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2024-162164シリコーンゴム硬化物から窒化ホウ素粉体を回収する方法、及び窒化ホウ素
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162164
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】シリコーンゴム硬化物から窒化ホウ素粉体を回収する方法、及び窒化ホウ素
(51)【国際特許分類】
   C08J 11/08 20060101AFI20241114BHJP
   C11D 7/34 20060101ALI20241114BHJP
   C11D 3/34 20060101ALI20241114BHJP
   C11D 1/22 20060101ALI20241114BHJP
   C11D 3/43 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
C08J11/08 ZAB
C11D7/34
C11D3/34
C11D1/22
C11D3/43
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023077457
(22)【出願日】2023-05-09
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】小倉 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】加藤 野歩
(72)【発明者】
【氏名】今泉 圭司
【テーマコード(参考)】
4F401
4H003
【Fターム(参考)】
4F401AA05
4F401BA06
4F401CA02
4F401CA25
4F401CA51
4F401EA46
4F401EA54
4F401EA69
4F401FA01Z
4F401FA02Z
4F401FA06Z
4F401FA07Z
4F401FA20Z
4H003AB19
4H003DA12
4H003DB01
4H003DC02
4H003EB02
4H003EB22
4H003ED03
4H003FA04
(57)【要約】
【課題】窒化ホウ素粉体を含むシリコーンゴム硬化物から窒化ホウ素粉体を回収する方法、及び窒化ホウ素を提供する。
【解決手段】オルガノポリシロキサンおよび窒化ホウ素粉体を含むシリコーンゴム硬化物から、前記窒化ホウ素粉体を回収する方法であって、(A)有機スルホン酸:0.1~50質量%、(B)水:0.01~6質量%、及び(C)気圧が1013hPa下での沸点が60℃以上200℃以下である有機溶剤:44~99.89質量%、を含むシリコーンゴム溶解液に、前記シリコーンゴム硬化物を20℃以上、前記(C)成分の沸点以下の範囲で浸漬する工程を含むことを特徴とするシリコーンゴム硬化物から窒化ホウ素粉体を回収する方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オルガノポリシロキサンおよび窒化ホウ素粉体を含むシリコーンゴム硬化物から、前記窒化ホウ素粉体を回収する方法であって、
(A)有機スルホン酸:0.1~50質量%、
(B)水:0.01~6質量%、及び
(C)気圧が1013hPa下での沸点が60℃以上200℃以下である有機溶剤:44~99.89質量%、
を含むシリコーンゴム溶解液に、前記シリコーンゴム硬化物を20℃以上、前記(C)成分の沸点以下の範囲で浸漬する工程を含むことを特徴とするシリコーンゴム硬化物から窒化ホウ素粉体を回収する方法。
【請求項2】
前記浸漬工程において、浸漬時間を1時間~24時間とすることを特徴とする請求項1に記載のシリコーンゴム硬化物から窒化ホウ素粉体を回収する方法。
【請求項3】
前記(A)成分の有機スルホン酸として、ドデシルベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、及びベンゼンスルホン酸から選ばれる1種以上を用いることを特徴とする請求項1に記載のシリコーンゴム硬化物から窒化ホウ素粉体を回収する方法。
【請求項4】
前記(C)成分の有機溶剤として、比誘電率が8.0以下のものを用いることを特徴とする請求項1に記載のシリコーンゴム硬化物から窒化ホウ素粉体を回収する方法。
【請求項5】
前記浸漬工程の後に濾過工程を含むことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のシリコーンゴム硬化物から窒化ホウ素粉体を回収する方法。
【請求項6】
前記濾過工程の後に有機溶剤による洗浄工程を含むことを特徴とする請求項5に記載のシリコーンゴム硬化物から窒化ホウ素粉体を回収する方法。
【請求項7】
前記洗浄工程の後に乾燥工程を含むことを特徴とする請求項6に記載のシリコーンゴム硬化物から窒化ホウ素粉体を回収する方法。
【請求項8】
窒化ホウ素であって、前記窒化ホウ素がシリコーンゴム硬化物からの回収物であり、TG測定における50~500℃までの重量減少率が4%以下であり、粉末X線回折法における黒鉛化指数(G1値)が5未満であり、かつ残存酸化ホウ素量が0.2%以下であることを特徴とする窒化ホウ素。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコーンゴム硬化物から窒化ホウ素粉体を回収する方法、及び窒化ホウ素に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、集積回路をはじめ、電気機器、電子機器、発光機器等の発熱部材から放熱部材へ熱を伝達させる熱伝導層は、高い熱伝導性を有し、かつ絶縁性であることが要求されており、このような要求を満たすものとして、フィラーを樹脂又はゴム中に分散させた放熱材料が広く用いられている。放熱材料の熱伝導性を高めるためには、窒化アルミニウムや窒化ホウ素などの熱伝導率の高い熱伝導性充填剤を使用することや、熱伝導性充填剤を高充填化する方法がある。
【0003】
しかしながら、熱伝導率の高い充填剤、特に窒化ホウ素はコストが高く、また供給がタイトという問題がある。
【0004】
さらに、近年、環境問題から各分野にてリサイクルの重要性が高まり、電気電子機器に使用される部品のリサイクル性も重要な課題となってきている。シリコーンゴム等からなる熱伝導性硬化物は、架橋ゴム硬化物であり、リサイクル回収しても再度溶融成形加工して使用することはできず、リサイクル性に大きな課題があった。その中で、熱伝導性充填剤を回収するためにシリコーンゴムを溶解させる方法が検討されてきた。
【0005】
シリコーンゴムを溶解させる方法としては、塩化ホスホニトリルと重合度10~50の直鎖状ポリシロキサンを含むシリコーン溶解液が開示されている(特許文献1)。この方法では他のプラスチック部材を膨潤させずに、シリコーンゴムを選択的に溶解可能であるが、毒性が極めて高い塩化ホスホニトリルを使用する必要があり、周囲への健康被害・環境負荷が懸念される。
【0006】
また、シリコーンゴムを溶解させる他の方法としては、テトラアルキルアンモニウムフロリドと水素イオンと結合可能な無機塩基を有機溶剤に溶解させたシリコーンゴム用可溶化剤が開示されている(特許文献2)。この方法では金属片を腐食させずに、シリコーンゴムを溶解させることが可能であるが、水素イオンと結合可能な無機塩基を有機溶剤に溶解させる必要があり、使用できる有機溶剤が制限される。また、この文献ではシリコーン樹脂の溶解速度と金属片への腐食性しか具体的に明示されておらず、他の基材への影響に関しては不明瞭である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2014-524941号公報
【特許文献2】特表2015-505886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、窒化ホウ素粉体を含むシリコーンゴム硬化物から窒化ホウ素粉体を回収する方法、及び窒化ホウ素の回収物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明では、オルガノポリシロキサンおよび窒化ホウ素粉体を含むシリコーンゴム硬化物から、前記窒化ホウ素粉体を回収する方法であって、
(A)有機スルホン酸:0.1~50質量%、
(B)水:0.01~6質量%、及び
(C)気圧が1013hPa下での沸点が60℃以上200℃以下である有機溶剤:44~99.89質量%、
を含むシリコーンゴム溶解液に、前記シリコーンゴム硬化物を20℃以上、前記(C)成分の沸点以下の範囲で浸漬する工程を含むシリコーンゴム硬化物から窒化ホウ素粉体を回収する方法を提供する。
【0010】
このようなシリコーンゴム硬化物から窒化ホウ素粉体を回収する方法であれば、シリコーンゴム硬化物から窒化ホウ素を効率よく回収することができ、回収した窒化ホウ素を再利用することができる。
【0011】
また、本発明では、前記浸漬工程において、浸漬時間を1時間~24時間とすることが好ましい。
【0012】
このような浸漬時間であれば、シリコーンゴム硬化物から窒化ホウ素をより効率よく回収することができ、回収した窒化ホウ素を再利用することができる。
【0013】
また、本発明では、前記(A)成分の有機スルホン酸として、ドデシルベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、及びベンゼンスルホン酸から選ばれる1種以上を用いることが好ましい。
【0014】
(A)成分としては、このようなものを好適に用いることができる。
【0015】
また、本発明では、前記(C)成分の有機溶剤として、比誘電率が8.0以下のものを用いることが好ましい。
【0016】
このような(C)成分であれば、シリコーンゴムが十分に膨潤し、(A)成分との相溶性が良く、(A)成分と(C)成分が分離しないため好ましい。
【0017】
また、本発明では、前記浸漬工程の後に濾過工程を含むことが好ましい。
【0018】
濾過工程を含むことにより、前記浸漬工程を経て得られるシリコーンゴムの溶解液と窒化ホウ素を含む充填剤の混合液から、前記充填剤を濾別することができる。
【0019】
この時、前記濾過工程の後に有機溶剤による洗浄工程を含むことが好ましい。
【0020】
洗浄工程を含むことにより、前記濾過工程で回収した窒化ホウ素を含む充填剤を有機溶剤で洗浄できる。
【0021】
この時、前記洗浄工程の後に乾燥工程を含むことが好ましい。
【0022】
乾燥工程を含むことにより、前記洗浄工程で回収した窒化ホウ素から前記洗浄工程で用いた有機溶剤等を除くことができる。
【0023】
また、本発明では、窒化ホウ素であって、前記窒化ホウ素がシリコーンゴム硬化物からの回収物であり、TG測定における50~500℃までの重量減少率が4%以下であり、粉末X線回折法における黒鉛化指数(G1値)が5未満であり、かつ残存酸化ホウ素量が0.2%以下である窒化ホウ素を提供する。
【0024】
このような窒化ホウ素の回収物であれば、再利用が可能である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、有機スルホン酸、水および有機溶剤を含むシリコーンゴム溶解液中にシリコーンゴム硬化物を浸漬させることで、窒化ホウ素とシリコーンゴムを分離し、窒化ホウ素粉体を回収、精製可能となる。これにより環境問題やコストの問題に資することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
上述のように、窒化ホウ素粉体を含むシリコーンゴム硬化物から窒化ホウ素粉体を回収する方法、及び回収された窒化ホウ素の開発が求められていた。
【0027】
本発明者らは、上記目的を達成するために、種々検討した結果、有機スルホン酸と水を用いることで、有機溶剤中でシリコーンゴムを高効率で分解可能であり、この分解物の濾過、洗浄、乾燥を行えば、窒化ホウ素粉体を回収、精製できることを見出し、本発明に到達した。
【0028】
即ち、本発明は、オルガノポリシロキサンおよび窒化ホウ素粉体を含むシリコーンゴム硬化物から、前記窒化ホウ素粉体を回収する方法であって、
(A)有機スルホン酸:0.1~50質量%、
(B)水:0.01~6質量%、及び
(C)気圧が1013hPa下での沸点が60℃以上200℃以下である有機溶剤:44~99.89質量%、
を含むシリコーンゴム溶解液に、前記シリコーンゴム硬化物を20℃以上、前記(C)成分の沸点以下の範囲で浸漬する工程を含むシリコーンゴム硬化物から窒化ホウ素粉体を回収する方法である。
【0029】
また、本発明は、窒化ホウ素であって、前記窒化ホウ素がシリコーンゴム硬化物からの回収物であり、TG測定における50~500℃までの重量減少率が4%以下であり、粉末X線回折法における黒鉛化指数(G1値)が5未満であり、かつ残存酸化ホウ素量が0.2%以下である窒化ホウ素である。
【0030】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0031】
[窒化ホウ素]
本発明は、窒化ホウ素であって、前記窒化ホウ素がシリコーンゴム硬化物からの回収物であり、TG測定における50~500℃までの重量減少率が4%以下であり、粉末X線回折法における黒鉛化指数(G1値)が5未満であり、かつ残存酸化ホウ素量が0.2%以下である窒化ホウ素である。
【0032】
このような窒化ホウ素(窒化ホウ素回収物)は、下記に示す本発明のシリコーンゴム硬化物から窒化ホウ素粉体を回収する方法によって得ることができる。また、このような窒化ホウ素であれば、シリコーンゴム硬化物の充填剤として再利用できる。
【0033】
<シリコーンゴム硬化物>
本発明に用いられるシリコーンゴム硬化物は、オルガノポリシロキサンおよび窒化ホウ素粉体を含むシリコーンゴム硬化物、即ちシロキサン結合および窒化ホウ素粉体を含む全てのシリコーンゴム硬化物に適応可能である。例えばビニル基とヒドロシリル基を白金触媒等で付加反応させることで硬化する付加硬化型シリコーンゴムや、有機過酸化物の分解により発生するラジカルで硬化するラジカル硬化型シリコーンゴム、脱水、脱アルコール、脱アセトン、脱オキシム等の縮合により硬化する縮合硬化型シリコーンゴム、アクリル基を有するシリコーンポリマーと光開始剤の混合物に紫外線照射することにより硬化する紫外線硬化型シリコーンゴムなどが挙げられる。
【0034】
<充填剤>
本発明に用いられるシリコーンゴム硬化物は、充填剤として窒化ホウ素を含んでいる。その他に、疎水性シリカ、親水性シリカ、酸化鉄、群青、シリコーンレジン、カーボンブラック、ガラスビーズ、樹脂バルーン、珪藻土、金属酸化物粉、金属粉、金属水酸化物粉を含んでいてもよい。また、添加剤として、反応制御剤、酸化防止剤、接着助剤、接着促進剤、可塑剤、難燃化剤等を含んでいてもよい。
【0035】
[シリコーンゴム硬化物から窒化ホウ素粉体を回収する方法]
本発明は、オルガノポリシロキサンおよび窒化ホウ素粉体を含むシリコーンゴム硬化物から、前記窒化ホウ素粉体を回収する方法であって、
(A)有機スルホン酸:0.1~50質量%、
(B)水:0.01~6質量%、及び
(C)気圧が1013hPa下での沸点が60℃以上200℃以下である有機溶剤:44~99.89質量%、
を含むシリコーンゴム溶解液に、前記シリコーンゴム硬化物を20℃以上、前記(C)成分の沸点以下の範囲で浸漬する工程を含むシリコーンゴム硬化物から窒化ホウ素粉体を回収する方法である。
【0036】
<シリコーンゴム溶解液>
本発明のシリコーンゴム硬化物から窒化ホウ素粉体を回収する方法において用いられるシリコーンゴム溶解液の各成分について詳しく説明する。
【0037】
[(A)成分]
(A)成分は有機スルホン酸であり、シロキサン結合(-O-Si-O-)の分解触媒として作用する。
【0038】
前記(A)成分の有機スルホン酸としては、炭素数が12以上の長鎖アルキル基含有芳香族炭化水素基を有するスルホン酸が好ましく、ドデシルベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、及びベンゼンスルホン酸から選ばれる1種以上を用いることがより好ましく、特にドデシルベンゼンスルホン酸が好ましい。
【0039】
(A)成分の有機スルホン酸の配合量は(B)成分である水と(C)成分である有機溶剤との合計量に対して0.1質量%~50質量%、好ましくは1質量%~40質量%、より好ましくは2質量%~30質量%である。配合量が0.1質量%よりも低いとシリコーンゴムが十分に分解しないことがあり、50質量%よりも多くなるとシリコーンゴム溶解液の粘度が高くなり、作業性が悪化したり、廃酸の後処理が煩雑になったりすることがある。
【0040】
(A)成分は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0041】
[(B)成分]
(B)成分は水であり、シリコーンゴムの分解効率向上に寄与する。
【0042】
(B)成分の配合量は(A)成分である有機スルホン酸と(C)成分である有機溶剤との合計量に対して0.01質量%~6質量%、好ましくは0.1質量%~2質量%である。配合量が0.01質量%よりも低いとシリコーンゴムの分解効率は向上せず、6質量%よりも多くなると有機溶剤と均一に混合されなくなることがある。
【0043】
[(C)成分]
(C)成分は有機溶剤であり、シリコーンゴムの膨潤剤及び前記(A)成分の溶媒として作用する。
【0044】
(C)成分の有機溶剤の沸点は、気圧が1013hPa下において、60℃以上200℃以下である。好ましくは70℃~180℃、より好ましくは80℃~160℃である。沸点が60℃未満では有機溶剤の揮発性が高く、環境負荷の増大や、作業環境が悪化することがあり、沸点が200℃を超えると、浸漬工程終了後のシリコーンゴム溶解液から蒸留等により有機溶剤を回収・リサイクルすることが困難になることがある。
【0045】
(C)成分の有機溶剤として、比誘電率が8.0以下のものを用いることが好ましい。比誘電率が8.0以下であれば、シリコーンゴムが十分に膨潤し、(A)成分との相溶性が良いため、(A)成分と(C)成分が分離しない。
【0046】
(C)成分の有機溶剤の例としては、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン(2,2,4-トリメチルペンタン)、ノナン、デカン、ウンデカン、イソドデカン(2,2,4,6,6-ペンタメチルヘプタン)等の直鎖状又は分岐状飽和脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、ジメチルベンゼン、トリメチルベンゼン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン等の芳香族炭化水素が挙げられる。その中でも特に、オクタン、デカン、トルエン、キシレンが好ましい有機溶剤として挙げられる。
【0047】
(C)成分の配合量は(A)成分である有機スルホン酸と(B)成分である水との合計量に対して44質量%~99.89質量%、好ましくは80質量%~99.89質量%である。配合量が44質量%よりも低くなるとシリコーンゴムの膨潤が不十分となるため好ましくなく、99.89質量%よりも多くなると(A)成分や(B)成分の量が少なすぎてシリコーンゴムの分解効率が低下するため好ましくない。
【0048】
なお、前記(C)成分は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0049】
以下、本発明のシリコーンゴム硬化物から窒化ホウ素粉体を回収する方法の各工程について詳しく説明する。
【0050】
<浸漬工程>
本発明のシリコーンゴム硬化物から窒化ホウ素粉体を回収する方法は、調製したシリコーンゴム溶解液に、シリコーンゴム硬化物を浸漬させる浸漬工程を必須とする。このとき、シリコーンゴム溶解液にシリコーンゴム硬化物を浸漬させるだけでも十分に溶解は進行するが、攪拌翼を用いたダイナミックミキサーや、マグネティックスターラーを利用した攪拌子による攪拌、振とう機による振とう処理、超音波処理などは溶解速度向上に有効であり、特にダイナミックミキサーやマグネティックスターラーによる攪拌が好ましい。また、大量のシリコーンゴム硬化物を溶解処理する場合は、通常の化学反応で用いる攪拌翼のついた反応器を流用してもよく、単に処理浴に浸漬するだけでも良い。また、シリコーンゴム硬化物は、攪拌しやすい大きさに切断したものであることが好ましい。
【0051】
前記シリコーンゴム溶解液と前記シリコーンゴム硬化物の重量割合に特に制限はないが、シリコーンゴム硬化物が完全に浸漬する量のシリコーンゴム溶解液を使用することが好ましい。
【0052】
浸漬温度は20℃以上から使用する有機溶剤の沸点以下の範囲の温度であれば、特に制限はないが、好ましくは20℃~100℃、より好ましくは30℃~90℃、さらに好ましくは40℃~80℃である。温度が20℃よりも低いとシリコーン樹脂の溶解速度が極端に遅くなることがあり、使用する有機溶剤の沸点を超えると、シロキサンモノマーの重合が進行することがある。
【0053】
浸漬時間は特に限定されないが、シリコーンゴム硬化物とシリコーンゴム溶解液の重量比、攪拌条件、温度条件により異なり、適切な時間を選択することが好ましい。通常は、1時間~24時間が好ましく、より好ましくは2時間~12時間、さらに好ましくは4時間~8時間である。
【0054】
<濾過工程>
本発明のシリコーンゴム硬化物から窒化ホウ素粉体を回収する方法は、前記浸漬工程の後に濾過工程を含むことが好ましい。濾過工程は、前記浸漬工程を経て得られるシリコーンゴムの溶解液と窒化ホウ素を含む充填剤の混合液から、前記充填剤を濾別する工程である。具体的には、セルロース、ガラス繊維、金網、メンブランフィルターなどの濾材に混合液を通して、前記溶解液と窒化ホウ素を含む充填剤を濾別する。濾過方法としては、自然濾過、減圧濾過、加圧濾過などが挙げられる。中でも、濾過時間や可燃性有機溶剤の取り扱いなどを勘案すると、窒素などの不活性ガスによる加圧濾過が好ましい。
【0055】
<洗浄工程>
本発明のシリコーンゴム硬化物から窒化ホウ素粉体を回収する方法は、前記濾過工程の後に洗浄工程を含むことが好ましい。この洗浄工程は、前記濾過工程で回収した窒化ホウ素を含む充填剤を有機溶剤で洗浄する工程である。具体的には、前記窒化ホウ素を含む充填剤100質量部に対して、有機溶剤を50~200質量部用いて洗浄する。洗浄用の有機溶剤は、前記(C)成分で例示した有機溶剤であれば特に限定されないが、前記(C)成分で使用したものと同じ有機溶剤を用いて洗浄を行うのが好ましい。こうすることで、有機溶剤をリサイクルするのが容易となる。洗浄方法としては、前記濾過工程の後、濾材上に残った充填剤に有機溶剤を掛けてもよいし、濾過後の充填剤を取り出し、有機溶剤と混合し、再び濾過して洗浄してもよい。この洗浄工程は、1回でも良いし、2回以上繰り返してもよい。
【0056】
<乾燥工程>
本発明のシリコーンゴム硬化物から窒化ホウ素粉体を回収する方法は、前記洗浄工程の後に乾燥工程を含むことが好ましい。この乾燥工程は、前記洗浄工程で回収した窒化ホウ素から前記洗浄工程で用いた有機溶剤等を除く工程である。具体的には、乾燥温度20~100℃、乾燥時間4~24時間で乾燥する。乾燥は常圧下でも減圧下でも良いが、真空乾燥機等を用いた減圧乾燥が好ましい。
【0057】
<回収された窒化ホウ素粉体の評価>
本発明により回収された窒化ホウ素粉体の評価方法は、TG測定、粉末X線回折法、残存酸化ホウ素量により行う。
【0058】
[TG測定]
再利用可能な窒化ホウ素粉体は、TG測定における50~500℃の重量減少率が4%以下であり、好ましくは2%以下であり、より好ましくは1%以下である。4%を超えるとポリマー成分が多く再利用時に物性が低下してしまう。TG測定は例えば、NETZSCH社製高感度差動型示差熱天秤STA2500Regulusを用いて、50~500℃の範囲を、5℃/minの昇温速度で行うことができる。
【0059】
[粉末X線回折法]
また再利用可能な窒化ホウ素粉体は、粉末X線回折法であるXRD分析において観測される3本の回折ピーク、(100)、(101)、(102)のピーク面積から下記(1)式により算出される黒鉛化指数(G1値)が5未満であり、好ましくは3以下であり、さらに好ましくは2以下である。G1値が5を超えると窒化ホウ素の結晶性が低く、再利用時に良好な物性が得られない。
G1=ピーク面積〔(100)+(101)〕/ピーク面積(102)・・・(1)
【0060】
XRD分析は例えば、BRUKER JAPAN社製 卓上型粉末X線回折装置、D2 PHASER 2nd Generationを用いて、20-90°のスキャン範囲、0.03secのステップ時間、10rpmの試料回転で行うことができる。
【0061】
[残存酸化ホウ素量]
また残存酸化ホウ素量はICP測定でホウ素濃度を測定し、測定されたホウ素濃度から残存酸化ホウ素量を算出する。再利用可能な窒化ホウ素粉体の残存酸化ホウ素量は0.2%以下である。残存酸化ホウ素量が0.2%を超えると再利用時に発泡が生じてしまう。残存酸化ホウ素量は例えば、日立ハイテクサイエンス社製 SPS3520UV-DDを用いて測定することができる。
【実施例0062】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0063】
<実施例・比較例>
(CHSiO2/2単位99.85mol%、(CH(CH=CH)SiO1/2単位0.025mol%及び(CH=CH)SiO2/2単位0.125mol%からなる両末端ビニル基含有ジメチルポリシロキサン100質量部、及びトルエン340質量部をミキサーに入れて攪拌混合した。得られた混合物に窒化ホウ素粉末190質量部を入れて攪拌混合した。次に過酸化物架橋剤(日本油脂(株)製、パーヘキサ25B)3質量部、及びトルエン70質量部を入れて攪拌混合し組成物を得た。得られた組成物を厚さ0.05mmのガラスクロスの両面に、バーコーターを用いて組成物を厚さ0.3mmにコーティングし、80℃で10分乾燥を行った後、圧力100kg/cm、170℃で10分間のプレスキュアを行い、硬化物を得た。得られた硬化物100gを1Lセパラブルフラスコに量り取った。その後表1に示す成分と配合割合で各溶解剤を加え、マグネティックスターラーを用いて80℃、4時間攪拌を行った。その後、150メッシュの金網を用いて濾過しガラスクロスを除去し、続いて保持粒子径4μmの濾紙を用いて濾過し窒化ホウ素を回収した。得られた窒化ホウ素100質量部に対して、トルエン100質量部を用いて洗浄を行った後、最後に真空乾燥機で50℃、12時間乾燥を行い、窒化ホウ素粉体を得た。得られた粉体について、TG測定、XRD測定、及び組成分析を行った。
【0064】
<TGの測定方法>
以下の装置と条件で窒化ホウ素粉体の重量変化率を測定した。
装置:NETZSCH社製高感度差動型示差熱天秤STA2500Regulus
測定範囲:50~500℃
昇温速度:5℃/min
【0065】
<XRDの測定方法>
以下の装置と条件で窒化ホウ素粉体のXRDを測定した。
装置:BRUKER JAPAN社製 卓上型粉末X線回折装置
D2 PHASER 2nd Generation
スキャン範囲:20-90°
ステップ時間:0.03sec
試料回転:10rpm
XRDで測定を行い、「窒化ホウ素の形状確認」の項目についてはG1値が5以上の場合を「×」、5未満の場合を「○」と評価した結果を表1に示す。
【0066】
<組成分析方法>
以下の装置と条件で窒化ホウ素粉体の組成分析を行った。
装置:日立ハイテクサイエンス社製 SPS3520UV-DD
組成分析を行い、「B残存量」の項目については0.2%より多い場合を「×」、0.2%以下の場合を「○」と評価した結果を表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
(A)~(C)成分を特定の割合で含むシリコーンゴム溶解液を用いた、本発明のシリコーンゴム硬化物から窒化ホウ素粉体を回収する方法である、実施例1~4では窒化ホウ素に影響を与えることなくシリコーン成分を効率的に分解、除去できている。回収した窒化ホウ素粉体は同製品への再利用が可能である。一方で、(B)成分を含まない溶解液を用いた比較例1では窒化ホウ素粉体に影響はないものの、シリコーン成分が残存してしまい、再利用の際に同等の物性が出ない結果となった。
【0069】
本明細書は、以下の態様を包含する。
[1]:オルガノポリシロキサンおよび窒化ホウ素粉体を含むシリコーンゴム硬化物から、前記窒化ホウ素粉体を回収する方法であって、
(A)有機スルホン酸:0.1~50質量%、
(B)水:0.01~6質量%、及び
(C)気圧が1013hPa下での沸点が60℃以上200℃以下である有機溶剤:44~99.89質量%、
を含むシリコーンゴム溶解液に、前記シリコーンゴム硬化物を20℃以上、前記(C)成分の沸点以下の範囲で浸漬する工程を含むことを特徴とするシリコーンゴム硬化物から窒化ホウ素粉体を回収する方法。
[2]:前記浸漬工程において、浸漬時間を1時間~24時間とすることを特徴とする上記[1]のシリコーンゴム硬化物から窒化ホウ素粉体を回収する方法。
[3]:前記(A)成分の有機スルホン酸として、ドデシルベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、及びベンゼンスルホン酸から選ばれる1種以上を用いることを特徴とする上記[1]又は上記[2]のシリコーンゴム硬化物から窒化ホウ素粉体を回収する方法。
[4]:前記(C)成分の有機溶剤として、比誘電率が8.0以下のものを用いることを特徴とする上記[1]から上記[3]のいずれか1つのシリコーンゴム硬化物から窒化ホウ素粉体を回収する方法。
[5]:前記浸漬工程の後に濾過工程を含むことを特徴とする上記[1]から上記[4]のいずれか1つのシリコーンゴム硬化物から窒化ホウ素粉体を回収する方法。
[6]:前記濾過工程の後に有機溶剤による洗浄工程を含むことを特徴とする上記[5]のシリコーンゴム硬化物から窒化ホウ素粉体を回収する方法。
[7]:前記洗浄工程の後に乾燥工程を含むことを特徴とする上記[6]のシリコーンゴム硬化物から窒化ホウ素粉体を回収する方法。
[8]:窒化ホウ素であって、前記窒化ホウ素がシリコーンゴム硬化物からの回収物であり、TG測定における50~500℃までの重量減少率が4%以下であり、粉末X線回折法における黒鉛化指数(G1値)が5未満であり、かつ残存酸化ホウ素量が0.2%以下であることを特徴とする窒化ホウ素。
【0070】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。