(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162315
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20241114BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20241114BHJP
B62D 113/00 20060101ALN20241114BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D101:00
B62D113:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023077695
(22)【出願日】2023-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原 雅人
【テーマコード(参考)】
3D232
【Fターム(参考)】
3D232CC08
3D232CC20
3D232DA03
3D232DA04
3D232DA10
3D232DA15
3D232DA23
3D232DA84
3D232DA87
3D232DA90
3D232DB11
3D232DC02
3D232DC08
3D232DC38
3D232DD01
3D232DD02
3D232DD06
3D232DD15
3D232DD17
3D232DE05
3D232DE14
3D232EA01
3D232EB04
3D232EC34
3D232GG01
(57)【要約】
【課題】ステアリング制御における、舵の切り返し応答遅れを短縮するとともに、操舵フィーリングを向上させることができる車両の制御装置を提供する。
【解決手段】車両の制御装置1は、電動パワーステアリング2のステアリング制御において、舵の切り返しが判定成立した直後を含む所定期間をフェーズ1とし、フェーズ1には含まれない転舵が実行されている期間をフェーズ2とした場合に、現在位置から目標位置への追従の重み付けを、フェーズ2よりもフェーズ1の方を大きくする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵を補助する、トルク制御可能な電動パワーステアリングと、
現在走行中の車線における車両の現在位置を取得する現在位置取得部と、
前記車両が前記車線を維持する目標位置を走行するよう前記現在位置から前記目標位置へ前記電動パワーステアリングのステアリング制御を行う目標位置制御部と、を備え、
前記ステアリング制御において、舵の切り返しが判定成立した直後を含む所定期間をフェーズ1とし、前記フェーズ1には含まれない転舵が実行されている期間をフェーズ2とした場合に、前記現在位置から前記目標位置への追従の重み付けは、前記フェーズ2よりも前記フェーズ1の方が大きい、車両の制御装置。
【請求項2】
実舵角を検出する角度センサーを備え、
前記目標位置制御部は、前記ステアリング制御を行うための目標舵角を演算し、前記電動パワーステアリングに前記目標舵角となるようにトルク制御を行わせ、
前記ステアリング制御は、フィードバック制御であり、
前記重み付けは、前記フィードバック制御における前記目標舵角と前記実舵角との差分による請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記フェーズ1における前記重み付けは、舵角速度が速いほど大きくなる請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記フェーズ1は、前記目標舵角の左方向から右方向への切り返しが判定成立してから、前記実舵角の左方向から右方向への切り返しが判定成立するまでの期間、および、前記目標舵角の右方向から左方向への切り返しが判定成立してから、前記実舵角の右方向から左方向への切り返しが判定成立するまでの期間の少なくともいずれか一方とする請求項2に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記フェーズ1は、舵角速度が速いほど長く、前記目標舵角の左方向から右方向への切り返しが判定成立してから、前記実舵角の左方向から右方向への切り返しが判定成立するまでの期間以下、および、前記目標舵角の右方向から左方向への切り返しが判定成立してから、前記実舵角の右方向から左方向への切り返しが判定成立するまでの期間以下の少なくともいずれか一方とする請求項2に記載の車両の制御装置。
【請求項6】
前記フェーズ2における前記重み付けは、右方向への転舵時と左方向への転舵時とで、それぞれ異なる請求項2に記載の車両の制御装置。
【請求項7】
前記フェーズ2における前記重み付けは、前記目標舵角と前記実舵角との差分から、所定比率を算出して決定される請求項6に記載の車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ステアリングホイールに加えられたトルク等に応じてステアリング機構に与えるべき操舵補助力を電動モーターから発生させる電動パワーステアリング装置が知られている。この電動パワーステアリング装置は、電動モーターを駆動制御するモーター制御手段と、電動モーターに電力を供給する電源の電圧を検出する電源電圧検出手段と、電源電圧検出手段によって検出される電源の電圧に基づいて、モーター制御手段による電動モーターの制御ゲインを変更する制御ゲイン変更手段と、を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
運転者の負担軽減や安全運転支援のために、運転者が行っていた認知、判断、操作を部分的に車両が代替して、半自動化する種々の運転支援機能が実用化されている。運転支援機能は、例えば、アダプティブクルーズコントロール(Adaptive Cruise Control、ACC)やレーンキーピングアシスト(Lane Keeping Assist、LKA)である。
【0005】
LKAは、車両を目標位置となるように舵角を自動制御するシステムである。このシステムは、実舵角が目標舵角になるように電動パワーステアリングのモータートルクを制御する。モータートルクは操舵トルクとも呼ばれる。つまり、舵角を自動制御するシステムは、舵角に応じて操作量としての操舵トルクを決定する。
【0006】
ところで、左方向から右方向への舵の切り返し、または右方向から左方向への舵の切り返しが行われる場合、舵の切り返しが行われる直前と直後とで、舵角自体は、実質的に変化を生じない。なお、左方向から右方向への舵の切り返し、および右方向から左方向への舵の切り返しを、以下、単に「舵の切り返し」と称する場合がある。
【0007】
一方、電動パワーステアリングの操舵トルクは、左右反転されることから、大きく変わることになる。しかも、一般的に、ステアリングは、粘性減衰や摩擦に起因するヒステリシスを有している。すなわち、舵の切り返しが行われるときには、ステアリングのヒステリシスを乗り越えるための操舵トルクが必要となる。
【0008】
したがって、舵角を自動制御するシステムにおいて、舵の切り返しが行われた直後、操舵トルクが不足する虞がある。操舵トルクの不足は、目標舵角に対する実舵角の追従を遅れさせる。さらに言えば、この追従の遅れに起因して、ステアリングホイールを保舵する運転者の操舵フィーリングに影響を与える虞もある。
【0009】
そこで、本発明は、ステアリング制御における、舵の切り返し応答遅れを短縮するとともに、操舵フィーリングを向上させることができる車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の課題を解決するため本発明の実施形態に係る車両の制御装置は、操舵を補助する、トルク制御可能な電動パワーステアリングと、現在走行中の車線における車両の現在位置を取得する現在位置取得部と、前記車両が前記車線を維持する目標位置を走行するよう前記現在位置から前記目標位置へ前記電動パワーステアリングのステアリング制御を行う目標位置制御部と、を備え、前記ステアリング制御において、舵の切り返しが判定成立した直後を含む所定期間をフェーズ1とし、前記フェーズ1には含まれない転舵が実行されている期間をフェーズ2とした場合に、前記現在位置から前記目標位置への追従の重み付けは、前記フェーズ2よりも前記フェーズ1の方が大きい。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、ステアリング制御における、舵の切り返し応答遅れを短縮するとともに、操舵フィーリングを向上させることができる車両の制御装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態に係る車両の制御装置の全体的な構成の一例を示す概略図。
【
図2】本発明の実施形態に係る車両の制御装置における、時間と目標舵角および実舵角との関係の一例を示す図。
【
図3】本発明の実施形態に係る車両の制御装置における、目標舵角と操舵トルクとの関係の一例を示す図。
【
図4】本発明の実施形態に係る車両の制御装置における、異なる舵角速度での目標舵角と操舵トルクとの関係の一例を示す図。
【
図5】本発明の実施形態に係る車両の制御装置における、目標位置制御部の重み付け設定を伴う操作量を決定するためのフローを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本実施形態に係る車両の制御装置について、
図1から
図5を参照して説明する。
【0014】
また、以下では、本実施形態に係る車両の制御装置が、運転支援機能を有する車両に適用された実施形態について説明する。ここで言う運転支援機能とは、少なくとも、自動的に車両の操舵、換言すると車両の横方向位置(左右方向位置)を制御して運転制御を実行する機能である。例えば、LKAが挙げられる。さらに、自動的に車両の操舵または速度の双方を制御して運転制御を実行するACC等の運転支援機能が併用されても良い。また、このとき、通常、運転者は、ステアリングホイールを保舵するのみで、積極的な操舵介入を行わないものとする。
【0015】
また、本実施形態に係る車両の制御装置は、車両の種類として、エンジン自動車のみならず、電気自動車、ハイブリッド自動車、燃料電池車等の車両に適用することも可能である。
【0016】
図1は、本発明の実施形態に係る車両の制御装置の全体的な構成の一例を示す概略図である。
【0017】
図1に示すように、本実施形態に係る車両の制御装置1は、操舵を補助する、トルク制御可能な電動パワーステアリング2と、現在走行中の車線における車両の現在位置を取得する現在位置取得部4と、車両が車線を維持する目標位置を走行するよう現在位置から目標位置へ電動パワーステアリング2のステアリング制御を行う目標位置制御部6と、を備えている。電動パワーステアリング2と、現在位置取得部4と、目標位置制御部6とは、車内ネットワーク8を介して情報交換可能に接続される。車内ネットワーク8は、通信プロトコルに例えば、CAN(Controller Area Network)を用いるバス型ネットワークである。
【0018】
電動パワーステアリング(Electric Power Steering、以下、「EPS」)2は、車両の操舵輪、もっぱら前輪(図示省略)を操舵するトルク、つまり、操舵トルクを生成して、操舵を実行する。EPS2は、操舵トルクを発生させるためのモーター10と、操舵輪の実舵角を検出するための角度センサー12と、モーター10をトルク制御するためのEPS制御部14と、を備えている。
【0019】
モーター10は、例えば、車両のステアリングのラックアンドピニオン機構(図示省略)に力を作用させて車両の操舵輪の向き、換言すると操舵輪の切れ角を変更する。なお、切れ角は、操舵輪の回転中心線に直交する回転面と車両の前後方向とがなす角度である。また、本実施形態に係る車両の制御装置1は、ステアリングの種類として、ラックアンドピニオン方式に限らず、サーキュレーティングボール方式等の他の方式に対しても適用可能である。
【0020】
角度センサー12は、操舵輪の切れ角の方向と大きさとを実舵角として検出する。
【0021】
EPS制御部14は、目標位置制御部6からの操作量としての操舵トルクを表す指令信号に基づいてモーター10が必要な操舵トルクを出力するように、モーター10に対する電流指令値(以下、「モーター電流指令値」と称する。)を算出する。EPS制御部14は、このモーター電流指令値に基づいて駆動回路(図示省略)を介してモーター10を駆動する。
【0022】
現在位置取得部4は、例えば、カメラ16である。カメラ16は、車両前方を撮像する。カメラ16は、撮像した画像から道路の区画線を認識して、現在走行中の車線の位置(現在位置情報)を検出する画像処理部(図示省略)を備えている。カメラ16は、例えば、CCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等の固体撮像素子を利用したデジタルカメラである。カメラ16は、前方を撮像するために、フロントガラス、ルームミラー裏面、または車体の前頭部等に取り付けられる。
【0023】
現在位置取得部4は、カメラ16に代えて、またはカメラ16に加えて、高精度な位置情報の取得が可能な全球測位衛星システム(Global Navigation Satelite System、以下「GNSS」)18と、GNSS18の測位精度にあわせた経緯および経度情報を有する高精度な地図情報20と、を備えていても良い。GNSS18は、高精度な位置情報、例えば、精度にして±数センチメートル(cm)以内の位置情報を取得する観点から、相対測位方式であることが好ましく、リアルタイムキネマティク(Real Time Kinematic、RTK)測位方式であることがより好ましい。現在位置取得部4は、GNSS18と地図情報20を用いることで、現在走行中の車線における車両の位置情報(現在位置情報)を取得する。
【0024】
目標位置制御部6は、現在位置取得部4から入力される車両の現在位置情報に基づいて車両の横方向位置を目標位置に追従させる、EPS2のステアリング制御を行う。目標位置制御部6は、具体的には、現在位置から目標位置に追従するようにステアリング制御を行うために必要な操舵トルクを演算し、得られた操舵トルクを指令信号として、EPS制御部14へ出力する。目標位置は、例えば車両の走行車線における左右の中心線であって、ステアリング制御の追従対象である。このステアリング制御は、「車線維持制御」または「車線逸脱抑制制御」とも呼ばれる。
【0025】
また、目標位置制御部6は、操舵トルクを演算するために必要な目標舵角を演算する目標舵角演算部22と、舵の切り返し判定部(以下、単に、「切り返し判定部」と称する。)24、重み付け設定部26と、を備えている。なお、目標位置制御部6は、カメラ16に代わって、前述の画像処理部をさらに備えていても良い。
【0026】
また、EPS2、現在位置取得部4、および目標位置制御部6は、それぞれCPU等のプロセッサー、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)およびHDD(Hard Disk Drive)等の記憶装置、を備えたコンピューターとして構成することができる。この場合、例えば、目標位置制御部6、目標舵角演算部22、切り返し判定部24、重み付け設定部26の機能は、記憶装置に格納された所定のプログラムをプロセッサーが実行することによって実現することができる。また、このようなソフトウェア処理に換えて、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field-Programmable Gate Array)等のハードウェアーで実現することもできる。
【0027】
なお、目標位置制御部6およびその各構成のうち、一部または全てを、EPS2に統合し、または現在位置取得部4に統合して、単一のコンピューターとして実現しても良い。この場合、例えば、EPS2は、目標位置制御部6から操舵トルクではなく目標舵角を表す指令信号を受け取り、目標位置制御部6に代わって現在位置から目標位置に追従するようにステアリング制御を行うための操舵トルクの演算を行っても良い。また、例えば、EPS2は、目標位置制御部6に代わって現在位置取得部4から現在位置情報を受け取り、現在位置から目標位置に追従するようにステアリング制御を行うための操舵トルクの演算を行っても良い。
【0028】
目標舵角演算部22は、EPS2のステアリング制御を行うために、目標位置と車両の現在位置に基づいて目標舵角を演算し求める。目標舵角の演算方法は、当技術分野において公知の各種方法を用いることができる。目標舵角演算部22は、求めた目標舵角を目標位置制御部6に通知する。目標位置制御部6は、目標舵角演算部22から通知された目標舵角と、角度センサー12から入力される実舵角に基づいて、目標舵角を得るための操舵トルク(以下、「目標操舵トルク」と表記する。)を所定の演算周期にて演算する。目標位置制御部6は、演算して得られた目標操舵トルクを指令信号としてEPS2のEPS制御部14へ出力する。そして、目標位置制御部6は、EPS制御部14を用いてモーター10で目標操舵トルクを発生させる。つまり、目標位置制御部6は、EPS2に目標舵角となるようにトルク制御を行わせる。
【0029】
また、目標位置制御部6によって実行される、EPS2のステアリング制御は、通常、フィードバック制御である。EPS2のステアリング制御がフィードバック制御である場合、例えば、目標値は目標舵角であり、操作量である入力は目標操舵トルクを表す指令信号、制御対象はEPS2、具体的にはモーター10、出力は角度センサー12によって測定される実舵角である。フィードバック制御のアルゴリズムは、公知の種々のアルゴリズムを適用可能であるが、簡易な制御則であって取扱が容易なことから、EPS2のステアリング制御は、PID制御であることが好ましい。
【0030】
切り返し判定部24は、目標舵角演算部22から入力される目標舵角と角度センサー12から入力される実舵角から、舵の切り返しを判定する。切り返し判定部24は、目標舵角の極値が検出された場合には、目標舵角の切り返しが発生したと判定する。切り返し判定部24は、実舵角の極値が検出された場合には、実舵角における舵の切り返しが発生したと判定する。切り返し判定部24は、舵角の右方向から左方向への、または左方向から右方向へのどちらの切り返しであるかを、目標舵角および実舵角のそれぞれに対して判定する。目標位置制御部6は、切り返し判定部24による判定結果を読み込んで、舵の切り返し状態を判断する。
【0031】
図2は、本発明の実施形態に係る車両の制御装置における、時間と目標舵角および実舵角との関係の一例を示す図である。
【0032】
図2において、横軸は時間を示し、縦軸は操舵角を示している。操舵角は、左方向への回転角を正の値とし、右方向への回転角を負の値とする。
図2に示すように、EPS2のステアリング制御では、車両の走行中に車両の横方向位置を目標位置に追従させるために切り返しを含む転舵が時々刻々と実施される。
【0033】
ここで、舵の切り返しが判定された直後を含む、切り返し判定成立から所定期間をフェーズ1とし、フェーズ1には含まれない転舵が実行されている期間をフェーズ2とする。また、転舵とは、運転者による舵輪であるステアリングホイールの操作を伴わない車線維持制御や車線逸脱抑制制御の制御下における車両の進路変更を意味する。
【0034】
なお、舵の切り返しが判定成立したとは、目標舵角の左方向から右方向への切り返しが判定成立した、または目標舵角の右方向から左方向への切り返しが判定成立したことを意味する。
【0035】
車線維持制御や車線逸脱抑制制御において、通常、舵の切り返しが行われる直前、つまりフェーズ1の直前には、目標位置に対して現在位置は近接している状態であり、現在位置から目標位置への追従は、概ね達成されている状態となる。つまり、電動パワーステアリングのステアリング制御において、現在位置から目標位置へ追従するために必要とされる操舵トルクは小さくて良い。
【0036】
一方、ステアリングは、粘性減衰や摩擦に起因するヒステリシスを有している。そのため、舵の切り返しが行われるとき、つまりフェーズ1には、ステアリングのヒステリシスを乗り越えるためには、大きな操舵トルクが必要とされる。
【0037】
仮に舵の切り返しが行われた直後、つまりフェーズ1で操舵トルクが不足すると、その後の転舵において、目標位置と現在位置との差が大きくなってしまう。目標位置と現在位置との差が大きくなると、現在位置から目標位置への追従が大きく遅れることになる。
【0038】
そこで、目標位置制御部6は、現在位置から目標位置への追従の重み付けを、フェーズ2よりもフェーズ1の方を大きくする。つまり、目標位置制御部6は、フェーズ1において、フェーズ2よりも現在位置から目標位置への追従の重み付けを大きくすることで、舵の切り返しの際に、目標位置に対して現在位置が近接している場合であっても、EPS2のステアリング制御において、操舵トルクを大きくする。この現在位置から目標位置への追従の重み付けの設定は、重み付け設定部26で実行される。なお、現在位置から目標位置への追従の重み付けを、以下、単に「重み付け」と称する場合がある。
【0039】
重み付け設定部26は、目標位置制御部6がEPS2のステアリング制御を行う際に、車両の現在位置から目標位置への追従の重み付けを設定する。追従の重み付けは、役割の一つとして、操舵トルクを大きくして、車両の目標位置と現在位置との差が過度に大きくなるのを抑制する。
【0040】
重み付け設定部26は、具体的には、フェーズ1およびフェーズ2における重み付けを設定する。また、重み付け設定部26は、重み付けを設定する期間、つまり、フェーズ1およびフェーズ2の期間を、目標舵角、実舵角、および、切り返し判定部24の判定結果をもとに設定する。目標位置制御部6は、目標操舵トルクを所定の演算周期にて演算する際に、都度、重み付け設定部26で設定された重み付けを読み込んで、目標操舵トルクを算出する。したがって、目標位置制御部6は、追従の重み付けを、フェーズ1およびフェーズ2で適切に変えて設定することで、EPS2のステアリング制御において、所望の目標操舵トルクを得ることができる。
【0041】
図3は、本発明の実施形態に係る車両の制御装置における、目標舵角と操舵トルクとの関係の一例を示す図である。
【0042】
図3において、横軸は、EPS2のトルク制御における目標舵角を示し、縦軸は、目標舵角を実現するために必要な操舵トルクを示している。目標舵角は、左方向への回転角を正の値とし、右方向への回転角を負の値とする。操舵トルクは、左方向へ回転させるトルクを正の値とし、右方向へ回転させるトルクを負の値とする。
【0043】
図3に示すように、図中の矢印に沿って、舵が左方向から右方向へと切り返されるフェーズ1では、目標舵角は実質的にθ1で変わらないにもかかわらず、操舵トルクは正の値Tpから負の値Tnへと反転して急激に変化する。そのため、EPS2のステアリング制御における現在位置から目標位置への追従の遅れを低減するためには、フェーズ1における操舵トルクを大きくする必要がある。本実施形態に係る車両の制御装置1は、EPS2のステアリング制御のフェーズ1において、重み付けを大きくして、追従に必要な操舵トルクを増加させることで、現在位置から目標位置への遅れを低減する。
【0044】
目標位置制御部6は、目標操舵トルクを所定の演算周期にて演算する際に、重み付け設定部26で設定した重み付けを使用する。この重み付けは、フィードバック制御における目標舵角と実舵角との差分によっても良い。つまり、重み付けは、フィードバック制御における目標舵角と実舵角との差分に対して適用されても良く、フィードバック制御における目標舵角と実舵角との差分に対応した操舵トルクに対して適用されても良い。目標位置制御部6は、例えば、目標舵角と実舵角との差分と操舵トルクとの関係を規定したルックアップテーブルを予め記憶しておく。目標位置制御部6は、目標舵角と実舵角との差分に対して重み付けして得られた差分に対応する操舵トルクを、このテーブルを参照して得て、目標操舵トルクとする。または、目標位置制御部6は、このテーブルを参照して、目標舵角と実舵角との差分に対応する操舵トルクを得て、この操舵トルクに対して重み付けしたトルクを目標操舵トルクとする。
【0045】
また、本発明の実施形態に係る車両の制御装置1において、重み付けは、目標操舵トルクを増減および維持させる働きをする。したがって、例えば、EPS2のステアリング制御をPID制御により実行する場合、重み付けは、PID制御の比例項、積分項、微分項のそれぞれのゲイン係数Kp、Ki、Kdに掛ける重み付け係数wp、wi、wd、またはそれぞれのゲイン係数そのものとして規定しても良い。
【0046】
1例として、フェーズ1で、フェーズ2よりも追従の重み付けを大きくするとは、重み付け係数wp、wi、wdのうち、比例項に掛ける重み付け係数wpのみをフェーズ1で、フェーズ2よりも大きくすると考えても良い。また、この1例に限らず、重み付け係数wp、wi、wdのそれぞれの大小関係から、wi、wdを調整することで、wpが同じ、もしくは、小さくなっても、フェーズ2よりもフェーズ1において、重み付けを増加させて、制御対象に対する入力としての指令信号を増加させても良い。
【0047】
また、重み付けは、例えば、PID制御器にて演算された操作量に加算する補正操作量として規定しても良い。また、重み付けは、PID制御における重み付け係数、ゲイン係数、および補正操作量から2つ以上を組み合わせたものであっても良い。なお、突発的な外乱やノイズによって、目標舵角と実舵角との差分が著しく大きくなり、操作量が過度に大きくなる場合がある。この場合、目標位置制御部6は、EPS2に対する過剰な指令信号の入力を避けるために、通常、リミッター機能を備えている。このリミッター機能は、指令信号を、下限値以上、上限値以下にして、操舵角の急変を抑制する。
【0048】
図4は、本発明の実施形態に係る車両の制御装置における、異なる舵角速度での操舵角と操舵トルクとの関係の一例を示す図である。なお、
図4において、横軸と縦軸、および、目標舵角と操舵トルクは、
図3と同様に定義することができる。
【0049】
図4に示すように、舵角速度が速いほど、所定の操舵角を実現するために必要とされる操舵トルクは大きくなる(
図4中の斜線部分)。例えば、目標舵角θ1で、左方向から右方向への切り返しが発生したときに、舵角速度が小さい場合のトルク差D1に対して、舵角速度が大きい場合のトルク差D2は大きくなる。そのため、舵の切り返しが判定成立した直後を含む所定期間であるフェーズ1では、舵角速度が速いほど、操舵角を実現するために必要とされる操舵トルクは大きくなる。そこで、フェーズ1における重み付けは、舵角速度が速いほど大きくても良い。重み付け設定部26は、フェーズ1において、舵角速度が速いほど重み付けを大きくする。そうすることで、目標位置制御部6は、舵角速度の速さに応じて操舵トルクを大きくすることができる。なお、舵角速度は、目標舵角演算部22で得られた目標舵角を時間で微分した値である。
【0050】
フェーズ1における重み付けは、例えば、車両の制御装置1の適用対象である車両を対象とした事前検証により定められた適合値、または設計値である。つまり、フェーズ1における重み付けは、車両の特性、特にステアリングのヒステリシス特性を考慮した値である。一方、フェーズ2における重み付けは、例えば、適合値、または設計値を初期値としつつ、ステアリング制御の実行を通して蓄積された制御履歴、例えば、目標舵角と実舵角との差分に基づく学習を通じて変化する学習値である。また、フェーズ1における重み付けは、同一のフェーズ1の期間中、舵角速度が変わらない限り維持される。一方、フェーズ2における重み付けは、同一のフェーズ2の期間中であっても、学習によって変更される場合がある。
【0051】
次に、重み付けを設定する期間、つまり、フェーズ1およびフェーズ2についてさらに詳細に説明する。
【0052】
図2に戻って、フェーズ1は、目標舵角の左方向から右方向への切り返しが判定成立してから、実舵角の左方向から右方向への切り返しが判定成立するまでの期間、および、目標舵角の右方向から左方向への切り返しが判定成立してから、実舵角の右方向から左方向への切り返しが判定成立するまでの期間の少なくともいずれか一方としても良い。この場合、フェーズ2は、実舵角の左方向から右方向への切り返しが判定成立してから、目標舵角の右方向から左方向への切り返しが判定成立するまで、および、実舵角の右方向から左方向への切り返しが判定成立してから、目標舵角の左方向から右方向への切り返しが判定成立するまでの期間の少なくともいずれか一方である。フェーズ1の期間を具体的に規定することによって、フェーズ1以外の期間、つまり、フェーズ2において、大きな重み付けが維持されることがなくなる。したがって、目標位置制御部6は、フェーズ2において、過度な操舵トルクが発生するのを抑制する。なお、フェーズ1の後に、フェーズ2が続くことになる。そのため、フェーズ1が、目標舵角の左方向から右方向への切り返しが判定成立してから、実舵角の左方向から右方向への切り返しが判定成立するまでの期間の場合には、それに対応して、続くフェーズ2は、実舵角の左方向から右方向への切り返しが判定成立してから、目標舵角の右方向から左方向への切り返しが判定成立するまでの期間となる。
【0053】
また、フェーズ1は、舵角速度が速いほど長く、目標舵角の左方向から右方向への切り返しが判定成立してから、実舵角の左方向から右方向への切り返しが判定成立するまでの期間以下、および、目標舵角の右方向から左方向への切り返しが判定成立してから、実舵角の右方向から左方向への切り返しが判定成立するまでの期間以下の少なくともいずれか一方としても良い。
図4に示した通り、フェーズ1では、舵角速度が速いほど、EPS2のステアリング制御において、所定の目標舵角を実現するために必要とされる操舵トルクは大きくなる。舵角速度が速いほど重み付けを大きくしない場合、フェーズ1でフェーズ2よりも大きくした重み付けの効果、つまり、目標舵角に対する実舵角の追従性の向上に時間がかかる。そこで、重み付け設定部26は、舵角速度が速いほど重み付けを大きくするかわりに、舵角速度が速いほど重み付けを維持する期間を長くする。そうすることで、目標位置制御部6は、目標舵角に対する実舵角の追従性を向上させるための操舵トルクをEPS2に発揮させる。
【0054】
また、目標舵角の切り返しが判定成立してから実舵角の切り返しが判定成立するよりも前に、フェーズ1が終了してフェーズ2に移行し、重み付けが小さくなったとしても、重み付けの変化は、直ちに目標舵角に対する実舵角の追従性には反映されない。そこで、重み付け設定部26は、フェーズ1を、目標舵角の切り返しが判定成立してから実舵角の切り返しが判定成立するまでの期間以下、例えば、実舵角の切り返しが判定成立するよりも前の期間とする。そうすることで、目標位置制御部6は、より適したタイミングで適した重み付けによる操舵トルクをEPS2に発揮させる。
【0055】
また、
図2に示すように、フェーズ1は、さらに、目標舵角の左方向から右方向への切り返しが判定成立した直後を含む所定期間であるフェーズ1aと、目標舵角の右方向から左方向への切り返しが判定成立した直後を含む所定期間であるフェーズ1bと、を含んでいる。そして、重み付けは、フェーズ1aとフェーズ1bとで、それぞれ異なっていても良い。つまり、フェーズ1における重み付けは、目標舵角の左方向から右方向への切り返しが判定成立した直後を含む所定期間と、目標舵角の右方向から左方向への切り返しが判定成立した直後を含む所定期間とで、それぞれ異なっていても良い。例えば、フェーズ1aにおける重み付けW1aとフェーズ1bにおける重み付けW1bとは、それぞれ異なっている。そうすることで、左右の舵の切り返しにおいて、フェーズ1aにおけるヒステリシス特性とフェーズ1bにおけるヒステリシス特性とが異なる場合であっても、左右いずれの方向へも同様の切り返し応答性が発揮される。
【0056】
また、
図2に示すように、フェーズ2は、フェーズ1aには含まれない右方向への転舵が実行されている期間をフェーズ2aと、フェーズ1bには含まれない左方向への転舵が実行されている期間をフェーズ2bと、を含んでいる。そして、重み付けは、フェーズ2aとフェーズ2bとで、それぞれ異なっていても良い。つまり、フェーズ2における重み付けは、右方向への転舵時と左方向への転舵時とで、それぞれ異なっていても良い。例えば、フェーズ2aにおける重み付けW2aとフェーズ2bにおける重み付けW2bとは、値が異なるように設定される。そうすることで、左方向への転舵時と右方向への転舵時との間に応答性のバラツキが生じた場合であっても、目標位置制御部6は、異なる重み付けを左右の転舵時に用いることで応答性のバラツキを改善する。なお、応答性のバラツキは、車両のアライメント、乗員および積載物の分布に起因した重量バランスの変化、路面状態、風向き等の様々な要因による。
【0057】
フェーズ2における重み付けは、目標舵角と実舵角との差分から、所定比率を算出して決定されても良い。例えば、フェーズ2aにおいて、ある目標舵角と、その時の実舵角との差分が、所定の閾値A以下となった場合には、走行中に車両特性の変化、例えばアライメントの経時的な変化の進行や、路面状態、風向き等の外乱が発生していると判断して、追従性を改善するために新たな重み付けを設定する。この場合、新たな重み付けは、例えば、ある目標舵角と、その時の実舵角との差分を、所定の閾値Aで割って得られた比率に対して、現時点で設定されている重み付けを掛けて算出して決定することができる。また、フェーズ2bにおいても、フェーズ2aと同様の手順で重み付けを決定することができる。したがって、目標位置制御部6は、目標舵角と実舵角との差分から、所定比率を算出して決定されて重み付けを用いることで、右方向への転舵時と、左方向への転舵時とで、目標舵角と実舵角との差分を同程度にし、応答性の左右バランスをより一層向上させる。
【0058】
なお、所定の閾値Aとは、例えば、過去N回分(Nは正の整数)のフェーズ2aにおけるある目標舵角と、その時の実舵角との差分を制御履歴として保存しておき、その平均値に所定倍率、例えば、1.1倍を掛けた値で規定しても良い。
【0059】
また、フェーズ2における重み付けを、目標舵角と実舵角との差分から、所定比率を算出して決定する場合に、目標舵角と実舵角との差分として、目標舵角と実舵角との差分の積分値を用いても良い。例えば、フェーズ2aにおける目標舵角と実舵角との差分の積分値が、所定の閾値B以下となった場合には、追従性を改善するために新たな重み付けを設定する。この場合、新たな重み付けは、例えば、最新のフェーズ2aが終了した時点で、最新のフェーズ2aにおける目標舵角と実舵角との差分の積分値を算出し、算出した積分値を所定の閾値Bで割って得られた比率に対して、終了した最新のフェーズ2で設定されている重み付けを掛けて算出することができる。また、フェーズ2bにおいても、フェーズ2aと同様の手順で重み付けを決定することができる。目標舵角と実舵角との差分の積分値を用いることで、突発的な外乱やノイズによって、一時的に目標舵角と実舵角との差分が大きくなったとしても、その影響を低減する。したがって、目標位置制御部6は、目標舵角と実舵角との差分の積分値から、所定比率を算出して決定されて重み付けを用いることで、左右転舵時の応答性のバランスをより一層向上させることができる。
【0060】
なお、所定の閾値Bとは、例えば、過去N回分(Nは正の整数)のフェーズ2aにおける目標舵角と、実舵角との差分の積分値を制御履歴として保存しておき、その平均値に所定倍率、例えば、1.1倍を掛けた値として規定しても良い。
【0061】
ここで、これまで説明した本発明の実施形態に係る車両の制御装置1の目標位置制御部6のEPS2に対する操作量を算出する過程を説明する。なお、操作量は、具体的には、目標位置制御部6からEPS2のEPS制御部14に対する指令信号であって、目標操舵トルクに関する情報である。
【0062】
図5は、本発明の実施形態に係る車両の制御装置における、目標位置制御部の重み付け設定を伴う操作量を決定するためのフローを示す図である。
【0063】
目標位置制御部6は、
図5に示すルーチンによる操作量の演算を所定の時間周期で繰り返し実行する。
図5では、理解を容易にするために、前提条件として、フェーズ1は、目標舵角の切り返しが判定成立してから実舵角の切り返しが判定成立するまでの期間とし、それ以外の期間をフェーズ2とする。さらに、フェーズ1は、フェーズ1aおよびフェーズ1bに分別し、フェーズ2は、フェーズ2aおよびフェーズ2bに分別する。さらに、重み付け設定部26は、フェーズ1a、フェーズ1b、フェーズ2a、およびフェーズ2bにそれぞれ対応する重み付けW1a、W1b、W2a、およびW2bを保持している。また、ステップS1は、「S1」のように略記する。また、ステップS2以降も同様に略記する。
【0064】
まず、S1において、目標位置制御部6は、目標舵角演算部22で演算して得られた目標舵角に基づいて切り返し判定部24にて実行される切り返し判定結果から、目標舵角の切り返し判定成立の有無を判断する。目標舵角の切り返しが成立した場合には、S2へ進み、目標舵角の切り返しが成立しない場合には、S3へ進む。
【0065】
S2において、目標位置制御部6は、目標舵角の切り返しが左方向から右方向への切り返しであるか否かを判定する。左方向から右方向への切り返しである場合には、S4へ進む。一方、左方向から右方向への切り返しでない、つまり、右方向から左方向への切り返しである場合には、S5へ進む。
【0066】
S3において、目標位置制御部6は、目標舵角の時間変化、つまり舵角速度をもとに、右方向への転舵か否かを判断する。右方向への転舵である場合には、S6へ進む。一方、右方向への転舵でない場合、つまり、左方向への転舵である場合には、S7へ進む。
【0067】
S4からS7において、目標位置制御部6は、フィードバック制御における目標舵角と実舵角との差分に対して行われる重み付けW1a、W1b、W2a、およびW2bを重み付け設定部26からそれぞれ読み込み設定する。S4は、フェーズ1aにおける重み付けW1aを設定する処理である。S5は、フェーズ1bにおける重み付けW1bを設定する処理である。S6は、フェーズ2aにおける重み付けW2aを設定する処理である。S7は、フェーズ2bにおける重み付けW2bを設定する処理である。重み付けとしてW1aが設定された場合には、S8へ進む。また、重み付けとしてw1bが設定された場合には、S9へ進む。また、重み付けとしてW2aまたはW2bが設定された場合には、S10へ進む。
【0068】
S8において、目標位置制御部6は、角度センサー12から得られた実舵角に基づいて切り返し判定部24にて実行される切り返し判定結果から、実舵角の切り返し判定成立の有無を判断する。実舵角の切り返しが成立した場合には、S6へ進み、実舵角の切り返しが成立しない場合には、S10へ進む。
【0069】
なお、S8において、実舵角の切り返し判定とは、実舵角の左方向から右方向への切り返し判定を意味する。また、S8において、実舵角の切り返しが成立しない場合とは、フェーズ1aの期間中であって、S4で設定された重み付けW1aが維持されていることを意味する。
【0070】
S9において、目標位置制御部6は、角度センサー12から得られた実舵角に基づいて切り返し判定部24にて実行される切り返し判定結果から、実舵角の切り返し判定成立の有無を判断する。実舵角の切り返しが成立した場合には、S7へ進み、実舵角の切り返しが成立しない場合には、S10へ進む。
【0071】
なお、S9において、実舵角の切り返し判定とは、実舵角の右方向から左方向への切り返し判定を意味する。また、S9において、実舵角の切り返しが成立しない場合とは、フェーズ1bの期間中であって、S5で設定された重み付けW1bが維持されていることを意味する。
【0072】
S10において、目標位置制御部6は、重み付けW1a、W1b、W2a、W2bのいずれかに基づいて、EPS2へ出力するための操作量(目標操舵トルク)を演算する。
【0073】
したがって、本発明の実施形態に係る車両の制御装置1の目標位置制御部6は、フェーズごと設定された重み付けに基づいて目標操舵トルクを決定し、EPS2のステアリング制御を行う。
【0074】
以上で説明したように、本実施形態に係る車両の制御装置1は、EPS2のステアリング制御において、舵の切り返しが判定成立した直後を含む所定期間をフェーズ1とし、フェーズ1には含まれない転舵が実行されている期間をフェーズ2とした場合に、ステアリング制御における現在位置から目標位置への追従の重み付けを、フェーズ2の時よりもフェーズ1の時の方を大きくする。そのため、車両の制御装置1は、舵の切り返しの際に、左右反転して大きくかわり、かつ、ステアリングのヒステリシスを乗り越えるために必要な操舵トルクを得る。つまり、フェーズ2とフェーズ1との間で重み付けの変わらない従来のステアリング制御と比較して、車両の制御装置1は、舵の切り返し後に、現在位置から目標位置への追従の遅れを大幅に短縮することができる。しかも、追従の遅れを大幅に短縮することで、EPS2のステアリング制御に連動して回転するステアリングホイールの追従性も向上する。したがって、ステアリングホイールを保舵する運転者の操舵フィーリングを向上させることができる。
【0075】
また、本実施形態に係る車両の制御装置1は、目標位置制御部6で演算されるステアリング制御を行うための目標舵角と角度センサー12で検出される実舵角との差分によって、ステアリング制御における現在位置から目標位置への追従の重み付けを行う。つまり、車両の制御装置1は、目標位置と現在位置とから目標舵角を演算して目標値とし、実舵角を得て出力値として扱う。そうすることで、車両の制御装置1は、ステアリング制御において、容易にフィードバック制御を行うことができる。しかも、現在位置から目標位置への追従の重み付けは、フィードバック制御における目標舵角と実舵角との差分に対してなされる。したがって、フィードバック制御時の重み付けを変えるだけで、車両の制御装置1は、ステアリング制御における現在位置から目標位置への追従性を、容易に所望の追従性へと近づけることができる。
【0076】
また、本実施形態に係る車両の制御装置1は、フェーズ1における重み付けを、舵角速度が速いほど大きくする。つまり、車両の制御装置1は、舵の切り返し時に、舵角速度の増加によってステアリングのヒステリシスを乗り越えるための操舵トルクが増加する場合に、重み付けをより大きくして操舵トルクを増加させる。そうすることで、車両の制御装置1は、舵の切り返し応答遅れが延長することを抑制することができる。
【0077】
また、本実施形態に係る車両の制御装置1は、フェーズ1を、目標舵角の左方向から右方向への切り返しが判定成立してから、実舵角の左方向から右方向への切り返しが判定成立するまでの期間、および、目標舵角の右方向から左方向への切り返しが判定成立してから、実舵角の右方向から左方向への切り返しが判定成立するまでの期間の少なくともいずれか一方とする。つまり、フェーズ1が終了する実舵角の切り返しが判定成立した以降の重み付けを大きくし続けないようにする。そうすることで、その後の右方向への転舵、または左方向への転舵において、車両の制御装置1は、過剰な操舵トルクを抑制する。したがって、過剰な操舵トルクがステアリングホイールに伝わることがないため、車両の制御装置1は、ステアリングホイールを保舵する運転者の操舵フィーリングを向上させることができる。
【0078】
また、本実施形態に係る車両の制御装置1は、フェーズ1を、舵角速度が速いほど長くし、目標舵角の左方向から右方向への切り返しが判定成立してから、実舵角の左方向から右方向への切り返しが判定成立するまでの期間以下、および、目標舵角の右方向から左方向への切り返しが判定成立してから、実舵角の右方向から左方向への切り返しが判定成立するまでの期間以下の少なくともいずれか一方とする。つまり、車両の制御装置1は、フェーズ1において、舵角速度が速いほど重み付けを大きくするかわりに、舵角速度が速いほど重み付けを維持する期間を長くする。そうすることで、車両の制御装置1は、フェーズ1を通して、目標舵角に対する実舵角の追従性を向上させるためにフェーズ2よりも大きな重み付けがなされた操舵トルクをEPS2に発揮させ続けて、目標舵角に対する実舵角の追従性を向上させることができる。また、車両の制御装置1は、フェーズ1の期間を短くして、フェーズ2よりも大きな重み付けがなされた操舵トルクの発生する期間を調整する。そうすることで、車両の制御装置1は、目標舵角に対する実舵角の追従遅れを考慮したEPS2のステアリング制御が可能となる。つまり、早めにフェーズ1を終了させ、フェーズ2に移行して重み付けを変えることで、より適したタイミングで、より適した重み付けとなり、運転者の操舵フィーリングを向上させることができる。したがって、舵角速度の速さとの関係から、重み付けを維持するフェーズ1を所定期間以下に規定することで、目標舵角に対する実舵角の追従性のみならず、運転者の操舵フィーリングも向上させることができる。
【0079】
また、本実施形態に係る車両の制御装置1は、フェーズ2における重み付けを、右方向への転舵時と左方向への転舵時とで、それぞれ異なるように設けている。そのため、左方向への転舵時と右方向への転舵時との間に応答性のバラツキが生じた場合であっても、車両の制御装置1は、それぞれ異なる重み付けがなされた操舵トルクをEPS2に発揮させることができる。そうすることで、車両の制御装置1は、左右方向への転舵時の応答性のバラツキを改善させる。したがって、車両の制御装置1は、応答性のバラツキを改善することで、運転者の操舵フィーリングを向上させることができる。
【0080】
また、本実施形態に係る車両の制御装置1は、フェーズ2における重み付けを、目標舵角と実舵角との差分から、所定比率を算出して決定する。この所定比率は、目標舵角と実舵角との差分が大きくなって、追従性を改善する必要がある場合には、1よりも大きな値となる。この所定比率を、現時点で設定されているフェーズ2における重み付けに掛けて、新しい重み付けとすることで、重み付けは、より大きくなる。したがって、車両の制御装置1は、追従性を改善するために、操舵トルクを大きくすることができる。しかも、車両の制御装置1は、フェーズ2における重み付けを、右方向への転舵時と左方向への転舵時とで、それぞれ異なるように設けている。つまり、車両の制御装置1は、左右方向への転舵時でそれぞれ異なる重み付けを行う。そうすることで、車両の制御装置1は、右方向への転舵時と、左方向への転舵時とで、目標舵角と実舵角との差分を同程度にし、応答性の左右バランスをより一層向上させる。応答性の左右バランスが向上することで、車両の制御装置1は、左右方向への転舵時の運転者の操舵フィーリングを向上させることができる。
【0081】
したがって、本実施形態に係る車両の制御装置1によれば、ステアリング制御における、舵の切り返し応答遅れを短縮し、操舵フィーリングを向上させることができる。
【0082】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0083】
1…車両の制御装置、2…電動パワーステアリング(EPS)、4…現在位置取得部、6…目標位置制御部、8…車内ネットワーク、10…モーター、12…角度センサー、
14…EPS制御部、16…カメラ、18…GNSS、20…地図情報、22…目標舵角演算部、24…切り返し判定部、26…重み付け設定部。