(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162366
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】マイクロ流体デバイス
(51)【国際特許分類】
B01J 19/00 20060101AFI20241114BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20241114BHJP
B81B 1/00 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
B01J19/00 321
G01N37/00 101
B81B1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023077794
(22)【出願日】2023-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000190105
【氏名又は名称】信越エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安藤 雅郎
(72)【発明者】
【氏名】山崎 裕之
(72)【発明者】
【氏名】竹内 正樹
(72)【発明者】
【氏名】川越 一真
【テーマコード(参考)】
3C081
4G075
【Fターム(参考)】
3C081AA01
3C081BA03
3C081BA04
3C081BA23
3C081BA29
3C081BA30
3C081CA20
3C081DA06
3C081EA27
3C081EA28
3C081EA29
3C081EA37
4G075AA02
4G075AA39
4G075AA56
4G075AA65
4G075BA10
4G075BB05
4G075BB07
4G075BB10
4G075DA02
4G075DA18
4G075EB50
4G075FA12
4G075FB06
4G075FB12
(57)【要約】
【解決手段】内部に流路が形成されたマイクロ流体チップと、マイクロ流体チップの表面と接するカバー及びベースと、マイクロ流体チップを、カバーとベースとに固定する固定具とを含むチップホルダーと、一端側がマイクロ流体チップの表面と接触し、他端側が流体の供給口又は排出口をなすコネクタとを備えるマイクロ流体デバイスの、マイクロ流体チップの表面の平坦度を50μm以下、カバー及びベースの表面の平面度を50μm以下とする。
【効果】流体である試料を高圧力でマイクロ流体チップに送入した場合であっても、マイクロ流体チップに与えられる引張応力や圧縮応力が、チップホルダーに効果的に分散され、マイクロ流体チップ自体への負荷が低減されることから、マイクロ流体チップが変形し難く、マイクロ流体チップの破損が抑制される。また、マイクロ流体チップの流路との接続部分での液密性が高く、液漏れが起こり難い。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に流路が形成されたマイクロ流体チップと、チップホルダーと、コネクタとを備え、
前記チップホルダーが、前記マイクロ流体チップの表面と接するカバー及びベースと、前記カバー及びベースを連結して、前記カバー及びベースで前記マイクロ流体チップを挟持させる固定具とを含み、該固定具が、前記マイクロ流体チップに、前記カバー及びベースの各々を密着させて固定するように構成され、
前記コネクタが、前記カバー及びベースの一方又は双方を貫通して、一端側が前記マイクロ流体チップの前記流路の開口部で前記マイクロ流体チップの表面と接し、他端側が流体の供給口又は排出口をなす
マイクロ流体デバイスであって、
前記マイクロ流体チップの前記カバーと接する表面の平坦度、及び前記マイクロ流体チップの前記ベースと接する表面の平坦度が、いずれも50μm以下であり、かつ
前記カバーの前記マイクロ流体チップと接する表面の平面度、前記ベースの前記マイクロ流体チップと接する表面の平面度が、いずれも50μm以下である
ことを特徴とするマイクロ流体デバイス。
【請求項2】
前記コネクタが接するマイクロ流体チップの表面の平坦度が、50μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項3】
前記カバー及びベースの前記マイクロ流体チップと対向する側の表面部の各々に凹陥部が形成され、該各々の凹陥部に前記マイクロ流体チップがはめ込まれて、前記マイクロ流体チップの表面と前記カバーの凹陥部の底面、及び前記マイクロ流体チップの表面と前記ベースの凹陥部の底面とが各々接するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項4】
前記凹陥部の深さが、前記カバーの凹陥部の底面と接する前記マイクロ流体チップの表面と、前記ベースの凹陥部の底面と接する前記マイクロ流体チップの表面との間のマイクロ流体チップの厚さの10%以上50%以下であることを特徴とする請求項3に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項5】
前記凹陥部の深さ方向に直交する方向の大きさが、前記マイクロ流体チップの大きさより0.01mm以上0.5mm以下大きく形成されていることを特徴とする請求項3に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項6】
前記コネクタにチューブが接続されることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項7】
前記コネクタが、押圧部材と、前記チューブが挿入されるリング状のフェラルとを含み、前記押圧部材からの押圧により、前記フェラルが、前記マイクロ流体チップの表面、及び前記チューブの表面の、各々に密着するように構成されていることを特徴とする請求項6に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項8】
前記フェラルが、20MPa以上300MPa以下の引張強度を有する樹脂材料で形成されていることを特徴とする請求項7に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項9】
前記マイクロ流体チップが、合成石英ガラスで形成されていることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項10】
前記カバー及びベースが、各々、60GPa以上のヤング率を有する金属材料、非金属材料、又は金属及び非金属の複合材料で形成されていることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ流体デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ流体チップを用いたマイクロ流体技術に好適なマイクロ流体デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ流体技術は、混合、反応、分離、精製、培養、測定、検出など、様々な化学的操作や、生物学的操作を極微量の試料で取り扱うことができる技術である。マイクロ流体技術は、マイクロチャネルと称される流路を備えたマイクロ流体チップに、試薬が配置された反応領域など、各種機能を有する機能領域を設けることにより、様々な用途で活用することができる。マイクロ流体技術の活用例としては、生体物質分析、DNA検査、創薬・製薬開発、環境分析、食品品質分析、測定機器などが挙げられる。
【0003】
また、近年、マイクロ流体技術を活用した微粒子製造、有機合成などの化学合成などにおいても、マイクロ流体技術が、急速に普及しつつある。マイクロ流体技術を活用した微粒子製造、化学合成においては、マイクロ流体チップの流路への試料の供給や、流路からの試料の排出を容易にするために、マイクロ流体デバイスが用いられる。このようなマイクロ流体デバイスは、一般に、マイクロ流体チップと、マイクロ流体チップを保持するためのチップホルダーとを備え、更に、送液又は排液用のチューブを、コネクタを介してマイクロ流体チップの流路に接続することで、流路への試料の供給や、流路からの試料の排出が可能となっている。
【0004】
例えば、特開2005-270729号公報(特許文献1)には、マイクロ化学システム用チップの注入口及び排出口にチューブを接続する接続部と、マイクロ化学システム用チップを載置する載置部と、載置部に載置されたマイクロ化学システム用チップを、トグルクランプを用いて押圧することによりその載置された位置にマイクロ化学システム用チップを固定する押圧部とを備えるマイクロ化学システム用チップホルダが記載されている。
【0005】
また、国際公開第2011/070633号(特許文献2)には、基板を挟持するカバー及びベースと、カバーとベースとを固定する固定具と、基板に形成された流路と流路に送液する送液チューブとを接続するコネクタとを備え、コネクタが、流路に接続される側の第1端部とは反対側の第2端部の端面開口から送液チューブが挿通可能とされ、かつ、端面開口から挿通された送液チューブが圧入保持されると共に先端部が基板に押圧されるフェラルを備える基板ホルダーが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-270729号公報
【特許文献2】国際公開第2011/070633号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
マイクロ流体チップを用いたマイクロ流体技術による微粒子製造、化学合成では、生産性の向上の観点から、流体である試料を高流量で連続投入することが望まれるが、試料をマイクロ流体チップに高流量で送入するために、試料を高圧力で送入した場合、例えば、特開2005-270729号公報(特許文献1)に記載されているようなトグルクランプを用いて押圧する構成では、送液チューブの保持力が十分ではないため、マイクロ流体チップの流路との接続部分での液漏れが懸念される。
【0008】
また、流体である試料を高圧力でマイクロ流体チップに送入した場合、マイクロ流体チップの破損も懸念される。マイクロ流体チップの破損の主な要因は、高圧力の流体がマイクロ流体チップに引張応力や圧縮応力を与え、応力によりマイクロ流体チップが変形することにある。更に、国際公開第2011/070633号(特許文献2)に記載の基板ホルダーでは、コネクタにより送液チューブが圧入保持され、先端部に備えたフェラルがマイクロ流体チップに押圧されるが、試料を高圧力で送入する場合に、流路との接続部分での液漏れを避けるためにフェラルの押圧力を強くし過ぎると、マイクロ流体チップが破損する懸念がある。そのため、流体である試料を高圧力でマイクロ流体チップに送入した場合のマイクロ流体チップの変形を抑える必要がある。
【0009】
本発明は前記事情に鑑みなされたものであり、マイクロ流体チップが破損し難いマイクロ流体デバイス、更には、マイクロ流体チップの流路との接続部分での液密性が高いマイクロ流体デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、内部に流路が形成されたマイクロ流体チップと、マイクロ流体チップの表面と接するカバー及びベースと、マイクロ流体チップの流路の開口部でマイクロ流体チップの表面と接するコネクタとを備えるマイクロ流体デバイスにおいて、マイクロ流体チップのカバー及びベースと接する各々の表面の平坦度、また、カバー及びベースのマイクロ流体チップと接する各々の表面の平面度を所定値以下とすることにより、マイクロ流体チップが破損し難いマイクロ流体デバイスとなること、更には、コネクタが接するマイクロ流体チップの表面の平坦度を所定値以下とすることにより、マイクロ流体チップの流路との接続部分での液密性が高く、マイクロ流体チップが破損し難いマイクロ流体デバイスとなることを見出し、本発明をなすに至った。
【0011】
従って、本発明は、以下のマイクロ流体デバイスを提供する。
1.内部に流路が形成されたマイクロ流体チップと、チップホルダーと、コネクタとを備え、
前記チップホルダーが、前記マイクロ流体チップの表面と接するカバー及びベースと、前記カバー及びベースを連結して、前記カバー及びベースで前記マイクロ流体チップを挟持させる固定具とを含み、該固定具が、前記マイクロ流体チップに、前記カバー及びベースの各々を密着させて固定するように構成され、
前記コネクタが、前記カバー及びベースの一方又は双方を貫通して、一端側が前記マイクロ流体チップの前記流路の開口部で前記マイクロ流体チップの表面と接し、他端側が流体の供給口又は排出口をなす
マイクロ流体デバイスであって、
前記マイクロ流体チップの前記カバーと接する表面の平坦度、及び前記マイクロ流体チップの前記ベースと接する表面の平坦度が、いずれも50μm以下であり、かつ
前記カバーの前記マイクロ流体チップと接する表面の平面度、前記ベースの前記マイクロ流体チップと接する表面の平面度が、いずれも50μm以下である
ことを特徴とするマイクロ流体デバイス。
2.前記コネクタが接するマイクロ流体チップの表面の平坦度が、50μm以下であることを特徴とする1に記載のマイクロ流体デバイス。
3.前記カバー及びベースの前記マイクロ流体チップと対向する側の表面部の各々に凹陥部が形成され、該各々の凹陥部に前記マイクロ流体チップがはめ込まれて、前記マイクロ流体チップの表面と前記カバーの凹陥部の底面、及び前記マイクロ流体チップの表面と前記ベースの凹陥部の底面とが各々接するように構成されていることを特徴とする1に記載のマイクロ流体デバイス。
4.前記凹陥部の深さが、前記カバーの凹陥部の底面と接する前記マイクロ流体チップの表面と、前記ベースの凹陥部の底面と接する前記マイクロ流体チップの表面との間のマイクロ流体チップの厚さの10%以上50%以下であることを特徴とする3に記載のマイクロ流体デバイス。
5.前記凹陥部の深さ方向に直交する方向の大きさが、前記マイクロ流体チップの大きさより0.01mm以上0.5mm以下大きく形成されていることを特徴とする3に記載のマイクロ流体デバイス。
6.前記コネクタにチューブが接続されることを特徴とする1に記載のマイクロ流体デバイス。
7.前記コネクタが、押圧部材と、前記チューブが挿入されるリング状のフェラルとを含み、前記押圧部材からの押圧により、前記フェラルが、前記マイクロ流体チップの表面、及び前記チューブの表面の、各々に密着するように構成されていることを特徴とする6に記載のマイクロ流体デバイス。
8.前記フェラルが、20MPa以上300MPa以下の引張強度を有する樹脂材料で形成されていることを特徴とする7に記載のマイクロ流体デバイス。
9.前記マイクロ流体チップが、合成石英ガラスで形成されていることを特徴とする1に記載のマイクロ流体デバイス。
10.前記カバー及びベースが、各々、60GPa以上のヤング率を有する金属材料、非金属材料、又は金属及び非金属の複合材料で形成されていることを特徴とする1に記載のマイクロ流体デバイス。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、流体である試料を高圧力でマイクロ流体チップに送入した場合であっても、マイクロ流体チップに与えられる引張応力や圧縮応力が、チップホルダーに効果的に分散され、マイクロ流体チップ自体への負荷が低減されることから、マイクロ流体チップが変形し難く、マイクロ流体チップの破損が抑制される。また、マイクロ流体チップの流路との接続部分での液密性が高く、流体である試料を高圧力でマイクロ流体チップの流路に送入した場合であっても、液漏れが起こり難く、マイクロ流体チップが更に破損し難い。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明のマイクロ流体デバイスの一例を示す斜視図である。
【
図2】
図1のマイクロ流体デバイスの分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について、更に詳しく説明する。
本発明のマイクロ流体デバイスは、マイクロ流体チップと、チップホルダーと、コネクタとを備える。
【0015】
[マイクロ流体チップ]
マイクロ流体チップは、通常、板状の形状を有する。マイクロ流体チップの主表面の形状は、製造の容易さから、長方形等の四角形状、円形状などとすることが好ましい。主表面のサイズは、特に限定されるものではないが、例えば、四角形状であれば、一辺の長さが10~1000mm、円形状であれば、直径が10~1000mmが好適である。一方、マイクロ流体チップの厚さは、特に限定されるものではないが、好ましくは0.01mm以上、より好ましくは0.1mm以上、更に好ましくは0.5mm以上で、好ましくは300mm以下、より好ましくは100mm以下、更に好ましくは15mm以下である。このような範囲の厚さであれば、マイクロ流体チップの剛性が確保でき、また、取扱い時の破損が低減でき、更に、マイクロ流体チップの軽量化も可能である。
【0016】
マイクロ流体チップの内部には、流路が形成されている。マイクロ流体チップの流路を所望の形状とし、流路に試料(液体などの流体)を供給することにより、混合、反応、分離、精製、培養、測定、検出など、様々な化学的操作や、生物学的操作を行うことができる。流路の数は1つであってもよいし、複数であってもよく、分岐していてもよい。流路の断面形状としては、四角形状、円形状、半円形状、略半円形状などを好適に挙げることができる。流路の長さ、幅、高さは、用いられるマイクロ流体チップの用途に応じて適宜選定することができるが、幅は、通常0.01μm以上で、通常100,000μm以下であり、高さは、通常0.01μm以上で、通常100,000μm以下である。高さは、通常、マイクロ流体チップの厚さの90%以下程度に形成される。
【0017】
マイクロ流体チップは、特に限定されるものではないが、長期安定性、耐候性、耐薬品性などの観点から、合成石英ガラスで形成されていることが好ましい。合成石英ガラスは、常法により製造した合成石英ガラスインゴットを所定のサイズ及び厚さとした後、必要に応じて表面に、ラッピング研磨、粗研磨、精密研磨などを施すことにより得ることができる。
【0018】
マイクロ流体チップの流路の開口部(端部)には、流路における試料の供給部又は排出部をなす供給穴又は排出穴が形成されている。この供給穴又は排出穴の部分には、コネクタを接続することができる。供給穴及び排出穴は、マイクロ流体チップの流路と連通しており、サイズは特に限定されない。供給穴及び排出穴の形状としては、円形状、角形状などを好適に挙げることができる。供給穴及び排出穴のサイズ(マイクロ流体チップの主表面に沿ったサイズ)は、特に限定されるものではないが、製造上又は取扱い上の観点から、角形状の供給穴及び排出穴の場合は、一辺の長さが0.1~5mm、円形状の供給穴及び排出穴の場合は、直径が0.1~5mmであることが好ましい。
【0019】
マイクロ流体チップは、特に限定されるものではないが、例えば、表面に溝が形成された第1の基板と、第1の基板の溝が形成された表面と接する第2の基板とを含み、第1の基板と第2の基板とで囲まれた溝が、端部が第1の基板及び第2の基板の少なくとも一方を貫通して開口する流路をなすように構成することができる。
【0020】
[チップホルダー]
チップホルダーには、カバーと、ベースと、固定具とが含まれる。カバー及びベースは、マイクロ流体チップの表面(対向する一の表面及び他の表面)と接する。また、カバー及びベースの一方又は双方には、通常、コネクタをマイクロ流体チップの流路に接続するための孔が形成される。コネクタをマイクロ流体チップの流路に接続するための孔は、通常、マイクロ流体チップの流路の開口部と一致する位置に形成される。これにより、孔に差し込まれたコネクタを介して、試料を確実に供給又は排出することができる。
【0021】
カバー及びベースは、通常、板状の形状を有する。カバー及びベースの主表面の形状は、製造の容易さから、長方形等の四角形状、円形状などとすることが好ましい。主表面は、マイクロ流体チップの主表面と同じ形状及び大きさでもよいが、マイクロ流体チップの主表面と同じ形状で、マイクロ流体チップの主表面より大きいことが好ましい。一方、カバー及びベースの各々の厚さは、特に限定されるものではないが、好ましくは1mm以上、より好ましくは3mm以上、更に好ましくは5mm以上で、好ましくは300mm以下、より好ましくは100mm以下、更に好ましくは30mm以下である。このような範囲の厚さであれば、カバー及びベースの剛性が確保でき、また、取扱い時の破損が低減でき、更に、マイクロ流体デバイス全体の軽量化も可能である。
【0022】
カバー及びベースのマイクロ流体チップと対向する側の各々の表面部には、凹陥部を形成してもよい。凹陥部には、マイクロ流体チップをはめ込むことができ、その場合、マイクロ流体チップの表面と、カバーの凹陥部の底面(例えば、マイクロ流体チップの表面と略同形状の面)、また、マイクロ流体チップの表面と、ベースの凹陥部の底面(マイクロ流体チップの表面と略同形状の面)とが、各々接することになる。カバー及びベースの凹陥部の深さは、マイクロ流体チップの厚さ(一の表面と他の表面との間)の好ましくは10%以上、より好ましくは20%以上で、好ましくは50%以下、より好ましくは45%以下である。また、凹陥部の深さ方向に直交する方向の大きさは、マイクロ流体チップの大きさ(主表面の大きさ)より、好ましくは0.01mm以上、より好ましくは0.05mm以上で、好ましくは0.5mm以下、より好ましくは0.1mm以下大きく形成されていることが好ましい。このようにすることにより、マイクロ流体チップの位置合わせが容易となり、また、マイクロ流体チップの位置のずれを防止することができることから、特に、コネクタ部分での液密性を良好に保つことができる。また、チップホルダーの凹陥部の側面又は周面との過度な接触によるマイクロ流体チップの破損を防止することができる。
【0023】
カバー及びベースは、各々、金属材料、非金属材料、又は金属及び非金属の複合材料で形成されていることが好ましい。金属材料としては、クロム鋼、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、チタン合金など、非金属材料としては、セラミックスなど、金属及び非金属の複合材料としては、繊維強化金属、繊維強化プラスチックなどを挙げることができる。なかでも、加工の容易さ、耐食性、耐熱性の観点から、ステンレス鋼が特に好ましい。また、カバー及びベースを構成する材料は、各々、好ましくは60GPa以上で、好ましくは500GPa以下のヤング率を有する材料であることが好ましい。
【0024】
固定具は、カバーとベースとを連結し、マイクロ流体チップを、カバーとベースとの間に挟持し、マイクロ流体チップを、カバーとベースとに密着させて固定するためのものである。固定具による固定は、マイクロ流体チップと、カバー及びベースとを強固に密着させて固定できるものであればよく、特に限定されるものではないが、例えば、ネジによる機械固定が好ましい。ネジにより固定する場合、カバー及びベースに、貫通孔又は未貫通穴を設ければよく、カバー及びベースの一方又は双方をネジ形状とすればよい。ネジによる機械固定であれば、個々のネジの締め付け具合を調節することにより、カバーとベースによるマイクロ流体チップへの押圧力を、マイクロ流体デバイス全体で調節することができる。
【0025】
[コネクタ]
コネクタはカバー及びベースの一方又は双方に固定され、マイクロ流体チップの表面と接触させる。コネクタは、一端側がマイクロ流体チップの流路の端部でマイクロ流体チップの表面と接触し、他端側が流体の供給口又は排出口となっている。コネクタには、チューブ(送液用又は排液用のチューブ)を接続することができる。コネクタの形状は、カバー及びベースの一方又は双方に形成された孔に差し込んで強固に固定できるものであれば特に限定されるものではないが、ネジ形状が好適に用いられる。コネクタの形状がネジ形状である場合、マイクロ流体チップの流路に接続するための孔を、ネジ孔(ネジ形状の孔)とする。このようにすることにより、コネクタを確実に、マイクロ流体チップの表面に密着させることができ、液漏れを防いで、孔に差し込まれたコネクタを介して、試料を確実に供給又は排出することができる。また、コネクタによりマイクロ流体チップが押圧されるようにすれば、試料の供給又は排出中に、マイクロ流体チップがずれることを防止することもできる。
【0026】
コネクタとしては、押圧部材と、チューブが挿入されるリング状のフェラルとを含むものが好ましい。このようなコネクタでは、押圧部材からの押圧により、フェラルが、マイクロ流体チップの表面及びチューブの各々に密着するように構成することができ、このような構成とすることで、マイクロ流体チップの表面と、チューブとの間の液密性を良好に保つことができる。コネクタをネジ状とする場合は、押圧部材をネジ状とすればよい。
【0027】
押圧部材は、樹脂材料で形成されていることが好ましいが、ステンレス鋼などの金属材料で形成することもできる。樹脂材料としては、例えば、PEEK、PPS、POM、PE、PP、ETFE、PCTFE、PTFE、PFAなどを挙げることができる。
【0028】
フェラルは、樹脂材料で形成されていることが好ましい。樹脂材料としては、例えば、PEEK、PP、ETFE、PCTFEなどが好適に用いられる。フェラルを構成する材料は、好ましくは20MPa以上、より好ましくは30MPa以上で、好ましくは300MPa以下、より好ましくは200MPa以下の引張強度を有する材料であることが好ましい。フェラルの引張強度がこのような範囲内にあれば、押圧部材からの押圧により、フェラルを、マイクロ流体チップの表面及びチューブの各々に、より確実に密着させることができ、液密性を良好に保つことができる。
【0029】
コネクタの他端側には、チューブを接続することができる。チューブは、樹脂材料で形成されていることが好ましいが、ステンレス鋼などの金属材料で形成することもできる。樹脂材料としては、例えば、PEEK、PTFE、PFAなどを挙げることができる。
【0030】
図1は、本発明のマイクロ流体デバイスの一例を示す斜視図であり、
図2は、
図1のマイクロ流体デバイスの分解斜視図である。なお、図面は模式的又は概念的なものであり、各部材の寸法、比率などは、図示されているものに限られず、また、同じ部材であっても、互いの寸法、比率などが異なっていてもよい。
【0031】
図1、2に示されるマイクロ流体デバイス100は、マイクロ流体チップ110と、チップホルダー120と、コネクタ130とを備える。この、マイクロ流体チップ110の内部には、Y字状に分岐した流路111が1本形成されており、流路111の3つの開口部(端部)の各々には、流路の幅及び高さより大径の、円形状の供給穴又は排出穴112が形成されている。
【0032】
チップホルダー120には、カバー121と、ベース122と、固定具123とが含まれる。カバー121には、マイクロ流体チップ110と対向する側の表面部に凹陥部121aが形成されており、凹陥部121aに、マイクロ流体チップ110の流路111が開口している表面(一の表面)110a側がはめ込まれる。また、カバー121の凹陥部121aが形成されていない外周部には、固定具123をはめ込む孔121bが設けられている。この場合は、ネジ状の固定具123が10本用いられており、カバー121に10本のネジ形状の孔121bが設けられている。更に、カバー121の凹陥部121aの部分には、マイクロ流体チップ110の流路111の開口部に形成された供給穴又は排出穴112と一致する位置に、コネクタ130を接続するための3本のネジ形状の孔121cが形成されている。この場合は、ネジ状のコネクタ130が3本用いられており、3本のネジ形状の孔121cが設けられている。
【0033】
一方、ベース122にも、マイクロ流体チップ110と対向する側の表面部に凹陥部122aが形成されており、凹陥部122aに、マイクロ流体チップ110の流路111が開口していない表面(他の表面)110b側がはめ込まれる。また、ベース122の凹陥部122aが形成されていない外周部には、固定具123をはめ込む孔122bが設けられている。この場合は、ネジ状の固定具123が10本用いられており、ベース122に10本のネジ形状の孔122bが設けられている。
【0034】
コネクタ130は、カバー121に固定され、マイクロ流体チップ110の流路111が開口している表面(一の表面)110aと接触する。コネクタ130は、一端側がマイクロ流体チップ110の供給穴又は排出穴112の部分でマイクロ流体チップ110の流路111が開口している表面(一の表面)110aと接触し、他端側が流体の供給口又は排出口130aをなす。コネクタ130には、押圧部材131とフェラル132とが含まれる。押圧部材131は、チューブ(図示せず)が挿入できるように中空に形成されており、また、ネジ形状に形成されている。フェラル132は、チューブが挿入できるようにリング状に形成されている。この場合、ネジ形状の押圧部材131が、カバー121のネジ形状の孔121cにねじ込まれると、フェラル132が、押圧部材131によって押圧され、フェラル132が、マイクロ流体チップ110の流路111が開口している表面(一の表面)110a、及びチューブの各々に密着するようになっている。
【0035】
このマイクロ流体デバイス100では、マイクロ流体チップ110をカバー121とベース122の、各々の凹陥部121a及び凹陥部122aにはめ込み、固定具123を、孔121b及び孔122bにねじ込むことにより、カバー121とベース122とが連結されると共に、マイクロ流体チップ110が、カバー121とベース122で挟持される。そして、マイクロ流体チップ110の流路111が開口している表面(一の表面)110aと、カバー121の凹陥部121aの底面とが密着し、また、マイクロ流体チップ110の流路111が開口していない表面(他の表面)110bと、ベース122の凹陥部122aの底面とが密着して、マイクロ流体チップ110が固定される。
【0036】
本発明のマイクロ流体デバイスにおいて、マイクロ流体チップのカバーと接する表面の平坦度、及びマイクロ流体チップのベースと接する表面の平坦度は、いずれも50μm以下、好ましくは30μm以下、より好ましくは20μm以下、更に好ましくは15μm以下、特に好ましくは10μm以下である。この平坦度は、厚さバラツキ(TTV:total thickness variation)が適用できる。
【0037】
また、カバーのマイクロ流体チップと接する表面の平面度、及びベースのマイクロ流体チップと接する表面の平面度は、いずれも50μm以下、好ましくは30μm以下、より好ましくは20μm以下、更に好ましくは15μm以下、特に好ましくは10μm以下である。この平面度は、JIS B 0621に規定される平面度が適用できる。
【0038】
各々の表面の平坦度や平面度をこのようにすれば、流体である試料を高圧力でマイクロ流体チップに送入した場合であっても、マイクロ流体チップに与えられる引張応力や圧縮応力が、チップホルダーに効果的に分散され、マイクロ流体チップ自体への負荷が低減されることから、マイクロ流体チップが変形し難く、マイクロ流体チップの破損が抑制される。
【0039】
更に、コネクタが接するマイクロ流体チップの表面の平坦度は、いずれも50μm以下、好ましくは30μm以下、より好ましくは20μm以下、更に好ましくは15μm以下、特に好ましくは10μm以下である。この平坦度は、厚さバラツキ(TTV:total thickness variation)が適用される。
【0040】
コネクタが接するマイクロ流体チップの表面の平坦度をこのようにすれば、マイクロ流体チップが破損し難く、更に、マイクロ流体チップの流路との接続部分での液密性が高く、流体である試料を高圧力でマイクロ流体チップの流路に送入した場合であっても、液漏れが起こり難い。
【0041】
マイクロ流体チップの表面の平坦度、及びカバー及びベースの表面の平面度は、マイクロ流体チップ、カバー及びベースの表面を研磨することにより得ることができる。マイクロ流体チップの表面の平坦度、及びカバー及びベースの表面の平面度は、少なくともマイクロ流体チップと、カバー及びベースとが接する部分において、所定の平坦度又は平面度となっていればよく、更に、コネクタが接する部分において、マイクロ流体チップの表面の平坦度が、所定の平坦度となっていればよい。
【実施例0042】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0043】
[実施例1、比較例1、2]
図1に示されるようなマイクロ流路デバイスを準備した。マイクロ流路チップ、チップホルダー(カバー、ベース及び固定具)、コネクタ(押圧部材及びフェラル)、並びにチューブは以下のとおりとした。
【0044】
マイクロ流路チップは、30mm×70mm、厚さ1.8mmの合成石英ガラス製とし、流路は、最大幅が1200μm、高さが300μmの、断面形状が略半円形状のY字の流路(全長60mm)とした。供給穴又は排出穴は、直径1.0mmの円形状とした。
【0045】
カバー及びベースは、各々、60mm×100mm、厚さ7mmのステンレス鋼(SUS304)製とし、凹陥部のサイズは、各々、30.1mm×70.1mm、深さ0.5mmとした。ネジ状の固定具は、M5ネジとし、
図1とは異なり7本として、カバー及びベースの各々には、固定具に対応するネジ形状の孔を7本形成した。また、ネジ状のコネクタは、M6ネジとし、3本として、カバーには、コネクタに対応するネジ形状の孔を3本形成した。
【0046】
コネクタの押圧部材は、PEEK製とし、フェラルはPTFE製とした。また、チューブはPEEK製とした。
【0047】
マイクロ流路チップのカバー及びベースと対向する表面の平坦度、カバー及びベースのマイクロ流路チップと対向する表面の平面度、並びにマイクロ流体チップのコネクタ(フェラル)が接する表面の平坦度は、表1に示されるようにした。
【0048】
【0049】
マイクロ流体チップを、カバーとベースの各々の凹陥部にはめ込み、固定具を、孔にねじ込んで、カバーとベースとを連結し、マイクロ流体チップを、カバーとベースで挟持して固定した。また、押圧部材とフェラルにチューブを挿入し、フェラルを孔に入れ、押圧部材をカバーの孔にねじ込んでフェラルを押圧して、コネクタをカバーに固定し、マイクロ流体チップの表面と接触させた。
【0050】
プランジャーポンプを用い、マイクロ流体チップの流路に、チューブを介して送液圧力3MPaで純水を送液した。実施例1では、液漏れやマイクロ流体チップの破損は確認されなかった。比較例1では、マイクロ流体チップとコネクタとの接触部で液漏れが確認された。比較例2では、マイクロ流体チップの破損が確認された。