(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162384
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】サーマルプリントヘッド用基板及びサーマルプリントヘッド
(51)【国際特許分類】
B41J 2/335 20060101AFI20241114BHJP
【FI】
B41J2/335 101C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023077832
(22)【出願日】2023-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木本 智士
【テーマコード(参考)】
2C065
【Fターム(参考)】
2C065JA06
2C065JC08
2C065JC09
(57)【要約】
【課題】発熱体膜において発生した熱が従来よりもさらに印字側とは反対側に伝わりにくくなるサーマルプリントヘッド用基板を提供する。
【解決手段】サーマルプリントヘッド用基板(10)は、隆起部(14)が形成されている主面(10a)を有する。サーマルプリントヘッド用基板は、基材(11)と、グレーズ層(13)とを備える。隆起部は、平面視において第1方向(DR1)に沿って延在しており、かつ、基材の一部である台座部(11c)及び台座部の頂面(11d)上に配置されているグレーズ層で構成されている。グレーズ層の内部には、中空部(13a)がある。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
隆起部が形成されている主面を有するサーマルプリントヘッド用基板であって、
基材と、
グレーズ層とを備え、
前記隆起部は、平面視において第1方向に沿って延在しており、かつ前記基材の一部である台座部及び前記台座部の頂面上に配置されている前記グレーズ層で構成されており、
前記グレーズ層の内部には、中空部がある、サーマルプリントヘッド用基板。
【請求項2】
前記グレーズ層に埋設されているチューブをさらに備え、
前記チューブの内部空間は、前記中空部をなしている、請求項1に記載のサーマルプリントヘッド用基板。
【請求項3】
前記頂面には、凹部が形成されており、
前記チューブは、少なくとも部分的に前記凹部内に配置されている、請求項2に記載のサーマルプリントヘッド用基板。
【請求項4】
前記チューブの構成材料の融点は、前記グレーズ層の構成材料の焼成温度よりも高い、請求項2に記載のサーマルプリントヘッド用基板。
【請求項5】
前記中空部と前記グレーズ層の頂点との間の距離は、200μm以下である、請求項1に記載のサーマルプリントヘッド用基板。
【請求項6】
前記中空部と前記グレーズ層の頂点との間の距離は、100μm以上である、請求項5に記載のサーマルプリントヘッド用基板。
【請求項7】
前記基材の構成材料は、シリコンである、請求項1に記載のサーマルプリントヘッド用基板。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の前記サーマルプリントヘッド用基板と、
絶縁膜と、
配線層と、
発熱体膜とを備え、
前記配線層は、前記発熱体膜を介在させて前記絶縁膜上に配置されており、
前記配線層は、平面視において前記第1方向に直交している第2方向に沿って前記隆起部と交差するように延在しており、かつ平面視において前記第1方向に沿って並んでいる複数の配線部を有し、
前記複数の配線部の各々は、平面視において前記隆起部と重なる位置で前記発熱体膜が露出するように部分的に除去されている、サーマルプリントヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、サーマルプリントヘッド用基板及びサーマルプリントヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特開2022-165673号公報(特許文献1)には、サーマルプリントヘッドが記載されている。特許文献1に記載のサーマルプリントヘッドは、基板と、配線層と、抵抗体層とを有している。
【0003】
基板は、基材と絶縁層(グレーズ層)とを有している。基材は、主面を有している。主面には、凸部が形成されている。凸部は、平面視において、第1方向に沿って延在している。グレーズ層は、主面上に配置されている。配線層は、抵抗体層を介在させてグレーズ層上に配置されている。配線層は、共通配線と、複数の個別配線とを有している。
【0004】
共通配線は、第1基部と、複数の第1延出部とを有している。第1基部は、平面視において、第1方向に沿って延在している。複数の第1延出部は、第2方向に沿って間隔を空けて並んでいる。なお、第2方向は、第1方向に直交する方向である。複数の第1延出部の各々は、第1方向に沿って第1基部から突出している。複数の個別配線の各々は、第2基部と、第2基部から第2方向に沿って延在している第2延出部とを有している。第2延出部の先端は、第2方向において、第1延出部の先端と間隔を空けて対向している。すなわち、第1延出部の先端と第2延出部の先端とは、抵抗体層で電気的に接続されている。共通配線と個別配線との間に電圧が印可されることにより、第1延出部の先端と第2延出部の先端との間で抵抗体層に電流が流れ、発熱する。この熱が紙に伝わることにより、印刷が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
第1延出部の先端と第2延出部の先端との間で抵抗体層に発生した熱が印字側とは反対側に伝わると、効率的な印字ができない。本開示は、従来よりもさらに印字側とは反対側に熱がさらに伝わりにくくすることが可能なサーマルプリントヘッド用基板を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示のサーマルプリントヘッド用基板は、隆起部が形成されている主面を有する。サーマルプリントヘッド用基板は、基材と、グレーズ層とを備える。隆起部は、平面視において第1方向に沿って延在しており、かつ基材の一部である台座部及び台座部の頂面上に配置されているグレーズ層で構成されている。グレーズ層の内部には、中空部がある。
【発明の効果】
【0008】
本開示のサーマルプリントヘッド用基板によると、発熱体膜において発生した熱が従来よりもさらに印字側とは反対側に伝わりにくくなる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】サーマルプリントヘッド100の平面図である。
【
図3】サーマルプリントヘッド100の製造工程図である。
【
図4A】台座部形成工程S2を説明する第1断面図である。
【
図4B】台座部形成工程S2を説明する第2断面図である。
【
図5】グレーズ層形成工程S3を説明する断面図である。
【
図6】絶縁膜形成工程S4を説明する断面図である。
【
図7A】配線層形成工程S5を説明する第1断面図である。
【
図7B】配線層形成工程S5を説明する第2断面図である。
【
図7C】配線層形成工程S5を説明する第3断面図である。
【
図7D】配線層形成工程S5を説明する第4断面図である。
【
図7E】配線層形成工程S5を説明する第5断面図である。
【
図8】層間絶縁膜形成工程S6を説明する断面図である。
【
図9】層間絶縁膜50上における温度と経過時間との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示の実施形態の詳細を、図面を参照しながら説明する。以下の図面では、同一又は相当する部分に同一の参照符号を付し、重複する説明は繰り返さないものとする。
【0011】
実施形態に係るサーマルプリントヘッドを説明する。実施形態に係るサーマルプリントヘッドを、サーマルプリントヘッド100とする。
【0012】
(サーマルプリントヘッド100の構成)
以下に、サーマルプリントヘッド100の構成を説明する。
【0013】
図1は、サーマルプリントヘッド100の平面図である。
図2は、
図1中のII-IIにおける断面図である。
図1及び
図2に示されているように、サーマルプリントヘッド100は、サーマルプリントヘッド用基板10と、絶縁膜20と、配線層30と、発熱体膜40と、層間絶縁膜50と、複数のパッド61と、パッド62とを有している。
【0014】
サーマルプリントヘッド用基板10は、主面10aと、主面10bとを有している。主面10a及び主面10bは、サーマルプリントヘッド用基板10の厚さ方向における端面である。主面10bは、主面10aの反対面である。基材11と、チューブ12と、グレーズ層13とを有している。
【0015】
基材11の構成材料は、例えば、単結晶のシリコンである。基材11は、第1面11aと、第2面11bとを有している。第1面11a及び第2面11bは、基材11の厚さ方向における端面である。グレーズ層13に覆われている部分を除いて、第1面11aは、主面10aを構成している。第2面11bは、主面10bを構成している。
【0016】
第1面11aには、台座部11cが形成されている。台座部11cは、平面視において第1方向DR1に沿って延在している。台座部11cは、台座部11cの周囲にある第1面11aの部分よりも突出している。平面視において第1方向DR1に直交する方向を、第2方向DR2とする。台座部11cは、頂面11dを有している。頂面11dには、凹部11eが形成されていてもよい。サーマルプリントヘッド100は、第2方向DR2において、第1端100aと、第2端100bとを有している。第2端100bは、第1端100aの反対側の端である。台座部11cは、第1端100a側にある。すなわち、第2方向DR2における台座部11cと第1端100aとの間の距離は、第2方向DR2における台座部11cと第2端100bとの間の距離よりも小さい。
【0017】
チューブ12の構成材料は、セラミック等である。チューブ12は、内部空間が中空になっている筒状の部材であり、第1方向DR1に沿って延在している。頂面11dに凹部11eが形成されている場合、チューブ12は少なくとも部分的に凹部11eの内部に配置されている。グレーズ層13は、頂面11d上に配置されている。グレーズ層13は、チューブ12を覆っている。このことを別の観点から言えば、チューブ12は、グレーズ層13に埋設されている。グレーズ層13の構成材料は、例えばガラス材料である。チューブ12の構成材料の融点は、グレーズ層13の構成材料の焼成温度よりも高いことが好ましい。グレーズ層13の頂面は、主面10aの一部を構成している。
【0018】
上記のとおり、チューブ12の内部空間は、中空になっている。そのため、グレーズ層13の内部には、チューブ12の内部空間で構成されている中空部13aが存在することになる。中空部13aとグレーズ層13の頂点との間の距離を、距離DISとする。距離DISは、200μm以下であることが好ましい。距離DISは、100μm以上であることが好ましい。なお、グレーズ層13の頂点とチューブ12との間にあるグレーズ層13の厚さは、例えば、10μm以上50μm以下であることが好ましい。
【0019】
上記のとおり、基材11は台座部11cを有しており、頂面11d上にはグレーズ層13が配置されている。そのため、サーマルプリントヘッド用基板10は、第1方向DR1に沿って延在している隆起部14を主面10aに有していることになる。絶縁膜20は、主面10a上に配置されている。絶縁膜20の構成材料は、例えばシリコン酸化物、シリコン窒化物、ガラス等である。
【0020】
配線層30の構成材料は、例えば銅である。配線層30は、絶縁膜20上に配置されている。発熱体膜40は、絶縁膜20と配線層30との間に配置されている。発熱体膜40の構成材料は、例えば、窒化タンタルである。発熱体膜40と配線層30との間には、伝熱抑制層41が配置されていてもよい。伝熱抑制層41の構成材料は、例えばチタンである。配線層30は、複数の配線部31と、配線部32と、接続部33とを有している。
【0021】
配線部31及び配線部32は、隆起部14と交差するように、第2方向DR2に沿って延在している。配線部31及び配線部32は、第1方向DR1において、交互に並んでいる。配線部31は、第2方向DR2において、第1端部と、第1端部の反対側の端である第2端部とを有している。配線部32は、第2方向DR2において、第1端部と、第1端部の反対側の端である第2端部とを有している。
【0022】
配線部31の第1端部は、配線部31の第2端部よりも第1端100aの近くにある。配線部32の第1端部は、配線部32の第2端部よりも第1端100aの近くにある。配線部31の第1端部及び配線部32の第1端部は、平面視において隆起部14と重なっている。配線部31の第1端部及び配線部32の第1端部は、グレーズ層13よりも第1端100aの近くにある。配線部32の第2端部は、接続部33に接続されている。
【0023】
複数の配線部31には、配線部31aと配線部31bとが含まれている。複数の配線部32には、配線部32aと配線部32bとが含まれている。配線部31bは、第1方向DR1において、配線部31aと配線部32aとの間にある。配線部32aは、第1方向DR1において、配線部31bと配線部32bとの間にある。すなわち、配線部31a、配線部32a、配線部31b及び配線部32bは、第1方向DR1においてこの順で並んでいる。配線部31aの第1端部は配線部32aの第1端部に接続されており、配線部31bの第1端部は配線部32bの第1端部に接続されている。
【0024】
配線部31及び配線部32は、隆起部14(より具体的には、グレーズ層13)と重なる位置で部分的に除去されている。また、配線部31(配線部32)の除去部の下にある伝熱抑制層41は、部分的に除去されている。つまり、発熱体膜40/伝熱抑制層41/配線部31(配線部32)からなる3層構造の電流経路は、隆起部14と重なる位置において部分的に発熱体膜40からなる1層構造又は発熱体膜40/伝熱抑制層41からなる2層構造になっている。なお、伝熱抑制層41がない場合には、発熱体膜40/配線部31(配線部32)からなる2層構造の電流経路が、隆起部14と重なる位置において、部分的に発熱体膜40からなる1層構造になっている。
【0025】
層間絶縁膜50は、配線層30、配線部31の除去部の下にある伝熱抑制層41及び発熱体膜40並びに配線部32の除去部の下にある伝熱抑制層41及び発熱体膜40を覆うように、絶縁膜20上に配置されている。層間絶縁膜50の構成材料は、例えばシリコン窒化物、シリコン酸化物である。層間絶縁膜50には、複数の開口部51と開口部52(図示せず)とが形成されている。開口部51は、平面視において、配線部31の第2端部と重なっている。開口部52は、平面視において、接続部33と重なっている。
【0026】
パッド61は、開口部51と重なっている配線部31の第2端部上に配置されており、パッド62は、開口部52と重なっている接続部33上に配置されている。これにより、パッド61及びパッド62は、それぞれ配線部31及び配線部32に電気的に接続されている。パッド61及びパッド62は、例えば、ニッケル層、ニッケル層上に配置されているパラジウム層と、パラジウム層上に配置されている金層とで構成されている。
【0027】
配線部32には、パッド62及び接続部33を介して、共通電位が供給される。パッド61は、ドライバIC(図示せず)の出力端子と例えばワイヤボンディングにより電気的に接続される。これにより、配線部31には、ドライバICの出力電圧が選択的に供給される。そのため、選択的に電位が供給されている1つの配線部31の除去部の下にある発熱体膜40及び当該1つの配線部31と接続されている配線部32の除去部の下にある発熱体膜40が、選択的に発熱する。そして、隆起部14の上方にある層間絶縁膜50に紙が接触し、当該紙に発熱体膜40において発生した熱が伝わることにより、当該紙に対する印字が行われることになる。
【0028】
(サーマルプリントヘッド100の製造方法)
以下に、サーマルプリントヘッドの製造方法を説明する。
【0029】
図3は、サーマルプリントヘッド100の製造工程図である。
図3に示されるように、サーマルプリントヘッド100の製造方法は、準備工程S1と、台座部形成工程S2と、グレーズ層形成工程S3と、絶縁膜形成工程S4と、配線層形成工程S5と、層間絶縁膜形成工程S6と、パッド形成工程S7と、個片化工程S8とを有している。
【0030】
準備工程S1では、基材11が準備される。台座部形成工程S2では、頂面11dに凹部11eを有する台座部11cが形成される。
図4Aは、台座部形成工程S2を説明する第1断面図である。
図4Aに示されるように、台座部形成工程S2では、第1に、第1面11a上に、第1ハードマスクHM1が形成される。第1ハードマスクHM1の形成は、基材11の表面に第1ハードマスクHM1の構成材料(例えばシリコン窒化物)を成膜するとともに、第1面11a上に成膜されているハードマスクの構成材料をパターンニングすることにより行われる。第1ハードマスクHM1の構成材料の成膜は例えば減圧CVD(Chemical Vapor Deposition)法を用いて行われ、第1ハードマスクHM1の構成材料のパターンニングはフォトリソグラフィで形成されたレジストパターンをマスクとするRIE(Reactive Ion Etching)等のドライエッチングにより行われる。第1ハードマスクHM1は、凹部11eに対応する位置に開口部を有している。
【0031】
第2に、第1ハードマスクHM1をマスクとしてウェットエッチングが行われることにより、凹部11eが形成される。このウェットエッチングには、例えば水酸化カリウム水溶液又はTMAH(テトラメチルアンモニウムヒドロキシド)が用いられる。第3に、第1面11a上にある第1ハードマスクHM1がRIE等のドライエッチングにより除去される。すなわち、第1面11a上以外では、第1ハードマスクHM1が残存する。
【0032】
図4Bは、台座部形成工程S2を説明する第2断面図である。
図4Bに示されているように、台座部形成工程S2では、第3に、第1面11a上に、第2ハードマスクHM2が形成される。第2ハードマスクHM2の形成は、第1面11a上に第2ハードマスクHM2の構成材料(例えばシリコン窒化物)を成膜するとともに、成膜された第2ハードマスクHM2の構成材料をパターンニングすることにより行われる。第2ハードマスクHM2の構成材料の成膜は例えばプラズマCVD法を用いて行われ、第2ハードマスクHM2の構成材料のパターンニングはフォトリソグラフィで形成されたレジストパターンをマスクとするRIE等のドライエッチングにより行われる。第2ハードマスクHM2は、頂面11dに対応する位置に配置されている。第2ハードマスクHM2は、凹部11eの側壁面上及び底壁面上にも配置されている。
【0033】
第4に、第2ハードマスクHM2をマスクとしてウェットエッチングが行われることにより、台座部11cが形成される。このウェットエッチングには、例えば水酸化カリウム水溶液又はTMAHが用いられる。第5に、第2ハードマスクHM2及び第1面11a以外に残存している第1ハードマスクHM1がウェットエッチングにより除去される。このウェットエッチングには、例えばフッ酸が用いられる。上記の例では、凹部11eを形成した後に台座部11cが形成されたが、この順番は逆であってもよい。水酸化カリウム水溶液を用いたウェットエッチングでは、側壁面が約55°の角度をなすようにテーパ状に凹部11eがエッチングされ、凹部11eの一方の側壁面の下端が凹部11eの他方の側壁面と下端と接触した際に凹部11eのエッチングが停止する。これを利用することにより、台座部11cと凹部11eとを同時に形成してもよい。
【0034】
図5は、グレーズ層形成工程S3を説明する断面図である。
図5に示されるように、グレーズ層形成工程S3では、頂面11d上にグレーズ層13が形成される。グレーズ層形成工程S3では、第1に、凹部11eの底壁面上にチューブ12が配置される。第2に、頂面11d上にガラス材料を含むペーストがディスペンサ、スクリーン印刷等を用いてチューブ12を覆うように塗布されるとともに、塗布されたペーストが焼成される。これにより、チューブ12が埋設されたグレーズ層13が形成されることになる。
【0035】
図6は、絶縁膜形成工程S4を説明する断面図である。
図6に示されるように、絶縁膜形成工程S4では、絶縁膜20が形成される。絶縁膜20は、例えばTEOS(Tetra EthOxy Silane)を用いたプラズマCVD法により形成される。
【0036】
図7Aは、配線層形成工程S5を説明する第1断面図である。
図7Aに示されているように、配線層形成工程S5では、第1に、絶縁膜20上に、発熱体膜40の構成材料、伝熱抑制層41の構成材料及び配線層30の構成材料が、例えばスパッタリングにより順次成膜される。
図7Bは、配線層形成工程S5を説明する第2断面図である。
図7Bに示されているように、配線層形成工程S5では、第2に、成膜された配線層30の構成材料がパターンニングされることにより、配線部31、配線部32及び接続部33(
図7B中において図示せず)が形成される。このパターンニングは、フォトリソグラフィで形成されたレジストパターンをマスクとするウェットエッチング等により行われる。
【0037】
配線層形成工程S5では、第3に、成膜された伝熱抑制層41の構成材料がパターンニングされることにより、伝熱抑制層41が形成される。このパターンニングは、配線部31、配線部32及び接続部33をマスクとするウェットエッチングにより行われる。
図7Cは、配線層形成工程S5を説明する第3断面図である。
図7Cに示されるように、配線層形成工程S5では、第3に、配線部31及び配線部32が部分的に除去される。配線部31及び配線部32の部分的な除去は、フォトリソグラフィで形成されたレジストパターンをマスクとするウェットエッチング等により行われる。
【0038】
図7Dは、配線層形成工程S5を説明する第4断面図である。
図7Dに示されているように、配線層形成工程S5では、第4に、配線部31から露出している伝熱抑制層41及び配線部32から露出している伝熱抑制層41が、部分的に除去される。伝熱抑制層41の部分的な除去は、フォトリソグラフィで形成されたレジストパターンをマスクとするウェットエッチング等により行われる。
図7Eは、配線層形成工程S5を説明する第5断面図である。
図7Eに示されるように、配線層形成工程S5では、第5に、発熱体膜40の構成材料がパターンニングされる。このパターンニングは、フォトリソグラフィで形成されたレジストパターンをマスクとするRIE等のドライエッチング等により行われる。
【0039】
図8は、層間絶縁膜形成工程S6を説明する断面図である。
図8に示されるように、層間絶縁膜形成工程S6では、第1に、層間絶縁膜50の構成材料が、例えばプラズマCVD法により成膜される。第2に、成膜された層間絶縁膜50の構成材料上にレジストパターンが形成される。レジストパターンは、開口部51及び開口部52(
図8中において図示せず)に対応する位置に開口部を有している。レジストパターンは、フォトリソグラフィで形成される。第3に、上記のレジストパターンをマスクとしてRIE等のドライエッチングが行われることにより、開口部51及び開口部52が形成される。
【0040】
パッド形成工程S7では、パッド61及びパッド62が形成される。パッド61(パッド62)は、パッド61(パッド62)を構成している各層が、例えば無電解めっき法で順次成長されることにより形成される。個片化工程S8では、サーマルプリントヘッド用基板10のダイシングが行われることにより、
図1及び
図2に示される構造のサーマルプリントヘッド100が複数個得られる。
【0041】
(サーマルプリントヘッド100の効果)
以下に、サーマルプリントヘッド100の効果を説明する。
【0042】
発熱体膜40において発生した熱は、グレーズ層13が断熱層として作用することにより主として紙に伝わるが、その一部がグレーズ層13を介して下方に拡散してしまう。サーマルプリントヘッド用基板10では、中空部13aがグレーズ層13の内部に存在し、空気の熱伝導率(0.024W/m・K)がグレーズ層13の構成材料の熱伝導率(グレーズ層13の構成材料がガラスである場合、1.38W/m・K程度)よりもはるかに小さい。そのため、サーマルプリントヘッド用基板10を用いるサーマルプリントヘッド100では、発熱体膜40において発生した熱がグレーズ層13から放熱されにくいため、発熱体膜40の温度が上昇しやすく、発熱体膜40において発生した熱が紙に伝わりやすくなる結果、エネルギ効率が従来よりも大幅に改善される。
【0043】
図9は、層間絶縁膜50上における温度と経過時間との関係を示すグラフである。
図9のサンプル1では、グレーズ層13中に中空部13aが存在していない。
図9のいるサンプル2及びサンプル3では、グレーズ層中に中空部13aが存在している。サンプル2及びサンプル3では、第1方向DR1に直交する断面視において、中空部13aの直径は、10μmである。サンプル2における距離DISは、サンプル3における距離DISよりも小さい。
図9のグラフは、シミュレーションにより算出されたものである。このシミュレーションでは、発熱体膜40に通電されている状態と発熱体膜40に通電されていない状態とが交互に繰り返された。サンプル1からサンプル3では、投入される電力は同一とされた。
図9中の縦軸の温度は、発熱体膜40の上方にある層間絶縁膜50の表面における温度である。
図9中の横軸は、経過時間である。
【0044】
図9に示されるように、サンプル2及びサンプル3では、発熱体膜40の上方にある層間絶縁膜50の表面における温度が、サンプル1よりも高くなっていた。このことから、中空部13aがグレーズ層13の内部に存在していることにより、グレーズ層13の内部に中空部13aが存在しない場合と比較して、発熱体膜40において発生した熱がグレーズ層13から(すなわち、印字側とは反対側に)放熱されにくくなりエネルギ効率が改善されることが、シミュレーション上も明らかになった。また、サンプル2及びサンプル3の比較から、距離DISが小さくなるにつれてエネルギ効率が改善されることが分かる。
【0045】
(付記)
本開示の実施形態には、以下の構成が含まれている。
【0046】
<付記1>
隆起部が形成されている主面を有するサーマルプリントヘッド用基板であって、
基材と、
グレーズ層とを備え、
前記隆起部は、平面視において第1方向に沿って延在しており、かつ前記基材の一部である台座部及び前記台座部の頂面上に配置されている前記グレーズ層で構成されており、
前記グレーズ層の内部には、中空部がある、サーマルプリントヘッド用基板。
【0047】
<付記2>
前記グレーズ層に埋設されているチューブをさらに備え、
前記チューブの内部空間は、前記中空部をなしている、付記1に記載のサーマルプリントヘッド用基板。
【0048】
<付記3>
前記頂面には、凹部が形成されており、
前記チューブは、少なくとも部分的に前記凹部内に配置されている、付記2に記載のサーマルプリントヘッド用基板。
【0049】
<付記4>
前記チューブの構成材料の融点は、前記グレーズ層の構成材料の焼成温度よりも高い、付記2に記載のサーマルプリントヘッド用基板。
【0050】
<付記5>
前記中空部と前記グレーズ層の頂点との間の距離は、200μm以下である、付記1に記載のサーマルプリントヘッド用基板。
【0051】
<付記6>
前記中空部と前記グレーズ層の頂点との間の距離は、100μm以上である、付記5に記載のサーマルプリントヘッド用基板。
【0052】
<付記7>
前記基材の構成材料は、シリコンである、付記1に記載のサーマルプリントヘッド用基板。
【0053】
<付記8>
付記1から付記7のいずれか1項に記載の前記サーマルプリントヘッド用基板と、
絶縁膜と、
配線層と、
発熱体膜とを備え、
前記配線層は、前記発熱体膜を介在させて前記絶縁膜上に配置されており、
前記配線層は、平面視において前記第1方向に直交している第2方向に沿って前記隆起部と交差するように延在しており、かつ平面視において前記第1方向に沿って並んでいる複数の配線部を有し、
前記複数の配線部の各々は、平面視において前記隆起部と重なる位置で前記発熱体膜が露出するように部分的に除去されている、サーマルプリントヘッド。
【0054】
以上のように本開示の実施形態について説明を行ったが、上述の実施形態を様々に変形することも可能である。また、本発明の範囲は、上述の実施形態に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更を含むことが意図される。
【符号の説明】
【0055】
10 サーマルプリントヘッド用基板、10a 主面、10b 主面、11 基材、11a 第1面、11b 第2面、11c 台座部、11d 頂面、11e 凹部、12 チューブ、13 グレーズ層、13a 中空部、14 隆起部、20 絶縁膜、30 配線層、31,31a,31b 配線部、32,32a,32b 配線部、33 接続部、40 発熱体膜、41 伝熱抑制層、50 層間絶縁膜、51,52 開口部、61,62 パッド、100 サーマルプリントヘッド、100a 第1端、100b 第2端、DIS 距離、DR1 第1方向、DR2 第2方向、S1 準備工程、S2 台座部形成工程、S3 グレーズ層形成工程、S4 絶縁膜形成工程、S5 配線層形成工程、S6 層間絶縁膜形成工程、S7 パッド形成工程、S8 個片化工程、HM1 第1ハードマスク、HM2 第2ハードマスク。