(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162461
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】樹脂膜形成用基材及び離型フィルム
(51)【国際特許分類】
C01B 32/20 20170101AFI20241114BHJP
【FI】
C01B32/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023077984
(22)【出願日】2023-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】堀 由樹
(72)【発明者】
【氏名】金城 永泰
(72)【発明者】
【氏名】川久保 靖
(72)【発明者】
【氏名】宮内 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】山岡 友洋
【テーマコード(参考)】
4G146
【Fターム(参考)】
4G146AA02
4G146AB07
4G146AC16A
4G146AC16B
4G146AC17A
4G146AC17B
4G146AC22A
4G146AC22B
4G146AC30A
4G146AC30B
4G146AD40
4G146BA13
4G146BC23
(57)【要約】
【課題】高耐熱性と、樹脂膜形成により得られる樹脂膜を剥離できる剥離性を有する樹脂膜形成用基材を提供する。
【解決手段】樹脂膜形成面がグラファイト層の面である樹脂膜形成用基材であって、前記グラファイト層のラマンスペクトルにおけるGバンド強度I(G)に対する、Dバンド強度I(D)の比(I(D)/I(G))が、0以上0.030以下であり、前記グラファイト層の厚みが5μm以上である、樹脂膜形成用基材により、課題を解決する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂膜形成面がグラファイト層の面である樹脂膜形成用基材であって、
前記グラファイト層のラマンスペクトルにおけるGバンド強度I(G)に対する、Dバンド強度I(D)の比(I(D)/I(G))が、0以上0.030以下であり、
前記グラファイト層の厚みが5μm以上である、樹脂膜形成用基材。
【請求項2】
前記グラファイト層のエックス線回折における002面に対応するピークの半値幅が0.30°以下である、請求項1に記載の樹脂膜形成用基材。
【請求項3】
前記グラファイト層の密度が0.10g/cm3以上、2.25g/cm3以下である、請求項1に記載の樹脂膜形成用基材。
【請求項4】
前記グラファイト層の厚みが300μm以下である、請求項1に記載の樹脂膜形成用基材。
【請求項5】
グラファイトシートである、請求項1に記載の樹脂膜形成用基材。
【請求項6】
離型面がグラファイト層であり、前記グラファイト層のラマンスペクトルにおけるGバンド強度I(G)に対する、Dバンド強度I(D)の比(I(D)/I(G))が、0以上0.030以下であり、
前記グラファイト層の厚みが5μm以上である、離型フィルム。
【請求項7】
前記グラファイト層のエックス線回折における002面に対応するピークの半値幅が0.30°以下である、請求項6に記載の離型フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂膜形成用基材及び離型フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性ポリイミドを製膜するためには、前駆体であるポリアミック酸、又はイミド基を構成する酸二無水物とジアミンとの混合物を、300℃以上に加熱しイミド化する必要がある。一般的に熱可塑性ポリイミドのガラス転移温度は300℃以下であるため、イミド化温度下において単層フィルムとして扱うことができず、支持体となる基材が必要である。このような高温での樹脂膜形成に使用される基材は、高温に耐えうる高耐熱性と、樹脂膜形成により得られる樹脂膜を剥離できる剥離性を必要とするが、実用的な基材がないという課題がある。
【0003】
高耐熱性及び離型性を有する基材として、特許文献1には、耐熱性樹脂による熱可塑性プリプレグシートの製造の際にキャリアシートとして使用する、耐熱離型シートとして、膨張黒鉛シートの片面又は両面に耐熱性と離型性がある樹脂層を有する耐熱離型シートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のような従来技術は、高耐熱性と、樹脂膜形成により得られる樹脂膜を剥離できる剥離性とを兼ね備えるという点で、十分とは言えなかった。
【0006】
本発明の一態様は、高耐熱性と、樹脂膜形成により得られる樹脂膜を剥離できる剥離性を有する樹脂膜形成用基材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態は、以下の構成を含むものである。
【0008】
[1]樹脂膜形成面がグラファイト層の面である樹脂膜形成用基材であって、前記グラファイト層のラマンスペクトルにおけるGバンド強度I(G)に対する、Dバンド強度I(D)の比(I(D)/I(G))が、0以上0.030以下であり、前記グラファイト層の厚みが5μm以上である、樹脂膜形成用基材。
【0009】
[2]前記グラファイト層のエックス線回折における002面に対応するピークの半値幅が0.30°以下である、[1]に記載の樹脂膜形成用基材。
【0010】
[3]前記グラファイト層の密度が0.10g/cm3以上、2.25g/cm3以下である、[1]又は[2]に記載の樹脂膜形成用基材。
【0011】
[4]前記グラファイト層の厚みが300μm以下である、[1]~[3]の何れかに記載の樹脂膜形成用基材。
【0012】
[5]グラファイトシートである、[1]~[4]の何れかに記載の樹脂膜形成用基材。
【0013】
[6]離型面がグラファイト層であり、前記グラファイト層のラマンスペクトルにおけるGバンド強度I(G)に対する、Dバンド強度I(D)の比(I(D)/I(G))が、0以上0.030以下であり、前記グラファイト層の厚みが5μm以上である、離型フィルム。
【0014】
[7]前記グラファイト層のエックス線回折における002面に対応するピークの半値幅が0.30°以下である、[6]に記載の離型フィルム。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一態様によれば、高耐熱性と、樹脂膜形成により得られる樹脂膜を剥離できる剥離性を有する樹脂膜形成用基材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施例4及び比較例1にて形成したポリイミド膜の剥離性評価において、樹脂膜形成用基材から剥離したポリイミド膜の状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能である。また、異なる実施形態又は実施例にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせて得られる実施形態又は実施例についても、本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。なお、本明細書中に記載された学術文献及び特許文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意図する。
【0018】
〔1.樹脂膜形成用基材〕
本発明者らは、前記課題を解決するために、検討を行った結果、樹脂膜形成面が所定のラマンスペクトルDバンド強度/Gバンド強度比を有するグラファイト層の面である樹脂膜形成用基材によれば、特許文献1に記載の耐熱離型シートのように、膨張黒鉛シートの片面又は両面に耐熱性と離型性がある樹脂層を積層しなくとも、高耐熱性と、樹脂膜を剥離できる剥離性を有する樹脂膜形成用基材として好適に使用できることを見出した。
【0019】
すなわち、本発明の一実施形態に係る樹脂膜形成用基材は、樹脂膜形成面がグラファイト層の面である樹脂膜形成用基材であって、前記グラファイト層のラマンスペクトルにおけるGバンド強度I(G)に対する、Dバンド強度I(D)の比(I(D)/I(G))が、0以上0.030以下であり、前記グラファイト層の厚みが5μm以上である。
【0020】
なお、本明細書において、「グラファイト層」とは、グラファイトからなる層、言い換えれば、複数の炭素六員環からなるグラフェン層の積層体を基本構成とする層である。また、「グラファイトシート」とは、単層の「グラファイト層」又は2層以上の多層の「グラファイト層」のみから成り、他の材料を含む層を含まないシートを意図する。
【0021】
本発明の一実施形態に係る樹脂膜形成用基材は、樹脂膜形成面がグラファイト層の面であり、当該グラファイト層のラマンスペクトルにおけるGバンド強度I(G)に対する、Dバンド強度I(D)の比(I(D)/I(G))が、0以上0.030以下である。
【0022】
グラファイトのラマンスペクトルにおいては、グラファイト構造に乱れ及び/又は欠陥が生じると、ピークトップが1580cm-1付近に認められるグラファイト結晶由来の吸収ピークであるGバンドの他に、1300cm-1~1400cm-1付近にグラファイトの乱れ及び/又は欠陥に由来する、言い換えれば、乱構造由来であるDバンドが認められるようになる。一般に、Gバンド強度I(G)に対する、Dバンド強度I(D)の比(I(D)/I(G))が小さい程、グラファイト構造の乱れが小さいことを意味する。
【0023】
本発明の一実施形態に係る樹脂膜形成用基材において、前記グラファイト層のGバンド強度I(G)に対する、Dバンド強度I(D)の比(I(D)/I(G))が、前記範囲内にあれば、樹脂膜形成により得られる樹脂膜を剥離できる剥離性が向上するため好ましい。前記I(D)/I(G)は、より好ましくは、0~0.020であり、さらに好ましくは0~0.010である。
【0024】
ここで、本明細書において、ラマンスペクトルにおけるI(D)/I(G)は、実施例に記載の方法により決定した値である。
【0025】
また、前記グラファイト層の厚みは5μm以上であればよい。前記グラファイト層の厚みが5μm以上であれば、樹脂膜形成用基材に要求される強度が得られるため、好ましい。前記グラファイト層の厚みは、より好ましくは10μm以上であり、さらに好ましくは25μm以上である。
【0026】
前記グラファイト層の厚みの上限はこれに限定されるものではないが、例えば300μm以下である。前記グラファイト層の厚みが300μm以下であれば、未圧延のグラファイト層、及び圧延後のグラファイト層ともにロール状となる柔軟性を持つため好ましい。
【0027】
ここで、本明細書において、前記グラファイト層の厚みは、実施例に記載の方法により決定した値である。
【0028】
本発明の一実施形態に係る樹脂膜形成用基材は、樹脂膜形成面が前述のI(D)/I(G)を有する、厚み5μm以上のグラファイト層の面である樹脂膜形成用基材であればよい。したがって、前記樹脂膜形成用基材は、前述のI(D)/I(G)を有するグラファイト層からなる樹脂膜形成用基材であってもよいし、当該グラファイト層の樹脂膜形成面と反対側の面に1以上の他の層が積層された多層構造を有する樹脂膜形成用基材であってもよい。
【0029】
本発明の一実施形態に係る樹脂膜形成用基材において、前記グラファイト層のエックス線回折における002面に対応するピークの半値幅は、好ましくは0.30°以下であり、より好ましくは0.20°以下であり、さらに好ましくは0.15°以下である。前記グラファイト層のエックス線回折における002面に対応するピークの半値幅が前記範囲内にあれば、樹脂膜形成により得られる樹脂膜を剥離できる剥離性が向上するため好ましい。前記グラファイト層のエックス線回折における002面に対応するピークの半値幅は、小さい程好ましいため、下限は特に限定されるものではないが、通常0.05°以上である。
【0030】
ここで、ピークの半値幅とは、ピークの極大値の1/2の強度の2点間の間隔として定義される。前記グラファイト層のエックス線回折における002面に対応するピークの半値幅は、グラファイト層の結晶性の指標となり、小さい程結晶性が高いと言える。
【0031】
ここで、本明細書において、前記グラファイト層のエックス線回折における002面に対応するピークの半値幅は、実施例に記載の方法により決定した値である。
【0032】
本発明の一実施形態に係る樹脂膜形成用基材において、剥離強度が小さくなるとの観点から、前記グラファイト層の密度は、0.10g/cm3以上、2.25g/cm3以下であることが好ましい。前記グラファイト層の密度は、より好ましくは0.15g/cm3以上であり、さらに好ましくは0.20g/cm3以上である。また、前記グラファイト層の密度は、より好ましくは2.20g/cm3以下であり、さらに好ましくは2.15g/cm3以下である。
【0033】
前記グラファイト層としては、例えば、天然グラファイト、合成グラファイト、高分子フィルムを炭素化及びグラファイト化して得られるグラファイト等からなる層を挙げることができる。中でも、前記グラファイト層は、前記I(D)/I(G)が所望の範囲内であるグラファイト層が得られ易いとの観点から、高分子フィルムを炭素化及びグラファイト化して得られるグラファイトからなることがより好ましい。前記高分子フィルムとしては、例えば、ポリイミド、ポリアミド、ポリオキサジアゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリベンゾビスチアゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾビスオキサゾール、ポリパラフェニレンビニレン、ポリベンゾイミダゾール、ポリベンゾビスイミダゾール、ポリチアゾール等及びこれらの誘導体を原料とするフィルム、及びこれらのフィルムの1種類以上を、2層以上積層したフィルムが挙げられる。中でも、前記高分子フィルムとしては、ポリイミドを原料とするフィルムがより好ましく、ポリイミドを原料とするフィルムからなる2層以上の多層フィルムとすることもできる。ポリイミドを原料とするフィルムは、他の有機材料を原料とする高分子フィルムよりも、炭素化及びグラファイト化によりグラフェンの層構造が発達し易いためである。
【0034】
前記ポリイミドを原料とするフィルムは、芳香族ポリイミドを原料とするフィルムであることがより好ましく、中でも以下に記載する酸二無水物(特に芳香族酸二無水物)とジアミン(特に芳香族ジアミン)とからポリアミド酸を経て作製される芳香族ポリイミドは、本発明の一実施形態で用いるグラファイト層作製のための高分子原料として特に好ましい。
【0035】
前記芳香族ポリイミドの合成に用いられ得る酸二無水物としては、例えば、ピロメリット酸無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物等を挙げることができる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0036】
前記芳香族ポリイミドの合成に用いられ得るジアミンとしては、例えば、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、1,4-ジアミノベンゼン、1,3-ジアミノベンゼン、1,2-ジアミノベンゼン等を挙げることができる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0037】
前記酸二無水物及びジアミンからポリアミド酸を調製する方法は、公知の方法を用いることができ、芳香族酸二無水物の少なくとも1種とジアミンの少なくとも1種を有機溶媒中に溶解させ、得られた溶液を、制御された温度条件下で、上記酸二無水物とジアミンとの重合が完了するまで撹拌することによって製造される。これらのポリアミド酸溶液は通常5~35wt%、好ましくは10~30wt%の濃度で得られる。
【0038】
前記高分子フィルムは、前記原料又はその合成原料から公知の手法によって製造できる。例えば、前記ポリイミドの製造方法としては、前駆体であるポリアミド酸を加熱によりイミド化する熱キュア法、ポリアミド酸に無水酢酸等の酸無水物に代表される脱水剤(脱水閉環剤)、及び/又は、ピコリン、キノリン、イソキノリン、ピリジン等の第3級アミン類に代表される触媒、等のイミド化促進剤として用い、イミド化するケミカルキュア法があるが、そのいずれを用いてもよい。前記ポリイミドを原料とするフィルムは、前記ポリイミド前駆体であるポリアミド酸の有機溶剤溶液をエンドレスベルト、ステンレスドラムなどの支持体上に流延し、乾燥・イミド化させることにより製造される。
【0039】
高分子フィルムを炭素化及びグラファイト化して得られるグラファイトは、前記高分子フィルムを、炭素化する炭素化工程、及び、当該炭素化工程にて炭素化したフィルムをグラファイト化するグラファイト化工程を含む方法により製造することができる。高分子フィルムは1枚のフィルムを炭素化及びグラファイト化してもよいし、複数のフィルムを重ねて炭素化及びグラファイト化してもよい。炭素化工程、及びグラファイト化工程は、連続で行っても良いし、非連続で行っても良い。また、炭素化工程とグラファイト化工程とを分離せず、一つの工程で行ってもよい。炭素化工程では、出発物質である高分子フィルムを減圧下又は不活性ガス中で予備加熱処理して炭素化する。この炭素化工程は、通常1000℃程度の温度で行われる。炭素化工程の次のグラファイト化工程は、減圧下又は不活性ガス中で行われる。前記不活性ガスとしてはアルゴン、ヘリウム等を好適に使用することができる。グラファイト化の熱処理温度は、2400℃以上が好ましく、2600℃以上がより好ましく、2800℃以上がさらに好ましく、2900℃以上が特に好ましい。最高温度の上限は特に限定されないが、3300℃以下であることが好ましく、3200℃以下であることがより好ましい。
【0040】
また、前記グラファイト層は、高分子フィルムを炭素化及びグラファイト化して得られるグラファイト層を圧延して形成したグラファイト層であってもよい。グラファイト層を圧延することにより、柔軟性を付与することができるため、好ましい。一方、前記グラファイト層は、未圧延のグラファイト層であってもよい。前記グラファイト層が、未圧延のグラファイト層であれば、当該グラファイト層上に樹脂膜形成して得られる樹脂膜を剥離できる剥離性が向上する傾向にあるため、好ましい。
【0041】
グラファイト層を圧延する方法は特に限定されず、例えば、金属ロールなどを用いて圧延する方法が挙げられる。圧延工程は、製造したグラファイトシートを室温に冷却した状態で行ってもよく、黒鉛化工程と連続して行ってもよい。
【0042】
本発明の一実施形態に係る樹脂膜形成用基材が、グラファイト層に加えて他の層を含む場合は、前述のグラファイト層に、他の層を積層すればよい。前述のグラファイト層に、他の層を積層する方法も特に限定されるものではなく、例えば、前述のグラファイト層に他の層を重ね合わせた後加熱しながら加圧処理を行う方法、加熱無しで圧力により積層する方法等、従来公知の方法を採用することができる。
【0043】
〔2.離型フィルム〕
本発明の一実施形態に係る樹脂膜形成用基材は、高耐熱性と、樹脂膜形成により得られる樹脂膜を剥離できる剥離性を有するため、その上に高温で樹脂層を形成し、当該樹脂層から容易に剥離できる離型フィルムとして使用することができる。
【0044】
即ち、本発明の一実施形態に係る離型フィルムは、離型面がグラファイト層であり、前記グラファイト層のラマンスペクトルにおけるGバンド強度I(G)に対する、Dバンド強度I(D)の比(I(D)/I(G))が、0以上0.030以下であり、前記グラファイト層の厚みが5μm以上である。
【0045】
前記グラファイト層のエックス線回折における002面に対応するピークの半値幅が0.30°以下であることが好ましい。
【0046】
本発明の一実施形態に係る離型フィルムの構成、特性、製造方法等については、樹脂膜形成用基材について説明したとおりであるので、ここでは説明を省略する。
【0047】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0048】
以下、実施例及び比較例によって本発明の一実施形態をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0049】
[評価方法]
実施例及び比較例にて樹脂膜形成用基材として用いたグラファイトシートの厚み、密度、ラマンスペクトルにおけるGバンド強度に対するDバンド強度の比、及び、エックス線回折における002面に対応するピークの半値幅は、以下に示す方法により測定した。また、実施例及び比較例にて樹脂膜形成用基材上に形成した樹脂膜の剥離強度は、以下に示す方法によって評価した。
【0050】
(厚み及び密度)
5cm角に切り出した樹脂膜形成用基材を測定用サンプルとして用い、前記測定用サンプルの4つの角に位置する4箇所及び中央の1箇所(2本の対角線の交点)の厚みを、マイクロメーター(株式会社ミツトヨ製、OMV―25MX、測定面径φ6.3mm)を用いて測定した。得られた計5箇所の厚みの測定値の平均値を、樹脂膜形成用基材の厚みとした。
【0051】
前記測定用サンプルの質量を測定した。得られた質量の測定値を、測定した厚みを用いて計算した前記測定用サンプルの体積で除して、樹脂膜形成用基材の密度とした。
【0052】
(ラマンスペクトルにおけるGバンド強度に対するDバンド強度の比)
ラマン測定には、ナノフォトン社製顕微ラマンRAMAN-11を使用した。波長532nmのレーザー光を用いて測定し、グラファイト結晶由来のGバンド(1580cm-1付近)、及び乱構造由来であるDバンド(1350cm-1付近)に擬voigt関数によりフィッティングを行った。フィッティングを行ったピークに基づき、GバンドとDバンドとの強度比(I(D)/I(G))、及び、Gバンドの半値幅を求めた。
【0053】
測定は、5cm角に切り出したグラファイトシートの中央付近1か所と端部付近2か所の顕微鏡画像の計3視野中から、各視野1点以上ずつ計5点をランダムに選択して測定し、5点の平均値を求めた。
【0054】
(エックス線回折における002面に対応するピークの半値幅)
エックス線回折における002面に対応するピークの半値幅は、リガク社製SmartLabを使用して測定した。具体的には、特性X線CuKα=1.5418Åを用い、スキャン速度5°/minで集中法により測定し、002ピークである2θ=26°ピークの半値幅により評価した。測定用サンプルとしては、3cm角に切り出したグラファイトシートを用い、当該測定用サンプルの四隅をサンプルホルダーに固定して測定を行った。
【0055】
(樹脂膜の剥離性)
実施例及び比較例にて、その樹脂膜形成面に樹脂膜を形成した樹脂膜形成用基材を、幅1インチ×長さ5cmの長方形に切り出し、測定用サンプルとした。測定用サンプルの樹脂膜形成用基材側を、両面テープでステンレス板に張り付けて、ステンレス板を水平に固定した。5Nフォースゲージ(イマダ社製、ZTA-5N)を用いて、樹脂膜を90℃方向に300mm/minの速度で引っ張ることにより、1インチ幅で長さ方向に剥離させた際にかかる力を測定した。時間に対する力の変化を示すグラフを作成し、力が水平に安定した箇所における力の平均値を剥離強度の測定値とした。測定は2回行い、2回の測定値の平均値を剥離強度とした。
【0056】
剥離性の評価は、以下の基準により行った。
A:剥離強度が0.5N/インチ未満であり、且つ、4cm以上の樹脂膜の剥離が樹脂膜の破断無く可能である
B:4cm以上の樹脂膜の剥離が樹脂膜の破断無く可能であるが、剥離強度が0.5N/インチ以上である
C:剥離できない。
【0057】
[樹脂膜形成用基材]
実施例及び比較例にて用いた樹脂膜形成用基材は、以下のとおりである。
・25GS:株式会社カネカ製、グラフィニティ(登録商標)(厚み:25μm)
・32GS:厚み62μmのアピカルポリイミドフィルム(アピカルAHと同組成)のグラファイト化、圧延工程後フィルム
・40GS:株式会社カネカ製、グラフィニティ(登録商標)(厚み:40μm)
・70GS:株式会社カネカ製、グラフィニティ(登録商標)(厚み:70μm)
・未圧延GS1:厚み62μmのアピカルポリイミドフィルム(アピカルAHと同組成)のグラファイト化工程後フィルム
・未圧延GS2:厚み75μmのアピカルポリイミドフィルムNPIのグラファイト化工程後フィルム
・膨張黒鉛シート:東洋炭素株式会社製、PERMA-FOIL(登録商標)(厚み:0.2mm)
・ポリイミドフィルム:UBE株式会社製、ユーピレックス(登録商標)75S(厚み:75μm)
・アルミ箔:A1N30H-H18(厚み:30μm)
・ガラス板:アズワン株式会社製、アズラボ(登録商標)スライドガラス1-9647-11(厚み:1.0~1.2mm)
実施例及び比較例にて樹脂膜形成用基材として用いたグラファイトシートの厚み及び密度を表1に示す。
【0058】
【0059】
また、実施例及び比較例にて樹脂膜形成用基材として用いたグラファイトシートのラマンスペクトルにおけるGバンド強度に対するDバンド強度の比、及び、エックス線回折における002面に対応するピークの半値幅を以下の表2に示す。
【0060】
【0061】
[実施例1]
樹脂膜形成用基材として、25GSを使用し、樹脂膜形成用基材上に、ポリイミド樹脂の樹脂膜を形成した。
【0062】
(ポリイミドワニスの調製)
4,4’-オキシジフタル酸無水物(ODPA)(0.0288モル、8.93g)に、無水フタル酸(PA)(0.0024モル、0.36g)、メタノール(0.09モル、2.88g)、及びN-メチル-2-ピロリドン(NMP)(17.22g)を加え、40℃で3時間攪拌した後、3,4’-オキシジアニリン(3,4’-ODA)(0.03モル、6.01g)を添加し、一晩攪拌して、ポリイミドワニスを得た。
【0063】
(ポリイミドの樹脂膜の形成)
10cm角に切り出した樹脂膜形成用基材の四隅を、ロールの円周が30cm以上、厚みが0.030mmであるロール状アルミ箔にポリイミドテープにより固定した。その後、樹脂膜形成用基材上に、イミド化後のポリイミドの樹脂膜が約25μm程度になるようにギャップ調整したコンマコーターを用いて、ポリイミドワニスを塗布した。ポリイミドワニスを塗布した樹脂膜形成用基材を、アルミ箔から外して金網の上に載せ、四隅を前記金網に固定し、オーブン内で、100℃で60分乾燥した。その後、乾燥したポリイミドワニスを塗布した樹脂膜形成用基材を、前記金網に固定した状態で、170℃、250℃、及び300℃にそれぞれ設定されたオーブンで、低温から順次高温のオーブンに移動させて、それぞれ5分、1分、及び3分加熱し、イミド化を進行させた。冷却後、ポリイミドの樹脂膜と樹脂膜形成用基材との剥離性を評価した。結果を表3に示す。
【0064】
[実施例2~6、比較例1~4]
表3に記載の樹脂膜形成用基材を使用したこと以外は、実施例1と同じ操作を行って、樹脂膜形成用基材上にポリイミドの樹脂膜を形成し、ポリイミドの樹脂膜と樹脂膜形成用基材との剥離性を評価した。なお、ガラスを用いた比較例4では、樹脂膜形成用基材として、10cm角に切り出した樹脂膜形成用基材の代わりに、スライドガラスをそのまま用いた以外は、実施例1と同じ操作を行って、樹脂膜形成用基材上にポリイミドの樹脂膜を形成した。結果を表3に示す。
【0065】
【0066】
[実施例7]
樹脂膜形成用基材として、25GSを使用し、樹脂膜形成用基材上に、フェノール樹脂の樹脂膜を形成した。
【0067】
(フェノール樹脂の樹脂膜の形成)
10cm角に切り出した樹脂膜形成用基材の四隅を、ロールの円周が30cm以上、厚みが0.030mmであるロール状アルミ箔にポリイミドテープにより固定した。その後、樹脂膜形成用基材上に、硬化後のフェノール樹脂の樹脂膜が約25μm程度になるようにギャップ調整したコンマコーターを用いて、フェノール樹脂溶液(DIC株式会社製、フェノライト(登録商標)5010)を塗布した。フェノール樹脂溶液を塗布した樹脂膜形成用基材を、アルミ箔から外して、金網の上に載せ、四隅を前記金網に固定し、オーブン内で、70℃で60分乾燥した。その後、乾燥したフェノール樹脂溶液を塗布した樹脂膜形成用基材を、前記金網に固定した状態で、100℃、130℃、150℃、及び180℃にそれぞれ設定されたオーブンで、低温から順次高温のオーブンに移動させて、それぞれ30分ずつ加熱し、フェノール樹脂の硬化を進行させた。冷却後、フェノール樹脂の樹脂膜と樹脂膜形成用基材との剥離性を評価した。結果を表4に示す。
【0068】
[実施例8、9、比較例5]
表4に記載の樹脂膜形成用基材を使用したこと以外は、実施例7と同じ操作を行って、樹脂膜形成用基材上にフェノール樹脂の樹脂膜を形成し、フェノール樹脂の樹脂膜と樹脂膜形成用基材との剥離性を評価した。結果を表4に示す。
【0069】
【0070】
[まとめ]
表2に示すように、実施例1~9で樹脂膜形成用基材として用いた25GS、32GS、40GS、70GS、未圧延GS1、及び未圧延GS2のラマンスペクトルにおけるGバンド強度に対するDバンド強度の比は0.030以下であった。これに対して、比較例1及び5で樹脂膜形成用基材として用いた膨張黒鉛シートのラマンスペクトルにおけるGバンド強度に対するDバンド強度の比は0.036であった。
【0071】
表3及び表4に示すように、Gバンド強度に対するDバンド強度の比が0.030より小さいグラファイトシートを樹脂膜形成用基材として用いた実施例1~6、及び7~9では、樹脂膜形成用基材にポリイミド及びフェノール樹脂のいずれの樹脂層を形成した場合も、得られた樹脂層を剥離する剥離強度が小さく、且つ、4cm以上の樹脂膜の剥離が樹脂膜の破断無く可能であった。かかる結果より、実施例で用いた樹脂膜形成用基材は、300℃の高温に耐えうる高耐熱性と、樹脂膜を剥離できる剥離性を有することが示された。これに対して、Gバンド強度に対するDバンド強度の比が0.030より大きいグラファイトシートである膨張黒鉛シートを樹脂膜形成用基材として用いた比較例1及び5では、形成したポリイミド及びフェノール樹脂のいずれの樹脂層も、樹脂膜形成用基材と剥離することができなかった。具体的には、
図1に示すように、実施例4にて製造したポリイミド膜の剥離性評価で剥離したポリイミド膜101は、樹脂膜が破断なく剥離されているのに対し、比較例1にて製造したポリイミド膜の剥離性評価で剥離したポリイミド膜102は、樹脂膜が破断されているとともに、樹脂膜に黒鉛がべったり付着し剥離できていなかった。また、樹脂膜形成用基材として、樹脂膜形成面がグラファイト層ではない基材を使用した比較例2~4では、形成した樹脂層を剥離できないか、剥離に0.5N/インチ以上を要した。
本発明の一実施形態によれば、高耐熱性と、樹脂膜形成により得られる樹脂膜を剥離できる剥離性を有する樹脂膜形成用基材を提供することができる。それゆえ、高温での樹脂膜形成に利用することができ、非常に有用である。