(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162288
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】光電圧プローブ
(51)【国際特許分類】
G01R 15/24 20060101AFI20241114BHJP
G01R 1/06 20060101ALI20241114BHJP
G01R 19/00 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
G01R15/24 A
G01R1/06 F
G01R19/00 V
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023077652
(22)【出願日】2023-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】000147350
【氏名又は名称】株式会社精工技研
(74)【代理人】
【識別番号】100178906
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 充和
(72)【発明者】
【氏名】大沢 隆二
【テーマコード(参考)】
2G011
2G025
2G035
【Fターム(参考)】
2G011AB04
2G011AB07
2G011AC11
2G011AC33
2G011AD02
2G025AA07
2G025AB09
2G025AC06
2G035AA08
2G035AD36
2G035AD37
(57)【要約】
【課題】周囲の電磁波ノイズの近傍界の磁界に影響されることなく被測定点の電圧信号を正確に測定可能な光電圧プローブを提供する。
【解決手段】2つの変調電極11及び12を備え、その変調電極間の電圧に依存して入射光を強度変調して出力する光変調器1と、光変調器1に接続された入出力光ファイバ2と、被測定点に接触可能な接触端子3及び4を接触させて着脱可能に構成し変調電極11及び12にそれぞれ接続された2つの接触端子取り付け部5及び6と、光変調器1と入出力光ファイバ2の一部を収納したパッケージ8とを有し、接触端子3及び4を介して誘起された電圧信号を光強度変調信号に変換して出力する光電圧プローブであって、パッケージ8は、電界を遮蔽するための金属体8aと磁界を遮蔽するための磁気シールド材8bとにより内部を覆うように構成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つの変調電極を備え、前記2つの変調電極間の電圧に依存して入射光を強度変調して出力する光変調器と、
前記光変調器に接続された入力光ファイバ及び出力光ファイバと、
前記変調電極に接続され被測定点に接触可能な2つの接触端子、又は、前記変調電極に接続され被測定点に接触可能な接触端子を接触させて着脱可能に構成した2つの接触端子取り付け部と、
前記光変調器と前記入力光ファイバ及び前記出力光ファイバの一部を収納したパッケージと、を有し、
前記接触端子を介して前記2つの変調電極間に誘起された電圧信号を前記光変調器により光強度変調信号に変換して前記出力光ファイバより出力する光電圧プローブであって、
前記パッケージは、電界を遮蔽するための金属体と、該金属体の内側、又は外側に配置された磁界を遮蔽するための磁気シールド材と、により内部を覆うように構成され、
前記磁気シールド材は、比透磁率が1000以上の値を有する層状、又はシート状の材料よりなることを特徴とする光電圧プローブ。
【請求項2】
少なくとも2つの変調電極を備え、前記2つの変調電極間の電圧に依存して入射光を強度変調して出力する光変調器と、
前記光変調器に接続された入力光ファイバ及び出力光ファイバと、
前記変調電極に接続され被測定点に接触可能な2つの接触端子、又は、前記変調電極に接続され被測定点に接触可能な接触端子を接触させて着脱可能に構成した2つの接触端子取り付け部と、
前記光変調器と前記入力光ファイバ及び前記出力光ファイバの一部を収納したパッケージと、を有し、
前記接触端子を介して前記2つの変調電極間に誘起された電圧信号を前記光変調器により光強度変調信号に変換して前記出力光ファイバより出力する光電圧プローブであって、
前記パッケージは、電界及び磁界を遮蔽するための比透磁率が1000以上の値を有する金属体により内部を覆うように構成されていることを特徴とする光電圧プローブ。
【請求項3】
前記パッケージは、該パッケージの外部より到達する電磁波の該パッケージによる反射を減少するための電波吸収体を該パッケージの表面に備えることを特徴とする請求項1に記載の光電圧プローブ。
【請求項4】
前記パッケージは、該パッケージの外部より到達する電磁波の該パッケージによる反射を減少するための電波吸収体を該パッケージの表面に備えることを特徴とする請求項2に記載の光電圧プローブ。
【請求項5】
前記光変調器は、ニオブ酸リチウム結晶基板上に形成された光導波路を用いた分岐干渉型光変調器であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の光電圧プローブ。
【請求項6】
前記光変調器は、ニオブ酸リチウム結晶基板上に形成された光導波路を用いた分岐干渉型光変調器であり、かつ、入射光を内部で反射して折り返す反射型光変調器であって、前記入力光ファイバと出力光ファイバは1本の入出力光ファイバで構成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の光電圧プローブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接触端子から得られる電圧信号を光変調器に印加して光変調信号に変換し、光ファイバによりその光変調信号を出力する光電圧プローブに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高速のCPU等を用いた様々な制御装置が開発されており、誤動作の防止対策のため、その電気回路基板等で発生するノイズ信号の検出や、電気回路基板等のノイズ耐性試験等が行われている。これらの試験においては、電気回路基板上に設置された電気部品の入出力信号や配線上を伝わる電気信号を正確に測定することが要求されている。
【0003】
電気部品や配線の電気信号を測定する一般的な方法は、接触端子を有する電気プローブにより被測定点の電気信号をオシロスコープ等の測定器に導いてその伝達された電圧波形等を測定する方法である。しかし、被測定点のグランドレベルが測定器と異なる場合や、グランドされていない2点間の電圧信号を測定する場合等には、アースからの信号の混入や電気プローブの有する容量の影響などのため、正確な電圧波形の測定が困難となる。特に高周波領域においては上記のグランドや容量の影響は大きい。
さらに、IC、LSI等の集積回路において、入力インピーダンスおよび出力インピーダンスは50Ωではないものが多く、例えばアンプ素子については高インピーダンス入力、低インピーダンス出力となっている。このため入力インピーダンスが小さい電気プローブを使ってノイズ入力電圧を測定すると、電気プローブ側に電流が流れてしまい、本来測定すべきノイズ電圧を低下させてしまう。
【0004】
この問題を解決する手段として、電圧信号を光信号に変換し、その光信号を光ファイバにより測定器に導く光電圧プローブを使用した測定器が開発されている。この方式では、プローブの有する容量成分が非常に小さいため、入力インピーダンスが非常に高く、被測定点と測定器が電気的に完全に分離される。光電圧プローブでは高周波成分まで測定でき、グランドの影響や途中での電気信号ノイズの混入等を防ぐことができる。
【0005】
このような従来の測定器の例が特許文献1、2及び3に記載されている。
特許文献1にはバルク型の光変調器を用いた光電圧プローブが記載されている。すなわち、電気光学効果を有する結晶を挟む2つの電極間に接触端子の電圧信号を印加し、上記結晶中で光ファイバより送られた入射光を反射させて偏光状態を変化させ、その変化分を検光子を通して光強度変調光とし、光ファイバでO/E変換器に導く構成である。
特許文献2には導波路型の光変調器を用いた光電圧プローブが記載されている。ニオブ酸リチウム結晶基板上に形成した分岐干渉型光変調器の2つの変調電極間に接触端子の電圧信号を印加して光強度変調信号を得るものである。光源とO/E変換器とを備えた装置と光電圧プローブは光ファイバで接続されている。
特許文献3には、さらに、周囲の電磁波ノイズの影響を防ぐため、金属のような導電材料でパッケージを覆って電磁波を遮蔽した光電圧プローブや、フェライト等の電波吸収材料で光電圧プローブのパッケージを覆う構成が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭63-196863号公報
【特許文献2】特開平8-35998号公報
【特許文献3】特開2021-165666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、従来の光電圧プローブでは、電気プローブのようなグランドの影響を除くことができ、測定器までの配線の途中からの電気信号ノイズの混入も防ぐことができる。さらに、特許文献3の光電圧プローブでは、金属や電波吸収材料によりパッケージを覆うことにより、光電圧プローブの周囲の空間を伝搬して接触端子から変調電極に至る途中の配線をアンテナとして直接的に変調電極に達する電磁波ノイズの影響を排除することができる、と記載されている。
【0008】
しかし、発明者らの実験により、上記の従来の周囲の電磁波に対する遮蔽を行ったパッケージによる光電圧プローブを使用しても、電磁波ノイズの影響が残ってしまう場合があり、その原因が光電圧プローブの周囲に存在する電磁波ノイズの磁界成分に起因することが明らかとなった。一般的に、電磁波が放出される場合、その電磁波の波長をλとすると、放出源からの距離がλ/2π以内の近傍では、磁界と電界がそれぞれ個別に複雑に存在している近傍界と呼ばれる領域がある。この近傍界の磁界が被測定回路と接触端子から変調電極に至る配線を含むループ状の線路に電磁誘導による電圧を発生させ、目的とする接触端子の被測定電圧に重畳されることにより、正確な接触端子の電圧の測定を妨げるものである。
【0009】
本発明の目的は、上記の課題を解決し、周囲の電磁波ノイズの近傍界の磁界に影響されることなく被測定点の電圧信号を正確に測定可能な光電圧プローブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、第1の観点では、本発明による光電圧プローブは、少なくとも2つの変調電極を備え、前記2つの変調電極間の電圧に依存して入射光を強度変調して出力する光変調器と、前記光変調器に接続された入力光ファイバ及び出力光ファイバと、前記変調電極に接続され被測定点に接触可能な2つの接触端子、又は、前記変調電極に接続され被測定点に接触可能な接触端子を接触させて着脱可能に構成した2つの接触端子取り付け部と、前記光変調器と前記入力光ファイバ及び前記出力光ファイバの一部を収納したパッケージと、を有し、前記接触端子を介して前記2つの変調電極間に誘起された電圧信号を前記光変調器により光強度変調信号に変換して前記出力光ファイバより出力する光電圧プローブであって、前記パッケージは、電界を遮蔽するための金属体と、該金属体の内側、又は外側に配置された磁界を遮蔽するための磁気シールド材と、により内部を覆うように構成され、前記磁気シールド材は、比透磁率が1000以上の値を有する層状、又はシート状の材料よりなることを特徴とする。
【0011】
本発明の光電圧プローブにおいては、上記のように、パッケージの内部を、電界の遮蔽効果を有する金属体で覆うことにより、測定個所の周囲の電磁波ノイズの電界成分が光変調器の変調電極や変調電極に至る途中の配線により受信されるのを防ぎ、さらに、比透磁率が1000以上の値を有する磁気シールド材で覆うことにより、電磁波ノイズの近傍界の磁界成分の影響も抑制することができる。光電圧プローブの周囲に磁界が存在しても、その磁束が主としてパッケージを覆う比透磁率が大きい磁気シールド材中を通過することにより、パッケージの内部の磁束密度は小さくなるからである。この磁気シールド効果は、比透磁率が大きい材料を用いるほど大きくなり、有効な効果を得るためには比透磁率の値は1000以上であることが必要である。実用上、望ましくは6000以上、さらには、10000以上であることがより望ましい。比透磁率が大きい材料ほど、同じ磁気シールド効果を得るための磁気シールド材の厚さを薄くすることが可能となる。磁気シールド材としては、例えば、比透磁率100000程度が得られるパーマロイやアモルファス合金からなる磁性材料等を用いることができる。
ここで、パッケージの内部を覆う磁気シールド材は、近傍界の磁界が被測定回路と接触端子から変調電極に至る配線を含むループ状の線路に電圧を発生させることを防げばよいので、パッケージ内のすべての部分を覆う必要はなく、上記のループ状の線路に侵入する磁束を妨げるように配置すればよい。すなわち、磁気シールド材は、上記のループ状線路が形成される領域を覆うように配置されていればよい。
【0012】
光電圧プローブでは回路基板等の測定点に接触端子を接触させて測定を行うが、接触端子は光電圧プローブに一体として設けてもよく、又は、目的に合わせて接触端子を選択可能とするため、接触端子を接触させて着脱可能に構成した2つの接触端子取り付け部を光電圧プローブに備えてもよい。なお、接触端子又は接触端子取り付け部の間隔を3mm以上とすることにより、光電圧プローブの入力インピーダンスをより高め、測定における入力インピーダンスの影響を抑制することができる。
【0013】
本発明において、電界の遮蔽効果を得るための金属体でパッケージを構成してもよい。パッケージの形状は光変調器及び接触端子から変調電極に至る途中の配線を内部に収納して覆うものであれば任意の形状が可能である。金属板等の金属加工によりパッケージを構成する方法以外にも、絶縁性の樹脂やセラミック等でパッケージを構成し、その外面全体又は内面全体を覆うように金属膜を設置する方法も可能である。例えば、パッケージ表面への金属膜の蒸着、金属テープの貼り付け、金属メッキや金属材料の塗布等、様々な手段が可能である。また、内部に金属層を有する板状材料でパッケージを構成してもよい。また、金属体は、遮蔽対象とする電磁波の波長に対して十分に小さな網目を有するメッシュ状の金属体であってもよい。
【0014】
磁気シールド材は、パッケージの表面に設けてもよく、パッケージの内部に設けてもよい。材料形状としては、パーマロイ等の板状の材料の他、磁気シールド材料として市販されているシート状の材料、塗布型の材料等も使用可能である。
【0015】
第2の観点では、本発明による光電圧プローブは、少なくとも2つの変調電極を備え、前記2つの変調電極間の電圧に依存して入射光を強度変調して出力する光変調器と、前記光変調器に接続された入力光ファイバ及び出力光ファイバと、前記変調電極に接続され被測定点に接触可能な2つの接触端子、又は、前記変調電極に接続され被測定点に接触可能な接触端子を接触させて着脱可能に構成した2つの接触端子取り付け部と、前記光変調器と前記入力光ファイバ及び前記出力光ファイバの一部を収納したパッケージと、を有し、前記接触端子を介して前記2つの変調電極間に誘起された電圧信号を前記光変調器により光強度変調信号に変換して前記出力光ファイバより出力する光電圧プローブであって、前記パッケージは、電界及び磁界を遮蔽するための比透磁率が1000以上の値を有する金属体により内部を覆うように構成されていることを特徴とする。
【0016】
本観点の発明では、電界を遮蔽するための金属体を比透磁率が1000以上の値を有する金属体とすることにより、磁界を遮蔽するための磁気シールド材の機能を併せ持つことができ、周囲の電磁波ノイズの近傍界の電界と磁界の両者を遮蔽することができる。
例えば、磁気シールド材であるパーマロイ板でパッケージを構成することや、パーマロイのシートで他の金属材料や絶縁体材料で構成されたパッケージを覆う等の方法が可能である。
【0017】
第3の観点では、本発明は、前記第1の観点の光電圧プローブにおいて、前記パッケージは、該パッケージの外部より到達する電磁波の該パッケージによる反射を減少するための電波吸収体を該パッケージの表面に備えることを特徴とする。本発明による光電圧プローブにおいては、電界及び磁界の遮蔽効果を有するパッケージにより、変調電極等により直接的に周囲の電磁波ノイズを検出することは防ぐことができるが、測定対象の回路基板等に近接して配置されたパッケージにより電磁波ノイズが反射されて、測定対象の回路基板等の受信アンテナとしての機能を有する部分に放射された場合、接触端子から測定される信号に電磁波ノイズによる信号が混入してしまう恐れがある。本観点の発明においては、パッケージの表面に電波吸収体を備えることにより電磁波ノイズを吸収して、電磁波ノイズの反射を減少させることができる。これにより、測定点に近接して置かれるパッケージからの電磁波ノイズの反射波を減少させ、測定における電磁波ノイズの影響をさらに防ぐことができる。
【0018】
本観点の発明に用いる電波吸収体としては、電波の反射を減少させる機能を有するものであればよい。例えば、材料内部の抵抗によって電波によって発生する電流を吸収する導電性繊維の織物等により構成される導電性電波吸収材料、誘電損失を利用し、カーボン粉等をゴム、発泡ウレタン、発泡ポリスチロール等の誘電体に混合して見かけ上の誘電損失を大きくした誘電性電波吸収材料、磁気損失によって電波を吸収するニッケル、フェライト等を使用した磁性電波吸収材料等を用いることができる。また、材料形状としては、シート状の材料、塗布型の材料等も可能である。
【0019】
第4の観点では、本発明は、前記第2の観点の光電圧プローブにおいて、前記パッケージは、該パッケージの外部より到達する電磁波の該パッケージによる反射を減少するための電波吸収体を該パッケージの表面に備えることを特徴とする。
【0020】
第5の観点では、本発明は、前記第1乃至第4の観点の光電圧プローブにおいて、前記光変調器は、ニオブ酸リチウム結晶基板上に形成された光導波路を用いた分岐干渉型光変調器であることを特徴とする。本観点の発明は、光変調器として、従来から用いられているニオブ酸リチウム結晶上に形成された光導波路による分岐干渉型光変調器を用いるものである。分岐干渉型光変調器の基本構成は、光の入射側から延びる入力光導波路と、入力光導波路から二股に分岐して延びる2本の位相シフト導波路と、その2本の位相シフト光導波路が合流して光の出射側につながる出力光導波路と、位相シフト導波路に並行に配置された変調電極により構成される。電圧信号を変調電極を介して位相シフト導波路に印加し、位相シフト光導波路の屈折率を変化させ、その2つの位相シフト光導波路を通過した光が合流して干渉し、光強度が変調される。小型、高効率、広帯域の光変調器が得られるので、本発明の光電圧プローブに適している。
【0021】
なお、本発明において、変調電極として、長手方向に分割され互いに容量結合した複数の電極からなるいわゆる分割電極を用いることができる。変調効率と変調帯域に関係する変調電極の長さと電気容量のトレードオフの関係を改善する有力な手段が、1つの変調電極を容量結合した複数の電極に分割した分割電極である。この分割電極を使用することにより、高効率、広帯域の光変調器を得ることができる。
【0022】
第6の観点では、本発明は、前記第1乃至第4の観点の光電圧プローブにおいて、前記光変調器は、ニオブ酸リチウム結晶基板上に形成された光導波路を用いた分岐干渉型光変調器であり、かつ、入射光を内部で反射して折り返す反射型光変調器であって、前記入力光ファイバと出力光ファイバは1本の入出力光ファイバで構成されていることを特徴とする。本観点の発明の反射型光変調器は、入射光を位相シフト導波路において反射させて入射側の光導波路に戻す構成を用いる。このような反射型の光変調器の構成を用いることにより、透過型の光変調器に比べて同じ電極長に対して2倍の長さ光が透過するので、光変調器の高効率化、広帯域化が可能となり、かつ小型化が可能となる。さらに、光変調器に接続される光ファイバが1本であるので取り扱いが容易となる。
【発明の効果】
【0023】
上記のように、本発明により、周囲の電磁波ノイズの近傍界の磁界に影響されることなく被測定点の電圧信号を正確に測定可能な光電圧プローブが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】実施例1に係る光電圧プローブの構成を模式的に示す構成図であり、
図1(a)は透過型の平面図、
図1(b)は透過型の側面図、
図1(c)はパッケージの断面構造を示す部分拡大断面図、
図1(d)は接触端子取り付け部の部分拡大断面図。
【
図2】実施例1に係る光電圧プローブを用いた測定システムのブロック構成図。
【
図3】実施例1の光電圧プローブに内蔵される反射型の光変調器の構成の一例を模式的に示す図であり、
図3(a)は平面図、
図3(b)はA-A断面図。
【
図4】実施例2に係る光電圧プローブの構成を模式的に示す図であり、
図4(a)は透過型の平面図、
図4(b)はパッケージの断面構造を示す部分拡大断面図。
【
図5】実施例3に係る光電圧プローブの構成を模式的に示す図であり、
図5(a)は透過型の平面図、
図5(b)はパッケージの断面構造を示す部分拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の光電圧プローブを実施例により詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一符号を付し、その重複した説明を省略する。
【実施例0026】
図1は実施例1に係る光電圧プローブの構成を模式的に示す構成図であり、
図1(a)は透過型の平面図、
図1(b)は透過型の側面図、
図1(c)はパッケージの断面構造を示す部分拡大断面図、
図1(d)は接触端子取り付け部の部分拡大断面図である。
【0027】
図1において、本実施例の光電圧プローブ10は、2つの変調電極11及び12を備え、変調電極11と変調電極12間の電圧に依存して入射光を強度変調して出力する光変調器1と、光変調器1に接続された入力光ファイバ及び出力光ファイバとを備えている。さらに、被測定点に接触可能に構成される2つの接触端子3及び4をそれぞれ接触させて着脱可能に構成し、変調電極11及び12にそれぞれ接続された接触端子取り付け部5及び6備えている。本実施例においては、光変調器1は、入射光を内部で反射して折り返す反射型光変調器であって、光変調器1への入力光ファイバと光変調器1からの出力光ファイバは1本の入出力光ファイバ2で構成されている。入出力光ファイバ2の先端は、光変調器1の入出射端面と端面同士を接着固定するため、フェルール7内に挿入され固定されている。
【0028】
また、光変調器1及び入出力光ファイバ2の一部は、直方体状のパッケージ8の中に収納されている。ここで、パッケージ8は、電界を遮蔽するアルミニウム等の金属板8aの外側に磁界を遮蔽するパーマロイシートからなる磁気シールド材8bを配置して構成されている。但し、磁気シールド材8bは金属板8aの全体を覆うのではなく、近傍磁界が影響を及ぼす光変調器の変調電極及び接触端子取り付け部5及び6までを覆うように配置され、
図1(a)、(b)で示すパッケージ8の右側半分には設置されていない。光変調器1はパッケージ8に固定された台座9に固定され、入出力光ファイバ2はゴム状の固定部品13によりパッケージ8に固定されている。ここで、パーマロイシートの厚さは0.1mm以上であれば磁気シールド効果が得られる。本実施例における磁気シールド材8bの材料としては、パーマロイシートの他に、コバルト、ジルコニウム、ニオブ等からなるアモルファス金属の磁性材料等を用いることができる。
【0029】
接触端子取り付け部5及び6は、
図1(d)に示すように、筒状の絶縁体14と、その内部に収納され固定された金属の筒状の端子挿入部15とからなり、測定時には接触端子取り付け部5の端子挿入部15に接触端子3が挿入され、接触端子取り付け部6の端子挿入部15に接触端子4が挿入される。端子挿入部15には変調電極11又は12へ接続するためのリード線16が取り付けられ、絶縁体14がパッケージ8に固定されている。本実施例においては、接触端子取り付け部5及び6はパッケージ8の表面の位置より内側に設置されている。また、2つの接触端子取り付け部5と6の中心間隔は5mm程度であり、2つの接触端子3及び4が取り付けられたとき、その間隔Pも5mm程度となる。このように接触端子の間隔を3mm以上離すことにより、高い入力インピーダンスが得られている。
【0030】
次に、本実施例の光電圧プローブ10を用いた測定システムについて説明する。
図2は実施例1に係る光電圧プローブを用いた測定システムのブロック構成図である。
図2に示すように、光電圧プローブ10には、光送受信ユニット21より入出力光ファイバ2を通して入射光17が送られ、光変調器1より出力される光強度変調信号18が同じ入出力光ファイバ2より送受信ユニット21に入力される。
光送受信ユニット21は、半導体レーザ等の光源22、O/E変換器23、入射光17と光強度変調信号18を分離するための送受分離器24、アンプ25を備えている。光源22からの出射光は送受分離器24を通して入出力光ファイバ2に結合し、入出力光ファイバ2から戻る光強度変調信号18は送受分離器24を通してO/E変換器23に入力する。O/E変換器23において光強度変調信号18は電気信号に変換され、アンプ25により増幅されて出力端子26に出力される。その電気信号はオシロスコープ等の測定器27の入力端子28に入力される。送受分離器24は、光サーキュレータ、光ファイバ分岐、半透過ミラーのいずれかを用いて構成することができる。
【0031】
図2は、被測定点として、電気回路基板29上に組み込まれた電気部品19の2つの端子間に印加されている電圧信号を測定する場合を示している。電気部品19の測定しようとする2つの端子に光電圧プローブ10の接触端子3及び4を接触させる。接触端子3及び4を通して入力される電圧信号は変調電極11及び12に導かれ、この電圧信号が光変調器1により光強度変調信号18に変換される。その光強度変調信号18は光送受信ユニット21内で電気信号に変換される。測定器27によりその電圧波形を観測等することにより電気部品19の2つの端子間に印加されている電圧信号波形を把握することができる。
【0032】
図3は、本実施例の光電圧プローブ10に内蔵される反射型の光変調器1の構成の一例を模式的に示す図であり、
図3(a)は平面図、
図3(b)はA-A断面図である。
【0033】
図3において、光変調器1は、電気光学効果を有する結晶であるニオブ酸リチウム(LiNbO
3)結晶からXカットで切り出して作られた基板41と、基板41の上面側にTi拡散によって作られた分岐干渉型光導波路42と、基板41の上面側に成膜されたバッファ層43と、バッファ層43の上に成膜された変調電極11及び12を含む変調電極部44と、基板41の一方の端部に設置された光反射部45とから構成されている。変調電極部44は、スパッタリング等によって成膜されたクロム(Cr)と金(Au)の2層膜である。
【0034】
分岐干渉型光導波路42は、入力光の入射側に延びる1本の入出力光導波路42aと、入出力光導波路42aから二股に分岐して延びる2本の位相シフト導波路42b,42cとから構成されている。入出力光導波路42aや位相シフト光導波路42b,42cでは、延伸方向に垂直な方向の幅Wは5~12μmの範囲にあり、すべて等しい。また、位相シフト光導波路42bと42cの延伸方向の長さは10~30mmの範囲にあり、ほぼ等しい。位相シフト光導波路42bと42cは、その中央部分が15~50μmの範囲内の所定の間隔で離間し、互いに平行に延びている。バッファ層43は、光導波路42を伝播する光の一部が変調電極部44に吸収されることを防止する目的で設けられ、主として二酸化ケイ素(SiO2)膜等から作られ、その厚さは0.1~1.0μm程度である。
【0035】
光変調器1においては、変調電極部44は、分岐干渉型光導波路42の長手方向に分割され互いに容量結合した3つの電極46、47、48からなる分割電極により構成されている。電極46は変調電極11の一部であり、位相シフト光導波路42bと42cの間に配置された電極部46aを有している。電極47は、位相シフト光導波路42b,42cを挟んで電極部46aの両側に配置された電極部47bと、位相シフト光導波路42bと42cの間に配置された電極部47aを有している。電極48は変調電極12の一部であり、位相シフト光導波路42b,42cを挟んで電極部47aの両側に配置された電極部48bを有している。変調電極11と12間で、電極46と47、及び電極47と48は互いに容量結合して直列に配置されていることになる。
【0036】
基板41の入出力光導波路42aの光入出射端には入出力光ファイバ2の入出射端面が結合している。光反射部45は、入出力光導波路42aから入射して位相シフト光導波路42b,42cを伝播した光を反射し、位相シフト光導波路42b,42cから入出力光導波路42aへ戻して伝播させる。変調電極11及び12間への電圧印加により、電極部46aと47bとの間、及び電極部47aと48bとの間の2つの位相シフト光導波路42b,42c中に互いに逆向きに電界が印加される。これにより、位相シフト光導波路42bと42cには互いに逆向きの屈折率変化が生じ、それらを通過する光に互いに逆極性の位相シフトが生じ、それらの光が合流するときに互いに干渉して強度変化が生ずる。これにより変調電極11及び12間への印加電圧に対応した光強度変化を有する光強度変調信号が得られる。
【0037】
本実施例の光電圧プローブを用いて、電気回路基板のイミュニティ試験を行った。試験装置から所定の電磁波ノイズを発生させ、電気回路基板中の所定の場所での信号波形を測定した。磁気シールド材なしの従来の光電圧プローブを使用した場合には、イミュニティ試験の試験波形が信号波形に重畳されて検出されてしまったが、磁気シールド材を設けた本実施例の光電圧プローブを使用した場合は、電気回路の信号波形のみが検出できた。すなわち、周囲の電磁波ノイズの近傍界の磁界に影響されることなく被測定点の電圧信号を正確に測定可能であることが確認できた。
ここで、金属体32は実施例1の金属体8aと同様な形状で構成した。電波吸収体33は、カーボン粉等をゴム、発泡ウレタン、発泡ポリスチロール等の誘電体に混合して見かけ上の誘電損失を大きくした誘電性電波吸収材料で構成したシートであり、金属体32の接触端子取り付け部5及び6の露出面、及び入出力光ファイバ2の固定部品13以外の表面全体に貼り付けられている。
本実施例においては、電磁波ノイズの近傍界の磁界に影響されることなく被測定点の電圧信号を正確に測定可能であることに加え、測定点に近接して置かれるパッケージ31の金属体32による電磁波ノイズの反射を電波吸収体33により減少させ、被測定回路中へのノイズ混入を妨げ、測定における電磁波ノイズの影響をさらに小さくすることができる。また、電波吸収体のシートを表面に貼り付けるだけで構成できるので、製造工程が簡易化できる。