる。
【0077】
また、この具体例1において、さらに、使用前の工業油組成物C1に用いた機能性添加剤が硫黄を含む場合(具体的には、機能性添加剤として、硫黄を含む硫黄化合物を用いる場合)、使用済みの工業油組成物C1中の硫黄の量を測定する硫黄量測定工程を含むことが好ましい。ここで、硫黄の量は、具体的には、ICP分析法により測定できる。なお、硫黄量測定工程で測定される硫黄の量は、通常、硫黄化合物やその変質成分、および基油由来であると考えられる。
【0078】
この硫黄量測定工程に続いて、上述した精製処理工程を行う。具体的には、精製処理工程における吸着処理では、硫黄量測定工程で得られた上記硫黄の量を100質量部としたときに、吸着剤を10質量部以上100質量部以下の量で用いることが好ましく、30質量部以上90質量部以下の量で用いることがより好ましい。吸着処理を複数回行う場合は、複数回で用いる吸着剤の合計量が、上記の量となるように用いることが好ましい。吸着剤を上記の量で用いると、硫黄化合物やその変質成分の他、使用前の状態のまま残存している酸化防止剤および機能性添加剤やその変質成分等も好適に除去できる。
【0079】
次いで、精製処理工程で得られた再生油組成物C2中の硫黄の量を測定し、硫黄が低減されたことを確認する硫黄量確認工程を行うことが好ましい。なお、精製処理後に、硫黄の量がどの程度低減したかについても、上記と同様に硫黄量測定を行って確認できる。また、硫黄量確認工程で測定される硫黄の量は、通常、硫黄化合物やその変質成分は除去されているため、基油由来であると考えられる。
【0080】
上述したように、具体例1によれば、上記再生油組成物C2が得られる。これは、使用前の工業油組成物C1に、酸化防止剤として少なくとも中性亜リン酸エステル誘導体および2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体が含まれているためと考えられる。すなわち、上記酸化防止剤により、機械潤滑または金属加工に使用しても、基油は高い割合で残存できる。酸化防止剤としてヒンダードアミン化合物が含まれていると、機械潤滑または金属加工に使用しても、基油の変質をより抑えられる。なお、上記酸化防止剤は、高い安定性を有するため、機械潤滑または金属加工に使用しても、高い割合で残存している。このため、吸着処理により、使用前の状態のまま残存している酸化防止剤および機能性添加剤とともに、上記変質成分および不純物成分が除去されると、大部分が、工業油組成物C1が使用される前の状態のままで残存している基油で構成されている再生油組成物C2が得られる(なお、再生油組成物C2には、分離しきれなかった吸着剤も微量含まれる。)。再生油組成物C2に含まれる基油は、使用前の工業油組成物C1に含まれる基油と同じであるため、そのまま再生後の工業油組成物(再生工業油組成物)C1の製造に使用することも可能である。なお、再生後の工業油組成物C1の製造に使用する際、再生油組成物C2は、新油として上述した基油を追加して使用してもよく、再生油組成物C2同士を混合して使用してもよい。したがって、この具体例1によれば、再生油組成物C2は、従来のように燃料用の再生工業油組成物ではなく、工業油使用装置2で機械潤滑または金属加工に用いる再生後の工業油組成物C1に使用できるため、CO2削減・カーボンニュートラルに寄与できる。
【0081】
なお、従来の再生油組成物は、使用後の工業油組成物の変質が激しいため、再生しても特許文献1のように燃料油として使用されることが多い。また、従来の再生油組成物を使用する場合は、希望の性能を得られるよう、新品の基油を大量に混合しなくてはならい。このように、従来の再生油組成物を得るための再生処理では、CO2削減に対する寄与が相対的に小さい問題がある。
【0082】
<再生油組成物の再生:再生の具体例2>
他の一例として、この工業油循環再生管理システムSys1では、上記精製処理として、吸着処理と、次いで減圧蒸留処理とを行うものとすることができる。このように、この具体例2では、吸着処理に次いで、減圧蒸留処理を行って、再生油組成物C2を再生(製造)する点が、上述した具体例1と異なる。以下では、この具体例1と異なる点について説明する。なお、具体例2について、具体例1と同じ点については説明を省略する。
【0083】
具体例2では、吸着処理を経た使用済みの工業油組成物C1(吸着処理済み工業油組成物C1)に対して、減圧蒸留処理を行う。減圧蒸留処理は、減圧度24mmHg以下で行うことが好ましく、加熱温度230℃以上280℃以下で行うことが好ましい。たとえば、24mmHgの条件で減圧蒸留処理を行うと、40℃の動粘度(JIS K 2283)が10cSt以上80cSt以下の基油は、240℃付近で沸騰するため、該基油を蒸留できる。具体例2では、減圧蒸留処理により、吸着処理済み工業油組成物C1に残存する変質成分および不純物成分をより除去できる利点がある。このような吸着処理および減圧蒸留処理を経て得られた再生油組成物C2では、より大部分が、工業油組成物C1が使用される前の状態のままで残存している基油で構成されていると考えられる(なお、再生油組成物C2には、分離しきれなかった吸着剤も微量含まれる。)。
【0084】
また、減圧蒸留処理において、加熱温度を調整することにより、40℃の動粘度(JIS K 2283)の範囲が異なる複数の基油を含む再生油組成物C2に分けて得ることもできる。
【0085】
また、具体例2において、精製処理として、吸着処理を行い、吸着処理済み工業油組成物C1に上記酸化防止剤を添加し、次いで減圧蒸留処理を行ってもよい。吸着処理済み工業油組成物C1は、大部分が、工業油組成物C1が使用される前の状態のままで残存している基油で構成されている。これに上記酸化防止剤を添加すると、基油の安定性を高められる。このような酸化防止剤を添加した吸着処理済み工業油組成物に対して、減圧蒸留処理を行うと、減圧蒸留処理中に加熱しても、基油の変質を好適に抑制できる。特に、減圧蒸留処理の際に、高温(たとえば240℃を超えた温度、好ましくは260℃以上280℃以下)で沸騰する基油であっても、変質を抑制できる。
【0086】
上述したように、この具体例2によれば、上記再生油組成物C2が得られる。具体例1と同様に、具体例2で得られた再生油組成物C2は、従来のように燃料用ではなく、工業油使用装置2で機械潤滑または金属加工に用いる再生後の工業油組成物C1に使用できるため、CO2削減・カーボンニュートラルに寄与できる。
【0087】
<再生油組成物の再生:再生の具体例3>
他の一例として、この工業油循環再生管理システムSys1では、上記精製処理として、水素化脱硫処理を行うか、あるいは水素化脱硫処理と、次いで減圧蒸留処理とを行うものとすることができる。このように、この具体例3では、吸着処理の代わりに、水素化脱硫処理を行って、再生油組成物C2を再生(製造)する点が、上述した具体例1、2と異なる。以下では、この具体例1、2と異なる点について説明する。なお、具体例3について、具体例1、2と同じ点については説明を省略する。
【0088】
水素化脱硫処理は、高温・高圧下で、水素化脱硫触媒を用いて行う。これにより、使用済みの工業油組成物C1において、使用前の状態のまま残存している酸化防止剤および機能性添加剤とともに、変性成分および不純物成分が除去できる。このため、水素化脱硫処理により得られた再生油組成物C2では、着色度合いが低減されている。なお、水素化脱硫処理では、特に、使用済みの工業油組成物C1にそのまま残っている硫黄化合物や、その変性成分が除去できる。このような水素化脱硫処理を経て得られた再生油組成物C2では、大部分が、工業油組成物C1が使用される前の状態のままで残存している基油で構成されていると考えられる。
【0089】
さらに、水素化脱硫処理済み工業油組成物C1に対して、減圧蒸留処理を行ってもよい。減圧蒸留処理により、水素化脱硫処理済み工業油組成物に残存する変質成分および不純物成分をより除去できる利点がある。このような水素化脱硫処理および減圧蒸留処理を経て得られた再生油組成物C2では、より大部分が、工業油組成物C1が使用される前の状態のままで残存している基油で構成されていると考えられる。
【0090】
上述したように、この具体例3によれば、上記再生油組成物C2が得られる。具体例1、2と同様に、具体例3で得られた再生油組成物C2は、従来のように燃料用ではなく、工業油使用装置2で機械潤滑または金属加工に用いる再生後の工業油組成物C1に使用できるため、CO2削減・カーボンニュートラルに寄与できる。
【0091】
<再生油組成物の再生:再生の具体例4>
他の一例として、この工業油循環再生管理システムSys1では、上記精製処理として、減圧蒸留処理を行うものとすることができる。このように、この具体例4では、吸着処理の代わりに、減圧蒸留処理を行って、再生油組成物C2を再生(製造)する点が、具体例1と異なる。以下では、この具体例1と異なる点について説明する。なお、具体例4について、具体例1と同じ点については説明を省略する。
【0092】
減圧蒸留処理は、具体例2と同様に、減圧度24mmHg以下で行うことが好ましく、加熱温度230℃以上280℃以下で行うことが好ましい。たとえば、24mmHgの条件で減圧蒸留処理を行うと、40℃の動粘度(JIS K 2283)が10cSt以上80cSt以下の基油は、240℃付近で沸騰するため、該基油を蒸留できる。これにより、使用済みの工業油組成物C1において、使用前の状態のまま残存している酸化防止剤および機能性添加剤とともに、変質成分および不純物成分を低減できる。このため、減圧蒸留処理により得られた再生油組成物C2では、着色度合いが低減されている。このような減圧蒸留処理を経て得られた再生油組成物C2では、大部分が、工業油組成物C1が使用される前の状態のままで残存している基油で構成されていると考えられる。
【0093】
なお、使用済みの工業油組成物C1には、使用前の状態のまま残存している酸化防止剤が含まれているため、減圧蒸留処理中に加熱しても、基油の変質を抑制できる。特に、減圧蒸留処理の際に、高温(たとえば240℃を超えた温度、好ましくは260℃以上280℃以下)で沸騰する基油であっても、変質を抑制できる。また、使用済みの工業油組成物C1に、上記酸化防止剤を添加してから、減圧蒸留処理を行ってもよい。これにより、減圧蒸留処理中に加熱しても、基油の変質をより抑制できる。
【0094】
また、減圧蒸留処理において、具体例2と同様に、加熱温度を調整することにより、40℃の動粘度(JIS K 2283)の範囲が異なる複数の基油を含む再生油組成物C2に分けて得ることもできる。
【0095】
上述したように、この具体例4によれば、上記再生油組成物C2が得られる。具体例1と同様に、具体例4で得られた再生油組成物C2は、従来のように燃料用ではなく、工業油使用装置2で機械潤滑または金属加工に用いる再生後の工業油組成物C1使用できるため、CO2削減・カーボンニュートラルに寄与できる。
【0096】
<再生油組成物の再生についての補足事項>
使用済みの工業油組成物C1から再生油組成物C2を再生(製造)する際、上述した具体例1~4のうちいずれの再生(製造)方法で行うかは、使用前の工業油組成物C1に用いた機能性添加剤に硫黄化合物が含まれているか否かにより決定してもよい。具体的には、硫黄化合物が含まれていない場合は、具体例1~4のうちいずれの方法で行ってもよい。また、分解温度が260℃以上の硫黄化合物が含まれている場合は、具体例1~4のうちいずれの方法で行ってもよい。一方、硫黄化合物の分解温度が260℃未満の硫黄化合物が含まれている場合は、具体例1~3のいずれかの方法で行うことが好ましい。硫黄化合物の分解温度が260℃未満の硫黄化合物が含まれている場合に、具体例4のように、最初に減圧蒸留処理を行うと、上記硫黄化合物によって減圧蒸留に用いる装置内が黒色となってしまう場合がある。
【0097】
また、具体例1~4の再生(製造)方法において、使用済みの工業油組成物C1の代わりに、工業油組成物C1の製造時に発生した不良品、または不良在庫を用いて精製処理を行ってもよい。これにより、不良品または不良在庫が再利用できる。
【0098】
<再生後の工業油組成物の製造>
本実施形態の工業油循環再生管理システムSys1では、上述のようにして得られた再生油組成物C2を原材料として、工業油使用装置2で再使用する再生後の工業油組成物C1を製造する。
【0099】
<再生後の工業油組成物の製造:製造の具体例>
一例として、この工業油循環再生管理システムSys1において、再生後の工業油組成物C1の製造工程では、上記の再生方法で得られた再生後の再生油組成物C2に、上述した酸化防止剤と、上述した機能性添加剤とを添加する添加工程を含む。これにより、再生後の工業油組成物C1を製造する。具体的には、酸化防止剤は、上記式(B)で表される中性亜リン酸エステル誘導体および上記式(C)で表される2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体である。また、上記式(D)で表されるヒンダードアミン化合物を用いることも好ましい。また、上記の再生方法で得られた再生油組成物C2に対して、酸化防止剤および機能性添加剤を、再生後の工業油組成物C1中において上述した量となるように添加することが好ましい。これにより、機械潤滑または金属加工に好適に用いることができる。
【0100】
また、酸化防止剤および機能性添加剤を添加した再生後の工業油組成物C1に対して、さらに、新油として上述した基油を添加するか、他の再生油組成物C2を添加してもよい。あるいは、再生油組成物C2に新油として上述した基油を添加した後、または、再生油組成物C2同士を混合した後に、上述の添加工程を行ってもよい。これにより、再生後の工業油組成物C1の粘度を調整することができる。
【0101】
さらに、再生後で、かつ、使用済みの工業油組成物C1に対して、上述した精製処理工程を行えば、新たにまた再生油組成物C2が得られる。これに続いて、上述した添加工程を行えば、新たにまた再生後の工業油組成物C1が得られる。このように、使用と精製処理とのサイクルを繰り返すことも可能であり、さらにCO2削減・カーボンニュートラルに寄与できる。
【0102】
<工業油組成物の耐用期間>
上記のような工業油組成物C1は、使用用途等にあわせて添加される機能性添加剤に応じて工業油使用装置2で使用可能な耐用期間(言い換えれば寿命)が異なる。より具体的には、工業油組成物C1は、添加される機能性添加剤の強度、および、添加量に応じて工業油使用装置2で使用可能な耐用期間が異なる。
【0103】
ここで、機能性添加剤の強度とは、機能性添加剤自身の耐圧性等に応じた指標であり、典型的には、機能性添加剤自身の消費され難さを表す。機能性添加剤の強度は、例えば、同種の機能を付加する機能性添加剤であってもその種類に応じて異なる。機能性添加剤は、強度が相対的に高い(強い)ほど耐圧性が相対的に高く、相対的に消費され難い傾向にあり、強度が相対的に低い(弱い)ほど耐圧性が相対的に低く、相対的に消費され易い傾向にある。そして、工業油組成物C1は、添加される機能性添加剤の強度が相対的に高いほど耐用期間が相対的に長い傾向にあり、添加される機能性添加剤の強度が相対的に低いほど耐用期間が相対的に短い傾向にある。
【0104】
一方、機能性添加剤の添加量とは、基油を含む組成物に機能性添加剤を添加して工業油組成物C1を製造する際の当該機能性添加剤の添加量である。工業油組成物C1は、添加される機能性添加剤の添加量が相対的に多いほど耐用期間が相対的に長い傾向にあり、添加される機能性添加剤の添加量が相対的に少ないほど耐用期間が相対的に短い傾向にある。
【0105】
言い換えれば、工業油組成物C1は、添加される機能性添加剤が調整されることで、工業油使用装置2で使用可能な耐用期間を可変とすることができる。すなわち、工業油組成物C1は、添加される機能性添加剤の強度、または、添加量が調整されることで、工業油使用装置2で使用可能な耐用期間を調整可能である。
【0106】
<使用済みの工業油組成物の状態>
また逆に言えば、工業油組成物C1は、工業油使用装置2において予め想定される所定の使用期間経過後に、使用済みの工業油組成物C1中に消費、分解されずに使用前の状態のまま残存している機能性添加剤の量が、当該工業油組成物C1に添加さていた機能性添加剤の強度、添加量に応じて異なる、ということもできる。
【0107】
図3、
図4、
図5、
図6、
図7は、工業油使用装置2で所定の使用期間経過した後の使用済みの工業油組成物C1の組成の一例を模式的に表した模式図である。
【0108】
図3に例示した使用済みの工業油組成物C1は、添加されていた機能性添加剤がほぼ完全に分解、消費され含有率がほぼ0に近くなった状態で、かつ、工業油使用装置2由来の摩耗粉等の不純物成分を相対的に多く含んだ状態である。使用済みの工業油組成物C1に含まれる摩耗粉等の不純物成分は、工業油使用装置2での使用期間が相対的に長くなるほど相対的に多くなる傾向にある。使用済みの工業油組成物C1は、典型的には、機能性添加剤の強度、添加量に応じて定まる耐用期間に対して、工業油使用装置2での実際の使用期間が過度に超過した場合に
図3に例示した状態となる。つまり、
図3に例示した使用済みの工業油組成物C1は、想定された使用期間に対して、機能性添加剤の添加量が相対的に少な過ぎる、あるいは、強度が相対的に低すぎて、耐用期間が相対的に短すぎたことを意味しており、典型的には、工業油使用装置2において過度に使用された状態であり、これ以上の使用を続けると基油を損傷するおそれがある状態といえる。この点では、
図3に例示した使用済みの工業油組成物C1は、基油の損傷を防ぐため、機能性添加剤の添加量を多くする、あるいは、強度を高くして、想定される使用期間に対して耐用期間を相対的に長くする必要がある状態ともいえる。
【0109】
図4に例示した使用済みの工業油組成物C1は、添加されていた機能性添加剤がほぼ完全に分解、消費され含有率がほぼ0に近くなった状態ではあるが、
図3の状態と比較すると、工業油使用装置2由来の摩耗粉等の不純物成分が相対的に少ない状態である。使用済みの工業油組成物C1は、典型的には、工業油使用装置2での実際の使用期間と、機能性添加剤の強度、添加量に応じて定まる耐用期間とがほぼ同等であった場合、あるいは、当該耐用期間に対して実際の使用期間が若干長かった場合に
図4に例示した状態となる。
図4に例示した使用済みの工業油組成物C1は、典型的には、長寿命化としてはほぼ適正な状態ではあるものの、機能性添加剤の含有率がほぼ0に近いため、これ以上の使用を続けると基油を損傷するおそれがある点では改善の余地がある状態といえる。この点では、
図4に例示した使用済みの工業油組成物C1は、基油の損傷をより確実に防ぐため、機能性添加剤の添加量を若干多くする、あるいは、強度を若干高くして、想定される使用期間に対して耐用期間を若干長くする余地がある状態ともいえる。
【0110】
図5に例示した使用済みの工業油組成物C1は、添加されていた機能性添加剤の一部が消費されずに残存している状態で、かつ、工業油使用装置2由来の摩耗粉等の不純物成分を
図4の状態と同程度に含んだ状態である。使用済みの工業油組成物C1は、典型的には、機能性添加剤の強度、添加量に応じて定まる耐用期間に対して、工業油使用装置2での実際の使用期間が若干短かった場合に
図5に例示した状態となる。
図5に例示した使用済みの工業油組成物C1は、典型的には、機能性添加剤の一部が消費されずに残存しているものの、基油の損傷のおそれがないバランスのとれた標準的な状態といえる。
【0111】
図6に例示した使用済みの工業油組成物C1は、
図5の状態と比較すると、消費されずに残存している機能性添加剤が相対的に多い状態で、かつ、工業油使用装置2由来の摩耗粉等の不純物成分を
図5の状態と同程度に含んだ状態である。使用済みの工業油組成物C1は、典型的には、機能性添加剤の強度、添加量に応じて定まる耐用期間に対して、工業油使用装置2での実際の使用期間が相対的に短かった場合に
図6に例示した状態となる。
図6に例示した使用済みの工業油組成物C1は、典型的には、基油の損傷のおそれがない状態ではあるものの、消費されずに残存している機能性添加剤が
図5の標準的な状態よりも多く、標準的な状態に対しては改善の余地がある状態といえる。この点では、
図6に例示した使用済みの工業油組成物C1は、消費されずに無駄になる機能性添加剤をより少なくするため、機能性添加剤の添加量を若干少なくする、あるいは、強度を若干低くして、想定される使用期間に対して耐用期間を若干短くする余地がある状態ともいえる。
【0112】
図7に例示した使用済みの工業油組成物C1は、添加されていた機能性添加剤の大部分が消費されずに残存している状態で、かつ、工業油使用装置2由来の摩耗粉等の不純物成分を相対的に多く含んだ状態である。使用済みの工業油組成物C1は、典型的には、工業油使用装置2での実際の使用期間に対して、機能性添加剤の強度、添加量に応じて定まる耐用期間が過度に長く、言い換えれば、工業油使用装置2での使用期間が相対的に長くなっても機能性添加剤がほとんど消費されないまま残存した場合に
図7に例示した状態となる。つまり、
図7に例示した使用済みの工業油組成物C1は、想定された使用期間に対して、機能性添加剤の添加量が相対的に多すぎる、あるいは、強度が相対的に高すぎて、耐用期間が相対的に長すぎたことを意味しており、典型的には、機能性添加剤の大部分がほとんど消費されておらず、当該工業油組成物C1に添加された機能性添加剤が無駄になっている状態であるといえる。この点では、
図7に例示した使用済みの工業油組成物C1は、消費されずに無駄になる機能性添加剤をなくすため、機能性添加剤の添加量を少なくする、あるいは、強度を低くして、想定される使用期間に対して耐用期間を相対的に短くする必要がある状態ともいえる。
【0113】
本実施形態の工業油循環再生管理システムSys1は、上記のように、工業油組成物C1に添加される機能性添加剤が調整されることで、工業油組成物C1の耐用期間や使用済みの工業油組成物C1の状態を可変とすることができることを利用して、当該システムにおいて循環再生される工業油組成物C1を管理している。
【0114】
以上、工業油循環再生管理システムSys1における管理対象となる工業油組成物C1の概要について説明した。
【0115】
<工業油循環再生管理システムの各構成>
次に、工業油循環再生管理システムSys1の各構成について説明する。
【0116】
<製造装置の基本構成>
製造装置1は、工業油循環再生管理システムSys1における管理対象となる工業油組成物C1を製造する装置である。製造装置1は、例えば、工業油組成物C1の製造工場P1に設置される。本実施形態の製造装置1は、工業油使用装置2で使用する新規の工業油組成物C1、および、再生油組成物C2を原材料として工業油使用装置2で再使用する再生後の工業油組成物C1の双方を製造可能である。
【0117】
製造装置1は、種々の公知の装置によって実現されればよい。製造装置1は、例えば、工業油組成物C1の原材料となる基油、酸化防止剤、機能性添加剤や再生後の再生油組成物C2等を取り込み貯留する貯留部、貯留部に貯留されている各種原材料を添加、供給する添加装置、添加装置から添加、供給された各種原材料を混合する混合機(ミキサー)等を含んで構成される。
【0118】
本実施形態の製造装置1は、典型的には、組成決定装置5により決定された工業油組成物C1の組成に基づいて、当該決定された組成に応じた工業油組成物C1を製造する。
【0119】
製造装置1は、例えば、組成決定装置5により決定された工業油組成物C1の組成に関するデータ(例えば、後述する調整レシピRに関するデータ)を入力し、当該データに基づいて各部を自動制御して工業油組成物C1を製造するように構成されてもよい。この場合、製造装置1は、データを入出力するためのデータ入出力部を備えており、当該データ入出力部に入力されたデータに基づいて各部を自動制御して工業油組成物C1を製造する。データ入出力部は、例えば、有線、無線を問わずネットワークを介した通信によって組成決定装置5との間で各種データの送受信を行う通信インターフェースによって実現されてもよいし、記録媒体に対して各種データを読み書きする記録媒体インターフェースによって実現されてもよい。記録媒体としては、例えば、CD-ROM、DVD、USBメモリ、SDカードメモリ、Flashメモリ、ハードディスクドライブ(HDD)、ソリッドステートドライブ(SSD)、フレキシブルディスク(FD)、光磁気ディスク(Magneto-Optical disk)等を用いることができる。
【0120】
また、製造装置1は、例えば、組成決定装置5により決定された工業油組成物C1の組成を表す参照情報(例えば、後述する調整レシピR)を参照し、当該参照情報に基づいて作業員の手動操作により各部を制御して工業油組成物C1を製造するように構成されてもよい。この場合、製造装置1は、作業者からの操作を入力するための操作入力部を備えており、当該操作入力部に入力された操作に基づいて各部を手動制御して工業油組成物C1を製造する。操作入力部は、例えば、キーボード、マウス、トラックボール、スイッチ、ボタン、タッチパッド、タッチスクリーン、非接触入力回路、ジョイスティック、音声入力回路等により実現される。
【0121】
そして、製造装置1は、新規の工業油組成物C1を製造する場合、新油として上述した基油に対して、組成決定装置5により決定された組成に応じた添加剤強度、添加量、あるいは、事前に予め任意に決定されている添加剤強度、添加量で、酸化防止剤、機能性添加剤等を添加することにより、工業油使用装置2で使用する新規の工業油組成物C1を製造する。この場合、新規の工業油組成物C1の組成は、例えば、上述した<管理対象となる工業油組成物>で説明した範囲で、使用用途等に応じて任意に決定されればよく、例えば、予め選定された標準品の組成に準じた割合で適宜決定されればよい。
【0122】
一方、製造装置1は、再生油組成物C2を原材料として再生後の工業油組成物C1を製造する場合、再生後の再生油組成物C2に対して、組成決定装置5により決定された組成に応じた添加剤強度、添加量で、酸化防止剤、機能性添加剤等を添加することにより、工業油使用装置2で再使用する再生後の工業油組成物C1を製造する。この場合、再生後の工業油組成物C1の組成は、例えば、上述した<管理対象となる工業油組成物>で説明した範囲で、かつ、システムにおいて循環再生される当該工業油組成物C1を適正に管理する目的に見合う割合で決定される。
【0123】
<工業油使用装置の基本構成>
工業油使用装置2は、工業油循環再生管理システムSys1において循環再生される工業油組成物C1を使用する装置である。工業油使用装置2は、例えば、工業油組成物C1を使用して種々の製品製造、各種機械加工、各種機器稼働等を行う使用工場P2に設置される。本実施形態の工業油使用装置2は、製造装置1によって新規に製造された工業油組成物C1、および、製造装置1によって再生油組成物C2を原材料として製造された再生後の工業油組成物C1の双方を使用可能である。
【0124】
工業油使用装置2は、種々の公知の装置によって実現されればよい。工業油使用装置2は、例えば、工業油組成物C1を取り込み貯留する貯留部、貯留部に貯留されている工業油組成物C1を使用しながら動作する動作部等を含んで構成される。動作部は、例えば、工業油組成物C1をタービン油、油圧作動油、軸受油、ギア油、圧縮機油、トラクション油として使用する摺動部・機械潤滑部によって実現されてもよいし、工業油組成物C1を切削加工油、圧延油、絞り・抽伸油、洗浄油、塑性加工油、打ち抜き油、熱処理油、熱媒体油として使用する金属加工部によって実現されてもよい。
【0125】
<分析装置の基本構成>
分析装置3は、工業油使用装置2から回収した使用済みの工業油組成物C1の状態を分析する装置である。分析装置3は、例えば、工業油使用装置2で使用した使用済みの工業油組成物C1を分析・再生する再生工場P3の分析部門等に設置される。本実施形態の分析装置3は、工業油使用装置2から回収した使用済みの工業油組成物C1の一部を分析用の検体として分析することで工業油組成物C1の状態を分析可能である。分析装置3で分析する使用済みの工業油組成物C1の検体は、例えば、使用工場P2において使用済みの工業油組成物C1の一部を分析用検体容器・回収キットC1a等に容れて回収してもよいし、再生工場P3において回収した使用済みの工業油組成物C1から一部を分析用検体容器・回収キットC1aに取り分けてもよい。
【0126】
分析装置3は、種々の公知の装置によって実現されればよい。分析装置3は、例えば、使用済みの工業油組成物C1の分析用の検体を取り込む取り込み部、取り込み部に取り込んだ検体を分析する分析処理部、分析処理部による分析結果を記憶する記憶部、分析処理部による分析結果を出力する分析結果出力部等を含んで構成される。分析処理部は、例えば、後述するような液体クロマトグラフィー、赤外分光分析(FTIR)、ICP(高周波誘導結合プラズマ)分析等の各種分析に関する処理を行うものである。分析結果出力部は、例えば、分析結果をデータとして出力するデータ入出力部によって実現されてもよいし、分析結果を画像として出力するモニタによって実現されてもよいし、分析結果をプリントアウトするプリンタによって実現されてもよい。データ入出力部は、典型的には、上述した製造装置1のデータ入出力部と略同様に構成されればよい。
【0127】
本実施形態の分析装置3は、典型的には、使用済みの工業油組成物C1の状態として、当該使用済みの工業油組成物C1中の機能性添加剤の消費状態、および、当該使用済みの工業油組成物C1中の不純物成分の混和状態を分析する。分析装置3は、典型的には、分光分析や液体クロマトグラフィー等、種々の公知の手法を用いて、機能性添加剤の消費状態、および、不純物成分の混和状態を分析することができる。
【0128】
例えば、分析装置3は、液体クロマトグラフィーによって使用済みの工業油組成物C1中の機能性添加剤の消費状態を分析することができる。
【0129】
図8、
図9、
図10は、分析装置3による使用済みの工業油組成物C1の分析の一例として、液体クロマトグラフィーについて説明する線図である。
図8は、工業油組成物C1の使用初期の状態での測定結果の一例、
図9は、機能性添加剤消費中の状態での測定結果の一例、
図10は、機能性添加剤消費完了の状態での測定結果の一例をそれぞれ表している。
【0130】
図8、
図9、
図10からも明らかなように、液体クロマトグラフィーによる測定結果において、囲み線Aで示した機能性添加剤に由来するピークは、
図8の使用初期の状態から、工業油組成物C1の使用に伴って
図9の機能性添加剤消費中の状態を経て徐々に下がっていき、
図10の機能性添加剤消費完了の状態ではほぼ完全に消失した状態となる。分析装置3は、この傾向を利用して、液体クロマトグラフィーによって使用済みの工業油組成物C1中の機能性添加剤の消費状態を分析することができる。
【0131】
また、分析装置3は、例えば、赤外分光分析(FTIR)によって使用済みの工業油組成物C1中の不純物成分の混和状態を分析することができる。
【0132】
図11、
図12は、分析装置3による使用済みの工業油組成物C1の分析の一例として、赤外分光分析(FTIR)について説明する線図である。
図11は、工業油組成物C1の使用初期の状態での測定結果の一例、
図12は、不純物成分が混和した状態での測定結果の一例をそれぞれ表している。
【0133】
図11、
図12からも明らかなように、赤外分光分析(FTIR)による測定結果において、
図11の使用初期の状態から、工業油組成物C1の使用に伴って
図12に示す状態へと遷移していくと、囲み線Bに示すように、工業油組成物C1の使用中に分解、化合等によって変質した機能性添加剤、基油、酸化防止剤の変質成分等、工業油組成物C1の使用当初に含まれていた既存物以外の不純物に由来するピークが現れはじめる。分析装置3は、この傾向を利用して、赤外分光分析(FTIR)によって使用済みの工業油組成物C1中の不純物成分の混和状態を分析することができる。また、分析装置3は、例えば、ICP(高周波誘導結合プラズマ)分析によって工業油組成物C1の使用中に発生し混入した金属や摩耗粉等の固体などの不純物成分の混和状態を分析することもできる。
【0134】
分析装置3は、上記のような使用済みの工業油組成物C1の状態の分析結果を、分析結果出力部を介して出力する。分析装置3は、当該分析結果を、例えば、データ入出力部によって分析結果データとして出力してもよいし、モニタによって分析結果画像として出力してもよいし、プリンタによって分析結果を表す印刷物として出力してもよい。
【0135】
<再生装置の基本構成>
再生装置4は、工業油使用装置2から回収した使用済みの工業油組成物C1から、基油を含む再生油組成物C2を再生する装置である。再生装置4は、例えば、再生工場P3の再生部門等に設置される。本実施形態の再生装置4は、上述した<再生油組成物の再生>に記載したいずれかの再生方法により、工業油使用装置2で再使用する再生後の工業油組成物C1の原材料となる再生油組成物C2を、使用済みの工業油組成物C1から再生(製造)可能である。
【0136】
再生装置4は、種々の公知の装置によって実現されればよい。再生装置4は、例えば、回収された使用済みの工業油組成物C1を取り込み貯留する貯留部、貯留部に貯留されている使用済みの工業油組成物C1を精製処理することにより当該使用済みの工業油組成物C1から基油を含む再生油組成物C2を再生する再生処理部等を含んで構成される。再生処理部は、典型的には、精製処理として、吸着処理、水素化脱硫処理、減圧蒸留処理等を行うものであり、例えば、吸着剤等を添加、供給する添加装置、攪拌機、遠心分離機、フィルター濾過器、減圧蒸留器、水素化脱硫器等によって実現される。再生処理部は、さらに、上述した硫黄量測定を実行可能に構成されてもよい。
【0137】
本実施形態の再生装置4は、典型的には、分析装置3により分析された使用済みの工業油組成物C1の状態の分析結果に基づいて、使用済みの工業油組成物C1から再生油組成物C2を再生する。
【0138】
再生装置4は、例えば、分析装置3により分析された使用済みの工業油組成物C1の分析結果に関するデータを入力し、当該データに基づいて各部を自動制御して使用済みの工業油組成物C1から再生油組成物C2を再生するように構成されてもよい。この場合、再生装置4は、データを入出力するためのデータ入出力部を備えており、当該データ入出力部に入力されたデータに基づいて各部を自動制御して再生油組成物C2を再生する。データ入出力部は、典型的には、上述した製造装置1のデータ入出力部と略同様に構成されればよい。
【0139】
また、再生装置4は、例えば、分析装置3により分析された使用済みの工業油組成物C1の分析結果を表す参照情報(例えば、分析結果を表す画像情報や印刷物等)を参照し、当該参照情報に基づいて作業員の手動操作により各部を制御して使用済みの工業油組成物C1から再生油組成物C2を再生するように構成されてもよい。この場合、再生装置4は、作業者からの操作を入力するための操作入力部を備えており、当該操作入力部に入力された操作に基づいて各部を手動制御して再生油組成物C2を再生する。操作入力部は、典型的には、上述した製造装置1の操作入力部と略同様に構成されればよい。
【0140】
<組成決定装置の基本構成>
組成決定装置5は、工業油使用装置2で再使用する再生後の工業油組成物C1の組成を決定する装置である。組成決定装置5は、例えば、分析装置3等と共に再生工場P3の分析部門等に設置される。本実施形態の組成決定装置5は、各種情報に基づいて再生後の工業油組成物C1の組成を決定可能である。
【0141】
組成決定装置5は、種々の公知の装置によって実現されればよい。組成決定装置5は、典型的には、ノート型PC、デスクトップ型PC、タブレット型PC、スマートフォン等の種々のコンピュータ機器等によって実現されてもよい。組成決定装置5は、例えば、組成の決定結果を記憶する記憶部、組成の決定結果を出力する組成結果出力部等を含んで構成される。組成結果出力部は、典型的には、上述した分析装置3の分析結果出力部と略同様に構成されればよい。
【0142】
本実施形態の組成決定装置5は、再生後の工業油組成物C1の組成の決定において、再生油組成物C2に添加する機能性添加剤を調整することで、循環再生される工業油組成物C1を管理する。言い換えれば、本実施形態の組成決定装置5は、再生後の工業油組成物C1の組成の決定において、当該システムで循環再生される工業油組成物C1を管理する目的で再生油組成物C2に添加する機能性添加剤を調整する。これにより、工業油循環再生管理システムSys1は、上述したように、例えば、工業油組成物C1の耐用期間や使用済みの工業油組成物C1の品質を管理する。
【0143】
組成決定装置5は、例えば、各種データ(例えば、分析装置3により分析された使用済みの工業油組成物C1の分析結果等のデータ)を入力し、当該データに基づいて演算処理により工業油使用装置2で再使用する再生後の工業油組成物C1の組成を決定するように構成されてもよい。この場合、組成決定装置5は、データを入出力するためのデータ入出力部を備えており、当該データ入出力部に入力されたデータに基づいて自動演算により再生後の工業油組成物C1の組成を決定する。データ入出力部は、典型的には、上述した製造装置1のデータ入出力部と略同様に構成されればよい。
【0144】
また、組成決定装置5は、例えば、各種参照情報(例えば、分析装置3により分析された使用済みの工業油組成物C1の分析結果を表す画像情報や印刷物等)を参照し、当該参照情報に基づいて作業員の手動操作により工業油使用装置2で再使用する再生後の工業油組成物C1の組成を決定するように構成されてもよい。この場合、組成決定装置5は、作業者からの操作を入力するための操作入力部を備えており、当該操作入力部に入力された操作に基づいて再生後の工業油組成物C1の組成を決定する。操作入力部は、典型的には、上述した製造装置1の操作入力部と略同様に構成されればよい。
【0145】
本実施形態の組成決定装置5は、上述した<管理対象となる工業油組成物>で説明した範囲で、かつ、システムにおいて循環再生される工業油組成物C1の管理の目的に応じて、工業油組成物C1に添加される機能性添加剤の添加量、および、強度を調整し、再生後の工業油組成物C1の組成を決定する。なお、システムにおいて循環再生される工業油組成物C1を適正に管理するための組成決定の詳細については、
図14~
図19等を参照して後でより具体的に説明する。
【0146】
そして、組成決定装置5は、再生後の工業油組成物C1の組成の決定結果を、組成結果出力部を介して出力する。組成決定装置5は、当該決定結果を、例えば、データ入出力部によって決定結果データとして出力してもよいし、モニタによって決定結果画像として出力してもよいし、プリンタによって決定結果を表す印刷物として出力してもよい。なお、以下の説明では、組成決定装置5によって決定された再生後の工業油組成物C1の組成についての決定結果を表すものを「調整レシピR」という場合がある。つまり、組成決定装置5は、再生後の工業油組成物C1の組成の決定結果を、調整レシピRに関するデータとして出力してもよいし、調整レシピRを表す画像として出力してもよいし、調整レシピRを表す印刷物として出力してもよい。そして、上述したように、製造装置1は、この組成決定装置5が決定し出力した調整レシピR(工業油組成物C1の組成の決定結果)に基づいて工業油組成物C1を製造する。
【0147】
<輸送体の基本構成>
輸送体6は、製造装置1と工業油使用装置2と再生装置4との相互間で工業油組成物C1または再生油組成物C2を輸送する移動体である。輸送体6は、例えば、製造工場P1を管理する事業体や再生工場P3を管理する事業体によって管理されてもよいし、これらとは異なる輸送・運搬専門の事業体や使用済みの工業油組成物C1の回収専門の事業体等によって管理されてもよい。本実施形態の輸送体6は、製造装置1、工業油使用装置2、再生装置4等が設置された各拠点間、ここでは、製造工場P1、使用工場P2、再生工場P3間で工業油組成物C1または再生油組成物C2を輸送可能である。
【0148】
輸送体6は、種々の公知の移動体によって実現されればよい。輸送体6は、典型的には、路面を走行するトラック、タンクトレーラー、タンクローリー等の貨物自動車、軌条を走行するコンテナ貨車、タンク貨車等の貨物列車、海上を航行するタンカー等の貨物船舶、空中を飛行する航空機、ドローン等の貨物飛行体等によって実現されてもよい。
【0149】
<貯留設備の基本構成>
貯留設備7は、工業油組成物C1または再生油組成物C2を貯留する設備である。貯留設備7は、例えば、製造工場P1や再生工場P3等において製造装置1や再生装置4等と共に併設されている。
【0150】
貯留設備7は、種々の公知の設備によって実現されればよい。貯留設備7は、典型的には、貯留タンク等によって実現されてもよい。
【0151】
<工業油循環再生管理システムの各構成の変形例>
なお、以上の説明では、製造装置1は、製造工場P1に設置され、工業油使用装置2は、使用工場P2に設置され、分析装置3、組成決定装置5は、再生工場P3の分析部門に設置され、再生装置4は、再生工場P3の再生部門に設置されるものとして説明したがこれに限らない。
【0152】
例えば、製造装置1、工業油使用装置2、分析装置3、再生装置4、組成決定装置5は、すべてが1つの拠点に併設されていてもよい。また、例えば、分析装置3、再生装置4、組成決定装置5は、再生工場P3に設置されるものとして説明したが、これらがそれぞれ異なる拠点に設置されていてもよく、例えば、分析装置3、再生装置4は、再生工場P3に設置され、組成決定装置5は、製造工場P1に設置されてもよい。また、例えば、分析装置3と組成決定装置5とは、一体の装置として構成され、1つの装置によって兼用されてもよい。また、貯留設備7は、例えば、使用工場P2等において工業油使用装置2と共に併設されていてもよいし、製造工場P1、再生工場P3等とは独立して貯留専用の拠点に設置されていてもよい。また、貯留設備7は、製造装置1、工業油使用装置2、再生装置4の各貯留部が兼用されてもよい。
【0153】
また、製造装置1、工業油使用装置2、分析装置3、再生装置4は、工業油循環再生管理システムSys1において複数設けられていてもよい。例えば、製造装置1は、工業油使用装置2で新規で使用する新規の工業油組成物C1を製造するものと、再生油組成物C2を原材料として工業油使用装置2で再使用する再生後の工業油組成物C1を製造するものとが別個に設けられていてもよい。また、例えば、製造装置1、工業油使用装置2、分析装置3、再生装置4は、それぞれ複数設けられ、所定の地域ごとに群として取り扱われてもよい。同様に、組成決定装置5も工業油循環再生管理システムSys1において複数設けられていてもよい。
【0154】
例えば、複数の工業油使用装置2が複数設けられている場合、組成決定装置5は、当該複数の工業油使用装置2ごとに、それぞれ、当該工業油使用装置2で再使用される再生後の工業油組成物C1の組成を調整すればよい。
【0155】
この場合、例えば、工業油使用装置2は、使用済みの工業油組成物C1が回収された第1の工業油使用装置2と、当該使用済みの工業油組成物C1から再生した再生油組成物C2を原材料とする再生後の工業油組成物C1を再使用する第2の工業油使用装置2とが異なっていてもよい。つまりこの場合、第1の工業油使用装置2は、再生油組成物C2を得るために使用済みの工業油組成物C1が回収された工業油使用装置2に相当する。一方、第2の工業油使用装置2は、当該第1の工業油使用装置2から回収された使用済みの工業油組成物C1をもとに再生した再生油組成物C2を原材料とする再生後の工業油組成物C1を再使用する工業油使用装置2に相当する。この場合、組成決定装置5は、再生後の工業油組成物C1を再使用する第2の工業油使用装置2を対象として、当該第2の工業油使用装置2で再使用する再生後の工業油組成物C1の組成を決定するようにすればよく、当該組成の決定において、再生油組成物C2に添加する機能性添加剤を調整することで、循環再生される工業油組成物C1を管理すればよい。このとき、組成決定装置5は、例えば、分析装置3による使用済みC1の工業油組成物C1の分析結果に基づいて当該組成の決定を行う場合には、当該第2の工業油使用装置2から回収した使用済みC1の工業油組成物C1の分析結果に基づいて再生後の工業油組成物C1の組成を決定すればよい。
【0156】
以上、本実施形態に係る工業油循環再生管理システムSys1の全体構成の概略について説明した。
【0157】
<工業油循環再生管理システムにおける工業油循環再生管理方法、再生工業油組成物製造方法の各工程の流れ>
次に、
図13を参照して工業油循環再生管理システムSys1において実行される工業油循環再生管理方法、および、再生工業油組成物製造方法の各工程の流れの一例について説明する。なお、以下で説明する各工程の流れは、あくまでも代表的なものの一例でありこれに限定されるものではない。
【0158】
本実施形態の再生工業油組成物製造方法は、回収工程(ステップS4)と、分析工程(ステップS5)と、再生工程(ステップS7)と、組成決定工程(ステップS9)と、製造工程(ステップS11)とを含む。本実施形態の工業油循環再生管理方法は、上記に加えてさらに、工業油使用工程(ステップS3)と、工業油再使用工程(ステップS13)とを含んでおり、すなわち、工業油使用工程(ステップS3)と、回収工程(ステップS4)と、分析工程(ステップS5)と、再生工程(ステップS7)と、組成決定工程(ステップS9)と、製造工程(ステップS11)と、工業油再使用工程(ステップS13)とを含む。
【0159】
工業油使用工程(ステップS3)は、工業油組成物C1を工業油使用装置2で使用する工程である。回収工程(ステップS4)は、工業油使用装置2から使用済みの工業油組成物C1を回収する工程である。分析工程(ステップS5)は、回収した使用済みの工業油組成物C1の状態を分析する工程である。再生工程(ステップS7)は、回収した使用済みの工業油組成物C1から基油を含む再生油組成物C2を再生する工程である。組成決定工程(ステップS9)は、工業油使用装置2で再使用する再生後の工業油組成物C1の組成を決定する工程である。製造工程(ステップS11)は、組成決定工程(ステップS9)で決定された組成に基づいて、再生後の再生油組成物C2に機能性添加剤を添加して、工業油使用装置2で再使用する再生後の工業油組成物C1を製造する工程である。工業油再使用工程(ステップS13)は、製造工程(ステップS11)で製造された再生後の工業油組成物C1を工業油使用装置2で再使用する工程である。
【0160】
工業油使用工程(ステップS3)、工業油再使用工程(ステップS13)は、典型的には、工業油使用装置2によって実行される。回収工程(ステップS4)は、典型的には、工業油使用装置2、輸送体6によって実行される。分析工程(ステップS5)は、典型的には、分析装置3によって実行される。再生工程(ステップS7)は、典型的には、再生装置4によって実行される。組成決定工程(ステップS9)は、典型的には、組成決定装置5によって実行される。製造工程(ステップS11)は、典型的には、製造装置1によって実行される。
【0161】
具体的には、まず、製造装置1は、初回製造工程として、工業油使用装置2で最初に使用する工業油組成物C1を製造する(ステップS1)。
【0162】
この場合、製造装置1は、新油の基油に対して酸化防止剤、機能性添加剤等を添加する添加工程を行って当該最初に使用する工業油組成物C1を製造してもよいし、予め製造されていた再生後の再生油組成物C2に対して酸化防止剤、機能性添加剤等を添加する添加工程を行って当該最初に使用する工業油組成物C1を製造してもよい。
【0163】
またこの場合、製造装置1は、組成決定装置5により決定された組成に応じた添加剤強度、添加量、あるいは、事前に予め任意に決定されている添加剤強度、添加量で、酸化防止剤、機能性添加剤等を添加することにより、当該最初に使用する工業油組成物C1を製造する。当該最初に使用する工業油組成物C1の組成は、上述したように、<管理対象となる工業油組成物>で説明した範囲で、使用用途等に応じて任意に決定されればよく、例えば、予め選定された標準品の組成に準じた割合で適宜決定されればよい。
【0164】
なお、製造装置1によって製造された工業油組成物C1は、使用工場P2等に向けて出荷される前に、一旦、製造工場P1に併設されている貯留設備7等に溜め置かれてもよい。
【0165】
次に、輸送体6は、工業油組成物納品工程として、製造装置1によって製造された工業油組成物C1を、当該工業油組成物C1を使用する工業油使用装置2が設置されている使用工場P2に輸送し、納品する(ステップS2)。
【0166】
次に、工業油使用装置2は、工業油使用工程として、納品された工業油組成物C1を当該工業油使用装置2で使用する(ステップS3)。例えば、工業油使用装置2は、工業油組成物C1を使用して種々の製品製造、各種機械加工、各種機器稼働等を行う。
【0167】
次に、輸送体6は、回収工程として、工業油使用装置2において工業油組成物C1の使用を開始してから予め想定される所定の使用期間経過後に、当該工業油使用装置2から使用済みの工業油組成物C1を回収し、分析装置3、再生装置4等が設置されている再生工場P3に輸送する(ステップS4)。
【0168】
この場合、使用済みの工業油組成物C1は、使用工場P2において、分析用の検体が再生されるものとは別に分析用検体容器・回収キットC1a等によって取り分けられた状態で再生工場P3に輸送されてもよい。そして、再生工場P3に輸送された使用済みの工業油組成物C1は、分析用検体容器・回収キットC1a等によって取り分けられた検体が再生工場P3の分析部門に届けられ、残りが再生部門に届けられる。なおここでは、分析用検体容器・回収キットC1a等によって取り分けられた使用済みの工業油組成物C1の検体は、工業油使用装置2において工業油組成物C1の使用を開始してから予め想定される所定の使用期間経過後に回収された後、再生工場P3に輸送され分析装置3によって分析されるものとして説明するがこれに限らない。使用済みの工業油組成物C1の分析用の検体は、使用期間経過前、すなわち、工業油使用装置2での使用中においても、検体回収工程として、分析用検体容器・回収キットC1a等によって定期・不定期で回収、採取された後(ステップS4a)、再生工場P3に輸送されて分析装置3によって劣化状態等を分析されてもよい。
【0169】
次に、分析装置3は、分析工程として、回収した使用済みの工業油組成物C1の状態を分析する(ステップS5)。ここでは、分析装置3は、分析用検体容器・回収キットC1a等によって取り分けられた検体を用いて、当該使用済みの工業油組成物C1中の機能性添加剤の消費状態、および、当該使用済みの工業油組成物C1中の不純物成分の混和状態を分析する。分析装置3は、上述したように、分光分析や液体クロマトグラフィー等、種々の公知の手法を用いて、機能性添加剤の消費状態、および、不純物成分の混和状態を分析する。
【0170】
次に、分析装置3は、分析結果出力工程として、使用済みの工業油組成物C1の状態の分析結果を、分析結果出力部を介して出力する(ステップS6)。分析装置3は、当該分析結果を、再生装置4、および、組成決定装置5に向けて出力する。分析装置3は、当該分析結果を、例えば、データ入出力部によって分析結果データとして出力してもよいし、モニタによって分析結果画像として出力してもよいし、プリンタによって分析結果を表す印刷物として出力してもよい。
【0171】
次に、再生装置4は、再生工程として、回収した使用済みの工業油組成物C1から基油を含む再生油組成物C2を再生する(ステップS7)。この場合、再生装置4は、上述した<再生油組成物の再生>に記載したいずれかの再生方法により、使用済みの工業油組成物C1から再生油組成物C2を再生する。ここでは、再生装置4は、典型的には、分析装置3から出力された使用済みの工業油組成物C1の状態についての分析結果(分析結果データ、分析結果画像、分析結果を表す印刷物等)に基づいて、当該使用済みの工業油組成物C1の状態に応じた再生方法により、使用済みの工業油組成物C1から再生油組成物C2を再生する。
【0172】
なお、再生装置4によって再生された再生油組成物C2は、製造工場P1等に向けて出荷される前に、一旦、再生工場P3に併設されている貯留設備7等に溜め置かれてもよい。
【0173】
次に、輸送体6は、再生油組成物納品工程として、再生装置4によって再生された再生油組成物C2を、製造装置1が設置されている製造工場P1に輸送し、納品する(ステップS8)。
【0174】
なお、製造工場P1に納品された再生油組成物C2は、製造装置1において再生後の工業油組成物C1の原材料として用いられる前に、一旦、製造工場P1に併設されている貯留設備7等に溜め置かれてもよい。
【0175】
次に、組成決定装置5は、組成決定工程として、工業油使用装置2で再使用する再生後の工業油組成物C1の組成を決定する(ステップS9)。
【0176】
この場合、組成決定装置5は、再生後の工業油組成物C1の組成の決定において、再生油組成物C2に添加する機能性添加剤を調整することで、循環再生される工業油組成物C1を管理する。言い換えれば、組成決定装置5は、当該システムで循環再生される工業油組成物C1を管理する目的で再生油組成物C2に添加する機能性添加剤を調整し、例えば、工業油組成物C1の耐用期間や使用済みの工業油組成物C1の品質を管理する。
【0177】
一例として、組成決定装置5は、組成決定工程(ステップS9)では、少なくとも分析工程(ステップS5)での分析装置3による分析結果に基づいて、工業油使用装置2で再使用する再生後の工業油組成物C1の組成を決定する。すなわち、組成決定装置5は、分析装置3から出力された使用済みの工業油組成物C1の状態についての分析結果(分析結果データ、分析結果画像、分析結果を表す印刷物等)に基づいて、当該使用済みの工業油組成物C1の状態や実際の劣化指標等に応じて再生後の工業油組成物C1の組成を決定する。ここでは、組成決定装置5は、上述した<管理対象となる工業油組成物>で説明した範囲で、かつ、工業油組成物C1の耐用期間や使用済みの工業油組成物C1の品質を管理する目的で、再生後の工業油組成物C1に添加される機能性添加剤の添加量、および、強度を調整し、当該再生後の工業油組成物C1の組成を決定する。
【0178】
次に、組成決定装置5は、決定結果出力工程として、再生後の工業油組成物C1の組成の決定結果を、組成結果出力部を介して出力する(ステップS10)。組成決定装置5は、当該決定結果を、製造装置1に向けて出力する。組成決定装置5は、当該決定結果を、例えば、データ入出力部によって調整レシピRに関するデータとして出力してもよいし、モニタによって調整レシピRを表す画像として出力してもよいし、プリンタによって調整レシピRを表す印刷物として出力してもよい。
【0179】
なお、上述した再生工程(ステップS7)と組成決定工程(ステップS9)との前後関係は、上記の順番に限らない。再生工程(ステップS7)と組成決定工程(ステップS9)とは、先に組成決定工程(ステップS9)が行われた後、再生工程(ステップS7)が行われてもよいし、再生工程(ステップS7)と組成決定工程(ステップS9)とが並行して行われてもよい。
【0180】
次に、製造装置1は、製造工程として、組成決定工程(ステップS9)で組成決定装置5によって決定された組成に基づいて、再生後の再生油組成物C2に対して酸化防止剤、機能性添加剤を添加して、工業油使用装置2で再使用する再生後の工業油組成物C1を製造する(ステップS11)。
【0181】
この場合、製造装置1は、再生工程(ステップS7)で再生装置4によって再生された再生後の再生油組成物C2に対して酸化防止剤、機能性添加剤等を添加する添加工程を行って当該再生後の工業油組成物C1を製造する。またこの場合、製造装置1は、組成決定装置5から出力された再生後の工業油組成物C1の組成についての決定結果(調整レシピRに関するデータ、調整レシピRを表す画像、調整レシピRを表す印刷物)に基づいて、組成決定装置5により決定された組成に応じた添加剤強度、添加量で、当該再生油組成物C2に対して酸化防止剤、機能性添加剤等を添加することにより、当該再生後の工業油組成物C1を製造する。
【0182】
なお、製造装置1によって製造された再生後の工業油組成物C1は、上記と同様に、使用工場P2等に向けて出荷される前に、一旦、製造工場P1に併設されている貯留設備7等に溜め置かれてもよい。
【0183】
次に、輸送体6は、再生工業油組成物納品工程として、上述したステップS2と同様に、製造装置1によって製造された再生後の工業油組成物C1を、当該工業油組成物C1を使用する工業油使用装置2が設置されている使用工場P2に輸送し、納品する(ステップS12)。
【0184】
次に、工業油使用装置2は、工業油再使用工程として、上述したステップS13と同様に、納品された再生後の工業油組成物C1を当該工業油使用装置2で使用する(ステップS13)。
【0185】
以降は、上述したステップS4~ステップS13の工程を繰り返し行っていくことで、工業油循環再生管理システムSys1において、工業油組成物C1、再生油組成物C2の循環再生サイクルが構築される。
【0186】
<工業油組成物の組成決定・管理>
次に、
図14~
図19を参照して工業油循環再生管理システムSys1において循環再生される工業油組成物C1を管理するための組成決定の詳細について説明する。
【0187】
上述したように、本実施形態の工業油循環再生管理システムSys1は、工業油組成物C1に添加される機能性添加剤が調整されることで、工業油組成物C1の耐用期間や使用済みの工業油組成物C1の状態を可変とすることができることを利用して、当該システムにおいて循環再生される工業油組成物C1を管理している。ここでは、循環再生される工業油組成物C1の管理には、例えば、工業油組成物C1の耐用期間の管理や使用済みの工業油組成物C1の品質の管理等が含まれる。すなわち、工業油循環再生管理システムSys1は、組成決定工程(ステップS9)において、組成決定装置5によって、工業油組成物C1を管理する目的で再生油組成物C2に添加する機能性添加剤の強度や添加量が調整されることで、工業油組成物C1の耐用期間や使用済みの工業油組成物C1の品質を管理している。以下、
図14~
図19を参照して工業油組成物C1の組成決定・管理についての具体例を説明する。
【0188】
なお、組成決定装置5は、機能性添加剤の添加量、および、強度を、管理の目的に応じて<管理対象となる工業油組成物>で説明した範囲で、無段階で調整するようにしてもよいが、以下の説明では、説明を分かり易くするために便宜的に、
図14に例示すように、強度として3段階、添加量として5段階、強度と添加量との組み合わせとしては合計15段階で調整するものとして説明する。またここでは、機能性添加剤の強度が「中」、機能性添加剤の添加量が「3」とされた工業油組成物C1を「標準品」として取り扱うこととする。
【0189】
また、機能性添加剤の調整においては、典型的には、添加量を相対的に少なくすることを優先させるようにしてもよい。これは、工業油組成物C1中の機能性添加剤の添加量が相対的に少ないほど、使用済みの工業油組成物C1中の不純物が相対的に少なくなる傾向にあることから、当該使用済みの工業油組成物C1から再生油組成物C2を再生する際に使用済みの工業油組成物C1から除去しなければならない対象が相対的に少なくて済むようになるためである。ただし、機能性添加剤は、その種類によっては価格が高価なものもあり、添加量自体が少なくても単価が高いことでトータルのコストが相対的に高くなる場合がある(例えば、強度が相対的に高いものほど単価も相対的に高くなる傾向にある。)。このため、機能性添加剤の調整においては、なるべく添加量を少なくしつつ、単価が高いものは優先度を落とす等、費用対効果とのバランスを踏まえて適宜調整の優先度を定めればよい。
【0190】
また、以下で説明する組成決定装置5における各工程は、組成決定装置5自身の演算部による演算処理によって実行されてもよいし、操作入力部を介した作業員の操作による手動処理によって実行されてもよい。
【0191】
<工業油組成物の組成決定・管理:組成決定・管理の具体例1>
図15~
図17に示す具体例1では、使用済みの工業油組成物C1の品質を管理する例について説明する。つまり、この具体例1において、工業油組成物C1の管理は、予め想定される使用期間経過後の使用済みの工業油組成物C1の品質の管理を含むものである。以下で説明する
図15~
図17は、上述した組成決定工程(ステップS9)における具体的な処理内容の一例を示したものである。
【0192】
この場合、組成決定装置5は、組成決定工程(ステップS9)では、再生後の工業油組成物C1の組成の決定において、再生油組成物C2に添加する機能性添加剤を調整することで、使用期間経過後の使用済みの工業油組成物C1の品質を管理する。つまり、この具体例1では、組成決定装置5による再生後の工業油組成物C1の組成調整によって管理・コントロールする対象は、予め想定される使用期間経過後の使用済みの工業油組成物C1の品質、状態である。
【0193】
より具体的には、組成決定装置5は、組成決定工程(ステップS9)では、使用期間経過後の使用済みの工業油組成物C1の品質が目標の品質となるように、機能性添加剤の強度、または、添加量を調整することで、再生後の工業油組成物C1の組成を調整、決定する。そして、組成決定装置5は、決定した当該組成に応じた調整レシピRを出力する。言い換えれば、組成決定装置5は、目標とする使用済みの工業油組成物C1の品質に応じて、製造装置1で製造する再生後の工業油組成物C1の組成を変えて当該調整レシピRを出力する。そして、製造装置1は、当該調整レシピRに基づいて再生後の工業油組成物C1を製造する。これにより、組成決定装置5は、予め想定される使用期間経過後の使用済み工業油組成物C1の品質を所望にあわせて最適化する。
【0194】
なお、品質管理の対象となる工業油組成物C1の使用期間は、予め任意に想定される期間であり、例えば、工業油組成物C1の使用用途、使用する工業油使用装置2の種類、工業油使用装置2の稼働計画・稼動予定期間、工業油組成物C1が適正に機能することを保障する期間等に応じて任意に決定されればよい。当該使用期間は、固定の期間として定められてもよいし、工業油使用装置2の稼働状況等に応じて適宜可変の期間として定められてもよく、例えば、工業油使用装置2が高負荷で稼働する繁忙期と低負荷で可能する閑散期とで異なる長さに定められてもよい。いずれの場合でも、組成決定装置5による使用済みの工業油組成物C1の品質管理は、予め想定される当該使用期間に対して行われる。
【0195】
また、使用済みの工業油組成物C1の品質管理において目標とする品質は、一例として、
図5で例示したような標準的な状態に相当する品質とする。すなわち、組成決定装置5は、予め想定される使用期間経過後の使用済みの工業油組成物C1の品質が、
図5に示すように、工業油組成物C1中に添加されていた機能性添加剤の大部分が消費されているが一部が消費されずに残存しており、かつ、摩耗粉等の不純物成分を若干含んだ状態となるように品質管理する。つまり、組成決定装置5は、当該使用期間経過後において、工業油組成物C1中の機能性添加剤が無駄にならず、かつ、基油の損傷のおそれがないバランスのとれた標準的な状態に相当する品質となることを目標として、工業油組成物C1に添加する機能性添加剤の強度、添加量を調整し、当該使用期間経過後の使用済みの工業油組成物C1の品質を管理する。
【0196】
具体的には、
図15示すように、まず、組成決定装置5は、予め想定された使用期間経過後に工業油使用装置2から回収した使用済み工業油組成物C1の状態についての分析結果を取得する(ステップS100)。組成決定装置5は、典型的には、上述した分析結果出力工程(ステップS6)において、分析装置3から分析結果出力部を介して出力された使用済みの工業油組成物C1の状態についての分析結果を取得する。
【0197】
次に、組成決定装置5は、ステップS100において取得した分析結果に基づいて、使用済みの工業油組成物C1中の機能性添加剤が略100%消費された状態(完全消費状態)であるか否かを判定する(ステップS101)。組成決定装置5は、例えば、分析装置3による分析結果のうち、液体クロマトグラフィーに関する分析結果等に基づいて、使用済みの工業油組成物C1中の機能性添加剤の消費状態を判定することができる(以下の同種の判定でも同様である。)。
【0198】
組成決定装置5は、使用済みの工業油組成物C1中の機能性添加剤が略100%消費された状態(完全消費状態)であると判定した場合(ステップS101:Yes)、使用済みの工業油組成物C1中の不純物成分が所定割合以上、ここでは5%以上であるか否かを判定する(ステップS102)。組成決定装置5は、例えば、分析装置3による分析結果のうち、赤外分光分析(FTIR)に関する分析結果等に基づいて、使用済みの工業油組成物C1中の不純物成分の混和状態を判定することができる(以下の同種の判定でも同様である。)。
【0199】
組成決定装置5は、使用済みの工業油組成物C1中の不純物成分が5%以上であると判定した場合(ステップS102:Yes)、使用済みの工業油組成物C1の状態が
図3で例示したような「過度に使用した状態」であるものと判定する(ステップS103)。
【0200】
次に、組成決定装置5は、当該使用済みの工業油組成物C1に添加されている現在の機能性添加剤の強度が「高(強)」であるか否かを判定する(ステップS104)。例えば、組成決定装置5は、例えば、前回の調整レシピRの履歴や分析装置3による分析結果等に基づいて現在の機能性添加剤の強度が「高(強)」であるか否かを判定することができる(以下の同種の判定でも同様である。)。
【0201】
組成決定装置5は、当該使用済みの工業油組成物C1に添加されている現在の機能性添加剤の強度が「高」であると判定した場合(ステップS104:Yes)、次回に製造する再生後の工業油組成物C1の組成において、機能性添加剤の強度については現在の強度から「変更なし」とし、添加量については現在の添加量に対して「+2」とすることを決定し、当該決定結果に応じた調整レシピRを出力し(ステップS105)、この処理を終了する。ここで、現在の添加量に対して「+2」とすることは、例えば、現在の添加量に対して略20質量%、添加量を増やすことに相当する(以下同様である。)。
【0202】
そして、製造装置1は、当該調整レシピRに基づいて、工業油使用装置2で再使用する再生後の工業油組成物C1を製造する。この結果、当該再生後の工業油組成物C1は、前回よりも機能性添加剤の添加量が相対的に多く添加されていることで、想定される使用期間に対して耐用期間を相対的に長くすることができる。つまり、組成決定装置5は、上記のようにして再生後の工業油組成物C1の組成を決定することで、予め想定される使用期間経過後の使用済みの工業油組成物C1の品質が、
図3で例示した「過度に使用した状態」に相当する品質から
図5に例示した「標準的な状態」に相当する品質に近づくように管理することができ、これにより、基油の損傷を防ぐことができる。なおここでは、組成決定装置5は、機能性添加剤の添加量については現在の添加量に対して「+2」とし2段階で大幅に変えることで、最適化までの試行回数を短縮することができる。
【0203】
組成決定装置5は、ステップS104の判定において、当該使用済みの工業油組成物C1に添加されている現在の機能性添加剤の強度が「高」ではないと判定した場合(ステップS104:No)、当該使用済みの工業油組成物C1に添加されている現在の機能性添加剤の強度が「低(弱)」であるか否かを判定する(ステップS106)。
【0204】
組成決定装置5は、当該使用済みの工業油組成物C1に添加されている現在の機能性添加剤の強度が「低」であると判定した場合(ステップS106:Yes)、次回に製造する再生後の工業油組成物C1の組成において、機能性添加剤の強度については現在の強度に対して「+2」(すなわち、「高」)とし、添加量については現在の添加量から「変更なし」とすることを決定し、当該決定結果に応じた調整レシピRを出力し(ステップS107)、この処理を終了する。
【0205】
そして、製造装置1は、上記と同様に、当該調整レシピRに基づいて、工業油使用装置2で再使用する再生後の工業油組成物C1を製造する。この結果、当該再生後の工業油組成物C1は、前回よりも機能性添加剤の強度が相対的に高いものが添加されていることで、想定される使用期間に対して耐用期間を相対的に長くすることができる。この場合も、組成決定装置5は、上記のようにして再生後の工業油組成物C1の組成を決定することで、予め想定される使用期間経過後の使用済みの工業油組成物C1の品質が、
図3で例示した「過度に使用した状態」に相当する品質から
図5に例示した「標準的な状態」に相当する品質に近づくように管理することができ、これにより、基油の損傷を防ぐことができる。なおここでは、組成決定装置5は、機能性添加剤の強度については現在の強度に対して「+2」とし2段階で大幅に変えることで、最適化までの試行回数を短縮することができる。またここでは、機能性添加剤の調整においては、例えば、添加量を相対的に少なく維持することを優先して機能性添加剤の強度の方を調整している。
【0206】
組成決定装置5は、ステップS106の判定において、当該使用済みの工業油組成物C1に添加されている現在の機能性添加剤の強度が「低」でないと判定した場合、すなわち、現在の機能性添加剤の強度が「中(標準)」であると判定した場合(ステップS106:No)、次回に製造する再生後の工業油組成物C1の組成において、機能性添加剤の強度については現在の強度に対して「+1」(すなわち、「高」)とし、添加量については現在の添加量に対して「+1」とすることを決定し、当該決定結果に応じた調整レシピRを出力し(ステップS108)、この処理を終了する。ここで、現在の添加量に対して「+1」とすることは、例えば、現在の添加量に対して略10質量%、添加量を増やすことに相当する(以下同様である。)。
【0207】
そして、製造装置1は、上記と同様に、当該調整レシピRに基づいて、工業油使用装置2で再使用する再生後の工業油組成物C1を製造する。この結果、当該再生後の工業油組成物C1は、前回よりも機能性添加剤の強度が相対的に高いもので、かつ、添加量が相対的に多く添加されていることで、想定される使用期間に対して耐用期間を相対的に長くすることができる。この場合も、組成決定装置5は、上記のようにして再生後の工業油組成物C1の組成を決定することで、予め想定される使用期間経過後の使用済みの工業油組成物C1の品質が、
図3で例示した「過度に使用した状態」に相当する品質から
図5に例示した「標準的な状態」に相当する品質に近づくように管理することができ、これにより、基油の損傷を防ぐことができる。
【0208】
組成決定装置5は、ステップS102の判定において、使用済みの工業油組成物C1中の不純物成分が5%未満であると判定した場合(ステップS102:No)、使用済みの工業油組成物C1の状態が
図4で例示したような「長寿命化としては適正であるが改善の余地がある状態」であるものと判定する(ステップS109)。
【0209】
次に、組成決定装置5は、当該使用済みの工業油組成物C1に添加されている現在の機能性添加剤の強度が「高」であるか否かを判定する(ステップS110)。
【0210】
組成決定装置5は、当該使用済みの工業油組成物C1に添加されている現在の機能性添加剤の強度が「高」であると判定した場合(ステップS110:Yes)、次回に製造する再生後の工業油組成物C1の組成において、機能性添加剤の強度については現在の強度から「変更なし」とし、添加量については現在の添加量に対して「+1」とすることを決定し、当該決定結果に応じた調整レシピRを出力し(ステップS111)、この処理を終了する。
【0211】
そして、製造装置1は、上記と同様に、当該調整レシピRに基づいて、工業油使用装置2で再使用する再生後の工業油組成物C1を製造する。この結果、当該再生後の工業油組成物C1は、前回よりも機能性添加剤の添加量が相対的に多く添加されていることで、想定される使用期間に対して耐用期間を相対的に長くすることができる。つまり、組成決定装置5は、上記のようにして再生後の工業油組成物C1の組成を決定することで、予め想定される使用期間経過後の使用済みの工業油組成物C1の品質が、
図4で例示した「長寿命化としては適正であるが改善の余地がある状態」に相当する品質から
図5に例示した「標準的な状態」に相当する品質に近づくように管理することができ、これにより、基油の損傷をより確実に防ぐことができる。
【0212】
組成決定装置5は、ステップS110の判定において、当該使用済みの工業油組成物C1に添加されている現在の機能性添加剤の強度が「高」でないと判定した場合、すなわち、機能性添加剤の強度が「中」または「低」であると判定した場合(ステップS110:No)、次回に製造する再生後の工業油組成物C1の組成において、機能性添加剤の強度については現在の強度に対して「+1」(すなわち、「高」または「中」)とし、添加量については現在の添加量から「変更なし」とすることを決定し、当該決定結果に応じた調整レシピRを出力し(ステップS112)、この処理を終了する。
【0213】
そして、製造装置1は、上記と同様に、当該調整レシピRに基づいて、工業油使用装置2で再使用する再生後の工業油組成物C1を製造する。この結果、当該再生後の工業油組成物C1は、前回よりも機能性添加剤の強度が相対的に高いものが添加されていることで、想定される使用期間に対して耐用期間を相対的に長くすることができる。この場合も、組成決定装置5は、上記のようにして再生後の工業油組成物C1の組成を決定することで、予め想定される使用期間経過後の使用済みの工業油組成物C1の品質が、
図4で例示した「長寿命化としては適正であるが改善の余地がある状態」に相当する品質から
図5に例示した「標準的な状態」に相当する品質に近づくように管理することができ、これにより、基油の損傷をより確実に防ぐことができる。なおここでは、機能性添加剤の調整においては、例えば、添加量を相対的に少なく維持することを優先して機能性添加剤の強度の方を調整している。
【0214】
組成決定装置5は、ステップS101の判定において、使用済みの工業油組成物C1中の機能性添加剤が略100%消費された状態(完全消費状態)でないと判定した場合(ステップS101:No)、
図16に示すように、機能性添加剤の消費が85%以上、100%未満の状態であるか否かを判定する(ステップS113)。
【0215】
組成決定装置5は、使用済みの工業油組成物C1中の機能性添加剤の消費が85%以上、100%未満の状態であると判定した場合(ステップS113:Yes)、使用済みの工業油組成物C1の状態が
図5で例示したような「標準的な状態」であるものと判定する(ステップS114)。
【0216】
次に、組成決定装置5は、当該使用済みの工業油組成物C1に添加されている現在の機能性添加剤の強度が「高」であるか否かを判定する(ステップS115)。
【0217】
組成決定装置5は、当該使用済みの工業油組成物C1に添加されている現在の機能性添加剤の強度が「高」であると判定した場合(ステップS115:Yes)、現在までの履歴で、機能性添加剤の強度について現在の強度に対して「-1」とし、添加量については現在の添加量に対して「+1」としたことがあるか否か、すわわち、現在の組成に対して、添加量を増加させる一方、強度を「中」とした組成を試したことがあるか否かを判定する(ステップS116)。この判定は、例えば、強度が「高」である機能性添加剤が相対的に高価なものである場合等、単価が高いものの使用を避けつつ費用対効果とのバランスを踏まえてより最適な機能性添加剤を選定するための判定である。
【0218】
組成決定装置5は、現在までの履歴で、機能性添加剤の強度について現在の強度に対して「-1」とし、添加量については現在の添加量に対して「+1」としたことがあると判定した場合、すなわち、現在の組成に対して、添加量を増加させる一方、強度を「中」とした組成を試したことがあると判定した場合(ステップS116:Yes)、現状の組成が最適であるものと判定し、機能性添加剤の強度、および、添加量の双方について現在から「変更なし」とすることを決定し、当該決定結果に応じた調整レシピRを出力し(ステップS117)、この処理を終了する。
【0219】
そして、製造装置1は、上記と同様に、当該調整レシピRに基づいて、工業油使用装置2で再使用する再生後の工業油組成物C1を製造する。この結果、当該再生後の工業油組成物C1は、前回と同様の組成で製造される。つまり、組成決定装置5は、上記のようにして再生後の工業油組成物C1の組成を決定することで、予め想定される使用期間経過後の使用済みの工業油組成物C1の品質が
図5に例示した「標準的な状態」に相当する品質で維持されるように管理することができる。
【0220】
組成決定装置5は、ステップS116の判定において、現在までの履歴で、機能性添加剤の強度について現在の強度に対して「-1」とし、添加量については現在の添加量に対して「+1」としたことがないと判定した場合、すなわち、現在の組成に対して、添加量を増加させる一方、強度を「中」とした組成を試したことがないと判定した場合(ステップS116:No)、次回に製造する再生後の工業油組成物C1の組成において、機能性添加剤の強度については現在の強度に対して「-1」(すなわち、「中」)とし、添加量については現在の添加量に対して「+1」とすることを決定し、当該決定結果に応じた調整レシピRを出力し(ステップS118)、この処理を終了する。
【0221】
そして、製造装置1は、上記と同様に、当該調整レシピRに基づいて、工業油使用装置2で再使用する再生後の工業油組成物C1を製造する。この結果、組成決定装置5は、上記のようにして再生後の工業油組成物C1の組成を決定することで、予め想定される使用期間経過後の使用済みの工業油組成物C1の品質を
図5に例示した「標準的な状態」に相当する品質で維持しつつ、相対的に高価な機能性添加剤の使用を避けトータルのコストを相対的に低く抑制した組成を試すことができる。
【0222】
組成決定装置5は、ステップS115の判定において、当該使用済みの工業油組成物C1に添加されている現在の機能性添加剤の強度が「高」でないと判定した場合(ステップS115:No)、当該使用済みの工業油組成物C1に添加されている現在の機能性添加剤の強度が「低」であるか否かを判定する(ステップS119)。
【0223】
組成決定装置5は、当該使用済みの工業油組成物C1に添加されている現在の機能性添加剤の強度が「低」であると判定した場合(ステップS119:Yes)、機能性添加剤の強度、および、添加量の双方について現在から「変更なし」とすることを決定し、当該決定結果に応じた調整レシピRを出力し(ステップS120)、この処理を終了する。
【0224】
そして、製造装置1は、上記と同様に、当該調整レシピRに基づいて、工業油使用装置2で再使用する再生後の工業油組成物C1を製造する。この結果、当該再生後の工業油組成物C1は、前回と同様の組成で製造される。この場合も、組成決定装置5は、上記のようにして再生後の工業油組成物C1の組成を決定することで、予め想定される使用期間経過後の使用済みの工業油組成物C1の品質が
図5に例示した「標準的な状態」に相当する品質で維持されるように管理することができる。
【0225】
組成決定装置5は、ステップS119の判定において、当該使用済みの工業油組成物C1に添加されている現在の機能性添加剤の強度が「低」でないと判定した場合、すなわち、現在の機能性添加剤の強度が「中」であると判定した場合(ステップS119:No)、現在までの履歴で、機能性添加剤の強度について現在の強度に対して「-1」とし、添加量については現在の添加量に対して「+1」としたことがあるか否か、すわわち、現在の組成に対して、添加量を増加させる一方、強度を「低」とした組成を試したことがあるか否かを判定する(ステップS121)。この判定も、上記と同様に、例えば、強度が「中」である機能性添加剤が強度「低」である機能性添加剤と比較して相対的に高価なものである場合等、単価が高いものの使用を避けつつ費用対効果とのバランスを踏まえてより最適な機能性添加剤を選定するための判定である。
【0226】
組成決定装置5は、現在までの履歴で、機能性添加剤の強度について現在の強度に対して「-1」とし、添加量については現在の添加量に対して「+1」としたことがあると判定した場合、すなわち、現在の組成に対して、添加量を増加させる一方、強度を「低」とした組成を試したことがあると判定した場合(ステップS121:Yes)、現状の組成が最適であるものと判定し、機能性添加剤の強度、および、添加量の双方について現在から「変更なし」とすることを決定し、当該決定結果に応じた調整レシピRを出力し(ステップS122)、この処理を終了する。
【0227】
そして、製造装置1は、上記と同様に、当該調整レシピRに基づいて、工業油使用装置2で再使用する再生後の工業油組成物C1を製造する。この結果、当該再生後の工業油組成物C1は、前回と同様の組成で製造される。この場合も、組成決定装置5は、上記のようにして再生後の工業油組成物C1の組成を決定することで、予め想定される使用期間経過後の使用済みの工業油組成物C1の品質が
図5に例示した「標準的な状態」に相当する品質で維持されるように管理することができる。
【0228】
組成決定装置5は、ステップS121の判定において、現在までの履歴で、機能性添加剤の強度について現在の強度に対して「-1」とし、添加量については現在の添加量に対して「+1」としたことがないと判定した場合、すなわち、現在の組成に対して、添加量を増加させる一方、強度を「低」とした組成を試したことがないと判定した場合(ステップS121:No)、次回に製造する再生後の工業油組成物C1の組成において、機能性添加剤の強度については現在の強度に対して「-1」(すなわち、「低」)とし、添加量については現在の添加量に対して「+1」とすることを決定し、当該決定結果に応じた調整レシピRを出力し(ステップS123)、この処理を終了する。
【0229】
そして、製造装置1は、上記と同様に、当該調整レシピRに基づいて、工業油使用装置2で再使用する再生後の工業油組成物C1を製造する。この結果、組成決定装置5は、上記のようにして再生後の工業油組成物C1の組成を決定することで、予め想定される使用期間経過後の使用済みの工業油組成物C1の品質を
図5に例示した「標準的な状態」に相当する品質で維持しつつ、相対的に高価な機能性添加剤の使用を避けトータルのコストを相対的に低く抑制した組成を試すことができる。
【0230】
組成決定装置5は、ステップS113の判定において、使用済みの工業油組成物C1中の機能性添加剤の消費が85%以上、100%未満の状態ではないと判定した場合、すなわち、機能性添加剤の消費が85%未満であると判定した場合(ステップS113:No)、
図17に示すように、使用済みの工業油組成物C1中の不純物成分が所定割合以上、ここでは5%以上であるか否かを判定する(ステップS124)。
【0231】
組成決定装置5は、使用済みの工業油組成物C1中の不純物成分が5%以上であると判定した場合(ステップS124:Yes)、使用済みの工業油組成物C1の状態が
図7で例示したような「機能性添加剤が無駄になっている状態」であるものと判定する(ステップS125)。
【0232】
次に、組成決定装置5は、当該使用済みの工業油組成物C1に添加されている現在の機能性添加剤の強度が「低」であるか否かを判定する(ステップS126)。
【0233】
組成決定装置5は、当該使用済みの工業油組成物C1に添加されている現在の機能性添加剤の強度が「低」であると判定した場合(ステップS126:Yes)、次回に製造する再生後の工業油組成物C1の組成において、機能性添加剤の強度については現在の強度から「変更なし」とし、添加量については現在の添加量に対して「-2」とすることを決定し、当該決定結果に応じた調整レシピRを出力し(ステップS127)、この処理を終了する。ここで、現在の添加量に対して「-2」とすることは、例えば、現在の添加量に対して略20質量%、添加量を減らすことに相当する(以下同様である。)。
【0234】
そして、製造装置1は、当該調整レシピRに基づいて、工業油使用装置2で再使用する再生後の工業油組成物C1を製造する。この結果、当該再生後の工業油組成物C1は、前回よりも機能性添加剤の添加量が相対的に少量で添加されていることで、想定される使用期間に対して耐用期間を相対的に短くすることができる。つまり、組成決定装置5は、上記のようにして再生後の工業油組成物C1の組成を決定することで、予め想定される使用期間経過後の使用済みの工業油組成物C1の品質が、
図7で例示したような「機能性添加剤が無駄になっている状態」に相当する品質から
図5に例示した「標準的な状態」に相当する品質に近づくように管理することができ、これにより、消費されずに無駄になる機能性添加剤を低減することができる。なおここでは、組成決定装置5は、機能性添加剤の添加量については現在の添加量に対して「-2」とし2段階で大幅に変えることで、最適化までの試行回数を短縮することができる。
【0235】
組成決定装置5は、ステップS126の判定において、当該使用済みの工業油組成物C1に添加されている現在の機能性添加剤の強度が「低」ではないと判定した場合(ステップS126:No)、当該使用済みの工業油組成物C1に添加されている現在の機能性添加剤の強度が「高」であるか否かを判定する(ステップS128)。
【0236】
組成決定装置5は、当該使用済みの工業油組成物C1に添加されている現在の機能性添加剤の強度が「高」であると判定した場合(ステップS128:Yes)、次回に製造する再生後の工業油組成物C1の組成において、機能性添加剤の強度については現在の強度に対して「-2」(すなわち、「低」)とし、添加量については現在の添加量から「変更なし」とすることを決定し、当該決定結果に応じた調整レシピRを出力し(ステップS129)、この処理を終了する。
【0237】
そして、製造装置1は、上記と同様に、当該調整レシピRに基づいて、工業油使用装置2で再使用する再生後の工業油組成物C1を製造する。この結果、当該再生後の工業油組成物C1は、前回よりも機能性添加剤の強度が相対的に低いものが添加されていることで、想定される使用期間に対して耐用期間を相対的に短くすることができる。この場合も、組成決定装置5は、上記のようにして再生後の工業油組成物C1の組成を決定することで、予め想定される使用期間経過後の使用済みの工業油組成物C1の品質が、
図7で例示したような「機能性添加剤が無駄になっている状態」に相当する品質から
図5に例示した「標準的な状態」に相当する品質に近づくように管理することができ、これにより、消費されずに無駄になる機能性添加剤を低減することができる。なおここでは、組成決定装置5は、機能性添加剤の強度については現在の強度に対して「-2」とし2段階で大幅に変えることで、最適化までの試行回数を短縮することができる。またここでは、機能性添加剤の調整においては、例えば、相対的に単価が高いものの使用を避けることを優先して機能性添加剤の強度の方を調整している。
【0238】
組成決定装置5は、ステップS128の判定において、当該使用済みの工業油組成物C1に添加されている現在の機能性添加剤の強度が「高」でないと判定した場合、すなわち、現在の機能性添加剤の強度が「中」であると判定した場合(ステップS128:No)、次回に製造する再生後の工業油組成物C1の組成において、機能性添加剤の強度については現在の強度に対して「-1」(すなわち、「低」)とし、添加量については現在の添加量に対して「-1」とすることを決定し、当該決定結果に応じた調整レシピRを出力し(ステップS130)、この処理を終了する。ここで、現在の添加量に対して「-1」とすることは、例えば、現在の添加量に対して略10質量%、添加量を減らすことに相当する(以下同様である。)。
【0239】
そして、製造装置1は、上記と同様に、当該調整レシピRに基づいて、工業油使用装置2で再使用する再生後の工業油組成物C1を製造する。この結果、当該再生後の工業油組成物C1は、前回よりも機能性添加剤の強度が相対的に低いもので、かつ、添加量が相対的に少量で添加されていることで、想定される使用期間に対して耐用期間を相対的に短くすることができる。この場合も、組成決定装置5は、上記のようにして再生後の工業油組成物C1の組成を決定することで、予め想定される使用期間経過後の使用済みの工業油組成物C1の品質が、
図7で例示したような「機能性添加剤が無駄になっている状態」に相当する品質から
図5に例示した「標準的な状態」に相当する品質に近づくように管理することができ、これにより、消費されずに無駄になる機能性添加剤を低減することができる。
【0240】
組成決定装置5は、ステップS124の判定において、使用済みの工業油組成物C1中の不純物成分が5%未満であると判定した場合(ステップS124:No)、使用済みの工業油組成物C1の状態が
図6で例示したような「標準的な状態に対しては改善の余地がある状態」であるものと判定する(ステップS131)。
【0241】
次に、組成決定装置5は、当該使用済みの工業油組成物C1に添加されている現在の機能性添加剤の強度が「低」であるか否かを判定する(ステップS132)。
【0242】
組成決定装置5は、当該使用済みの工業油組成物C1に添加されている現在の機能性添加剤の強度が「低」であると判定した場合(ステップS132:Yes)、次回に製造する再生後の工業油組成物C1の組成において、機能性添加剤の強度については現在の強度から「変更なし」とし、添加量については現在の添加量に対して「-1」とすることを決定し、当該決定結果に応じた調整レシピRを出力し(ステップS133)、この処理を終了する。
【0243】
そして、製造装置1は、上記と同様に、当該調整レシピRに基づいて、工業油使用装置2で再使用する再生後の工業油組成物C1を製造する。この結果、当該再生後の工業油組成物C1は、前回よりも機能性添加剤の添加量が相対的に少量で添加されていることで、想定される使用期間に対して耐用期間を相対的に短くすることができる。つまり、組成決定装置5は、上記のようにして再生後の工業油組成物C1の組成を決定することで、予め想定される使用期間経過後の使用済みの工業油組成物C1の品質が、
図6で例示した「標準的な状態に対しては改善の余地がある状態」に相当する品質から
図5に例示した「標準的な状態」に相当する品質に近づくように管理することができ、これにより、消費されずに無駄になる機能性添加剤をさらに低減することができる。
【0244】
組成決定装置5は、ステップS132の判定において、当該使用済みの工業油組成物C1に添加されている現在の機能性添加剤の強度が「低」でないと判定した場合、すなわち、機能性添加剤の強度が「高」または「中」であると判定した場合(ステップS132:No)、次回に製造する再生後の工業油組成物C1の組成において、機能性添加剤の強度については現在の強度に対して「-1」(すなわち、「中」または「低」)とし、添加量については現在の添加量から「変更なし」とすることを決定し、当該決定結果に応じた調整レシピRを出力し(ステップS134)、この処理を終了する。
【0245】
そして、製造装置1は、上記と同様に、当該調整レシピRに基づいて、工業油使用装置2で再使用する再生後の工業油組成物C1を製造する。この結果、当該再生後の工業油組成物C1は、前回よりも機能性添加剤の強度が相対的に低いものが添加されていることで、想定される使用期間に対して耐用期間を相対的に短くすることができる。この場合も、組成決定装置5は、上記のようにして再生後の工業油組成物C1の組成を決定することで、予め想定される使用期間経過後の使用済みの工業油組成物C1の品質が、
図6で例示した「標準的な状態に対しては改善の余地がある状態」に相当する品質から
図5に例示した「標準的な状態」に相当する品質に近づくように管理することができ、これにより、消費されずに無駄になる機能性添加剤をさらに低減することができる。なおここでは、機能性添加剤の調整においては、例えば、相対的に単価が高いものの使用を避けることを優先して機能性添加剤の強度の方を調整している。
【0246】
工業油循環再生管理システムSys1は、上記のようにして当該システムにおいて循環再生される工業油組成物C1の品質を管理することで、当該システムにおいて循環再生される再生油組成物C2に含まれる基油が損傷することを抑制し適正に保護した上で、工業油組成物C1中の機能性添加剤が使用されずに無駄になることを抑制すことができる。つまり、工業油循環再生管理システムSys1は、基油を含む再生油組成物C2の保護と、機能性添加剤の無駄抑制とをバランスよく両立することができる。
【0247】
この結果、工業油循環再生管理システムSys1は、例えば、CO2削減・カーボンニュートラルのみならず、いわゆる、SDGs、環境負荷低減、循環経済等の観点からも幅広く実社会に貢献することができる。
【0248】
例えば、工業油循環再生管理システムSys1は、基油を含む再生油組成物C2を安定して循環再生することができる当該システムを利用して、いわゆるサブスクリプション等により月単位や年単位での定額潤滑管理サービス等を実装した場合、当該サービスを享受する顧客の満足度を向上することもできる。すなわち、工業油循環再生管理システムSys1は、上記のようにして使用済みの工業油組成物C1の品質を管理することで、工業油使用装置2において工業油組成物C1が過度に使用されることやこれとは逆に工業油組成物C1において工業油組成物C1が無駄に交換されること等を抑制することができる。これにより、工業油循環再生管理システムSys1は、例えば、工業油使用装置2の確実な保護と、工業油使用装置2の稼働率低下抑制とを両立することができ、当該サービスを享受する顧客満足度を向上することができる。また、工業油循環再生管理システムSys1は、例えば、顧客が当該サービスに対して定額料金を支払っているにもかかわらず、当該サービスにおいて有料消費材として提供される機能性添加剤がほとんど消費されていない等の事態が発生することも抑制することができ、これにより、顧客満足度が低下することを抑制することができる。つまり、工業油循環再生管理システムSys1は、予め想定される使用期間経過時点で再生油組成物C2に含まれる基油を適正に保護するだけでなく、機能性添加剤が適量消費されていることで、機能性添加剤の無駄抑制、および、顧客満足度向上の両立を実現することができる。
【0249】
<工業油組成物の組成決定・管理:組成決定・管理の具体例2>
図18~
図19に示す具体例2では、再生油組成物C2の循環再生サイクルを管理する例について説明する。つまり、この具体例2において、工業油組成物C1の管理は、再生油組成物C2の循環再生サイクルの管理を含むものである。
【0250】
この場合、組成決定装置5は、組成決定工程(ステップS9)では、再生後の工業油組成物C1の組成の決定において、再生油組成物C2に添加する機能性添加剤を調整することで、再生油組成物C2の循環再生サイクルを管理する。つまり、この具体例2では、組成決定装置5による再生後の工業油組成物C1の組成調整によって管理・コントロールする対象は、当該システムにおいて循環再生される再生油組成物C2の循環再生サイクルである。ここでは、組成決定装置5は、再生油組成物C2に添加する機能性添加剤を調整し、再生後の工業油組成物C1の耐用期間を管理・コントロールし、これにより、ひいては、工業油組成物C1や再生油組成物C2の循環再生サイクル自体を管理・コントロールする。
【0251】
より具体的には、組成決定装置5は、組成決定工程(ステップS9)では、工業油使用装置2における再生後の工業油組成物C1の耐用期間が目標の期間となるように、機能性添加剤の強度、または、添加量を調整することで、再生後の工業油組成物C1の組成を調整、決定する。そして、組成決定装置5は、決定した当該組成に応じた調整レシピRを出力する。言い換えれば、組成決定装置5は、目標とする工業油組成物C1の耐用期間に応じて、製造装置1で製造する再生後の工業油組成物C1の組成を変えて当該調整レシピRを出力する。そして、製造装置1は、当該調整レシピRに基づいて再生後の工業油組成物C1を製造する。これにより、組成決定装置5は、再生後の工業油組成物C1の耐用期間を所望にあわせて最適化し、ひいては、工業油組成物C1や再生油組成物C2の循環再生サイクルを最適化する。
【0252】
再生油組成物C2のサイクル管理において目標とする再生後の工業油組成物C1の耐用期間は、例えば、当該システムで循環再生される工業油組成物C1や再生油組成物C2の循環再生状況、工業油循環再生管理システムSys1全体の動作状態や稼働予測等に応じて適宜設定されればよい。すなわち、組成決定装置5は、工業油組成物C1や再生油組成物C2の循環再生状況、工業油循環再生管理システムSys1全体の動作状態や稼働予測等にあわせて工業油組成物C1、再生油組成物C2の循環再生サイクルが最適化されるように、再生後の工業油組成物C1の耐用期間を管理する。つまり、組成決定装置5は、例えば、工業油循環再生管理システムSys1において、工業油組成物C1や再生油組成物C2が滞りなく効率的に循環再生されるように循環再生サイクルを最適化することを目標として、工業油組成物C1に添加する機能性添加剤の強度、添加量を調整し、工業油使用装置2における再生後の工業油組成物C1の耐用期間を管理する。
【0253】
組成決定装置5は、再生後の工業油組成物C1の耐用期間が目標の期間となるように当該耐用期間を相対的に長くする場合には、再生後の工業油組成物C1の組成の決定において、機能性添加剤の強度を相対的に高くする、あるいは、機能性添加剤の添加量を相対的に多くする。一方、組成決定装置5は、再生後の工業油組成物C1の耐用期間が目標の期間となるように当該耐用期間を相対的に短くする場合には、再生後の工業油組成物C1の組成の決定において、機能性添加剤の強度を相対的に低くする、あるいは、機能性添加剤の添加量を相対的に少なくする。
【0254】
なお、この具体例2で示す再生油組成物C2の循環再生サイクルの管理は、例えば、
図18に示すように、製造装置1、工業油使用装置2、再生装置4が複数設けられた工業油循環再生管理システムSys1に適用される際には、これらにおける複数の循環再生サイクルを束ねて群管理することで、より好適にシステム全体の効率化を図ることができる。この場合、組成決定装置5は、当該複数の工業油使用装置2ごとに、それぞれ、当該工業油使用装置2で再使用される再生後の工業油組成物C1の組成を調整すればよい。すなわち、組成決定装置5は、複数の工業油使用装置2ごとに、各工業油使用装置2で使用する工業油組成物C1の耐用期間を個別に調節、管理することで、システム全体での工業油組成物C1や再生油組成物C2の循環再生サイクルを束ねて調整、管理し、全体で最適化を図る。
【0255】
ここでは、組成決定装置5は、
図19に示すように、組成決定工程(ステップS9)では、上述した分析工程(ステップS5)での分析装置3による分析結果に加えて、当該システムで循環再生される工業油組成物C1や再生油組成物C2の循環再生状況、工業油循環再生管理システムSys1全体の動作状態や稼働予測等を表す各種指標にも基づいて、工業油使用装置2で再使用する再生後の工業油組成物C1の組成を決定する。
【0256】
より具体的には、当該システムで循環再生される工業油組成物C1や再生油組成物C2の循環再生状況、工業油循環再生管理システムSys1全体の動作状態や稼働予測等を表す各種指標として、例えば、再生油組成物C2の循環総量、工業油使用装置2での使用に伴った工業油組成物C1の劣化傾向、各工業油使用装置2の稼働状況、各工業油使用装置2の稼働予測、各再生装置4における再生能力、各再生装置4の稼働率、各製造装置1における製造能力、各製造装置1の稼動率、各輸送体6における輸送能力、各輸送体6の稼働率、各貯留設備7の貯留能力、各貯留設備7の稼働率等を用いることができる。
【0257】
すなわちこの場合、組成決定装置5は、組成決定工程(ステップS9)では、分析装置3による分析結果、再生油組成物C2の循環総量、工業油使用装置2での使用に伴った工業油組成物C1の劣化傾向、各工業油使用装置2の稼働状況、各工業油使用装置2の稼働予測、各再生装置4における再生能力、各再生装置4の稼働率、各製造装置1における製造能力、各製造装置1の稼動率、各輸送体6における輸送能力、各輸送体6の稼働率、各貯留設備7の貯留能力、および、各貯留設備7の稼働率のうちの少なくとも1つに基づいて、工業油使用装置2で再使用する再生後の工業油組成物C1の組成を決定する。これらの指標は、例えば、各装置においてセンシングされたデータがデータ入出力部を介して組成決定装置5に入力されてもよいし、操作入力部を介して作業員の操作によって組成決定装置5に入力されてもよい。組成決定装置5は、これら各種指標に基づいて、工業油循環再生管理システムSys1全体、および、工業油組成物C1や再生油組成物C2の循環再生サイクルをモニタリングし、当該循環再生サイクルが適正に行われシステム全体が効率よく稼働するように、再生後の工業油組成物C1の組成を決定し、当該工業油組成物C1の耐用期間を調整、管理する。
【0258】
ここで、再生油組成物C2の循環総量とは、工業油循環再生管理システムSys1において、循環再生される再生油組成物C2の総量に応じた指標である。組成決定装置5は、典型的には、再生後の工業油組成物C1の原材料となる再生油組成物C2が不足したり、逆に過剰供給となったりしないように、再生油組成物C2の循環総量に応じて再生後の工業油組成物C1の組成を決定し、当該工業油組成物C1の耐用期間を調整、管理するようにしてもよい。例えば、組成決定装置5は、再生油組成物C2の循環総量が相対的に少ない場合には、再生後の工業油組成物C1の耐用期間が相対的に長くなるように当該工業油組成物C1の組成を決定するようにしてもよい。一方、組成決定装置5は、再生油組成物C2の循環総量が相対的に多い場合には再生後の工業油組成物C1の耐用期間が相対的に短くなるように当該工業油組成物C1の組成を決定してもよい。これにより、組成決定装置5は、再生油組成物C2の循環総量に応じた管理を行うことができる。
【0259】
工業油使用装置2での使用に伴った工業油組成物C1の劣化傾向とは、典型的には、特定の工業油使用装置2で使用された使用済みの工業油組成物C1の分析を複数回繰り返すことで把握することができる工業油組成物C1の劣化の傾向に応じた指標である。組成決定装置5は、特定の工業油使用装置2で使用される工業油組成物C1の劣化傾向が把握できている場合には、当該劣化傾向に応じて当該特定の工業油使用装置2で再使用する再生後の工業油組成物C1の組成を決定し、当該工業油組成物C1の耐用期間を調整、管理するようにしてもよい。これにより、組成決定装置5は、工業油組成物C1の劣化傾向に応じた管理を行うことができる。
【0260】
工業油使用装置2の稼働状況とは、典型的には、工業油組成物C1を使用する工業油使用装置2の稼働の状況であり、例えば、工業油組成物C1の使用環境(設置場所の温度やロケーション等)、工業油組成物C1が行う種々の製品製造、各種機械加工、各種機器稼働における稼働負荷、稼働時間等に応じた指標である。また、工業油使用装置2の稼働予測とは、典型的には、工業油使用装置2が行う種々の製品製造、各種機械加工、各種機器稼働等の将来の需要の予測(例えば、将来の増産の予想や減産の予想)に応じた指標である。組成決定装置5は、これら工業油使用装置2の稼働状況や稼働予測に応じて再生後の工業油組成物C1の組成を決定し、当該工業油組成物C1の耐用期間を調整、管理するようにしてもよい。例えば、組成決定装置5は、需要が多くなり工業油使用装置2の稼働が相対的に多くなることが予測される増産・繁忙期においては交換作業による稼働中断が少なくて済むよう、再生後の工業油組成物C1の耐用期間が相対的に長くなるように当該工業油組成物C1の組成を決定するようにしてもよい。一方、組成決定装置5は、需要が少なくなり工業油使用装置2の稼働が相対的に少なくなることが予測される減産・閑散期においては再生後の工業油組成物C1の耐用期間が相対的に短くなるように当該工業油組成物C1の組成を決定してもよい。これにより、組成決定装置5は、工業油使用装置2の稼働状況や稼働予測に応じた管理を行うことができる。
【0261】
再生装置4における再生能力とは、典型的には、再生装置4において単位時間あたりに再生することができる再生油組成物C2の最大量に応じた指標であり、言い換えれば、再生装置4における再生キャパシティである。また、再生装置4の稼働率とは、典型的には、再生装置4において単位時間あたりに再生することができる再生油組成物C2の最大量に対して実際に再生されている再生油組成物C2の量の割合に応じた指標であり、言い換えれば、再生装置4における再生能力のうちどの程度が使用されているのかを表す指標である。組成決定装置5は、これら再生装置4における再生能力や稼働率に応じて再生後の工業油組成物C1の組成を決定し、当該工業油組成物C1の耐用期間を調整、管理するようにしてもよい。例えば、組成決定装置5は、再生装置4の稼働率が相対的に高く再生装置4における再生キャパシティに空きが少ない場合には、再生待ちの使用済みの工業油組成物C1が滞らないよう、再生後の工業油組成物C1の耐用期間が相対的に長くなるように当該工業油組成物C1の組成を決定するようにしてもよい。一方、組成決定装置5は、再生装置4の稼働率が相対的に低く再生装置4における再生キャパシティに空きが十分である場合には、再生後の工業油組成物C1の耐用期間が相対的に短くなるように当該工業油組成物C1の組成を決定してもよい。これにより、組成決定装置5は、再生装置4における再生能力や稼働率に応じた管理を行うことができる。
【0262】
製造装置1における製造能力とは、典型的には、製造装置1において単位時間あたりに製造することができる工業油組成物C1の最大量に応じた指標であり、言い換えれば、製造装置1における製造キャパシティである。また、製造装置1の稼働率とは、典型的には、製造装置1において単位時間あたりに製造することができる工業油組成物C1の最大量に対して実際に製造されている工業油組成物C1の量の割合に応じた指標であり、言い換えれば、製造装置1における製造能力のうちどの程度が使用されているのかを表す指標である。組成決定装置5は、これら製造装置1における製造能力や稼働率に応じて再生後の工業油組成物C1の組成を決定し、当該工業油組成物C1の耐用期間を調整、管理するようにしてもよい。例えば、組成決定装置5は、製造装置1の稼働率が相対的に高く製造装置1における製造キャパシティに空きが少ない場合には、工業油組成物C1の製造供給に対して需要が過多とならないよう、再生後の工業油組成物C1の耐用期間が相対的に長くなるように当該工業油組成物C1の組成を決定するようにしてもよい。一方、組成決定装置5は、製造装置1の稼働率が相対的に低く製造装置1における製造キャパシティに空きが十分である場合には、再生後の工業油組成物C1の耐用期間が相対的に短くなるように当該工業油組成物C1の組成を決定してもよい。これにより、組成決定装置5は、製造装置1における製造能力や稼働率に応じた管理を行うことができる。
【0263】
輸送体6における輸送能力とは、典型的には、輸送体6において単位時間あたりに輸送することができる工業油組成物C1の最大量に応じた指標であり、言い換えれば、輸送体6における輸送キャパシティである。また、輸送体6の稼働率とは、典型的には、輸送体6において単位時間あたりに輸送することができる工業油組成物C1の最大量に対して実際に輸送されている工業油組成物C1の量の割合に応じた指標であり、言い換えれば、輸送体6における輸送能力のうちどの程度が使用されているのかを表す指標である。組成決定装置5は、これら輸送体6における輸送能力や稼働率に応じて再生後の工業油組成物C1の組成を決定し、当該工業油組成物C1の耐用期間を調整、管理するようにしてもよい。例えば、組成決定装置5は、輸送体6の稼働率が相対的に高く輸送体6における輸送キャパシティに空きが少ない場合には、工業油組成物C1や再生油組成物C2の輸送に滞りが発生しないよう、再生後の工業油組成物C1の耐用期間が相対的に長くなるように当該工業油組成物C1の組成を決定するようにしてもよい。一方、組成決定装置5は、輸送体6の稼働率が相対的に低く輸送体6における輸送キャパシティに空きが十分である場合には、再生後の工業油組成物C1の耐用期間が相対的に短くなるように当該工業油組成物C1の組成を決定してもよい。これにより、組成決定装置5は、輸送体6における輸送能力や稼働率に応じた管理を行うことができる。
【0264】
貯留設備7の貯留能力とは、典型的には、貯留設備7において貯留することができる工業油組成物C1、再生油組成物C2の最大量に応じた指標であり、言い換えれば、貯留設備7における貯留キャパシティである。また、貯留設備7の稼働率とは、典型的には、貯留設備7において貯留することができる工業油組成物C1、再生油組成物C2の最大量に対して実際に貯留されている工業油組成物C1、再生油組成物C2の量の割合に応じた指標であり、言い換えれば、貯留設備7における貯留能力のうちどの程度が使用されているのかを表す指標である。組成決定装置5は、これら貯留設備7における貯留能力や稼働率に応じて再生後の工業油組成物C1の組成を決定し、当該工業油組成物C1の耐用期間を調整、管理するようにしてもよい。例えば、組成決定装置5は、貯留設備7の稼働率が相対的に高く輸送体6における貯留キャパシティに空きが少ない場合には、使用されていない状態の工業油組成物C1や再生油組成物C2が過剰にならないよう、再生後の工業油組成物C1の耐用期間が相対的に長くなるように当該工業油組成物C1の組成を決定するようにしてもよい。一方、組成決定装置5は、貯留設備7の稼働率が相対的に低く輸送体6における輸送キャパシティに空きが十分である場合には、再生後の工業油組成物C1の耐用期間が相対的に短くなるように当該工業油組成物C1の組成を決定してもよい。これにより、組成決定装置5は、貯留設備7における貯留能力や稼働率に応じた管理を行うことができる。
【0265】
組成決定装置5は、典型的には、上記各種指標に基づき上記のような傾向を加味して、総合的にバランスをとって、再生後の工業油組成物C1の耐用期間が目標の期間となるように、当該再生後の工業油組成物C1の組成を決定し、再生油組成物C2の循環再生サイクルを管理する。
【0266】
なお、組成決定装置5は、例えば、人工知能(Artificial Intelligence)や深層学習(Deep Learning)に関する技術を用いて、再生後の工業油組成物C1の耐用期間が目標の期間となるように、当該再生後の工業油組成物C1の組成を決定し、再生油組成物C2の循環再生サイクルを管理するようにしてもよい。
【0267】
この場合、組成決定装置5は、例えば、再生後の工業油組成物C1の組成決定に用いる学習済みモデルMを予め記憶部に記憶しておき、当該学習済みモデルMに基づいて、上記各種指標から、再生後の工業油組成物C1の組成を決定し、当該各種指標が示す状況に対応した管理を行うようにしてもよい。
【0268】
ここで、学習済みモデルMは、典型的には、上記各種指標から、当該各種指標が示す状況において最適な管理を行うための工業油組成物C1の組成を決定する学習済みの数理モデルである。つまり、学習済みモデルMは、入力を「分析装置3による分析結果、再生油組成物C2の循環総量、工業油組成物C1の劣化傾向、工業油使用装置2の稼働状況、工業油使用装置2の稼働予測、再生装置4の再生能力、再生装置4の稼働率、製造装置1の製造能力、製造装置1の稼動率、輸送体6の輸送能力、輸送体6の稼働率、貯留設備7の貯留能力、貯留設備7の稼働率」とし、出力を「上記各種指標が示す状況において最適な管理を行うための工業油組成物C1の組成」としたモデルである。
【0269】
この場合、工業油循環再生管理システムSys1は、例えば、予め収集された「分析装置3による分析結果、再生油組成物C2の循環総量、工業油組成物C1の劣化傾向、工業油使用装置2の稼働状況、工業油使用装置2の稼働予測、再生装置4の再生能力、再生装置4の稼働率、製造装置1の製造能力、製造装置1の稼動率、輸送体6の輸送能力、輸送体6の稼働率、貯留設備7の貯留能力、貯留設備7の稼働率」を定量化したデータを説明変数とし、「上記各種指標が示す状況において最適な管理を行うための工業油組成物C1の組成」を定量化したデータを目的変数とし、これらを関連付けした学習用教師データセットを多数用意し、当該学習用教師データセットを用いて機械学習を行い、学習済みモデルMを生成する。機械学習としては、例えば、ディープラーニング、ニューラルネットワーク、ランダムフォレスト、ロジスティック回帰、アンサンブル学習、サポートベクトルマシン、ナイーブベイズ等、本実施形態に適用可能な様々な形式のアルゴリズムを用いることができる。そして、組成決定装置5は、この機械学習によって得られた学習済みモデルMを予め記憶部に記憶しておく。
【0270】
そして、組成決定装置5は、記憶部に記憶されている学習済みモデルMに基づいて、再生後の工業油組成物C1の組成を決定し、調整レシピRを出力する。より具体的には、組成決定装置5は、実際に、分析装置3による分析結果、再生油組成物C2の循環総量、工業油組成物C1の劣化傾向、工業油使用装置2の稼働状況、工業油使用装置2の稼働予測、再生装置4の再生能力、再生装置4の稼働率、製造装置1の製造能力、製造装置1の稼動率、輸送体6の輸送能力、輸送体6の稼働率、貯留設備7の貯留能力、貯留設備7の稼働率を定量化したデータを、当該学習済みモデルMに入力する。これにより、組成決定装置5は、当該学習済みモデルMから、当該各種指標が示す状況において最適な管理を行うための工業油組成物C1の組成を出力し、再生後の工業油組成物C1の組成を決定する。
【0271】
このようにして、組成決定装置5は、上記各種指標に基づいて、再生後の工業油組成物C1の耐用期間が目標の期間となるように、当該再生後の工業油組成物C1の組成を決定し、再生油組成物C2の循環再生サイクルを管理することもできる。
【0272】
工業油循環再生管理システムSys1は、上記のようにして当該システムにおいて循環再生される工業油組成物C1の耐用期間を管理し、ひいては、工業油組成物C1や再生油組成物C2の循環再生サイクルを管理することで、当該システム全体の状況に応じて工業油組成物C1、再生油組成物C2の循環再生サイクルを最適化し当該システム全体を効率よく稼働することができる。
【0273】
この結果、工業油循環再生管理システムSys1は、例えば、CO2削減・カーボンニュートラルのみならず、いわゆる、SDGs、環境負荷低減、循環経済等の観点からも幅広く実社会に貢献することができる。
【0274】
例えば、工業油循環再生管理システムSys1は、複数の工業油使用装置2に対する工業油組成物C1の耐用期間をそれぞれ管理し循環再生サイクルを束ねて群管理することで、例えば、近隣の地域に設けられている複数の工業油使用装置2から使用済の工業油組成物C1を回収する回収時期をあわせることができる。これにより、工業油循環再生管理システムSys1は、例えば、1台の輸送体6によって当該複数の工業油使用装置2からまとめて使用済の工業油組成物C1を回収することができるので輸送の効率化を図ることができる。この場合、工業油使用装置2からの使用済の工業油組成物C1の回収時期は、典型的には、工業油組成物C1の耐用期間の範囲内の時期であればいつでもよいが、耐用期間に対して回収時期が早すぎる場合、使用済の工業油組成物C1中に消費されずに無駄になる機能性添加剤が相対的に多く残存することとなるため、当該回収時期は、工業油組成物C1の耐用期間の終わり時期にある程度近いことがより好ましい。これに対して、本実施形態の工業油循環再生管理システムSys1は、例えば、同時期に使用済の工業油組成物C1の回収の対象となる複数の工業油使用装置2において、当該複数の工業油使用装置2で使用される工業油組成物C1の耐用期間の終わり時期を揃えるよう、各工業油組成物C1の組成を決定し再生後の工業油組成物C1の耐用期間を管理することで、輸送効率を向上し輸送負荷を低減することができ、その上で更に機能性添加剤の無駄抑制も図ることができる。
【0275】
一方、工業油循環再生管理システムSys1は、例えば、複数の工業油使用装置2から使用済の工業油組成物C1を回収する回収時期をあえてずらす管理も可能である。例えば、工業油循環再生管理システムSys1は、製造装置1、再生装置4、輸送体6、貯留設備7の稼動の状況によっては、複数の工業油使用装置2からまとめて使用済の工業油組成物C1を回収してしまうと、製造装置1、再生装置4、輸送体6、貯留設備7等での処理が間に合わず、工業油組成物C1や再生油組成物C2の循環再生に滞りが発生する場合がある。これに対して、本実施形態の工業油循環再生管理システムSys1は、例えば、製造装置1、再生装置4、輸送体6、貯留設備7等の稼働率が相対的に高い状況下では、複数の工業油使用装置2のからの使用済の工業油組成物C1の回収時期をあえて分散させるよう、各工業油組成物C1の組成を決定し再生後の工業油組成物C1の耐用期間を管理することで、機能性添加剤の無駄抑制を図った上で、工業油組成物C1、再生油組成物C2の循環再生に滞りが発生することを抑制し、当該システム全体を効率よく稼働することができる。
【0276】
工業油循環再生管理システムSys1は、上記のように複数の工業油使用装置2のからの使用済の工業油組成物C1の回収時期を揃える、あるいは、分散させる際には、工業油組成物C1の耐用期間があえて短くなるように管理することもありえる。いずれにしても、工業油循環再生管理システムSys1は、各装置の稼働率や工業油組成物C1や再生油組成物C2の需給関係のバランスを踏まえて、複数の工業油使用装置2ごとに、各工業油使用装置2で使用する工業油組成物C1の耐用期間を個別に調節、管理することで、システム全体での循環再生サイクルを最適化することができる。
【0277】
また、工業油循環再生管理システムSys1は、上記のようにして当該システムにおいて循環再生される工業油組成物C1の耐用期間を管理し、ひいては、工業油組成物C1や再生油組成物C2の循環再生サイクルを管理することで、例えば、工業油組成物C1の交換時期等のマネージメントやアナウンスを適正に行うこともできる。
【0278】
この結果、工業油循環再生管理システムSys1は、例えば、システムの全体最適、途切れや滞りのない循環再生サイクル、工業油組成物C1の供給不足・過剰供給の抑制、処理能力に見合わない過剰回収の抑制、システム全体の稼働率向上、円滑で無駄のないシステム運用、貯留・輸送の最適運用、輸送負荷低減、化石燃料消費抑制、環境負荷低減の取り組みへの参加による企業付加価値・企業イメージ向上等、様々な公益的利益を社会に享受することができる。
【0279】
<実施形態の作用効果>
以上で説明した工業油循環再生管理システムSys1は、基油と機能性添加剤とを含む工業油組成物C1を使用する工業油使用装置2と、工業油使用装置2から回収した使用済みの工業油組成物C1から基油を含む再生油組成物C2を再生する再生装置4と、工業油使用装置2で再使用する再生後の工業油組成物C1の組成を決定する組成決定装置5と、組成決定装置5により決定された組成に基づいて、再生後の再生油組成物C2に機能性添加剤を添加して、工業油使用装置2で再使用する再生後の工業油組成物C1を製造する製造装置1とを備え、組成決定装置5は、組成の決定において、再生油組成物C2に添加する機能性添加剤を調整することで、循環再生される工業油組成物C1を管理する。
【0280】
以上で説明した工業油循環再生管理方法は、基油と機能性添加剤とを含む工業油組成物C1を工業油使用装置2で使用する工業油使用工程(ステップS3)と、工業油使用装置2から使用済みの工業油組成物C1を回収する回収工程(ステップS4)と、回収した使用済みの工業油組成物C1から基油を含む再生油組成物C2を再生する再生工程(ステップS7)と、工業油使用装置2で再使用する再生後の工業油組成物C1の組成を決定する組成決定工程(ステップS9)と、組成決定工程(ステップS9)で決定された組成に基づいて、再生後の再生油組成物C2に機能性添加剤を添加して、工業油使用装置2で再使用する再生後の工業油組成物C1を製造する製造工程(ステップS11)と、製造工程(ステップS11)で製造された再生後の工業油組成物C1を工業油使用装置2で再使用する工業油再使用工程(ステップS13)とを含み、組成決定工程(ステップS9)では、組成の決定において、再生油組成物C2に添加する機能性添加剤を調整することで、循環再生される工業油組成物C1を管理する。
【0281】
以上で説明した工業油循環再生管理方法は、基油と機能性添加剤とを含む工業油組成物C1を使用する工業油使用装置2から使用済みの工業油組成物C1を回収する回収工程(ステップS4)と、回収した使用済みの工業油組成物C1から基油を含む再生油組成物C2を再生する再生工程(ステップS7)と、工業油使用装置2で再使用する再生後の工業油組成物C1の組成を決定する組成決定工程(ステップS9)と、組成決定工程(ステップS9)で決定された組成に基づいて、再生後の再生油組成物C2に機能性添加剤を添加して、工業油使用装置2で再使用する再生後の工業油組成物C1を製造する製造工程(ステップS11)とを含み、組成決定工程(ステップS9)では、組成の決定において、再生油組成物C2に添加する機能性添加剤を調整することで、循環再生される工業油組成物C1を管理する。
【0282】
この構成により、工業油循環再生管理システムSys1、工業油循環再生管理方法、および、再生工業油組成物製造方法は、工業油使用装置2で使用される工業油組成物C1を適正に循環再生することができる。この結果、工業油循環再生管理システムSys1、工業油循環再生管理方法、および、再生工業油組成物製造方法は、例えば、CO2削減・カーボンニュートラルのみならず、いわゆる、SDGs、環境負荷低減、循環経済等の観点からも幅広く実社会に貢献することができる。
【0283】
また、以上で説明した工業油循環再生管理システムSys1は、回収した使用済みの工業油組成物C1の状態を分析する分析装置3を備え、組成決定装置5は、分析装置3による分析結果に基づいて、工業油使用装置2で再使用する再生後の工業油組成物C1の組成を決定するようにしてもよい。また、以上で説明した工業油循環再生管理方法、および、再生工業油組成物製造方法は、回収した使用済みの工業油組成物C1の状態を分析する分析工程(ステップS5)を含み、組成決定工程(ステップS9)では、分析工程(ステップS5)での分析結果に基づいて、工業油使用装置2で再使用する再生後の工業油組成物C1の組成を決定するようにしてもよい。この場合、工業油循環再生管理システムSys1、工業油循環再生管理方法、および、再生工業油組成物製造方法は、実際の使用済みの工業油組成物C1の分析結果に応じて、循環再生される工業油組成物C1を適切に管理することができる。
【0284】
また、以上で説明した工業油循環再生管理システムSys1では、組成決定装置5は、再生油組成物C2の循環総量、工業油使用装置2での使用に伴った工業油組成物C1の劣化傾向、工業油使用装置2の稼働状況、工業油使用装置2の稼働予測、使用済みの工業油組成物C1から再生油組成物C2を再生する再生装置4における再生能力、再生装置4の稼働率、工業油組成物C1を製造する製造装置1における製造能力、製造装置1の稼動率、製造装置1と工業油使用装置2と再生装置4との相互間で工業油組成物C1または再生油組成物C2を輸送する輸送体6における輸送能力、輸送体6の稼働率、工業油組成物C1または再生油組成物C2を貯留する貯留設備7の貯留能力、および、貯留設備7の稼働率のうちの少なくとも1つに基づいて、工業油使用装置2で再使用する再生後の工業油組成物C1の組成を決定するようにしてもよい。また、以上で説明した工業油循環再生管理方法、および、再生工業油組成物製造方法は、組成決定工程(ステップS9)では、再生油組成物C2の循環総量、工業油使用装置2での使用に伴った工業油組成物C1の劣化傾向、工業油使用装置2の稼働状況、工業油使用装置2の稼働予測、使用済みの工業油組成物C1から再生油組成物C2を再生する再生装置4における再生能力、再生装置4の稼働率、工業油組成物C1を製造する製造装置1における製造能力、製造装置1の稼動率、製造装置1と工業油使用装置2と再生装置4との相互間で工業油組成物C1または再生油組成物C2を輸送する輸送体6における輸送能力、輸送体6の稼働率、工業油組成物C1または再生油組成物C2を貯留する貯留設備7の貯留能力、および、貯留設備7の稼働率のうちの少なくとも1つに基づいて、工業油使用装置2で再使用する再生後の工業油組成物C1の組成を決定するようにしてもよい。この場合、工業油循環再生管理システムSys1、工業油循環再生管理方法、および、再生工業油組成物製造方法は、当該システムで循環再生される工業油組成物C1や再生油組成物C2の循環再生状況、工業油循環再生管理システムSys1全体の動作状態や稼働予測等に応じて、循環再生される工業油組成物C1を適切に管理することができ、当該管理を通じてシステム全体を効率的に稼動することができる。
【0285】
また、以上で説明した工業油循環再生管理システムSys1では、工業油組成物C1の管理は、予め想定される使用期間経過後の使用済みの工業油組成物C1の品質の管理を含み、組成決定装置5は、再生後の工業油組成物C1の組成の決定において、再生油組成物C2に添加する機能性添加剤を調整することで、使用期間経過後の使用済みの工業油組成物C1の品質を管理するようにしてもよい。また、以上で説明した工業油循環再生管理方法、および、再生工業油組成物製造方法では、工業油組成物C1の管理は、予め想定される使用期間経過後の使用済みの工業油組成物C1の品質の管理を含み、組成決定工程(ステップS9)では、再生後の工業油組成物C1の組成の決定において、再生油組成物C2に添加する機能性添加剤を調整することで、使用期間経過後の使用済みの工業油組成物C1の品質を管理するようにしてもよい。この場合、工業油循環再生管理システムSys1、工業油循環再生管理方法、および、再生工業油組成物製造方法は、再生後の工業油組成物C1を製造する際、再生油組成物C2に添加する機能性添加剤を調整することで、予め想定される使用期間経過後の使用済み工業油組成物C1の品質を所望の品質に管理・コントロールすることができる。
【0286】
より具体的には、以上で説明した工業油循環再生管理システムSys1では、組成決定装置5は、使用期間経過後の使用済みの工業油組成物C1の品質が目標の品質となるように、再生後の工業油組成物C1の組成を調整する。また、以上で説明した工業油循環再生管理方法、および、再生工業油組成物製造方法は、組成決定工程(ステップS9)では、使用期間経過後の使用済みの工業油組成物C1の品質が目標の品質となるように、再生後の工業油組成物C1の組成を調整する。この構成により、工業油循環再生管理システムSys1、工業油循環再生管理方法、および、再生工業油組成物製造方法は、例えば、上述したように、基油を含む再生油組成物C2の保護と、機能性添加剤の無駄抑制とをバランスよく両立することができる。
【0287】
また、以上で説明した工業油循環再生管理システムSys1では、工業油組成物C1の管理は、循環再生される再生油組成物C2の循環再生サイクルの管理を含み、組成決定装置5は、再生後の工業油組成物C1の組成の決定において、再生油組成物C2に添加する機能性添加剤を調整することで、当該再生油組成物C2の循環再生サイクルを管理するようにしてもよい。また、以上で説明した工業油循環再生管理方法、および、再生工業油組成物製造方法では、工業油組成物C1の管理は、循環再生される再生油組成物C2の循環再生サイクルの管理を含み、組成決定工程(ステップS9)では、再生後の工業油組成物C1の組成の決定において、再生油組成物C2に添加する機能性添加剤を調整することで、当該再生油組成物C2の循環再生サイクルを管理するようにしてもよい。この場合、工業油循環再生管理システムSys1、工業油循環再生管理方法、および、再生工業油組成物製造方法は、再生後の工業油組成物C1を製造する際、再生油組成物C2に添加する機能性添加剤を調整することで、当該システムで循環再生される工業油組成物C1や再生油組成物C2の循環再生状況、工業油循環再生管理システムSys1全体の動作状態等にあわせて工業油組成物C1や再生油組成物C2の循環再生サイクルを最適に管理・コントロールすることができる。
【0288】
より具体的には、以上で説明した工業油循環再生管理システムSys1では、組成決定装置5は、工業油使用装置2における再生後の工業油組成物C1の耐用期間が目標の期間となるように、再生後の工業油組成物C1の組成を調整する。また、以上で説明した工業油循環再生管理方法、および、再生工業油組成物製造方法は、組成決定工程(ステップS9)では、工業油使用装置2における再生後の工業油組成物C1の耐用期間が目標の期間となるように、再生後の工業油組成物C1の組成を調整する。この構成により、工業油循環再生管理システムSys1、工業油循環再生管理方法、および、再生工業油組成物製造方法は、上述したように、当該システムで循環再生される工業油組成物C1や再生油組成物C2の循環再生状況、工業油循環再生管理システムSys1全体の動作状態等にあわせて工業油組成物C1の耐用期間を最適化するができるので、例えば、使用済みの工業油組成物C1の回収時期の調節、各装置の稼働率向上、工業油組成物C1や再生油組成物C2の需給関係の最適化等を実現することができる。
【0289】
また、以上で説明した工業油循環再生管理システムSys1では、組成決定装置5は、複数の工業油使用装置2ごとに、それぞれ、当該工業油使用装置2で再使用される再生後の工業油組成物C1の組成を調整する。また、以上で説明した工業油循環再生管理方法、および、再生工業油組成物製造方法は、組成決定工程(ステップS9)では、複数の工業油使用装置2ごとに、それぞれ、当該工業油使用装置2で再使用される再生後の工業油組成物C1の組成を調整する。この構成により、工業油循環再生管理システムSys1、工業油循環再生管理方法、および、再生工業油組成物製造方法は、複数の工業油使用装置2ごとに、各工業油使用装置2で使用する工業油組成物C1の組成を個別に調節、管理することで、複数の工業油使用装置2で使用される工業油組成物C1の循環再生サイクルを束ねて群管理することができ、より好適にシステム全体の効率化を図ることができる。
【0290】
また、以上で説明した工業油循環再生管理システムSys1では、工業油組成物C1は、基油として鉱油(A1)または合成油(A2)と、酸化防止剤として下記式(B)で表される中性亜リン酸エステル誘導体および下記式(C)で表される2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体と、機能性添加剤とを含み、再生装置4は、使用済みの工業油組成物C1を精製処理する精製処理工程により、使用済みの工業油組成物C1から基油を含む再生油組成物C2を再生し、精製処理として、吸着処理または水素化脱硫処理あるいは減圧蒸留処理を行い、製造装置1は、再生後の再生油組成物C2に、酸化防止剤と、機能性添加剤とを添加することにより、再生後の工業油組成物C1を製造し、工業油使用装置2で使用する前の工業油組成物C1に比較して、使用済みの工業油組成物C1の方が、機能性添加剤の含有率が少ない。また、以上で説明した工業油循環再生管理方法、および、再生工業油組成物製造方法では、工業油組成物C1は、基油として鉱油(A1)または合成油(A2)と、酸化防止剤として下記式(B)で表される中性亜リン酸エステル誘導体および下記式(C)で表される2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体と、機能性添加剤とを含み、再生工程(ステップS7)では、使用済みの工業油組成物C1を精製処理する精製処理工程により、使用済みの工業油組成物C1から基油を含む再生油組成物C2を再生し、精製処理として、吸着処理または水素化脱硫処理あるいは減圧蒸留処理を行い、製造工程(ステップS11)では、再生後の再生油組成物C2に、酸化防止剤と、機能性添加剤とを添加する添加工程を含み、工業油使用装置2で使用する前の工業油組成物C1に比較して、使用済みの工業油組成物C1の方が、機能性添加剤の含有率が少ない。この構成により、工業油循環再生管理システムSys1、工業油循環再生管理方法、および、再生工業油組成物製造方法は、再生油組成物C2を、燃料用の再生工業油組成物ではなく、工業油使用装置2で機械潤滑または金属加工等に用いる再生後の工業油組成物C1に使用できるため、CO
2削減・カーボンニュートラルに寄与できる。
【化6】
(上記式(B)中、R
b21~R
b24は、それぞれ独立に、炭素原子数10~16の脂肪族炭化水素基を表し、R
b25~R
b28は、それぞれ独立に、炭素原子数1~6の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表し、R
b291およびR
b292は、それぞれ独立に、水素原子または炭素原子数1~5の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表し、R
b291およびR
b292の炭素原子数の合計は、1~5である。)
【化7】
(上記式(C)中、R
c1は、炭素原子数1~12の直鎖もしくは分枝状のアルキル基である。)
【0291】
<変形例>
なお、上述した本発明の実施形態に係る工業油循環再生管理方法、工業油循環再生管理システム、および、再生工業油組成物製造方法は、上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された範囲で種々の変更が可能である。
【0292】
以上の説明では、工業油循環再生管理システムSys1は、製造装置1と、工業油使用装置2と、分析装置3と、再生装置4と、組成決定装置5と、輸送体6と、貯留設備7とを備えるものとして説明したがこれに限らず、例えば、分析装置3、輸送体6、貯留設備7等を備えなくてもよい。
【0293】
以上の説明では、工業油組成物C1は、工業油使用装置2において機械潤滑または金属加工に使用されるものとして説明したがこれに限らず、これ以外の他の用途で使用されてもよい。
【0294】
以上の説明では、典型的には、回収工程(ステップS4)は、輸送体6等によって実行され、再生工程(ステップS7)は、再生装置4によって実行され、組成決定工程(ステップS9)は、組成決定装置5によって実行され、製造工程(ステップS11)は、製造装置1によって実行されるものとして説明したが、これに限らず、これらの一部または全部が人の手によって実行されてもよい。例えば、組成決定工程(ステップS9)は、組成決定装置5を介さずに行われてもよい。
【0295】
以上で説明した工業油組成物C1は、少なくとも基油と機能性添加剤とを含んでいれば上記の例に限らない。
【0296】
以上の説明では、工業油循環再生管理方法、再生工業油組成物製造方法は、回収した使用済みの工業油組成物C1の状態を分析する分析工程(ステップS5)を含み、組成決定工程(ステップS9)では、分析工程(ステップS5)での分析結果に基づいて、工業油使用装置2で再使用する再生後の工業油組成物C1の組成を決定するものとして説明したがこれに限らない。例えば、特定の工業油使用装置2で使用された使用済みの工業油組成物C1の分析を複数回繰り返したことで当該特定の工業油使用装置2で使用される工業油組成物C1の劣化傾向が把握できている場合には、組成決定工程(ステップS9)では、使用済みの工業油組成物C1の状態の分析を都度行わず分析結果を用いずに、上記把握した劣化傾向に応じて当該特定の工業油使用装置2で再使用する再生後の工業油組成物C1の組成を決定するようにしてもよい。
【0297】
以上の説明では、組成決定装置5は、機能性添加剤の強度として3段階、機能性添加剤の添加量として5段階、強度と添加量との組み合わせとしては合計15段階で調整するものとして説明したがこれに限らず、<管理対象となる工業油組成物>で説明した範囲で、無段階で調整するようにしてもよい。
【0298】
本実施形態に係る工業油循環再生管理方法、工業油循環再生管理システム、および、再生工業油組成物製造方法は、以上で説明した実施形態、変形例の構成要素を適宜組み合わせることで構成してもよい。
【符号の説明】
【0299】
1 製造装置
2 工業油使用装置
3 分析装置
4 再生装置
5 組成決定装置
6 輸送体
7 貯留設備
C1 工業油組成物
C1a 分析用検体容器・回収キット
C2 再生油組成物
M 学習済みモデル
P1 製造工場
P2 使用工場
P3 再生工場
R 調整レシピ
Sys1 工業油循環再生管理システム