(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162340
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】エンジン制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 9/02 20060101AFI20241114BHJP
F01M 11/10 20060101ALI20241114BHJP
F02D 29/02 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
F02D9/02 325Z
F01M11/10 C
F02D29/02 321C
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023077740
(22)【出願日】2023-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小橋 尚也
(72)【発明者】
【氏名】小柿 佳紀
【テーマコード(参考)】
3G015
3G065
3G093
【Fターム(参考)】
3G015FC07
3G065CA36
3G065DA04
3G065EA06
3G065GA27
3G065KA36
3G093DA04
3G093DA13
3G093DB06
3G093DB09
3G093EA09
(57)【要約】
【課題】 寒冷環境にてエンジンが停止している状況下で、電動スロットルバルブが凍結することを抑制できるエンジン制御装置を提供する。
【解決手段】 運転支援装置1は、エンジンEを停止させる前に、エンジンEの運転条件に基づいて、エンジンオイルに含まれる水分の量を推定しておき、当該推定結果が閾値Wthを超えている場合、前記所定タイミングにて、電動スロットルバルブTVを強制的に開閉動作させる強制開閉制御を実行し、前記推定結果が前記閾値Wth以下である場合、前記強制開閉制御を実行しない。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両のエンジンの運転条件に関する情報を取得する車載センサと、
自車両のエンジンを停止させた時点の外気の温度が所定値以下である場合に、自車両のエンジンを停止させた後の所定のタイミングにて前記エンジンの電動スロットルバルブを強制的に開閉動作させる強制開閉制御を実行するプロセッサと、
を備えたエンジン制御装置であって、
前記プロセッサは、
前記エンジンを停止させる前に、前記エンジンの運転条件に基づいて、エンジンオイルに含まれる水分の量を推定しておき、前記推定結果が閾値を超えている場合、前記所定タイミングにて前記強制開閉制御を実行し、前記推定結果が前記閾値以下である場合、前記強制開閉制御を実行しない、
ように構成された、エンジン制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、寒冷環境にて車両のエンジンが停止している状況下で、所定タイミングにて電動スロットルバルブを開閉動作させて、電動スロットルバルブの凍結を抑制するエンジン制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ブローバイガスを吸入管へ還流させる装置を備えたエンジンが提案されている(例えば、下記特許文献1を参照。)。このエンジンの駆動中に、ブローバイガスのみならず少量のエンジンオイルが吸入管へ流入する。このエンジンオイルにより、電動スロットルバルブの摺動部が潤滑される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
ところで、エンジンオイルには水分が含まれている。寒冷環境(例えば、氷点下)にてエンジンが停止している状況下で、電動スロットルバルブの摺動部に付着しているエンジンオイルに含まれている水分が凍結する虞がある。その場合、エンジンの再始動時に電動スロットルバルブを開閉動作させることが困難になる虞(電動スロットルバルブが凍結する虞)がある。
【0005】
本発明の目的の一つは、寒冷環境にてエンジンが停止している状況下で、電動スロットルバルブが凍結することを抑制できるエンジン制御装置を提供することにある。
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のエンジン制御装置(1)は、
自車両のエンジンの運転条件に関する情報を取得する車載センサ(20)と、
自車両(V1)のエンジン(E)を停止させた時点の外気の温度(Ta)が所定値(Tath)以下である場合に、自車両のエンジンを停止させた後の所定のタイミングにて前記エンジンの電動スロットルバルブ(TV)を強制的に開閉動作させる強制開閉制御を実行するプロセッサ(10)と、
を備える。
前記プロセッサは、
前記エンジンを停止させる前に、前記エンジンの運転条件(Tb)に基づいて、エンジンオイルに含まれる水分の量(W)を推定しておき、前記推定結果が閾値(Wth)を超えている場合、前記所定タイミングにて前記強制開閉制御を実行し、前記推定結果が前記閾値以下である場合、前記強制開閉制御を実行しない、
ように構成される。
【0007】
寒冷環境にてエンジンが停止している状況下で、エンジンオイル(電動スロットルバルブの摺動部の潤滑材としてのエンジンオイル)に含まれる水分の量が比較的多いとき、電動スロットルバルブを開閉動作させないまま放置すると、当該水分が凍結して、電動スロットルバルブを開閉動作させることが困難になる可能性が高い。本発明のエンジン制御装置は、エンジンオイルに含まれる水分量が比較的多いと推定した場合(閾値を超えている場合)、寒冷環境にてエンジンを停止させた後の所定のタイミングにて、電動スロットルバルブを開閉動作させる。これにより、電動スロットルバルブの凍結を抑制できる。一方、寒冷環境であっても、エンジンオイルに含まれる水分の量が比較的少ない場合には、当該水分が凍結したとしても、電動スロットルバルブを開閉動作させることが困難になる可能性は低い。そこで、エンジン制御装置は、エンジンオイルに含まれる水分の量が比較的少ないと推定した場合(閾値以下である場合)、エンジンを停止させた後、電動スロットルバルブを開閉動作させることなく放置する。これによれば、エンジン制御装置が電動スロットルバルブを駆動しないので、バッテリーの電力を消費しない。また、電動スロットルバルブの動作音が生じない。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係るエンジン制御装置のブロック図である。
【
図2】
図2は、強制開閉制御を実行するタイミングを示すタイミングチャートである。
【
図3】
図3は、エンジンオイルに含まれる水分量を推定するプログラムのフローチャートである。
【
図4】
図4は、強制開閉制御を実行するプログラムのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(概略)
本発明の一実施形態に係るエンジン制御装置1は、
図1に示したように、エンジンEを搭載している車両V1(自車両)に適用され、当該エンジンE(電動スロットルバルブTV)を制御する。エンジン制御装置1は、寒冷環境にてエンジンEが停止している状況下で、電動スロットルバルブTVの凍結を抑制する機能(凍結抑制機能)を有する。なお、エンジンEは、上記の周知のエンジンと同様に、ブローバイガスを吸入管へ還流させる機構を含む。ブローバイガスの還流に伴い少量のエンジンオイルが吸入管に流入し、当該エンジンオイルにより、エンジンEの電動スロットルバルブTVの摺動部が潤滑される。電動スロットルバルブTVの形式は、例えば、周知のバタフライ式であり、円盤状のバルブ本体TVaと、当該バルブ本体TVaを回転させて開閉度を変更するステッピングモーターTVbを含む。
【0010】
(具体的構成)
図1に示したように、エンジン制御装置1は、エンジンECU10、車載センサ20、及び駆動回路30を備えている。
【0011】
エンジンECU10は、CPU10a、ROM10b(フラッシュROM)、RAM10c、タイマー10dなどを備えたマイクロコンピュータを含む。エンジンECU10は、CAN(Controller Area Network)を介して、自車両が備える他のECUに接続されている。エンジンECU10は、自車両のイグニッションスイッチのオン・オフ状態に関わらず常時稼働している。
【0012】
車載センサ20は、エンジンEの運転条件に関する情報を取得するためのセンサを含む。具体的には、車載センサ20は、外気の温度Taを取得する外気温センサ21、及びエンジンEのクランク室内に貯留されているエンジンオイルの温度Tbを取得する油温センサ22を含む。車載センサ20は、温度Ta,TbをエンジンECU10へ送信する。
【0013】
駆動回路30は、エンジンECU10から、電動スロットルバルブTVの開度VOの目標値を逐次取得する。駆動回路30は、当該目標値に応じて、ステッピングモーターTVbの出力軸の回転方向及び回転角度を演算する。そして、駆動回路30は、回転方向及び回転角度に応じた駆動信号(パルス)をステッピングモーターTVbに供給する。
【0014】
(作動)
エンジン制御装置1は、イグニッションスイッチがオン状態である場合、図示しないアクセルペダルの踏み込み深さ及びその他の運転条件に応じて、エンジンEの回転数の目標値を決定する。そして、エンジン制御装置1は、エンジンEの実回転数が目標値に一致するように、電動スロットルバルブTVの開度VO、点火タイミングなどを制御する。
【0015】
また、エンジン制御装置1は、以下に説明するように、寒冷環境にてエンジンEが停止している状況下で所定の条件が成立した場合に、電動スロットルバルブTVを強制的に開閉動作させることにより、電動スロットルバルブTVの凍結を抑制する(凍結抑制機能)。
【0016】
つぎに、凍結抑制機能について具体的に説明する。エンジンECU10は、自車両のイグニッションスイッチがオン状態である場合に、油温センサ22から温度Tbを逐次取得する。
【0017】
ところで、エンジンオイルに含まれる水分の量(水分量W[ppm])は、エンジンオイルの温度Tbに相関している。具体的には、エンジンオイルの温度Tbが高くなるに従って、水分量Wが大きくなる。温度Tbと水分量Wとの関係が予め実験的に求められ、その結果がデータベースDBとしてROM10bに記憶されている。エンジンECU10は、データベースDBを参照して、現在の温度Tbに対応する水分量Wを推定(取得)する。そして、エンジンECU10は、水分量Wを推定するごとに、当該推定結果を記憶する。なお、エンジンECU10は、最新の推定結果のみを記憶している。
【0018】
エンジンECU10は、自車両のイグニッションスイッチがオン状態からオフ状態に遷移したことを検知すると、エンジンEを停止させる(回転数が「0」になるように制御する)とともに、外気温センサ21から温度Taを取得する。エンジンECU10は、温度Taが閾値Tath(例えば、「0℃」)以下である場合、記憶しておいた水分量Wの推定結果が閾値Wthを超えているか否かを判定する。
【0019】
ここで、閾値Wthは、温度Taが閾値Tath以下である環境において電動スロットルバルブTVの摺動部を潤滑しているエンジンオイルに含まれる水分が凍結してバルブ本体TVaが開閉動作不能になる水分量Wの範囲の下限値に相当する。この閾値Wthは、予め実験的に求められて、その結果がROM10bに記憶されている。
【0020】
エンジンECU10は、水分量Wが閾値Wthを超えている場合、エンジンEを停止させた時点t0の後に所定の時間Δtが経過するごとに、電動スロットルバルブTVを強制的に(アクセルペダルの踏み込み深さに関係なく)、開閉動作させる。より具体的には、
図2に示したように、エンジンECU10は、電動スロットルバルブTVの開度VOを、「0%」から一定の速度vで増大させる。エンジンECU10は、開度VOを「100%」に到達させると、開度VOを、一定の速度vで減少させて「0%」に到達させる。エンジンECU10は、この強制開閉制御を所定の回数N(例えば3回)だけ連続的に実行する。
【0021】
一方、時点t0にて温度Taが閾値Tathを超えている場合には、エンジンECU10は、強制開閉制御を実行しない。また、時点t0にて温度Taが閾値Tath以下であったとしても、水分量Wが閾値Wth以下である場合には、エンジンECU10は、強制開閉制御を実行しない。
【0022】
つぎに、
図3及び
図4を参照して、上記の凍結抑制機能を実現するためにCPU10a(以下、単に「CPU」と称呼する。)が実行するプログラムPR1及びプログラムPR2について説明する。
【0023】
(プログラムPR1)
CPUは、車両V1のイグニッションスイッチがオン状態にある場合、所定の周期でプログラムPR1を実行する。
図3に示したように、CPUは、ステップ100からプログラムPR1の実行を開始し、ステップ101に処理を進める。
【0024】
CPUは、ステップ101にて、油温センサ22からエンジンオイルの温度Tbを取得する。次いで、CPUは、ステップ102に処理を進める。
【0025】
CPUは、ステップ102にて、水分量Wを推定する。すなわち、CPUは、データベースDBを参照して、現在のエンジンオイルの温度Tbに対応する水分量Wを取得する。次いで、CPUは、ステップ103に処理を進める。
【0026】
CPUは、ステップ103にて、推定した水分量WをRAM10cに記憶させる。過去の推定結果がRAM10cに記憶されている場合には、CPUは、その値を、新たな推定結果に更新する。次いで、CPUは、ステップ104に処理を進め、プログラムPR1の実行を終了する。
【0027】
(プログラムPR2)
CPUは、自車両のイグニッションスイッチがオン状態からオフ状態に遷移したことを検知すると、
図4示したプログラムPR2の実行を開始する。CPUは、ステップ200からプログラムPR2の実行を開始すると、ステップ201に処理を進める。
【0028】
CPUは、ステップ201にて、外気温センサ21から外気の温度Taを取得する。次いで、CPUは、ステップ202に処理を進める。
【0029】
CPUは、ステップ202にて、温度Taが閾値Tath以下であるか否かを判定する。CPUは、温度Taが閾値Tath以下であると判定した場合(202:Yes)、ステップ203に処理を進める。一方、温度Taが閾値Tath以下であると判定しなかった場合(202:No)、ステップ209に処理を進め、プログラムPR2の実行を終了する。
【0030】
CPUは、ステップ203にて、RAM10cから水分量Wを読み出す。次いで、CPUは、ステップ204に処理を進める。
【0031】
CPUは、ステップ204にて、水分量Wが閾値Wthを超えているか否かを判定する。CPUは、水分量Wが閾値Wthを超えていると判定した場合(204:Yes)、ステップ205に処理を進める。一方、CPUは、水分量Wが閾値Wthを超えていると判定しなかった場合(204:No)、ステップ209に処理を進め、プログラムPR2の実行を終了する
【0032】
CPUは、ステップ205にて、タイマー10dの出力(時間Δtの計測結果)を「0」に初期化し、当該時間Δtの計測を開始(タイマー10dを始動)する。次いで、CPUは、ステップ206に処理を進める。
【0033】
CPUは、ステップ206にて、自車両のイグニッションスイッチがオン状態に遷移したか否かを判定する。CPUは、イグニッションスイッチがオン状態に遷移したと判定した場合(206:Yes)、ステップ209に処理を進め、プログラムPR2の実行を終了する。一方、CPUは、イグニッションスイッチがオン状態に遷移したと判定しなかった場合(206:Np)、ステップ207に処理を進める。
【0034】
CPUは、ステップ207にて、時間Δtが閾値Δtth以上であるか否かを判定する。CPUは、時間Δtが閾値Δtth以上であると判定した場合(207:Yes)、ステップ208に処理を進める。一方、CPUは、時間Δtが閾値Δtth以上であると判定しなかった場合(207:No)、ステップ206に処理を戻す。
【0035】
CPUは、ステップ208にて、電動スロットルバルブTVの強制開閉制御の実行を開始するとともに、ステップ205に処理を戻す。
【0036】
(効果)
寒冷環境にてエンジンEが停止している状況下で、エンジンオイル(電動スロットルバルブTVの摺動部の潤滑材としてのエンジンオイル)に含まれる水分の量が比較的多いとき、電動スロットルバルブTVを開閉動作せないまま放置すると、当該水分が凍結して、電動スロットルバルブTVを開閉動作させることが困難になる可能性が高い。エンジン制御装置1は、エンジンオイルに含まれる水分の量が比較的多いと推定した場合(W>Wth)、寒冷環境にてエンジンEを停止させた後の所定のタイミングにて、電動スロットルバルブTVを開閉動作させる。これにより、電動スロットルバルブTVの凍結を抑制できる。一方、寒冷環境であっても、エンジンオイルに含まれる水分の量が比較的少ない場合には、当該水分が凍結したとしても、電動スロットルバルブTVを開閉動作させることが困難になる可能性は低い。そのため、エンジン制御装置1は、エンジンオイルに含まれる水分の量が比較的少ないと推定した場合(W<Wth)、エンジンEを停止させた後、電動スロットルバルブTVを開閉動作させることなく放置する。これによれば、エンジン制御装置1が電動スロットルバルブTVを駆動しないので、バッテリーの電力を消費しない。また、電動スロットルバルブTVの動作音が生じない。
【0037】
本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。
【0038】
(変形例1)
例えば、水分量Wが閾値Wthを超えている場合、電動スロットルバルブTVの開閉動作の回数Nを、水分量Wに応じて決定してもよい。例えば、水分量Wが多いほど、開閉動作の回数Nを多くするとよい。また、水分量Wが閾値Wthを超えている場合、強制開閉制御の周期を、水分量Wに応じて決定してもよい。例えば、水分量Wが多いほど、強制開閉制御の周期(Δtth)を短くするとよ
【0039】
(変形例2)
上記実施形態では、エンジンオイルの温度Tbに基づいて水分量Wを推定しているが、温度Tbに代えて(又は加えて)、エンジンEの他の運転条件(例えば、エンジン回転数、エンジン負荷など)に基づいて水分量Wを推定してもよい。この場合、他の運転条件と水分量Wとの関係を予め実験的に求めておき、その結果をデータベースDBとしてROM10bに記憶させておけばよい。
【符号の説明】
【0040】
1…エンジン制御装置、10…エンジンECU、20…車載センサ、30…駆動回路