(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162421
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】三相インバータ装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20241114BHJP
【FI】
H02M7/48 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023077909
(22)【出願日】2023-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】516131843
【氏名又は名称】ANP株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】516091112
【氏名又は名称】神崎産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095267
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 高城郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124176
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 典子
(74)【代理人】
【識別番号】100224269
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 佑太
(72)【発明者】
【氏名】羽田 正二
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770AA02
5H770AA05
5H770BA01
5H770CA06
5H770DA03
5H770DA10
5H770DA41
5H770EA11
5H770EA15
(57)【要約】
【課題】三相インバータ装置において簡易な構成により正弦波に近い出力線間電圧を得る。
【解決手段】三相インバータ装置であって、3相に対応する3つのレグを有するインバータ部と、インバータ部をオンオフ制御する制御部と、を備え、制御部は、出力する三相交流の一周期における各60°の6つの位相期間において順次、第1相の上アームスイッチ素子と第2相の下アームスイッチ素子のみをオン状態、第1相の上アームスイッチ素子と第3相の下アームスイッチ素子のみをオン状態、第2相の上アームスイッチ素子と第3相の下アームスイッチ素子のみをオン状態、第2相の上アームスイッチ素子と第1相の下アームスイッチ素子のみをオン状態、第3相の上アームスイッチ素子と第1相の下アームスイッチ素子のみをオン状態、第3相の上アームスイッチ素子と第2相の下アームスイッチ素子のみをオン状態、とする制御を行う。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流を三相交流に変換して三相誘導モータへ出力する三相インバータ装置であって、
各相毎に直列接続された上アームスイッチ素子と下アームスイッチ素子とを具備する3つのレグを有し、前記3つのレグの各々の両端間に直流電圧が印加されると共に直列接続された各接続点が前記三相誘導モータへの各出力端子であるインバータ部と、
各前記上アームスイッチ素子及び各前記下アームスイッチ素子をそれぞれオンオフ制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、出力する三相交流の一周期における各60°の6つの位相期間において順次、
第1相の上アームスイッチ素子と第2相の下アームスイッチ素子のみをオン状態、
第1相の上アームスイッチ素子と第3相の下アームスイッチ素子のみをオン状態、
第2相の上アームスイッチ素子と第3相の下アームスイッチ素子のみをオン状態、
第2相の上アームスイッチ素子と第1相の下アームスイッチ素子のみをオン状態、
第3相の上アームスイッチ素子と第1相の下アームスイッチ素子のみをオン状態、
第3相の上アームスイッチ素子と第2相の下アームスイッチ素子のみをオン状態、とする制御を行う三相インバータ装置。
【請求項2】
前記直流電圧の値をEとすると、前記出力する三相交流の線間電圧の値は、一周期における各60°の6つの位相期間において順次、E、E/2、0、-E/2、-Eとなる、請求項1に記載の三相インバータ装置。
【請求項3】
前記制御部は、出力する三相交流の周波数を変更するように制御可能である、請求項1に記載の三相インバータ装置。
【請求項4】
前記制御部は、三相誘導モータの現在の回転速度よりも低い同期速度となるように三相交流の周波数を変更することによって三相誘導モータに発電させる、請求項3に記載の三相インバータ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導モータを駆動する三相インバータ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インバータ装置は、直流電圧を交流電圧に変換する装置であるが、同装置は逆に交流電圧を直流電圧に変換することも可能である。
図6は、三相インバータ回路の例を概略的に示している。ここではMOS電界効果トランジスタ(MOSFET)である上アームスイッチ素子S1、S3、S5と下アームスイッチ素子S2、S4、S6とが、各相毎にそれぞれ直列接続され、三相フルブリッジ回路を構成している。入力端子間に-E/2~E/2の直流電圧が印加される。各スイッチ素子のオンオフは、制御端に印加される所定のゲート駆動電圧VG1~VG6によりそれぞれ制御される。直列接続された各接続点が三相交流の出力端子a、b、cであり、三相誘導モータMに接続されている。
【0003】
図7は、
図6の三相インバータ回路の動作波形の一例である。a相、b相、c相の各相の上アームスイッチ素子と下アームスイッチ素子は背反的にオンオフし、各相間の位相差は120°である。ここでは一周期(位相0~360°)におけるスイッチ素子の通流率は0.5としている。Vao、Vbo、Vcoは、各出力端子a、b、cと直流電源の中点との間の出力相電圧である。Vab、Vbc、Vcaは、出力線間電圧である。この場合、出力相電圧Vao、Vbo、Vcoが-E/2とE/2の2つの値をとる2レベルインバータである。出力線間電圧Vab、Vbc、Vcaは、-E、0、Eの3つの値を繰り返す三相交流となる。
【0004】
出力電流を正弦波に近くするために、スイッチ素子のゲート駆動電圧をPWM(パルス幅変調)制御することも周知である(特許文献1)。また、出力相電圧が3値やそれ以上の値をとる3レベルインバータやマルチレベルインバータも周知である(特許文献2)。3レベル以上のインバータ回路では、各相の上アームと下アームにスイッチ素子が2つずつ配置される方式など幾つかの方式があり、2レベルインバータに比べて複雑な回路構成となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000-102257号公報
【特許文献2】特開平10-285950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
PWM制御を行うと出力電流は正弦波に近くなり高調波成分は低減されるがPWM制御自体のスイッチング動作により高周波ノイズが発生する。またPWM制御のための制御部の構成も複雑となる。また、3レベル以上のインバータは、出力線間電圧が正弦波に近くなるが、素子が多く回路が複雑となる。複雑な構成はコスト高となる。
【0007】
以上に鑑み本発明は、三相インバータ装置において、簡易な構成により正弦波に近い出力線間電圧を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するべく、本発明は、以下の構成を提供する。
[1]本発明の態様は、直流を三相交流に変換して三相誘導モータへ出力する三相インバータ装置であって、
各相毎に直列接続された上アームスイッチ素子と下アームスイッチ素子とを具備する3つのレグを有し、前記3つのレグの各々の両端間に直流電圧が印加されると共に直列接続された各接続点が前記三相誘導モータへの各出力端子であるインバータ部と、
各前記上アームスイッチ素子及び各前記下アームスイッチ素子をそれぞれオンオフ制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、出力する三相交流の一周期における各60°の6つの位相期間において順次、
第1相の上アームスイッチ素子と第2相の下アームスイッチ素子のみをオン状態、
第1相の上アームスイッチ素子と第3相の下アームスイッチ素子のみをオン状態、
第2相の上アームスイッチ素子と第3相の下アームスイッチ素子のみをオン状態、
第2相の上アームスイッチ素子と第1相の下アームスイッチ素子のみをオン状態、
第3相の上アームスイッチ素子と第1相の下アームスイッチ素子のみをオン状態、
第3相の上アームスイッチ素子と第2相の下アームスイッチ素子のみをオン状態、とする制御を行うものである。
[2]上記態様において、前記直流電圧の値をEとすると、前記出力する三相交流の線間電圧の値は、一周期における各60°の6つの位相期間において順次、E、E/2、0、-E/2、-Eとなる。
[3]上記態様において、前記制御部は、出力する三相交流の周波数を変更するように制御可能である。
[4]上記態様において、前記制御部は、三相誘導モータの現在の回転速度よりも低い同期速度となるように三相交流の周波数を変更することによって三相誘導モータに発電させる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、三相インバータ装置において、簡易な構成により正弦波に近い出力線間電圧を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、三相インバータ装置とそれに接続された直流電源及び三相誘導モータとを含むシステム構成を概略的に示している。
【
図2】
図2は、
図1の三相インバータ装置の動作波形を模式的に示した例である。
【
図4】
図4は、
図1とは別のシステム構成を概略的に示している。
【
図5】
図5は、本発明の三相インバータ装置による一相分の実際の出力電圧波形を示している。
【
図6】
図6は、三相インバータ回路の例を概略的に示している。
【
図7】
図7は、
図6の三相インバータ回路の動作波形の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、例示としての図面を参照しつつ、本発明による直流開閉器の実施形態について説明する。
【0012】
(1)三相インバータ装置の構成
図1は、三相インバータ装置10とそれに接続された直流電源20及び三相誘導モータ30とを含むシステム構成を概略的に示している。直流電源20は、正極端子21と負極端子22との間にE[V]の直流電圧を出力する。図示の例では直流電源の中点Oが接地されており、中点Oを直流側の基準電位とする。三相インバータ装置10は、直流電源20が出力する直流電圧を印加される。
【0013】
三相インバータ装置10は、インバータ部11及び制御部12を備えている。インバータ部11は三相フルブリッジ回路から構成されている。a相、b相、c相に対応する3つのレグ11a、11b、11cを有する。レグ11aは、直列接続された上アームスイッチ素子S1と下アームスイッチ素子S2とを有し、その接続点がa相の出力端子aである。レグ11bは、直列接続された上アームスイッチ素子S3と下アームスイッチ素子S4とを有し、その接続点がb相の出力端子bである。レグ11cは、直列接続された上アームスイッチ素子S5と下アームスイッチ素子S6とを有し、その接続点がc相の出力端子cである。
【0014】
図示の例では各スイッチ素子S1~S6は、MOSFETであり、ゲートである制御端に印加される制御電圧VG1~VG6によりそれぞれ駆動され、ドレインソース間の電流路の導通(オン)と非導通(オフ)を制御される。MOSFETに替えて、バイポーラトランジスタ又はIGBTを用いることができるが、その場合、各スイッチ素子に、MOSFETの寄生ダイオードと同じ向きに還流ダイオードを並列接続する。MOSFETの寄生ダイオード又は還流ダイオードは、電流が負荷側から直流電源へ戻る経路として必要である。
【0015】
直流電圧Eは、3つのレグ11a、11b、11cの両端間に印加される。各上アームスイッチ素子S1、S3、S5のドレインが直流電源20の正極端子21に、各下アームスイッチ素子S2、S4、S6のソースが直流電源20の負極端子22に接続される。
【0016】
制御部12は、インバータ部11の各スイッチ素子S1~S6をオンオフするためのゲート駆動電圧VG1~VG6を生成する。図示の例では、シフトレジスタ12aと、ゲート駆動部12bとを有する。シフトレジスタ12aの6個の出力端子Q1~Q6は、ゲート駆動部12bに接続されている。出力端子Q1~Q2から所定の周期で順次パルス電圧が出力されることに応じて、ゲート駆動部12bは、6個の出力端子の各々のゲート駆動電圧VG1~VG6のハイレベルとローレベルの切換を制御する。
【0017】
三相インバータ装置10の三相出力端子a、b、cは、誘導モータ30の三相入力端子にそれぞれ接続される。出力端子a、b、cの線間電圧Vab、Vbc、Vcaは、同じ振幅で位相が120°ずつずれた波形となる。この線間電圧Vab、Vbc、Vcaによる三相交流電流が誘導モータ30の固定子巻線R、S、Tに流れることによって回転磁界が発生し、誘導モータ30の回転子(図示せず)が所定の滑りsを伴って回転する。図示の例では、固定子巻線R、S、Tは、Y結線されている。
【0018】
図2は、
図1の三相インバータ装置10の動作波形を模式的に示した例である。シフトレジスタ12aの6個の出力端子Q1~Q6は、三相インバータ装置10の出力周波数fの一周期(位相0~360°)に相当する期間に、位相60°毎に順次1つのパルスを発生する。これらのパルスがゲート駆動部12bに順次入力される。これにより、ゲート駆動部12bは、各60°の6つの位相期間において以下の第1~第6の動作モードが順次実行されるように、ゲート駆動電圧VG1~VG6を発生する。これが各周期において繰り返される。
【0019】
第1のモード(位相0°~60°の期間)において、ゲート駆動部12bに端子Q1からのパルスが入力されると、ゲート駆動部12bは、ゲート駆動電圧VG1及びVG4をハイレベルとし、それ以外のゲート駆動電圧はローレベルとする。第1のモードでは、a相レグの上アームスイッチ素子S1とb相レグの下アームスイッチ素子S4のみがオン状態であり、他のスイッチ素子はオフ状態である。
【0020】
第2のモード(位相60°~120°の期間)において、ゲート駆動部12bに端子Q2からのパルスが入力されると、ゲート駆動部12bは、ゲート駆動電圧VG1及びVG6をハイレベルとし、それ以外のゲート駆動電圧はローレベルとする。第2のモードでは、a相レグの上アームスイッチ素子S1とc相レグの下アームスイッチ素子S6のみがオン状態であり、他のスイッチ素子はオフ状態である。
【0021】
第3のモード(位相120°~180°の期間)において、ゲート駆動部12bに端子Q3からのパルスが入力されると、ゲート駆動部12bは、ゲート駆動電圧VG3及びVG6をハイレベルとし、それ以外のゲート駆動電圧はローレベルとする。第3のモードでは、b相レグの上アームスイッチ素子S3とc相レグの下アームスイッチ素子S6のみがオン状態となり、他のスイッチ素子はオフ状態である。
【0022】
第4のモード(位相180°~240°の期間)において、ゲート駆動部12bに端子Q4からのパルスが入力されると、ゲート駆動部12bは、ゲート駆動電圧VG3及びVG2をハイレベルとし、それ以外のゲート駆動電圧はローレベルとする。第4のモードでは、b相レグの上アームスイッチ素子S3とa相レグの下アームスイッチ素子S2のみがオン状態となり、他のスイッチ素子はオフ状態である。
【0023】
第5のモード(位相240°~300°の期間)において、ゲート駆動部12bに端子Q5からのパルスが入力されると、ゲート駆動部12bは、ゲート駆動電圧VG5及びVG2をハイレベルとし、それ以外のゲート駆動電圧はローレベルとする。第5のモードでは、c相レグの上アームスイッチ素子S5とa相レグの下アームスイッチ素子S2のみがオン状態となり、他のスイッチ素子はオフ状態である。
【0024】
第6のモード(位相300°~360°の期間)において、ゲート駆動部12bに端子Q6からのパルスが入力されると、ゲート駆動部12bは、ゲート駆動電圧VG5及びVG4をハイレベルとし、それ以外のゲート駆動電圧はローレベルとする。第6のモードでは、c相レグの上アームスイッチ素子S5とb相レグの下アームスイッチ素子S4のみがオン状態となり、他のスイッチ素子はオフ状態である。
【0025】
3相フルブリッジ回路においては、a相、b相、c相の各レグにおける上アームスイッチ素子と下アームスイッチ素子は同時にオン状態となることはない。上記の各動作モードにおいては、1つのレグの上アームスイッチ素子と別のレグの下アームスイッチ素子の2つのスイッチ素子のみが同時にオン状態となり、それら以外の全てのスイッチ素子はいずれもオフ状態である。
【0026】
そして、上アームスイッチ素子がオン状態で下アームスイッチ素子がオフ状態であるレグにおける出力端子と中点Oの間の出力相電圧はE/2[V]となる。上アームスイッチ素子がオフ状態で下アームスイッチ素子がオン状態であるレグにおける出力端子と中点Oの間の出力相電圧は-E/2[V]となる。上下アームのスイッチ素子のいずれもオフ状態であるレグにおける出力端子と中点Oの間の出力相電圧は0[V]となる。
【0027】
第1モードでは、出力端子aの相電圧VaoはE/2[V]、出力端子bの相電圧Vboは-E/2[V]、出力端子cの相電圧Vcoは0[V]となる。よって、線間電圧VabはE[V]、線間電圧Vbcは-E/2[V]、線間電圧Vcaは-E/2[V]となる。
【0028】
第2モードでは、出力端子aの相電圧VaoはE/2[V]、出力端子bの相電圧Vboは0[V]、出力端子cの相電圧Vcoは-E/2[V]となる。よって、線間電圧VabはE/2[V]、線間電圧VbcはE/2[V]、線間電圧Vcaは-E[V]となる。
【0029】
第3モードでは、出力端子aの相電圧Vaoは0[V]、出力端子bの相電圧VboはE/2[V]、出力端子cの相電圧Vcoは-E/2[V]となる。よって、線間電圧Vabは-E/2[V]、線間電圧VbcはE[V]、線間電圧Vcaは-E/2[V]となる。
【0030】
第4モードでは、出力端子aの相電圧Vaoは-E/2[V]、出力端子bの相電圧VboはE/2[V]、出力端子cの相電圧Vcoは0[V]となる。よって、線間電圧Vabは-E[V]、線間電圧VbcはE/2[V]、線間電圧VcaはE/2[V]となる。
【0031】
第5モードでは、出力端子aの相電圧Vaoは-E/2[V]、出力端子bの相電圧Vboは0[V]、出力端子cの相電圧VcoはE/2[V]となる。よって、線間電圧Vabは-E/2[V]、線間電圧Vbcは-E/2[V]、線間電圧VcaはE[V]となる。
【0032】
第6モードでは、出力端子aの相電圧Vaoは0[V]、出力端子bの相電圧Vboは-E/2[V]、出力端子cの相電圧VcoはE/2[V]となる。よって、線間電圧VabはE/2[V]、線間電圧Vbcは-E[V]、線間電圧VcaはE/2[V]となる。
【0033】
図3の表は、
図2の動作をまとめたものである。三相インバータ装置10は、出力相電圧Vao、Vbo、Vcoが、-E/2と0とE/2の3つの値をとる3レベルインバータである。また、出力線間電圧Vab、Vbc、Vcaは、-E、-E/2、0、E/2、Eの5つの値を繰り返す三相交流電圧となる。
【0034】
誘導モータ30のY結線された固定子巻線R、S、Tに印加される電圧は以下の通りとなる。
出力線間電圧Vabの絶対値がEのとき、固定子巻線RとSは直列接続されているので、線間電圧Vabの絶対値の1/2であるE/2[V]が固定子巻線RとSの相電圧としてそれぞれ印加される。このとき固定子巻線Tの両端電圧は0[V]である。
出力線間電圧Vbcの絶対値がEのとき、固定子巻線SとTは直列接続されているので、線間電圧Vbcの絶対値の1/2であるE/2[V]が固定子巻線SとTの相電圧としてそれぞれ印加される。このとき固定子巻線Rの両端電圧は0[V]である。
出力線間電圧Vcaの絶対値がEのとき、固定子巻線TとRは直列接続されているので、線間電圧Vcaの絶対値の1/2であるE/2[V]が固定子巻線TとRの相電圧としてそれぞれ印加される。このとき固定子巻線Sの両端電圧は0[V]である。
【0035】
通常の三相交流におけるY結線の相電圧は線間電圧の√3分の1であるが、本発明では異なり、2分の1である。
【0036】
図4は、本発明のインバータ装置10を含む、
図1とは別のシステム構成を概略的に示している。この例では、直流電源は中点を設けない1つの直流電圧E[V]で構成される。直流電源の電位基準点は任意に設定できるが、ここでは説明の便宜上、-E/2~E/2の範囲の電圧とする。
図4では、誘導モータ30の固定子巻線R、S、TがΔ結線されている。なお、
図1の制御部12については図示を省略している。
【0037】
図4の構成における三相インバータ装置10の動作波形は、
図2の動作波形図から出力相電圧Vao~Vcoを削除したものと一致する。動作波形図をまとめた表についても、
図3の表から出力相電圧Vao~Vcoを削除したものと一致する。
【0038】
誘導モータ30のΔ結線された固定子巻線R、S、Tに印加される電圧は以下の通りとなる。
出力線間電圧Vabの絶対値がEのとき、固定子巻線Rの相電圧は線間電圧と等しいので固定子巻線RにE[V]が印加される。固定子巻線SとTは直列接続されているので、線間電圧Vabの絶対値の1/2であるE/2[V]が固定子巻線SとTにそれぞれ印加される。
出力線間電圧Vbcの絶対値がEのとき、固定子巻線Sの相電圧は線間電圧と等しいので固定子巻線SにE[V]が印加される。固定子巻線TとRは直列接続されているので、線間電圧Vbcの絶対値の1/2であるE/2[V]が固定子巻線TとRにそれぞれ印加される。
出力線間電圧Vcaの絶対値がEのとき、固定子巻線Tの相電圧は線間電圧と等しいので固定子巻線TにE[V]が印加される。固定子巻線RとSは直列接続されているので、線間電圧Vcaの絶対値の1/2であるE/2[V]が固定子巻線RとSにそれぞれ印加される。
【0039】
上述した
図6及び
図7に示した従来の三相インバータ回路が2レベルインバータであり3つの値の三相交流電圧を出力するのとは対照的に、本発明の三相インバータ装置10は3レベルインバータであり5つの値の三相交流電圧を出力する。本発明の三相インバータ装置10によれば、従来と同様の簡易な回路構成でありながら、その制御方式によって従来よりも滑らかな、より正弦波に近い出力線間電圧が得られる。このような出力電圧によって流れる出力電流もまた、より正弦波に近いものとなる。この結果、三相誘導モータ30はより円滑に回転できることとなる。
【0040】
また、PWM制御を行う場合のような完全な正弦波は得られないが、本発明の制御方式によれば、PWM制御を行う場合の高周波ノイズを発生することなく、極めて簡易な回路構成で正弦波に近い交流波形が得られる。
図5は、本発明の三相インバータ装置10による一相分の実際の出力電圧波形を示している。
【0041】
三相インバータ装置10の出力する三相交流の周波数fによって、誘導モータ30の同期速度Nsが決まる。回転磁界の磁極数をpとすると同期速度Nsは、以下の通りである。
Ns=120f/p[回/毎分]
誘導モータ30の実際の回転速度Nとすると、滑りsは、s=(Ns-N)/Nsで定義されるので、回転速度Nは、以下の通りである。
N=(120f/p)(1-s)[回/毎分]
三相誘導モータ30の滑りsは、電動機として機能する場合は0~1の値をとる。滑りsは、三相誘導モータ30の負荷の要求トルクによって決まる。
【0042】
三相インバータ装置10の三相交流の周波数fは、
図1のシフトレジスタ12aの出力パルスの周波数を変えることで広範囲に制御することができる。これにより、三相誘導モータ30の同期速度Nsを制御できる。例えば、三相誘導モータ30の現時点の回転速度Nを検知して制御部12に送り、それに応じて制御部12が三相インバータ装置10の三相交流の周波数fを制御して同期速度Nsを現時点の回転速度Nよりも小さくする。これにより滑りsが負の値となり、三相誘導モータ30を発電機として機能させることができる。
【0043】
例えば、直流電源20が蓄電池の場合、三相誘導モータ30による発電出力は、三相インバータ装置10を介して蓄電池を充電することができる。また、発電機として機能するとき、三相誘導モータ30は負荷に対するブレーキとしても作用する。発電機として使用する場合、誘導モータはコギングトルクがないので起動が容易である。
【0044】
三相誘導モータは極めて広い範囲で利用されており安価であるので、組み合わせるインバータ装置も低コストとすることが有利であり、その点でも本発明の三相インバータ装置は好適である。
【0045】
以上に述べた本発明の三相インバータ装置は、複雑な回路構成やPWM制御を必要とせず、より正弦波に近い三相交流電圧を発生することができる。本発明の原理に従う限り、多様な変形形態も本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0046】
10 三相インバータ装置
11 インバータ部
11a a相レグ
11b b相レグ
11c c相レグ
12 制御部
12a シフトレジスタ
12b ゲート駆動部
20 直流電源
30 三相誘導モータ
a、b、c 出力端子
S1、S2、S3、S4、S5、S6 スイッチ素子
VG1、VG2、VG3、VG4、VG5、VG6 ゲート駆動電圧
Vao、Vbo、Vco 出力相電圧
Vab、Vbc、Vca 出力相間電圧
R、S、T 固定子巻線