(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162184
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】溶解炉
(51)【国際特許分類】
F27D 21/00 20060101AFI20241114BHJP
F27B 3/28 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
F27D21/00 A
F27D21/00 Z
F27B3/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023077490
(22)【出願日】2023-05-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100112900
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 路子
(74)【代理人】
【識別番号】100198247
【弁理士】
【氏名又は名称】並河 伊佐夫
(72)【発明者】
【氏名】岡田 康史
【テーマコード(参考)】
4K045
4K056
【Fターム(参考)】
4K045AA04
4K045BA01
4K045DA04
4K056AA05
4K056BA03
4K056BA06
4K056BB08
4K056CA02
4K056FA13
(57)【要約】
【課題】炉体もしくはその近傍にセンサを取り付けたことにともなうメンテナンス時の作業性の悪化を回避しつつ、センサを用いて安定的なデータ収集を行なうことができる溶解炉を提供する。
【解決手段】溶解炉1は、金属材料を収容し溶融させる炉体2と、炉体2もしくはその近傍に取り付けられた1以上のセンサ25と、センサ25と配線26で接続され、センサ25にて計測されたデータを無線送信する無線子機ユニット27と、を備えており、無線子機ユニット27は保護部材70の内部に収容されている。保護部材70は、無線子機ユニット27を収容するユニット収容箱71と、ユニット収容箱71を空間を挟んで外側から覆う壁体85とを含んで構成され、炉体2と対向する背部および/または天井部が二重壁構造とされている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料を収容し溶融させる炉体と、
前記炉体もしくはその近傍に取り付けられた1以上のセンサと、
前記センサと配線で接続され、前記センサで計測されたデータを無線送信する無線子機ユニットと、を備えた溶解炉であって、
前記無線子機ユニットは保護部材の内部に収容されており、
前記保護部材は、前記無線子機ユニットを収容するユニット収容箱と、前記ユニット収容箱を空間を挟んで外側から覆う壁体とを含んで構成され、前記炉体と対向する背部および/または天井部が二重壁構造とされている、溶解炉。
【請求項2】
配線で互いに接続された前記センサと前記無線子機ユニットのセットが、前記炉体の出鋼口と出滓口とを結ぶ仮想線により分割された一方の炉体半部と他方の炉体半部にそれぞれ配置されている、請求項1に記載の溶解炉。
【請求項3】
前記壁体の前部および/または下部に内外を連通する開口部が設けられている、請求項1に記載の溶解炉。
【請求項4】
前記壁体の天井面は、前記炉体から離れるほど低くなるように傾斜が設けられている、請求項1に記載の溶解炉。
【請求項5】
前記ユニット収容箱の内部にエアを導入するエア導入手段を更に備えている、請求項1に記載の溶解炉。
【請求項6】
前記保護部材の前記空間にエアを導入するエア導入手段を更に備えている、請求項1に記載の溶解炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は溶解炉に関し、特に炉体近傍に設けられたセンサを利用して操業状態についての情報収集を行なうことが可能な溶解炉に関する。
【背景技術】
【0002】
溶解炉の一種である電気炉では、電極と金属スクラップの間にアークを発生させ、アーク熱によって金属スクラップ等の金属材料を溶解する。このような電気炉においては、効率的な操業を行なうため、炉体もしくはその近傍にセンサを設けて操業状態についての情報収集を行なうことが行われている(例えば下記特許文献1参照)。
【0003】
図5は、従来の電気炉において、炉体に取り付けたセンサからの信号を制御部に送信するための配線を示した図である。
同図において、100は炉体、101は炉体の内面に取り付けられた水冷パネル、102は各水冷パネルを流通した水の温度を計測するセンサである。ここで、各センサ102からの信号を、中継盤104,105を介して電気炉の動作を管理する制御部110に送るためには、各センサ102と中継盤104とを繋ぐ配線103を炉体100に沿って敷設しなければならないが、炉体周りに敷設された配線103は、高温に曝され損傷する虞があり、その耐熱性についての配慮が必要となる。
【0004】
しかしながら配線103の耐熱化(特別な保護)は作業が複雑である上に、1つのセンサに接続される信号用配線は複数本存在するため、炉体100に複数のセンサを取り付けた場合には多くの配線の耐熱化を行わなければならず、大きな作業負荷を要する。また、炉体100の出鋼口112および出滓口113の近傍は特に高温であるため、これらの部位を通過させる場合は複雑なルートで配線の敷設を行わなければならない。
このため、炉体交換などのメンテナンスを行なう際には、センサからの信号用配線の解体や復旧に多大な時間を要することになってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は以上のような事情を背景とし、炉体もしくはその近傍にセンサを取り付けたことにともなうメンテナンス時の作業性の悪化を回避しつつ、センサを用いて安定的なデータ収集を行なうことができる溶解炉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
而してこの発明の第1の局面の溶解炉は次のように規定される。即ち、
金属材料を収容し溶融させる炉体と、
前記炉体もしくはその近傍に取り付けられた1以上のセンサと、
前記センサと配線で接続され、前記センサで計測されたデータを無線送信する無線子機ユニットと、を備えた溶解炉であって、
前記無線子機ユニットは保護部材の内部に収容されており、
前記保護部材は、前記無線子機ユニットを収容するユニット収容箱と、前記ユニット収容箱を空間を挟んで外側から覆う壁体とを含んで構成され、前記炉体と対向する背部および/または天井部が二重壁構造とされている。
【0008】
このように規定された第1の局面の溶解炉によれば、炉体もしくはその近傍に取り付けられたセンサで計測されたデータが無線送信により相手側(無線親機)に送られるため、センサから延びる信号用配線の敷設は最寄りの無線子機ユニットまでに留めることができ、耐熱性が要求される配線を大幅に少なく(短く)することができる。このためメンテナンス時の耐熱配線の解体および復旧に要する作業時間を大幅に短縮することができる。
また無線子機ユニットについては、炉体と対向する背部および/または天井部が二重壁構造とされている保護部材の内部に収容されるため、上方から落ちてくる金属スクラップや火の粉等の落下物、および、炉体からの輻射熱に対する保護が図られ、センサを用いたデータ収集を安定的に行なうことができる。
【0009】
ここで、配線で互いに接続された前記センサと前記無線子機ユニットのセットを、前記炉体の出鋼口と出滓口とを結ぶ仮想線により分割された一方の炉体半部と他方の炉体半部にそれぞれ配置されておくことができる。
このようにすることで、特に温度が高い出鋼口および出滓口を横切る配線を回避しつつ、炉体の周方向複数箇所に設けられたセンサを用いてデータ収集を行うことができる。
【0010】
またこの発明では、前記壁体の前部および/または下部に内外を連通する開口部を設けておくことができる。
このようにすることで、壁体内部に熱がこもるのを抑制することができる。
【0011】
またこの発明では、前記壁体の天井面に、前記炉体から離れるほど低くなるように傾斜を設けておくことができる。
このようにすることで、操業中に落下してきた金属スクラップや火の粉等の落下物を天井面の勾配により炉体の外側(炉体から離れる側)にすべり落として、内部に収容された無線子機ユニットの保護を図ることができる。
【0012】
またこの発明では、前記ユニット収容箱の内部にエアを導入するエア導入手段を更に備えるように構成することができる。このようにすることで、ユニット収容箱内の無線子機ユニットの冷却を促進することができる。
またユニット収容箱内の無線子機ユニットの冷却を促進するに際しては、前記保護部材の前記空間にエアを導入するエア導入手段を備えるように構成することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態の電気炉の概略構成を示した図である。
【
図2】
図1の電気炉に取り付けられた温度計測センサで計測されたデータの送信についての説明図である。
【
図3】(A)は無線子機ユニットを内部に収容した保護部材の外観斜視図、(B)はその部分断面図である。
【
図4】保護部材にエア導入手段を設けた変形例を示した図である。
【
図5】従来の電気炉における問題点を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に本発明の実施形態にかかる溶解炉の一例としての電気炉を図面に基づいて詳しく説明する。
図1は本発明の一実施形態の電気炉の概略構成を示した図である。
本実施形態の電気炉1は、金属材料を収容する炉体2と、炉体2の上端の装入口12を開閉可能に閉鎖する炉蓋4と、炉蓋4を挿通して炉体2内に下向きに挿入される3本の電極6とを備えており、電極6に三相交流等の電流を印加して放電を行うことで、炉体2内に収容した金属スクラップ等の金属材料を溶融させる。
【0015】
各電極6は、平面視略円形をなした炉蓋4の中心近くに、炉体2の中心軸線周りに等間隔(120°間隔)で炉体2内部に配置されている。各電極6は、図示しない昇降装置にて個別に高さ調節自在に支持され、電極6の下端と炉体2内に装入された金属材料との上下方向の離間距離を調節し得るように構成されている。
【0016】
炉蓋4は、図示しない昇降装置及び旋回装置によって、炉体2に対して上下方向に移動自在に構成されるとともに、水平方向に旋回して、炉体2の装入口12を開放し炉体内への金属材料の装入を可能としている。
【0017】
炉体2は、円筒状の側壁部13及び炉底部14を備え、上方に開口を有した有底の円筒型の容器として形成されており、炉体2の側壁部13の対向する位置には、溶鋼を取り出す出鋼を行うための出鋼口16と、溶融残渣を取り出す出滓を行うための出滓口17が、それぞれ設けられている(
図2参照)。
【0018】
炉体2の壁面13aの内側には、壁面13aに沿って金属管を設けた水冷パネル20が設けられている。水冷パネル20には、外部から冷媒(ここでは水とする)が供給され、炉体2の壁面13aを冷却する。水冷パネル20は、炉体2の壁面13aを複数の領域に分割し、それぞれの領域に独立して設けられている。水冷パネル20は、炉体2内の溶融金属からの熱によって、壁面13aを構成する耐火物が損傷を受けるのを抑制する。
本例では、後述するように、各水冷パネル20に付属させて、炉体2の壁面13aを冷却した水の温度を計測するための温度計測センサ25(
図2参照)が設けられている。
【0019】
また電気炉1は、炉体2を回転させる回転装置50と、炉体2を傾動させる傾動体40を備えており、炉体2が傾動可能で且つ炉蓋4及び電極6に対して相対回転可能に構成されている。
傾動体40は、一対の脚部41,41と、炉体2を支持する傾動床44と、プラットフォーム46とを備えている。傾動体40を支持する炉台42の上面及びこれに接する脚部41の下面にはそれぞれ係合歯が形成されており、傾動の際これら係合歯の係合により炉台42に対する傾動体40のずれが防止されている。
【0020】
この傾動体40には図示を省略する駆動シリンダの一端側が回転可能に連結されており、この駆動シリンダを伸長もしくは短縮させることで炉体2が傾動体40とともに傾動するように構成されている。例えば、出鋼口16の側が下向きとなるように炉体2全体を傾動させることで、炉体2内の金属材料の溶湯(溶鋼)は、出鋼口16から出鋼される。また、上記出鋼時とは反対の方向に(即ち、出滓口17の側が下向きとなるように)炉体2全体を傾動させることで、溶解操業の際に生じるスラグを出滓口17より外部に排出することができる。
【0021】
炉体2は、炉体2を回転させる回転装置50を介して、傾動床44で支持されている。具体的には、回転装置50は、傾動床44上に固定されたベアリング部材52と、ベアリング部材52によって支持された支持フレーム51を有している。支持フレーム51は、内周面に歯車体が形成された円環状の部材であり、その上面に炉体2が固定されている。
支持フレーム51の内側には、内周面の歯車体に噛み合って、支持フレーム51を中心軸の周りに回動させるギア体(不図示)が設けられている。ギア体が回転することで、支持フレーム51上に絶縁板53を介して固定された炉体2が、上下方向の中心軸の周りに回転される。ここで炉体2が回転する際、電極6の位置は変化しない。よって、炉体2の回転に伴って、炉体2と電極6の相対配置が変化する。なお、このような炉体を回転させる回転装置の具体的な構成については、特開2016-95123号公報等に記載されている。
【0022】
炉体2には、種々の配管や配線が接続されている。
図1で示す配管47は、例えば、炉体2を冷却する水冷パネル20への供給水を流通させるための配管である。配管47の一端47aは炉体2側に対して固定され、配管47の他端(図示省略)は、床面Fに対して固定された設備に固定されている。また配管47は、少なくとも一部が、フレキシブルホース等の可撓性を有する材料で構成されており、配管47の可撓部は、下記のように架台60に支持された状態で、回転装置50による炉体10の回動に追随できるだけの十分な長さを有している。また配管47とともに架台60で支持されている配線48は、炉体2の付帯設備(例えば、後述する無線子機ユニット27等)に対し電力を供給するための電力供給用の配線等である。
【0023】
配管47や配線48を支持する架台60は、支持部61と、架台運動部としての車輪62とを有している。架台60は、複数の長尺状の金属材が、プラットフォーム46の面に略平行な方向および略垂直な方向に交差して設けられたフレーム構造を有している。支持部61は、車輪結合部63によって、車輪62と連結されている。車輪結合部63および車輪62は、架台60と炉体2を結ぶ方向に沿って、支持部61の中央近傍に設けられている。支持部61には配管47および配線48の中途部が載置されている。
【0024】
図2は、炉体に取り付けられた温度計測センサで計測されたデータの送信についての説明図である。
温度計測センサ25は、冷却水が炉体10の壁面13aを冷却している経路の途中または終端近傍、あるいは壁面13aを冷却した後の冷却水が流れる配管等に設けられており、それらの部位を通過する冷却水の温度を計測する。温度計測センサ25として、本例では測温抵抗体を用いている。但し、熱電対等、測温抵抗体とは異なる形式のセンサを用いることも可能である。
図2の例では、8つの水冷パネル20A~20Hに対応して温度計測センサ25が炉体2の周方向に沿って8つ設けられており、これら温度計測センサをそれぞれ25A~25Hと表記する。
【0025】
図2で示すように、本例では温度計測センサ25で計測されたデータを無線送信するための無線子機ユニット27が炉体2の周方向に沿って略等間隔に4つ配置されており、各温度計測センサ25(25A~25H)からそれぞれ引き出された信号用の配線26は最寄りの無線子機ユニット27にそれぞれ接続されている。
そして、互いに接続された温度計測センサ25と無線子機ユニット27のセット28については、炉体2の出鋼口16と出滓口17と結ぶ仮想線Lを横切ることなく、仮想線Lによって分割された一方の炉体半部と他方の炉体半部にそれぞれ配置されている。
【0026】
無線子機ユニット27は、信号変換部とデータ送信部を備えており、各温度計測センサ25(具体的には測温抵抗体)から出力された抵抗値に相当する信号を信号変換部で温度データに変換し、各センサ25毎に予め割り振られたチャンネルで各センサ25毎の温度データを送信する。
【0027】
一方、電気炉1の各種動作を管理する制御部32には、無線親機として動作する無線通信機30が接続されており、各無線子機ユニット27から無線送信された温度データは、無線通信機30にて受信され、制御部32に送られる。なお、無線によるデータ通信の形式については、特に限定されるものではなく、シリアル通信でもパラレル通信でもよい。また、特定の無線子機ユニット27と無線親機(無線通信機)30間の無線通信が不安定となる場合には他の無線子機ユニット27を経由して無線親機30との無線通信を行うマルチホップ通信を採用することも可能である。
【0028】
このように構成された電気炉1においては、特に高温となる出鋼口16と出滓口17近傍での配線の敷設を回避することができる。また配線26を耐熱化する場合であっても、有線で中継器104まで延ばす
図5の例に比べて耐熱化を要する配線の長さを大幅に短くすることができる。
【0029】
このようにして収集された水温データは、例えば操業時における炉体2の回転の制御に利用することができる。電気炉1の各種動作を管理する制御部32は、例えば、データ処理部、記憶部、および通信I/F部等を備えたPLC(Programmable Logic Controller)等からなり、各水冷パネル20で計測された水温の空間的不均一性に基づいて、炉体2の回転面内における金属材料の溶融状態の空間的不均一性の程度を推定することができる。そして、推定された溶融状態の空間的不均一性が所定の水準以上となっていれば、制御部32によって、回転装置50を制御し、炉体2を回転させることにより、ホットスポットおよびコールドスポットの位置を入れ替えることができるので、金属材料の溶融の進行の均一性を高めることができる。
【0030】
なお、収集された水温データは、上記炉体の回転制御のほか、推定される金属材料の溶融状態に基づく、追装のタイミングの決定等にも利用可能である。
【0031】
次に、無線子機ユニット27を内部に収容する保護部材70について説明する。
図3の(A)は保護部材の外観斜視図、
図3の(B)はその部分断面図である。
【0032】
保護部材70は、ユニット収容箱71と、ユニット収容箱71を外側から覆う壁体85とを含んで構成されている。
ユニット収容箱71の筐体72は、上板73、下板74、背板75および一対の側板76を有し、更に前面には開閉自在な扉77が取り付けられており、全体が箱形に形成されている。これらは主に板金などの金属材料で形成されている。
ユニット収容箱71の内部は無線子機ユニット27を収容する収容部79とされ、下板74には温度計測センサ25に接続された信号用の配線26の一端を収容部79に引き込むための貫通孔80が形成されている。また、上板73には無線子機ユニット27のアンテナ27aを露出させるための貫通孔81が形成されている。このように構成されたユニット収容箱71は、炉体2側のフレーム部材83の上に取付固定されている。
なお、貫通孔81は、下板74、背板75、側板76および扉77のいずれかに形成されていてもよい。また、アンテナ27aは、マグネット基台にアンテナが取り付けられたものであってもよく、例えば金属製のユニット収容箱71にマグネット基台で固定した場合、貫通孔81から配線が通される。
【0033】
壁体85は、上壁86、背壁87および一対の側壁88を有し、ユニット収容箱71を外側から覆っている。この壁体85は金属材料もしくは断熱材料で構成することができる。また金属材料と断熱材料からなる積層体で構成することも可能である。その断面構造は中実構造であってもよいし中空構造であってもよい。壁体85は、側壁88から更に左右方向に延び出した取付片89を介して炉体2側のフレーム部材に取付けることができる。
【0034】
壁体85は、内側に位置するユニット収容箱71との間に空間δが生じるように、ユニット収容箱71に対して間隔を隔てて取付けられている。このため、これらユニット収容箱71と壁体85とを含んで構成されている保護部材70は、炉体2と対向する背部(背板75と背壁87を含んで構成されている)、天井部(上板73と上壁86を含んで構成されている)、側方部(側板76と側壁88を含んで構成されている)がそれぞれ二重壁構造とされている。
このように構成された保護部材70では、空気層δを含む二重壁構造における伝熱低減の効果により、炉体2からの輻射熱に起因する無線子機ユニット27の温度上昇を低減することができる。
【0035】
一方、壁体85は、その前部(壁体85の背壁87とは反対側)と下部に、壁部材を備えておらず、壁体85の前部にはユニット収容箱71の前面よりも大きな面積の開口部90が形成されている。また壁体85の下部にはユニット収容箱71の底面よりも大きな面積の開口部91が形成されている。内外を連通するこれら開口部90,91は、壁体85内部に熱がこもるのを防止するのに有効である。
【0036】
また、
図3の(B)で示すように、壁体85の上向きの天井面86aは、炉体2から離れるほど低くなるように傾斜が設けられている。操業中に金属スクラップや火の粉といった落下物が上方から落下してきた場合でも、図中矢印で示すように、これら落下物を天井面86aの勾配により炉体2の外側(炉体2から離れる側)に滑り落として、内部の無線子機ユニット27を保護するためである。
【0037】
以上ように本実施形態の電気炉1では、炉体2に取り付けられた温度計測センサ25で計測されたデータが無線送信により相手側(無線親機30)に送られるため、温度計測センサ25から延びる信号用の配線26の敷設は最寄りの無線子機ユニット27までに留めることができ、耐熱性が要求される配線26を大幅に少なく(短く)することができる。このためメンテナンス時の耐熱配線の解体および復旧に要する作業時間を大幅に短縮することができる。
また無線子機ユニット27については、炉体2と対向する背部および天井部が二重壁構造とされている保護部材70の内部に収容されるため、上方から落ちてくる金属スクラップや火の粉等の落下物、および、炉体2からの輻射熱に対する保護が図られ、温度計測センサ25を用いたデータ収集を安定的に行なうことができる。
【0038】
また本実施形態の電気炉1では、配線26で互いに接続されたセンサ25と無線子機ユニット27のセット28が、炉体2の出鋼口16と出滓口17と結ぶ仮想線Lにより分割された一方の炉体半部と他方の炉体半部のそれぞれに配置されており、特に温度が高い出鋼口16および出滓口17を横切る配線を回避しつつ、炉体2の周方向複数箇所に設けられたセンサ25を用いてデータ収集を行うことができる。
【0039】
また本実施形態の電気炉1では、壁体70の前部および下部に内外を連通する開口部90および91を設けており、壁体70内部に熱がこもるのを抑制することができる。
【0040】
また本実施形態の電気炉1では、壁体70の天井面86aに、炉体2から離れるほど低くなるように傾斜が設けられており、操業中に落下してきた金属スクラップや火の粉等の落下物を天井面86aの勾配により炉体2の外側(炉体2から離れる側)にすべり落として、内部の無線子機ユニット27の保護を図ることができる。
【0041】
次に、
図4は、電気炉1の保護部材70にエア導入手段を設けた変形例を示している。
図4の例では、高圧エア源94から延び、その端部がユニット収容箱71の下板74に接続されたエア供給管95と、このエア供給管95の流路上に設けられた電磁開閉弁96および流量調整弁97を更に備えている。このようにすれば、電磁開閉弁96を開にすることで、冷却ガスとしてのエアがユニット収容箱71内に導入され、ユニット収容箱71内の無線子機ユニット27を冷却することができる。この例におけるエア供給管95および電磁開閉弁96は本発明におけるエア導入手段を構成する。
【0042】
以上本発明の実施形態を詳述したがこれはあくまで一例示である。例えば上記実施形態は水冷パネルを流通した水の温度の情報を収集した例であったが、収集対象とする情報や、それを計測するためのセンサの種類・数・取付場所等は上記実施形態に限定されるものではなく適宜変更可能である。例えば、温度計測センサに加えて流量計測センサを炉体に取り付けて水冷パネルを流通する水の流量の情報を更に収集すれば、操業中の抜熱量を推定することができる。
【0043】
また上記実施形態では、背部および天井部を二重壁構造とした保護部材を用いているが、場合によっては背部または天井部の何れか一方を二重壁構造とした保護部材を用いることも可能である。
また、上記実施形態はユニット収容箱の内部に高圧エアを導入するものであったが、ユニット収容箱と壁体との間にある空間に高圧エアを導入するようにしてもよく、前記収容箱の内部と前記空間の両方に高圧エアを導入するように構成することも可能である。
また、上記実施形態はアーク放電方式の電気炉(アーク炉)であったが、これ以外の手段で加熱を行う溶解炉にも好適に適用可能である等、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた形態で構成可能である。
【符号の説明】
【0044】
1 電気炉(溶解炉)
2 炉体
16 出鋼口
17 出滓口
20,20A~20H 水冷パネル
25,25A~25H 温度計測センサ(センサ)
26 配線
27 無線子機ユニット
28 セット
50 回転装置
70 保護部材
71 ユニット収容箱
85 壁体
95 エア供給管(エア導入手段)
96 電磁開閉弁(エア導入手段)
δ 空間(空気層)