(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162412
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】植物栽培方法
(51)【国際特許分類】
A01G 7/00 20060101AFI20241114BHJP
【FI】
A01G7/00 601C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023077898
(22)【出願日】2023-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 祐二
(72)【発明者】
【氏名】小川 尚樹
(72)【発明者】
【氏名】進藤 義剛
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 恵一
(72)【発明者】
【氏名】藤井 篤
(72)【発明者】
【氏名】山田 実希
(72)【発明者】
【氏名】宮本 豊
(72)【発明者】
【氏名】武内 幸生
(72)【発明者】
【氏名】金森 公平
【テーマコード(参考)】
2B022
【Fターム(参考)】
2B022AB15
2B022DA02
2B022DA08
(57)【要約】
【課題】植物の生産量をさらに安定化させることが可能な植物栽培方法を提供する。
【解決手段】植物栽培方法は、植物の生育期間における一日の中で、予め定められた電照時間だけ通常照明を前記植物に照射するステップと、電照時間の後に、赤色光を植物に照射するステップと、生育期間内で日ごとに繰り返す。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物の生育期間における一日の中で、予め定められた電照時間だけ通常照明を前記植物に照射するステップと、
前記電照時間の後に、赤色光を前記植物に照射するステップと、
を前記生育期間内で日ごとに繰り返す植物栽培方法。
【請求項2】
前記赤色光は、波長500nmから700nmの可視光である請求項1に記載の植物栽培方法。
【請求項3】
前記通常照明は、光合成光補償点以下の光強度を有する請求項1又は2に記載の植物栽培方法。
【請求項4】
前記赤色光を照射するステップは、前記電照時間よりも短い請求項1に記載の植物栽培方法。
【請求項5】
前記植物を栽培する複数の区域のうち、隣接する2つの前記区域の間で、前記赤色光を前記植物に照射するステップを実行する栽培周期が互いに重ならないように交互に管理するステップをさらに含む請求項1に記載の植物栽培方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、植物栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、イチゴは,冬から春咲きにかけての季節に収穫ピークを迎える一期成りの品種が多い。一方、季節を通じて一度果実が出来る四季なりイチゴが近年では注目され,栽培面積も拡大している。しかしながら、四季なりイチゴでも、夏期の高温状態では品質の良いイチゴの生産は困難であり、露地栽培では高地等の冷涼地帯での栽培か、夏場の高温を避ける空調設備を導入した施設栽培(下記特許文献1参照)での生産に限定されるのが現状である。
【0003】
四季成イチゴは長日植物であり,例えば電照菊栽培で用いられるような補光を行い,昼夜期間を16時間/8時間に設定することで花芽誘導(花芽形成、花芽分化)を行うことができ、季節を通じたイチゴ生産が理論的には可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、四季なりイチゴを生産する場合に問題となるのが生産量の安定化である。花芽を誘導したイチゴは、電照による補光を中断しない限りイチゴの花芽を作り続ける。花芽が成長し果実が実るまでに必要な光合成量が確保されるのであれば問題はないが、現実には果実に光合成で得られた栄養分が取られ、光合成を行うべき次世代の葉の能力を含む植物体の健康度が低下し、結果として「心どまり」という葉も芽も出ない状態になる現象が発生する。その結果、上記のイチゴを初めとして、植物の生産量が不安定化してしまうという課題があった。
【0006】
本開示は上記課題を解決するためになされたものであって、植物の生産量をさらに安定化させることが可能な植物栽培方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示に係る植物栽培方法は、植物の生育期間における一日の中で、予め定められた電照時間だけ通常照明を前記植物に照射するステップと、前記電照時間の後に、赤色光を前記植物に照射するステップと、を前記生育期間のうち、前記植物の花芽が出現するまで、日ごとに繰り返す。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、植物の生産量をさらに安定化させることが可能な植物栽培方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の第一実施形態に係る植物栽培設備の構成を示す模式図である。
【
図2】本開示の第一実施形態に係る植物栽培方法のフローチャートである。
【
図3】本開示の第一実施形態に係る植物栽培方法を採用した場合の一日の電照時間/赤色光照射時間の例を示す時間表である。
【
図4】本開示の第二実施形態に係る植物栽培方法における複数区域の管理スケジュールを示す図である。
【
図5】本開示の実施例に係る植物栽培方法を採用した場合の花房の出現数と栽培週の例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<第一実施形態>
(植物栽培設備1の構成)
以下、本開示の第一実施形態に係る植物栽培設備1について、
図1から
図3を参照して説明する。この植物栽培設備1は、花卉類や果実類等の農産物・植物を栽培するための設備である。特に、イチゴの栽培を例に本実施形態の栽培方法について説明する。
【0011】
図1に示すように、植物栽培設備1は、温室10と、電照灯20と、赤色LED灯30と、を備える。温室10は、温室本体11と、土壌部12と、を有する。温室本体11は、太陽光を透過可能な透光性材料で形成され、その内部には、植物を収容するための空間が形成されている。温室本体11の下部には土壌部12が敷設されている。土壌部12は、植物の生育に適した成分を含有する土や砂である。植物は、この土壌部12から上方に向かって生育し、温室本体11の天井や壁面を透過した太陽光に露呈している。
【0012】
温室10の内部には、電照灯20と、赤色LED灯30と、が設けられている。電照灯20は、数ワット/m2程度の弱光を照射する照明装置(通常照明)であり、具体的には白熱電球等が好適に用いられる。赤色LED灯30は、波長600~700nmの可視光(赤色光)を照射する。電照灯20、及び赤色LED灯30は、いずれも温室10内で植物に対して上方からそれぞれ光を照射する。
【0013】
(植物栽培方法)
次いで、
図2と
図3を参照して植物栽培方法について説明する。この植物栽培方法では、植物の生育期間を日ごとに区切り、その一日ごとに以下の各ステップを実行するものである。まず、ステップS1では、上記の電照灯20による電照を行う(電照時間と呼ぶ)。
図3に示すように、電照時間は、日長時間(つまり、日光が得られる時間帯であり、ここでは一例として午前6時から午後6時までの時間帯を指すこととする。)の前に2時間程度設けられることが望ましい。この電照時間では、電照灯20のみ点灯させ、赤色LED灯30はオフ状態とされている。次いで、ステップS2で日長時間が完了したか否かを判定する。ステップS2でYesと判定された場合、再びステップS3で電照灯20を点灯させる。その後、規定の時間(一例として2時間程度)が経過した後に電照灯20をオフにし、赤色LED灯30のみ点灯させる(ステップS4)。さらに、赤色LED灯30を点灯させる時間帯(ここでは一例として
図3に示す2時間程度とする。)が経過したか否かが判定される(ステップS5)。ステップS5でYesと判定された場合には、赤色LED灯30をオフにする(ステップS6)。以上の各ステップを生育期間の間、日ごとに繰り返すことで植物が栽培される。
【0014】
(作用効果)
ここで、イチゴは,冬から春咲きにかけての季節に収穫ピークを迎える一期成りの品種が多い。一方、季節を通じて一度果実が出来る四季なりイチゴが近年では注目され,栽培面積も拡大している。しかしながら、四季なりイチゴでも、夏期の高温状態では品質の良いイチゴの生産は困難であり、露地栽培では高地等の冷涼地帯での栽培か、夏場の高温を避ける空調設備を導入した施設栽培での生産に限定されるのが現状である。
【0015】
四季成イチゴは長日植物であり,例えば電照菊栽培で用いられるような補光を行い,昼夜期間を16時間/8時間に設定することで花芽誘導(花芽形成、花芽分化)を行うことができ、季節を通じたイチゴ生産が理論的には可能である。
【0016】
しかしながら、四季なりイチゴを生産する場合に問題となるのが生産量の安定化である。花芽を誘導したイチゴは、電照による補光を中断しない限りイチゴの花芽を作り続ける。花芽が成長し果実が実るまでに必要な光合成量が確保されるのであれば問題はないが、現実には果実に光合成で得られた栄養分が取られ、光合成を行うべき次世代の葉の能力を含む植物体の健康度が低下し、結果として「心どまり」という葉も芽も出ない状態になる現象が発生する。その結果、上記のイチゴを初めとして、植物の生産量が不安定化してしまうという課題があった。そこで、本実施形態では、上述の植物栽培方法を採用している。
【0017】
上記方法によれば、電照時間の後に赤色光を植物に照射することで、植物の花房出現数(誘導数)が低減され、いわゆる心どまりという現象を未然に防ぐことができる。これにより、植物の株ごとの収穫量が安定化するため、生産効率をさらに向上させることができる。より具体的には、植物では光質を感じて順応する物質(光受容体,タンパク質の一種)が存在するためである。それらはフィトクローム,フォトトロビン,クリプトクロムと称されており,赤色(600~800nm),青色(400~500nm)の光に対応し,植物の形態形成が変化する。例えば赤色光を照射した場合には、ある種の植物では、不活性フィトクロームが活性化される。すると、花芽の形成が抑制され、言わば、人為的に徒長を生じた状態となる。これにより、花房出現数が低減され、心どまりを回避することが可能となる。したがって、植物の収穫量を長期にわたって安定化することができる。言い換えると、最大収穫量は減る一方で、期間を問わず、安定した収穫量を得ることが可能となる。
【0018】
また、上記方法によれば、植物の品種を問わず、赤色光を照射することのみによって心どまりを効果的に抑制することが可能となる。したがって、植物栽培設備1の製造コストや維持コストを低廉に抑えることが可能となる。
【0019】
さらに、上記方法によれば、通常照明が光合成光補償点以下の弱光であることから、心どまりが過度に抑制されることがなくなる。このため、植物の品種を問わず、赤色光によって心どまりを最大限に回避しつつ、株ごとの果実等の収穫量を最大化することができる。したがって、最終的には、収穫量の長期にわたる安定化を実現することができる。
【0020】
上記方法によれば、赤色光を電照時間よりも短い時間だけ照射することで、心どまりが過度に抑制されることがなくなる。このため、植物の品種を問わず、赤色光を照射する時間をコントロールすることのみによって心どまりを最大限に回避しつつ、株ごとの果実等の収穫量をさらに増加させることができる。これにより、収穫量のさらなる安定化を実現することが可能となる。
【0021】
以上、本開示の第一実施形態について説明した。なお、本開示の要旨を逸脱しない限りにおいて、上記の方法に種々の変更や改修を施すことが可能である。例えば、上述した電照時間の長さや、赤色LED灯30を点灯させる時間の長さは一例であって、植物の品種や、時期、天候、温度等によって適宜決定されてよい。
【0022】
<第二実施形態>
次に、本開示の第二実施形態について、
図4を参照して説明する。同図に示すように、この栽培方法では、温室10内を複数の区域に分け、各区域で、電照時間と、赤色光照射時間とが重ならないように交互に管理することが特徴である。つまり、区域1では、当初の1~2週の間、第一実施形態で説明した赤色LED灯30の照射による心どまり低減を実施し、その後の3~6週の間は赤色光照射を停止し、代わりに電照時間を設ける。その後、7~8週の間は再び赤色光照射を行う。以上のようなサイクルを、区域ごとにずらして実行することで、区域1では収穫期を迎える一方で、区域2、区域3では植物の生育が進められることとなる。つまり、収穫期を人為的にずらすことが可能となる。
【0023】
(作用効果)
このように、上記方法によれば、隣接する2つの区域の間で、赤色光を植物に照射するステップを実行する栽培周期が互いに重ならないように交互に管理することで、一方の区域で収穫を行い、他方の区域で植物の育成を順次行うことができる。これにより、全区域を通じた収穫量のさらなる安定化を実現することが可能となる。
【0024】
以上、本開示の第二実施形態について説明した。なお、本開示の要旨を逸脱しない限りにおいて、上記の方法に種々変更や改修を施すことが可能である。例えば、上述した区域の数は3つに限定されず、2つや4つ以上であってもよい。この場合であっても、上述したものと同様の作用効果を得ることができる。
【0025】
また、各実施形態に共通する事項として、上記の植物栽培方法の適用対象はイチゴに限定されず、他の果実植物を対象とすることも可能である。また、果実を収穫対象としない花卉類や、観葉植物も適用対象とすることが可能である。
【0026】
さらに、日長時間の開始・終了の判定に光センサーを用いることも可能である。具体的には、3W/m2以上の光が植物の苗近辺に置いたセンサーで検出された場合には日長時間が開始したとして電照を中止する。他方で、3w/m2以上の光が植物の苗近辺に置いた光センサーで検出できなくなった際には、電照を開始する例が考えられる。この方法によれば、植物の栽培をさらに自律的に行うことができるため、生産量の安定化に加えて、コストの削減も実現することができる。
【実施例0027】
次いで、第一実施形態で説明した植物栽培方法の実施例について、
図5を参照して説明する。発明者らは、以下の条件のもとでイチゴの栽培試験を行った。
<試験条件>
・土壌,堆肥(培養土バラ,(株)宮城発酵),バーミキュライトを5:3:2の割合で混合
・緩効性化成肥料(N(窒素):P(リン):K(カリウム)=15:15:15)を1鉢当たり3gずつ施用
・追肥としてCDU化成肥料を4週間に1gずつ施肥
・灌水は毎日行い,午前中に1鉢当たり300~500mlの農業用水
・電照は、 光補償点以下の弱光として,3w/m
2の光を日没後に照射し,日長を16時間とした。
・赤色LED灯として、ケイブル株式会社製のEOLS645-227(ピーク波長:645nm)のLEDを用いた。
・赤色光強度は0.5W/m
2
・赤色光照射は日長照射完了後1~2時間の照射とした
・対照試験として、赤色LED灯による照射なしの株を上記と同一の条件下で育成した。
【0028】
最終的に、
図5に示す結果が得られた。即ち、8週目まではそれまでの生育の履歴が残るので、電照のみの場合とLED照射ありの場合との間で花房出現数には差がない。しかしながら、9週目以降から赤色光照射による心どまり低減の効果が出現し、花房出現数が低下し始めた。また、心どまりは低減されつつも、葉の出方には電照のみの場合とLED照射ありの場合とで差がないことも確認された。なお、電照のみの場合、イチゴ生産量の波が確認された。これは心どまりが発生する予兆と言えると考えられる。以上のように、上記第一実施形態で説明した植物栽培方法によって、イチゴの心どまりを低減し、生産量の波を抑え、安定生産を実現できることが確認された。
【0029】
<付記>
各実施形態に記載の植物栽培方法は、例えば以下のように把握される。
【0030】
(1)第1の態様に係る植物栽培方法は、植物の生育期間における一日の中で、予め定められた電照時間だけ通常照明を前記植物に照射するステップと、前記電照時間の後に、赤色光を前記植物に照射するステップと、を前記生育期間内で日ごとに繰り返す。
【0031】
上記方法によれば、電照時間の後に赤色光を植物に照射することで、植物の花房出現数(誘導数)が低減され、いわゆる心どまりという現象を未然に防ぐことができる。これにより、植物の株ごとの収穫量が安定化するため、生産効率をさらに向上させることができる。
【0032】
(2)第2の態様に係る植物栽培方法は、(1)の植物栽培方法であって、前記赤色光は、波長500nmから700nmの可視光である。
【0033】
上記方法によれば、植物の品種を問わず、赤色光によって心どまりを効果的に抑制することが可能となる。
【0034】
(3)第3の態様に係る植物栽培方法は、(1)又は(2)の植物栽培方法であって、前記通常照明は、光合成光補償点以下の光強度を有する。
【0035】
上記方法によれば、通常照明が光合成光補償点以下の弱光であることから、心どまりが過度に抑制されることがなくなる。このため、植物の品種を問わず、赤色光によって心どまりを最大限に回避しつつ、株ごとの果実等の収穫量を最大化することができる。
【0036】
(4)第4の態様に係る植物栽培方法は、(1)から(3)のいずれか一態様に係る植物栽培方法であって、前記赤色光を照射するステップは、前記電照時間よりも短い。
【0037】
上記方法によれば、赤色光を電照時間よりも短い時間だけ照射することで、心どまりが過度に抑制されることがなくなる。このため、植物の品種を問わず、赤色光によって心どまりを最大限に回避しつつ、株ごとの果実等の収穫量をさらに増加させることができる。
【0038】
(5)第5の態様に係る植物栽培方法は、(1)から(4)のいずれか一態様に係る植物栽培方法であって、前記植物を栽培する複数の区域のうち、隣接する2つの前記区域の間で、前記赤色光を前記植物に照射するステップを実行する栽培周期が互いに重ならないように交互に管理するステップをさらに含む。
【0039】
上記方法によれば、隣接する2つの区域の間で、赤色光を植物に照射するステップを実行する栽培周期が互いに重ならないように交互に管理することで、一方の区域で収穫を行い、他方の区域で植物の育成を順次行うことができる。これにより、全区域を通じた収穫量の安定化を実現することが可能となる。