(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162186
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】電力変換装置、劣化判定装置及び劣化判定方法
(51)【国際特許分類】
H02M 1/00 20070101AFI20241114BHJP
【FI】
H02M1/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023077503
(22)【出願日】2023-05-09
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】田中 孝明
【テーマコード(参考)】
5H740
【Fターム(参考)】
5H740BA11
5H740BA12
5H740BB05
5H740BB09
5H740BC01
5H740BC02
5H740JA01
5H740JB01
5H740MM01
5H740MM08
5H740MM11
(57)【要約】
【課題】半導体装置の劣化判定の精度向上。
【解決手段】第1主電極、第2主電極及び制御電極を有する半導体素子と、第1主電極に電気的に接続された第1主端子と、第2主電極に電気的に接続された第2主端子と、第2主電極に電気的に接続された補助端子と、制御電極に電気的に接続された制御端子とを有する半導体装置と、半導体素子をスイッチングさせる指令を生成する指令部と、指令に従って制御電極に駆動電圧を印加する駆動部と、補助端子と第2主端子との間の電圧を検出する電圧検出部と、電圧検出部により検出された電圧が閾値電圧以上になると、トリガ信号を生成するトリガ部と、トリガ信号が入力されたときの、第1主端子と第2主端子との間の主端子間に流れる電流に対応する判定値を用いて、半導体装置の劣化を判定する劣化判定部と、を備える、電力変換装置。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1主電極、第2主電極及び制御電極を有する半導体素子と、前記第1主電極に電気的に接続された第1主端子と、前記第2主電極に電気的に接続された第2主端子と、前記第2主電極に電気的に接続された補助端子と、前記制御電極に電気的に接続された制御端子とを有する半導体装置と、
前記半導体素子をスイッチングさせる指令を生成する指令部と、
前記指令に従って前記制御電極に駆動電圧を印加する駆動部と、
前記補助端子と前記第2主端子との間の電圧を検出する電圧検出部と、
前記電圧検出部により検出された前記電圧が閾値電圧以上になると、トリガ信号を生成するトリガ部と、
前記トリガ信号が入力されたときの、前記第1主端子と前記第2主端子との間の主端子間に流れる電流に対応する判定値を用いて、前記半導体装置の劣化を判定する劣化判定部と、を備える、電力変換装置。
【請求項2】
前記劣化判定部は、前記判定値を判定レベルと比較することで、前記半導体装置の劣化を判定する、請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記半導体装置の運転初期の複数の前記判定値に応じて前記判定レベルを設定する、請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記劣化判定部は、前記判定値が変化する傾向に基づいて、前記半導体装置の劣化を判定する、請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記判定値は、前記主端子間に流れる電流に関する値である、請求項1から4のいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記判定値は、前記閾値電圧を前記電流で除算することで得られた値である、請求項1から4のいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記主端子間に流れる電流は、前記主端子間に前記トリガ信号に対応するタイミングで流れる電流である、請求項1から4のいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記主端子間に流れる電流は、前記主端子間に前記トリガ信号に対応するタイミングで流れる電流を推定する電流推定部により推定される値である、請求項1から4のいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項9】
前記電流推定部は、前記第1主端子又は前記第2主端子から出力される電流の検出値を用いて、前記主端子間に流れる電流を推定する、請求項8に記載の電力変換装置。
【請求項10】
前記トリガ部は、前記半導体素子のターンオンから所定時間経過後に前記トリガ信号の生成を許可する、請求項1から4のいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項11】
第1主電極及び第2主電極を有する半導体素子と、前記第1主電極に電気的に接続された第1主端子と、前記第2主電極に電気的に接続された第2主端子と、前記第2主電極に電気的に接続された補助端子とを有する半導体装置と、
前記補助端子及び前記第2主端子との間の電圧、又は前記第1主端子と前記第2主端子との間の電圧を検出する電圧検出部と、
前記電圧検出部により検出された前記電圧が閾値電圧以上になると、トリガ信号を生成するトリガ部と、
前記トリガ信号が入力されたときの、前記第1主端子と前記第2主端子との間の主端子間に流れる電流に対応する判定値を用いて、前記半導体装置の劣化を判定する劣化判定部と、を備える、劣化判定装置。
【請求項12】
第1主電極及び第2主電極を有する半導体素子と、前記第1主電極に電気的に接続された第1主端子と、前記第2主電極に電気的に接続された第2主端子と、前記第2主電極に電気的に接続された補助端子とを有する半導体装置の劣化を判定する方法であって、
前記補助端子及び前記第2主端子との間の電圧、又は前記第1主端子と前記第2主端子との間の電圧を検出し、
検出された前記電圧が閾値電圧以上になると、トリガ信号を生成し、
前記トリガ信号が入力されたときの、前記第1主端子と前記第2主端子との間の主端子間に流れる電流に対応する判定値を用いて、前記半導体装置の劣化を判定する、劣化判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電力変換装置、劣化判定装置及び劣化判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体素子の一の主電極端子とゲート電極端子との間のゲート電圧および該一の主電極端子と他の主電極端子との間の電圧に基づいて半導体素子の接合部の劣化を検出して警報信号を出力する劣化検出回路が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の劣化検出回路には、半導体装置の劣化を判定する精度を向上させる余地がある。
【0005】
本開示は、半導体装置の劣化を精度良く判定可能な電力変換装置、劣化判定装置及び劣化判定方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様では、
第1主電極、第2主電極及び制御電極を有する半導体素子と、前記第1主電極に電気的に接続された第1主端子と、前記第2主電極に電気的に接続された第2主端子と、前記第2主電極に電気的に接続された補助端子と、前記制御電極に電気的に接続された制御端子とを有する半導体装置と、
前記半導体素子をスイッチングさせる指令を生成する指令部と、
前記指令に従って前記制御電極に駆動電圧を印加する駆動部と、
前記補助端子と前記第2主端子との間の電圧を検出する電圧検出部と、
前記電圧検出部により検出された前記電圧が閾値電圧以上になると、トリガ信号を生成するトリガ部と、
前記トリガ信号が入力されたときの、前記第1主端子と前記第2主端子との間の主端子間に流れる電流に対応する判定値を用いて、前記半導体装置の劣化を判定する劣化判定部と、を備える、電力変換装置が提供される。
【0007】
本開示の他の一態様では、
第1主電極及び第2主電極を有する半導体素子と、前記第1主電極に電気的に接続された第1主端子と、前記第2主電極に電気的に接続された第2主端子と、前記第2主電極に電気的に接続された補助端子とを有する半導体装置と、
前記補助端子及び前記第2主端子との間の電圧、又は前記第1主端子と前記第2主端子との間の電圧を検出する電圧検出部と、
前記電圧検出部により検出された前記電圧が閾値電圧以上になると、トリガ信号を生成するトリガ部と、
前記トリガ信号が入力されたときの、前記第1主端子と前記第2主端子との間の主端子間に流れる電流に対応する判定値を用いて、前記半導体装置の劣化を判定する劣化判定部と、を備える、劣化判定装置が提供される。
【0008】
本開示の他の一態様では、
第1主電極及び第2主電極を有する半導体素子と、前記第1主電極に電気的に接続された第1主端子と、前記第2主電極に電気的に接続された第2主端子と、前記第2主電極に電気的に接続された補助端子とを有する半導体装置の劣化を判定する方法であって、
前記補助端子及び前記第2主端子との間の電圧、又は前記第1主端子と前記第2主端子との間の電圧を検出し、
検出された前記電圧が閾値電圧以上になると、トリガ信号を生成し、
前記トリガ信号が入力されたときの、前記第1主端子と前記第2主端子との間の主端子間に流れる電流に対応する判定値を用いて、前記半導体装置の劣化を判定する、劣化判定方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、半導体装置の劣化を精度良く判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態に係る電力変換装置の構成例を示す図である。
【
図2】本実施形態に係る半導体装置の構成例を示す平面図である。
【
図3】第1実施形態に係る劣化判定装置の構成例を示す図である。
【
図4】半導体装置の両主端子間の通電状態での電流Icの検出動作に伴う各部の波形を例示するタイミングチャートである。
【
図5】第1実施形態に係る劣化判定装置の動作を例示するタイミングチャートである。
【
図6】運転時間に対応させてメモリに記録される電気抵抗成分Reeの推定値の変化を例示する図である。
【
図7】第2実施形態に係る劣化判定装置の構成例を示す図である。
【
図8】第2実施形態に係る劣化判定装置の動作を例示するタイミングチャートである。
【
図9】第3実施形態に係る劣化判定装置の動作を例示するタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態について説明する。
【0012】
近年、電力変換装置は、高信頼化が求められる用途(電力系統、または、電車もしくは自動車等の移動体など)に拡大し、それに伴い、電力変換装置の高信頼化の要求が高まっている。この要求に対して、故障を予知して事前に対策を講ずる予知保全の実現への期待が高まっている。
【0013】
電力変換装置の主な故障要因の一つとしてパワー半導体モジュール等の半導体装置が挙げられる。半導体装置には、パワー半導体チップ等の半導体素子が含まれている。半導体装置の主な故障は、電流導通や半導体素子のスイッチング動作によって繰り返し発生する熱応力ストレスがボンディングワイヤ又ははんだを劣化させることで生ずる。
【0014】
電力変換装置等のパワーエレクトロニクス機器に搭載される半導体装置が劣化した状態で動作し続けると、半導体装置又はパワーエレクトロニクス機器が故障するおそれがある。そのため、劣化を精度良く検出し、CBM(Condition Based Maintenance)を実現する需要が高まっている。
【0015】
本実施形態に係る電力変換装置、劣化判定装置及び劣化判定方法は、半導体装置の劣化を精度良く判定する。以下、本実施形態に係る電力変換装置、劣化判定装置及び劣化判定方法について説明する。
【0016】
<電力変換装置>
図1は、本実施形態に係る電力変換装置の構成例を示す図である。
図1に示す電力変換装置200は、直流の電源33から供給される直流電力を、負荷14に供給する交流電力に変換する主回路部10と、主回路部10の電力変換動作を制御する制御装置20とを備える。
図1は、主回路部10が直流電力を三相の交流電力に変換する形態を例示する。
【0017】
主回路部10は、複数のパワー半導体モジュール111~116、複数の電圧検出部VD1~VD6、複数のゲート駆動部PD1~PD6及び電流検出部30を備える。パワー半導体モジュール111~116は、電力変換用の半導体装置の一例である。
【0018】
図1には、パワー半導体モジュールとして、インバータの1アーム分のIGBTチップ及びそれと逆並列に接続されたダイオードチップ(FWDチップ)が組み込まれた1in1パッケージのIGBTモジュールが例示されている。IGBTは、Insulated Gate Bipolar Transistorの略語であり、IGBTチップは、パワー半導体素子の一例であり、FWDチップは、整流素子の一例である。しかしながら、パワー半導体モジュールのパッケージ構成は、6in1などの他の種類のパッケージ構成でもよいし、パワー半導体モジュールに構成されるパワー半導体素子は、MOSFETなどの他の種類のパワー半導体素子でもよい。MOSFETは、Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistorの略語である。
【0019】
複数のパワー半導体モジュール111~116は、それぞれ同じ構成でよく、複数の電圧検出部VD1~VD6は、それぞれ同じ構成でよく、複数のゲート駆動部PD1~PD6は、それぞれ同じ構成でよい。
【0020】
u相の上アームのパワー半導体モジュール111は、IGBTチップQ1及びFWDチップD1を有する。また、パワー半導体モジュール111は、コレクタ端子C、エミッタ端子E、ゲート端子G及び補助エミッタ端子Esを有する。コレクタ端子Cは、第1主端子の一例であり、エミッタ端子Eは、第2主端子の一例であり、ゲート端子Gは、制御端子の一例であり、補助エミッタ端子Esは、補助端子の一例である。
【0021】
IGBTチップQ1は、コレクタ電極11c、エミッタ電極11e及びゲート電極11gを有するスイッチング素子(半導体素子)の一例である。コレクタ電極11cは、第1主電極の一例であり、エミッタ電極11eは、第2主電極の一例であり、ゲート電極11gは、制御電極の一例である。
【0022】
FWDチップD1は、アノード電極11a及びカソード電極11kを有する整流素子(半導体素子)の一例である。
【0023】
コレクタ端子Cは、コレクタ電極11c及びカソード電極11kに電気的に接続されている。エミッタ端子Eは、エミッタ電極11e及びアノード電極11aに電気的に接続される。ゲート端子Gは、ゲート電極11gに電気的に接続されている。補助エミッタ端子Esは、エミッタ電極11e及びアノード電極11aに電気的に接続されている。
【0024】
u相の下アームのパワー半導体モジュール112は、IGBTチップQ2及びFWDチップD2を有する。v相の上アームのパワー半導体モジュール113は、IGBTチップQ3及びFWDチップD3を有する。v相の下アームのパワー半導体モジュール114は、IGBTチップQ4及びFWDチップD4を有する。w相の上アームのパワー半導体モジュール115は、IGBTチップQ5及びFWDチップD5を有する。w相の下アームのパワー半導体モジュール116は、IGBTチップQ6及びFWDチップD6を有する。パワー半導体モジュール112~116は、パワー半導体モジュール111の上述の構成と同じである。
【0025】
ゲート駆動部PD1は、制御装置20から供給されるオン又はオフのスイッチング指令S1に従って、IGBTチップQ1のゲート電極11gを駆動する回路である。同様に、ゲート駆動部PD2~PD6は、それぞれ、制御装置20から供給されるオン又はオフのスイッチング指令S2~S6に従って、IGBTチップQ2~Q6のゲート電極11gを駆動する回路である。ゲート駆動部PD1~PD6は、制御装置20からのスイッチング指令S1~S6に従って、ゲート端子Gと補助エミッタ端子Esとの間にパワー半導体モジュール111~116のIGBTチップQ1~Q6をスイッチングさせる駆動電圧を印加する駆動部である。
【0026】
電圧検出部VD1は、パワー半導体モジュール111の補助エミッタ端子Esとエミッタ端子Eとの間の電圧Vee1を検出し、Vee1の検出値を制御装置20へ送信する回路である。同様に、電圧検出部VD2~VD6は、パワー半導体モジュール112~116の補助エミッタ端子Esとエミッタ端子Eとの間の電圧Vee2~Vee6を検出し、Vee2~Vee6の検出値を制御装置20へ送信する回路である。
【0027】
電流検出部30は、パワー半導体モジュール111~116と負荷14との間に流れる三相の交流電流iu,iv,iwを検出し、交流電流iu,iv,iwの検出値を制御装置20へ送信する。電流検出部30は、例えば、三相の交流電流iu,iv,iwを検出する電流センサを含む。交流電流iu,iv,iwは、負荷14に流れる負荷電流である。
【0028】
制御装置20は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサ及びメモリを備える制御部である。制御装置20の機能は、メモリに記憶されたプログラムによって、プロセッサが動作することにより実現される。制御装置20の機能は、FPGA(Field Programmable Gate Array)又はASIC(Application Specific Integrated Circuit)によって実現されてもよい。
【0029】
主回路部10は、ヒートシンク温度検出部80を備えてもよい。ヒートシンク温度検出部80は、パワー半導体モジュール111~116を冷却するためのヒートシンク(例えば、フィンなど)の温度を検出し、ヒートシンクの温度検出値Thを制御装置20に送信する。ヒートシンク温度検出部80は、例えば、ヒートシンクの温度を検出する温度センサを含む。
【0030】
<半導体装置>
図2は、本実施形態に係る半導体装置の構成例を示す平面図である。
図2は、例えば、インバータの1アーム分の回路構成を示す。u相の上アームの回路構成の場合、半導体装置101は、例えば、上述のパワー半導体モジュール111に相当する。各アームの回路構成は互いに同一であるため、以下では、特に断りのない限り、u相の上アームを例に挙げて説明する。
【0031】
図2に示す半導体装置101は、絶縁基板5、コレクタ端子C、エミッタ端子E、補助エミッタ端子Es、ゲート端子G、IGBTチップQ1、FWDチップD1及びワイヤ15,16,17,18,19を備える。
【0032】
絶縁基板5は、IGBTチップQ1及びFWDチップD1が実装される基板であり、例えばDCB(Direct Copper Bonding)基板、AMB(Active Metal Blazing)基板等を採用することができる。絶縁基板5は、はんだ等の接合材を介してベース基板(不図示)上に固定される。
【0033】
絶縁基板5は、絶縁層5a及び配線層5cを含む。絶縁層5aは、例えば、セラミック板である。配線層5cは、絶縁層5aの上面に設けられ、例えば、銅等の導電性金属により形成された導体層である。配線層5cは、少なくとも一つの導体パターンを含む。
【0034】
IGBTチップQ1は、半導体装置101に組み込まれる半導体素子であり、表面12及び裏面13のそれぞれに電極を有する半導体スイッチング素子である。IGBTチップQ1は、Si半導体素子でもSiC半導体素子でもよい。
【0035】
IGBTチップQ1は、エミッタ電極11e及びゲート電極11gが形成された表面12と、コレクタ電極11cが形成された裏面13とを有する。コレクタ電極11cは、IGBTチップQ1が有する第1主電極の一例である。エミッタ電極11eは、IGBTチップQ1が有する第2主電極の一例である。ゲート電極11gは、IGBTチップQ1が有する制御電極の一例である。IGBTチップQ1は、コレクタ電極11cがはんだ等の接合材により配線層5cの導体パターンと接合することで、裏面13にて絶縁基板5上に固定される。
【0036】
FWDチップD1は、半導体装置101に組み込まれる半導体素子であり、表面8及び裏面9のそれぞれに電極を有する半導体ダイオード素子である。FWDチップD1は、Si半導体素子でもSiC半導体素子でもよい。
【0037】
FWDチップD1は、アノード電極11aが形成された表面8と、カソード電極11kが形成された裏面9とを有する。FWDチップD1は、カソード電極11kがはんだ等の接合材により配線層5cの導体パターンに接合することで、裏面9にて絶縁基板5上に固定される。カソード電極11kは、配線層5cの導体パターンにより、コレクタ電極11cに電気的に接続される。
【0038】
コレクタ端子C、エミッタ端子E、ゲート端子G及び補助エミッタ端子Esは、半導体装置101の外部と接続するための外部端子である。これらの各外部端子は、例えば、銅、アルミニウム等の導電性金属を用いて円柱状又は平板状に成形されている。
【0039】
コレクタ端子Cは、ワイヤ19を介して、コレクタ電極11c及びカソード電極11kに電気的に接続されている。
【0040】
エミッタ端子Eは、ワイヤ15を介してエミッタ電極11eに電気的に接続され、ワイヤ18を介してアノード電極11aに電気的に接続されている。
【0041】
ゲート端子Gは、ワイヤ17を介して、ゲート電極11gに電気的に接続されている。
【0042】
補助エミッタ端子Esは、ワイヤ16を介して、エミッタ電極11eに電気的に接続されている。
【0043】
ワイヤ15~19は、例えば、銅、アルミニウム等の導電性金属又は鉄アルミ合金等の導電性合金を用いて形成されたボンディングワイヤである。ワイヤ15は、IGBTチップQ1の表面電極であるエミッタ電極11eを、エミッタ端子Eが設けられた配線層の導体パターンに接続する一又は複数(例えば、3本)の線状部材である。ワイヤ16は、IGBTチップQ1の表面電極であるエミッタ電極11eを、補助エミッタ端子Esが設けられた配線層の導体パターンに接続する一又は複数(例えば、1本)の線状部材である。ワイヤ17は、IGBTチップQ1の表面電極であるゲート電極11gを、ゲート端子Gが設けられた配線層の導体パターンに接続する一又は複数(例えば、1本)の線状部材である。ワイヤ18は、IGBTチップQ1の表面電極であるエミッタ電極11eとFWDチップD1の表面電極であるアノード電極11aとの間を接続する一又は複数(例えば、3本)の線状部材である。ワイヤ19は、配線層5cの導体パターンとコレクタ端子Cが設けられた配線層の導体パターンとの間を接続する一又は複数(例えば、3本)の線状部材である。ワイヤ15は、第1ワイヤ又は主ワイヤの一例である。ワイヤ16は、第2ワイヤ又は補助ワイヤの一例である。
【0044】
半導体装置101に流れる電流Icは、ワイヤ15,18,19に流れるが、ワイヤ16,17には流れない。コレクタ端子Cから半導体装置101に流入する電流Icは、配線層5cの導体パターン及び接合材を介してコレクタ電極11cに流れ、IGBTチップQ1を通過する。そして、エミッタ電極11eから出力された電流Icは、ワイヤ15及び導体パターンを介して、エミッタ端子Eへ流れる。逆に、エミッタ端子Eから半導体装置101に流入する電流Icは、導体パターン及びワイヤ15,18を介してアノード電極11aに流れ、FWDチップD1を通過する。そして、カソード電極11k又はコレクタ電極11cから出力された電流Icは、接合材、配線層5cの導体パターン及びワイヤ19を介して、コレクタ端子Cへ流れる。
【0045】
IGBTチップQ1及びFWDチップD1は、それぞれ、接合材、絶縁基板5、接合材、ベース基板、サーマルグリース及びヒートシンクの順路で熱的に接続される。ヒートシンクから外気中に放熱されることで、各チップは冷却される。
【0046】
半導体装置101は、各チップに流れる電流やスイッチングにより発生する繰り返し発熱により、劣化することが知られている。主な劣化部位として、ワイヤとチップ又は配線パターンとのワイヤ接合部、チップ下のはんだ等の接合材などが挙げられる。ワイヤ接合部が劣化すると主に電気抵抗が増加し、チップ下のはんだ等の接合材が劣化すると主に熱抵抗が増加する。サーマルグリースは、半導体装置101又はヒートシンクの温度変化に伴い劣化する。サーマルグリースが劣化すると、熱抵抗が増加する。ヒートシンクは、フィンの目詰まりや送風ファンの故障などにより、熱抵抗が増加する。
【0047】
<第1実施形態に係る劣化判定装置>
図3は、第1実施形態に係る劣化判定装置の構成例を示す図である。
図3に示す劣化判定装置301は、半導体装置101の劣化を判定する。
図3は、例えば、インバータの1アーム分の回路構成を示す。u相の上アームの回路構成の場合、半導体装置101は、例えば、上述のパワー半導体モジュール111に相当する。各アームの回路構成は互いに同一であるため、以下では、特に断りのない限り、u相の上アームを例に挙げて説明する。
図3には、コレクタ端子Cとコレクタ電極11cとの間の接合材及びワイヤ19(
図2参照)を含む電気抵抗成分Rsと、エミッタ端子Eとエミッタ電極11eとの間のワイヤ15(
図2参照)を含む電気抵抗成分Reeとが図示されている。
【0048】
エミッタ電極11eとエミッタ端子Eとの間の電気的な接続部分の劣化が進行すると、電気抵抗成分Reeが上昇する。
図3に示す劣化判定装置301は、電気抵抗成分Reeの上昇を検知することで、半導体装置101の劣化を判定する。
【0049】
次に、劣化判定装置301の構成について説明する。劣化判定装置301は、半導体装置101、ゲート駆動部40、電圧検出部51、電流検出部30、トリガ部70及び制御部21を備える。
【0050】
ゲート駆動部40は、制御部21からのスイッチング指令Sgに従って、半導体装置101のゲート端子Gと補助エミッタ端子Esとの間に半導体装置101のIGBTチップQ1をスイッチングさせる駆動電圧を印加するゲート駆動回路である。ゲート駆動部40は、例えば、上述のゲート駆動部PD1に相当する。スイッチング指令Sgは、IGBTチップQ1のスイッチングタイミング(ターンオンタイミング及びターンオフタイミング)を指示する上述のスイッチング指令S1に相当する。
【0051】
電圧検出部51は、半導体装置101の補助エミッタ端子Esとエミッタ端子Eとの間の電圧Veeを検出し、検出された電圧Veeをトリガ部70へ出力する回路である。
【0052】
電流検出部30は、コレクタ端子C又はエミッタ端子Eから出力される交流電流iuを検出し、交流電流iuの検出値を制御部21に出力する。
【0053】
トリガ部70は、電圧検出部51により検出された電圧Veeが閾値電圧Veeth以上になると、トリガ信号Strを生成する回路である。トリガ信号Strは、電圧検出部51により検出された電圧Veeが閾値電圧Veeth以上であることを表す。トリガ信号Strは、タイミング信号ともいう。トリガ部70は、電圧検出部51により検出された電圧Veeが閾値電圧Veeth以上であることをトリガにトリガ信号Strを出力する。
【0054】
なお、トリガ部70は、制御部21に設けられてもよい。
【0055】
トリガ部70は、この例では、コンパレータ71及びアイソレータ72から構成される。
【0056】
コンパレータ71は、電圧検出部51により検出された電圧Veeを所定の閾値電圧Veethと比較する。コンパレータ71は、検出された電圧Veeが閾値電圧Veethよりも高いとき、トリガ信号Strをアサートする(この例では、トリガ信号Strの論理レベルをハイレベルとする)。一方、コンパレータ71は、検出された電圧Veeが閾値電圧Veethよりも低いとき、トリガ信号Strをネゲートする(この例では、トリガ信号Strの論理レベルをローレベルとする)。
【0057】
アイソレータ72は、コンパレータ71と制御部21との間の電気的な絶縁を確保した状態で、コンパレータ71から出力されたトリガ信号Strを制御部21に転送する。アイソレータ72の具体例として、フォトカプラ等が挙げられる。
【0058】
制御部21は、半導体装置101のスイッチングを制御するコントローラである。制御部21は、上述の制御装置20(
図1)に相当するが、制御装置20とは異なるコントローラでもよい。制御部21は、指令部22、電流推定部23及び劣化判定部24を有する。
【0059】
指令部22は、電流検出部30から取得した交流電流iu,iv,iwの検出値等に基づいて、IGBTチップQ1をスイッチングさせるスイッチング指令Sgを生成する。
【0060】
半導体装置101には、電流Icが流れる。電流Icの符号は、例えば、コレクタ端子CからIGBTチップQ1を経由してエミッタ端子Eへ流れる方向を正とし、エミッタ端子EからFWDチップD1を経由してコレクタ端子Cへ流れる方向を負とする。インバータの場合、制御部21の電流推定部23は、電流検出部30から取得した交流電流iu,iv,iwと指令部22から取得したスイッチング指令Sgのオン指令又はオフ指令の状態とによって、電流Icがどちらの方向に流れているか判定できる。
【0061】
図4は、半導体装置の両主端子間の通電状態での電流Icの検出動作に伴う各部の波形を例示するタイミングチャートである。図の例では、交流電流iuは正弦波の負荷電流であり、U相電圧指令は正弦波電圧である。U相の上下アームのオン状態とオフ状態は、U相電圧指令とキャリア波の大小関係によって決まる。図の例では、制御装置20は、U相電圧指令がキャリア波よりも大きい期間では、IGBTチップQ1をオン且つIGBTチップQ2をオフとするスイッチング指令S1を出力する。一方、制御装置20は、U相電圧指令がキャリア波よりも小さい期間では、IGBTチップQ1をオフ且つIGBTチップQ2をオンとするスイッチング指令S1を出力する。
【0062】
IGBTチップQ1がオン且つ交流電流iuが正のときに、交流電流iuと同じ電流がIGBTチップQ1に流れる。IGBTチップQ2がオフ且つ交流電流iuが負のときに、交流電流iuと同じ電流がFWDチップD1に流れる。
【0063】
電流推定部23(
図3)は、トリガ信号Strが入力(アサート)されると、電流iuの検出値を電流検出部30から取得する。トリガ信号Strは、検出された電圧Veeが正の閾値電圧Veethよりも高いとき、アサートされる。
【0064】
電流推定部23は、電流検出部30により検出された電流iuの検出値を、トリガ信号Strに対応するタイミングでサンプリングする。これにより、電流推定部23は、コレクタ端子CからIGBTチップQ1及び電気抵抗成分Reeを経由してエミッタ端子Eへ電流Icが流れている状態(通電状態A)において、トリガ信号Strに対応するタイミングで流れている電流Icの値を推定できる。
【0065】
なお、IGBTチップがオン状態(通電状態)のときの主端子間の電流Icの検出方法は、これに限られない。例えば、主端子間の電流Icは、ロゴスキーコイルなどの電流計測手段により測定されてもよい。
【0066】
このように、
図3に示す半導体装置101の導通時には、コレクタ端子Cとエミッタ端子Eとの間(主端子間)に、主電流(この例では、電流Ic)が流れている。電流Icが主端子間に流れている時、半導体装置101の主端子間で発生する電圧降下は、コレクタ端子Cとエミッタ電極11eとの間の電圧降下と、エミッタ電極11eとエミッタ端子Eとの間の電圧降下とを含む。
【0067】
コレクタ端子Cとエミッタ電極11eとの間の電圧降下は、主に、IGBTチップQ1の電圧降下と、チップ下のはんだ等の接合材を含む電気抵抗成分Rsによる電圧降下とを含む。エミッタ電極11eとエミッタ端子Eとの間の電圧降下は、主に、エミッタ電極11eとエミッタ端子Eとの間を電気的に接続するワイヤ15を含む電気抵抗成分Reeによる電圧降下を含む。
【0068】
劣化判定部24は、閾値電圧Veethを電流推定部23により推定された電流(トリガ信号Strに対応するタイミングで流れている電流Ic)で除算することで、電気抵抗成分Reeの推定値を算出する。劣化判定部24は、電気抵抗成分Reeの推定値を、半導体装置101の劣化判定のための判定値として使用する。
【0069】
劣化判定部24は、電気抵抗成分Reeの推定値を所定の判定レベルと比較することで、半導体装置101の劣化を判定してもよい。劣化判定部24は、例えば、電気抵抗成分Reeの推定値が所定の判定レベルを超えることが検出された場合、半導体装置101の劣化(エミッタ電極11eとエミッタ端子Eとの間の電気的な接続部分)が劣化したと判定し、当該劣化を知らせるアラームを発報する。
【0070】
このように、本実施形態の劣化判定装置301は、電流推定部23により推定された電流(トリガ信号Strに対応するタイミングで流れている電流Ic)に対応する判定値を用いて半導体装置101の劣化を判定する。これにより、電圧検出部51により検出された電圧Veeが閾値電圧Veeth以上となるタイミングに同期した特定のタイミングで流れている電流Icが判定値に加味されるので、劣化判定の精度が向上する。なお、電圧検出部51により検出された電圧Veeが閾値電圧Veeth以上となるタイミングに同期した特定のタイミングとは、電圧Veeが閾値電圧Veeth以上となる瞬間(タイミング)と同一のタイミングとは限らない。
【0071】
例えば、IGBTチップQ1のターンオン直後に電圧検出部51により検出された電圧Veeが閾値電圧Veeth以上となるタイミングと同一のタイミングで流れている電流Icに対応する判定値は、半導体装置101の劣化判定のための判定値として使用されなくてもよい。これは、IGBTチップQ1のターンオン直後の期間においては、サージ電流などにより定常状態と比べ過大な電流Icが流れている可能性が高いためである。したがって、IGBTチップQ1のターンオン直後を除く定常状態で流れている電流Icに対応する判定値を用いて半導体装置101の劣化を判定することで、半導体装置101の劣化が進行していない段階において、劣化判定装置301が半導体装置101の劣化を誤判定する可能性を抑制することができる。
【0072】
また、劣化判定装置301は、トリガ信号Strに対応するタイミングで流れている電流Icを測定することで半導体装置101の劣化を測定する。すなわち、劣化測定にはトリガ信号Strを制御部21に入力すればよいため、高電位部となる半導体装置101との電気的な絶縁はコンパレータ71の出力のみでよい。つまり、高電位部となる半導体装置101の電圧(
図3では、電圧Vee)を、制御部21に入力するための耐圧性能を有するADコンバータが不要である。よって、劣化判定装置301は、半導体装置101の劣化を簡素な構成で判定できる。
【0073】
次に、劣化判定装置301のより詳細な構成及び動作について説明する。
【0074】
図5は、第1実施形態に係る劣化判定装置の動作を例示するタイミングチャートである。電圧検出部51は、電圧Veeを検出し、トリガ部70は、検出された電圧Veeを所定の閾値電圧Veethとコンパレータ71により比較する。
【0075】
閾値電圧Veethは、例えば、半導体装置101の劣化が進む前の半導体装置101又は電力変換装置のハーフロード時の電圧Veeに設定される。半導体装置101又は電力変換装置のハーフロードとは、半導体装置101又は電力変換装置の定格電力の40%以上60%以下の電力が出力されている状態と定義されてもよい。出力電力が定格電力に近い重負荷の発生頻度はあまり高くないので、閾値電圧Veethが重負荷時の電圧Veeに設定されると、劣化の判定間隔が長くなる可能性がある。一方、出力電力が零に近い軽負荷時の電圧Veeの大きさは小さくなるので、閾値電圧Veethが軽負荷時の電圧Veeに設定されると、ノイズに弱くなる可能性がある。したがって、これらの可能性が考えられる場合、閾値電圧Veethは、ハーフロード時の電圧Veeに設定されることが好ましい。なお、閾値電圧Veethは、ハーフロード時よりも電圧値が低い又は高い電圧Veeに設定されてもよい。
【0076】
トリガ部70は、電圧Veeが閾値電圧Veethよりも高いときにハイレベル(H)の状態となり、電圧Veeが閾値電圧Veethよりも低いときにローレベル(L)の状態となるトリガ信号Strを生成する。トリガ信号Strは、アイソレータ72を経由して制御部21へ伝送される。制御部21の電流推定部23は、IGBTチップQ1がオン状態である期間内の特定の時刻でトリガ信号Strを読み取り、その読み取ったトリガ信号Strの値をStr'とする。なお、Str'はトリガ信号Strに対応するタイミングの一例である。電流推定部23は、Str'がローレベルからハイレベル又はハイレベルからローレベルに変化するタイミングにおける電流Icを推定する。電流推定部23は、指令部22により生成されるスイッチング指令Sgと電流検出部30により検出される負荷電流(交流電流iu)とを用いて電流Icを推定する。
【0077】
なお、IGBTチップQ1がオン状態である期間内の特定の時刻とは、スイッチング指令Sgがオフ指令からオン指令に切り替わってからの所定の時間が経過した時刻であり、例えば
図4に示すようにキャリア波が谷となるタイミングである。このようにIGBTチップQ1のターンオンから一定期間が経過したタイミングにおいて、トリガ信号Strの値をStr'とすることで、ターンオン直後の過大な電流Icが流れている時の電圧Veeを判定値から除外できるため劣化判定の精度を向上できる。
【0078】
劣化判定部24は、閾値電圧Veethを電流推定部23により推定された電流(トリガ信号Strに対応するタイミングで流れている電流Ic)で除算することで、電気抵抗成分Reeの推定値を算出する。劣化判定部24は、電気抵抗成分Reeの推定値を運転時間に対応させてメモリに記録する(
図6参照)。
【0079】
図6は、運転時間に対応させてメモリに記録される電気抵抗成分Reeの推定値の変化を例示する図である。劣化判定部24は、例えば、電気抵抗成分Reeの推定値が故障予兆判定レベルを超えた時点で、半導体装置101の劣化(例えば、故障予兆あり)と判定する。電気抵抗成分Reeの推定値は、例えば、電気抵抗成分Reeの複数の推定値の平均値でもよい。劣化判定部24は、所定の運転期間Tf内において、電気抵抗成分Reeの推定値が故障予兆判定レベルを超える回数が所定回数Nf以上となると、半導体装置101の劣化(例えば、故障予兆あり)と判定してもよい。複数の推定値が劣化判定に考慮されることで、ノイズ等による劣化の誤判定の可能性が抑制される。劣化判定部24は、電気抵抗成分Reeの推定値が所定の一定値を超えるまでに変化する傾向を測定することで、半導体装置101の劣化を判定し、半導体装置101の劣化時期(例えば、故障時期)を予測してもよい。例えば、劣化判定部24は、電気抵抗成分Reeの複数の推定値から回帰分析により得られた回帰曲線(回帰直線を含む)と故障判定レベルとの交点を導出することで、半導体装置101の劣化時期(例えば、故障時期)を予測してもよい。
【0080】
劣化判定部24は、半導体装置101の運転初期の複数の電気抵抗成分Reeの推定値に応じて、故障予兆判定レベルを設定してもよい。例えば、劣化判定部24は、半導体装置101の劣化前の運転時間の初期段階での電気抵抗成分Reeの複数の推定値を平均し、その平均値に所定値を乗算又は加算した値に、故障予兆判定レベルを設定する。半導体装置101の劣化前の運転時間の初期段階とは、例えば、運用開始から所定の初期時間の経過時から所定の運転時間の経過時までの初期期間である。これにより、パワー半導体素子の種類(定格容量等)によって異なる故障予兆判定レベルを、自動で設定することができる。
【0081】
劣化判定部24は、あらかじめ決められた値(例えば、開発時または出荷試験時などの事前に測定された値)に、故障予兆判定レベルを設定してもよい。
【0082】
なお、本実施形態の劣化判定装置301は、電流推定部23により推定された電流(トリガ信号Strに対応するタイミングで流れている電流Ic)に対応する判定値として、電気抵抗成分Reeの推定値を使用する。しかし、当該判定値は、電流Icに関する値でもよい。上記の説明において、電気抵抗成分Reeを電流Icと置き換えても、劣化判定の精度が向上する。ただし、電気抵抗成分Reeが劣化により上昇すると、電流Icは減少するので、劣化判定部24は、例えば、電流Icの推定値が故障予兆判定レベルを下回ると、半導体装置101の劣化(例えば、故障予兆あり)と判定してもよい。
【0083】
<第2実施形態に係る劣化判定装置>
図7は、第2実施形態に係る劣化判定装置の構成例を示す図である。第2実施形態において、第1実施形態と同様の構成、作用及び効果についての説明は、上述の説明を援用することで、省略する。第2実施形態は、トリガ部70がIGBTチップQ1のターンオンから所定時間経過後にトリガ信号Strの生成を許可する点で、第1実施形態と相違する。
【0084】
図7に示す例では、トリガ部70は、BT生成部73及び論理積ゲート74を有する。BT生成部73は、ブランキングタイム(BT)を生成する回路である。BT生成部73は、トリガ信号Strをブランキングタイム(BT)だけ遅延させる回路である。論理積ゲート74は、BT生成部73から出力されるパルス信号Sbtとコンパレータ71から出力される信号Seeとの論理和信号をトリガ信号Strとして出力する。
【0085】
図8は、第2実施形態に係る劣化判定装置の動作を例示するタイミングチャートである。BT生成部73は、スイッチング指令Sgがオフ指令からオン指令に遷移してから所定のブランキングタイムの経過時にパルス信号Sbtを出力する。論理積ゲート74は、BT生成部73から出力されるパルス信号Sbtとコンパレータ71から出力される信号Seeとの論理和信号をトリガ信号Strとして出力する。トリガ信号Strは、アイソレータ72を経由して制御部21へ伝送される。制御部21の電流推定部23は、トリガ信号Strを読み取り、その読み取ったタイミングにおける電流Icを推定する。以降の動作については、第1実施形態と同様である。
【0086】
IGBTチップQ1がオフからオンにターンオンする過渡期間では、サージ電流が発生し定常状態の電流に対し過大な電流が流れるため、電圧Veeが誤検知されるおそれがある。第2実施形態に係る劣化判定装置302は、スイッチング指令Sgがオフ指令からオン指令に遷移してから所定のブランキングタイムの経過後に流れる電流Icを用いて、半導体装置101の劣化を判定する。よって、IGBTチップQ1のスイッチング動作と同期を取りながらも、過渡期間の過大な電流が流れる期間における劣化判定を実施しないことで、劣化判定の精度が向上する。
【0087】
なお、
図8において、トリガ部70がIGBTチップQ1のターンオンから所定時間経過後にトリガ信号Strを生成する手段は、BT生成部73及び論理積ゲート74に限られない。例えば、トリガ部70は、BT生成部73及び論理積ゲート74に代えて、電圧検出部51とコンパレータ71との間に遅延回路を有してもよい。当該遅延回路は、電圧検出部51から出力される電圧Veeの検出信号を所定時間遅延させてコンパレータ71に向けて出力する。トリガ部70は、このような遅延回路を利用して、IGBTチップQ1のターンオンから所定時間経過後にトリガ信号Strを生成してもよい。また、過渡期間の過大な電流は、IGBTチップQ1のスイッチング速度に起因する。よって、トリガ部70は、BT生成部73及び論理積ゲート74に代えて、電圧検出部51とコンパレータ71との間に、スイッチング速度よりも低い遮断周波数を持つローパスフィルタを有しても同様の効果を得ることができる。
【0088】
<第3実施形態に係る劣化判定装置>
図9は、第3実施形態に係る劣化判定装置の構成例を示す図である。第3実施形態において、上述の実施形態と同様の構成、作用及び効果についての説明は、上述の説明を援用することで、省略する。
【0089】
コレクタ電極11cとコレクタ端子Cとの間の電気的な接続部分の劣化が進行すると、電気抵抗成分Rsが上昇する。第3実施形態に係る劣化判定装置303は、電気抵抗成分Rsと電気抵抗成分Reeを組み合わせた抵抗成分の上昇を検知することで、半導体装置101の劣化を判定する。
【0090】
第3実施形態では、電圧検出部51は、半導体装置101のコレクタ端子Cとエミッタ端子Eとの間の電圧Vceを検出し、検出された電圧Vceをトリガ部70へ出力する。トリガ部70は、電圧検出部51により検出された電圧Vceが閾値電圧Vcethをクロスすると、トリガ信号Strを生成する。その余の点は、上述の実施形態と同様でよい。
【0091】
以上の通り、実施形態を説明したが、上記実施形態は、例として提示したものであり、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の組み合わせ、省略、置き換え、変更などを行うことが可能である。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0092】
例えば、半導体素子は、IGBT又はMOSFET等のパワートランジスタに限られず、ダイオード、サイリスタ、ゲートターンオフサイリスタ、トライアックなどでもよい。
【0093】
また、例えば、電流推定部23と劣化判定部24の一方または両方を、制御装置20とは異なる外部装置(例えば、演算器を有するサーバなどの情報処理装置)に実装されてもよい。この場合、外部装置は、トリガ信号StrまたはStr'と交流電流iuまたは主端子間の電流Icの情報を受信することで、半導体装置101の劣化を判定できる。
【符号の説明】
【0094】
5 絶縁基板
8 表面
9 裏面
10 主回路部
11a アノード電極
11c コレクタ電極
11e エミッタ電極
11g ゲート電極
11k カソード電極
12 表面
13 裏面
14 負荷
15~19 ワイヤ
20 制御装置
21 制御部
22 指令部
23 電流推定部
24 劣化判定部
30 電流検出部
33 電源
40 ゲート駆動部
51 電圧検出部
61 推定部
62 判定部
70 トリガ部
101 半導体装置
111~116 パワー半導体モジュール
200 電力変換装置
301,302,303 劣化判定装置
C コレクタ端子
E エミッタ端子
Es 補助エミッタ端子
G ゲート端子