(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162393
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】弦楽器の調律機構、弦楽器、電気弦楽器
(51)【国際特許分類】
G10D 3/14 20200101AFI20241114BHJP
G10D 1/08 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
G10D3/14
G10D1/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023077850
(22)【出願日】2023-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】000130329
【氏名又は名称】株式会社コルグ
(74)【代理人】
【識別番号】100121706
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128705
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 幸雄
(74)【代理人】
【識別番号】100147773
【弁理士】
【氏名又は名称】義村 宗洋
(72)【発明者】
【氏名】水口 清
【テーマコード(参考)】
5D002
【Fターム(参考)】
5D002AA04
5D002CC44
(57)【要約】
【課題】楽に調律することができる弦楽器の調律構造を提供する。
【解決手段】所定の回転中心に基づいて弦を張る方向および弦を緩める方向に回転するチューニングホイールを含む弦楽器の調律機構であって、チューニングホイールは、回転中心から半径方向距離r
1の位置に弦端を係止する係止部と、回転中心からr
1よりも小さい半径方向距離r
2の位置に弦を巻き付けるプーリー部を含む。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の回転中心に基づいて弦を張る方向および弦を緩める方向に回転するチューニングホイールを含む弦楽器の調律機構であって、
前記チューニングホイールは、
前記回転中心から半径方向距離r1の位置に弦端を係止する係止部と、
前記回転中心から前記r1よりも小さい半径方向距離r2の位置に弦を巻き付けるプーリー部を含む
弦楽器の調律機構。
【請求項2】
請求項1に記載の弦楽器の調律機構であって、
前記チューニングホイールの初期位置において、前記回転中心と前記弦端を通る直線と前記弦の延伸方向とのなす角θが90°を中心とした所定の角度の範囲にある
弦楽器の調律機構。
【請求項3】
請求項1に記載の弦楽器の調律機構であって、
弦を張る方向の前記チューニングホイールの回転を正方向の回転、弦を緩める方向の前記チューニングホイールの回転を負方向の回転とし、
前記チューニングホイールは、
前記弦が前記プーリー部に巻き付いていない場合に、前記回転中心と前記弦端を通る直線と前記弦の延伸方向とのなす角θが前記チューニングホイールの正方向の回転に伴って90°から遠ざかるように前記チューニングホイールの初期位置を設定した
弦楽器の調律機構。
【請求項4】
請求項1に記載の弦楽器の調律機構であって、
チューニングノブと、
前記チューニングノブに接続されたボルトと、
前記ボルトを捻じ込むボルト受け穴を含むボルト受け部を含み、
前記チューニングホイールは、
前記プーリー部と前記ボルト受け部を接続するアーム部を含む
弦楽器の調律機構。
【請求項5】
請求項4に記載の弦楽器の調律機構であって、
前記アーム部と前記ボルトの初期位置において、前記アーム部と前記ボルトのなす角φが90°を中心とした所定の角度の範囲にある
弦楽器の調律機構。
【請求項6】
請求項4に記載の弦楽器の調律機構であって、
弦を張る方向の前記チューニングホイールの回転を正方向の回転、弦を緩める方向の前記チューニングホイールの回転を負方向の回転とし、
前記アーム部と前記ボルトのなす角φが前記チューニングホイールの正方向の回転に伴って90°から遠ざかるように前記アーム部と前記ボルトの初期位置を設定した
弦楽器の調律機構。
【請求項7】
請求項1に記載の弦楽器の調律機構を含む弦楽器。
【請求項8】
請求項1に記載の弦楽器の調律機構を含む電気弦楽器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、弦楽器の調律機構、弦楽器、電気弦楽器に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘッドレスエレキギターの従来技術として、例えば非特許文献1がある。非特許文献1のヘッドレスエレキギターは、ブリッジ側のホイールに弦端を係止し、ホイールを回転させて弦に張力を加えることでチューニングを行う。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】ウィキペディアフリー百科事典、“ヤマハ・GX-1(エレキギター)”、[online]、令和5年4月17日、ウィキペディアフリー百科事典、[令和5年4月17日検索]、インターネット〈URL:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A4%E3%83%9E%E3%83%8F%E3%83%BBGX-1_(%E3%82%A8%E3%83%AC%E3%82%AD%E3%82%AE%E3%82%BF%E3%83%BC)〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1のヘッドレスエレキギターには手が疲れないように楽に調律を行うことに特化した構造はなかった。また非特許文献1に限らず、従来の弦楽器全般において楽に弦を調律するための新規な構造は十分に検討されていない。
【0005】
そこで本開示では、楽に調律することができる弦楽器の調律構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の弦楽器の調律機構は、所定の回転中心に基づいて弦を張る方向および弦を緩める方向に回転するチューニングホイールを含む。
【0007】
チューニングホイールは、回転中心から半径方向距離r1の位置に弦端を係止する係止部と、回転中心からr1よりも小さい半径方向距離r2の位置に弦を巻き付けるプーリー部を含む。
【発明の効果】
【0008】
本開示の弦楽器の調律構造によれば、楽に調律することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1の弦楽器の調律構造の表面を含む斜視図。
【
図2】実施例1の弦楽器の調律構造の裏面を含む斜視図。
【
図3】実施例1の弦楽器の調律構造のチューニングホイールの第1の斜視図。
【
図4】実施例1の弦楽器の調律構造のチューニングホイールの第2の斜視図。
【
図5】実施例1の弦楽器の調律構造のチューニングホイールとチューニングノブを接続した状態を示す側面図。
【
図6】実施例1の弦楽器の調律構造のチューニングホイールの回転に伴う変化の様子を示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、同じ機能を有する構成部には同じ番号を付し、重複説明を省略する。
【実施例0011】
以下、
図1-
図5を参照して実施例1の弦楽器の調律構造について説明する。本実施例の弦楽器の調律構造は弦楽器に取り付けられて用いられるものとする。また本実施例では、弦楽器の例としてヘッドレスタイプの電気弦楽器を用いる。
【0012】
なお弦楽器とは、弦に何らかの刺激を与えることによって得られる弦の振動を音とする楽器の総称である。弦楽器の例としてギター、ベース、ヴァイオリン、チェロ、ウクレレ、胡弓、三味線、エレクトリックギター、エレクトリックベース、エレクトリックバイオリン、エレクトリックチェロなどがある。
【0013】
電気弦楽器とは、弦の振動を電気的に検知し電気信号として出力する楽器全般を指す。電気弦楽器の例としてエレクトリックギター、エレクトリックベース、エレクトリックバイオリン、エレクトリックチェロなどがある。
【0014】
≪ブリッジプレート10≫
図1に示すように本実施例の弦楽器の調律構造1はブリッジプレート10を含む。ブリッジプレート10は、その一端に扁平な長方形の板形状であるプレート部101を備え、その他端を斜め上方に折り曲げ、更にその先端を斜め下方に折り曲げることにより形成された屈曲部102を含む。ブリッジプレート10は金属などで形成される。ブリッジプレート10は電気弦楽器のボディ表面に取り付けられる。屈曲部102には図示しないボルト挿通穴が設けられ、ボルト挿通穴にボルト13が挿通される。チューニングノブ14はボルト挿通穴よりも大きな径とされているためチューニングノブ14およびボルト13が回転してもチューニングノブ14は上下に移動しないようになっている。また、プレート部101にはブリッジサドル15が前後方向および上下方向に調整可能となるように取り付けられる。
【0015】
≪チューニングホイール11≫
ブリッジプレート10の中ほどには、弦楽器の各弦に対応してチューニングホイール収納穴103が設けられ、各チューニングホイール収納穴103に、チューニングホイール11が収容される。
図2に示すようにチューニングホイール11には第1の回転軸114が挿通される。第1の回転軸114は、軸受16によりプレート部101の裏面に固定される。すなわちチューニングホイール11は、第1の回転軸114を回転中心として、ブリッジプレート10や楽器本体に対して回転可能に取り付けられている。チューニングホール11は、弦を張る方向および弦を緩める方向に回転させることができる。ここで、弦を張る方向のチューニングホイール11の回転を正方向の回転、弦を緩める方向のチューニングホイール11の回転を負方向の回転というものとする。
【0016】
図3、
図4に示すように、チューニングホイール11は、弦端(ボールエンド付きの弦の場合はボールエンド)を係止する係止部111と、弦を巻き付けるプーリー部112を備える。
【0017】
図3、
図4に示すように係止部111は、ボールエンドを引っ掛けて固定する2つのフックであり、2つのフックの間にプーリー部112が形成される。フックによりボールエンドを固定された弦は、チューニングホイール11の正方向の回転に伴ってプーリー部112に巻き付けられる。
【0018】
図5に示すようにチューニングホイール11はプーリー部112とボルト受け部12を接続するアーム部113を備える。アーム部113の後端には第1の貫通孔1131が設けられる。アーム部113の先端には第2の貫通孔1132が設けられる。同図に示すように、第1の貫通孔1131には前述した第1の回転軸114が挿通され、第2の貫通孔1132には第2の回転軸115が挿通される。第2の回転軸115は、アーム部113とボルト受け部12とを接続し、ボルト受け部12側に固定され、ボルト受け部12の上下動に伴って、アーム部113にモーメント力を伝える。
【0019】
≪ボルト受け部12、ボルト13、チューニングノブ14≫
ボルト受け部12は、図示しない貫通孔を備えており第2の回転軸115は、この貫通孔に挿通されて固定されている。ボルト受け部12は、第2の回転軸115の延伸方向と垂直な方向にボルト13を捻じ込むボルト受け穴121を備える。ボルト13の一端はボルト受け穴121に捻じ込まれ、他端はチューニングノブ14に接続されている。チューニングノブ14はユーザの操作により回転可能であり、ボルト13はチューニングノブ14の回転に伴って回転する。ボルト13が回転するとボルト13はボルト受け穴121内に捻じ込まれるか、またはボルト受け穴121から捩じり出される。ボルト13およびチューニングノブ14はブリッジプレート10の屈曲部102により上下に移動しないように制限されているため、ボルト13の捻じ込み、あるいは捩じり出しに伴ってボルト受け部12が垂直斜め上方、あるいは垂直斜め下方に移動する。ボルト受け部12の移動により第2の回転軸115を介してアーム部113にモーメント力が伝わる。アーム部113に伝わったモーメント力は第1の回転軸114により、第1の回転軸114を回転中心としたモーメント力に変換される。
【0020】
≪チューニングホイールの回転に伴う各パラメータの変化≫
図6は本実施例の弦楽器の調律構造1のチューニングホイール11の回転に伴う変化の様子を示す側面図であり、
図6(A)はチューニングホイール11の初期状態、
図6(B)は中間状態、
図6(C)は弦がプーリー部112に接触した状態を示す。チューニングホイールの回転中心をOとし、弦端をPとし、弦とプーリー部の接触位置をQとし、アーム部113の軸線とボルト13の軸線を
図6の投影面に投影した直線の交点をRとする。
【0021】
<チューニングホイール11の回転量と弦の引っ張り距離>
図6(A)の初期状態、
図6(B)の中間状態において、係止部111は、回転中心Oから半径方向距離r
1の位置に弦端P(ボールエンド付きの弦の場合はボールエンド)を係止している。回転中心Oと弦端Pを通る直線OPと弦の延伸方向とがなす角θは、チューニングホイール11が正方向に回転するほど小さくなる。角度θは、0<θ<90°の範囲にあり、回転中心Oから半径方向距離r
1は一定であるため、チューニングホイール11の回転量に対する弦端Pの移動距離はsinθに比例する。
【0022】
そのため、
図6(A)の初期状態から
図6(B)の中間状態へ変化するに従って、チューニングホイール11の回転量に対する弦の引っ張り距離は小さくなる。一方、
図6(C)の状態では、点Qにおいて弦がプーリー部112に接触しているため、弦は回転中心からr
1よりも小さい半径方向距離r
2の位置にある点Qに巻き付けられる。これにより、半径方向距離r
1において弦端Pにおいて弦を引っ張る力(F
1とする)は半径方向距離r
2において点Qにおいて弦を引っ張る力(F
2とする)よりも大きくなる。また、回転中心からの距離がr
1からr
2に変化することにより、チューニングホイール11の正方向の回転量に対する弦の引っ張り距離は、
図6(B)の中間状態よりさらに小さくなる。
【0023】
このように、チューニングホイール11が正方向に回転し、
図6(A)の状態から
図6(B)の状態を経て
図6(C)の状態に到るまでチューニングホイール11の正方向の回転量に対する弦の引っ張り距離は徐々に減少していく。そのため、チューニングホイール11が正方向に回転するに従って、徐々に、より繊細に音程が調整できるようになる。半径方向距離r
2は一定であるため、チューニングホイール11が
図6(C)の状態を超えて正方向に回転する場合は、チューニングホイール11の正方向の回転量に対する弦の引っ張り距離は一定となる。
【0024】
例えば、チューニングホイール11の初期位置(
図6(A)の状態)において、角θがおよそ90°であれば、調律の序盤から中盤にかけて、弦がまだプーリー部112に巻き付いていない場合であっても弦の引っ張り距離を徐々に減少させることが可能となるため、前述した荒い調整から繊細な調整につながる中間状態において徐々に引っ張り距離を減少させることも可能である。
【0025】
なお、「およそ90°」とは、例えばθを90°を中心とした所定の角度の範囲とすることであり、例えばθを90-α≦θ≦90+αとし、αを0-25程度の値とすることである。
【0026】
また、角θがチューニングホイール11の正方向の回転に伴って90°から遠ざかるようにチューニングホイール11の初期位置を設定しても同様の効果が得られる。
【0027】
<チューニングノブ14の回転量とチューニングホイール11の回転量>
アーム部113の軸線とボルト13の軸線を
図6の投影面に投影した直線のなす角φはチューニングノブ14の回転量に対するチューニングホイール11の回転量に影響を及ぼす。チューニングノブ14の回転に対してチューニングホイール11の回転量が最も大きくなるのは、ボルト受け部12の移動方向とアーム部113の回転方向が一致しているときであり、すなわちφ=90°のときである。チューニングノブ14の回転に対するチューニングホイール11の回転量は、ボルト受け部12の移動距離にsinφをかけたものに比例する。例えば
図6(A)の初期状態においてφ=φ
1であり、
図6(B)の中間状態においてφ=φ
2である。この図の例ではφ
1<φ
2と設定しているため、sinφ
1<sinφ
2が成り立つ。
図6(A)の初期状態におけるチューニングホイール11の回転量W
Aはボルト受け部12の移動距離にsinφ
1をかけたものに基づいて定まり、
図6(B)の中間状態におけるチューニングホイール11の回転量W
Bはボルト受け部12の移動距離にsinφ
2をかけたものに基づいて定まるため、他の要因を無視した場合W
B>W
Aとなり、先ほどのθによる変化を打ち消すように弦を引っ張る距離が調整される。
【0028】
一方、
図6(B)の中間状態から
図6(C)の状態に至るまでについては、φ
3>φ
2、ただし90<φ
3≦180であるため、sinφ
3<sinφ
2が成り立ち、チューニングノブ14の回転量に対するチューニングホイール11の回転量は徐々に減少する。従ってこの設計例では、調律の序盤から中盤については、θとφの効果が打ち消し合うことにより、チューニングノブ14の回転量に対するチューニングホイール11の回転量が大きくは減少しないが、中盤から終盤にかけて、徐々にチューニングノブ14の回転量に対するチューニングホイール11の回転量が減少するようにチューニングホイール11の初期位置が設計されているといえる。
【0029】
θと同様にアーム部113とボルト13の初期位置において、角φが90°を中心とした所定の角度の範囲(例えば、90-β≦φ≦90+βとし、βを0-25程度の値)とすれば、弦がプーリー部112に巻き付く前および弦がプーリー部112に巻き付いた後の何れの場合においても、チューニングノブ14の回転量に対するチューニングホイール11の回転量を徐々に減少させることができる。
【0030】
なお、角φがチューニングホイール11の正方向の回転に伴って90°から遠ざかるようにアーム部113とボルト13の初期位置を設定しても同様の効果が得られる。
【0031】
上記に述べた通り、アーム部113の軸線とボルト13の軸線を
図6の投影面に投影した直線のなす角φを考慮しても、チューニングノブ14を回転させてチューニングホイール11を正方向に回転させていくに従って、チューニングノブ14の回転量に対する弦の引っ張り量が減少していく。そのため、ユーザは初期の荒い調整により調律に重要なポイントまで楽に調律を進めることができるという利益を得ながら、調律の中盤以降では微細な調律ができ、その際のチューニングノブ14を回転させるために必要な力も少なくて済む。
【0032】
弦楽器に本実施例の弦楽器の調律機構1を備えることで、弦楽器を楽に調律することが可能となる。また電気弦楽器に本実施例の弦楽器の調律機構1を備えることで、電気弦楽器を楽に調律することが可能となる。