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特開2024-162143磁気センサおよび磁気センサ測定回路装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162143
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】磁気センサおよび磁気センサ測定回路装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 33/02 20060101AFI20241114BHJP
【FI】
G01R33/02 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023077402
(22)【出願日】2023-05-09
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100143834
【弁理士】
【氏名又は名称】楠 修二
(72)【発明者】
【氏名】小野 崇人
【テーマコード(参考)】
2G017
【Fターム(参考)】
2G017AA02
2G017AC09
2G017AD10
2G017AD20
2G017BA03
2G017BA05
2G017BA13
(57)【要約】
【課題】直流磁場および低周波磁場においても感度が高く、広いダイナミックレンジを有する磁気センサおよび磁気センサ測定回路装置を提供する。
【解決手段】振動体1が、磁性体3を備えている。ピエゾ抵抗梁2、2’が、振動体1に連結されている。1つもしくは複数のコイル状の電流線5が、磁性体3の磁化を変調するために、交流電流を流すことで振動体1の振動方向に交流磁場を印加できるように配置されている。支持部6が、振動体1を支持している。励振手段7が、振動体1を機械的に励振するよう構成されている。磁性体3の磁化によって生じる磁気トルクを利用して、振動体1の振動方向と直交する方向の外部磁場を検出するよう構成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体を備えた振動体と、
前記振動体に連結された梁と、
前記磁性体の磁化を変調するために、交流電流を流すことで前記振動体の振動方向に交流磁場を印加できるように配置された1つもしくは複数のコイル状の電流線と、
前記振動体を支持する支持部と、
前記振動体を機械的に励振する手段とを備え、
前記磁性体の磁化によって生じる磁気トルクを利用して、前記振動体の振動方向と直交する方向の外部磁場を検出するよう構成されていることを
特徴とする磁気センサ。
【請求項2】
前記振動体を励振する手段として、静電駆動のための電極、あるいは圧電アクチュエータを備えていることを特徴とする請求項1記載の磁気センサ。
【請求項3】
前記磁性体に対して、前記振動体と前記梁とがカンチレバーを構成し、
前記カンチレバーの長手方向に直流磁場を印加する手段を備えていることを
特徴とする請求項1記載の磁気センサ。
【請求項4】
前記梁は、2本のピエゾ抵抗梁で構成されており、各ピエゾ抵抗梁が前記支持部と前記振動体とを連結した構造を有していることを特徴とする請求項1記載の磁気センサ。
【請求項5】
前記磁性体は、4000以上の比透磁率をもつ軟磁性体であることを特徴とする請求項1記載の磁気センサ。
【請求項6】
前記磁性体は、前記振動体に前記外部磁場を集中させる4000以上の比透磁率をもつ集中用軟磁性体から成り、前記支持部上の2か所以上に配置されていることを特徴とする請求項1記載の磁気センサ。
【請求項7】
各ピエゾ抵抗梁は、半導体Si基板上に不純物を拡散して形成されており、
前記振動体および前記支持部は、Siから構成されており、
前記電流線は、前記支持部上に形成されていることを
特徴とする請求項4記載の磁気センサ。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の磁気センサを測定するための磁気センサ測定回路装置であって、
前記振動体の振動を検出する回路と、
その振動の信号を検波する検波回路と、
前記磁性体を磁気変調するために前記電流線に電流を流す回路とを
備えていることを特徴とする磁気センサ測定回路装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気センサおよび磁気センサ測定回路装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の小型高感度な磁気センサとして、磁性材の振動体から構成される磁気センサが研究されている(例えば、非特許文献1参照)。この磁気センサは、磁性体からなるカンチレバー型の振動体を持ち、この振動体に磁場が印加されると磁気力が働き、結果として振動体の共振周波数が変化することを利用して磁場を検出している。また、振動体の近傍に対向電極を形成しており、駆動および振動検出のために対向電極間に加える交流電圧の周波数を変化させ、かつ電極と振動体との間の静電容量変化を検出し、振動体の共振周波数を求めている。しかし、この磁気センサの分解能は20 Oeしかなく、感度が悪いという問題があった。
【0003】
そこで、この問題を解決して、より高感度化するために、圧電体からなる振動体上に磁歪膜を形成した磁気センサが研究されている(例えば、非特許文献2参照)。この磁気センサでは、磁場を印加したとき磁歪効果により磁性膜が歪み、圧電体からなる振動体の共振周波数が変化する。その振動体は圧電膜と磁歪膜とが積層構造をした構造を持ち、外部から交流磁場が印加されると、磁歪膜が磁場を受けて伸縮を繰り返し、この振動の周波数が振動体の共振周波数と合った時に、機械的な共振で振動体が大きく屈曲振動する。これに伴い圧電膜も歪み、圧電効果により電圧が発生するため、圧電膜の両面に形成した電極間の電圧として磁場を検出することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Thierry C Leichele et al., “A MICROMACHINED RESONANT MAGNETIC FIELD SENSOR”, Technical Digest of 14th IEEE International Conference on Micro Electro Mechanical Systems, 2001, p.274-277
【非特許文献2】Yinan Wang et al., “A Low-Frequency MEMS Magnetoelectric Antenna Based on Mechanical Resonance”, Micromachines, 2022, 13, 864
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献2に記載の磁気センサは、共振周波数近傍の周波数をもつ交流磁場において高い感度を有するが、低い周波数領域では感度が悪く、例えば直流磁場を検出するのが困難であるという課題があった。また、一般的に、振動型の磁気センサでも、その機械共振周波数と同じ周波数の交流磁場に高い感度を示すが、低周波数域で高感度化することが困難であり、また高感度かつ広いダイナミックレンジを有することは困難であるという課題もあった。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたもので、直流磁場および低周波磁場においても感度が高く、広いダイナミックレンジを有する磁気センサおよび磁気センサ測定回路装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る磁気センサは、磁性体を備えた振動体と、前記振動体に連結された梁と、前記磁性体の磁化を変調するために、交流電流を流すことで前記振動体の振動方向に交流磁場を印加できるように配置された1つもしくは複数のコイル状の電流線と、前記振動体を支持する支持部と、前記振動体を機械的に励振する手段とを備え、前記磁性体の磁化によって生じる磁気トルクを利用して、前記振動体の振動方向と直交する方向の外部磁場を検出するよう構成されていることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る磁気センサでは、コイル状の電流線に交流電流を流し交流磁場を発生させて、磁性体を磁化変調したとき、外部磁場が磁性体に印加されるとその磁化と外部磁場とにより磁気トルクが発生する。このとき、例えばカンチレバー状の振動体の振動方向が、磁気トルクによる機械的な励振を可能にする方向であれば、振動体が機械的に励振される。より具体的には、電流線に振動体と同じ周波数の交流電流を流した時に発生する交流磁場の、振動体の振動方向の磁場成分と、振動体が構成するカンチレバーの長手方向の磁場成分(振動体の振動方向と直交する方向)とが、振動体を振動させる磁気トルクを発生させる。本発明に係る磁気センサは、外部から磁場を加えたとき、磁性体の磁化との間の磁気力(磁気トルク)が振動を抑え込む方向であれば、振動体の見かけのばね定数は大きくなり、逆に磁気力が振動を増幅させる方向であれば、振動体の見かけのばね定数は小さくなる。このように、磁場印加によりばね定数を変化させることが可能であり、この時、機械的な共振周波数も変化する。本発明に係る磁気センサは、その共振周波数の変化、振動体の振動振幅、振動体の振動位相の変化のうちの1つ以上の物理量を用いて、高感度に外部磁場を検出することができる。
【0009】
また、本発明に係る磁気センサは、感度や帯域幅を、コイル状の電流線に流す電流の大きさによって可変であり、感度と帯域幅とをチューニングすることができる。これにより、高感度で広い帯域幅をもつ磁気計測が可能である。このように、本発明に係る磁気センサは、直流磁場および低周波磁場においても感度が高く、広いダイナミックレンジを有している。また、振動体を機械的に励振する手段を備えることで、より感度を高めることができる。
【0010】
本発明に係る磁気センサは、前記振動体を励振する手段として、静電駆動のための電極、あるいは圧電アクチュエータを備えていてもよい。これにより、逆圧電効果を利用して機械的な振動を発生させ、その振動を伝達させて振動体を励振させることができる。
【0011】
本発明に係る磁気センサは、前記磁性体に対して、前記振動体と前記梁とがカンチレバーを構成し、前記カンチレバーの長手方向に直流磁場を印加する手段を備えていてもよい。この場合、磁性体に直流磁場を印加し、磁性体を磁化した状態で利用することで、より高感度化かつ大きな帯域幅で磁場を測定することができる。
【0012】
本発明に係る磁気センサで、前記梁は、2本のピエゾ抵抗梁で構成されており、各ピエゾ抵抗梁が前記支持部と前記振動体とを連結した構造を有していてもよい。この場合、各ピエゾ抵抗梁の抵抗を測定するための電極を有していてもよい。また、各ピエゾ抵抗梁は、半導体Si基板上に不純物を拡散して形成されており、前記振動体および前記支持部は、Siから構成されており、前記電流線は、前記支持部上に形成されていてもよい。
【0013】
本発明に係る磁気センサで、前記磁性体は、4000以上の比透磁率をもつ軟磁性体であってもよい。
【0014】
本発明に係る磁気センサで、前記磁性体は、前記振動体に前記外部磁場を集中させる4000以上の比透磁率をもつ集中用軟磁性体から成り、前記支持部上の2か所以上に配置されていてもよい。
【0015】
本発明に係る磁気センサ測定回路装置は、本発明に係る磁気センサを測定するための磁気センサ測定回路装置であって、前記振動体の振動を検出する回路と、その振動の信号を検波する検波回路と、前記磁性体を磁気変調するために前記電流線に電流を流す回路とを
備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る磁気センサによれば、直流磁場および低周波磁場においても感度が高く、広いダイナミックレンジを有する磁気センサおよび磁気センサ測定回路装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態の磁気センサを示す斜視概略図である。
図2】本発明の実施形態の磁気センサの動作原理の説明図である。
図3】本発明の実施形態の磁気センサの作製方法を示す正面図である。
図4】本発明の実施形態の磁気センサ測定回路装置を示す回路図である。
図5】本発明の実施形態の磁気センサ測定回路装置の、変調磁場を印加している場合、および、印加していない場合の磁気センサの振動信号の振幅の周波数特性を示すグラフである。
図6】本発明の実施形態の磁気センサ測定回路装置の、磁気センサに加える直流磁場を変化させたときの(a)振幅出力の変化、(b)位相出力の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大あるいは縮小して示している場合があり、各構成要素の寸法や比率などは実際とは異なっていても良い。以下の説明において例示される材料、数、寸法、位置等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではない。本発明は、その要旨を変更しない範囲で、追加、省略など、適宜変更して実施できる。
【0019】
[磁気センサの実施形態]
図1は、本発明の実施形態に係る磁気センサの斜視概略図であり、図2はその動作原理を説明するため、磁気センサの一部を抽出・拡大、概略化した側面図である。
以下の説明において、図1に示す磁気センサの長手方向(検出すべき外部磁場の方向、すなわちカンチレバーの長手方向)をX軸、X軸に垂直な短手方向をY軸、厚み方向(支持部6と励振手段7とが積層される方向)をZ軸とする。
【0020】
図1に示すように、本発明の実施の形態の磁気センサは、支持部6の一部を除去することで形成された部位であって、磁性体3が形成された振動体1と、振動体1の振動を検出する手段として、一例として、振動体1に機械的に連結している並列した2本の梁からなるピエゾ抵抗梁2、2’と、ピエゾ抵抗梁2、2’の抵抗を測定するために、ピエゾ抵抗梁2、2’に接続され、支持部6上に設けられた電極4、4’と、磁性体3およびピエゾ抵抗梁2、2’の周辺を一部、囲むように支持部6上に設けられたコイル状の電流線5と、振動体1を機械的に励振するために、支持部6の下部に設けられた圧電アクチュエータから成る励振手段7とを備えている。本発明の実施の形態の磁気センサは、振動体1と前記ピエゾ抵抗梁2、2’とが連結されることで、支持部6に支持されたカンチレバー構造を構成している。
【0021】
なお、カンチレバー構造の共振周波数は、0.1~10MHzとなるように設計するのが望ましい。また、ピエゾ抵抗梁2、2’は、振動体1の振動を変位等で検出できればピエゾ抵抗に限らずどのような構成であってもよい。例えば、振動体1に対向する位置に対向電極を設け、対向電極と振動体1との間の静電容量を利用して検出する構成や、振動体1を支持するばね上に形成した圧電膜の圧電効果を利用して振動を検出する構成、あるいは光学的な変位センサを利用する構成があり、これらのいずれの構成であってもよい。
【0022】
振動体1は、イオン注入等を用いて、例えば、B(ボロン)等を注入したSi活性層上に、SiN膜を介して磁性体3を積層して形成された構成となっている。振動体1は、ピエゾ抵抗梁2、2’により支持され、主にZ方向に励振するよう構成されている。
【0023】
本発明の実施の形態の磁気センサは、並列した2本の細いピエゾ抵抗梁2、2’が支持部6と振動体1とを連結してカンチレバー構造を構成することで、振動構造としてのばね定数を低減させることができ、かつ、このピエゾ抵抗による振動検出は、梁のねじりに対して感度が悪いため、磁気センサとしてのクロストークを低減できる利点を有する。なお、ピエゾ抵抗梁2、2’の細い幅部は、0.5μm~20μmであるのが望ましく、支持部6と振動体1との間の長さは、1μm~50μmであるのが望ましい。また、ピエゾ抵抗梁2、2’の厚さは、1~10μmであるのが好ましい。なお、ピエゾ抵抗梁2、2’は、その抵抗値が測定できれば2本に限定されず、また、さらに3本以上であってもよい。製造コスト、構成などを考慮すると、2本が好ましい。
【0024】
ピエゾ抵抗梁2、2’の材料としては、表面に不純物拡散層を形成したSiを用いることができる。なお、ピエゾ抵抗梁2、2’の材料は、Siに限定されるものではなく、他に金属の歪ゲージ材料(Cu、Co、Fe、Ni、Crやこれらの合金など)を用いることも可能である。
【0025】
磁性体3は、高い透磁率をもつ軟磁性体であるのが好ましく、この場合、小さな磁場に対して磁化しやすくなるため高感度化できる。軟磁性体としては、FeNi合金、FeNiMo合金、FeNiCuCr合金、FeNiCuMo合金、FeSiAl合金などであってよく、比透磁率が4000以上のものが望ましい。なお、磁性体1の大きさとしては、1μm~250000μmであるのが望ましい。また、磁性体3の厚さは、1~100μmであることが好ましい。
【0026】
コイル状の電流線5は、磁性体3にZ方向の磁場を印加して励振するものである。このとき、カンチレバー構造の共振周波数に近い周波数の交流を、コイル状の電流線5に流すことで、磁性体3を励振させることができる。本発明の実施の形態の磁気センサは、磁性体3を励振するためのコイル状の電流線5に流す電流信号と、振動体1を機械的に励振させるための後述の励振手段7に与える電圧信号との位相を調整することで、振動体1の速度に比例する負の減衰成分を作り出し、Q値を大きくすることができる。この操作により、磁気センサとしての感度を高めることができる。なお、磁性体3の周辺に配置されるコイル状の電流線5は、一つに限るものではなく、複数あってよい。また、電流線5は、支持部6に形成される必要はなく、例えば、複数に巻いたコイルを支持部6上に載置あるいは取り付け、磁性体3にZ方向の磁場を印加しするようにしてもよい。なお、コイル状の電流線5の巻き数は、1~100であることが望ましい。
【0027】
本発明の実施の形態の磁気センサは、磁性体3にX軸方向(カンチレバーの長手方向)の直流磁場を印加し、磁性体3を磁化した状態で利用することで、高感度に磁場を測定できる。磁性体3に直流磁場を印加する方法としては、本発明の実施の形態の磁気センサの外側のYZ面内にコイル状の電流線5とは別の、不図示のコイル状の電流線を配置して直流電流を流し、X軸方向に直流磁場を印加する方法や、本発明の実施の形態の磁気センサの外側に不図示の磁石を配置して、X軸方向に直流磁場を印加する手段がある。ただし、直流磁場は、磁性体3の磁化が飽和する磁場よりも小さな値であることが望ましく、パーマロイ合金を磁性体3として用いた場合は、50μT以下であることが望ましい。
【0028】
励振手段7は、圧電アクチュエータに印加する交流電圧と、コイル状の電流線5に流す交流電流との位相を制御することで生じる逆圧電効果を利用して機械的な振動を発生させ、その振動を伝達することにより振動体1を励振させることができる。なお、機械的に励振する励振手段7は、圧電アクチュエータに限定されず、例えば、静電駆動のための電極を設けるなど、同様の機能を有するものであれば適宜選択可能である。
【0029】
本発明の実施の形態の磁気センサを高感度化する別の手法として、図1に示すように、振動体1を構成する磁性体3に対して、測定磁場の方向であるX軸方向に対峙する2か所以上に集中用軟磁性体8、8’を配置し、外部磁場が振動体1に集中する構成とすることで、磁気センサを高感度化する構成が利用できる。集中用軟磁性体8、8’としては、FeNi合金、FeNiMo合金、FeNiCuCr合金、FeNiCuMo合金、FeSiAl合金などであってよく、比透磁率が4000以上の軟磁性材料が望ましい。
【0030】
本発明の実施の形態の磁気センサは、半導体微細加工技術を用いて、半導体Si基板上に不純物を拡散してピエゾ抵抗効果を持つピエゾ抵抗梁2、2’となる不純物拡散層を形成し、振動体1および支持部6もSiから構成し、電流線5もSi基板上に形成することで、小型化が可能である。電極4、4’は、Al、もしくはAu、Wなどの材料を用いることが望ましく、電流線5は、CuやAl、Auなどの材料を用いるのが望ましい。
【0031】
本発明の実施形態の磁気センサ測定回路装置は、振動体1の振動を検出するセンサ回路、その振動の信号を検波する検波回路、および磁性体3を磁気変調するために電流線5に電流を流す回路を用いて、振動体1の振動、もしくは振動体1の振動の位相、もしくは振動体1の振動周波数を検出することにより、磁場を検出することができる。磁気センサ測定回路装置は、ピエゾ抵抗梁2、2’を使用する場合には、同じ抵抗値の参照抵抗が本発明の実施の形態の磁気センサ上のXY面内に形成されていてもよく、ブリッジ回路を構成したピエゾ抵抗センサ回路を利用しても良い。
【0032】
より詳細に動作原理を説明するため、図2を用いて、実施例について説明する。
図2に示すように、X軸方向に検出すべき測定対象の外部磁場Hが存在しているとする。振動体1を有するカンチレバーの共振周波数の近傍の周波数をもつ交流電流をコイル状の電流線5に流すと、Z軸方向の交流磁場HACが磁性体3上に発生する。この交流磁場HACにより、磁性体3は磁気変調を受けて、磁性体3の磁化Mが測定対象の外部磁場Hの軸(X軸)に対して歳差運動をしているのと等価な状態となる。厳密には、磁性体3の磁化Mを歳差運動させるには2個の磁気変調用の電流線を必要とするが、Y軸方向の磁化成分はセンサの動作に関与しないことから、説明を簡潔にするために歳差運動と等価とみなしている。
【0033】
磁性体3の磁化Mには歳差運動が生じるものの、振動体1は、Z軸方向のみに駆動できる構造となっているため、Z軸方向のみの振動となる。このとき、外部磁場Hと磁性体3の磁化Mとの間で、M×Hに比例する磁気トルクによる駆動力、つまりMHsinθに比例する磁気力が発生し、振動体1をZ方向に励振する。また、あらかじめ、圧電アクチュエータ7で振動体1を励振している場合、測定対象の外部磁化Hの印加により振動体1の振動振幅が変化する。なお、θは、磁化Mと外部磁場Hとのなす角である。
【0034】
本発明の実施の形態の磁気センサは、振動体1の機械共振を利用し、振動エネルギーを蓄えてQ値(機械的品質係数)分だけ応答を増幅するので、高感度に磁場を検出できる。このため、高感度化には、Q値の高い機械共振をもつ振動体1を利用する必要がある。Q値を高めるために、一例として、本発明の実施の形態の磁気センサを真空、もしくは減圧状態に封止しても良い。
【0035】
振動体1の見かけのばね定数は、励振手段7の駆動力と同期している磁気トルク成分の振幅に比例して変化する。このため、振動体1の共振周波数は、M×Hの値の関数になる。つまり、X軸方向の測定対象の外部磁場Hが大きくなると、磁化Mの歳差運動の角度θが小さくなり、M×Hの振幅が小さくなるため、振動体1の見かけのばね定数は大きくなり、その共振周波数も大きくなる。この時、振動体1の振動振幅は減少する。
【0036】
逆に、X軸方向の測定対象の外部磁場Hが小さくなると、磁化Mの歳差運動の角度θが大きくなり、M×Hが大きくなるため、振動体1の見かけのばね定数は小さくなり、その共振周波数は小さくなる。一方、振動体1の振動振幅は増大する。つまり、振動体1の共振周波数変化や振動振幅変化、もしくは駆動信号に対する振動信号の位相の変化として、外部磁場Hを検出できる。なお、測定対象の外部磁場Hは、DC磁場だけでなく、同様に交流磁場の検出も可能である。
【0037】
本発明の実施の形態の磁気センサは、測定対象の外部磁場Hと磁性体3の磁化Mとの相互作用で発生する磁気力を、機械共振振動の変化として測定する。機械振動方向がZ軸方向に限定されており、かつ磁化変調のための交流磁場が同じくZ方向にある場合、本発明の実施の形態の磁気センサは、これらと垂直方向の磁場成分、つまりX軸方向の磁場成分に対して感度を有し、YZ面内の磁場成分に関しては感度を有しない。
【0038】
なお、振動体を用いるカンチレバー型の磁気センサとして、従来、カンチレバー型の振動体の近くに磁性体サンプルを載置して、振動体、磁性体サンプルを磁化させて測定を行うものがある。しかし、そのような磁気センサは、磁性体サンプルがあることにより、磁気勾配が発生し、それをばね定数の変化として測定するもので、磁性体サンプルがない場合、磁気勾配がないため、外部磁場を検出することができないものであり、本発明に係る磁気センサとは原理が異なるものである。
【0039】
本発明の実施の形態の磁気センサは、磁場感度や測定可能な磁場の帯域幅が、コイル状の電流線5に流す交流電流によって決まる交流磁場HACの振幅に依存する。コイル状の電流線5に流す交流電流が小さいときは感度が小さく、かつ帯域幅を広くでき、交流電流が大きなときは感度を高くできるが、大きな外部磁場が印加されると振動が不安定になるため、帯域幅は狭くなる。よって、本発明の実施の形態の磁気センサは、電流線5に流す交流電流値によって、その感度や帯域幅を所望の値に調整することが可能である。
【0040】
本発明の実施の形態の磁気センサでは、振動体1には、励振手段7による振動励起および前記の磁気トルクによる振動励起の2つの駆動メカニズムが存在する。励振手段7による振動励起および磁気トルクによる振動励振は、それぞれ、振動体1を励振する駆動信号とコイル状の電流線5に流す電流とにより独立に制御することが可能である。
【0041】
励振手段7への駆動信号と磁気トルクによる駆動信号とが同位相の時、磁気トルクは振動のばねを変化させる方向に働く。一方、磁気トルクによる駆動力が励振手段7による駆動力と90°だけ位相がずれていた場合、磁気トルクにより発生する駆動力は、振動体1の速度成分に比例することになる。この場合、磁気トルクは振動系の機械減衰係数を低減する方向に働き、振動体1のQ値を増大させる。つまり、磁気トルクによる駆動力を励振手段7による駆動力に対し適切な値だけ位相をずらすことにより、Q値を増大し、かつ、ばね定数を変化させることができる。このQ値の制御方法を用いることで、磁気センサとしての感度を増大することができる。
【0042】
[磁気センサの検出回路例1]
磁気センサの検出回路としては、変位検出手段からの電圧出力を増幅し、さらに位相調節回路を用いて位相を調節して励振手段7にフィードバックすることで、自励発振を引き起こしてもよい。また、それに加え、変位検出手段からの電圧出力を増幅した信号を、別の位相調節回路を用いて位相を調節した後に、コイル状の電流線5に電流を流して磁性体3を磁化変調することもできる。この制御回路により、磁気トルクによる駆動力と励振手段7による駆動力の位相とを調整することができる。
【0043】
また、前述の変位検出手段からの電圧を増幅し、位相調節回路により位相を調節してコイル状の電流線5に電流を流す際の、電圧増幅率や位相シフトの量により感度や帯域幅を調整することができる。
【0044】
また、増幅された変位検出信号を、周波数-電圧変換回路を用いて電圧信号に変換し、外部磁場を検出することもできる。あるいは、周波数カウンターを用いて発振周波数を測定し、外部磁場を検出してもよい。また、検波回路を用いて、増幅された変位検出信号を、振動振幅の電圧信号に変換し、外部磁場を検出してもよい。
【0045】
[磁気センサの検出回路例2]
磁気センサの検出回路の第2の例としては、交流電源からの電圧信号を、振動体1を励振する励振手段7に印加して、振動体1を振動させる。振動体1の振動信号によりピエゾ抵抗梁2、2’の信号を増幅した後に、ロックインアンプを用いた検波回路で検出する。この際、励振する手段に印加した電圧信号を、参照信号として用いることができる。また、ピエゾ抵抗梁2、2’の信号をさらに増幅し、かつ、位相調節器により位相を調整した信号をコイル状の電流線5に印加して交流磁場を発生し、磁性体3を磁気変調することもできる。
【0046】
このロックインアンプを用いた検出により、振動体1の振動子振幅、および位相などの情報を取得でき、これら振動振幅もしくは位相から外部磁場を検出することができる。同様に、変位検出手段からの電圧を増幅し、位相調節回路により位相を調節してコイル状の電流線5に電流を流す際の、電圧増幅率や位相シフトの量により感度や帯域幅を調整することができる。
【実施例0047】
[磁気センサの作製方法]
本発明の実施の形態の磁気センサのデバイス部分は、図3に示すように作製できる。以下にその概要について、図3を参照して説明する。
【0048】
(a)Si活性層9と、SiO層10とからなるSOI(Silicon-on-insulator)基板(n型Si/SiO/Siの厚さがそれぞれ7μm/1μm/400μm)の最表面のSi活性層9に、イオン注入を用いてBを注入し、850℃で30分間だけ熱処理して、不純物を活性化する。その後、化学気相堆積法でSOIの裏面のハンドリング層に、SiO層10(1.5μm厚)を堆積する(図3(a)参照)。
【0049】
(b)最表面のSi活性層9上にレジスト(東京応化工業株式会社「OFPR800」)をスピンコートした後、フォトリソグラフィーを用いてパターニングし、レジストを用いて最表面のSi活性層9を反応性イオンエッチングでエッチングして、Siの構造体パターンを形成する。その後、レジストを除去する(図3(b)参照)。
【0050】
(c)エッチングした最表面のSi活性層9上に、(b)と同様に、フォトリソグラフィーを利用して100nmの厚さのSiN膜12をプラズマ化学気相堆積法で堆積し、SiN膜12をパターニングする。次に、同様に、フォトリソグラフィーを用いて、200nmの厚さのAlをスパッタで堆積し、Al電極11を形成する(図3(c)参照)。
【0051】
(d)裏面のSiO膜10を、同様のフォトリソグラフィーとHF緩衝溶液とを用いてパターニングする。次に、振動体1となる部位のSiN膜12を堆積した最表面のSi活性層9上に、電解めっきの下地金属膜(Au)を堆積し、フォトリソグラフィーを利用して作製したレジストパターンをモールドとして利用して、電解めっきによりFeNi(パーマロイ)膜13(磁性体3に対応)のパターンを形成する(図3(d)参照)。
【0052】
(e)フォトリソグラフィーを利用して作製したレジストパターンをモールドとして利用し、電解めっきによりコイル状の電流線5となる部位に、Cu膜14のパターンを形成する(図3(e)参照)。
【0053】
(f)SiO膜10をマスクとして利用し、反応性イオンエッチングにより、(d)でSiO膜10を除去するパターニングを行った裏面のSi活性層9をエッチングして除去する(図3(f)参照)。
【0054】
(g) (f)でエッチングして除去したSi活性層9の部位に対応するSOI基板の埋め込み酸化膜SiO膜10を、HFガスを利用してエッチングして除去し、振動子1及びピエゾ抵抗梁2、2’の構造を形成する。両面にNi電極15が形成されたPZT16の基板を、振動子1及びピエゾ抵抗梁2、2’の構造を形成したSOI基板の裏面に接着する。さらに、Al電極11およびNi電極15に、導電性接着剤を利用して金属線17を接続する(図3(g)参照)。
【0055】
[磁気センサの動作]
上記の方法で作製した本発明の実施形態の磁気センサの動作例を説明する。
評価した磁気センサは、Siからなる振動体1の面積が400×400μmであり、この上に磁性体3として、15μmの厚さのパーマロイ(FeNi)が形成されている。Siからなる2本のピエゾ抵抗梁2、2’の幅、厚さ、長さはそれぞれ7μm、7μm、20μmである。この磁気センサの共振周波数は、約2.9kHzである。
【0056】
図4に、実施例で用いた、磁気センサの測定回路装置例の概略を示す。実施例では、ピエゾ抵抗効果を有するピエゾ抵抗梁2、2’と同じ抵抗値の参照抵抗を設けた磁気センサ素子(Magnetic Sensor)20を用いた。磁気センサ素子20に接合されている圧電アクチュエータ(PZT)19に、交流電源18を用いて振動体1の共振周波数の近傍の交流電圧を印加し、振動体1を励振する。磁気センサ素子20のピエゾ抵抗梁2、2’は、磁気センサ素子20のセンサ抵抗と参照抵抗とからなるブリッジ回路の一部を構成しており、電圧増幅回路(Amp.)22によって振動信号が増幅される。得られた振動信号は、ロックインアンプ(Lock-in Amplifier)24を用いて計測され、その際の参照信号としては、交流電源18からの交流電圧を用いる。
【0057】
電圧増幅回路22による振動信号を、ゲイン&位相調節回路(Gain & Phase shifter)23を通して増幅し、コイル状の電流線21(コイル状の電流線5に対応)に印加する。ゲイン&位相調節回路23により、コイル状の電流線21に流す電流振幅、および交流電源18からの交流電圧に対する位相を調節する。これにより、磁気センサの感度や帯域幅を調整する。
【0058】
コイル状の電流線21による変調磁場を印加している場合、および、印加していない場合の、磁気センサの振動信号の振幅の周波数特性を図5に示す。2.9kHzの近傍にピークがある共振信号は、磁性体3にコイル状の電流線21による変調磁場を加えなかった場合(No magnetic modulation)の共振特性であるのに対し、2.95kHzの近傍にある共振信号は、磁性体3に変調磁場を加え、その位相を適度に調整した場合(Magnetic modulation with Q-enhancement)の共振特性である。磁気的な相互作用と前述した機械共振とのQ値の増幅効果により、Q値が110から490に増加している。この効果により、磁気センサとしての応答が増幅され、感度が増加しているのがわかる。
【0059】
次に、磁気センサ(圧電アクチュエータ(PZT)19、磁気センサ素子20、コイル状の電流線21)の周囲に、4巻の直流磁場発生用コイルを配置して直流電流を流し、図4の実施例における構成のX軸方向に直流外部磁場を印加した。図6(a)および(b)には、流す電流を1mAずつ増加し、直流磁場の大きさを少しずつ大きくしていったときの、ロックインアンプ24で測定した振動子1の振動振幅、および位相の大きさを、それぞれプロットしている。1mAの電流の増加に対して、増加する直流外部磁場は約270nTである。この時の帯域幅は、~100μTのレンジである。
【0060】
図6(a)および(b)に示すように、直流外部磁場を増やすと振動振幅は低下し、位相は増加しているのが、階段状の応答から見ることができる。なお、磁気センサの応答は、共振ピークに対する動作周波数によって決まる。磁化変調用の電流線に流す電流を1/2にすると、その感度は0.7倍になり、測定できる帯域幅は約1.4倍となる。流す電流を1/100にすると、感度は1/10となり、帯域幅は10倍となる。
【0061】
以上の結果から、測定が可能であり、かつ、感度が周波数に対して平坦な交流磁場の周波数は、DC~200Hz程度である。磁気センサの振動体を小さくして機械共振周波数を上げることで、この周波数帯域を増加させることができる。
【0062】
本発明に係る磁気センサとこれを用いた磁気センサ測定回路装置は、本実施例に限定されることはなく、本発明の主旨、作用および効果が同一でありながら、種々の変形がありうる。例えば、本発明に係る磁気センサを3つ用意し、それぞれ、X方向の磁場、Y方向の磁場、Z方向の磁場を測定するように構成することで、3軸の磁気センサとすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明に係る磁気センサは、小型化が可能で、かつ機械共振を利用しているので、省電力であり、また測定回路構成も簡単であり、デジタル情報として処理が可能である。
【0064】
本発明に係る磁気センサは、地磁気などの環境の磁場を検出する磁気センサ、生体磁気を測定するための磁気センサ、磁気探傷検査に用いる磁気センサ、磁気探査に用いる磁気センサなどに用いられ、高感度でハンディーな磁気センサ測定回路装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0065】
1 振動体
2、2’ ピエゾ抵抗梁
3 磁性体
4、4’ 電極
5 電流線
6 支持部
7 励振手段
8、8’ 集中用軟磁性体

9 Si活性層
10 SiO
11 Al電極
12 SiN膜
13 FeNi膜
14 Cu膜
15 Ni電極
16 PZT
17 金属線

18 交流電源
19 圧電アクチュエータ
20 磁気センサ素子
21 コイル状の電流線
22 電圧増幅回路
23 ゲイン&位相調節回路
24 ロックインアンプ

図1
図2
図3
図4
図5
図6