(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162318
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】電気加熱式触媒装置
(51)【国際特許分類】
F01N 3/20 20060101AFI20241114BHJP
B01J 35/50 20240101ALI20241114BHJP
B01J 35/57 20240101ALI20241114BHJP
B01J 27/224 20060101ALI20241114BHJP
B01J 27/053 20060101ALI20241114BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20241114BHJP
F01N 3/24 20060101ALI20241114BHJP
F01N 3/10 20060101ALI20241114BHJP
F01N 3/28 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
F01N3/20 K
B01J35/02 G ZAB
B01J35/04 301F
B01J27/224 A
B01J27/053 A
B01J35/04 301L
B01D53/94 300
F01N3/24 L
F01N3/10 A
F01N3/28 301Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023077700
(22)【出願日】2023-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 あけみ
(72)【発明者】
【氏名】平林 武史
【テーマコード(参考)】
3G091
4D148
4G169
【Fターム(参考)】
3G091AA14
3G091AA17
3G091AB03
3G091BA02
3G091CA03
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4G169CA13
4G169DA06
4G169EA18
4G169EA26
4G169EC28
4G169EE03
4G169EE09
(57)【要約】
【課題】排ガス浄化性能を向上できる電気加熱式触媒装置を提供することにある。
【解決手段】本発明の電気加熱式触媒装置は、基材と流入側触媒層と流出側触媒層とを備える電気加熱式触媒装置であって、基材は、SiCを含有し、流入側触媒層は、Pdを触媒成分として含有し、流出側触媒層は、Rhを触媒成分として含有し、基材は、流入側端面から流出側端面まで延びる複数のセルを画成する隔壁を有し、流入側触媒層は、隔壁の流入側端から延伸方向に沿って流出側に隔壁の延伸方向の全長の60%~90%の距離延在する流入側触媒領域において、隔壁の表面に設けられ、流出側触媒層は、隔壁の流出側端から延伸方向に沿って流入側に隔壁の延伸方向の全長の60%~90%の距離延在する流出側触媒領域において、流入側触媒領域と重複しない部分の隔壁の表面、及び流入側触媒領域と重複する部分の流入側触媒層の表面に設けられている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と流入側触媒層と流出側触媒層とを備える電気加熱式触媒装置であって、
前記基材は、SiCを含有し、
前記流入側触媒層は、Pdを触媒成分として含有し、
前記流出側触媒層は、Rhを触媒成分として含有し、
前記基材は、流入側端面から流出側端面まで延びる複数のセルを画成する隔壁を有し、
前記流入側触媒層は、前記隔壁の流入側端から延伸方向に沿って流出側に前記隔壁の延伸方向の全長の60%~90%の距離延在する流入側触媒領域において、前記隔壁の表面に設けられ、
前記流出側触媒層は、前記隔壁の流出側端から延伸方向に沿って流入側に前記隔壁の延伸方向の全長の60%~90%の距離延在する流出側触媒領域において、前記流入側触媒領域と重複しない部分の前記隔壁の表面、及び前記流入側触媒領域と重複する部分の前記流入側触媒層の表面に設けられていることを特徴とする電気加熱式触媒装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排ガスの浄化に用いられる電気加熱式触媒装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両(自動車)等の内燃機関の排ガスを浄化する排ガス浄化装置として、電気加熱式触媒装置(以下、「EHC」と略すことがある。)が注目されている。排ガス浄化装置が十分な浄化性能を発揮するためには、排ガス浄化装置に用いる触媒の温度が、活性化温度まで上昇している必要がある。一般的な排ガス浄化装置では、触媒が排ガスの熱を利用して加熱されるため、内燃機関の稼働開始直後などのように排ガスの温度が低い場合には、高い浄化性能が得られない。これに対し、EHCでは、内燃機関の稼働開始直後などのように排ガスの温度が低い場合でも、電気加熱で触媒の温度を上昇させて触媒を活性化させることができる。このため、排ガスの温度が低い場合でも、高い浄化性能を得ることができ、排ガスの浄化効率を高めることができる。
【0003】
EHCの一般的な構成は、基材と触媒層とを備え、基材が抵抗発熱体として機能するSiCを含有し、触媒層が触媒成分として白金族金属を含有するといった構成である。従来のEHCとしては、例えば、特許文献1に記載されたEHCが知られている。このEHCは、基材と、触媒層と、基材及び触媒層の間に配置された中間層と、電極とを備え、基材がSiCを含有し、触媒層が触媒成分として白金族金属を含有し、中間層が白金族金属を実質的に含有せず、中間層の厚さ[μm]と中間層の比表面積[m2/g]との積が1100以上である。このEHCによれば、中間層が適切な厚さと適切な比表面積を有することで白金族金属の移動を妨げる物理障壁として高い機能を発現する。これにより、触媒層から基材への白金族金属の移動を抑制でき、EHCの高温耐久性を向上できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された基材及び触媒層の間に配置された中間層を備える構成などの従来のEHCの種々の構成でも、排ガス浄化性能が不十分となるおそれがあった。このため、EHCでは、排ガス浄化性能をさらに向上させることが求められている。
【0006】
本発明は、このような点を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、排ガス浄化性能を向上できる電気加熱式触媒装置(EHC)を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく、本発明の電気加熱式触媒装置は、基材と流入側触媒層と流出側触媒層とを備える電気加熱式触媒装置であって、上記基材は、SiCを含有し、上記流入側触媒層は、Pdを触媒成分として含有し、上記流出側触媒層は、Rhを触媒成分として含有し、上記基材は、流入側端面から流出側端面まで延びる複数のセルを画成する隔壁を有し、上記流入側触媒層は、上記隔壁の流入側端から延伸方向に沿って流出側に上記隔壁の延伸方向の全長の60%~90%の距離延在する流入側触媒領域において、上記隔壁の表面に設けられ、上記流出側触媒層は、上記隔壁の流出側端から延伸方向に沿って流入側に上記隔壁の延伸方向の全長の60%~90%の距離延在する流出側触媒領域において、上記流入側触媒領域と重複しない部分の上記隔壁の表面、及び上記流入側触媒領域と重複する部分の上記流入側触媒層の表面に設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の電気加熱式触媒装置によれば、排ガス浄化性能を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態に係るEHCを備える触媒コンバータを概略的に示す断面図である。
【
図2】第1実施形態に係るEHCを概略的に示す斜視図である。
【
図3】第1実施形態に係るEHCにおける隔壁の延伸方向に平行な断面の要部を概略的に示す断面図である。
【
図4】実施例1及び比較例のEHCから取得された流入側触媒層及び流出側触媒層のコート幅に対するHC50%浄化温度の変化を示すグラフである。
【
図5】実施例1~3のEHCから取得された流入側触媒層及び流出側触媒層のコート幅に対する最大酸素吸蔵量の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の電気加熱式触媒装置(以下、「EHC」と略すことがある。)に係る実施形態について説明する。以下の説明において、「流入側」及び「流出側」とは、各要素における排ガスが流入する側及び排ガスが流出する側をそれぞれ指す。「上流側」及び「下流側」とは、排ガスが流れる方向の上流側及び下流側をそれぞれ指す。「延伸方向」とは、隔壁の延伸方向(隔壁が延びる方向)であって、基材の軸方向及びセルの延伸方向(セルが延びる方向)と略同一の方向を指す。「厚さ方向」とは、隔壁の厚さ方向(隔壁のセル側の表面に垂直な方向)を指す。「幅方向」とは、隔壁の幅方向(隔壁の延伸方向及び厚さ方向の両方に垂直な方向)を指す。
【0011】
最初に、実施形態に係るEHCの概略について、第1実施形態に係るEHCを例示して説明する。
図1は、第1実施形態に係るEHCを備える触媒コンバータを概略的に示す断面図である。
図2は、第1実施形態に係るEHCを概略的に示す斜視図である。
図3は、第1実施形態に係るEHCにおける隔壁の延伸方向に平行な断面の要部を概略的に示す断面図である。
【0012】
図1に示す触媒コンバータ100は、ハイブリッド車両(自動車)に搭載される内燃機関(ガソリンエンジン)の排気通路(図示せず)に設置されている。触媒コンバータ100は、第1実施形態に係るEHC1である第1排ガス浄化装置61と、第2排ガス浄化装置62とを備えるタンデム型の触媒コンバータである。触媒コンバータ100は、筒状の内管60n、流入側接続管60a、及び流出側接続管60bを有するケース60と、マット64と、絶縁碍子66とをさらに備えている。ケース60の内管60n、流入側接続管60a、及び流出側接続管60bは、例えば、ステンレス鋼等の金属から構成されている。流入側接続管60aは、内管60nの流入側に外側から被せられて固定されており、流入側ほど径が小さくなっている。流出側接続管60bは、内管60nの流出側の部分に外側から被せられて固定されており、流出側ほど径が小さくなっている。ケース60は、排気通路の一部を構成している。
【0013】
第1排ガス浄化装置61及び第2排ガス浄化装置62は、ケース60の内管60n内に収容されている。第1排ガス浄化装置61は、第2排ガス浄化装置62よりも上流側に配置されている。ケース60の内管60n内において、第1排ガス浄化装置61及び第2排ガス浄化装置62とケース60の内管60nの内周面との間には、マット64が介在している。マット64は、絶縁体であり、例えば、アルミナを主成分とする無機繊維によって形成されている。ケース60の内管60nの内周面には、絶縁材料を塗布することで絶縁コートが設けられている。絶縁コートとしては、例えば、ガラスコート等が用いられる。
【0014】
ケース60の流入側接続管60aは、ケース60の内管60nよりも直径の小さな上流側排気管51と内管60nとを接続している。ケース60の内管60nの流入側は、上流側排気管51に近づくにつれて直径が小さくなっており、最も上流側排気管51に近い部分の直径は、上流側排気管51の直径とほぼ等しくなっている。ケース60の流出側接続管60bは、ケース60の内管60nよりも直径の小さな下流側排気管52と内管60nとを接続している。上流側排気管51及び下流側排気管52は、排気通路の一部をそれぞれ構成している。
【0015】
第1排ガス浄化装置61は、ストレートフロー型の三元触媒であり、第1実施形態に係るEHC1である。第1実施形態に係るEHC1は、
図1~
図3に示すように、ストレートフロー型の三元触媒であり、基材10と、流入側触媒層20と、流出側触媒層30と、正電極40a及び負電極40bと、を備えている。
【0016】
基材10は、流入側触媒層20と流出側触媒層30とを担持する部材である。基材10は、Si-SiC複合材料を含有している。基材10は、枠部11と枠部11の内側の空間を仕切る隔壁14とが一体形成された基材である。枠部11の外形は円筒形である。隔壁14は、基材10の流入側端面10Saから流出側端面10Sbまで延びる複数のセル12を画成する多孔質体である。隔壁14の形状は、複数のセル12の延伸方向に垂直な断面形状が矩形になるように、互いに離間して平行に配置される複数の壁部14Aと、複数の壁部14Aと直交しかつ互いに離間して平行に配置される複数の壁部14Bとを含み、延伸方向に垂直な断面が格子状となっている。複数のセル12は、隔壁14を挟んで互いに隣接し、流入側端12a及び流出側端12bの両方が開口している。
【0017】
流入側触媒層20は、触媒成分のPd(パラジウム)と、CeO2とZrO2を主成分とする複合酸化物であるOSC材及びOSC材以外の酸化物を含む担体と、Ba化合物(例えば、BaSO4)とを含有している。触媒成分及びBa化合物は、OSC材及びOSC材以外の酸化物を含む担体に担持されている。流入側触媒層20は、隔壁14の流入側端14aから延伸方向に沿って流出側に隔壁14の延伸方向の全長の60%~90%の距離離れた位置14cまで延在する流入側触媒領域14Xにおいて、隔壁14のセル側の表面14sに設けられている。
【0018】
流出側触媒層30は、触媒成分のRh(ロジウム)と、OSC材及びOSC材以外の酸化物を含む担体とを含有している。触媒成分は、OSC材及びOSC材以外の酸化物を含む担体に担持されている。流出側触媒層30は、隔壁14の流出側端14bから延伸方向に沿って流入側に隔壁14の延伸方向の全長の60%~90%の距離離れた位置14dまで延在する流出側触媒領域14Yにおいて、流入側触媒領域14Xと重複しない部分の隔壁14のセル側の表面14s、及び流入側触媒領域14Xと重複する部分の流入側触媒層20の表面20sに設けられている。流出側触媒層30の流入側の一部30pは、流入側触媒層20に重なっている。
【0019】
正電極40a及び負電極40bは、基材10の枠部11の外周面11sに取り付けられている。正電極40aは、枠部11の外周面11sに設けられた正電極層42aと、正電極層42aに接続された正電極端子44aとを有している。負電極40bは、基材10の枠部11の外周面11sに設けられた負電極層42bと、負電極層42bに接続された負電極端子44bとを有している。正電極層42a及び負電極層42bは、基材10の全体に対して均一に電流を流せるように枠部11の外周面11sに沿って周方向及び軸方向に延びている。正電極端子44a及び負電極端子44bは、ケース60の内管60nの壁をそれぞれ貫通している。正電極端子44a及び負電極端子44bのそれぞれとケース60の内管60nの壁との間には、絶縁碍子66が嵌め込まれている。絶縁碍子66は、例えば、アルミナ等の絶縁材料で構成されている。これにより、EHC1は、ケース60に対して電気的に絶縁されている。EHC1では、正電極40a及び負電極40bの間に電圧をかけることで基材10に電流を流すことにより、基材10を電気抵抗で発熱させる。
【0020】
第2排ガス浄化装置62は、
図1に示すように、ストレートフロー型の三元触媒であり、基材70と、触媒層(図示せず)とを備えている。基材70は、触媒層を担持する部材である。基材70は、コージェライトを含有している。基材70は、枠部(図示せず)と枠部の内側の空間を仕切る隔壁(図示せず)とが一体形成された基材である。枠部の外形は、円筒形である。隔壁は、基材70の流入側端面から流出側端面まで延びる複数のセル(図示せず)を画成する多孔質体である。複数のセルは、隔壁を挟んで互いに隣接し、流入側端及び流出側端の両方が開口している。触媒層は、隔壁のセル側の表面に設けられている。触媒層は、触媒成分のPd及びRhと、OSC材及びOSC材以外の酸化物を含む担体と、Ba化合物(例えば、BaSO
4)とを含有している。触媒成分及びBa化合物は、OSC材及びOSC材以外の酸化物を含む担体に担持されている。
【0021】
内燃機関の稼働時において、排ガスが触媒コンバータ100を通過する場合には、最初に、排ガスは、第1実施形態に係るEHC1(第1排ガス浄化装置61)の複数のセル12に流入側端12aから流入し、複数のセル12の外部に流出側端12bから流出する。続いて、その排ガスは、第2排ガス浄化装置62の複数のセルに流入側端から流入し、複数のセルの外部に流出側端から流出する。触媒コンバータ100では、内燃機関の稼働開始前から、EHC1の正電極40a及び負電極40bの間に電圧をかけることで基材10に電流を流すことにより、基材10を電気抵抗で発熱させることができる。これによって、内燃機関の稼働開始直後で、排ガスの温度が低い場合でも、EHC1の触媒の温度を上昇させて触媒を活性化させることができる。さらに、EHC1を通過することで加熱された排ガスの熱により、第2排ガス浄化装置62の触媒の温度を上昇させて触媒を活性化させることもできる。
【0022】
第1実施形態に係るEHC1によれば、流出側触媒層30の流入側の一部30pが流入側触媒層20に重なっているので、基材10のSiが浄化性能への寄与が大きい触媒成分であるRhを含有する流出側触媒層30まで拡散することが流入側触媒層20の障壁作用により抑制される。これにより、流出側触媒層30の劣化を抑制し、浄化性能を向上できる。
【0023】
隔壁14の延伸方向の全長に対する流入側触媒層20及び流出側触媒層30の延伸方向の長さの割合(以下、それぞれを「流入側触媒層20のコート幅」及び「流出側触媒層30のコート幅」と略すことがある。)が60%以上であることで、流出側触媒層30における流入側触媒層20に重なる部分30の割合が大きくなる。これにより、基材10のSiが流出側触媒層30まで拡散することが流入側触媒層20の障壁作用により効果的に抑制され、流出側触媒層の劣化が効果的に抑制される。さらに、それら触媒層のコート幅が60%以上であることでそれら触媒層の排ガスとの接触面積が大きくなる。よって、浄化性能を効果的に向上できる。
【0024】
流入側触媒層20及び流出側触媒層30のコート幅が60%以上であることで、それら層の合計コート量が同一であり、かつそれら層のコート幅が60%未満である場合と比較して、それら層がより薄くなるので、圧力損失を低減できる。なお、基材10は、Si-SiC複合材料を含有するため、例えば、コージェライトを含有する通常の基材と比較して、隔壁が厚くなり、隔壁の通気孔が狭くなる。よって、圧力損失の低減が大きい。
【0025】
流入側触媒層20及び流出側触媒層30のコート幅が60%以上であることで、それら層の密度を抑制できるので、基材10におけるこれら層が設けられた領域での触媒反応の反応熱による温度上昇を抑制でき、基材10でのクラックの発生を抑制できる。
【0026】
流入側触媒層20及び流出側触媒層30のコート幅が90%以下であることで、それらの層のコート量の減少を抑制でき、浄化性能を向上できる。具体的には、EHC1の量産プロセスにおいて、流入側触媒層用スラリー及び流出側触媒層用スラリーを隔壁14の表面14sにコートする場合、それらのスラリーが実際にコートされる領域の延伸方向の長さには、隔壁14の延伸方向の全長の10%程度の誤差が生じるおそれがある。これに対して、流入側触媒層20及び流出側触媒層30のコート幅が90%以下であれば、量産プロセスにおいて、それらのスラリーを隔壁14の表面14sにコートする場合にそのような誤差が生じても、それらのスラリーがそれぞれ流出側端12b及び流入側端12aからセル12の外部に漏れ出ることを抑制できる。よって、それらの層のコート量の減少を抑制でき、浄化性能を向上できる。
【0027】
従って、実施形態に係るEHCによれば、例えば、第1実施形態に係るEHC1と同様に、排ガス浄化性能を向上できる。さらに、圧力損失を低減でき、基材でのクラックの発生を抑制できる。続いて、実施形態に係るEHCの各構成の詳細について説明する。
【0028】
1.基材
基材は、SiC(炭化ケイ素)を含有し、流入側端面から流出側端面まで延びる複数のセルを画成する隔壁を有する。
【0029】
基材は、SiCを含有することにより、熱サイクルによるクラック発生が起こり難くなり、抵抗発熱体として機能し得る。このため、基材がSiCを含有することにより、実施形態に係るEHCを電気加熱式触媒装置として用いることができる。基材としては、例えば、SiCを純物質で含有する基材でよいし、SiCにSiを結合させたSi-SiC(ケイ素-炭化ケイ素)複合材料を含有する基材でよいが、Si-SiC複合材料を含有する基材が好ましい。優れた導電性を得ることができるからである。
【0030】
基材は、通常、枠部と枠部の内側の空間を仕切る隔壁とが一体形成された基材である。基材の外形(枠部の外形)としては、特に限られず、例えば、円筒形等でよい。基材の外形が円筒形である場合、基材の外径(枠部の外径)は、特に限定されず、公知のEHCと同様でよいが、例えば、75mm以上95mm以下が好ましい。外径が下限以上であることにより、圧力損失の増大を回避できるからであり、外径が上限以下であることにより、
電気加熱時の径方向の温度分布差を抑制できるからである。基材の軸方向の長さは、特に限定されず、公知のEHCと同様でよいが、例えば、EHCが第1実施形態のようにタンデム型の触媒コンバータで用いられる場合、基材の軸方向の長さは、45mm以上70mm以下が好ましい。長さが下限以上であることにより、浄化特性が確保できるからであり、長さが上限以下であることにより、圧力損失を低減できるからである。
【0031】
隔壁の形状は、特に限定されず、公知のEHCと同様でよいが、通常、複数のセルの延伸方向に垂直な断面形状が所望の形状になるように、互いに離間して平行に配置される複数の壁部と、当該複数の壁部と交わりかつ互いに離間して平行に配置される複数の壁部とを含んでいる。隔壁の延伸方向の長さは、特に限定されないが、通常、基材の軸方向の長さと略同一となる。隔壁の厚さは、特に限定されず、公知のEHCと同様でよいが、例えば、85μm以上210μm以下が好ましい。厚さが下限以上であることにより、流入側触媒層及び流出側触媒層のコート幅が60%以上であることによる圧力損失の低減効果が顕著となるからであり、構造信頼性を確保できるからであり、厚さが上限以下であることにより、圧力損失の不要な増大を回避できるからである。
【0032】
隔壁は多孔質体である。隔壁の空隙率は、特に限定されず、公知のEHCと同様でよいが、例えば、35%以上45%以下が好ましい。空隙率が下限以上であることにより、圧力損失の不要な増大を回避できるからであり、空隙率が上限以下であることにより、流入側触媒層及び流出側触媒層のコート幅が60%以上であることによる圧力損失の低減効果が顕著となるからである。隔壁の空隙の平均細孔径は、特に限定されず、公知のEHCと同様でよいが、例えば、4μm以上11μm以下が好ましい。平均細孔径が下限以上であることにより、圧力損失の不要な増大を回避できるからであり、平均細孔径が上限以下であることにより、流入側触媒層及び流出側触媒層のコート幅が60%以上であることによる圧力損失の低減効果が顕著となるからである。なお、「隔壁の空隙の平均細孔径」は、例えば、水銀圧入法により測定されたものを指す。
【0033】
複数のセルの延伸方向に垂直な断面形状は、特に限定されず、公知のEHCと同様でよいが、例えば、矩形等の多角形、円形などでよい。セル密度は、特に限定されず、公知のEHCと同様でよいが、例えば、1平方インチ当たり350個以上700個以下が好ましい。セル密度が下限以上であることにより、排ガスとの接触性が高くなり浄化特性を確保できるからであり、セル密度が上限以下であることにより、圧力損失の増大を回避できるからである。複数のセルの延伸方向の長さは、特に限定されないが、通常、基材の軸方向の長さと略同一となる。
【0034】
2.流入側触媒層
流入側触媒層は、Pdを触媒成分として含有している。Pdは、CO及びHCの排ガス浄化性能に優れている。流入側触媒層は、上記隔壁の流入側端から延伸方向に沿って流出側に上記隔壁の延伸方向の全長の60%~90%の距離延在する流入側触媒領域において、上記隔壁の表面に設けられている。
【0035】
Pdは、排ガスとの接触面積を高める観点から微粒子状であることが好ましい。微粒子状のPdの平均粒子径は、例えば、1nm以上15nm以下が好ましい。Pdの平均粒子径は、Pdの電子顕微鏡画像(例えば、TEM画像等)を取得し、画像中の任意の20個以上の粒子の粒径の平均値として求めることができる。
【0036】
流入側触媒層は、通常、OSC材(酸素吸蔵材)を含有する。OSC材としては、酸素吸蔵能を有するならば特に限定されず、例えば、CeO2、CeO2を含む複合酸化物等が挙げられる。CeO2を含む複合酸化物としては、例えば、CeO2とZrO2とを含むセリア-ジルコニア系複合酸化物等が挙げられる。OSC材としては、中でも、セリア-ジルコニア系複合酸化物等が好ましい。ZrO2により、CeO2の熱劣化を抑制できるからである。セリア-ジルコニア系複合酸化物としては、CeO2及びZrO2からなるセリア-ジルコニア複合酸化物でよいし、Ce及びZr以外の金属元素を含むものでよい。Ce及びZr以外の金属元素の中でも、例えば、希土類元素(例えば、Sc、Y、La、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu等)が好ましい。耐熱性と酸素吸放出特性等を向上できるからである。CeO2を含む複合酸化物におけるCeO2の含有量は、例えば、15質量%以上55質量%以下が好ましい。含有量が下限以上であることにより、複合酸化物が酸素吸蔵能を十分に発揮できるからである。含有量が上限以下であることにより、OSC材の塩基性を抑制できるからである。
【0037】
OSC材は、Pdを担持する担体として機能するものでよい。流入側触媒層は、Pdを担持する担体として、OSC材以外の担体をさらに含有してもよい。OSC材以外の担体としては、例えば、OSC材以外の酸化物を含む担体等が挙げられる。当該酸化物としては、例えば、Al2O3、TiO2、ZrO2、SiO2、Al2O3とZrO2とを含むアルミナ-ジルコニア系複合酸化物等が挙げられる。OSC材以外の酸化物を含む担体としては、希土類元素の酸化物をさらに含むものでよい。耐熱性等を向上できるからである。希土類元素の酸化物としては、例えば、Pr2O3、Nd2O3、La2O3、Y2O3等が挙げられる。なお、OSC材以外の酸化物を含む担体における希土類元素の酸化物の含有量は、例えば、1質量%以上10質量%以下でよい。
【0038】
流入側触媒層におけるPdの含有量は、特に限定されないが、例えば、流入側触媒層に含有されるOSC材及びOSC材以外の担体の全質量に対して0.01質量%以上8質量%以下が好ましい。
【0039】
流入側触媒層は、Ba(バリウム)及びBa化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種であるBa成分をさらに含有するものでよい。PdのHCによる被毒を抑制でき、Pdのシンタリングを抑制できるからである。Ba化合物としては、例えば、BaSO4、(CH3COO)2Ba、Ba(NO3)2、BaCO3等が挙げられ、中でもBaSO4、(CH3COO)2Ba等が好ましく、特にBaSO4が好ましい。
【0040】
一般的に、Ba成分を流入側触媒層中に高度に拡散させるためには、Ba成分の平均粒径は小さいほどよく、特に数nmである場合には、Ba成分は拡散性に非常に優れる。しかしながら、Ba成分の平均粒径は、100nm以上350nm以下である。Ba成分の平均粒径を数nmよりかなり大きくすることで、流入側触媒層に含有されるBa元素と基材に含まれるSiとの接触を減らすことができ、さらにBa成分の平均粒径を100nm以上350nm以下とすることで、Ba元素がPdと共に流入側触媒層に分散して存在できる。従って、Ba成分の平均粒径を100nm以上350nm以下とすることで、Ba元素によりSiが基材から流入側触媒層へ拡散することを抑制できる。これにより、OSC材の劣化を抑制できるので、OSC材の高温耐久性を向上できる。Ba成分の平均粒径としては、中でも150nm以上200nm以下が好ましい。OSC材の高温耐久性を顕著に向上できるからである。なお、Ba成分の平均粒径を100nm以上とすることで、基材の破壊を抑制でき、NOxの浄化性能を向上できる。
【0041】
Ba成分の平均粒径は、例えば、以下の方法により求めることができる。まず、EHCから流入側触媒層の一部を試料として採取する。次に、例えば、SEM、TEM等の電子顕微鏡を使用し、試料の画像を撮影する。次に、撮影画像におけるBa成分の粒子の中から全体が見えている粒子を20個以上選択し、選択した各粒子の面積を測定する。次に、選択した各粒子の面積と等しい面積を有する円の直径を算出する。次に、選択した各粒子について算出された直径の算術平均をBa成分の平均粒径として算出する。
【0042】
Ba成分は、少なくともOSC材の表面に存在し、通常、OSC材に担持されている。Ba成分は、OSC材及びOSC材以外の担体の両方に担持されてもよい。Ba成分におけるOSC材に担持される割合は、例えば、10質量%以上である。Ba成分の分散形態は、特に限定されないが、通常、流入側触媒層は、触媒成分源、Ba成分源、及びOSC材等が混合されたスラリーを隔壁の表面にコートすることで形成されるので、Ba成分は流入側触媒層内に均一に分散している。流入側触媒層におけるBa成分の含有量は、特に限定されないが、例えば、流入側触媒層に含有されるPdの質量に対する硫酸塩換算したBa成分の質量の比は、1/80以上20以下である。
【0043】
流入側触媒層は、Pd、Ba成分、OSC材、OSC材以外の担体等に加えて、例えば、バインダー、添加剤等をさらに含有してもよい。バインダーとしては、例えば、アルミナゾル、シリカゾル等が挙げられる。添加剤として、例えば、NOx吸着剤、安定化剤等が挙げられる。
【0044】
流入側触媒層の厚さは、特に限定されず、基材のセルのサイズやEHCに供給される排ガスの流量等に応じて適宜決定すればよい。流入側触媒層の厚さとしては、特に限定されないが、例えば、1μm以上500μm以下が好ましい。流入側触媒層のコート量は、特に限定されないが、例えば、50g/L以上150g/L以下が好ましい。コート量が下限以上であることにより、浄化性能を効果的に向上できるからである。コート量が上限以下であることにより、圧力損失を効果的に抑制できるからである。なお、「流入側触媒層のコート量」とは、流入側触媒層の質量を基材の体積で割った値を指す。
【0045】
3.流出側触媒層
流出側触媒層は、Rhを触媒成分として含有している。Rhは、NOxの浄化性能に優れている。流出側触媒層は、上記隔壁の流出側端から延伸方向に沿って流入側に上記隔壁の延伸方向の全長の60%~90%の距離延在する流出側触媒領域において、上記流入側触媒領域と重複しない部分の上記隔壁の表面、及び上記流入側触媒領域と重複する部分の上記流入側触媒層の表面に設けられている。
【0046】
Rhは、排ガスとの接触面積を高める観点から微粒子状であることが好ましい。微粒子状のRhの平均粒子径は、例えば、1nm以上15nm以下が好ましい。Rhの平均粒子径は、Rhの電子顕微鏡画像(例えば、TEM画像等)を取得し、画像中の任意の20個以上の粒子の粒径の平均値として求めることができる。
【0047】
流出側触媒層は、通常、OSC材を含有する。OSC材については、上記「2.流入側触媒層」の項目で説明したOSC材と同様である。OSC材は、Rhを担持する担体として機能するものでよい。流出側触媒層は、Rhを担持する担体として、OSC材以外の担体をさらに含有してもよい。OSC材以外の担体については、上記「2.流入側触媒層」の項目で説明したOSC材以外の担体と同様である。
【0048】
流出側触媒層におけるRhの含有量は、特に限定されないが、例えば、流出側触媒層に含有されるOSC材及びOSC材以外の担体の全質量に対して0.01質量%以上8質量%以下が好ましい。
【0049】
流出側触媒層は、Rh、OSC材、OSC材以外の担体等に加えて、例えば、バインダー、添加剤等をさらに含有してもよい。バインダー及び添加剤については、上記「2.流入側触媒層」の項目で説明したバインダー及び添加剤と同様である。
【0050】
流出側触媒層の厚さは、特に限定されず、基材のセルのサイズやEHCに供給される排ガスの流量等に応じて適宜決定すればよい。流出側触媒層の厚さとしては、特に限定されないが、例えば、1μm以上500μm以下が好ましい。流出側触媒層のコート量は、特に限定されないが、例えば、30g/L以上100g/L以下が好ましい。コート量が下限以上であることにより、浄化性能を効果的に向上できるからである。コート量が上限以下であることにより、圧力損失を効果的に抑制できるからである。なお、「流出側触媒層のコート量」とは、流出側触媒層の質量を基材の体積で割った値を指す。
【0051】
4.EHC
実施形態に係るEHCは、基材と流入側触媒層と流出側触媒層とを備えている。EHCは、第1実施形態のように正電極及び負電極をさらに備えていてもよい。正電極及び負電極としては、特に限定されず、公知のEHCと同様でよいが、例えば、金属電極、カーボン電極等が挙げられる。EHCの種類としては、特に限定されず、ストレートフロー型又はウォールフロー型の三元触媒でよい。EHCは、車両(自動車)等の内燃機関の排気通路に配置されて内燃機関の排ガスの浄化に用いられる。EHCとしては、特に限定されないが、例えば、第1実施形態のようにタンデム型の触媒コンバータで用いられるものが好ましい。
【実施例0052】
以下、実施例及び比較例を挙げて、実施形態に係るEHCをさらに具体的に説明する。
【0053】
[実施例1]
第1実施形態に係るEHCと正電極及び負電極を備えていない点を除いて同様のEHCの一例(ストレートフロー型の三元触媒)を作製した。まず、円筒形の枠部と隔壁とが一体形成された基材を準備した。基材の構成は下記の通りである。
【0054】
(基材)
基材の材料:Si-SiC複合材料
基材のサイズ:外径×軸方向の長さ=80mm×65mm
隔壁の厚さ:190μm
隔壁の空隙率:40%
隔壁の空隙の平均細孔径:7.5μm
セル密度:1平方インチ当たり600個
【0055】
次に、硝酸Pd溶液と、セリア-ジルコニア系複合酸化物粉末と、Al2O3粉末と、平均粒径が100nmのBaSO4と、バインダーと、イオン交換水とを混合して、流入側触媒層用スラリー(Pd含有スラリー)を調製した。
【0056】
次に、流入側触媒層用スラリーを、基材のセルに流入側端から流し込むことで、隔壁の流入側端から延伸方向に沿って流出側に隔壁の延伸方向の全長の90%の距離延在する流入側触媒領域において、隔壁のセル側の表面にコートして供給した。この際には、流入側触媒層のコート量(流入側触媒層の質量を基材の体積で割った値)が88.5g/Lになるようにスラリーの供給量を調整した。次に、スラリーをコートした基材を、乾燥機により120℃で2時間加熱することで乾燥した後、電気炉により500℃で2時間焼成した。これにより、流入側触媒層を、隔壁の延伸方向の全長に対する流入側触媒層の延伸方向の長さの割合(以下、「流入側触媒層のコート幅」と略す。)が90%となるように形成した。
【0057】
次に、硝酸Rh溶液と、セリア-ジルコニア系複合酸化物粉末と、アルミナ-ジルコニア系複合酸化物粉末と、Al2O3粉末と、バインダーと、イオン交換水とを混合して流出側触媒層用スラリー(Rh含有スラリー)を調製した。
【0058】
次に、流出側触媒層用スラリーを、基材のセルに流出側端から流し込むことで、隔壁の流出側端から延伸方向に沿って流入側に隔壁の延伸方向の全長の90%の距離延在する流出側触媒領域において、流入側触媒領域と重複しない部分の隔壁のセル側の表面、及び流入側触媒領域と重複する部分の流入側触媒層の表面にコートして供給した。この際には、流出側触媒層のコート量(流出側触媒層の質量を基材の体積で割った値)が49.5g/Lになるようにスラリーの供給量を調整した。次に、スラリーをコートした基材を、乾燥機により120℃で2時間加熱することで乾燥した後、電気炉により500℃で2時間焼成した。これにより、流出側触媒層を、隔壁の延伸方向の全長に対する流出側触媒層の延伸方向の長さの割合(以下、「流出側触媒層のコート幅」と略す。)が90%となるように形成した。以上により、EHCを作製した。
【0059】
[実施例2]
隔壁の流入側端から延伸方向に沿って流出側に隔壁の延伸方向の全長の75%の距離延在する領域を流入側触媒領域とすることで流入側触媒層のコート幅が75%となるようにし、かつ隔壁の流出側端から延伸方向に沿って流入側に隔壁の延伸方向の全長の75%の距離延在する領域を流出側触媒領域とすることで流出側触媒層のコート幅が75%となるようにした点を除いて、実施例1と同様の方法により、EHCを作製した。
【0060】
[実施例3]
隔壁の流入側端から延伸方向に沿って流出側に隔壁の延伸方向の全長の60%の距離延在する領域を流入側触媒領域とすることで流入側触媒層のコート幅が60%となるようにし、かつ隔壁の流出側端から延伸方向に沿って流入側に隔壁の延伸方向の全長の60%の距離延在する領域を流出側触媒領域とすることで流出側触媒層のコート幅が60%となるようにした点を除いて、実施例1と同様の方法により、EHCを作製した。
【0061】
[比較例]
隔壁の流入側端から延伸方向に沿って流出側に隔壁の延伸方向の全長の55%の距離延在する領域を流入側触媒領域とすることで流入側触媒層のコート幅が55%となるようにし、かつ隔壁の流出側端から延伸方向に沿って流入側に隔壁の延伸方向の全長の55%の距離延在する領域を流出側触媒領域とすることで流出側触媒層のコート幅が55%となるようにした点を除いて、実施例1と同様の方法により、EHCを作製した。
【0062】
[評価]
実施例1~3及び比較例で作製したEHCについて、流入側触媒層及び流出側触媒層のコート幅に対する排ガス浄化性能及び酸素吸蔵能を評価した。
【0063】
(排ガス浄化性能)
実施例1及び比較例のEHCについて、排ガス浄化性能の指標として、排ガスのHC成分を50%浄化できる温度(HC50%浄化温度)を測定した。この際には、まず、各例のEHCをエンジンベンチの排気通路に設置し、理論空燃比でエンジンの燃焼状態を制御した。熱交換器を用いて、触媒装置への流入ガス温度を、昇温速度20℃/分で200℃から600℃まで昇温させた。エンジンの吸入空気量は35g/秒とした。昇温中の触媒への流入ガス及び触媒からの流出ガスのガス成分を分析して、HC50%浄化温度を測定した。結果を下記表1に示す。
【0064】
(酸素吸蔵能)
実施例1~3のEHCについて、酸素吸蔵能を示す指標として、最大酸素吸蔵量を求めた。この際には、最初に、各例のEHCの耐久試験として、トヨタ自動車(株)製1UR-FEエンジンを用いて、触媒床温950℃で80時間の劣化促進試験を実施した。試験では、排ガス組成について、スロットル開度とエンジン負荷を調整し、リッチ~ストイキ~リーンを一定サイクルで繰り返すことで、劣化を促進させた。続いて、耐久試験後のEHCをトヨタ自動車(株)製2AR-FEエンジンに装着し、入りガス温度を600℃に設定し、入りガス雰囲気のA/Fを14.1と15.1を目標にフィードバック制御して周期的に振幅させ、ストイキ点とA/Fセンサー出力の差分より、酸素の過不足を式:最大酸素吸蔵量(g)=0.23×ΔA/F×噴射燃料量により算出し、最大酸素吸蔵量を求めた。結果を下記表1に示す。
【0065】
【0066】
図4は、実施例1及び比較例のEHCから取得された流入側触媒層及び流出側触媒層のコート幅に対するHC50%浄化温度の変化を示すグラフである。
図5は、実施例1~3のEHCから取得された流入側触媒層及び流出側触媒層のコート幅に対する最大酸素吸蔵量の変化を示すグラフである。
【0067】
表1及び
図4に示すように、EHCでは、流入側触媒層及び流出側触媒層のコート幅が55%から90%まで大きくなるに従って、HC50%浄化温度が低下した。また、表1及び
図5に示すように、EHCでは、流入側触媒層及び流出側触媒層のコート幅が60%から90%まで大きくなるに従って、最大酸素吸蔵量が大きくなった。これらの結果は、これらのコート幅が大きくなることで流出側触媒層における流入側触媒層に重なる部分の割合が大きくなることにより、基材のSiがRhを含有する流出側触媒層まで拡散することが流入側触媒層の障壁作用により効果的に抑制されたからであると考えられる。また、それらの触媒層の排ガスとの接触面積が大きくなったからであると考えられる。
【0068】
以上、本発明の電気加熱式触媒装置(EHC)の実施形態について詳述したが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。
1:電気加熱式触媒装置(EHC)、10:基材、10Sa:流入側端面、10Sb:流出側端面、11:枠部、12:セル、12a:流入側端、12b:流出側端、14:隔壁、14a:流入側端、14b:流出側端、14X:流入側触媒領域、14Y:流出側触媒領域、20:流入側触媒層、30:流出側触媒層