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特開2024-162139凍結乾燥味噌汁及びその製造方法、凍結乾燥味噌汁におけるメイラード反応の抑制方法、並びに凍結乾燥味噌汁におけるメイラード反応抑制剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162139
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】凍結乾燥味噌汁及びその製造方法、凍結乾燥味噌汁におけるメイラード反応の抑制方法、並びに凍結乾燥味噌汁におけるメイラード反応抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 23/10 20160101AFI20241114BHJP
   A23L 3/44 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
A23L23/10
A23L3/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023077397
(22)【出願日】2023-05-09
(71)【出願人】
【識別番号】715011078
【氏名又は名称】アサヒグループ食品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】落合 隆晃
(72)【発明者】
【氏名】荒堀 有美
【テーマコード(参考)】
4B022
4B036
【Fターム(参考)】
4B022LA01
4B022LB06
4B022LJ04
4B022LJ06
4B022LR06
4B022LS03
4B036LC05
4B036LE03
4B036LF01
4B036LF07
4B036LG05
4B036LH08
4B036LH21
4B036LH29
4B036LH44
4B036LK01
4B036LK03
4B036LP01
4B036LP10
(57)【要約】
【課題】メイラード反応が抑制された凍結乾燥味噌汁及びその製造方法、凍結乾燥味噌汁におけるメイラード反応の抑制方法、並びに凍結乾燥味噌汁におけるメイラード反応抑制剤を提供する。
【解決手段】グリセリン有機酸脂肪酸エステルを含む凍結乾燥味噌汁である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリセリン有機酸脂肪酸エステルを含むことを特徴とする凍結乾燥味噌汁。
【請求項2】
味噌1質量部に対して、前記グリセリン有機酸脂肪酸エステルを0.002~0.02質量部含む請求項1に記載の凍結乾燥味噌汁。
【請求項3】
前記グリセリン有機酸脂肪酸エステルが、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステルである請求項1から2のいずれかに記載の凍結乾燥味噌汁。
【請求項4】
グリセリン有機酸脂肪酸エステルを配合することを含むことを特徴とする凍結乾燥味噌汁の製造方法。
【請求項5】
味噌1質量部に対して、前記グリセリン有機酸脂肪酸エステルを0.002~0.02質量部配合する請求項4に記載の凍結乾燥味噌汁の製造方法。
【請求項6】
前記グリセリン有機酸脂肪酸エステルが、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステルである請求項4から5のいずれかに記載の凍結乾燥味噌汁の製造方法。
【請求項7】
グリセリン有機酸脂肪酸エステルを配合することを含むことを特徴とする凍結乾燥味噌汁におけるメイラード反応の抑制方法。
【請求項8】
味噌1質量部に対して、前記グリセリン有機酸脂肪酸エステルを0.002~0.02質量部配合する請求項7に記載の凍結乾燥味噌汁におけるメイラード反応の抑制方法。
【請求項9】
前記グリセリン有機酸脂肪酸エステルが、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステルである請求項7から8のいずれかに記載の凍結乾燥味噌汁におけるメイラード反応の抑制方法。
【請求項10】
グリセリン有機酸脂肪酸エステルを含むことを特徴とする凍結乾燥味噌汁におけるメイラード反応抑制剤。
【請求項11】
味噌1質量部に対して、前記グリセリン有機酸脂肪酸エステルが0.002~0.02質量部となる量で用いる請求項10に記載の凍結乾燥味噌汁におけるメイラード反応抑制剤。
【請求項12】
前記グリセリン有機酸脂肪酸エステルが、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステルである請求項10から11のいずれかに記載の凍結乾燥味噌汁におけるメイラード反応抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凍結乾燥味噌汁及びその製造方法、凍結乾燥味噌汁におけるメイラード反応の抑制方法、並びに凍結乾燥味噌汁におけるメイラード反応抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
生活様式の変化や嗜好の多様化などにより、お湯で復元させて喫食する凍結乾燥即席味噌汁(以下、「凍結乾燥味噌汁」と称することがある。)に対する需要が近年増々高まっている。例えば、味噌汁と具材とがブロック状に一体化した凍結乾燥味噌汁が販売されている。
【0003】
凍結乾燥味噌汁は、保存中にメイラード反応が進行することにより、見た目の褐変と風味の劣化が生じる。従来、酸化防止剤がその抑制のために添加されているが、その効果は酸化しやすい具材に対して等、限定的なものであった。
【0004】
これまでに、各種食品におけるメイラード反応を抑制するための技術の開発が行われている。
【0005】
例えば、淡色味噌をコスト高にすることなく、淡色味噌保存中に生ずる褐変を有効に防止する技術として、カルシウム塩を添加した味噌が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
ゆず等の柑橘類に含まれるテルペン類を用いたメイラード反応抑制剤が提案されている(例えば、特許文献2~3参照)。
【0007】
飲食品用乳化組成物の製造過程及び保存中に生じるメイラード反応を抑制する技術として、カテキン類及びクルクミノイドを含有する飲食品用乳化組成物のメイラード反応抑制剤が提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7-75517号公報
【特許文献2】国際公開第2011/105465号
【特許文献3】特開2004-35424号公報
【特許文献4】特開2019-118262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記したように、これまでに各種食品におけるメイラード反応を抑制するための技術が提案されているものの、凍結乾燥味噌汁におけるメイラード反応を抑制する技術は未だ提供されていない。近年、食品に対し、賞味期限をより長く設定することが求められるようになっており、凍結乾燥味噌汁についても、メイラード反応の進行を抑制し、褐変や風味の劣化を抑制し、賞味期限をより長く設定することができる技術の開発が強く求められている。
【0010】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、メイラード反応が抑制された凍結乾燥味噌汁及びその製造方法、凍結乾燥味噌汁におけるメイラード反応の抑制方法、並びに凍結乾燥味噌汁におけるメイラード反応抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、特許文献1~4に記載の技術では凍結乾燥味噌汁におけるメイラード反応を抑制することができないこと、グリセリン有機酸脂肪酸エステルを凍結乾燥味噌汁に配合することで、凍結乾燥味噌汁におけるメイラード反応を抑制することができることを知見した。
【0012】
本発明は、本発明者らの前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> グリセリン有機酸脂肪酸エステルを含むことを特徴とする凍結乾燥味噌汁である。
<2> 味噌1質量部に対して、前記グリセリン有機酸脂肪酸エステルを0.002~0.02質量部含む前記<1>に記載の凍結乾燥味噌汁である。
<3> 前記グリセリン有機酸脂肪酸エステルが、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステルである前記<1>から<2>のいずれかに記載の凍結乾燥味噌汁である。
<4> グリセリン有機酸脂肪酸エステルを配合することを含むことを特徴とする凍結乾燥味噌汁の製造方法である。
<5> 味噌1質量部に対して、前記グリセリン有機酸脂肪酸エステルを0.002~0.02質量部配合する前記<4>に記載の凍結乾燥味噌汁の製造方法である。
<6> 前記グリセリン有機酸脂肪酸エステルが、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステルである前記<4>から<5>のいずれかに記載の凍結乾燥味噌汁の製造方法である。
<7> グリセリン有機酸脂肪酸エステルを配合することを含むことを特徴とする凍結乾燥味噌汁におけるメイラード反応の抑制方法である。
<8> 味噌1質量部に対して、前記グリセリン有機酸脂肪酸エステルを0.002~0.02質量部配合する前記<7>に記載の凍結乾燥味噌汁におけるメイラード反応の抑制方法である。
<9> 前記グリセリン有機酸脂肪酸エステルが、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステルである前記<7>から<8>のいずれかに記載の凍結乾燥味噌汁におけるメイラード反応の抑制方法である。
<10> グリセリン有機酸脂肪酸エステルを含むことを特徴とする凍結乾燥味噌汁におけるメイラード反応抑制剤である。
<11> 味噌1質量部に対して、前記グリセリン有機酸脂肪酸エステルが0.002~0.02質量部となる量で用いる前記<10>に記載の凍結乾燥味噌汁におけるメイラード反応抑制剤である。
<12> 前記グリセリン有機酸脂肪酸エステルが、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステルである前記<10>から<11>のいずれかに記載の凍結乾燥味噌汁におけるメイラード反応抑制剤である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、メイラード反応が抑制された凍結乾燥味噌汁及びその製造方法、凍結乾燥味噌汁におけるメイラード反応の抑制方法、並びに凍結乾燥味噌汁におけるメイラード反応抑制剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(凍結乾燥味噌汁、凍結乾燥味噌汁の製造方法)
本発明の凍結乾燥味噌汁は、グリセリン有機酸脂肪酸エステルを少なくとも含み、必要に応じて更にその他の成分を含む。
前記凍結乾燥味噌汁を製造する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、本発明の凍結乾燥味噌汁の製造方法により好適に製造することができる。
以下、本発明の凍結乾燥味噌汁と、本発明の凍結乾燥味噌汁の製造方法をまとめて説明する。
【0015】
<凍結乾燥味噌汁の製造方法>
本発明の凍結乾燥味噌汁の製造方法は、グリセリン有機酸脂肪酸エステルを配合する以外は、従来の凍結乾燥味噌汁の製造方法と同様にして実施することができ、例えば、味噌含有調味液調製工程、具材充填工程、味噌含有調味液注入工程、凍結乾燥工程を含む方法などが挙げられる。
【0016】
<<味噌含有調味液調製工程>>
前記味噌含有調味液調製工程は、味噌含有調味液を調製する工程である。
【0017】
-味噌含有調味液-
前記味噌含有調味液は、味噌と、グリセリン有機酸脂肪酸エステルとを少なくとも含み、必要に応じて更にその他の成分を含む。
【0018】
--味噌--
前記味噌の種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、米味噌、麦味噌、豆味噌、調合味噌などが挙げられる。前記味噌は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0019】
前記味噌の前記味噌含有調味液における含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、30~60質量%などが挙げられる。
【0020】
--グリセリン有機酸脂肪酸エステル--
前記グリセリン有機酸脂肪酸エステルは、グリセリンと有機酸と脂肪酸のエステル化生成物であり、飲食品に用いることができるものを適宜選択することができる。例えば、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステルなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、凍結乾燥味噌汁の保管時のメイラード反応の進行をより抑制することができる点で、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステルが好ましい。
【0021】
前記グリセリン有機酸脂肪酸エステルの構成脂肪酸としては、食用可能な動植物油脂を起源とする脂肪酸であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、炭素数6~24の直鎖の飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸が挙げられる。前記脂肪酸は、1種単独であってもよいし、2種以上であってもよい。
前記炭素数6~24の直鎖の飽和脂肪酸としては、例えば、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸などが挙げられる。
前記炭素数6~24の直鎖の不飽和脂肪酸としては、例えば、パルミトオレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、γ-リノレン酸、α-リノレン酸、アラキドン酸、リシノール酸、縮合リシノール酸などが挙げられる。
【0022】
前記グリセリン有機酸脂肪酸エステルは、市販品を使用することができる。
【0023】
前記グリセリン有機酸脂肪酸エステルの前記味噌含有調味液における含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記味噌1質量部に対して、0.002~0.02質量部が好ましく、0.004~0.013質量部がより好ましく、0.005~0.012質量部が特に好ましい。前記好ましい範囲であると、凍結乾燥味噌汁の保管時のメイラード反応の進行をより抑制することができる点で、有利である。
【0024】
前記味噌含有調味液における水分量(以下、「加水量」と称することがある。)としては、特に制限はなく、前記味噌含有調味液のBrix値などに応じて適宜選択することができ、例えば、30~60質量%などが挙げられる。
【0025】
前記味噌含有調味液におけるその他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、豆乳、デキストリン、風味調味料、調味料、キサンタンガム、酸化防止剤などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記その他の成分の前記味噌含有調味液における含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0026】
前記味噌含有調味液のBrix値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、23~25とすることができる。
【0027】
前記味噌含有調味液のBrix値は、前記味噌含有調味液における可溶性固形分の濃度を表す。前記Brix値の測定方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができ、例えば、手持屈折計MASTER-PT(株式会社アタゴ社製)などにより測定することができる。
【0028】
前記味噌含有調味液のBrix値を調整する方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができ、例えば、前記味噌含有調味液の水分量を調整する方法などが挙げられる。
【0029】
前記味噌含有調味液調製工程では、配合する各成分を加熱混合して調製することが好ましい。
前記加熱の温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、70~80℃などが挙げられる。
【0030】
<<具材充填工程>>
前記具材充填工程は、具材を個食用容器などの容器に充填する工程である。
前記具材としては、特に制限はなく、味噌汁に含有させる具材を目的に応じて適宜選択することができ、例えば、野菜類、茸類、根菜類、魚介類、海藻類、肉類、豆腐、油揚げなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記具材の形状、構造、大きさとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、具材を凍結させたブロック状のもの、具材を含む液体状のものなどが挙げられる。
前記具材の量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記味噌含有調味液100質量部に対して、40~70質量部などが挙げられる。
【0031】
前記容器としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、凍結乾燥処理に耐え得るものが好ましい。
【0032】
<<味噌含有調味液注入工程>>
前記味噌含有調味液注入工程は、個食用容器などの容器に前記味噌含有調味液を注入する工程である。
前記味噌含有調味液注入工程は、前記具材充填工程の前に行ってもよいし、同時に行ってもよいし、後に行ってもよい。
前記味噌含有調味液の注入量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、味噌含有調味液と具材との合計100質量部に対して、55~75質量部などが挙げられる。
【0033】
<<凍結乾燥工程>>
前記凍結乾燥工程は、前記味噌含有調味液と、必要に応じて前記具材とを注入又は充填した容器ごと凍結乾燥(以下、「真空凍結乾燥」と称することがある。)する工程である。
【0034】
前記凍結乾燥の方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができる。例えば、まず予備凍結し、次いで真空凍結乾燥する方法などが挙げられる。
【0035】
前記予備凍結の条件としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、-20℃以下に設定した冷凍庫内で完全に凍結するまで静置するなどが挙げられる。なお、凍結の際の温度は、一定であってもよいし、異なる温度で段階的に凍結してもよい。
【0036】
前記真空凍結乾燥は、公知の凍結乾燥機を用いて行うことができる。
前記真空凍結乾燥の方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができ、例えば、真空度90Pa以下に減圧するとともに、昇温させて真空凍結乾燥させる方法などが挙げられる。
前記真空凍結乾燥後の凍結乾燥味噌汁の水分量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5質量%以下が好ましい。
【0037】
前記凍結乾燥味噌汁の形状、構造、大きさとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、形状としては、ブロック状などが挙げられる。
【0038】
本発明によれば、凍結乾燥味噌汁の保管中のメイラード反応を抑制することができ、品質の劣化を防ぐことができるので、従来一般的であった1年という賞味期限を延長することが可能となる。
【0039】
(凍結乾燥味噌汁におけるメイラード反応の抑制方法)
本発明の凍結乾燥味噌汁におけるメイラード反応の抑制方法は、グリセリン有機酸脂肪酸エステルを配合する以外は、従来の凍結乾燥味噌汁の製造方法と同様にして実施することができ、上記した本発明の凍結乾燥味噌汁の製造方法と同様にして実施することができる。
【0040】
本発明の凍結乾燥味噌汁におけるメイラード反応の抑制方法によれば、凍結乾燥味噌汁の保管中のメイラード反応を抑制することができ、品質の劣化を防ぐことができる。
【0041】
(凍結乾燥味噌汁におけるメイラード反応抑制剤)
本発明の凍結乾燥味噌汁におけるメイラード反応抑制剤は、グリセリン有機酸脂肪酸エステルを少なくとも含み、必要に応じて更にその他の成分を含む。
【0042】
前記グリセリン有機酸脂肪酸エステルは、上記した(凍結乾燥味噌汁、凍結乾燥味噌汁の製造方法)の項目に記載したものと同様であり、好ましい態様も同様である。
【0043】
前記その他の成分としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、デキストリン、結晶セルロース、カゼインナトリウム等の賦形剤などが挙げられる。前記その他の成分は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0044】
前記凍結乾燥味噌汁におけるメイラード反応抑制剤における各成分の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0045】
前記凍結乾燥味噌汁におけるメイラード反応抑制剤の使用量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、味噌1質量部に対して、0.002~0.02質量部が好ましく、0.004~0.013質量部がより好ましく、0.005~0.012質量部が特に好ましい。前記好ましい範囲であると、凍結乾燥味噌汁の保管時のメイラード反応の進行をより抑制することができる点で、有利である。
【0046】
本発明の凍結乾燥味噌汁におけるメイラード反応抑制剤によれば、凍結乾燥味噌汁の保管中のメイラード反応を抑制することができ、品質の劣化を防ぐことができる。
【実施例0047】
以下に試験例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの試験例に何ら限定されるものではない。
【0048】
(試験例1)
<味噌含有調味液の調製>
1食あたりの配合量が表1~3に記載の量となる量で、表1~3の「調味液」の欄に記載の各成分を加熱(加熱温度:75℃達温停止)混合し、表1~3に記載のBrix値(「Bx.」)の味噌含有調味液(以下、「調味液」と称することがある。)を調製した。
【0049】
<調味液の注入>
個食用容器に、上記で調製した調味液を注入した。
【0050】
<凍結、凍結乾燥>
調味液を注入した個食用容器ごと、庫内温度-20℃以下、8時間以上の凍結条件で凍結させた。これを、凍結乾燥機を用い、真空度90Pa以下、最終品温50℃の凍結乾燥条件で凍結乾燥させて、ブロック状の凍結乾燥味噌汁を得た。
【0051】
<評価>
製造した凍結乾燥味噌汁について、下記のようにして風味及び外観を評価し、メイラード反応が抑制されているかどうかを確認した。
【0052】
製造した凍結乾燥味噌汁を45℃で5週間(以下、「5W、45℃保管」と称することがある。)、又は45℃で4週間(以下、「4W、45℃保管」と称することがある。)保管した後、下記のようにして評価した。
保管後の凍結乾燥味噌汁に対して熱湯160mLを注ぎ、完全に復元させた状態で、少量ずつ喫食し、訓練された3名以上の評価者により、風味及び外観を下記の評価基準で評価した。評価点の平均値を表1~3に示す。
また、総合評価として、下記の基準で評価した結果を併せて表1~3に示す。
【0053】
[風味(味噌の風味)]
3点 : 「標準」と比べてかなり良い。
2点 : 「標準」と比べて良い。
1点 : 「標準」と比べてわずかに良い。
0点 : 「標準」と同等である。
-1点 : 「標準」と比べてわずかに悪い。
-2点 : 「標準」と比べて悪い。
-3点 : 「標準」と比べてかなり悪い。
【0054】
[外観]
3点 : 「標準」と比べてかなり良い。
2点 : 「標準」と比べて良い。
1点 : 「標準」と比べてわずかに良い。
0点 : 「標準」と同等である。
-1点 : 「標準」と比べてわずかに悪い。
-2点 : 「標準」と比べて悪い。
-3点 : 「標準」と比べてかなり悪い。
【0055】
[総合評価]
○ : 風味の評価結果と、外観の評価結果の両方が、1点以上である。
△ : 風味の評価結果と、外観の評価結果のいずれか一方が1点以上であり、他方が1点未満である。
× : 風味の評価結果と、外観の評価結果の両方が、0点以下である。
【0056】
<試験例1-1>
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
<試験例1-2>
【表3】
【0059】
(試験例2)
<味噌含有調味液の調製>
1食あたりの配合量が表4に記載の量となる量で、表4の「調味液」の欄に記載の各成分を加熱(加熱温度:75℃達温停止)混合し、表4に記載のBrix値(「Bx.」)の味噌含有調味液(以下、「調味液」と称することがある。)を調製した。
【0060】
<調味液の注入>
ブロック状の凍結野菜加工品(揚げなす、ねぎ、油揚げ、わかめ、澱粉含有)を充填した個食用容器に、上記で調製した調味液を注入した。
【0061】
<凍結、凍結乾燥>
調味液を注入した個食用容器ごと、庫内温度-20℃以下、8時間以上の凍結条件で凍結させた。これを、凍結乾燥機を用い、真空度90Pa以下、最終品温50℃の凍結乾燥条件で凍結乾燥させて、ブロック状の凍結乾燥味噌汁を得た。
【0062】
<評価>
製造した凍結乾燥味噌汁について、下記のようにして風味及び外観を評価し、メイラード反応が抑制されているかどうかを確認した。
【0063】
製造した凍結乾燥味噌汁を45℃で6週間(以下、「6W、45℃保管」と称することがある。)、又は45℃で8週間(以下、「8W、45℃保管」と称することがある。)保管した後、下記のようにして評価した。また、対照(コントロール)には、4℃で同期間保管したものを用いた。
保管後の凍結乾燥味噌汁に対して熱湯160mLを注ぎ、完全に復元させた状態で、少量ずつ喫食し、訓練された3名以上の評価者により、風味及び外観を下記の評価基準で評価した。評価点の平均値を表4に示す。
また、総合評価として、下記の基準で評価した結果を併せて表4に示す。
【0064】
[風味(味噌の風味)]
5点 : 対照(コントロール)と比較して、風味の変化なし。
4点 : 対照(コントロール)と比較して、分かる程度のごくわずかな風味の変化がある。
3点 : 対照(コントロール)と比較して、経時品単独でも分かる程度のわずかな風味の変化がある。
2点 : 対照(コントロール)と比較して、風味が変化し、ロースト感・酸味をわずかに感じる。
1点 : 対照(コントロール)と比較して、風味が変化し、ロースト感・酸味をはっきりと感じる。
【0065】
[外観]
5点 : 対照(コントロール)と比較して、色の変化なし。
4点 : 対照(コントロール)と比較して、分かる程度のごくわずかな色の変化がある。
3点 : 対照(コントロール)と比較して、経時品単独でわかるわずかな色の変化(褐変)がある。
2点 : 対照(コントロール)と比較して、色調の褐変がみられるが、一般的なみそ汁の色の範疇である。
1点 : 対照(コントロール)と比較して、褐変が強くなり、一般的なみそ汁の色から逸脱している。
【0066】
[総合評価]
◎ : 風味の評価結果と、外観の評価結果の両方が、4点以上である。
○ : 風味の評価結果と、外観の評価結果の両方が、2点以上4点未満である。
△ : 風味の評価結果と、外観の評価結果のいずれか一方が2点以上であり、他方が2点未満である。
× : 風味の評価結果と、外観の評価結果の両方が、2点未満である。
【0067】
【表4】
試験例2で用いた味噌は淡色みそであり、グリセリン有機酸脂肪酸エステルはグリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステルである。
【0068】
(試験例3)
凍結乾燥味噌汁の1食あたりにおける各成分の量を表5に記載の量に変えた以外は、試験例2と同様にして凍結乾燥味噌汁を製造した。なお、試験例2における凍結野菜加工品の代わりに具材充填液(なめこ、ねぎ含有)を用いた。
また、試験例2と同様にして、風味、外観、及び総合評価を行った。結果を表5に示す。
【0069】
【表5】
試験例3で用いた味噌は赤だしみそであり、グリセリン有機酸脂肪酸エステルはグリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステルである。
【0070】
(試験例4)
凍結乾燥味噌汁の1食あたりにおける各成分の量を表6~12に記載の量に変えた以外は、試験例2と同様にして凍結乾燥味噌汁を製造した。なお、凍結野菜加工品は用いなかった。
また、保管条件を50℃で2週間(以下、「2W、50℃保管」と称することがある。)、又は50℃で4週間(以下、「4W、50℃保管」と称することがある。)とした以外は、試験例2と同様にして、風味、外観、及び総合評価を行った。結果を表6~12に示す。
なお、試験例4で用いたグリセリン有機酸脂肪酸エステルは、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステルである。
【0071】
<試験例4-1>
【表6】
【0072】
<試験例4-2>
【表7】
【0073】
<試験例4-3>
【表8】
【0074】
<試験例4-4>
【表9】
【0075】
<試験例4-5>
【表10】
【0076】
<試験例4-6>
【表11】
【0077】
<試験例4-7>
【表12】
【0078】
(試験例5)
凍結乾燥味噌汁の1食あたりにおける各成分の量を表13に記載の量に変えた以外は、試験例2と同様にして凍結乾燥味噌汁を製造した。なお、凍結野菜加工品は用いなかった。
また、保管条件を45℃で2週間(以下、「2W、45℃保管」と称することがある。)、又は50℃で2週間(以下、「2W、50℃保管」と称することがある。)とした以外は、試験例2と同様にして、風味、外観、及び総合評価を行った。結果を表13に示す。
【0079】
【表13】
【0080】
試験例1~5で用いたグリセリン有機酸脂肪酸エステルは、下記のとおりである。なお、これらは各素材の一例として用いたものである。
・ グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル : ポエムW-60、理研ビタミン株式会社製
・ グリセリンコハク酸脂肪酸エステル : ポエムB-25KV、理研ビタミン株式会社製
・グリセリンクエン酸脂肪酸エステル : ポエムK-37V、理研ビタミン株式会社製
【0081】
試験例1~5で示したように、本発明によれば、凍結乾燥味噌汁の保管中のメイラード反応を抑制することができ、品質の劣化を防ぐことができることが確認された。
また、試験例5の結果から、グリセリン有機酸脂肪酸エステルの中でも、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステルがより優れたメイラード反応抑制効果を奏することが確認された。