(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162391
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】空冷システム
(51)【国際特許分類】
B23Q 11/12 20060101AFI20241114BHJP
B23Q 1/01 20060101ALI20241114BHJP
B23Q 1/72 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
B23Q11/12 A
B23Q1/01 G
B23Q1/72 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023077846
(22)【出願日】2023-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】591014835
【氏名又は名称】高松機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124419
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 敬也
(74)【代理人】
【識別番号】100162293
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷 久生
(72)【発明者】
【氏名】南部 優佑
(72)【発明者】
【氏名】新元 翔太
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 直彦
【テーマコード(参考)】
3C048
【Fターム(参考)】
3C048BB01
3C048EE02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】工作機械の主軸ユニットの高回転、及び主軸モータの高回転に起因する発熱を工作機械ベッド部の構造を利用した空気の流れを発生させることにより冷却する空冷システムを提供すること。
【解決手段】工作機械の主軸ユニット50の高回転、及び主軸モータ60の高回転に起因する発熱を工作機械ベッド部の構造を利用した空気の流れを発生させることにより冷却する空冷システムであって、工作機械ベッド下部10に存在する空間であって、工作機械を設置する床面と相対する第一空間部20と、工作機械ベッド上部30に存在する空間であって、第一空間部20と連結する第二空間部40を備えており、第二空間部40を形成する工作機械ベッド上部30の真上には主軸ユニット50が配置されており、第二空間部40を形成する工作機械ベッド上部30の主軸モータ60と相対する側面壁には吸気ファン70が設置されていることを特徴とする空冷システムとした。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械の主軸ユニットの高回転、及び主軸モータの高回転に起因するベッド発熱を工作機械ベッド部の構造を利用した空気の流れを発生させることにより冷却する空冷システムであって、
工作機械ベッド下部に存在する空間であって、工作機械を設置する床面と相対する第一空間部と、
工作機械ベッド上部に存在する空間であって、前記第一空間部と連結する第二空間部を備えており、
前記第二空間部を形成する工作機械ベッド上部の真上には主軸ユニットが配置されており、前記第二空間部を形成する工作機械ベッド上部の主軸モータと相対する側面壁には吸気ファンが設置されていることを特徴とする空冷システム。
【請求項2】
前記第二空間部を形成する工作機械ベッド上部の上面壁には前記第二空間部に向かって延伸する放熱フィン部材が設置されていることを特徴とする請求項1に記載の空冷システム。
【請求項3】
前記第二空間部には空気流制御部材が設置されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の空冷システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械の主軸ユニットの高回転、及び主軸モータの高回転に起因するベッド発熱を工作機械ベッド部の構造を利用した空気の流れを発生させることにより冷却する空冷システムに関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械の1つであるNC旋盤は、加工時に主軸ユニットの高回転、及び主軸モータの高回転等によって、モータが発熱し、さらに、主軸内部にある軸受部が発熱する。その結果、モータ(の発熱)と主軸内部にある軸受部の発熱がベッド本体に伝導する。これらの発熱がベッド本体に伝導することで、ベッド本体が熱変形することにより加工物の寸法変化が発生し、安定した加工寸法精度を出すことが難しくなり好ましく無い。
【0003】
主軸ユニットの高回転、及び主軸モータの高回転に起因する(発熱による)トラブルを解消するための水冷システムである主軸台座冷却槽(特許文献1)が知られている。水冷システムにより、主軸ユニットの高回転、及び主軸モータの高回転に起因する発熱を制御することは出来る。しかしながら、水冷システムであれば、冷却水をポンプで循環させる付加装置(が必要)、及び冷却水のメンテナンス等があるので、そのための電気代等のコストやエネルギーが掛かり好ましくない。出願人らは鋭意研究開発を行い、(高コストである水冷システムに代えて)主軸ユニット、及び主軸モータ等の発熱に拠るトラブルを解消することができる本願発明(空冷システム)に至ったのである。
【0004】
特許文献2には、「主軸軸受の発熱によるヘッドストックの温度上昇を、冷却効率の良い簡単な構成で抑制する」ことを目的として、「ベッド上に設置するヘッドストック5を、底盤およびこの底盤から上方に離れた軸受収容部を有する形状とする。底盤に上下に貫通した通気孔を設ける。ベッドの上面には、前記底盤の通気孔に連通する連通孔を設ける。またベッドの下部には吸気孔を設ける。これにより、機外の比較的に冷たい空気が、ベッド内を通し、連通孔およびヘッドストックの底盤の通気孔を経て、ヘッドストックに導かれる。そのため効率よく冷却される(特許文献2:要約より抜粋)」旋盤のハウジング(特許文献2:発明の名称)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-213966号公報
【特許文献2】特開平6―335832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2に係る「旋盤のハウジング(特許文献2:発明の名称)」においては、「主軸の発熱によりヘッドストックの温度が上昇すると、ヘッドストックで温められた周辺空気の上昇流れが生じる。・・・(特許文献2:0006段落参照)」との記載があるが、一般的に工作機械はカバーで覆われており、特に主軸上部は、異物の混入等を防ぐため通風口等を設け難い。結果として排熱し難い構造になってしまっており、熱を持った空気が(排出されずに工作機械内を)循環してしまうことになってしまい冷却効果が低くなると思われ好ましくない。
【0007】
本発明の目的は、工作機械の主軸ユニットの高回転、及び主軸モータの高回転に起因する発熱を工作機械ベッド部の構造を利用した空気の流れを発生させることによりベッド冷却する空冷システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1に記載された発明は、工作機械の主軸ユニットの高回転、及び主軸モータの高回転に起因する発熱を工作機械ベッド部の構造を利用した空気の流れを発生させることにより冷却する空冷システムであって、工作機械ベッド下部に存在する空間であって、工作機械を設置する床面と相対する第一空間部と、工作機械ベッド上部に存在する空間であって、前記第一空間部と連結する第二空間部を備えており、前記第二空間部を形成する工作機械ベッド上部の真上には主軸ユニットが配置されており、前記第二空間部を形成する工作機械ベッド上部の主軸モータと相対する側面壁には吸気ファンが設置されていることを特徴とする空冷システムであることを特徴とするものである。
【0009】
請求項2に記載された発明は、請求項1に記載された発明において、前記第二空間部を形成する工作機械ベッド上部の上面壁には前記第二空間部に向かって延伸する放熱フィン部材が設置されている空冷システムであることを特徴とするものである。
【0010】
請求項3に記載された発明は、請求項1または請求項2に記載された発明において、前記第二空間部には空気流制御部材が設置されている空冷システムであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る空冷システムは、工作機械の主軸ユニットの高回転、及び主軸モータの高回転に起因する発熱を工作機械ベッド部の構造を利用した空気の流れを発生させることにより冷却する空冷システムである。工作機械ベッド下部に存在する空間であって、工作機械を設置する床面と相対する第一空間部と、工作機械ベッド上部に存在する空間であって、第一空間部と連結する第二空間部を備えている。第二空間部を形成する工作機械ベッド上部の真上には主軸ユニットが配置されており、第二空間部を形成する工作機械ベッド上部の主軸モータと相対する側面壁には吸気ファンが設置されている。
【0012】
空冷システムは、工場内において比較的温度の低い床面付近から空気を第一空間部に取込み、第一空間部から第二空間部に誘導することになる。比較的温度が低い空気を取り込むことにより(第二空間部を形成する工作機械ベッド上部の真上にある)主軸ユニットを冷却することができる。さらに、第二空間部を形成する工作機械ベッド上部の主軸モータと相対する側面壁に設置された吸気ファンにより、第二空間部に取り込まれた空気を排出することになるが、排出されたその先には主軸モータが配置されているので、主軸モータを(余分な経路を通過させること無くダイレクトに)効率的に冷却することができる。因みに主軸モータの表面温度と第二空間部から排出された直後の空気との温度差は20度~30度になるので、冷却効果は大きいと思われる。
【0013】
さらに、第二空間部を形成する工作機械ベッド上部の上面壁には第二空間部に向かって延伸する放熱フィン部材が設置されているので、放熱フィン部材による放熱効果が期待できるし、第二空間部には空気流制御部材が設置されているので、第二空間部における冷却空気の流れを制御することでより大きな冷却効果を得ることができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係る空冷システムの全体斜視図である。
【
図4】工作機械ベッド内部における空気の流れを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<空冷システムの構造>
以下、本発明に係る空冷システムの一実施形態について、
図1~
図4に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明に係る空冷システムの全体斜視図である。
【0016】
本発明に係る空冷システムは、
図1に記載したように、工作機械ベッド下部10に存在する空間であって、工作機械を設置する床面と相対する第一空間部20と、工作機械ベッド上部30に存在する空間であって、第一空間部20と空気連絡路92を介して連結する第二空間部40を備えており(
図1(a)参照)、第二空間部40を形成する工作機械ベッド上部30の真上には主軸ユニット50が配置されており、第二空間部40を形成する工作機械ベッド上部30の主軸モータ60と相対する側面壁には吸気ファン70が設置されている。さらに、主軸モータ60の(冷却空気の流れに沿った)先には排気ファン110が設置されている(
図1(b)参照)。
【0017】
図2は放熱フィン部材80を説明するための図であり、
図3は空気流制御部材90を説明するための図である。(
図2においては、放熱フィン部材80を説明するために敢えて空気流制御部材90を図示せず、
図3においては、空気流制御部材90を説明するために敢えて放熱フィン部材80を図示していない。)
図2に記載したように、放熱フィン部材80は、工作機械ベッド上部30の上面壁であって(工作機械ベッド上部30の)天井壁の第二空間部40側に突出するように設置された複数の平板(短冊形状)の金属部材である。放熱フィン部材80は、主軸ユニット50が発熱することによって、工作機械ベッド上部30(主に工作機械ベッド上部30の天井壁)に伝導した熱を、工作機械ベッド上部30の上面壁であって(工作機械ベッド上部30の)天井壁の表面積を増加させるものである。これにより空冷システムによる放熱効果が向上することになる。
【0018】
空気流制御部材90は、
図3に記載したように、側面から見た形状が「コの字型(左右の垂直成分の長さが異なる)」の部材である。付言すれば、平板に対し側面から見た形状が「コの字型」になるように折り曲げ加工した部材である。空気流制御部材90は、第一垂直成分92(空気連絡路100に近い側)、水平成分94、第二垂直成分96(空気連絡路100と遠い側)から構成されている。尚、空気流制御部材90は、第一垂直成分92(空気連絡路100に近い側)が、垂直方向に延長されていても良い(
図3参照)。
【0019】
空気流制御部材90は、(第一空間部20から供給されて)空気連絡路100を通過して(第二空間部40に進入した)空気の流れを、工作機械ベッド上部30の上面壁であって(工作機械ベッド上部30の)天井壁に向かって流れるように、第一垂直成分92(空気連絡路100に近い側)は、工作機械ベッド上部30の下面壁との隙間が無いように設置されている。そして、第一垂直成分92(空気連絡路100に近い側)の高さは、空気の流れ易さを考慮して、工作機械ベッド上部30内部の高さの5分の2~5分の3になるように設計されている。尚、空気流制御部材90の高さは、第一垂直成分92(空気連絡路100に近い側)が、垂直方向に延長されている場合はその限りでは無い。
【0020】
さらに、空気の流れ易さを考慮して、水平成分94は、第二空間部40を形成する工作機械ベッド上部30の主軸モータ60と相対する側面壁には設置された吸気ファン70の幅を超えない長さになるように設計されており、第二垂直成分96(空気連絡路100と遠い側)は、吸気ファン70による吸引効果を考慮して、(第二垂直成分96の)先端が吸気ファン70の最下端よりも(垂直方向において)上に来るように設計されている。
図3においては、(第二垂直成分96の)先端が吸気ファン70の高さ中央値に来るように設計されている(
図3参照)。
【0021】
<(空冷システムにおける)工作機械ベッド内部における空気の流れ>
図4は、工作機械ベッド内部における空気の流れを説明するための図である。吸気ファン70を作動させると、
図4に記載したように、工作機械を設置した床面からの(工作機械接地面と工作機械ベッド部との隙間を通って冷却するための)空気が第一空間部20に侵入する。(第一空間部20と第二空間部40を連絡する)空気連絡路100を通過した空気は第二空間部40に進入する。第二空間部40には空気流制御部材90が設置されている。
【0022】
第二空間部40に進入した空気は、空気制御部材90の第一垂直成分92により水平方向に流れることは無く、工作機械ベッド上部30の上面壁である天井壁に向かって流れることになる。尚、空気流制御部材90の第一垂直成分92(空気連絡路100に近い側)が、垂直方向に延長されている場合は、その分、工作機械ベッド上部30の上面壁である天井壁に向かって流れる度合いが増すことになる。第一垂直成分92(空気連絡路100に近い側)の垂直方向へ延長された部分の長さは、冷却効率を基準に自由に決定することができる。
【0023】
工作機械ベッド上部30の上面壁である天井壁は、主軸ユニット50の発熱に起因する熱が伝導することにより、熱を持った状態になっている。工作機械ベッド上部30の上面壁である天井壁は、第二空間部40に進入した空気により冷却される。工作機械ベッド上部30の上面壁である天井壁を冷却した空気は、第二空間部40内部を下方向に流れた後、吸気ファン70に吸収され第二空間部40から排出されることになる。尚、主軸モータ60の(冷却空気の流れに沿った)先に排気ファン110を設置することで、さらに、(冷却)空気の流れを良くすることができる(
図1(b)参照)。
【0024】
第二空間部40から排出された空気は、吸気ファン70に相対する位置に配置された主軸モータ60に向かって流れることになる。即ち、第二空間部40から排出された空気は、ダイレクトに主軸モータ60を冷却することになる。このように、一つの空気の流れで、工作機械ベッド上部30の上面壁である天井壁と、主軸モータ60を同時に冷却することができるというのが本発明に係る空冷システムの特徴の一つである。
【0025】
<空冷システムの効果>
本発明に係る空冷システムは、(ベッド底面が無いという特徴を持った)工作機械ベッドを利用し、工作機械を設置した工場床面からの空気を冷却に利用することに特徴がある。工場内において比較的温度の低い工場床面の空気を第一空間部20に取込み、第一空間部20から、第二空間部40(工作機械ベッド上部30の上面壁である天井壁)に吸気ファン70を作動させることにより吸引することになる。従って、温度の低い空気により(第二空間部40を形成する工作機械ベッド上部30の真上にある)主軸ユニット50から伝導された工作機械ベッド上部30の上面壁である天井壁の熱を冷却することができる。
【0026】
そして、第二空間部40を形成する工作機械ベッド上部30の主軸モータ60と相対する側面壁に設置された吸気ファン70により、第二空間部40に取り込まれた空気を排出することになるが、排出されたその先には主軸モータ60が配置されているので、主軸モータを60(余分な経路を通過させること無くダイレクトに)効率的に冷却することができる。因みに主軸モータ60の表面温度と第二空間部40から排出された直後の空気との温度差は20度~30度になるので、冷却効果は大きいと考える。
【0027】
さらに、第二空間部40を形成する工作機械ベッド上部30の上面壁には第二空間部40に向かって延伸する放熱フィン部材80が設置されているので、放熱フィン部材80による放熱効果が期待できるし、第二空間部40には空気流制御部材90が設置されているので、第二空間部40内における冷却空気の流れを制御することでより大きな冷却効果を得ることができるようになった。
【0028】
<空冷システムの変更例>
本発明に係る空冷システムは、上記した各実施形態の態様に何ら限定されるものではなく、工作機械ベッド下部、第一空間部、工作機械ベッド上部、第二空間部、主軸ユニット、主軸モータ、吸気ファン、放熱フィン部材、空気流制御部材、空気流制御部材(第一垂直成分)、空気流制御部材(水平成分)、空気流制御部材(第二垂直成分)、空気連絡路、排気ファン等の構成を、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で必要に応じて適宜変更することができる。例えば、放熱フィンの材質を熱伝導率の大きな素材であるアルミニウムや銅にすることで放熱効果を高めることができる。さらに、平面形状や円柱形状以外にも(放熱効果を第一にして考慮することにより)複雑な形状(平板が真横から見て枝分かれしているように組み付けた形状)にしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明に係る空冷システムは、上記の如く優れた効果を奏するものであるので工作機械の主軸ユニットの高回転、及び主軸モータの高回転に起因する発熱を工作機械ベッド部の構造を利用した空気の流れを発生させることにより冷却する空冷システムとして好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0030】
10・・工作機械ベッド下部
20・・第一空間部
30・・工作機械ベッド上部
40・・第二空間部
50・・主軸ユニット
60・・主軸モータ
70・・吸気ファン
80・・放熱フィン部材
90・・空気流制御部材
92・・空気流制御部材(第一垂直成分)
94・・空気流制御部材(水平成分)
96・・空気流制御部材(第二垂直成分)
100・・空気連絡路
110・・排気ファン