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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162414
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】乗物用シートの構成部材
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/58 20060101AFI20241114BHJP
【FI】
B60N2/58
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023077901
(22)【出願日】2023-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅井 大視
(72)【発明者】
【氏名】田口 亘
(72)【発明者】
【氏名】木村 友紀
【テーマコード(参考)】
3B087
【Fターム(参考)】
3B087AA09
3B087DE01
3B087DE02
(57)【要約】
【課題】表皮材に対してパッド体を一体発泡成形して形成したシート構成部材を作業性良く形成してコスト低減を図ることができるシート構成部材を提供する。
【解決手段】クッションパッド21と、クッションパッド21における着座乗員の側である着座面20Sの側を被覆する一枚の成形されたシート材製のクッションカバー22と、がクッションパッド21の発泡成形時に一体化されてなるクッション構成部材20である。着座面20Sには、前端部から後方に向かうにつれて徐々に深さを大きくするとともに、隣り合う間隔を左方向に拡大させながら延びる複数の左斜行溝22aと、前端部から後方に向かうにつれて徐々に深さを大きくするとともに、隣り合う間隔を右方向に拡大させながら延びる複数の右斜行溝22bと、が形成されている。複数の左斜行溝22aと複数の右斜行溝22bとが重ね合わされることによって、複数の菱形模様22Dが形成されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クッション材としてのパッド体と、該パッド体における着座乗員の側である着座面側を被覆する一枚の成形された樹脂シート製の表皮材と、が前記パッド体の発泡成形時に一体化されてなる乗物用シートの構成部材であって、
着座面の一端部側から他端部側に向けて傾斜して延びる複数本の第1の溝群に対して前記一端部側から前記他端部側に向けて前記第1の溝群と反対方向に傾斜して延びる複数本の第2の溝群が互いに交差することによって複数の略菱形の格子状溝が前記表皮材の前記着座面に形成されている乗物用シートの構成部材。
【請求項2】
請求項1において、
前記第1の溝群と前記第2の溝群とは、いずれも、各溝の深さが前記一端部側から前記他端部側に向かうにつれて徐々に大きくなるように変化するとともに、各溝間の間隔が前記一端部側から前記他端部側に向かうにつれて徐々に大きくなるように変化するように形成されている乗物用シートの構成部材。
【請求項3】
請求項2において、
前記乗物用シートの構成部材は、シートクッション用のものであって、前記一端部側は前端部側であり前記他端部側は後端部側である乗物用シートの構成部材。
【請求項4】
請求項2において、
前記乗物用シートの構成部材は、シートバック用のものであって、前記一端部側は上端部側であり前記他端部側は下端部側である乗物用シートの構成部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗物用シートの構成部材に関する。詳しくは、表皮材に対してクッション材であるパッド体を一体発泡成形して製造した乗物用シートの構成部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車用シートにおいて、シートクッション又はシートバックが、表皮材に対してクッション材であるパッド体を一体発泡成形して製造したシート構成部材を、骨格としてのフレームの上に載置して形成されているものがある。特許文献1に記載の自動車用シートにおいては、複数のピースが縫製により一体化されて立体形状に形成された表皮材であるシートカバーの裏面側にパッド体が一体発泡成形されてシート構成部材が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-165086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の特許文献1に記載のシート構成部材においては、シートカバーを立体形状に形成するのに複数のピースを縫製により一体化することによって行っているので、作業性が悪くコストが高くなりがちであるという問題があった。
【0005】
このような問題に鑑み本発明の課題は、表皮材に対してパッド体を一体発泡成形して形成したシート構成部材を作業性良く製造してコスト低減を図ることができるシート構成部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1発明は、クッション材としてのパッド体と、該パッド体における着座乗員の側である着座面側を被覆する一枚の成形された樹脂シート製の表皮材と、が前記パッド体の発泡成形時に一体化されてなる乗物用シートの構成部材であって、着座面の一端部側から他端部側に向けて傾斜して延びる複数本の第1の溝群に対して前記一端部側から前記他端部側に向けて前記第1の溝群と反対方向に傾斜して延びる複数本の第2の溝群が互いに交差することによって複数の略菱形の格子状溝が前記表皮材の前記着座面に形成されていることを特徴とする。
【0007】
第1発明によれば、パッド体の着座面側を被覆する表皮材が、一枚の成形された樹脂シートで形成されているので複数のピースを縫製により一体化する必要がなく作業性良く乗物用シートの構成部材を製造することができるので低コストである。また、乗物用シートの構成部材における表皮材の着座面に複数の略菱形の格子溝が形成されているので、乗員が着座したときに着座面に垂直な方向に変形しやすくクッション感を高めることができる。
【0008】
本発明の第2発明は、上記第1発明において、前記第1の溝群と前記第2の溝群とは、いずれも、各溝の深さが前記一端部側から前記他端部側に向かうにつれて徐々に大きくなるように変化するとともに、各溝間の間隔が前記一端部側から前記他端部側に向かうにつれて徐々に大きくなるように変化するように形成されていることを特徴とする。
【0009】
第2発明によれば、第1の溝群と第2の溝群とは、いずれも、各溝の深さが一端部側から他端部側に向かうにつれて徐々に大きくなるように、かつ第1の溝群と第2の溝群の交差により形成される格子状溝の略菱形形状は、一端部側で小さく他端部側に向かうにつれて徐々に大きくなるように形成されている。これによって、他端部側の略菱形形状は一端部側の菱形形状より着座面に対して垂直方向に変形しやすくなり、一端部側の着座面より他端部側の着座面をクッション感を高めたものにすることができる。
【0010】
本発明の第3発明は、上記第2発明において、前記乗物用シートの構成部材は、シートクッション用のものであって、前記一端部側は前端部側であり前記他端部側は後端部側であることを特徴とする。
【0011】
第3発明によれば、シートクッションの着座面において、前端部側の着座乗員の大腿部を支持する部分よりも後端部側の着座乗員の臀部を支持する部分の方のクッション感を高めて座り心地を向上させることができる。
【0012】
本発明の第4発明は、上記第2発明において、前記乗物用シートの構成部材は、シートバック用のものであって、前記一端部側は上端部側であり前記他端部側は下端部側であることを特徴とする。
【0013】
第4発明によれば、シートバックの着座面において、上端部側の着座乗員の背部を支持する部分よりも下端部側の着座乗員の腰部を支持する部分の方のクッション感を高めて座り心地を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】自動車用シートを斜め前方から見た斜視図である。
図2図1に示す自動車用シートにおけるシートクッション構成部材を上から見た図である。
図3図2のIII-III矢視線断面図である。
図4図2のIV-IV矢視線断面図である。
図5図3のV部分を拡大して示す図である。
図6図4のVI部分を拡大して示す図である。
図7図1に示す自動車用シートにおけるシートバック構成部材を前から見た図である。
図8図7のVIII-VIII矢視線断面図である。
図9図7のIX-IX矢視線断面図である。
図10】シートクッション構成部材の製造工程を説明する図である。
図11】シートクッション構成部材の製造工程を説明する図である。
図12】シートクッション構成部材の製造工程を説明する図である。
図13】シートクッション構成部材の製造工程を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1図6及び図10図13は、本発明の一実施形態を示す。この実施形態は、自動車用シート1におけるシートクッション2のクッション構成部材20に本発明を適用した例である。各図中、矢印により自動車用シート1を自動車に取付けたときの自動車用シート1及び自動車の各方向を示している。以下の説明において、方向に関する記述は、この方向を基準として行うものとする。自動車用シート1は、着座部となるシートクッション2と、背凭れとなるシートバック3と、を有する。ここで、自動車用シート1が、特許請求の範囲の「乗物用シート」に相当し、クッション構成部材20が「構成部材」に相当する。
【0016】
図1図3に示すように、シートクッション2は、骨格を成すクッションフレーム(図示せず)と、クッションフレームの上に載置されたクッション構成部材20と、を有する。クッションフレームは、クッション構成部材20を着座面20Sと反対側の裏面20Rに当接して支えるパン形状をしている。クッション構成部材20は、クッション材であるクッションパッド21と、表皮材であるクッションカバー22と、を有する。ここで、クッションパッド21が、特許請求の範囲の「パッド体」に相当し、クッションカバー22が、特許請求の範囲の「表皮材」に相当する。
【0017】
図2図6に示すように、クッション構成部材20は、着座面20Sにおいて着座乗員の臀部と大腿部を下から支持するメイン部20aと、メイン部20aの左右両側に位置して着座乗員の臀部と大腿部を側方から支持するサイド部20bと、を有する。メイン部20aに対して各サイド部20bは、上方に向かって盛り上がるように形成されている。メイン部20aは、前後方向長さの前側3/4程度を占める前メイン部20a1と、前後方向長さの後側1/4程度を占める後メイン部20a2と、を有する。前メイン部20a1と後メイン部20a2には、略格子状の溝形状が賦形されている。
【0018】
図2図6に示すように、クッションカバー22は、肉厚1mm程度の薄肉の塩化ビニル樹脂のシートが真空成形によって賦形されたものである。前メイン部20a1には、前方から後方に向かうにつれて徐々に拡大する菱形模様22Dが形成されている。具体的には、前端部において左右方向等間隔に配置され、後方に向かうにつれて徐々に深さを大きくするとともに、隣り合う間隔を左方向に拡大させながら延びる複数の左斜行溝22aと、前端部において左右方向等間隔に配置され、後方に向かうにつれて徐々に深さを大きくするとともに、隣り合う間隔を右方向に拡大させながら延びる複数の右斜行溝22bと、が形成されている。複数の左斜行溝22aと複数の右斜行溝22bは、上から見てシート幅方向の中心線に関して左右対称の関係にある。複数の左斜行溝22aと複数の右斜行溝22bとが重ね合わされることによって、複数の菱形模様22Dが形成されている。各菱形模様22Dは、左右方向にはほぼ同一形状で並ぶとともに、前後方向においては前側において左右方向の対角線の寸法が小さく後側に向かうにつれて左右方向の対角線の寸法が大きくなるようになっている。また、各菱形模様22Dにおける前後方向の対角線の寸法は、前側から後側にかけてほぼ同一である。前側の断面である図3及び図5と、後側の断面である図4及び図6を比較すると、後側における左斜行溝22aと右斜行溝22bの交わる部分である後交差部22d1の溝深さは、前側における左斜行溝22aと右斜行溝22bの交わる部分である前交差部22c1の溝深さの2倍程度に設定されている。また、隣り合う後交差部22d1間の左右方向寸法は、隣り合う前交差部22c1間の左右方向寸法の2倍程度に設定されている。これによって、後側の左斜行溝22aと右斜行溝22bによって囲まれる菱形模様22Dの後平坦部22d2は、前側の左斜行溝22aと右斜行溝22bによって囲まれる菱形模様22Dの前平坦部22c2より上下方向及び左右方向に撓みやすくなっている。この複数の左斜行溝22aと複数の右斜行溝22bとの組み合わせによって、クッションカバー22の前メイン部20a1は、前方から後方に向かうにつれて徐々に上下方向及び左右方向に変形しやすくなっている。また、図6によく示されるように、後平坦部22d2と後交差部22d1との間には段差部22d3が形成されているので後交差部22d1が撓みの起点となりより撓みやすくなっている。さらに、段差部22d3の存在は、後平坦部22d2を際立たせて意匠性を向上させる効果もある。ここで、複数の左斜行溝22aと複数の右斜行溝22bが、それぞれ特許請求の範囲の「第1の溝群」と「第2の溝群」に相当する。
【0019】
後メイン部20a2には、前メイン部20a1の後端部側とほぼ同じ大きさの菱形模様23Dが形成されている。具体的には、前端部から後端部にかけてほぼ等間隔で後左方向に向かって延びる複数の後左行溝23aと、前端部から後端部にかけてほぼ等間隔で後右方向に向かって延びる複数の後右行溝23bと、が重ね合わされることによって、複数の菱形模様23Dが形成されている。複数の菱形模様23Dは、前メイン部20a1の前後方向中央部における菱形模様22Dとほぼ同一形状に形成されている。
【0020】
図2図6に示すように、クッションパッド21は、真空成形によって賦形されたクッションカバー22の着座面20Sと反対側の裏面側に対して一体発泡成形された密度が10~60kg/m3程度のポリウレタンフォームの成形体である。真空成形によって賦形されたクッションカバー22を裏面側から支えることによってクッション構成部材20の外形を形成している。
【0021】
図10図13に基づきクッション構成部材20の製造方法について説明する。図10に示すように、クッション構成部材20の着座面20Sの形状に対応したキャビティ面5aを有する下型5の上に加熱して溶融軟化させた状態の塩化ビニル樹脂のシート材6を載置し端末部を下型のパーティング面5bに対して図示しないクランプで押圧して固定する。ここで、下型5はキャビティ面5aに配設された複数の真空孔を有し、下型5の下方から型内の空気を吸引することによって複数の真空孔からシート材6とキャビティ面5aの間の空気を吸引してシート材6をキャビティ面5aに密着させことのできる、いわゆる真空成型型である。次に図11に示すように、下型5の下方から内部の空気を吸引するとともに複数の真空孔からシート材6とキャビティ面5aの間の空気を吸引してシート材6をキャビティ面5aに密着させ、その状態で冷却することによってシート材6をキャビティ面5aに沿った形状に成形する。このとき、シート材6を真空成形しやすくするために上方からプラグ(図示せず)でシート材6を押圧しながら型内の空気を吸引するようにするとよい。続いて、図12に示すように、下型5の下方から内部の空気を吸引し続けた状態で、シート材6が成形されて形成されたクッションカバー22の裏面側である上面側にクッションパッド21の原料であるウレタン発泡樹脂原料7を成形機のノズル8から必要量吐出する。そして、図13に示すように、下型5に対しクッション構成部材20の裏面20Rの形状に対応したキャビティ面9aを有する上型9を閉じてウレタン発泡樹脂原料7を発泡硬化させてクッションパッド21とする。最後に、クッションカバー22に対してクッションパッド21が一体発泡成形されたクッション構成部材20を脱型して得る。
【0022】
以上のように構成される実施形態は、以下のような作用効果を奏する。クッションパッド21の着座面20Sの側を被覆するクッションカバー22が、一枚のシート材6から形成されているので複数のピースを縫製により一体化する必要がなく作業性良くクッション構成部材20を製造することができるので低コストである。また、クッション構成部材20におけるクッションカバー22に複数の左斜行溝22aと複数の右斜行溝22bとが重ね合わされることによって、複数の菱形模様22Dが形成されているので、乗員が着座したときに着座面20Sに垂直な方向に変形しやすくクッション感を高めることができる。
【0023】
また、複数の左斜行溝22aと複数の右斜行溝22bは、いずれも各溝の深さが前端部側から後端部側に向かうにつれて徐々に大きくなるように、かつ前端部側における各溝間の間隔より後側における各溝間の間隔の方が徐々に大きくなるように形成されている。そして、後側の左斜行溝22aと右斜行溝22bによって囲まれる菱形模様22Dの後平坦部22d2は、前側の左斜行溝22aと右斜行溝22bによって囲まれる菱形模様22Dの前平坦部22c2より上下方向に撓みやすくなっている。これによって、着座乗員の大腿部が当接する前側の着座面20Sより着座乗員の臀部が当接する後側の着座面20Sの方が垂直な方向に変形しやすくクッション感を高めたものにすることができる。
【0024】
図7図9は、本発明の他の実施形態を示す。この実施形態は、自動車用シート1におけるシートバック3のバック構成部材30に本発明を適用した例である。図1に示すように、シートバック3は、骨格を成すバックフレーム(図示せず)と、バックフレームの上に載置されたバック構成部材30と、を有する。バック構成部材30は、クッション材であるバックパッド31と、表皮材であるバックカバー32と、を有する。ここで、バック構成部材30が、特許請求の範囲の「構成部材」に相当する。また、バックパッド31が、特許請求の範囲の「パッド体」に相当し、バックカバー32が、特許請求の範囲の「表皮材」に相当する。
【0025】
図7図9に示すように、バック構成部材30は、下側の下部分33と、上側の上部分34と、を有している。下部分33は、着座乗員の腰部と背部を後ろから支持する下メイン部33aと、下メイン部33aの左右両側に位置して着座乗員の腰部を側方から支持する下サイド部33bと、を有する。下メイン部33aは、下端部側から上端部側に向かうにつれて左右方向の寸法が徐々に小さくなるように形成されている。各下サイド部33bは、下メイン部33aの上下方向略中央部から左右方向に延びるとともに前方に向けて盛り上がるように形成されている。上部分34は、着座乗員の頭部を後ろから支持するヘッドレスト部34aと、ヘッドレスト部34aの下端部側とした下メイン部33aの上端部側とを連結する上メイン部34bと、上メイン部34b及び下メイン部33aの左右両側に位置して着座乗員の背部を側方から支持する上サイド部34cと、を有する。下メイン部33aと上メイン部34bの境界線35は、バック構成部材30の上下方向中央部の若干上方に位置している。下メイン部33aと、上メイン部34b及び各上サイド部34cのシート幅方向内側部分には、略格子状の溝形状が賦形されている。
【0026】
図7図9に示すように、バックカバー32は、クッションカバー22と同じように肉厚1mm程度の薄肉の塩化ビニル樹脂のシートが真空成形によって賦形されたものである。下メイン部33aには、上方から下方に向かうにつれて徐々に拡大する菱形模様33Dが形成されている。具体的には、上端部において左右方向等間隔に配置され、下方に向かうにつれて徐々に深さを大きくするとともに、隣り合う間隔を左方向に拡大させながら延びる複数の左斜行溝32aと、上端部において左右方向等間隔に配置され、下方に向かうにつれて徐々に深さを大きくするとともに、隣り合う間隔を右方向に拡大させながら延びる複数の右斜行溝32bと、が形成されている。複数の左斜行溝32aと複数の右斜行溝32bは、前から見てシート幅方向の中心線に関して左右対称の関係にある。複数の左斜行溝32aと複数の右斜行溝32bとが重ね合わされることによって、複数の菱形模様33Dが形成されている。各菱形模様33Dは、左右方向にはほぼ同一形状で並ぶとともに、上下方向においては、上側において左右方向の対角線の寸法及び上下方向の対角線の寸法とも小さく、下側に向かうにつれて左右方向の対角線の寸法及び上下方向の対角線の寸法とも大きくなるようになっている。上側の断面である図8と、下側の断面である図9を比較すると、下側における左斜行溝32aと右斜行溝32bの交わる部分である下交差部32d1の溝深さは、上側における左斜行溝32aと右斜行溝32bの交わる部分である上交差部32c1の溝深さの2倍程度に設定されている。また、隣り合う下交差部32d1間の左右方向寸法は、隣り合う上交差部32c1間の左右方向寸法の3倍程度に設定されている。これによって、下側の左斜行溝32aと右斜行溝32bによって囲まれる菱形模様33Dの下平坦部32d2は、上側の左斜行溝32aと右斜行溝32bによって囲まれる菱形模様33Dの上平坦部32c2より前後方向に撓みやすくなっている。この複数の左斜行溝32aと複数の右斜行溝32bとの組み合わせによって、バックカバー32の下メイン部33aは、上方から下方に向かうにつれて徐々に上下方向に変形しやすくなっている。ここで、複数の左斜行溝32aと複数の右斜行溝32bが、それぞれ特許請求の範囲の「第1の溝群」と「第2の溝群」に相当する。
【0027】
上メイン部34b及び各上サイド部34cのシート幅方向内側部分には、下メイン部33aにおける上端部側の若干下側とほぼ同じ大きさの菱形模様35Dが形成されている。具体的には、上端部から下端部にかけてほぼ等間隔で下左方向に向かって延びる複数の上左行溝35aと、上端部から下端部にかけてほぼ等間隔で下右方向に向かって延びる複数の上右行溝35bと、が重ね合わされることによって、複数の菱形模様35Dが形成されている。複数の菱形模様35Dは、下メイン部33aにおける上端部側の若干下側における菱形模様33Dとほぼ同一形状に形成されている。
【0028】
図8及び図9に示すように、バックパッド31は、真空成形によって賦形されたバックカバー32の着座面と反対側の裏面側に対して一体発泡成形された密度が10~60kg/m3程度のポリウレタンフォームの成形体である。真空成形によって賦形されたバックカバー32を裏面側から支えることによってシートバック3の外形を形成している。
【0029】
バック構成部材30の製造方法は、クッション構成部材20の製造方法と同じである。下型5の代わりに、バック構成部材30の着座面30Sの側の形状に対応したキャビティ面を有する下型を使用するとともに、上型9の代わりに、バック構成部材30の裏面30Rの側の形状に対応したキャビティ面を有する上型を使用する。
【0030】
以上のように構成される実施形態は、以下のような作用効果を奏する。バックパッド31の着座面30Sの側を被覆するバックカバー32が、一枚のシート材6から形成されているので複数のピースを縫製により一体化する必要がなく作業性良くバック構成部材30を製造することができるので低コストである。また、バック構成部材30におけるバックカバー32に複数の左斜行溝32aと複数の右斜行溝32bとが重ね合わされることによって、複数の菱形模様33Dが形成されているので、乗員が着座したときに着座面30Sに垂直な方向に変形しやすくクッション感を高めることができる。
【0031】
また、複数の左斜行溝32a複数の右斜行溝32bは、いずれも各溝の深さが上端部側から他端部側に向かうにつれて徐々に大きくなるように、かつ上端部側における各溝間の間隔より下側における各溝間の間隔の方が徐々に大きくなるように形成されている。そして、下側の左斜行溝32aと右斜行溝32bによって囲まれる菱形模様33Dの下平坦部32d2は、上側の左斜行溝32aと右斜行溝32bによって囲まれる菱形模様33Dの上平坦部32c2より前後方向に撓みやすくなっている。これによって、着座乗員の背部が当接する上側の着座面30Sより着座乗員の腰部が当接する下側の着座面30Sの方が垂直な方向に変形しやすくクッション感を高めたものにすることができる。
【0032】
以上、特定の実施形態について説明したが、本発明は、それらの外観、構成に限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更、追加、削除が可能である。例えば、次のようなものが挙げられる。
【0033】
1.上記実施形態においては、シート材6として、塩化ビニル樹脂製のものを使用したが、これに限らず熱可塑性のある樹脂のシート材であるならば使用可能である。例えば、TPE樹脂製のシート材であってもよい。
【0034】
2.上記実施形態においては、クッション構成部材20における、複数の左斜行溝22a複数の右斜行溝22bは、いずれも前端部側における各溝間の間隔より後側における各溝間の間隔の方が徐々に大きくなるように形成した。しかし、これに限らず、複数の左斜行溝22a複数の右斜行溝22bは、いずれも後端部側における各溝間の間隔より前側における各溝間の間隔の方が徐々に大きくなるように形成してもよい。バック構成部材30についても、同様である。
【0035】
3.上記実施形態においては、図6に示す後交差部22d1の断面形状を略V字状としたが、これに限らず後交差部22d1の底面部を小さい山を設けた略W字状に形成することもできる。これによって、さらに後交差部22d1を撓みの起点としてより撓みやすくすることができる。
【0036】
4.上記実施形態においては、本発明を自動車用シート1のシートクッション2又はシートバック3に適用したが、飛行機、船、電車等に搭載のシートのシートクッション又はシートバックに適用しても良い。
【符号の説明】
【0037】
1 自動車用シート(乗物用シート)
2 シートクッション
3 シートバック
6 シート材
20 クッション構成部材(構成部材)
20a メイン部
20a1 前メイン部
20a2 後メイン部
20S 着座面
20R 裏面
21 クッションパッド(パッド体)
22 クッションカバー(表皮材)
22a 左斜行溝(第1の溝群)
22b 右斜行溝(第2の溝群)
22D 菱形模様
30 バック構成部材(構成部材)
30S 着座面
30R 裏面
31 バックパッド(パッド体)
32 バックカバー(表皮材)
32a 左斜行溝(第1の溝群)
32b 右斜行溝(第2の溝群)
33a 下メイン部
33D 菱形模様
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13