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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162354
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】車両駆動装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/04 20060101AFI20241114BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20241114BHJP
   B60W 10/10 20120101ALI20241114BHJP
   B60W 40/105 20120101ALI20241114BHJP
【FI】
B60W10/00 104
B60W10/08
B60W10/10
B60W40/105
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023077760
(22)【出願日】2023-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】矢ヶ崎 徹
【テーマコード(参考)】
3D241
【Fターム(参考)】
3D241AA03
3D241AA21
3D241AA32
3D241AC01
3D241AC14
3D241AD01
3D241AD30
(57)【要約】
【課題】動力源及び変速機構を関連させて改良することで、動力性能や動力伝達効率の改善が要求駆動力の特定の条件を満たす場合に限られることなく、加速性能及び運転効率の双方をさらに向上させ得るとともに、動力源の損傷リスクを低減させ得る車両の駆動装置を提供すること。
【解決手段】車両の現在の駆動力が必要駆動力より大きい場合には車両の駆動力が必要駆動力に近づくように動力源の出力を制御するとともに、自動変速機構の変速比を、車両の現在の駆動力が必要駆動力をこえることができる変速比として設定することで上記の課題を達成できる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載され
動力源と、
自動変速機構と、
前記動力源と前記自動変速機構を制御する制御装置と、
を備える車両駆動装置であって、
前記制御装置は、
車両の必要駆動力を取得する必要駆動力取得部と、
車両の現在の駆動力を取得する現在駆動力取得部と、
前記必要駆動力取得部において取得された必要駆動力と、前記現在駆動力取得部において取得された前記車両の現在の駆動力とを比較し、現在の駆動力が必要駆動力より大きかった場合には前記車両の駆動力が前記必要駆動力取得部で取得される必要駆動力に近づくように前記動力源の出力を制御する動力源制御部と、
前記自動変速機構の変速比を、前記動力源制御部で制御される現在の車両の駆動力が、前記必要駆動力取得部で取得される必要駆動力をこえることができる変速比として設定する自動変速機構制御部と、
を有する車両駆動装置。
【請求項2】
前記制御装置は、
さらに、車両の車速を取得する車速取得部を備え、
前記自動変速機構制御部は、前記動力源制御部で制御される車両の駆動力を得るための前記自動変速機構の変速比を、前記車速取得部で取得した車速を満足できる最大の変速比として設定する、
請求項1に記載の車両駆動装置。
【請求項3】
前記制御装置は、
さらに、前記動力源の出力状態を取得する動力源出力状態取得部と、現在の前記自動変速機構の変速比を取得する変速比取得部を備え、
前記現在駆動力取得部は、前記動力源出力状態取得部で取得された前記動力源の出力状態と、前記変速比取得部で取得された現在の前記自動変速機構の変速比とから、車両の現在の駆動力を取得する
請求項1又は2に記載の車両駆動装置。
【請求項4】
前記動力源は電動モータであって
前記動力源の出力状態取得部は
前記電動モータの出力のみ
もしくは
前記電動モータの出力に加え
前記電動モータの温度か
前記電動モータのインバータ温度のいずれか一つ
または
前記電動モータの温度および
前記電動モータのインバータ温度の両方
の情報を用いて
前記動力源の出力状態を取得する
請求項3に記載の車両駆動装置。
【請求項5】
前記必要駆動力取得部は
目標加速度と
道路勾配と
車両重量と
のすくなくとも一以上の情報から必要駆動力を取得する
請求項1又は2に記載の車両駆動装置。
【請求項6】
前記必要駆動力取得部は
前記道路勾配または車両重量を、
地形・地点情報と
車体情報と
ドライバ情報と
パワープラント情報と
の少なくとも一つ以上の情報から取得し、
目標加速度を
現在の車速と
現在の走行抵抗と
前記道路勾配と
前記車両重量と
の少なくとも一つ以上の情報から取得する
請求項5に記載の車両駆動装置。
【請求項7】
前記動力源は電動モータである
請求項1又は2に記載の車両駆動装置。
【請求項8】
前記自動変速機構は無段変速機構である
請求項1又は2に記載の車両駆動装置。
【請求項9】
前記自動変速機構は有段変速の自動変速機構である
請求項1又は2に記載の車両駆動装置。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両駆動装置、具体的には、動力源、変速機構、及び、動力源と変速機構を制御する制御装置を含む車両駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の駆動装置は、従来から、ユーザである運転者の意図や車両走行の環境に応じた加速性能を発揮するとともに、運転効率を向上させて燃費を抑えることができるようにすることを目的として開発が進められてきている。
【0003】
特許文献1においては、変速機の変速段を切り替える際には駆動力の伝達が一時的に遮断され、駆動軸に出力される駆動力に落ち込みが生じて動力性能が低下することを技術課題として、大駆動力が要求されたときには、通常時に減速比が小さくなる方向に変速される駆動軸の回転数よりも大きな回転数に至ったときにのみ減速比が小さくなる方向に変速されるように制御することにより、大駆動力要求時の駆動力伝達の遮断による動力性能の低下を抑制した動力出力装置が記載されている。
【0004】
特許文献2においては、無段変速機で変速比を制御し運転者の意図に応じた駆動状態を達成するに際し、動力源である電動機の効率を意識するあまり、常時、無段変速機側で変速比制御を行うことにより、変速機構による動力伝達効率の悪化を招いていたという技術課題を解決するために、駆動対象の要求トルク・回転数に応じた電動機の要求トルク・回転数が、所定範囲内のときは無段変速機の変速比を所定の変速比に固定して電動機を制御し、所定範囲外のときは無段変速機の変速比を変更するとともに電動機を制御して駆動対象の要求トルクを達成できるようにした。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-132685号公報
【特許文献2】特許第4860741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1においては、駆動対象の要求駆動力が大きい場合に動力性能の低下を抑制するものであり、また、特許文献2は駆動対象の要求トルク・回転数が特定の範囲に場合に対策を講じることで動力伝達効率の悪化を避けようとするものであり、このように両者の発明ともに、動力性能や動力伝達効率の改善が、要求駆動力の特定の条件を満たす場合に限られ、動力性能や動力伝達効率の向上が限定的であった。また、動力源が、特に、電動モータの場合に、過大な負荷がかかると、発熱等により損傷することがあるが、特許文献1及び特許文献2の発明とも、動力源の負荷を抑えて、損傷リスクを低減させようとするものではなかった。
【0007】
本発明は、上記の実情に鑑み、動力源及び変速機構を関連させて改良し、加速性能及び運転効率の双方が、さらに向上するとともに、動力源の損傷リスクを低減させた車両の駆動装置を提供することを課題としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明の車両駆動装置は、車両に搭載され、動力源と、自動変速機構と、前記動力源と前記自動変速機構を制御する制御装置(ECU)と、を備える車両駆動装置であって、前記制御装置(ECU)は、車両の必要駆動力を取得する必要駆動力取得部と、車両の現在の駆動力を取得する現在駆動力取得部と、前記必要駆動力取得部において取得された必要駆動力と、前記現在駆動力取得部において取得された前記車両の現在の駆動力とを比較し、現在の駆動力が必要駆動力より大きかった場合には前記車両の駆動力が前記必要駆動力取得部で取得される必要駆動力に近づくように前記動力源の出力を制御する動力源制御部と、前記自動変速機構の変速比を、前記動力源制御部で制御される現在の車両の駆動力が、前記必要駆動力取得部で取得される必要駆動力をこえることができる変速比として設定する自動変速機構制御部と、を有する。
【0009】
上記の発明の構成により、現在の駆動力が必要駆動力より大きかった場合には車両の駆動力が必要駆動力に近づくように動力源の出力を制御することにより、必要な駆動力は維持しつつ動力源の出力を最小限に抑え、ユーザである運転手の意図や車両走行の環境に応じた加速性能を発揮させながら無駄なエネルギの発生を省いて運転効率を高めることができる。さらに、自動変速機構の変速比を、必要駆動力をこえることができる変速比として設定することにより、自動変速機構により駆動力を必要十分に増大させるので、動力源の負荷は必要最小限で済み、効率の高い運転が可能となるとともに、動力源の損傷リスクを低減できる。
【0010】
また、本発明においては、前記制御装置(ECU)は、さらに、車両の車速を取得する車速取得部を備え、前記自動変速機構制御部は、前記動力源制御部で制御される車両の駆動力を得るための前記自動変速機構の変速比を、前記車速取得部で取得した車速を満足できる最大の変速比として設定する。この構成によって、ユーザである運転手の意図する車速を維持しつつ、自動変速機構で駆動力を増大させることにより、その車速に必要な駆動力発生のための負荷を自動変速機構側に負担させることになり、動力源による駆動力の発生をさらに抑えることができて、効率の高い運転が可能となり、また、動力源の損傷リスクを低減できる。
【0011】
また、本発明においては、前記制御装置(ECU)は、さらに、動力源の出力状態を取得する動力源出力状態取得部と、現在の前記自動変速機構の変速比を取得する変速比取得部を備え、前記現在駆動力取得部は、前記動力源出力状態取得部から取得された動力源の出力状態と、前記変速比取得部で取得された現在の自動変速機構の変速比とから、車両の現在の駆動力を取得する。この構成によって、車両の現在の駆動力の取得の手法が明確になり、車両の現在の駆動力の取得のための必要な情報を把握することができる。
【0012】
また、本発明においては、前記動力源は電動モータであって、前記動力源の出力状態取得部は前記電動モータの出力のみ、もしくは、前記電動モータの出力に加え前記電動モータの温度か前記電動モータのインバータ温度のいずれか一つ、または、前記電動モータの温度および前記電動モータのインバータ温度の両方、の情報を用いて前記動力源の出力状態を取得する。この構成によって、本発明の車両が電気自動車であることが想定されていることがわかり、電気自動車の動力源である電動モータの出力状態の取得の手法が明確になり、電動モータの出力状態の取得のための必要手段を把握することができる。
【0013】
また、本発明においては、前記必要駆動力取得部は、目標加速度と道路勾配と車両重量とのすくなくとも一以上の情報から必要駆動力を取得し、さらに、前記必要駆動力取得部は、前記道路勾配または車両重量を、地形・地点情報と車体情報とドライバ情報とパワープラント情報との少なくとも一つ以上の情報から取得し、目標加速度を、現在の車速と現在の走行抵抗と前記道路勾配と前記車両重量との少なくとも一つ以上の情報から取得する。この構成によって、必要駆動力を取得するための詳細な情報を把握することができる。
【0014】
また、本発明においては、前記動力源は電動モータであり、前記自動変速機構は無段変速機構であるか又は前記自動変速機構は有段変速の自動変速機構である。この構成により、本発明の車両駆動装置が、無段変速又は有段変速の自動変速機構を備えた電気自動車に適用されるものであることがわかる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、上述のとおり、必要な駆動力は維持しつつ動力源の出力を最小限に抑え、ユーザである運転手の意図や車両走行の環境に応じた加速性能を発揮させながら無駄なエネルギの発生を省いて運転効率を高めることができる。さらに、動力源に必要以上の駆動力を発生させる必要がなくなり、効率の高い運転が可能とともに、駆動源の損傷リスクを低減できるという作用効果を奏する。また、本発明の構成により、車両の現在の駆動力の取得の手法や必要駆動力を得るための情報等について明確にしている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の車両駆動装置の各機能部についてのブロック線図。
図2】横軸を車速とし縦軸を車両駆動力としたグラフ上で各種の駆動力を表す図。
図3】動力源の出力状態を取得するための情報の4つのパターンを示す図。
図4】本発明の動力源及び自動変速機構の制御のフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本件発明の実施例について説明する。図1は、本発明の車両駆動装置1の各機能部についてのブロック線図である。車両駆動装置1は、動力源20、自動変速機構30、及び、動力源20と自動変速機構30を制御する制御装置(ECU)10を含む。動力源20は、本実施例では、電動モータである。すなわち、本実施例の車両は、電気自動車である。
【0018】
制御装置(ECU)10は、車速取得部101、動力源出力状態取得部102,変速比取得部103,必要駆動力取得部110,現在駆動力取得部120,動力源制御部130,自動変速機構制御部140を有する。
【0019】
動力源制御部130は、必要駆動力取得部110から送られた必要駆動力と現在駆動力取得部120から送られた現在駆動力の情報を得て、動力源20を制御する。具体的には、後述で説明するように、必要駆動力と現在の駆動力とを比較し、現在の駆動力が必要駆動力より大きかった場合には車両の駆動力が必要駆動力に近づくように動力源の出力を制御する。これによって、動力源での無駄な駆動力の発生を削減することができ、車両の効率の良い運転を可能とするとともに、動力源の負荷による損傷のリスクを低減できるという作用効果を奏する。
【0020】
自動変速機構制御部140は、必要駆動力取得部110から送られた必要駆動力及び動力源制御部130で制御された結果の車両の現在の駆動力の情報を得て、自動変速機構30を制御する。具体的は、後述で説明するように、自動変速機構30の変速比を、動力源制御部130で制御される現在の車両の駆動力が、必要駆動力をこえることができる変速比として設定する。これにより、駆動対象(車両における駆動軸)で必要な駆動力の発生の負担を、自動変速機構30に負わせて、動力源20での駆動力の発生のための負荷を軽くすることができる。
【0021】
また、自動変速機構制御部140は、さらに、車速取得部101で取得された車速の情報も得て、動力源制御部130で制御される車両の駆動力を得るための自動変速機構30の変速比を、車速取得部101で取得した車速を満足できる最大の変速比として設定する。これにより、ユーザである運転手の意図する車速を維持しつつ、その車速に必要な駆動力発生のための負荷を最大限に自動変速機構30に負担させることにより、動力源20による駆動力の発生のための負荷を、最小限とすることができる。
【0022】
必要駆動力取得部110は、目標加速度と道路勾配と車両重量とのすくなくとも一以上の情報から必要駆動力を取得する。そして、必要駆動力取得部110は、道路勾配または車両重量を、地形・地点情報と車体情報とドライバ情報とパワープラント情報との少なくとも一つ以上の情報から取得し、また、目標加速度を現在の車速と現在の走行抵抗と道路勾配と車両重量との少なくとも一つ以上の情報から取得する。必要駆動力取得部110で取得された必要駆動力の情報は、動力源制御部130及び自動変速機構制御部140に送られる。
【0023】
現在駆動力取得部120は、動力源出力状態取得部102で取得された動力源の出力状態と、変速比取得部103で取得された現在の自動変速機構の変速比の情報を得て、車両の現在の駆動力を取得する。現在駆動力取得部120で取得された現在駆動力の情報は、動力源制御部130に送られる。本実施例では、動力源は電動モータであって、動力源出力状態取得部102は、電動モータの出力、電動モータの温度、電動モータのインバータ温度の情報を用いて動力源の出力状態を取得し、動力源出力状態取得部102で取得された動力源の出力状態の情報は、現在駆動力取得部120に送られる。
【0024】
次に、図2(1)~(4)の、車速を横軸とし車両駆動力を縦軸としたグラフの図を用いて、車両駆動力が、車速との関係において、グラフ上でどのような曲線の変化を示し、また、車両駆動力がグラフ上のどのような領域にあることが可能であるかということについて説明する。
【0025】
まず、図2(1)は、動力源を電動モータとしたときの、曲線aで示される最高出力ライン、曲線bで示される定格出力ライン、及び、曲線aの最高出力ラインや曲線bの定格出力ラインで囲まれる各領域について説明する図である。上記の最高出力ラインや定格出力ラインについて説明するにあたり、電動モータのトルク特性について説明する。電動モータのトルク特性には、最高出力特性と定格出力特性がある。最高出力特性は、電動モータがモータ回転数との関係において、出力可能な最大のトルクを示す特性であり、図2(1)では、曲線aの最高出力ラインで示される。
【0026】
最高出力特性を示す曲線aの最高出力ラインで囲まれた全ての領域で、連続して運転することができるわけではない。連続して運転することができる領域の特性が定格出力特性で、曲線bの定格出力ラインで囲まれた領域内で発揮される特性である。曲線aの最高出力ライン内で、かつ、曲線bの定格出力ライン外の領域(曲線aと曲線bに囲まれた領域)は、連続して運転はできないものの、瞬時(短時間)に使用できるモータトルクの領域であり、電気自動車の駆動においては、加速時等に一時的に用いられることがあるモータトルクの領域である。
【0027】
電動モータでは、回転数が小さく高トルクを出力するときには、ロータの負荷は低くてステータの負荷が高く、回転数が大きくなるにつれてロータの負荷は高くなり、ステータの負荷は低くなることが知られている。したがって、図2(1)のAで示される領域は、連続して使用することができず、ステータ負荷が高い領域である。Cで示される領域は、連続して使用することができず、ロータ負荷が高い領域である。これらに対して、Bで示される領域は、連続して使用することができないものの、ロータ負荷とステータ負荷がバランスされた領域であるといえる。
【0028】
また、図2(1)のDで示される領域は、連続使用が可能で、ステータ負荷が高い領域である。Fで示される領域は、連続使用が可能で、ロータ負荷が高い領域である。これらに対して、Eで示される領域は、連続使用が可能で、ロータ負荷とステータ負荷がバランスされた領域であるといえる。電動モータの使用の態様としては、電動車両の運転状況等に応じて、上記のA~Fのいずれの領域での使用の可能性も考えられるが、連続使用ができないA~Cの領域では、運転状態に制限を設ける必要が生じ、また、電動モータの負荷等が大きくなることに鑑みれば、A~Cの領域で多用することは好ましくない。
【0029】
次に、図2(2)では、変速機(ローギア及びハイギア)を導入することにより、曲線bの定格出力ラインを延長させ、連続使用が可能な領域を広げることができることが示されている。図2(2)の領域Gがローギアにより、連続使用が可能に広がった領域であり、領域Hがハイギアにより、連続使用が可能に広がった領域である。ローギアの変速機導入前においては、必要駆動力が、連続運転可能な最大の駆動力を上回っているという状況が生じた場合においても、変速機(ローギア)により変速比(減速比)を大きく設定して、駆動力の増加の度合いを大きくすれば、低車速で運転することによって、必要駆動力の連続運転が可能となることが読み取れる。
【0030】
次に、図2(3)では、図2(2)と同様のグラフ上に、必要駆動力ラインを示す曲線cの一例を書き入れた。必要駆動力は、上述のように目標加速度と道路勾配と車両重量とのすくなくとも一以上の指標(情報)から得られるものであり、上記の指標(情報)における目標加速度は、現在の車速と現在の走行抵抗と道路勾配と車両重量との少なくとも一つ以上の指標(情報)から得られるものであることから、必要駆動力は、現在の車速を1つの指標(情報)とする関数となり得ることがある。図2(3)の曲線cで示した必要駆動力ラインは、そのような、必要駆動力が現在の車速を1つの指標(情報)とする関数となる場合の1例である。
【0031】
図2(3)の点dは、特定の車速で走行している車両における現在の駆動力を示すグラフ上の点である。現在の駆動力は、上述のように、現在の動力源の出力状態と現在の自動変速機構の変速比の情報から得られる。図2(3)では、現在の駆動力(点d)が、車両の必要駆動力より大きいことが見て取れる。この場合に、本発明では、車両の駆動力が必要駆動力に近づくように動力源の出力を制御する。
【0032】
上記のように車両の現在の駆動力が必要駆動力に近づくように動力源の出力を制御するに際して、本実施例では、ユーザである運転者の意図する車速を維持したままで、車両の駆動力を必要駆動力に近づける。すなわち、本実施例では、図2(3)のグラフ上で点dから点eに移行するように、動力源であるモータの出力を制御する。モータの回転数を維持しながら(変更せずに)、モータトルクを下げることは、例えば、インバータを用いた制御により可能となる。
【0033】
上記のように車両の現在の駆動力が必要駆動力に近づくように動力源であるモータの出力を制御することにより、すなわち、一例として、図2(3)のグラフ上で点dから点eに移行するように、動力源であるモータの出力を制御することにより、車両の必要駆動力を確保した状態でモータトルクを減少させ、不必要な出力を削減できるとともに、モータの負荷を減らしてモータ損傷のリスクを低減することができる。
【0034】
次に、図2(4)では、車両の現在の駆動力が、グラフ上の特定の位置の点で表されるときに、自動変速機構のどのような変速比で変速させるかについて説明する図である。本実施例においては、自動変速機構の変速比として、ユーザである運転者の意図する車速を満足できる最大の変速比として設定するものとする。
【0035】
上述の図2(1)~(3)で説明したように、自動変速機構を導入する前においては、動力源の電動モータは、図2(4)の点o-g-j-m-qで囲まれる領域で連続運転(定格運転)が可能であった。これに対して、ローギアによる変速比(変速比が大)では、図2(4)の点o-h-i-l(エル)-rで囲まれる領域で連続運転(定格運転)が可能となり、また、ハイギアによる変速比(変速比が小)では、図2(4)の点o-f-k-n-pで囲まれる領域で連続運転(定格運転)が可能となる。
【0036】
図2(4)のグラフ上で、制御された後の現在の駆動力を示す点e1が、点g-h-i-jで囲まれる領域I内の点であるときは、ローギアによる変速比でのみ定格運転が可能であり、ハイギアとローギアの中間の変速比、及び、ハイギアによる変速比では定格運転をすることができない。この場合には、当然のことながら、ローギアによる変速比で運転されることになる。
【0037】
図2(4)のグラフ上で、制御された後の現在の駆動力を示す点e2が、点f-g-j-kで囲まれる領域J内の点であるときは、ローギアによる変速比、及び、ハイギアとローギアの中間の変速比での定格運転が可能であり、ハイギアによる変速比では定格運転をすることができない。本実施例では、自動変速機構の変速比として、ユーザである運転者の意図する車速を満足できる最大の変速比として設定することになるから、この場合には、ローギアによる変速比で運転されることになる。
【0038】
図2(4)のグラフ上で、制御された後の現在の駆動力を示す点e3が、点o-f-k-l(エル)-rで囲まれる領域K内の点であるときは、ローギアによる変速比、ハイギアとローギアの中間の変速比、及び、ハイギアによる変速比のいずれの変速比での定格運転も可能である。本実施例では、自動変速機構の変速比として、ユーザである運転者の意図する車速を満足できる最大の変速比として設定することになるから、この場合には、ローギアによる変速比で運転されることになる。
【0039】
図2(4)のグラフ上で、制御された後の現在の駆動力を示す点e4が、点r-l(エル)-m-qで囲まれる領域L内の点であるときは、ハイギアとローギアの中間の変速比、及び、ハイギアによる変速比での定格運転が可能であり、ローギアによる変速比では定格運転をすることができない。本実施例では、自動変速機構の変速比として、ユーザである運転者の意図する車速を満足できる最大の変速比として設定することになるから、この場合には、ハイギアとローギアの中間の変速比で運転されることになる。
【0040】
図2(4)のグラフ上で、制御された後の現在の駆動力を示す点e5が、点q-m-n-pで囲まれる領域M内の点であるときは、ハイギアによる変速比でのみ定格運転が可能であり、ローギアによる変速比、及び、ハイギアとローギアの中間の変速比では定格運転をすることができない。この場合には、当然のことながら、ハイギアによる変速比で運転されることになる。
【0041】
本実施例において、上述のように、自動変速機構の変速比として、ユーザである運転者の意図する車速を満足できる最大の変速比として設定することにより、駆動源である電動モータで出力された駆動力(モータトルク)を、変速機によって最大限に増大することができ、その分、駆動源である電動モータで出力される駆動力(モータトルク)は最小の駆動力(トルク)で済ませることができることになるから、より効率的な運転が可能になるとともに、駆動源である電動モータの損傷リスクを低減することができる。
【0042】
上述においては、自動変速機構が、ローギアとハイギアを有する有段の変速機構の場合について説明したが、本発明の自動変速機構として無段変速機も採用可能である。本実施例においては、自動変速機構として無段変速機が採用された場合においても、自動変速機構の変速比として、ユーザである運転者の意図する車速を満足できる最大の変速比が設定されるように変速機が制御される。
【0043】
次に、図3により、動力源である電動モータの駆動力の制御において必要となる動力源(電動モータ)の出力状態の取得に必要な情報について説明する。電動モータの出力状態は、図3の(A)に示すようにモータ出力のみから得る場合、(B)に示すようにモータ出力とモータの温度から得る場合、(C)に示すようにモータ出力とモータのインバータの温度から得る場合、及び、(D)に示すようにモータ出力、モータの温度、モータのインバータの温度から得る場合の4つのパターンがある。上記のモータ温度は、モータのコイル温度及び磁石温度から求められ、また、上記のモータ出力は、モータのトルク情報及びモータ回転数から求められる。
【0044】
次に、図4のフロー図で、本発明の動力源及び自動変速機構の制御を実施するフローについて説明する。まず、モータ温度、モータ出力及びモータのインバータ温度の情報をもとに、動力源の出力状態を取得する(ステップS1)。モータ温度、モータ出力及びモータのインバータ温度の情報の用い方には、上述のように、図3に(A)~(D)で示した4つのパターンがある。また、上記のモータ温度は、モータのコイル温度及び磁石温度から求められ、また、上記のモータ出力は、モータのトルク情報及びモータ回転数から求められる。
【0045】
次に、ステップS1で取得した動力源の出力状態の情報と、それに加えて、自動変速機構の変速比の情報から現在の駆動力を算出する(ステップS2)。また、目標加速度と道路勾配と車両重量とのすくなくとも一以上の情報から必要駆動力を算出する(ステップS3)。詳細には、上述のように、道路勾配または車両重量を、地形・地点情報と車体情報とドライバ情報とパワープラント情報との少なくとも一つ以上の情報から取得し、また、目標加速度を現在の車速と現在の走行抵抗と道路勾配と車両重量との少なくとも一つ以上の情報から取得する。
【0046】
次に、ステップS2で算出した現在の駆動力と、ステップS3で算出した必要駆動力を比較し、現在の駆動力が必要駆動力より大きいか否かを判定する(ステップS4)。判定結果がYesの場合、すなわち、現在の駆動力が必要駆動力より大きい場合には、次のステップS5へ進む。判定結果がNoの場合、すなわち、現在の駆動力が必要駆動力より大きくない場合には、動力源及び自動変速機構の制御を実施することなく、この制御のフローを終了する。
【0047】
ステップS4で現在の駆動力が必要駆動力より大きいと判定された場合に、次に、車両の現在の駆動力を必要駆動力に近づくように動力源を制御する(ステップS5)。具体的には、動力源である電動モータの出力を制御して、車両の現在の駆動力を必要駆動力に近づくようにする。この場合に、インバータを用いた制御により、電動モータのトルクを下げることも可能である。これにより、上述のとおり、動力源での無駄な駆動力の発生を削減することができ、車両の効率の良い運転を可能とするとともに、動力源の負荷による損傷のリスクを低減できるという作用効果を奏することは上述のとおりである。
【0048】
そして、次に、自動変速機構の変速比を、必要駆動力を超えることができる変速比として設定する(ステップS6)。これにより、上述のとおり、自動変速機構により必要な駆動力の増加が得られることにより、動力源の負荷は必要最小限で済み、動力源に必要以上の駆動力を発生させる必要がなくなる。なお、この際に、自動変速機構の変速比を、現在の車速を満足できる最大の変速比として設定することによって、ユーザである運転手の意図する車速を維持しつつ、動力源による駆動力の発生をさらに抑えることができる。
【0049】
以上、本発明を実施する態様について、実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、種々の態様で実施できるものであることは勿論である。例えば、動力源20は本実施例に掲げる電動モータに限らず、内燃機関と電動モータを併用するハイブリッド車両の動力源においても実施が可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 車両駆動装置
10 制御装置(ECU)
20 動力源(電動モータ)
30 自動変速機構
101 車速取得部
102 動力源出力状態取得部
103 変速比取得部
110 必要駆動力取得部
120 現在駆動力取得部
130 動力源制御部
140 自動変速機構制御部
図1
図2
図3
図4