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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024016223
(43)【公開日】2024-02-06
(54)【発明の名称】直接的歯科用充填組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/889 20200101AFI20240130BHJP
   A61K 6/853 20200101ALI20240130BHJP
   A61K 6/887 20200101ALI20240130BHJP
【FI】
A61K6/889
A61K6/853
A61K6/887
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023192119
(22)【出願日】2023-11-10
(62)【分割の表示】P 2022031653の分割
【原出願日】2017-12-13
(31)【優先権主張番号】16205373.0
(32)【優先日】2016-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】502289695
【氏名又は名称】デンツプライ デトレイ ゲー.エム.ベー.ハー.
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】ジラト,フロリアン
(72)【発明者】
【氏名】レン,カロリーネ
(72)【発明者】
【氏名】ヴェーバー,クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァルツ,ウーヴェ
(72)【発明者】
【氏名】クレー,ヨアヒム
(57)【要約】      (修正有)
【課題】深い空洞化う蝕病変の処置において永久的な直接的修復物として使用するための水性歯科用グラスアイオノマー組成物を提供する。
【解決手段】(A)反応性微粒子ガラスと、(B)水溶性の重合性ポリマーであって、酸性基を含み、セメント反応において微粒子ガラスと反応性であり、それにより重合性ポリマーはポリマー骨格及び一つ又は複数の重合性炭素-炭素二重結合を有するペンダント基を有する、水溶性の重合性ポリマーと、(C)重合開始剤系と、を含む組成物とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空洞化う蝕病変の処置に使用される水性歯科用グラスアイオノマー組成物であって、前記グラスアイオノマー組成物は、
(A) 反応性微粒子ガラスと、
(B) 水溶性の重合性ポリマーであって、酸性基を含み、セメント反応において前記微粒子ガラスと反応性であり、それにより前記重合性ポリマーはポリマー骨格及び一つ又は複数の重合性炭素-炭素二重結合を有するペンダント基を有する、水溶性の重合性ポリマーと、
(C) 重合開始剤系と、を含み、
前記歯科用グラスアイオノマー組成物は永久的な直接的修復物として使用される、水性歯科用グラスアイオノマー組成物。
【請求項2】
前記う蝕病変が中等度、進行性又は重度のう蝕病変、好ましくは進行性又は重度のう蝕病変である、請求項1に記載の使用のための水性歯科用グラスアイオノマー組成物。
【請求項3】
前記う蝕病変がクラスI、IV、又はVIのう蝕病変である、請求項1又は2に記載の使用のための水性歯科用グラスアイオノマー組成物。
【請求項4】
前記歯科用グラスアイオノマー組成物は、2パック型粉末/液体組成物である、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用のための水性歯科用グラスアイオノマー組成物。
【請求項5】
前記重合開始剤系は、光開始剤及びレドックス開始剤を含有する二重硬化開始剤系である、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用のための水性歯科用グラスアイオノマー組成物。
【請求項6】
前記レドックス開始剤は、
(i) 無機ペルオキソ二硫酸塩、
(Ii) 芳香族アミン、及び
(iii) 芳香族スルフィン酸塩、を含有する、請求項5に記載の使用のための水性歯科用グラスアイオノマー組成物。
【請求項7】
前記無機ペルオキソ二硫酸塩はペルオキソ二硫酸カリウムであり;及び/又は前記芳香族アミンは、tert-ブチル-N,N-ジメチルアニリンであり;及び/又は前記芳香族スルフィン酸塩はパラ-トルエンスルフィン酸ナトリウムである、請求項6に記載の使用のための水性歯科用グラスアイオノマー組成物。
【請求項8】
前記硬化した歯科用グラスアイオノマー組成物は、ISO4049に従う測定で少なくとも80MPaの曲げ強度を与える、請求項1~7のいずれか一項に記載の使用のための水性歯科用グラスアイオノマー組成物。
【請求項9】
前記硬化した歯科用グラスアイオノマー組成物は、ISO29022:2013に従う測定で少なくとも5MPaのエナメル質への接着力を与える、請求項1~8のいずれか一項に記載の使用のための水性歯科用グラスアイオノマー組成物。
【請求項10】
(D) 単一の重合性二重結合及び必要に応じてカルボン酸基を有し、最大200Daの分子量を有する、加水分解に対して安定な水溶性のモノマーを更に含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の使用のための水性歯科用グラスアイオノマー組成物。
【請求項11】
(E) 少なくとも二つの重合性炭素-炭素二重結合を有する重合性の加水分解に対して安定な架橋剤を更に含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の使用のための水性歯科用グラスアイオノマー組成物。
【請求項12】
前記重合性ポリマーは、
a) アミノ基を含有するコポリマーを得るために、
(i) 少なくとも一つの必要に応じて保護されたカルボン酸基及び第一の重合性有機部分を含む第一の共重合性モノマーと、
(ii) 一つ又は複数の必要に応じて保護された第一級アミノ基及び/又は第二級アミノ基、並びに第二の重合性有機部分を含む第二の共重合性モノマーと、
を含む混合物を、共重合させる工程と、
b) アミノ基を含有するコポリマーに、重合性部分と、第一の工程で得られるアミノ基を含有するコポリマー中の前記第二の共重合性モノマーに由来する繰り返し単位のアミノ基と反応性がある官能基とを有する化合物をカップリングさせる工程であって、重合性ペンダント基が加水分解に対して安定な連結基により前記骨格に連結されるように、前記必要に応じて保護されたアミノ基は脱保護される、カップリングさせる工程と、
重合性ポリマーを得るために、必要に応じて工程a)又は工程b)の後に前記保護されたカルボン酸基を脱保護する工程と、を含む方法によって得られる、請求項1~11のいずれか一項に記載の使用のための水性歯科用グラスアイオノマー組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、永久的な応力に耐える歯科用修復材料として使用するための歯科用充填材料に関する。具体的には、本発明は、深い空洞化う蝕病変の処置において永久的な直接的修復物として使用するための水性歯科用グラスアイオノマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
う蝕病変は、口内の細菌が酸を放出して歯の表面を脱灰し軟化させると発生する。最初に、脱灰エナメル質の白斑病変が形成される。脱灰プロセスが中断もされず、逆のプロセスも生じない場合、う蝕病変がさらに歯牙構造の中へと進行し、空洞を形成する。最終的に、未処置のう蝕は感染及び歯の損失につながる。
【0003】
展性がある充填材料として配置され、その後硬化する直接的修復による、虫歯の構造を修復するためのさまざまな選択肢がある。充填材料の選択に応じて、歯髄を保護するためにライナーを使用する必要があるか、又はエナメル質のエッチング、接着剤、及び光硬化の使用が必要となる場合がある。
【0004】
一般に、直接的充填材料は、口腔内の修復材料に過酷な条件を考慮すると、好ましくは硬い歯牙組織に対する接着特性、高い生体適合性、及び長期間にわたる十分な機械的及び化学的耐性を含む良好な機械的特性を有することが要求される。更に、歯科用修復材料は、良好な取扱い特性を有するべきであり、そして処置条件にも適用方法の変化にも影響を受けてはならない。更に、安価な歯科用修復材料が多くの場合好ましい。
【0005】
直接的充填材料は、非審美的又は審美的なものとして分類できる。非審美的充填材料は典型的にはアマルガムを含む。審美的修復物は、典型的には歯科用組成物又はグラスアイオノマーセメントを含む。
【0006】
アマルガムは、歯科専門家に強力で良好な維持、及び費用効果の高い選択肢を提供するとされている。しかし、アマルガムは毒物学的懸念の理由から望ましくないと考えられている。
【0007】
歯科用複合材料は、歯科用充填剤を含有する重合性有機マトリックスのラジカル重合に依存し、そして典型的には80MPaを超える曲げ強度を含む優れた機械的特性を有する。更に、歯科用複合材料は歯の自然な色に似ている。しかし、歯科用複合材料はアマルガムよりも製造するのが高価であり、そして特に湿度制御を確実にするために、取り付けるのにより多くの時間とより多くの専門知識を必要とする。
【0008】
反応性ガラス粉末、ポリアルケン酸及び水を含有するグラスアイオノマーセメントは、硬質歯科組織への接着性及び優れた生体適合性を示す。さらに、グラスアイオノマーセメントは、口腔内で長期間にわたって良好な耐薬品性を提供する。グラスアイオノマーセメントは優れた取扱い性を有し、複雑な適用も硬化工程も必要としない。また、適用条件及び適用方法の変化は通常、処置の成功に大きな影響を及ぼさない。歯科用グラスアイオノマーセメントは安価である。最後に、フッ化物徐放性歯科用グラスアイオノマーセメントは、抗う蝕性を提供する。
【0009】
しかし、従来のグラスアイオノマーセメントは、通常40MPa未満の低い曲げ強度を有し、そしてガラスが硬化する場合に反応性ガラス粉末とポリアルケン酸との間の酸-塩基反応により形成される塩に似た構造のために脆い。
【0010】
グラスアイオノマーセメントの機械的特性は、官能化ポリ酸ポリマーの選択によって改善され得る。
【0011】
Chenら、及びNesterovaらは(Chenら,J.Appl.Polym.Sci.,109(2008) 2802-2807、Nesterovaら,Russian Journal of Applied Chemistry,82(2009) 618-621)、それぞれアクリル酸及び/又はメタクリル酸を含むN-ビニルホルムアミドの共重合体を開示している。
【0012】
更に、ペンダント基として重合性部分を有するポリマーは、架橋して、得られるグラスアイオノマーセメントの機械的抵抗を増大させることができる。
【0013】
例えば、国際公開第2003/011232A1号は、二つの異なるポリ酸ポリマーを含有する重合性水性歯科用グラスアイオノマーセメントを開示している。ポリマーのうちの一つは、エステル結合を介してポリマーに結合するペンダントの後重合性部分を有するが、これは酸性媒体中で加水分解開裂する傾向がある。
【0014】
国際公開第2012/084206A1号は歯科用グラスアイオノマーセメント用ポリマーを開示している。しかし、国際公開2012/084206号は、歯科用グラスアイオノマーセメントの組成物用成分の特定の組合せを開示していない。
【0015】
間接的修復物が硬化した歯科用グラスアイオノマーセメントをあらゆる過度の機械的応力から保護するのであれば、間接的修復物、例えば、インレイ、アンレー、クラウン、ブリッジ及びベニアを硬質歯科組織に接着するために、従来のグラスアイオノマーセメントを使用することができる。
【0016】
従来のグラスアイオノマーセメントはまた、応力を受けない部位における一時的な直接的修復物の調製に使用することができる。
【0017】
しかし、例えば特にう蝕病変がクラスI、II、IV、V又はVIである場合、従来の歯科用グラスアイオノマーセメントは、硬化したセメントが高い機械的応力下で剥がれるので、空洞化う蝕病変の処置における永久の直接的修復物としては使用できない。
【0018】
したがって、アマルガム又は歯科用複合材料は、クラスI、II、及びVのう蝕病変を含む空洞化う蝕病変の処置において直接的修復物として従来から使用されている。
【0019】
米国特許出願公開第2005/165136A号は、歯科用及び整形外科用医薬に有用なアイオノマーセメントを開示している。この文書の表4によれば、光硬化アイオノマーセメントは、米国特許出願公開第2005/165136A号に従って使用される試験条件下で、Vitremer(登録商標)光硬化グラスアイオノマー(3M Dental製品)の曲げ強度よりも最大5%高い曲げ強度を示す。
国際出願公開第2012/084206A号は、歯科用グラスアイオノマーセメント用のポリマーを開示している。
【発明の概要】
【0020】
本発明の目的は、永久的に応力に耐える歯科用修復材料として使用するための直接的歯科用充填材料を提供することであり、これは、深い空洞化う蝕病変の処置における永久的な直接的修復物として使用され得る。
【0021】
本発明は、空洞化う蝕病変の処置に使用される水性歯科用グラスアイオノマー組成物を提供し、グラスアイオノマー組成物は、
(A) 反応性微粒子ガラスと、
(B) 水溶性の重合性ポリマーであって、酸性基を含み、セメント反応において微粒子ガラスと反応性であり、それにより重合性ポリマーはポリマー骨格及び一つ又は複数の重合性炭素-炭素二重結合を有するペンダント基を有する、水溶性の重合性ポリマーと、
(C) 重合開始剤系と、を含み、
歯科用グラスアイオノマー組成物は永久的な直接的修復物として使用される。本発明は、水性歯科用グラスアイオノマー組成物が少なくとも80MPaの曲げ強度を有する硬化した直接的歯科用修復物を提供することができる、という認識に基づいている。本発明は更に、水性歯科用グラスアイオノマー組成物において、(A)による反応性微粒子ガラス、(B)による特定の水溶性の重合性ポリマー、及び(C)による重合開始剤系の組み合わせは、少なくとも80MPaの曲げ強度を有する硬化した直接的歯科用修復物を提供するために必要とされる、という認識に基づいている。最後に、本発明は、少なくとも80MPaの曲げ強度を有する水性歯科用グラスアイオノマー組成物が、永久的に応力に耐える修復材料としての、特に深い空洞化う蝕病変の処置における永久的な直接的修復物としての使用に好適である、という認識に基づいている。
【発明を実施するための形態】
【0022】
用語「(共)重合性」は、付加重合反応において共有結合によって結合してポリマーを形成することができる化合物を指す。水性歯科用グラスアイオノマー組成物を硬化する場合、「重合性ポリマー」を、架橋剤に、及び「重合性(炭素-炭素)二重結合」を有する加水分解に対して安定な水溶性のモノマーにそれぞれ結合させて、グラフトポリマー及び/又は架橋ポリマーを形成することができる。
【0023】
本水性歯科用グラスアイオノマー組成物の、以下に定義する成分(B)、ならびに成分(D)及び(E)に関連して本明細書で使用される用語「第一の重合性有機部分」、「第二の重合性有機部分」、「重合性ペンダント基」、及び「重合性(炭素-炭素)二重結合」は、付加重合、特にフリーラジカル重合、好ましくは炭素-炭素二重結合が可能な任意の二重結合を意味する。
【0024】
用語「硬化」は、官能性モノマー、オリゴマー、更にはポリマーのポリマーネットワークへの重合、特に架橋剤の存在下での不飽和モノマー又はオリゴマーの重合を含む。
【0025】
用語「硬化性」は、例えば化学線、例えば紫外線(UV)、可視光線、もしくは赤外線で照射される場合、又は重合開始剤と反応する場合、架橋ポリマーネットワークに重合する水性歯科用グラスアイオノマー組成物を指す。
【0026】
本水性歯科用グラスアイオノマー組成物は、塩基性微粒子ガラスとポリ酸とのセメント反応、ならびに、(B)による重合性ポリマーと任意の更なる重合性化合物とのフリーラジカル重合であって、フリーラジカル重合は(C)による重合開始剤系によって開始される、フリーラジカル重合に基づく硬化歯科用グラスアイオノマー組成物を提供する。
【0027】
空洞化う蝕病変の処置
本発明の水性歯科用グラスアイオノマー組成物は、永久的な直接的修復物として空洞化う蝕病変の処置に使用される。
【0028】
う蝕病変の処置は、硬質象牙質に達するまで、最終的な直接的修復が行われる前に、硬質象牙質に達するまで、すべての軟質で革質の象牙質がう蝕病変から除去される従来の処置方法であってもよい。この従来の処置方法では、典型的には歯科用切削装置が使用される。しかしう蝕病変が深く、空洞化していて、それにより治療された歯に有害な影響を与える歯髄露出の危険性がある場合、不完全なう蝕除去の方法を適用することができる。例えば、軟質の感染した象牙質のみを歯科用ハンド器具を使用して手動で除去する非侵襲的修復処置(ART)方法を考えることができる。したがって、結果として生じる空洞は、歯科用切削装置を使用する従来の処置方法と比較して小さい。
【0029】
う蝕病変は、病変の重症度に従って分類され得る。したがって、う蝕病変は中等度、進行性、及び重度のう蝕病変の場合がある。中等度のう蝕病変は、エナメル質の半分以上に広がっているが、象牙質-エナメル質接合部(DEJ)を含まない。進行性う蝕病変はDEJまで、又はDEJを通って広がり、しかし歯髄までの距離の半分を超えては広がっていない。(深在性う蝕)。重度のう蝕病変は、エナメル質を通り、象牙質を通り、そして歯髄までの距離の半分を超えて広がる(コンプリカータ型深在性う蝕)。
【0030】
好ましくは、本水性歯科用グラスアイオノマー組成物は、う蝕病変が中等度、進行性又は重度のう蝕病変、より好ましくは進行性又は重度のう蝕病変である、空洞化病変の処置に使用される。
【0031】
う蝕病変は、G.V.Blackによって確立された分類に従って、それらの位置に応じて分類されることができ、これは以下のクラスI~VIで区別する。
クラスI:大臼歯及び小臼歯の咬合面、大臼歯の顔側面及び舌側面、上顎切歯の舌側面上の小窩裂溝における空洞。
クラスIは、臨床的に咬合側/舌側/頬側表面を見ることができる臼歯の表面に対応する。したがって、隣接面はクラスIには分類されない。
クラスII:小臼歯及び大臼歯の隣接面上の空洞。
クラスIII:インサイザルアングルを含まない切歯及び犬歯の隣接面上の空洞。
クラスIV:インサイザルアングルを含む切歯又は犬歯の隣接面上の空洞。クラスIV病変は、インサイザルアングルを対象とするクラスIIIのより大きな分類である。
クラスV:任意の歯の三分の一の顔側又は舌側面の空洞、例えば歯頸部。
クラスVI:前歯の切縁及び臼歯の歯先尖端の空洞。
クラスVIは歯の最上面に対応する。
【0032】
好ましくは、本水性歯科用グラスアイオノマー組成物は、う蝕病変がクラスI、II、IV、V、又はVIのう蝕病変である、空洞化病変の処置に使用される。
【0033】
(A)反応性微粒子ガラス
「反応性微粒子ガラス」という用語は、熱溶融プロセスによってガラスに変換され、様々なプロセスによって粉砕された、主として金属酸化物の固体混合物を指し、そのガラスは、セメント反応において酸性基を含むポリマーと反応することが可能である。ガラスは、微粒子状の形態である。更に、反応性微粒子ガラスは、例えば、シラン化処理又は酸処理により表面改質されてもよい。任意の従来の反応性歯科用ガラスを本発明のために使用することができる。微粒子反応性ガラスの具体例は、カルシウムアルミノシリケートガラス、カルシウムアルミノフルオロシリケートガラス、カルシウムアルミニウムフルオロボロシリケートガラス、ストロンチウムアルミノシリケートガラス、ストロンチウムアルミノフルオロシリケートガラス、ストロンチウムアルミノフルオロボロシリケートガラスから選択される。好適な微粒子反応性ガラスは、酸化亜鉛及び/若しくは酸化マグネシウム等の金属酸化物の形態、並びに/又は例えば米国特許第3,655,605号、同第3,814,717号、同第4,143,018号、同第4,209,434号、同第4,360,605号及び同第4,376,835号に記載のイオン溶出性ガラスの形態であることができる。
好ましくは、(A)による反応性微粒子ガラスは、
1) 20~45重量%のシリカと、
2) 20~40重量%のアルミナと、
3) 20~40重量%の酸化ストロンチウムと、
4) 1~10重量%のPと、
5) 3~25重量%のフッ化物と、を含む反応性微粒子ガラス充填剤である。
【0034】
本発明による水性歯科用グラスアイオノマー組成物は、組成物の総重量に基づいて、好ましくは20~90重量%、より好ましくは30~80重量%の反応性微粒子ガラスを含む。
【0035】
反応性微粒子ガラスは、例えば電子顕微鏡法により、又はMALVERN Mastersizer S若しくはMALVERN Mastersizer 2000装置により具現される従来のレーザー回折粒度分布測定法を用いて測定され、一般に0.005~100μm、好ましくは0.01~40μmの平均粒子径を有する。
【0036】
反応性微粒子ガラスは、単峰性又は多峰性(例えば、二峰性)粒度分布を有してもよく、多峰性反応性微粒子ガラスは、異なる平均粒子径を有する二つ以上の微粒子画分の混合物を表す。
【0037】
反応性微粒子ガラスは、変性ポリ酸及び/又は重合性(メタ)アクリレート樹脂の存在下で反応性微粒子ガラスを凝集させることによって得られる凝集反応性微粒子ガラスであり得る。凝集反応性微粒子ガラスの粒子径は、粉砕等の好適なサイズ減少プロセスによって調整され得る。
【0038】
反応性微粒子ガラスを、(B)又は(C)による成分によって表面改質することができる。特に、反応性微粒子ガラスを、水性条件下で重合開始剤系(C)の一つ又は複数の成分と酸との接触を避けるために、重合開始剤系(C)の一つ又は複数の成分を用いて表面改質することができる。
【0039】
反応性微粒子ガラスは、代替的に又は追加的に、表面改質剤によって表面改質され得る。好ましくは、表面改質剤はシランである。シランは、水溶性歯科用グラスアイオノマー組成物の(B)、(C)及び(D)による有機成分との有利な均質混合を可能にする、反応性微粒子ガラスに好適な疎水性をもたらす。
【0040】
(B)酸性基を含む水溶性重合性ポリマー
本発明による水性歯科用グラスアイオノマー組成物は、(B)セメント反応において微粒子ガラスと反応性であり、酸性基を含む水溶性の重合性ポリマーを含み、それにより重合性ポリマーはポリマー骨格及び一つ又は複数の重合性炭素-炭素二重結合を有するペンダント基を有する。ペンダント基は加水分解に対して安定であることが好ましい。水性歯科用グラスアイオノマー組成物は、(B)による酸性基を含む一つ又は複数の水溶性の重合性ポリマーを含み得る。
【0041】
(B)による水溶性の重合性ポリマーは、酸性基、例えばカルボン酸基をその骨格に含み、任意に、ペンダント基に更なる酸性基を含んでもよい。ポリマーのカルボン酸基は、セメント反応において反応性微粒子ガラスと反応してグラスアイオノマーセメントを形成することができる。
【0042】
項目(B)に関連して使用される「重合性ポリマー」という用語は、硬化水溶性歯科用グラスアイオノマー組成物の機械的特性、並びに長期的機械的耐性及び化学的耐性を改善するためにポリマーの重合及び架橋を可能とする一つ又は複数の重合性部分を含むポリマーを意味する。
【0043】
「重合性ポリマー」という用語に関連して使用される「水溶性」という用語は、少なくとも0.1g、好ましくは0.5gの重合性ポリマーが、20℃の水100gに溶解することを意味する。
【0044】
(B)による水溶性の重合性ポリマーは、好ましくは加水分解に対して安定であり、これはポリマーが酸性媒体中で、例えば歯科用組成物中で加水分解に対して安定であることを意味する。具体的には、ポリマーは、一ヶ月以内に室温でpH3の水性媒体中で加水分解する基、例えばエステル基を含まないことが好ましい。
【0045】
好ましくは、(B)による酸性基を含む水溶性の重合性ポリマーは、
a) アミノ基を含有するコポリマーを得るために、
(i) 少なくとも一つの必要に応じて保護されたカルボン酸基及び第一の重合性有機部分を含む第一の共重合性モノマーと、
(ii) 一つ又は複数の必要に応じて保護された第一級アミノ基及び/又は第二級アミノ基、並びに第二の重合性有機部分を含む第二の共重合性モノマーと、を含む混合物を共重合させる工程と、
b) アミノ基を含有するコポリマーに、重合性部分と、第一の工程で得られるアミノ基含有コポリマー中の第二の共重合性モノマーに由来する繰り返し単位のアミノ基と反応性がある官能基とを有する化合物をカップリングさせる工程であって、重合性ペンダント基が加水分解に対して安定な連結基により骨格に連結されるように、必要に応じて保護されたアミノ基は脱保護する、カップリングさせる工程と、
重合性ポリマーを得るために、必要に応じて工程a)又は工程b)の後に、保護されたカルボン酸基を脱保護する工程と、を含む方法によって得られる。
【0046】
工程a)において使用される第一の共重合性モノマーは、少なくとも一つ、好ましくは一つ~三つ、より好ましくは一つ又は二つ、最も好ましくは一つの必要に応じて保護されたカルボン酸基を含む。
【0047】
必要に応じて保護されたカルボン酸基の保護基は、有機化学分野の当業者に既知のカルボキシル保護基であれば、特に限定されない(P.G.M.Wuts and T.W.Greene,Greene’s Protective Groups in Organic Synthesis,4th Edition,John Wiley and Sons Inc.,2007を参照)。好ましくは、カルボキシル保護基は、トリアルキルシリル基、アルキル基及びアリールアルキル基から選択される。より好ましくは、カルボキシル保護基はアルキル基又はアリールアルキル基から選択される。最も好ましくは、カルボキシル保護基はtert-ブチル基及びベンジル基から選択される。一つの好ましい実施形態では、カルボキシル保護基はtert-ブチル基である。
【0048】
本明細書で使用される場合、「重合性有機部分」という用語は、繰り返し構造単位又は交互構造単位のマクロ分子を形成するように、化学反応(重合)において分子を、この分子に反応性のある他の分子と共有結合するために使用することができる分子の有機部分を意味する。好ましくは、この重合性有機部分は、エチレン性不飽和部分と同じように、炭素-炭素二重結合である。
【0049】
本発明の水溶性歯科用グラスアイオノマー組成物の好ましい実施形態では、第一の共重合性モノマーは、一般式(1)で表される:
【化1】

式(1)中、Rは水素原子、-COOZ基、又は-COOZ基によって置換されていてもよい直鎖若しくは分岐C1-6アルキル基である。好ましくは、Rは水素原子、-COOZ基又はメチル基である。より好ましくは、Rは水素原子又はメチル基である。
【0050】
式(1)中、Rは水素原子、-COOZ基、又は-COOZ基によって置換されていてもよい直鎖若しくは分岐C1-6アルキル基である。好ましくは、Rは水素原子又は-COOZ基である。より好ましくは、Rは水素原子である。式(1)中、点線は、Rがcis配位又はtrans配位のいずれかであってもよいことを示す。
【0051】
式(1)中、Aは、単結合又は直鎖若しくは分岐のC1-6アルキレン基であり、該基はアルキレン炭素鎖の二つの炭素原子間に1個~3個のヘテロ原子を含有していてもよく、該ヘテロ原子は酸素原子、窒素原子及び硫黄原子から選択され、及び/又は、該アルキレン基は、アルキレン炭素鎖の二つの炭素原子間に、アミド結合又はウレタン結合から選択される1個~3個の基を含有していてもよい。好ましくは、Aは、単結合又は直鎖若しくは分岐のC1-6アルキレン基であり、該基はアルキレン炭素鎖の二つの炭素原子間にヘテロ原子を含有していてもよく、該ヘテロ原子は酸素原子又は窒素原子から選択され、及び/又は、該アルキレン基は、アルキレン炭素鎖の二つの炭素原子間に、アミド結合又はウレタン結合から選択される基を含有していてもよい。より好ましくは、Aは、単結合又は直鎖C1-6アルキレン基である。最も好ましくは、Aは単結合である。
【0052】
式(1)中、Zは、同一でも異なってもよく、独立して、水素原子、金属イオン、カルボン酸基に対する保護基を表すか、又は、Zは、分子中に存在する更なる-COOZ基と共に分子内無水物基を形成する。金属イオンは、アルカリ金属イオン等の一価の金属イオンであってもよい。一実施形態では、Zはカルボン酸基に対する保護基である。別の実施形態では、Zは水素原子である。Zが、分子中に存在する更なる-COOZ基と共に分子内無水物基(-C(O)OC(O)-)を形成する場合、更なる-COOZ基が、イタコン酸無水物の場合と同じように好ましくはR上に存在し得る。
【0053】
好ましい実施形態では、Zは水素原子であり、アルカリ性環境で重合反応が行われる。代替的な好ましい実施形態では、Zは水素原子であり、第一の共重合性モノマー及び第二の共重合性モノマーのアミノ基が保護基を担持する。
【0054】
好ましくは、第一の共重合性モノマーは、保護された(メタ)アクリル酸モノマーである。より好ましくは、第一の重合性モノマーは、tert-ブチルアクリレート及びベンジルアクリレートから選択される。最も好ましくは、第一の重合性モノマーは、tert-ブチルアクリレートである。
【0055】
本発明の水溶性歯科用グラスアイオノマー組成物の好ましい実施形態では、第二の共重合性モノマーは、一般式(2)で表される:
【化2】

式(2)中、Rは、水素原子、又は-COOZ’基によって置換されていてもよい直鎖若しくは分岐のC1-6アルキル基である。好ましくは、Rは水素原子である。式(2)中、点線は、Rがcis配位又はtrans配位のいずれかであってもよいことを示す。
【0056】
式(2)中、Xは、保護されたアミノ基、又は保護基を担持していてもよいアミノ基で置換される、1個~20個の炭素原子を有する炭化水素基であり、該炭化水素基は1個~6個のヘテロ原子を含有していてもよく、該ヘテロ原子は酸素原子、窒素原子及び硫黄原子から選択され、並びに/又は該炭化水素基はアミド結合若しくはウレタン結合から選択される基を含有していてもよく、該炭化水素基は、-COOZ’、アミノ基、ヒドロキシル基及びチオール基から選択される最大6個の基で更に置換されていてもよい。好ましくは、Xは、保護基を担持していてもよいアミノ基で置換される、1個~20個の炭素原子を有する炭化水素基であり、該炭化水素基はヘテロ原子を含有していてもよく、該ヘテロ原子は酸素原子及び窒素原子から選択され、並びに/又は該炭化水素基は、アミド結合若しくはウレタン結合から選択される基を含有していてもよく、該炭化水素基は-COOZ’基で更に置換されていてもよい。より好ましくは、Xは、保護基を担持していてもよいアミノ基で置換される、1個~20個の炭素原子、更に好ましくは1個~6個の炭素原子を有する炭化水素基であり、該炭化水素基は酸素原子を含有していてもよく、及び/又は該炭化水素基はアミド結合を含有していてもよく、該炭化水素基は-COOZ’基で更に置換されていてもよい。Xが保護されたアミノ基であるような特定の実施形態では、式(2)の化合物がアリルアミンであり、該アミノ基が保護基を担持する。
【0057】
保護されたアミノ基又は必要に応じて保護されたアミノ基の保護基は特に制限されず、例えば、P.G.M.Wuts and T.W.Greene,Greene’s Protective Groups in Organic Synthesis,4th Edition,John Wiley and Sons Inc.,2007に記載されているような、アミノ基に対する任意の従来の保護基であってもよい。好ましくは、アミノ保護基は、アシル基、アリールアルキル基、アルコキシカルボニル基、及びアリールオキシカルボニル基から選択される。より好ましくは、アミノ保護基はアシル基である。最も好ましくは、アミノ保護基はホルミル基である。
【0058】
式(2)中、Yは、水素原子、又は1個~20個の炭素原子を有する炭化水素基であり、該炭化水素基は1個~6個のヘテロ原子を含有していてもよく、該ヘテロ原子は、酸素原子、窒素原子、及び硫黄原子から選択され、並びに/又は該炭化水素基はアミド結合若しくはウレタン結合から選択される基を含有していてもよく、該炭化水素基は、-COOZ’、アミノ基、ヒドロキシル基及びチオール基から選択される最大6個の基で更に置換されていてもよい。好ましくは、Yは、水素原子、又は1個~20個の炭素原子を有する炭化水素基であり、該炭化水素基はヘテロ原子を含有していてもよく、該ヘテロ原子は酸素原子及び窒素原子から選択され、並びに/又は該炭化水素基はアミド結合若しくはウレタン結合から選択される基を含有していてもよく、該炭化水素基は-COOZ’基で更に置換されていてもよい。より好ましくは、Yは、水素原子、又は1個~20個の炭素原子、更に好ましくは1個~6個の炭素原子を有する炭化水素基であり、該炭化水素基は酸素原子を含有していてもよく、及び/又は該炭化水素基はアミド結合を含有していてもよく、該炭化水素基は-COOZ’基で更に置換されていてもよい。一つの好ましい実施形態では、Yは水素原子である。
【0059】
式(2)中、Z’は、同一でも異なってもよく、独立して、水素原子、金属イオン、カルボン酸基に対する保護基を表すか、又は、Z’は、分子中に存在する更なる-COOZ’基と共に分子内無水物基を形成する。一実施形態では、Z’は、カルボン酸基に対する保護基である。別の実施形態では、Z’は水素原子である。金属イオンは、アルカリ金属イオン等の一価の金属イオンであってもよい。別の実施形態では、Z’は水素原子である。Zは、分子中に存在する更なる-COOZ’基と共に分子内無水物基(-C(O)OC(O)-)を形成する。
【0060】
好ましい実施形態では、Z’は水素原子であり、アルカリ性環境で重合反応が行われる。代替的な好ましい実施形態では、Z’は水素原子であり、第二の共重合性モノマーのアミノ基が保護基を担持する。
【0061】
一実施形態では、第二の共重合性モノマーは、置換されていてもよい(メタ)アクリルアミド部分及び保護されていてもよい置換(メタ)アクリル酸の群から選択される第二の共重合性有機部分を含む。別の実施形態では、第二の共重合性モノマーは、アリルアミン、アミノプロピルビニルエーテル、アミノエチルビニルエーテル、N-ビニルホルムアミド及び2-アミノメチルアクリル酸から選択される。好ましい実施形態では、第二の共重合性モノマーはアミノプロピルビニルエーテルである。アミノ基は、塩化アンモニウム等のアンモニウム塩の形態であってもよい。好ましい構造は以下のスキーム1に示されるとおりであり、アミノ基が保護基を担持していてもよい。
【0062】
【化3】
【0063】
工程a)で共重合される混合物における第一の共重合性モノマーと第二の共重合性モノマーとのモル比(第一の共重合性モノマーのモル/第二の共重合性モノマーのモル)は、好ましくは100:1~100:50の範囲内、より好ましくは100:2~100:20の範囲内、更により好ましくは100:3~100:10の範囲内である。
【0064】
工程a)で必要に応じて使用される更なる共重合性モノマーは、少なくとも一つ、好ましくは一つ~三つ、より好ましくは一つ又は二つ、最も好ましくは一つの、必要に応じて保護された、カルボン酸基ではない酸性基を含む。酸性基の具体例は、スルホン酸基(-SOM)、ホスホン酸基(-PO)又はリン酸エステル基(-OPO)、又はそれらの塩であり、ここでMは独立して、水素原子、又はアルカリ金属イオン若しくはアンモニウムイオン等の一価のイオンであることができる。
【0065】
任意の更なるモノマーの具体例は、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、ビニルホスホネート、及びビニルスルホン酸から選択される。
【0066】
好ましい実施形態では、第一の共重合性モノマー及び第二の共重合性モノマーを含有する溶液を、共重合のためにそれらを組み合わせる前に窒素で別々に飽和させて、競合的なAza-Michael付加の生じ得る副生成物を最低限に抑える。
【0067】
アミノ基含有コポリマーを得る工程a)は、連鎖成長重合として進行する。一実施形態では、工程a)はラジカル共重合を含む。
【0068】
本発明の工程a)によって形成されるコポリマーの型は、統計コポリマー、ランダムコポリマー、交互コポリマー、ブロックコポリマー、又はそれらの組合せであってもよい。
【0069】
本発明の工程a)によって得られるコポリマーは、例えば、アクリレートとアミノプロピルビニルエーテルとの共重合によって得ることができるコポリマー等のアミノ基を含有するコポリマーである。
【0070】
本発明の工程a)による重合反応の反応条件は特に制限されない。したがって、溶媒の存在下又は非存在下で反応を実行することが可能である。好適な溶媒は、水、ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン(THF)、及びジオキサンの群から選択され得る。
【0071】
反応温度は特に制限されない。好ましくは、反応は-10℃と溶媒の沸点との間の温度で実行される。好ましくは、反応温度は0℃~80℃の範囲内である。
【0072】
反応時間は特に制限されない。好ましくは、反応時間は、10分~48時間、より好ましくは1時間~36時間の範囲内である。
【0073】
反応は好ましくは重合開始剤の存在下で実行される。水溶性歯科用グラスアイオノマー組成物の好ましい実施形態では、重合開始剤が、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2-アゾビス(2-アミジノプロパン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(N,N’-ジメチレンイソブチルアミジン)二塩酸塩、及び4,4’-アゾビス(4-シアノペンタン酸)から選択される。重合開始剤の量は特に制限されない。好適には、この量は、モノマーの総量に基づいて0.001モル%~5モル%の範囲内である。
【0074】
工程a)で得られる反応生成物を沈殿及び濾過、又は凍結乾燥によって単離してもよい。従来の方法により生成物を精製してもよい。
【0075】
(B)による酸性基を有する水溶性重合性ポリマーを得る工程b)は、重合性部分を有する化合物と、必要に応じて保護されていてもよいアミノ基が脱保護されている工程a)で得られるアミノ基含有コポリマー中の第二の共重合性モノマーに由来する繰り返し単位のアミノ基と反応性がある官能基と、をカップリングさせる工程である。
【0076】
好ましくは、工程b)におけるカップリング反応は、アミド結合、尿素結合又はチオ尿素結合から選択される結合を形成する付加反応又は縮合反応である。
【0077】
本明細書で「アミノ基と反応性がある官能基」という用語は、アミノ基を含有するコポリマーのアミノ基と共有結合を形成することができる任意の基を意味する。好ましくは、アミノ基と反応性がある官能基は、カルボン酸基、又はエステル基若しくはそれらの無水物等のそれらの誘導体、イソシアネート基又はイソチオシアネート基である。より好ましくは、アミノ基と反応性がある官能基は、カルボン酸基又はそれらの誘導体である。
【0078】
第一の工程で得られるアミノ基を含有するコポリマー中の第二の共重合性モノマーに由来する繰り返し単位のアミノ基が保護されている場合、アミノ基は工程b)前に又は工程b)と同時に脱保護されることができる。
【0079】
必要に応じて保護されたアミノ基の脱保護のための条件は、使用される保護基に従って選択される。好ましくは、保護されたアミノ基は、水素化分解又は酸若しくは塩基による処理によって脱保護される。
【0080】
保護されたアミノ基の脱保護を工程b)と同時に実行する場合、脱保護及び工程b)が効率的に進行するように、脱保護条件及び工程b)の条件を選択しなければならないことが、当業者によって理解されるであろう。
【0081】
水溶性歯科用グラスアイオノマー組成物の好ましい実施形態では、重合性部分と、第二の共重合性モノマーに由来する繰り返し単位のアミノ基と反応性がある官能基とを有する化合物は、式(3)で表される化合物である:
【化4】

式(3)中、Rは、水素原子、又は-COOZ’’基によって置換されていてもよい直鎖若しくは分岐のC1-6アルキル基であり、Rは、水素原子、又は-COOZ’’基によって置換されていてもよい直鎖若しくは分岐のC1-6アルキル基である。好ましくは、Rは水素原子であり、Rは水素原子又はメチル基である。より好ましくは、Rは水素原子であり、Rはメチル基である。式(3)中、点線は、Rがcis配位又はtrans配位のいずれかであってもよいことを示す。
【0082】
式(3)中、Z’’は、同一でも異なってもよく、独立して、水素原子、金属イオン、カルボン酸基に対する保護基を表すか、又は、Z’’は、分子中に存在する更なる-COOZ’’基と共に分子内無水物基を形成する。
【0083】
一実施形態では、Z’’はカルボン酸基に対する保護基である。別の実施形態では、Z’’は水素原子である。好ましい実施形態では、Z’’は水素原子であり、アルカリ性環境で重合反応が行われる。代替的な好ましい実施形態では、Z’’は水素原子であり、第二の共重合性モノマーのアミノ基が保護基を担持する。
【0084】
一実施形態では、式(3)中、LGは脱離基である。好ましくは、LGは塩素原子若しくは臭素原子であるか、又は隣接するカルボニル基と共にカルボン酸無水物部分を形成する。より好ましくは、LGは、Schotten-Baumann型反応において式(3)の化合物を反応させるのに好適な基である。
【0085】
別の実施形態では、LGがZ’’を置き換えて、R又はRとともに分子内カルボン酸無水物基を形成してもよい。
【0086】
更に別の実施形態では、式(3)の二つの分子は、共通のLGを共有することによって分子間カルボン酸無水物基を形成し、該LGは酸素原子である。
【0087】
式(3)の化合物は、アクリル酸、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、チグリン酸、アンゲリック酸、又は二つの同一又は異なる酸から形成される前記酸の無水物であることが特に好ましく、より好ましくは二つの同一の酸から形成される前記酸の無水物である。最も好ましくは、式(3)の化合物が無水(メタ)アクリル酸である。
【0088】
本発明の工程b)によるカップリングは、一つ又は複数の重合性部分を、アミノ基を含有するコポリマー中に導入するように働き、該重合性部分は、付加的な共有結合及び有利にはイオン架橋ももたらすように後重合することができ、付加的な強度を歯科用材料に与える。
【0089】
水溶性歯科用グラスアイオノマー組成物の一実施形態では、工程b)で得られるコポリマーのカルボン酸基を保護せずに、更なる処理を伴うことなくコポリマーを本発明によるポリマーとして使用することができる。代替的な実施形態では、工程b)で得られるコポリマーのカルボン酸基を保護すると、コポリマーが本発明によるポリマーの特徴を示す前に、カルボン酸基を脱保護しなければならない。
【0090】
本発明のステップb)による反応の反応条件は特に制限されない。したがって、溶媒の存在下又は非存在下で反応を実行することが可能である。好適な溶媒は、ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン(THF)、及びジオキサンの群から選択され得る。
【0091】
反応温度は特に制限されない。好ましくは、反応は-10℃と溶媒の沸点との間の温度で実行される。好ましくは、反応温度は0℃~80℃の範囲内である。
【0092】
反応時間は特に制限されない。好ましくは、反応時間は、10分~48時間、より好ましくは1時間~36時間の範囲内である。
【0093】
ステップb)で得られる反応生成物を沈殿及び濾過により単離してもよい。生成物を精製してもよい。
【0094】
水溶性歯科用グラスアイオノマー組成物は、重合性ポリマーを得るために、工程a)又は工程b)後に、保護されたカルボン酸基を脱保護する工程を必要に応じて含む。好ましい実施形態では、水溶性歯科用グラスアイオノマー組成物は、重合性ポリマーを得るために、保護されたカルボン酸基を脱保護する工程を含む。更に好ましい実施形態では、水溶性歯科用グラスアイオノマー組成物は、工程b)後に、保護されたカルボン酸基を脱保護する工程を含む。
【0095】
必要に応じて保護されたカルボキシル基の脱保護にかかる条件は、使用される保護基に従って選択される。好ましくは、保護されたカルボキシル基は、水素化分解又は酸若しくは塩基による処理により脱保護される。
【0096】
(B)による重合性ポリマーの第一の実施形態は、保護されたアミノ基を有するポリマー骨格を得るために、アミノ基が保護されたビニルアミンをアクリル酸と反応させる以下のスキーム2によって説明される。コポリマーは好ましくはランダムコポリマーである。更なる工程において、ポリマー骨格の保護されたアミノ基が、遊離して、重合性基を含有する部分にカップリングし、それによりイオン結合が形成されるセメント反応において反応性のある酸性基を有し、かつ共有結合が形成される架橋反応において反応性のある重合性基を有する本発明のポリマーが得られる。
【0097】
【化5】
【0098】
上記のスキーム2において、任意のアクリルアミド基をメタクリルアミド基で置き換えてもよい。
【0099】
(B)による重合性ポリマーの第二の実施形態は、アミノ基を含有するポリマー骨格を得るために、保護されたアクリル酸を、アミノ基を含有する重合性ビニルエーテル誘導体と反応させる、以下のスキーム3によって説明される。更なる工程において、ポリマー骨格のアミノ基を、重合性基を含有する部分にカップリングさせる。最後に、カルボン酸基遊離し、それによりイオン結合が形成されるセメント反応において反応性のある酸性基を有し、かつ共有結合が形成される架橋反応において反応性のある重合性基を有する本発明のポリマーが得られる。
【0100】
【化6】
【0101】
上記のスキーム3において、任意のアクリルアミド基をメタクリルアミド基によって置き換えてもよい。
【0102】
工程b)で得られた重合性ポリマーを、以下のスキーム4に示される以下の好ましい構造により説明することができる。
【0103】
【化7】
【0104】
スキーム4で例示される構造において、数字は、対応するポリアクリル酸と比較した場合に、側鎖の各々によって導入される付加的な炭素原子の数を指す。(a+b)個の繰り返し単位を有するポリマーは、(a+b)個のカルボン酸基を有するポリアクリル酸における炭素原子の数に加えて、b倍の数の付加的な炭素原子を含有するが、カルボン酸基はb分の一となるため、水溶性を低下させ得る。他方、-COOH基等の付加的なイオン基の導入によって、水溶性の低下を補償することができ、これは上記にも示されている。好ましくは、側鎖の数b、付加的な炭素原子の数、及び付加的なカルボン基の数は、本発明のポリマーの有用な水溶性がもたらされるように調整される。
【0105】
従って、好ましい実施形態では、アミド結合、尿素結合又はチオ尿素結合を介してポリマー骨格に連結されるポリマーの側鎖が、一つ又は複数の付加的な酸性基、好ましくはカルボン酸基を含有する。
【0106】
(B)による重合性ポリマーは好ましくは、10、特に10~106Dの範囲内の平均分子量Mを有する。より好ましくは、平均分子量Mは、10~7×10Da、又は3×10~2.5×10Daの範囲内である。
【0107】
(B)による重合性ポリマーは、カルボン酸基の数又は重量パーセントが、(A)による反応性微粒子ガラス、又は任意の更なる非改質若しくは改質微粒子活性成分、及び/又は非反応性充填剤の存在下において、硬化(setting)反応又は硬化(curing)反応を引き起こすのに十分なものでなければならない。好ましくは、(B)による重合性ポリマーは、組成物の総重量に基づいて5~80重量%、より好ましくは10~50重量%、更により好ましくは15~40重量%の量で水溶性歯科用グラスアイオノマー組成物中に存在する。
【0108】
(C)重合開始剤系
(C)による重合開始剤系としては、本発明による重合反応を開始させることができる任意の化合物又は系を、好適に用いることができる。(C)による重合開始剤は、光開始剤もしくはレドックス開始剤、又はそれらの混合物とすることができる。
【0109】
用語「光開始剤」は、例えば、光化学プロセスにおいて、光に暴露することにより、又は共開始剤との相互作用により活性化された場合に、フリーラジカルを形成する任意の化学物質を意味する。
【0110】
用語「レドックス開始剤」は、酸化剤及び還元剤、ならびに必要に応じて触媒、例えば金属塩との組み合わせ、を意味する。レドックス開始剤系はラジカルを形成するレドックス反応をもたらす。これらのラジカルはラジカル重合性化合物の重合を開始させる。典型的には、レドックス開始剤系は、レドックス開始剤系を酸化剤及び還元剤の少なくとも部分的な分解をもたらす水及び/又は有機溶媒と接触させることによって活性化される。任意の触媒を添加して、レドックス反応を、したがってラジカル重合性化合物の重合を促進することができる。
【0111】
光開始剤とレドックス開始剤との混合物は「二重硬化開始剤系」である。
【0112】
例えば、適切な光開始剤系は、二成分系又は三成分系の形態であってもよい。二成分系は、光開始剤及び電子供与体化合物を含み得る。例えば、米国特許第5,545,676号に記載されるように、三成分系はヨードニウム塩、スルホニウム塩、又はホスホニウム塩、光開始剤、及び電子供与体化合物を含んでもよい。
【0113】
(C)による重合開始剤系に好適な光開始剤は、Norrish I型及びNorrish II型光開始剤である。
【0114】
好適なNorrish I型光開始剤は、例えばホスフィンオキシドである。
【0115】
ホスフィンオキシド開始剤は約380nm~約450nmの機能的波長範囲を有し、米国特許第4,298,738号、同第4,324,744号、及び同第4,385,109号、ならびに欧州特許公開第0173567号に記載されているようなアシルホスフィンオキシド及びビスアシルホスフィンオキシドを含む。アシルホスフィンオキシドの具体例として、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ジベンゾイルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、トリス(2,4-ジメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、トリス(2-メトキシベンゾイル)ホスフィンオキシド、2,6-ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,6-ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,3,5,6-テトラメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ベンゾイル-ビス(2,6-ジメチルフェニル)ホスホネート、及び2,4,6-トリメチルベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキシドを挙げることができる。約380nm超~約450nmの波長範囲で照射された場合、フリーラジカル開始が可能な市販されているホスフィンオキシド光開始剤は、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド(IRGACURE 819)、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィンオキシド(CGI 403)、重量比25:75のビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシドと2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン(IRGACURE 1700)との混合物、重量比1:1のビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシドと2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン(DAROCUR 4265)との混合物、及びエチル2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィナート(LUCIRIN LR8893X)、を含む。典型的には、ホスフィンオキシド開始剤は、組成物の総重量に基づいて、触媒有効量、例えば0.1重量%~5.0重量%で組成物中に存在する。
【0116】
好適なNorrish II型光開始剤は、例えば、約400nm~約520nm(好ましくは約450nm~約500nm)の範囲内の光を吸収するモノケトン及びジケトンである。特に好適な化合物は、約400nm~約520nm(更により好ましくは、約450~約500nm)の範囲内の光を吸収するαジケトンを含む。例としては、カンファーキノン、ベンジル、フリル、3,3,6,6-テトラメチルシクロ-ヘキサンジオン、フェノールアントラキノン、1-フェニル-1,2-プロパンジオン、及び別の1-アリール-2-アルキル-1,2-エタンジオン、ならびに環状αジケトンが挙げられる。好適な電子供与体化合物は、置換アミン、例えばエチルジメチルアミノベンゾエート又はジメチルアミノベンゾニトリルを含む。
【0117】
第三級アミン還元剤は、アシルホスフィンオキシドと組み合わせて使用されることができる。適切な芳香族第三級アミンの例としては、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジメチル-m-トルイジン、N,N-ジエチル-p-トルイジン、N,N-ジメチル-3,5-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-3,4-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-4-エチルアニリン、N,N-ジメチル-4-イソプロピルアニリン、N,N-ジメチル-4-t-ブチルアニリン、N,N-ジメチル-3,5-ジ-t-ブチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジメチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,4-ジメチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-エチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-イソプロピルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-t-ブチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジ-イソプロピルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジ-t-ブチルアニリン、4-N,N-ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、4-N,N-ジメチルアミノ安息香酸メチルエステル、4-N,N-ジメチルアミノ安息香酸n-ブトキシエチルエステル、4-N,N-ジメチルアミノ安息香酸2-(メタクリロイルオキシ)エチルエステル、4-N,N-ジメチルアミノベンゾフェノンエチル4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸エステル、及びN,N-ジメチルアミノエチルメタクリレートが挙げられる。脂肪族第三級アミンの例としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N-n-ブチルジエタノールアミン、N-ラウリルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、N-メチルジエタノールアミンジメタクリレート、N-エチルジエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミンモノメタクリレート、トリエタノールアミンジメタクリレート、及びトリエタノールアミントリメタクリレートが挙げられる。
【0118】
アミン還元剤は、組成物の総重量に基づいて、0.1重量%~5.0重量%の量で組成物中に存在してもよい。
【0119】
光開始剤系は、ジアリールヨードニウム塩、トリアリールスルホニウム塩及びテトラアリール又はテトラアルキルホスホニウム塩をさらに含んでもよい。これらの塩は、光開始剤の重合性能を改善するための共開始剤として機能する場合があるが、カチオン重合のための開始剤としても機能する場合がある。
【0120】
例えば、ジアリールヨードニウム塩は、(4-メチルフェニル)[4-(2-メチルプロピル)フェニル]ヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、(4-メチルフェニル)[4-(2-メチルプロピル)フェニル]ヨードニウムテトラフルオロボレート、ジフェニルヨードニウム(DPI)テトラフルオロボレート、ジ(4-メチルフェニル)ヨードニウム(Me2-DPI)テトラフルオロボレート、フェニル-4-メチルフェニルヨードニウムテトラフルオロボレート、ジ(4-ヘプチルフェニル)ヨードニウムテトラフルオロボレート、ジ(3-ニトロフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジ(4-クロロフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジ(ナフチル)ヨードニウムテトラフルオロボレート、ジ(4-トリフルオロメチルフェニル)ヨードニウムテトラフルオロボレート、DPIヘキサフルオロホスフェート、Me2-DPIヘキサフルオロホスフェート、DPIヘキサフルオロアルセネート、ジ(4-フェノキシフェニル)ヨードニウムテトラフルオロボレート、フェニル-2-チエニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、3,5-ジメチルピラゾリル-4-フェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、DPIヘキサフルオロアンチモネート、2,2’-DPIテトラフルオロボレートジ(2,4-ジクロロフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジ(4-ブロモフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジ(4-メトキシフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジ(3-カルボキシフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジ(3-メトキシカルボニルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジ(3-メトキシスルホニルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジ(4-アセトアミドフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジ(2-ベンゾチエニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、及びDPIヘキサフルオロホスフェートからなる群から選択される。
【0121】
特に好ましいヨードニウム化合物としては、ジフェニルヨードニウム(DPI)ヘキサフルオロホスフェート、ジ(4-メチルフェニル)ヨードニウム(Me2-DPI)ヘキサフルオロホスフェート、ジアリールヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、(4-メチルフェニル)[4-(2-メチルプロピル)フェニル]ヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、(4-メチルフェニル)[4-(2-メチルプロピル)フェニル]ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート(Irgacure(登録商標)250、BASF SEから市販されている製品)、(4-メチルフェニル)[4-(2-メチルプロピル)フェニル]ヨードニウムテトラフルオロボレート、4-オクチルオキシフェニルフェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、4-(2-ヒドロキシテトラデシルオキシフェニル)フェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、及び4-イソプロピル-4’-メチルジフェニルヨードニウムボレートが挙げられる。
【0122】
特に好ましい実施形態によれば、ヨードニウム化合物は、DPIヘキサフルオロホスフェート及び/又は4-イソプロピル-4’-メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートである。
【0123】
好ましいトリアリールスルホニウム塩は、以下の式:
【化8】

のS-(フェニル)チアントレニウムヘキサフルオロホスフェートである。
【0124】
特に好ましいホスホニウム塩は、テトラアルキルホスホニウム塩、テトラキス-(ヒドロキシメチル)-ホスホニウム(THP)塩又はテトラキス-(ヒドロキシメチル)-ホスホニウムヒドロキシド(THPOH)塩であり、式中、テトラアルキルホスホニウム塩のアニオンはギ酸塩、酢酸塩、リン酸塩、硫酸塩、フッ化物、塩化物、臭化物、及びヨウ化物から成る群より選択される。
【0125】
適切なレドックス開始剤系は、還元剤及び酸化剤を含み、 これらは(B)酸性基を含む水溶性の重合性ポリマー、 必要に応じて(D)重合性二重結合及び必要に応じてカルボン酸基を有する加水分解に対して安定な水溶性のモノマー、 及び必要に応じて(E)光の存在とは無関係に少なくとも二個の重合可能な炭素-炭素二重結合を有する重合性の加水分解に対して安定な架橋剤の、重合性基の重合を開始することができるフリーラジカルを生成する。還元剤及び酸化剤は、典型的な歯科条件下での貯蔵及び使用を可能にするために、(C)重合開始剤系が十分に貯蔵安定性であり、望ましくない着色がないように選択される。更に、還元剤及び酸化剤は、(C)重合開始剤系が樹脂系と十分に混和性であり、レドックス開始剤系を組成物中に溶解させることができるように選択される。
【0126】
有用な還元剤としては、アスコルビン酸、アスコルビン酸誘導体、及び米国特許第5,501,727号に記載されているような金属錯体化アスコルビン酸化合物;アミン類、即ち三級アミン類、好ましくは三級芳香族アミン、例えば4-tert-ブチルジメチルアニリン;芳香族スルフィン酸塩、例えばp-トルエンスルフィン酸塩、ベンゼンスルフィン酸塩、最も好ましくはパラ-トルエンスルフィン酸ナトリウム;チオ尿素、例えば1-エチル-2-チオ尿素、テトラエチルチオ尿素、テトラメチルチオ尿素、1,1-ジブチルチオ尿素、及び1,3-ジブチルチオ尿素;ならびにこれらの混合物、が挙げられる。他の補助還元剤としては、塩化コバルト(II)、塩化第一鉄、硫酸第一鉄、ヒドラジン、ヒドロキシルアミン、亜ジチオン酸又は亜硫酸陰イオンの塩、及びそれらの混合物が挙げられてもよい。また、脂肪族スルフィン酸塩、例えば直鎖状の又は分枝状のC1-6アルキル基を有するスルフィン酸塩も好ましい。脂肪族スルホン酸塩の例としては、イソプロピルスルフィン酸亜鉛及びn-プロピルスルフィン酸亜鉛、好ましくはイソプロピルスルフィン酸亜鉛が挙げられる。
【0127】
好適な酸化剤としては、過硫酸及びその塩、例えばアンモニウム、ナトリウム、カリウム、セシウム、及びアルキルアンモニウム塩、好ましくは無機ペルオキソ二硫酸塩、最も好ましくはペルオキソ二硫酸カリウムが挙げられる。追加の酸化剤としては、ベンゾイルペルオキシドなどの過酸化物、クミルヒドロペルオキシド、t-ブチルヒドロペルオキシド、及びアミルヒドロペルオキシドなどのヒドロペルオキシド、並びに、塩化コバルト(III)及び塩化第二鉄、硫酸セリウム(IV)などの遷移金属の塩、過ホウ酸及びそれらの塩、過マンガン酸及びそれらの塩、過リン酸及びそれらの塩、並びにそれらの混合物が挙げられる。一つ若しくは複数の異なる酸化剤又は一つ若しくは複数の異なる還元剤を開始剤系に使用してもよい。少量の遷移金属化合物を添加してレドックス硬化の速度を促進してもよい。還元剤及び酸化剤は、適切なフリーラジカル反応速度を可能にするのに十分な量で存在する。
【0128】
還元剤又は酸化剤は、組成物の貯蔵安定性を増強するため、及び必要に応じて、還元剤及び酸化剤を一緒に包装できるようにするためにマイクロカプセル化されてもよい(米国特許第5,154,762号)。封入剤を適切に選択することにより、貯蔵安定状態で酸化剤と還元剤とを組み合わせ、且つ酸官能性成分及び所望により充填剤さえも組み合わせることができる場合がある。さらに、水不溶性封入剤を適切に選択することにより、微粒子反応性ガラス及び水と一緒に還元剤及び酸化剤を貯蔵安定状態で組み合わせられる。
【0129】
特に好ましいレドックス開始剤は、(i)無機ペルオキソ二硫酸塩、(ii)芳香族アミン、及び(iii)芳香族又は脂肪族スルフィン酸塩を含有する。特に好ましいレドックス開始剤については、無機ペルオキソ二硫酸塩がペルオキソ二硫酸カリウムであり;及び/又は芳香族アミンは、tert-ブチル-N,N-ジメチルアニリン(4-tert-ブチル-N,N-ジメチルアニリン)であり;及び/又は芳香族スルフィン酸塩はパラ-トルエンスルフィン酸ナトリウムであり;及び/又は脂肪族スルホン酸塩はイソプロピルスルフィン酸亜鉛である;ことが好ましい。最も好ましくは、レドックス開始剤は、(i’)ペルオキソ二硫酸カリウム、(ii’)4-tert-ブチル-N,N-ジメチルアニリン、ならびに(iii’)パラ-トルエンスルフィン酸ナトリウム及び/又はイソプロピルスルフィン酸亜鉛を含有する。
【0130】
(C)重合開始剤系は、光開始剤及び上記のレドックス開始剤系のうちのいずれか一つを含有する二重硬化開始剤系であることが好ましい。より好ましくは、二重硬化開始剤系は光開始剤(好ましくはα-ジケトン光開始剤、より好ましくはカンファーキノン)を含有し、レドックス開始剤は(i)無機ペルオキソ二硫酸塩、(ii)芳香族アミン、ならびに(iii)芳香族スルフィン酸塩及び/又は脂肪族スルホン酸亜鉛を含有する。最も好ましくは、二重硬化開始剤系は光開始剤(好ましくはα-ジケトン光開始剤、より好ましくはカンファーキノン)を含有し、レドックス開始剤は(i’)ペルオキソ二硫酸カリウム、(ii’)tert-ブチル-N,N-ジメチルアニリン、ならびに(iii’)パラ-トルエンスルフィン酸ナトリウム及び/又はイソプロピルスルフィン酸亜鉛を含有する。
【0131】
驚くべきことに、本水性歯科用グラスアイオノマー組成物が自己硬化、すなわち外部動力源、例えば光源を用いないで硬化される場合、得られる自己硬化組成物の機械的特性、曲げ強度及びE-モジュラスが、(i)無機ペルオキソ二硫酸塩、(ii)芳香族アミン、及び(iii)芳香族スルフィン酸塩を含有するレドックス開始剤によって著しく増加することが明らかになった。
【0132】
深い空洞については、レドックス開始剤を含む(C)によるダークキュア重合開始剤系が好ましい。光開始剤及びレドックス開始剤を含有する二重硬化開始剤系がより好ましい。レドックス開始剤は、(i)無機ペルオキソ二硫酸塩、(ii)芳香族アミン、及び(iii)芳香族スルフィン酸塩を含有するレドックス開始剤であることが最も好ましい。
【0133】
開始剤系の活性種の量は特に限定されない。好適には、重合開始剤系(C)中の光開始剤の量は、(B)酸性基を含む水溶性の重合性ポリマー、(D)重合性二重結合及び必要に応じてカルボン酸基を有する任意の加水分解に対して安定な水溶性のモノマー、ならびに(E)少なくとも二つの重合性炭素-炭素二重結合を有する任意の重合性の加水分解に対して安定な架橋剤、の形態の重合性化合物の総量に基づいて0.001~5モル%の範囲である。
【0134】
(D)単一の重合性二重結合を有するモノマー
必要に応じて、本発明による水性歯科用グラスアイオノマーは、(D)単一の重合性二重結合を有する加水分解に対して安定な、水溶性のモノマーを含む。本発明による水性歯科用グラスアイオノマーは、(D)単一の重合性二重結合を有するの加水分解に対して安定な水溶性のモノマーの一つ又は二つ以上の混合物を含み得る。
【0135】
これに関連して使用される用語「加水分解に対して安定な」は、(D)によるモノマーが、酸性媒体、例えば歯科用組成物中で加水分解に対して安定であることを意味する。具体的には、(D)によるモノマーは、基、例えばpH3の水性媒体中で室温で一ヶ月以内に加水分解するエステル基を含まない。
【0136】
更に、これに関連して使用される用語「水溶性」は、(D)によるモノマーの少なくとも0.1g、好ましくは0.5gが20℃の水100gに溶解することを意味する。
【0137】
(D)によるモノマーは、(C)による重合開始剤系の存在下で、(B)による重合性ポリマーと共に重合するため、(D)による任意の加水分解に対して安定な水溶性のモノマーは、硬化形態での本水性歯科用グラスアイオノマー組成物の機械的特性の更なる向上をもたらすことができる。それにより、(D)によるモノマーは、それ自体と、及び/又は(B)による重合性化合物の重合性ペンダント基と、重合することができる。したがって、(D)によるモノマーから形成されるポリマーの形成の他に、(D)によるモノマーが(B)による重合性ポリマーの重合性ペンダント基と反応するグラフト重合があり、それによりグラフトポリマーが形成される。更に、(D)によるモノマーから形成されるグラフト側鎖は、(B)による別の重合性ポリマーのペンダント重合性基と付加反応して、それにより架橋ポリマーを得ることができる。
【0138】
以下のスキーム5において、(D)によるモノマーによるグラフト重合は、上記スキーム3に例示する(B)による重合性ポリマーについて例示的に示されており、ここでアクリル酸は(D)によるモノマーとして単に例示的に選択される。文字「m」は、少なくとも1つの整数を示す。
【化9】
【0139】
(D)による好適なモノマーは加水分解に対して安定であり、すなわちそれは一ヶ月以内にpH3で加水分解する基を含まない。特に、(D)による好適なモノマーはエステル基を全く含まない。
【0140】
更に、(D)による好適なモノマーは、一つの重合性二重結合を含む。好適な重合性二重結合は、アルケニル基及びビニル基等の炭素-炭素二重結合である。
【0141】
好ましくは、(D)によるモノマーは、最大200Da、より好ましくは最大150Da、最も好ましくは最大100Daの分子量を有する。
【0142】
好ましくは、単一の重合性二重結合を有する加水分解に対して安定な水溶性のモノマーはカルボン酸基を有し、一般式(4)で表される化合物である:
【化10】
【0143】
式(4)中、Rは水素原子、又は直鎖若しくは分岐のC1-3アルキル基であり、Rは水素原子、又は-COOH基によって置換されていてもよい直鎖若しくは分岐のC1-6アルキル基である。式(4)中、点線は、Rがcis配位又はtrans配位のいずれかであってもよいことを示す。好ましくは、Rは水素原子であり、Rは水素原子、又は必要に応じて-COOH基で置換されたC1-3アルキル基である。より好ましくは、Rは水素原子であり、Rは水素原子又は-COOH基で置換されたメチル基であり、すなわち式(4)の化合物はアクリル酸又はイタコン酸である。最も好ましくは、式(4)の化合物はアクリル酸である。
【0144】
好ましくは、式(4)において、残基R及びRは、(D)による単一の重合性二重結合を有するモノマーの分子量が最大200Da、好ましくは最大150Da、より好ましくは最大100Daであることの条件で、選択される。
【0145】
更に、単一の重合性二重結合を有する加水分解に対して安定な水溶性のモノマーは、2-ヒドロキシエチルアクリルアミド(HEAA)、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ-n-プロピル(メタ)アクリルアミド、及びN-エチル-N-メチル(メタ)アクリルアミドであってもよい。
【0146】
(D)によるモノマーは、好ましくは最終水性歯科用グラスアイオノマー組成物の良好な加工性及び適応性の観点、特に粘度に関して、から選択される。したがって、(D)によるモノマーの粘度は、好ましくは0.1~100mPa・s、より好ましくは0.3~50mPa・s、更により好ましくは0.5~25mPa・s、更にいっそうより好ましくは0.8~10mPa・s、特に0.9~3mPa・sの範囲内である。
【0147】
カルボン酸基を含む(D)によるモノマーは、このようなモノマーが水性歯科用グラスアイオノマー組成物中の酸性ポリマーに追加のカルボン酸基を導入するので、特に有利であり、該組成物はセメント反応を受けて、(A)による反応性微粒子ガラスの存在下で硬化又は硬化反応が更に改善することができる。
【0148】
(D)によるモノマーは、水性歯科用グラスアイオノマー組成物中に、水性歯科用グラスアイオノマー組成物の総重量に基づいて、好ましくは0.1~20重量%、より好ましくは1~15重量%、更により好ましくは2~10重量%の量が含有される。(D)によるモノマーが存在しない場合、長期間の機械的抵抗が低くなる可能性がある。一方、(D)によるモノマーの量が20重量%を超えると、本水性歯科用グラスアイオノマー組成物から得られる歯科用グラスアイオノマーセメントの収縮が起こり得る。
【0149】
(E)少なくとも二つの重合性C-C二重結合を有する重合性架橋剤
必要に応じて、本発明による水性歯科用グラスアイオノマー組成物は、(E)少なくとも二つの重合性炭素-炭素二重結合を有する重合性の加水分解に対して安定な架橋剤を含有する。
【0150】
(E)による架橋剤は、アルキレンジオールジメチルアクリレート、例えば1,3-ブタンジオールジメタクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、アルキレンジオールジビニルエーテル、例えば1,4-ブタンジオールジビニルエーテル、ジ(エチレングリコール)ジメタクリレート、ジ(エチレングリコール)ジビニルエーテル、ペンタエリスリトールジアクリレートモノステアレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート又はトリアリールエーテル、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、及びトリメチロールプロパントリアクリレートであることができる。(E)による架橋剤は、1,3-ビス(アクリルアミド)-N,N’-ジエチルプロパン、N,N-ジ(シクロプロピルアクリルアミド)プロパンであることもできる。
【0151】
好ましくは、架橋剤は、欧州特許公開第2705827号、及び国際特許公開第2014040729号に開示されている下記式(5)の重合性化合物である。
【0152】
A’’-L(B)n’(5)
(式中、
A’’は下記式(6)の基であり:
【化11】

(X10は、CO、CS、CH、又は基[X10010であり、ここでX100は酸素原子、硫黄原子、又はNHであり、Z10は直鎖又は分岐のC1-4アルキレン基であり、kは1~10の整数であり、
10は、水素原子、
-COOM10
3-6シクロアルキル基、C6-14アリール基若しくはC3-14ヘテロアリール基、-COOM10、-PO10、-O-PO10 、又は-SO10によって置換されていてもよい直鎖又は分岐のC1-16アルキル基、
1-16アルキル基、C6-14アリール基若しくはC3-14ヘテロアリール基、-COOM10、-PO10、-O-PO10 、又は-SO10によって置換されていてもよいC3-6シクロアルキル基、
-COOM10、-PO10、-O-PO10 、又は-SO10によって置換されていてもよいC6-14アリール基若しくはC3-14ヘテロアリール基、であり、
20は、水素原子、
-COOM10
6-14アリール基若しくはC3-14ヘテロアリール基、-COOM10、-PO10、-O-PO10 及び-SO10によって置換されていてもよい直鎖又は分岐のC1-16アルキル基、
1-16アルキル基、C6-14アリール基若しくはC3-14ヘテロアリール基、-COOM10、-PO10、-O-PO10 若しくは-SO10によって置換されていてもよいC3-6シクロアルキル基、又は
-COOM10、-PO10、-O-PO10 、及び-SO10によって置換されていてもよいC6-14アリール基又はC3-14ヘテロアリール基、である)の基であり、
Lは単結合又はリンカー基であり、
Bは独立して、
A’’の定義による基、
下記式(7)の基:
【化12】

(式中、
20は、独立して、式(6)においてXについて定義されるのと同じ意味を有し、
10及びR20は、互いに独立して、及び独立して、式(6)について定義されるのと同じ意味を有し、
R°は、水素原子、
3-6シクロアルキル基、C6-14アリール基若しくはC3-14ヘテロアリール基、-COOM10、-PO10、-O-PO10 、又は-SO10によって置換されていてもよい直鎖又は分岐のC1-16アルキル基、
1-16アルキル基、C6-14アリール基若しくはC3-14ヘテロアリール基、-COOM10、-PO10、-O-PO10 、又は-SO10によって置換されていてもよいC3-6シクロアルキル基、-COOM10、-PO10、-O-PO10 、又は-SO10によって置換されていてもよいC6-14アリール基、である)の基、
下記式(8)の基:
【化13】

(式中、
30は、CO、-CHCO-、CS、又は-CHCS-であり、
10及びR20は、互いに独立して、及び独立して、式(6)について定義される意味と同じ意味を有する)、又は、
基[X40200E、
(式中、
200は、直鎖又は分岐のC1-4アルキレン基であり、
40は、酸素原子、硫黄原子、又はNHであり、
Eは、水素原子、
PO
3-6シクロアルキル基、C6-14アリール基若しくはC3-14ヘテロアリール基、-COOM10、-PO10、-O-PO10 、又は-SO10によって置換されていてもよい直鎖又は分岐のC1-16アルキル基、
1-16アルキル基、C6-14アリール基若しくはC3-14ヘテロアリール基、-COOM10、-PO10、-O-PO10 、又は-SO10によって置換されていてもよいC3-6シクロアルキル基、
-COOM10、-PO10、-O-PO10 、又は-SO10によって置換されていてもよいC6-14アリール基若しくはC3-14ヘテロアリール基であり、及び
pは、1~10の整数である)であり、
及び
n’は1~4の整数であり、
ここで、互いに独立しているM10は、それぞれ水素原子又は金属原子を表す。好ましくは、Lが単結合である場合、BはA’’の定義による基であることも、式(7)の基であることもできない。
【0153】
以下の基は、式(6)の好ましい基であり、式中、Mは水素原子又は金属原子である。
【化14】

好ましい二価のリンカー基は、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン及び以下の二価の基から選択され得る:

【化15】

N,N’-(2E)-ブタ-2-エン-1,4-ジアリルビス-[(N-プロパ-2-エン-1)アミド、及びN,N-ジ(アリルアクリルアミド)プロパンが好ましい。
【0154】
他の更なる成分
本発明による水性歯科用グラスアイオノマー組成物は、任意の成分(D)及び(E)の他に、追加の任意成分を含むことができる。
【0155】
例えば、本発明による水溶性歯科用グラスアイオノマー組成物は、CaWO、ZrO、YF等の放射線不透性を改善するための更なる成分、又はYF等のフッ化物放出を増加させるための更なる成分も含み得る。
【0156】
例えば、本発明による水溶性歯科用グラスアイオノマー組成物は、酒石酸等の改質剤も含み得る。このような改質剤は、米国特許第4,089,830号、同第4,209,434号、同4,317,681号、及び同4,374,936号に記載されているように、セメントを調製する場合に、グラスアイオノマーセメント反応の作業時間及び硬化時間をそれぞれ調整する。その上、一般に、作業時間の増加は、硬化時間を増加させる。
【0157】
「作業時間」は、表示されたP/L比で粉末及びガラスの混合を開始する時から測定された時間の期間であり、この期間は特性に悪影響を与えずに材料を操作することが可能である。
【0158】
「硬化時間」は、混合物が加圧下でさえも変形可能でなくなった時点である。
【0159】
硬化反応では、重合性二重結合の存在により、重合反応が起こる。
【0160】
本発明による水溶性歯科用グラスアイオノマー組成物は、成分、例えば、溶媒、顔料、非ガラス質充填剤、フリーラジカルスカベンジャー、重合禁止剤、反応性及び非反応性希釈剤、例えばN,N’-ジエチル-1,3-ビスアクリルアミド-プロパン(BADEP)、1,3-ビスアクリルアミド-プロパン(BAP)、及び1,3-ビスアクリルアミド-2-エチル-プロパン(BAPEN)等の例えばビスアクリルアミド、界面活性剤(反応抑制剤の溶解度を高めるため等、例えばポリオキシエチレン)、充填剤の反応性を高めるためのカップリング剤、例えば3-(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレート、並びにレオロジー改質剤、を更に含有することができる。
【0161】
好適な反応性希釈剤は、靱性、接着性及び硬化時間等の特性を変化させるα、β不飽和モノマーである。このようなα、β不飽和モノマーは、アクリレート及びメタクリレートであることができ、例えば、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、プロピルアクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルアクリレート、イソプロピルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、ビス-フェノールAのジグリシジルメタクリレート(「bis-GMA」)、グリセロールモノアクリレート及びグリセロールジアクリレート、グリセロールモノメタクリレート及びグリセロールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート(エチレンオキシド繰り返し単位の数は2~30で変化する)、ポリエチレングリコールジメタクリレート(エチレンオキシド繰り返し単位の数は2~30で変化する、特にトリエチレングリコールジメタクリレート(「TEGDMA」)、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトール並びにジペンタエリスリトールのモノアクリレート及びモノメタクリレート、ジアクリレート及びジメタクリレート、トリアクリレート及びトリメタクリレート並びにテトラアクリレート及びテトラメタクリレート、1,3-ブタンジオールジアクリレート、1,3-ブタンジオールジメタクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、ジ-2-メタクリロイルオキシエチルヘキサメチレンジカルバメート、ジ-2-メタクリロイルオキシエチルトリメチルヘキサンエチレンジカルバメート、ジ-2-メタクリロイルオキシエチルジメチルベンゼンジカルバメート、メチレン-ビス-2-メタクリルオキシエチル-4-シクロヘキシルカルバメート、ジ-2-メタクリルオキシエチル-ジメチルシクロヘキサンジカルバメート、メチレン-ビス-2-メタクリルオキシエチル-4-シクロヘキシルカルバメート、ジ-1-メチル-2-メタクリルオキシエチル-トリメチル-ヘキサメチレンジカルバメート、ジ-1-メチル-2-メタクリルオキシエチル-ジメチルベンゼンジカルバメート、ジ-1-メチル-2-メタクリルオキシエチル-ジメチルシクロヘキサンジカルバメート、メチレン-ビス-1-メチル-2-メタクリルオキシエチル-4-シクロヘキシルカルバメート、ジ-1-クロロメチル-2-メタクリルオキシエチル-ヘキサメチレンジカルバメート、ジ-1-クロロメチル-2-メタクリルオキシエチル-トリメチルヘキサメチレンジカルバメート、ジ-1-クロロメチル-2-メタクリルオキシエチル-ジメチルベンゼンジカルバメート、ジ-1-クロロメチル-2-メタクリルオキシエチル-ジメチルシクロヘキサンジカルバメート、メチレン-ビス-2-メタクリルオキシエチル-4-シクロヘキシルカルバメート、ジ-1-メチル-2-メタクリルオキシエチル-ヘキサメチレンジカルバメート、ジ-1-メチル-2-メタクリルオキシエチル-トリメチルヘキサメチレンジカルバメート、ジ-1-メチル-2-メタクリルオキシエチル-ジメチルベンゼンジカルバメート、ジ-1-メチル-2-メタクリルオキシエチル-ジメチルシクロヘキサンジカルバメート、メチレン-ビス-1-メチル-2-メタクリルオキシエチル-4-シクロヘキシルカルバメート、ジ-1-クロロメチル-2-メタクリルオキシエチル-ヘキサメチレンジカルバメート、ジ-1-クロロメチル-2-メタクリルオキシエチル-トリメチルヘキサメチレンジカルバメート、ジ-1-クロロメチル-2-メタクリルオキシエチル-ジメチルベンゼンジカルバメート、ジ-1-クロロメチル-2-メタクリルオキシエチル-ジメチルシクロヘキサンジカルバメート、メチレン-ビス-1-クロロメチル-2-メタクリルオキシエチル-4-シクロヘキシルカルバメート、2,2’-ビス(4-メタクリルオキシフェニル)プロパン、2,2’-ビス(4-アクリルオキシフェニル)プロパン、2,2’-ビス[4(2-ヒドロキシ-3-メタクリルオキシ-フェニル)]プロパン、2,2’-ビス[4(2-ヒドロキシ-3-アクリルオキシ-フェニル)]プロパン、2,2’-ビス(4-メタクリルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2’-ビス(4-アクリルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2’-ビス(4-メタクリルオキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2’-ビス(4-アクリルオキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2’-ビス(4-メタクリルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2’-ビス(4-アクリルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2’-ビス[3(4-フェノキシ)-2-ヒドロキシプロパン-1-メタクリレート]プロパン、並びに2,2’-ビス[3(4-フェノキシ)-2-ヒドロキシプロパン-1-アクリレート]プロパンを挙げることができる。重合性成分の他の好適な例は、イソプロペニルオキサゾリン、ビニルアズラクトン、ビニルピロリドン、スチレン、ジビニルベンゼン、ウレタンアクリレート又はウレタンメタクリレート、エポキシアクリレート又はエポキシメタクリレート、及びポリオールアクリレート又はポリオールメタクリレートである。必要に応じて、α、β-不飽和モノマーの混合物を添加することができる。好ましくは、本発明の混合されているが未硬化の歯科用組成物は、混合されているが未硬化の水性歯科用グラスアイオノマー組成物成分の(水、溶媒、希釈剤及びα、β-不飽和モノマーを含む)総重量に基づいて、約0.5~約40%、より好ましくは約1~約30%、最も好ましくは約5~20%の水、溶媒、希釈剤及びα、β不飽和モノマーの組み合わせ重量を含む。
好適なフリーラジカルスカベンジャーの一例は、4-メトキシフェノールである。
【0162】
本発明による水性歯科用グラスアイオノマー組成物は、下記式(9)及び/又は(10)の阻害剤を含むことが好ましい:
【化16】

(式中、
前記Rが同一でも異なっていてもよく、分岐C3-8アルキル基若しくはアルケニル基、又はC3-8シクロアルキル基若しくはシクロアルケニル基を独立して表し、
R’が水素原子、C1-6アルキル基若しくはC2-6アルケニル基、又はC1-6フルオロアルキル基若しくはC2-6フルオロアルケニル基を表し、
Xが、C1-8アルキル基又はC3-8シクロアルキル基から選択される基を表し、
nは、0、1、又は2である)の化合物である。
【0163】
本発明による水性歯科用グラスアイオノマー組成物は、式(9)及び/又は(10)の阻害剤の一つ、又は二つ以上の阻害剤の混合物を含み得る。好ましくは、阻害剤は式(9)及び/又は(10)の化合物であり、式中、Rsは同一でも異なっていてもよく、互いに独立して分枝C3-8アルキル基又はC3-8シクロアルキル基を表し、R’は水素原子、C1-6アルキル基又はC1-6フルオロアルキル基を表し、nは0又は1である;より好ましくは、阻害剤は式(9)及び/又は(10)の化合物であり、式中、Rsは同一でも異なっていてもよく、互いに独立して分枝C3-8アルキル基を表し、R’は水素原子又はC1-6アルキル基を表し、nは0である;更により好ましくは、阻害剤は以下の式(9a)、(9b)又は(10a)の化合物である:
【化17】

式中、R11、R12、R13、R14、R15及びR16は、同一でも異なっていてもよく、互いに独立してメチル基又はエチル基を表す。式(9a)、(9b)、又は(10a)の阻害剤は下記式の化合物であることが特に好ましい。
【化18】

の化合物であり、好ましくはDTBHQであることが特に好ましい。
【0164】
2,5-ジ-tert-ブチルヒドロキノン(DTBHQ)、2,5-ジ-tert-ブチル-4-メトキシフェノール及び2,5-ジ-tert-ブチルベンゾキノン(DTBBQ)は市販されている標準的な化学物質である。一般的に、R’がC1-6アルキル基、C2-6アルケニル基、C1-6フルオロアルキル基、又はC2-6フルオロアルケニル基である式(9)のモノエーテル、例えば式(Ib)の2,5-ジ-tert-ブチル-ヒドロキノンモノアルキルエーテルは、例えばC.GambarottiらによるCurrent Organic Chemistry 2013,17,1108~1113ページに記述されているのと同様に、出発物質としての式(9)のジヒドロキノン、例えばDTBHQから、無機酸、例えばHSO又は固体酸性触媒、例えばスチレン系スルホン化ポリマー、例えば市販のイオン交換樹脂であるAmberlyst(登録商標)15及びAberlite(登録商標)IR120、と組み合わせてNaNOの存在下で触媒される選択的モノエーテル化により容易に得られることができる。あるいは、R’がC1-6アルキル、C2-6アルケニル基、C1-6フルオロアルキル又はC2-6フルオロアルケニル基である式(9)のモノエーテル、例えば式(Ib)の2,5-ジ-tert-ブチル-ヒドロキノンモノアルキルエーテルは、米国特許第4,469,897号に記載されているのと同様に、銅及び鉄塩から選択される遷移金属塩の存在下で、式(9)のジヒドロキノン、例えばDTBHQをアルキルアルコールと反応させることによって得ることができる。
【0165】
この阻害剤DTBHQは変色の問題の観点で最良の結果をもたらす、即ち、水性歯科用グラスアイオノマー組成物は、50℃において30日間貯蔵しても全く変色しない、又はほとんど変色しないことを示す本実験例により、阻害剤DTBHQが特に好ましい。
【0166】
別の実施形態では、R’がC1-6アルキル基もしくはC2-6アルケニル基、又はC1-6フルオロアルキル基もしくはC2-6フルオロアルケニル基を表す式(9)の化合物が好ましい。R’がC1-6アルキル基又はC1-6フルオロアルキル基を表すことがより好ましく、R’がC1-6アルキル基を表すことが最も好ましい。
【0167】
本発明による水性歯科用グラスアイオノマー組成物はその水性歯科用グラスアイオノマー組成物の総重量に対して0.001~3重量パーセント、好ましくは0.005~2重量パーセント、より好ましくは0.01~1.2重量パーセント、及び更により好ましくは0.05~1.0重量パーセント、一層更により好ましくは0.075~0.9重量パーセント、及び最も好ましくは0.1~0.8重量パーセントの量で阻害剤を含有する。
【0168】
阻害剤の量が上記の下限の0.001未満である場合、阻害剤の量が少な過ぎて安定化効果が得られないため、水性歯科用グラスアイオノマー組成物の貯蔵安定性が不十分となる可能性がある。しかし、阻害剤の量が3重量パーセントの最大閾値を超えると、より多い量の阻害剤は適用中の組成物の意図した重合硬化を妨げるか又は実質的に妨げる場合があるので、水性歯科用グラスアイオノマー組成物の適用は悪影響を受ける可能性がある。
【0169】
貯蔵時及び/又は光硬化中に水性歯科用グラスアイオノマー組成物の有利な安定性を提供するために、組成物の変色を防止又は実質的に防止するだけでなく、光硬化のための有益な重合速度を提供するために、(ii)(a)1,2-ジケトン光開始剤:(ii)(b)共開始剤化合物:式(9)及び(10)の阻害剤のモル比を、1:(0.3~3.0):(0.01~0.2)、より好ましくは1:(0.5~3.0):(0.01~0.1)、更により好ましくは、1:(1.0~3.0):(0.01~0.05)の範囲内に設定することが好ましい場合がある。
【0170】
本発明による水性歯科用グラスアイオノマー組成物は、(A)による反応性微粒子ガラスの他に更に充填剤を含んでもよい。好ましくは、更なる充填剤は、不活性ガラス、フッ化物徐放性ガラス、粒状予備重合充填剤、粉砕予備重合充填剤、及び充填剤凝集体から選択される。
【0171】
用語「不活性ガラス」は、セメント反応において酸性基を含むポリマーと反応することができないガラスを指す。不活性ガラスは、例えば、Journal of Dental Research、1979年6月、1607~1619ページ、又はより最近では、米国特許第4814362号、同第5318929号、同第5360770号、及び米国特許出願公開第2004/0079258A1号に記載されている。具体的には、米国特許出願公開第2004/0079258A1号により、強塩基性酸化物、例えばCaO、BaO、SrO、MgO、ZnO、NaO、KO、LiOを弱塩基性酸化物、例えばスカンジウム又はランタニド系列中のもので置換した不活性ガラスが知られている。
【0172】
用語「フッ化物徐放性ガラス」は、フッ化物を放出することができるガラスを指す。ガラスがフッ化物徐放性、好ましくは持続的フッ化物徐放性を有するという条件で、フッ化物を含有するガラス無機粒子を形成するために酸化物の混合物に添加することによって、フッ化物放出能力を与えることができる。このような無機粒子は、フッ化ナトリウム、フッ化ストロンチウム、フッ化ランタン、フッ化イッテルビウム、フッ化イットリウム、及びカルシウム含有フルオロアルミノシリケートガラスからなる群から選択することができる。
【0173】
本明細書で使用される用語「シラン化」は、充填剤がその表面にシランカップリング剤を、例えば少なくとも部分的に、好ましくは完全に充填剤の表面を覆うコーティングの形態で有することを意味する。
【0174】
典型的に、シランカップリング剤は式(11)
(R24,R25,R26)Si(R (11)
のオルガノシランが用いられ、式中nは1~3であり、置換基R24、R25、R26の数は4-nであり、R24、R25、R26のうちの少なくとも一つは重合性基を表す。二個又は三個の基Rが存在する場合、同じでも互いに異なっていてもよいRは、被覆しようとする充填材料の表面と反応することができる加水分解性基を表す。Rは、アルコキシ基、エステル基、ハロゲン原子及びアミノ基からなる群から選択されてもよく、アルコキシ基は、好ましくは直鎖状C1-8又は分枝状もしくは環状C3-8アルコキシ基であり、そしてエステル基は、好ましくは直鎖状C1-8又は分枝状もしくは環状C3-8アルキル基を有するカルボキシレートである。最も好ましくは、加水分解性の基Rは、アルコキシル基を表す。
【0175】
基R24、R25及びR26は、同じでも互いに異なっていてもよく、非反応性基及び/又は重合性基を表すが、但し、R24、R25及びR26のうちの少なくとも一つは重合性基を表す。R24、R25及びR26の非反応性基をアルキル基、好ましくは直鎖状C1-8又は分枝状もしくは環状C3-8アルキル基で表すことができる。R24、R25及びR26の重合性基は、好ましくは(メタ)アクリル基、ビニル基又はオキシラン基からなる群から選択され、より好ましくは(メタ)アクリル基又はビニル基、最も好ましくは(メタ)アクリル基であり、(メタ)アクリル基は、例えばメタクリルオキシ又はメタクリルオキシアルキルの形態であってもよく、ここでアルキルは直鎖状C1-8又は分枝状もしくは環状C3-8アルキル基を意味する。
【0176】
特に好ましいオルガノシランは、例えば3-メタクリロキシトリメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、トリス(2-メトキシエトキシ)-ビニルシランもしくはトリス(アセトキシ)-ビニルシラン、又は欧州特許出願公開第0969789A1号に開示されているオルガノシランの特定の群、即ち3-メタクリル-オキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルジメトキシ-モノクロロシラン、3-メタクリル-オキシプロピルジクロロモノメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリ-クロロシラン、3-メタクリロキシ-プロピルジクロロモノメチル-シラン、及び3-メタクリロキシプロピルモノクロロジメチルシランのうちのいずれか一つである。
【0177】
式(11)のオルガノシランの代わりに又はそれに加えて、いわゆるダイポーダル(dipodal)オルガノシランを用いることができる。ダイポーダルオルガノシランは、典型的には式(12);
((R24、R25、R26)Si-R27CH-R (12)
(式中、R24、R25、R26、及びRは、式(11)のオルガノシランについて上記に定義したのと同じ意味を有し、R27はアルキレン基、好ましくは直鎖状C1-8又は分枝状もしくは環状C3-8アルキレン基を表す)の化合物である。
【0178】
本発明による水性歯科用グラスアイオノマー組成物は、好ましくは、組成物の総重量に基づいて1~85重量パーセントの量の更なる充填剤を含有する。
【0179】
1~70μmのメジアン粒子径(D50)を有する複合充填剤粒子を供給するために、充填剤の凝集体を、
a) 1~1200nmのメジアン粒子径(D50)を有する微粒子充填剤、好ましくは上記の微粒子ガラス充填剤を、その微粒子充填剤の表面上にポリマーコーティング層を形成する重合性皮膜形成剤を含有するコーティング組成物でコーティングすることであって、前記ポリマーコーティング層は、コーティング層の表面に反応性基を示してもよく、前記反応性基は付加重合性基及びステップ成長重合性基から選択され、それによりその後又は同時にコーティング微粒子充填剤を形成する、コーティングすることと;
b) コーティングされた微粒子充填剤を造粒するために、必要に応じて更なる架橋剤の存在下で、及び必要に応じて反応性基を示さない更なる微粒子充填剤の存在下でコーティング微粒子充填剤を凝集させることであって、造粒物は、コーティング微粒子充填剤粒子と、少なくとも一つのコーティング層によって互いに分離されそして互いに結合する任意の更なる微粒子充填剤粒子とを含有し、それにより、少なくとも一つのコーティング層は、反応性基と必要に応じて更なる架橋剤とを反応させることによって得られる架橋基によって架橋されてもよい、凝集させることと;
c) コーティング微粒子充填剤の造粒物を必要に応じて粉砕すること、分級すること及び/又はふるい分けすることと;
d) コーティング微粒子充填剤の造粒物を必要に応じて更に架橋することと;
を含むプロセスであって、反応性基は反応性基及び必要に応じて更なる架橋剤を反応させることによって得られる架橋性基に変換され、欧州特許出願公開第2604247A1号に更に記載されるように、微粒子充填剤は体積基準で複合充填剤粒子の主成分である、プロセスによって得ることができる。
【0180】
造粒され、粉砕された予備重合充填剤を得るために、上記の方法の工程b)は省略され、そして粉砕工程c)は好適な造粒粒子径又は粉砕粒子径を得るために好適な粉砕装置を用いて行われる。
【0181】
1パック型又はマルチパック型歯科用組成物
本水性歯科用グラスアイオノマー組成物は、1パック型又はマルチパック型歯科用組成物とすることができる。
【0182】
本明細書で使用される用語「1パック型」は、水性歯科用グラスアイオノマー組成物の全ての構成要素を、一つの単一のパック、例えば少なくとも二つの容器を有するカプセルに含むことを意味する。
【0183】
本明細書で使用される用語「マルチパック型」は、水性歯科用グラスアイオノマー組成物の構成要素を、多数の別々のパックに含むことを意味する。例えば、構成要素の第一の部分は第一のパックに含まれ、更に構成要素の第二の部分は第二のパックに含まれ、構成要素の第三の部分は第三のパックに含まれてもよく、構成要素の第四の部分は第四のパックに含まれてもよい、などである。
【0184】
好ましくは、水性歯科用グラスアイオノマー組成物は、2パック以上の組成物、より好ましくは2パックの組成物である。2パック型歯科用組成物の場合、2パック型粉末/液体組成物が好ましい。
【0185】
好ましくは、2パック型粉末/液体組成物では、液体パックは水及び(B)酸性基を含む水溶性の重合性ポリマーを含み、そして粉末パックは(A)反応性微粒子ガラスを含む。
【0186】
より好ましくは、2パック型粉末/液体組成物では、液体パックは水、(B)酸性基を含む水溶性の重合性ポリマー、(D)単一の重合性二重結合及び必要に応じてカルボン酸基を有する加水分解に対して安定な水溶性のモノマー、光開始剤、及び必要に応じて阻害剤、及び必要に応じて芳香族アミン(ii)を含み、ならびに粉末パックは、(A)反応性微粒子ガラス、必要に応じて無機ペルオキソ二硫酸塩(i)及び必要に応じて芳香族スルフィン酸塩(iii)を含む。最も好ましくは、2パック型粉末/液体組成物では、液体パックは水、(B)酸性基を含む水溶性の重合性ポリマー、(D)単一の重合性二重結合を有する加水分解に対して安定な水溶性のモノマー、及び必要に応じてカルボン酸基、光開始剤、及び阻害剤、及び芳香族アミン(ii)を含み、ならびに粉末パックは、(A)反応性微粒子ガラス、固体無機ペルオキソ二硫酸塩(i)及び芳香族スルフィン酸塩(iii)を含む。
【0187】
硬化水溶性歯科用グラスアイオノマー組成物
本水性歯科用グラスアイオノマー組成物は硬化性歯科用組成物である。即ち、硬化した歯科用グラスアイオノマー組成物/セメントを、反応性微粒子ガラス(A)及び(D)による重合開始剤系の存在下で、(B)による重合性ポリマーと(C)によるモノマーを重合することによって、それから得ることができる。
【0188】
本歯科用グラスアイオノマー組成物は、特に有利な機械的特性を有し得ることが見出された。
- -前記組成物の曲げ強度は、ISO 4049に従う測定で少なくとも80MPaである;及び/又は、
- -前記組成物のエナメル質及び/又は象牙質に対する接着力は、ISO29022:2013に従う測定で、少なくとも5MPaである。
【0189】
硬化した本発明の歯科用グラスアイオノマー組成物については、組成物を光硬化した場合に全ての実験例において、ISO4049に従う測定で少なくとも80MPaの高い曲げ強度が得られた。驚くべきことに、特に本歯科用グラスアイオノマー組成物が光開始剤及びレドックス開始剤を含む二重硬化開始剤系の形態の重合開始剤系を含む場合、自己硬化した本発明の歯科用グラスアイオノマー組成物もこのような高い曲げ強度を達成することができ、このレドックス開始剤は、(i)無機ペルオキソ二硫酸塩、(ii)芳香族アミン、及び(iii)芳香族スルフィン酸塩を含有する。
【0190】
水溶性歯科用グラスアイオノマー組成物の特に好ましい実施形態
特に好ましい実施形態によれば、本発明による水溶性歯科用グラスアイオノマー組成物は、
(A)
1) 20~45重量%のシリカ、
2) 20~40重量%のアルミナと、
3) 20~40重量%の酸化ストロンチウム、
4) 1~10重量%のP
5) 3~25重量%のフッ化物、を含む反応性微粒子ガラスと、
(B) 酸性基を含む水溶性の重合性ポリマーであって、重合性ポリマーはセメント反応において微粒子ガラスと反応性があり、それにより重合性ポリマーは、ポリマー骨格及び単一又は複数の重合性炭素-炭素二重結合を有する加水分解に対して安定なペンダント基を有し、重合性ポリマーは、
a) アミノ基を含有するコポリマーを得るために、混合物を共重合させる工程であって、混合物は、
(i) 一般式(1’)で表される第一の共重合性モノマー:
【化19】

(式中、
1’ は、水素原子、-COOZ基又はメチル基であり、
2’ は、水素原子、-COOZ基又はメチル基であり、
A’ は、単結合又は直鎖若しくは分岐のC1-6アルキル基であり、
は、同一でも異なってもよく、独立して水素原子又はカルボン酸基の保護基を表す)と、
(ii) 一般式(2’)で表される第二の共重合性モノマー:
【化20】

(式中、
は、水素原子であり、
X’は、保護されたアミノ基又は炭素数1~6の炭化水素基であり、保護基を担持していてもよいアミノ基で置換され、ここで炭化水素基は窒素原子を含んでいてもよく、
Y’は、水素原子又は炭素数1~6の炭化水素基であり、ここで炭化水素基は酸素原子又はアミド結合を含んでいてもよく、該炭化水素基は-COOZ##基で更に置換されていてもよく、
##は、同一でも異なっていてもよく、独立して水素原子又はカルボン酸基の保護基を表す)と、を含む混合物を共重合させる工程と、
b) アミノ基を含有するコポリマーに、重合性部分と、一般式(3’):
【化21】

(式中、
4’は、水素原子又はメチル基であり、
5’は、水素原子又はメチル基であり、
LG’は、塩素原子若しくは臭素原子であり、又は隣接するカルボニル基とカルボン酸無水物部分を形成し、又は、
式(3)の二つの分子はLG’の縮合によって分子間カルボン酸無水物基を形成し、LG’は酸素原子である)で表される官能基とを有する化合物をカップリングさせる工程と、を含み、
重合性ペンダント基が加水分解に対して安定な連結基によって骨格に連結されるように、必要に応じて保護されたアミノ基が脱保護され、
及び、3×10~2.5×10Daの範囲内の平均分子量Mを有する重合性ポリマーを得るために、必要に応じて、工程a)又は工程b)の後に、保護されたカルボン酸基を脱保護する工程と、を含むプロセスにより得られる、酸性基を含む水性の重合性ポリマーと、
(C) 重合開始剤系であって、必要に応じてレドックス開始剤と組み合わせた光開始剤の形態のラジカル開始剤、好ましくはモノケトン又はジケトン光開始剤、より好ましくはα-ジケトン光開始剤、最も好ましくはカンファーキノン、必要に応じて、
(i) 無機ペルオキソ二硫酸塩、好ましくはペルオキソ二硫酸カリウム、
(ii) 芳香族アミン、好ましくはtert-ブチル-N,N-ジメチルアニリン、及び、
(iii) 芳香族スルフィン酸塩、好ましくはパラ-トルエンスルフィン酸ナトリウム、を含有するレドックス開始剤と組み合わせたもの、
最も好ましくは、
(i’) ペルオキソ二硫酸カリウム、
(ii’) tert-ブチル-N,N-ジメチルアニリン、好ましくは4-tert-ブチル-N,N-ジメチルアニリン、及び、
(iii’) パラ-トルエンスルフィン酸ナトリウム、を含有するレドックス開始剤と組み合わせたもの、に基づく重合開始剤系と、
(D) 必要に応じて、単一の重合性二重結合及びカルボン酸基を有する加水分解に対して安定な水溶性のモノマーであって、前記モノマーは、最大200Daの分子量を有し、好ましくは、前記モノマーは、一般式(4’):
【化22】

(式中、
6’は、水素原子、又は直鎖若しくは分岐のC1-3アルキル基であり、
7’は、水素原子、又は-COOH基によって置換されていてもよい直鎖若しくは分岐のC1-3アルキル基であり、ここでR6’及びR7’は、式(4)の前記化合物の分子量が最大200Daであることが条件で選択され、
好ましくは、
6’は、水素原子であり、
7’は、水素原子、又は必要に応じて-COOH基で置換されたC1-3基であり、
より好ましくは、
6’は、水素原子であり、
7’は、水素原子、又は-COOH基で置換されたメチル基である)で表される化合物である、加水分解に対して安定な水性モノマーと、を含む。
【0191】
この特に好ましい実施態様では、(C)重合開始剤系が、α-ジケトン光開始剤、好ましくは,
(i’) ペルオキソ二硫酸カリウム、
(ii’) 4-tert-ブチル-N,N-ジメチルアニリン、及び、
(iii’) パラ-トルエンスルフィン酸ナトリウム、を含有するレドックス開始剤と組み合わせたカンファーキノン、に基づくことが最も好ましい。
【0192】
更に、この特に好ましい実施形態では、以下のように、一般式(1/1’)で表される第一の共重合性モノマー、一般式(2/2’)で表される第二の共重合性モノマー、重合性部分と一般式(3/3’)で表される第二の共重合性モノマーに由来する繰り返し単位のアミノ基と反応性がある官能基とを有する化合物、及び一般式(4/4’)で表される単一の重合性二重結合を有する加水分解に対して安定な水溶性のモノマー、を選択することが好ましい。
- 第一の共重合性モノマーは、
保護された(メタ)アクリル酸モノマー、より好ましくはtert-ブチルアクリレート又はベンジルアクリレート、最も好ましくはtert-ブチルアクリレートであり、
- 第二の共重合性モノマーは、
アミノプロピルビニルエーテルであり、アミノ基がアンモニウム塩、例えば塩化アンモニウム等、より好ましくは以下から選択される化合物の形態であってもよく、アミノ基はまた、保護基を担持していてもよく、
【化23】

- 重合性部分と、第二の共重合性モノマーに由来する繰り返し単位のアミノ基と反応性がある官能基とを有する化合物は、
アクリル酸、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、チグリン酸、アンゲリック酸、又は二つの同一又は異なる酸から形成された前記酸の無水物、より好ましくは、二つの同一の酸から形成された前記酸の無水物;最も好ましくは、アクリル酸の無水物であり、及び、
- 単一の重合性二重結合及びカルボン酸基を有する加水分解に対して安定な水溶性のモノマーは、
イタコン酸又はアクリル酸、好ましくはアクリル酸である。
【0193】
最後に挙げた特に好ましい実施形態では、最も好ましくは、工程b)で得られた重合性ポリマーは、以下の構造の一つを有する:
【化24】

本発明を以下の実施例により更に説明する。
【実施例0194】
以下の実施例1~7において、(B)による好ましい重合性ポリマーの調製について説明する。実施例8では、水性歯科用グラスアイオノマー組成物の調製及び硬化組成物の機械的特性の試験を説明する。実施例9は引張接着強度の測定を説明し、そして実施例10は直接的修復として本発明の水性歯科用グラスアイオノマー組成物を用いた空洞化う蝕病変の処置を説明する。
【0195】
実施例1
1.poly(tButA-co-APVE)へのtert-ブチルアクリレート(tButA)と3-アミノプロピルビニルエーテル(APVE)との共重合
【化25】

5.0g(39mmol)のtButA、0.99g(9.8mmol、20mol%)のAPVE及び0.16g(2mol%)のAIBNを、別々にDMFに溶解させ、溶液をNで飽和させた。次に、溶液を合わせて、24時間70℃で攪拌した。重合後、冷却させた溶液をDMFで希釈して30wt%のポリマー溶液とし、水/メタノール(9:1)中で沈殿させた。分離した固体は真空乾燥させた。
【0196】
得られたコポリマーは、分子量M=18kDa、M=51kDa及び2.8のPDを有していた。
【0197】
生成物のIR分光分析では、ビニルエーテルの振動が示されなかったが、一方H-NMRでは、脂肪族のプロトンについての幅の広いピークが示され、可能性のある残存する二重結合のプロトンについてのピークは示されなかった。
【0198】
H-NMR(500MHz,DMSO-d):δ(ppm)=3.5(2H,4)、2.7(2H,6)、2.2(2H,2)、1.8(1H,1)、1.6(2H,5)、1.44(9H,3)。
【0199】
2.poly(tButA-co-APVE)のメタクリル化
【化26】

31.5gのジクロロメタンに溶解させた5g(33.7mmol)のコポリマーpoly(tButA-co-APVE)の溶液に、1.3g(8.42mmol)のメタクリル酸無水物を添加した。溶液を24時間周囲温度で攪拌した後、溶媒を除去し、粗生成物を30mLのメタノールに溶解させた。この溶液から、ポリマーを水中で沈殿させ、濾過して取り出し、真空乾燥させた。
【0200】
FT-IR:νmax[cm-1]=2976、2932、1785、1722(エステル)、1670(アミドI)、1626(C=C)、1526(アミドII)、1479、1448、1392、1366、1143、844。
【0201】
3.エステル部分の加水分解
【化27】

5mLのクロロホルムに溶解させた1.0g(8.15mmol)のメタクリル化poly(tButA-co-APVE)の溶液に、20wt%のトリフルオロ酢酸を添加した。溶液を5時間60℃で攪拌した後、沈殿した粗製のポリマーを溶媒から分離した。ポリマーをクロロホルムで洗浄し、メタノールに溶解させ、クロロホルム中に再沈殿させた。次に、この黄色のポリマーを真空乾燥させた。
【0202】
H-NMR(500MHz,DMSO-d):δ(ppm)=12.2(1H,-COOH)、7.8(1H,-NH-)、5.6(1H,-C=C-H)、5.3(1H,C=C-H)、2.2(2H,-CH2-骨格)、1.8(3H,-CH)、1.8(1H,-CH-,骨格)、1.5(2H,O-CHCH)、1.4(9H,C-(CH、残存するエステル部分)。
【0203】
実施例2
1.poly(AA-co-APVE)へのtert-ブチルアクリレート(t-BA)と3-アミノプロピルビニルエーテル(APVE)との共重合
冷却器を備える三つ口丸底フラスコ中で、2.34mL(0.0206mol)のAPVE及び8.97mL(0.0618mol)のt-BAを、20mLのジオキサンと混合させた。278mgのAIBN(総モノマーに対して2mol%)も溶解させた。即座に反応混合物に約20分間アルゴンを流した。その間、金属浴を90℃に予め加熱しておいた。この金属浴をフラスコの下に置くことによって即座に重合が開始した。1時間の攪拌後、反応が完了した。5mLの試料を取り出し、ジオキサンで20mLに希釈した。この溶液を150mL過剰な水に添加することによってポリマーを沈殿させた。ポリマーを真空ポンプで乾燥させた。分子量を、溶離液としてDMFを用いたSECを使用することによって測定した。
=11500g/mol、M=38100g/mol、PD=3.32
【0204】
2.無水メタクリル酸によるpoly(AA-co-APVE)の改質
室温に冷却した合成工程1による反応混合物の残液に、26mgのtert-ブチルヒドロキノン(TBHQ)を添加して、残りの開始剤を不活性化した。次に、0.0309molの無水メタクリル酸を添加した。混合物を2時間室温で攪拌した後、溶媒をロータリーエバポレータ(30℃)で除去し、その後、試料を真空ポンプで乾燥させた。NMRスペクトルから、改質が成功したことを意味する二重結合の5.30ppm及び5.64ppmにおける幅の広いピークが示される。
【0205】
3.tert-ブチルエステル部分の加水分解
5mol%のAPVEが組み込まれた20gのポリマーを、上記のように無水メタクリル酸で改質した。溶媒をロータリーエバポレータで除去した後、粗生成物を50mLのトリフルオロ酢酸に溶解させた。徐々に溶解していく氷浴中で混合物を冷却し、24時間攪拌した。一晩で、ポリマーは沈殿した。懸濁液をデカントして、ポリマーを100mLのジオキサンに溶解させた。それを五倍過剰なアセトン中で沈殿させた。沈殿物をジオキサンに再び溶解させ、再び沈殿させた。その後、初めにポリマーをロータリーエバポレータで乾燥させた後、真空ポンプで乾燥させた。NMRスペクトルから、1.38ppmにおけるtert-ブチル基のピークがほとんど消失したことが示される。これは98mol%の加水分解度に相当する。
【0206】
実施例3
tert-ブチルアクリレートと3-アミノプロピルビニルエーテルとの共重合-P(tBu-co-APVE)
38gのDMFに溶解させた15g(117mmol)のtert-ブチルアクリレートの溶液を、氷冷しながら窒素で飽和させた。15分後に3g(29mmol)の3-アミノ-プロピルビニルエーテルをこの溶液に添加した。更に5分後に、窒素の対向流中で480mg(2mol%)のAIBNを添加した。次に、溶液を24時間70℃で攪拌した。重合後、冷却した溶液をDMFで33wt%のポリマー溶液に希釈し、20倍量の水中で沈殿させた。固体を濾過して取り出し、水で洗浄し、真空乾燥させた。
FT-IR:νmax[cm-1]=2977(-CH-)、1723(エステル)、1481、1449、1392、1366、1255、1144、845。
H-NMR(500MHz,CDCl):δ(ppm)=3.5(2H,-O-CH-)、2.7(2H,-CH-NH)、2.2(2H,骨格)、1.8(1H,骨格)、1.6(2H,-O-CH-CH-)、1.44(9H,-tブチル)。
GPC(DMF):M=26kDa、M=70kDa、M=124kDa、PD=2.7。
【0207】
以下の表は、当量(tBA):当量(APVE)=3:1の比率を用いた種々の重合試料について典型的な分子質量を示す:
【表1】

イタコン酸アミドで改質されたP(tBA-co-APVE-IA)
10mLのジクロロメタンに溶解させた3.0gのp(tBA-co-APVE)の透明溶液に、0.4g(3.6mmol)のイタコン酸無水物を攪拌しながら少量ずつ添加し、それにより溶液は、赤色の後、帯黄色に変色した。次に、溶液を24時間室温で攪拌した後、ジクロロメタンを蒸発させた。
FT-IR:νmax[cm-1]=2977(-CH-)、1718(エステル)、1668(アミドI)、1559(アミドII)、1476、1437、1392、1367、1252、1146、1100、945、843。
【0208】
P(AA-co-APVE-IA)へのエステル部分の加水分解
【表2】

FT-IR:νmax[cm-1]=3392、2932(-CH-)、1699(酸)、1625(-C=C)、1546(アミドII)、1447、1407、1230、1164、1094、934、798、610。
H-NMR(300MHz,DO):δ(ppm)=8.0(1H,-NH-)、6.4(1H,-C=C-H)、5.6(1H,-C=C-H)、3.5(2H,-O-CH-)、3.4(2H,-NH-CH-)、3.3(2H,-NH-CO-CH)、2.4(1H,骨格)、2.0-1.5(2H,骨格)、1.6(2H,-O-CH-CH-)。
【0209】
実施例4
メタクリルアミドで改質されたP(tBA-co-APVE-MA)
10mLのジクロロメタンに溶解させた実施例2の3.0gのp(tBA-co-APVE)の透明溶液に、0.6g(4.1mmol)のメタクリル酸無水物を少量ずつ添加した。次に、溶液を24時間室温で攪拌した後、ジクロロメタンを蒸発させた。得られた粗生成物は精製することなく更なる反応に適用された。
FT-IR:νmax[cm-1]=3351、2977(-CH-)、1721(エステル)、1668(アミドI)、1622(-C=C)、1531(アミドII)、1452、1392、1366、1255、1146、1089、940、845。
【0210】
P(AA-co-APVE-MA)へのエステル部分の加水分解
【表3】

FT-IR:νmax[cm-1]=3180、2934(-CH-)、2613、1701(酸)、1650(アミドI)、1597、1537(アミドII)、1449、1408、1211、1162、1110、919、797、611。
H-NMR(300MHz、DO):δ(ppm)=8.0(1H,-NH-)、5.7(1H,-C=C-H)、5.4(1H,-C=C-H)、3.5(2H,-O-CH-)、3.5(2H,-NH-CH-)、2.2(1H,骨格)、1.8-1.6(2H,骨格)、1.6(2H,-O-CH-CH-)。
【0211】
実施例5
アクリルアミドで改質されたP(tBA-co-APVE-AA)
30mLのTHFに溶解させた実施例4の5.0gのp(tBA-co-APVE)の溶液に、氷冷下で0.76g(6.7mmol)の塩化アクリロイルを滴加し、それにより直ちに白色の固体が沈殿した。反応混合物を更に24時間室温で攪拌した。固体を濾過して取り出し、溶媒を蒸発させた。粗物質は更に精製することなく加水分解に使用された。
FT-IR:νmax[cm-1]=3289、2976(-CH-)、1722(エステル)、1659(アミドI)、1628(-C=C)、1544(アミドII)、1480、1448、1366、1254、1143、844。
【0212】
P(AA-co-APVE-AA)へのエステル部分の加水分解
【表4】

次に、溶液を4日間透析した(MWCO=1000g/mol)。凍結乾燥後、無色の固体が回収された。
FT-IR:νmax[cm-1]=3361、2930(-CH-)、1707(酸)、1654(アミドI)、1620(-C=C)、1544(アミドII)、1447、1407、1242、1179、1097、980、801。
H-NMR(300MHz,DO):δ(ppm)=6.3(1H,-C=C-H)、6.2(1H,-C=C-H)、5.8(1H,-CH=C<)、3.6(2H,-O-CH-)、3.3(2H,-NH-CH-)、2.2(1H,骨格)、1.9-1.4(2H,骨格)、1.6(2H,-O-CH-CH-)。
【0213】
実施例6
P(AA-NVFA)へのアクリル酸とN-ビニルホルムアミドとの共重合
N.A.Nesterovaら,Russian Journal of Applied Chemistry2008,Vol.82,No.4,pp.618-621
3g(41.6mmol)のアクリル酸及び590mg(8.9mmol)のN-ビニルホルムアミドを、10.88gの蒸留イソプロパノールに溶解させ、30分間窒素に曝気させた。次に、窒素の対向流中で164mg(2mol%)のAIBNを添加し、更に15分間窒素に曝気させた。次に、24時間70℃で溶液を攪拌し、それにより無色の固体が沈殿した。固体を濾過して取り出し、アセトンで繰り返し洗浄し、減圧下で乾燥させた。無色の微細分散した固体が得られた。
FT-IR:νmax[cm-1]=3272(-NH)、3054(-CH-)、2922、1708(酸)、1643(アミドI)、1532(アミドII)、1444、1385(-CH-)、1244、1178。
H-NMR(300MHz,DMSO-d):δ(ppm)=12.2(1H,-COOH)、7.9(1H,-NH-COH)、4.3(1H,-CH-NH)、2.2(1H,-CH-COOH)、1.7(2H,-CH-CH-NH-)、1.5(2H,CH-CHCOOH)。
GPC(HO):M=10kDa、M=49kDa、M=126kDa、PD=5.0。
N.A.Nesterovaら,Russian Journal of Applied Chemistry 2008,Vol.82,No.4,pp.618-621
【0214】
P(AA-co-VAm)へのP(AA-co-NVFA)の変換
(K.Yamamotoら,Journal of Applied Polymer Science 2002,Vol.89,pp.1277-1283.におけるp(VAm)をもたらす純粋なp(VFA)の加水分解に基づく)
200mgのコポリマーp(AA-co-NVFA)を、10mLの2N NaOHに溶解させ、2時間100℃で攪拌した。次に、溶液をHClによって中和し、3日間透析した(MWCO=1000g/mol)。凍結乾燥後、フリース様の無色の固体が得られた。
FT-IR:νmax[cm-1]=3274(-NH)、2919(-CH2-)、1666(-COONa)、1559(-NH)、1448、1408(-CH-)、1188(-C-O-)。
H-NMR(300MHz,DO):δ(ppm)=2.5(1H,-CH-NH)、2.0(1H,-CH-COOH)、1.4(2H,-CH-CH-NH)、1.3(2H,-CH-CH-COOH)。
【0215】
アクリルアミドで改質されたP(AA-co-VAm-MA)
0.5gの加水分解コポリマーP(AA-co-VAm)を丸底フラスコに添加し、1.0g過剰な無水メタクリル酸を添加した。混合物を60℃で4時間加熱した。次に、生成物を水で希釈し、メタノール中で二度ポリマーを沈殿させた。H-NMRによって二重結合による官能化について最終ポリマーを分析した(5.51ppm及び5.31ppmにおけるC=C結合)。24時間攪拌した後、ポリマーは水に溶ける。官能化度は4.0mol%に達した。
【0216】
実施例7
アクリル酸とN-(2-アミノエチル)メタクリルアミド塩酸塩との共重合
0.2g(3mmol)のアクリル酸及び0.5g(3mmol)のN-(2-アミノエチル)メタクリルアミド塩酸塩を、1.4gのDMFに溶解させ、15分間窒素に曝気させた。次に、窒素の対向流中で20mg(2mol%)のVA-044を添加し、更に5分間窒素に曝気させた。次に、2時間70℃で溶液を攪拌し、それにより無色の固体が沈殿する。固体を濾過して取り出し、アセトンで繰り返し洗浄し、減圧下で乾燥させた。無色の微細分散した固体が得られた。
FT-IR:νmax[cm-1]=3350(-NH)、2926、1705(酸)、1629(アミドI)、1527(アミドII)、1482、1456、1393、1365、1232、1166、837。
H-NMR(300MHz,DMSO-d):δ(ppm)=12.3(1H,-OH)、8.3(1H,-NH-)、7.9(2H,-NH)、4.2(1H,CH3-CH<)、2.9(2H,-NH-CH-)、2.6(2H,-NH-CH-CH-)、1.5(1H,骨格),1.2(3H,-CH)、1.0(2H,骨格)。
【0217】
実施例8
水性歯科用グラスアイオノマー組成物の調製及び試験
実施例8A~8H及び比較例の水性歯科用グラスアイオノマー組成物は、下記の表1及び2に列挙される成分の液体及び粉末組成物を形成することによって調製され、これらの成分はそれぞれ合計100重量%になる。
【0218】
レジン改質グラスアイオノマー(RMGI)試験片を調製するために、実施例8A~8H及び比較例の各液体を、表1及び2に示す粉末/液体(P/L)比でそれぞれの粉末と混合した。
【0219】
試験片の準備のために、実施例8A~8H及び比較例の粉末と液体の得られた混合物を、(25±2)mm×(2.0±0.1)mm×(2.0±0.1)mmのサイズを有するステンレス鋼の型に充填した。このようにして得られた歯科用グラスアイオノマー組成物を歯科用硬化光を用いて光硬化させると共に自己硬化、即ち外部動力源なしで硬化させる。表1及び2において、略語「LC」は光硬化を意味し、略語「SC」は自己硬化を意味する。
【0220】
実施例8A~8Hの得られた硬化させた歯科用グラスアイオノマー組成物及び比較例について、曲げ強度をISO4049従い、試料を37℃、湿度100%中で1時間照射した後、その後材料の性質を考慮して37℃の水中に23時間保存して測定した。
【0221】
米国特許出願公開第2005/0165136A号の開示と比較するために、同一の測定条件下で、Vitremer(登録商標)光硬化グラスアイオノマー(3M Dental製品)の曲げ強度(LC)は66±2MPaであり、Vitremer(登録商標)光硬化グラスアイオノマー(3M Dental製品)の曲げ強度(SC)は45±5MPaである。
【0222】
「硬化時間」は表1及び表2に示す作業時間及び硬化時間からなる。用語「作業時間」及び「硬化時間」は、一般的な説明において上記に定義されている。
【0223】
表1 実施例8A~8Eの水性歯科用グラスアイオノマー組成物の組成、適用した硬化時間及び得られた硬化組成物の機械的特性
【表5】

【表6】

表1及び2において、成分の略語の意味は以下の通りである。
KPS:ペルオキソ二硫酸カリウム、
tBDA:tert-ブチル-N,N-ジメチルアニリン、
DMABN:(ジメチルアミノ)ベンゾニトリル、及び
NapTS:パラ-トルエンスルフィン酸ナトリウム
改質されていないPAAポリ(アクリル酸-co-イタコン酸)(p(AA-co-IA))
【0224】
表1及び2に列挙した機械的特性は、本発明による実施例8A~8Gの水性歯科用グラスアイオノマー組成物が全て、光硬化の場合に有利に高い曲げ強度及びE-モジュラスを提供することを示す。実施例8Hでは、光硬化サンプルについて高い曲げ強度及びE-モジュラスを測定しなかった。
【0225】
具体的には、表1及び2によれば、本発明による光硬化水性歯科用グラスアイオノマー組成物は、本発明に従って使用される試験条件でVitremer(登録商標)光硬化グラスアイオノマー(3MDental製品)の曲げ強度よりも最大80%高い曲げ強度を示す。
更に、実施例8A~8Gの自己硬化型水性歯科用グラスアイオノマー組成物は、実施例8F、8G及び8Hの自己硬化型組成物と比較して曲げ強度及びE-モジュラスの両方が非常に改善されたことを見事に示した。実施例8A~8Gから、(i’)ペルオキソ二硫酸カリウム、(ii’)tert-ブチル-N,N-ジメチルアニリン、及び(iii’)パラ-トルエンスルフィン酸ナトリウムを含有する特定のレドックス開始剤が、自己硬化による曲げ強度とE-モジュラスのこの有意な改善をもたらすと思われる。このような優れた自己硬化特性は、例えば約1mm以上の深さを有する深部う蝕病変には非常に望ましい。
【0226】
更に、自己硬化の際に最高の曲げ強度及び優れたE-モジュラスも提供する実施例8Cの硬化組成物について、更に、自己硬化及び光硬化の両方について、エナメル質及び象牙質に対する引張接着強度を測定した。驚くべきことに、引張接着強度は少なくとも約20MPaであり、したがってエナメル質又は象牙質への信頼できる接着力が優れていることがわかった。
【0227】
実施例9
引張接着強度の測定
ヒト又はウシの臼歯などの抜歯した歯が提供され、使用前に所定の温度で所定の時間、例えば4℃で24時間、水中に浸漬してもよい。良好な再現性を有するために、第一のモデル実験として、(空洞化)う蝕病変のない健康な歯が使用され、そのエナメル質を、例えば、流水下で、例えば湿った320グリット研磨紙、次に600グリット研磨紙を用いて研磨することにより適切に調整した。
【0228】
そして、本発明による歯科用組成物を、例えばウルトラデント法(ISO/TS11405歯科用材料-歯牙構造への接着性試験)を用いて、抜歯した歯に適用する。
次に、引張接着強度試験を適切な装置、例えばZwick試験器(Zwick Roell)を用いて実施する。1mm/分のクロスヘッド速度でポストが剥離するまで引張荷重をかける。破断時の荷重が記録され、引張接着強度はMPaで計算される。
【0229】
実施例10
直接的修復としての空洞化う蝕病変の処置における用途
空洞化う蝕病変が約1mmの深さを有する人の臼歯の咬合面に位置するクラスIの進行した空洞化う蝕病変は、生体内で処置される。虫歯の臼歯では、う蝕病変の位置にある全ての軟質で革質の象牙質は、硬い象牙質に達するまで歯科用切削装置によって除去される。切削後、結果として生じる空洞は、2mm以上の深さを有する場合がある。切削されたう蝕病変は、好適な手段で、例えば必要に応じて好適な消毒剤と混合した水で患者にうがいをさせることにより、洗浄される。切削されたう蝕病変を、例えば空気流を用いて乾燥し、そして実施例8Cの水性歯科用グラスアイオノマー組成物で充填する。組成物を成形する。最後に、成形された組成物を、好適な歯科用硬化光、例えば約1000mW/cmの約474nmの波長を有するSmartLite(登録商標)Focus歯科用硬化光(Dentsply DeTrey GmbH、Germany)を用いて20秒間三回光硬化させ、処置された大臼歯の表面への自己硬化性組成物の接着性を更に高める。
【手続補正書】
【提出日】2023-12-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書に記載された発明。
【手続補正書】
【提出日】2023-12-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空洞化う蝕病変の処置に使用される水性歯科用グラスアイオノマー組成物であって、前記グラスアイオノマー組成物は、
(A) 反応性微粒子ガラスと、
(B) 水溶性の重合性ポリマーであって、酸性基を含み、セメント反応において前記微粒子ガラスと反応性であり、それにより前記重合性ポリマーはポリマー骨格及び一つ又は複数の重合性炭素-炭素二重結合を有するペンダント基を有する、水溶性の重合性ポリマーと、
(C) 重合開始剤系と、を含み、
前記重合開始剤系は、光開始剤及びレドックス開始剤を含有する二重硬化開始剤系であり、
前記レドックス開始剤は、
(i) 無機ペルオキソ二硫酸塩、
(ii) 芳香族アミン、及び
(iii) 芳香族スルフィン酸塩、を含有し、
前記歯科用グラスアイオノマー組成物は、2パック型粉末/液体組成物であり、前記液体パックは水、前記(B)酸性基を含む水溶性の重合性ポリマー、前記光開始剤及び前記芳香族アミン(ii)を含み、前記粉末パックは、前記(A)反応性微粒子ガラス、前記無機ペルオキソ二硫酸塩(i)及び前記芳香族スルフィン酸塩(iii)を含み、
前記歯科用グラスアイオノマー組成物は永久的な直接的修復物として使用される、水性歯科用グラスアイオノマー組成物。
【請求項2】
前記う蝕病変が中等度、進行性又は重度のう蝕病変、好ましくは進行性又は重度のう蝕病変である、請求項1に記載の使用のための水性歯科用グラスアイオノマー組成物。
【請求項3】
前記う蝕病変がクラスI、IV、又はVIのう蝕病変である、請求項1又は2に記載の使用のための水性歯科用グラスアイオノマー組成物。
【請求項4】
前記無機ペルオキソ二硫酸塩はペルオキソ二硫酸カリウムであり;及び/又は前記芳香族アミンは、tert-ブチル-N,N-ジメチルアニリンであり;及び/又は前記芳香族スルフィン酸塩はパラ-トルエンスルフィン酸ナトリウムである、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用のための水性歯科用グラスアイオノマー組成物。
【請求項5】
前記硬化した歯科用グラスアイオノマー組成物は、ISO4049に従う測定で少なくとも80MPaの曲げ強度を与える、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用のための水性歯科用グラスアイオノマー組成物。
【請求項6】
前記硬化した歯科用グラスアイオノマー組成物は、ISO29022:2013に従う測定で少なくとも5MPaのエナメル質への接着力を与える、請求項1~5のいずれか一項に記載の使用のための水性歯科用グラスアイオノマー組成物。
【請求項7】
(D) 単一の重合性二重結合及び必要に応じてカルボン酸基を有し、最大200Daの分子量を有する、加水分解に対して安定な水溶性のモノマーを更に含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の使用のための水性歯科用グラスアイオノマー組成物。
【請求項8】
(E) 少なくとも二つの重合性炭素-炭素二重結合を有する重合性の加水分解に対して安定な架橋剤を更に含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の使用のための水性歯科用グラスアイオノマー組成物。
【請求項9】
前記重合性ポリマーは、
a) アミノ基を含有するコポリマーを得るために、
(i) 少なくとも一つの必要に応じて保護されたカルボン酸基及び第一の重合性有機部分を含む第一の共重合性モノマーと、
(ii) 一つ又は複数の必要に応じて保護された第一級アミノ基及び/又は第二級アミノ基、並びに第二の重合性有機部分を含む第二の共重合性モノマーと、
を含む混合物を、共重合させる工程と、
b) アミノ基を含有するコポリマーに、重合性部分と、第一の工程で得られるアミノ基を含有するコポリマー中の前記第二の共重合性モノマーに由来する繰り返し単位のアミノ基と反応性がある官能基とを有する化合物をカップリングさせる工程であって、重合性ペンダント基が加水分解に対して安定な連結基により前記骨格に連結されるように、前記必要に応じて保護されたアミノ基は脱保護される、カップリングさせる工程と、
重合性ポリマーを得るために、必要に応じて工程a)又は工程b)の後に前記保護されたカルボン酸基を脱保護する工程と、を含む方法によって得られる、請求項1~8のいずれか一項に記載の使用のための水性歯科用グラスアイオノマー組成物。
【外国語明細書】