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特開2024-162438テールクリアランス計測装置及びテールクリアランスの計測方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162438
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】テールクリアランス計測装置及びテールクリアランスの計測方法
(51)【国際特許分類】
   E21D 9/06 20060101AFI20241114BHJP
   G01C 15/00 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
E21D9/06 301Z
G01C15/00 103
G01C15/00 104D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023077939
(22)【出願日】2023-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西森 昭博
【テーマコード(参考)】
2D054
【Fターム(参考)】
2D054AC02
2D054GA65
2D054GA82
2D054GA96
(57)【要約】      (修正有)
【課題】シールド掘進機のテールクリアランスの計測精度を向上する。
【解決手段】切羽側からセグメントまでの距離を測量する測量手段と、測量結果から生成された3次元点群データに基づいて、テールクリアランスを取得するクリアランス取得手段と、を備え、前記クリアランス取得手段は、前記3次元点群データから前記セグメント前端面における内縁の点群を抽出し、抽出した点群の3次元座標値に基づいて、セグメント内縁距離を取得する内縁抽出部と、前記セグメント内縁距離、セグメント厚さ、及びスキンプレート距離に基づいて、テールクリアランスを算出するクリアランス算出部と、を備え、前記セグメント内縁距離は、前記シールド掘進機の中心軸と直交する方向の、該測量手段と前記内縁との離間距離であり、前記スキンプレート距離は、前記シールド掘進機の中心軸と直交する方向の、該測量手段と前記スキンプレートの内面との離間距離である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シールド掘進機のテールクリアランスを計測するテールクリアランス計測装置であって、
切羽側からセグメントまでの距離を測量する測量手段と、
測量結果から生成された3次元点群データに基づいて、テールクリアランスを取得するクリアランス取得手段と、を備え、
前記クリアランス取得手段は、
前記3次元点群データから前記セグメントの前端面における内縁の点群を抽出し、抽出した点群の3次元座標値に基づいて、セグメント内縁距離を取得する内縁抽出部と、
前記セグメント内縁距離、セグメント厚さ、及びスキンプレート距離に基づいて、テールクリアランスを算出するクリアランス算出部と、を備え、
前記セグメント内縁距離は、前記シールド掘進機の中心軸と直交する方向の、該測量手段と前記内縁との離間距離であり、
前記スキンプレート距離は、前記シールド掘進機の中心軸と直交する方向の、該測量手段と前記スキンプレートの内面との離間距離であることを特徴とするテールクリアランス計測装置。
【請求項2】
請求項1に記載のテールクリアランス計測装置において、
前記測量手段が、光軸を前記シールド掘進機の中心軸と平行となるように配置されていることを特徴とするテールクリアランス計測装置。
【請求項3】
請求項1に記載のテールクリアランス計測装置において、
前記内縁抽出部で前記内縁の点群を、前記セグメントの前端面、及び該前端面に連続する内面を表す3次元点群データから抽出することを特徴とするテールクリアランス計測装置。
【請求項4】
シールド掘進機のテールクリアランスを計測するテールクリアランスの計測方法であって、
測量手段を用いて切羽側からセグメントまでの距離を測量し、測量結果から3次元点群データを取得する工程と、
取得した3次元点群データに基づいて、前記セグメントの前端面における内縁の点群を抽出し、抽出した点群の3次元座標値に基づいて、セグメント内縁距離を取得する工程と、
前記セグメント内縁距離、セグメント厚さ、及びスキンプレート距離に基づいて、テールクリアランスを算出する工程と、を備え、
前記セグメント内縁距離は、前記シールド掘進機の中心軸と直交する方向の、該測量手段と前記内縁との離間距離であり、
前記スキンプレート距離は、前記シールド掘進機の中心軸と直交する方向の、該測量手段と前記スキンプレートの内面との離間距離であることを特徴とするテールクリアランスの計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールド掘進機のスキンプレートとセグメントとの隙間を計測するテールクリアランス計測装置、及びテールクリアランスの計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シールド工事は、シールド掘進機の後方におけるスキンプレート内でセグメントをリング状に組立て、このセグメントリングに反力を取りつつ、シールド掘進機の前方に設けたカッターヘッドで地中を切削し掘進する。これらの作業を繰り返しつつ、セグメントリングを掘進方向に順次接続していくことにより、地中内にトンネル覆工体を構築していく。
【0003】
上記のシールド工事では、テールクリアランスと称されるスキンプレートとセグメントリングとの隙間を、均一に保持することが求められる。ところが、例えば、構築予定のトンネルに急曲線部などがあると、テールクリアランスを均一に保持することが困難となりやすい。このような場合、セグメントとスキンプレートに競りが生じて、セグメントに変形や損傷が生じるおそれがある。
【0004】
また、スキンプレートの後端内面に設けるテールブラシなどの止水構造に損傷が生じ、地下水が侵入する可能性がある。さらには、セグメントの組み立てに必要な余裕代を確保できないなど、様々な不具合が生じる。このため、一般には施工管理において、セグメントリングを組立てるごとにテールクリアランスを作業員が測定する。
【0005】
しかし、測定作業はセグメントリングの複数個所で行う必要があるため、多大な手間を要していた。このような中、発明者らは、特許文献1に開示されているテールクリアランス計測装置を開発した。具体的には、スキンプレートの内面上の各点の三次元座標と前記セグメントリングの内面上の各点の三次元座標を計測する三次元計測器をシールド掘進機内に設置し、この三次元計測器によって計測された各点の三次元座標から、テールクリアランスをコンピュータにより算出する装置である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6988384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1の方法によれば、三次元計測器によって、スキンプレートの内面とセグメントリングの内面が同一座標系の点群モデルとしてモデリングされる。従って、三次元計測器の設置の位置及び向きを正確にせずとも、テールクリアランスの幅を、正確に計測することができる。
【0008】
ところが、セグメントリングの内面と三次元計測器から発射されたレーザーとの角度(入射角)が小さい場合には誤差が大きく、セグメントリング内面の点群計測精度が低下しやすい。また、スキンプレートの内面には施工時に、グラウトまたはグリースなどが付着しやすく、このような場合には、スキンプレート内面の点群計測精度が低下する。さらに、水が潅水した場合には、スキンプレート内面の点群データを取得できない、などの課題が生じていた。
【0009】
本発明は、かかる課題に鑑みなされたものであって、その主な目的は、テールクリアランスを高精度で計測することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる目的を達成するため本発明のテールクリアランス計測装置は、シールド掘進機のテールクリアランスを計測するテールクリアランス計測装置であって、切羽側からセグメントまでの距離を測量する測量手段と、測量結果から生成された3次元点群データに基づいて、テールクリアランスを取得するクリアランス取得手段と、を備え、前記クリアランス取得手段は、前記3次元点群データから前記セグメントの前端面における内縁の点群を抽出し、抽出した点群の3次元座標値に基づいて、セグメント内縁距離を取得する内縁抽出部と、前記セグメント内縁距離、セグメント厚さ、及びスキンプレート距離に基づいて、テールクリアランスを算出するクリアランス算出部と、を備え、前記セグメント内縁距離は、前記シールド掘進機の中心軸と直交する方向の、該測量手段と前記内縁との離間距離であり、前記スキンプレート距離は、前記シールド掘進機の中心軸と直交する方向の、該測量手段と前記スキンプレートの内面との離間距離であることを特徴とする。
【0011】
本発明のテールクリアランス計測装置は、前記測量手段が、光軸を前記シールド掘進機の中心軸と平行となるように配置されていることを特徴とする。
【0012】
本発明のテールクリアランス計測装置は、前記内縁抽出部で前記内縁の点群を、前記セグメントの前端面、及び該前端面に連続する内面を表す3次元点群データから抽出することを特徴とする。
【0013】
本発明のテールクリアランスの計測方法は、シールド掘進機のテールクリアランスを計測するテールクリアランスの計測方法であって、測量手段を用いて切羽側からセグメントまでの距離を測量し、測量結果から3次元点群データを取得する工程と、取得した3次元点群データに基づいて、前記セグメントの前端面における内縁の点群を抽出し、抽出した点群の3次元座標値に基づいて、セグメント内縁距離を取得する工程と、前記セグメント内縁距離、セグメント厚さ、及びスキンプレート距離に基づいて、テールクリアランスを算出する工程と、を備え、前記セグメント内縁距離は、前記シールド掘進機の中心軸と直交する方向の、該測量手段と前記内縁との離間距離であり、前記スキンプレート距離は、前記シールド掘進機の中心軸と直交する方向の、該測量手段と前記スキンプレートの内面との離間距離であることを特徴とする。
【0014】
本発明のテールクリアランス計測装置及びテールクリアランスの計測方法によれば、スキンプレートの内面を測量することなく、セグメント内縁距離(シールド掘進機の中心軸と直交する方向の測量手段と内縁との離間距離)、セグメント厚さ、及びスキンプレート距離(シールド掘進機の中心軸と直交する方向の測量手段とスキンプレートの内面との離間距離)に基づいて、テールクリアランスを計測できる。
【0015】
このため、工事中のスキンプレートの内面に、付着物や潅水など正確な測量をできない事態が生じた場合にも、その影響を受けることなく高い精度で、スキンプレートの内面とセグメントの外面との隙間であるテールクリアランスを、高精度で計測することが可能となる。また、セグメントの前端面を表す点群を取得する場合、この前端面と測量手段から発射されるレーザーとの角度(入射角)が大きくなり、計測精度をより向上できる。
【0016】
さらに、セグメントの内縁を表す点群を取得できれば、セグメントを測量する測量手段の配置位置は、シールド掘進機内であればいずれでもよい。したがって、測量手段スキンプレートから離間した位置に配置することができ、そうすると、測量手段に汚れが付着することにより生じる誤認識の低減、また、水没などによる故障の発生の抑制を図ることができる。これにより、計測精度だけでなく耐久性も向上し、メンテナンスや交換などの作業手間の削減やコスト削減を実現でき、シールド工事の施工管理に係る作業性を大幅に向上することが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、スキンプレートの内面を測量することなくテールクリアランスを計測できるため、スキンプレートの内面に付着物や潅水などが生じている場合にも、その影響を受けることなく、テールクリアランスを高精度で計測することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施の形態におけるシールド掘進機の概略を示す図である。
図2】本実施の形態における測量手段の設置状況を示す図である。
図3】本実施の形態における切羽側から見た測量手段とセグメントリングを示す図でである。
図4】本実施の形態におけるテールクリアランス計測装置を示す図である。
図5】本実施の形態における3次元点群データ及び対象範囲(ROI:Region of Interest)を示す図である。
図6】本実施の形態におけるテールクリアランスの計測方法の手順を示す図である。
図7】本実施の形態における対象範囲(ROI)にある点群のZ座標値の変化を示す図である。
図8】本実施の形態における掘進しながらテールクリアランスを計測する様子を示す図である。
図9】本実施の形態におけるテールクリアランス計測装置の他の事例(測量手段が微少な傾斜を生じている場合)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、スキンプレートの内面を測量することなく、セグメントとスキンプレートとの隙間であるテールクリアランスを算出するものである。以下に、図1図9を参照しつつ、テールクリアランス計測装置及びテールクリアランスの計測方法の詳細を説明する。なお、「平行」「直交」は、厳密な意味で平行、直交を表すものではなく、略平行、略直交を含む。
【0020】
≪≪シールド掘進機の概略≫≫
図1(a)及び(b)に、シールド工事で用いられるシールド掘進機10の一例を示す。
【0021】
シールド掘進機10は、図1(a)で示すように、カッター駆動部14と、カッター駆動部14が背面に設けられ、前面が切羽Aに対向するカッターヘッド13と、カッターヘッド13の背面側に位置する筒状のスキンプレート11を備える。
【0022】
スキンプレート11は、シールド掘進機10の外殻体を構成し、リングガーター12によって補強されている。スキンプレート11の切羽A側には、カッターヘッド13から取り込まれた掘削土砂を貯留するチャンバー19と、チャンバー19内の掘削土砂を排出する排土装置17が設けられている。
【0023】
一方、スキンプレート11のテール側には、エレクター18と複数のシールドジャッキ15が設けられている。エレクター18は、セグメント20をリング状に組立てる装置である。シールドジャッキ15は、図1(b)で示すように、エレクター18により組立てられたセグメントリング21にシュー16を押し当てた状態で、本体部15aからロッド15bを伸張し、カッターヘッド13を切羽Aに押圧する。
【0024】
シールド掘進機10はカッターヘッド13を、図1(a)で示すように、シールドジャッキ15によって切羽A側に押圧しつつ旋回することで、切羽Aを切削する。また、カッターヘッド13によって切削された分だけ、シールドジャッキ15のロッド15bを伸長することで、セグメントリング21から反力をとって推進力を得る。
【0025】
こうしてシールド掘進機10を掘進させたのち、シールドジャッキ15のロッド15bを収縮させることで、セグメントリング21との間にスペースを形成する。そして、このスペースに新たなセグメントリング21を、エレクター18を利用して組み立てる。シールド工事は、上記の工程を繰り返しつつ、セグメントリング21を順次接続していくことにより、地中内にトンネル覆工体を構築していく。
【0026】
≪≪テールクリアランスTc≫≫
上記のシールド工事では、施工管理項目の一つに、図2で示すような、テールクリアランスTcの計測が挙げられている。テールクリアランスTcは、セグメント20の外面20bとスキンプレート11の内面11aとの間の隙間をいい、このテールクリアランスTcが均一(一般には10~90mm程度)に保持されるよう、適時に計測し管理する。
【0027】
テールクリアランスTcは、図3で示すように、切羽A側からセグメントリング21を見て、周方向の複数個所に計測地点Pを設け、この計測地点Pごとに取得する。図3では、上下左右の4カ所に、計測地点Pを設定する場合を例示している。これらテールクリアランスTcの計測は、図4で示すような、テールクリアランス計測装置30を利用して算出できる。
【0028】
≪≪テールクリアランス計測装置≫≫
テールクリアランス計測装置30は、図3及び図4で示すように、複数の測量手段40とクリアランス取得手段50とを備える。
【0029】
測量手段40は、図2及び図3で示すように、テールクリアランスTcの計測地点Pの近傍にそれぞれ配置されている。測量結果を用いて3次元点群データを生成可能であれば、測量手段40は、3Dレーザースキャナやミリ波レーダなど、いずれも採用することができる。本実施の形態では、対象物を測量して3次元点群データを生成する機能と、動画や静止画などの撮像画像を取得する機能とを有する、ToF(Time of Flight)センサやLiDAR(Light Detection and Ranging)スキャナーを組み込んだ、もしくはこれらと連動するカメラを採用する場合を事例に挙げている。
【0030】
クリアランス取得手段50は、図4で示すように、入力部51、演算処理部52、出力部53、及び記憶部54を備える装置であればいずれでもよく、パソコンやノートPC、タブレット端末などを採用することができる。
【0031】
入力部51は、測量手段40と接続され、測量手段40で取得した3次元点群データに係る情報を受信する。図示を省略するが、入力部51はさらに、キーボードやマウス、スキャナ、タッチパネルなどの入力装置と接続し、これらに入力された情報を受信する構成としてもよい。
【0032】
記憶部54は、例えば測量手段40から取得した3次元点群データや、後述する演算処理部52で処理した処理データなどの情報を格納する。また、入力部51を介して取得した情報等を格納する。
【0033】
出力部53は、入力部51を介して取得した情報や、後述する演算処理部52で処理した処理データなどの情報を出力する。出力部53から出力される情報は、無線または有線で接続されたディスプレイやプリンタなどの表示装置55に出力できる。表示装置55はタッチパネルを備える構成でもよく、この場合には、表示装置55が出力部53及び入力部51を兼用するよう構成しておく。
【0034】
演算処理部52は、CPU(Central Processing Unit:中央処理装置)、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)などの主記憶部を備え、クリアランス取得手段50の動作を制御する。この演算処理部52は、少なくとも範囲設定部521、データ取得部522、内縁抽出部523、クリアランス算出部524、傾斜検出部525を備える。詳細は後述するが、大まかには演算処理部52を次のように機能させる。
【0035】
データ取得部522は、測量手段40で測量した結果から生成した3次元点群データを取得する。範囲設定部521は、図5(a)で示すように、データ取得部522で取得した3次元点群データのうち、テールクリアランスTcの算出で使用する点群を表示させる対象範囲(ROI)Bを設定する。
【0036】
内縁抽出部523は、図5(b)で示すように、対象範囲(ROI)Bに含まれる点群60の3次元座標値を取得し、これに基づいて、セグメントリング21の内縁20dを表現する点群61を抽出する。また、内縁20dを表現する点群61の3次元座標値に基づいて、図2及び図3で示すような、セグメント内縁距離Ysを算定する。セグメント内縁距離Ysは、シールド掘進機10の中心軸Cと直交する方向の、測量手段40の設置位置とセグメントリング21の内縁20dまでの離間距離である。
【0037】
クリアランス算出部524は、図2及び図3で示すように、内縁抽出部523で取得したセグメント内縁距離Ysと、後述するスキンプレート距離Hk及びセグメントの厚さHsに基づいて、計測地点PにおけるテールクリアランスTcを算出する。
【0038】
傾斜検出部525は、測量手段40の光軸Oがシールド掘進機10の中心軸Cと間で傾きを生じているか否かを検証する。
【0039】
≪≪テールクリアランスの計測方法≫≫
上記のテールクリアランス計測装置30を用いたテールクリアランスTcの計測方法を、図4のブロック図を参照しつつ、図6のテールクリアランスの計測の流れに沿って説明する。
【0040】
≪≪測量手段の設置:STEP1≫≫
まず、測量手段40を図1(a)及び図2で示すように、セグメントリング21に対向させた状態で、シールド掘進機10の中心軸Cに対して直交して設置されているリングガーター12に設置する。
【0041】
測量手段40は、現実のセグメント20を測量し、その測量結果からセグメント20の表面形状を表す3次元点群データを生成する。そして、3次元点群データは、測量手段40の設置位置を原点とする3次元座標値(X,Y,Z)を持った点データの集合体である。
【0042】
本実施の形態では、測量手段40を、光軸Oがシールド掘進機10の中心軸Cと平行となる向きに設置する。これにより、点群データが生成される3次元空間のZ軸を、シールド掘進機10の中心軸Cと平行にしている。
【0043】
また、本実施の形態では、測量手段40を、図3で示すように、切羽A側から見てシールド掘進機10の中心軸Cと直交し計測地点Pを通過する方向と平行となる姿勢に設置する。これにより、3次元空間のY軸を、シールド掘進機10の中心軸Cと直交し計測地点Pを通過する方向と平行にしている。
【0044】
つまり、図5(b)で示すように、3次元空間においてY軸は、セグメント20の厚さ方向を向き、X軸はセグメント20の前端面20cと平行な方向を向く態様となる。
【0045】
なお、測量手段40は、セグメント20の切羽Aに対向する前端面20cを測量できれば、セグメント20に対する設置位置もいずれでもよく、例えば図3で示すように、切羽A側から見て、セグメントリング21の内縁20dより内側でも外側でもよい。
【0046】
さらに、図3では測量手段40を、切羽A側から見て計測地点Pを通過するシールド掘進機10の直径と重なる位置に、配置する場合を例示している。しかし、これに限定するものではなく、この位置から外れて測量手段40を設置してもよい。
【0047】
≪≪事前データ(Hk,Hs,Zk)の取得:STEP1≫≫
測量手段40を設置したのち、図2及び図3で示すような、スキンプレート距離Hk、セグメントの厚さHs、及びセグメント端面距離Zkを事前データとして取得しておく。これらは、後述するSTEP5で使用するデータである。
【0048】
スキンプレート距離Hkは、シールド掘進機10の中心軸Cと直交する方向の、測量手段40の設置位置とスキンプレート11の内面11aとの離間距離である。また、セグメント端面距離Zkは、シールド掘進機10の中心軸Cと平行な方向の、測量手段40の設置位置とセグメント20の前端面20cとの離間距離である。
【0049】
これらの計測手段は、なんら制限されるものではない。また、セグメントの厚さHsは、計測してもよいし設計情報を入手しておいてもよい。取得した事前データ(Hk,Hs,Zk)は、クリアランス取得手段50の記憶部54に、入力部51を介してあらかじめ格納しておく。
【0050】
≪≪対象範囲(ROI)Bの設定:STEP2≫≫
測量手段40で測量した結果から生成した3次元点群データのうち、図5(b)で示すような、後述するSTEP4で使用対象となる点群60を表示させる対象範囲(ROI)Bを設定する。
【0051】
対象範囲(ROI)Bは、図3で示すように、切羽A側からセグメントリング21を見て、計測地点Pを通過するシールド掘進機10の直径を含む所定の幅と、セグメント20の内縁20dを含む直径方向の長さを確保する。設定方法はいずれでもよいが、例えば図5(a)で示すように、クリアランス取得手段50の出力部53を介して、表示装置55に測量手段40で撮像した現実のセグメントリング21の撮像画像を表示する。
【0052】
そして、管理者がこの撮像画像上で、現実のセグメント20の内縁20dを含む任意の範囲を、対象範囲(ROI)Bとして指定する。指定した対象範囲(ROI)Bを、入力部51を介してクリアランス取得手段50に入力すると、演算処理部52が範囲設定部521の指令を受けて、対象範囲(ROI)Bに関する情報を、記憶部54に格納する。なお、対象範囲(ROI)Bは、撮像画像上の中央付近に設定することが好ましく、また、形状はセグメント20の厚さ方向に長く設定することが好ましい。
【0053】
≪≪3次元点群データの取得:STEP3≫≫
上記のSTEP1及びSTEP2の作業が終了したのち、シールド掘進機10の運転を開始するとともに、これと前後して、測量手段40を起動し、現実のセグメント20の測量を開始する。
【0054】
測量手段40の測量結果から生成された3次元点群データは、入力部51を介してクリアランス取得手段50に入力される。すると、演算処理部52がデータ取得部522の指令を受けて、3次元点群データを取得し、取得した3次元点群データのうち、図5(b)で示すように、あらかじめ設定した対象範囲(ROI)Bに含まれる点群60各々の3次元座標値を記憶部54に格納する。
【0055】
また、対象範囲(ROI)Bに含まれる点群60を、出力部53を介して表示装置55に、測量手段40で撮像した現実のセグメントリング21の撮像画像と重ね合わせて表示してもよい。
【0056】
図5(a)を参照して説明したように、対象範囲(ROI)Bは、切羽A側からセグメントリング21を見て、セグメント20の内縁20dを含むよう設定している。したがって、点群60は、図5(b)で示すように、セグメント20の前端面20cと、この前端面20cに連続する内面20aの一部を表現したものとなっている。
【0057】
≪≪セグメントリング内縁の点群の抽出:STEP4≫≫
演算処理部52が内縁抽出部523の指令を受けて、対象範囲(ROI)Bに含まれる点群60のうち、セグメント20の内縁20dを表す点群61を抽出する。
【0058】
抽出する方法はいずれでもよいが、点群60各々のZ座標値を活用すると良い。具体的には、点群60のうち例えば、対象範囲(ROI)Bの最左に位置するX座標値がXの点群について、図7で示すように、横方向をY座標値とし、縦方向をZ座標値に設定したグラフにプロットする。
【0059】
図7を見ると、Y座標値が増大するにつれてZ座標値が減少する範囲と、Y座標値が増大してもZ座標値が横ばいとなる2つの範囲が形成される様子がわかる。図5(b)で示すように、3次元空間において、Y座標値は、シールド掘進機10の中心軸Cと直交し計測地点Pを通過する方向と平行な方向(紙面では高さ方向)の、測量手段40からの距離である。また、3次元空間のZ座標値は、シールド掘進機10の中心軸Cと平行な方向(紙面では奥行方向)の、測量手段40からの距離である。そして、3次元空間のX座標値は、シールド掘進機10の中心軸Cと直交し計測地点Pを通過する方向と直交する方向(紙面では横方向)の、測量手段40からの距離である。
【0060】
したがって、Z座標値が減少する範囲はセグメント20の内面20aを表し、Z座標値が横ばいとなる範囲はセグメント20の前端面20cを表していると想定できる。そして、両者の間に位置する変化点付近は、セグメント20の内縁20dを表現しているものと想定できる。したがって、同一のX座標値を有する点群ごとに、上記の変化点を検出する。こうして、X座標値X~Xごとの変化点の集合を、図5(b)で示すように、セグメント20の内縁20dを表現する点群61として検出し、記憶部54に格納する。
【0061】
≪≪セグメント内縁距離Ysの算出:STEP4≫≫
こうして、セグメント20の内縁20dを表現する点群61を検出したところで、演算処理部52が内縁抽出部523の指令を受けて、検出した点群におけるY座標値の平均を算出し、算出結果を記憶部54に格納する。
【0062】
算定したY座標値の平均は、図3で示すように、前述のセグメント内縁距離Ysに相当する。なお、Y座標値の平均を算出する際、例えば、Y座標値に閾値を設けて異常値(ノイズ)を排除するなどしてもよい。
【0063】
≪≪計測地点PにおけるテールクリアランスTcの算出:STEP5≫≫
セグメント内縁距離Ysが取得されると、演算処理部52がクリアランス算出部524の指令を受けて、計測地点PにおけるテールクリアランスTcを算出する。テールクリアランスTcは、セグメント内縁距離Ysと、STEP1で取得した事前データを、次の(1)式に代入して算出する。
【0064】
Tc:計測地点Pのテールクリアランス
Hk:スキンプレート距離
Ys:セグメント内縁距離
Hs:セグメントの厚さ
【0065】
≪≪STEP3~STEP5の繰り返し≫≫
上記のSTEP3~STEP5の工程は、シールド掘進機10の運転中、シールドジャッキ15の1ストロークの間に連続的に繰り返してもよいし、任意の間隔で実施してもよい。もしくは、図8(a)及び図8(b)で示すように、シールドジャッキ15の伸長前と1ストローク分の伸長後の2回など、適時のタイミングで繰り返し実施するなどしてもよい。
【0066】
シールド掘進機10は、セグメントリング21の1リング分となる所定のストロークだけ前進すると掘進運転を停止する。そして、図8(c)で示すように、シールドジャッキ15を収縮させ、これにより形成されたスペースを利用して新たなセグメント20’を搬入し、リング状に組み立てる。こうしてセグメントリング21’が組立てられると、シールド掘進機10の次のリングの掘進運転が開始され、同時にテールクリアランスTcの計測が実施される。
【0067】
次のリングの掘進運転開始後、図8(d)で示すように、1リング分となる所定のストロークの掘進を終了するまで、上記のSTEP3~STEP5の手順で計測地点PにおけるテールクリアランスTcを算出する。このような計測を毎リング実施する。
【0068】
≪≪計測手段の光軸Oの傾きの検証:STEP6≫≫
測量手段40は、図1(a)を参照しつつ上記のSTEP1で説明したように、シールド掘進機10の中心軸Cに対して直交して設置されているリングガーター12に取り付ける。しかし、シールド掘進機10の製作精度の観点から、リングガーター12をシールド掘進機10の中心軸Cに対し完全に直交させることは難しいため、測量手段40の光軸Oは、シールド掘進機10の中心軸Cと必ずしも平行ではない。そのため、STEP1、2の段階で、光軸Oの傾きを算出し、計算結果の算出に反映させる。
【0069】
光軸Oの傾き(図9における微小角度α)を計測する手段はいずれでもよいが、測量手段40とスキンプレート11の傾きを実測してその差分から求める方法、任意のジャッキストロークZkの位置においてYs値の計測とテールクリアランスTcを実測を同時に行い逆算して求める方法などがある。
【0070】
≪≪計測手段の光軸Oに傾きがある場合の算定事例≫≫
例えば、図9で示すように、測量手段40の光軸OがX軸まわりに微少角度αだけ回転し、シールド掘進機10の中心軸Cに対して傾きを有している場合を例に挙げると、次のとおりである。
【0071】
微少角度αを取得すると、演算処理部52がクリアランス算出部524の指令を受けて、セグメント内縁距離の補正値Ys’とスキンプレート距離の補正値Hk’を算出する。セグメント内縁距離の補正値Ys’は、次の(2)式に微少角度αとSTEP4で算定したセグメント内縁距離Ysを代入することで、算定する。一方、スキンプレート距離の補正値Hk’は、微少角度αとSTEP1で取得した事前データを、次の(3)式に代入して算出する。
【0072】
これにより、微少角度αを有する測量手段40の光軸Oを、シールド掘進機10の中心軸Cに平行な光軸Oと見做して、計測地点PにおけるテールクリアランスTcを算出することができる。こののち、補正値Hk’及びYs’を、前述した(1)式のHk及びYsに代入し、計測地点PのテールクリアランスTcを算出する。
【0073】
Ys’:セグメント内縁距離の補正値
Ys :セグメント内縁距離
【0074】
Hk’:スキンプレート距離
Hk :スキンプレート距離
Zk :セグメント端面距離
【0075】
なお、あらかじめ上記の(1)式における、Ysに上記の(2)式にあてはめるとともに、Hkに上記の(3)式を当てはめておいてもよい。この場合には、測量手段40の光軸Oが、シールド掘進機10の中心軸Cに対して平行であるとき、微少角度α=0として、計測地点PのテールクリアランスTcを算出すればよい。
【0076】
上記のとおり、テールクリアランス計測装置30及びテールクリアランスの計測方法によれば、スキンプレート11の内面11aを測量することなく、セグメント内縁距離Ys、セグメント厚さHs、及びスキンプレート距離Hkに基づいて、テールクリアランスを計測できる。
【0077】
このため、工事中のスキンプレート11の内面11aに、付着物や潅水など正確な測量をできない事態が生じた場合にも、その影響を受けることなく高い精度で、テールクリアランスTcを、高精度で計測することが可能となる。また、セグメント20の前端面20cを表す点群を取得する場合、この前端面20cと測量手段40から発射されるレーザーとの角度(入射角)が大きくなり、計測精度をより向上できる。
【0078】
さらに、セグメント20の内縁20dを表す点群61を取得できれば、測量手段40の配置位置は、いずれでもよい。したがって、測量手段40をセグメントリング21の内側といった、スキンプレート11から離間した位置に配置することができ、測量手段40に汚れが付着することにより生じる誤認識の低減、また、水没などによる故障の発生の抑制を図ることができる。これにより、計測精度だけでなく耐久性も向上し、メンテナンスや交換などの作業手間の削減やコスト削減を実現でき、シールド工事の施工管理に係る作業性を大幅に向上することが可能となる。
【0079】
本発明のテールクリアランス計測装置30及びテールクリアランスの計測方法は、上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の変更が可能であることはいうまでもない。
【0080】
例えば、本実施の形態では、測量手段40をシールド掘進機10のリングガーター12に設置したが、これに限定するものではない。セグメント20を測量して生成した3次元点群データから、前端面20c側にある内縁20dの点群61を抽出できれば、シールド掘進機10内において測量手段40の設置位置はいずれでもよい。
【0081】
また、本実施の形態では図3で示すように、テールクリアランスTcの計測地点Pごとに測量手段40を配置したが、複数の計測地点Pに対して1台の測量手段40を配置し、この1台で複数の計測地点Pを計測してもよい。この場合には、上記のSTEP2において、対象範囲(ROI)Bを計測地点Pごとに設定すればよい。
【符号の説明】
【0082】
10 シールド掘進機
11 スキンプレート
11a 内面
12 リングガーター
13 カッターヘッド
14 カッター駆動部
15 シールドジャッキ
15a 本体部
15b ロッド
16 シュー
17 排土装置
18 エレクター
19 チャンバー
20 セグメント
20’ 後行のセグメント
20a 内面
20b 外面
20c 前端面
20d 内縁
21 セグメントリング
21’ 後行のセグメントリング
30 テールクリアランス計測装置
40 測量手段
50 クリアランス取得手段
51 入力部
52 演算処理部
53 出力部
54 記憶部
55 表示装置
A 切羽
B 対象範囲(ROI)
C 中心軸
O 光軸
光軸
光軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9