IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三星電子株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-磁気抵抗素子及び半導体装置 図1
  • 特開-磁気抵抗素子及び半導体装置 図2
  • 特開-磁気抵抗素子及び半導体装置 図3
  • 特開-磁気抵抗素子及び半導体装置 図4
  • 特開-磁気抵抗素子及び半導体装置 図5
  • 特開-磁気抵抗素子及び半導体装置 図6
  • 特開-磁気抵抗素子及び半導体装置 図7
  • 特開-磁気抵抗素子及び半導体装置 図8
  • 特開-磁気抵抗素子及び半導体装置 図9
  • 特開-磁気抵抗素子及び半導体装置 図10
  • 特開-磁気抵抗素子及び半導体装置 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162252
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】磁気抵抗素子及び半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H10B 61/00 20230101AFI20241114BHJP
   H10N 50/20 20230101ALI20241114BHJP
【FI】
H10B61/00
H10N50/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023077596
(22)【出願日】2023-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】390019839
【氏名又は名称】三星電子株式会社
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】129,Samsung-ro,Yeongtong-gu,Suwon-si,Gyeonggi-do,Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】高橋 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】平山 義幸
(72)【発明者】
【氏名】ファム ナム ハイ
(72)【発明者】
【氏名】ホ ホアン フィ
【テーマコード(参考)】
4M119
5F092
【Fターム(参考)】
4M119AA02
4M119BB01
4M119CC05
4M119CC10
4M119DD07
4M119DD32
4M119EE03
4M119EE04
4M119EE23
4M119EE28
4M119JJ03
4M119JJ09
5F092AA04
5F092AB08
5F092AC12
5F092AC26
5F092AD03
5F092AD25
5F092BB12
5F092BB23
5F092BB36
5F092BB43
5F092BC03
5F092BC04
5F092CA02
5F092CA25
(57)【要約】
【課題】磁気特性を向上させることができる磁気抵抗素子及び半導体装置を提供する。
【解決手段】磁気抵抗素子1は、SOT電極層20と、金属酸化物層30と、第1非磁性層A10と、第1磁性層B10と、第2非磁性層A20と、第2磁性層B20と、を備え、第1磁性層B10、第2非磁性層A20及び第2磁性層B20は、磁気トンネル接合素子を構成し、SOT電極層20は、材料として、BiSbを含み、金属酸化物層30は、材料として、金属酸化物を含み、第1非磁性層A10は、少なくとも一部にアモルファスを含み、前記SOT電極層に含まれた結晶と、前記第1磁性層に含まれた結晶とは、これらの層の積層方向を回転軸とする結晶の回転対称性が異なる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SOT電極層と、
前記SOT電極層上に設けられた金属酸化物層と、
前記金属酸化物層上に設けられた第1非磁性層と、
前記第1非磁性層上に設けられた第1磁性層と、
前記第1磁性層上に設けられた第2非磁性層と、
前記第2非磁性層上に設けられた第2磁性層と、
を備え、
前記第1磁性層、前記第2非磁性層及び前記第2磁性層は、
磁気トンネル接合素子を構成し、
前記SOT電極層は、
材料として、BiSbを含み、
前記金属酸化物層は、
材料として、金属酸化物を含み、
前記第1非磁性層は、
少なくとも一部にアモルファスを含み、
前記SOT電極層に含まれた結晶と、前記第1磁性層に含まれた結晶とは、
これらの層の積層方向を回転軸とする結晶の回転対称性が異なる、
磁気抵抗素子。
【請求項2】
前記金属酸化物層と、前記第1非磁性層との間に設けられた
第3磁性層
をさらに備え、
前記第3磁性層は、
前記第1磁性層と磁気的に結合する、
請求項1に記載の
磁気抵抗素子。
【請求項3】
前記金属酸化物層と、前記第3磁性層との間に設けられた
第3非磁性層をさらに備え、
前記第3非磁性層は、
前記金属酸化物層と前記第3磁性層との結晶格子の不整合を緩和する結晶構造を有する、
請求項2に記載の
磁気抵抗素子。
【請求項4】
前記金属酸化物層と、前記第3磁性層との間に設けられた
第3非磁性層をさらに備え、
前記第3非磁性層上に形成された前記第3磁性層は、
島状成長が抑制され、
平坦性が改善されている、
請求項2に記載の
磁気抵抗素子。
【請求項5】
前記金属酸化物層は、
第1金属酸化物層及び第2金属酸化物層を含み、
前記第1金属酸化物層は、
材料として、前記第2金属酸化物層と異なる前記金属酸化物を含む、
請求項2に記載の
磁気抵抗素子。
【請求項6】
前記金属酸化物層は、
スピン拡散長が前記SOT電極層と前記第1磁性層との間の距離よりも長い
前記金属酸化物を含む、
請求項1に記載の
磁気抵抗素子。
【請求項7】
前記第1磁性層は、4回の回転対称性の前記結晶を含み、
前記SOT電極層は、3回の回転対称性の前記結晶を含む、
請求項1に記載の
磁気抵抗素子。
【請求項8】
前記金属酸化物層は、材料として、Crを含む、
請求項1に記載の
磁気抵抗素子。
【請求項9】
前記金属酸化物層の厚さは、0.5~2.5nmである、
請求項8に記載の
磁気抵抗素子。
【請求項10】
前記第1非磁性層は、少なくとも一部にアモルファス金属を含む、
請求項1に記載の
磁気抵抗素子。
【請求項11】
前記第1非磁性層は、材料として、単体の遷移金属、遷移金属同士の合金、遷移金属と半金属との化合物、遷移金属窒化物、遷移金属酸化物、並びに、B-C-N系材料のうち、少なくともいずれかを含む、
請求項1に記載の
磁気抵抗素子。
【請求項12】
前記第1非磁性層の厚さは、0.8~1.0nmである、
請求項10に記載の
磁気抵抗素子。
【請求項13】
前記第3磁性層は、材料として、Co及びCo-Pt合金の少なくともいずれかを含む、
請求項2に記載の
磁気抵抗素子。
【請求項14】
前記第3磁性層は、前記積層方向を前記回転軸とする3回の回転対称性の前記結晶を含む、
請求項2に記載の
磁気抵抗素子。
【請求項15】
前記第3非磁性層は、材料として、金属を含む、
請求項3に記載の
磁気抵抗素子。
【請求項16】
前記第3非磁性層は、材料として、TiCrを含む、
請求項3に記載の
磁気抵抗素子。
【請求項17】
前記第3非磁性層の厚さは、0nmよりも大きく、1.0nm以下である、
請求項15に記載の
磁気抵抗素子。
【請求項18】
前記第3非磁性層は、前記積層方向を前記回転軸とする3回の回転対称性の前記結晶を含む、
請求項3に記載の
磁気抵抗素子。
【請求項19】
前記第1金属酸化物層は、材料として、Crを含み、
前記第2金属酸化物層は、材料として、アルミニウム酸化物、タンタル酸化物、マグネシウム酸化物、ルテニウム酸化物、ハフニウム酸化物、及び、クロム酸化物のうち、少なくともいずれかを含む、
請求項5に記載の
磁気抵抗素子。
【請求項20】
下地層をさらに備え、
前記SOT電極層は、前記下地層上に設けられた、
請求項1に記載の
磁気抵抗素子。
【請求項21】
請求項1~20のいずれか1項に記載の磁気抵抗素子を備えた
半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、磁気抵抗素子及び半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スピン軌道トルク(Spin Orbit Torque、以下、SOTと呼ぶ。)-磁気抵抗メモリ(Magnetoresistive Randam Access Memory、以下、MRAMと呼ぶ。)のスイッチング電流の低減のため、SOT電極における電流からスピン流への変換効率であるスピンホール角を増大することが求められている。
【0003】
特許文献1には、トポロジカル絶縁体(Topological Insulator)のビスマスアンチモン(Bismuth Antimony、以下、BiSbと呼ぶ。)を(012)結晶配向させたSOT電極を用いることにより、スピンホール角を大幅に増大させ、スイッチング電流を低減させる技術が提案されている。
【0004】
特許文献2には、BiSbのSOT電極において、大きなスピンホール角が得られる(012)結晶配向を促進するためのバッファ層の構成が提案されている。
【0005】
分子線エピタキシー法(Molecular Beam Epitaxy、以下、MBE法と呼ぶ。)によって、(012)面方位に結晶配向したBiSbのSOT電極を用いることにより、スピンホール角として、52という、これまでのタングステン(Tungsten、以下、Wと呼ぶ。)及びタンタル(Tantalum、以下、Taと呼ぶ。)等の重金属のSOT電極を用いた場合と比べて、非常に大きい値を得ることができる。
【0006】
さらに、省電力化の指標であるスピンホール伝導度は、これまでのW及びTaの場合と比べて、約2桁増大したという結果が得られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2019-054484号公報
【特許文献2】特開2021-128814号公報
【特許文献3】特開2021-057357号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】L. Zhu et al., Phys. Rev. Lett. 126 (2021) 107204
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、SOT-MRAMの製造に、より適したスパッタ成膜による方法では、BiSbの平坦な薄膜を得られることが困難であることが知られている。このような平坦性が低下したBiSb薄膜上に磁気トンネル接合(Magnetic Tunnel Junction、以下、MTJと呼ぶ。)素子を構成する強磁性層を積層した場合には、BiSb/強磁性層の界面は、荒れたものとなる。その結果、BiSb/強磁性層の界面においてスピン拡散損失が起きるため、スピンホール角が大きく低下するという問題がある。
【0010】
さらに、BiSb材料は、拡散し易い特性を持つため、スパッタ成膜直後でもBiSbのSbがCoPt等を含む強磁性層に拡散し、逆に、BiSb層にPtが拡散するという相互拡散という問題がある。
【0011】
一方、SOT-MRAMは、一般的に、SOT電極/強磁性層の積層構造を取るため、SOT電極に流したスイッチング電流が強磁性層に分流し、SOT電極内を流れる実効的なスイッチング電流が減ってしまう。このことにより、スイッチングに必要な閾値電流が増大するというシャント電流の問題がある。このような問題は、いずれも磁気抵抗素子の磁気特性を劣化させている。
【0012】
本開示は、このような問題の少なくともいずれかを解決するためのものであり、磁気特性を向上させることができる磁気抵抗素子及び半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
一実施形態の磁気抵抗素子は、SOT電極層と、前記SOT電極層上に設けられた金属酸化物層と、前記金属酸化物層上に設けられた第1非磁性層と、前記第1非磁性層上に設けられた第1磁性層と、前記第1磁性層上に設けられた第2非磁性層と、前記第2非磁性層上に設けられた第2磁性層と、を備え、前記第1磁性層、前記第2非磁性層及び前記第2磁性層は、磁気トンネル接合素子を構成し、前記SOT電極層は、材料として、BiSbを含み、前記金属酸化物層は、材料として、金属酸化物を含み、前記第1非磁性層は、少なくとも一部にアモルファスを含み、前記SOT電極層に含まれた結晶と、前記第1磁性層に含まれた結晶とは、これらの層の積層方向を回転軸とする結晶の回転対称性が異なる。
【0014】
上記磁気抵抗素子において、前記金属酸化物層と、前記第1非磁性層との間に設けられた第3磁性層をさらに備え、前記第3磁性層は、前記第1磁性層と磁気的に結合してもよい。
【0015】
上記磁気抵抗素子において、前記金属酸化物層と、前記第3磁性層との間に設けられた第3非磁性層をさらに備え、前記第3非磁性層は、前記金属酸化物層と前記第3磁性層との結晶格子の不整合を緩和する結晶構造を有してもよい。
【0016】
上記磁気抵抗素子において、前記金属酸化物層と、前記第3磁性層との間に設けられた第3非磁性層をさらに備え、前記第3非磁性層上に形成された前記第3磁性層は、島状成長が抑制され、平坦性が改善されてもよい。
【0017】
上記磁気抵抗素子において、記金属酸化物層は、第1金属酸化物層及び第2金属酸化物層を含み、前記第1金属酸化物層は、材料として、前記第2金属酸化物層と異なる前記金属酸化物を含んでもよい。
【0018】
上記磁気抵抗素子において、前記金属酸化物層は、スピン拡散長が前記SOT電極層と前記第1磁性層との間の距離よりも長い前記金属酸化物を含んでもよい。
【0019】
上記磁気抵抗素子において、前記第1磁性層は、4回の回転対称性の前記結晶を含み 、前記第SOT層は、3回の回転対称性の前記結晶を含んでもよい。
【0020】
上記磁気抵抗素子において、前記金属酸化物層は、材料として、Crを含んでもよい。
【0021】
上記磁気抵抗素子において、前記金属酸化物層の厚さは、0.5~2.5nmでもよい。
【0022】
上記磁気抵抗素子において、前記第1非磁性層は、少なくとも一部にアモルファス金属を含んでもよい。
【0023】
上記磁気抵抗素子において、前記第1非磁性層は、材料として、単体の遷移金属、遷移金属同士の合金、遷移金属と半金属との化合物、遷移金属窒化物、遷移金属酸化物、並びに、B-C-N系材料のうち、少なくともいずれかを含んでもよい。
【0024】
上記磁気抵抗素子において、前記第1非磁性層の厚さは、0.8~1.0nmでもよい。
【0025】
上記磁気抵抗素子において、前記第3磁性層は、材料として、Co及びCo-Pt合金の少なくともいずれかを含んでもよい。
【0026】
上記磁気抵抗素子において、前記第3磁性層は、前記積層方向を前記回転軸とする3回の回転対称性の前記結晶を含んでもよい。
【0027】
上記磁気抵抗素子において、前記第3非磁性層は、材料として、金属を含んでもよい。
【0028】
上記磁気抵抗素子において、前記第3非磁性層は、材料として、TiCrを含んでもよい。
【0029】
上記磁気抵抗素子において、前記第3非磁性層の厚さは、0nmよりも大きく、1.0nm以下でもよい。
【0030】
上記磁気抵抗素子において、前記第3非磁性層は、前記積層方向を前記回転軸とする3回の回転対称性の前記結晶を含んでもよい。
【0031】
上記磁気抵抗素子において、前記第1金属酸化物層は、材料として、Crを含み、前記第2金属酸化物層は、材料として、アルミニウム酸化物、タンタル酸化物、マグネシウム酸化物、ルテニウム酸化物、ハフニウム酸化物、及び、クロム酸化物のうち、少なくともいずれかを含んでもよい。
【0032】
上記磁気抵抗素子において、下地層をさらに備え、前記SOT電極層は、前記下地層上に設けられてもよい。
【0033】
一実施形態の半導体装置は、上記記載の磁気抵抗素子を備える。
【発明の効果】
【0034】
本開示の検査装置によれば、スイッチング特性を向上させることができる磁気抵抗素子及び半導体装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】実施形態1に係る磁気抵抗素子を例示した断面図である。
図2】実施形態1に係る磁気抵抗素子を例示した断面図である。
図3】実施形態1の変形例に係る磁気抵抗素子を例示した断面図である。
図4】実施形態2に係る磁気抵抗素子を例示した断面図である。
図5】実施形態2の変形例に係る磁気抵抗素子を例示した断面図である。
図6】実施形態3に係る磁気抵抗素子を例示した断面図である。
図7】実施形態3の変形例に係る磁気抵抗素子を例示した断面図である。
図8】実施形態4に係る磁気抵抗素子を例示した断面図である。
図9】実施形態4の変形例に係る磁気抵抗素子を例示した断面図である。
図10】実施形態5に係る半導体装置を例示した回路図である。
図11】実施形態5に係る半導体装置を例示した回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
説明の明確化のため、以下の記載及び図面は、適宜、省略、及び、簡略化がなされている。また、各図面において、同一の要素には同一の符号が付されており、必要に応じて重複説明は省略されている。
【0037】
(実施形態の概要)
まず、実施形態の概要を説明する。現在広く研究開発が行われているスピン移行トルク型MRAM(Spin Transfer Torque、以下、STT-MRAMと呼ぶ。)は、2端子構造によりMTJ素子に対して、書き込み及び読み出しの動作を行う。このため、STT-MRAMを高集積化した場合に、十分な読み出しマージンを取ることができないという問題点、熱擾乱耐性を充分に長く得ることができないという問題点を抱えている。
【0038】
それらの問題点を解決することができるだけでなく、高速で低消費電力の書き込みが可能な方法として、スピンホール効果(Spin Hall Effecct、以下、SHEと呼ぶ。)を利用したSOT-MRAMが注目を集めている。SOT-MRAMは、電流からスピン流を生成して書き込みを行う3端子構造を有している。このようなSOT-MRAMのSOT電極の材料として、BiSbトポロジカル絶縁体を用いることにより、高効率なSOTスイッチングを可能とすることができる。
【0039】
しかしながら、BiSbをSOT電極に用いた場合には、表面平坦性、構成元素の相互拡散、強磁性体へのシャント電流等の問題があり、SOT-MRAMの性能を低下させるとともに、実用化を困難とする要因となっていた。
【0040】
本開示では、SOT-MRAMの素子構造において、BiSbのSOT電極層とその上のMTJ素子の記録層との間に、スピン流を伝搬できる金属酸化物を挿入する。さらに、それぞれ結晶系が異なるBiSbのSOT電極層/金属酸化膜と、CoFeB/MgOを含むMTJ素子と、の結晶構造を分断するための低抵抗のアモルファス層を挿入する。これにより、SOT-MRAMの書き込み効率を増大させるとともに、MTJ素子の読み出しの効率を向上させ、良好な特性を持つSOT-MRAMを提供することができる。
【0041】
(実施形態1)
実施形態1に係る磁気抵抗素子を説明する。図1及び図2は、実施形態1に係る磁気抵抗素子を例示した断面図である。図1に示しように、磁気抵抗素子1は、下地層10、SOT電極層20、金属酸化物層30、第1非磁性層A10、第1磁性層B10、第2非磁性層A20及び第2磁性層B20を備えている。なお、図2に示すように、磁気抵抗素子1は、下地層10を省いてもよい。以下の図では、下地層10を省いて示す。図には、説明の便宜のために、各層に含まれる材料または名称を示しているが、これらの材料及び名称は、一例であり、各層の材料をこれらの材料に限定するものではない。
【0042】
また、説明の便宜のために、金属酸化物層30を、金属酸化物層(金属酸化物)30と呼び、第1非磁性層A10を、第1非磁性層(アモルファス)A10と呼ぶ。また、第1磁性層B10を、第1磁性層(記録層)B10と呼ぶ。
【0043】
SOT電極層20、金属酸化物層(金属酸化物)30、第1非磁性層(アモルファス)A10、第1磁性層(記録層)B10、第2非磁性層A20及び第2磁性層B20は、スパッタ、反応性スパッタ、MBE及び電子ビーム蒸着等の薄膜形成方法により形成されてもよいし、これら以外の薄膜形成方法で形成されてもよい。すべての層が所定の薄膜形成方法で形成されてもよいし、いくつかの層は、他の層と異なる薄膜形成方法で形成されてもよい。
【0044】
第1磁性層(記録層)B10、第2非磁性層A20及び第2磁性層B20は、MTJ素子を構成する。第1磁性層(記録層)B10、第2非磁性層A20及び第2磁性層B20を含むMTJ素子は、パターニングされてもよい。なお、パターニングは、第1非磁性層(アモルファス)A10、第1磁性層(記録層)B10、第2非磁性層A20及び第2磁性層B20に対して行われてもよい。
【0045】
<下地層>
下地層10は、SOT電極層20を形成する上で、下地となる層を含む。また、下地層10は、絶縁性のバッファ層となってもよい。下地層10は、例えば、酸化シリコン(SiO)等の絶縁体を含む。、なお、下地層10は、SOT電極層20を形成する上で、下地となる材料であれば、酸化シリコン等の絶縁体を含むものに限らず、サファイア(Sappire)等、他の材料を含んでもよい。
【0046】
<SOT電極層>
SOT電極層20は、下地層10上に設けられている。SOT電極層20は、スピン軌道トルクをMTJ素子の記録層である第1磁性層(記録層)B10に印加するための層である。具体的には、SOT電極層20に電流を流すことによって、スピン軌道トルクをMTJ素子の第1磁性層(記録層)B10に印加することができる。SOT電極層20は、材料としてBiSbを含む。SOT電極層20は、三方晶系の結晶構造を有してもよい。BiSbの安定構造は、三方晶系であり、その(001)面が下地層10上に配向した構造では、比較的大きなスピンホール角が得られる。この場合には、SOT電極層20は、膜面垂直方向を回転軸とした3回の回転対称性の結晶構造を有する。しかし、BiSbの(012)面を下地層10上に配向させた構造も非常に大きなスピンホール角を発現する。この場合には、SOT電極層20は、平面的には長方形にずれた面心格子のため、膜面垂直方向を回転軸とした3回の回転対称性でも4回の回転対称性でもない構造をとる。以下では、回転対称性の回転軸を、各層の積層方向として説明する。
【0047】
<金属酸化物層(金属酸化物)>
金属酸化物層(金属酸化物)30は、SOT電極層20上に設けられている。金属酸化物層(金属酸化物)30は、材料として、金属酸化物を含む。金属酸化物層(金属酸化物)30は、例えば、スピン拡散長が素子サイズよりも長い金属酸化物を含む。具体的には、金属酸化物層(金属酸化物)30は、スピン拡散長がSOT電極層20と第1磁性層(記録層)B10との間の距離よりも長い金属酸化物を含む。例えば、金属酸化物層(金属酸化物)30は、材料として、Crを含んでもよい。なお、金属酸化物層(金属酸化物)30は、材料として、Crを含むものに限らない。しなしながら、金属酸化物層(金属酸化物)30がCrを含む場合に、磁気抵抗素子1の磁気特性を顕著に向上させることができる。金属酸化物層(金属酸化物)30の厚さは、好ましくは、0.5~2.5nmであり、さらに好ましくは、1.0~1.1nmである。Crを含む金属酸化物層(金属酸化物)30の厚さが0.5 ~2.5nmの場合に、磁気抵抗素子1の磁気特性を顕著に向上させることができる。また、1.0~1.1nmの厚さの場合に、磁気特性をさらに顕著に向上させることができる。
【0048】
<第1非磁性層(アモルファス)>
第1非磁性層(アモルファス)A10は、金属酸化物層(金属酸化物)30上に設けられている。第1非磁性層(アモルファス)A10は、非磁性体の材料を含む。第1非磁性層(アモルファス)A10は、第1磁性層B10とSOT電極層20との膜内垂直方向(積層方向)を回転軸とする結晶の回転対称性を分断するための材料を含む。具体的には、第1磁性層B10とSOT電極層20とは、各層の積層方向を回転軸とする結晶の回転対称性が異なっていたり、膜内平行方向の格子定数が大きく異なっていたりする。例えば、第1磁性層B10は、膜面垂直方向(積層方向)を回転軸とした4回の回転対称性の結晶構造を含み、SOT電極層20は、各層の積層方向を回転軸とした3回の回転対称性の結晶構造を含む。この時、第1非磁性層(アモルファス)A10がアモルファスであることにより、SOT電極層20と第1磁性層B10とは、各層の積層方向を回転軸とする結晶の回転対称性が分断されるため、第1非磁性層(アモルファス)A10の下面に接した金属酸化物層(金属酸化物)30は、結晶でもアモルファスでもよい。SOT電極層20に含まれた結晶と、第1磁性層(記録層)B10に含まれた結晶とは、これらの層の積層方向を回転軸とする結晶の回転対称性が異なる。
【0049】
第1非磁性層(アモルファス)A10は、少なくとも一部にアモルファスを含む。例えば、第1非磁性層(アモルファス)A10は、材料として、低抵抗のアモルファス材料を含む。具体的には、第1非磁性層(アモルファス)A10は、少なくとも一部にアモルファスで構成される金属層を含んでもよい。第1非磁性層(アモルファス)A10は、半分以上がアモルファスで構成される低抵抗の材料を含んでもよい。好ましくは、第1非磁性層(アモルファス)A10は、半分以上がアモルファス金属を含んでもよい。
【0050】
第1非磁性層(アモルファス)A10は、材料として、例えば、Taを含んでもよい。なお、第1非磁性層(アモルファス)A10は、少なくとも一部にアモルファスで構成される低抵抗の材料を含んでいれば、Taを含むものに限らない。例えば、第1非磁性層(アモルファス)A10は、材料として、単体の遷移金属、遷移金属同士の合金、遷移金属と半金属との化合物、遷移金属窒化物、遷移金属酸化物、並びに、B-C-N系材料のうち、少なくともいずれかを含んでもよい。具体的には、第1非磁性層(アモルファス)A10は、Ta、W及びハフニウム(Hf)等の単体遷移金属、もしくは、Ta-Cu等の遷移金属同士の合金、もしくは、Ta、W、Hf、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)等の遷移金属と、ボロン(B)、炭素(C)、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)等の半金属との化合物を含んでもよい。また、第1非磁性層(アモルファス)A10は、抵抗率が比較的小さい窒化ジルコニウム(ZrN)及び窒化チタン(TiN)等の遷移金属窒化物や酸化物、さらに、ダイヤモンドライク炭素(Diamond Like Carbon、DLC)、窒化ホウ素(BN)、窒化炭素(CN)等のB-C-N系の材料で構成されるアモルファス薄膜を含んでもよい。
【0051】
第1非磁性層(アモルファス)A10の厚さは、0.8~1.0nmが好ましい。詳細は、後述する。
【0052】
<第1磁性層(記録層)>
第1磁性層(記録層)B10は、第1非磁性層(アモルファス)A10上に設けられている。第1磁性層(記録層)B10は、磁性体の材料を含む。第1磁性層(記録層)B10は、強磁性体の材料を含んでもよい。第1磁性層(記録層)B10は、MTJ素子の記録層として機能する。よって、MTJ素子の第1磁性層(記録層)B10は、SOT電極層20に流れた電流によって、スピン軌道トルクを印加される。第1磁性層(記録層)B10は、材料として、例えば、CoFeBを含んでもよい。したがって、第1磁性層(記録層)B10は、4回の回転対称性の結晶構造を含んでもよい。なお、第1磁性層(記録層)B10は、MTJ素子の記録層として機能し、4回の回転対称性の結晶構造を含んでいれば、材料として、CoFeBを含むものに限らない。
【0053】
<第2非磁性層>
第2非磁性層A20は、第1磁性層(記録層)B10上に設けられている。第2非磁性層A20は、非磁性体の材料を含む。第2非磁性層A20は、MTJ素子のトンネルバリア層として機能する。第2非磁性層A20は、例えば、材料として、酸化マグネシウム(MgO)を含んでもよい。したがって、第2非磁性層A20は、4回の回転対称性の結晶構造を含んでもよい。
【0054】
<第2磁性層>
第2磁性層B20は、第2非磁性層A20上に設けられている。第2磁性層B20は、磁性体の材料を含む。第2磁性層M20は、強磁性体の材料を含んでもよい。第2磁性層B20は、MTJ素子の参照層として機能する。第2磁性層B20は、材料として、例えば、CoFeBを含んでもよい。したがって、第2磁性層B20は、立方晶系を含んでもよい。なお、第2磁性層B20は、MTJ素子の参照層として機能し、4回の回転対称性の結晶構造を含んでいれば、材料として、CoFeBを含むものに限らない。
【0055】
<積層構造体>
本実施形態の磁気抵抗素子1は、例えば、SOT-MRAM素子を含んでもよい。磁気抵抗素子1は、SOT電極層20と、第1磁性層(記録層)B10との間に、金属酸化物層(金属酸化物)30及び第1非磁性層(アモルファス)A10を配置させている。金属酸化物層(金属酸化物)30は、例えば、スピン拡散長が長い金属酸化物層を含む。第1非磁性層(アモルファス)A10は、アモルファスで構成された低抵抗の材料を含む。これにより、以下に示すように、前述したBiSbを含むSOT電極層20を有するSOT-MRAMの問題点を解決することができる。
【0056】
具体的には、本実施形態の磁気抵抗素子1の構造は、例えば、酸化シリコン等の層間絶縁膜を含む下地層10上に、下側から、絶縁性バッファ層/SOT電極層20/金属酸化物層(金属酸化物)30/第1非磁性層(アモルファス)A10/第1磁性層(記録層)B10/第2非磁性層A20/第2磁性層B20を含む積層構造を有している。このような構造の磁気抵抗素子1は、例えば、スパッタ成膜装置で積層され、MTJ素子をパターニングすることによって形成される。パターニングは、MTJ素子及び第1非磁性層(アモルファス)A10に対して行われてもよい。
【0057】
SOT電極層20に含まれるBiSb、及び、金属酸化物層(金属酸化物)30に含まれるCrは、3回の回転対称性を優先的に取ることが知られている。一方、MTJ素子を構成する積層体は、4回の回転対称性を取った場合に、良好なMTJ素子の特性を得ることができる。つまり、第1非磁性層(アモルファス)A10の上面に接した層と、第1非磁性層(アモルファス)A10の下面に接した層とは、異なる結晶構造を有している。3回の回転対称性の層上に直接に4回の回転対称性のMTJ素子を形成すると、下部の第1磁性層(記録層)B10は、3回の回転対称性の層の影響を受けて劣化する。
【0058】
これに対して、本実施形態の磁気抵抗素子1は、Cr等の3回の回転対称性を含む金属酸化物層(金属酸化物)30と、CoFeB等の4回の回転対称性を含む第1磁性層(記録層)B10との間に、第1非磁性層(アモルファス)A10を挿入している。よって、3回の回転対称性の金属酸化物層(金属酸化物)30と、4回の回転対称性の第1磁性層(記録層)B10と、が上下において分断される。これにより、金属酸化物層(金属酸化物)30及び第1磁性層(記録層)B10は、それぞれの特性を十分に発揮することができる。
【0059】
BiSbを含むSOT電極層20を有する磁気抵抗素子1の素子構造に、Crを含む金属酸化物層(金属酸化物)30/Taを含む第1非磁性層(アモルファス)A10の積層を用いた場合の効果を実験的に以下で明らかにする。例えば、以下の積層構造を有する磁気抵抗素子1を作成する。ここで、()の数字は、各層の厚さを示す。
【0060】
[試料I]
サファイア(Sapphire)基板/BiSb(10nm)/CrOx(1.0nm)/Ta(0.8nm)/CoFeB(0.9nm)/MgO(2.0nm)/Ta(2.0nm)の積層構造
【0061】
このような試料を、250℃で60minのアニールを行ったところ、異方性磁界Hkとして、約1.7kOeの垂直磁気異方性を得ることができる。
【0062】
さらに、第2高調波ホール測定法により磁気抵抗素子1のスピンホール角を測定した結果、本実施形態の磁気抵抗素子1は、WやTa等の重金属をSOT電極層に用いた場合と比べて、約1桁大きい2.8という値を得ることができる。
【0063】
CrOxの膜厚依存性を調べたその後の実験(BiSbの形成方法が異なっている)では、CrOxの膜厚を1.0nmから2.5nmまで増大すると、スピンホール角が2.5から1.2まで減少する。つまり、金属酸化膜であるCrOxの最適な膜厚は、1nm程度である。例えば、CrOxの膜厚は、1nmが好ましい。このように、金属酸化物層(金属酸化物)30がCrを含む場合に、磁気抵抗素子1の磁気特性を顕著に向上させることができる。また、Crを含む金属酸化物層(金属酸化物)30の厚さが1.0~1.1nmの場合に、磁気特性をさらに顕著に向上させることができる。
【0064】
非磁性体であるCrOxのスピン拡散長は、数nm以上に長いと考えられる。しかしながら、現状では、1nm以上の膜厚の増大に対して、スピンの減衰が生じていると考えられる。
【0065】
アモルファス金属であるTaの膜厚を0.8nm以上に増大した場合には、スピンホール角の大幅な低下が見られる。原子量が大きく、スピン軌道相互作用が大きいTaの場合には、非磁性金属とはいえ、スピン拡散長がさらに短くなっていると考えられる。そのため、第1非磁性層(アモルファス)A10の膜厚は、1nm以下が好ましい。好ましくは、第1非磁性層A10の厚さは、0.8~1.0nmである。
【0066】
金属酸化物層(金属酸化物)30は、反強磁性酸化膜として、数10~数100nm程度の非常に長いスピン拡散長を持つ。このため、BiSbを含むSOT電極層20で生成したスピン流を殆ど減衰させずに、第1磁性層(記録層)B10に伝えることができる。その結果として、磁気抵抗素子1は、大きなSOTを第1磁性層(記録層)B10に与えることができるので、磁気特性を向上させることができる。
【0067】
また、金属酸化物層(金属酸化物)30は、スパッタ成膜では平坦化することが困難なBiSbを含むSOT電極層20の表面荒れを緩和するとともに、SOT電極層20上の第1磁性層(記録層)B10を平坦化する効果を有する。つまり、金属酸化物層(金属酸化物)30/第1非磁性層(アモルファス)A10の積層体を、SOT電極層20と第1磁性層(記録層)B10との間に挿入することにより、SOT電極層20/第1磁性層(記録層)B10の界面に起因するスピン拡散損失を低減し、大きなスピンホール角を得ることができる。
【0068】
さらに、金属酸化物層(金属酸化物)30は、SOT電極層20と、第1磁性層(記録層)B10との間の元素拡散バリアとして働き、前述したような相互拡散を抑制することができる。この拡散バリアは、高温アニール時も安定なため、成膜時の相互拡散だけでなく、磁気特性向上のための高温アニール時の相互拡散も抑制することができる。これらの第1磁性層(記録層)B10の平坦化の効果、及び、相互拡散の抑制効果により、本実施形態の磁気抵抗素子1は、前述した良好な垂直磁気異方性等の磁気特性を得ることができる。
【0069】
また、Crは、バンドギャップが3.2eV程度の絶縁体のため、BiSbを含むSOT電極層20から第1磁性層(記録層)B10へのスイッチング電流の分流を抑制することができる。その結果として、本実施形態の磁気抵抗素子1は、スイッチング電流を、BiSbを含むSOT電極層20内に閉じ込めることが可能となり、より高効率なSOTスイッチングを行うことができる。
【0070】
その他にも、金属酸化物層(金属酸化物)30/第1非磁性層(アモルファス)A10の積層の挿入効果として、第1非磁性層(アモルファス)A10が金属酸化物層(金属酸化物)30上の金属成膜の濡れ性を改善し、平坦な成膜を可能とすることが挙げられる。さらに、Taのアモルファス金属は、隣接するCoFeBのBを吸収してCoFeBの結晶化を促進し、結果としてCoFeB/MgO/CoFeBを含むMTJ素子の磁気特性を向上させることができる。
【0071】
SOT-MRAMにおいて、低消費電流のスイッチングを行うためには、大きなスピンホール角を得ることができるSOT電極層20の材料を選ぶ必要がある。BiSbを含むSOT電極層20は、重金属を含むSOT電極層よりも非常に大きなスピンホール角を得ることができるが、スパッタ成膜による表面荒れ、相互拡散等の、実用化に障害となる問題を抱えていた。
【0072】
これに対して、本実施形態の磁気抵抗素子1は、BiSbを含むSOT電極層20と第1磁性層(記録層)B10との間に、スピン拡散長が十分に長く、拡散バリアとしても働く金属酸化物層(金属酸化物)30を挿入している。さらに、本実施形態の磁気抵抗素子1は、第1非磁性層(アモルファス)A10によって、上下の層の結晶構造を分断する。これにより、SOTスイッチング特性劣化の要因を排除することができるため、スイッチング特性を含む磁気特性を向上させることができる。
【0073】
(変形例1)
前述の図1及び図2では、BiSbを含むSOT電極層20を下側としたBiSbボトム(bottom)構造の磁気抵抗素子1を示した。しかしながら、磁気抵抗素子1は、この構造全体を上下反転させて、SOT電極層20を上側に配置させたBiSbトップ(top)構造にしてもよい。
【0074】
図3は、実施形態1の変形例に係る磁気抵抗素子1aを例示した断面図である。図3に示すように、磁気抵抗素子1aは、下側から、第2磁性層B20、第2非磁性層A20、第1磁性層(記録層)B10、第1非磁性層(アモルファス)A10、金属酸化物層(金属酸化物)30、及び、SOT電極層20を備えてもよい。また、磁気抵抗素子1aをこのような順で下側から成膜してもよい。このような構造でも、前述の磁気抵抗素子1と同様の効果を得ることができる。
【0075】
(実施形態2)
次に、実施形態2に係る磁気抵抗素子を説明する。図4は、実施形態2に係る磁気抵抗素子2を例示した断面図である。図4に示すように、本実施形態の磁気抵抗素子2は、実施形態1の磁気抵抗素子1の構成に加えて、第3磁性層B30をさらに備えている。第3磁性層B30を、第3磁性層(磁性層)B30と呼ぶ。第3磁性層(磁性層)B30は、金属酸化物層(金属酸化物)30と、第1非磁性層(アモルファス)A10と、の間に設けられている。言い換えれば、例えば、BiSbを含むSOT電極層20と、CoFeBを含む第1磁性層(記録層)B10との間に、金属酸化物層(金属酸化物)30/第3磁性層(磁性層)B30/第1非磁性層(アモルファス)A10を挿入されている。
【0076】
<第3磁性層>
第3磁性層(磁性層)B30は、金属酸化物層(金属酸化物)30上に設けられている。よって、第1非磁性層(アモルファス)A10は、第3磁性層(磁性層)B30上に設けられている。したがって、第3磁性層(磁性層)B30は、金属酸化物層(金属酸化物)30と第1非磁性層(アモルファス)A10との間に配置されている。
【0077】
第3磁性層(磁性層)B30は、磁性体の材料を含む。第3磁性層(磁性層)B30は、強磁性体の材料を含んでもよい。第3磁性層(磁性層)B30は、第1磁性層(記録層)B10と磁気的に結合する。これにより、第1磁性層(記録層)B10及び第3磁性層(磁性層)B30は、全体でMTJ素子の記録層として機能する。第3磁性層(磁性層)B30は、材料として、例えば、Coを含んでもよい。したがって、第3磁性層(磁性層)B30は、六方晶系の3回の回転対称性を含んでもよい。なお、第3磁性層(磁性層)B30は、3回の回転対称性を含む磁性層であれば、材料として、Coを含むものに限らなず、Co-Pt合金等を含んでもよい。
【0078】
<積層構造体>
本実施形態の磁気抵抗素子2の構造は、例えば、酸化シリコン等の層間絶縁膜を含む下地層10上に、下側から、絶縁性バッファ層/SOT電極層20/金属酸化物層(金属酸化物)30/第3磁性層(磁性層)B30/第1非磁性層(アモルファス)A10/第1磁性層(記録層)B10/第2非磁性層A20/第2磁性層B20を含む積層構造である。このような構造の磁気抵抗素子2は、スパッタ成膜装置で積層され、MTJ素子部をパターニングすることによって形成される。パターニングは、MTJ素子部、第1非磁性層(アモルファス)A10及び第3磁性層(磁性層)B30に対して行われてもよい。
【0079】
磁気抵抗素子2の構造においても、第1非磁性層(アモルファス)A10の上下の層で結晶系が異なっている。例えば、第1非磁性層(アモルファス)A10の下面には、3回の回転対称性を有する第3磁性層(磁性層)B30が配置されている。第1非磁性層(アモルファス)A10の上下の層は、それぞれ、その機能に合った最適な結晶構造を取ることができる。このため、磁気抵抗素子2は、磁気特性を向上させることができる。
【0080】
本実施形態の磁気抵抗素子2は、前述の磁気抵抗素子1とは異なる特徴として、以下の点を有している。すなわち、金属酸化物層(金属酸化物)30上の第3磁性層(磁性層)B30は、第1磁性層(記録層)B10と磁気的に結合する。これにより、第1磁性層(記録層)B10及び第3磁性層(磁性層)B30は、全体で、MTJ素子の記録層として機能する。この磁気結合した2層の記録層は、全体の体積を増大させることにより、熱擾乱耐性を向上させることができる。
【0081】
また、金属酸化物層(金属酸化物)30/第3磁性層(磁性層)B30の界面の界面磁気異方性を利用できるため、MTJ素子の垂直磁気異方性を向上させることができ、ひいては熱擾乱耐性をさらに向上させることができる。さらに、SOT電極層20及び金属酸化物層(金属酸化物)30といった3回の回転対称性を有する層に同じく3回の回転対称性を有する第3磁性層(磁性層)B30を直接接合する。これにより、界面でのスピン損失を抑制することができる。このように、本実施形態の磁気抵抗素子2は、さらに、磁気特性を向上させることができる。
【0082】
(変形例)
図5は、実施形態2の変形例に係る磁気抵抗素子2aを例示した断面図である。図5に示すように、変形例に係る磁気抵抗素子2aは、BiSbトップ構造にしてもよい。具体的には、磁気抵抗素子2aは、下側から、第2磁性層B20、第2非磁性層A20、第1磁性層(記録層)B10、第1非磁性層(アモルファス)A10、第3磁性層(磁性層)B30、金属酸化物層(金属酸化物)30、及び、SOT電極層20を備えてもよい。また、磁気抵抗素子2aをこのような順で下側から成膜してもよい。このような構造でも、前述の実施形態2の磁気抵抗素子2と同様の効果を得ることができる。
【0083】
(実施形態3)
次に、実施形態3に係る磁気抵抗素子を説明する。図6は、実施形態3に係る磁気抵抗素子3を例示した断面図である。図6に示すように、本実施形態の磁気抵抗素子3は、実施形態2の磁気抵抗素子2の構成に加えて、第3非磁性層A30をさらに備えている。第3非磁性層A30を、第3非磁性層(結晶金属)A30と呼ぶ。第3非磁性層(結晶金属)A30は、金属酸化物層(金属酸化物)30と、第3磁性層(磁性層)B30と、の間に設けられている。言い換えれば、BiSbを含むSOT電極層20と、CoFeBを含む第1磁性層(記録層)B10との間に、金属酸化物層(金属酸化物)30/第3非磁性層(結晶金属)A30/第3磁性層(磁性層)B30/第1非磁性層(アモルファス)A10を挿入されている。
【0084】
<第3非磁性層>
第3非磁性層(結晶金属)A30は、金属酸化物層(金属酸化物)30上に設けられている。よって、第3磁性層(磁性層)B30は、第3非磁性層(結晶金属)A30上に設けられている。したがって、第3非磁性層(結晶金属)A30は、金属酸化物層(金属酸化物)30と第3磁性層(磁性層)B30との間に配置されている。
【0085】
第3非磁性層(結晶金属)A30は、非磁性体の材料を含んでもよい。第3非磁性層(結晶金属)A30は、材料として、金属を含んでもよい。具体的には、第3非磁性層(結晶金属)A30は、結晶金属層を含んでもよい。第3非磁性層(結晶金属)A30は、金属酸化物層(金属酸化物)30と、第3磁性層(磁性層)B30との結晶格子の不整合を緩和する結晶構造を有し、結晶格子の不整合を緩和するバッファ層として機能する。このため、第3非磁性層(結晶金属)A30は、SOT電極層20から第3磁性層(磁性層)B30へのスピン注入におけるスピン損失を低減することができる。
【0086】
3回の回転対称性を有する三方晶系のBiSbは、4.31~4.55Åの格子定数を示す。BiSbを含むSOT電極層20上に形成される金属酸化物層(金属酸化物)30として、例えば、Crは、3回の回転対称性の六方晶系であり、4.96Åの格子定数を示す。このことから、Crは、約10%程度の格子不整合で、BiSb上に結晶成長する。
【0087】
ここで、3回の回転対称性の六方晶系のCoの格子定数は、2.51Å程度であるから、Crが格子緩和していない場合には、やはり10%程度の格子不整合を有して2倍周期で結晶成長すると考えられる。この格子不整合を緩和するために、第3非磁性層(結晶金属)A30は、3回の回転対称性を有し、かつ、BiSbの格子定数と、Coの格子定数の2倍と、の中間の格子定数を持つ材料が好ましい。したがって、第3非磁性層(結晶金属)A30は、そのような材料として、TiCrを含んでもよい。TiCrは、六方晶系の3回の回転対称性であり、4.84Å程度の格子定数を有する金属間化合物である。なお、第3非磁性層(結晶金属)A30は、3回の回転対称性の結晶構造を有し、かつ、BiSbの格子定数と、Coの格子定数の2倍との中間の格子定数を持つ材料であれば、TiCrを含むものに限らない。
【0088】
ここで、第3非磁性層(結晶金属)A30を挿入したことにより、第3磁性層(磁性層)B30と、金属酸化物層(金属酸化物)30との接合が失われることが考えられる。このため、第3磁性層(磁性層)B30と、金属酸化物層(金属酸化物)30との界面磁気異方性を利用した磁気異方性の低下が懸念される。その場合には、第3磁性層(磁性層)B30の下面にPt層を挿入する。または、第3磁性層(磁性層)B30として、CoPt層を形成する。このようにして、第3磁性層(磁性層)B30を、3回の回転対称性でかつバルクの垂直磁気異方性を有するCo-Pt合金にすれば、垂直磁気異方性を増大させることができる。
【0089】
ところで、本実施形態における第3非磁性層(結晶金属)A30の主要な効果は、格子不整合を緩和するバッファ層として機能することである。しかしながら、第3非磁性層(結晶金属)A30は、それ以外に、金属酸化物層(金属酸化物)30上に形成される第3磁性層(磁性層)B30の濡れ性を改善させる効果を有している。
【0090】
例えば、第3磁性層(磁性層)B30に含まれるCoは、一般に、酸化膜上での成膜において、表面エネルギーが大きく、濡れ性が低下することが知られている。その際に、Cr及びTi等の少なくともいずれかの濡れ性の良好な金属を1nm以下の薄膜で形成した後、Coを成膜すれば、Coを平坦に成膜することができる。したがって、このような成膜を実現させるために、第3非磁性層(結晶金属)の厚さは、0nmよりも大きく、1.0nm以下であることが好ましい。このように、磁気抵抗素子3は、金属酸化物層(金属酸化物)30と、第3磁性層(磁性層)B30との間に設けられた第3非磁性層(結晶金属)A30をさらに備える。第3非磁性層(結晶金属)上に形成された第3磁性層(磁性層)B30の表面エネルギーは、金属酸化物層(金属酸化物)30上に形成された場合の第3磁性層(磁性層)B30の表面エネルギーよりも小さい。よって、第3非磁性層(結晶金属)上に形成された第3磁性層(磁性層)B30は、島状成長が抑制され、平坦性が改善されている。
【0091】
この場合のCr及びTi等の薄膜は、Cr等の金属酸化物層(金属酸化物)30とは結晶系や格子定数が異なることにより、明確な配向を示さない可能性がある。しかし、そのことにより、Coを含む第3磁性層(磁性層)B30の結晶性が低下したとしても、BiSbを含むSOT電極層20から注入されるスピン流により、磁化反転させることはできる。
【0092】
<積層構造体>
本実施形態の磁気抵抗素子3の構造は、例えば、酸化シリコン等の層間絶縁膜を含む下地層10上に、下側から、絶縁性バッファ層/SOT電極層20/金属酸化物層(金属酸化物)30/第3非磁性層(結晶金属)A30/第3磁性体層(磁性層)B30/第1非磁性層(アモルファス)A10/第1磁性層(記録層)B10/第2非磁性層A20/第2磁性層B20を含む積層構造である。このような構造の磁気抵抗素子3は、スパッタ成膜装置で積層され、MTJ素子部をパターニングすることによって形成される。パターニングは、MTJ素子部、第1非磁性層(アモルファス)A10、第3磁性層(磁性層)B30及び第3非磁性層(結晶金属)A30に対して行われてもよい。
【0093】
磁気抵抗素子3の構造においても、第1非磁性層(アモルファス)A10の上下の層で結晶系が異なっている。第1非磁性層(アモルファス)A10の上下の層は、それぞれ、その機能に合った最適な結晶構造を取ることができる。このため、磁気抵抗素子3は、磁気特性を向上させることができる。
【0094】
本実施形態の磁気抵抗素子3は、前述の磁気抵抗素子2とは異なる特徴として、以下の点を有している。すなわち、第3非磁性層(結晶金属)A30は、金属酸化物層(金属酸化物)30と第3磁性層(磁性層)B30との結晶構造の違いや格子不整合を緩和するためのバッファ層であるため、SOT電極層20から第3磁性層(磁性層)B30へのスピン注入におけるスピン損失を低減することができる。これより、本実施形態の構成によっても、磁気抵抗素子3の磁気特性を向上させることができる。
【0095】
(変形例)
図7は、実施形態3の変形例に係る磁気抵抗素子3aを例示した断面図である。図7に示すように、変形例に係る磁気抵抗素子3aは、BiSbトップ構造となっている。具体的には、磁気抵抗素子3aは、下側から、第2磁性層B20、第2非磁性層A20、第1磁性層(記録層)B10、第1非磁性層(アモルファス)A10、第3磁性層(磁性層)B30、第3非磁性層(結晶金属)A30、金属酸化物層(金属酸化物)30、及び、SOT電極層20を備えてもよい。また、磁気抵抗素子3aをこのような順で下側から成膜してもよい。このような構造でも、前述の実施形態3の磁気抵抗素子3と同様の効果を得ることができる。
【0096】
(実施形態4)
次に、実施形態4に係る磁気抵抗素子を説明する。図8は、実施形態4に係る磁気抵抗素子4を例示した断面図である。図8に示すように、本実施形態の磁気抵抗素子4は、実施形態2の磁気抵抗素子2における金属酸化物層(金属酸化物)30の代わりに、第1金属酸化物層(金属酸化物)40及び第2金属酸化物層(金属酸化物)50を備えている。つまり、金属酸化物層(金属酸化物)30は、第1金属酸化物層(金属酸化物)40及び第2金属酸化物層(金属酸化物)50を含む。第1金属酸化物層(金属酸化物)40は、SOT電極層20と、第2金属酸化物層(金属酸化物)50と、の間に設けられている。第2金属酸化物層(金属酸化物)50は、第1金属酸化物層(金属酸化物)40と、第3磁性層(磁性層)B30と、の間に設けられている。
【0097】
<第1金属酸化物層(金属酸化物)>
第1金属酸化物層(金属酸化物)40は、SOT電極層20上に設けられている。第1金属酸化物層(金属酸化物)40は、金属酸化物層(金属酸化物)30と同様の機能を有してもよい。また、第1金属酸化物層(金属酸化物)40は、金属酸化物層30(金属酸化物)と同様の材料及び結晶構造を有してもよい。すなわち、第1金属酸化物層(金属酸化物)40は、材料として、金属酸化物を含んでもよい。また、第1金属酸化物層(金属酸化物)40は、3回の回転対称性の金属酸化物を含んでもよい。例えば、第1金属酸化物層(金属酸化物)40は、材料として、Crを含んでもよい。なお、第1金属酸化物層(金属酸化物)40は、材料として、第2金属酸化物層(金属酸化物)50と異なる金属酸化物を含めば、金属酸化物層30(金属酸化物)と同様の材料及び結晶構造を含むものに限らない。
【0098】
<第2金属酸化物層(金属酸化物)>
第2金属酸化物層(金属酸化物)50は、第1金属酸化物層(金属酸化物)40上に設けられている。したがって、第3磁性層(磁性層)B30は、第2金属酸化物層(金属酸化物)50上に設けられている。
【0099】
第2金属酸化物層(金属酸化物)50は、第3磁性層(磁性層)B30との界面において高い界面磁気異方性を誘起する材料を含むことが好ましい。そのような材料は、例えば、アモルファス酸化物でもよいし、多結晶酸化物の多くの酸化物の中から選択されてもよい。第2金属酸化物層(金属酸化物)50の形成方法は、自然酸化、プラズマ酸化、酸化物の直接スパッタ等の広い手法の中から選択してもよい。
【0100】
第2金属酸化物層(金属酸化物)50は、材料として、アルミニウム酸化物、タンタル酸化物、マグネシウム酸化物、ルテニウム酸化物、ハフニウム酸化物、及び、クロム酸化物のうち、少なくともいずれかを含んでもよい。このような材料を含むことにより、高い界面磁気異方性を誘起する効果を有することができる。
【0101】
また、第2金属酸化物層(金属酸化物)50は、3回の回転対称性の第3磁性層(磁性層)B30及び3回の回転対称性の第1金属酸化物層(金属酸化物)40との間で、結晶系や格子定数を整合させることにより、より効果的なスピン注入を行うことができる。しかしながら、上記の場合と同様に、第2金属酸化物層(金属酸化物)50は、アモルファスを含む場合や、第3磁性層(磁性層)B30及び第1金属酸化物層(金属酸化物)40と結晶系が異なる場合でも、磁性体層として、SOT電極層20から注入されるスピン流により、磁化反転させることができる。
【0102】
<積層構造体>
本実施形態の磁気抵抗素子4の構造は、酸化シリコン等の層間絶縁膜を含む下地層10上に、下側から、絶縁性バッファ層/SOT電極層20/第1金属酸化物層(金属酸化物)40/第2金属酸化物層(金属酸化物)50/第3磁性体層(磁性層)B30/第1非磁性層(アモルファス)A10/第1磁性層(記録層)B10/第2非磁性層A20/第2磁性層B20を含む積層構造である。このような構造の磁気抵抗素子4は、スパッタ成膜装置で積層され、MTJ素子をパターニングすることによって形成される。パターニングは、MTJ素子、第1非磁性層(アモルファス)A10及び第3磁性層(磁性層)B30に対して行われてもよい。
【0103】
磁気抵抗素子4の構造においても、第1非磁性層(アモルファス)A10の上下の層で結晶系が異なっている。第1非磁性層(アモルファス)A10の上下の層は、それぞれ、その機能に合った最適な結晶構造を取ることができる。このため、磁気抵抗素子4は、磁気特性を向上させることができる。
【0104】
本実施形態の磁気抵抗素子4は、第1金属酸化物層(金属酸化物)40と第2金属酸化物層(金属酸化物)50とで異なった機能を有する。例えば、第1金属酸化物層(金属酸化物)40は、BiSbを含むSOT電極層20からのスピン注入効率が高くなる材料を含む。さらに、第1金属酸化物層(金属酸化物)40は、成膜時にBiSbを酸化させ難い材料である。一方、第2金属酸化物層(金属酸化物)50は、第3磁性層(磁性層)B30との界面において、高い界面磁気異方性を誘起する材料である。これより、本実施形態の磁気抵抗素子4は、磁気特性を向上させることができる。
【0105】
(変形例)
図9は、実施形態4の変形例に係る磁気抵抗素子4aを例示した断面図である。図8に示すように、変形例に係る磁気抵抗素子4aは、BiSbトップ構造にしてもよい。具体的には、磁気抵抗素子4aは、下側から、第2磁性層B20、第2非磁性層A20、第1磁性層(記録層)B10、第1非磁性層(アモルファス)A10、第3磁性層(磁性層)B30、第2金属酸化物層(金属酸化物)50、第1金属酸化物層(金属酸化物)40、及び、SOT電極層20を備えてもよい。また、磁気抵抗素子4aをこのような順で下側から成膜してもよい。このような構造でも、前述の実施形態4の磁気抵抗素子4と同様の効果を得ることができる。
【0106】
(実施形態5)
次に、実施形態5を説明する。本実施形態は、磁気抵抗素子1~4のいずれかを含んだ半導体装置である。図10及び図11は、実施形態5に係る半導体装置5を例示した回路図である。図10及び図11に示すように、本実施形態の半導体装置5は、磁気メモリMMを含んでもよいし、メモリセルMCを含んでもよい。
【0107】
図10に示すように、磁気メモリMMは、メモリセルMCがアレイ状に配置されたメモリセルアレイ100と、同一列方向に配置されたメモリセルMCに対応して設けられた2本のワード線WL1、WL2と、同一行方向に配置されたメモリセルMCに対応して設けられた3本のビット線BL1、BL2、BL3と、ワード線選択回路110と、ビット線選択回路12a及び12bと、書き込み回路13a及び13bと、読み出し回路14a及び14bと、を備えている。
【0108】
図11に示すように、各メモリセルMCは、前述の磁気抵抗素子1~4及び1a~4aのいずれかと、トランジスタTR1及びTR2と、を備えている。ここでは、磁気抵抗素子1を用いた場合を例にとって説明する。
【0109】
メモリセルMCにおいて、磁気抵抗素子1の第2磁性層B20は、トランジスタTR1のソース及びドレインのうちの一方に接続される。トランジスタTR1は、ソース及びドレインのうちの他方がビット線BL1に接続され、ゲートがワード線WL1に接続される。SOT電極層20は、一端がトランジスタTR2のソース及びドレインのうちの一方に接続され、他端がビット線BL3に接続される。トランジスタTR2は、ソース及びドレインの他方がビット線BL2に接続され、ゲートがワード線WL2に接続される。
【0110】
(書き込み動作)
次に、メモリセルMCへの書き込みについて説明する。まず、書き込みを行うメモリセルMCのトランジスタTR2がオン状態となるように、このトランジスタTR2のゲートが接続されているワード線WL2にワード線選択回路110がハイレベルの電位を印加する。このとき、上記メモリセルMCが属する列の他のメモリセルMCにおけるトランジスタTR2もオン状態となる。しかし、上記メモリセルMC内のトランジスタTR1のゲートに接続されるワード線WL1並びに他の列に対応するワード線WL1及びWL2は、それぞれ、ロウレベルの電位が印加される。
【0111】
続いて、書き込みを行うメモリセルMCに接続されるビット線BL2及びBL3がビット線選択回路12a及び12bによって選択される。そして、この選択されたビット線BL2及びBL3に、書き込み回路13a及び13bによって、ビット線選択回路12a及びビット線選択回路12bのうちの一方から他方に書き込み電流が流される。この書き込み電流によって、磁気抵抗素子1の第1磁性層(記録層)B10の磁化方向が磁化反転可能となり、書き込みが行われる。なお、ビット線選択回路12a及びビット線選択回路12bのうちの他方から一方に書き込み電流を流せば、磁気抵抗素子1の第1磁性層(記録層)B10の磁化方向が、前述した場合と反対方向に磁化反転可能となり、書き込みが行われる。
【0112】
(読み出し動作)
次に、メモリセルMCからの読み出し動作について説明する。まず、読み出しを行うメモリセルMCに接続されるワード線WL1にハイレベルの電位を印加し、上記メモリセルMC内のトランジスタTR1をオン状態にする。このとき、上記メモリセルMCが属する列の他のメモリセルMCにおけるトランジスタTR1もオン状態となる。しかし、上記メモリセルMC内のトランジスタTR2のゲートに接続されるワード線WL2並びに他の列に対応するワード線WL1及びWL2は、それぞれ、ロウレベルの電位が印加される。
【0113】
続いて、読み出しを行うメモリセルMCに接続されるビット線BL1及びBL3がビット線選択回路12a及び12bによって選択される。そして、この選択されたビット線BL1及びビット線BL3に、読み出し回路14a及び14bによって、ビット線選択回路12a及びビット線選択回路12bのうちの一方から他方に読み出し電流が流される。このとき、例えば、上記選択されたビット線BL1及びBL3間の電圧を読み出し回路14a及び14bによって検出することにより、磁気抵抗素子1の第1磁性層(記録層)B10と第2磁性層(参照層)B20との間に磁化方向が互いに平行状態(同じ向き)にあるか、または互いに反平行状態(逆向き)にあるかを検出することができる。すなわち、読み出しを行うことができる。
【0114】
本実施形態の半導体装置5は、前述の磁気抵抗素子1を含んでいるので、磁気特性を向上させ、書き込み動作及び読み出し動作を向上させることができる。
【0115】
なお、本開示は、上記実施形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、実施形態1~5の各構成を組み合わせたものも本発明の技術思想の範囲内である。
【符号の説明】
【0116】
1、1a、2、2a、3、3a、4、4a 磁気抵抗素子
5 半導体装置
10 下地層
12a、12b ビット線選択回路
13a、13b 書き込み回路
14a、14b 読み出し回路
20 SOT電極層
30 金属酸化物層
40 第1金属酸化物層
50 第2金属酸化物層
100 メモリセルアレイ
110 ワード線選択回路
A10 第1非磁性層
A20 第2非磁性層
A30 第3非磁性層
B10 第1磁性層
B20 第2磁性層
B30 第3磁性層
BL1、BL2、BL3 ビット線
MC メモリセル
MM 磁気メモリ
WL1、WL2 ワード線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11