(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162148
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】プレキャスト床版の接合構造およびプレキャスト床版の接合方法
(51)【国際特許分類】
E04B 5/02 20060101AFI20241114BHJP
E04B 1/58 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
E04B5/02 R
E04B1/58 601E
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023077425
(22)【出願日】2023-05-09
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】小前 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】杉山 友也
(72)【発明者】
【氏名】片山 浩一
(72)【発明者】
【氏名】安齋 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】横谷 健一
(72)【発明者】
【氏名】乙藤 佳名子
【テーマコード(参考)】
2E125
【Fターム(参考)】
2E125AA14
2E125AA57
2E125AB01
2E125AC15
2E125AE02
2E125AG07
2E125AG27
2E125AG28
2E125AG29
2E125AG41
2E125AG60
2E125BA45
2E125BB08
2E125BB14
2E125BD01
2E125BE02
2E125BE06
2E125CA44
2E125CA46
2E125CA78
2E125EA33
(57)【要約】
【課題】労力の軽減および費用の削減を図ることができるとともに、プレキャスト床版と現場打コンクリートとの肌分かれを防止できるプレキャスト床版の接合構造およびプレキャスト床版の接合方法を提供する。
【解決手段】床版コンクリート部3から突出する鉄筋突出部42,42と、鉄筋突出部42,42を連結する連結部材5と、床版コンクリート部3,3の間に充填されて鉄筋突出部42,42および連結部材5を埋設する充填材6と、を有し、鉄筋突出部42は、少なくとも一方の端部421が床版コンクリート部3に接続され、中間部422が鉄筋突出部42の長さ方向の両端部421,421よりも床版コンクリート部3と離れる側に位置するとともに、床版コンクリート部3と離れる側に張り出すように湾曲し、連結部材5は、一方の前記プレキャスト床版1の鉄筋突出部42と、他方のプレキャスト床版1の鉄筋突出部42と、に掛け渡されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに接合されるプレキャスト床版それぞれの床版コンクリート部から突出する鉄筋突出部と、
互いに接合される前記プレキャスト床版それぞれの前記鉄筋突出部を連結する連結部材と、
互いに接合される前記プレキャスト床版それぞれの前記床版コンクリート部の間に充填されて前記鉄筋突出部および前記連結部材を埋設する充填材と、を有し、
前記鉄筋突出部は、
長さ方向の少なくとも一方の端部が前記床版コンクリート部に接続され、
長さ方向の中間部が前記鉄筋突出部の長さ方向の両端部よりも前記床版コンクリート部と離れる側に位置するとともに、前記床版コンクリート部と離れる側に張り出すように湾曲し、
前記連結部材は、互いに接合される前記プレキャスト床版のうちの一方の前記プレキャスト床版の前記鉄筋突出部と、他方の前記プレキャスト床版の前記鉄筋突出部と、に掛け渡されているプレキャスト床版の接合構造。
【請求項2】
前記鉄筋突出部は、長さ方向の両端部が前記床版コンクリート部に接続され、
前記鉄筋突出部と前記床版コンクリート部との間には、連結用孔部が形成され、
前記連結部材は、互いに接合される前記プレキャスト床版のうちの一方の前記プレキャスト床版の前記連結用孔部と、他方の前記プレキャスト床版の前記連結用孔部と、に掛け渡されている請求項1に記載のプレキャスト床版の接合構造。
【請求項3】
前記連結部材は、
間隔をあけて平行に配置される一対の直線部と、前記一対の直線部それぞれの一方の端部同士を接続する接続部と、を有するU字形に形成され、前記U字形が下方に開口する姿勢に配置され、
前記一対の直線部のうちの一方の直線部が、互いに接合される前記プレキャスト床版のうちの一方の前記プレキャスト床版の前記連結用孔部に上方から挿入され、
前記一対の直線部のうちの他方の直線部が、互いに接合される前記プレキャスト床版のうちの他方の前記プレキャスト床版の前記連結用孔部に上方から挿入され、
前記接続部が、互いに接合される前記プレキャスト床版それぞれの前記鉄筋突出部と接触している請求項2に記載のプレキャスト床版の接合構造。
【請求項4】
互いに接合されるプレキャスト床版を設置するプレキャスト床版設置工程と、
前記プレキャスト床版を接合する接合工程と、を有し、
前記プレキャスト床版は、床版コンクリート部から突出する鉄筋突出部を有し、
前記鉄筋突出部は、
長さ方向の少なくとも一方の端部が前記床版コンクリート部に接続され、
長さ方向の中間部が前記鉄筋突出部の長さ方向の両端部よりも前記床版コンクリート部と離れる側に位置するとともに、前記床版コンクリート部と離れる側に張り出すように湾曲し、
前記プレキャスト床版設置工程では、互いに接合される前記プレキャスト床版それぞれの前記床版コンクリート部を前記プレキャスト床版が接合される方向に間隔をあけて配置し、前記鉄筋突出部を前記プレキャスト床版が接合される方向に配列し、
前記接合工程は、
互いに接合される前記プレキャスト床版それぞれの前記鉄筋突出部を連結部材で連結する鉄筋突出部連結工程と、
互いに接合される前記プレキャスト床版それぞれの前記床版コンクリート部の間に充填材を充填する充填材充填工程と、を有し、
前記鉄筋突出部連結工程では、前記連結部材を、互いに接合される前記プレキャスト床版のうちの一方の前記プレキャスト床版の前記鉄筋突出部と、他方の前記プレキャスト床版の前記鉄筋突出部と、に掛け渡し、
前記充填材充填工程では、前記鉄筋突出部および前記連結部材を前記充填材で埋設するプレキャスト床版の接合方法。
【請求項5】
前記鉄筋突出部は、長さ方向の両端部が前記床版コンクリート部に接続され、
前記鉄筋突出部と前記床版コンクリート部との間には、連結用孔部が形成され、
前記鉄筋突出部連結工程では、前記連結部材を、互いに接合される前記プレキャスト床版のうちの一方の前記プレキャスト床版の前記連結用孔部と、他方の前記プレキャスト床版の前記連結用孔部と、に掛け渡す請求項4に記載のプレキャスト床版の接合方法。
【請求項6】
前記連結部材は、間隔をあけて平行に配置される一対の直線部と、前記一対の直線部それぞれの一方の端部同士を接続する接続部と、を有するU字形に形成され、
前記鉄筋突出部連結工程では、前記連結部材を下方に開口する姿勢にして、
前記一対の直線部のうちの一方の直線部を互いに接合される前記プレキャスト床版のうちの一方の前記プレキャスト床版の前記連結用孔部に上方から挿入し、
前記一対の直線部のうちの他方の直線部を互いに接合される前記プレキャスト床版のうちの他方の前記プレキャスト床版の前記連結用孔部に上方から挿入し、
前記接続部を互いに接合される前記プレキャスト床版それぞれの前記鉄筋突出部と接触させる請求項5に記載のプレキャスト床版の接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレキャスト床版の接合構造およびプレキャスト床版の接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プレキャスト床版同士の接合部を現場打ちコンクリート打設で施工する場合、接合するプレキャスト床版それぞれから鉄筋の先端部を突出させ、これらの鉄筋を溶接接合したり、機械式継手で接合したりする方法が一般的である(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
鉄筋を溶接接合する場合、火気を使用するため火災対策を行う必要があり労力がかかる。鉄筋を機械式継手で接合する場合、機械式継手が高額なため、費用がかかる。また、溶接接合や機械式継手の接合は、特殊な技量が必要なため、人員の確保が必要となる。プレキャスト床版の運搬や施工の際に、プレキャスト床版から突出する鉄筋が作業者や物と接触しないように対策する必要があり労力がかかる。
【0005】
近年、半導体や精密機器などを生産する生産施設では、微振動の発生を防止できるように高剛性穴あきプレキャスト床版が採用する事例が増加している。高剛性穴あきプレキャスト床版を採用する場合、従来工法の施工も可能であるが、昨今の逼迫する労務事情や、生産事業をすぐ開始したいという生産施設特有の状況を鑑みて、梁などの主たる構造骨組は鉄骨造で計画し、床に高剛性穴あきプレキャスト床版を採用している。
【0006】
鉄骨造の梁組は高剛性架構であるため、高剛性穴あきプレキャスト床版も高剛性とする必要がある。このため、高剛性穴あきプレキャスト床版は、板厚が厚く(一般に250mm以上)支持スパンが小さい場合が多い。このような場合、高剛性穴あきプレキャスト床版同士の接合には、接合強度よりも高剛性穴あきプレキャスト床版間で微振動を伝達できるように、高剛性穴あきプレキャスト床版と現場打ちコンクリートとが密着し肌分かれを防止できることが望まれている。
【0007】
そこで、本発明は、労力の軽減および費用の削減を図ることができるとともに、プレキャスト床版と現場打コンクリートとの肌分かれを防止できるプレキャスト床版の接合構造およびプレキャスト床版の接合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係るプレキャスト床版の接合構造は、互いに接合されるプレキャスト床版それぞれの床版コンクリート部から突出する鉄筋突出部と、互いに接合される前記プレキャスト床版それぞれの前記鉄筋突出部を連結する連結部材と、互いに接合される前記プレキャスト床版それぞれの前記床版コンクリート部の間に充填されて前記鉄筋突出部および前記連結部材を埋設する充填材と、を有し、前記鉄筋突出部は、長さ方向の少なくとも一方の端部が前記床版コンクリート部に接続され、長さ方向の中間部が前記鉄筋突出部の長さ方向の両端部よりも前記床版コンクリート部と離れる側に位置するとともに、前記床版コンクリート部と離れる側に張り出すように湾曲し、前記連結部材は、互いに接合される前記プレキャスト床版のうちの一方の前記プレキャスト床版の前記鉄筋突出部と、他方の前記プレキャスト床版の前記鉄筋突出部と、に掛け渡されている。
【0009】
上記目的を達成するため、本発明に係るプレキャスト床版の接合方法は、互いに接合されるプレキャスト床版を設置するプレキャスト床版設置工程と、前記プレキャスト床版を接合する接合工程と、を有し、前記プレキャスト床版は、床版コンクリート部から突出する鉄筋突出部を有し、前記鉄筋突出部は、長さ方向の少なくとも一方の端部が前記床版コンクリート部に接続され、長さ方向の中間部が前記鉄筋突出部の長さ方向の両端部よりも前記床版コンクリート部と離れる側に位置するとともに、前記床版コンクリート部と離れる側に張り出すように湾曲し、前記プレキャスト床版設置工程では、互いに接合される前記プレキャスト床版それぞれの前記床版コンクリート部を前記プレキャスト床版が接合される方向に間隔をあけて配置し、前記鉄筋突出部を前記プレキャスト床版が接合される方向に配列し、前記接合工程は、互いに接合される前記プレキャスト床版それぞれの前記鉄筋突出部を連結部材で連結する鉄筋突出部連結工程と、互いに接合される前記プレキャスト床版それぞれの前記床版コンクリート部の間に充填材を充填する充填材充填工程と、を有し、前記鉄筋突出部連結工程では、前記連結部材を、互いに接合される前記プレキャスト床版のうちの一方の前記プレキャスト床版の前記鉄筋突出部と、他方の前記プレキャスト床版の前記鉄筋突出部と、に掛け渡し、前記充填材充填工程では、前記鉄筋突出部および前記連結部材を前記充填材で埋設する。
【0010】
本発明では、プレキャスト床版の鉄筋突出部を連結部材で連結することにより、プレキャスト床版が接合された後も、鉄筋突出部同士が接合され、充填材と床版コンクリート部との密着性が向上し肌分かれを防止できる。その結果、プレキャスト床版間で微振動を伝達できる。
プレキャスト床版の鉄筋同士を連結部材で連結するため、鉄筋同士を溶接する場合の火災対策が不要となるとともに、火災のリスクを低減できる。また、鉄筋同士を溶接接合や機械式継手で接合する場合と比べて、特殊な技量を必要としないため、人手不足を解消できるとともに、工費削減を図ることができる。また、プレキャスト床版から突出する鉄筋突出部は、湾曲しているため、直線状に突出している場合と比べて運搬や施工の際の安全性を高めることができる。
【0011】
また、本発明に係るプレキャスト床版の接合構造では、前記鉄筋突出部は、長さ方向の両端部が前記床版コンクリート部に接続され、前記鉄筋突出部と前記床版コンクリート部との間には、連結用孔部が形成され、前記連結部材は、互いに接合される前記プレキャスト床版のうちの一方の前記プレキャスト床版の前記連結用孔部と、他方の前記プレキャスト床版の前記連結用孔部と、に掛け渡されていてもよい。
【0012】
また、本発明に係るプレキャスト床版の接合方法では、前記鉄筋突出部は、長さ方向の両端部が前記床版コンクリート部に接続され、前記鉄筋突出部と前記床版コンクリート部との間には、連結用孔部が形成され、前記鉄筋突出部連結工程では、前記連結部材を、互いに接合される前記プレキャスト床版のうちの一方の前記プレキャスト床版の前記連結用孔部と、他方の前記プレキャスト床版の前記連結用孔部と、に掛け渡してもよい。
【0013】
このような構成とすることにより、接合されるプレキャスト床版それぞれの連結用孔部に連結部材を掛け渡せばよいため、連結部材で鉄筋突出部を容易に連結できる。
【0014】
また、本発明に係るプレキャスト床版の接合構造では、前記連結部材は、間隔をあけて平行に配置される一対の直線部と、前記一対の直線部それぞれの一方の端部同士を接続する接続部と、を有するU字形に形成され、前記U字形が下方に開口する姿勢に配置され、前記一対の直線部のうちの一方の直線部が、互いに接合される前記プレキャスト床版のうちの一方の前記プレキャスト床版の前記連結用孔部に上方から挿入され、前記一対の直線部のうちの他方の直線部が、互いに接合される前記プレキャスト床版のうちの他方の前記プレキャスト床版の前記連結用孔部に上方から挿入され、前記接続部が、互いに接合される前記プレキャスト床版それぞれの前記鉄筋突出部と接触していてもよい。
【0015】
また、本発明に係るプレキャスト床版の接合方法では、前記連結部材は、間隔をあけて平行に配置される一対の直線部と、前記一対の直線部それぞれの一方の端部同士を接続する接続部と、を有するU字形に形成され、前記鉄筋突出部連結工程では、前記連結部材を下方に開口する姿勢にして、前記一対の直線部のうちの一方の直線部を互いに接合される前記プレキャスト床版のうちの一方の前記プレキャスト床版の前記連結用孔部に上方から挿入し、前記一対の直線部のうちの他方の直線部を互いに接合される前記プレキャスト床版のうちの他方の前記プレキャスト床版の前記連結用孔部に上方から挿入し、前記接続部を互いに接合される前記プレキャスト床版それぞれの前記鉄筋突出部と接触させてもよい。
【0016】
このような構成とすることにより、互いに接合されるプレキャスト床版の鉄筋突出部同士を連結部材で容易に連結できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、労力の軽減および費用の削減を図ることができるとともに、プレキャスト床版と現場打コンクリートとの肌分かれを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】プレキャスト床版の接合構造の鉛直断面図である。
【
図2】プレキャスト床版の接合構造の平面図である。
【
図3】プレキャスト床版の接合構造の第1変形例を示す平面図である。
【
図4】プレキャスト床版の接合構造の第2変形例を示す平面図である。
【
図5】プレキャスト床版の接合構造の第2変形例を示す鉛直断面図である。
【
図6】プレキャスト床版の接合構造の第3変形例を示す平面図である。
【
図7】プレキャスト床版の接合構造の第4変形例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態によるプレキャスト床版の接合構造およびプレキャスト床版の接合方法について、
図1-
図2に基づいて説明する。
図1に示すように、本実施形態によるプレキャスト床版1は、半導体や精密機器などを生産する生産施設の床部に使用される。プレキャスト床版1は、鉄骨梁21で組まれた梁組2の上に設置される。以下では、第1水平方向に隣り合うプレキャスト床版1,1同士の接合構造および接合方法について説明する。第1水平方向に直交する水平方向を第2水平方向と表記する。図面では、第1水平方向を矢印Xで示し、第2水平方向を矢印Yで示す。
第1水平方向に隣り合うプレキャスト床版1,1は、第2水平方向に延びる鉄骨梁21の上方で接合されている。第1水平方向に隣り合うプレキャスト床版1,1の間であり、かつ鉄骨梁21の上には、プレキャスト床版1,1を接合する充填材6が充填されている。プレキャスト床版1,1は、工場などで製作され、建設現場に搬入される。充填材6は、例えば、現場打コンクリート、現場にて充填されるモルタルやグラウト材などである。充填材6は、プレキャスト床版1,1を接合可能な材料であれば、上記以外であってもよい。
図2では、コンクリートの表記を省略し、後述する鉄筋4および連結部材5を実線で示す。
【0020】
プレキャスト床版1は、床版コンクリート部3と、床版コンクリート部3に埋設される複数の鉄筋4とを、を有する。床版コンクリート部3は、平板状に形成されている。床版コンクリート部3における第1水平方向の端面を接合端面31と表記する。プレキャスト床版1は、高剛性穴あきプレキャスト床版であってもよい。
【0021】
複数の鉄筋4のうちの床版コンクリート部3の上部に設けられる鉄筋41は、一部が床版コンクリート部3の接合端面31から突出している。鉄筋41における床版コンクリート部3の接合端面31から突出している部分を鉄筋突出部42と表記する。
鉄筋突出部42は、円弧状に形成されている。鉄筋突出部42は、長さ方向の両端部421,421が床版コンクリート部3に接続され、長さ方向の中間部422が床版コンクリート部3と離れる側に張り出すように湾曲している。鉄筋突出部42と床版コンクリート部3の接合端面31との間には、上下方向に貫通する連結用孔部43が形成されている。
【0022】
第1水平方向に隣接するプレキャスト床版1,1は、それぞれの鉄筋突出部42が第1水平方向に間隔をあけた状態に配置される。第1水平方向に隣接するプレキャスト床版1それぞれの接合端面31も、第1水平方向に間隔をあけて配置される。
第1水平方向に隣接するプレキャスト床版1それぞれの鉄筋突出部42は、連結部材5で連結される。鉄筋突出部42および連結部材5は、充填材6に埋設される。
【0023】
連結部材5は、U字形に形成されている。本実施形態の連結部材5は、鉄筋をU字形に屈曲させた部材である。連結部材5は、間隔をあけて平行に配置され直線状に延びる一対の直線部51,52と、一対の直線部51,52それぞれの一方の端部同士を接続する接続部53と、を有する。連結部材5は、接続部53が直線部51,52の上側となり、かつ2つの直線部51,52が第1方向に間隔をあけて平行に並んだ姿勢で、2つの鉄筋突出部42,42を連結する。上記の姿勢の連結部材5の高さ寸法は、床版コンクリート部3の高さ寸法よりも小さい。
連結部材5は、上記の姿勢で、一方の直線部51が一方のプレキャスト床版1の鉄筋突出部42の連結用孔部43に上方から挿入され、他方の直線部52が他方のプレキャスト床版1の鉄筋突出部42の連結用孔部43に上方から挿入され、接続部53が2つの鉄筋突出部42それぞれの上側に配置される。
連結部材5は、重力により2つの鉄筋突出部42に引っ掛けられた状態になる。接続部53は、2つの鉄筋突出部42それぞれと接触する。連結部材5の上端、すなわち接続部53の上端は、床版コンクリート部3の上面よりも下側に配置される。連結部材5の下端部、すなわち直線部51,52の下端は、床版コンクリート部3の下面よりも上側に配置される。本実施形態では、鉄骨梁21の上フランジ211の上面に定着部材22が接合されている(
図1参照)。鉄筋突出部42および連結部材5は、定着部材22と干渉しない位置に配置される。
【0024】
充填材6は、隣り合うプレキャスト床版1それぞれの床版コンクリート部3の接合端面31の間に充填され、2つの鉄筋突出部42と、連結部材5とを埋設している。充填材6は、定着部材22も埋設している。
【0025】
本実施形態によるプレキャスト床版の接合方法について説明する。
まず、予め製作されたプレキャスト床版1を梁組2の上に設置する(プレキャスト床版設置工程)。
第1水平方向に隣り合うプレキャスト床版1,1それぞれの床版コンクリート部3の接合端面31を第1水平方向に間隔をあけて配置する。第1水平方向に隣り合うプレキャスト床版1それぞれの鉄筋突出部42を第1水平方向に配列する。
【0026】
続いて、第1水平方向に隣り合うプレキャスト床版1,1を接合する(接合工程)。
まず、鉄筋突出部42,42を連結部材5で連結する(鉄筋突出部連結工程)。連結部材5を下方に開口する姿勢にして、一方の直線部51を一方のプレキャスト床版1の鉄筋突出部42の連結用孔部43に上方から挿入し、他方の直線部52を他方のプレキャスト床版1の鉄筋突出部42の連結用孔部43に上方から挿入する。接続部53を2つの鉄筋突出部42それぞれの上側に配置する。連結部材5を、2つの鉄筋突出部42に引っ掛けた状態にする。
第1水平方向に隣り合うプレキャスト床版1,1それぞれの床版コンクリート部3の間に充填材6を充填する(充填材充填工程)。上述しているように、充填材6は、例えば、現場打コンクリート、現場にて充填されるモルタルやグラウト材などである。充填材6で連結部材5および2つの鉄筋突出部42を埋設する。充填材6を充填したら、所定期間養生し、硬化させる。
【0027】
次に、本実施形態によるプレキャスト床版の接合構造およびプレキャスト床版の接合方法の作用・効果について説明する。
本実施形態によるプレキャスト床版の接合構造およびプレキャスト床版の接合方法では、プレキャスト床版1,1の鉄筋突出部42を連結部材5で連結することにより、プレキャスト床版1,1が接合された後も、鉄筋突出部42同士が接合されていることにより、充填材6と床版コンクリート部3との密着性が向上し、肌分かれを防止できる。その結果、プレキャスト床版1,1間で微振動を伝達できる。
プレキャスト床版1,1の鉄筋4同士を連結部材5で連結するため、鉄筋同士を溶接する場合の火災対策が不要となるとともに、火災のリスクを低減できる。また、鉄筋同士を溶接接合や機械式継手で接合する場合と比べて、特殊な技量を必要としないため、人手不足を解消できるとともに、工費削減を図ることができる。また、プレキャスト床版1,1から突出する鉄筋突出部42は、円弧状に湾曲しているため、直線状に突出している場合と比べて運搬や施工の際の安全性を高めることができる。
【0028】
また、本実施形態では、連結部材5は、U字形に形成され、間隔をあけて平行に配置され直線状に延びる一対の直線部51,52と、一対の直線部51,52それぞれの一方の端部同士を接続する接続部53と、を有する構成である。
これにより、互いに接合されるプレキャスト床版1,1の鉄筋突出部42,42同士を連結部材5で容易に連結できる。互いに接合されるプレキャスト床版1,1それぞれの連結部材5が鉄筋突出部42と接触するため、接合されるプレキャスト床版1,1の位置ずれを防止できる。
【0029】
以上、本発明によるプレキャスト床版の接合構造およびプレキャスト床版の接合方法の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上記の実施形態では、鉄筋突出部42は、円弧状に形成されている。鉄筋突出部42は、長さ方向の中間部422が床版コンクリート部3と離れる側に張り出すように湾曲していれば、円弧状でなくてもよい。
【0030】
上記の実施形態では、第1水平方向に隣接するプレキャスト床版1,1は、それぞれの鉄筋突出部42が第1水平方向に間隔をあけた状態に配置されているが、
図3に示すように、それぞれの鉄筋突出部42が第2水平方向にずれた位置に配置されてもよい。また、
図4および
図5に示すように、鉄筋突出部42どうしが上下に重なって配置されてもよい。
【0031】
上記の実施形態では、鉄筋突出部42は、長さ方向の両端部421,421が床版コンクリート部3に接続されているが、例えば、
図6に示す180°フックの形状の鉄筋突出部42や、
図7に示す135°フックの形状の鉄筋突出部42のように、長さ方向の一方の端部421aが床版コンクリート部3に接続され、他方の端部421bが床版コンクリート部3と離れていてもよい。このような場合は、互いに接合されるプレキャスト床版1,1のうちの一方のプレキャスト床版1の鉄筋突出部42と、他方のプレキャスト床版1の鉄筋突出部42と、に連結部材5を架け渡すようにして、鉄筋突出部42どうしを連結する。
このような場合も、長さ方向の両端部421,421は、湾曲している長さ方向の中間部422よりも床版コンクリート部3に位置している。これにより、鉄筋突出部42の床版コンクリート部3と離れている端部421が人や物に接触することが防止され、運搬や施工の際の安全性を高めることができる。
上記の実施形態では、充填材6は、鉄骨梁21の上に充填されているが、鋼板などの上に充填されていてもよい。
【0032】
上記の実施形態では、連結部材5は、U字形に形成されているが、接合されるプレキャスト床版1,1それぞれの鉄筋突出部42の連結用孔部43に掛け渡される形状であれば、上記以外の形状であってもよい。連結部材5は、鉄筋突出部42の連結用孔部43に上方から挿入されているが、下方や側方から挿入されてもよい。
上記の実施形態では、連結部材5は、鉄筋で形成されているが、鉄筋以外の鋼材で形成されていてもよい。
【符号の説明】
【0033】
1 プレキャスト床版
3 床版コンクリート部
5 連結部材
6 充填材
31 接合端面
42 鉄筋突出部
43 連結用孔部
51,52 直線部
53 接続部