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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162307
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂押出発泡板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/12 20060101AFI20241114BHJP
【FI】
C08J9/12 CET
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023077682
(22)【出願日】2023-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】000131810
【氏名又は名称】株式会社ジェイエスピー
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 悠樹
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】笠原 裕佑
(72)【発明者】
【氏名】檜山 敏之
(72)【発明者】
【氏名】橋本 邦男
(72)【発明者】
【氏名】小暮 直親
【テーマコード(参考)】
4F074
【Fターム(参考)】
4F074AA32
4F074AA66A
4F074AA98
4F074AC02
4F074AC17
4F074AD05
4F074AE02
4F074AG10
4F074AG20
4F074BA34
4F074BA38
4F074BA53
4F074BA75
4F074BC12
4F074CA22
4F074DA02
4F074DA07
4F074DA08
4F074DA12
4F074DA23
4F074DA32
(57)【要約】      (修正有)
【課題】熱伝導率が低く、連続成形性にも優れる押出発泡板の製造方法を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂と物理発泡剤とを混練してなる発泡性樹脂溶融物を押出発泡させて板状に成形する工程を含む、熱可塑性樹脂押出発泡板の製造方法であって、熱可塑性樹脂が、ポリスチレン系樹脂と、ポリエチレンテレフタレート共重合体との混合物を含み、ポリスチレン系樹脂と前記ポリエチレンテレフタレート共重合体との質量比率が、95:5~40:60であり、ポリエチレンテレフタレート共重合体について、以下の<条件1>にて得られるDSC曲線の融解熱量が1J/g以下(0を含む)であることを特徴とする熱可塑性樹脂押出発泡板の製造方法。
<条件1>:ポリエチレンテレフタレート共重合体を試験片とし、200℃にて15分保持した後145℃にて4日間静置し、JIS K7122-1987に基づき加熱速度10℃/分でDSC曲線を得る。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と物理発泡剤とを混練してなる発泡性樹脂溶融物を押出発泡させて板状に成形する工程を含む、熱可塑性樹脂押出発泡板の製造方法であって、
前記熱可塑性樹脂が、ポリスチレン系樹脂と、ポリエチレンテレフタレート共重合体との混合物であり、前記ポリスチレン系樹脂と前記ポリエチレンテレフタレート共重合体との質量比率(ポリスチレン系樹脂:ポリエチレンテレフタレート共重合体)が、95:5~40:60であり、前記ポリエチレンテレフタレート共重合体について、以下の<条件1>にて得られるDSC曲線の融解熱量が1J/g以下(0を含む)であることを特徴とする熱可塑性樹脂押出発泡板の製造方法。
<条件1>:ポリエチレンテレフタレート共重合体を試験片とし、該試験片を200℃にて15分保持した後、145℃にて4日間静置した後、JIS K7122-1987に基づく熱流束示差走査熱量測定を行い、加熱速度10℃/分でDSC曲線を得る。
【請求項2】
前記ポリエチレンテレフタレート共重合体が、ジカルボン酸成分としてイソフタル酸を5mol%以上40mol%以下含むことを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂押出発泡板の製造方法。
【請求項3】
前記ポリエチレンテレフタレート共重合体のガラス転移温度Tg1が以下の式1を満足し、かつ、前記ポリエチレンテレフタレート共重合体のガラス転移温度Tg1及び前記ポリスチレン系樹脂のガラス転移温度Tg2が以下の式2を満足することを特徴とする請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂押出発泡板の製造方法。
65℃≦Tg1≦95℃ (式1)
Tg1≦Tg2+10℃ (式2)
【請求項4】
前記発泡性樹脂溶融物がグラファイトを含み、前記グラファイトの添加量が前記熱可塑性樹脂100質量部に対して0.3質量部以上10質量部以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂押出発泡板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂押出発泡板の製造方法の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリスチレン系樹脂を基材樹脂とする熱可塑性樹脂押出発泡板(以下、単に「押出発泡板」ともいう)は、優れた断熱性および機械的強度を有することから断熱材として広く使用されている。例えば、建築物の壁、床および屋根等の断熱材として、押出発泡板が好適に使用されている。押出発泡板は、一般に、押出機中で熱可塑性樹脂を加熱溶融した後に、得られた溶融物に物理発泡剤を圧入および混練して得られる発泡性溶融樹脂混練物を、押出機先端に付設されたフラットダイ等から低圧域に押出して発泡させて、成形具により板状に成形することにより製造されている。
【0003】
近年、住宅、建築物等の省エネルギー化の要求が高まっており、断熱性に優れる押出発泡板がさらに求められている。押出発泡板の断熱性を良好にするには、押出発泡板の熱伝導率を低くする必要がある。例えば、特許文献1には、ポリスチレン樹脂と特定のポリエステル樹脂との混合物を基材樹脂に用いることで、熱伝導率が低下し、長期断熱性に優れる押出発泡板が得られることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-219631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の技術では、熱伝導率が低い押出発泡板を得るという点において、さらなる改善の余地があった。また、押出発泡板を板状に連続して成形する連続成形性においてもさらなる改善の余地があった。以上の事情を考慮して、本発明では、熱伝導率が低く、連続成形性にも優れる押出発泡板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]熱可塑性樹脂と物理発泡剤とを混練してなる発泡性樹脂溶融物を押出発泡させて板状に成形する工程を含む、熱可塑性樹脂押出発泡板の製造方法であって、前記熱可塑性樹脂が、ポリスチレン系樹脂と、ポリエチレンテレフタレート共重合体との混合物であり、前記ポリスチレン系樹脂と前記ポリエチレンテレフタレート共重合体との質量比率(ポリスチレン系樹脂:ポリエチレンテレフタレート共重合体)が、95:5~40:60であり、前記ポリエチレンテレフタレート共重合体について、以下の<条件1>にて得られるDSC曲線の融解熱量が1J/g以下(0を含む)であることを特徴とする熱可塑性樹脂押出発泡板の製造方法。 <条件1>:ポリエチレンテレフタレート共重合体を試験片とし、該試験片を200℃にて15分保持した後、145℃にて4日間静置した後、JIS K7122-1987に基づく熱流束示差走査熱量測定を行い、加熱速度10℃/分でDSC曲線を得る。
【0007】
[2]前記ポリエチレンテレフタレート共重合体が、ジカルボン酸成分としてイソフタル酸成分を5mol%以上40mol%以下含むことを特徴とする[1]に記載の熱可塑性樹脂押出発泡板の製造方法。
【0008】
[3]前記ポリエチレンテレフタレート共重合体のガラス転移温度Tg1が以下の式1を満足し、かつ、前記ポリエチレンテレフタレート共重合体のガラス転移温度Tg1及び前記ポリスチレン系樹脂のガラス転移温度Tg2が以下の式2を満足することを特徴とする[1]又は[2]に記載の熱可塑性樹脂押出発泡板の製造方法。
65℃≦Tg1≦95℃ (式1)
Tg1≦Tg2+10℃ (式2)
【0009】
[4]前記発泡性樹脂溶融物がグラファイトを含み、前記グラファイトの添加量が前記熱可塑性樹脂100質量部に対して0.3質量部以上10質量部以下である[1]から[3]の何れか記載の熱可塑性樹脂押出発泡板の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によれば、熱伝導率が低く、連続成形性にも優れる押出発泡板が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例2についてモルフォロジーの評価のために撮影した電子顕微鏡写真である。
図2】比較例2についてモルフォロジーの評価のために撮影した電子顕微鏡写真である。
図3】比較例4についてモルフォロジーの評価のために撮影した電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<押出発泡板の製造方法>
本発明に係る製造方法は、熱可塑性樹脂と物理発泡剤とを混練してなる発泡性樹脂溶融物を押出発泡させて板状に成形する工程(以下「成形工程」という)を含む熱可塑性樹脂押出発泡板(以下、単に「押出発泡板」ともいう)を製造する方法である。
【0013】
具体的には、本発明に係る製造方法では、まず、熱可塑性樹脂と難燃剤と必要に応じて添加されるその他の添加剤とを押出機内において加熱下で溶融および混練して得られる溶融混練物に、物理発泡剤を圧入し、さらに混練して発泡性樹脂溶融物を得る。次に、発泡性樹脂溶融物を発泡適正温度に調整し、フラットダイを通して高圧の押出機内から低圧域に押出して発泡させて、フラットダイの出口に配置された成形具(例えば成形型や成形ロール)を通過させることによって板状の押出発泡板が成形される。
【0014】
本発明において用いられる熱可塑性樹脂は、ポリスチレン系樹脂と、ポリエチレンテレフタレート共重合体との混合物(以下「樹脂混合物」ともいう)である。熱可塑性樹脂中の樹脂混合物の含有量は、80質量%以上が好ましく、90質量%以下がより好ましく、95質量%以下が好ましく、熱可塑性樹脂が実質的に樹脂混合物のみから構成されていることが特に好ましい。
【0015】
熱可塑性樹脂押出発泡板の気泡膜部断面において、ポリスチレン系樹脂またはポリエチレンテレフタレート共重合体が連続相をなし、連続相中に他方が分散相をなして海島構造を形成していてもよく、ポリスチレン系樹脂とポリエチレンテレフタレート共重合体とが両連続相構造を形成していてもよい。分散相が、連続相中で層状に分散していることが、より一層優れた長期断熱性を達成する上で望ましい。なお、高発泡倍率、高厚みの良好な押出発泡板を押出発泡法により製造する観点からポリスチレン系樹脂が連続相をなし、ポリエチレンテレフタレート共重合体が分散相をなしていることが好ましい。
【0016】
[ポリスチレン系樹脂]
本発明の製造方法で用いられるポリスチレン系樹脂としては、例えばポリスチレンや、スチレン単位成分を50mol%以上含むスチレン-アクリル酸メチル共重合体、スチレン-アクリル酸エチル共重合体、スチレン-メタクリル酸メチル共重合体、スチレン-メタクリル酸エチル共重合体、スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-無水マレイン酸共重合体、スチレン-ポリフェニレンエーテル共重合体、スチレン-アクリロニトリル共重合体、スチレン-メチルスチレン共重合体、スチレン-ジメチルスチレン共重合体、スチレン-エチルスチレン共重合体、スチレン-ジエチルスチレン共重合体等から選択される1種又は2種以上を例示することができる。これらの中では、ポリスチレンを好適に用いることができる。なお、ポリスチレンには、スチレン単位成分以外に、多官能性単量体や多官能性マクロモノマー等の分岐化剤による単位成分が含まれていてもよい。これらの共重合体中のスチレン成分単位の含有量は、好ましくは60mol%以上であり、より好ましくは80mol%以上であり、さらに好ましくは90mol%以上である。
【0017】
なお、ポリスチレン系樹脂として、市販されている汎用ポリスチレンや魚箱などに使用されているポリスチレン系樹脂発泡粒子成形体であって使用済みのものを回収した回収原料や、ポリスチレン系樹脂押出発泡板(例えばポリスチレン系樹脂押出発泡板の製造時に発生した屑や粉砕物)を回収した回収原料などを使用してもよい。以上のような回収原料は、例えば、粉砕および溶融させてペレット化することで、ポリスチレン系樹脂として再利用することができる。
【0018】
ポリスチレン系樹脂の密度は、好ましくは1000kg/m以上である。ポリスチレン系樹脂の密度は、おおむね1100kg/m以下である。密度の測定は、ISO 1183-3に記載の方法に基づいて求められる。
【0019】
ポリスチレン系樹脂について、以下の<条件1>で得られるDSC(Differential Scanning Calorimetry)曲線の融解熱量は、好ましくは1J/g以下(0を含む)であり、より好ましくは0.5J/g以下であり、さらに好ましくは0J/g以下である。
【0020】
<条件1>ポリスチレン系樹脂を試験片とし、該試験片を200℃にて15分保持した後、145℃にて4日間静置した後、JIS K7122-1987に基づく熱流束示差走査熱量測定を行い、加熱速度10℃/分でDSC曲線を得る。
【0021】
ポリスチレン系樹脂のガラス転移温度Tg2は、樹脂混合物における押出発泡板の製造安定性の観点から80℃以上110℃以下であることが好ましい。以上の観点から、ポリスチレン系樹脂のガラス転移温度Tg2は、より好ましくは85℃以上105℃以下である。特に、ポリスチレン系樹脂として、上述したような回収原料を用いる場合には、ガラス転移温度が低くなる傾向がある。これは、例えば、ポリスチレン系樹脂押出発泡板を粉砕した粉砕物を回収原料とするときに粉砕物を加熱、溶融、混練するリサイクル工程を経るため、リサイクル工程における熱などによって回収原料のガラス転移温度がバージンポリスチレンのガラス転移温度と比べて低くなると考えられる。ガラス転移温度が低いポリスチレン系樹脂を使用すると、発泡温度を下げて押出し発泡させて成形具により板状に賦型させる必要があり、その際、押出発泡板の幅方向端部に引っ掛かりが生じやすくなり、押出発泡板を安定して得られない場合があった。本発明の製造方法では、後述する特定のポリエチレンテレフタレート共重合体を併用することで、ポリスチレン系樹脂のガラス転移温度Tg2が低い場合でも安定して押出発泡板が得られるという利点がある。なお、押出発泡板の幅方向端部の引っ掛かりとは、押出発泡時に発泡された樹脂溶融物の一部が固化し過ぎるなどして、押出発泡板が成形金型の幅方向端部に引っ掛かり、捲り上がることをいう。押出発泡板の幅方向端部に引っ掛かりが生じると押出発泡板の幅方向端部が平滑でなく、外観に劣るものとなる。また、引っ掛かりがひどい場合には、押出発泡板の幅方向端部にひび割れが生じ、所望の幅方向長さを有する押出発泡板が得られなくなるおそれがある。
【0022】
ポリスチレン系樹脂のガラス転移温度Tg2は、JIS K7121-1987に記載の「一定の熱処理を行った後、ガラス転移温度を測定する場合」(試験片の状態調節における加熱速度と冷却速度は、いずれも10℃/分とする。)を採用し、熱流束示差走査熱量測定装置(以下、DSC装置という。)を使用し、加熱速度10℃/分で得られるDSC曲線に基づいて測定される中間点ガラス転移温度である。
【0023】
[ポリエチレンテレフタレート共重合体]
本発明の製造方法で用いられるポリエチレンテレフタレート共重合体は、ジカルボン酸成分(a)単位と、ジオール成分(b)単位とを主たる成分単位として有するポリエステル系樹脂である。ポリエチレンテレフタレート共重合体は、ジカルボン酸成分(a)としてテレフタル酸成分単位、ジオール成分(b)としてエチレングリコール成分単位とを、主たる成分単位として有するものであるが、ポリエチレンテレフタレート共重合体の結晶性を制御するために、ジカルボン酸成分(a)としてのテレフタル酸成分単位及びジオール成分(b)としてのエチレングリコール成分単位以外のその他の成分単位が用いられてもよい。
【0024】
ジカルボン酸成分(a)としてテレフタル酸以外に含まれるその他のジカルボン酸成分としては、例えばジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体が使用できる。エステル形成性誘導体としては、例えば、炭素数1~4程度のアルキルエステルなどのエステル誘導体、ジアンモニウム塩などの塩、ジクロリドなどの酸ハロゲン化物などを挙げることができる。ジカルボン酸としては、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、フタル酸(1,2-ベンゼンジカルボン酸)、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、3,4’-ジフェニルジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,5-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸またはその酸無水物等の誘導体、またはシュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸等の脂肪族ジカルボン酸又はその誘導体、または1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、テトラリンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸が挙げられる。以上に例示したジカルボン酸成分は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。ジカルボン酸成分(a)としてテレフタル酸以外に含まれるその他のジカルボン酸成分としては、イソフタル酸が好ましい。ポリエチレンテレフタレート共重合体がイソフタル酸成分を含むことで、当該共重合体の結晶性が低下し、層状に分散しやすくなる。以上の観点から、ジカルボン酸成分(a)中のイソフタル酸成分の含有量は、好ましくは5mol%以上50mol%以下であり、より好ましくは5mol%以上40mol%以下であり、さらに好ましくは10mol%以上40mol%以下であり、特に好ましくは15mol%以上30mol%以下である。ジカルボン酸成分(a)は、ジカルボン酸成分(a)中におけるテレフタル酸成分及びイソフタル酸成分の合計比率が90mol%以上であることが好ましく、95mol%以上であることがより好ましく、実質的にテレフタル酸成分及びイソフタル酸成分のみから構成されていることがさらに好ましい。
【0025】
ジオール成分(b)としてエチレングリコール以外に含まれるその他のジオール成分としては、脂肪族系および芳香族系ジオール(二価のフェノールを含む)またはそのエステル形成性誘導体を使用することができ、具体的には、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族ジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,6-シクロヘキサンジオール等の脂環式ジオール、ビスフェノールA等の芳香族ジオール、または、3,9-ビス(1,1-ジメチル-2-ヒドロキシエチル)2,4,8,10-テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン(以下「スピログリコール」という)や(1,1-ジメチル-2-ヒドロキシエチル)-5-エチル-5-ヒドロキシメチル-1,3-ジオキサン(以下、ジオキサングリコールという)等の環状エーテル骨格を有するグリコールを挙げることができる。以上に例示したジオール成分は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。上記ジオール成分の中でもネオペンチルグリコール、スピログリコールが好ましく、スピログリコールがより好ましい。ジオール成分(b)中の環状エーテル骨格を有するグリコールの含有量は、好ましくは10mol%以上30mol%未満であり、より好ましくは15mol%以上25mol%以下である。ジオール成分(b)は、ジオール成分(b)中におけるエチレングリコール成分及び環状エーテル骨格を有するグリコール成分の合計比率が90mol%以上であることが好ましく、95mol%以上であることがより好ましく、実質的にエチレングリコール成分及び環状エーテル骨格を有するグリコール成分のみから構成されていることがさらに好ましい。
【0026】
なお、ポリエチレンテレフタレート共重合体は、例えば少量の安息香酸、ベンゾイル安息香酸、メトキシポリエチレングリコール等の単官能化合物から誘導される成分単位によって分子末端を封止されていてもよい。また、ピロメリット酸、トリメリット酸、トリメシン酸、グリセリン、ペンタエリスリトール等の多官能化合物から誘導される成分単位を少量含んでいてもよい。
【0027】
ポリエチレンテレフタレート共重合体の密度は、好ましくは1200kg/m以上であり、より好ましくは1250kg/m以上であり、さらに好ましくは1280kg/m以上である。ポリエチレンテレフタレート共重合体の密度は、おおむね1350kg/m以下である。ポリエチレンテレフタレート共重合体の密度は、ISO 1183-3に記載の方法に基づいて求められる。
【0028】
ポリエチレンテレフタレート共重合体の空気透過係数は、好ましくは8.0×10-17[mol・m/(m2・s・Pa)]以下であり、より好ましくは5.0×10-17[mol・m/(m2・s・Pa)]以下であり、さらに好ましくは4.0×10-17[mol・m/(m2・s・Pa)]である。空気透過係数は、公知のガス透過率試験機(例えば東洋精機株式会社製ガス透過率試験機BT-3)を用いて、JIS K7126-1:2006 プラスチック-フィルム及びシート-ガス透過度試験方法-第1部:差圧法を使用して、23℃±2℃の温度条件で測定する。
【0029】
ポリエチレンテレフタレート共重合体について、上記の<条件1>で得られるDSC曲線の融解熱量は、1J/g以下(0を含む)である。なお、上記の<条件1>について、試験片はポリエチレンテレフタレート共重合体である。ポリエチレンテレフタレート共重合体の融解熱量が1J/g以下であることで、ポリエチレンテレフタレート共重合体が層状に分散しやすく、熱伝導率を低下させることができる。以上の観点から、ポリエチレンテレフタレート共重合体の融解熱量は、1J/g以下が好ましく、0.5J/g未満がより好ましい。
【0030】
なお、上記の<条件1>において、200℃のオーブン内に試験片を15分保持することにより樹脂に生じた結晶化状態の変化をリセットさせ、状態調節をしている。その後、145℃のオーブン内に試験片を4日間静置することにより樹脂の結晶化を促進させている。本発明においては、従来の吸熱ピーク熱量を求める方法では吸熱ピークが観測されなかった低結晶性樹脂であっても、樹脂を145℃にて4日間静置することにより吸熱ピークが観測される場合があることがわかった。この知見に基づいて押出発泡板の製造について検討したところ、本発明においては、<条件1>において融解熱量が1J/gを超えるポリエチレンテレフタレート共重合体をポリスチレン系樹脂と共に用いて押出発泡板を連続成形すると幅方向端部に引っ掛かりが発生するが、<条件1>において融解熱量が1J/g以下(0を含む)であるポリエチレンテレフタレート共重合体をポリスチレン系樹脂と共に用いて押出発泡板を連続成形すると幅方向端部に引っ掛かりの発生が抑制できることを見い出した。また、<条件1>において融解熱量が1J/g以下(0を含む)であるポリエチレンテレフタレート共重合体をポリスチレン系樹脂と共に用いて製造した押出発泡板は、<条件1>において融解熱量が1J/gを超えるポリエチレンテレフタレート共重合体をポリスチレン系樹脂と共に用いて製造した押出発泡板に対して、ポリエチレンテレフタレート共重合体が気泡膜全体に分散相を形成し、ガスバリア性がさらに優れる押出発泡板とすることができることを見い出した。なお、<条件1>において観測される融解熱量(すなわち、樹脂の結晶成分)と押出発泡板の幅方向端部における引っ掛かりとの関係を確認する方法としては、押出発泡板の幅方向端部から試験片を切り出し、<条件1>にて融解熱量を測定することにより確認することができる。本発明においては、押出発泡板の幅方向端部から切り出した試験片を用いて<条件1>にて求めた融解熱量が大きい押出発泡板ほど押出発泡板の幅方向端部における引っ掛かりが多発することを確認しており、押出発泡板製造時に樹脂の結晶化が進行することにより押出発泡板の幅方向端部における引っ掛かりが生じやすくなると考えられる。従来の吸熱ピーク熱量を求める方法としては、例えば、以下の<条件2>で得られるDSC曲線に基づく樹脂の融解に伴う吸熱ピーク熱量を求める方法がある。
【0031】
<条件2>JIS K7122-1987に記載の「一定の熱処理を行った後、融解熱を測定する場合」(試験片の状態調節における加熱速度と冷却速度は、いずれも10℃/分とする。)を採用し、熱流束示差走査熱量測定装置を使用し、加熱速度10℃/分でDSC曲線を得る。
【0032】
ポリエチレンテレフタレート共重合体のガラス転移温度Tg1は、ポリエチレンテレフタレート共重合体のガラス転移温度Tg1が以下の式1を満足し、かつ、ポリエチレンテレフタレート共重合体のガラス転移温度Tg1及びポリスチレン系樹脂のガラス転移温度Tg2が以下の式2を満足することが好ましい。
65℃≦Tg1≦95℃ (式1)
Tg1≦Tg2+10℃ (式2)
ガラス転移温度が高い樹脂を用いることで圧縮物性に優れる押出発泡板が得られ易くなる。上記観点から、ガラス転移温度Tg1は、上記の通り、65℃以上95℃以下が好ましく、75℃以上95℃以下がより好ましく、80℃以上92℃以下がさらに好ましい。なお、ポリエチレンテレフタレート共重合体のガラス転移温度Tg1は、ガラス転移温度Tg2と同様の方法で測定する。ポリエチレンテレフタレート共重合体のガラス転移温度Tg1及びポリスチレン系樹脂のガラス転移温度Tg2が式2を満足することにより、ポリエチレンテレフタレート共重合体がポリスチレン系樹脂との相溶性に優れると共にポリスチレン系樹脂が連続相をなし、ポリエチレンテレフタレート共重合体が分散相をなすモルフォロジーを形成し易くなることによって、より熱伝導率を低く維持できる押出発泡板が得られ易くなる。上記観点から、ポリエチレンテレフタレート共重合体のガラス転移温度Tg1が、ポリスチレン系樹脂のガラス転移温度Tg2に対して+8℃以下(すなわち、Tg1≦Tg2+8℃以下)であることがより好ましく、ポリスチレン系樹脂のガラス転移温度Tg2に対して+5℃以下(すなわちTg1≦Tg2+5℃以下)であることがより好ましい。ポリエチレンテレフタレート共重合体のガラス転移温度Tg1が式1及び式2を満足することで、圧縮物性に優れる押出発泡板が得られ易くなると共にポリスチレン系樹脂が連続相をなし、ポリエチレンテレフタレート共重合体が分散相をなすモルフォロジーを形成し、より熱伝導率を低く維持できる押出発泡板が得られ易くなる。
【0033】
ポリスチレン系樹脂とポリエチレンテレフタレート共重合体との質量比率(ポリスチレン系樹脂:ポリエチレンテレフタレート共重合体)は、95:5~40:60である。ポリスチレン系樹脂とポリエチレンテレフタレート共重合体との質量比率が以上の範囲内にあることで、熱伝導率が低く、連続成形性にも優れる押出発泡板が得られる。
【0034】
ポリスチレン系樹脂が連続相をなし、ポリエチレンテレフタレート共重合体が分散相をなすモルフォロジーとなり、より熱伝導率を低く維持し易く、発泡状態が良好で連続成形しても幅方向端部に引っ掛かりがなく連続成形性にも優れるという観点から、ポリスチレン系樹脂とポリエチレンテレフタレート共重合体との質量比率は、好ましくは95:5~55:45であり、より好ましくは90:10~70:30である。
【0035】
熱可塑性樹脂は、本発明の目的および効果が達成される範囲内において、ポリスチレン系樹脂および上述した特定のポリエチレンテレフタレート共重合体以外の重合体を含むことができる。その他の重合体としては、ポリエチレン系樹脂(エチレン単独重合体およびエチレン単位成分含有量が50mol%以上のエチレン系共重合体の群から選択される1種又は2種以上の混合物)、ポリプロピレン系樹脂(プロピレン単独重合体およびプロピレン単位成分含有量が50mol%以上のプロピレン系共重合体の群から選択される1種又は2種以上の混合物)、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリメタクリル酸メチル等の熱可塑性樹脂や、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体水添物、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体水添物、スチレン-エチレン共重合体等の熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0036】
[物理発泡剤]
本発明の製造方法で用いられる物理発泡剤としては、有機物理発泡剤や無機物理発泡剤である。有機物理発泡剤としては、例えば、炭素数3~5の脂肪族飽和炭化水素、炭素数1~5の脂肪族アルコール、ハイドロフルオロオレフィン(HFO)、エーテル類、塩化アルキル類が挙げられる。無機物理発泡剤としては、例えば、水、二酸化炭素、窒素などが挙げられる。これらの発泡剤は、単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0037】
本発明の製造方法で用いられる物理発泡剤としては、オゾン破壊係数がゼロ又は極めて低く、かつ温暖化係数の低いものであることが好ましい。一方、物理発泡剤として、押出発泡断熱板の長期断熱性を考慮すると、ガス透過速度が比較的遅く押出発泡板中に残存し易い物理発泡剤が含有されていることが好ましい。押出発泡断熱板中に残存し易い物理発泡剤としては、周知のポリスチレン樹脂に対してガス透過速度が比較的遅い炭化水素系物理発泡剤が好適に使用できる。なお、本発明における熱可塑性樹脂は、ポリスチレン系樹脂にポリエチレンテレフタレート共重合体を混合したものであることによりガスバリア性が向上されているので熱可塑性樹脂に対する物理発泡剤のガス透過速度は一層遅くなり、その結果断熱性能は一層向上する。
【0038】
また、物理発泡剤として、上記物理発泡剤以外にガス透過速度が比較的速い物理発泡剤も使用することができ、更に、ガス透過速度が比較的遅い物理発泡剤とガス透過速度が比較的速い物理発泡剤とを併用することもできる。ガス透過速度が比較的速く、得られる押出発泡板の見掛け密度を低下させる効果があると共に、押出発泡板から早期に逸散して発泡板の断熱性能及び難燃性能を早期に安定化させるのに効果的な物理発泡剤として、炭素数1~5の脂肪族アルコール、エーテル類、水及び二酸化炭素が好適に使用できる。
【0039】
得られる押出発泡板の製造時の安全性や押出発泡体の難燃性の点から、物理発泡剤として、上記のガス透過速度が比較的遅い物理発泡剤と、上記のガス透過速度が比較的速い物理発泡剤とを併用した混合発泡剤を使用することが好ましい。
【0040】
上記のガス透過速度が比較的遅い炭化水素系物理発泡剤の具体例としては、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、ネオペンタン等の炭素原子数3~5の脂肪族炭化水素、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン等の炭素原子数3~6の脂環式炭化水素、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze)、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HFO-1233zd)、1-クロロ-2,3,3,3-テロラフルオロプロペン(HFO-1224yd)、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)、1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテン(HFO-1336mzz)等のハイドロフルオロオレフィンが挙げられる。これらの物理発泡剤は単独または2種以上を併用することもできる。炭素原子数3~5の脂肪族炭化水素の中では、ガス透過速度が遅く発泡剤として好適な、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、シクロペンタンが好ましく、イソブタンが特に好ましい。ハイドロフルオロオレフィンの中では、長期断熱性に優れると共に発泡性に優れ、低見掛け密度の発泡板を得られ易くする観点からHFO-1233zdが好ましい。
【0041】
ガス透過速度が比較的遅い炭化水素系物理発泡剤の添加量は、熱可塑性樹脂1kgに対して、0.5mol以上1.1mol以下であることが好ましく、0.6mol以上1mol以下であることがより好ましく、0.7mol以上0.9mol以下であることがさらに好ましい。ガス透過速度が比較的遅い炭化水素系物理発泡剤が以上の範囲内にあることでガス透過速度が比較的遅い炭化水素系物理発泡剤が有効量残存して、より長期断熱性に優れる押出発泡板とすることができる。
【0042】
炭素数3~5の脂肪族飽和炭化水素の添加量は、熱可塑性樹脂1kgに対して、例えば0.05mol以上1mol以下であり、好ましくは0.1mol以上0.8mol以下であり、より好ましくは0.2mol以上0.7mol以下である。炭素数3~5の脂肪族飽和炭化水素の添加量が以上の範囲内にあることで、見掛け密度が低く、独立気泡率が高い押出発泡板を得られやすくなる。
【0043】
HFOの添加量は、熱可塑性樹脂1kgに対して、例えば0.05mol以上0.5mol以下であり、好ましくは0.1mol以上0.4mol以下であり、より好ましくは0.15mol以上0.3mol以下である。HFOの添加量が以上の範囲内であれば、押出発泡後の押出発泡板に、HFOが有効量残存して、より長期断熱性を有する押出発泡板となる。
【0044】
炭素数1~5の脂肪族アルコールとしては、例えばメチルアルコール(メタノール)、エチルアルコール(エタノール)、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール(イソブチルアルコール)、tert-ブチルアルコール、アリールアルコール、クロチルアルコール、プロパギルアルコール、n-アミルアルコール,sec-アミルアルコール,イソアミルアルコール、tert-アミルアルコール、ネオペンチルアルコール、3-ペンタノール、2-メチル-1-ブタノール、3-メチル-2-ブタノール等が挙げられる。これらの中では、エタノールが環境および人体への安全性に優れるため好ましい。
【0045】
炭素数1~5の脂肪族アルコールの添加量は、熱可塑性樹脂1kgに対して、例えば0.01mol以上0.5mol以下であり、好ましくは0.03mol以上0.4mol以下であり、より好ましくは0.05mol以上0.25mol以下である。
【0046】
エーテル類としては、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、エチルメチルエーテル、ジ-n-ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテルなどが挙げられる。
【0047】
塩化アルキル類としては、例えば、蟻酸メチル、蟻酸エチル、蟻酸ブチルなどの蟻酸エステル類、塩化メチル、塩化エチル等が挙げられる。
【0048】
水の添加量は、熱可塑性樹脂1kgに対して、例えば0.05mol以上0.5mol以下であり、好ましくは0.1mol以上0.4mol以下であり、より好ましくは0.15mol以上0.25mol以下である。脂肪族飽和炭化水素とHFOと脂肪族アルコールと共に水を上記の範囲内で用いることにより、得られる押出発泡板の発泡倍率をさらに向上させて、見掛け密度を小さくすることが可能となる。
【0049】
物理理発泡剤の総添加量は、所望する見掛け密度との関連で適宜に選択されるが、熱可塑性樹脂1kgに対して、好ましくは0.8mol以上2mol以下であり、より好ましくは1mol以上1.5mol以下である。
【0050】
[難燃剤]
本発明の製造方法により得られる押出発泡板は、主として建材用の断熱材として使用されるものであり、難燃剤を熱可塑性樹脂に配合することにより難燃性が付与される。
【0051】
難燃剤は、特に限定されるものではないが、臭素系難燃剤が好ましい。臭素系難燃剤としては、臭素化ブタジエン-スチレン系共重合体等の臭素化ブタジエン系重合体、テトラブロモビスフェノール-A-ビス(2,3-ジブロモ-2-メチルプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノール-S-ビス(2,3-ジブロモ-2-メチルプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノール-F-ビス(2,3-ジブロモ-2-メチルプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノール-A-ビス(2,3-ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノール-S-ビス(2,3-ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノール-F-ビス(2,3-ジブロモプロピルエーテル)に代表される臭素化ビスフェノール化合物、トリス(2,3-ジブロモプロピル)イソシアヌレート、モノ(2,3,4-トリブロモブチル)イソシアヌレート、ジ(2,3,4-トリブロモブチル)イソシアヌレート、トリス(2,3,4-トリブロモブチル)イソシアヌレートに代表される臭素化イソシアヌレート等が挙げられる。これら臭素系難燃剤の1種又は2種以上を混合して使用することができる。
【0052】
臭素系難燃剤のほかに、クレジルジ2,6-キシレニルホスフェート、三酸化アンチモン、五酸化二アンチモン、硫酸アンモニウム、スズ酸亜鉛、シアヌル酸、ペンタブロモトルエン、イソシアヌル酸、トリアリルイソシアヌレート、メラミンシアヌレート、メラミン、メラム、メレム等の窒素含有環状化合物、シリコーン系化合物、酸化ホウ素、ホウ酸亜鉛、硫化亜鉛等の無機化合物、トリフェニルホスフェートに代表されるリン酸エステル系、赤リン系、ポリリン酸アンモニウム、フォスファゼン、次亜リン酸塩等のリン系化合物等を併用することができる。
【0053】
以上に例示した難燃剤の中でも、押出発泡板に高い難燃性を付与できることから、臭素化ブタジエン-スチレン系共重合体、テトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3-ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3-ジブロモ-2-メチルプロピルエーテル)、トリス(2,3-ジブロモプロピル)イソシアヌレートの1種又は2種以上を含む難燃剤を使用することが好ましい。また、これらの中でも、高い難燃性が付与でき、かつ押出時にポリスチレン系樹脂を分解させにくく、また、低見掛け密度(高発泡倍率)で、さらに大断面積の場合であっても、安定して押出発泡板を得ることが容易となることから、臭素化ブタジエン-スチレン系共重合体を含む難燃剤、または、テトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3-ジブロモプロピルエーテル)とテトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3-ジブロモ-2-メチルプロピルエーテル)とを併用した難燃剤を使用することがより好ましい。
【0054】
難燃剤の配合量は、押出発泡板に高い難燃性を付与できるとともに、押出発泡性の低下および機械的物性の低下を抑制することもできることから、熱可塑性樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上10質量部以下であり、より好ましくは1質量部以上8質量部以下であり、さらに好ましくは2質量部以上7質量部以下である。難燃剤の配合量が以上の範囲内であれば、難燃剤が発泡性を阻害することなく、難燃性が得られる押出発泡板を得ることができる。
【0055】
[難燃助剤]
本発明の製造方法においては、押出発泡板の難燃性をさらに向上させることを目的として、難燃助剤を上記難燃剤と併用することができる。難燃助剤としては、例えば2,3-ジメチル-2,3-ジフェニルブタン、2,3-ジエチル-2,3-ジフェニルブタン、3,4-ジメチル-3,4-ジフェニルヘキサン、3,4-ジエチル-3,4-ジフェニルヘキサン、2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン、2,4-ジフェニル-4-エチル-1-ペンテン等のジフェニルアルカンやジフェニルアルケン、ポリ-1,4-ジイソプロピルベンゼン等のポリアルキル化芳香族化合物等から選択される1種又は2種以上を例示することができる。
【0056】
難燃助剤の配合量は、樹脂混合物100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上1質量部以下であり、より好ましくは0.05質量部以上0.5質量部以下である。
【0057】
[輻射抑制剤]
本発明の製造方法においては、赤外線の輻射による伝熱を抑制することで断熱性を向上させるために、発泡性樹脂溶融組成物に輻射抑制剤を添加することができる。
【0058】
押出発泡板における輻射抑制剤の添加量は、押出発泡板の製造安定性に与える影響を抑えつつ、断熱性を良好にする観点からは、熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、例えば0.3質量部以上10質量部以下であり、好ましくは0.5質量部以上8質量部以下であり、より好ましくは1.2質量部以上5質量部以下である
【0059】
輻射抑制剤としては、例えばグラファイトを添加することができる。グラファイトとしては、鱗片状黒鉛、鱗状黒鉛、人造黒鉛、土状黒鉛等が挙げられ、主成分が鱗片状黒鉛であるものを用いることが好ましい。後述するように、グラファイトは、ポリスチレン系樹脂に高濃度で配合されたマスターバッチとして用いることが好ましい。マスターバッチを製造する際の作業性が良好であるとともに、得られる押出発泡板の断熱性向上効果が優れていることから、固定炭素分が90%以上のグラファイトが好ましい。押出発泡板の断熱性を更に高めるために、グラファイトとしては固定炭素分93%以上のものがより好ましく、95%以上のものが更に好ましい。なお、グラファイトの固定炭素分は、JIS M8511:2014記載の方法で測定した値をいう。
【0060】
グラファイトの添加量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、例えば0.3質量部以上10質量部以下である。グラファイトの添加量が上記の範囲内であると、断熱性が向上し、所望する低熱伝導率の押出発泡板を得ることができる。以上の観点から、グラファイトの添加量は、樹脂混合物100質量部に対して、好ましくは0.3質量部以上3質量部以下であることがより好ましく、より好ましくは0.4質量部以上2.5質量部以下であり、さらに好ましくは0.4質量部以上1質量部未満である。
【0061】
ここで、樹脂が混合物である場合には、グラファイトを添加すると気泡が微細化し、押出発泡板の製造が難しくなる傾向があった。それに対して、本発明に係る製造方法では、混合物が上述した特定のポリエチレンテレフタレート共重合体を含むことで発泡安定性に優れるため、グラファイトを含有していても安定して押出発泡板を製造することができるという利点がある。
【0062】
なお、断熱性をさらに向上させるために、発泡性樹脂溶融組成物にグラファイト以外の成分を輻射抑制剤として含んでもよい。
【0063】
グラファイト以外の成分としては、例えば、酸化チタン等の金属酸化物、アルミニウム等の金属、セラミック、カーボンブラック、赤外線遮蔽顔料、ハイドロタルサイト等から選択される1種又は2種以上を例示することができる。これらの各成分の添加量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.5質量部以上5質量部以下であることが好ましく、1質量部以上4質量部以下であることがより好ましい。
【0064】
[気泡調整剤]
本発明の製造方法においては、熱可塑性樹脂に気泡調整剤を配合して、発泡性樹脂溶融物を形成することが好ましい。
【0065】
気泡調整剤としては、タルク、カオリン、マイカ、シリカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、クレー、酸化アルミニウム、ベントナイト、ケイソウ土等の無機物粉末から1種又は2種以上を混合して使用することができる。これらの中でも、気泡径の調整が容易であるとともに、難燃性を阻害することなく気泡径を小さくし易いタルクが好適であり、特に50%粒径(光透過遠心沈降法)が0.1~20μmの細かいタルクが好ましく、0.5~15μmの細かいタルクが好ましい。
【0066】
気泡調整剤の添加量は、調整剤の種類、目的とする気泡径等によっても異なるが、気泡調整剤としてタルクを使用する場合、熱可塑性樹脂100質量部に対して、好ましくは0.02質量部以上7質量部以下であり、0.05質量部以上5質量部以下がより好ましく、0.1質量部以上3質量部以下がさらに好ましい。
【0067】
[熱安定剤]
熱安定剤は、押出発泡板を製造する際や押出発泡板の端材等をリサイクルしてリペレット化する際などに、原料や端材等に配合することにより臭素系難燃剤の熱安定性を向上させることができる。熱安定剤としては、例えば、DIC製EPICLONシリーズ等のビスフェノール型エポキシ系化合物やノボラック型エポキシ系化合物、n-オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]等のヒンダードフェノール系化合物、(ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトール-ジホスファイト)等のホスファイト系化合物から選択される1又は2以上の熱安定剤が挙げられる。
【0068】
本発明の製造方法において、難燃剤やその他の添加剤を熱可塑性樹脂に配合する方法としては、所定の割合の難燃剤やその他の添加剤を熱可塑性樹脂と共に押出機上流に設けられている供給部に供給し、押出機中にて混練する方法を採用することができる。その他、押出機途中に設けられた供給部より溶融樹脂中に難燃剤やその他の添加剤を供給する方法も採用することができる。具体的には、難燃剤、その他の添加剤および熱可塑性樹脂をドライブレンドしたものを押出機に供給して溶融混練する方法、難燃剤、その他の添加剤および熱可塑性樹脂をニーダー等により混練した溶融混練物を押出機に供給する方法、あらかじめ高濃度の難燃剤やその他の添加剤をポリスチレン系樹脂に配合したマスターバッチを作製し、これを押出機に供給して熱可塑性樹脂と溶融混練する方法等を採用することができ、特に分散性の観点から難燃剤マスターバッチを作製し、押出機に供給する方法を採用することが好ましい。
【0069】
本発明の製造方法においては、必要に応じて、熱可塑性樹脂に公知のその他の添加剤を適宜配合することができる。その他の添加剤としては、例えば、顔料または染料等の着色剤、熱安定剤、充填剤等の各種の添加剤を挙げることができる。その他の添加剤の合計配合量としては、熱可塑性樹脂100質量部に対して50質量部以下が好ましく、30質量部以下がより好ましい。
【0070】
本発明の製造方法の成形工程においては、上述した通り、熱可塑性樹脂、輻射抑制剤、難燃剤等の添加剤および物理発泡剤を溶融した発泡性樹脂溶融物を、大気圧下に押出し発泡させて成形具により板状に賦型することにより、押出発泡板を得ることができる。
【0071】
<押出発泡板の物性>
以下、本発明の製造方法により得られる押出発泡板について説明する。
【0072】
[断面積および寸法]
本発明に係る押出発泡板は、板状である。押出発泡板の押出方向垂直断面積は、100cm以上であることが好ましく、200cm以上であることがより好ましい。押出発泡板の押出方向垂直断面積の上限は、例えば1500cmである。押出方向垂直断面積とは、押出発泡板の押出方向と直交する断面の面積をいう。
【0073】
押出発泡板を断熱材として使用する場合には、押出発泡板の厚みは、10mm以上150mm以下であることが好ましく、15mm以上120mm以下であることがより好ましい。
【0074】
押出発泡板の幅は、800mm以上であることが好ましく、より好ましくは900mm以上である。押出発泡板の幅の上限は、例えば1200mmである。
【0075】
[見掛け密度]
押出発泡板の見掛け密度は、好ましくは20kg/m以上50kg/m以下であり、より好ましくは30kg/m以上45kg/m以下である。見掛け密度が上記の範囲内であると、十分な機械的強度を有するとともに、軽量性に優れ、例えば断熱材として好適に使用することができる。見掛け密度は、押出発泡板の質量を測定し、該質量を体積で割算することにより求められる。
【0076】
[独立気泡率]
押出発泡板の独立気泡率は、85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、93%以上であることがさらに好ましい。独立気泡率が上記の範囲内であると、長期断熱性および機械的強度に優れた押出発泡板とすることができる。
【0077】
押出発泡板の独立気泡率は、ASTM-D2856-70の手順Cに従って、東芝ベックマン株式会社の空気比較式比重計930型を使用して測定(押出発泡板から25mm×25mm×20mmのサイズに切断された成形表皮を持たないカットサンプルをサンプルカップ内に収容して測定する。ただし、厚みが薄く、厚み方向に20mmのカットサンプルが切り出せない場合には、例えば、25mm×25mm×10mmのサイズのカットサンプルを2枚同時にサンプルカップ内に収容して測定すればよい。)された押出発泡板(カットサンプル)の真の体積Vxを用い、下記(1)式により独立気泡率S(%)を計算し、N=3の平均値で求める。
【0078】
S(%)=(Vx-W/ρ)×100/(VA-W/ρ)・・・(1)
Vx:カットサンプルの真の体積(cm)(押出発泡板のカットサンプルを構成する樹脂の容積と、カットサンプル内の独立気泡部分の気泡全容積との和に相当する。)
VA:測定に使用されたカットサンプルの外寸から計算されたカットサンプルの見掛け上の体積(cm
W:測定に使用されたカットサンプル全重量(g)
ρ:押出発泡板を構成する樹脂の密度(g/cm
【0079】
[10%圧縮強さ]
圧縮強さは以下の方法により測定される。押出発泡板の幅方向の中央部より、押出方向に25mm、幅方向に25mm、厚み25mm(スキン層を除く)の直方体状となるように切り出す。この際、押出発泡板の幅方向中央部と試験片の幅方向中央部が一致するようにする。次にこの試験片に対し、圧縮速度を10%×Tmm/分(但し、Tは試験片の初期厚みである。)とし、JIS K7220:2006に基づいて変形率10%以内に到達した最大の力を求め、これを試験片の受圧面積で除して算出することにより圧縮強さを求める。上記操作を試験片の押出方向、幅方向、厚み方向のそれぞれについて行い、それらの算術平均値を10%圧縮強さとする。
【0080】
[熱伝導率]
(44日後)
押出発泡板における製造44日後における熱伝導率は、0.029W/m・K以下が好ましく、より好ましくは0.028W/m・K以下であり、さらに好ましくは0.025W/m・K以下である。
【0081】
(250日後)
押出発泡板における製造250日後における熱伝導率は、0.029W/m・K以下が好ましく、より好ましくは0.028W/m・K以下であり、さらに好ましくは0.027W/m・K以下である。
【0082】
押出発泡板の熱伝導率は、JIS A1412-2:1999記載の熱流計法(試験体1枚・対称構成方式、高温側38℃、低温側8℃、平均温度23℃)に基づいて測定することができる。
【実施例0083】
本発明を実施例とともに詳述する。ただし、本発明は実施例には限定されない。
【0084】
実施例および比較例について、以下の通り、押出発泡板を製造した。実施例および比較例では、表1に記載のポリエチレンテレフタレート共重合体と、表2に記載のポリスチレン系樹脂との混合物を熱可塑性樹脂として用いた。
【0085】
表1のポリエチレンテレフタレート共重合体と、表2のポリスチレン系樹脂とについて、空気透過係数と結晶性とガラス転移温度とを測定した。なお、表1の「TPA」はテレフタル酸であり、「IPA」はイソフタル酸であり、「EG」はエチレングリコールであり、「SPG」はスピログリコールであり、「CHDM」は1,4-シクロヘキサンジメタノールであり、「NPG」はネオペンチルグリコールである。
【0086】
空気透過係数[mol・m/(m2・s・Pa)]は、東洋精機株式会社製ガス透過率試験機BT-3を用いて、JIS K7126-1:2006 プラスチック-フィルム及びシート-ガス透過度試験方法-第1部:差圧法を使用して、23±2℃の温度条件で測定した。
【0087】
結晶性については、以下の通りに得られるDSC曲線の融解熱量[J/g]をそれぞれ測定した。融解熱量(条件1)は、ポリエチレンテレフタレート共重合体またはポリスチレン系樹脂を試験片とし、以下の<条件1>で得られたDSC曲線から融解熱量を求めた。なお、測定の終了温度について、融解ピークが検出された場合には、融解ピーク終了時よりも30℃高い温度まで加熱してDSC曲線を得た。一方、融解ピークが検出されなかった場合には250℃まで加熱し、250℃を終了温度としてDSC曲線を得た。
【0088】
<条件1>:ポリエチレンテレフタレート共重合体またはポスチレン系樹脂を試験片とし、該試験片を200℃にて15分保持した後、145℃にて4日間静置した後、JIS K7122-1987に基づく熱流束示差走査熱量測定を行い、加熱速度10℃/分にて加熱し、DSC曲線を得た。
【0089】
融解熱量(条件2)は、ポリエチレンテレフタレート共重合体またはポリスチレン系樹脂を試験片とし、以下の<条件2>で得られたDSC曲線から融解熱量を求めた。なお、測定の終了温度について、融解ピークが検出された場合には、融解ピーク終了時よりも30℃高い温度まで加熱してDSC曲線を得た。一方、融解ピークが検出されなかった場合には250℃まで加熱し、250℃を終了温度としてDSC曲線を得た。
【0090】
<条件2>:JIS K7122-1987に記載の「一定の熱処理を行った後、融解熱を測定する場合」(試験片の状態調節における加熱速度と冷却速度は、いずれも10℃/分とする。)を採用し、熱流束示差走査熱量測定装置を使用し、加熱速度10℃/分でDSC曲線を得た。
【0091】
ガラス転移温度[℃]は、JIS K7121(1987)に記載の「一定の熱処理を行った後、ガラス転移温度を測定する場合」(試験片の状態調節における加熱速度と冷却速度は、いずれも10℃/分とする。)を採用し、熱流束示差走査熱量測定装置(以下、DSC装置という。)を使用し、加熱速度10℃/分で得られるDSC曲線に基づいて測定される中間点ガラス転移温度を本発明におけるガラス転移温度とした。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
【0094】
表3に示す成分で押出発泡板を製造した。各成分の詳細は、以下の通りである。なお、ポリエチレンテレフタレート共重合体とポスチレン系樹脂とは、表1および表2の通りである。
【0095】
[難燃剤]
GR134BG:テトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3-ジブロモ-2-メチルプロピルエーテル)(第一工業製薬社製「SR-130」)、テトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3-ジブロモプロピルエーテル)(第一工業製薬社製「SR-720」)、GR134BG(SR-130/SR-720)=60/40(質量比)
[輻射抑制剤]
グラファイト:レジノカラー工業株式会社製、商品名;SBF-T-1683、鱗片状黒鉛粉末、平均粒径17μm
酸化チタン:テイカ(株)製「JR-405」、一次粒径(d50)=0.2μm[気泡調整剤]
タルク:松村産業株式会社製、製品名;ハイフィラー#12、粒子径(d50)7.5μm
[物理発泡剤]
i-Bu:イソブタン:三井化学社製
HFO-1233zd:1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(ハネウェル製、製品名「ソルスティス1233zd」)
DME:ジメチルエーテル:三菱ガス化学社製
エタノール:山一化学工業社製
【0096】
具体的には、表3に示す配合で、熱可塑性樹脂(ポリスチレン系樹脂+ポリエチレンテレフタレート共重合体)と、輻射抑制剤と、気泡調整剤と、難燃剤マスターバッチとを第1押出機に供給し、200℃まで加熱して混練し、第1押出機に設けられた物理発泡剤注入口から、表3に示す添加量で物理発泡剤を各発泡剤注入圧力で供給し、更に混練して発泡性樹脂溶融物を形成した。
【0097】
次に、得られた発泡性樹脂溶融物を第2押出機に移送して樹脂温度を調整した後、吐出量400kg/hrでガイダー内に押出し、発泡させながらガイダー内を通過させて板状に成形(賦形)した後、切削加工により長さを調整して押出発泡板(幅1000mm、長さ1820mm、厚み30mm、押出方向に直交する断面の面積:300cm)を製造した。
【0098】
実施例および比較例について、以下の通り、独立気泡率、見掛け密度、10%圧縮強さ、熱伝導率(44日後,250日後)、モルフォロジー、連続成形性、および、製品端部の結晶化状態を評価した。
【0099】
[独立気泡率]
押出発泡板の独立気泡率は、ASTM-D2856-70の手順Cに従って、東芝ベックマン株式会社の空気比較式比重計930型を使用して測定(押出発泡板から25mm×25mm×20mmのサイズに切断された成形表皮を持たないカットサンプルをサンプルカップ内に収容して測定した。ただし、厚みが薄く、厚み方向に20mmのカットサンプルが切り出せない場合には、例えば、25mm×25mm×10mmのサイズのカットサンプルを2枚同時にサンプルカップ内に収容して測定すればよい。)された押出発泡板(カットサンプル)の真の体積Vxを用い、下記(1)式により独立気泡率S(%)を計算し、N=3の平均値で求めた。
【0100】
S(%)=(Vx-W/ρ)×100/(VA-W/ρ)・・・(1)
Vx:カットサンプルの真の体積(cm)(押出発泡板のカットサンプルを構成する樹脂の容積と、カットサンプル内の独立気泡部分の気泡全容積との和に相当する。)
VA:測定に使用されたカットサンプルの外寸から計算されたカットサンプルの見掛け上の体積(cm
W:測定に使用されたカットサンプル全重量(g)
ρ:押出発泡板を構成する樹脂の密度(g/cm
【0101】
[見掛け密度]
発泡板の見掛け密度は次の方法で求めた。得られた発泡板を長さ方向に2等分する位置であり、かつ得られた発泡板の幅方向の中央部及び両端部付近から縦50mm×横50mm×厚み20mmの直方体の試料を各々切り出して質量を測定し、該質量を体積で割算することにより夫々の試料の見掛け密度を求め、それらの算術平均値を見掛け密度とした。
【0102】
[10%圧縮強さ]
圧縮強さは以下の方法により測定された値である。押出発泡板の幅方向の中央部より、押出方向に25mm、幅方向に25mm、厚み25mm(スキン層を除く)の直方体状となるように切り出した。この際、押出発泡板の幅方向中央部と試験片の幅方向中央部が一致するようにした。次にこの試験片に対し、圧縮速度を10%×Tmm/分(但し、Tは試験片の初期厚みである。)とし、JIS K7220:2006に基づいて変形率10%以内に到達した最大の力を求め、これを試験片の受圧面積で除して算出することにより求めた。上記操作を試験片の押出方向、幅方向、厚み方向のそれぞれについて行い、それらの算術平均値を10%圧縮強さとした。
【0103】
[熱伝導率]
押出発泡板の熱伝導率は、製造直後の押出発泡板から縦200mm×横200mm×10mmの表皮が存在しない試験片を切り出し、温度23℃、湿度50%の雰囲気下で保存した試験片について、JIS A1412-2:1999記載の平板熱流計法(熱流計2枚方式、高温側38℃、低温側8℃、平均温度23℃)に基づいて測定した。
【0104】
なお、製造後44日または250日経過後の熱伝導率の経過日数は、JIS A1486:2014に準拠し、熱抵抗の長期変化促進試験の試験方法Aを行った押出発泡板に対して熱伝導率の測定を行って得られた値である。具体的には、厚さ25mmの押出発泡板を厚さ10mmにスライスしたサンプルにより、製造後7日経過後に測定された熱伝導率は、押出発泡板の製造後44日経過後の熱伝導率に相当するとし、製造40日経過後に測定された熱伝導率は、押出発泡板の製造250日経過後に測定された熱伝導率に相当するとした。
【0105】
[モルフォロジー]
熱可塑性樹脂押出発泡体から超薄切片を作製し、走査型電子顕微鏡付属の透過電子検出装置にて気泡膜部断面におけるモルフォロジーを目視にて確認した。具体的には、まず、適当な大きさに切り出した押出発泡体をUV硬化性アクリレート系樹脂中に入れ包埋する。包埋後、ガラスナイフ等で厚み方向に垂直な面を切り出す。押出発泡体断面が露出した包埋樹脂片をガラス板上に固定する。0.2%RuO4水溶液数mlを入れた三角フラスコの開口を包埋樹脂片を固定したガラス板で包埋樹脂片が三角フラスコ内になるように塞ぎ、室温で密閉する。発生するRuO4蒸気に暴露させて15分間電子染色する。ダイヤモンドナイフ等で押出発泡体断面が露出した包埋樹脂片から厚さ約0.1μmの発泡体の超薄切片を切り出す。電子染色された発泡体の超薄切片を、走査型電子顕微鏡付属の透過電子検出装置を用いて撮影し
た。撮影した電子顕微鏡写真においてポリスチレン系樹脂の部分が白く、ポリエチレンテレフタレート共重合体の部分が黒く観察される。
【0106】
電子顕微鏡による観察条件は、以下の通りである。
走査型電子顕微鏡:株式会社日立ハイテク製電界放出型走査電子顕微鏡「SU8220」
加速電圧:30kV
電子染色:四酸化ルテニウム
拡大倍率:5000倍
【0107】
そして、ポリエチレンテレフタレート共重合体の分散状態(モルフォロジー)を以下の基準で評価した。
◎:ポリエチレンテレフタレート共重合体が気泡膜全体に分散相を形成している。
○:ポリエチレンテレフタレート共重合体が気泡膜の大部分に分散相を形成しているが、一部に粒状部分が見られる。
△:ポリエチレンテレフタレート共重合体が粒状に偏在している。
【0108】
[連続成形性]
連続成形性は、目視にて以下の基準で評価した。
◎:発泡状態が極めて良好であり、連続成形しても幅方向端部に引っ掛かりがない押出発泡板成形板を安定して成形可能であった。
〇:発泡状態は良好であるが、連続成形時に押出発泡板の幅方向端部に引っ掛かりが稀に発生した。
△:発泡状態がやや不安定であり、連続成形時に押出発泡板の幅方向端部に引っ掛かりが散見された。
×:発泡状態が不安定であり、押出発泡板の幅方向端部に引っ掛かりが多発し、連続成形ができなかった。
【0109】
[結晶化状態]
押出発泡板端部におけるポリエチレンテレフタレート共重合体の結晶化の程度を、押出発泡板の融解熱量を測定することで評価した。押出発泡板の融解熱量[J/g]は、スキン層を含む押出発泡板の幅方向端部から無作為に3~5mgの試験片を削り出し、JIS K7122-1987に基づく熱流束示差走査熱量測定を行い、加熱速度10℃/分にて30℃から250℃まで加熱し、得られたDSC曲線の融解ピーク面積と試料重量より算出した。
【0110】
【表3】
【0111】
表3から把握される通り、実施例1~5では、比較例1~4と比較して、熱伝導率も低く、連続性成形性に優れていた。
【0112】
【表4】
【0113】
表4から把握される通り、実施例6では、ポリエチレンテレフタレート共重合体としてバイロン270(密度1260kg/m,空気透過係数1.3×10-17[mol・m/(m・s・Pa)]、融解熱量<条件1>,<条件2>いずれも0J/g、ガラス転移温度68℃)を30質量%用いた以外は実施例2と同様にして押出発泡板を得た。バイロン270は、東洋紡から市販されている樹脂であり、ジカルボン酸成分が(テレフタル酸/イソフタル酸)であり、ジオール成分が(エチレングリコール/ネオペンチルグリコール)であることが知られている。上記の結果から、ジオール成分としてネオペンチルグリコールが用いられている場合であっても、本発明の効果が得られることが確認できた。
【0114】
図1図2および図3には、実施例2、比較例2および比較例4について、モルフォロジーの評価のために撮影した電子顕微鏡写真をそれぞれ示す。実施例2では、ポリエチレンテレフタレート共重合体(黒色部分)が断面の全体にわたり分散していて、かつ、層状に分散していた。以上のようにポリエチレンテレフタレート共重合体が分散することで、熱伝導率が低く、断熱性に優れる押出発泡板が得られたといえる。一方で、比較例2では、実施例2と比較して、ポリエチレンテレフタレート共重合体が気泡膜の大部分に分散相を形成しているものの、一部に粒状部分が見られた。また、比較例4では、ポリエチレンテレフタレート共重合体(黒色部分)が粒状に局在化していて、層状にも分散していなかった。
【0115】
以上の説明の通り、本発明では、特定のポリエチレンテレフタレート共重合体をポリスチレン系樹脂と併用することで、熱伝導率も低く、連続性成形性に優れた押出発泡板が製造できる。
【0116】
次に、ポリスチレン系樹脂として回収原料も用いて、実施例7および比較例5に係る押出発泡板を製造した。回収原料(回収PS)は、密度1050kg/m、条件1における融解熱量0J/g、ガラス転移温度が96℃のポリスチレン系樹脂を使用した。なお、HP600/回収PS=30/70の樹脂のガラス転移温度は98℃であった。
【0117】
【表5】
【0118】
比較例5では、回収原料(回収PS)を使用し、ポリエチレンテレフタレート共重合体の分散状態に劣り、押出発泡板が安定して製造しにくく、連続成形性が低下していた。それに対して、実施例7では、回収原料(回収PS)を用いているにも関わらず、特定のポリエチレンテレフタレート共重合体を用いたことにより、ポリエチレンテレフタレート共重合体の分散状態に優れ、連続成形性が良好であり、安定して押出発泡板が得られた。
図1
図2
図3