IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

<>
  • -摩擦試験方法および摩擦試験装置 図1
  • -摩擦試験方法および摩擦試験装置 図2
  • -摩擦試験方法および摩擦試験装置 図3
  • -摩擦試験方法および摩擦試験装置 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162446
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】摩擦試験方法および摩擦試験装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/56 20060101AFI20241114BHJP
   G01N 19/02 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
G01N3/56 N
G01N19/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023077951
(22)【出願日】2023-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(71)【出願人】
【識別番号】513099603
【氏名又は名称】兵庫県公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】池田 修悟
(72)【発明者】
【氏名】須貝 幸廉
(72)【発明者】
【氏名】木本 訓弘
(57)【要約】
【課題】複数の荷重条件における摩擦力を短時間で測定可能であり、樹脂やゴム材であっても動摩擦係数を見積もることが可能な摩擦試験方法および摩擦試験装置を提供する。
【解決手段】摩擦試験装置1は、第一摺動部材21および第二摺動部材22を相対的に摺動させて摺動領域の摩擦力を測定するための摩擦試験装置である。摩擦試験装置1は、第一摺動部材21を鉛直方向上下に移動させる位置調節部4と、第二摺動部材22を水平面方向に摺動して第一摺動部材21と摺動可能に固定する第二固定部材32と、前記摺動中における少なくとも第一摺動部材21の一部の荷重を含む荷重を測定するロードセル5と、前記摺動領域の摩擦力を測定する摩擦力検出部6とを備える。位置調節部4により、第一摺動部材21を下降させて、または、第二摺動部材22を上昇させて、少なくとも第一摺動部材21の荷重が第二摺動部材22およびロードセル5の双方にかかる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一摺動部材および第二摺動部材を相対的に摺動させて摺動領域の摩擦力を測定する摩擦試験方法であって、
少なくとも前記第一摺動部材の荷重を前記第二摺動部材および前記ロードセルの双方に付加しつつ、前記ロードセルに付加される荷重を前記ロードセルで連続的に検出しながら前記摺動領域の摩擦力を測定する、摩擦試験方法。
【請求項2】
前記第一摺動部材は前記第二摺動部材に対して鉛直方向上側に位置し、摺動状態を維持しながら上下に自由移動して前記第二摺動部材に付加される荷重を変動させる、請求項1に記載の摩擦試験方法。
【請求項3】
前記第一摺動部材を第一固定部材に固定し、前記第一摺動部材および前記第一固定部材の荷重を前記第二摺動部材および前記ロードセルの双方に付加する、請求項1または2に記載の摩擦試験方法。
【請求項4】
前記第二摺動部材および前記ロードセルは、合計して、前記摺動領域および前記摺動領域以外の領域の2点で少なくとも前記第一摺動部材の荷重を受ける、請求項1または2に記載の摩擦試験方法。
【請求項5】
前記第一摺動部材に荷重を付加して前記第二摺動部材に付加される荷重を増加させる、請求項1または2に記載の摩擦試験方法。
【請求項6】
前記第一摺動部材はディスクであり前記第二摺動部材はリングであるリングオンディスク摩擦試験により前記摩擦力を測定する、請求項1または2に記載の摩擦試験方法。
【請求項7】
第一摺動部材および第二摺動部材を相対的に摺動させて摺動領域の摩擦力を測定するための摩擦試験装置であって、
前記第一摺動部材を鉛直方向上下に移動させる位置調節部と、
第二摺動部材を水平面方向に摺動して前記第一摺動部材と摺動可能に固定する第二固定部材と、
前記摺動中における少なくとも前記第一摺動部材の一部の荷重を含む荷重を測定するロードセルと、
前記摺動領域の摩擦力を測定する摩擦力検出部とを備え、
前記位置調節部により、前記第一摺動部材を下降させて、または、前記第二摺動部材を上昇させて、少なくとも前記第一摺動部材の荷重が前記第二摺動部材および前記ロードセルの双方にかかる、摩擦試験装置。
【請求項8】
前記第一摺動部材はディスクであり前記第二摺動部材はリングであるリングオンディスク摩擦試験を行う、請求項7に記載の摩擦試験装置。
【請求項9】
前記第二摺動部材は前記第一摺動部材の鉛直方向下側に位置する、請求項7または8に記載の摩擦試験装置。
【請求項10】
前記第一摺動部材を固定する第一固定部材を備える請求項7または8に記載の摩擦試験装置。
【請求項11】
第一固定部材は荷重付加物を積載可能なステージを有する請求項10に記載の摩擦試験装置。
【請求項12】
前記摺動領域以外の領域で前記第一摺動部材から前記ロードセルに接続して少なくとも前記第一摺動部材の荷重を前記ロードセルに付加する接続部を備える請求項7または8に記載の摩擦試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は摩擦試験方法および摩擦試験装置に関する。より具体的には、本開示は、摩擦試験方法、および、上記摩擦試験方法に使用可能な摩擦試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の摩擦試験機では試験片間に一定荷重を印加しつつ摺動させ、その際の摩擦力を測定し、摩擦力と荷重は比例するという経験則に基づき動摩擦係数を算出する。このため、摩擦力と荷重との関係を多数測定するには、都度荷重を変更しなければならないため測定時間がかかる。
【0003】
また、金属同士の動摩擦実験では上記経験則が成り立つことが多いが、一方が樹脂やゴム材である場合は上記経験則が成立しない実験条件が多く、摩擦力と荷重の関係を都度検証する必要があった。荷重条件を変更して摩擦力を測定するには時間がかかるという問題がある。
【0004】
特許文献1には、荷重を負荷してゴム試験片を試験路面に押し当てた状態で互いに相対移動させることでゴム試験片の摩擦係数μを測定するゴム摩擦試験方法において、相対移動の速度を加速または減速させながら試験を行うことの開示がある。特許文献1の摩擦試験方法によれば、接触時間による真実接触面積の変化を考慮した摩擦係数の測定が可能となると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-49440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の摩擦試験方法では、相対移動速度を調節することで複数の条件での抵抗力を測定することができるが、複数の荷重条件における摩擦力を短時間で測定することはできない。
【0007】
従って、本開示の目的は、複数の荷重条件における摩擦力を短時間で測定可能であり、樹脂やゴム材であっても動摩擦係数を見積もることが可能な摩擦試験方法および摩擦試験装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、一方の摺動部材の荷重を他方の摺動部材およびロードセルの双方に付加しつつ、上記ロードセルに付加される荷重を上記ロードセルで連続的に検出しながら摺動領域の摩擦力を測定する方法によれば、複数の荷重条件における摩擦力を短時間で測定可能であり、樹脂やゴム材であっても動摩擦係数を見積もることが可能であることを見出した。本開示は、これらの知見に基づいて完成されたものに関する。
【0009】
すなわち、本開示は、第一摺動部材および第二摺動部材を相対的に摺動させて摺動領域の摩擦力を測定する摩擦試験方法であって、
少なくとも上記第一摺動部材の荷重を上記第二摺動部材および上記ロードセルの双方に付加しつつ、上記ロードセルに付加される荷重を上記ロードセルで連続的に検出しながら上記摺動領域の摩擦力を測定する、摩擦試験方法を提供する。
【0010】
上記第一摺動部材は上記第二摺動部材に対して鉛直方向上側に位置し、摺動状態を維持しながら上下に自由移動して上記第二摺動部材に付加される荷重を変動させることが好ましい。
【0011】
上記第一摺動部材を第一固定部材に固定し、上記第一摺動部材および上記第一固定部材の荷重を上記第二摺動部材および上記ロードセルの双方に付加することが好ましい。
【0012】
上記第二摺動部材および上記ロードセルは、合計して、上記摺動領域および上記摺動領域以外の領域の2点で少なくとも上記第一摺動部材の荷重を受けることが好ましい。
【0013】
上記第一摺動部材に荷重を付加して上記第二摺動部材に付加される荷重を増加させてもよい。
【0014】
上記第一摺動部材はディスクであり上記第二摺動部材はリングであるリングオンディスク摩擦試験により上記摩擦力を測定することが好ましい。
【0015】
また、本開示は、第一摺動部材および第二摺動部材を相対的に摺動させて摺動領域の摩擦力を測定するための摩擦試験装置であって、
上記第一摺動部材を鉛直方向上下に移動させる位置調節部と、
第二摺動部材を水平面方向に摺動して上記第一摺動部材と摺動可能に固定する第二固定部材と、
上記摺動中における少なくとも上記第一摺動部材の一部の荷重を含む荷重を測定するロードセルと、
上記摺動領域の摩擦力を測定する摩擦力検出部とを備え、
上記位置調節部により、上記第一摺動部材を下降させて、または、上記第二摺動部材を上昇させて、少なくとも上記第一摺動部材の荷重が上記第二摺動部材および上記ロードセルの双方にかかる、摩擦試験装置を提供する。
【0016】
上記第一摺動部材はディスクであり上記第二摺動部材はリングであるリングオンディスク摩擦試験を行うことが好ましい。
【0017】
上記第二摺動部材は上記第一摺動部材の鉛直方向下側に位置することが好ましい。
【0018】
上記第一摺動部材を固定する第一固定部材を備えることが好ましい。
【0019】
第一固定部材は荷重付加物を積載可能なステージを有していてもよい。
【0020】
上記摺動領域以外の領域で上記第一摺動部材から上記ロードセルに接続して少なくとも上記第一摺動部材の荷重を上記ロードセルに付加する接続部を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本開示の摩擦試験方法および摩擦試験装置によれば、複数の荷重条件における摩擦力を短時間で測定可能であり、樹脂やゴム材であっても動摩擦係数を見積もることができる。また、多数のデータを評価することに加え、線形性から外れる条件のデータを除外することで、動摩擦係数の評価精度がさらに向上する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本開示の摩擦試験装置の一実施形態を示す正面図である。
図2図1の摩擦試験装置において第一固定部材を下降させた状態を示す正面図である。
図3】実施例において得られた荷重および摩擦力の推移を示すグラフである。
図4】実施例において得られた荷重および摩擦力の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本開示の摩擦試験装置は、第一摺動部材および第二摺動部材を相対的に摺動させて摺動領域の摩擦力を測定するための摩擦試験装置である。本開示の摩擦試験装置によれば、複数の荷重条件における摩擦力を短時間で測定可能である。また、摺動部材が金属、樹脂、ゴム材のいずれであっても、動摩擦係数を見積もることができる。
【0024】
また、本開示の摩擦試験方法は、第一摺動部材および第二摺動部材を相対的に摺動させて摺動領域の摩擦力を測定する摩擦試験方法であって、少なくとも上記第一摺動部材の荷重を上記第二摺動部材および上記ロードセルの双方に付加しつつ、上記ロードセルに付加される荷重を上記ロードセルで連続的に検出しながら上記摺動領域の摩擦力を測定する。
【0025】
上記摩擦試験装置および上記摩擦試験方法について、以下、実施形態を示しつつ説明する。図1に、本開示の摩擦試験装置の一実施形態の概略図(正面図)を示す。図1に示す摩擦試験装置1は、第一摺動部材21と第二摺動部材22とを摺動させる機構を備え、第一摺動部材21を固定する第一固定部材31a,31bと、第二摺動部材22を水平面方向に摺動して第一摺動部材21と摺動可能に固定する第二固定部材32と、第一摺動部材21を鉛直方向上下に移動させる位置調節部4と、摺動中における少なくとも第一摺動部材21の荷重の一部を含む荷重を測定するロードセル5と、摺動領域の摩擦力を測定する摩擦力検出部6とを備える。
【0026】
なお、図1に示す摩擦試験装置1は、第一摺動部材21をディスク、第二摺動部材22をリングとするリングオンディスク(リングオンプレート)摩擦試験装置であるが、本開示の摩擦試験装置1はリングオンディスク摩擦試験装置には限定されず、ボールオンディスク摩擦試験、ピンオンディスク摩擦試験、ボールオンプレート摩擦試験、ピンオンプレート摩擦試験、フレッティング摩擦試験等の他の原理により摩擦力を測定する摩擦試験装置であってもよい。このような他の摩擦試験装置の場合、摺動機構は当該他の原理に基づいて公知乃至慣用の方法を使用して適宜設計することができる。例えば、第二摺動部材22の摺動面22a上にボールを設置することにより、ボールオンディスク摩擦試験装置とすることができる。ボールオンディスク摩擦試験装置としては、例えば、図1に示す摩擦試験装置1において、第二摺動部材22であるリングの上面にボールが収まる箱状の固定部材が付属され、固定部材側面にはねじ切りがされており、リング上にボール設置し、ねじ止めで固定されたものが挙げられる。この場合、ボールと第一摺動部材21であるディスクとの摩擦試験が可能であり、リングは第二摺動部材を固定する第二固定部材となる。
【0027】
第一摺動部材21は板状(ディスク状)であり、第一固定部材(台座)31aと第一固定部材(蓋)31bで挟み込むことで固定されている。第一固定部材(台座)31aと第一固定部材(蓋)31bは、ねじ止めされており、第一摺動部材21が摩擦試験中に動かないように固定されている。第一摺動部材21は、第一固定部材31a,31bに固定された状態において第二摺動部材22と接面して摩擦させる面(摺動面)21aが鉛直方向下側に露出している。第一摺動部材21は第二摺動部材22に対して鉛直方向上側に位置する。
【0028】
第一固定部材(台座)31aは、第一摺動部材21を固定した際に第一摺動部材21の摺動面が水平となるように、支柱8に固定されている。第一固定部材(台座)31aは位置調節部4を回転等操作することで鉛直上下方向に稼働する。第一固定部材(台座)31aは荷重付加物を積載可能なステージ31cを有する。
【0029】
第二摺動部材22は第一摺動部材21の鉛直方向下側に位置し、第二摺動部材22は水平面方向に摺動して第一摺動部材21と摺動可能に第二固定部材32に固定される。第二摺動部材22は上面(摺動面)が水平となるように第二固定部材32に固定されている。第二固定部材32はJIS K7218に基づいた構造を有している。具体的には、第二固定部材32は円柱形状であり、第二摺動部材22の下面側には凹状の切れ込みがあり、第二固定部材32側の凸型ストッパーと噛合わせることで水平方向が固定される。第二摺動部材22はモーター7と接続しており、モーター7の回転により回転することができる。第二摺動部材22は摩擦力検出部6を介してモーター7と接続しており、摩擦力検出部6は第一摺動部材21および第二摺動部材22が摺動する摩擦試験におけるトルクを検出する。リングオンディスク摩擦試験では摩擦力検出部6としてトルクメーターを使用することができる。
【0030】
支柱8にはロードセル5が備え付けられている。ロードセル5は、第一固定部材(台座)31aと接触した状態において第一摺動部材21の荷重の一部と、第一固定部材(台座)31aの荷重の一部とを第一固定部材(蓋)31bの荷重の一部と検出する。ロードセル5の上面は水平面となっている。
【0031】
支柱8には位置調節部4が備え付けられている。位置調節部4を操作することで第一固定部材(台座)31aを鉛直上下方向に稼働させることができる。第一摺動部材21および第二摺動部材22が離間している状態から、位置調節部4を操作することで第一固定部材(台座)31aを下降させるとともに第一摺動部材21を下降させて、少なくとも第一摺動部材21の荷重が第二摺動部材22およびロードセル5の双方にかかるようにすることができる。これにより、第一摺動部材21の荷重、第一固定部材(台座)31a、および第一固定部材(蓋)31bの荷重は第二摺動部材22およびロードセル4の双方にかかる。
【0032】
第一摺動部材21および第二摺動部材22の材質は、それぞれ、摩擦力を測定する対象に応じて適宜選択することができ、特に限定されないが、金属、樹脂、ゴムなどが挙げられる。第一摺動部材および第二摺動部材の組み合わせは、同種(例えば金属と金属)であってもよく、異種(例えば金属と樹脂)であってもよい。本開示の摩擦試験装置および摩擦試験方法によれば、樹脂やゴム材であっても動摩擦係数を見積もることができる。
【0033】
図1および図2に用いて、上記摩擦試験装置により摩擦試験を行う方法を説明する。まず、第一摺動部材21および第一固定部材31a,31bの総重量(自重)を測定しておく。上記総重量を[X]とする。そして、図1に示すように、第一固定部材31a,31bの間である第一摺動部材固定位置に第一摺動部材21を固定し、第二固定部材32の第二摺動部材固定位置に第二摺動部材22を固定する。第一摺動部材21と第二摺動部材22とは離間した状態としておく。
【0034】
次に、位置調節部4を回転させて支柱8に固定された第一固定部材(台座)31aを下降させ、図2に第一摺動部材21を第二摺動部材22に接面させ、図2に示す状態となる。このとき、第一固定部材(台座)31aの下面がロードセル5の上面に接面し、ロードセル5にかかる荷重をロードセル5が検知する。第二摺動部材22およびロードセル5は、合計して、第一摺動部材21および第二摺動部材22の接面である摺動領域と、上記摺動領域以外の領域である第一固定部材(台座)31aおよびロードセル5の接面の2点で少なくとも第一摺動部材21の荷重を受ける。上記接面は、第一摺動部材21からロードセル5に接続した接続部であり、上記接続部を介して第一摺動部材21の荷重がロードセル5に付加される。なお、第一摺動部材21の摺動面21aと第一固定部材31の下面とは面一であり、且つ第二摺動部材22の摺動面22aとロードセル5の上面とは同一平面上にあってもよい。この場合も、第一摺動部材21の摺動面21aと第二摺動部材22の摺動面22aとが接面した際に、第一固定部材31の下面はロードセル5の上面に接面する。
【0035】
また、位置調節部4により下降した第一固定部材(台座)31aは支柱8に固定されておらず、第一摺動部材21が第二摺動部材22に、第一固定部材(台座)31aがロードセル5に重量がかかるように乗っている。このため、図2に示す状態では、第一摺動部材21の荷重は第二摺動部材22およびロードセル5の双方に付加している。
【0036】
また、位置調節部4や図外の別の位置調節部により、第二摺動部材22を上昇させてもよい。第二摺動部材22の上昇および第一摺動部材21の下降により、第一摺動部材21の荷重が第二摺動部材22およびロードセル5の双方にかかるようにすればよい。
【0037】
図2に示す状態で、モーター7を駆動させて第二摺動部材22を回転させ、第一摺動部材21と第二摺動部材22とを摺動させ、摩擦試験を実施する。摩擦試験中、ロードセル5に付加される荷重は連続的にリアルタイムで記録され、また摩擦力(トルク)は摩擦力検出部(トルクメーター)6により連続的に記録される。
【0038】
第一摺動部材21および第一固定部材(台座)31aは第二摺動部材22およびロードセル5に乗った状態であるため、摺動中は第一摺動部材21および第一固定部材(台座)31aは、摺動状態を維持しながら上下に自由移動し、第二摺動部材22に付加される荷重が変動する。連続的に変動する荷重はロードセル5によりリアルタイムで記録される。としたとき、第二摺動部材22にかかる荷重[Z]は、第一摺動部材21、第一固定部材(台座)31a、および第一固定部材(蓋)31bの総重量(自重)[X]とロードセルにかかる荷重[Y]とから、下記式(1)により算出される。そして、測定された摩擦力と荷重との関係から、公知乃至慣用の方法、例えば最小二乗法でフィティングを行い、動摩擦係数を見積もることができる。
Z=X-Y (1)
【0039】
また、第二摺動部材22に係る荷重は、第一摺動部材21および第一固定部材31a,31bとして重量が異なるものを使用することで変えることができるし、第一固定部材(台座)31aのステージ31c上に分銅等の荷重付加物を積載して変えることができる。このように、第一固定部材31a,31bや荷重付加物を使用して第一摺動部材21に荷重を付加して第二摺動部材22に付加される荷重を増加させることができる。荷重付加物を使用する場合、上記式(1)において、第一摺動部材21、第一固定部材(台座)31a、第一固定部材(蓋)31b、および上記荷重付加物の総重量を[X]とする。
【0040】
従来の摩擦試験装置および摩擦試験方法では、第二摺動部材22にかかる荷重をいかにして一定にして摩擦力を測定するかに焦点を当てていた。一方で、本開示の摩擦試験装置および摩擦試験方法では、第二摺動部材22にかかる荷重を敢えて自由に変動させ、その際の第二摺動部材22にかかる荷重と摩擦力とを摩擦試験中に連続的に測定することにより、摩擦試験を停止させずに荷重を変動させることができ、荷重と摩擦力との関係を複数の荷重条件で得ることができ、動摩擦係数を見積もる際の時間を短縮することができる。
【0041】
本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他のいかなる特徴とも組み合わせることができる。各実施形態における各構成およびそれらの組み合わせ等は、一例であって、本開示の趣旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。また、本開示に係る各発明は、実施形態や以下の実施例によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例0042】
以下に、実施例に基づいて本開示の一実施形態をより詳細に説明する。
【0043】
実施例1
図1に示す摩擦試験装置を使用してリングオンディスク摩擦試験を行った。第一摺動部材としてアルミニウム板を、第二摺動部材としてポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂のリングを使用し、アルミニウム板および第一固定部材の合計重量[X]を測定した。そして、アルミニウム板を第一固定部材31a,31bに固定し、リングを第二固定部材32に固定した。図1に示す状態から位置調節部4を回転させることで第一固定部材(台座)31aを下降させ、アルミニウム板とリングとを接面させ、同時に第一固定部材(台座)31aをロードセル5に接面させた(図2の状態)。この状態でモーター7によりリングを回転させて摩擦試験を実施した。摩擦試験は、室温環境下、回転速度1.2mm/秒(1rpm)の条件で、120秒間行った。摩擦試験中、ロードセル5にかかる荷重を連続的に検出し、摩擦力検出部6(トルクメーター)によりトルクを連続的に検出した。[X]からロードセル5にかかる荷重を差し引いた値をリングにかかる荷重とし、摩擦試験中の実効荷重およびトルクから変換された摩擦力の推移を図3のグラフに示した。また、荷重および摩擦力の関係を示す図4のグラフに示した。なお、図3において、上側に位置するグラフは荷重を示し、下側に位置するグラフは摩擦力を示す。
【0044】
図3に示すように、摩擦試験装置1を使用して、リングにかかる荷重を変化させつつ、複数の荷重条件における摩擦力を連続的に算出することができた。また、図4に示すように荷重と各荷重における摩擦力との関係を900点以上取得することができた。そして、図4から、荷重および摩擦力が測定範囲内において一次関数の関係性にあることが明瞭に認識された。フィッティングにより求められた傾きから、動摩擦係数は0.25と見積もられた。このように、本開示の摩擦試験装置および摩擦試験方法によれば、複数の荷重条件において連続的に短時間で摩擦力を測定することができ、そしてアルミニウム板とPEEK樹脂といった異なる材料の摩擦であっても動摩擦係数を見積もることができた。一方、従来の摩擦試験方法では、本実施例と同数のデータを取得しようとする場合、900回も荷重を変化させて摩擦試験を行う必要があり、多くの手間と時間がかかる。
【0045】
以下、本開示に係る発明のバリエーションを記載する。
[付記1]第一摺動部材および第二摺動部材を相対的に摺動させて摺動領域の摩擦力を測定する摩擦試験方法であって、
少なくとも前記第一摺動部材の荷重を前記第二摺動部材および前記ロードセルの双方に付加しつつ、前記ロードセルに付加される荷重を前記ロードセルで連続的に検出しながら前記摺動領域の摩擦力を測定する、摩擦試験方法。
[付記2]前記第一摺動部材は前記第二摺動部材に対して鉛直方向上側に位置し、摺動状態を維持しながら上下に自由移動して前記第二摺動部材に付加される荷重を変動させる、付記1に記載の摩擦試験方法。
[付記3]前記第一摺動部材を第一固定部材に固定し、前記第一摺動部材および前記第一固定部材の荷重を前記第二摺動部材および前記ロードセルの双方に付加する、付記1または2に記載の摩擦試験方法。
[付記4]前記第二摺動部材および前記ロードセルは、合計して、前記摺動領域および前記摺動領域以外の領域の2点で少なくとも前記第一摺動部材の荷重を受ける、付記1~3のいずれか1つに記載の摩擦試験方法。
[付記5]前記第一摺動部材に荷重を付加して前記第二摺動部材に付加される荷重を増加させる、付記1~4のいずれか1つに記載の摩擦試験方法。
[付記6]前記第一摺動部材はディスクであり前記第二摺動部材はリングであるリングオンディスク摩擦試験により前記摩擦力を測定する、付記1~5のいずれか1つに記載の摩擦試験方法。
[付記7]第一摺動部材および第二摺動部材を相対的に摺動させて摺動領域の摩擦力を測定するための摩擦試験装置であって、
前記第一摺動部材を鉛直方向上下に移動させる位置調節部と、
第二摺動部材を水平面方向に摺動して前記第一摺動部材と摺動可能に固定する第二固定部材と、
前記摺動中における少なくとも前記第一摺動部材の一部の荷重を含む荷重を測定するロードセルと、
前記摺動領域の摩擦力を測定する摩擦力検出部とを備え、
前記位置調節部により、前記第一摺動部材を下降させて、または、前記第二摺動部材を上昇させて、少なくとも前記第一摺動部材の荷重が前記第二摺動部材および前記ロードセルの双方にかかる、摩擦試験装置。
[付記8]前記第一摺動部材はディスクであり前記第二摺動部材はリングであるリングオンディスク摩擦試験を行う、付記7に記載の摩擦試験装置。
[付記9]前記第二摺動部材は前記第一摺動部材の鉛直方向下側に位置する、付記7または8に記載の摩擦試験装置。
[付記10]前記第一摺動部材を固定する第一固定部材を備える付記7~9のいずれか1つに記載の摩擦試験装置。
[付記11]第一固定部材は荷重付加物を積載可能なステージを有する付記10に記載の摩擦試験装置。
[付記12]前記摺動領域以外の領域で前記第一摺動部材から前記ロードセルに接続して少なくとも前記第一摺動部材の荷重を前記ロードセルに付加する接続部を備える付記7~11のいずれか1つに記載の摩擦試験装置。
【符号の説明】
【0046】
1 摩擦試験装置
21 第一摺動部材
21a 摺動面
22 第二摺動部材
22a 摺動面
31a 第一固定部材(台座)
31b 第一固定部材(蓋)
31c ステージ
32 第二固定部材
4 位置調節部
5 ロードセル
6 摩擦力検出部
7 モーター
8 支柱
図1
図2
図3
図4