(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162204
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】穿孔ガイド及び被穿孔品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B23B 49/00 20060101AFI20241114BHJP
【FI】
B23B49/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023077529
(22)【出願日】2023-05-09
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100136504
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 毅彦
(72)【発明者】
【氏名】熊井 賢
(72)【発明者】
【氏名】正能 誉之
【テーマコード(参考)】
3C036
【Fターム(参考)】
3C036BB11
(57)【要約】
【課題】異なる複数の曲率を有する複合曲面を手持ち式の工具回転装置で保持したドリルで穿孔する場合において、ドリルを複合曲面に対して安定的に位置決めできるようにすることである。
【解決手段】穿孔ガイドは、ドリルをガイドするための位置決めブッシュを滑合させるための貫通孔を形成する内面と、作業者が指で保持するための外面とを有する筒状のガイドである。3つの切欠きを設けることによって、外側の輪郭線、内側の円弧を含む輪郭線及び貫通孔の半径方向を長さ方向とする2本の線分で囲まれた3つの端面を等間隔に形成し、ワークの穿孔位置の周囲における部分の表面が平面である場合には端面を面接触させることによって位置決めブッシュを位置決めする一方、単一又は複数の曲率を有する曲面である場合には端面の内側における円弧の少なくとも一部を線接触又は点接触させることによって位置決めブッシュを位置決めするようにした。
【選択図】
図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドリルをガイドするための位置決めブッシュの円筒状の部分を滑合させるための貫通孔を形成する内面と、
作業者が指で保持するための外面と、
を有する筒状の穿孔ガイドであって、
ワークの穿孔時に切粉を排出する一方、穿孔箇所を作業者が視認できるように等間隔に3つの切欠きを設けることによって、それぞれ外側の輪郭線、内側の円弧を含む輪郭線及び前記貫通孔の半径方向を長さ方向とする2本の線分で囲まれた3つの平面からなる端面を、法線方向を前記貫通孔の中心軸方向とする同一平面上に等間隔に形成し、
前記ワークの穿孔位置の周囲における部分の表面が平面である場合には前記3つの端面を前記部分に面接触させることによって前記位置決めブッシュを前記ワークに対して位置決めする一方、
前記部分の表面が単一又は複数の曲率を有する曲面である場合には前記3つの端面の前記内側における円弧の少なくとも一部をそれぞれ前記部分に線接触又は点接触させることによって前記位置決めブッシュを前記ワークに対して位置決めするようにした穿孔ガイド。
【請求項2】
前記3つの切欠きを、それぞれ法線方向が前記貫通孔の中心軸方向及び半径方向に垂直な平面からなる2つの側面と、法線方向が前記貫通孔の中心軸方向に対して前記貫通孔の外側に向かって傾斜している平面からなる底面で、それぞれ形成することによって、作業者が前記穿孔箇所を視認可能な範囲を広げた請求項1記載の穿孔ガイド。
【請求項3】
前記外面に、前記貫通孔の中心軸に垂直な方向における幅が前記端面に向かって徐々に大きくなる部分を設けた請求項1記載の穿孔ガイド。
【請求項4】
前記内側の円弧の中心角を55度以上65度以下とした請求項1記載の穿孔ガイド。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の穿孔ガイドで前記ドリルの位置決めを行うステップと、
位置決めされた前記ドリルで前記ワークを穿孔することによって被穿孔品を製造するステップと、
を有する被穿孔品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、穿孔ガイド及び被穿孔品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ドリルを保持した手持ち式の工具回転装置でワークの穿孔を行う場合には、ワークに対するドリルの位置決めを行うことが必要となる場合が多い。そこで、従来、手持ち式の工具回転装置で保持されたドリルをワークに対して位置決めするための様々な治具が考案されている(例えば特許文献1及び特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実公昭50-037096号公報
【特許文献2】特開2009-050946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
航空機部品は多品種少量生産であることから、航空機部品の穿孔は作業者による手作業で行われることが多い。しかも、航空機部品の場合には、曲率が少なくとも2方向に異なる複合曲面に穿孔することが必要となる場合がある。ドリルで複合曲面を穿孔しようとする場合、平面をワークに面接触させて位置決めを行う位置決め治具を使用することはできない。これは、複合曲面に平面を押し当てても面接触しないためである。
【0005】
また、球面を穿孔する場合であれば、典型的な円筒状のドリルガイドブッシュの端部に形成される円形の縁を穿孔対象となる球面に押付けることによって、ドリルの軸方向が球面に垂直となるようにドリルを位置決めすることが可能であるが、曲率半径が複数方向に異なる複合曲面を穿孔する場合には、ドリルガイドブッシュの円形の縁を押し当てても連続的な円で線接触せず不安定となる。すなわち、複合曲面を穿孔する場合には、従来の典型的な円筒状のドリルガイドブッシュを使用して位置決めすることもできない。
【0006】
そこで、本発明は、異なる複数の曲率を有する複合曲面を手持ち式の工具回転装置で保持したドリルで穿孔する場合において、ドリルを複合曲面に対して安定的に位置決めできるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態に係る穿孔ガイドは、ドリルをガイドするための位置決めブッシュの円筒状の部分を滑合させるための貫通孔を形成する内面と、作業者が指で保持するための外面とを有する筒状の穿孔ガイドであって、ワークの穿孔時に切粉を排出する一方、穿孔箇所を作業者が視認できるように等間隔に3つの切欠きを設けることによって、それぞれ外側の輪郭線、内側の円弧を含む輪郭線及び前記貫通孔の半径方向を長さ方向とする2本の線分で囲まれた3つの平面からなる端面を、法線方向を前記貫通孔の中心軸方向とする同一平面上に等間隔に形成し、前記ワークの穿孔位置の周囲における部分の表面が平面である場合には前記3つの端面を前記部分に面接触させることによって前記位置決めブッシュを前記ワークに対して位置決めする一方、前記部分の表面が単一又は複数の曲率を有する曲面である場合には前記3つの端面の前記内側における円弧の少なくとも一部をそれぞれ前記部分に線接触又は点接触させることによって前記位置決めブッシュを前記ワークに対して位置決めするようにしたものである。
【0008】
また、本発明の実施形態に係る被穿孔品の製造方法は、上述した穿孔ガイドで前記ドリルの位置決めを行うステップと、位置決めされた前記ドリルで前記ワークを穿孔することによって被穿孔品を製造するステップとを有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係る穿孔ガイドの正面図。
【
図9】
図1に示す穿孔ガイド1に挿入されるドリルガイドブッシュの形状例を示す正面図。
【
図10】
図9に示すドリルガイドブッシュの右側面図。
【
図11】
図9に示すドリルガイドブッシュの底面図。
【
図12】
図1に示す穿孔ガイドを用いて複合曲面を有するワークに対してドリルを位置決めした例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態に係る穿孔ガイド及び被穿孔品の製造方法について添付図面を参照して説明する。
【0011】
(構成及び機能)
図1は、本発明の実施形態に係る穿孔ガイド1の正面図、
図2は、
図1に示す穿孔ガイド1の背面図、
図3は、
図1に示す穿孔ガイド1の右側面図、
図4は、
図1に示す穿孔ガイド1のA-A線断面図、
図5は、
図1に示す穿孔ガイド1の斜視図、
図6は、
図1に示す穿孔ガイド1の左側面図、
図7は、
図1に示す穿孔ガイド1の平面図、
図8は、
図1に示す穿孔ガイド1の底面図である。
【0012】
また、
図9は、
図1に示す穿孔ガイド1に挿入されるドリルガイドブッシュ2の形状例を示す正面図、
図10は、
図9に示すドリルガイドブッシュ2の右側面図、
図11は、
図9に示すドリルガイドブッシュ2の底面図、
図12は、
図1に示す穿孔ガイド1を用いて複合曲面を有するワークWに対してドリルDを位置決めした例を示す図である。
【0013】
穿孔ガイド1は、手持ち式の工具回転装置で保持したドリルDをガイドするためのドリルガイドブッシュ2を
図12に示すように挿入して使用する穿孔治具である。ドリルガイドブッシュ2は、ドリルDをガイドするための位置決めブッシュである。ドリルガイドブッシュ2は、炭素工具鋼鋼材等の鋼材で構成される。
【0014】
ドリルガイドブッシュ2は、
図9乃至
図12に例示されるように筒状構造を有する。より具体的には、ドリルガイドブッシュ2には、ドリルDを挿入するための貫通するガイド孔3が中心軸に沿って形成される。両端が開口するドリルガイドブッシュ2の内径、すなわちガイド孔3の直径は、ドリルDの振れを防止できるようにドリルDの工具径に合わせて決定される。
【0015】
典型的なドリルガイドブッシュ2は、図示されるように、ドリルDの位置決めを行うための円筒状の外面を形成するブッシュ本体となる円筒状の部分4に、円筒状の部分4の直径よりも大きい直径を有する頭5を設けた形状となっている。ドリルガイドブッシュ2の頭5には、作業者が指で保持し易くなるようにローレット加工等を施したり、穿孔ガイド1を使用せずに穿孔板等を使用してドリルガイドブッシュ2を位置決めする場合においてドリルガイドブッシュ2を止めネジで固定できるように切欠きや他の部分よりも厚さを薄くした部分を形成したりすることができる。
【0016】
ドリルガイドブッシュ2及びドリルDを挿入して使用する穿孔ガイド1も、図示されるように筒状構造となる。具体的には、穿孔ガイド1は、ドリルガイドブッシュ2の位置決め用の円筒状の部分4を滑合させるための位置決め孔6を形成する円筒状の内面7と、作業者が指で保持する部分を形成する外面8を有する。
【0017】
位置決め孔6は、穿孔ガイド1の中心軸AXに沿う貫通孔であり、位置決め孔6の直径は、ドリルガイドブッシュ2の円筒状の部分4における外径との間で隙間嵌めの嵌め合い公差となるように決定される。このため、ドリルガイドブッシュ2の円筒状の部分4を穿孔ガイド1の位置決め孔6に差し込むと、
図12に例示されるように、ドリルDの工具軸、ドリルガイドブッシュ2の中心軸及び位置決め孔6の中心軸AXは同一直線上となる。
【0018】
穿孔ガイド1は、ドリルガイドブッシュ2の中心軸とともにドリルDの工具軸をワークWに対して位置決めするための補助具である。穿孔ガイド1は、ワークWの穿孔位置の周囲における部分の表面が平面である場合はもちろん、ワークWの穿孔位置の周囲における部分の表面が単一又は複数の曲率を有する曲面である場合であっても、ドリルガイドブッシュ2の中心軸及びドリルDの工具軸をワークWに対して位置決めすることが可能な形状を有している。
【0019】
具体的には、穿孔ガイド1のワークW側における開口端には、3つの切欠き9が等間隔に形成されている。その結果、穿孔ガイド1のワークW側における端面10は、連続的かつ環状の端面とはならず、断続的かつ等間隔に配置された3つの端面10となる。穿孔ガイド1のワークW側における端面10は、法線方向を位置決め孔6の中心軸AX方向とし、かつ同一平面上にある平面とされる。
【0020】
従って、ワークWの穿孔位置の周囲における部分の表面が平面である場合には、穿孔ガイド1のワークW側における3つの端面10を、ワークWの穿孔位置の周囲における部分の表面に面接触させることができる。この場合、ドリルDの工具軸、ドリルガイドブッシュ2の中心軸及び位置決め孔6の中心軸AXは、ワークWの穿孔位置の周囲における部分の表面に対して垂直となる。このため、ドリルガイドブッシュ2の中心軸及びドリルDの工具軸がワークWの表面に対して垂直となるように、ワークWに対してドリルガイドブッシュ2の中心軸及びドリルDの工具軸を位置決めすることができる。
【0021】
また、穿孔ガイド1のワークW側における3つの端面10は、横断面が円形である位置決め孔6と隣接していることから、位置決め孔6と隣接する3つの端面10の各輪郭はそれぞれ同一円上にある断続的な円弧となる。3つの端面10は位置決め孔6を囲む円周方向に等間隔に配置されるため、3つの端面10の輪郭の一部をそれぞれ形成する3つの円弧も位置決め孔6を囲む円周方向に等間隔に配置される。
【0022】
従って、ワークWの穿孔位置の周囲における部分の表面が、曲率が一定の曲面、すなわち球面の一部である場合には、穿孔ガイド1のワークW側における端面10の内側における3か所の円弧を球面に線接触させることができる。この場合、ドリルDの工具軸、ドリルガイドブッシュ2の中心軸及び位置決め孔6の中心軸AXは、ワークWの穿孔位置も周囲と同じ曲率を有する球面であれば、ワークWの穿孔位置における球面に対して垂直となる。このため、ドリルガイドブッシュ2の中心軸及びドリルDの工具軸がワークWの曲面に対して垂直となるように、ワークWに対してドリルガイドブッシュ2の中心軸及びドリルDの工具軸を位置決めすることができる。
【0023】
一方、ワークWの穿孔位置の周囲における部分の表面が、典型的には2方向に異なる曲率を有する複合曲面のように複数の曲率を有する複合曲面である場合には、穿孔ガイド1のワークW側における端面10の内側における3か所の円弧の少なくとも一部を線接触又は点接触させることができる。この場合、ドリルDの工具軸、ドリルガイドブッシュ2の中心軸及び位置決め孔6の中心軸AXを、複合曲面の各曲率に応じた特定の方向に向けることができる。
【0024】
このように、穿孔ガイド1のワークW側における端面10の内側の縁として等間隔かつ断続的な3つの円弧を形成すれば、ワークWの穿孔位置の周囲における部分の表面が単一の曲率を有する曲面である場合に限らず、複数の曲率を有する曲面である場合であっても、3つの端面10の内側における円弧の少なくとも一部をそれぞれワークWの穿孔位置の周囲における部分に線接触又は点接触させることによってドリルガイドブッシュ2の中心軸方向及びドリルDの工具軸をワークWに対して位置決めすることができる。
【0025】
穿孔ガイド1のワークW側における開口端に形成される3か所の切欠き9は、ワークWの穿孔位置の周囲における部分の表面が、曲率が大きな複合曲面である場合に穿孔ガイド1をワークWの表面に対して少なくとも3点で接触させるための逃げとしての役割を担っている。従って、切欠き9及び端面10を交互に4か所以上形成したり、位置決め孔6を囲む円周方向における切欠き9の長さ又は端面10の長さが短過ぎたりすると、穿孔ガイド1をワークWの表面に対して特定の向きに向けて安定して接触させることができない場合が生じ得る。
【0026】
このため、切欠き9及び端面10は、位置決め孔6を囲む円周方向に交互に3か所形成することとし、かつ位置決め孔6を囲む円周方向における切欠き9の長さと、端面10の長さのバランスを適切なバランスとすることが適切である。不特定の曲率を有する様々な複合曲面に穿孔ガイド1をできるだけ安定的に接触できるようにするためには、穿孔ガイド1のワークW側における開口端に形成される3か所の円弧の長さを等間隔かつ同じ長さとする他、各円弧の長さと、円弧が途切れている円弧形状の区間の長さを同等にすることが適切である。
【0027】
換言すれば、3か所の端面10の内側における縁を形成する各円弧の中心角θ1を60度とするか、60度に近づけることが適切である。そこで、各端面10の内側における縁を形成する円弧の中心角θ1を55度以上65度以下に決定することができる。円弧の中心角θ1を60度とする場合には、位置決め孔6を囲む円周方向における切欠き9の長さと、端面10の長さは、同一円上において同一となる。
【0028】
穿孔ガイド1のワークW側に形成される3か所の切欠き9は、穿孔ガイド1を複合曲面と安定的に接触させるための逃げとして機能する他、ワークWの穿孔時における切粉の排出口及び穿孔箇所を作業者が視認するための窓としても利用することができる。すなわち、3つの切欠き9は、ワークWの穿孔時に切粉を排出する一方、穿孔箇所を作業者が視認できるように、穿孔ガイド1のワークW側における端部に設けられる。
【0029】
穿孔箇所を作業者が視認し易くするためには、各切欠き9を底面9Aとそれぞれ平面からなる2つの側面9Bで形成し、各側面9Bの法線方向を位置決め孔6の半径方向及び中心軸AXの双方に対して垂直な方向、つまり位置決め孔6の中心軸AX上に中心を有する円の接線方向とすることが好ましい。
【0030】
この場合、位置決め孔6の中心軸AXに垂直な面上において各切欠き9が穿孔ガイド1の内側から外側に向かって広がるため、作業者の視認性を向上させることができる。すなわち、作業者がドリルD及びワークWの穿孔位置を見ることが可能な範囲を、位置決め孔6を囲む円周方向において、できるだけ広くすることができる。
【0031】
各切欠き9を形成する2つの側面9Bの法線方向を位置決め孔6の半径方向及び中心軸AXの双方に対して垂直な方向とする場合には、各切欠き9を形成する2つの側面9Bのなす角度が、各切欠き9を形成する底面9Aの内側における縁として形成される円弧の中心角θ2と等しくなる。
【0032】
従って、端面10の内側における各円弧の中心角θ1を55度以上65度以下とする場合には、底面9Aの内側における円弧の中心角θ2と、各切欠き9を形成する2つの側面9Bのなす角度も55度以上65度以下となる。また、端面10の内側における各円弧の中心角θ1を60度とする場合には、底面9Aの内側における円弧の中心角θ2と、各切欠き9を形成する2つの側面9Bのなす角度も60度となる。
【0033】
穿孔箇所の視認性を向上させる観点からは、各切欠き9を形成する2つの側面9Bのなす角度を、底面9Aの内側における円弧の中心角θ2よりも大きくするメリットは乏しい。これは、側面9Bのなす角度を底面9Aの内側における円弧の中心角θ2より大きくしても、穿孔ガイド1の外部から切欠き9を通じてドリルD及びワークWの穿孔位置を視認できる範囲は変わらない上、各端面10の面積が減少し、穿孔ガイド1の安定性と強度が低下するためである。
【0034】
逆に、各切欠き9を形成する2つの側面9Bのなす角度を底面9Aの内側における円弧の中心角θ2より小さくするメリットも乏しい。これは、側面9Bのなす角度を底面9Aの内側における円弧の中心角θ2より小さくすると、穿孔ガイド1の外部から切欠き9を通じてドリルD及びワークWの穿孔位置を視認できる範囲が減少するためである。
【0035】
従って、各切欠き9を形成する2つの側面9Bのなす角度を底面9Aの内側における円弧の中心角θ2と等しくすること、つまり上述したように、各側面9Bの法線方向を位置決め孔6の半径方向及び中心軸AXの双方に対して垂直な方向とすることが、穿孔ガイド1の安定性と強度を確保しつつドリルD及びワークWの穿孔位置の視認性を向上させる観点から望ましい条件となる。
【0036】
加えて、ドリルD及びワークWの穿孔位置の視認性を向上させるために、各切欠き9の底面9Aについても、法線方向が位置決め孔6の中心軸AXに対して位置決め孔6の外側に向かって傾斜している平面で形成することができる。具体例として、位置決め孔6の中心軸AXに対する各切欠き9の底面9Aの法線方向の傾斜角度θ3を40度以上50度以下にすることができる。
【0037】
図示された例では、各切欠き9の底面9Aの傾斜角度θ3、すなわち各切欠き9の底面9Aの法線方向と、位置決め孔6の中心軸AXとのなす角度が45度となっている。このため、作業者が穿孔箇所を視認可能な範囲を位置決め孔6の中心軸AX方向に広げることができる。
【0038】
各切欠き9の側面9Bは端面10と隣接している。すなわち、切欠き9の各側面9Bと隣接する端面10は輪郭線の一部を共有している。従って、側面9Bの法線方向を位置決め孔6の半径方向に垂直にすると、側面9B及び端面10の共通の輪郭線は、位置決め孔6の半径方向を長さ方向とする線分となる。その結果、各端面10は、それぞれ外側の輪郭線、内側の円弧を含む輪郭線及び位置決め孔6の半径方向を長さ方向とする2本の線分で囲まれた形状を有する平面となる。
【0039】
また、図示されるように、穿孔ガイド1のワークW側における端部の外面8の形状を円筒の一部とする場合には、各端面10の外側の輪郭線が外面8の縁を形成する円弧となる。その結果、3か所の端面10は、それぞれセクタ形状、すなわち半径が大きい扇形から中心角が同一かつ半径が小さい扇形を切り取った形状となる。
【0040】
より具体的には、各端面10は、それぞれ穿孔ガイド1の外径に相当する外面8の直径と同一の直径を有する外側の円弧、穿孔ガイド1の内径に相当する位置決め孔6の直径と同一の直径を有する内側の円弧及び位置決め孔6の半径方向を長さ方向とする2本の線分で囲まれたセクタ形状を有する平面となる。
【0041】
但し、図示されるように、必要に応じて穿孔ガイド1の内面7に位置決め孔6の中心軸AX方向を長さ方向とするキー溝7Aを形成しても良い。この場合、キー溝7Aに対応するキーをドリルガイドブッシュ2の円筒状の部分4に形成すれば、主に手持ち式の工具回転装置でドリルDを回転させた場合等に、ドリルガイドブッシュ2が穿孔ガイド1に対して回転することを抑止することができる。
【0042】
キー溝7Aを端面10の1つにまで到達するように形成する場合には、当該端面10の形状は、
図2に示すように厳密にはセクタ形状に凹みを設けた形状となる。すなわち、キー溝7Aが形成されている端面10の内側の輪郭線は、内側の円弧とキー溝7Aの横断面における輪郭を含む輪郭線となる。
【0043】
穿孔ガイド1の内面7に限らず、外面8にも必要に応じて凹凸を形成することができる。その場合には、端面10の外側の輪郭線は、外側の円弧を含む輪郭線となる。もちろん、切欠き9を形成した部分における外面8の横断面形状を円弧以外の形状としたり、切欠き9が形成されていない部分における外面8の横断面形状を円形以外の形状としたりしても良い。
【0044】
外面8の横断面形状に関わらず、外面8には、位置決め孔6の中心軸AXに垂直な方向における幅が端面10に向かって徐々に大きくなる部分を形成することができる。換言すれば、外面8の形状を、ワークW側に向かって末広がりとなる形状にすることができる。そうすると、幅が徐々に変化する外面8の部分を、作業者が指で力を掛ける保持部11として利用することができる。
【0045】
つまり、外面8に横断面における幅がワークW側に向かって徐々に大きくなる保持部11を形成すると、作業者は指から摩擦力としてではなく、ワークW側に向かう成分を含む力を保持部11に与えることが可能となる。その結果、作業者は力を入れて穿孔ガイド1をワークWの表面に押し当てることが可能となる。また、その際に穿孔ガイド1に対して指が滑り難くなる。
【0046】
加えて、横断面における外面8の幅を一定とする場合に比べて、端面10の面積を大きくすることができる。その結果、穿孔ガイド1の端面10を平面に面接触させる場合における穿孔ガイド1の安定性と、穿孔ガイド1の強度を向上させることができる。
【0047】
試作試験の結果、端面10の外側の輪郭線を形成する外面8の形状を円弧とし、かつ円弧の直径を25mm前後にすると、端面10を平面に面接触させた場合に穿孔ガイド1の安定性が良好になることが確認された。そこで、例えば、端面10の外側の輪郭線が、直径が25mmの円弧となるように外面8の形状を決定することができる。
【0048】
図示された例では、外面8の横断面形状が、切欠き9が形成されている部分では中心及び半径が同一の円弧となっており、切欠き9が形成されていない部分では円形となっている。また、ワークW側の端面10において外面8の横断面における半径が最大となっており、ワークWと逆側の端面12において外面8の横断面における半径が最小となっている。
【0049】
そして、外面8の横断面における半径が変化する保持部11は、ワークW側の端面10及びワークWと逆側の端面12の双方から離れた位置に、外面8の縦断面上においてR面取りとなるように形成されている。従って、図示された例では、保持部11を形成する外面8の部分は横断面における半径が連続的かつ滑らかに変化する曲面となっている。
【0050】
もちろん、保持部11を円錐台の側面のように横断面における半径が一定の割合で変化する曲面としても良い。すなわち、位置決め孔6の中心軸AXに垂直な方向から見てR面取りを形成する代わりにテーパさせることによって保持部11を形成しても良い。
【0051】
保持部11をワークW側の端面10から離れた位置に形成すると、ワークW側の端面10付近において外面8の横断面における円弧の半径が最大径のまま一定となる。このため、外面8とワークW側の端面10とを連結する稜線が鋭利になることを回避することができる。その結果、作用者の安全性を向上させることができる。
【0052】
尚、外面8とワークW側の端面10とを連結する稜線にR面取りやC面取りを施すことによっても、鋭利な稜線が形成されることを回避できる。但し、図示されるように外面8の横断面における円弧の半径が最大となる範囲に幅を持たせることによって、外面8とワークW側の端面10とを連結する稜線が鋭利になることを回避するようにすれば、面取りを行う場合に生じるワークW側における端面10の面積の減少を回避することができる。
【0053】
つまり、穿孔ガイド1のワークW側における端部に、最大径が一定となる部分を形成することによって、鋭利なエッジが形成されることを回避しつつワークW側における端面10の面積が減少することを回避することができる。その結果、手作業を行う作業者の安全性の確保と、穿孔ガイド1を平面に面接触する場合における安定性の確保を両立させることができる。
【0054】
図示されるように、横断面における半径が変化する保持部11を、切欠き9を形成した部分に跨って形成する場合には、穿孔ガイド1及び保持部11の横断面における半径方向の切欠き9の幅も横断面の位置ごとに変化することになる。具体的には、穿孔ガイド1及び保持部11の横断面における3か所の切欠き9の形状はそれぞれセクタ形状となり、外側の円弧の半径は、ワークW側の端面10から離れる程、短くなる。従って、
図1に示す穿孔ガイド1の正面図及び
図2に示す穿孔ガイド1の背面図において、切欠き9の底面9Aの輪郭の一部となる外側の円弧は、ワークW側の端面10の輪郭の一部となる外側の円弧よりも内側となる。
【0055】
ワークWと逆側における切欠き9がない穿孔ガイド1の端面12は、ドリルガイドブッシュ2の頭5を支持する面として利用される。このため、ワークWと逆側における穿孔ガイド1の端面12は、平面にすることが適切である。
【0056】
従って、ワークWと逆側における穿孔ガイド1の端面12の形状は、ワークWと逆側における外面8の縁の形状を円形とし、かつ内面7にキー溝7Aを設けない場合であれば、環状の平面となる。一方、図示されるように、ワークWと逆側における外面8の縁の形状を円形とし、かつ内面7にキー溝7Aを設ける場合であれば、ワークWと逆側における穿孔ガイド1の端面12の形状は、環状の平面の内側にキー溝7Aに対応する凹みを形成した形状となる。
【0057】
穿孔ガイド1は、ワークW及びドリルガイドブッシュ2とは接触するが、ドリルDとは接触しない。従って、穿孔ガイド1には、ドリルガイドブッシュ2のような強度及び剛性は要求されない。但し、穿孔ガイド1をワークWに接触させた際にワークWを損傷させないことが重要である。
【0058】
ワークWが航空機部品である場合には、ワークWの材質が、アルミニウムやチタン等の金属の他、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP:glass fiber reinforced plastics)や炭素繊維強化プラスチック(CFRP:carbon fiber reinforced plastics)等の複合材とも呼ばれる繊維強化プラスチック(FRP:fiber reinforced plastics)である場合が多い。
【0059】
そこで、穿孔ガイド1は、ワークWを損傷させないように、樹脂又はアルミニウムで構成することができる。図示されるように穿孔ガイド1は、3次元的(3D:three-dimensional)に複雑な形状となる。このため、穿孔ガイド1を樹脂製とすれば、複雑な形状を有する穿孔ガイド1を3Dプリンタで容易に造形することが可能となる。
【0060】
具体的には、熱溶解積層(FDM:Fused Deposition Modeling)方式、光造形方式或いはインクジェット方式に代表される3Dプリンタを用いることによって、ABS樹脂、PLA樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリル樹脂或いはポリエチレンテレフタレート(PET)等の熱可塑性樹脂、エポキシ系樹脂やアクリレート系樹脂等の熱硬化性樹脂を材料として穿孔ガイド1を造形することができる。
【0061】
また、アルミニウムを材料とする3Dプリンタも市販されている。このため、アルミニウムを材料とする3Dプリンタを用いてアルミニウム製の穿孔ガイド1を造形するようにしても良い。
【0062】
もちろん、3Dプリンタを用いずに穿孔ガイド1を製作することも可能である。具体例として、3Dプリンタを用いずにアルミニウム製の穿孔ガイド1を製作する場合であれば、マシニングセンタ等の5軸加工機を用いてパイプ状又はブロック状の素材を機械加工することによって穿孔ガイド1を製作することができる。
【0063】
穿孔ガイド1を用いてワークWを穿孔する場合には、穿孔ガイド1にドリルガイドブッシュ2を挿入した状態で、穿孔ガイド1をワークWに接触させる。一方、手持ち式の工具回転装置でドリルDを保持し、
図12に例示されるようにドリルDをドリルガイドブッシュ2に挿入すれば、穿孔ガイド1でワークWに対するドリルDの位置決めを行うことができる。
【0064】
そして、位置決めされたドリルDを工具回転装置で回転させ、ドリルDに工具軸方向への送りを与えればワークWを穿孔することができる。ドリルDの送りは、作業者が手作業、すなわち工具回転装置をワークWに向かって押し込むことによって行っても良いし、自動送り機能付きの工具回転装置を用いることによって行っても良い。
【0065】
ワークWの穿孔が完了すると、被穿孔品を製造することができる。被穿孔品は、穿孔ガイド1で位置決めされたドリルDで穿孔されているため、良好な品質となる。尚、工具径の小さいドリルDで下孔を加工した後、工具径の大きいドリルDで本孔を加工したり、リーマで下孔の仕上げ加工を行うようにしたりしても良い。その場合には、穿孔ガイド1の位置を変えずにドリルガイドブッシュ2を内径が大きい別のドリルガイドブッシュ2と交換することによって、工具を変更することができる。
【0066】
以上の穿孔ガイド1は、複数の曲率を有する複合曲面に安定的に接触させることが可能な三つ又の脚を有し、かつ穿孔箇所の視認性と平面に接触させる場合における安定性が良好となるように三つ又の脚の間に形成される3か所の切欠き9の形状を内側から外側に向かって開いた形状にしたものである。また、被穿孔品の製造方法は、そのような特徴を有する穿孔ガイド1を用いてワークWを穿孔するようにしたものである。
【0067】
(効果)
このため、穿孔ガイド1及び被穿孔品の製造方法によれば、手持ち式の工具回転装置で保持したドリルDで複数の曲率を有する複合曲面を穿孔する場合において、ドリルDをワークWに対して安定的に位置決めすることができる。その結果、穿孔位置の位置ずれ量を低減し、より高品質は孔を加工することが可能となる。
【0068】
加えて、切り粉の排出口となる切欠き9の形状が内側から外側に向かって開いた形状となっていることから、穿孔前であれば作業者がドリルDの先端及びワークWの穿孔位置を、穿孔中はドリルD及びワークWの穿孔位置を、それぞれ容易に視認することができる。すなわち、作業者は少ない動作でドリルDの刃先及び穿孔部位を見ることが可能となる。
【0069】
また、穿孔ガイド1の外面8に末広がりとなる保持部11を形成すれば、作業者の指が滑り難くなるのみならず、穿孔ガイド1の端面10を平面に面接触させる場合において穿孔ガイド1とワークWの表面との間における接触面積を大きくすることができる。その結果、穿孔ガイド1の保持のし易さと安定性を向上させることができる。具体的には、穿孔ガイド1が適切な穿孔方向に対して傾いたり、穿孔ガイド1がワークW上を滑って位置ずれが生じたりする不都合を回避することができる。
【0070】
(他の実施形態)
以上、特定の実施形態について記載したが、記載された実施形態は一例に過ぎず、発明の範囲を限定するものではない。ここに記載された新規な方法及び装置は、様々な他の様式で具現化することができる。また、ここに記載された方法及び装置の様式において、発明の要旨から逸脱しない範囲で、種々の省略、置換及び変更を行うことができる。添付された請求の範囲及びその均等物は、発明の範囲及び要旨に包含されているものとして、そのような種々の様式及び変形例を含んでいる。
【符号の説明】
【0071】
1 穿孔ガイド
2 ドリルガイドブッシュ
3 ガイド孔
4 円筒状の部分
5 頭
6 位置決め孔
7 内面
7A キー溝
8 外面
9 切欠き
9A 底面
9B 側面
10 端面
11 保持部
12 端面
AX 中心軸
D ドリル
W ワーク
θ1 中心角
θ2 中心角
θ3 傾斜角度