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2024-162448未使用生コンクリートの処理方法および造粒化材料
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  • -未使用生コンクリートの処理方法および造粒化材料 図1
  • -未使用生コンクリートの処理方法および造粒化材料 図2
  • -未使用生コンクリートの処理方法および造粒化材料 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162448
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】未使用生コンクリートの処理方法および造粒化材料
(51)【国際特許分類】
   C04B 18/167 20230101AFI20241114BHJP
   C04B 18/10 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
C04B18/167
C04B18/10 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023077953
(22)【出願日】2023-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】栗本 悠平
(72)【発明者】
【氏名】浅香 美治
(57)【要約】
【課題】炭酸水等によるCO2の固定工程を要することなく、脱炭素社会の実現に貢献することができる未使用生コンクリートの処理方法および造粒化材料を提供する。
【解決手段】未使用の生コンクリートに粉末状のバイオ炭を添加するステップS1と、添加した前記バイオ炭と前記生コンクリートを混合撹拌することにより造粒化材料を製造するステップS2とを有するようにする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
未使用の生コンクリートに粉末状のバイオ炭を添加するステップと、添加した前記バイオ炭と前記生コンクリートを混合撹拌することにより造粒化材料を製造するステップとを有することを特徴とする未使用生コンクリートの処理方法。
【請求項2】
製造した前記造粒化材料をさらに分粒するステップを有することを特徴とする請求項1に記載の未使用生コンクリートの処理方法。
【請求項3】
製造した前記造粒化材料をさらに空気曝露するステップを有することを特徴とする請求項1に記載の未使用生コンクリートの処理方法。
【請求項4】
前記生コンクリートを収容する回転式のミキサードラムを備えたコンクリートミキサー車の前記ミキサードラムに前記バイオ炭を投入することにより、前記バイオ炭を添加することを特徴とする請求項1に記載の未使用生コンクリートの処理方法。
【請求項5】
前記バイオ炭の添加量が180~400kg/m3であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一つに記載の未使用生コンクリートの処理方法。
【請求項6】
未使用の生コンクリートと、粉末状のバイオ炭とを混合してなることを特徴とする造粒化材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設現場で使用されなかった未使用生コンクリートの処理方法および造粒化材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、建設現場で使用されずに余剰となった生コンクリート(以降、残コン・戻りコンという。)は、建設現場から生コンクリート工場に戻り、産業廃棄物として処理される。残コン・戻りコンの発生量は、生コンクリート総出荷量の3~5%とされ、処理費用は生コンクリート会社または発注者が負担する。また、コンクリートの製造工程では固化材にセメントを使用するため、大量のCO2が排出され、環境面にも悪影響を及ぼす。すなわち、残コン・戻りコンの削減や再資源化が可能となれば、処理費用とCO2排出量を低減できる。
【0003】
残コン・戻りコンの発生量をゼロとする取り組みとして、未打設の生コンクリート量を精度良く算出し、生コンクリート量を削減する方法や、余剰な生コンクリートを他現場に分配する方法がある。その他にも、集約した残コン・戻りコンに薬剤を添加し、道路の路盤材等に利用する方法もある。例えば、生コンクリートを積載した生コンクリート車に粒状化材を投入し、再生骨材相当となる粒状化骨材(規格化はされていない)を製造する試みもある。また、製造した粒状化骨材を超微細気泡の炭酸水に浸すことで、炭酸カルシウム化を促し、CO2を固定することもできる。これらの方法は、非特許文献1に紹介されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「日経コンストラクション」、日経BP社、2022年11月号、pp.66-68.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の方法のうち、粒状化材を生コンクリートに添加して粒状化骨材を製造し、この粒状化骨材を超微細気泡の炭酸水に浸してCO2を固定する方法では、粒状化骨材の製造とCO2の固定が別工程であることから、粒状化材と炭酸水をそれぞれの工程で準備する必要があり、手間とコストが掛かるという問題があった。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、炭酸水等によるCO2の固定工程を要することなく、脱炭素社会の実現に貢献することができる未使用生コンクリートの処理方法および造粒化材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る未使用生コンクリートの処理方法は、未使用の生コンクリートに粉末状のバイオ炭を添加するステップと、添加した前記バイオ炭と前記生コンクリートを混合撹拌することにより造粒化材料を製造するステップとを有することを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る他の未使用生コンクリートの処理方法は、上述した発明において、製造した前記造粒化材料をさらに分粒するステップを有することを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る他の未使用生コンクリートの処理方法は、上述した発明において、製造した前記造粒化材料をさらに空気曝露するステップを有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る他の未使用生コンクリートの処理方法は、上述した発明において、前記生コンクリートを収容する回転式のミキサードラムを備えたコンクリートミキサー車の前記ミキサードラムに前記バイオ炭を投入することにより、前記バイオ炭を添加することを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る他の未使用生コンクリートの処理方法は、上述した発明において、前記バイオ炭の添加量が180~400kg/m3であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る造粒化材料は、未使用の生コンクリートと、粉末状のバイオ炭とを混合してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る未使用生コンクリートの処理方法によれば、未使用の生コンクリートに粉末状のバイオ炭を添加するステップと、添加した前記バイオ炭と前記生コンクリートを混合撹拌することにより造粒化材料を製造するステップとを有するので、炭酸水等によるCO2の固定工程を要することなく、脱炭素社会の実現に貢献することができるという効果を奏する。
【0014】
また、本発明に係る他の未使用生コンクリートの処理方法によれば、製造した前記造粒化材料をさらに分粒するステップを有するので、粗粒分を砕石・骨材、細粒分を流動化処理土等の材料として利用することができるという効果を奏する。
【0015】
また、本発明に係る他の未使用生コンクリートの処理方法によれば、製造した前記造粒化材料をさらに空気曝露するステップを有するので、造粒化材料を軽量化して取り扱いを容易にするとともに、大気中のCO2を吸着することができるという効果を奏する。
【0016】
また、本発明に係る他の未使用生コンクリートの処理方法によれば、前記生コンクリートを収容する回転式のミキサードラムを備えたコンクリートミキサー車の前記ミキサードラムに前記バイオ炭を投入することにより、前記バイオ炭を添加するので、造粒化材料をコンクリートミキサー車で手間なく製造することができるという効果を奏する。
【0017】
また、本発明に係る他の未使用生コンクリートの処理方法によれば、前記バイオ炭の添加量が180~400kg/m3であるので、一般的な残コン・戻りコンを容易に造粒化することができるという効果を奏する。
【0018】
また、本発明に係る造粒化材料によれば、未使用の生コンクリートと、粉末状のバイオ炭とを混合してなるので、未使用の生コンクリートを建設資材として再資源化することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明に係る未使用生コンクリートの処理方法の実施の形態を示す概略工程図である。
図2図2は、本発明に係る造粒化材料の配合試験テーブル図である。
図3図3は、バイオ炭(0~400kg/m3)を添加した生コンクリートの状態を示す写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、産業廃棄物として処理される残コン・戻りコンの有効活用を目的に、天然状態で炭素を固定した粉末状のバイオ炭を残コン・戻りコンに添加し、任意のCO2を固定した環境配慮型の造粒化材料を製造する方法である。ここで「造粒」とは、粉末状態から顆粒状態に加工するという意味である。
【0021】
以下に、本発明に係る未使用生コンクリートの処理方法および造粒化材料の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0022】
図1に示すように、本発明の実施の形態に係る未使用生コンクリートの処理方法は、残コン・戻りコン(未使用の生コンクリート)に粉末状のバイオ炭を添加するステップS1と、添加したバイオ炭と残コン・戻りコンを混合撹拌することにより造粒化材料を製造するステップS2とを有する。バイオ炭には、例えば、針葉樹と広葉樹の製材時に排出されたおがくずを原料とするバイオ炭を用いることができる。バイオ炭の粉粒径は5mm以下が好ましい。バイオ炭の添加量は、後述するように200~300kg/m3としてもよい。このようにすれば、一般的な残コン・戻りコンを容易に造粒化することができる。
【0023】
本実施の形態によれば、産業廃棄物として処理する残コン・戻りコンに対して、天然状態で炭素を固定した粉末状のバイオ炭を添加して撹拌することで、造粒化材料を容易に得ることができる。この造粒化材料は、流動化処理土をはじめとするソイルセメントの土質材料や道路の路盤材、通常の砕石等として利用可能である。
【0024】
また、バイオ炭は、炭素を固定した材料であるため、上記の従来技術のように別途、炭酸水等を準備して、CO2を固定する必要はない。残コン・戻りコンの造粒に炭素を固定したバイオ炭を利用することで、残コン・戻りコンに使用する固化材のCO2排出量を削減することができる。したがって、本実施の形態によれば、炭酸水等によるCO2の固定工程を要することなく、脱炭素社会の実現に貢献することができる。
【0025】
建設現場にて所定量のバイオ炭を生コンクリート車(コンクリートミキサー車)に備わる回転式のミキサードラム内に投入してもよい。生コンクリート車が生コンクリート工場に戻るまでにミキサードラム内の残コン・戻りコンを造粒化すれば、造粒化材料を手間なく効率的に製造することができる。
【0026】
造粒化材料は、分粒(篩い分け)してもよい。このようにすれば、分粒後の粗粒分を砕石・骨材として利用し、細粒分を流動化処理土等の材料として利用することができる。
【0027】
造粒化材料は、空気暴露(天日干し)してもよい。このようにすれば、乾燥して軽量化し、取り扱いが容易になる。加えて、造粒化材料に含まれるセメントの固化反応が停止するとともに、大気中のCO2を吸着して炭素固定・中性化を可能とする。
【0028】
(実施例)
次に、本発明の実施例として、バイオ炭を添加した残コン・戻りコンの試験練り結果について説明する。
残コン・戻りコンは、JIS A 5308:2019で規定され、鉄筋コンクリート構造物の柱や壁、スラブに使用される標準的な配合とし、呼び強度27N/mm2、スランプ18cm、粗骨材最大寸法20mm、水セメント比55%とした。具体的には、残コン・戻りコンを想定した生コンクリート1m3当たり、水185kg(W)、普通ポルトランドセメント337kg(固化材添加量C)、細骨材878kg(S)、粗骨材889kg(G)の配合に対して、パン型生コンクリートミキサーで10秒間の空練りを実施し、セメント投入後にさらに60秒間攪拌して残コン・戻りコンを作製した。その後、作製した残コン・戻りコンに対して、バイオ炭(B)を外割で50、70、100、120、150、180、200、220、250、300、400kg添加し、それぞれの配合について30秒間攪拌した。
【0029】
普通ポルトランドセメント(固化材)のCO2排出量は、下記の参考文献1に基づいて、0.84g-CO2/gを採用した。また、バイオ炭のCO2固定量は、下記の参考文献2の計算方法を参考に、CO2固定量=炭素含有率(0.77)×100年後の炭素残存率(0.89)×44/12=2.51g-CO2/gと仮定した。
【0030】
[参考文献1] 「建設施工分野における地球温暖化対策について(平成19年2月)」、国土交通省、[online]、[2022年11月7日検索]、インターネット<URL:https://www.mlit.go.jp/singikai/infra/kankyou/6/images/04.pdf>
[参考文献2] 「バイオ炭の農地施用を対象とした方法論について(令和2年11月9日)」、農林水産省環境政策室、[online]、[2022年11月7日検索]、インターネット<URL:https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/climate/biochar/attach/pdf/top-4.pdf>
【0031】
図2に、固化材のCO2排出量の削減率(カーボンニュートラル率:CN率)を示す。固化材のCO2排出量のニュートラル化には、本配合の場合、残コン・戻りコン1m3に対して、120kgのバイオ炭(試料番号5(27-18-20N-B120))を添加すればよいことが分かる。
【0032】
図3に、バイオ炭を添加した残コン・戻りコンの状態を、バイオ炭の添加量別に示す。残コン・戻りコンは、バイオ炭の添加量の増加に伴い、造粒化することが分かる。特に、残コン・戻りコンは、バイオ炭の添加量が180kg/m3(試料番号7(27-18-20N-B180)、CN率160%)を超えると凹凸の少ない顆粒の材料となる。試験練りでは、バイオ炭の添加量を180~400kg/m3として造粒化したが、図3の造粒化状態を考慮すれば残コン・戻りコンに対する添加量は200~300kg/m3を基本とするのが好ましい。なお、造粒化状態を確認して、バイオ炭の添加量を180~400kg/m3の範囲内で適宜調整してもよい。一般的な生コンクリート車の回転式ミキサードラムでの撹拌時間は、バイオ炭の投入完了から高速回転(例えば、15rpm前後)で5分以上の撹拌を行い、かつ、その後の低速回転(例えば、1rpm前後)で10分以上の撹拌を行うことが好ましい。この場合、高速回転での撹拌は現場で行い、低速回転での撹拌は復路の走行中に行ってもよい。
【0033】
なお、上記の試験練りでは、残コン・戻りコンの配合・仕様が、呼び強度27N/mm2、スランプ18cm、粗骨材最大寸法20mm、水セメント比55%の場合を例にとり説明したが、本発明はこれに限るものではなく、他の配合・仕様でもよい。他の配合・仕様の場合には、事前に上記の試験練りと同様の試験練りを行ってバイオ炭の添加量を設定すればよい。このようにしても、上記と同様の作用効果を得ることができる。
【0034】
以上説明したように、本発明に係る未使用生コンクリートの処理方法によれば、未使用の生コンクリートに粉末状のバイオ炭を添加するステップと、添加した前記バイオ炭と前記生コンクリートを混合撹拌することにより造粒化材料を製造するステップとを有するので、炭酸水等によるCO2の固定工程を要することなく、脱炭素社会の実現に貢献することができる。
【0035】
また、本発明に係る他の未使用生コンクリートの処理方法によれば、製造した前記造粒化材料をさらに分粒するステップを有するので、粗粒分を砕石・骨材、細粒分を流動化処理土等の材料として利用することができる。
【0036】
また、本発明に係る他の未使用生コンクリートの処理方法によれば、製造した前記造粒化材料をさらに空気曝露するステップを有するので、造粒化材料を軽量化して取り扱いを容易にするとともに、大気中のCO2を吸着することができる。
【0037】
また、本発明に係る他の未使用生コンクリートの処理方法によれば、前記生コンクリートを収容する回転式のミキサードラムを備えたコンクリートミキサー車の前記ミキサードラムに前記バイオ炭を投入することにより、前記バイオ炭を添加するので、造粒化材料をコンクリートミキサー車で手間なく製造することができる。
【0038】
また、本発明に係る他の未使用生コンクリートの処理方法によれば、前記バイオ炭の添加量が180~400kg/m3であるので、一般的な残コン・戻りコンを容易に造粒化することができる。
【0039】
また、本発明に係る造粒化材料によれば、未使用の生コンクリートと、粉末状のバイオ炭とを混合してなるので、未使用の生コンクリートを建設資材として再資源化することができる。
【0040】
なお、2015年9月の国連サミットにおいて採択された17の国際目標として「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」がある。本実施の形態に係る未使用生コンクリートの処理方法および造粒化材料は、このSDGsの17の目標のうち、例えば「12.つくる責任、つかう責任」の目標などの達成に貢献し得る。
【産業上の利用可能性】
【0041】
以上のように、本発明に係る未使用生コンクリートの処理方法および造粒化材料は、残コン・戻りコンなどの未使用の生コンクリートの処理に有用であり、特に、炭酸水等によるCO2の固定工程を要することなく、脱炭素社会の実現に貢献するのに適している。
図1
図2
図3