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2024-162320繊維状セルロース含有物の製造方法及び繊維状セルロース複合樹脂の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162320
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】繊維状セルロース含有物の製造方法及び繊維状セルロース複合樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08B 15/06 20060101AFI20241114BHJP
   C08L 1/08 20060101ALI20241114BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20241114BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
C08B15/06
C08L1/08
C08L101/00
C08L23/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023077702
(22)【出願日】2023-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】弁理士法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中島 彰男
(72)【発明者】
【氏名】吉國 知哉
(72)【発明者】
【氏名】今井 貴章
【テーマコード(参考)】
4C090
4J002
【Fターム(参考)】
4C090AA02
4C090AA05
4C090BB02
4C090BB12
4C090BB33
4C090BB36
4C090BB52
4C090BB62
4C090BB94
4C090BC02
4C090BD19
4C090BD36
4C090CA38
4C090DA31
4J002AA00X
4J002AB01W
4J002BB21X
4J002ET016
4J002FA04W
4J002FD200
4J002FD206
4J002GT00
(57)【要約】
【課題】相溶化剤等の添加剤として融点の低い樹脂も使用可能な、好ましくは水溶性の樹脂も使用可能な繊維状セルロース含有物の製造方法、及び繊維状セルロース複合樹脂の製造方法を提供する。
【解決手段】セルロース繊維と、樹脂粉末からなる添加剤とを乾燥状態で混合して繊維状セルロース含有物とするにあたり、セルロース繊維を、カルバメート化し、平均繊維長0.1~0.5mm、含水率1~10%としておくことで、繊維状セルロース含有物とする。また、この繊維状セルロース含有物又は当該繊維状セルロース含有物及び樹脂を混練して繊維状セルロース複合樹脂とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース繊維と、樹脂粉末からなる添加剤とを乾燥状態で混合して繊維状セルロース含有物とするにあたり、
前記セルロース繊維を、カルバメート化し、平均繊維長0.1~0.5mm、含水率1~10%としておく、
ことを特徴とする繊維状セルロース含有物の製造方法。
【請求項2】
前記セルロース繊維のカルバメート基の導入量を0.5~2.0mmol/gとする、
請求項1に記載の繊維状セルロース含有物の製造方法。
【請求項3】
前記混合の温度が1~50℃である、
請求項1に記載の繊維状セルロース含有物の製造方法。
【請求項4】
前記樹脂粉末が、無水有機酸変性ポリオレフィンである、
請求項1に記載の繊維状セルロース含有物の製造方法。
【請求項5】
前記樹脂粉末の平均粒子径が1~1,000μmである、
請求項4に記載の繊維状セルロース含有物の製造方法。
【請求項6】
前記セルロース繊維の平均繊維径が0.1~19μmで、かつファイン率が20~45%である、
請求項1に記載の繊維状セルロース含有物の製造方法。
【請求項7】
前記セルロース繊維のフィブリル化率が2.0%以下である、
請求項1に記載の繊維状セルロース含有物の製造方法。
【請求項8】
前記混合に先立って前記セルロース繊維を乾燥し、
この乾燥は、前記セルロース繊維の含水率が1%以上となる範囲に留める、
請求項1に記載の繊維状セルロース含有物の製造方法。
【請求項9】
前記混合に先立って前記セルロース繊維を含水率が1%未満になるまで乾燥し、
その後、前記セルロース繊維の含水率が1%以上に戻った後に前記混合を行う、
請求項1に記載の繊維状セルロース含有物の製造方法。
【請求項10】
セルロース繊維と、樹脂粉末からなる添加剤とを乾燥状態で混合して繊維状セルロース含有物とし、この繊維状セルロース含有物又は当該繊維状セルロース含有物及び樹脂を混練して繊維状セルロース複合樹脂とするにあたり、
前記セルロース繊維を、カルバメート化し、平均繊維長0.1~0.5mm、含水率1~10%としておく、
ことを特徴とする繊維状セルロース複合樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維状セルロース含有物の製造方法及び繊維状セルロース複合樹脂の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、セルロースナノファイバーや、マイクロ繊維セルロース(ミクロフィブリル化セルロース)等の微細繊維は、樹脂の補強材としての使用が脚光を浴びている。もっとも、微細繊維が親水性であるのに対し、樹脂は疎水性であるため、微細繊維を樹脂の補強材として使用するには、当該微細繊維の分散性に問題があった。そこで、セルロース繊維に樹脂粉末からなる相溶化剤を混合する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。同提案は、スラリー状のセルロース繊維に相溶化剤を混合した後、適宜、乾燥して繊維状セルロース含有物とし、あるいは更に混練して繊維状セルロース複合樹脂とするものである。この提案によると、相溶化剤の混合によってセルロース繊維の凝集が抑えられるため、極めて有用な技術であるとされている。
【0003】
しかしながら、同提案においては相溶化剤を混合した後に乾燥することになるため、融点の高い樹脂粉末を使用しなければ乾燥時に相溶化剤が粉末状を保てなくなってしまう可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-195405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、相溶化剤等の添加剤として融点の低い樹脂も使用可能な繊維状セルロース含有物の製造方法、及び繊維状セルロース複合樹脂の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
相溶化剤等の添加剤として融点の低い樹脂をも使用可能とするためには、セルロース繊維及び添加剤の混合において乾燥を行わないものとする、つまり乾燥状態で混合(ドライ混合)するものとすればよい。しかしながら、ドライ混合するためにはセルロース繊維をスラリーの状態ではなく、乾燥した状態で相溶化剤等の添加剤と混合する必要があるが、単にセルロース繊維をスラリーの状態ではないものとしたのでは、相溶化剤等の添加剤と混合する前にセルロース繊維が不可逆的に凝集してしまう。そこで、この凝集をいかに抑制するかという観点で研究・開発を進めた結果、想到するに至ったのが次の手段である。
【0007】
すなわち、
セルロース繊維と、樹脂粉末からなる添加剤とを乾燥状態で混合して繊維状セルロース含有物とするにあたり、
前記セルロース繊維を、カルバメート化し、平均繊維長0.1~0.5mm、含水率1~10%としておく、
ことを特徴とする繊維状セルロース含有物の製造方法である。
【0008】
また、
セルロース繊維と、樹脂粉末からなる添加剤とを乾燥状態で混合して繊維状セルロース含有物とし、この繊維状セルロース含有物又は当該繊維状セルロース含有物及び樹脂を混練して繊維状セルロース複合樹脂とするにあたり、
前記セルロース繊維を、カルバメート化し、平均繊維長0.1~0.5mm、含水率1~10%としておく、
ことを特徴とする繊維状セルロース複合樹脂の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、相溶化剤等の添加剤として融点の低い樹脂も使用可能な繊維状セルロース含有物の製造方法、及び繊維状セルロース複合樹脂の製造方法となる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、発明を実施するための形態を説明する。なお、本実施の形態は、本発明の一例である。本発明の範囲は、本実施の形態の範囲に限定されない。
【0011】
本形態の繊維状セルロース含有物の製造方法においては、セルロース繊維と、樹脂粉末からなる添加剤とを乾燥状態で混合する。そして、セルロース繊維としては、ヒドロキシ基(-OH基)の一部又は全部がカルバメート基で置換されているもの、つまりカルバメート化されているものを使用する。また、当該セルロース繊維としては、平均繊維長0.1~0.5mm、含水率1~10%とされているものを使用する。このような形態とすることで、セルロース繊維の凝集が可及的に防止され、ドライ混合(つまり、乾燥を伴わない混合)が可能となっている。結果、樹脂粉末からなる添加剤として融点の低い樹脂や水溶性の樹脂も使用可能となっている。一方、繊維状セルロース複合樹脂の製造方法においては、上記繊維状セルロース含有物又は当該繊維状セルロース含有物及び樹脂を混練する。以下、詳細に説明する。
【0012】
(セルロース繊維)
本形態においてセルロース繊維(「繊維状セルロース」ともいう。)は、平均繊維径(幅)が0.1~19μmのマイクロ繊維セルロース(ミクロフィブリル化セルロース)であると好適である。このような繊維径のマイクロ繊維セルロースであると、樹脂の補強効果が著しく向上する。また、マイクロ繊維セルロースは、同じく微細繊維であるセルロースナノファイバーよりもカルバメート基で変性する(カルバメート化)のが容易である。ただし、微細化する前のセルロース原料をカルバメート化するのがより好ましく、この場合においては、マイクロ繊維セルロース及びセルロースナノファイバーは同等である。
【0013】
本形態において、マイクロ繊維セルロースは、セルロースナノファイバーよりも平均繊維径(幅)の太い繊維を意味する。具体的には、平均繊維径が、例えば0.1~19μm、好ましくは0.2~15μm、より好ましくは0.5超~10μmである。マイクロ繊維セルロースの平均繊維径が0.1μmを下回ると(未満になると)、セルロースナノファイバーであるのと変わらなくなり、樹脂の強度(特に曲げ弾性率)向上効果が十分に得られないおそれがある。また、解繊時間が長くなり、大きなエネルギーが必要になる。さらに、セルロース繊維スラリーの脱水性が悪化する。脱水性が悪化すると、乾燥に大きなエネルギーが必要になり、乾燥に大きなエネルギーをかけるとマイクロ繊維セルロースが熱劣化して、強度が低下するおそれがある。加えて、乾燥の強化は、セルロース繊維の不可逆的凝集に繋がる可能性がある。他方、マイクロ繊維セルロースの平均繊維径が19μmを上回ると(超えると)、パルプであるのと変わらなくなり、補強効果が十分でなくなるおそれがある。また、セルロース繊維の含水率の調節・維持が困難になる可能性がある
【0014】
微細繊維(マイクロ繊維セルロース及びセルロースナノファイバー)の平均繊維径の測定方法は、次のとおりである。
【0015】
まず、固形分濃度0.01~0.1質量%の微細繊維の水分散液100mlをテフロン(登録商標)製メンブレンフィルターでろ過し、エタノール100mlで1回、t-ブタノール20mlで3回溶媒置換する。次に、凍結乾燥し、オスミウムコーティングして試料とする。この試料について、構成する繊維の幅に応じて3,000倍~30,000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡SEM画像による観察を行う。具体的には、観察画像に二本の対角線を引き、対角線の交点を通過する直線を任意に三本引く。さらに、この三本の直線と交錯する合計100本の繊維の幅を目視で計測する。そして、計測値の中位径を平均繊維径とする。
【0016】
マイクロ繊維セルロースは、セルロース原料(以下、「原料パルプ」ともいう。)を解繊(微細化)することで得ることができる。原料パルプとしては、例えば、広葉樹、針葉樹等を原料とする木材パルプ、ワラ・バガス・綿・麻・じん皮繊維等を原料とする非木材パルプ、回収古紙、損紙等を原料とする古紙パルプ(DIP)等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。なお、以上の各種原料は、例えば、セルロース系パウダーなどと言われる粉砕物(粉状物)の状態等であってもよい。
【0017】
ただし、不純物の混入を可及的に避けるために、原料パルプとしては、木材パルプを使用するのが好ましい。木材パルプとしては、例えば、広葉樹クラフトパルプ(LKP)、針葉樹クラフトパルプ(NKP)等の化学パルプ、機械パルプ(TMP)等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0018】
広葉樹クラフトパルプは、広葉樹晒クラフトパルプであっても、広葉樹未晒クラフトパルプであっても、広葉樹半晒クラフトパルプであってもよい。同様に、針葉樹クラフトパルプは、針葉樹晒クラフトパルプであっても、針葉樹未晒クラフトパルプであっても、針葉樹半晒クラフトパルプであってもよい。
【0019】
機械パルプとしては、例えば、ストーングランドパルプ(SGP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、サーモグランドパルプ(TGP)、グランドパルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、リファイナーメカニカルパルプ(RMP)、漂白サーモメカニカルパルプ(BTMP)等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0020】
原料パルプとしては、リグニン含有量が1%以下のパルプを使用するのが好ましく、0.8%以下のパルプを使用するのがより好ましい。本形態においては、カルバメート基の導入量が0.5mmol/g以上となるようにセルロース繊維を加熱処理するため着色が進みやすい。しかしながら、原料パルプのリグニン含有量が1%以下であれば、リグニンを原因とする着色を確実に抑えることができる。
【0021】
リグニン含有量は、リグニン含有率試験方法(JAPAN TAPPI No.61(2000))に準拠して測定した値である。
【0022】
同様の理由から、原料パルプのカッパー価は、2以下であるのが好ましく、1以下であるのがより好ましい。
【0023】
カッパー価は、カッパー価試験方法(JIS P 8211(2011))に準拠して測定した値である。
【0024】
リグニン含有量やカッパー価の調整は、例えば、原料パルプの選定や蒸解、漂白等によることができる。
【0025】
本形態において原料パルプの白色度は、50%以上であるのが好ましく、80%以上であるのがより好ましく、82%以上であるのが特に好ましい。原料パルプ自体の白色度が50%未満であると、樹脂との溶融混練時に更に着色し、複合樹脂自体の白色度が低いものとなる。
【0026】
白色度は、JIS P 8148:2001に準拠して測定した値である。
【0027】
原料パルプは、解繊するに先立って化学的手法によって前処理することができる。化学的手法による前処理としては、例えば、酸による多糖の加水分解(酸処理)、酵素による多糖の加水分解(酵素処理)、アルカリによる多糖の膨潤(アルカリ処理)、酸化剤による多糖の酸化(酸化処理)、還元剤による多糖の還元(還元処理)等を例示することができる。ただし、化学的手法による前処理としては、酵素処理を施すのが好ましく、加えて酸処理、アルカリ処理、及び酸化処理の中から選択された1又は2以上の処理を施すのがより好ましい。以下、酵素処理について詳細に説明する。
【0028】
酵素処理に使用する酵素としては、セルラーゼ系酵素及びヘミセルラーゼ系酵素の少なくともいずれか一方を使用するのが好ましく、両方を併用するのがより好ましい。これらの酵素を使用すると、セルロース原料の解繊がより容易になる。なお、セルラーゼ系酵素は、水共存下でセルロースの分解を惹き起こす。また、ヘミセルラーゼ系酵素は、水共存下でヘミセルロースの分解を惹き起こす。
【0029】
セルラーゼ系酵素としては、例えば、トリコデルマ(Trichoderma、糸状菌)属、アクレモニウム(Acremonium、糸状菌)属、アスペルギルス(Aspergillus、糸状菌)属、ファネロケエテ(Phanerochaete、担子菌)属、トラメテス(Trametes、担子菌)属、フーミコラ(Humicola、糸状菌)属、バチルス(Bacillus、細菌)属、スエヒロタケ(Schizophyllum、担子菌)属、ストレプトミセス(Streptomyces、細菌)属、シュードモナス(Pseudomonas、細菌)属などが産生する酵素を使用することができる。これらのセルラーゼ系酵素は、試薬や市販品として購入可能である。市販品としては、例えば、セルロイシンT2(エイチピィアイ社製)、メイセラ-ゼ(明治製菓社製)、ノボザイム188(ノボザイム社製)、マルティフェクトCX10L(ジェネンコア社製)、セルラーゼ系酵素GC220(ジェネンコア社製)等を例示することができる。
【0030】
また、セルラーゼ系酵素としては、EG(エンドグルカナーゼ)及びCBH(セロビオハイドロラーゼ)のいずれかもを使用することもできる。EG及びCBHは、それぞれを単体で使用しても、混合して使用してもよい。また、ヘミセルラーゼ系酵素と混合して使用してもよい。
【0031】
ヘミセルラーゼ系酵素としては、例えば、キシランを分解する酵素であるキシラナーゼ(xylanase)、マンナンを分解する酵素であるマンナーゼ(mannase)、アラバンを分解する酵素であるアラバナーゼ(arabanase)等を使用することができる。また、ペクチンを分解する酵素であるペクチナーゼも使用することができる。
【0032】
ヘミセルロースは、植物細胞壁のセルロースミクロフィブリル間にあるペクチン類を除いた多糖類である。ヘミセルロースは多種多様で木材の種類や細胞壁の壁層間でも異なる。針葉樹の2次壁では、グルコマンナンが主成分であり、広葉樹の2次壁では4-O-メチルグルクロノキシランが主成分である。そこで、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)から微細繊維を得る場合は、マンナーゼを使用するのが好ましい。また、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)から微細繊維を得る場合は、キシラナーゼを使用するのが好ましい。
【0033】
セルロース原料に対する酵素の添加量は、例えば、酵素の種類、原料となる木材の種類(針葉樹か広葉樹か)、機械パルプの種類等によって決まる。ただし、セルロース原料に対する酵素の添加量は、好ましくは0.1~3質量%、より好ましくは0.3~2.5質量%、特に好ましくは0.5~2質量%である。酵素の添加量が0.1質量%を下回ると、酵素の添加による効果が十分に得られないおそれがある。他方、酵素の添加量が3質量%を上回ると、セルロースが糖化され、微細繊維の収率が低下するおそれがある。また、添加量の増量に見合う効果の向上を認めることができないとの問題もある。
【0034】
酵素としてセルラーゼ系酵素を使用する場合、酵素処理時のpHは、酵素反応の反応性の観点から、弱酸性領域(pH=3.0~6.9)であるのが好ましい。他方、酵素としてヘミセルラーゼ系酵素を使用する場合、酵素処理時のpHは、弱アルカリ性領域(pH=7.1~10.0)であるのが好ましい。
【0035】
酵素処理時の温度は、酵素としてセルラーゼ系酵素及びヘミセルラーゼ系酵素のいずれを使用する場合においても、好ましくは30~70℃、より好ましくは35~65℃、特に好ましくは40~60℃である。酵素処理時の温度が30℃以上であれば、酵素活性が低下し難くなり、処理時間の長期化を防止することができる。他方、酵素処理時の温度が70℃以下であれば、酵素の失活を防止することができる。
【0036】
酵素処理の時間は、例えば、酵素の種類、酵素処理の温度、酵素処理時のpH等によって決まる。ただし、一般的な酵素処理の時間は、0.5~24時間である。
【0037】
酵素処理した後には、酵素を失活させるのが好ましい。酵素を失活させる方法としては、例えば、アルカリ水溶液(好ましくはpH10以上、より好ましくはpH11以上)を添加する方法、80~100℃の熱水を添加する方法等が存在する。
【0038】
なお、酵素処理するとセルロースがオリゴ糖や単糖に分解され、これらが熱を受けるとカルメ焼きのように褐変して着色する。したがって、酵素処理後は、念入りに原料パルプを水洗するのが好ましい。
【0039】
次に、アルカリ処理の方法について説明する。
解繊に先立ってアルカリ処理すると、パルプが持つヘミセルロースやセルロースの水酸基が一部解離し、分子がアニオン化することで分子内及び分子間水素結合が弱まり、解繊におけるセルロース原料の分散が促進される。
【0040】
アルカリ処理に使用するアルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、アンモニア水溶液、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム等の有機アルカリ等を使用することができる。ただし、製造コストの観点からは、水酸化ナトリウムを使用するのが好ましい。
【0041】
解繊に先立って酵素処理や酸処理、酸化処理を施すと、マイクロ繊維セルロースの保水度を低く、結晶化度を高くすることができ、かつ均質性を高くすることができる。この点、マイクロ繊維セルロースの保水度が低いと脱水し易くなり、セルロース繊維スラリーの脱水性が向上する。
【0042】
原料パルプを酵素処理や酸処理、酸化処理すると、パルプが持つヘミセルロースやセルロースの非晶領域が分解される。結果、解繊のエネルギーを低減することができ、セルロース繊維の均一性や分散性を向上することができる。ただし、前処理は、マイクロ繊維セルロースのアスペクト比を低下させるため、樹脂の補強材として使用する場合には、過度の前処理を避けるのが好ましい。
【0043】
原料パルプの解繊は、例えば、ビーター、高圧ホモジナイザー、高圧均質化装置等のホモジナイザー、グラインダー、摩砕機等の石臼式摩擦機、単軸混練機、多軸混練機、ニーダーリファイナー、ジェットミル等を使用して原料パルプを叩解することによって行うことができる。ただし、リファイナーやジェットミルを使用して行うのが好ましい。
【0044】
マイクロ繊維セルロースの平均繊維長(単繊維の長さの平均)は、好ましくは0.1~0.5mm、より好ましくは0.20~0.47mm、特に好ましくは0.30~0.45mmである。平均繊維長が0.1mmを下回ると、脱水中に流出し易くなる、乾燥中に凝集し易くなる等の問題が発生する可能性がある。また、平均繊維長が短いと、繊維同士の三次元ネットワークが形成されず、複合樹脂の曲げ弾性率等が低下する可能性があり、補強効果が向上しないとされる可能性がある。他方、平均繊維長が0.5mmを上回ると、乾燥中における繊維の体積変化が大きくなり、この体積変化に伴って繊維が凝集する可能性がある。
【0045】
マイクロ繊維セルロースの平均繊維長は、例えば、原料パルプの選定、前処理、解繊等で任意に調整可能である。
【0046】
平均繊維長及び下記のファイン率は、バルメット社製の繊維分析計「FS5」によって測定する。
【0047】
マイクロ繊維セルロースのファイン率は、20~45%であるのが好ましく、25~43%であるのがより好ましく、30~41%であるのが特に好ましい。ファイン率が20%未満であると、樹脂との溶融混練時の粘度が高くなりすぎることで、混練機のトルクが上昇し、安定して生産可能な処理量が減り、生産性が悪化する可能性がある。他方、ファイン率が45%を超えると、乾燥時の不可逆的な凝集が強くなり、樹脂との溶融混練中に繊維が極端な分散不良を起こし、複合樹脂の物性が低下する可能性がある。
【0048】
ファイン率の調整は、酵素処理等の前処理によって行うことができる。ただし、特に酵素処理する場合は、繊維自体がボロボロになって樹脂の補強効果が低下する可能性がある。したがって、この観点からの酵素の添加量は、2質量%以下であるのが好ましく、1質量%以下であるのがより好ましく、0.5質量%以下であるのが特に好ましい。また、酵素処理しない(添加量0質量%)のも1つの選択枠である。
【0049】
ファイン率(Fine率)とは、繊維長が0.2mm以下であるパルプ繊維の質量基準の割合をいう。
【0050】
マイクロ繊維セルロースのアスペクト比は、好ましくは2~15000、より好ましくは10~10000である。アスペクト比が2を下回ると、三次元ネットワークを十分に構築することができないため、たとえ平均繊維長が0.1mm以上であるとしても、補強効果が不十分となるおそれがある。他方、アスペクト比が15000を上回ると、マイクロ繊維セルロース同士の絡み合いが高くなり、樹脂中での分散が不十分となるおそれがある。
【0051】
アスペクト比とは、平均繊維長を平均繊維幅で除した値である。アスペクト比が大きいほど引っかかりが生じる箇所が多くなるため補強効果が上がるが、他方で引っかかりが多くなる分、樹脂の延性が低下するものと考えられる。
【0052】
マイクロ繊維セルロースのフィブリル化率は、好ましくは2.0%以下、より好ましくは0.1~2.0%、特に好ましくは0.2~1.5%である。フィブリル化率が2.0%を超えると、乾燥時に周囲の繊維との接点が多くなることで強く凝集し易くなり、樹脂と溶融混練した際に極端に分散不良となることから、複合樹脂の物性が低下する可能性がある。他方、フィブリル化率が0.1%未満であると、複合樹脂中で樹脂への引っ掛かりが無さ過ぎて外力が加わった際に破壊し易い脆い材料となる可能性がある。
【0053】
フィブリル化率は、繊維全体の投射部に対する小繊維の投射部の割合であり、毛羽立ち部分/毛羽立ちを含めた繊維全体である。この値は、例えば、バルメット社製の繊維分析計「FS5」によって測定する。
【0054】
マイクロ繊維セルロースの結晶化度は、好ましくは50%以上、より好ましくは55%以上、特に好ましくは60%以上である。結晶化度が50%を下回ると、パルプやセルロースナノファイバー等の他の繊維との混合性は向上するものの、繊維自体の強度が低下するため、樹脂の強度を向上することができなくなるおそれがある。他方、マイクロ繊維セルロースの結晶化度は、好ましくは95%以下、より好ましくは90%以下、特に好ましくは85%以下である。結晶化度が95%を上回ると、分子内の強固な水素結合割合が多くなり、繊維自体が剛直となり、分散性が劣るようになる。
【0055】
マイクロ繊維セルロースの結晶化度は、例えば、原料パルプの選定、前処理、微細化処理で任意に調整可能である。
【0056】
結晶化度は、JIS K 0131(1996)に準拠して測定した値である。
【0057】
マイクロ繊維セルロースのパルプ粘度は、好ましくは2cps以上、より好ましくは4cps以上である。マイクロ繊維セルロースのパルプ粘度が2cpsを下回ると、マイクロ繊維セルロースの凝集を抑制するのが困難になるおそれがある。
【0058】
パルプ粘度は、TAPPI T 230に準拠して測定した値である。
【0059】
マイクロ繊維セルロースのフリーネスは、好ましくは500ml以下、より好ましくは300ml以下、特に好ましくは100ml以下である。マイクロ繊維セルロースのフリーネスが500mlを上回ると、樹脂の強度向上効果が十分に得られなくなるおそれがある。
【0060】
フリーネスは、JIS P8121-2(2012)に準拠して測定した値である。
【0061】
マイクロ繊維セルロースのゼータ電位は、好ましくは-150~20mV、より好ましくは-100~0mV、特に好ましくは-80~-10mVである。ゼータ電位が-150mVを下回ると、樹脂との相溶性が著しく低下し補強効果が不十分となるおそれがある。他方、ゼータ電位が20mVを上回ると、分散安定性が低下するおそれがある。
【0062】
マイクロ繊維セルロースの保水度は、好ましくは80~400%、より好ましくは90~350%、特に好ましくは100~300%である。保水度が80%を下回ると、原料パルプと変わらないため補強効果が不十分となるおそれがある。他方、保水度が400%を上回ると、脱水性が劣る傾向にあり、また、凝集し易くなる。一方、保水度が80~400%であれば、後述する繊維状セルロース含有物の含有水分率を10%以下にするのが容易になり、繊維が傷みにくくなるため、複合樹脂の強度向上に資する。なお、マイクロ繊維セルロースの保水度は、当該繊維のヒドロキシ基がカルバメート基に置換されていることで、より低くすることができ、脱水性や乾燥性を高めることができる。
【0063】
マイクロ繊維セルロースの保水度は、例えば、原料パルプの選定、前処理、解繊等で任意に調整可能である。
【0064】
保水度は、JAPAN TAPPI No.26(2000)に準拠して測定した値である。
【0065】
マイクロ繊維セルロースの含水率は、好ましくは1~10%、より好ましくは2~10%、特に好ましくは3~10%である。含水率が1%未満であると、繊維同士が帯電によって付着し、繊維凝集の原因となる可能性がある。繊維帯電の問題は、セルロース繊維を処理する各種装置の入口付近に当該セルロース繊維が付着する、セルロース繊維のブリッジが形成される等の問題もはらんでいる。他方、含水率が10%を超えると、繊維同士が水分によって付着し、繊維凝集の原因となる可能性がある。
【0066】
マイクロ繊維セルロースの含水率の調節方法としては、例えば、樹脂粉末からなる添加剤との混合に先立ってマイクロ繊維セルロースを乾燥するものの、この乾燥をマイクロ繊維セルロースの含水率が1%以上(好適には、3~10%)となる範囲に留める方法がある。また、別の方法としては、マイクロ繊維セルロースの乾燥を当該マイクロ繊維セルロースの含水率が1%未満になるまで行いつつ、その後、含水率が1%以上に戻るのを待ち、1%以上となった後に樹脂粉末からなる添加剤と混合する方法等がある。
【0067】
いずれにしても重要なのは、マイクロ繊維セルロースのサイズ、特に平均繊維長と含水率との関係である。すなわち、繊維サイズが大き過ぎると表面及び内部の含水率差が大きくなり、内部の水分が浸み出して繊維凝集の原因になる可能性がある。他方、繊維サイズが小さすぎると繊維の周りを他の繊維が覆った状態になり、含水率の差が生じて繊維サイズが大きい場合と同様の問題が生じる可能性がある。
【0068】
なお、好適な繊維サイズについては、前述したとおりである。また、乾燥するに先立って必要により脱水して脱水物にすることもできる。この脱水は、例えば、ベルトプレス、スクリュープレス、フィルタープレス、ツインロール、ツインワイヤーフォーマ、バルブレスフィルタ、センターディスクフィルタ、膜処理、遠心分離機等の脱水装置の中から1種又は2種以上を選択使用して行うことができる。
【0069】
セルロース繊維の乾燥は、例えば、ロータリーキルン乾燥、円板式乾燥、気流式乾燥、媒体流動乾燥、スプレー乾燥、ドラム乾燥、スクリューコンベア乾燥、パドル式乾燥、一軸混練乾燥、多軸混練乾燥、真空乾燥、攪拌乾燥等の中から1種又は2種以上を選択使用して行うことができる。
【0070】
セルロース繊維の含水率(含有水分率)は、定温乾燥機を用いて、試料を105℃で6時間以上保持し質量の変動が認められなくなった時点の質量を乾燥後質量とし、下記式にて算出した値である。
含有水分率(%)=[(乾燥前質量-乾燥後質量)÷乾燥前質量]×100
【0071】
マイクロ繊維セルロースは、カルバメート基を有する。どのようにしてカルバメート基を有するものとされているかは特に限定されない。例えば、セルロース原料がカルバメート化されていることでカルバメート基を有するものであっても、マイクロ繊維セルロース(微細化されたセルロース原料)がカルバメート化されることでカルバメート基を有するものであってもよい。
【0072】
なお、カルバメート基を有するとは、繊維状セルロースにカルバメートが導入された状態を意味する。カルバメート基は、-O-CO-NH-で表される基であり、例えば、-O-CO-NH、-O-CONHR、-O-CO-NR等で表わされる基である。つまり、カルバメート基は、下記の構造式(1)で示すことができる。
【0073】
【化1】
【0074】
ここで、nは1以上の整数を表す。Rは、それぞれ独立して、水素、飽和直鎖状炭化水素基、飽和分岐鎖状炭化水素基、飽和環状炭化水素基、不飽和直鎖状炭化水素基、不飽和分岐鎖状炭化水素基、芳香族基、及びこれらの誘導基の少なくともいずれかである。
【0075】
飽和直鎖状炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1~10の直鎖状のアルキル基を挙げることができる。
【0076】
飽和分岐鎖状炭化水素基としては、例えば、イソプロピル基、sec-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基等の炭素数3~10の分岐鎖状アルキル基を挙げることができる。
【0077】
飽和環状炭化水素基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ノルボルニル基等のシクロアルキル基を挙げることができる。
【0078】
不飽和直鎖状炭化水素基としては、例えば、エテニル基、プロペン-1-イル基、プロペン-3-イル基等の炭素数2~10の直鎖状のアルケニル基、エチニル基、プロピン-1-イル基、プロピン-3-イル基等の炭素数2~10の直鎖状のアルキニル基等を挙げることができる。
【0079】
不飽和分岐鎖状炭化水素基としては、例えば、プロペン-2-イル基、ブテン-2-イル基、ブテン-3-イル基等の炭素数3~10の分岐鎖状アルケニル基、ブチン-3-イル基等の炭素数4~10の分岐鎖状アルキニル基等を挙げることができる。
【0080】
芳香族基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等を挙げることができる。
【0081】
誘導基としては、例えば、上記飽和直鎖状炭化水素基、飽和分岐鎖状炭化水素基、飽和環状炭化水素基、不飽和直鎖状炭化水素基、不飽和分岐鎖状炭化水素基及び芳香族基が有する1又は複数の水素原子が、置換基(例えば、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ハロゲン原子等。)で置換された基を挙げることができる。
【0082】
カルバメート基を有する(カルバメート基が導入された)マイクロ繊維セルロースにおいては、極性の高いヒドロキシ基の一部又は全部が、相対的に極性の低いカルバメート基に置換されている。したがって、カルバメート基を有するマイクロ繊維セルロースは、親水性が低く、極性の低い樹脂等との親和性が高い。結果、カルバメート基を有するマイクロ繊維セルロースは、樹脂との均一分散性に優れる。また、カルバメート基を有するマイクロ繊維セルロースのスラリーは、粘性が低く、ハンドリング性が良い。
【0083】
マイクロ繊維セルロースのヒドロキシ基に対するカルバメート基の導入量は、好ましくは0.5~2.0mmol/g、より好ましくは0.5~1.5mmol/g、特に好ましくは0.5~1.0mmol/gである。導入量を0.5mmol/g以上にすると、セルロース繊維の持つ水酸基に起因して生じるセルロース繊維同士の水素結合が弱まり(凝集緩和効果)、加えて水酸基よりも疎水性の高いカルバメート基の導入により、樹脂との親和性が高まり(親和性向上効果)、結果、樹脂中においてマイクロ繊維セルロース同士が凝集せず、樹脂補強の役割を確実に果たすようになるためと考える。もっとも、導入量が2.0mmol/gを超えると、マイクロ繊維セルロースの含水率を上げるのが困難になり、また、マイクロ繊維セルロースの含水率を調節するのも難しくなる。なお、導入量が2.0mmol/gを超えると、複合樹脂の耐熱性が低下するとの問題も生じる可能性がある。この点、セルロース繊維が熱を受けると、通常水酸基の脱離等が発生し、脱離等が発生した箇所を起点に分子鎖が短くなり得る。そして、水酸基の一部がカルバメート化等で変性されていると、水酸基の脱離がより発生し易くなる。故に、カルバメート化率を上げ過ぎると分子鎖が短くなり過ぎてしまい、分解温度が下がり、耐熱性が落ちるものと考えられる。また、カルバメート基の導入量が2.0mmol/gを超えると、セルロース繊維をカルバメート化する場合においてパルプの平均繊維長が短くなり、結果としてマイクロ繊維セルロースの平均繊維長が0.1mm未満となり易くなるとの問題もある。
【0084】
本形態においてカルバメート基の導入量(mmol/g)とは、カルバメート基を有するセルロース原料1gあたりに含まれるカルバメート基の物質量をいう。カルバメート基の導入量は、カルバメート化したパルプ内に存在するN原子をケルダール法によって測定し、単位重量当たりのカルバメート化率を算出する。また、セルロースは、無水グルコースを構造単位とする重合体であり、一構造単位当たり3つのヒドロキシ基を有する。
【0085】
<カルバメート化>
マイクロ繊維セルロース(解繊前にカルバメート化する場合は、セルロース原料。以下、同様であり、「マイクロ繊維セルロース等」ともいう。)にカルバメート基を導入する(カルバメート化)点については、前述したようにセルロース原料をカルバメート化してから微細化する方法と、セルロース原料を微細化してからカルバメート化する方法とがある。この点、本明細書においては、先にセルロース原料の解繊について説明し、その後にカルバメート化(変性)について説明している。しかしながら、解繊及びカルバメート化は、どちらを先に行うこともできる。ただし、先にカルバメート化を行い、その後に、解繊をする方が好ましい。解繊する前のセルロース原料は脱水効率が高く、また、カルバメート化に伴う加熱によってセルロース原料が解繊され易い状態になるためである。
【0086】
マイクロ繊維セルロース等をカルバメート化する工程は、例えば、混合処理、除去処理、及び加熱処理に、主に区分することができる。なお、混合処理及び除去処理は合わせて、加熱処理に供される混合物を調製する調製処理ということもできる。また、カルバメート化は、有機溶剤を使用せずに化学変性することができるという利点を有する。
【0087】
混合処理においては、マイクロ繊維セルロース等(前述したようにセルロース原料の場合もある。以下、同様。)と尿素又は尿素の誘導体(以下、単に「尿素等」ともいう。)とを分散媒中で混合する。
【0088】
尿素や尿素の誘導体としては、例えば、尿素、チオ尿素、ビウレット、フェニル尿素、ベンジル尿素、ジメチル尿素、ジエチル尿素、テトラメチル尿素、尿素の水素原子をアルキル基で置換した化合物等を使用することができる。これらの尿素又は尿素の誘導体は、それぞれを単独で又は複数を組み合わせて使用することができる。ただし、尿素を使用するのが好ましい。
【0089】
マイクロ繊維セルロース等に対する尿素等の混合質量比(尿素等/マイクロ繊維セルロース等)の下限は、好ましくは8/100、より好ましくは5/100である。他方、上限は、好ましくは20/100、より好ましくは15/100である。混合質量比を5/100以上にすることで、カルバメート化の効率が向上する。他方、混合質量比が20/100を上回っても、マイクロ繊維セルロースと反応しない尿素が増加し、尿素が熱分解することで生じるアンモニアガスが多くなり、ガスの処理に必要なスクラバー等の設備が大規模なものが必要となるため、コストが増加し、産業上好ましくない。
【0090】
分散媒は、通常、水である。ただし、アルコール、エーテル等の他の分散媒や、水と他の分散媒との混合物を用いてもよい。
【0091】
混合処理においては、例えば、水にマイクロ繊維セルロース等及び尿素等を添加しても、尿素等の水溶液にマイクロ繊維セルロース等を添加しても、マイクロ繊維セルロース等を含むスラリーに尿素等を添加してもよい。また、均一に混合するために、添加後、攪拌してもよい。さらに、マイクロ繊維セルロース等と尿素等とを含む分散液には、その他の成分が含まれていてもよい。
【0092】
除去処理においては、混合処理において得られたマイクロ繊維セルロース等及び尿素等を含む分散液から分散媒を除去する。分散媒を除去することで、これに続く加熱処理において効率的に尿素等を反応させることができる。
【0093】
分散媒の除去は、加熱によって分散媒を揮発させることで行うのが好ましい。この方法によると、尿素等の成分を残したまま分散媒のみを効率的に除去することができる。
【0094】
除去処理における加熱温度の下限は、分散媒が水である場合は、好ましくは50℃、より好ましくは70℃、特に好ましくは90℃である。加熱温度を50℃以上にすることで効率的に分散媒を揮発させる(除去する)ことができる。他方、加熱温度の上限は、好ましくは120℃、より好ましくは100℃である。加熱温度が120℃を上回ると、分散媒と尿素が反応し、尿素が単独分解するおそれがある。
【0095】
除去処理における加熱時間は、分散液の固形分濃度等に応じて適宜調節することができる。具体的には、例えば、6~24時間である。
【0096】
除去処理に続く加熱処理においては、マイクロ繊維セルロース等と尿素等との混合物を加熱処理する。この加熱処理において、マイクロ繊維セルロース等のヒドロキシ基の一部又は全部が尿素等と反応してカルバメート基に置換される。より詳細には、尿素等が加熱されると下記の反応式(1)に示すようにイソシアン酸及びアンモニアに分解される。そして、イソシアン酸はとても反応性が高く、例えば、下記の反応式(2)に示すようにセルロースの水酸基にカルバメート基を形成する。
NH-CO-NH → H-N=C=O + NH …(1)
Cell-OH + H-N=C=O → Cell-O-CO-NH …(2)
【0097】
加熱処理における加熱温度の下限は、好ましくは120℃、より好ましくは130℃、特に好ましくは尿素の融点(約134℃)以上、さらに好ましくは140℃、最も好ましくは150℃である。加熱温度を120℃以上にすることで、カルバメート化が効率的に行われる。加熱温度の上限は、好ましくは200℃、より好ましくは180℃、特に好ましくは170℃である。加熱温度が200℃を上回ると、マイクロ繊維セルロース等が分解し、補強効果が不十分となるおそれがある。
【0098】
加熱処理における加熱時間の下限は、好ましくは1分、より好ましくは5分、特に好ましくは30分、更に好ましくは1時間、最も好ましくは2時間である。加熱時間を1分以上にすることで、カルバメート化の反応を確実に行うことができる。他方、加熱時間の上限は、好ましくは15時間、より好ましくは10時間である。加熱時間が15時間を上回ると、経済的ではなく、15時間で十分カルバメート化を行うことができる。
【0099】
もっとも、加熱時間の長期化は、セルロース繊維の劣化を招く。そこで、加熱処理におけるpH条件が重要となる。pHは、好ましくはpH9以上、より好ましくはpH9~13、特に好ましくはpH10~12のアルカリ性条件である。また、次善の策として、pH7以下、好ましくはpH3~7、特に好ましくはpH4~7の酸性条件又は中性条件である。pH7~8の中性条件であると、セルロース繊維の平均繊維長が短くなり、樹脂の補強効果に劣る可能性がある。これに対し、pH9以上のアルカリ性条件であると、セルロース繊維の反応性が高まり、尿素等への反応が促進され、効率良くカルバメート化反応するため、セルロース繊維の平均繊維長を十分に確保することができる。他方、pH7以下の酸性条件であると、尿素等からイソシアン酸及びアンモニアに分解する反応が進み、セルロース繊維への反応が促進され、効率良くカルバメート化反応するため、セルロース繊維の平均繊維長を十分に確保することができる。ただし、可能であれば、アルカリ性条件で加熱処理する方が好ましい。酸性条件であるとセルロースの酸加水分解が進行するおそれがあるためである。
【0100】
pHの調整は、混合物に酸性化合物(例えば、酢酸、クエン酸等。)やアルカリ性化合物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム等。)を添加すること等によって行うことができる。
【0101】
加熱処理において加熱する装置としては、例えば、熱風乾燥機、抄紙機、ドライパルプマシン等を使用することができる。
【0102】
加熱処理後の混合物は、洗浄してもよい。この洗浄は、水等で行えばよい。この洗浄によって未反応で残留している尿素等を除去することができる。
【0103】
(添加剤)
本形態のセルロース繊維含有物は、セルロース繊維と共に樹脂粉末からなる添加剤、好ましくは酸変性樹脂、より好ましくは有機酸変性樹脂を含有する。
【0104】
酸変性樹脂としては、例えば、酸変性ポリオレフィン樹脂、酸変性エポキシ樹脂、酸変性スチレン系エラストマー樹脂等を使用することができる。ただし、酸変性ポリオレフィン樹脂を使用するのが好ましい。酸変性ポリオレフィン樹脂は、不飽和カルボン酸成分とポリオレフィン成分との共重合体である。
【0105】
ポリオレフィン成分としては、例えば、エチレン、プロピレン、ブタジエン、イソプレン等のアルケンの重合体の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。ただし、好適には、エチレン、プロピレンを用いるのが好ましい。
【0106】
不飽和カルボン酸成分としては、例えば、無水マレイン酸類、無水フタル酸類、無水イタコン酸類、無水シトラコン酸類、無水クエン酸類等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。ただし、好適には、無水マレイン酸類を使用するのが好ましい。つまり、無水マレイン酸変性ポリプロピレンや、無水マレイン酸変性ポリエチレン樹脂を用いることが好ましい。
【0107】
樹脂粉末からなる添加剤の平均粒子径は、1~1,000μmが好ましく、5~800μmがより好ましく、10~500μmが特に好ましい。平均粒子径が1,000μmを超えると、乾燥状態の微細セルロース繊維と混合する際に、添加剤と微細セルロース繊維がうまく混ざらずに、片方が偏って存在することで、溶融混練した際に偏りが生じ、均一に混ざらないことから局所的にシェアを受けて発熱することで著しく着色したり、微細セルロース繊維の分散性が悪化する可能性がある。他方、平均粒子径が1μm未満であると、添加剤同士がダマになって、乾燥状態の微細セルロース繊維と混合する際に、添加剤と微細セルロース繊維がうまく混ざらなくなることでの局所的シェアによる着色や分散性悪化の可能性と、添加剤が微細な粉末であることから、取り扱い時に粉塵爆発する恐れや、吸い込むことで人体に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0108】
樹脂粉末からなる添加剤の混合量は、マイクロ繊維セルロース100質量部に対して、好ましくは10~100質量部、より好ましくは20~80質量部、特に好ましくは40~60質量部である。特に樹脂粉末からなる添加剤が無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂である場合は、好ましくは20~80質量部、より好ましくは40~60質量部である。混合量が10質量部を下回ると強度の向上が十分ではない。他方、混合量が100質量部を上回ると、過剰となり強度が低下する傾向となる。
【0109】
樹脂粉末からなる添加剤の重量平均分子量は、例えば1,000~100,000、好ましくは3,000~50,000である。
【0110】
また、樹脂粉末からなる添加剤の酸価は、0.5mgKOH/g以上、100mgKOH/g以下が好ましく、1mgKOH/g以上、50mgKOH/g以下がより好ましい。
【0111】
さらに、樹脂粉末からなる添加剤のMFR(メルトフローレート)が2000g/10分(190℃/2.16kg)以下であるのが好ましく、1500g/10分以下であるのがより好ましく、500g/10分以下であるのが特に好ましい。MFRが2000g/10分を上回ると、セルロース繊維の分散性が低下する可能性がある。
【0112】
酸価の測定は、JIS-K2501に準拠し、水酸化カリウムで滴定する。また、MFRの測定は、JIS-K7210に準拠し、190℃で2.16kgの荷重を載せ、10分間に流れ出る試料の重量で決める。
【0113】
(その他の添加剤)
本形態のセルロース繊維含有物は、好ましくは添加剤として分散剤を含有する。分散剤としては、芳香族類にアミン基及び/又は水酸基を有する化合物、脂肪族類にアミン基及び/又は水酸基を有する化合物が好ましい。
【0114】
芳香族類にアミン基及び/又は水酸基を有する化合物としては、例えば、アニリン類、トルイジン類、トリメチルアニリン類、アニシジン類、チラミン類、ヒスタミン類、トリプタミン類、フェノール類、ジブチルヒドロキシトルエン類、ビスフェノールA類、クレゾール類、オイゲノール類、没食子酸類、グアイアコール類、ピクリン酸類、フェノールフタレイン類、セロトニン類、ドーパミン類、アドレナリン類、ノルアドレナリン類、チモール類、チロシン類、サリチル酸類、サリチル酸メチル類、アニスアルコール類、サリチルアルコール類、シナピルアルコール類、ジフェニドール類、ジフェニルメタノール類、シンナミルアルコール類、スコポラミン類、トリプトフォール類、バニリルアルコール類、3-フェニル‐1-プロパノール類、フェネチルアルコール類、フェノキシエタノール類、ベラトリルアルコール類、ベンジルアルコール類、ベンゾイン類、マンデル酸類、マンデロニトリル類、安息香酸類、フタル酸類、イソフタル酸類、テレフタル酸類、メリト酸類、ケイ皮酸類などが挙げられる。
【0115】
また、脂肪族類にアミン基及び/又は水酸基を有する化合物としては、例えば、カプリルアルコール類、2-エチルヘキサノール類、ペラルゴンアルコール類、カプリンアルコール類、ウンデシルアルコール類、ラウリルアルコール類、トリデシルアルコール類、ミリスチルアルコール類、ペンタデシルアルコール類、セタノール類、ステアリルアルコール類、エライジルアルコール類、オレイルアルコール類、リノレイルアルコール類、メチルアミン類、ジメチルアミン類、トリメチルアミン類、エチルアミン類、ジエチルアミン類、エチレンジアミン類、トリエタノールアミン類、N,N-ジイソプロピルエチルアミン類、テトラメチルエチレンジアミン類、ヘキサメチレンジアミン類、スペルミジン類、スペルミン類、アマンタジン類、ギ酸類、酢酸類、プロピオン酸類、酪酸類、吉草酸類、カプロン酸類、エナント酸類、カプリル酸類、ペラルゴン酸類、カプリン酸類、ラウリン酸類、ミリスチン酸類、パルミチン酸類、マルガリン酸類、ステアリン酸類、オレイン酸類、リノール酸類、リノレン酸類、アラキドン酸類、エイコサペンタエン酸類、ドコサヘキサエン酸類、ソルビン酸類などが挙げられる。
【0116】
以上の分散剤は、セルロース繊維同士の水素結合を阻害する。したがって、マイクロ繊維セルロース及び樹脂の混練に際してマイクロ繊維セルロースが樹脂中において確実に分散するようになる。また、以上の分散剤は、マイクロ繊維セルロース及び樹脂の相溶性を向上させる役割も有する。この点でマイクロ繊維セルロースの樹脂中における分散性が向上する。
【0117】
なお、繊維状セルロース及び樹脂の混練に際して、別途、相溶剤(薬剤)を添加することも考えられるが、この段階で薬剤を添加するよりも、予め繊維状セルロースと分散剤(薬剤)を混合して繊維状セルロース含有物としておく方が、繊維状セルロースに対する薬剤の纏わりつきが均一になり、樹脂との相溶性向上効果が高くなる。
【0118】
また、例えば、ポリプロピレンは融点が160℃であり、したがって繊維状セルロース及び樹脂の混練は、180℃程度で行う。しかるに、この状態で分散剤(液)を添加すると、一瞬で乾燥してしまう。そこで、融点の低い樹脂を使用してマスターバッチ(マイクロ繊維セルロースの濃度の濃い複合樹脂)を作製し、その後に通常の樹脂で濃度を下げる方法が存在する。しかしながら、融点の低い樹脂は一般的に強度が低い。したがって、当該方法によると、複合樹脂の強度が下がるおそれがある。
【0119】
分散剤の混合量は、マイクロ繊維セルロース100質量部に対して、好ましくは0.1~1,000質量部、より好ましくは1~500質量部、特に好ましくは10~200質量部である。分散剤の混合量が0.1質量部を下回ると、樹脂強度の向上が十分ではないとされるおそれがある。他方、混合量が1,000質量部を上回ると、過剰となり樹脂強度が低下する傾向となる。
【0120】
この点、前述した酸変性樹脂等の添加剤は酸基とマイクロ繊維セルロースのカルバメート基とがイオン結合することで相溶性を向上し、もって補強効果を上げるためのものであり、分子量が大きいため樹脂とも馴染み易く、強度向上に寄与していると考えられる。一方、上記の分散剤は、マイクロ繊維セルロース同士の水酸基同士の間に介在して凝集を防ぎ、もって樹脂中での分散性を向上するものであり、また、分子量が酸変性樹脂等の添加剤に比べ小さいため、酸変性樹脂等の添加剤が入り込めないようなマイクロ繊維セルロース間の狭いスペースに入ることができ、分散性を向上して強度向上する役割を果たす。以上のような観点から、上記酸変性樹脂等の添加剤の分子量は、分散剤の分子量の2~2,000倍、好ましくは5~1,000倍であると好適である。
【0121】
以上において、粉末の平均粒子径は、粉体をそのまま又は水分散体の状態で粒度分布測定装置(例えば株式会社堀場製作所のレーザー回折・散乱式粒度分布測定器)を用いて測定される体積基準粒度分布から算出される中位径である。
【0122】
(製造方法)
セルロース繊維と、樹脂粉末からなる添加剤等とは、乾燥状態で混合(ドライ混合)して繊維状セルロース含有物とする。このドライ混合の際の温度は、好ましくは1~50℃、より好ましくは1~45℃、特に好ましくは1~40℃である。混合温度が1℃未満であると、セルロース繊維や添加剤に付着した水分が凍結することで、水が静電気を逃がすことができずに、静電気による配管内壁への付着や、混練機へのフィード不良が発生する可能性がある。他方、混合温度が50℃を超えると、セルロース繊維や添加剤に付着した水分が蒸発し、静電気を逃がす水が失われることで、静電気による配管内壁への付着や、混練機へのフィード不良が発生する可能性がある。ちなみに、本形態の方法においてはドライ混合を採用するため、この段階で水溶性の分散剤を使用することができる。
【0123】
繊維状セルロース含有物又は当該繊維状セルロース含有物及び樹脂を混練して繊維状セルロース複合樹脂とする。この点、繊維状セルロース含有物は、樹脂と混練するに先立って、好ましくは粉砕して粉状物にする。この粉砕は、例えば、ビーズミル、ニーダー、ディスパー、ツイストミル、カットミル、ハンマーミル等の中から1種又は2種以上を選択使用して行うことができる。
【0124】
粉状物の平均粒子径は、好ましくは1~10,000μm、より好ましくは10~5,000μm、特に好ましくは100~2,000μmである。粉状物の平均粒子径が10,000μmを上回ると、樹脂との混練性に劣るものになるおそれがある。他方、粉状物の平均粒子径が1μmを下回るものにするには大きなエネルギーが必要になるため、経済的でない。
【0125】
粉状物の平均粒子径の制御は、粉砕の程度を制御することのほか、フィルター、サイクロン等の分級装置を使用した分級によることができる。
【0126】
混合物(粉状物)の嵩比重は、好ましくは0.03~1.0、より好ましくは0.04~0.9、特に好ましくは0.05~0.8である。嵩比重が1.0を超えるということは繊維状セルロース同士の水素結合がより強固であり、樹脂中で分散させることは容易ではなくなることを意味する。他方、嵩比重が0.03を下回るものにするのは、移送コストの面から不利である。
【0127】
嵩比重は、JIS K7365に準じて測定した値である。
【0128】
繊維状セルロース含有物は、混練するに先立って圧縮しておくと好適である。この点、圧縮とは当該含有物(混合物)に外圧を加える処理のことを言い、例えば、粉粒状物に外圧をかけて圧縮し、ペレット状に造粒する装置を用いて行うことができる。当該装置としては、例えば、アースエンジニアリング社のバイオマスペレット製造装置、株式会社チヨダマシナリーのプレスペレッター、アプテジャパン社の木質ペレット製造装置、新興工機株式会社のバイオマスペレット製造装置、株式会社土佐テックのペレタイザー、WELHOUSE社のブリケッター、日鉄物産株式会社のブリケットマシンを例示できる。繊維状セルロース含有物は、これらの装置に投入されることで圧縮されてペレット状のマイクロ繊維セルロース固形物になる。
【0129】
以上のようにして得た繊維状セルロース含有物(樹脂の補強材)は、そのまま混練し、あるいは樹脂(樹脂の追加)と混練し、繊維状セルロース複合樹脂を得る。この混練は、例えば、ペレット状の樹脂と補強材とを混ぜ合わす方法によることのほか、樹脂をまず溶融し、この溶融物の中に補強材を添加するという方法によることもできる。
【0130】
混練処理には、例えば、単軸又は二軸以上の多軸混練機、ミキシングロール、ニーダー、ロールミル、バンバリーミキサー、スクリュープレス、ディスパーザー等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。これらの中では、二軸以上の多軸混練機を使用することが好ましい。二軸以上の多軸混練機を2機以上、並列又は直列にして、使用しても良い。
【0131】
混練処理の温度は、樹脂のガラス転移点以上であり、樹脂の種類によって異なるが、80~280℃とするのが好ましく、90~260℃とするのがより好ましく、100~240℃とするのが特に好ましい。
【0132】
樹脂としては、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂の少なくともいずれか一方を使用するのが好ましい。
【0133】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)等のポリオレフィン、脂肪族ポリエステル樹脂や芳香族ポリエステル樹脂等のポリエステル樹脂、ポリスチレン、メタアクリレート、アクリレート等のポリアクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0134】
ただし、ポリオレフィン及びポリエステル樹脂の少なくともいずれか一方を使用するのが好ましい。また、ポリオレフィンとしては、ポリプロピレンを使用するのが好ましい。さらに、ポリエステル樹脂としては、脂肪族ポリエステル樹脂として、例えば、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン等を例示することができ、芳香族ポリエステル樹脂として、例えば、ポリエチレンテレフタレート等を例示することができるが、生分解性を有するポリエステル樹脂(単に「生分解性樹脂」ともいう。)を使用するのが好ましい。
【0135】
生分解性樹脂としては、例えば、ヒドロキシカルボン酸系脂肪族ポリエステル、カプロラクトン系脂肪族ポリエステル、二塩基酸ポリエステル等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0136】
ヒドロキシカルボン酸系脂肪族ポリエステルとしては、例えば、乳酸、リンゴ酸、グルコース酸、3-ヒドロキシ酪酸等のヒドロキシカルボン酸の単独重合体や、これらのヒドロキシカルボン酸のうちの少なくとも1種を用いた共重合体等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。ただし、ポリ乳酸、乳酸と乳酸を除く上記ヒドロキシカルボン酸との共重合体、ポリカプロラクトン、上記ヒドロキシカルボン酸のうちの少なくとも1種とカプロラクトンとの共重合体を使用するのが好ましく、ポリ乳酸を使用するのが特に好ましい。
【0137】
この乳酸としては、例えば、L-乳酸やD-乳酸等を使用することができ、これらの乳酸を単独で使用しても、2種以上を選択して使用してもよい。
【0138】
カプロラクトン系脂肪族ポリエステルとしては、例えば、ポリカプロラクトンの単独重合体や、ポリカプロラクトン等と上記ヒドロキシカルボン酸との共重合体等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0139】
二塩基酸ポリエステルとしては、例えば、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0140】
生分解性樹脂は、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0141】
熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、フラン樹脂、不飽和ポリエステル、ジアリルフタレート樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン系樹脂、シリコーン樹脂、熱硬化性ポリイミド系樹脂等を使用することができる。これらの樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。
【0142】
樹脂には、無機充填剤が、好ましくはサーマルリサイクルに支障が出ない割合で含有されていてもよい。
【0143】
無機充填剤としては、例えば、Fe、Na、K、Cu、Mg、Ca、Zn、Ba、Al、Ti、ケイ素元素等の周期律表第I族~第VIII族中の金属元素の単体、酸化物、水酸化物、炭素塩、硫酸塩、ケイ酸塩、亜硫酸塩、これらの化合物よりなる各種粘土鉱物等を例示することができる。
【0144】
具体的には、例えば、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、亜硫酸カルシウム、酸化亜鉛、シリカ、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、ほう酸アルミニウム、アルミナ、酸化鉄、チタン酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、クレーワラストナイト、ガラスビーズ、ガラスパウダー、珪砂、硅石、石英粉、珪藻土、ホワイトカーボン、ガラスファイバー等を例示することができる。これらの無機充填剤は、複数が含有されていてもよい。また、古紙パルプに含まれるものであってもよい。
【0145】
繊維状セルロースに対する樹脂の配合割合は、好ましくは繊維状セルロース1質量部に対して樹脂が0.4~19、好ましくは0.5~13、より好ましくは0.6~9である。特に繊維状セルロース複合樹脂100質量部中の繊維状セルロースの配合割合が10~50質量部であると、樹脂組成物の強度、特に曲げ強度及び引張り弾性率の強度を著しく向上させることができる。
【0146】
なお、最終的に得られ樹脂組成物に含まれる繊維状セルロース及び樹脂の含有割合は、通常、繊維状セルロース及び樹脂の上記配合割合と同じとなる。
【0147】
マイクロ繊維セルロース及び樹脂の溶解パラメータ(cal/cm1/2(SP値)の差は、マイクロ繊維セルロースのSPMFC値、樹脂のSPPOL値とすると、SP値の差=SPMFC値-SPPOL値とすることができる。SP値の差は10~0.1が好ましく、8~0.5がより好ましく、5~1が特に好ましい。SP値の差が10を超えると、樹脂中でマイクロ繊維セルロースが分散せず、補強効果を得ることはできない可能性がある。他方、SP値の差が0.1未満であるとマイクロ繊維セルロースが樹脂に溶解してしまい、フィラーとして機能せず、補強効果が得られない。この点、樹脂(溶媒)のSPPOL値とマイクロ繊維セルロース(溶質)のSPMFC値の差が小さい程、補強効果が大きい。
【0148】
なお、溶解パラメータ(cal/cm1/2(SP値)とは、溶媒-溶質間に作用する分子間力を表す尺度であり、SP値が近い溶媒と溶質であるほど、溶解度が増す。
【0149】
(成形処理)
繊維状セルロース含有物及び樹脂の混練物は、必要により再度混練する等した後、所望の形状に成形することができる。この成形の大きさや厚さ、形状等は、特に限定されず、例えば、シート状、ペレット状、粉末状、繊維状等とすることができる。
【0150】
成形処理の際の温度は、樹脂のガラス転移点以上であり、樹脂の種類によって異なるが、例えば90~260℃、好ましくは100~240℃である。
【0151】
混練物の成形は、例えば、金型成形、射出成形、押出成形、中空成形、発泡成形等によることができる。また、混練物を紡糸して繊維状にし、前述した植物材料等と混繊してマット形状、ボード形状とすることもできる。混繊は、例えば、エアーレイにより同時堆積させる方法等によることができる。
【0152】
混練物を成形する装置としては、例えば、射出成形機、吹込成形機、中空成形機、ブロー成形機、圧縮成形機、押出成形機、真空成形機、圧空成形機等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0153】
以上の成形は、混練に続いて行うことも、混練物をいったん冷却し、破砕機等を使用してチップ化した後、このチップを押出成形機や射出成形機等の成形機に投入して行うこともできる。もちろん、成形は、本発明の必須の要件ではない。
【0154】
(その他の組成物)
繊維状セルロースには、マイクロ繊維セルロースと共にセルロースナノファイバーが含まれていてもよい。セルロースナノファイバーは、マイクロ繊維セルロースと同様に微細繊維であり、樹脂の強度向上にとってマイクロ繊維セルロースを補完する役割を有する。ただし、可能であれば、微細繊維としてセルロースナノファイバーを含むことなくマイクロ繊維セルロースのみによる方が好ましい。なお、セルロースナノファイバーの平均繊維径(平均繊維幅。単繊維の直径平均。)は、好ましくは4~100nm、より好ましくは10~80nmである。
【0155】
また、繊維状セルロースには、パルプが含まれていてもよい。パルプは、セルロース繊維スラリーの脱水性を大幅に向上する役割を有する。ただし、パルプについてもセルロースナノファイバーの場合と同様に、配合しないのが、つまり含有率0質量%であるのが最も好ましい。
【0156】
樹脂組成物には、微細繊維やパルプ等のほか、ケナフ、ジュート麻、マニラ麻、サイザル麻、雁皮、三椏、楮、バナナ、パイナップル、ココヤシ、トウモロコシ、サトウキビ、バガス、ヤシ、パピルス、葦、エスパルト、サバイグラス、麦、稲、竹、各種針葉樹(スギ及びヒノキ等)、広葉樹及び綿花などの各種植物体から得られた植物材料に由来する繊維を含ませることもでき、含まれていてもよい。
【0157】
樹脂組成物には、例えば、帯電防止剤、難燃剤、抗菌剤、着色剤、ラジカル捕捉剤、発泡剤等の中から1種又は2種以上を選択して、本発明の効果を阻害しない範囲で添加することができる。これらの原料は、繊維状セルロースの分散液に添加しても、繊維状セルロース及び樹脂の混練の際に添加しても、これらの混練物に添加しても、その他の方法で添加してもよい。ただし、製造効率の面からは、繊維状セルロース及び樹脂の混練の際に添加するのが好ましい。
【0158】
樹脂組成物には、ゴム成分として、エチレン-αオレフィン共重合エラストマー又はスチレン-ブタジエンブロック共重合体が含有されていてもよい。α-オレフィンの例としては、例えば、ブテン、イソブテン、ペンテン、ヘキセン、メチル-ペンテン、オクテン、デセン、ドデセン等が挙げられる。
【実施例0159】
次に、本発明の実施例について説明する。
パルプスラリーにサイズ剤を添加し、所定のコッブサイズ度になるようワイヤーパートにて抄紙し、次いでプレスパート、プレドライヤーパートに供して、所定の坪量となるよう紙基材を製造した。
【0160】
次いで、コーターパートにて、所定濃度の尿素水溶液を紙基材に塗工含浸し、アフタードライヤーパートで乾燥させ、尿素塗工紙を得た。得られた尿素塗工紙をロールtoロール反応装置で所定の温度、所定の滞留時間となるよう反応させて、カルバメート化した紙を得た。
【0161】
次いで、離解機を用いてカルバメート化した紙を固形分濃度5%になるように水で希釈して離解した。離解したカルバメート化パルプ水分散液は脱水洗浄を2回繰り返した。洗浄したカルバメート化したパルプはリファイナーでFine率(FS5による繊維長分布測定で0.2mm以下の繊維の割合)が40%以上となるまで叩解して、カルバメート変性マイクロ繊維セルロースを得た。
【0162】
固形分濃度3.0質量%に調整したカルバメート変性マイクロ繊維セルロース1000gを、140℃に加熱した接触式乾燥機を用いて加熱乾燥し、粉砕機で粉砕することで、含水率3~10%、平均粒形が1100μmのカルバメート変性繊維乾燥物を得た。
【0163】
密閉式の袋にカルバメート変性繊維乾燥物を絶乾重量で30g採取し、カルバメート変性繊維乾燥物と無水マレイン酸変性樹脂の乾燥重量比が表1に記載の配合割合となるように、ここに無水マレイン酸変性ポリプロピレンまたは無水マレイン酸変性ポリエチレンを添加し、袋ごと振り混ぜることで混合し、含水率3~10%のカルバメート変性繊維含有物を得た(試験例2~4、6~9)。
【0164】
また、必要に応じてこのカルバメート変性繊維含有物を105℃に加熱した恒温乾燥機内で乾燥し、含水率0%カルバメート変性繊維含有物を得た。(試験例1)
【0165】
また、カルバメート変性繊維含有物を室温下、加湿した条件に静置することで、含水率15%カルバメート変性繊維含有物を得た。(試験例5)
【0166】
なお、比較のため、以下の通り湿式混合する方法でのサンプル作製も行った(試験例10~13)。
【0167】
固形分濃度3.0質量%に調整したカルバメート変性マイクロ繊維セルロース1000gに、無水マレイン酸変性ポリプロピレンまたは無水マレイン酸変性ポリエチレンを絶乾重量比が表1に記載の配合割合となるように添加し、攪拌後、140℃に加熱した接触式乾燥機を用いて加熱乾燥し、カルバメート変性セルロース繊維含有物を得た。このカルバメート変性セルロース繊維含有物(湿式混合)の含水率3~10%であった。
【0168】
なお、無水マレイン酸ポリエチレンを用いた場合、接触型乾燥機の表面に乾燥物が覆って固着し、熱源が乾燥物に伝わらなくなり、乾燥機を正常に運転できない状態となった。
【0169】
以上のようにして得たカルバメート変性繊維含有物をφ15mmの二軸押出機を用いて、160℃~180℃、200rpmの条件で溶融混練し、2mm径、2mm長の円柱状にカットすることで、繊維配合率66.7%のカルバメート変性繊維複合樹脂を得た。
【0170】
繊維配合率66.7%のカルバメート変性繊維複合樹脂とPPペレットを用いて、混合後の繊維配合率が10.0%となるようにドライブレンドし、180℃、200rpmの条件で二軸混練機にて混練し、ペレッターで2mm径、2mm長の円柱状にカットすることで、繊維配合率10%のカルバメート変性繊維複合樹脂を得た。
【0171】
各繊維配合率10%のカルバメート変性繊維複合樹脂は、180℃で直方体試験片(長さ59mm、幅9.6mm、厚さ3.8mm)に射出成形した。
【0172】
(効果試験1)
混練に供する乾燥粉末状原料を、180℃に加温したφ15mm二軸押出機を用いて、回転数75rpmで12g/分のペースで投入する試験を行った。投入から1分後に、投入口内壁最下部に原料付着が見られる場合:×、原料付着が見られない場合:〇として、結果を表1に示した。
【0173】
【表1】
【0174】
(効果試験2)
繊維配合率10%のカルバメート変性繊維複合樹脂1g用いて、180℃で3分間熱プレス機でプレスし、円形フイルム状の凝集物確認用サンプルを得た。凝集物確認用サンプルについて、5×5cmの正方形にカットし、0.5mm以上の凝集塊の個数を目視で計数し、10個以下の場合を〇、10個より多く30個以下の場合を△、30個以上の場合を×とした。結果を表1に示した。
【0175】
ちなみに、試験例8,9において結果が△となった理由は、MAPPはMAPEより熱で溶けにくく、また、溶融混練時に溶けた状態でセルロース繊維と混合すればよく混ざるところ、MAPEは混練機に入った瞬間に溶けてセルロース繊維とよく混ざり、他方、MAPPは混練機に入ってから溶けるまで少し時間を要するため溶けた状態でセルロース繊維と混ざりあう時間がMAPEの場合より少なくなり分散性が悪くなったことによると考えられる。ただし、繊維:分散剤の分散剤比率が高いときは、繊維と繊維の間に分散剤が多く存在するため、少しの時間でも十分に分散できると言える。
【0176】
(効果試験3)
【0177】
繊維配合率10%のカルバメート変性繊維複合樹脂を射出成形した直方体試験片を用いて曲げ試験を行った。曲げ弾性率:JIS K7171準拠の曲げ試験において、2.0GPa以上を〇、2.0GPa未満を×とした。結果を表1に示した。
【産業上の利用可能性】
【0178】
本発明は、繊維状セルロース含有物の製造方法及び繊維状セルロース複合樹脂の製造方法として利用可能である。