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特開2024-162411電池の反力の測定方法、活物質の結晶構造変化の推定方法および測定システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162411
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】電池の反力の測定方法、活物質の結晶構造変化の推定方法および測定システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/48 20060101AFI20241114BHJP
   G01L 5/00 20060101ALI20241114BHJP
   H01M 10/44 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
H01M10/48 301
G01L5/00 Z
H01M10/44 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023077895
(22)【出願日】2023-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】591006298
【氏名又は名称】JFEテクノリサーチ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】森島 史弥
【テーマコード(参考)】
2F051
5H030
【Fターム(参考)】
2F051AA21
2F051BA07
5H030AA09
5H030AS20
5H030BB01
5H030BB21
5H030FF32
(57)【要約】
【課題】充放電に伴う電池の反力を充放電と同時に測定する、電池の反力の測定方法を提供する。
【解決手段】活物質を含む電極を有する電池を拘束部材で拘束し、前記電池に拘束荷重を加えた状態で、前記電池の充放電を行い、前記充放電に伴い前記電池から前記拘束部材に働く反力を、前記電池の充放電と同時に測定する、電池の反力の測定方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活物質を含む電極を有する電池を拘束部材で拘束し、前記電池に拘束荷重を加えた状態で、前記電池の充放電を行い、
前記充放電に伴い前記電池から前記拘束部材に働く反力を、前記電池の充放電と同時に測定する、電池の反力の測定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の電池の反力の測定方法で測定した電池の反力の測定結果から、前記電池に含まれる活物質の結晶構造の変化を推定する、活物質の結晶構造変化の推定方法。
【請求項3】
請求項1に記載の電池の反力の測定方法で測定した電池の反力と、
前記電池の反力を測定した際の充放電に伴う、電池の電圧Vの変化量dVに対する容量Qの変化量dQの割合である微分値dQ/dVを、それぞれ、
前記電池の反力を測定した際の、電圧、充電時間、放電時間、充電率、放電率のいずれかに対して描画した反力測定結果とdQ/dV曲線を比較することで、前記電池に含まれる活物質の結晶構造の変化を推定する、活物質の結晶構造変化の推定方法。
【請求項4】
電池と、測定装置を含む、測定システムであって、
前記電池は、活物質を含む電極を有し、かつ充放電試験機と接続され、充放電可能とされており、
前記測定装置は、
前記電池を拘束する拘束部材と、
前記拘束部材に拘束荷重を加える荷重印加機構と、
前記電池から前記拘束部材に働く反力を測定する荷重計測器を備え、
前記荷重印加機構により任意の拘束荷重を加えた状態で、前記電池の充放電を行い、
前記充放電に伴い前記電池から前記拘束部材に働く反力を、前記電池の充放電と同時に測定する、測定システム。
【請求項5】
さらに、測定した電池の反力と、
前記電池の反力を測定した際の充放電に伴う、電池の電圧Vの変化量dVに対する容量Qの変化量dQの割合である微分値dQ/dVを、それぞれ、
前記電池の反力を測定した際の、電圧、充電時間、放電時間、充電率、放電率のいずれかに対して描画する演算装置を含む、請求項4に記載の測定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池の反力の測定方法、活物質の結晶構造変化の推定方法および測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池は、ポータブル機器、電気車両、無人航空機など幅広い製品群に用いられるエネルギー源である。特に、リチウムイオン二次電池では、従来の非水系電解液を用いたものもさることながら、可燃性の電解液を用いない全固体電池などの開発も現在盛んに行われている。
【0003】
二次電池は、使用状況や目的により開発思想が大きく異なる。例えば、大容量を目的とするもの、長期安定性を目的とするもの、超高速充放電を目的とするもの等、二次電池は、様々な開発思想のもとで開発がすすめられている。
【0004】
電池の電極材料に用いられる活物質は、電池の容量や起電力といった電池の基本特性を左右する重要な材料である。そのため、活物質として用いる新たな材料の開発も盛んに行われている。
【0005】
従来、充放電に伴う電池の膨張・収縮の特性評価は、活物質の結晶構造解析、電池の厚み、電池の使用に伴う圧力を測定することで行うものが知られている(例えば、特許文献1~5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-32492号公報
【特許文献2】特表2023-503605号公報
【特許文献3】特表2023-509545号公報
【特許文献4】特表2022-551283号公報
【特許文献5】特表2023-504405号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Lea de Biasi, et al., “Chemical, Structural, and Electronic Aspects of Formation and Degradation Behavior on Different Length Scales of Ni-Rich NCM and Li-Rich HE-NCM Cathode Materials in Li-Ion Batteries”, Adv. Mater., 2019, 31, 190098
【非特許文献2】Li, T., et al. “Degradation Mechanisms and Mitigation Strategies of Nickel-Rich NMC-Based Lithium-Ion Batteries.” Electrochem. Energ. Rev. 2020, 3, 43-80
【非特許文献3】Duan, J., et al., “Building Safe Lithium-Ion Batteries for Electric Vehicles: A Review.”, Electrochem. Energ. Rev. 2020, 3, 1-42
【非特許文献4】Davide Clerici, et al., “Experimental Characterization of Lithium-Ion Cell Strain Using Laser Sensors.”, Energies 2021, 14(19), 6281
【非特許文献5】Lea de Biasi, et al., “Between Scylla and Charybdis: Balancing Among Structural Stability and Energy Density of Layered NCM Cathode Materials for Advanced Lithium-Ion Batteries.”, J. Phys. Chem. C 2017, 121, 47, 26163-26171
【非特許文献6】A. K. Padhi, et al., “Phospho‐olivines as Positive‐Electrode Materials for Rechargeable Lithium Batteries.”, J. Electrochem. Soc., 1997, 144, 1188
【非特許文献7】Yufang He, et al., “Atomic-scale insight into the lattice volume plunge of LixCoO2 upon deep delithiation.”, Energy Adv., 2023, 2, 103
【非特許文献8】Florian Strauss, et al., “Rational Design of Quasi-Zero-Strain NCM Cathode Materials for Minimizing Volume Change Effects in All-Solid-State Batteries.”, ACS Mater. Lett. 2020, 2, 1, 84-88
【非特許文献9】Taminato, S., et al., “Real-time observations of lithium battery reactions-operando neutron diffraction analysis during practical operation.”, Sci. Rep., 2016, 6, 28843
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
新規に開発される活物質を、実際の使用サイズの電池に組上げた際の充放電に伴う反力値は、デバイス設計において非常に重要となる。
【0009】
活物質の結晶構造や結晶構造変化を観察する手法として、従来最もよく行われているX線解析装置(XRD)による測定では、X線回折装置が必要であり、また、XRD測定用の専用の電池を作製する必要がある。
【0010】
さらに、XRDによる測定では、測定の性質上、高い電流密度下で行われる充放電中における活物質の結晶構造変化をその場で(充放電中に)測定すること、すなわち、高速充放電に伴う活物質の結晶構造変化をオペランド測定することは困難である。
【0011】
さらに、リン酸鉄リチウム(LFP)正極や黒鉛(Gr)負極に代表されるように、充放電に伴う活物質の結晶構造変化(体積変化)は複雑であり、in-situ、または、オペランドでのみ観測される準安定結晶相に由来する体積変化も存在する。また、活物質の種類によっては、充放電の速度により結晶構造変化の経路が異なる場合がある。
【0012】
XRDでは、このような複雑な結晶構造変化をオペランド測定することは困難である。さらに、XRDでは、高速で充放電される活物質の結晶構造変化をオペランド測定することは困難である。さらに、XRDにより、このような活物質の結晶構造変化を見るためには、活物質の結晶構造変化が起こる電位を事前に把握しておく等の特別の準備が必要であった。
【0013】
本発明は、充放電に伴う電池の反力を充放電と同時に測定する、電池の反力の測定方法を提供することを目的とする。
【0014】
また、本発明は、充放電に伴う活物質の結晶構造の変化を、電池の反力を測定することで簡易に推定できる、活物質の結晶構造変化の推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、検出パラメータとして、充放電に伴う電池の反力に着目したものである。すなわち、充放電に伴う電池の反力を、電池の充放電と同時に測定することで、電池形状、充放電条件、使用環境条件等に制限されず、また、大型のXRD測定装置を使用することなく、簡易に、電池内の活物質の結晶構造変化を推定することが可能となる。これにより、事前に活物質の電気化学的な結晶構造変化の情報を必要とすることなく、充放電に伴う活物質の結晶構造変化をオペランド測定することが可能となる。
【0016】
本発明は、以下の構成を有する。
[1]活物質を含む電極を有する電池を拘束部材で拘束し、前記電池に拘束荷重を加えた状態で、前記電池の充放電を行い、
前記充放電に伴い前記電池から前記拘束部材に働く反力を、前記電池の充放電と同時に測定する、電池の反力の測定方法。
[2]前記[1]に記載の電池の反力の測定方法で測定した電池の反力の測定結果から、前記電池に含まれる活物質の結晶構造の変化を推定する、活物質の結晶構造変化の推定方法。
[3]前記[1]に記載の電池の反力の測定方法で測定した電池の反力と、
前記電池の反力を測定した際の充放電に伴う、電池の電圧Vの変化量dVに対する容量Qの変化量dQの割合である微分値dQ/dVを、それぞれ、
前記電池の反力を測定した際の、電圧、充電時間、放電時間、充電率、放電率のいずれかに対して描画した反力測定結果とdQ/dV曲線を比較することで、前記電池に含まれる活物質の結晶構造の変化を推定する、活物質の結晶構造変化の推定方法。
[4]電池と、測定装置を含む、測定システムであって、
前記電池は、活物質を含む電極を有し、かつ充放電試験機と接続され、充放電可能とされており、
前記測定装置は、
前記電池を拘束する拘束部材と、
前記拘束部材に拘束荷重を加える荷重印加機構と、
前記電池から前記拘束部材に働く反力を測定する荷重計測器を備え、
前記荷重印加機構により任意の拘束荷重を加えた状態で、前記電池の充放電を行い、
前記充放電に伴い前記電池から前記拘束部材に働く反力を、前記電池の充放電と同時に測定する、測定システム。
[5]さらに、測定した電池の反力と、
前記電池の反力を測定した際の充放電に伴う、電池の電圧Vの変化量dVに対する容量Qの変化量dQの割合である微分値dQ/dVを、それぞれ、
前記電池の反力を測定した際の、電圧、充電時間、放電時間、充電率、放電率のいずれかに対して描画する演算装置を含む、[4]に記載の測定システム。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、充放電に伴う電池の反力を充放電と同時に測定する、電池の反力の測定方法を提供することができる。
【0018】
また、本発明によれば、充放電に伴う活物質の結晶構造の変化を、電池の反力を測定することで簡易に推定できる、活物質の結晶構造変化の推定方法を提供することができる。
【0019】
本発明によれば、任意サイズの電池に任意の圧力を加えた状態で充放電を行い、充放電に伴う電池の反力の変化を、充放電特性と同時に測定、評価できる。そして、測定した電池の反力の変化から、実使用に即した条件・環境下での活物質の結晶構造変化を推定することができる。これにより、大型のXRD測定装置を使用することなく、また、事前に活物質の電気化学的な結晶構造変化の情報を必要とすることなく、簡易に充放電に伴う活物質の結晶構造変化をオペランド測定することが可能となる。
【0020】
本発明によれば、例えば、充放電に伴う活物質の結晶構造変化が未知の新規材料あっても、簡便にオペランド測定を行い、その結晶構造変化を推定できる。さらに、実使用条件・環境下で充放電される電池内の活物質の複雑な結晶構造変化をオペランド測定することができる。
【0021】
本発明によれば、電池形状、充放電条件、使用環境条件等が制限されないため、例えば、環境温度として高温/低温、拘束圧力として高圧/低圧、充放電速度として高速/低速下での充放電に対する活物質の結晶構造変化をオペランド測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る測定システムの構成を説明する模式図である。
図2図2は、本発明の実施例において、NCM622-Gr電池を0.1Cで充電した場合に得られた反力測定結果とdQ/dV曲線を示すグラフである。
図3図3は、本発明の実施例において、LCO-Gr電池を0.1Cで充電した場合に得られた反力測定結果とdQ/dV曲線を示すグラフである。
図4図4は、本発明の実施例において、LFP-Gr電池を0.1Cで充電した場合に得られた反力測定結果とdQ/dV曲線を示すグラフである。
図5図5は、図2~4の反力測定結果を比較して示したグラフである。
図6図6は、本発明の実施例において、LFP-Gr電池を2Cで充電した場合に得られた反力測定結果とdQ/dV曲線を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。ただし、本発明は、以下の実施形態に限定されない。
【0024】
<測定システム>
図1は、本発明の一実施形態に係る測定システム1の構成を説明する模式図(正面図)である。
【0025】
測定システム1は、電池10と、測定装置20を有する。測定システム1において、電池10は、測定対象であり、測定装置20は、前記電池10の反力を測定する装置である。
【0026】
電池10は、その内部に、活物質を含む電極を有している。また、電池10は、充放電試験機(図示略)に接続されており、任意の電流値により充放電可能とされている。なお、電池10は、例えば、電池セルであってもよいし、電池セルを複数接続してパッケージングしたものであってもよい。また、電池10の形状は、特に限定されず、例えば、円筒型、角型、ラミネート型であってもよい。反力を測定しやすい点からは、ラミネート型が好ましい。
【0027】
測定装置20は、拘束部材21と、荷重印加機構22と、荷重計測器23を備える。また、測定装置20は、支持板(上支持板24、下支持板25)と、これを支持する支持柱(左支持柱26、右支持柱27)を有する。前記荷重印加機構22は、上支持板24との間でボルト・ナット構造により支持されており、前記荷重計測器23は、下支持板25の上面に載置され支持されている。
【0028】
左支持柱26は、その一方の端部が上支持板24に固定されている。そして、拘束部材21を貫通し、他方の端部が下支持板25に固定されている。また、右支持柱27も、左支持柱26と同様に構成されている。これにより、上支持板24と下支持板25は、左支持柱26と右支持柱27により支持され、また、拘束部材21は、上下方向に可動とされている。
【0029】
本実施形態において、拘束部材21は、板状の部材(拘束板)であり、上拘束板21aと、下拘束板21bとで構成されている。そして、上拘束板21aと、下拘束板21bにより、電池10の上下方向から電池10を挟むようにして、電池10を拘束する。
【0030】
荷重印加機構22は、ボルト構造を有しており、上支持板24に形成されたナット構造により、上支持板24に締結され支持されている。そして、荷重印加機構22は、ボルトの緩締により、拘束部材21を介して電池10に任意の拘束荷重を加えることが可能とされている。
【0031】
荷重計測器23は、下支持板25の上面に載置されている。本実施形態において、荷重計測器23は、ロードセルであり、電池10から拘束部材21に働く反力を測定する。なお、前記反力は、電池10から、電池10に加えられる拘束荷重の方向と逆方向に働く力である。本実施形態において、荷重計測器23は、ロガーに接続され、連続的に前記反力を測定することができる。
【0032】
測定システム1は、さらに演算装置(図示略)を有してもよい。演算装置としては、特に限定されないが、パーソナルコンピューター等の電子計算機を用いることができる。この場合、荷重計測器23で測定した電池10の反力と、電圧、電流等の充放電試験機のパラメータを、適宜、演算装置に転送し処理することができる。例えば、演算装置は、電池10の充放電に伴う反力と、前記反力を測定した際の充放電に伴う、電池10の電圧Vの変化量dVに対する容量Qの変化量dQの割合である微分値dQ/dVを、それぞれ、前記反力を測定した際の、電圧、充電時間、放電時間、充電率、放電率のいずれかに対して描画(プロット)する。そして、その結果を、前記演算装置に接続されたモニタ等の出力装置に表示することができる。
【0033】
<電池の反力の測定方法>
次に、本発明の一実施形態に係る電池の反力の測定方法について説明する。本実施形態に係る電池の反力の測定方法は、上述の測定システム1を用いて実施することができる。
【0034】
まず、測定対象となる電池10を用意する。そして、電池10を上拘束板21aと、下拘束板21bで上下方向から挟んで拘束する。電池10は、充放電試験機(図示略)と接続され、充放電試験機により充放電が可能とされる。電池10は、少なくとも活物質を含む電極を有する。なお、本実施形態では、電池10は、リチウムイオン二次電池である。
【0035】
次に、荷重印加機構22により電池10に任意の拘束荷重を加えて電池10を拘束する。この状態で、電池10の充放電を行う。電池10には、充放電に伴い、電池10内部の活物質の結晶構造変化(体積変化)が生じる。この変化は、前記拘束荷重に対する電池10の反力として、荷重計測器23により測定される。
【0036】
本実施形態に係る電池の反力の測定方法では、上記のように拘束部材21で拘束した電池10に拘束荷重を加えた状態で、前記電池10の充放電を行い、前記充放電に伴い前記電池10から前記拘束部材21に働く反力を、前記電池10の充放電と同時に測定する。
【0037】
また、荷重計測器23で測定された電池10の反力は、連続的に演算装置(図示略)に転送される。これと同時に、充放電試験機のパラメータが、連続的に演算装置に転送される。演算装置は、電池10の反力を測定した際の充放電に伴う、電池10の電圧Vの変化量dVに対する容量Qの変化量dQの割合である微分値dQ/dVを算出する。そして、電池10の充放電に伴う反力と、前記微分値dQ/dVをそれぞれ、電圧、充電時間、放電時間、充電率、放電率のいずれかに対して描画(プロット)し、その結果を、モニタ上に表示する。
【0038】
すなわち、本実施形態の電池の反力測定方法によれば、活物質を含む電池に荷重を加えた状態で、前記電池の充放電を行い、前記充放電に伴う前記電池の反力の測定(反力の増減の測定)を、前記電池の充放電と同時に測定(オペランド測定)することが可能である。
【0039】
<活物質の結晶構造変化の推定方法>
本発明の一実施形態に係る結晶構造変化の推定方法は、上述の電池の反力の測定方法で測定した電池の反力の測定結果から、前記電池に含まれる活物質の結晶構造の変化を推定するものである。
【0040】
具体的には、上述のようにして描画した反力測定結果とdQ/dV曲線を比較することで、前記電池に含まれる活物質の結晶構造変化を推定する。以下、実施例により詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【実施例0041】
本実施例では、リチウムイオン二次電池を試験対象とした場合の実施例を示す。
【0042】
<実施例1> NCM622-Gr電池の反力測定
図1に示した測定システムを用いて、正極活物質としてNCM622(Li(Ni0.6Co0.2Mn0.2)O、負極活物質として黒鉛(Gr)を有する電池を、0.1Cで充電した場合の電池の反力を測定した。なお、電池の初期拘束荷重は170kPaである。
【0043】
図2は、上記充電に伴う、電池の反力と、電池の電圧Vの変化量dVに対する容量Qの変化量dQの割合である微分値dQ/dVを、それぞれ充電率に対して描画したグラフである。
【0044】
本実施例では、上記充電で得られる、電池の反力と、微分値dQ/dVをそれぞれ、電圧、充電時間、放電時間、充電率、放電率のいずれかに対して描画した反力測定結果とdQ/dV曲線を比較することで、前記電池に含まれる活物質の結晶構造の変化を推定する。
【0045】
dQ/dV曲線上に現れるピークは、充電率の上昇に伴う正極と負極の結晶構造変化(結晶相転移)によることが微分曲線解析とXRD解析によって明らかにされている(非特許文献1~3)。
また、Grは、充電率に対して結晶体積が膨張を示す。また、充電率0.3~0.6の領域の結晶体積の膨張率は、その他の領域よりも小さいことが知られている(非特許文献4)。
これに対して、NCM622は、充電率に対して微小に膨張するか、単調に結晶体積が収縮し、充電率0.6以上ないし0.7以上の高い充電率の領域で加速的に結晶体積が収縮することが知られている(非特許文献5)。
【0046】
ここで、図2の電池の反力測定結果を参照すると、Grの結晶体積の膨張量が、NCM622の結晶体積の収縮量を上回っているため、全体の反力は充電に伴って上昇している。
充電率が0.3に達すると、Grの充電に伴う結晶体積の膨張率が小さくなるため、反力の上昇率も小さくなる。充電率が0.6を超えると、Grの充電に伴う結晶体積の膨張率が再度大きくなるが、同時にNCM622の結晶体積の減少率も大きくなるため、結果として反力の上昇率は穏やかになる。
【0047】
すなわち、図2に示される電池の反力の測定結果は、反力の上昇率変化の起点と、dQ/dV曲線(微分曲線)のピークが、高く相関していることを示している。このことから、本発明の電池の反力の測定方法が、充放電に伴う活物質の結晶構造変化を推定することに関して優れた手法であることがわかる。
【0048】
<実施例2> LCO-Gr電池の反力測定
実施例1と同様にして、正極活物質としてLCO(LiCoO)、負極活物質として黒鉛(Gr)を有する電池を、0.1Cで充電した場合の電池の反力を測定した。なお、電池の初期拘束荷重は170kPaである。
【0049】
図3は、上記充電に伴う、電池の反力と、電池の電圧Vの変化量dVに対する容量Qの変化量dQの割合である微分値dQ/dVを、それぞれ充電率に対して描画したグラフである。
【0050】
図3に示すように、LCO-Gr電池では、NCM622-Gr電池と同様の傾向が測定された。この結果から、LCO-Gr電池では、充放電に伴い、実施例1と同様の活物質の結晶構造変化が生じていると推定することができる。
【0051】
<実施例3> LFP-Gr電池の反力測定
実施例1と同様にして、正極活物質としてLFP(リン酸鉄リチウム)、負極活物質として黒鉛(Gr)を有する電池を、0.1Cで充電した場合の電池の反力を測定した。なお、電池の初期拘束荷重は170kPaである。
【0052】
図4は、上記充電に伴う、電池の反力と、電池の電圧Vの変化量dVに対する容量Qの変化量dQの割合である微分値dQ/dVを、それぞれ充電率に対して描画したグラフである。
【0053】
LFPは、充電率に対して直線的に結晶体積減少を示す(非特許文献4,6)。充電率が0.3を超えると、充電に伴うLFPの結晶体積の減少量が、Grの結晶体積の膨張量を上回り、結果として電池全体の反力は減少する。充電率が0.6を超えると、充電に伴うGrの結晶体積の膨張量が、LFPの結晶体積の減少量を再度上回るため、電池全体の反力が再度上昇を示す。
【0054】
図4に示される電池の反力の測定結果から、本発明の電池の反力の測定方法が、正極と負極の結晶体積の膨張率の変動量差を正しく捉える手法であることがわかる。すなわち、図4に示される電池の反力の測定結果から、電池の正極と負極の結晶体積の膨張率の変動量差を推定することができる。
【0055】
図5は、図2~4に示した反力測定結果を比較して示したグラフである。
【0056】
LCO結晶は、充電率0.5~0.6までは結晶体積が膨張し、それ以降は収縮することが知られている(非特許文献7,8)。充電率の上昇に伴うLCO結晶体積の膨張率はNCM622の示す膨張率よりも大きく、さらに、それに続くLCO結晶体積の収縮率は、NCM622の示す収縮率よりも小さい(非特許文献5,8)。そのため充電に伴う反力の上昇率も、最終的な反力増加量もLCO-Gr電池の方が、NCM622-Gr電池よりも大きい。
これに対して、LFP-Gr電池の充電に伴う結晶体積の減少率は、他の正極種の中で最も大きい(非特許文献4~8)。そのためLFP-Gr電池の充電に伴う反力の上昇率・上昇量は他の電池に比べて最も小さい。
【0057】
図5に示されるように、本発明によれば、充電に伴う活物質の結晶体積の変化量の差を、電池の反力の測定値の差として得ることができる。すなわち、本発明によれば、電池の正極と負極の結晶体積の膨張率の変動量差を、電池の反力の測定結果から推定することができる。
【0058】
<実施例4> LFP-Gr電池の反力測定
2Cで充電したこと以外は、実施例3と同様にして、LFP-Gr電池を充電した場合の電池の反力を測定した。すなわち、本実施例は、実施例3(図4)の20倍の速度で充電した場合の測定結果である。
【0059】
本来、充電に伴う活物質の結晶構造変化は熱力学的に支配された反応であるが、充電速度を大きくすることで速度論的に支配された反応が同時に起こる(非特許文献9)。上述の通り、Grの充電率0.3~0.6領域の結晶体積膨張率は、その他の領域よりも小さい。しかし、充電速度が大きい場合、本来、充電率0.3以下で起こる結晶構造変化と充電率0.3~0.6領域で起こる結晶構造変化が同時に起こるため、充電率が0.3~0.6の領域であっても結晶体積の膨張が大きくなる。
【0060】
このため、図6に示される電池の反力の測定結果は、図4で観測されたものとは異なり、Grの結晶体積の膨張量が、LFPの結晶体積の減少量を下回ることなく、反力は単調に増加している様子が観察された。
【0061】
図6に示されるように、本発明によれば、充電速度に依存した活物質の結晶構造変化を、電池の反力として正確に観測できることがわかる。さらに図6は高速な電池反応であっても反力の上昇率変化の起点と、dQ/dV曲線(微分曲線)のピークが、高く相関していることを示している。すなわち、本発明によれば、充電速度に依存した活物質の結晶構造変化を、電池の反力の測定結果から推定することができる。
【0062】
以上、説明したとおり、本発明によれば、充放電に伴う電池の反力を充放電と同時にオペランド測定することができる。
【0063】
本発明によれば、任意サイズの電池(電池セル)に任意の圧力を加えた状態で充放電を行い、充放電に伴う電池の反力の変化を、充放電特性と同時に測定、評価できる。そして、測定した電池の反力の変化から、実使用に即した条件・環境下での活物質の結晶構造変化を推定することができる。これにより、大型のXRDを使用することなく、また、事前に活物質の電気化学的な結晶構造変化の情報を必要とすることなく、簡易に、充放電に伴う活物質の結晶構造変化をオペランド測定することが可能となる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6