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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162325
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】定着装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/20 20060101AFI20241114BHJP
【FI】
G03G15/20 505
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023077715
(22)【出願日】2023-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【弁理士】
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【弁理士】
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 隆史
【テーマコード(参考)】
2H033
【Fターム(参考)】
2H033AA03
2H033BA11
2H033BA12
2H033BB01
2H033BB21
2H033BB29
2H033BB30
2H033BB33
2H033BB34
2H033BE00
2H033BE06
(57)【要約】
【課題】 定着装置の支持部材(フレーム)に誘導電流の回路が生じないようにした定着装置を提供する。
【解決手段】 螺旋軸の軸線方向に見た時、コイルを囲うような、支持部材と付勢機構を経由するループ状の導電経路が形成されないように、導電経路を電気的に遮断する絶縁部材が設けられている。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電層を有する筒状の加熱部材と、前記加熱部材の内部空間に配置され、螺旋軸が前記加熱部材の長手方向と略平行である螺旋形状部を有し、前記導電層に誘導電流を発生させるための交番磁界を発生させるコイルと、前記螺旋形状部の内部空間に配置され、前記交番磁界の磁力線を誘導するためのコアと、を有する加熱ユニットと、
前記加熱部材の外周面と接触し、前記加熱部材との間に、記録材を挟持搬送するニップ部を形成する加圧部材と、
を有し、前記ニップ部でトナー像が形成された記録材を挟持搬送しつつトナー像を記録材に加熱定着する定着装置において、
前記加熱ユニットと前記加圧部材を支持するU字形状の開口部を有する導電性の支持部材と、
前記支持部材に支持されており、前記ニップ部が形成されるように前記加熱ユニットと前記加圧部材の一方を他方に対して付勢する付勢機構を有し、
前記螺旋軸の軸線方向に見た時、前記コイルを囲うような、前記支持部材と前記付勢機構を経由するループ状の導電経路が形成されないように、前記導電経路を電気的に遮断する絶縁部材が設けられていることを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記付勢機構は、付勢板と、前記ニップ部を形成するためのバネであって前記付勢板を付勢するバネと、を有し、
前記絶縁部材は、前記バネの前記付勢板が設けられた側とは反対側に設けられており、前記付勢機構による付勢力の反力を受ける部分に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
前記絶縁部材は、前記軸線方向における前記バネの位置を規制するスペーサであることを特徴とする請求項2に記載の定着装置。
【請求項4】
前記定着装置は、
前記支持部材を補強する導電性の補強部材と、
前記螺旋軸の軸線方向に見た時、前記コイルを囲うような、前記支持部材と前記補強部材を経由するループ状の第2の導電経路が形成されないように、前記第2の導電経路を電気的に遮断する第2の絶縁部材が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項5】
前記第2の絶縁部材は前記支持部材と前記補強部材の間に設けられていることを特徴とする請求項4に記載の定着装置。
【請求項6】
前記付勢機構による付勢力を可変させるための付勢力可変部材を有し、前記付勢力可変部材が前記絶縁部材であることを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリンタや複写機等の電子写真記録方式の画像形成装置に搭載される定着装置に関するもので、特に記録材と接触する回転体に電磁誘導により誘導電流を発生させて回転体を発熱させる誘導加熱方式の定着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
記録材に形成されたトナー像を記録材に定着する定着装置の一種として、誘導加熱方式の定着装置がある。特許文献1には、筒状のベルトの内部に配置された金属製のステーに、誘導電流の回路が生じないように工夫した誘導加熱方式の定着装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-118258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
定着装置として誘導加熱方式を採用する場合、定着用の回転体以外の箇所で誘導電流が発生するのを抑える設計が求められる。
【0005】
本発明の目的は、定着装置の支持部材(フレーム)に誘導電流の回路が生じないようにした定着装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の課題を解決するための本発明は、導電層を有する筒状の加熱部材と、前記加熱部材の内部空間に配置され、螺旋軸が前記加熱部材の長手方向と略平行である螺旋形状部を有し、前記導電層に誘導電流を発生させるための交番磁界を発生させるコイルと、前記螺旋形状部の内部空間に配置され、前記交番磁界の磁力線を誘導するためのコアと、を有する加熱ユニットと、前記加熱部材の外周面と接触し、前記加熱部材との間に、記録材を挟持搬送するニップ部を形成する加圧部材と、を有し、前記ニップ部でトナー像が形成された記録材を挟持搬送しつつトナー像を記録材に加熱定着する定着装置において、前記加熱ユニットと前記加圧部材を支持するU字形状の開口部を有する導電性の支持部材と、前記支持部材に支持されており、前記ニップ部が形成されるように前記加熱ユニットと前記加圧部材の一方を他方に対して付勢する付勢機構を有し、前記螺旋軸の軸線方向に見た時、前記コイルを囲うような、前記支持部材と前記付勢機構を経由するループ状の導電経路が形成されないように、前記導電経路を電気的に遮断する絶縁部材が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
以上説明したように、本発明によれば、定着装置の支持部材(フレーム)に誘導電流の回路が生じないようにした定着装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】画像形成装置の概略構成図
図2】実施例1の定着装置の一端部の斜視図
図3】ベルトユニットの内部構造を示す斜視図
図4】実施例1の定着装置の構造を示す斜視図
図5】実施例1の定着装置の構造を示す斜視図
図6】実施例1の定着装置の付勢状態と付勢解除状態を示す図
図7】実施例2の定着装置の構造を示す斜視図
図8】実施例2の定着装置の一端部の斜視図
図9】実施例2の定着装置の付勢状態と付勢解除状態を示す図
【発明を実施するための形態】
【0009】
(実施例1)
以下に図を用いて、本発明を実施するための最良の形態を例示的に詳しく説明する。但し、この実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材料、形状それらの相対的な位置などは、発明が適用される装置の構成や各種条件により適宜変更されるべきものであり、本発明の範囲を以下の形態に限定する趣旨のものではない。
【0010】
(画像形成装置の構成)
プリンタ(画像形成装置)1の全体構成について図1を用いて説明する。プリンタ1は画像情報に応じたレーザ光で感光体を走査するレーザビームプリンタである。
【0011】
プリンタ1は、記録材給送部と画像形成部を備えている。記録材給送部において、カセット2内に積載された記録材Pは、給紙ローラ3により最上位の記録材Pから一枚ずつピックアップされ、レジスト部へと送られる。記録材Pはレジストローラ4とレジストコロ5からなるレジスト部で姿勢を整えられた後、画像形成部へと給送される。
【0012】
画像形成部は、矢印方向に回転する感光体6と、感光体6を帯電させる帯電器7と、画像情報に応じたレーザ光で感光体6を走査するレーザスキャナ10を有する。更に、感光体6に形成された静電潜像をトナーで現像する現像器8、感光体6から記録材Pにトナー像を転写する転写ローラ11、感光体6上の残留トナーを除去するクリーナ9を有する。符号12は、感光体6と転写ローラ11によって形成された転写部を示している。
【0013】
トナー像が転写された記録材Pは、定着装置13に搬送される。定着装置13により記録材P上のトナー像が記録材Pに加熱定着される。定着装置13を通過した記録材Pは、排紙ローラ対14によって排紙トレイ15に排紙される。
【0014】
(定着装置の構成)
図2及び図3を用いて定着装置13を説明する。図2(A)及び図2(B)は定着装置13の斜視図、図3は定着装置13の内部構造を示した斜視図である。
【0015】
定着装置13は、導電層を有するベルト(フィルムとも称する)22と、ベルト22の外周面に接触する加圧ローラ(加圧部材)16を有する。ベルト22が筒状の加熱部材に相当する。ベルト22の内部空間には、螺旋軸がベルト22の長手方向と略平行である螺旋形状部を有するコイル23が配置されている。コイル23に高周波電流を流すとベルト22の導電層に誘導電流が発生し、導電層が発熱する。コイル23の螺旋形状部の内部空間には、交番磁界の磁力線を誘導するためのコア24が配置されている。コア24は樹脂製のコア保持部材51に保持されている。コア保持部材51はステー19に保持されている。ステー19は、記録材Pを挟持搬送するためのニップ部Nを形成するのに必要なバネ30の付勢力を定着装置13の長手全体に伝える部材である。ステー19を境にしてコア保持部材51の反対側には摺動板保持部材21が配置されている。摺動板保持部材21は摺動板20を保持し、ベルト22は摺動板20と摺接しながら回転する。
【0016】
ベルト22は基層がポリアミドイミドやポリイミドのような耐熱樹脂であり、基層上に導電層が形成されている。導電層は銅、銀等の導電性材料である。導電層上には保護層が形成されており、基層と同じ材料の耐熱樹脂である。保護層上にはシリコーンゴム等を材質とする弾性層が形成され、弾性層上にはフッ素樹脂等を材質とする離型層が形成されている。ベルト22は導電層があれば良いため、発熱層はニッケル、ステンレス等の金属を材質とする円筒の上に、弾性層、離型層を形成した部材でも良い。ベルト22の両端部にはフランジ35がベルト22の端面に対向して配置されており、ベルト22の長手方向への寄り移動を規制している。またフランジ35はベルト22の内面に対向する部分も有し、ベルト22の回転をガイドしている。フランジ35はステー19に対して位置決め、固定されている。
【0017】
加圧ローラ(ローラ)16は芯軸部17とシリコーンゴム等を材質とする耐熱弾性層18で構成されている。芯軸部17の端部にはギアが設けられており、このギアがモータから動力を受けることで加圧ローラ16は回転する。加圧ローラ16はベルト22の外周面に接触しており、ベルト22との間に、記録材Pを挟持搬送するニップ部Nを形成している。ベルト22は加圧ローラ16が回転することで回転する。
【0018】
コア24は、例えば焼成フェライト、フェライト樹脂、非晶質合金のアモルファス合金、パーマロイ等の、高透磁率の酸化物や合金で構成される強磁性体である。コア24はコアの軸方向において有端形状である。コア24は、ベルト22の内部に収納可能な範囲で極力大きな断面積であるのが好ましい。コア24の形状は円柱形状に限定されず、角柱形状なども選択できる。
【0019】
コイル23は、例えば細い線材を撚り合わせたリッツ線等により形成されている。コイル23は、ベルト22の回転軸方向に挿通されたコア24の周囲に螺旋形状部を形成している。なお、コア24とコイル23の間には耐熱樹脂等の不図示の絶縁部材が介在している。
【0020】
ステー19は、バネ30の付勢力がニップ部Nの長手方向に亘って均一に伝えられる高ヤング率の材料が好ましい。ステー19の材料が、非磁性材料でオーステナイト系ステンレスであるSUS304、SUS316であれば渦電流の発生を抑えることができる。
【0021】
摺動板保持部材21は、LCP(液晶ポリマー)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)等の耐熱性樹脂が好ましい。耐熱性樹脂によってベルト22の熱をステー19まで伝熱させにくくでき、ベルト22の発熱量を効率的に定着処理に用いることが可能となる。
【0022】
摺動板20は、ベルト22の内面摩耗を抑制するために平滑性が求められる。例えば、アルミ合金、耐熱樹脂等で作製し、ベルト22との摺動面の平滑性を高めた部品である。また、摺動性をさらに高めるためにフッ素樹脂コーティング等の表面処理を行っても良い。
【0023】
以上のような構成で高周波電流がコイル23に供給されることで発生する交番磁束が、透磁率の高いコア24に集中するため、ベルト22に設けられた導電層には交番磁束を打ち消す磁束を形成するように電流が誘導される。この誘導電流はベルト22の回転方向に流れ、導電層の電気抵抗と誘導電流により導電層がジュール発熱する。ベルト22が所望の温度に達した後、トナー像Tが形成された記録材Pがニップ部Nに送られる。そして、不図示のモータで加圧ローラ16を回転駆動し、トナー像Tが形成された記録材Pはニップ部Nで挟持搬送されつつ加熱され、トナー像Tは記録材Pに加熱定着される。
【0024】
(定着装置の全体構成)
以下に本実施例における定着装置13の全体構成について図2図5を用いて説明する。定着装置13のフレームを構成する側板25、26は、ベース板27とサブ板28のそれぞれの両端部に固定されている。以降では側板25側についてのみ説明するが、側板26側の構造は側板25側と同様の構成であるため説明を省略する。
【0025】
図4のように、定着装置13をその長手方向の一方から見た時、側板25はU字形状に開口した底部25aを有している。定着装置13の組立手順は、まず、側板25のU字形状の開口部から底部25aに向かって、ボールベアリング52とホルダ53が両端部に取り付けられた加圧ローラ16を挿入する。次に、ベルト22とベルト22内の部材をユニット化したベルトユニット(加熱ユニット)54を挿入する。これにより、記録材Pの搬送方向における加圧ローラ16とベルトユニット54の位置を決めする。なお、定着装置13の長手方向の小型化のため、コア24の長手寸法よりも側板25、26間の長さの方が短い関係になっている。
【0026】
次に付勢機構100の説明をする。付勢機構100は、側板25、26に支持されており、ニップ部Nが形成されるようにベルトユニット54と加圧ローラ16の一方を他方に対して付勢する機構である。記録材Pの搬送方向における側板25の上流部分には支点保持部25bが設けられており、支点保持部25bに付勢板29の支点部29aが揺動可能に支持されている。付勢板29の支店部29aが設けられた端部とは反対側の端部には、バネ保持部29bが設けられており、ニップ部Nを形成するための付勢力を発生するバネ30を付勢板29に対して位置決めしている。本実施例のバネ30は圧縮バネを用いている。バネ30の付勢方向におけるバネ保持部29bの対向側には、バネ30の付勢力を受けるスペーサ31が配置されている。スペーサ31は調整ねじ32と付勢方向で接触し、調整ねじ32は固定板33のねじ山で回転自由に保持されている。
【0027】
固定板33は側板25の引掛け穴25cと固定ねじ34で固定される。付勢板29とバネ30は定着装置13の長手方向において側板25と接触しない位置関係にある。スペーサ31は定着装置13の長手方向において側板25と接触する位置に配置されており、バネ30と側板25の間に所定の距離を確保する役割を有する。即ち、スペーサ31は、バネ30の定着装置13の長手方向(螺旋軸の軸線方向)における位置を規制する役割を有している。このような付勢機構100において、付勢板29は、支点部29aを支点として、また、バネ保持部29bを力点として、ベルトユニット54のフランジ36に対して付勢力を発生させている。また、調整ねじ32を回転させることでバネ30の圧縮量を調整できるため、ニップ部Nの圧力分布を定着装置13の長手方向の中央に対して均等にすることが可能となる。
【0028】
また、図5のように、側板25のU字形状の開口部分には補強部材39が取り付けられている。補強部材39の先端にはキャップ40が取り付けられている。キャップ40は側板25の縁に嵌合する。補強部材39は固定ねじ34で側板25に固定されている。補強部材39はバネ30の付勢力によって側板25のU字形状部分の先端が定着装置13の長手方向に変形するのを抑える目的で配置されている。
【0029】
次に付勢力の解除について図6(A)、図6(B)を使って説明する。側板25の外側には付勢力可変部材であるカム37が配置されている。カム37はカム軸38の端部に固定されており、カム37とカム軸38は側板25に対して回転自由に支持されている。カム37はカム軸38から半径方向に距離が異なる大小の曲面部を持っている。カム37の大きな曲面を第1曲面部37a、小さな曲面を第2曲面部37bとする。カム37とカム軸38は不図示のモータによってCW方向に回転する構成である。また、カム37の位相は不図示のセンサによって検知されており、ある位相を検知した後に所定時間だけ回転させて停止することカム37の位相で決めている。
【0030】
図6(A)のように、ベルトユニット54のフランジ36にバネ30の付勢力が作用している付勢状態の時、カム37の位相は、第2曲面部37bが付勢板29と対向する位相になっている。この時、第2曲面部37bと付勢板29は接触していない。逆に、付勢力を解除する付勢解除状態の時、図6(B)のように、カム37の位相は、第1曲面部37aと付勢板29が接触する位相になっている。この時、加圧ローラ16の耐熱弾性層18は摺動板20によって押しつぶされない状態である。付勢力を解除することにより、ジャムによりニップ部Nに挟まった記録材Pをユーザが容易に除去することが可能となる。
【0031】
(定着装置の部品の材料)
以下に本実施例における定着装置13の各種部品の材料について説明する。まず、ベース板27、サブ板28、固定板33は、電気亜鉛めっき鋼板等のヤング率の高い材料で構成されており、バネ30の付勢力が発生しても変形しにくくなっている。同様に側板25、26も電気亜鉛めっき鋼板等の金属板を使っている。但し、図4の破線の矢印(磁束を示している)に示すように、コイル23で発生した交番磁界によって生じる磁束のうちコア24を通らない磁束が側板25、26の面に垂直な方向に貫くことで、側板25に渦電流が発生する。これによってベルト22の導電層で誘導加熱する効率が下がってしまう。特に透磁率が高い磁性材料の金属は表面に渦電流が集中するため、より非効率である。さらに、定着装置13の小型化のために側板25と側板26の間隔を狭くすると、より交番磁界の影響を受けやすくなる。このため側板25、26の材質を非磁性材料であるSUS304、SUS316、アルミ合金、または耐熱性の樹脂とし、渦電流の発生を抑えることが好ましい。同じ原理で加圧ローラ16の芯軸部17、付勢板29、補強部材39等の側板25の周辺に構成される部材を非磁性材料にしても良い。またバネ30の付勢力が低ければ金属材料ではなく、絶縁性の樹脂材料で側板25、26等を構成しても同様の効果が得られる。
【0032】
なお、ベース板27、サブ板28、固定板33のように、交番磁界の向きに対して平行に配置されている板部品や、交番磁界の磁束密度が低い位置に配置されている部品は、渦電流が生じにくいので磁性材料でも構わない。バネ30もピアノ線のような鋼線よりもステンレス線のほうが良い。本実施例における特徴的なスペーサ31、キャップ40はPPS、LCP等の耐熱性があり絶縁性の樹脂材料を用いており、温度が低ければ耐熱性が低い絶縁性の樹脂材料でも良い。カム37は付勢板29との摺動性が必要なためPOM(ポリアセタール)、PA(ポリアミド)等の樹脂材料を用いている。
【0033】
本実施例の構成であれば、定着装置13を小型化しつつ、ベルト22の導電層の発熱ロスを抑えることが可能となる。図2(A)及び図2(B)に示す定着装置13の一端側の斜視図を使って説明する。
【0034】
コイル23の螺旋軸の軸線方向に見た時に、コイル23を囲うように側板25と付勢機構100でループ状の導電経路を形成してしまうと、交番磁界の磁束を打ち消すように誘導される誘導電流が側板25と付勢機構100に流れる。側板25と付勢機構100に流れる誘導電流によってベルト22の導電層の発熱効率を落とすことになる。
【0035】
そこで、本実施例では、スペーサ31を絶縁性の樹脂材料で構成する(即ちスペーサ31を絶縁部材にする)ことで、側板25と付勢機構100を経由するループ状の導電経路LC1(第1の導電経路)をスペーサ31の位置で電気的に遮断している。絶縁部材であるスペーサ31は、バネ30の付勢板29が設けられた側とは反対側に設けられており、付勢機構100による付勢力の反力を受ける部分に設けられている。同様に、側板25と補強部材39との間に絶縁性の樹脂材料のキャップ40(第2の絶縁部材)を介在させることで、側板25と補強部材39を経由するループ状の導電経路LC2(第2の導電経路)をキャップ40の位置で電気的に遮断している。これらの構成により、図2(A)や図2(B)の矢印で示した誘導電流が発生しないので、ベルト22の導電層の発熱効率のロスを抑えることができる。このように、定着装置13には、螺旋軸の軸線方向に見た時、コイル23を囲うような、側板25と付勢機構100を経由するループ状の導電経路LC1が形成されないように、導電経路LC1を電気的に遮断する絶縁性のスペーサ31が設けられている。また、定着装置13には、螺旋軸の軸線方向に見た時、コイル23を囲うような、側板25と補強部材39を経由するループ状の導電経路LC2が形成されないように、導電経路LC2を電気的に遮断する絶縁性のキャップ40が設けられている。
【0036】
さらに本実施例では、付勢解除状態から付勢状態に発生するバネ30による衝撃音も軽減することができる。バネ30の付勢解除状態(図6(B))の作用長は付勢状態(図6(A))の作用長より短い。このため、付勢解除状態から付勢状態への移行時に、図6(B)のCW方向にカム37を回動させようとするバネ30による力がカム37に作用する。これによって、カム37に駆動を伝達している不図示のギア列がバックラッシ分だけ回動し、バネ30が瞬間的に伸びる。そして、バネ30が伸びた衝撃で大きな音が発生する。特に、定着装置13の剛性を高めるため、側板25等の支持部材の材質が金属、即ち導電性の材質になっている。固体伝搬音の観点では、金属などの密度が高い材料ほど音が伝わり易く、衝撃音が発生し易い。そこで付勢機構100のスペーサ31を樹脂部材とすることで金属材料よりスペーサ31の密度を小さくすることができ、固体伝搬音を小さく、つまり衝撃音を小さくできる。本実施例ではバネ30と接触しているスペーサ31を樹脂部材とすることで衝撃音を小さくする効果が高いと考えられる。
【0037】
スペーサ31を絶縁性の樹脂部材で構成する経路遮断方法以外に、側板25の支点保持部25bと付勢板29の支点部29aとの間にスペーサ31と同じ絶縁性の樹脂部材を介在させてもよい。また、バネ30と付勢板29のバネ保持部29bとの間に絶縁性の樹脂部材を介在させても良い。付勢力の反力を受ける部分に絶縁性の樹脂部材を介在させれば良い。また、一つの導電経路中に複数の絶縁性の部材を介在させてもよい。
【0038】
(実施例2)
次に、実施例2の定着装置の説明をする。尚、実施例1と同一構成、同一機能を有する部品は同一符号で示し、その説明を省略する。
【0039】
(定着装置の付勢機構)
実施例2における定着装置130の斜視図を図7(A)、図7(B)に示す。図7(A)のように、支持軸41が側板25と嵌合している。支持軸41は取り外しが可能であり、同軸上に合わせられた側板25の嵌合穴25hと付勢板29の嵌合穴29hに挿入される。これによって付勢板29は側板25に対して支持軸41を中心に回動自由に支持される。
【0040】
図7(B)は定着装置130の付勢機構の部分の分解斜視図である。支持軸41が嵌合穴25hや嵌合穴29hから抜けないようにEリング55が支持軸41に固定されている。可動板43はクランク形状の部材であり、カム44と摺動するカム摺動部43aを有する。可動板43はバネ30の圧縮方向に側板25に対して摺動する。また可動板補強部材42には調整ねじ32を回転自由に支持するねじ山がある。実施例1と同様に調整ねじ32を回転させることでスペーサ45を介してバネ30の圧縮量を調整して、ニップ部Nに掛かる圧力を微調整できる。
【0041】
定着装置130の付勢機構について図8を用いて詳細に説明する。可動板43には可動軸46が加締められている。可動軸46は側板25に固定された可動軸摺動部材47の長穴の内側と摺動する。可動軸摺動部材47の短手方向は可動軸46と摺動する。可動軸摺動部材47の長穴の長手方向は可動板43の可動領域より長くなっている。可動軸摺動部材47の長手方向はバネ30の圧縮方向と平行である。また可動板43には側板摺動部材48が取り付けられている。側板摺動部材48は、カム摺動部48aと側板摺動部48bを有する。カム摺動部48aは長穴形状であり、長穴の短手方向はカム44と摺動し、長穴の長手方向は可動板43の可動領域より長くなっている。カム摺動部48aの長手方向はバネ30の圧縮方向と平行である。側板摺動部48bは側板25の平面に対して摺動する。
【0042】
これらの部品を組み立てる場合、まず、側板25に対して定着装置130の長手方向から、側板摺動部材48が取り付けられた可動板43を、可動軸46が可動軸摺動部材47の長穴に入るように挿入する。可動軸46の先端にワッシャ49とEリング50を取り付け、定着装置130の長手方向において可動板43を固定する。ワッシャ49の外形はEリング50より大きい。ワッシャ49の面は側板25と摺動せずに可動軸摺動部材47と摺動する。次に、カム44をカム軸38に挿入し、カム44が側板摺動部材48の長穴(カム摺動部48a)に入るように挿入する。
【0043】
以上のような付勢機構における付勢状態と付勢解除状態について図9(A)、図9(B)を用いて説明する。付勢状態では可動板43のカム摺動部43aとカム44の第1曲面部44aが接触することで、バネ30の付勢力が付勢板29を伝ってベルトユニット54に伝達する。この時、カム44の第2曲面部44bと付勢板29の間は隙間があり、バネ30の力をロスすることなくベルトユニット54に伝えている。
【0044】
次に付勢解除状態について説明する。付勢状態のカム44の位相からCW方向に回転すると、カム44の第2曲面部44bとカム摺動部43aが接触する位相になる。この位相では、バネ30の作用長が伸びようとする力によって、可動板43がバネ30の作用長が伸びる方向に移動する。またこの位相では、カムの第1曲面部44aと付勢板29が接触し、付勢板29が、支持軸41を中心に、付勢解除状態になる位置に回動する。バネ30の作用長は付勢状態より付勢解除状態の方が長くなっている。
【0045】
実施例2の付勢機構であれば付勢解除状態においてバネ30の作用長は付勢状態よりも長くできる。このため、実施例1よりもバネ30による衝撃音を小さくすることができる。例えば第1曲面部44aの半径を10mm、第2曲面部44bの半径を7mm、付勢状態のカム44の位相で第2曲面部44bから付勢板29までの隙間を1mmとする。付勢状態から付勢解除状態にカム44が回転した時、付勢板29が第1曲面部44aによって2mm分だけバネ30を圧縮する方向に移動する。ところが、可動板43は第2曲面部44bと接触することで3mm分だけバネ30を解放する方向に移動する。これによって、バネ30は付勢状態から付勢解除状態で1mm分解放されることになる。また、カム44の位相ポジションを増やすことで、付勢状態よりも低い付勢力や、付勢状態よりも高い付勢力を発生させるモードも設定が可能になる。即ち、ニップ部Nに掛かる圧力のバリエーションが増え、低カールモードや高グロスモード等の機能をユーザに提供することができる。
【0046】
次に、定着装置130の部品の材質について説明する。支持軸41、可動板43、可動板補強部材42、スペーサ45、可動軸46は金属材料であり、非磁性の金属であることが好ましい。実施例1のスペーサ31は絶縁性の樹脂材料であったが実施例2のスペーサ45は金属材料とすることでバネ30の圧縮方向のスペースを実施例1より確保している。このように構成することで、バネ30のバネ定数の自由度が増える。
【0047】
実施例1ではスペーサ31や補強部材39を絶縁部材とすることで導電経路LC1、LC2を電気的に遮断した。これに対して、実施例2では、カム44、可動軸摺動部材47、側板摺動部材48を絶縁部材とすること導電経路LC3、LC4を電気的に遮断している。なお、カム44、可動軸摺動部材47、側板摺動部材48は、いずれも摺動性が求められるためPOM、PA等の樹脂材料を用いている。
【0048】
図9(A)に示すように、螺旋軸の軸線方向に見た時、側板25、支持軸41、付勢板29、バネ30、スペーサ45、調整ねじ32、可動板補強部材42、可動板43、カム44が配置されている。カム44が絶縁性の樹脂部材であるので、ループ状の導電経路LC3が電気的に遮断されている。これにより誘導電流を防止できる。また実施例1と同様にカム44がバネ30の衝撃音を軽減することができる。
【0049】
また、図8に示すように側板25と可動板43が金属材料であるので、可動軸摺動部材47、側板摺動部材48を絶縁性の樹脂部材としている。これによって、側板25、支持軸41、付勢板29、バネ30、スペーサ45、調整ねじ32、可動板補強部材42、可動板43の経路でループ状の導電経路LC4が形成されないようにしている。さらに付勢状態と付勢解除状態の切り替え時に発生する付勢機構100の摺動音を軽減することができる。例えば、付勢状態から付勢解除状態に切り替わる時、可動板43は側板25に対してバネ30の作用長が伸びる方向に移動する。可動板43の移動時に可動軸摺動部材47はワッシャ49と可動軸46、側板摺動部材48は側板25と摺動することで金属材料同士の摺動を防止でき、摺動音を軽減することができる。
【符号の説明】
【0050】
23 コイル
24 コア
25 側板(支持部材)
29 付勢板
30 バネ
31 スペーサ(絶縁部材)
40 キャップ(絶縁部材)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9