(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162329
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】事故災害の情報提示システム
(51)【国際特許分類】
G06Q 10/06 20230101AFI20241114BHJP
【FI】
G06Q10/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023077722
(22)【出願日】2023-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】林 祐光
(72)【発明者】
【氏名】小島 歩
(72)【発明者】
【氏名】内田 大介
【テーマコード(参考)】
5L010
5L049
【Fターム(参考)】
5L010AA06
5L049AA06
(57)【要約】
【課題】作業者が作業を実施するに際し、作業者及び作業との関連性が高い事故災害の情報を作業者に例示することで、効率的に、事故の発生を抑止する。
【解決手段】事故災害の情報提示システム1は、作業者に関する作業者情報、作業の内容に関する作業内容情報、及び作業の環境に関する作業環境情報の、各々に含まれる項目と、事故の形態の各々との関連性を示す係数が格納された、関連性格納データベース22と、作業内容情報と作業環境情報、及び作業者情報を収集する情報収集部25と、収集された作業内容情報と作業環境情報に示される状況において、収集された作業者情報に対応する作業者に発生しやすい事故の形態を、係数を基にして抽出する注意喚起情報抽出部26と、抽出された事故の形態を表示部53に送信する情報出力部27と、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業者が実施する作業に関する事故災害の情報を、前記作業者に対して例示する、事故災害の情報提示システムであって、
前記作業者に関する作業者情報、前記作業の内容に関する作業内容情報、及び前記作業の環境に関する作業環境情報の、各々に含まれる項目と、事故の形態の各々との関連性を示す係数が格納された、関連性格納データベースと、
前記作業者が前記作業を実施するに際し、当該作業に関する前記作業内容情報と前記作業環境情報、及び当該作業者に関する前記作業者情報を収集する情報収集部と、
収集された前記作業内容情報と前記作業環境情報に示される状況において、収集された前記作業者情報に対応する前記作業者に発生しやすい前記事故の形態を、前記係数を基にして抽出する注意喚起情報抽出部と、
抽出された前記事故の形態を表示部に送信する情報出力部と、
を含むことを特徴とする事故災害の情報提示システム。
【請求項2】
事故災害の事例を前記事故の形態ごとに分類して格納する事故災害事例データベースを更に備え、
前記注意喚起情報抽出部は、抽出された前記事故の形態に分類される前記事例を前記事故災害事例データベースから第1注意喚起事例として抽出し、
前記情報出力部は、表示部に前記第1注意喚起事例を送信する
ことを特徴とする請求項1に記載の事故災害の情報提示システム。
【請求項3】
前記注意喚起情報抽出部は、収集された前記作業者情報、前記作業内容情報及び前記作業環境情報に対し、前記係数を適用して、前記事故の形態の各々の発生確率を計算し、前記発生確率が高いものほど発生しやすい前記事故の形態であると判断して、前記発生確率が高いものから前記事故の形態を少なくとも1つ抽出し、抽出された前記事故の形態のいずれかに分類される前記事例を前記第1注意喚起事例として抽出する
ことを特徴とする請求項2に記載の事故災害の情報提示システム。
【請求項4】
前記事故の形態の各々に対し、前記作業者情報、前記作業内容情報及び前記作業環境情報に含まれる前記項目のなかで、当該事故の形態の前記事故災害と関連性はあるが関連性があるとは認識されにくいと考えられるものが、低認識項目として、予め抽出され、
前記関連性格納データベースには、前記事故の形態の各々に対して、前記項目の各々が、当該事故の形態の抽出にどの程度影響するかの影響度が、前記係数とともに格納され、
前記注意喚起情報抽出部は、前記低認識項目に関する前記影響度を基に、抽出された前記事故の形態に分類される前記事例の各々に対して意外性スコア値を計算し、前記意外性スコア値が最も高い前記事例を、第2注意喚起事例として抽出し、
前記情報出力部は、前記表示部に前記第2注意喚起事例を送信する
ことを特徴とする請求項2または3に記載の事故災害の情報提示システム。
【請求項5】
作業者が実施する作業に関する事故災害の情報を、前記作業者に対して例示する、事故災害の情報提示システムであって、
前記作業者に関する作業者情報、前記作業の内容に関する作業内容情報、及び前記作業の環境に関する作業環境情報の、各々に含まれる項目と、前記事故災害の人的要因の各々との関連性を示す係数が格納された、関連性格納データベースと、
前記作業者が前記作業を実施するに際し、当該作業に関する前記作業内容情報と前記作業環境情報、及び当該作業者に関する前記作業者情報を収集する情報収集部と、
収集された前記作業内容情報と前記作業環境情報に示される状況において、収集された前記作業者情報に対応する前記作業者が発生させ得る前記事故災害の原因となりやすい前記人的要因を、前記係数を基にして抽出する注意喚起情報抽出部と、
抽出された前記人的要因を表示部に送信する情報出力部と、
を含むことを特徴とする事故災害の情報提示システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、事故災害の情報提示システムに関する。
【背景技術】
【0002】
作業者が様々な業務を実施するに際し、作業者の不注意や、外的な要因により、事故が生じることがある。特許文献1には、発生した事故の要因を推定するシステムが開示されている。
このような事故は、何らかの対策を行うことで、未然に防がれるのが望ましい。これに関し、例えば特許文献2には、作業者データベースと、事例データベースとを備えた情報処理システムが開示されている。作業者データベースには、作業者識別情報と、性別と、年齢と、経験年数と、作業工程と、本日の作業内容、職種とが対応付けられて記憶されている。事例データベースは、過去に発生した事故に関わる事故データを記憶している。このような情報処理システムは、作業者識別情報が含まれる情報が入力されると、入力された作業者識別情報に基づいて作業者データを作業者データベースから検索する。そして、検索された作業者データと、事例データベースに記憶されている事故データとを比較する。比較の結果、検索された作業者データの各項目と、事故データの各項目とで、互いに一致する項目があるかどうかを判定する。互いに一致する項目がある場合、その項目がある事故データを事例データベースから読み出す。また、互いに一致する項目の数に応じて、その事故データのスコアをカウントする。カウントされたスコアに応じて、事故データを出力することによって、各作業者に対し、過去に発生した事故事例に基づいた注意喚起を行う。
【0003】
特許文献2においては、上記のように、作業者データベースから抽出された作業者データと、事例データベース内の事故データの各項目とで、一致する項目があるかどうかを判定し、一致する項目がある事故データを抽出している。ここで、作業者データと事故データには、「性別」や「年齢」の項目があるが、これらの項目と全ての事故との関連性は高いものとは考えにくい。したがって、仮に、「性別」や「年齢」等の項目が一致した結果としてある事故データが抽出されたとしても、その事故データは、作業者がこれから実施しようとしている作業に関連して生じ得る事故の本質的な原因との間に高い関連性を有している可能性は低く、このような事故データが作業者に対して表示されたとしても、作業者に対する効果的な注意喚起にはならない可能性がある。
【0004】
また、特許文献3には、作業を特定する情報を建設現場から入力し、入力された情報により特定された作業内容に対し危険を回避する是正措置を含む危険予知情報を生成し、建設現場で用いられる建設現場クライアントに出力する構成が記載されている。
特許文献3においても、特許文献2と同様に、建設現場クライアントに出力される、予想される事故が、作業者との間に高い関連性を有していない可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2018/073914号
【特許文献2】特開2021-93067号公報
【特許文献3】特開2003-242202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、作業者が作業を実施するに際し、作業者及び作業との関連性が高い事故災害の情報を作業者に例示することで、効率的に、事故の発生を抑止することが可能な、事故災害の情報提示システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。
すなわち、本発明の事故災害の情報提示システムは、作業者が実施する作業に関する事故災害の情報を、前記作業者に対して例示する、事故災害の情報提示システムであって、前記作業者に関する作業者情報、前記作業の内容に関する作業内容情報、及び前記作業の環境に関する作業環境情報の、各々に含まれる項目と、事故の形態の各々との関連性を示す係数が格納された、関連性格納データベースと、前記作業者が前記作業を実施するに際し、当該作業に関する前記作業内容情報と前記作業環境情報、及び当該作業者に関する前記作業者情報を収集する情報収集部と、収集された前記作業内容情報と前記作業環境情報に示される状況において、収集された前記作業者情報に対応する前記作業者に発生しやすい前記事故の形態を、前記係数を基にして抽出する注意喚起情報抽出部と、抽出された前記事故の形態を表示部に送信する情報出力部と、を含むことを特徴とする。
上記のような構成によれば、作業者が作業を実施するに際して、当該作業の内容に関する作業内容情報、作業の環境に関する作業環境情報、及び当該作業者に関する作業者情報が収集されると、収集された状況において発生しやすいと考えられる事故の形態が抽出される。ここで、事故の形態は、作業者情報、作業内容情報及び作業環境情報の、各々に含まれる項目と、事故の形態の各々との関連性を示す係数を基にして抽出される。すなわち、各項目と事故の形態の各々との関連性が適切に、係数として設定されていれば、作業者情報、作業内容情報及び作業環境情報の項目の中に、仮に、事故の形態との関連が低いようなものがあったとしても、このような項目に過大に影響されずに、かつ関連が高い項目の影響が大きく反映されるように、事故の形態を抽出することができる。このため、収集された状況において発生しやすいと考えられる事故の形態を、適切に抽出することが可能となる。
作業者が作業を実施するに際し、上記のようにして抽出された、発生しやすいと考えられる事故の形態を、作業者に対して表示することで、事故災害に関して作業者に対し効果的に注意喚起することができる。これにより、効率的に、事故の発生を抑止することが可能である。
【0008】
本発明の一態様においては、事故災害の事例を前記事故の形態ごとに分類して格納する事故災害事例データベースを更に備え、前記注意喚起情報抽出部は、抽出された前記事故の形態に分類される前記事例を前記事故災害事例データベースから第1注意喚起事例として抽出し、前記情報出力部は、表示部に前記第1注意喚起事例を送信する。
上記のようにして抽出された、発生しやすいと考えられる事故の形態に分類される事例は、作業者、及び当該作業者がこれから実施しようとしている作業と、関連が深い可能性が高い。このため、作業者が作業を実施するに際し、抽出された事故の形態に分類される事例を事故災害事例データベースから第1注意喚起事例として抽出し、作業者に対して表示することで、事故災害に関して作業者に対し効果的に注意喚起することができる。これにより、効率的に、事故の発生を抑止することが可能である。
【0009】
本発明の一態様においては、前記注意喚起情報抽出部は、収集された前記作業者情報、前記作業内容情報及び前記作業環境情報に対し、前記係数を適用して、前記事故の形態の各々の発生確率を計算し、前記発生確率が高いものほど発生しやすい前記事故の形態であると判断して、前記発生確率が高いものから前記事故の形態を少なくとも1つ抽出し、抽出された前記事故の形態のいずれかに分類される前記事例を前記第1注意喚起事例として抽出する。
このような構成によれば、収集された作業者情報、作業内容情報及び作業環境情報に対し、作業者情報、作業内容情報及び作業環境情報の各項目と、事故の形態の各々との関連性を示す係数を適用することで、事故の形態の各々の発生確率が計算され、この発生確率が高いものから事故の形態を少なくとも1つ抽出する。このようにして抽出された事故の形態は、事故の形態のなかでも特に、作業者にとって発生しやすいと考えられる。したがって、少なくとも1つ抽出された事故の形態の、いずれかに分類される事例を第1注意喚起事例として抽出し、作業者に対して提示することで、効果的に、作業者に注意喚起することが可能となる。
【0010】
本発明の一態様においては、前記事故の形態の各々に対し、前記作業者情報、前記作業内容情報及び前記作業環境情報に含まれる前記項目のなかで、当該事故の形態の前記事故災害と関連性はあるが関連性があるとは認識されにくいと考えられるものが、低認識項目として、予め抽出され、前記関連性格納データベースには、前記事故の形態の各々に対して、前記項目の各々が、当該事故の形態の抽出にどの程度影響するかの影響度が、前記係数とともに格納され、前記注意喚起情報抽出部は、前記低認識項目に関する前記影響度を基に、抽出された前記事故の形態に分類される前記事例の各々に対して意外性スコア値を計算し、前記意外性スコア値が最も高い前記事例を、第2注意喚起事例として抽出し、前記情報出力部は、前記表示部に前記第2注意喚起事例を送信する。
このような構成によれば、事故の形態の各々に対し、作業者情報、作業内容情報及び作業環境情報に含まれる項目のなかで、その事故の形態の事故災害と関連性はあるが関連性があるとは認識されにくいと考えられるものを、低認識項目として予め抽出しておく。また、関連性格納データベースには、事故の形態の各々に対して、項目の各々が、当該事故の形態の抽出にどの程度影響するかの影響度が、係数とともに格納されている。このような影響度のなかでも特に、低認識項目に関するものを基に、抽出された事故の形態に分類される事例の各々に対して意外性スコア値を計算する。このようにして計算された意外性スコア値は、抽出された事故の形態とは関連性はあるが関連性があるとは認識されにくいと考えられる項目の、当該事故の形態に対する影響度であるから、当該事故の形態のなかで、この意外性スコア値が高い事故の事例があるとすれば、それは、作業者においては通常想定しにくいと考えられるが、実際には発生する可能性が高い事故の事例といえる。したがって、抽出した事故の形態に分類される事例のなかから、意外性スコア値が最も高い事例を、第2注意喚起事例として抽出し、抽出された第2注意喚起事例を作業者に表示することで、作業者が作業を実施するに際して発生することが意外であると思われる事例についても、作業者に対して提示することができる。
第1注意喚起事例として提示される事例は、作業者からすると、発生しやすいことが容易に推定できるものである場合がある。これに対し、作業者からすると、発生することが想定しにくいが、実際には発生する可能性が高い事例を第2注意喚起事例として作業者に提示することで、作業者に、より有効な注意喚起がなされる。
【0011】
また、本発明の事故災害の情報提示システムは、作業者が実施する作業に関する事故災害の情報を、前記作業者に対して例示する、事故災害の情報提示システムであって、前記作業者に関する作業者情報、前記作業の内容に関する作業内容情報、及び前記作業の環境に関する作業環境情報の、各々に含まれる項目と、前記事故災害の人的要因の各々との関連性を示す係数が格納された、関連性格納データベースと、前記作業者が前記作業を実施するに際し、当該作業に関する前記作業内容情報と前記作業環境情報、及び当該作業者に関する前記作業者情報を収集する情報収集部と、収集された前記作業内容情報と前記作業環境情報に示される状況において、収集された前記作業者情報に対応する前記作業者が発生させ得る前記事故災害の原因となりやすい前記人的要因を、前記係数を基にして抽出する注意喚起情報抽出部と、抽出された前記人的要因を表示部に送信する情報出力部と、を含むことを特徴とする。
上記のような構成によれば、作業者が作業を実施するに際して、当該作業の内容に関する作業内容情報、作業の環境に関する作業環境情報、及び当該作業者に関する作業者情報が収集されると、収集された状況において、作業者が発生させ得る事故災害の原因となりやすい人的要因が抽出される。ここで、人的要因は、作業者情報、作業内容情報及び作業環境情報の、各々に含まれる項目と、人的要因の各々との関連性を示す係数を基にして抽出される。すなわち、各項目と人的要因の各々との関連性が適切に、係数として設定されていれば、作業者情報、作業内容情報及び作業環境情報の項目の中に、仮に、人的要因との関連が低いようなものがあったとしても、このような項目に過大に影響されずに、かつ関連が高い項目の影響が大きく反映されるように、人的要因を抽出することができる。このため、収集された状況において事故災害の原因となりやすいと考えられる人的要因を、適切に抽出することが可能となる。
作業者が作業を実施するに際し、上記のようにして抽出された、作業者が発生させ得る事故災害の原因となりやすい人的要因を、作業者に対して表示することで、事故災害に関して作業者に対し効果的に注意喚起することができる。これにより、効率的に、事故の発生を抑止することが可能である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、作業者が作業を実施するに際し、作業者及び作業との関連性が高い事故災害の情報を作業者に例示することで、効率的に、事故の発生を抑止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係る事故災害の情報提示システムの構成を示す図である。
【
図2】事故災害事例データベースに記憶された、事故災害の事例の一例を示す図である。
【
図3】作業者情報、作業内容情報、及び作業環境情報の各々に含まれる項目と、事故の形態の各々との関連性を示す偏回帰係数の一例を示す図である。
【
図4】作業者情報、作業内容情報、及び作業環境情報の項目の各々が、事故の形態の抽出にどの程度影響するかの影響度を示す標準化偏回帰係数の一例を示す図である。
【
図5】作業者端末に表示される、事故の形態ごと、人的要因ごとの確率分布の一例を示す図である。
【
図6】作業者端末に表示される事故の事例の一例を示す図である。
【
図7】事故災害の情報提示システムの情報提示システム本体において実施する、事前準備の流れを示すフローチャートである。
【
図8】事故災害の情報提示システムの情報提示システム本体における、事故災害の事例提示方法の流れを示すフローチャートである。
【
図9】作業者端末の表示部に表示される入力画面の一例を示す図である。
【
図10】情報収集部で取得された、作業者に関する情報の一例を示す図である。
【
図11】情報提示システム本体に、新たな事例を追加する場合の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明による事故災害の情報提示システムを実施するための形態について、図面に基づいて説明する。
本発明の実施形態に係る事故災害の情報提示システムの構成を
図1に示す。
図1に示されるように、事故災害の情報提示システム1は、情報提示システム本体2と、作業者が利用する作業者端末5と、を備えている。事故災害の情報提示システム1は、作業者が実施する作業に関する事故災害の情報を、作業者に対して例示する。事故災害の情報提示システム1は、例えば、建設工事、土木工事、高所作業、工場内作業、各種施設内作業等をはじめとする各種の作業を行う作業者に対し、事故災害の発生を抑えるため、気をつけるべき事故災害の情報、より詳細には、作業者に発生しやすい事故の形態、当該事故の形態に分類される事故の事例、作業者が発生させ得る事故災害の原因となりやすい人的要因、当該人的要因により発生され得る事故の事例等を提示する。
【0015】
作業者端末5は、外部のネットワーク100を介して情報提示システム本体2と通信可能な通信機能を有したコンピュータである。作業者端末5は、複数の作業者の各々が利用する、可搬性を有した、例えば、スマートフォン、タブレット端末等である。また、作業者端末5は、作業現場等に固定的に設置されたパーソナルコンピュータ等であってもよい。ここで、外部のネットワーク100とは、例えば、情報提示システム本体2と無線による通信を行うことのできる公衆無線網や、インターネット等である。
作業者端末5は、ネットワーク100を介した情報提示システム本体2との通信可能な通信部51と、作業者が情報提示システム本体2にアクセスするための情報等を入力する入力部52と、情報提示システム本体2から送信される情報を表示するモニタ等の表示部53と、を機能的に備えている。
【0016】
情報提示システム本体2は、サーバ、パーソナルコンピュータ、タブレット端末等のコンピュータ端末からなり、予め設定されたプログラムを実行することで、所要の機能を発揮する。情報提示システム本体2は、事故災害事例データベース21と、関連性格納データベース22と、作業者データベース23と、情報収集部25と、注意喚起情報抽出部26と、情報出力部27と、を機能的に備えている。
【0017】
図2は、事故災害事例データベースに記憶された、事故災害の事例の一例を示す図である。
事故災害事例データベース21は、
図2に示されるような、過去の事故災害の事例についての情報を格納している。
図2において、異なる事故災害IDが付されて示されている行の各々が、ひとつの事例に相当する。
事故災害事例データベース21には、各事例について、事故の形態(
図2における「事故型」)が関連付けて記憶されている。事故の形態としては、例えば、「墜落・転落」、「転倒」、「激突」、「飛来・落下」、「崩壊・倒壊」、「激突され」、「挟まれ・巻き込まれ」、「切れ・こすれ」、「動作の反動・無理な動作」、「熱中症他」といったものがある。このような事故の形態の分類は、ここに例示したものに限らず、適宜設定することができる。
事故災害事例データベース21には、各事例に対し、被災者となった作業者に関する作業者情報、作業者が行っていた作業の内容に関する作業内容情報、及び作業者が行っていた作業の環境に関する作業環境情報が、関連付けて記憶されている。作業者情報としては、例えば、作業者の年齢、経験年数、入場後日数、職種といった項目が含まれる。作業内容情報としては、危険作業の有無、作業場所、事故災害の起因となるような起因物(例えば、機械、工具等)の使用の有無、といった項目が含まれる。また、作業環境情報としては、事故災害が発生した曜日、天候、発生時刻、時期、地域といった項目が含まれる。
このように、事故災害事例データベース21には、過去の事故災害の複数の事例についての情報が、上記したような事故の形態に対応付けて、格納されている。事故災害事例データベース21においては、事故の形態を特定すれば、これに対応する全ての事例を抽出することが可能となるように構成されている。したがって、事故災害事例データベース21は、複数の事例を、事故の形態ごとに分類して格納したものとなっている。
【0018】
事故災害事例データベース21には、各事例について、事故の形態と同様に、人的要因が関連付けて記憶されている。人的要因としては、例えば、「規律の無視行為」、「不安全な位置姿勢」、「共同作業上の行為」、「肉体的精神的要因」といったものがある。このような人的要因の分類は、ここに例示したものに限らず、適宜設定することができる。
このように、事故災害事例データベース21には、過去の事故災害の複数の事例についての情報が、上記したような人的要因に対応付けて、格納されている。事故災害事例データベース21においては、人的要因を特定すれば、これに対応する全ての事例を抽出することが可能となるように構成されている。したがって、事故災害事例データベース21は、複数の事例を、人的要因ごとに分類して格納したものとなっている。
【0019】
関連性格納データベース22には、作業者に関する作業者情報、作業の内容に関する作業内容情報、及び作業の環境に関する作業環境情報の、各々に含まれる項目と、事故の形態の各々との関連性を示す係数が格納されている。
図3は、作業者情報、作業内容情報、及び作業環境情報の各々に含まれる項目と、事故の形態の各々との関連性を示す偏回帰係数の一例を示す図である。
図3においては、作業者情報、作業内容情報、作業環境情報の各々に含まれる項目が、説明変数として縦に並べて表示されている。また、事故の形態の各々が、目的変数として横に並べて表示されている。
例えば、係数としては、作業者情報に含まれる項目である年齢と、事故の形態のひとつである「墜落・転落」との関連性を示すものが含まれる。
図3においては、当該係数は、値が0.01516となっている。また、係数としては、作業環境情報に含まれる項目である天候(
図3においては、「晴曇(Ref.雨雪雷)」と示されている)と、事故の形態のひとつである「転倒」との関連性を示すものが含まれる。
図3においては、当該係数は、値が-0.374697となっている。
【0020】
図3に示されるような係数は、作業者情報、作業内容情報、及び作業環境情報に含まれる項目の各々を説明変数とし、事故の形態の各々を目的変数とした場合、説明変数と目的変数との関連性を示すものとして計算されている。本実施形態においては、事故災害事例データベース21に記憶されている情報に基づいて、事故の形態の各々に対し、重回帰分析を代表とする多変量解析の一種である多重ロジスティック回帰分析を行うことで、作業者情報、作業内容情報、及び作業環境情報に含まれる項目と事故の形態の各々との関連性を分析する。この分析結果となる偏回帰係数が、上記の係数に相当する。すなわち、関連性格納データベース22には、作業者情報、作業内容情報、及び作業環境情報に含まれる項目と、事故の形態の各々との関連性を示す係数として、多重ロジスティック回帰分析を行うことで計算された偏回帰係数が記憶されている。
【0021】
多重ロジスティック回帰分析においては、次式のように、発生確率P(Y
i)が定式化される。
【数1】
ここで、事故の形態の各々が、目的変数Y
iに相当し、作業者情報、作業内容情報、及び作業環境情報に含まれる項目の各々が、説明変数X
jに相当する。a
ijは、説明変数X
jと目的変数Y
iの関連を示す偏回帰係数であり、tは定数項である。
すなわち、作業者が、ある作業環境の下で、何らかの作業を実行するに際し、後に説明する情報収集部25によって収集される、その際の作業者に関する作業者情報や、作業内容に関する作業内容情報、作業環境に関する作業環境情報の各項目を、具体的な値として、上式(1)における説明変数X
jに入力すると、事故の形態(すなわち目的変数Y
i)の各々の発生確率P(Y
i)を計算することができる。
例えば、事故の形態が「墜落・転落」の場合の発生確率に関しては、
図3における「墜落・転落」列の、年齢に相当する偏回帰係数の値0.01516と、入力された年齢の値と、を乗算したものが、項目「年齢」に関する、上式(1)におけるa
ij×X
jの値となる。このようにして、各項目に対してa
ij×X
jの値を計算し、その総和を計算して、当該総和を基に、事故の形態Y
iの発生確率P(Y
i)が計算される。
このようにして、事故の形態Y
iごとに、当該事故の形態Y
iの発生確率P(Y
i)が定式化され、この式(1)が、後に説明する事故の形態の抽出において使用される。
【0022】
上記の
図3において、空欄となっており、偏回帰係数が記載されていない項目は、過去事例の分析の結果、事故の形態の発生確率に対して影響が認められず、有意とはならなかったため、当該事故の形態に対しては、説明変数としては考慮されないものである。
より具体的には、例えば統計上の指標p値を計算し、これが例えば5%以下となった項目が、事故の形態に対して有意性があると判断する。
図3においては、各事故の形態に対して、このような有意性があると判断された項目の欄に、対応する偏回帰係数の値が記入されている。ある事故の形態に対し、p値が5%より大きい項目に関しては、当該事故の形態に対して当該項目は有意性がないと判断し、
図3においては値が記入されない空欄となっている。この、有意性がなく、空欄とされている、項目と事故の形態の組み合わせにおいては、実際には、偏回帰係数a
ijが0であるものとして、事故の形態Y
iの発生確率P(Y
i)が計算される。
【0023】
なお、年齢、経験数等の、数量を示すような説明変数X
jについては、その数値をそのまま用いるように、説明変数X
jは設定されている。他方、説明変数X
jには、例えば曜日、天候のように、数量として表現できないものがある。このような説明変数については、予め設定した基準に基づいて、0または1の2値によって、値を表現するように、説明変数X
jは設定されている。例えば、曜日であれば、月曜日、火曜日、水曜日、木曜日の場合に、値を1とし、それ以外の曜日(
図3において「Ref.」として示された金曜日、土曜日、日曜日)の場合に、値を0とする。同様に、天候であれば、晴、曇の場合に、値を1とし、雨、雪、雷の場合に、値を0とする。
特に、建築の分野においては、事務、左官、大工、電気工事、建築士等の、様々な職種の作業員が、現場で勤務する可能性がある。このような場合において、職種に関する項目を1つのみ設けたとすると、上記のような職種の各々に対して、当該項目においてどのような値とするのかを、適切に決めるのが難しい。このため、本実施形態においては、職種(
図3においては職種A、B、C、D)の各々について、項目を設け、各項目が、該当する職種であるか否か(例えば
図3における「職種A(Ref.その他)」は職種がAであるか否か)の、2値を示すように、事故災害の情報提示システム1を実現している。
【0024】
また、関連性格納データベース22には、事故の形態と同様に、人的要因に関しても、
図3のような係数が格納されている。すなわち、関連性格納データベース22には、作業者に関する作業者情報、作業の内容に関する作業内容情報、及び作業の環境に関する作業環境情報の、各々に含まれる項目と、人的要因の各々との関連性を示す係数が格納されている。
事故の形態と同様に、人的要因においても、ロジスティック回帰分析が行われ、偏回帰係数が計算されて、
図3と同様な表が構築されている。これにより、事故の形態と同様に、人的要因においても、上記の式(1)と同様な発生確率P(Y
i)が、目的変数となる人的要因Y
iの各々に対して定式化されている。
【0025】
また、関連性格納データベース22には、事故の形態や人的要因の各々に対して、作業者に関する作業者情報、作業の内容に関する作業内容情報、及び作業の環境に関する作業環境情報の、各々に含まれる項目が、当該事故の形態や人的要因の抽出にどの程度影響するかの影響度が、係数(偏回帰係数)とともに格納されている。本実施形態においては、この影響度は、上記のような係数(偏回帰係数)から求められる、標準化偏回帰係数である。
より具体的には、影響度としての標準化偏回帰係数は、事故の形態や人的要因の各々について、関連性格納データベース22に記憶された偏回帰係数を標準化することで計算される。
【0026】
標準化偏回帰係数は、例えば、次のようにして計算され得る。
まず、多重ロジスティック回帰分析を行う際に入力となった各事例に対し、上記の式(1)を適用して発生確率P(Yi)を計算し、これをロジット変換したロジット値を求める。次いで、各目的変数と、発生確率との相関係数rを求める。更に、ロジット値の分散Vを求め、次式(2)のように、分散Vを相関係数rの2乗値(r2)で除算した値を、目的変数yの標準偏差Syの2乗と定義する。
Sy
2=V/r2 …(2)
上式(2)から、目的変数yの標準偏差Syを得る。ついで、各説明変数xについての標準偏差Sxを算出し、次式(3)により、各説明変数Xjの標準化偏回帰係数bj
*を得る。
bj
*=bj×Sx/Sy …(3)
ここで、bjは、目的変数yにおいて、説明変数xに対応する偏回帰係数の値である。
【0027】
図4は、作業者情報、作業内容情報、及び作業環境情報の項目の各々が、事故の形態の抽出にどの程度影響するかの影響度を示す標準化偏回帰係数の一例を示す図である。例えば上記のような演算を行うことで、
図4に示されるような、影響度としての標準化偏回帰係数が得られる。人的要因に関しても、同様な演算で、
図4のような、影響度としての標準化偏回帰係数が計算される。
既に説明したように、多重ロジスティック回帰分析を行うと、
図3に示されるような偏回帰係数が出力される。ここで、項目すなわち説明変数間で、単位や、得られる値の分布などが異なると、この相違は偏回帰係数の値に反映されてしまう。したがって、偏回帰係数を単純に比較しても、各項目が目的変数となる事故の形態や人的要因にどのような影響を与えるのかを、評価することはできない。これに対し、上記の標準化偏回帰係数は、上記のような手順で、偏回帰係数を標準化することによって得られることで、項目間の、単位や、得られる値の分布などの相違による影響が除外されているため、項目が事故の形態や人的要因に与える影響度を評価するための指標となり得る。
【0028】
また、関連性格納データベース22には、後述の意外性スコア値の計算のために、事故の形態すなわち目的変数の各々に対し、作業者情報、作業内容情報及び作業環境情報に含まれる項目のなかで、当該事故の形態に関連性はあるが関連性があるとは認識されにくいと考えられる項目すなわち説明変数を、低認識項目として抽出し、これを格納しておく。例えば、天候が「晴・曇」の場合に「雨・雪・雷」よりも墜落・転落の確率が下がることは予想通りであり意外ではない。しかし、例えば、月火水木が金土日よりも墜落転落が起きにくいというのは理由がわかりにくく、意外である。事故の形態の各々に対して、このような項目を、意外性スコア値の計算のための低認識項目として、予め設定しておく。
同様に、人的要因の各々に対しても、作業者情報、作業内容情報及び作業環境情報に含まれる項目のなかで、当該人的要因の事故災害と関連性はあるが関連性があるとは認識されにくいと考えられるものが、低認識項目として、予め抽出され、関連性格納データベース22に保存されている。
【0029】
作業者データベース23は、予め登録された作業者に関する情報を記憶している。作業者データベース23は、作業者に関する情報として、例えば、作業者を識別するための識別情報、パスワードの他、作業者の年齢、経験年数、入場後日数、職種等が予め登録されている。なお、作業者データベース23を備えず、これらの情報を、作業者が情報提示システム本体2を利用するたびに、後述の情報収集部25が、作業者端末5側から取得するようにしてもよい。
【0030】
情報収集部25は、作業者が作業を実施するに際し、当該作業に関する作業内容情報と作業環境情報、及び当該作業者に関する作業者情報を収集する。
情報収集部25は、作業者端末5の入力部52により入力された、作業者が情報提示システム本体2にアクセスするための情報、例えば、作業者を識別する識別情報、パスワードを、通信部51、及びネットワーク100を介して受信することで取得する。情報収集部25は、取得した識別情報を基に、各項目に関する入力値を収集する。例えば、情報収集部25は、取得した識別情報を基に、作業者データベース23を参照し、識別情報に関連付けられた作業者に関する、年齢、経験年数等の作業者情報を取得する。
情報収集部25は、作業者が当日に実施する予定の作業を、作業者データベースや工程管理表等から取得し、その作業に関する作業内容情報を、情報提示システム本体2内の他のデータベースや、外部から取得する。
また、情報収集部25は、作業環境情報の一部、例えば、天候や曜日に関する作業環境情報を、ネットワーク100を介して外部の他のシステム等から取得する。
ここで、上記のようにして取得することができない項目に関しては、情報収集部25は、ネットワーク100及び通信部51を介して、作業者端末5側に入力を要請する。この場合、要請に応じて作業者が作業者端末5の入力部52で入力した情報を、情報収集部25は、通信部51及びネットワーク100を介して取得する。
情報収集部25によって収集された、各項目に関する情報は、上式(1)において説明変数Xjへの値として入力される。このため、情報収集部25で収集できない項目があると、発生確率P(Yi)が正常に計算されない。このような場合には、説明変数Xjへの値として、当該項目の期待値を入力するようにしてもよい。このような期待値は、当該項目の取り得る値と、当該値に対応する確率との積の、総和を計算することで取得され得る。期待値は、例えばある項目の値が値1と値0のいずれかとなるような場合で、過去に値が1となる事例が60件、0となる事例が40件あれば、(1×60+0×40)/(60+40)=0.6等として、計算するようにしてもよい。
【0031】
注意喚起情報抽出部26は、情報収集部25で収集された作業内容情報と作業環境情報に示される状況において、収集された作業者情報に対応する作業者に発生しやすい事故の形態を、関連性格納データベース22に記憶された偏回帰係数を基にして抽出する。
これには、注意喚起情報抽出部26は、情報収集部25で収集された各項目の値を、上式(1)の説明変数Xjへの値として代入して、目的変数、すなわち事故の形態Yiごとに、及び人的要因Yiごとに、それぞれの発生確率P(Yi)を計算する。
このようにして算出される、各事故の形態Yi及び人的要因Yiの、事故の発生確率P(Yi)は、作業者、作業内容、作業環境に対応した項目の内容に応じて、作業者、作業内容、作業環境ごとに、異なったものとなる。
【0032】
注意喚起情報抽出部26は、発生確率を算出した複数の事故の形態Y
iのうち、発生確率P(Y
i)が高いものほど発生しやすい事故の形態Y
iであると判断して、発生確率P(Y
i)が高いものから事故の形態Y
iを少なくとも1つ、例えば、発生確率P(Y
i)が高い事故の形態Y
iから順に複数を選択するように、抽出する。
注意喚起情報抽出部26は、人的要因についても、同様にして、発生確率P(Y
i)が高いものほど発生しやすい人的要因Y
iであると判断して、発生確率P(Y
i)が高いものから人的要因Y
iを少なくとも1つ、例えば、発生確率P(Y
i)が高い人的要因Y
iから順に複数を選択するように、抽出する。
情報出力部27は、少なくとも1つの抽出された事故の形態、及び少なくとも1つの抽出された人的要因を、表示部53に送信する。より詳細には、情報出力部27は、例えば、その作業者における、事故の形態Y
iごとの確率分布、及び人的要因Y
iごとの確率分布を示す画面を作成し、作成した確率分布を示す画面のデータを、ネットワーク100及び通信部51を介して作業者端末5に送り、表示部53に表示させる。
図5は、作業者端末に表示される、事故の形態ごと、人的要因ごとの確率分布の一例を示す図である。
図5においては、10種類の事故の形態と、4種類の人的要因について、その発生確率が表示されている。
作業者は、
図5に示されるような、事故の形態ごとの確率分布B1、人的要因ごとの確率分布B2を示す画面V1を見ることで、自らに生じやすい事故の形態、人的要因を容易に把握することができる。
本実施形態においては、表示部53には、抽出された事故の形態Y
i及び人的要因Y
iの各々について、発生確率P(Y
i)を発生危険度として、0以上1以下の値として表示されている。
【0033】
図5に示されるような画面V1において、例えば確率分布B1に相当する部分が選択されると、注意喚起情報抽出部26は、確率分布B1に表示された、抽出された少なくとも1つの事故の形態のいずれかに分類される事例を事故災害事例データベース21から抽出する。本実施形態においては、抽出された事故の形態のなかで、発生確率P(Y
i)が最も高く計算された事故の形態Y
i(
図5においては「挟まれ・まきこまれ」)に対応する、適切な事例が選択、抽出されて、後に
図6を用いて説明するように、表示部53に表示される。
同様に、画面V1において、確率分布B2に相当する部分が選択されると、注意喚起情報抽出部26は、確率分布B2に表示された、抽出された少なくとも1つの人的要因のいずれかに分類される事例を事故災害事例データベース21から抽出する。本実施形態においては、抽出された人的要因のなかで、発生確率P(Y
i)が最も高く計算された人的要因Y
i(
図6においては「規律の無視行為、危険な行為」)に対応する、適切な事例が選択、抽出されて、表示部53に表示される。
【0034】
このように事例を表示するために、
図5に示されるような画面V1において、確率分布B1に相当する部分が選択されると、注意喚起情報抽出部26は、抽出された少なくとも1つの事故の形態のいずれか、本実施形態においては発生確率P(Y
i)が最も高く計算された事故の形態Y
iについて、項目の各々が、事故の形態Y
iの抽出にどの程度影響するかの影響度を示す標準化偏回帰係数に基づいて、発生スコア値を計算する。注意喚起情報抽出部26は、発生確率P(Y
i)が最も高く計算された事故の形態Y
iに関する標準化偏回帰係数を基に、当該事故の形態Y
iに分類される事例の各々に対して発生スコア値を計算する。
【0035】
例えば、発生確率P(Y
i)が最も高く計算された事故の形態Y
iが「墜落・転落」であった場合、「墜落・転落」に分類される複数の事例の中から、作業者の状況に最も近い事例を抽出する。これには、注意喚起情報抽出部26は、事故災害事例データベース21を参照し、「墜落・転落」に分類される複数の事例の各々について、当該事例の各項目が、式(1)によって発生確率P(Y
i)を計算する際に説明変数X
jへの値として代入された値と一致しているか否かを判定する。注意喚起情報抽出部26は、事故災害事例データベース21に記録された各事例について、代入された値と一致している項目に対応する標準化偏回帰係数の絶対値を合計することで、発生スコア値を算出する。
例えば、事故の形態Y
iのなかで、「墜落・転落」の発生確率P(Y
i)が最も高かった場合において、ある事例と、発生確率P(Y
i)を計算する際に説明変数X
jへの値として代入された値とが、項目「月火水木」、「晴曇」、「危険作業」において一致した場合には、
図4においては、上記項目の影響度、すなわち標準化偏回帰係数はそれぞれ、-0.00570、-0.00553、0.01116であるから、発生スコア値は、これらの絶対値の総計を、0.00570+0.00553+0.01116=0.02239として計算することで取得される。
【0036】
注意喚起情報抽出部26は、事故災害事例データベース21に記録された複数の事例の中から、発生スコア値が最も高い事例を抽出する。このようにして、注意喚起情報抽出部26は、最も高い発生スコア値を有する事例を、作業者の状況において最も発生しやすいと考えられる事例として選択して抽出する。
注意喚起情報抽出部26は、このようにして、事故の形態Y
iという観点において、作業者の状況において発生しやすい事例を、第1注意喚起事例として抽出する。情報出力部27は、第1注意喚起事例を、ネットワーク100及び通信部51を介して作業者端末5に送り、表示部53に表示させる。
図6は、作業者端末に表示される事故の事例の一例を示す図である。
このように、表示部53に第1注意喚起事例として表示される事故の事例Gが、画面V2として表示され、これを作業者が見ることで、自らに生じやすい事故の事例を容易に把握することができる。
【0037】
また、注意喚起情報抽出部26は、抽出された少なくとも1つの事故の形態のいずれか、本実施形態においては発生確率P(Yi)が最も高く計算された事故の形態Yiについて、標準化偏回帰係数に基づいて、意外性スコア値を計算する。注意喚起情報抽出部26は、発生確率P(Yi)が最も高く計算された事故の形態Yiに関する標準化偏回帰係数を基に、当該事故の形態Yiに分類される事例の各々に対して意外性スコア値を計算する。
意外性スコア値は、上記の事故災害事例データベース21に設定された、各事故の形態Yiに対して予め抽出された、当該事故の形態Yiに関連性はあるが関連性があるとは認識されにくいと考えられる低認識項目に関して、計算される。
注意喚起情報抽出部26は、事故災害事例データベース21を参照し、発生確率P(Yi)が最も高く計算された事故の形態Yiに分類される複数の事例の各々について、当該事例の、低認識項目に含まれる各項目が、式(1)によって発生確率P(Yi)を計算する際に説明変数Xjへの値として代入された値と一致しているか否かを判定する。注意喚起情報抽出部26は、事故災害事例データベース21に記録された各事例について、代入された値と一致している低認識項目に対応する標準化偏回帰係数の絶対値を合計することで、意外性スコア値を算出する。
例えば、事故の形態Yiのなかで、「墜落・転落」の発生確率P(Yi)が最も高かった場合において、ある事例と、発生確率P(Yi)を計算する際に説明変数Xjへの値として代入された値とが、項目「月火水木」、「晴曇」、「危険作業」において一致し、なおかつ「月火水木」と「晴曇」が低認識項目である場合には、「月火水木」と「晴曇」の影響度、すなわち標準化偏回帰係数の絶対値の総計を0.00570+0.00553=0.01123として計算することで、意外性スコア値は計算される。
【0038】
注意喚起情報抽出部26は、事故災害事例データベース21に記録された複数の事例の中から、意外性スコア値が最も高い事例を抽出する。このようにして、注意喚起情報抽出部26は、最も高い意外性スコア値を有する事例を、作業者の状況において、意外に発生しやすい事例として選択して抽出する。
注意喚起情報抽出部26は、このようにして、事故の形態Y
iという観点において、作業者の状況において意外に発生しやすい事例を、第2注意喚起事例として抽出する。情報出力部27は、第2注意喚起事例を、ネットワーク100及び通信部51を介して作業者端末5に送り、表示部53に表示させる。
このように、表示部53に第2注意喚起事例として表示される事故の事例Gが、画面V2として表示され、これを作業者が見ることで、自らに、意外に生じやすい事故の事例を容易に把握することができる。
なお、
図6においては、ひとつの事例Gしか表示されていないが、表示部53には第1注意喚起事例と第2注意喚起事例のいずれか一方のみが表示されるようにして、他方を閲覧したい場合には画面をスクロールするようにすれば、双方の事例を閲覧することが可能である。
【0039】
また、
図5に示されるような画面V1において、確率分布B2に相当する部分が選択されると、注意喚起情報抽出部26は、抽出された少なくとも1つの人的要因のいずれか、本実施形態においては発生確率P(Y
i)が最も高く計算された人的要因Y
iについて、事故の形態の場合と同様に、標準化偏回帰係数に基づいて、発生スコア値を計算する。注意喚起情報抽出部26は、発生確率P(Y
i)が最も高く計算された人的要因Y
iに関する標準化偏回帰係数を基に、当該人的要因Y
iに分類される事例の各々に対して発生スコア値を計算する。
より具体的には、注意喚起情報抽出部26は、事故災害事例データベース21を参照し、発生確率P(Y
i)が最も高く計算された人的要因Y
iに分類される複数の事例の各々について、当該事例の、各項目が、式(1)によって発生確率P(Y
i)を計算する際に説明変数X
jへの値として代入された値と一致しているか否かを判定する。注意喚起情報抽出部26は、事故災害事例データベース21に記録された各事例について、代入された値と一致している項目に対応する標準化偏回帰係数の絶対値を合計することで、発生スコア値を算出する。
【0040】
注意喚起情報抽出部26は、事故災害事例データベース21に記録された複数の事例の中から、発生スコア値が最も高い事例を抽出する。このようにして、注意喚起情報抽出部26は、最も高い発生スコア値を有する事例を、作業者の状況において最も発生しやすいと考えられる事例として選択して抽出する。
注意喚起情報抽出部26は、このようにして、人的要因Yiという観点において、作業者の状況において発生しやすい事例を、第3注意喚起事例として抽出する。情報出力部27は、第3注意喚起事例を、ネットワーク100及び通信部51を介して作業者端末5に送り、表示部53に表示させる。
【0041】
また、注意喚起情報抽出部26は、抽出された少なくとも1つの人的要因のいずれか、本実施形態においては発生確率P(Yi)が最も高く計算された人的要因Yiについて、標準化偏回帰係数に基づいて、意外性スコア値を計算する。注意喚起情報抽出部26は、発生確率P(Yi)が最も高く計算された人的要因Yiに関する標準化偏回帰係数を基に、当該人的要因Yiに分類される事例の各々に対して意外性スコア値を計算する。
注意喚起情報抽出部26は、事故災害事例データベース21を参照し、発生確率P(Yi)が最も高く計算された人的要因Yiに分類される複数の事例の各々について、当該事例の、低認識項目に含まれる各項目が、式(1)によって発生確率P(Yi)を計算する際に説明変数Xjへの値として代入された値と一致しているか否かを判定する。注意喚起情報抽出部26は、事故災害事例データベース21に記録された各事例について、代入された値と一致している低認識項目に対応する標準化偏回帰係数の絶対値を合計することで、意外性スコア値を算出する。
【0042】
注意喚起情報抽出部26は、事故災害事例データベース21に記録された複数の事例の中から、意外性スコア値が最も高い事例を抽出する。このようにして、注意喚起情報抽出部26は、最も高い意外性スコア値を有する事例を、作業者の状況において、意外に発生しやすい事例として選択して抽出する。
注意喚起情報抽出部26は、このようにして、人的要因Yiという観点において、作業者の状況において意外に発生しやすい事例を、第4注意喚起事例として抽出する。情報出力部27は、第4注意喚起事例を、ネットワーク100及び通信部51を介して作業者端末5に送り、表示部53に表示させる。
なお、事故の形態の場合と同様に、表示部53には第3注意喚起事例と第4注意喚起事例のいずれか一方のみが表示されるようにして、他方を閲覧したい場合には画面をスクロールするようにすれば、双方の事例を閲覧することが可能である。
【0043】
情報出力部27は、注意喚起情報抽出部26で生成された画面、注意喚起情報抽出部26で抽出された第1~第4注意喚起事例等のデータを、ネットワーク100及び通信部51を介して作業者端末5に送信する。
【0044】
次に、上記したような事故災害の情報提示システム1の運用方法について説明する。
図7は、事故災害の情報提示システムにおいて実施する、事前準備の流れを示すフローチャートである。
図7に示すように、事故災害の情報提示システム1の情報提示システム本体2では、事前準備として、事故災害事例データベース21に、情報を記憶させる(ステップS11)。事故災害事例データベース21には、過去の事故災害の複数の事例について、事故の形態と、人的要因とを、関連付けて記憶させる。事故災害事例データベース21には、各事例に対し、被災者となった作業者に関する作業者情報、作業者が行っていた作業の内容に関する作業内容情報、及び作業者が行っていた作業の環境に関する作業環境情報の、各々に含まれる項目を、関連付けて記憶させる。
このように、事故の形態または人的要因を特定すれば、これに対応する全ての事例を抽出することが可能となるように、事故災害事例データベース21を構築する。
【0045】
また、関連性格納データベース22に、作業者に関する作業者情報、作業の内容に関する作業内容情報、及び作業の環境に関する作業環境情報の、各々に含まれる項目と、事故の形態の各々との関連性を示す係数を格納する。同様に、関連性格納データベース22に、作業者に関する作業者情報、作業の内容に関する作業内容情報、及び作業の環境に関する作業環境情報の、各々に含まれる項目と、人的要因の各々との関連性を示す係数を格納する(ステップS12)。
このような係数は、既に説明したように、作業者情報、作業内容情報、及び作業環境情報に含まれる項目の各々を説明変数とし、事故の形態の各々を目的変数とした場合、説明変数と目的変数との関連性を示すものとして計算されている。本実施形態においては、事故災害事例データベース21に記憶されている情報に基づいて、事故の形態の各々と、人的要因の各々に対し、それぞれ多重ロジスティック回帰分析を行うことで計算された偏回帰係数が、上記の係数として記憶されている。
【0046】
ステップS12においては、偏回帰係数とともに、関連性格納データベース22に、事故の形態の各々に対して、作業者に関する作業者情報、作業の内容に関する作業内容情報、及び作業の環境に関する作業環境情報の、各々に含まれる項目の各々が、当該事故の形態の抽出にどの程度影響するかの影響度である標準化偏回帰係数を格納する。同様に、関連性格納データベース22に、人的要因の各々に対して、作業者に関する作業者情報、作業の内容に関する作業内容情報、及び作業の環境に関する作業環境情報の、各々に含まれる項目の各々が、当該人的要因の抽出にどの程度影響するかの影響度である標準化偏回帰係数を格納する。
【0047】
また、情報提示システム本体2では、意外性スコア値の計算のために、事故の形態すなわち目的変数の各々に対し、作業者情報、作業内容情報及び作業環境情報に含まれる項目のなかで、当該事故の形態に関連性はあるが関連性があるとは認識されにくいと考えられる項目すなわち説明変数を、低認識項目として抽出し、これを格納する。同様に、人的要因の各々に対しても、作業者情報、作業内容情報及び作業環境情報に含まれる項目のなかで、当該人的要因の事故災害と関連性はあるが関連性があるとは認識されにくいと考えられるものを、低認識項目として抽出し、これを格納する(ステップS13)。
また、作業者データベース23には、複数の作業者に関する情報を記憶させる。作業者データベース23には、作業者に関する情報として、例えば、作業者を識別するための識別情報、パスワードの他、作業者の年齢、経験年数、入場後日数、職種等を記憶させる。
【0048】
図8は、事故災害の情報提示システムの情報提示システム本体における、事故災害の事例提示方法の流れを示すフローチャートである。
図8に示すように、事故災害の情報提示システム1の情報提示システム本体2では、まず、作業者が、作業者端末5を用い、情報提示システム本体2にアクセスする。これには、作業者が、作業者端末5で、情報提示システム本体2にアクセスするためのアプリケーションを立ち上げる。すると、作業者端末5の表示部53には、
図9に示すような入力画面V3が表示される。作業者は、入力部52により、入力画面上に、情報提示システム本体2にアクセスするための情報、例えば、作業者を識別する識別情報、パスワードを入力する。入力された情報は、ネットワーク100を介して情報提示システム本体2に送信される。情報提示システム本体2では、作業者端末5から送信された情報を基に、作業者情報、作業内容情報、作業環境情報の各項目に関する値を収集する(ステップS21)。
情報収集部25は、取得した識別情報を基に、作業者データベース23を参照し、識別情報に関連付けられた作業者に関する情報を取得する。情報収集部25は、作業者が当日に実施する予定の作業を、作業者データベースや工程管理表等から取得し、その作業に関する作業内容情報を、情報提示システム本体2内の他のデータベースや、外部から取得する。また、情報収集部25は、作業環境情報の一部、例えば、天候や曜日に関する作業環境情報を、ネットワーク100を介して外部の他のシステム等から取得する。
また、上記のようにして取得することができない項目に関する情報しては、情報収集部25は、ネットワーク100を介して、作業者端末5側に入力を要請する。この場合、要請に応じて作業者が作業者端末5の入力部52で入力した情報を、情報収集部25はネットワーク100を介して取得する。
図10は、情報収集部で取得された、作業者に関する情報の一例を示す図である。この
図10に示すように、ステップS21を経ることで、作業者に関する情報T1として、作業者に関する作業者情報、作業の内容に関する作業内容情報、及び作業の環境に関する作業環境情報の、各々の項目に対応する値が取得される。
【0049】
次いで、注意喚起情報抽出部26は、情報収集部25で収集された作業内容情報、作業環境情報、及び作業者情報に基づいて、事故の形態Y
i、及び人的要因Y
iの各々について、発生確率P(Y
i)を、上式(1)により算出する(ステップS22)。
続いて、注意喚起情報抽出部26は、発生確率を算出した事故の形態、及び人的要因の各々について、発生確率P(Yi)が高いものからそれぞれ、少なくとも1つを抽出する(ステップS23)。
情報出力部27は、例えば、その作業者における、抽出した事故の形態Y
i、及び抽出した人的要因Y
iの各々における確率分布を示す画面を作成し(ステップS24)、作成した確率分布を示す画面のデータを、ネットワーク100を介して作業者端末5に送る。画面のデータを受信した作業者端末5では、表示部53に、
図5に示すような、確率分布B1、B2を示す画面V1が表示される。なお、表示部53には、抽出された事故の形態について、発生確率を発生危険度として、0以上1以下で表示する。
【0050】
次いで、注意喚起情報抽出部26は、作業者端末5側から、事例の表示のリクエストが有ったか否かを確認する(ステップS25)。確率分布を示す画面の表示を見た作業者が、事例の表示をリクエストする場合、作業者は、入力部52に対して、例えば確率分布B1や確率分布B2に相当する部分を選択する。すると、選択された部分がどの確率分布B1、B2に相当しているか、すなわち、作業者が事故の形態と人的要因のいずれの事例の閲覧を求めているのかを示すリクエスト信号が、ネットワーク100を介して送信され、情報提示システム本体2で受信される。
ステップS25で事例の表示のリクエストがなければ(ステップS25のNo)、注意喚起情報抽出部26は、そのまま処理を終了する。
一方、ステップS25で、事例の表示のリクエストがあった場合(ステップS25のYes)、注意喚起情報抽出部26は、ステップS23において抽出された事故の形態、及び人的要因のいずれかのうち、作業者からの事例の閲覧の要請があった方に分類される事例を抽出する。本実施形態においては、作業者から事故の形態の事例の閲覧が求められた場合には、ステップS23において抽出された事故の形態のなかで、最も発生確率P(Yi)が高いものに分類される事例を抽出する。同様に、本実施形態においては、作業者から人的要因の事例の閲覧が求められた場合には、ステップS23において抽出された人的要因のなかで、最も発生確率P(Yi)が高いものに分類される事例を抽出する。
このためにまず、注意喚起情報抽出部26は、抽出された事故の形態または人的要因に分類される、事故災害事例データベース21に記録された全ての事例について、関連性格納データベース22に記憶された偏回帰係数を標準化した、標準化偏回帰係数に基づいて、発生スコア値、意外性スコア値を計算する(ステップS26)。
【0051】
次いで、注意喚起情報抽出部26は、発生スコア値、意外性スコア値が計算された事例の中から、発生スコア値、意外性スコア値が最も高い事例を、それぞれ抽出する。注意喚起情報抽出部26は、このようにして、抽出された事例を、事故災害事例データベース21から、第1~第4注意喚起事例として抽出する。情報出力部27は、第1~第4注意喚起事例を、ネットワーク100を介して作業者端末5に送り、表示部53に表示させる(ステップS27)。
【0052】
図11は、情報提示システム本体に、新たな事例を追加する場合の流れを示すフローチャートである。
図11に示すように、情報提示システム本体2では、新たな事故災害の事例が生じた場合、事故災害事例データベース21に、事故災害の事例に関する情報を、追加して記憶させる(ステップS31)。事故災害事例データベース21には、新に追加する事例について、事故の形態と、人的要因とを、関連付けて記憶させる。事故災害事例データベース21には、新に追加する事例の事故の形態、被災者となった作業者に関する作業者情報、作業者が行っていた作業の内容に関する作業内容情報、及び作業者が行っていた作業の環境に関する作業環境情報の、各々に含まれる項目を、関連付けて記憶させる。
次いで、情報提示システム本体2では、もともと事故災害事例データベース21に記憶されていた事例と、上記のように新たに追加された事例との、全てを対象として、作業者情報、作業内容情報、及び作業環境情報の各項目と、事故の形態や人的要因の各々との関連性を示す偏回帰係数を、多重ロジスティック回帰分析により算出し、関連性格納データベース22に、記憶させる(ステップS32)。加えて、情報提示システム本体2では、偏回帰係数から標準化偏回帰係数を計算し、関連性格納データベース22に、記憶させる。
【0053】
上述したような事故災害の情報提示システム1によれば、作業者が実施する作業に関する事故災害の情報を、作業者に対して例示する、事故災害の情報提示システム1であって、作業者に関する作業者情報、作業の内容に関する作業内容情報、及び作業の環境に関する作業環境情報の、各々に含まれる項目と、事故の形態の各々との関連性を示す係数(偏回帰係数)が格納された、関連性格納データベース22と、作業者が作業を実施するに際し、当該作業に関する作業内容情報と作業環境情報、及び当該作業者に関する作業者情報を収集する情報収集部25と、収集された作業内容情報と作業環境情報に示される状況において、収集された作業者情報に対応する作業者に発生しやすい事故の形態を、係数を基にして抽出する注意喚起情報抽出部26と、抽出された事故の形態を表示部53に送信する情報出力部27と、を含む。
上記のような構成によれば、作業者が作業を実施するに際して、当該作業の内容に関する作業内容情報、作業の環境に関する作業環境情報、及び当該作業者に関する作業者情報が収集されると、収集された状況において発生しやすいと考えられる事故の形態が抽出される。ここで、事故の形態は、作業者情報、作業内容情報及び作業環境情報の、各々に含まれる項目と、事故の形態の各々との関連性を示す係数(偏回帰係数)を基にして抽出される。すなわち、各項目と事故の形態の各々との関連性が適切に、係数として設定されていれば、作業者情報、作業内容情報及び作業環境情報の項目の中に、仮に、事故の形態との関連が低いようなものがあったとしても、このような項目に過大に影響されずに、かつ関連が高い項目の影響が大きく反映されるように、事故の形態を抽出することができる。このため、収集された作業内容情報と作業環境情報に示される状況において、収集された状況において発生しやすいと考えられる事故の形態を、適切に抽出することが可能となる。
作業者が作業を実施するに際し、上記のようにして抽出された、発生しやすいと考えられる事故の形態を、作業者に対して表示することで、事故災害に関して作業者に対し効果的に注意喚起することができる。これにより、効率的に、事故の発生を抑止することが可能である。
【0054】
また、事故災害の事例を事故の形態ごとに分類して格納する事故災害事例データベース21を更に備え、注意喚起情報抽出部26は、抽出された事故の形態に分類される事例を事故災害事例データベース21から第1注意喚起事例として抽出し、情報出力部27は、表示部53に第1注意喚起事例を送信する。
上記のようにして抽出された、発生しやすいと考えられる事故の形態に分類される事例は、作業者、及び当該作業者がこれから実施しようとしている作業と、関連が深い可能性が高い。このため、作業者が作業を実施するに際し、抽出された事故の形態に分類される事例を事故災害事例データベース21から第1注意喚起事例として抽出し、作業者に対して表示することで、事故災害に関して作業者に対し効果的に注意喚起することができる。これにより、効率的に、事故の発生を抑止することが可能である。
【0055】
また、注意喚起情報抽出部26は、収集された作業者情報、作業内容情報及び作業環境情報に対し、係数(偏回帰係数)を適用して、事故の形態の各々の発生確率を計算し、発生確率が高いものほど発生しやすい事故の形態であると判断して、発生確率が高いものから事故の形態を少なくとも1つ抽出し、抽出された事故の形態のいずれかに分類される事例を第1注意喚起事例として抽出する。
このような構成によれば、収集された作業者情報、作業内容情報及び作業環境情報に対し、作業者情報、作業内容情報及び作業環境情報の各項目と、事故の形態の各々との関連性を示す係数を適用することで、事故の形態の各々の発生確率が計算され、この発生確率が高いものから事故の形態を少なくとも1つ抽出する。このようにして抽出された事故の形態は、事故の形態のなかでも特に、作業者にとって発生しやすいと考えられる。したがって、少なくとも1つ抽出された事故の形態の、いずれかに分類される事例を第1注意喚起事例として抽出し、作業者に対して提示することで、効果的に、作業者に注意喚起することが可能となる。
【0056】
特に、本実施形態においては、上記のようにして、事故の形態の各々や、人的要因の各々に対して、式(1)として示されるような発生確率のモデルが生成されるため、事故の形態の各々や、人的要因の各々に対して独立に、発生確率を計算することができる。このため、作業者情報、作業内容情報及び作業環境情報のどの項目が、どの事故の形態や人的要因に影響しているか、等の、解析が容易である。
【0057】
また、関連性格納データベース22には、事故の形態の各々に対して、項目の各々が、当該事故の形態の抽出にどの程度影響するかの影響度(標準化偏回帰係数)が、係数(偏回帰係数)とともに格納され、注意喚起情報抽出部26は、影響度を基に、抽出された事故の形態に分類される事例の各々に対して発生スコア値を計算し、発生スコア値が最も高い事例を、第1注意喚起事例として抽出する。
このような構成によれば、作業者が作業を実施するに際し、発生しやすい事故の形態に分類される事例の中から、より作業者に生じやすいと思われる事例を、第1注意喚起事例として作業者に対して提示することができる。
【0058】
また、事故の形態の各々に対し、作業者情報、作業内容情報及び作業環境情報に含まれる項目のなかで、当該事故の形態の事故災害と関連性はあるが関連性があるとは認識されにくいと考えられるものが、低認識項目として、予め抽出され、関連性格納データベース22には、事故の形態の各々に対して、項目の各々が、当該事故の形態の抽出にどの程度影響するかの影響度(標準化偏回帰係数)が、係数(偏回帰係数)とともに格納され、注意喚起情報抽出部26は、低認識項目に関する影響度を基に、抽出された事故の形態に分類される事例の各々に対して意外性スコア値を計算し、意外性スコア値が最も高い事例を、第2注意喚起事例として抽出し、情報出力部27は、表示部53に第2注意喚起事例を送信する。
このような構成によれば、事故の形態の各々に対し、作業者情報、作業内容情報及び作業環境情報に含まれる項目のなかで、その事故の形態の事故災害と関連性はあるが関連性があるとは認識されにくいと考えられるものを、低認識項目として予め抽出しておく。また、関連性格納データベース22には、事故の形態の各々に対して、項目の各々が、当該事故の形態の抽出にどの程度影響するかの影響度が、係数とともに格納されている。このような影響度のなかでも特に、低認識項目に関するものを基に、抽出された事故の形態に分類される事例の各々に対して意外性スコア値を計算する。このようにして計算された意外性スコア値は、抽出された事故の形態とは関連性はあるが関連性があるとは認識されにくいと考えられる項目の、当該事故の形態に対する影響度であるから、当該事故の形態のなかで、この意外性スコア値が高い事故の事例があるとすれば、それは、作業者においては通常想定しにくいと考えられるが、実際には発生する可能性が高い事故の事例といえる。したがって、抽出した事故の形態に分類される事例のなかから、意外性スコア値が最も高い事例を、第2注意喚起事例として抽出し、抽出された第2注意喚起事例を作業者に表示することで、作業者が作業を実施するに際して発生することが意外であると思われる事例についても、作業者に対して提示することができる。
第1注意喚起事例として提示される事例は、作業者からすると、発生しやすいことが容易に推定できるものである場合がある。これに対し、作業者からすると、発生することが想定しにくいが、実際には発生する可能性が高い事例を第2注意喚起事例として作業者に提示することで、作業者に、より有効な注意喚起がなされる。
【0059】
特に、上記のような、発生スコア値や意外性スコア値は、影響度(標準化偏回帰係数)の絶対値を加算することで、計算されている。
例えば
図4に示されるように、標準化偏回帰係数は、正負のいずれの値をも取り得る。ここで、発生スコア値や意外性スコア値を計算するに際し、標準化偏回帰係数を、絶対値を取らずに加算すると、正の値を有する標準化偏回帰係数と負の値を有する標準化偏回帰係数とで値が相殺され、標準化偏回帰係数の各々が大きな影響度を示すような場合であっても、結果として、発生スコア値や意外性スコア値が小さな値となってしまう。これに対し、発生スコア値や意外性スコア値を、標準化偏回帰係数の絶対値を加算することで計算することにより、正負の値が互いに加算されることによる値の減少が抑制され、影響度の大きさとしての標準化偏回帰係数の値が適切に反映された、発生スコア値、意外性スコア値を、計算することができる。
【0060】
また、事故災害の情報提示システム1において、表示部53は、抽出された事故の形態について、発生確率を発生危険度として、0以上1以下で表示する。
このような構成によれば、作業者は、発生しやすい事故の事例の危険度を、直感的に認識することができる。
【0061】
また、上述したような事故災害の情報提示システム1は、作業者が実施する作業に関する事故災害の情報を、作業者に対して例示する、事故災害の情報提示システム1であって、作業者に関する作業者情報、作業の内容に関する作業内容情報、及び作業の環境に関する作業環境情報の、各々に含まれる項目と、事故災害の人的要因の各々との関連性を示す係数(偏回帰係数)が格納された、関連性格納データベース22と、作業者が作業を実施するに際し、当該作業に関する作業内容情報と作業環境情報、及び当該作業者に関する作業者情報を収集する情報収集部25と、収集された作業内容情報と作業環境情報に示される状況において、収集された作業者情報に対応する作業者が発生させ得る事故災害の原因となりやすい人的要因を、係数を基にして抽出する注意喚起情報抽出部26と、抽出された人的要因を表示部53に送信する情報出力部27と、を含む。
上記のような構成によれば、作業者が作業を実施するに際して、当該作業の内容に関する作業内容情報、作業の環境に関する作業環境情報、及び当該作業者に関する作業者情報が収集されると、収集された状況において、作業者が発生させ得る事故災害の原因となりやすい人的要因が抽出される。ここで、人的要因は、作業者情報、作業内容情報及び作業環境情報の、各々に含まれる項目と、人的要因の各々との関連性を示す係数(偏回帰係数)を基にして抽出される。すなわち、各項目と人的要因の各々との関連性が適切に、係数として設定されていれば、作業者情報、作業内容情報及び作業環境情報の項目の中に、仮に、人的要因との関連が低いようなものがあったとしても、このような項目に過大に影響されずに、かつ関連が高い項目の影響が大きく反映されるように、人的要因を抽出することができる。このため、収集された状況において事故災害の原因となりやすいと考えられる人的要因を、適切に抽出することが可能となる。
作業者が作業を実施するに際し、上記のようにして抽出された、作業者が発生させ得る事故災害の原因となりやすい人的要因を、作業者に対して表示することで、事故災害に関して作業者に対し効果的に注意喚起することができる。これにより、効率的に、事故の発生を抑止することが可能である。
【0062】
また、事例を人的要因ごとに分類して格納する事故災害事例データベース21を更に備え、注意喚起情報抽出部26は、抽出された人的要因に分類される事例を事故災害事例データベース21から第3注意喚起事例として抽出し、情報出力部27は、表示部53に第3注意喚起事例を送信する。
上記のようにして抽出された、事故災害の原因となりやすいと考えられる人的要因に分類される事例は、作業者、及び当該作業者がこれから実施しようとしている作業と、関連が深い可能性が高い。このため、作業者が作業を実施するに際し、抽出された人的要因に分類される事例を事故災害事例データベース21から第3注意喚起事例として抽出し、作業者に対して表示することで、事故災害に関して作業者に対し効果的に注意喚起することができる。これにより、効率的に、事故の発生を抑止することが可能である。
【0063】
また、注意喚起情報抽出部26は、収集された作業者情報、作業内容情報及び作業環境情報に対し、係数(偏回帰係数)を適用して、人的要因の各々の発生確率を計算し、発生確率が高いものほど発生しやすい人的要因であると判断して、発生確率が高いものから人的要因を少なくとも1つ抽出し、抽出された人的要因のいずれかに分類される事例を第3注意喚起事例として抽出する。
このような構成によれば、作業者が発生させる可能性が、より高いと想定される人的要因に分類される事例を、第3注意喚起事例として作業者に対して提示することができ、より効果的な注意喚起がなされる。
【0064】
また、関連性格納データベース22には、人的要因の各々に対して、項目の各々が、当該人的要因の抽出にどの程度影響するかの影響度(標準化偏回帰係数)が、係数(偏回帰係数)とともに格納され、注意喚起情報抽出部26は、影響度を基に、抽出された人的要因に分類される事例の各々に対して発生スコア値を計算し、発生スコア値が最も高い事例を、第3注意喚起事例として抽出する。
このような構成によれば、作業者が作業を実施するに際し、発生しやすい人的要因に分類される事例の中から、より作業者に生じやすいと思われる事例を、第3注意喚起事例として作業者に対して提示することができる。
【0065】
また、人的要因の各々に対し、作業者情報、作業内容情報及び作業環境情報に含まれる項目のなかで、当該人的要因の事故災害と関連性はあるが関連性があるとは認識されにくいと考えられるものが、低認識項目として、予め抽出され、関連性格納データベース22には、人的要因の各々に対して、項目の各々が、当該人的要因の抽出にどの程度影響するかの影響度(標準化偏回帰係数)が、係数(偏回帰係数)とともに格納され、注意喚起情報抽出部26は、低認識項目に関する影響度を基に、抽出された人的要因に分類される事例の各々に対して意外性スコア値を計算し、意外性スコア値が最も高い事例を、第4注意喚起事例として抽出する。
このような構成によれば、作業者が作業を実施するに際し、作業者と関連はあるが関連性があるとは認識されにくいと思われる、人的要因に関する事例についても、第4注意喚起事例として作業者に対して提示することができる。第3注意喚起事例で提示される事例は、発生しやすい事例であり、作業者からすると、容易に推定できるものである場合がある。これに対し、作業者と関連はあるが関連性があるとは認識されにくいと思われる事例を第4注意喚起事例として作業者に提示することで、作業者に、より有効な注意喚起がなされる。
【0066】
(その他の変形例)
上記実施形態では、事故災害の事例提示方法の流れについて説明したが、その順序は適宜変更可能であり、また、その一部の処理を省略してもよい。
また、上記実施形態においては、
図5に示されるような画面V1において、例えば確率分布B1に相当する部分が選択されると、発生確率P(Y
i)が最も高く計算された事故の形態に対応する、適切な事例が選択されて、表示部53に表示されていた。これに替えて、例えば
図5において、「墜落・転落」等と表示されている、事故の形態に関する確率分布上の文言を示す部分P1や、「規律の違反行為」等と表示されている、人的要因に関する確率分布上の文言を示す部分P2が選択された場合には、これらの文言に対応する事故の形態や人的要因に分類される事例を抽出し、表示するようにしてもよい。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0067】
1 情報提示システム 26 注意喚起情報抽出部
21 事故災害事例データベース 27 情報出力部
22 関連性格納データベース 53 表示部
25 情報収集部