(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162282
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】排気システム
(51)【国際特許分類】
F02D 9/06 20060101AFI20241114BHJP
F02B 37/24 20060101ALI20241114BHJP
F02D 23/00 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
F02D9/06 A
F02B37/24
F02D23/00 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023077639
(22)【出願日】2023-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水野 智仁
【テーマコード(参考)】
3G005
3G065
3G092
【Fターム(参考)】
3G005EA04
3G005EA15
3G005EA16
3G005FA13
3G005FA27
3G005GA04
3G005GB25
3G005GC08
3G005GD03
3G005JA39
3G005JB09
3G065AA03
3G065AA09
3G065CA24
3G065DA02
3G065EA05
3G065GA10
3G065GA29
3G092AA18
3G092DB03
3G092DC13
3G092EA02
3G092FA13
3G092GA13
3G092HE01Z
3G092HF25Z
(57)【要約】
【課題】コスト増大を回避しつつ車両の補助ブレーキ時にエンジンの排気経路の配管およびその周囲の部品を保護する。
【解決手段】排気システムは、排気ブレーキ用バルブ50と、過給機25と、制御装置100とを備える。過給機25は、可変ノズル機構40を有するタービン26を含む。制御装置100は、排気ブレーキ用バルブ50の開閉状態の切り替え、および可変ノズル機構40の開度の少なくとも1つを制御することによって補助ブレーキを作動させる補助ブレーキ制御を実行する。補助ブレーキ制御は、エンジン10の回転の程度を示す指標値がしきい値未満である場合に、排気ブレーキ用バルブ50を閉状態に制御する第1制御と、指標値がしきい値以上である場合に、指標値がしきい値未満である場合よりも開度を小さくするとともに排気ブレーキ用バルブ50を開状態に制御する第2制御とを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の補助ブレーキのための排気システムであって、
前記車両に搭載されるエンジンの排気経路に設けられ、開状態および閉状態の間で切り替わる排気ブレーキ用バルブと、
前記排気経路に設けられるとともに可変ノズル機構を有するタービンを含み、前記エンジンの吸気を過給する過給機と、
前記排気ブレーキ用バルブの開閉状態の切り替え、および前記可変ノズル機構の開度の少なくとも1つを制御することによって前記補助ブレーキを作動させる補助ブレーキ制御を実行する制御装置とを備え、
前記補助ブレーキ制御は、
前記エンジンの回転の程度を示す指標値がしきい値未満である場合に、前記排気ブレーキ用バルブを前記閉状態に制御する第1制御と、
前記指標値が前記しきい値以上である場合に、前記指標値が前記しきい値未満である場合よりも前記開度を小さくするとともに前記排気ブレーキ用バルブを前記開状態に制御する第2制御とを含む、排気システム。
【請求項2】
前記排気ブレーキ用バルブは、前記排気ブレーキ用バルブに供給される圧力を用いて前記開状態から前記閉状態に切り替わるバルブである、請求項1に記載の排気システム。
【請求項3】
前記第2制御は、前記可変ノズル機構の信頼性限界に基づいて定められる所定の限界開度まで前記開度を小さくする制御を含む、請求項1又は請求項2に記載の排気システム。
【請求項4】
前記指標値は、前記エンジンの回転数を含む、請求項1又は請求項2に記載の排気システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、排気システムに関し、特に、車両の補助ブレーキのための排気システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特開2009-108773号公報(特許文献1)は、車両のエンジンシステムを開示する。このエンジンシステムは、排気バルブ(排気ブレーキ用バルブ)と、過給機と、制御装置とを備える。排気バルブは、エンジンの排気経路に設けられ、車両の排気ブレーキ時に閉じられる。過給機は、排気経路に設けられるとともに可変容量装置(可変ノズル機構)を有するタービンを含む。制御装置は、排気バルブの開閉状態の切り替え、および可変ノズル機構(詳細には、そのノズルベーン)の開度を制御する。制御装置は、排気バルブを閉じるときに可変ノズル機構を全開にする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両の排気ブレーキは、車両の補助ブレーキとして用いられる。エンジンの回転数が高い場合に排気ブレーキ用バルブを閉じることで排気ブレーキを作動させると、排気経路のうちのエンジンから当該バルブまでの配管内の圧力が過度に上昇する可能性がある。これは、配管およびその周囲の部品の保護の観点から好ましくない。そのような高い圧力に対処するために、高耐圧性能を有する配管および部品を車両の排気システムに搭載することができるが、これは、コスト増大を招く。
【0005】
本開示は、上記のような問題を解決するためになされたものであって、その目的は、コスト増大を回避しつつ車両の補助ブレーキ時にエンジンの排気経路の配管およびその周囲の部品を保護することができる排気システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の排気システムは、車両の補助ブレーキのための排気システムである。排気システムは、排気ブレーキ用バルブと、過給機と、制御装置とを備える。排気ブレーキ用バルブは、車両に搭載されるエンジンの排気経路に設けられ、開状態および閉状態の間で切り替わる。過給機は、排気経路に設けられるとともに可変ノズル機構を有するタービンを含み、エンジンの吸気を過給する。制御装置は、排気ブレーキ用バルブの開閉状態の切り替え、および可変ノズル機構の開度の少なくとも1つを制御することによって補助ブレーキを作動させる補助ブレーキ制御を実行する。補助ブレーキ制御は、エンジンの回転の程度を示す指標値がしきい値未満である場合に、排気ブレーキ用バルブを閉状態に制御する第1制御と、指標値がしきい値以上である場合に、指標値がしきい値未満である場合よりも開度を小さくするとともに排気ブレーキ用バルブを開状態に制御する第2制御とを含む。
【0007】
上記の構成とすることにより、指標値がしきい値未満であるほど小さい場合、第1制御が実行されて、排気ブレーキ用バルブが閉状態に制御される。これにより、排気ブレーキ用バルブを用いて補助ブレーキを作動させることができる。この場合、エンジンの排気ガスの量が少なく排気経路内の圧力が低いため、排気ブレーキ用バルブが閉状態にある間にこの圧力による排気経路の配管およびその周辺部品の耐圧性能への影響は問題とならない。他方、指標値がしきい値以上であるほど大きい場合、第2制御が実行されて、排気ブレーキ用バルブが開状態に制御される。これにより、排気経路の閉塞に起因して排気経路内の圧力が上昇してこの経路の配管および周辺部品が高い圧力の影響を受ける事態が回避される。なお、第2制御に起因して可変ノズルの開度が小さく制御されるが、この開度は、可変ノズルの部品保護の観点から過度に小さくならない程度に制御される。したがって、この開度の制御に起因して排気経路内の圧力が過度に上昇することはない。このように、上記の構成によれば、指標値が大きい場合であっても、高耐圧性能を有する配管およびその周囲の部品を用いることなく(コスト増大を回避しつつ)、車両の補助ブレーキ時に配管および部品を保護することができる。加えて、第2制御によれば、可変ノズルの開度が相対的に小さくなるように制御されるため、その開度に対応する適切な大きさの補助ブレーキ力が発生する。その結果、補助ブレーキを適切に作動させることができる。
【0008】
排気ブレーキ用バルブは、排気ブレーキ用バルブに供給される圧力を用いて開状態から閉状態に切り替わるバルブであってもよい。
【0009】
第2制御は、可変ノズル機構の信頼性限界に基づいて定められる所定の限界開度まで開度を小さくする制御を含んでもよい。
【0010】
指標値は、エンジンの回転数を含んでもよい。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、コスト増大を回避しつつ車両の補助ブレーキ時にエンジンの排気経路の配管およびその周囲の部品を保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施の形態における車両に搭載されるエンジンシステムの概略構成を示す図である。
【
図2】実施の形態における排気ブレーキ用バルブの構造を例示するための図である。
【
図3】空気ポンプから負圧が供給された場合に遮断部材の姿勢が変化する様子を表す図である。
【
図4】可変ノズル機構の構造および機能を説明するための図である。
【
図5】可変ノズル機構の構造および機能を説明するための図である。
【
図6】第1比較例および第2比較例に対する実施の形態の利点を説明するための図である。
【
図7】実施の形態において制御装置により実行される処理を説明するためのフローチャートである。
【
図8】変形例における排気ブレーキ用バルブの構造を例示するための図である。
【
図9】空気ポンプから正圧が供給された場合に遮断部材の姿勢が変化する様子を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。図中の同一または相当部分には同一符号を付してその説明を繰り返さない。実施の形態およびその変形例は、適宜互いに組み合わせられてもよい。
【0014】
図1は、この実施の形態における車両に搭載されるエンジンシステムの概略構成を示す図である。この車両は、ディーゼル車である。
【0015】
図1を参照して、エンジンシステム1は、エンジン10と、空気ポンプ20と、過給機25と、インタークーラ27と、配管28,31~34とを備える。エンジンシステム1は、EGR(Exhaust Gas Recirculation)クーラ35と、EGRバルブ36と、排気ブレーキ用バルブ50と、排気ブレーキスイッチ60とをさらに備える。エンジンシステム1は、ブレーキペダル62と、アクセルペダル64と、エアフローセンサ70と、回転数センサ75と、制御装置100とをさらに備える。
【0016】
エンジン10は、吸気ポート11と、気筒12と、ピストン14と、シリンダヘッド15と、インジェクタ16と、排気ポート19とを含む。吸気ポート11には、配管28を通じて供給されるエンジン10の吸気が流入する。ピストン14は、気筒12内に上下往復動可能に介挿される。気筒12、ピストン14の頂部、およびシリンダヘッド15により囲まれた空間によって燃焼室が形成される。インジェクタ16は、シリンダヘッド15に設けられた燃料噴射装置である。排気ポート19からは、エンジン10の排気ガスが排出される。実施の形態では、エンジン10の回転の程度を示す指標値として、エンジン10の回転数(エンジン回転数)が用いられる。空気ポンプ20は、負圧または正圧を生成するためにエンジン10に設けられた圧力生成装置である。
【0017】
過給機25は、コンプレッサ22と、連結軸24と、タービン26とを含む。コンプレッサ22は、エンジン10の吸気を過給してインタークーラ27に供給する。連結軸24は、コンプレッサ22およびタービン26を連結する。
【0018】
タービン26は、エンジン10の排気経路(詳細には、配管31,33,34により形成される排気ガスの経路)に設けられており、可変ノズル機構40と、アクチュエータ44とを有する。可変ノズル機構40は、車両の補助ブレーキを作動させるために用いられる。可変ノズル機構40の構造については、後ほど詳しく説明する。アクチュエータ44は、可変ノズル機構40の開度(ノズル開度)を制御するために用いられる電動アクチュエータである。
【0019】
インタークーラ27は、過給された空気を冷却し、冷却された空気を配管28を通じてエンジン10に供給する。配管31は、エンジン10(排気ポート19)からの排気ガスをタービン26に伝えるために設けられる。配管32は、配管31から分岐しており、EGRクーラ35に接続される。配管33は、タービン26と排気ブレーキ用バルブ50との間に接続される。配管34は、排気経路において排気ブレーキ用バルブ50の下流に設けられている。
【0020】
EGRクーラ35は、配管32を介して供給されるEGRガスを冷却する。EGRバルブ36は、EGRガスの流量を調整するために設けられる。
【0021】
排気ブレーキ用バルブ50は、エンジン10の排気経路に設けられており、開状態および閉状態の間で切り替わる圧力駆動バルブである。この例では、空気ポンプ20は、排気ブレーキ用バルブ50に負圧を供給するバキュームポンプであり、排気ブレーキ用バルブ50は、この負圧を用いて開状態から閉状態に切り替わる負圧バルブである(詳しくは後述)。排気ブレーキスイッチ60は、車両の排気ブレーキの機能を行うためにユーザにより操作(オン)される。
【0022】
ブレーキペダル62は、車両のフットブレーキを作動させるために操作される。ブレーキペダル62が操作されると、車両の減速要求が生成される。アクセルペダル64は、車両を加速するために操作される。補助ブレーキは、フットブレーキに起因して発生するブレーキ力(主ブレーキ力)を補助するために用いられる。補助ブレーキは、排気ブレーキスイッチ60がオンされている間にアクセルペダル64の操作に応答して解除される。
【0023】
エアフローセンサ70は、吸気ポート11に流入される空気量を測定する。この空気量は、エンジン10の回転数に関係している。具体的には、回転数が高いほどこの空気量が多くなる。回転数センサ75は、エンジン10の回転数(rpm)を測定する。エンジンシステム1は、エアフローセンサ70および回転数センサ75に加えて、車両の各種物理量を測定する各種センサを備える。
【0024】
制御装置100は、CPU(Central Processing Unit)102と、メモリ104とを含む。CPU102は、各種の演算処理を実行する。メモリ104は、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)を含む(いずれも図示せず)。ROMは、CPU102により実行されるプログラム、および各種データを記憶する。
【0025】
制御装置100は、排気ブレーキスイッチ60、ブレーキペダル62、およびアクセルペダル64などの各種機器から送信される信号に従って、当該機器が操作されているか否かを判定する。制御装置100は、エアフローセンサ70の測定値、および、回転数センサ75の測定値を判定する。制御装置100は、これらのセンサおよび前述の各種センサの測定値に従って、エンジン10の目標フリクショントルクの値を算出したり、エンジン回転数の指令値を算出したりする。
【0026】
制御装置100は、補助ブレーキ制御を実行可能に構成されている。補助ブレーキ制御は、排気ブレーキ用バルブ50の開閉状態の切り替え、および可変ノズル機構40の開度の少なくとも1つを制御することによって車両の補助ブレーキを作動させる制御に相当する。制御装置100は、空気ポンプ20を制御することによって排気ブレーキ用バルブ50の開閉状態を制御する。以下、この点を説明するために排気ブレーキ用バルブ50の構造を説明する。
【0027】
図2は、実施の形態における排気ブレーキ用バルブ50の構造を例示するための図である。
図2を参照して、排気ブレーキ用バルブ50は、ばね51と、メカニカル機構52と、ばねケース53と、ヘッド部材56と、遮断部材58とを含む。
【0028】
ばね51は、方向D1に縮んだり方向D2に伸びたりする。ばね51は、メカニカル機構52およびヘッド部材56を通じて遮断部材58に連結されている。メカニカル機構52は、ロッド52a,52bを含む。メカニカル機構52は、ばね51の付勢力を遮断部材58に対する駆動力に変換し、その駆動力を遮断部材58に伝達するように構成されている。遮断部材58については、後ほど詳しく説明する。ばねケース53は、ばね51を収容する。この例では、ばねケース53は、側壁部材85により囲まれた空間SP2内にある。
【0029】
ヘッド部材56は、ばねケース53に取り付けられている。この例では、ヘッド部材56は、側壁部材83により囲まれた空間SP1を空間SP2から区分する。側壁部材85は、空気ポンプ20に接続されている。空間SP2には空気ポンプ20により生成される負圧が供給可能である。空間SP1,SP2の圧力を、それぞれP1,P2とも表す。
【0030】
遮断部材58は、この例では円盤部材であって、その姿勢に依存して排気ガスを遮断したり通流させたりする。遮断部材58の姿勢は、メカニカル機構52を通じて伝達される駆動力に依存して変化する。この駆動力は、ばね51の付勢力(言い換えれば、ばね51が伸縮しているか否か)に依存する。この例では、ばね51の付勢力(伸び)に起因してヘッド部材56が側壁部材83に押し付けられており、遮断部材58に駆動力が伝達されない。その結果、遮断部材58は、配管33,34に対して略平行である。したがって、排気ガスは、配管33,34において通流する。遮断部材58が配管33,34に対して略平行であることは、排気ブレーキ用バルブ50が開状態にあることに相当するものとする。
【0031】
図3は、空気ポンプ20から空間SP2に負圧が供給された場合に遮断部材58の姿勢が変化する様子を表す図である。
図3を参照して、P2は、負圧の供給に起因してP1よりも低くなる(P2<P1)。P2とP1との圧力差が所定の基準値よりも大きくなると、ヘッド部材56が方向D1に引っ張られて、ばね51が方向D1に縮む。同時に、ロッド52aが方向D1に移動し、それによりロッド52bが回転する。このようなロッド52a,52bの動きに起因して、メカニカル機構52を通じて遮断部材58に駆動力が伝達されて、遮断部材58が回転して配管33,34に対して略垂直になる。これにより、排気ガスが遮断部材58により遮断され、排気経路が閉塞され、排気経路内の圧力が上昇する。その結果、ピストン14にかかる空気抵抗が増大してピストン14が動きにくくなり、それにより排気ブレーキが補助ブレーキとして作動する。遮断部材58が配管33,34に対して略垂直であることは、排気ブレーキ用バルブ50が閉状態にあることに相当するものとする。
【0032】
なお、遮断部材58の大きさ(この例では、円盤の直径d)は、排気ブレーキ用バルブ50が閉状態にある場合であっても遮断部材58と配管33,34との間に小さい空隙gが形成されるように設計されている。よって、排気ブレーキ用バルブ50が閉状態にある場合であっても、排気ガスの流路面積が非零である。すなわち、排気ガスは、遮断部材58により完全には遮断されず、空隙gを通過して排気口へ向かう。
【0033】
このように、制御装置100は、空気ポンプ20を用いてP2とP1との圧力差を制御することによって、排気ブレーキ用バルブ50の開状態および閉状態(遮断部材58による排気ガスの通流/遮断)を切り替えることができる。排気ブレーキ用バルブ50の開閉制御は、排気ガスの流路面積を高精度で(例えば、連続的に)制御することはできないが、高価な部品および機構を要しないため、コストを低減することができる。遮断部材58の大きさ(直径d)を適宜設計することで、空隙gの大きさを調整することができ、それによりバルブ閉時の排気ガスの流路面積を調整することができる。その結果、排気経路内の圧力を調整することができる。
【0034】
図4および
図5は、可変ノズル機構40の構造および機能を説明するための図である。
図4を参照して、可変ノズル機構40は、互いに隣接する複数のノズルベーン45を含む。可変ノズル機構40は、アクチュエータ44(
図1)を通じて制御装置100により制御される。具体的には、各ノズルベーン45の姿勢が制御装置100により制御されて、それにより、隣接するノズルベーン45間の隙間90が制御される。可変ノズル機構40は、タービン26に流入する排気ガスの流路面積を調整するために用いられる。隙間90が小さくなるように各ノズルベーン45を回転させることで(
図5参照)、当該流路面積が小さくなり、配管31内の圧力が上がる。これにより、ピストン14にかかる空気抵抗が増大してピストン14が動きにくくなる。その結果、補助ブレーキが作動する。隙間90の大きさは、前述のノズル開度に相当する。上述のように、隙間90の大きさ(ノズル開度)が小さいほど、補助ブレーキ力が大きい。隙間90の大きさがその最大値および最小値であるときのノズル開度を、それぞれ「上限開度」および「下限開度」とも表す。
図4および
図5の例では、ノズル開度は、それぞれ「上限開度」および「下限開度」であるものとする。
【0035】
このように、制御装置100は、アクチュエータ44を用いてノズル開度(タービン26に流入する排気ガスの流路面積)を制御することができる。
【0036】
補助ブレーキ力を発生させる手法は、空気ポンプ20を用いた排気ブレーキ用バルブ50の制御による第1の手法(
図2および
図3参照)と、アクチュエータ44を用いた可変ノズル機構40の制御による第2の手法(
図4および
図5参照)とを含む。
【0037】
第1の手法は、排気経路を閉塞させることによって相対的に大きな補助ブレーキ力を発生させることができるため、エンジン10の目標フリクショントルクを達成しやすい。その一方で、エンジン10の回転数が高い場合には排気ガスの量が多く排気経路内の圧力が高くなるため、排気経路を閉塞させることでこの圧力が過度に上昇する可能性がある。例えば、エンジン10の回転数が低い場合に排気経路内の圧力が適度に大きくなる(適切な大きさの補助ブレーキ力が得られる)ように遮断部材58の大きさ(直径d)を設計すると、エンジン10の回転数が高い場合に排気経路内の圧力が過度に高くなる可能性がある。これは、排気経路の周辺部品の圧力保護の観点から好ましくない。排気ブレーキ用バルブ50のような、開状態および閉状態からなる2状態の間で切り替わる圧力駆動バルブに代えて、開度を自在に調整可能な電動バルブを用いることが好ましいようにも思われる。しかしながら、この電動バルブは、それを駆動するためのアクチュエータと、このアクチュエータを冷却するための冷却機構とを要し、コスト増大を招く。
【0038】
第2の手法は、ノズル開度(隙間90の大きさ)を小さくすることによって配管31内の圧力を高め、それにより補助ブレーキ力を発生させる。第2の手法は、アクチュエータ44を用いてノズル開度を高精度で制御することができるため、排気経路のうち配管31内の圧力を精度良く調整することができる。したがって、第2の手法は、この経路内の圧力の過度な上昇を回避しやすく、部品保護の観点から優れている。その一方で、第2の手法は、第1の手法ほど大きな補助ブレーキ力を発生させることができず、目標フリクショントルクを達成することができない可能性がある。
【0039】
制御装置100は、そのような問題に対処するための補助ブレーキ制御を実行するように構成されている。この補助ブレーキ制御は、第1制御と、第2制御とを含む。第1制御は、エンジン回転数(回転数センサ75の測定値)がしきい値未満である場合に、排気ブレーキ用バルブ50を閉状態に制御することに相当する。しきい値は、メモリ104に記憶されている。第2制御は、エンジン回転数がしきい値以上である場合に、エンジン回転数がしきい値未満であるよりもノズル開度を小さくするとともに排気ブレーキ用バルブ50を開状態に制御することに相当する。第1制御および第2制御時のノズル開度は、例えば、それぞれ前述の上限開度および下限開度であるが、目標フリクショントルクが達成される限り特に限定されない。
【0040】
このような構成とすることにより、エンジン回転数がしきい値未満であるほど小さい場合、第1制御が実行されて、排気ブレーキ用バルブ50が閉状態に制御される。これにより、相対的に大きな補助ブレーキ力を発生させることができるため、目標フリクショントルクを容易に達成することができる。なお、エンジン回転数が小さい場合、エンジン10の排気ガスの量が少なく排気経路内の圧力が低いため、排気ブレーキ用バルブ50が閉状態にある間にこの圧力による排気経路の周辺部品の耐圧性能への影響は問題とならない。
【0041】
他方、エンジン回転数がしきい値以上であるほど大きい場合、第2制御が実行されて、排気ブレーキ用バルブ50が開状態に制御される。これにより、排気経路の閉塞に起因して排気経路内の圧力が上昇してこの経路の周辺部品が高い圧力の影響を受ける事態が回避される。なお、第2制御に起因して可変ノズルの開度(隙間90の大きさ)が相対的に小さく制御されるが、この開度は、可変ノズルの部品保護の観点から過度に小さくならない程度にアクチュエータ44を用いて制御される。したがって、この開度の制御に起因して排気経路内の圧力が過度に上昇することはないため、排気経路の周辺部品は保護される。
【0042】
このように、制御装置100による補助ブレーキ制御によれば、エンジン回転数が大きい場合であっても、高耐圧性能を有する配管31,33,34およびその周囲の部品を用いることなく(コスト増大を回避しつつ)、これらの配管および部品を保護することができる。加えて、第2制御によれば、ノズル開度が相対的に小さくなるように制御されるため、そのノズル開度に対応する適切な大きさの補助ブレーキ力が発生する。その結果、補助ブレーキを適切に作動させることができる。
【0043】
第2制御は、下限開度までノズル開度を小さくする制御であることが好ましい。下限開度は、所定値よりも大きい隙間90が確保されるように可変ノズル機構40の信頼性限界に基づいて実験により予め定められている。下限開度は、メモリ104に記憶されており、各ノズルベーン45の製造ばらつきを反映して定められる。ノズル開度が下限開度以上である限り(隙間90の大きさが所定値よりも大きい限り)、ノズルベーン45が他のノズルベーン45と干渉せず確実に保護されるものとする。このように第2制御を実行することで、可変ノズル機構40を確実に保護しつつ第2制御時の補助ブレーキ力を可能な限り大きくすることができる。
【0044】
図6は、第1比較例および第2比較例に対する実施の形態の利点を説明するための図である。第1比較例では、補助ブレーキの作動時に常に第1手法が用いられる。この例では、第1手法は、排気ブレーキ用バルブ50を閉状態に制御し、かつ、ノズル開度を上限開度に制御する手法であるものとする。第2比較例では、補助ブレーキの作動時に常に第2手法が用いられる。この例では、第2手法は、排気ブレーキ用バルブ50を開状態に制御し、かつ、ノズル開度を下限開度に制御する手法であるものとする。
【0045】
図6を参照して、線205,210,215は、それぞれ、第1比較例、第2比較例および実施の形態における、エンジン回転数と排気ガスの圧力との関係を表す。線305,310,315は、それぞれ、第1比較例、第2比較例および実施の形態における、エンジン回転数とエンジン10のフリクショントルクとの関係を表す。耐圧限界LMPは、排気経路の配管およびその周辺部品の耐圧限界である。
【0046】
第1比較例では、補助ブレーキ力が相対的に大きいため、目標フリクショントルクを容易に達成することができる(線305)。例えば、エンジン回転数がN1であるとき、第1比較例のフリクショントルク(T1a)は、目標フリクショントルクTTよりも大きい。目標フリクショントルクTTは、例えば、法規に基づいて定められる。一方で、エンジン回転数がN2以上であるとき、排気ガスの圧力が耐圧限界LMP以上になるため(線205)、第1比較例は、部品保護の観点から好ましくない。
【0047】
第2比較例では、排気ガスの圧力が耐圧限界LMP未満であるため、部品が確実に保護される(線210)。その一方で、補助ブレーキ力が相対的に小さいため、目標フリクショントルクを達成することができない可能性がある(線310)。例えば、エンジン回転数がN1であるとき、第2比較例のフリクショントルク(T1b)は、目標フリクショントルクTTよりも小さい。よって、第2比較例は、十分な大きさの補助ブレーキ力を達成することができない可能性がある。
【0048】
実施の形態では、エンジン回転数がしきい値TH未満である場合に、第1手法が用いられて、エンジン回転数がしきい値TH以上である場合に、第1手法に代えて第2手法が用いられる(線215,315)。これにより、エンジン10の低回転数領域R1において目標フリクショントルクを達成する一方で、高回転数領域R2において、排気ガスの圧力を耐圧限界LMP未満にしつつある程度大きなフリクショントルクを発生させることができる(線215,315)。したがって、排気経路内の配管および部品を保護しつつ適切な大きさ補助ブレーキ力を発生させることができる。
【0049】
図7は、実施の形態において制御装置100により実行される処理を説明するためのフローチャートである。このフローチャートは、車両の走行中に所定期間ごとに実行される。以下、ステップを「S」と略す。
【0050】
図7を参照して、制御装置100は、排気ブレーキスイッチ60がオンされているか否かを判定する(S105)。排気ブレーキスイッチ60がオフである場合(S105においてNO)、処理は、リターンに移行する。排気ブレーキスイッチ60がオンされている場合(S105においてYES)、制御装置100は、補助ブレーキ制御を実行する(S110)。S110は、S115~S125を含む。以下、S110の各ステップを詳細に説明する。
【0051】
制御装置100は、エンジン回転数Nがしきい値未満であるか否かを判定する(S115)。エンジン回転数Nがしきい値未満である場合(S115においてYES)、制御装置100は、第1手法を用いて補助ブレーキ制御を実行する(第1制御)。この例では、制御装置100は、排気ブレーキ用バルブ50を閉状態に制御するとともに、ノズル開度を第1開度、例えば上限開度に制御する(S120)。エンジン回転数Nがしきい以上である場合(S115においてNO)、制御装置100は、第2手法を用いて補助ブレーキ制御を実行する(第2制御)。この例では、制御装置100は、排気ブレーキ用バルブ50を開状態に制御するとともに、ノズル開度を第1開度よりも小さい第2開度、例えば下限開度に制御する(S125)。
【0052】
以上のように、実施の形態によれば、コスト増大を回避しつつ車両の補助ブレーキ時に配管31,33,34およびその周辺部品を保護するとともに、適切な大きさの補助ブレーキ力を発生させることができる。すなわち、補助ブレーキ時に部品保護と適切なブレーキ力とを両立させることができる。
【0053】
[実施の形態の変形例]
この変形例では、空気ポンプ20が排気ブレーキ用バルブ50に正圧を供給するものとし、排気ブレーキ用バルブ50は、この正圧を用いて開状態から閉状態に切り替わる正圧バルブであるものとする。
【0054】
図8は、変形例における排気ブレーキ用バルブ50(正圧バルブ)の構造を例示するための図である。
図8を参照して、空間SP2には空気ポンプ20により生成される正圧が供給可能である。この例では、ばね51が縮んでおり、ヘッド部材56は側壁部材83から一定の距離だけ離れて静止している。これにより、遮断部材58に駆動力が伝達されず、遮断部材58は、配管33,34に対して略平行である。その結果、排気ブレーキ用バルブ50が開状態にある。
【0055】
図9は、空気ポンプ20から正圧が供給された場合に遮断部材58の姿勢が変化する様子を表す図である。
図9を参照して、P2は、正圧の供給に起因してP1よりも高くなる(P2>P1)。P2とP1との圧力差が所定の基準値よりも大きくなると、ヘッド部材56が方向D2に引っ張られて、ばね51が方向D2に伸びる。同時に、ロッド52aが方向D2に移動し、それによりロッド52bが回転する。このようなロッド52a,52bの動きに起因して、メカニカル機構52を通じて遮断部材58に駆動力が伝達されて、遮断部材58が回転して配管33,34に対して略垂直になる。その結果、排気ブレーキ用バルブ50が閉状態になる。
【0056】
このように、排気ブレーキ用バルブ50として負圧バルブに代えて正圧バルブが用いられる場合であっても、制御装置100は、実施の形態と同様にエンジン回転数に基づいて第1制御または第2制御を実行する。これにより、実施の形態と同様に、コスト増大の回避および部品保護を達成することができる。なお、この変形例における処理のフローは、
図7におけるものと同様である。
【0057】
以上のように、排気ブレーキ用バルブ50は、空気ポンプ20から排気ブレーキ用バルブ50に供給される圧力を用いて開状態から閉状態に切り替わる圧力駆動バルブである限り、負圧バルブまたは正圧バルブのいずれであってもよい。
【0058】
[その他の変形例]
実施の形態では、排気ブレーキ用バルブ50は、排気経路においてタービン26の下流(例えば、配管33,34の間に)設けられるものとしたが、タービン26の上流(例えば、配管31)に設けられていてもよい。
【0059】
実施の形態では、エンジン10の回転の程度を示す指標値として、エンジン回転数(回転数センサ75の測定値)が用いられるものとしたが、エンジン回転数に代えて、排気ガスの流量を表す値(エアフローセンサ70の測定値)が用いられてもよい。この場合、エアフローセンサ70は、排気ポート19からの排気ガスを測定するために排気ポート19の下流側(例えば、配管31のうち配管32よりもエンジン10側の部分)に設けられていてもよい。
【0060】
実施の形態では、エンジンシステム1は、ディーゼル車に搭載されるものとしたが、ガソリン車に搭載されてもよい。
【0061】
上記において、過給機25、配管31,33,34、排気ブレーキ用バルブ50、および制御装置100は、本開示の「排気システム」の一例に相当する。この排気システムは、車両の補助ブレーキのために用いられる。前述の下限開度は、本開示の「限界開度」の一例に相当する。
【0062】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0063】
1 エンジンシステム、10 エンジン、20 空気ポンプ、25 過給機、26 タービン、28,31,32,33,34 配管、40 可変ノズル機構、50 排気ブレーキ用バルブ、100 制御装置。