(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162135
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】睡眠の質を改善するための組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 33/12 20160101AFI20241114BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20241114BHJP
A23L 33/17 20160101ALI20241114BHJP
A23L 33/115 20160101ALI20241114BHJP
A61P 25/20 20060101ALI20241114BHJP
A61K 35/612 20150101ALI20241114BHJP
A61K 31/202 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
A23L33/12
A23L33/10
A23L33/17
A23L33/115
A61P25/20
A61K35/612
A61K31/202
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023077388
(22)【出願日】2023-05-09
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】501455460
【氏名又は名称】株式会社 國洋
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】山田 秀俊
(72)【発明者】
【氏名】濱田 浩司
【テーマコード(参考)】
4B018
4C087
4C206
【Fターム(参考)】
4B018MD10
4B018MD12
4B018MD14
4B018MD20
4B018MD69
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4C206MA63
4C206MA72
4C206NA05
4C206NA14
4C206ZA05
(57)【要約】
【課題】本発明は、睡眠の質を改善する組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】発明者らは、ホンエビ上目の生物、例えば、オキアミ目の生物のオイル成分、オイル成分を乾燥した固体成分、有機溶媒抽出物または前記有機溶媒抽出物を乾燥した固体成分を含む、睡眠の質を改善するための組成物、あるいは、8-ヒドロキシエイコサペンタエン酸(8-HEPE)を含む、睡眠の質を改善するための組成物を提供することによって、上記課題を解決した。本発明の組成物は、睡眠の質を改善するために有用であるが、特に、60代の被験者において、浅い睡眠の割合が低下してレム睡眠と深い睡眠の割合が増加するという優れた効果が発揮された。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
睡眠の質を改善するための組成物であって、ホンエビ上目の生物のオイル成分、前記オイル成分を乾燥した固体成分、ホンエビ上目の生物の有機溶媒抽出物、前記有機溶媒抽出物の乾燥物を乾燥した固体成分、および、8-ヒドロキシエイコサペンタエン酸(8-HEPE)からなる群から選択される物質を含む、組成物。
【請求項2】
前記ホンエビ上目の生物がオキアミ目の生物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記オキアミ目の生物が、イサダ(Euphausia pacifica)、ナンキョクオキアミ(Euphausia superba)、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記オキアミ目の生物が、イサダ(Euphausia pacifica)である、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記オイル成分が、水溶液中に懸濁した前記生物の粉砕物をpH3~4の条件下でプロテアーゼを用いて酵素処理することによって得られた処理液である、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記プロテアーゼが麹菌由来のプロテアーゼである、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記固体成分が粉末である、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記有機溶媒抽出物が、エチルアルコール、アセトン、および、ヘキサンからなる群から選択される溶媒を用いて調製された抽出物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記睡眠の質の改善が、全睡眠時間における浅い睡眠の時間の割合の減少、全睡眠時間における深い睡眠の時間の割合の増加、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
飲食用組成物または薬学的組成物である、請求項1に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、睡眠の質を改善するための方法および組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
高度不飽和脂肪酸の誘導体(例えば、酸化物のような代謝物)の生理的機能が注目されている。例えば、8-ヒドロキシエイコサペンタエン酸(8-HEPE)はエイコサペンタエン酸(EPA)の8位炭素の酸化(ヒドロキシル化)によって生成される誘導体であるが、8-HEPEはEPAよりも高いペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)活性化作用を有しており、肥満や糖尿病など代謝疾患の予防・改善効果が見込まれる化合物である(非特許文献1)。8-HEPEは天然において多くは存在せず、例えば、イサダ(ツノナシオキアミ)は8-HEPEをわずか数10ppm含有する(非特許文献2)。イサダには8-HEPE以外にもアラキドン酸の8位に水酸基が導入された8-ヒドロキシエイコサテトラエン酸(8-HETE)やドコサヘキサエン酸(DHA)の10位に水酸基の導入された10-ヒドロキシドコサヘキサエン酸(10-HDoHE)が数ppm含有されているが、これらの誘導体もまた、新規機能性成分や医薬品としての活用が期待されている(非特許文献3および非特許文献4)。
【0003】
8-HEPEはペルオキシソーム増殖因子活性化受容体α(PPARα)を強く活性化する(非特許文献5~6)。そして、PPARαの活性化によって時計遺伝子の発現が調節されることが公知である(非特許文献7)。しかしながら、8-HEPE、あるいは、8-HEPEを含むイサダ由来の抽出物が、睡眠の質を改善するという報告はなかった。実際には、8-HEPEおよび/またはオキアミ由来の成分を含む睡眠の質を改善する組成物は、本願発明者らが知る限りにおいて、本願出願日以前には存在していない。
【0004】
そのため、睡眠の質を改善する組成物が求められている。
【0005】
この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、次のものがある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Yamada Hら、Journal of Lipid Research,55,895-904,2014
【非特許文献2】Yamada Hら、Scientific Reports,7,9944,2017
【非特許文献3】Klawitter Jら、J Lipid Res.2014Jun;55(6):1139-49.
【非特許文献4】Hashimoto Mら、Biochim Biophys Acta.2015Feb;1851(2):203-9
【非特許文献5】Yamadaら、Journal of Lipid Research.2014
【非特許文献6】Yamadaら、Journal of Lipids 2016
【非特許文献7】Shiraiら、BBRC.2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の解決すべき課題は、睡眠の質を改善する組成物および方法の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、8-ヒドロキシエイコサペンタエン酸(8-HEPE)を含む組成物、あるいは、オキアミ目の生物の有機溶媒抽出物またはその乾燥物を含む組成物によって、睡眠の質が改善することを示し、上記課題を解決した。
【0009】
例えば、本発明によって以下が提供される。
(項目1)
睡眠の質を改善するための組成物であって、ホンエビ上目の生物のオイル成分、前記オイル成分を乾燥した固体成分、ホンエビ上目の生物の有機溶媒抽出物、前記有機溶媒抽出物の乾燥物を乾燥した固体成分、および、8-ヒドロキシエイコサペンタエン酸(8-HEPE)からなる群から選択される物質を含む、組成物。
(項目2)
前記ホンエビ上目の生物がオキアミ目の生物である、項目1に記載の組成物。
(項目3)
前記オキアミ目の生物が、イサダ(Euphausia pacifica)、ナンキョクオキアミ(Euphausia superba)、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される、項目2に記載の組成物。
(項目4)
前記オキアミ目の生物が、イサダ(Euphausia pacifica)である、項目3に記載の組成物。
(項目5)
前記オイル成分が、水溶液中に懸濁した前記生物の粉砕物をpH3~4の条件下でプロテアーゼを用いて酵素処理することによって得られた処理液である、項目1に記載の組成物。
(項目6)
前記プロテアーゼが麹菌由来のプロテアーゼである、項目5に記載の組成物。
(項目7)
前記固体成分が粉末である、項目1に記載の組成物。
(項目8)
前記有機溶媒抽出物が、エチルアルコール、アセトン、および、ヘキサンからなる群から選択される溶媒を用いて調製された抽出物である、項目1に記載の組成物。
(項目9)
前記睡眠の質の改善が、全睡眠時間における浅い睡眠の時間の割合の減少、全睡眠時間における深い睡眠の時間の割合の増加、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される、項目1に記載の組成物。
(項目10)
飲食用組成物または薬学的組成物である、項目1に記載の組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によって提供される組成物によって、睡眠の質が改善された。特に、60代の被験者において、浅い睡眠の割合が低下してレム睡眠と深い睡眠の割合が増加するという優れた効果が実証された。さらに、本発明は、睡眠の質を改善することによって、QOLの改善および睡眠の質低下によって引き起こされる心身の不調を予防する効果が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0012】
(用語の定義)
以下に本明細書において特に使用される用語の定義を列挙する。
【0013】
本明細書において使用される用語「睡眠の質の改善」とは、睡眠の質の改善に関する任意の要素を含み、例えば、睡眠に対して一時的に不満を感じている被験者における不満の解消および/または低減が挙げられる。「睡眠の質の改善」の指標としては、例えば、全睡眠時間における浅い睡眠の時間の割合の減少、全睡眠時間における深い睡眠および/またはレム睡眠の時間の割合の増加、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される。あるいは、「睡眠の質の改善」の指標としては、副次的な指標として、一時的に活気・活力が低下している被験者の不安感・緊張感・気分の落ち込みを和らげること、および、一時的な活気・活力の向上、および、日中の眠気の軽減が挙げられる。
【0014】
睡眠の質の測定には、睡眠ポリグラフィー(PSG)および小型脳波計スリープスコープなどを使用することができる。また、睡眠の質によるQOL測定の指標としては、例えば、気分状態評価を持ちいることができる(例えば、Profile of Mood States 2nd Edition(POMS2)成人用短縮版を主観的評価として用いることができる)。
【0015】
本明細書において使用される用語「有効成分を含む組成物」とは、出発材料に操作(例えば、抽出、乾燥などが挙げられるがこれらに限定されない)を行って得られた組成物であり、かつ、睡眠の質の改善に寄与する任意の成分を含む抽出物を含むが、これに限定されない。
【0016】
本明細書において使用される用語「有効成分」とは、上記の「有効成分を含む組成物」において睡眠の質の改善に寄与する任意の成分、および8-ヒドロキシエイコサペンタエン酸(8-HEPE)を包含する概念である。
【0017】
本明細書において使用される用語「全睡眠時間」とは、就寝から起床までの時間をいう。
【0018】
本明細書において使用される用語「浅い睡眠」とは、Non-REM(NREM)ステージ1および2の睡眠をいう。特徴としては、目が動いたりすることが少ない睡眠であり、身体的な活動が低下している。
【0019】
本明細書において使用される用語「深い睡眠」とは、Non-REMステージ3および4、またはslow-wave sleep(SWS)の睡眠をいう。リラックスした状態で、体温や血圧が低下していることを特徴とする。深い睡眠の段階では、体内で修復や回復が起こり、新陳代謝が低下し、成長ホルモンが分泌されることが知られている。
【0020】
(睡眠の質の測定)
本臨床試験の睡眠の質評価では、脳波を客観的な睡眠の質の指標として用いた。睡眠評価のゴールドスタンダードは睡眠ポリグラフィー(PSG)であるが、一夜の入院環境下で施行されるため、経済的および時間的負担が大きい。そのため本発明では医療機器として認証されている小型脳波計スリープスコープを用いて評価した。スリープスコープは、その脳波取得性能を検証し、睡眠ステージ判定に必要な周波数帯域をカバーできていること、また、睡眠ステージ判定に必須の特徴的波形を取得出来ることが確認されている。解析プログラムにおいては、アメリカ睡眠医学会の基準に則って、睡眠ステージ判定する機能についても、検証を実施している。その結果、スリープスコープで取得した脳波を基に、睡眠ステージ判定を行うことが可能であることが報告されている(吉田政樹ら、携帯型1チャンネル脳波計の性能検証、睡眠口腔医学、2015;1,140-147)。主観的な睡眠の質の指標としてはピッツバーグ睡眠質問票日本語版(PSQI-J)を用いることができる。PSQI-Jは、計18項目の質問に回答し、回答は7つのコンポーネント(睡眠の質,睡眠時間,入眠時間,睡眠効率,睡眠困難,睡眠薬の使用,日中の眠気)に分類され,得点化される(内山真、評価尺度.睡眠障害の対応と治療ガイドライン第3版、株式会社じほう)、臨床睡眠検査マニュアル(日本睡眠学会編、睡眠障害の診断のための補助検査、改訂版臨床睡眠検査マニュアル、株式会社ライフ・サイエンス)にも取り上げられ、睡眠の質の評価に広く使用されている質問票である。
【0021】
本臨床試験の気分状態評価では、Profile of Mood States 2nd Edition(POMS2)成人用短縮版を主観的評価として用いた。POMS2は怒り-敵意、混乱-当惑、抑うつ-落ち込み、疲労-無気力、緊張-不安、活気-活力、友好の7尺度と、ネガティブな気分状態を総合的に表す総合的気分状態で構成され、より多面的に気分状態を把握することが出来ると考えられている(Heuchertら、POMS2日本語版マニュアル、金子書房)。
【0022】
(睡眠の質の改善効果)
一実施形態において、一時的に睡眠に不満を感じている健康な被験者の起床時の眠気と疲労感を低減する効果があり、浅い睡眠の低減と深睡眠とレム睡眠の割合を増加させることで、睡眠の質の改善効果を奏することができる。
【0023】
厚生労働省が示す「健康日本21」には、生活習慣病や生活習慣病につながる生活習慣の課題のひとつとして「休養・こころの健康づくり」が含まれている。睡眠は、休養・こころの健康づくりの中心課題として2003年に「健康づくりのための睡眠指針~快適な睡眠のための7箇条~」、2014年に「健康づくりのための睡眠指針2014~睡眠12箇条~」を策定するなど、より良い睡眠を取ることの重要性が啓発されている。実際、日本人の5人に1人が「寝つきが悪い」、「夜中に目が覚める」などといった、睡眠の質に関する何らかの不満を感じており、先進国の中でもっとも睡眠時間の少ない国民である(厚生労働省、健康づくりのための睡眠指針、2014、平成26年3月)(Organization for Economic Co-operation and Development. Society at a Glance 2009;OECD Social Indicators,2009)。ヒトの睡眠はレム睡眠とノンレム睡眠で構成され、米国睡眠医学会(AASM)による判定法ではノンレム睡眠は浅睡眠(ステージN1、ステージN2)と深睡眠(ステージN3)に分類される(鈴木圭輔、睡眠・覚醒の客観的検査、日本臨床生理学会雑誌、2019;49,83-87)。これらの各睡眠ステージの割合は加齢に伴い、深睡眠およびレム睡眠が減少し浅睡眠が増加し、睡眠の質が悪化することが報告されている(Liら、Age and gender differences in objective sleep properties using large-scale body acceleration data in a Japanese population. Scientific reports 2021;11:9970)(マシューウォーカー、睡眠こそ最強の解決策である、第5章 年齢と睡眠、SB Creative)。深睡眠およびレム睡眠を増やすことは睡眠の質を高めると考えられる。「深睡眠とレム睡眠の割合を増加させることで、睡眠の質を向上させる機能」は、健常者の健康の維持増進に該当すると判断できる。
【0024】
(睡眠の質の改善に関連する効果)
時的に活気・活力が低下している方の不安感・緊張感・気分の落ち込みを和らげ、一時的な活気・活力の向上と日中の眠気の軽減に役立つ機能
「健康日本21」では心の健康に関して、「いきいきと自分らしく生きるための重要な条件である」および「生活の質に大きく影響するものである」とされている。心の不調を回復し、元の活力ある状態にもどすことは心の健康に重要である(厚生労働省、健康日本21(休養・こころの健康)3.休養・こころの健康)。「一時的に活気・活力が低下している方の不安感・緊張感・気分の落ち込みを和らげ、一時的な活気・活力の向上と日中の眠気の軽減に役立ち」は、健常者の健康の維持増進に該当すると判断した。さらに、令和元年国民健康・栄養調査結果では、週3回以上日中に眠気を感じた者の割合が睡眠時間によらず20歳以上の男女で3割を超えていると報告されている(厚生労働省、令和元年国民健康・栄養調査結果の概要)。「日中の眠気を軽減する機能」も、健常者の健康の維持増進に該当すると判断した。
【0025】
(本発明の有効成分)
本発明の組成物の有効成分は、代表的には、イサダ(ツノナシオキアミとも称する)(Euphausia pacifica)を出発材料として用いて調製することができる。出発材料はこれに限定されず、オキアミ目に属する生物、例えば、ナンキョクオキアミ(Euphausia superba)を使用することもできる。さらに、本発明の有効成分の供給源はオキアミ目に属する生物に限定されず、例えば、ホンエビ上目に属する生物もまた本発明の有効成分の供給源として使用可能である。あるいは、8-HEPEも本発明の有効成分として使用することができる。
【0026】
本発明の有効成分は、脂溶性であり、例えば、供給源である生物から調製したオイル画分に存在する。代表的には、本発明の有効成分を含む組成物は、オキアミ等原料に加水し、磨砕し、その後に酵素分解によりタンパク質成分を分解し、遠心分離して得られたオイル画分として調製することができる。必要に応じて、このようにして調製されたオイル画分を乾燥することにより、本発明の有効成分を含む粉末状の組成物を生成することも可能である。あるいは、本発明の有効成分を含む組成物は、水溶液中に懸濁した供給源生物の破砕物を、pH3~4の条件下で麹菌由来のプロテアーゼを用いて酵素処理することによって得られる処理液を、オイル画分を含む液分と固形分に分離した後、得られたオイル画分を含む液分をオイル画分と水画分に分離し、得られたオイル画分として生成することができる。そのようにして得られたオイル画分は、必要に応じて乾燥することにより、固体成分(例えば、粉末)として調製することもできる。
【0027】
あるいは、本発明の有効成分を含む組成物は、(必要であれば粉砕ないし摩砕した)出発材料の有機溶媒抽出物として調製することも可能である。必要に応じて、このようにして調製された有機溶媒抽出物を乾燥することにより、本発明の有効成分を含む粉末状の組成物を生成することも可能である。本発明の有効成分を含む組成物の調製に利用可能な溶媒としては、例えば、エチルアルコール、アセトン、ヘキサンが挙げられるがこれらに限定されない。
【0028】
上記の方法により調製された組成物は、クロマトグラフィーなどによってさらに精製した後に本発明において使用することもできる。
【0029】
代表的な本発明の有効成分を含む組成物の調製法としては、特開2019-178127に記載の方法を利用し、例えば、
・水中に懸濁したオキアミの破砕物を、pH3~4の条件下で麹菌由来のプロテアーゼを用いて酵素処理することによって得られるオイル画分を乾燥する、
・必要に応じて、pHの調整を有機酸および/または炭酸を用いて行う、
・必要に応じて、有機酸としてクエン酸を利用する、
ことによって実施される。
【0030】
出発材料は生のものを用いてもよいし、凍結したもの(例えば無加水や加水の冷凍ブロックであって-50℃以下で保存したもの)を用いてもよい。
【0031】
出発材料の破砕は、例えば、室温環境下において、-10~-3℃に維持した出発材料を(凍結した出発材料はこの温度域まで解凍してから)、ミートチョッパーを用いて粗く行った後、マスコロイダーを用いてペースト状になるまで行うことが、優れた品質の有効成分を含む組成物を製造することができる点において望ましい。
【0032】
こうして得られた出発材料の破砕物を、水中に懸濁し、pH3~4の条件下で麹菌(Aspergillus oryzae)由来のプロテアーゼを用いて酵素処理する。出発材料の破砕物の水中への懸濁は、例えば出発材料の破砕物1重量部に0.3~0.7重量部の水を加えて撹拌することで行えばよい。麹菌由来のプロテアーゼは、麹菌由来の酸性プロテアーゼ、中性プロテアーゼ、アルカリ性プロテアーゼから選択される少なくとも1種であってよく、市販のものでは、これらの混合製剤であるコクラーゼP顆粒(三菱ケミカルフーズ社製)、中性プロテアーゼ製剤であるオリエンターゼOP(エイチビィアイ社製)やスミチームFP(新日本化学工業社製)などを用いることができる。麹菌由来のプロテアーゼは、例えば出発材料の破砕物1重量部に対して0.001~0.03重量部用い、その至適温度で出発材料の破砕物を酵素処理する。麹菌由来のプロテアーゼとしてコクラーゼP顆粒を用いる場合の至適温度は、50~55℃である。処理時間は、例えば30分間~3時間であってよい。麹菌由来のプロテアーゼを用いた出発材料の破砕物の酵素処理を、pH3~4の条件下で行うのは、出発材料の破砕物を酵素処理することによって得られるオイル画分に含まれる脂質が、出発材料自身が持つ脂質分解酵素によって分解されてしまうことを防ぐためである。なお、pHの調整は、クエン酸、乳酸、酢酸、グルクロン酸、アスコルビン酸などの有機酸や、炭酸を用いて行えばよいが、中でもクエン酸を用いてpHの調整を行うことが、医薬品素材や食品素材などを製造するための安全性を確保する点で望ましい。クエン酸は、例えば出発材料の破砕物の水懸濁液1重量部に対して0.001~0.03重量部用いればよい。
【0033】
出発材料の破砕物を酵素処理した後、例えば処理液を70~75℃に加温して10分間~1時間インキュベートすることでプロテアーゼの失活を行ってから、処理液に含まれるオイル画分を回収する。処理液からのオイル画分の回収は、例えば、室温環境下において、脱水型デカンタを用いて処理液を遠心分離することによってオイル画分を含む液分と固形分に分離した後、得られたオイル画分を含む液分を濃縮型デカンタを用いて遠心分離することによってオイル画分と水画分に分離することで行えばよい。
【0034】
最後に水画分から分離したオイル画分を乾燥することで、目的物である有効成分を含む組成物を得る。オイル画分の乾燥は、例えばフリーズドライ法によって行えばよいが、スプレードライ法や熱風乾燥法などによって行うこともできる。目的物である有効成分を含む組成物が固形物として得られた場合、顆粒状や粉末状に粉砕してもよい。
【0035】
以上の方法によって製造される本発明の有効成分を含む組成物は、例えば、タンパク質を30~60重量%の割合で、脂質を25~50重量%の割合で、水分を1~15重量%の割合で含むものであり、とりわけ、脂質として哺乳動物において細胞の機能保持などのために重要な役割を果たしているとされるプラズマローゲン(plasmalogen)に生体内で変換されることが知られている1-アルキルエーテル型リン脂質を多く含む(本発明の有効成分を含む組成物の1~5重量%の割合)点が特徴であるが、他の成分の割合は、これらに限定されるものではない。
【0036】
(本発明の有効成分を含む処方物)
本明細書の記載にしたがって調製された本発明の有効成分を含む組成物は、その望まれる使用形態にしたがい、種々の製剤とすることができる。例えば、その有用な製剤の例としては、粉末、カプセル、錠剤が挙げられるがこれらに限定されない。
【実施例0037】
以下、本発明の組成物の製造および効果について、実施例等に基づき具体的に説明する。なお、本発明は、これらに限定するものではない。
【0038】
(実施例1:有効成分を含む組成物の調製)
三陸地方で漁獲されたイサダ(ツノナシオキアミ)の無加水冷凍ブロック(-50℃保存のもの)10tを-5℃で解凍し、市販のミートチョッパーを用いて粗く破砕した後、市販のマスコロイダーを用いてペースト状になるまで破砕した。得られたオキアミの破砕物10tに5tの純水を加えて撹拌することで調製したオキアミの破砕物の水懸濁液15tに、麹菌由来のプロテアーゼであるコクラーゼP顆粒(三菱ケミカルフーズ社製)50kgを加え、さらにクエン酸150kgを加えることで液のpHを3~4に調整し、50℃で酵素処理した。1時間後、処理液を70℃に加温して30分間インキュベートすることでプロテアーゼの失活を行った。処理液を室温まで冷却してから、市販の脱水型デカンタを用いて処理液を遠心分離することで、オイル画分を含む液分13tを固形分から分離した。次に、得られたオイル画分を含む液分を市販の濃縮型デカンタを用いて遠心分離することで、オイル画分1.7tを水画分から分離した。得られたオイル画分(赤色ないし桃色のオイル状物)をフリーズドライした後、得られた固形物を粉砕することで、目的物である茶褐色の粉末状イサダ成分含有組成物374gを得た。こうして得られたイサダ成分含有組成物は、タンパク質を44重量%の割合で、脂質を28重量%の割合で、水分を10重量%の割合で含むものであり(残部は炭化水素や灰分)、脂質の内訳は、中性脂質16.4重量%、フォスファチジルエタノールアミン6.8重量%、フォスファチジルコリン40.8重量%、ジアシルグリセロール12.6重量%、遊離脂肪酸16.7重量%、その他6.7重量%であって、イサダ成分含有組成物中に占める1-アルキルエーテル型リン脂質の割合は2.7重量%であった。なお、イサダ成分含有組成物に含まれる脂質の分析は、Bligh-Dyer法によって試料(イサダ成分含有組成物)0.2gから脂質を抽出して行った。抽出された脂質中の中性脂質、フォスファチジルエタノールアミン、フォスファチジルコリン、ジアシルグリセロール、遊離脂肪酸の割合は、10mg/mLの濃度でクロロホルムに溶解した脂質を1μL薄層クロマトグラフ-水素炎イオン化検出器(イアトロスキャン:LSIメディエンス社製)に供して測定した。薄層クロマトグラフは、クロロホルム/メタノール/水(42:24:2.5)で1次展開した後、ヘキサン/ジエチルエーテル(50:30)で2次展開することで、それぞれの脂質を分離した。1-アルキルエーテル型リン脂質は、抽出された脂質中の含量を高速液体クロマトグラフ(HPLC)を用いて定量し、試料中に占める割合を算出した。高速液体クロマトグラフは、0.3mg/mLの濃度でクロロホルム/メタノール(2:1)に溶解した脂質の溶液30μLを分析サンプルとし、カラムはLichrospher 100 Diol 250x4(Agilent社製)を用い、溶出液Aとしてヘキサン/2-プロパノール/酢酸(82:17:1)0.08%トリエチルアミン、溶出液Bとして2-プロパノール/水/酢酸(85:14:1)0.08%トリエチルアミンを、溶出液A 95%/溶出液B 5%(23分間グラジエント)溶出液A 60%/溶出液B 40%(4分間グラジエント)溶出液A 15%/溶出液B 85%(1分間ホールドの後に4分間グラジエント)溶出液A 95%/溶出液B 5%(10分間ホールド)の条件で送液することによって行い、1-アルキルエーテル型リン脂質を分離し、分離した1-アルキルエーテル型リン脂質を光散乱検出器(SOFTA社製)を用いて検出した。定量のための検量線作成には1-アルキルエーテル型リン脂質の標準品である1-hexadecenoyl-2-oleoyl-sn-glycero-3-phosphocoline(フナコシ社製)を用いた。また、タンパク質はケルダール法、含水量は加熱乾燥法によってそれぞれ分析した。
【0039】
(実施例2:睡眠の質の改善効果の測定1)
実施例1で調製した本発明の有効成分を含む組成物を用いて以下の試験を行った。
【0040】
1.被験者の決定
臨床試験の被験者は、20歳以上64歳以下の健常男女である。事前検査時のピッツバーグ睡眠質問票日本語版(Pittsburgh Sleep Quality Index 、PSQI-J)スコアが6点以上の者を被験者として選択した。ただし、(1)薬物治療、食事指導や、運動療法を受けている者、(2)睡眠、ストレス、疲労に関する治療を行っている者、(3)糖尿病、肝疾患、腎疾患、心疾患などの疾患や、副腎皮質ホルモンの分泌に影響を及ぼす疾患、その他代謝性疾患を有している者、あるいは既往症がある者、(4)精神疾患、慢性疲労症候群、不眠症の既往がある者、(5)睡眠時無呼吸症候群と診断されたことがある、または、その疑いがある者、(6)夜間頻尿(2回以上)の者、(7)常時投薬が必要な疾患がある者、投薬治療を必要とした重篤な疾患を有している者、あるいは既往症がある者、(8)疲労、ストレス、睡眠の改善の標榜や目的としている医薬品、医薬部外品、機能性表示食品、健康食品を常用している者、を除外基準で除外しており、最終的に脳神経外科を専門とする治験医師責任者が被験者として適切かを判断した。したがって、本発明の対象者については「一時的に睡眠に不満を感じている健常な成人男女」と設定した。
【0041】
2.臨床試験
同意取得後、試験参加の志願者に対し、SCR(スクリーニングの略称)(スクリーニング項目としては背景調査、身長、体重、BMI、問診、バイタルサイン、血液検査、尿検査、VASアンケート、OSA-MA、POMS2が挙げられる)を実施した。摂取開始2週間前および摂取0週に、VAS(Visual Analog Scaleの略称)アンケート、OSA-MA、およびPOMS2の検査を実施した。有効成分を含む組成物の摂取8週後に再度検査(体重、BMI、問診、バイタルサイン、血液検査、尿検査、VASアンケート、OSA-MA、POMS2)を行った。臨床試験は、プラセボを対照においたランダム化二重盲検並行群間比較試験で実施した。摂取開始より8週間にわたり、1日3粒毎日被験者は水またはぬるま湯で摂取を継続した。
【0042】
3.統計解析
3.1.統計解析対象集団の定義
主解析はPPSとした:
1)FAS:全症例からデータが欠損している症例を除いた集団
2)PPS:試験食品摂取が遵守されていて、重大なプロトコル違反もなく、データが欠損していない症例の集団。
【0043】
3.1.1.解析除外基準
以下の解析除外基準に抵触する症例を除外した集団を試験実施計画書適合集団(PPS)とした:
1)対象とする被験者の除外基準に抵触すると判断された者
2)試験食品の摂取率が 80%を下回った症例
3)試験期間中、試験に影響を及ぼす可能性のある健康食品・サプリメントを複数回摂取した症例
4)試験期間中の臨床検査結果から、信憑性を損なう行為が顕著に見られた症例
5)試験実施計画書からの逸脱が顕著に認められた症例
6)その他、除外することが適当と考えられる明らかな理由から、試験責任医師が不適当と判断した症例。
【0044】
3.2.有効性評価
3.2.1.有効性評価の解析集団
有効性の評価は、試験実施計画書適合集団(PPS)を対象として実施した。
【0045】
3.2.2.有効性評価の解析
有効性評価項目(主要及び副次)について
群間:摂取開始0週、摂取8週後のポイントごとに被験食品群と対照食品群を比較した
睡眠測定は、摂取開始2週前から摂取0週、摂取0週から摂取2週、摂取2週から摂取4週、摂取4週から摂取6週、摂取6週から摂取8週の2週間ごとの平均値にて被験食品群と対照食品群を比較した
群内:摂取開始0週をベースラインとし、摂取8週後を比較した
睡眠データは、摂取開始2週前から摂取0週をベースラインとし、摂取0週から摂取2週、摂取2週から摂取4週、摂取4週から摂取6週、摂取6週から摂取8週を比較した。
【0046】
3.2.3.解析方法
有効性評価項目の解析に用いる検定手法は、以下の表1のとおりとした。
【0047】
【0048】
3.2.4.外れ値と欠損値
PPS解析を主解析とした為、データ内に欠損値は含めなかった。外れ値は考慮をせず、解析を行った。
【0049】
3.2.5.表示と有意水準
統計解析は両側検定で行い、有意水準は5%に設定した。有意水準を満たす場合は図表内にてP値を示した
有意確率(P値)の表示は、算出値の小数点以下第4位を切り捨て、小数点以下第3位まで表示した。
【0050】
3.2.6.使用するソフトウェア
データの基礎統計量の算出、及び解析処理にはエクセル統計(BellCurve)を用いた。
【0051】
4.試験に使用した処方物および摂取
試験に使用した処方物の組成は、以下の表2のとおりである。
【0052】
【0053】
結果を以下に示す。
【0054】
5.結果
5.1.睡眠の質の測定(睡眠状態 VAS、OSA-MA)、(主要評価項目)
<群間比較>
・睡眠状態VAS:摂取8週の実測値及び変化量にて有意な差が確認された。
・OSA-MA:因子I(起床時眠気)、因子IV(疲労回復)の摂取8週の実測値及び変化量にて有意な差が確認された。
<群内比較>
・睡眠状態VAS:被験食品群の摂取0週と摂取8週の比較にて有意差が確認された。
・OSA-MA:被験食品群の因子I(起床時眠気)、因子II(入眠と睡眠維持)、因子III(夢み)、因子IV(疲労回復)、因子V(睡眠時間)の摂取0週と摂取8週の比較にて有意差が確認された。
【0055】
対照食品群の因子II(入眠と睡眠維持)、因子V(睡眠時間)の摂取0週と摂取8週の比較にて有意差が確認された。主要評価項目の解析結果を下記の表3および4に記載した。
【0056】
【0057】
【0058】
主要評価項目の結果は、上記の表のとおりである。
【0059】
5.2.睡眠測定(Fitbit)、POMS2、(副次評価項目)
<群間比較>
・睡眠測定(Fitbit):浅い睡眠時間の摂取4週から摂取6週の平均値にて有意な差が確認された。
・POMS2:実測値のAH(怒り-敵意)、F(友好)の摂取0週にて有意な差が確認された。
<群内比較>
・睡眠測定(Fitbit):
[被験食品群]摂取開始2週前から摂取0週をベースラインとして、目覚めていた時間の摂取6週から摂取8週、目覚めた回数の摂取0週から摂取2週、摂取4週から摂取6週、摂取6週から摂取8週にて有意な差が確認された。
[対照食品群]摂取開始2週前から摂取0週をベースラインとして、目覚めていた時間の摂取6週から摂取8週、目覚めた回数の摂取6週から摂取8週、レム睡眠の摂取0週から摂取2週にて有意な差が確認された。
・POMS2:
被験食品群のCB(混乱-当惑)、DD(抑うつ-落込み)、TA(緊張-不安)、TMD得点の摂取0週と摂取8週の比較にて有意差が確認された。
対照食品群のCB(混乱-当惑)、FI(疲労-無気力)、VA(活気-活力)、F(友好)、TMD得点の摂取0週と摂取8週の比較にて有意差が確認された。
【0060】
次評価項目の解析結果を下記の表5~9に記載した。
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
副次評価項目の結果は、上記の表のとおりである。
【0067】
6.臨床試験の結果と機能性の関連
6.1.睡眠の質を改善した指標として、一時的に睡眠に不満を感じている健常者の全睡眠における深睡眠とレム睡眠の割合の増加を用いた。
【0068】
臨床試験の結果、睡眠時脳波解析において12週目の変化量は睡眠ステージの合計時間(ノンレム睡眠(N1))において、有効成分を含む組成物摂取群がプラセボ摂取群と比較して、有意に短かった。また、各睡眠ステージの割合(ノンレム睡眠(N3))および各睡眠ステージの割合(レム睡眠(R))は有効成分を含む組成物摂取群ではプラセボ摂取群と比較し、有意に大きかった。一方、全睡眠時間は有効成分を含む組成物摂取群とプラセボ摂取群で差はなかった。以上のことから本発明の有効成分を含む組成物は、全睡眠時間は変えずに、深睡眠およびレム睡眠を増やすことで睡眠の質を向上させる効果を有する。
【0069】
6.2.一時的に活気・活力が低下している被験者の不安感・緊張感・気分の落ち込みを和らげ、一時的な活気・活力の向上と日中の眠気の軽減
厚生労働省の「健康づくりのための睡眠指針2014」では、睡眠障害とメンタルヘルスは密接に関係していることが報告されている。メンタルヘルス不調の主な原因である過度の緊張状態によって最も顕在化するのが活気の低下である(厚生労働省、みんなのメンタルヘルス総合サイト ストレスって何)(独立行政法人労働安全衛生総合研究所、ストレスに関連する症状・不調として確認することが適当な項目等に関する調査研究報告書、平成22年10月)。そのため、POMS2の活気-活力(VA)の評価尺度を用いて部分集団解析を行った。なお、多重性についての調整は行わなかった。POMS2では、評価尺度のスコアが50の場合が「平均的な状態」であると定義されていることから(Heuchertら、POMS2日本語版マニュアル、金子書房、2015)、VA50未満を活気・活力が低下している集団とした。本集団においてPOMS2、PSQI-Jを解析した。結果、POMS2のVA50未満の層において、POMS2の抑うつ-落ち込み、緊張-不安、活気-活力、総合的気分状態のスコアは有効成分を含む組成物摂取群ではプラセボ摂取群と比較し、有意に改善した。そのため、本発明の有効成分を含む組成物には、一時的に活気・活力が低い人の緊張・不安や気分の落ち込みといったネガティブな気分状態を改善する可能性がある。さらに、POMS2のVA50未満の層において、PSQI-Jの日中覚醒困難のスコアは、有効成分を含む組成物摂取群でプラセボ摂取群と比較して、有意に改善した。日中覚醒困難は、車の運転中、食事中および社会活動中などにおける過度な眠気の有無および物事をやり遂げるのに必要な意欲の有無を問う2項目の質問で構成されている。そのため、有効成分を含む組成物摂取により、一時的に活気・活力が低下傾向にある人の日中の眠気を軽減させ、仕事や家事といった日常生活における作業の効率改善や、運転中など不断の注意を払うべき場面でのマイクロスリープ(林光緒、居眠り運転発生の生理的メカニズム、国際交通安全学会誌、2013;38:49-56)の減少に寄与できる可能性がある。以上のことから本発明の有効成分を含む組成物は一時的に活気・活力が低下している方の不安感・緊張感・気分の落ち込みを和らげ、一時的な活気・活力の向上と日中の眠気の軽減に役立つと考えられる。
【0070】
(実施例3:睡眠の質の改善効果の測定2)
実施例1で調製した本発明の有効成分を含む組成物を用いて以下の試験を行った。
【0071】
1.計算方法
ベットにいた時間(全睡眠の時間、すなわち、就寝から起床までの時間)を100として、それに対する「睡眠時間」、「目覚めていた時間」、「レム睡眠」、「浅い睡眠」、「深い睡眠」それぞれの割合を計算し、「%」で表した。試験開始前(2週間前と1週間前)からの変化量を計算して、以下の計算式:
(1~2週または3~4週の数値)-(試験開始前)
で計算し、平均値と標準誤差を算出した。
【0072】
60~69歳の被験者において、3~4週間、5~6週間、7~8週間で浅い睡眠の割合が減少し、レム睡眠と深い睡眠の割合が増加していた。
【0073】
2.結果
結果を以下の表10~14に示す。
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
本発明によって提供される組成物によって、睡眠の質が改善された。特に、60代の被験者において、浅い睡眠の割合が低下してレム睡眠と深い睡眠の割合が増加するという優れた効果が実証された。
【0080】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。