(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162434
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】ボビン型電池の製造方法およびボビン型電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20241114BHJP
H01M 6/16 20060101ALI20241114BHJP
H01M 4/06 20060101ALI20241114BHJP
H01M 4/08 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M6/16 B
H01M4/06 L
H01M4/06 X
H01M4/08 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023077931
(22)【出願日】2023-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】桑村 俊行
(72)【発明者】
【氏名】花村 玲
(72)【発明者】
【氏名】野村 幸作
【テーマコード(参考)】
5H024
5H050
【Fターム(参考)】
5H024AA03
5H024AA12
5H024BB18
5H024CC02
5H024CC14
5H024DD17
5H024EE09
5H024FF11
5H050AA02
5H050BA05
5H050CA09
5H050CB12
5H050DA02
5H050DA11
5H050EA24
5H050FA07
5H050FA12
5H050GA06
5H050GA08
5H050HA01
(57)【要約】
【課題】放電性能の向上を図ることができるボビン型電池の製造方法を得ること。
【解決手段】ボビン型電池の製造方法は、二酸化マンガン、導電材、およびバインダを含む第1の基材を混合と造粒によって第1の合剤とする工程と、二酸化マンガン、導電材、およびバインダを含む第2の基材と、第1の合剤とを混合と造粒によって第2の合剤とする工程と、第2の合剤を筒状の正極106に成型して、一端が閉塞された筒状のケース101の内周面に正極106を接触させる工程と、ケース101の内側に電解液を注液する工程と、正極106の内側に筒状の負極とセパレータとを設ける工程と、ケース101の他端を塞いで封止する工程と、を有し、第1の基材に含まれるバインダの量は、第2の基材に含まれるバインダの量よりも多い。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化マンガン、導電材、およびバインダを含む第1の基材を混合と造粒によって第1の合剤とする工程と、
二酸化マンガン、導電材、およびバインダを含む第2の基材と、前記第1の合剤とを混合と造粒によって第2の合剤とする工程と、
前記第2の合剤を筒状の正極に成型して、一端が閉塞された筒状のケースの内周面に前記正極を接触させる工程と、
前記ケースの内側に電解液を注液する工程と、
前記正極の内側に筒状の負極とセパレータとを設ける工程と、
前記ケースの他端を塞いで封止する工程と、を有し、
前記第1の基材に含まれるバインダの量は、前記第2の基材に含まれるバインダの量よりも多いボビン型電池の製造方法。
【請求項2】
前記第1の基材および前記第2の基材に含まれるバインダは、ポリテトラフルオロエチレンである請求項1に記載のボビン型電池の製造方法。
【請求項3】
前記負極は、リチウムを含む請求項1または2に記載のボビン型電池の製造方法。
【請求項4】
筒状のケースと、
筒状に成形されるとともに、前記ケースの内側面に接触するように設けられた正極と、
前記正極の内側に設けられた負極と、
前記正極と前記負極との間に設けられたセパレータと、
前記ケースの内側に注液された電解液と、を備え、
前記正極は、二酸化マンガン、導電材、およびバインダを含み、
前記正極は、第1の領域と前記第1の領域よりもバインダの量が少ない第2の領域とを有し、
前記正極において前記第1の領域が3~50wt%を占めるボビン型電池。
【請求項5】
前記第1の領域および前記第2の領域に含まれるバインダは、ポリテトラフルオロエチレンである請求項4に記載のボビン型電池。
【請求項6】
前記負極は、リチウムを含む請求項4または5に記載のボビン型電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、ボビン型電池の製造方法およびボビン型電池に関する。
【背景技術】
【0002】
一端が閉塞された円筒状のケースの内側に円筒状の正極が設けられ、正極の内側に負極とセパレータが設けられ、ケースの内側に電解液が注液されたボビン型電池がある。正極は、二酸化マンガンと、導電材と、バインダとを含む合剤を成形して作成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電池には放電性能の向上への要求があり、それはボビン型電池も同様である。ボビン型電池は、正極への電解液の染み渡りやすさの向上と、成形密度を上げることによって放電性能を向上させることができる。しかしながら、正極に含まれるバインダの量が多ければ、電解液が染み渡りやすくなるが成形密度が低下してしまう。また、正極に含まれるバインダの量が少なければ、成形密度が高くなるものの、電解液が染み渡りにくくなってしまう。このように、電解液の染み渡りやすさの向上と、成形密度を上げることを両立して放電性能を向上させることは難しかった。
【0005】
開示の技術は、かかる点に鑑みてなされたものであって、放電性能の向上を図ることができるボビン型電池の製造方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様によるボビン型電池の製造方法は、二酸化マンガン、導電材、およびバインダを含む第1の基材を混合と造粒によって第1の合剤とする工程と、二酸化マンガン、導電材、およびバインダを含む第2の基材と、第1の合剤とを混合と造粒によって第2の合剤とする工程と、第2の合剤を筒状の正極に成型して、一端が閉塞された筒状のケースの内周面に正極を接触させる工程と、ケースの内側に電解液を注液する工程と、正極の内側に筒状の負極とセパレータとを設ける工程と、ケースの他端を塞いで封止する工程と、を有し、第1の基材に含まれるバインダの量は、第2の基材に含まれるバインダの量よりも多い。
【発明の効果】
【0007】
本願の開示するボビン型電池の製造方法の一態様によれば、放電性能の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、一実施の形態に係るボビン型電池の断面構造を示す模式図である。
【
図2】
図2は、ボビン型電池の製造手順を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、正極ユニットの作成手順を説明するフローチャートである。
【
図4】
図4は、負極ユニットの作成手順を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、ボビン型電池の性能比較実験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本願の開示するボビン型電池の製造方法およびボビン型電池の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施の形態によって、本願の開示する電池が限定されるものではない。
【0010】
<ボビン型電池の構成>
図1は、一実施の形態に係るボビン型電池の断面構造を示す模式図である。
図1に示すボビン型電池100は、ケース101、封口板102、端子103、ガスケット104、ワッシャ105、正極106、セパレータ107、負極108、及び集電体109を有する。
【0011】
ケース101は、円筒形の金属容器であり、一端(
図1においては下端)が閉塞されており、他端(
図1においては上端)が開口となっている。ケース101は、正極106、セパレータ107、負極108及び集電体109などを収納する。
【0012】
封口板102は、ケース101の開口部に応じた形状の蓋体であり、ケース101の他端の開口にレーザ溶接で接合されてケース101を密閉する。
図1に示すように、封口板102の外周は、ケース101の内周面に沿って立ち上がっており、封口板102は、全体として凹型形状となっている。封口板102の凹型形状の中央には端子103を挿通させる貫通孔が形成されており、貫通孔は、ガスケット104によって封止される。
【0013】
端子103は、封口板102の中央に形成された貫通孔に挿通され、一端がケース101の外部へ突出する一方、他端がケース101の内部で集電体109に接触する。端子103は、集電体109を介して負極108と電気的に接続する。すなわち、端子103は、負極端子として機能する。
【0014】
ガスケット104は、端子103が挿通された封口板102の貫通孔を封止する。すなわち、ガスケット104は、封口板102の貫通孔の周囲において封口板102を両面から挟むように取り付けられ、封口板102と端子103の間の隙間を充填する。
【0015】
ワッシャ105は、端子103のケース101内部の端部を保持し、端子103を固定する。
図1に示すように、端子103とワッシャ105が封口板102及びガスケット104を挟持することにより、端子103、ガスケット104及びワッシャ105が封口板102に一体化される。
【0016】
正極106は、ケース101の内周面に沿った円筒形状に成形されている。正極106は、二酸化マンガン、導電材、バインダを含んでいる。導電材は、黒鉛、アセチレンブラック等が使用できる。バインダは、樹脂製で弾性であればよく、例えば顆粒状のPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)を使用することが好ましい。正極106がケース101の内周面に接して配置されるため、ケース101は、正極の集電体として機能する。ケース101内部には図示しない揮発性の非水電解液が充填されており、この非水電解液は、正極106に浸潤する。
【0017】
セパレータ107は、例えばポリプロピレンなどの透液性かつ絶縁性の材料を円筒形状に成形したものであり、正極106の円筒形状の内側に配置される。セパレータ107が絶縁性であるため、セパレータ107の円筒形状の内側は、正極106とは絶縁されている。
【0018】
負極108は、例えばリチウム又は亜鉛などの負極活物質を含み、セパレータ107の内周面に沿った円筒形状に成形されている。上述したように、セパレータ107の円筒形状の内側が正極106と絶縁されているため、負極108は、正極106と絶縁される。ただし、セパレータ107が非水電解液を透過させる透液性であるため、例えばリチウムイオンなどのイオンがセパレータ107を介して負極108から正極106へ移動する。
【0019】
集電体109は、負極108と端子103を電気的に接続する。集電体109の一端側は負極108の円筒形状の内側に接触し、他端側は封口板102の下方において端子103に接触する。
【0020】
ボビン型電池100では、ケース101と正極106とを有して正極ユニット111が構成される。また、封口板102と端子103とガスケット104とワッシャ105とセパレータ7と負極108と集電体109とを有して負極ユニット112が構成される。
【0021】
<ボビン型電池の製造方法>
次に、ボビン型電池100の製造方法について説明する。
図2は、ボビン型電池の製造手順を示すフローチャートである。
【0022】
まず、正極ユニット111を作成する(ステップS1)。次に、負極ユニット112を作成する(ステップS2)。次に、正極ユニット111に電解液を注液する(ステップS3)。次に、正極ユニット111の内側に負極ユニット112を挿入する(ステップS4)。次に、ケース101の他端と封口板102の外周縁とをレーザ溶接して(ステップS5)、ボビン型電池100が製造される。なお、正極ユニット111を作成するステップS1と負極ユニット112を作成するステップS2の順番は逆であってもよいし、同時に行われてもよい。
【0023】
次に、ボビン型電池100の製造手順のうち、ステップS1の正極ユニット111の作成方法について詳細に説明する。
図3は、正極ユニットの作成手順を説明するフローチャートである。
【0024】
まず、二酸化マンガンと、導電材と、バインダとを含む第1の基材を混合と造粒とによって第1の合剤とする(ステップS11)。ここでは、混合した第1の基材をローラ等で圧縮して固化させ、固化された第1の基材を解砕等する造粒によって第1の合剤が作成される。
【0025】
次に、二酸化マンガンと、導電材と、バインダとを含む第2の基材と、ステップS11で作成された第1の合剤とを混合と造粒とによって第2の合剤とする(ステップS12)。ここでは、混合した第1の合剤と第2の基材とをローラ等で圧縮して固化させ、固化された第1の合剤と第2の基材とを解砕等する造粒によって第2の合剤が作成される。
【0026】
次に、第2の合剤を加圧成形することで円筒形状の正極106を作成する(ステップS13)。次に、正極106をケース101の内側に挿入し、正極106を外周方向に広げるように圧力を加えることで、正極106の外周面とケース101の内周面とを接触させて(ステップS14)、正極ユニット111が作成される。なお、ステップS13とステップS14とをまとめて行って、ケース101の内側で第2の合剤を円筒形状に成形してもよい。
【0027】
次に、ボビン型電池100の製造手順のうち、ステップS2の負極ユニット112の作成方法について詳細に説明する。
図4は、負極ユニットの作成手順を示すフローチャートである。まず、端子103とワッシャ105とで封口板102とガスケット104とを挟持する(ステップS21)。次に、リチウムを含む負極108に集電体109の一端側を圧着する(ステップS22)。次に、集電体109の他端側を端子103に溶接する(ステップS23)。次に、負極108にセパレータ107を巻き付けて(ステップS24)、負極ユニット112が作成される。
【0028】
<性能比較実験について>
ステップS11からステップS13におおける正極106の作成過程において、第2の合剤に混合する第1の合剤の比率を異ならせて、ボビン型電池100の性能比較実験を行った。
図5は、ボビン型電池の性能比較実験の結果を示す図である。性能比較実験における各種条件は以下のとおりである。ケース101の外径は14mmで高さが25mmである。正極106の高さは18.5mmである。第1の基材には、二酸化マンガンが92wt%、導電材である黒鉛が3wt%、バインダであるPTFEが5wt%含まれている。第2の基材には、二酸化マンガンが96wt%、導電材である黒鉛が3wt%、バインダであるPTFEが1wt%含まれている。すなわち、第1の基材よりも第2の基材のほうが含まれているバインダが少なくなっている。
【0029】
性能比較実験では、第2の合剤を作成する際に第2の基材に混合される第1の合剤の比率を異ならせて作成された正極106を有するボビン型電池100を用意し、各ボビン型電池100の5.6kΩの定抵抗放電容量を比較している。
【0030】
比較例1は、第1の合剤の混合比率が0wt%であり、第2の合剤に第1の合剤は含まれていない。実施例1から実施例4に示すように第1の合剤を混合した場合に比べて放電容量が低くなっている。これは、第1の基材で形成された第1の合剤が混合されないことでバインダの量が不足して正極106の成形密度が高くなり、電解液が十分に正極106に染み渡りにくくなり、放電容量が低くなっているものと考えられる。
【0031】
また、比較例2では第1の合剤の混合比率を80wt%とし、比較例3では第1の合剤の混合比率を100wt%としている。比較例2および比較例3では、第2の合剤のみで形成された比較例1の正極106よりも放電容量が低くなっている。これは、第1の合剤のみで正極106が形成されることで、電解液は染み渡りやすくなったものの、正極106の成形密度が低くなり、放電容量が低くなっているものと考えられる。
【0032】
一方、実施例1から実施例4に示す範囲、すなわち第1の合剤の混合比率が3wt%から50wt%の範囲では、比較例1,2,3よりも放電容量が高くなっている。第1の合剤の混合比率が3wt%から50wt%の範囲とされた正極106では、第1の合剤が存在する領域(第1の領域)によって成形密度が高くなりすぎることが抑制されて、電解液の染み渡りやすさの向上が図られている。また、第2の基材で形成された領域(第2の領域)によって成形密度を上げることが図られている。すなわち、第1の領域と第2の領域とによって電解液の染み渡りやすさの向上と、成形密度を上げることの両立が図られている。これにより、第1の合剤の混合比率を3wt%から50wt%の範囲(第1の領域に比率を3wt%から50wt%の範囲)とした正極106では放電容量の向上が図られる。なお、第1の領域は、第1の基材で形成された領域とも換言できる。
【0033】
また、第1の合剤と第2の基材を混合することに加えて造粒を行って第2の合剤とすることで、第2の合剤では混合によって凝集した粒が整えられた状態となる。
【0034】
ここで、造粒済みの合剤同士を混合して正極を作成した場合には、混合によって凝集した粒が整えられていないため、正極を成形する成形機に吸引される量にばらつきが生じて、正極の質量や高さにばらつきが生じてしまう。
【0035】
一方、第2の合剤によって作成される正極106は、凝集した粒が整えられているため、正極を成形する成形機に吸引される量にばらつきが生じにくく、正極の質量や高さにばらつきが生じにくくなる。
【符号の説明】
【0036】
100 ボビン型電池
101 ケース
102 封口板
103 端子
104 ガスケット
105 ワッシャ
106 正極
107 セパレータ
108 負極
109 集電体
111 正極ユニット
112 負極ユニット