(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162334
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】ピリジニック窒素を選択的に導入した含窒素炭素材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/184 20170101AFI20241114BHJP
【FI】
C01B32/184
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023077731
(22)【出願日】2023-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(71)【出願人】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100121636
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 昌靖
(74)【代理人】
【識別番号】100222302
【弁理士】
【氏名又は名称】南原 克行
(72)【発明者】
【氏名】山田 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】山本 うらら
(72)【発明者】
【氏名】郷田 隼
【テーマコード(参考)】
4G146
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AA15
4G146AB07
4G146AC16B
4G146BA15
4G146BC27
4G146BC32B
4G146BC33B
4G146BC37B
(57)【要約】
【課題】エッジに窒素原子が導入されて構造が精密に制御された含窒素炭素材料を、取り扱い易い原料を用い、温和な条件で簡便に製造する方法を提供する。
【解決手段】本発明の実施形態による含窒素炭素材料の製造方法は、前駆体化合物(A)を加熱する加熱工程(I)を含む。前駆体化合物(A)は、ピリジン環(a)と芳香族環(b)とを有する。芳香族環(b)は、ピリジン環(a)に単結合により結合している。芳香族環(b)は、ベンゼン環およびピリジン環からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前駆体化合物(A)を加熱する加熱工程(I)を含み、
前記前駆体化合物(A)は、
ピリジン環(a)と、
前記ピリジン環(a)に単結合により結合している、ベンゼン環およびピリジン環からなる群より選ばれる少なくとも1種の芳香族環(b)と、を有する、
含窒素炭素材料の製造方法。
【請求項2】
前記芳香族環(b)は、ピリジン環である、請求項1に記載の含窒素炭素材料の製造方法。
【請求項3】
前記前駆体化合物(A)は、ポリピリジンである、請求項1に記載の含窒素炭素材料の製造方法。
【請求項4】
前記前駆体化合物(A)は、ハロゲン元素を有する、請求項1に記載の含窒素炭素材料の製造方法。
【請求項5】
前記前駆体化合物(A)は、化合物(1)~(4)からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の含窒素炭素材料の製造方法。
【化1】
ここで、R
1~R
4は、それぞれ、水素または臭素であり、nは、2~500の整数である。
【請求項6】
前記加熱工程(I)における前記前駆体化合物(A)の加熱温度が300℃~1000℃である、請求項1に記載の含窒素炭素材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピリジニック窒素を選択的に導入した含窒素炭素材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カーボンナノチューブ、フラーレン、グラファイト、グラフェン、酸化グラフェン、還元型酸化グラフェン、人造黒鉛、カーボンブラックなどの炭素材料は、それぞれ、その特徴的な物性に起因して、各種分野における新規な機能性材料として期待されている(例えば、非特許文献1~6)。
【0003】
グラフェンは2次元シート状の炭素材料であり、sp2炭素による六員環で敷き詰められた構造をしている。グラファイトは、通常、2次元シート状のグラフェン同士がファンデルワールス力で結合した多数の積層構造をしているものを指すが、1層のものをグラフェンと称する。2層-5層のグラフェンが積層した材料は数層グラフェンと呼び,3層以上のグラフェンが積層した材料を多層グラフェンと呼ぶ。1層のグラフェンではベーサル面に官能基を導入することでグラフェン自体の特性や形状が大きく変化する。3層以上となると、グラフェンのベーサル面に官能基を導入しても中心部のグラフェンは直接影響を受けにくくなる。そのため,3層以上のグラフェンは基本的には層数が増加し、比表面積が減少する以外には際立った性質の違いは現れにくくなる。
【0004】
グラフェンの存在は古くから知られていたが、グラファイトから1枚のグラフェンを取り出す方法は最近まで確立されていなかった。2004年になって、高配向性の無水グラファイトの表面を粘着テープで剥離し、剥離したものを基板の上に貼り付ける方法によってグラフェンの薄片を取り出せることが見出され、その後、大量生産や低コスト生産を目指して、CVD(化学気相蒸着製膜法)などの気相製膜法によるグラフェンの製造方法や、酸化グラフェン(GO)の還元法によるグラフェン(還元型酸化グラフェン:RGO)の製造方法が検討されている。
【0005】
しかし、CVD(化学気相蒸着製膜法)などの気相製膜法によるグラフェンの製造方法は、膜以外の形状(代表的には、バルク状)として得ることができないという問題、可燃性ガスを使用しなければならないという問題、Cu等の触媒性能を有する金属基板上に製膜させるため、金属が不純物として含有してしまうという問題、金属表面のみの製造であって大量製造できないという問題がある。
【0006】
また、同一分子間および/または異種分子間で縮合反応が起きる化合物を加熱して炭素材料を製造する方法が開示されている(特許文献1)。この技術では温和な条件で炭素材料が合成できることが示されている。
【0007】
工業的に製造されている炭素材料は、様々な官能基を有している。このため、炭素材料の構造を精密に制御することが難しく、物性にばらつきが生じてしまうという問題がある。近年、狙った物性を確実に発現できる炭素材料が求められており、このため、構造が精密に制御された炭素材料の開発が求められている。
【0008】
このような構造が精密に制御された炭素材料の中でも、エッジに炭素以外の原子が導入されて構造が精密に制御された炭素材料を得ることができれば、各種用途への応用が期待される。特に、エッジに窒素原子が導入されて構造が精密に制御された含窒素炭素材料は、応用範囲が広い可能性がある。
【0009】
近年、エッジに窒素原子すなわちピリジニック窒素が導入されたグラフェン(非特許文献7)やグラフェンナノリボン(非特許文献8~10)、酸化グラフェン(非特許文献11)等の種々の炭素材料が報告されている(非特許文献12~15)。ピリジニック窒素の構造制御状態が高いものとして、グラフェンについては89%程度(非特許文献7)、グラフェンナノリボンについては75%程度(非特許文献8)、酸化グラフェンについては80%程度制御されていると考えられる(非特許文献11)。しかし、グラフェンにおいては600℃以下という低温で調製されており、触媒作用を示す銅が金属基板として使用されている(非特許文献7)。このため、上述のように、金属が不純物として含有してしまうという問題、金属表面のみの製造であって大量製造できないという問題がある。グラフェンナノリボンに関する上記3報の報告の内の2報(非特許文献8、9)では、金属基板は使用されていない。しかし、非特許文献8に記載の技術においては、2つのピリジニック窒素がオルト位で導入された構造を有して臭素化された原料を使用しており、原料の取り扱い性が容易ではないという問題がある。また、非特許文献9においては、ピリジニック窒素がパラ位で導入されたグラフェンナノリボンが報告されているが、その解析が十分になされておらず、構造が精密に制御されているかについては検討されていない。さらに、非特許文献11に記載の酸化グラフェンについては、熱処理が行われておらず、耐久性が低いと考えられる。これらの他にも、非特許文献12、13、14、15に記載の炭素材料においては、ピリジニック窒素の構造制御状態は高くない(非特許文献12に記載の炭素材料で45%、非特許文献13に記載の炭素材料で60%~70%、非特許文献14に記載の炭素材料で70%、非特許文献15に記載の炭素材料で73%)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Nature,354,p.56-58(1991)
【非特許文献2】Science,306,p.666-669(2004)
【非特許文献3】H.Nishihara et.al., Adv.Funct.Mater., 26, 6418-6427(2016)
【非特許文献4】齋藤理一郎著, 「グラフェンの最先端技術と広がる応用」, 第2章.グラフェンの基礎物性, 3.グラフェンの光電子物性
【非特許文献5】Dawei Pan et.al., Langmuir, 22, 5872-5876(2006)
【非特許文献6】V.Ruiz et.al.,Electrochem. Commun., 24, 35-38(2012)
【非特許文献7】S.Yasuda et.al.,Chem.Commun.,49,9627-9629(2013)
【非特許文献8】T.H.Vo et.al.,Chem.Commun.,49,4172-4174(2014)
【非特許文献9】K.T.Kim et.al.,Macromol.Chem.Phys.,214,2768-2773(2013)
【非特許文献10】Y.Zhang et.al.,Appl.Phys.Lett.,105,023101(2014)
【非特許文献11】G.Bang et.al.,ACS Omega,3,5522-5530(2018)
【非特許文献12】W.Ding et.al.,Angew.Chem.Int.Ed.,52,11755-11759(2013)
【非特許文献13】M.A.S.Haniff et.al.,ACS Appl.Mater.Interfaces,9,15192-15201(2017)
【非特許文献14】Y.Chen et.al.,Nanoscale Res,Lett.,9,646(2014)
【非特許文献15】T.Khai et.al.,Carbon,50,3799-3806(2012)
【非特許文献16】Y.Yamada et.al.,Carbon,198,411-434(2022)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、エッジに窒素原子が導入されて構造が精密に制御された含窒素炭素材料を、取り扱い易い原料を用い、温和な条件で簡便に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の実施形態による含窒素炭素材料の製造方法は、
前駆体化合物(A)を加熱する加熱工程(I)を含み、
前記前駆体化合物(A)は、
ピリジン環(a)と、
前記ピリジン環(a)に単結合により結合している、ベンゼン環およびピリジン環からなる群より選ばれる少なくとも1種の芳香族環(b)と、を有する。
【0014】
一つの実施形態においては、上記芳香族環(b)は、ピリジン環である。
【0015】
一つの実施形態においては、上記前駆体化合物(A)は、ポリピリジンである。
【0016】
一つの実施形態においては、上記前駆体化合物(A)は、ハロゲン元素を有する。
【0017】
一つの実施形態においては、上記前駆体化合物(A)は、化合物(1)~(4)からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【0018】
【0019】
ここで、R1~R4は、それぞれ、水素または臭素であり、nは、2~500の整数である。
【0020】
一つの実施形態においては、上記加熱工程(I)における上記前駆体化合物(A)の加熱温度が300℃~1000℃である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、エッジに窒素原子が導入されて構造が精密に制御された含窒素炭素材料を、取り扱い易い原料を用い、温和な条件で簡便に製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施例1で得られた含窒素炭素材料(1a)、(1b)、(1c)、およびP25pyr(原料)のN1sX線光電子分光分析(XPS)におけるXPSスペクトル図である。
【
図2】実施例1で得られた含窒素炭素材料(1a)、(1b)のラマン分光分析の実測のラマンスペクトル、および含窒素炭素材料(1a)、(1b)に関連する構造の計算によるラマンスペクトルの図である。
【
図3】実施例2で得られた含窒素炭素材料(2a)、(2b)、(2c)、およびP35pyr(原料)のN1sXPS分析のXPSスペクトル図である。
【
図4】実施例2で得られた含窒素炭素材料(2a)、(2b)の実測のラマン分光分析のラマンスペクトル、および含窒素炭素材料(2a)、(2b)に関連する構造の計算によるラマンスペクトルの図である。
【
図5】実施例3で得られた含窒素炭素材料(3a)、(3b)のN1sXPS分析のXPSスペクトル図である。
【
図6】実施例3で得られた含窒素炭素材料(3a)、(3b)の実測のラマン分光分析のラマンスペクトル、および含窒素炭素材料(3a)、(3b)に関連する構造の計算によるラマンスペクトルの図である。
【
図7】実施例4で得られた含窒素炭素材料(4a)、(4b)のN1sXPS分析のXPSスペクトル図である。
【
図8】実施例4で得られた含窒素炭素材料(4a)、(4b)の実測のラマン分光分析のラマンスペクトル、および含窒素炭素材料(4a)、(4b)に関連する構造の計算によるラマンスペクトルの図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
≪≪1.含窒素炭素材料の製造方法≫≫
本発明の実施形態による含窒素炭素材料の製造方法は、前駆体化合物(A)を加熱する加熱工程(I)を含む。前駆体化合物(A)は、ピリジン環(a)と、芳香族環(b)とを有する。芳香族環(b)は、ピリジン環(a)に単結合により結合している。加えて、芳香族環(b)は、ベンゼン環およびピリジン環からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【0024】
前駆体化合物(A)は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0025】
前駆体化合物(A)は、ハロゲン元素を有していてもよい。ハロゲン元素は、ピリジン環(a)を構成する炭素原子および/または芳香族環(b)を構成する炭素原子に直接結合していてもよい。ハロゲン元素の例は、フッ素、塩素、臭素、およびヨウ素である。前駆体化合物(A)は、ハロゲン元素として、フッ素、塩素、臭素、およびヨウ素からなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよい。前駆体化合物(A)は、ハロゲン元素として、好ましくは臭素を含む。
【0026】
ピリジン環(a)および芳香族環(b)は、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な置換基を、任意の適切な位置に有していてもよい。このような置換基としては、例えば、アルキル基;アリール基;トシラート、トリフラート、ハロゲン基等の脱離能を有する置換基;などが挙げられる。加熱後の炭素材料中に不純物となりうる置換基が存在しないほうが物性等に悪影響がないため、水素基(置換基を有さない)もしくは脱離能を有する置換基が好ましい。脱離能を有する置換基は、好ましくはハロゲン基であり、より好ましくは臭素である。
【0027】
上述の通り、芳香族環(b)は、ベンゼン環およびピリジン環からなる群より選ばれる少なくとも1種である。芳香族環(b)は、好ましくはピリジン環である。芳香族環(b
)がピリジン環であることによって、炭素化がより進行しやすくなるので、含窒素炭素材料を、より温和な条件で簡便に製造できる。また、芳香族環(b)がピリジン環であることで、得られた炭素材料中のピリジニック窒素量が増えるため好ましい。
【0028】
前駆体化合物(A)の分子量は、例えば、40000以下であり、好ましくは50~7000、より好ましくは100~600、さらに好ましくは150~500であり、特に好ましくは200~400である。前駆体化合物(A)の分子量が上記範囲内にあれば、取り扱い易い原料となり得る。
【0029】
前駆体化合物(A)は、ポリピリジンであってもよい。ここで、本明細書において、「ポリピリジン」とは、2以上のピリジン環が単結合により結合した化合物を意味する。ポリピリジンに含まれるピリジン環の数は、例えば500以下である。ポリピリジンは、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な置換基を、任意の適切な位置に有していてもよい。置換基の例は、上述の通りである。前駆体化合物(A)がポリピリジンであることによって、炭素化がより進行しやすくなるので、含窒素炭素材料を、より温和な条件で簡便に製造できる。
【0030】
前駆体化合物(A)としては、例えば、下記のような化合物(1)~(4)が挙げられる。しかしながら、化合物(1)~(4)に該当しない前駆体化合物も、本発明の効果を損なわない範囲で、前駆体化合物(A)として採用し得る。
【0031】
【0032】
化合物(1)および(2)において、R1~R4は、それぞれ、水素または臭素である。nは、2~500の整数である。nは、好ましくは2~100の整数であり、より好ましくは2~50の整数であり、さらに好ましくは2~10の整数であり、特に好ましくは2~5の整数である。
【0033】
本発明の実施形態による含窒素炭素材料の製造方法は、前駆体化合物(A)を加熱する加熱工程(I)を含む。加熱工程(I)における「加熱」は、「焼成」と称されるものであってもよい。
【0034】
加熱工程(I)においては、前駆体化合物(A)が加熱されればよい。すなわち、加熱工程(I)において前駆体化合物(A)が加熱されればよいのであるから、加熱工程(I)は、「前駆体化合物(A)を含む組成物」が加熱される態様であってもよい。
【0035】
加熱工程(I)が、「前駆体化合物(A)を含む組成物」が加熱される態様である場合、「前駆体化合物(A)を含む組成物」中の前駆体化合物(A)の含有割合は、本発明の効果をより発現させ得る点で、好ましくは50重量%~100重量%であり、より好ましくは80重量%~100重量%であり、さらに好ましくは90重量%~100重量%であり、特に好ましくは95重量%~100重量%であり、最も好ましくは実質的に100重量%である。ここにいう「実質的に」とは、前駆体化合物(A)に起因する効果以外の効果を発現させるための別の成分が、前駆体化合物(A)と積極的に併用されたりする形態
を除くことを意味し、例えば、本発明の効果を損なわない範囲で、製造過程などによって不可避に混入する不純物等の含有は許容される。
【0036】
加熱工程(I)における加熱温度は、好ましくは300℃~1000℃であり、より好ましくは350℃~900℃であり、さらに好ましくは400℃~800℃であり、特に好ましくは450℃~700℃である。加熱工程(I)における加熱温度を上記範囲内に制御することにより、エッジに窒素原子が導入されて構造が精密に制御された含窒素炭素材料を、温和な条件で簡便に製造することができる。
【0037】
加熱工程(I)における加熱時間は、好ましくは1分~120時間であり、より好ましくは10分~96時間であり、さらに好ましくは30分~72時間であり、特に好ましくは1時間~24時間である。加熱工程(I)における加熱時間を上記範囲内に制御することにより、エッジに窒素原子が導入されて構造が精密に制御された含窒素炭素材料を、温和な条件で簡便に製造することができる。
【0038】
加熱工程(I)における加熱の方法としては、管状炉、ボックス炉のような焼成炉、熱媒を利用した加熱反応装置、マイクロ波を利用した加熱反応装置などが使用できる。
【0039】
加熱工程(I)における加熱の圧力条件としては、真空下、常圧下、加圧下などで行うことができる。
【0040】
加熱工程(I)における加熱の雰囲気条件としては、大気下、不活性ガス雰囲気下などで行うことができる。不活性ガス雰囲気下としては、例えば、窒素下、アルゴン下などが挙げられる。
【0041】
加熱工程(I)においては、好ましくは、前駆体化合物(A)をバルク状態または溶媒等に溶解して成形し加熱する。前駆体化合物(A)をバルク状態で加熱するとは、例えば、(i)前駆体化合物(A)からなる粒子(例えば、粉体)を加熱する、(ii)前駆体化合物(A)からなる粒子(例えば、粉体)を圧縮成形等でペレット状やフィルム状、繊維状に成形を行った後、その成形体を加熱する、等の行為を包含する。また、溶媒等に溶解して成形するとは、前駆体化合物(A)を溶媒に溶解してフィルム状や繊維状に成形を行った後乾燥させ、その成形体を加熱することを意味する。前駆体化合物(A)を溶媒に溶解する際に、粉末を混合し、粉末状に前駆体化合物(A)を被覆した後に加熱する方法も挙げられる。
【0042】
加熱工程(I)において前駆体化合物(A)を加熱する際、例えば、容器に入れて加熱してもよい。容器としては、任意の適切な容器を採用し得る。このような容器としては、例えば、加熱工程(I)における加熱温度で実質的に変質しない材質からなるものが好ましい。また、前駆体化合物(A)が接触する表面が、加熱する際に、前駆体化合物(A)と化学反応しないような材質であることが好ましい。前駆体化合物(A)を好ましい条件で加熱する加熱工程(I)ことにより、含窒素炭素材料を得ることが可能となり、その加熱工程(I)において、前駆体化合物(A)の融点付近で該前駆体化合物(A)が融解して液体状になることがある。このような経過を経る場合も「前駆体化合物(A)をバルク状態で焼成する」ことに含まれる。
【0043】
加熱工程(I)によって、例えば、薄膜が形成される。薄膜の形成方法として、化学気相成長法(CVD)法、物理気相成長法(PVD)、薄膜蒸着加熱法、などが挙げられる。薄膜としては、おおむね膜厚が1μm以下の範囲を意味する。
【0044】
加熱工程(I)においては、前駆体化合物(A)を、金属と接触させた状態で加熱して
もよく、金属と接触させない状態で加熱してもよい。金属と接触させない状態で加熱する場合、前駆体化合物(A)を、金属と接触させない状態で加熱することにより、得られる含窒素炭素材料中に金属が不純物として含有してしまうことを抑制し得る。ただし、上記のように金属と接触させないというのは積極的に金属に接触させないという意味である。積極的に接触させるというのは、例えば、前駆体化合物(A)を溶剤に溶解して金属に塗布して膜状にして該金属とともに加熱することにより薄膜を形成する方法など、金属との接触面積を積極的に増やす等の操作を意味する。
【0045】
加熱工程(I)においては、好ましくは、前駆体化合物(A)を、触媒反応を用いずに加熱する。前駆体化合物(A)を、触媒反応を用いずに加熱することによって、反応触媒が含窒素炭素材料中に存在してしまい、致命的な不純物となることを抑制し得る。
【0046】
前駆体化合物(A)が加熱工程(I)において加熱されることにより、前駆体化合物(A)の縮合反応が起き、含窒素炭素材料となる。前駆体化合物(A)が1種の場合は、同一種の分子間での縮合反応となり得る。前駆体化合物(A)が2種以上の場合は、同一種の分子間での縮合反応と異種の分子間での縮合反応とが併存し得る。
【0047】
上述の通り、前駆体化合物(A)は、ピリジン環(a)と芳香族環(b)とが単結合により結合している構成を有する。これにより、前駆体化合物(A)は、例えば、1分子内に、複数のC-H結合および/または複数のC-X結合を有する。ここで、C-H結合およびC-X結合のCは、ピリジン環(a)および/または芳香族環(b)を構成している炭素原子を示す。Xはハロゲン元素を示す。前駆体化合物(A)が、1分子内に、複数のC-H結合および/または複数のC-X結合を有することによって、炭素化がより進行しやすくなる。その結果、含窒素炭素材料を、より温和な条件で簡便に製造できる。
【0048】
前駆体化合物(A)は、ピリジン環を構成している窒素原子に隣接する炭素原子に、C-H結合および/またはC-X結合が形成されていることが好ましい。これにより、炭素化がより進行しやすくなる。その結果、含窒素炭素材料を、より温和な条件で簡便に製造できる。
【0049】
≪≪2.含窒素炭素材料≫≫
本発明の実施形態による製造方法で得られる含窒素炭素材料は、エッジに窒素原子が導入されて構造が精密に制御された含窒素炭素材料である。このようなエッジに存在する窒素原子は、ピリジニック窒素原子と称される。
【0050】
ここで、「エッジ」とは、炭素材料の分野で通常用いられる「エッジ」を意味し、グラファイトなどの1層または2層以上の層構造における、平面側を「ベーサル面」、ベーサル面と実質的に直角方向の面(層の断面が現れる面)を「エッジ面」あるいは「エッジ」という。すなわち、ベーサル面の例えば、平面側から見て中抜き構造(ベーサル面の一部が打ち抜かれている構造)を有する炭素材料における、中抜き部分に露出した断面箇所も「エッジ」である。
【0051】
本発明の実施形態による製造方法で得られる含窒素炭素材料は、特徴的な製造方法で得られる含窒素炭素材料であるので、従来公知の炭素材料とは異なる新規な炭素材料となり得る。従来公知の炭素材料としては、例えば、カーボンナノチューブ、フラーレン、グラファイト膜、グラフェン、酸化グラフェン、還元型酸化グラフェン、人造黒鉛、カーボンブラックなどが挙げられる。
【0052】
本発明の実施形態による製造方法で得られる含窒素炭素材料は、N1sXPS分析において、該含窒素炭素材料中の全窒素原子(第3級窒素原子、エッジに存在するピリジニッ
ク窒素原子、およびその他の窒素原子の合計)のピークに対する、ピリジニック窒素原子のピークの割合が、30%以上であり、好ましくは35%以上であり、より好ましくは40%以上であり、さらに好ましくは50%以上であり、特に好ましくは60%以上であり、最も好ましくは70%以上である。上記割合の上限は、好ましくは100%以下である。含窒素炭素材料において、N1sXPS分析による、全窒素原子のピークに対する、ピリジニック窒素原子のピークの割合が、上記範囲内にあれば、エッジの窒素原子が含窒素炭素材料中に構造が精密に制御されて存在しており、様々な物性をもつ含窒素炭素材料となり得るとともに、各種用途へ広く応用できる可能性がある。
【0053】
本発明の実施形態による製造方法で得られる含窒素炭素材料は、上述の通り、N1sXPS分析により、ピリジニック窒素原子を高い割合で有することがわかる。
【0054】
前駆体化合物(A)が芳香族環(b)としてベンゼン環を含む場合、本発明の実施形態による製造方法で得られる含窒素炭素材料は、好ましくは、その構造内に、ベンゼン環由来のハニカム構造(グラフェン構造)を有する。グラフェン構造は、ラマン分光分析によってその有無の確認ができる(非特許文献4)。
【0055】
含窒素炭素材料は、不純物となる金属成分の含有量が合計で、通常、炭素原子100原子%に対し、好ましくは0.1原子%以下であり、より好ましくは0.01原子%以下であり、特に好ましくは実質的にゼロである。これらは、燃焼法による元素分析、XPS、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法、蛍光X線元素分析法(XRF)等で含窒素炭素材料を分析することによって確認することができる。
【0056】
含窒素炭素材料は、その構成する元素として、炭素と窒素を必須とし、炭素と窒素以外の元素を含んでいてもよい。このような炭素と窒素以外の元素としては、好ましくは、酸素、水素、硫黄、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素から選ばれる少なくとも1種の元素であり、より好ましくは、酸素、水素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、硫黄から選ばれる少なくとも1種の元素であり、さらに好ましくは、酸素、水素、臭素から選ばれる少なくとも1種の元素である。含窒素炭素材料を構成する元素のうち水素以外の元素の総量を100原子%としたとき、炭素および窒素の和は、好ましくは60原子%以上であり、より好ましくは70原子%以上であり、さらに好ましくは75原子%以上である。また、炭素、窒素および水素以外の元素は、好ましくは10原子%以下である。各元素の割合がこの範囲に入ることで、含窒素炭素材料でありながら高い構造制御率を発現することが可能となる。これらは、含窒素炭素材料をXPSにより定量することによって確認することができる。
【0057】
含窒素炭素材料は、好ましくは、ラマン分光分析により、下記の(i)~(iv)からなる群から選ばれる少なくとも1種の態様を有する。
【0058】
含窒素炭素材料は、好ましくは、(i)ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいてGバンド(一般的に1550cm-1~1650cm-1の範囲内)にピークを示す。したがって、含窒素炭素材料が、ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいてGバンド(一般的に1550cm-1~1650cm-1の範囲内)にピークを有することは、含窒素炭素材料がグラフェン構造またはグラフェン構造に類似の構造を有していることを意味している。Gバンドは、強度が高く、シャープであれば、よりきれいなグラフェン構造またはグラフェン構造に類似の構造を有しているといえる。また、1490cm-1~1575cm-1の範囲内にはC-N結合に由来するピークが現れるため、ピリジニック窒素を含むことでこの範囲にC-N結合に由来するピークを含む。つまり、Gバンドが1490cm-1~1575cm-1の範囲まで広がっていることは、C-N結合の存在を意味する。
【0059】
含窒素炭素材料は、好ましくは、(ii)ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいてDバンド(一般的に1300cm-1~1400cm-1の範囲内)にピークを示す。グラフェン構造の欠陥に由来する構造を有する含窒素炭素材料は、ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいて、Dバンド(一般的に1300cm-1~1400cm-1の範囲内)にピークを示す。したがって、含窒素炭素材料が、ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおけるDバンド(一般的に1300cm-1~1400cm-1の範囲内)にピークを有することは、含窒素炭素材料が官能基を含むことや、グラフェン構造の欠陥に由来する構造またはグラフェン構造の欠陥に由来する構造に類似の構造を有していることを意味している。Dバンドは、強度が低ければ、よりきれいなグラフェン構造またはグラフェン構造に類似の構造を有しているといえる。
【0060】
含窒素炭素材料は、好ましくは、(i)ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいてGバンド(一般的に1550cm-1~1650cm-1の範囲内)にピークを示し、さらに、(ii)ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいてDバンド(一般的に1300cm-1~1400cm-1の範囲内)にピークを示す。
【0061】
含窒素炭素材料は、好ましくは、(iii)ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいてG′バンド(一般的に2650cm-1~2750cm-1の範囲内)にピークを示す。したがって、含窒素炭素材料が、ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいてG′バンド(一般的に2650cm-1~2750cm-1の範囲内)にピークを有することは、含窒素炭素材料がグラフェン構造またはグラフェン構造に類似の構造を有していることを意味している。G′バンドの強度は、グラフェン構造が1層のときに最も強く、グラフェン構造の積層数が増えるにつれて徐々に小さくなる。しかしながら、G′バンドは、グラフェン構造の積層数が増えるにつれて徐々に強度が小さくなっても、ピークは観察することができる。したがって、G′バンドにピークを有することは、含窒素炭素材料がグラフェン構造またはグラフェン構造に類似の構造を有しているといえる。G′バンドは、2Dバンドとも呼ばれることがある。
【0062】
含窒素炭素材料は、好ましくは、(i)ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいてGバンド(一般的に1550cm-1~1650cm-1の範囲内)にピークを示し、さらに、(ii)ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいてDバンド(一般的に1300cm-1~1400cm-1の範囲内)にピークを示し、さらに、(iii)ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいてG′バンド(一般的に2650cm-1~2750cm-1の範囲内)にピークを示す。
【0063】
含窒素炭素材料は、好ましくは、(iv)ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいてD+D′バンド(一般的に2800cm-1~3000cm-1の範囲内)にピークを示す。グラフェン構造の欠陥に由来する構造を有する含窒素炭素材料は、ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいて、D+D′バンド(一般的に2800cm-1~3000cm-1の範囲内)にピークを示す。したがって、含窒素炭素材料が、ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいてD+D′バンド(一般的に2800cm-1~3000cm-1の範囲内)にピークを有することは、含窒素炭素材料が官能基を含むことや、グラフェン構造の欠陥に由来する構造またはグラフェン構造の欠陥に由来する構造に類似の構造を有していることを意味している。D+D′バンドは、強度が低ければ、よりきれいなグラフェン構造またはグラフェン構造に類似の構造を有しているといえる。D+D′バンドは、D+Gバンドとも呼ばれることがある。
【0064】
含窒素炭素材料は、好ましくは、(i)ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいてGバンド(一般的に1550cm-1~1650cm-1の範囲内)にピークを示し、さらに、(ii)ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいてDバ
ンド(一般的に1300cm-1~1400cm-1の範囲内)にピークを示し、さらに、(iii)ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいてG′バンド(一般的に2650cm-1~2750cm-1の範囲内)にピークを示し、さらに、(iv)ラマン分光分析によって得られるラマンスペクトルにおいてD+D′バンド(一般的に2800cm-1~3000cm-1の範囲内)にピークを示す。
【0065】
含窒素炭素材料は、元素分析によれば、窒素原子の含有割合が、好ましくは0.5atom%~20atom%であり、より好ましくは0.7atom%~15atom%であり、さらに好ましくは1atom%~13atom%であり、特に好ましくは1.5atom%~12atom%である。
【実施例0066】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味する。また、本明細書において、「質量」は「重量」と読み替えても良い。ただし、本明細書中のN1sXPSに係る部分の%は原子%を意味する。
【0067】
実施例で用いる化合物とその略称は下記の通りである。
ポリ(2,5-ピリジン):P25pyr
ポリ(3,5-ピリジン):P35pyr
5-ブロモ-2-(4-ブロモフェニル)ピリジン:Brphenpyr
5,5’-ジブロモ-2,2’-ビピリジン:Brbipyr
【0068】
<N1sXPS分析>
N1sXPS測定は、日本電子のJPS9030を用いて、以下の条件により行った。ソース:MgKα
測定範囲:N1s:394eV~406eV
積算回数:40回
解析条件:N1sのピークをピリジニック窒素(397.0~398.4eV)、第3級窒素(2つのベンゼン環に囲まれている第3級窒素をT2、3つのベンゼン環に囲まれている第3級窒素をT3)(399.8~401.1eV)、その他(398.7~399.7eV)として、原料のピーク位置、計算結果、過去の報告(非特許文献16)を基にピーク分離を行った。
【0069】
<ラマン分光分析>
ラマン分光分析は以下の装置、条件により行った。
測定装置:顕微ラマン(日本分光NRS-4500)
測定条件:532.23nmレーザー使用
【0070】
〔実施例1〕
ポリ(2,5-ピリジン)(P25pyr)(明細書中に記載の化合物(1)に該当)(Sigma-Aldrich製):40mgを、アンプル管に真空封入(P25pyrをガラス管に入れ、昇温速度5K/minで423K(150℃)まで昇温した後、423Kで1時間真空引きし、ガスバーナーで封管)した後、電気炉にて、昇温速度10K/minで所定温度まで昇温した後、所定温度で1時間加熱した。
所定温度は、873K(600℃)、773K(500℃)、673K(400℃)とした。
加熱後のそれぞれのアンプル管から試料をスパチュラでかき出し、それぞれ別のガラス管に移しかえた後、昇温速度5K/minで573K(300℃)まで昇温し、573K(300℃)で1時間真空引きし、含窒素炭素材料(1a)、(1b)、(1c)を得た
。含窒素炭素材料(1a)、(1b)、(1c)は、それぞれ、所定温度が873K(600℃)、773K(500℃)、673K(400℃)のときの含窒素炭素材料を示す。得られた含窒素炭素材料(1a)、(1b)、(1c)について、N1sXPS分析、ラマン分光分析を行った。
N1sXPS分析のXPSスペクトルを
図1に示す。
図1において、「P25pyr」のXPSスペクトルは、原料のP25pyrのXPSスペクトルを示す。
ラマン分光分析のラマンスペクトルを
図2に示す。
図1より、得られた含窒素炭素材料は、所定温度が873K(600℃)、773K(500℃)、673K(400℃)のいずれの場合においても、N1sXPS分析において、該含窒素炭素材料中の全窒素原子(第3級窒素原子およびエッジに存在するピリジニック窒素原子の合計)のピークに対する、ピリジニック窒素原子のピークの割合が、それぞれ、81.5%、100%、100%であり、エッジに窒素原子が導入されて構造が精密に制御された含窒素炭素材料が、温和な条件で簡便に製造できていることがわかった。
図2のラマンスペクトルによれば、得られた含窒素炭素材料は、所定温度が873K(600℃)、773K(500℃)のいずれの場合においても、GバンドおよびDバンドにピークを有することから、グラフェン構造を有し且つグラフェン構造が積層した構造の含窒素炭素材料が、温和な条件で簡便に製造できていることがわかった。
【0071】
〔実施例2〕
ポリ(3,5-ピリジン)(P35pyr)(明細書中に記載の化合物(2)に該当)(Sigma-Aldrich製):40mgを、アンプル管に真空封入(P35pyrをガラス管に入れ、昇温速度5K/minで423K(150℃)まで昇温した後、423Kで1時間真空引きし、ガスバーナーで封管)した後、電気炉にて、昇温速度10K/minで所定温度まで昇温した後、所定温度で1時間加熱した。
所定温度は、873K(600℃)、773K(500℃)、673K(400℃)とした。
加熱後のそれぞれのアンプル管から試料をスパチュラでかき出し、それぞれ別のガラス管に移しかえた後、昇温速度5K/minで573K(300℃)まで昇温し、573K(300℃)で1時間真空引きし、含窒素炭素材料(2a)、(2b)、(2c)を得た。含窒素炭素材料(2a)、(2b)、(2c)は、それぞれ、所定温度が873K(600℃)、773K(500℃)、673K(400℃)のときの含窒素炭素材料を示す。得られた含窒素炭素材料(2a)、(2b)、(2c)について、N1sXPS分析、ラマン分光分析を行った。
N1sXPS分析のXPSスペクトルを
図3に示す。
図3において、「P35pyr」のXPSスペクトルは、原料のP35pyrのXPSスペクトルを示す。
ラマン分光分析のラマンスペクトルを
図4に示す。
図4において、「P35pyr」のラマンスペクトルは、原料のP35pyrのラマンスペクトルを示す。
図3より、得られた含窒素炭素材料は、所定温度が873K(600℃)、773K(500℃)、673K(400℃)のいずれの場合においても、N1sXPS分析において、該含窒素炭素材料中の全窒素原子(第3級窒素原子、エッジに存在するピリジニック窒素原子、およびその他の窒素原子の合計)のピークに対する、ピリジニック窒素原子のピークの割合が、それぞれ、73.9%、84.9%、85.7%であり、エッジに窒素原子が導入されて構造が精密に制御された含窒素炭素材料が、温和な条件で簡便に製造できていることがわかった。
図4のラマンスペクトルによれば、得られた含窒素炭素材料は、所定温度が873K(600℃)、773K(500℃)のいずれの場合においても、GバンドおよびDバンドにピークを有することから、グラフェン構造を有し且つグラフェン構造が積層した構造の含窒素炭素材料が、温和な条件で簡便に製造できていることがわかった。
【0072】
〔実施例3〕
5-ブロモ-2-(4-ブロモフェニル)ピリジン(Brphenpyr)(明細書中に記載の化合物(3)に該当)(BLD pharmatech Ltd.製):40mgを、アンプル管に真空封入(Brphenpyrをガラス管に入れ、昇温速度5K/minで343K(70℃)まで昇温した後、343Kで1時間真空引きし、ガスバーナーで封管)した後、電気炉にて、昇温速度10K/minで所定温度まで昇温した後、所定温度で1時間加熱した。
所定温度は、873K(600℃)、823K(550℃)とした。
加熱後のそれぞれのアンプル管から試料をスパチュラでかき出し、それぞれ別のガラス管に移しかえた後、昇温速度5K/minで443K(170℃)まで昇温した後、443K(170℃)で1時間真空引きし、含窒素炭素材料(3a)、(3b)を得た。含窒素炭素材料(3a)、(3b)は、それぞれ、所定温度が873K(600℃)、823K(550℃)のときの含窒素炭素材料を示す。得られた含窒素炭素材料(3a)、(3b)について、N1sXPS分析、ラマン分光分析を行った。
N1sXPS分析のXPSスペクトルを
図5に示す。
ラマン分光分析のラマンスペクトルを
図6に示す。
図5より、得られた含窒素炭素材料は、所定温度が873K(600℃)、823K(550℃)のいずれの場合においても、N1sXPS分析において、該含窒素炭素材料中の全窒素原子(第3級窒素原子、エッジに存在するピリジニック窒素原子、およびその他の窒素原子の合計)のピークに対する、ピリジニック窒素原子のピークの割合が、それぞれ、69.3%、88.2%であり、エッジに窒素原子が導入されて構造が精密に制御された含窒素炭素材料が、温和な条件で簡便に製造できていることがわかった。
図6のラマンスペクトルによれば、得られた含窒素炭素材料は、所定温度が873K(600℃)の場合に、GバンドおよびDバンドにピークを有することから、グラフェン構造を有し且つグラフェン構造が積層した構造の含窒素炭素材料が、温和な条件で簡便に製造できていることがわかった。
【0073】
〔実施例4〕
5,5’-ジブロモ-2,2’-ビピリジン(Brbipyr)(明細書中に記載の化合物(4)に該当)(BLD pharmatech Ltd.製):40mgを、アンプル管に真空封入(Brbipyrをガラス管に入れ、昇温速度5K/minで453K(180℃)まで昇温した後、453Kで1時間真空引きし、ガスバーナーで封管)した後、電気炉にて、昇温速度10K/minで所定温度まで昇温した後、所定温度で1時間加熱した。
所定温度は、873K(600℃)、823K(550℃)、773K(500℃)とした。
加熱後のそれぞれのアンプル管から試料をスパチュラでかき出し、それぞれ別のガラス管に移しかえた後、昇温速度5K/minで553K(280℃)まで昇温した後、553K(280℃)で1時間真空引きし、含窒素炭素材料(4a)、(4b)を得た。含窒素炭素材料(4a)、(4b)は、それぞれ、所定温度が873K(600℃)、823K(550℃)のときの含窒素炭素材料を示す。得られた含窒素炭素材料(4a)、(4b)について、N1sXPS分析、ラマン分光分析を行った。
N1sXPS分析のXPSスペクトルを
図7に示す。
図7において、「Brbipyr」のXPSスペクトルは、原料のBrbipyrのXPSスペクトルを示す。
ラマン分光分析のラマンスペクトルを
図8に示す。
図7より、得られた含窒素炭素材料は、所定温度が873K(600℃)、823K(550℃)のいずれの場合においても、N1sXPS分析において、該含窒素炭素材料中の全窒素原子(第3級窒素原子、エッジに存在するピリジニック窒素原子、およびその他の窒素原子の合計)のピークに対する、ピリジニック窒素原子のピークの割合が、それぞれ、72.0%、70.8%であり、エッジに窒素原子が導入されて構造が精密に制御された含窒素炭素材料が、温和な条件で簡便に製造できていることがわかった。
図8のラマンスペクトルによれば、得られた含窒素炭素材料は、所定温度が873K(600℃)、823K(550℃)のいずれの場合においても、GバンドおよびDバンドにピークを有することから、グラフェン構造を有し且つグラフェン構造が積層した構造の含窒素炭素材料が、温和な条件で簡便に製造できていることがわかった。