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特開2024-162430磁気冷凍材料、その製造方法、それを用いたAMRベッド、および、磁気冷凍装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162430
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】磁気冷凍材料、その製造方法、それを用いたAMRベッド、および、磁気冷凍装置
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/01 20060101AFI20241114BHJP
   C22C 28/00 20060101ALI20241114BHJP
   C22F 1/16 20060101ALN20241114BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20241114BHJP
【FI】
H01F1/01 150
C22C28/00 A
C22F1/16 Z
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 691Z
C22F1/00 681
C22F1/00 682
C22F1/00 621
C22F1/00 660D
C22F1/00 660Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023077923
(22)【出願日】2023-05-10
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業「磁気冷凍材料および水素液化システムに関する研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】辻井 直人
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 裕也
【テーマコード(参考)】
5E040
【Fターム(参考)】
5E040AA06
5E040AA19
5E040CA20
5E040HB15
5E040NN01
(57)【要約】
【課題】 17K以上77K以下の温度範囲に大きな磁気エントロピー変化を有する磁気冷凍材料、その製造方法、それを用いたAMRベッド、および、磁気冷凍装置を提供すること。
【解決手段】 本発明の磁気冷凍材料は、少なくとも、R元素(R元素は、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、および、エルビウム(Er)からなる群から少なくとも1種選択される元素である)と、T元素(T元素は、白金(Pt)、コバルト(Co)、および、ニッケル(Ni)からなる群から少なくとも1種選択される元素である)と、X元素(X元素は、少なくともアルミニウム(Al)を含む)とを含有し、立方晶GdRhIn型結晶構造を有する無機化合物を含有する。
【選択図】 図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、R元素(R元素は、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、および、エルビウム(Er)からなる群から少なくとも1種選択される元素である)と、T元素(T元素は、白金(Pt)、コバルト(Co)、および、ニッケル(Ni)からなる群から少なくとも1種選択される元素である)と、X元素(X元素は、少なくともアルミニウム(Al)を含む)とを含有し、立方晶GdRhIn型結晶構造を有する無機化合物を含有する、磁気冷凍材料。
【請求項2】
前記無機化合物は、
R:60原子%以上75原子%以下、
T:12.5原子%以上21原子%以下、
X:12.5原子%以上21原子%以下、および、
1原子%以下の不可避不純物元素
からなる組成(ただし、前記R元素、前記T元素、前記X元素および前記不可避不純物元素の合計は100原子%を満たす)を有する、請求項1に記載の磁気冷凍材料。
【請求項3】
前記無機化合物は、
R:65原子%以上70原子%以下、
T:15原子%以上20原子%以下、
X:15原子%以上20原子%以下、および、
1原子%以下の不可避不純物元素
からなる組成を有する、請求項2に記載の磁気冷凍材料。
【請求項4】
前記無機化合物は、
R:65原子%以上68原子%以下、
T:15原子%以上18原子%以下、
X:15原子%以上18原子%以下、および、
1原子%以下の不可避不純物元素
からなる組成を有する、請求項3に記載の磁気冷凍材料。
【請求項5】
前記無機化合物は、一般式RTXで表される相である、請求項1~4のいずれかに記載の磁気冷凍材料。
【請求項6】
前記T元素は、少なくとも白金を含む、請求項1に記載の磁気冷凍材料。
【請求項7】
前記無機化合物は、
R:60原子%以上70原子%以下、
Pt:0原子%より多く21原子%以下、
Coおよび/またはNi:0原子%以上21原子%未満、
X:12.5原子%位以上21原子%以下、
1原子%以下の不可避不純物元素、および、
PtとCoおよび/またはNiとの合計:12.5原子%以上21原子%以下
からなる組成(ただし、前記R元素、前記Pt、前記Coおよび/またはNi、前記X元素、および、前記不可避不純物元素の合計は100原子%を満たす)を有する、請求項6に記載の磁気冷凍材料。
【請求項8】
前記無機化合物は、
R:65原子%以上70原子%以下、
Pt:4原子%以上20原子%以下、
Coおよび/またはNi:0原子%以上16原子%未満、
X:15原子%位以上20原子%以下、
1原子%以下の不可避不純物元素、および、
PtとCoおよび/またはNiとの合計:15原子%以上20原子%以下
からなる組成を有する、請求項7に記載の磁気冷凍材料。
【請求項9】
前記無機化合物は、
R:65原子%以上68原子%以下、
Pt:4原子%以上18原子%以下、
Coおよび/またはNi:0原子%以上16原子%未満、
X:15原子%位以上18原子%以下、
1原子%以下の不可避不純物元素、および、
PtとCoおよび/またはNiとの合計:15原子%以上18原子%以下
からなる組成を有する、請求項8に記載の磁気冷凍材料。
【請求項10】
前記無機化合物は、一般式RPt1-α(Co,Ni)αX(αは、0<α≦0.75を満たす)で表される相である、請求項6に記載の磁気冷凍材料。
【請求項11】
前記X元素は、ケイ素(Si)、マグネシウム(Mg)、および、カドミウム(Cd)からなる群から少なくとも1種選択される元素をさらに含む、請求項1~10のいずれかに記載の磁気冷凍材料。
【請求項12】
一般式R14で表される第二相をさらに含有する、請求項1~11のいずれかに記載の磁気冷凍材料。
【請求項13】
前記第二相の含有量は、0体積%より多く45体積%以下の範囲である、請求項12に記載の磁気冷凍材料。
【請求項14】
前記第二相の含有量は、0体積%より多く40体積%以下の範囲である、請求項13に記載の磁気冷凍材料。
【請求項15】
少なくとも、R元素(R元素は、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、および、エルビウム(Er)からなる群から少なくとも1種選択される元素である)と、T元素(T元素は、白金(Pt)、コバルト(Co)、および、ニッケル(Ni)からなる群から少なくとも1種選択される元素である)と、X元素(X元素は、少なくともアルミニウム(Al)を含む)とを含有し、前記R元素、前記T元素および前記X元素のモル比が、3.8~4.2:0.8~1.2:0.8~1.2を満たす原料混合物を溶解することを包含する、請求項1~14のいずれかに記載の磁気冷凍材料を製造する方法。
【請求項16】
請求項1~14のいずれかに記載の磁気冷凍材料を含む、AMRベッド。
【請求項17】
AMRベッドを備える磁気冷凍装置であって、
前記AMRベッドは、請求項16に記載のAMRベッドである、磁気冷凍装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気冷凍材料、その製造方法、それを用いたAMRベッド、および、磁気冷凍装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エネルギーキャリアの一つとして有望な水素の普及には,高密度で貯蔵・輸送が可能な「液体」の状態での活用が望ましい。その際,水素の液化温度は約20ケルビン(マイナス253度)とヘリウムに次いで低いため、その液化技術の発展・高効率化が不可欠である。従来の気体の圧縮・膨張を利用した液化方式では、液化効率の原理上の上限(約40%)という制限から水素液化のコストも高止まりしているのが現状である。一方、磁場を用いて磁性体を磁化(発熱)・消磁(吸熱)することで伴うエントロピー変化を利用した、磁気熱量効果による磁気冷凍技術は、液化効率が理論上90%まで可能であり、水素普及に向けた貢献が期待されている。
【0003】
水素効率に直結する磁気冷凍材料は、水素が液化する20ケルビン付近において、磁場オン・オフ時によって大きなエントロピー変化を有する必要がある。このような磁気冷凍材料として、立方晶GdRhIn型結晶構造を有するRPdMg(R=Er、Ho、Tm)、RCoCd(R=Er、Ho、Tm)、および、ErNiCdといった材料が報告されている(例えば、非特許文献1を参照)。非特許文献1の表5によれば、これらの材料の0T(テスラ)-5Tにおける磁気エントロピー変化の大きさ(ΔS)は、13.4J/kgK~20.4J/kgK(123.1mJ/cmK~191.8mJ/cmKに同じ)と報告されている。しかしながら、これらの材料は、蒸気圧の非常に高いマグネシウム(Mg)やカドミウム(Cd)を用いるため、製造時にタンタル管への封入を必要とし、コストが高く、少量しか製造できないといった問題がある。
【0004】
立方晶GdRhIn型結晶構造を有する別の材料の報告がある(例えば、非特許文献2~4を参照)。非特許文献2~4は、GdRhAl、TbRhAl、HoRhAl、および、ErRhAlを開示する。これらは、非特許文献1と異なり、アルミニウム(Al)を用いるため、製造が容易となる。しかしながら、非特許文献2~4によれば、GdRhAl、TbRhAl、HoRhAl、および、ErRhAlの0T-5Tにおける磁気エントロピー変化の大きさ(ΔS)は、最大でも8J/kgK(80mJ/cmKに同じ)であり、水素液化には使用できない。
【0005】
このように、立方晶GdRhIn型結晶構造を有する無機化合物であっても、選択する元素によって磁気エントロピー変化は異なり、必ずしも磁気冷凍材料、とりわけ水素液化に使用できるとは限らない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】L.Liら,Journal of Alloys and Compounds,823,2020,153810
【非特許文献2】R.Kumarら,PHYSICAL REVIEW MATERIALS 5,054407,2021
【非特許文献3】R.Kumarら,Journal of Magnetism and Magnetic Materials,490,2019,165515
【非特許文献4】R.Kumarら,Journal of Magnetism and Magnetic Materials,538,2021,168285
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上から、本発明の課題は、17K以上77K以下の温度範囲に大きな磁気エントロピー変化を有する磁気冷凍材料、その製造方法、それを用いたAMRベッド、および、磁気冷凍装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による磁気冷凍材料は、少なくとも、R元素(R元素は、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、および、エルビウム(Er)からなる群から少なくとも1種選択される元素である)と、T元素(T元素は、白金(Pt)、コバルト(Co)、および、ニッケル(Ni)からなる群から少なくとも1種選択される元素である)と、X元素(X元素は、少なくともアルミニウム(Al)を含む)とを含有し、立方晶GdRhIn型結晶構造を有する無機化合物を含有し、これにより上記課題を解決する。
前記無機化合物は、
R:60原子%以上75原子%以下、
T:12.5原子%以上21原子%以下、
X:12.5原子%以上21原子%以下、および、
1原子%以下の不可避不純物元素
からなる組成(ただし、前記R元素、前記T元素、前記X元素および前記不可避不純物元素の合計は100原子%を満たす)を有してもよい。
前記無機化合物は、
R:65原子%以上70原子%以下、
T:15原子%以上20原子%以下、
X:15原子%以上20原子%以下、および、
1原子%以下の不可避不純物元素
からなる組成を有してもよい。
前記無機化合物は、
R:65原子%以上68原子%以下、
T:15原子%以上18原子%以下、
X:15原子%以上18原子%以下、および、
1原子%以下の不可避不純物元素
からなる組成を有してもよい。
前記無機化合物は、一般式RTXで表される相であってよい。
前記T元素は、少なくとも白金を含んでもよい。
前記無機化合物は、
R:60原子%以上70原子%以下、
Pt:0原子%より多く21原子%以下、
Coおよび/またはNi:0原子%以上21原子%未満、
X:12.5原子%位以上21原子%以下、
1原子%以下の不可避不純物元素、および、
PtとCoおよび/またはNiとの合計:12.5原子%以上21原子%以下
からなる組成(ただし、前記R元素、前記Pt、前記Coおよび/またはNi、前記X元素、および、前記不可避不純物元素の合計は100原子%を満たす)を有してもよい。
前記無機化合物は、
R:65原子%以上70原子%以下、
Pt:4原子%以上20原子%以下、
Coおよび/またはNi:0原子%以上16原子%未満、
X:15原子%位以上20原子%以下、
1原子%以下の不可避不純物元素、および、
PtとCoおよび/またはNiとの合計:15原子%以上20原子%以下
からなる組成を有してもよい。
前記無機化合物は、
R:65原子%以上68原子%以下、
Pt:4原子%以上18原子%以下、
Coおよび/またはNi:0原子%以上16原子%未満、
X:15原子%位以上18原子%以下、
1原子%以下の不可避不純物元素、および、
PtとCoおよび/またはNiとの合計:15原子%以上18原子%以下
からなる組成を有してもよい。
前記無機化合物は、一般式RPt1-α(Co,Ni)αX(αは、0<α≦0.75を満たす)で表される相であってもよい。
前記X元素は、ケイ素(Si)、マグネシウム(Mg)、および、カドミウム(Cd)からなる群から少なくとも1種選択される元素をさらに含んでもよい。
一般式R14で表される第二相をさらに含有してもよい。
前記第二相の含有量は、0体積%より多く45体積%以下の範囲であってもよい。
前記第二相の含有量は、0体積%より多く40体積%以下の範囲であってもよい。
本発明による上記磁気冷凍材料を製造する方法は、少なくとも、R元素(R元素は、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、および、エルビウム(Er)からなる群から少なくとも1種選択される元素である)と、T元素(T元素は、白金(Pt)、コバルト(Co)、および、ニッケル(Ni)からなる群から少なくとも1種選択される元素である)と、X元素(X元素は、少なくともアルミニウム(Al)を含む)とを含有し、前記R元素、前記T元素および前記X元素のモル比が、3.8~4.2:0.8~1.2:0.8~1.2を満たす原料混合物を溶解することを包含し、これにより上記課題を解決する。
本発明によるAMRベッドは、上記磁気冷凍材料を含み、これにより上記課題を解決する。
本発明による磁気冷凍装置は、上記AMRベッドを備え、これにより上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の磁気冷凍材料は、上述の特定の組成を有することにより、17K以上77K以下の温度範囲に、5T(テスラ)で10J/kgK以上、または、100mJ/cmK以上大きな磁気エントロピー変化を有するため、優れた磁気冷凍特性を示す。本発明の磁気冷凍材料は、Alを含有するため、製造が容易となる。また、本発明の磁気冷凍材料をAMRベッドおよび磁気冷凍装置に適用すれば、水素の液化等に効果的に機能する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の磁気冷凍材料を構成する無機化合物の結晶構造を示す模式図
図2】一般式R14で表される第二相の結晶構造を示す模式図
図3】本発明の磁気冷凍材料を製造するフローチャートを示す図
図4】本発明の磁気冷凍装置を示す模式図
図5】複数の磁気冷凍材料を備えるAMRベッドを示す模式図
図6】例1~例5の試料のXRDパターンを示す図
図7】例6~例8の試料のXRDパターンを示す図
図8】例9の試料のXRDパターンを示す図
図9】例1の試料の磁化測定の結果を示す図
図10】例2の試料の磁化測定の結果を示す図
図11】例3の試料の磁化測定の結果を示す図
図12】例4の試料の磁化測定の結果を示す図
図13】例5の試料の磁化測定の結果を示す図
図14】例1~例5の試料の磁気エントロピー変化の図
図15】例6の試料の磁化測定の結果を示す図
図16】例7の試料の磁化測定の結果を示す図
図17】例8の試料の磁化測定の結果を示す図
図18】例9の試料の磁化測定の結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。なお、同様の要素には同様の番号を付し、その説明を省略する。
なお、本願明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
(実施の形態1)
実施の形態1では、本発明の磁気冷凍材料およびその製造方法を詳述する。
【0012】
本発明の磁気冷凍材料は、少なくとも、R元素(R元素は、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、および、エルビウム(Er)からなる群から少なくとも1種選択される元素である)と、T元素(T元素は、白金(Pt)、コバルト(Co)、および、ニッケル(Ni)からなる群から少なくとも1種選択される元素である)と、X元素(X元素は、少なくともアルミニウム(Al)を含む)とを含有し、立方晶GdRhIn型結晶構造を有する無機化合物を含有する。本願発明者らは、上述の特定の元素から構成され、立方晶GdRhIn型結晶構造を有する無機化合物が、17K以上77K以下の温度範囲に大きな磁気エントロピー変化を有し、磁気冷凍材料として機能することを見出した。なお、本願明細書において大きな磁気エントロピー変化ΔSとは、5T(テスラ)において、絶対値で、10J/kgK以上、または、100mJ/cmK以上を満たすものをいう。
【0013】
図1は、本発明の磁気冷凍材料を構成する無機化合物の結晶構造を示す模式図である。
【0014】
図1では、R元素がHoであり、T元素がPtであり、X元素がAlである場合のHoPtAl結晶の結晶構造を示す。HoPtAl結晶は、立方晶GdRhIn型結晶構造を有し、F ̄43m空間群(International Tables for Crystallographyの216番の空間群)に属し、表1に示す結晶パラメータおよび原子座標位置を占める。本願明細書において、「 ̄4」は、4のオーバーバーを表す。
【0015】
表1において、格子定数a、b、cは単位格子の軸の長さを示し、α、β、γは単位格子の軸間の角度を示す。原子座標は単位格子中の各原子の位置を、単位格子を単位とした0から1の間の値で示す。
【0016】
【表1】
【0017】
表1のデータによれば、HoPtAl結晶の構造は図1に示す構造であり、R元素、T元素およびX元素を含有し、立方晶GdRhIn結晶構造を有する無機化合物として、一般式RTXで表される結晶相がある。Rには、Dy、Ho、および、Erからなる群から少なくとも1種選択される元素が入り、Tには、Pt、Co、および、Niからなる群から少なくとも1種選択される元素が入り、Xには、少なくともAlが入る。
【0018】
HoPtAl結晶以外のRTXで表される結晶相は、HoPtAl結晶の構成成分が他の元素で置き換わることにより、格子定数は変化するが、結晶構造と原子が占めるサイトとその座標によって与えられる原子位置は、骨格原子間の化学結合が切れるほどには大きく変わることはない。本発明では、X線回折や中性子線回折の結果をF ̄43mの空間群で結晶構造解析して求めた格子定数および原子座標から計算された近接原子間距離が、表1に示す格子定数と原子座標から計算された化学結合の長さと比べて、±5%以内の場合には、立方晶GdRhIn型結晶構造を有する無機化合物と定義してよい。化学結合の長さが±5%を超えて変化すると、別の結晶となり得る。
【0019】
なお、簡易的には、合成した無機化合物について測定したX線回折の結果と、表1から計算した回折のピーク位置(2θ)が、主要ピークについて一致したときに立方晶GdRhIn型結晶構造を有する無機化合物が得られたと特定してよい。この場合、主要ピークとしては、回折強度の強い10本程度で判定するとよい。
【0020】
本発明の磁気冷凍材料は、上述したように、R元素、T元素およびX元素を含有し、立方晶GdRhIn型結晶構造を有する無機化合物を含有するが、無機化合物は、好ましくは、
R:60原子%以上75原子%以下、
T:12.5原子%以上21原子%以下、
X:12.5原子%以上21原子%以下、および、
1原子%以下の不可避不純物元素
からなる組成を有してよい。ただし、R元素、T元素、X元素および不可避不純物元素の合計は100原子%を満たすものとする。この範囲であれば、立方晶GdRhIn型結晶構造が安定となり、上記温度範囲で大きな磁気エントロピー変化を示す。R元素、T元素およびX元素として、それぞれ、複数の元素を選択した場合には、複数の元素の合計の原子百分率が、上記範囲を満たせばよい。
【0021】
なお、不可避不純物元素は、当然ながら、検出限界であってもよく、0原子%の場合も含み得るが、磁気冷凍特性の観点から、1原子%以下に抑えることが好ましい。不可避不純物元素としては、原料中の不純物元素や製造段階で混入する不純物元素等があり、例示的には、カルシウム(Ca)、銅(Cu)、鉄(Fe)、マグネシウム(Mg)、ケイ素(Si)、バナジウム(V)、炭素(C)、鉛(Pb)、ナトリウム(Na)、亜鉛(Zn)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、硫黄(S)、スズ(Sn)等が挙げられる。
【0022】
本発明の磁気冷凍材料において、無機化合物は、より好ましくは、
R:65原子%以上70原子%以下、
T:15原子%以上20原子%以下、
X:15原子%以上20原子%以下、および、
1原子%以下の不可避不純物元素
からなる組成を有してもよい。この範囲であれば、立方晶GdRhIn型結晶構造がさらに安定となり、上記温度範囲で大きな磁気エントロピー変化を示す。
【0023】
本発明の磁気冷凍材料において、無機化合物は、なおさらに好ましくは、
R:65原子%以上68原子%以下、
T:15原子%以上18原子%以下、
X:15原子%以上18原子%以下、および、
1原子%以下の不可避不純物元素
からなる組成を有してもよい。この範囲であれば、立方晶GdRhIn型結晶構造が特に安定となり、上記温度範囲で大きな磁気エントロピー変化を示す。
【0024】
特に、R元素として、Hoおよび/またはErを選択した場合、磁気エントロピー変化のピークが、14K以上25K以下の範囲に位置するため、水素液化に有利である。
【0025】
本発明の磁気冷凍材料において、T元素は、好ましくは、少なくとも白金(Pt)を含む。Ptを含有することにより、上記温度範囲でより大きな磁気エントロピー変化を示す。なお、T元素は、Pt単体であってもよいし、白金に加えて、Coおよび/またはNiを含んでもよい。T元素がPt単体であれば、後述する第二相を極力低減できる。
【0026】
本発明の磁気冷凍材料において、T元素がPtを含有する場合、無機化合物は、好ましくは、
R:60原子%以上70原子%以下、
Pt:0原子%より多く21原子%以下、
Coおよび/またはNi:0原子%以上21原子%未満、
X:12.5原子%位以上21原子%以下、
1原子%以下の不可避不純物元素、および、
PtとCoおよび/またはNiの合計:12.5原子%以上21原子%以下
からなる組成を有してもよい。ただし、R元素、Pt、Coおよび/またはNi、X元素、および、不可避不純物元素の合計は100原子%を満たす。この範囲であれば、立方晶GdRhIn型結晶構造が安定となり、上記温度範囲でより大きな磁気エントロピー変化を示す。
【0027】
本発明の磁気冷凍材料において、T元素がPtを含有する場合、無機化合物は、より好ましくは、
R:65原子%以上70原子%以下、
Pt:4原子%以上20原子%以下、
Coおよび/またはNi:0原子%以上16原子%未満、
X:15原子%位以上20原子%以下、
1原子%以下の不可避不純物元素、および、
PtとCoおよび/またはNiの合計:15原子%以上20原子%以下
からなる組成を有してもよい。この範囲であれば、Ptの効果により、立方晶GdRhIn型結晶構造および後述する第二相が安定となり、上記温度範囲で大きな磁気エントロピー変化を示す。
【0028】
本発明の磁気冷凍材料において、T元素がPtを含有する場合、無機化合物は、なおさらに好ましくは、
R:65原子%以上68原子%以下、
Pt:4原子%以上18原子%以下、
Coおよび/またはNi:0原子%以上16原子%未満、
X:15原子%位以上18原子%以下、
1原子%以下の不可避不純物元素、および、
PtとCoおよび/またはNiの合計:15原子%以上18原子%以下
からなる組成を有してもよい。この範囲であれば、Ptの効果により、立方晶GdRhIn型結晶構造および後述する第二相が安定となり、上記温度範囲で特に大きな磁気エントロピー変化を示す。特に、Ptの含有量を低減できるため、コストの削減に有利である。
【0029】
本発明の磁気冷凍材料において、T元素がPtを含有する場合、無機化合物は、一般式RPt1-α(Co,Ni)αX(αは、0<α≦0.75を満たす)で表される相であってもよい。この範囲であれば、立方晶GdRhIn型結晶構造が安定となり、上記温度範囲で大きな磁気エントロピー変化を示す。αは、好ましくは、0.3≦α≦0.75である。この範囲にすることにより、立方晶GdRhIn型結晶構造が安定となり、上記温度範囲で特に大きな磁気エントロピー変化を示す。例えば、αとして0.3≦α≦0.5とすれば、Ptの含有量が低減するため、コストの削減に有利である。なお、上記一般式中「(Co,Ni)」とは、Coおよび/またはNiを意味し、αを満たす限り、CoとNiとの比率に制限はない。
【0030】
本発明の磁気冷凍材料は、X元素としてAlを含有することを必須とするが、Alに加えて、ケイ素(Si)、マグネシウム(Mg)、カドミウム(Cd)等を含有してもよい。この場合、X元素中のAlの含有量は、好ましくは、50原子%以上である。これにより、立方晶GdRhIn型結晶構造が安定となり、歩留まりよく製造できる。特に好ましくは、X元素はAl単体である。これにより、立方晶GdRhIn型結晶構造が特に安定となるだけでなく、磁気冷凍材料の製造コストを低減できる。
【0031】
本発明の磁気冷凍材料は、上述の立方晶GdRhIn型結晶構造を有する無機化合物単体からなることが好ましいが、一般式R14で表される第二相をさらに含有してもよい。ここでも、R元素は、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、および、エルビウム(Er)からなる群から少なくとも1種選択される元素であり、T元素は、白金(Pt)、コバルト(Co)、および、ニッケル(Ni)からなる群から少なくとも1種選択される元素であり、X元素は、少なくともアルミニウム(Al)を含む。本発明の磁気冷凍材料は、第二相を含有しても、上記温度範囲において大きな磁気エントロピー変化を有するため、厳しい製造条件を設けることなく製造できるため、有利である。
【0032】
図2は、一般式R14で表される第二相の結晶構造を示す模式図である。
【0033】
図2では、R元素がHoであり、T元素がNiであり、X元素がAlである場合のHo14NiAl結晶の結晶構造を示す。Ho14NiAl結晶は、正方晶Gd14CoIn2.7型結晶構造を有し、P4/nmc空間群(International Tables for Crystallographyの137番の空間群)に属し、表2に示す結晶パラメータおよび原子座標位置を占める。
【0034】
表2において、格子定数a、b、cは単位格子の軸の長さを示し、α、β、γは単位格子の軸間の角度を示す。原子座標は単位格子中の各原子の位置を、単位格子を単位とした0から1の間の値で示す。
【0035】
【表2】
【0036】
正方晶Gd14CoIn2.7型結晶構造を有する一般式R14で表される第二相を含有するかどうかは、表1を参照して説明した、立方晶GdRhIn型結晶構造を有する無機化合物の判定と同様に行ってよい。
【0037】
無機化合物中の第二相の含有量は、例示的には、0体積%より多く45体積%以下の範囲であってよい。第二相の上限を45体積%以下とすれば、上記温度範囲において所望の磁気エントロピー変化を達成できる。このような観点から、本発明の磁気冷凍材料において、立方晶GdRhIn型結晶構造を有する無機化合物は、55体積%を超えて含有されるものとする。第二相の含有量は、好ましくは、40体積%以下の範囲である。特に、T元素として、Ptに加えてCoおよび/またはNiを含有する場合、この範囲であれば、製造条件の制約なく、本発明の磁気冷凍材料を製造でき、歩留まりに優れる。なお、本願明細書において、第二相の含有量は、粉末X線回折や中性子回折のデータを基に、リートベルト法などで計算した各相からの回折パターンとのフィッティングによって算出したものをいう。
【0038】
本発明の磁気冷凍材料の形態は、特に制限はないが、例示的には、バルク体または粒子であってよい。例えば、粒子形状であれば、後述するAMRベッドおよび磁気冷凍装置に適用した際に、気体や液体との熱交換を大きくできる。本発明の磁気冷凍材料が粒子形状を有する場合、粒径は、球形近似した場合、10μm以上3000μm以下の範囲の粒径(平均粒径)を満たす。これにより、磁気冷凍装置に適用できる。例えば、球形近似で、50μm以上、100μm以上、200μm以上としてもよく、2000μm以下、1000μm以下、500μm以下の径を有する粒子状であってもよい。中でも、本発明の磁気冷凍材料は、200μm以上400μm以下の範囲の粒径を満たす場合、熱交換を最大化できるため好ましい。
【0039】
平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察された画像において、画像解析ソフトを用い、無作為に選んだ粒子100点の粒径を測定し、その平均粒径とする。
【0040】
次に、本発明の磁気冷凍材料の製造方法について説明する。
図3は、本発明の磁気冷凍材料を製造するフローチャートを示す図である。
【0041】
ステップS310:少なくとも、R元素(R元素は、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、および、エルビウム(Er)からなる群から少なくとも1種選択される元素である)と、T元素(T元素は、白金(Pt)、コバルト(Co)、および、ニッケル(Ni)からなる群から少なくとも1種選択される元素である)と、X元素(X元素は、少なくともアルミニウム(Al)を含む)とを含有し、R元素、T元素およびX元素のモル比が、3.8~4.2:0.8~1.2:0.8~1.2を満たす原料混合物を均一に溶解する。
【0042】
このように、R元素、T元素およびX元素のモル比を満たす原料を溶解することによって、本発明の磁気冷凍材料が製造されるため、特殊な技術等は不要とし、実用化に有利である。詳細に説明する。
【0043】
R元素、T元素およびX元素を含有する原料混合物は、それぞれ、R元素を含有する原料、T元素を含有する原料、および、T元素を含有する原料からなってよく、R金属単体、T金属単体、および、X金属単体であってよいが、例えば、R元素、T元素およびX元素からなる群から2以上選択される元素の合金または金属間化合物、または、X元素がAl以外にケイ素を含有する場合には、Rのケイ化物、Tのケイ化物、Xのケイ化物等を用いてもよい。この場合も、化合物中の各元素のモル比が上述の範囲を満たすように混合すればよい。
【0044】
ステップS310において、原料混合物の焼成は混合物を溶解し、反応させることができる限り特に制限はないが、例示的には、1000℃以上2200℃以下の温度範囲に加熱すればよい。溶解および反応は、好ましくは、大気圧下、大気圧未満、または、大気圧を超えてよく、高真空雰囲気、または、アルゴン、ヘリウムなどの希ガス雰囲気であってよい。このような溶解、反応は、例示的には、アーク溶解または高周波溶解を用いるとよい。
【0045】
ステップS310に続いて、反応物を鋳込んで急冷させてもよい。これにより所望の形状の磁気冷凍材料が得られる。
【0046】
ステップS310に続いて、反応物を熱処理してもよい。これにより、反応物は均質化される。このような均質化処理は、真空中または希ガス雰囲気中、600℃以上850℃以下の温度範囲で10時間以上100時間以下の時間行われてよい。
【0047】
このようにして得られた反応物(固化物)が本発明の磁気冷凍材料となる。また、固化物を粒子状に粉砕すれば、本発明磁気冷凍材料を粒子として提供できる。
【0048】
(実施の形態2)
実施の形態2では、実施の形態1で説明した本発明の磁気冷凍材料を用いた磁気冷凍装置について説明する。
【0049】
図4は、本発明の磁気冷凍装置を示す模式図である。
【0050】
実施の形態1で説明した本発明の磁気冷凍材料を備えた本発明の磁気冷凍装置400は、超低温の生成、例えば水素の液化に用いることができる。本発明の磁気冷凍装置400は、磁気冷凍材料が充填されたAMRベッド420と、これに磁場を印加する磁場印加手段430と、冷温により被冷却物を冷却する冷却ステージ490と、AMRベッド420における磁気冷凍材料により発生した温熱を排熱する熱交換器440とをさらに備える。ここで、磁気冷凍材料401は、実施の形態1で説明した磁気冷凍材料である。
【0051】
磁場印加手段430は、AMRベッド420に磁場を印加する任意の手段を適用でき、例えば、1~10T(テスラ)程度の強度の磁場を用いることが現実的である。磁場印加手段430として、超伝導マグネット、永久磁石等を採用できる。また、図示しない駆動機構によって、磁場印加手段430とAMRベッド420との相対位置を変化させて、AMRベッド420に印加される磁場の大きさを変化させることができる。
【0052】
AMRベッド420の高温側には予冷段460が設けられ、予冷段460の低温側には80Kシールド470が、予冷段460の高温側には300Kシールド480がそれぞれ接続して具備されている。さらに、AMRベッド420の低温側には、冷却ステージ490が設けられ、液化容器450が冷却ステージ490と熱的に接続して具備されている。つまり、液化容器450が被冷却物となっている。また、AMRベッド420には熱輸送冷媒の流出入口が設けられ、磁気冷凍材料401の間隙を通って熱輸送冷媒がAMRベッド420の内部を往復流動できる構造となっている。
【0053】
液化容器450には、液化させるべき気体410(例えば、水素、ヘリウム(He)等)が、図示しないタンクより供給される。
【0054】
本発明の磁気冷凍装置400は、以下のようにして動作し、液体水素を製造ないしガス冷却できる。
【0055】
まず、磁気冷凍材料401が充填されたAMRベッド420に、磁場印加手段430により磁場を印加し、磁気冷凍材料401の温度を上昇させる。
【0056】
次いで、AMRベッド420の低温端側から高温端側に向かう方向400Aに熱輸送冷媒を流動させる。熱輸送冷媒はAMRベッド420の内部に充填された磁気冷凍材料401と熱交換して温熱を受け取りながら、磁気冷凍材料401の隙間を縫って流動し、AMRベッド420の高温端部より流出する。AMRベッド420の高温端部より流出した熱輸送冷媒は予冷段460を介して温熱を排熱する熱交換器440に流入し、余分な熱が外部へ排熱される。
【0057】
次いで、磁気冷凍材料401が充填されたAMRベッド420の磁場を取り除き(減少させて)、磁気冷凍材料401の温度を降下させる。
【0058】
次いで、AMRベッド420の高温端側から低温端側に向かう方向400Bに熱輸送冷媒を流動させる。熱輸送冷媒は予冷段460を介してAMRベッド420の高温端部に流入し、内部に充填された磁気冷凍材料401と熱交換して冷却されながら、磁気冷凍材料401の隙間を縫って流動し、AMRベッド420の低温端部に到達する。なお、熱輸送冷媒の流動は図示しない冷媒駆動手段によって駆動される。冷媒駆動手段は熱輸送冷媒をAMRサイクルに同期して往復流動する振動流を駆動できれば特に限定されるものではなく、ピストン、ブロアとバルブを組み合わせる方式等が挙げられる。
【0059】
AMRベッド420の低温端部の温度が液体水素の沸点(大気圧にて20K)よりも低下すると、液化容器450に供給される水素ガスは、AMRベッド420の低温端側に設けられた冷却ステージ490との熱交換により冷却され、濃縮液化する。
【0060】
このような工程を繰り返し、液化容器450の内部ではガスを周期的に液化ないし冷却する。
【0061】
図4では、AMRベッド420に充填された磁気冷凍材料401は、単一の本発明の磁気冷凍材料であるとして説明してきたが、本発明の磁気冷凍材料に加えて、他の磁気冷凍材料を備えてもよい。
【0062】
図5は、複数の磁気冷凍材料を備えるAMRベッドを示す模式図である。
【0063】
図5に模式的に示したように、AMRベッド420に本発明の磁気冷凍材料を含む、複数の異なる磁気冷凍材料510~550を充填して用いることができる。磁気冷凍材料510~550は、仕切り560で空間を仕切って配置される。仕切り560は、異なる材料が混合せず、熱輸送冷媒400A、400B(図4)の流動を妨げなければどのような形態であっても構わないが、具体的な形態としてはメッシュや微細孔を有する仕切板等が挙げられる。
【0064】
磁気冷凍材料510~550は、磁気エントロピー変化のピーク温度が異なるものを選択することで、単一の磁気冷凍材料を用いる場合に比べて、より広い温度範囲で高い磁気冷凍の機能を発揮させることが可能となる。AMRベッド420が磁気冷凍装置400に組み込まれて運転する際に、AMRベッド420の高温側に相当する側に、磁気エントロピー変化のピーク温度が高くなるように、磁気冷凍材料510~550を逐次配置して充填すると、冷凍性能を高めるのに効果的である。異なるピーク温度を有する磁気冷凍材料として組み合わせる種類の数は、図4の模式図に示した数に特に限定されるものではなく、それぞれの磁気エントロピー変化の温度依存性の特徴を考慮して適切な複数の材料を組み合わせて用いることができる。異なるピーク温度を有する複数の磁気冷凍材料、即ち、最適動作温度域が異なる複数の磁気冷凍材料を、動作温度域の順番に逐次配置することにより、複数の高効率な熱サイクルが組み合わさり、高温から20K以下の極低温まで、効率的に冷却することが可能となる。
【0065】
本発明の磁気冷凍材料と組み合わせる他の磁気冷凍材料は特に限定されるものではなく、他の磁気冷凍材料の磁気エントロピー変化とキュリー温度とを参照すれば、本発明の磁気冷凍材料と適宜組み合わせることが可能である。例えば、本発明の磁気冷凍材料として、RがErやHoである場合には、14K~25Kで大きな磁気エントロピー変化を有するため、本材料をAMRベッド内で20K近傍で動作する位置に配置して、他の材料と組み合わせることが、水素液化の目的に特に有効である。
【0066】
次に具体的な実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明がこれら実施例に限定されないことに留意されたい。
【実施例0067】
[合成に使用した原料]
R元素の原料は、ジスプロシウム(Dy)原料(フルウチ化学株式会社製、grain、形状:5~10mmの不定形塊状、純度:99.9%、梱包形態:油浸漬)、ホルミウム(Ho)原料(フルウチ化学株式会社製、grain、形状:5~10mmの不定形塊状、純度:99.9%、梱包形態:油浸漬)、エルビウム(Er)原料(フルウチ化学株式会社製、grain、形状:5~10mmの不定形塊状、純度:99.9%、梱包形態:油浸漬)、ガドリニウム(Gd)原料(フルウチ化学株式会社製、grain、形状:5~10mmの不定形塊状、純度:99.9%、梱包形態:油浸漬)、および、テルビウム(Tb)原料(フルウチ化学株式会社製、grain、形状:5~10mmの不定形塊状、純度:99.9%、梱包形態:油浸漬)を使用した。油を除去するためアセトン(キシダ化学株式会社製)を上記原料とともにビーカー(HARIO株式会社、B-200 SCI)に入れ超音波洗浄機(アズワン社製、AS22GTU)を用いて15分洗浄した。
【0068】
T元素の原料は、白金(Pt)原料(純度:99.99%)、コバルト(Co)原料(レアメタリック社製、純度:99.97%)、および、ニッケル(Ni)原料(レアメタリック社製、純度:99.99%)を使用した。
【0069】
X元素の原料は、アルミニウム(Al)原料(フルウチ化学株式会社製、形状:Grains 2-5mm、純度:99.999%)を使用した。
【0070】
なお、原料中の不可避不純物として、カルシウム、銅、鉄、マグネシウム、シリコン等が各0.00005重量%以下の割合で含まれることをICP発光分析により確認した。
【0071】
原料は、必要に応じて、ニッパーを用いて1~3mm×1~3mm×1~3mmの大きさに切り出され、合成用の原料とした。
【0072】
[例1]
例1では、一般式RTXにおいて、Rがホルミウム(Ho)であり、Tが白金(Pt)であり、Xがアルミニウム(Al)である無機化合物をアーク溶解によって合成し、磁気特性および磁気エントロピー変化を調べた。
【0073】
詳細には、表3~表5に示す混合組成を満たすよう各原料を、合計約1gとなるよう混合し、原料混合物を得た。次いで、原料混合物を、小型真空アーク溶解装置(株式会社テクノサーチ製、TMA-3N)の水冷銅ハース上に置き、約30分間、ロータリーポンプにより真空引きを行い、圧力が1Pa未満に到達した後、チャンバー内にアルゴンガスを約0.05MPa導入した。その後、チタン塊をアーク溶解し、チャンバー内に残存した酸素をチタンに吸収させた。
【0074】
このようにして得られた原料混合物を、アルゴン雰囲気下で、50A~100Aの電流値でアーク溶解した。このときの温度は、2000℃程度に達していた。なお、原料混合物にアーク照射したのち、反転棒を用いて反転させ、再びアーク照射するという手順を3回繰り返した。これにより、直径5mm~10mmのボタン状の均質な合成試料(as-cast)を得た。得られた合成試料の質量を測定したところ、原料混合物のそれと実質的な変化は見られなかった。このことから、合成試料の組成は、設計組成を維持していた。
【0075】
得られた合成試料の一部を粉末にし、ガラス製試料板に充填し、粉末X線回折装置(株式会社リガク、MiniFlex600、線源:CuKα)で同定した。結果を図6に示す。
【0076】
タンタル箔(株式会社サンリック製、形状:0.05mm×100mm×300mm、純度:99%)を用意し、金属ばさみで30mm×20mmの大きさのタンタル箔片に切り出し、上記合成試料をタンタル箔片で包んだ。
【0077】
タンタル箔片で包んだ合金試料を石英管(大健石英硝子株式会社製、内径:12mm、外径:14mm)に入れ、高真空排気装置(大亜真空株式会社、DS-A212Z)を用いて石英管内を約1時間真空引きした。圧力が3×10-3Paに到達した後、内部にArを約0.05MPa充填し、酸水素バーナー(木下理化工業株式會社、KBSS-500)を用いて石英管を封じ切り、長さ80mmの合金試料入り石英管を得た。得られた合金試料入り石英管を電気炉(東京硝子機器株式会社製、F-120-SP)に入れ800℃にて、均質化のため50時間アニールした。アニール後の合成試料(annealed)を冷却後、室温で取り出し、開封して、低速切断機アイソメット(Beuhler社製)にて切断した。
【0078】
磁化測定装置(Quantum Design社、MPMS3)にて磁化の温度依存性をDC法にて測定した。合成後、粉末X線回折により評価済みの粉末化した合成試料(約3~5mg)をゼラチンカプセル(小林カプセル株式会社製、No.5、容量0.16cc.)に入れ、測定用の試料とした。なお、合成試料は、磁場による粉末結晶の配向を避けるため少量(5~10mg)のアピエゾングリースMで固定された。このカプセルをストロー内に固定し、測定プローブ取り付け後、装置内の温度可変部・磁場中心部にセットした。試料測定範囲は、温度:5-300K、磁場:0.1-5T(テスラ)の間で行った。測定データを解析し、Maxwellの関係式∂M/∂T=∂S/∂Hを用いて磁気エントロピー変化ΔSを求めた。結果を図9および図14に示す。
【0079】
[例2~9]
例2~例9では、一般式RTXまたはRPt1-α(Co,Ni)αXにおいて、表3~表5に示す原料混合物(1g~2g)調製し、例1と同様の手順で合成試料を得、X線回折により同定、磁気特性および磁気エントロピー変化を調べた。結果を図7図18に示す。
【0080】
【表3】
【0081】
【表4】
【0082】
【表5】
【0083】
以上の結果をまとめて説明する。
図6は、例1~例5の試料のXRDパターンを示す図である。
図7は、例6~例8の試料のXRDパターンを示す図である。
図8は、例9の試料のXRDパターンを示す図である。
【0084】
図6および図8には、均質化処理前の例1~例5および例9の試料のXRDパターンが示される。図7(A)には、均質化処理前の例6~例8の試料のXRDパターンが、ならびに、図7(B)には、均質化処理後の例6~例8の試料のXRDパターンが示される。なお、参考のため、図7(A)には、例1の試料のXRDパターンも併せて示す。
【0085】
図6によれば、例1~例5の試料のXRDパターンは、いずれも、表1の結晶構造パラメータから計算されたHoPtAlのXRDパターンに一致し、例1~例5の試料は、立方晶GdRhIn型結晶構造を有する無機化合物であることが示された。
【0086】
図7(B)によれば、例6および例7の試料のXRDパターンは、表1の結晶構造パラメータから計算されたHoPtAlのXRDパターンに一致し、例6よび例7の試料は、立方晶GdRhIn型結晶構造を有する無機化合物であることが示された。
【0087】
一方、図7(B)および図8によれば、例8および例9の試料のXRDパターンは、主として、表1の結晶構造パラメータから計算されたHoPtAlのXRDパターンに一致したが、一部の回折ピークは、表2の結晶構造パラメータから計算されたHo14NiAlのXRDパターンに一致した。このことから、例8および例9の試料は、立方晶GdRhIn型結晶構造を有する無機化合物を主相とし、正方晶Gd14CoIn2.7型結晶構造を有する一般式R14で表される第二相を含有することが示された。第二相の含有量は、XRDパターンを基にしたリートベルト解析により算出された。
【0088】
また、表6に示すように、図6および図7のXRDパターンから格子長(格子定数)を算出したところ、R元素の原子番号の大きくなる順(Gd、Tb、Dy、Ho、Erの順)に格子長aが小さくなっており、希土類元素のイオン半径の減少に一致していた。密度の変化に着目すると、T元素にCoやNiを選択することにより、密度が小さくなり、軽量化に有利であることが確認された。
【0089】
【表6】
【0090】
図9は、例1の試料の磁化測定の結果を示す図である。
図10は、例2の試料の磁化測定の結果を示す図である。
図11は、例3の試料の磁化測定の結果を示す図である。
図12は、例4の試料の磁化測定の結果を示す図である。
図13は、例5の試料の磁化測定の結果を示す図である。
図14は、例1~例5の試料の磁気エントロピー変化の図である。
図15は、例6の試料の磁化測定の結果を示す図である。
図16は、例7の試料の磁化測定の結果を示す図である。
図17は、例8の試料の磁化測定の結果を示す図である。
図18は、例9の試料の磁化測定の結果を示す図である。
【0091】
図9図13および図15図18は、磁化率(χ)の温度(T)依存性を示す図(χ-T)、磁気モーメント(M)の磁場(H)依存性を示す図(M-H)、磁気モーメント(M)の温度(T)依存性を示す図、磁気エントロピー変化(ΔS)の温度(T)依存性を示す図(ΔS-T)を含む。磁気エントロピー変化の温度依存性は、上述したように、種々の磁場におけるM-Tグラフより算出された。
【0092】
図9のχ-Tグラフによれば、例1の試料(HoPtAl)は、約20Kにおいて強磁性になることが分かった。図9のM-Hグラフによれば、例1の試料の2Kでの飽和磁気モーメントは、Ho一原子あたり約7μBであった。
【0093】
図10のχ-Tグラフによれば、例2の試料(DyPtAl)は、約30Kにおいて強磁性になることが分かった。図10のM-Hグラフによれば、例2の試料の2Kでの飽和磁気モーメントは、Dy一原子あたり約6μBであった。
【0094】
図11のχ-Tグラフによれば、例3の試料(ErPtAl)は、約15Kにおいて強磁性になることが分かった。図11のM-Hグラフによれば、例3の試料の2Kでの飽和磁気モーメントは、Er一原子あたり約6μBであった。
【0095】
図12のχ-Tグラフによれば、例4の試料(GdPtAl)は、約20Kと約70Kにおいて磁気相転移を示し、強磁性の相関が支配的であることが分かった。図12のM-Hグラフによれば、例4の試料の2Kかつ磁場5Tでの磁気モーメントは、Gd一原子あたり約5μBであった。
【0096】
図13のχ-Tグラフによれば、例5の試料(TbPtAl)は、約45Kにおいて磁気相転移を示し、強磁性の相関が支配的であることが分かった。図13のM-Hグラフによれば、例5の試料の2Kかつ磁場5Tでの磁気モーメントは、Tb一原子あたり約5μBであった。
【0097】
例1~例3の試料は、類似の磁気特性を有することが確認された。一方、例4および例5の試料は、磁化率の温度依存性を見れば、例1~例3の試料と同様の強磁性的特性が観測されるが、1T以上の強磁場を印加した場合の振る舞いの点で例1~例3の試料と異なることが分かった。特に、表7に示すように、磁化M(5Kおよび5T)に着目すると、例4および例5の試料の磁化Mは、125~130emu/gであるのに対し、例1~例3の試料の磁化Mは、150emu/gを超えており、顕著に増大していた。このことは、同じ立方晶GdRhIn型結晶構造を有する無機化合物であっても、選択する元素によって特性が異なることを示し、希土類元素群内の選択であっても、必ずしも特性を予想できないことを示唆している。
【0098】
図9図14、ならびに、表7に示す磁気エントロピー変化の結果によれば、例1~例3の試料は、17K以上77K以下の温度範囲において、5Tで10J/kgK以上、または、100mJ/cmK以上の磁気エントロピー変化を有し、水素液化に利用可能な磁気冷凍材料として機能することが分かった。この磁気エントロピー変化の大きさは、例4および例5の試料のそれの2倍~3倍であり、R元素としてHo、DyおよびErが特異的であることが示された。
【0099】
以上より、R元素(R元素は、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、および、エルビウム(Er)からなる群から少なくとも1種選択される元素である)と、T元素(T元素は、白金(Pt)、コバルト(Co)、および、ニッケル(Ni)からなる群から少なくとも1種選択される元素である)と、X元素(X元素は、少なくともアルミニウム(Al)を含む)とを含有し、立方晶GdRhIn型結晶構造を有する無機化合物は、水素液化を可能とする磁気冷凍材料として機能することが示された。
【0100】
特に、以下の組成を有し、一般式RTXで表される相を含有する無機化合物は、優れた磁気特性を有することが示された。
R:65原子%以上68原子%以下、
T:15原子%以上18原子%以下、
X:15原子%以上18原子%以下、および、
1原子%以下の不可避不純物元素
【0101】
また、図15図18のχ-TグラフおよびM-Hグラフによれば、T元素の一部をCoあるいはNiで置換しても、例1の試料(HoPtAl)の磁気特性を良好に維持することが示された。表7の磁気エントロピー変化の結果によれば、例6~例9の試料は、17K以上77K以下の温度範囲において、5Tで10J/kgK以上、または、100mJ/cmK以上の磁気エントロピー変化を有し、水素液化に利用可能な磁気冷凍材料として機能することが分かった。
【0102】
表6の結晶相、および、表7の磁気エントロピー変化に着目すると、例8および例9の試料は、それぞれ、第二相を15体積%および39体積%有し、立方晶GdRhIn型結晶構造を有する無機化合物の主相とする量は、55体積%を超えていればよく、60体積%を超えると好ましいことが示された。
【0103】
以上より、R元素(R元素は、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、および、エルビウム(Er)からなる群から少なくとも1種選択される元素である)と、T元素としてPtに加えてNiおよび/またはCoと、X元素(X元素は、少なくともアルミニウム(Al)を含む)とを含有し、立方晶GdRhIn型結晶構造を有する無機化合物は、水素液化を可能とする磁気冷凍材料として機能することが示された。
【0104】
特に、以下の組成を有し、一般式RPt1-α(Co,Ni)αX(αは、0<α≦0.75を満たす)で表される相を含有する無機化合物は、優れた磁気特性を有することが示された。
R:65原子%以上68原子%以下、
Pt:4原子%以上18原子%以下、
Coおよび/またはNi:0原子%以上16原子%未満、
X:15原子%位以上18原子%以下、
1原子%以下の不可避不純物元素、および、
PtとCoおよび/またはNiの合計:15原子%以上18原子%以下
【0105】
【表7】
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明の磁気冷凍材料は、製造が容易であり、17K以上77K以下の温度範囲に大きな磁気エントロピー変化を有するため、磁気冷凍装置に用いられ、特に、水素の液化等に効果的に機能する。これによって、エネルギーキャリアの一つとして有望な水素の普及に、貢献することができる。
【符号の説明】
【0107】
400 磁気冷凍装置
401、510、520、530、540、550 磁気冷凍材料
410 気体
420 AMRベッド
430 磁場印加手段
440 熱交換器
450 液化容器
460 予冷段
470 80Kシールド
480 300Kシールド
490 冷却ステージ
560 仕切り
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