(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162466
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】p53アミロイド凝集体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12P 21/02 20060101AFI20241114BHJP
C07K 14/47 20060101ALI20241114BHJP
C07K 16/18 20060101ALI20241114BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20241114BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20241114BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
C12P21/02 C
C07K14/47 ZNA
C07K16/18
C12N15/12
C12N15/13
C12P21/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023077995
(22)【出願日】2023-05-10
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.プルロニック
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】日比野 絵美
(72)【発明者】
【氏名】廣明 秀一
【テーマコード(参考)】
4B064
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG01
4B064AG26
4B064CA19
4B064CE12
4B064DA01
4B064DA13
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA01
4H045DA75
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA72
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
【課題】p53アミロイド凝集体のより効率的な製造方法を提供すること。
【解決手段】p53タンパク質モノマー並びにチオシアン酸塩及びヨウ化物からなる群より選択される少なくとも1種のイオン化合物を含有する反応液をインキュベートすることを含む、p53アミロイド凝集体の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
p53タンパク質モノマー並びにチオシアン酸塩及びヨウ化物からなる群より選択される少なくとも1種のイオン化合物を含有する反応液をインキュベートすることを含む、p53アミロイド凝集体の製造方法。
【請求項2】
前記反応液がチオシアン酸塩を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記反応液中の前記イオン化合物の濃度が10mM以上である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記反応液中の前記イオン化合物の濃度が50mM以上である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記インキュベートにおける前記反応液の温度が10~50℃である、請求項1~4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記インキュベートの時間が1分間以上である、請求項1~4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
8-(フェニルアミノ)-1-ナフタレンスルホン酸(ANS)由来の蛍光強度に対するチオフラビンT(ThT)由来の蛍光強度の比(ThT/ANS)が0.5以上である、p53アミロイド凝集体含有組成物。
【請求項8】
チオシアン酸塩及びヨウ化物からなる群より選択される少なくとも1種のイオン化合物を含有する、請求項7に記載のp53アミロイド凝集体含有組成物。
【請求項9】
前記比が1.0以上である、請求項7に記載のp53アミロイド凝集体含有組成物。
【請求項10】
請求項1~4のいずれかに記載の製造方法で得られる、p53アミロイド凝集体含有組成物。
【請求項11】
請求項7~10のいずれかに記載のp53アミロイド凝集体含有組成物を免疫原として使用することを含む、p53アミロイド凝集体認識抗体の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の製造方法によって得られる、p53アミロイド凝集体認識抗体。
【請求項13】
被検抗体と請求項7~10のいずれかに記載のp53アミロイド凝集体含有組成物とを接触させることを含む、被検抗体の評価方法。
【請求項14】
被検抗体と請求項7~10のいずれかに記載のp53アミロイド凝集体含有組成物とを接触させることを含む、p53アミロイド凝集体認識抗体のスクリーニング方法。
【請求項15】
請求項14に記載のスクリーニング方法により選抜された、p53アミロイド凝集体認識抗体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、p53アミロイド凝集体の製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質p53 はがん抑制遺伝子TP53 の遺伝子産物であり、DNAがダメージを受けた際、遺伝子修復タンパク質やアポトーシスを誘導することで細胞のがん化を防ぐ転写因子である。p53の有するドメインの一つであるDNA 結合ドメインには凝集性があり、そこを起点に、p53 は構造と性質の異なる二種類の凝集体(アモルファス凝集体とアミロイド凝集体)を形成することがわかっている。さらに、この凝集体の形成によりp53の機能発揮が阻害され、がん化につながると考えられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Hibino, E., Tenno, T., and Hiroaki, H. (2022) Relevance of Amorphous and Amyloid-Like Aggregates of the p53 Core Domain to Loss of its DNA-Binding Activity. Front. Mol. Biosci. 10.3389/fmolb.2022.869851
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
生理的条件の試験管内ではp53モノマーから生成される凝集体のほとんどはp53アモルファス凝集体である。非特許文献1では、p53野生型モノマーを含む試験管内に塩化カリウムを添加するとp53アモルファス凝集体の生成を抑制することが報告されているものの、塩化カリウムではp53野生型モノマーからのアミロイド凝集体の生成を促進することはできない。
【0005】
本発明は、p53アミロイド凝集体のより効率的な製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題に鑑みて鋭意研究を進めた結果、p53タンパク質モノマー並びにチオシアン酸塩及びヨウ化物からなる群より選択される少なくとも1種のイオン化合物を含有する反応液をインキュベートすることを含む、p53アミロイド凝集体の製造方法、であれば、上記課題を解決できることを見出した。本発明者はこの知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明を完成させた。即ち、本発明は、下記の態様を包含する。
【0007】
項1. p53タンパク質モノマー並びにチオシアン酸塩及びヨウ化物からなる群より選択される少なくとも1種のイオン化合物を含有する反応液をインキュベートすることを含む、p53アミロイド凝集体の製造方法。
【0008】
項2. 前記反応液がチオシアン酸塩を含む、項1に記載の製造方法。
【0009】
項3. 前記反応液中の前記イオン化合物の濃度が10mM以上である、項1に記載の製造方法。
【0010】
項4. 前記反応液中の前記イオン化合物の濃度が50mM以上である、項1に記載の製造方法。
【0011】
項5. 前記インキュベートにおける前記反応液の温度が10~50℃である、項1~4のいずれかに記載の製造方法。
【0012】
項6. 前記インキュベートの時間が1分間以上である、項1~4のいずれかに記載の製造方法。
【0013】
項7. 8-(フェニルアミノ)-1-ナフタレンスルホン酸(ANS)由来の蛍光強度に対するチオフラビンT(ThT)由来の蛍光強度の比(ThT/ANS)が0.5以上である、p53アミロイド凝集体含有組成物。
【0014】
項8. チオシアン酸塩及びヨウ化物からなる群より選択される少なくとも1種のイオン化合物を含有する、項7に記載のp53アミロイド凝集体含有組成物。
【0015】
項9. 前記比が1.0以上である、項7に記載のp53アミロイド凝集体含有組成物。
【0016】
項10. 項1~4のいずれかに記載の製造方法で得られる、p53アミロイド凝集体含有組成物。
【0017】
項11. 項7~10のいずれかに記載のp53アミロイド凝集体含有組成物を免疫原として使用することを含む、p53アミロイド凝集体認識抗体の製造方法。
【0018】
項12. 項11に記載の製造方法によって得られる、p53アミロイド凝集体認識抗体。
【0019】
項13. 被検抗体と請求項7~10のいずれかに記載のp53アミロイド凝集体含有組成物とを接触させることを含む、被検抗体の評価方法。
【0020】
項14. 被検抗体と請求項7~10のいずれかに記載のp53アミロイド凝集体含有組成物とを接触させることを含む、p53アミロイド凝集体認識抗体のスクリーニング方法。
【0021】
項15. 請求項14に記載のスクリーニング方法により選抜された、p53アミロイド凝集体認識抗体。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、p53アミロイド凝集体のより効率的な製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、p53アミロイド凝集体含有組成物、p53アミロイド凝集体認識抗体の製造方法、p53アミロイド凝集体認識抗体等を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】KSCNを添加した場合のANS由来の蛍光強度(左図)及びThT由来の蛍光強度(右図)の測定結果を示す(試験例1)。横軸はインキュベート開始からの経過時間を示す。縦軸は、コントロール(0mMの60分)の蛍光強度を1とした場合の相対値を示す。凡例は反応液中のKSCN濃度を示す。
【
図2】NaSCNを添加した場合のANS由来の蛍光強度(左図)及びThT由来の蛍光強度(右図)の測定結果を示す(試験例2)。横軸はインキュベート開始からの経過時間を示す。縦軸は、コントロール(0mMの60分)の蛍光強度を1とした場合の相対値を示す。凡例は反応液中のNaSCN濃度を示す。
【
図3】KIを添加した場合のANS由来の蛍光強度(左図)及びThT由来の蛍光強度(右図)の測定結果を示す(試験例2)。横軸はインキュベート開始からの経過時間を示す。縦軸は、コントロール(0mMの60分)の蛍光強度を1とした場合の相対値を示す。凡例は反応液中のKI濃度を示す。
【
図4】各添加剤(KSCN,NaSCN,KI, or NaI)を添加した場合のThT/ANS比の測定結果を示す(試験例3)。横軸に添加剤を示し、「non-addivive」は添加剤なしの場合を示す。
【
図5】KSCNを添加した場合について、インキュベート前の反応液、及びインキュベート後の反応液の遠心上清の吸光度測定結果を示す(試験例4)。
【
図6】KSCNを添加しない場合(生理的条件下)、及び添加した場合(本法)について、インキュベーション後の試料の透過型電子顕微鏡観察図を示す(試験例5)。
【
図7】製造したp53アミロイド凝集体を抗原として自作した抗体(A)及び市販のp53抗体(B)を用いたドットブロットの写真像、及び各凝集体(p53アモルファス、p53アミロイド)のドットの染色強度のp53モノマーの染色強度に対する比(C)を示す(試験例6)。
【
図8】KSCNを添加した場合について、インキュベーション後の試料の透過型電子顕微鏡観察図を示す(試験例7)。
【発明を実施するための形態】
【0024】
1.定義
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0025】
本明細書において、アミノ酸配列の「同一性」とは、2つ以上の対比可能なアミノ酸配列の、お互いに対するアミノ酸配列の一致の程度をいう。従って、ある2つのアミノ酸配列の一致性が高いほど、それらの配列の同一性又は類似性は高い。アミノ酸配列の同一性のレベルは、例えば、配列分析用ツールであるFASTAを用い、デフォルトパラメータを用いて決定される。若しくは、Karlin及びAltschulによるアルゴリズムBLAST(Karlin S, Altschul SF.“Methods for assessing the statistical significance of molecular sequence features by using general scoringschemes”Proc Natl Acad Sci USA.87:2264-2268(1990)、KarlinS,Altschul SF.“Applications and statistics for multiple high-scoring segments in molecular sequences.”Proc Natl Acad Sci USA.90:5873-7(1993))を用いて決定できる。このようなBLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている。これらの解析方法の具体的な手法は公知であり、National Center of Biotechnology Information(NCBI)のウェブサイト(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)を参照すればよい。また、塩基配列の「同一性」も上記に準じて定義される。
【0026】
本明細書において、アミノ酸の変異は、具体的には、アミノ酸の欠失、置換、挿入、又は付加である。
【0027】
本明細書中において、「保存的置換」とは、アミノ酸残基が類似の側鎖を有するアミノ酸残基に置換されることを意味する。例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジンといった塩基性側鎖を有するアミノ酸残基同士で置換されることが、保存的な置換にあたる。その他、アスパラギン酸、グルタミン酸といった酸性側鎖を有するアミノ酸残基;グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システインといった非帯電性極性側鎖を有するアミノ酸残基;アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファンといった非極性側鎖を有するアミノ酸残基;トレオニン、バリン、イソロイシンといったβ-分枝側鎖を有するアミノ酸残基;チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジンといった芳香族側鎖を有するアミノ酸残基同士での置換も同様に、保存的な置換にあたる。
【0028】
本明細書において、アミノ酸置換変異は、変異前のアミノ酸一文字表記+N末端アミノ酸から数えた場合のアミノ酸番号+変異後のアミノ酸一文字表記で示すことがある。例えば、「AnnV」は、N末端からnn番目のアミノ酸であるアラニンのバリンへの置換変異を示す。
【0029】
2.p53アミロイド凝集体の製造方法
本発明は、その一態様において、p53タンパク質モノマー並びにチオシアン酸塩及びヨウ化物からなる群より選択される少なくとも1種のイオン化合物を含有する反応液をインキュベートすることを含む、p53アミロイド凝集体の製造方法(本明細書において、「本発明の凝集体製造方法」と示すこともある。)、に関する。以下、これについて説明する。
【0030】
p53タンパク質モノマーは、本発明の凝集体製造方法の原料であり、凝集体を形成していないp53タンパク質(すなわち、凝集体の構成要素)である。p53タンパク質は、DNA結合ドメインを介して二量体を形成する性質を有することが知られており、また四量体化ドメインを介して四量体を形成する性質を有することが知られている。本発明の「p53タンパク質モノマー」とは、p53タンパク質1分子の他に、上記の二量体、四量体も包含する。
【0031】
p53タンパク質の由来生物種は、特に制限されず、例えばヒト、サル、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウサギ、ブタ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、シカなどの種々の哺乳類動物が挙げられる。
【0032】
p53タンパク質をコードする遺伝子は公知であり、例えばヒトの場合であれば当該遺伝子はNCBI Gene ID: 7157の遺伝子であり、例えばマウスの場合であれば該遺伝子はNCBI Gene ID: 22059の遺伝子である。他の生物種の遺伝子も、公知であるか、或いは公知の遺伝子の塩基配列又は当該塩基配列によってコードされるアミノ酸配列に基づいて公知の方法に従って又は準じて容易に同定することができる。p53タンパク質のアミノ酸配列も、既に公知であるか、或いは遺伝子の情報に基づいて容易に同定することができる。
【0033】
p53タンパク質は、凝集体の形成に関与するドメイン(DNA結合ドメイン)を含むものである限り特に制限されず、野生型のみならず、野生型アミノ酸配列に対して変異を含むアミノ酸配列を含むものであることができる。当該変異は、DNA結合ドメイン以外の部位の欠失及びアミノ酸置換、DNA結合ドメインの変異を含む。後者の変異としては、凝集体の形成に影響を与えることが公知の各種変異、例えば配列番号1で示される野生型ヒトp53タンパク質アミノ酸配列におけるR175H、Y220C、M237I、G245S、R248Q、R249S、R242W、R273C等が挙げられる。
【0034】
DNA結合ドメインは、公知であるか、公知の情報に従って、容易に同定することができる。例えば、配列番号1で示される野生型ヒトp53タンパク質アミノ酸配列におけるDNA結合ドメインは、アミノ酸番号94~アミノ酸番号291までの領域(配列番号2)である。
【0035】
本発明の一態様において、p53タンパク質は、DNA結合ドメインに凝集体の形成に影響を与える変異が無い(例えば野生型DNA結合ドメインを含む)p53タンパク質であることができる。
【0036】
p53タンパク質の好ましい具体例としては、下記(A)に記載するタンパク質及び下記(B)に記載するタンパク質:
(A)配列番号1又は2に示されるアミノ酸配列を含むp53タンパク質、及び
(B)配列番号1又は2に示されるアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、且つアミロイド凝集体形成能を有するp53タンパク質
からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0037】
上記(B)において、同一性は、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、よりさらに好ましくは98%以上である。
【0038】
上記(B)に記載するタンパク質の一例としては、例えば
(B’)配列番号1又は2に示されるアミノ酸配列に対して1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、付加、又は挿入されたアミノ酸配列を含み、且つアミロイド凝集体形成能を有するp53タンパク質
が挙げられる。
【0039】
上記(B’)において、複数個とは、例えば2~40個であり、好ましくは2~20個であり、より好ましくは2~10個であり、よりさらに好ましくは2又は3個である。
【0040】
アミロイド凝集体形成能は、後述の試験例1等に記載の方法に従って評価することができる。インキュベート開始後にThT由来の蛍光強度が上昇する場合、アミロイド凝集体形成能を有すると判定することができる。
【0041】
p53タンパク質は、アミロイド凝集体形成能が著しく損なわれない限りにおいて、他のアミノ酸配列、例えば分泌シグナル配列、タンパク質タグ、蛍光タンパク質、発光タンパク質、プロテアーゼ認識配列(TEVプロテアーゼ認識配列等)等のシグナル配列等のタンパク質又はペプチドが付加されたものであってもよい。タンパク質タグとしては、例えばビオチン、Hisタグ、FLAGタグ、Haloタグ、MBPタグ、HAタグ、Mycタグ、V5タグ、PAタグ等が挙げられる。
【0042】
p53タンパク質は、アミロイド凝集体形成能が著しく損なわれない限りにおいて、化学修飾されたものであってもよい。
【0043】
p53タンパク質は、C末端がカルボキシル基(-COOH)、カルボキシレート(-COO-)、アミド(-CONH2)またはエステル(-COOR)の何れであってもよい。
【0044】
ここでエステルにおけるRとしては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチルなどのC1-6アルキル基;例えば、シクロペンチル、シクロヘキシルなどのC3-8シクロアルキル基;例えば、フェニル、α-ナフチルなどのC6-12アリール基;例えば、ベンジル、フェネチルなどのフェニル-C1-2アルキル基;α-ナフチルメチルなどのα-ナフチル-C1-2アルキル基などのC7-14アラルキル基;ピバロイルオキシメチル基などが用いられる。
【0045】
p53タンパク質は、C末端以外のカルボキシル基(またはカルボキシレート)が、アミド化またはエステル化されていてもよい。この場合のエステルとしては、例えば上記したC末端のエステルなどが用いられる。
【0046】
p53タンパク質は、酸または塩基との塩の形態であってもよい。塩は、特に限定されず、酸性塩、塩基性塩のいずれも採用することができる。例えば酸性塩の例としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機酸塩; 酢酸塩、プロピオン酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、パラトルエンスルホン酸塩等の有機酸塩; アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩等のアミノ酸塩等が挙げられる。また、塩基性塩の例として、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩; カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩等が挙げられる。
【0047】
p53タンパク質は、溶媒和物の形態であってもよい。溶媒は、特に限定されず、例えば水、エタノール、グリセロール、酢酸等が挙げられる。
【0048】
p53タンパク質は、そのアミノ酸配列に応じて、公知の遺伝子工学的手法に従って容易に作製することができる。例えば、PCR、制限酵素切断、DNA連結技術、in vitro転写・翻訳技術、リコンビナントタンパク質作製技術等を利用して作製することができる。
【0049】
p53タンパク質モノマーは、1種単独であることができ、2種以上の組合せであることもできる。
【0050】
反応液中のp53タンパク質モノマーの濃度は、特に制限されるものではない。当該濃度は、例えば0.01μM以上、好ましくは0.1μM以上、より好ましくは0.1~1mM、さらに好ましくは0.2~200μM、よりさらに好ましくは0.4~100μM、とりわけ好ましくは1~50μM、特に好ましくは1~20μMである。
【0051】
反応液は、チオシアン酸塩及びヨウ化物からなる群より選択される少なくとも1種のイオン化合物を含有する。
【0052】
上記イオン化合物は、1種単独であることができ、2種以上の組合せであることもできる。
【0053】
反応液中の上記イオン化合物の濃度は、特に制限されるものではない。本発明者は上記イオン化合物が反応液中に存在することにより濃度依存的にp53アミロイド凝集体の生成促進作用・p53アモルファス凝集体の生成抑制作用が発揮されることを見出しており、このため上記イオン化合物が存在すれば、その量に関わらず、上記作用は発揮されるはずである。当該濃度は、p53アミロイド凝集体の生成促進作用、p53アモルファス凝集体の生成抑制作用等の観点から、好ましくは1mM以上、より好ましくは10mM以上、さらに好ましくは20mM以上、よりさらに好ましくは50mM以上、とりわけ好ましくは100mM以上、とりわけより好ましくは150mM以上、特に好ましくは180mM以上である。当該濃度の上限は特に制限されず、例えば上記イオン化合物の溶解度、2000mM、1500mM、1000mM、800mM、又は600mMであることができる。
【0054】
チオシアン酸塩は、チオシアン酸イオンを含むイオン化合物であり、この限りにおいて特に制限されない。チオシアン酸塩としては、例えばチオシアン酸カリウム、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸アンモニウム、チオシアン酸グアニジン等が挙げられる。これらの中でも、p53アミロイド凝集体の生成促進作用、p53アモルファス凝集体の生成抑制等の観点から、特に好ましくはチオシアン酸カリウム、チオシアン酸ナトリウムが挙げられる。
【0055】
チオシアン酸塩は、1種単独であることができ、2種以上の組合せであることもできる。
【0056】
反応液がチオシアン酸塩を含有する場合、反応液中のチオシアン酸塩の濃度は、特に制限されるものではない。本発明者はチオシアン酸塩が反応液中に存在することにより濃度依存的にp53アミロイド凝集体の生成促進作用・p53アモルファス凝集体の生成抑制作用が発揮されることを見出しており、このためチオシアン酸塩が存在すれば、その量に関わらず、上記作用は発揮されるはずである。当該濃度は、p53アミロイド凝集体の生成促進作用、p53アモルファス凝集体の生成抑制作用等の観点から、好ましくは1mM以上、より好ましくは10mM以上、さらに好ましくは20mM以上、よりさらに好ましくは50mM以上、とりわけ好ましくは100mM以上、とりわけより好ましくは150mM以上、特に好ましくは180mM以上である。当該濃度の上限は特に制限されず、例えばチオシアン酸塩の溶解度、2000mM、1500mM、1000mM、800mM、又は600mMであることができる。
【0057】
ヨウ化物は、ヨウ素イオンを含むイオン化合物であり、この限りにおいて特に制限されない。ヨウ化物としては、例えばヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化アンモニウム等が挙げられる。これらの中でも、p53アミロイド凝集体の生成促進作用、p53アモルファス凝集体の生成抑制等の観点から、特に好ましくはヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウムが挙げられる。
【0058】
ヨウ化物は、1種単独であることができ、2種以上の組合せであることもできる。
【0059】
反応液がヨウ化物を含有する場合、反応液中のヨウ化物の濃度は、特に制限されるものではない。本発明者はヨウ化物が反応液中に存在することにより濃度依存的にp53アミロイド凝集体の生成促進作用・p53アモルファス凝集体の生成抑制作用が発揮されることを見出しており、このためヨウ化物が存在すれば、その量に関わらず、上記作用は発揮されるはずである。当該濃度は、p53アミロイド凝集体の生成促進作用、p53アモルファス凝集体の生成抑制作用等の観点から、好ましくは1mM以上、より好ましくは10mM以上、さらに好ましくは20mM以上、よりさらに好ましくは50mM以上、とりわけ好ましくは100mM以上、とりわけより好ましくは150mM以上、特に好ましくは180mM以上である。当該濃度の上限は特に制限されず、例えばヨウ化物の溶解度、1000mM、800mM、又は600mMであることができる。
【0060】
上記イオン化合物の中でも、p53アミロイド凝集体の生成促進作用、p53アモルファス凝集体の生成抑制等の観点から、特に好ましくはチオシアン酸塩である。
【0061】
反応液の溶媒は、p53タンパク質モノマーが変性せず、凝集体を形成可能なものである限り、特に制限されない。溶媒としては、例えば水を用いることができる。また、水と有機溶媒(例えばアルコール等)との混合溶媒を使用することもできる。
【0062】
溶媒は、例えば水含有量が、溶媒100容量%に対して、例えば50容量%以上、好ましくは70容量%以上、より好ましくは80容量%以上、さらに好ましくは90容量%以上、よりさらに好ましくは95容量%以上、とりわけ好ましくは99容量%以上の溶媒である。
【0063】
反応液のpHは、p53タンパク質モノマーが変性せず、凝集体を形成可能なものである限り、特に制限されない。pHは、好ましくは5~9、より好ましくは7.0~8.0である。
【0064】
反応液は、pHを調整又は制御する目的で、緩衝剤を含有することが好ましい。緩衝剤としては、特に制限されるものではないが、例えばHEPES緩衝剤、Tris緩衝剤、リン酸緩衝剤、MOPS緩衝剤等が挙げられる。
【0065】
反応液は、ジスルフィド結合の保護の目的で、還元剤(例えばジチオトレイトール(DTT)、TCEP、βメルカプトエタノール等)を含有することが好ましい。反応液が還元剤を含有する場合、反応液中の還元剤の濃度は、特に制限されない。本発明の一態様において、当該濃度は例えば0.1~25、好ましくは0.2~10、より好ましくは0.5mM~2mMである。
【0066】
反応液は、上記以外にも、p53アミロイド凝集体の生成が著しく阻害されない限りにおいて、添加剤を含有することができる。添加剤としては、特に制限されないが、例えば凝集体の生成をモニターするための蛍光色素が挙げられる。このような蛍光色素としては、例えば後述の試験例で使用される色素が挙げられる。
【0067】
インキュベートは、反応液を一定の温度範囲で放置することにより実行される。
【0068】
インキュベートにおける反応液の温度は、p53タンパク質モノマーが変性せず、凝集体を形成可能なものである限り、特に制限されない。当該温度は、例えば10~50℃、好ましくは20~45℃、より好ましくは30~42℃、さらに好ましくは35~40℃であることができる。
【0069】
インキュベートの時間は、p53アミロイド凝集体が生成される限りにおいて特に制限されない。当該時間は、例えば1分間以上、好ましくは5分間以上、より好ましくは10分間以上、さらに好ましくは20分間以上、よりさらに好ましくは30分間以上、とりわけ好ましくは45分間以上である。当該時間の上限は特に制限されず、例えば16時間、8時間、4時間、又は2時間とすることができる。
【0070】
インキュベート後は、必要に応じて精製することができる。精製手段は、p53アミロイド凝集体以外の成分の一部または全部を除去可能な手段である限り特に制限されない。例えば、インキュベート後の反応液を遠心分離(例えば3000~10000gで、1~60分間)することにより、p53アミロイド凝集体を含む凝集体を沈殿させることができる。また、後述の本発明のp53アミロイド凝集体認識抗体を利用することにより、凝集体の中でもp53アミロイド凝集体を濃縮することが可能である。
【0071】
本発明の凝集体製造方法により、p53アミロイド凝集体含有組成物を得ることができる。このため、本発明は、その一態様において、本発明の凝集体製造方法で得られる、p53アミロイド凝集体含有組成物、に関する。
【0072】
また、本発明の凝集体製造方法で得られるp53アミロイド凝集体含有組成物は、p53アミロイド凝集体がより効率的に生成されているので、p53アモルファス凝集体に対するp53アミロイド凝集体の比がより高い。このため、本発明は、その一態様において、8-(フェニルアミノ)-1-ナフタレンスルホン酸(ANS)由来の蛍光強度(p53アモルファス凝集体の指標)に対するチオフラビンT(ThT)由来の蛍光強度(p53アミロイド凝集体の指標)の比(ThT/ANS)が0.5以上である、p53アミロイド凝集体含有組成物、に関する。
【0073】
本明細書においては、上記p53アミロイド凝集体含有組成物をまとめて、「本発明のp53アミロイド凝集体含有組成物」と示すこともある。
【0074】
ThT/ANSは、好ましくは0.6以上、より好ましくは0.7以上、さらに好ましくは0.8以上、よりさらに好ましくは0.9以上、とりわけ好ましくは1.0以上、とりわけより好ましくは1.2以上、特に好ましくは1.4以上である。
【0075】
3.p53アミロイド凝集体認識抗体の製造方法
本発明は、その一態様において、本発明のp53アミロイド凝集体含有組成物を免疫原として使用することを含む、p53アミロイド凝集体認識抗体の製造方法(本明細書において、「本発明の抗体製造方法」と示すこともある。)、に関する。以下、これについて説明する。
【0076】
抗体の製造方法は、すでに周知であり、本発明の抗体製造方法も、本発明のp53アミロイド凝集体含有組成物を免疫原として使用し、これらの常法に従って行うことができる(Current protocols in Molecular Biology , Chapter 11.12~11.13(2000))。具体的には、ポリクローナル抗体を得る場合には、本発明のp53アミロイド凝集体含有組成物を家兎等の非ヒト動物に免疫し、該免疫動物の血清から常法に従って得ることが可能である。一方、モノクローナル抗体を得る場合には、本発明のp53アミロイド凝集体含有組成物をマウス等の非ヒト動物に免疫し、得られた脾臓細胞と骨髄腫細胞とを細胞融合させて調製したハイブリドーマ細胞の中から得ることができる(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley and Sons. Section 11.4~11.11)。
【0077】
抗体の製造は、宿主に応じて種々のアジュバントを用いて免疫学的反応を高めることによって行うこともできる。限定はされないが、そのようなアジュバントには、フロイントアジュバント、水酸化アルミニウムのようなミネラルゲル、並びにリゾレシチン、プルロニックポリオル、ポリアニオン、ペプチド、油乳剤、キーホールリンペットヘモシアニン及びジニトロフェノールのような表面活性物質、BCG(カルメット-ゲラン桿菌)やコリネバクテリウム-パルヴムなどのヒトアジュバントが含まれる。
【0078】
本発明の抗体製造方法においては、必要に応じて抗体の精製工程を含むことができる。例えば、プロテインA、プロテインB等の抗体全般に対して親和性を有する物質を用いて(具体的にはこれらの物質が結合した担体を用いて)、又はp53アミロイド凝集体(具体的には、本発明のp53アミロイド凝集体含有組成物)を用いて(具体的にはこれらの物質が結合した担体を用いて)、精製することができる。
【0079】
本発明の抗体製造方法により、p53アミロイド凝集体認識抗体を得ることができる。このため、本発明は、その一態様において、本発明の抗体製造方法で得られるp53アミロイド凝集体認識抗体、に関する。
【0080】
当該p53アミロイド凝集体認識抗体は、本発明のp53アミロイド凝集体含有組成物(p53アモルファス凝集体に対するp53アミロイド凝集体の比がより高い)を用いて得られているので、p53アモルファス凝集体の認識能に対するp53アミロイド凝集体の認識能がより高い。
【0081】
また、上記p53アミロイド凝集体認識抗体は、本発明のp53アミロイド凝集体含有組成物を用いて得られているので、p53以外のアミロイド凝集体の認識能に対するp53アミロイド凝集体の認識能がより高い。
【0082】
このため、上記p53アミロイド凝集体認識抗体は、p53アミロイド凝集体を特異的に検出することにおいて、より優れている。
【0083】
上記p53アミロイド凝集体認識抗体は、例えば医薬、試薬等として利用することが可能である。
【0084】
4.評価方法、スクリーニング方法
本発明は、その一態様において、
・被検抗体と本発明のp53アミロイド凝集体含有組成物とを接触させることを含む、被検抗体の評価方法、及び
・被検抗体と本発明のp53アミロイド凝集体含有組成物とを接触させることを含む、p53アミロイド凝集体認識抗体のスクリーニング方法、
に関する。
【0085】
被検抗体は、特に制限されず、p53特異抗体であることもできるし、p53非特異抗体であることもできる。
【0086】
接触の態様は特に制限されず、通常、水溶液に両者を混合することにより行われる。
【0087】
被検抗体と本発明のp53アミロイド凝集体含有組成物中のp53アミロイド凝集体とが結合している場合、当該被検抗体を、p53アミロイド凝集体結合性を有すると評価すること、p53アミロイド凝集体認識抗体として選抜することができる。
【0088】
結合の有無は、タンパク質間結合を調べる公知の方法に従って又は準じて判定することができる。
【0089】
本発明は、その一態様において、上記スクリーニング方法により選抜された、p53アミロイド凝集体認識抗体、にも関する。
【実施例0090】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0091】
以下、ANSは、8-(フェニルアミノ)-1-ナフタレンスルホン酸を示し、ThTはチオフラビンTを示し、KSCNはチオシアン酸カリウムを示し、NaSCNはチオシアン酸ナトリウムを示し、KIはヨウ化カリウムを示し、NaIはヨウ化ナトリウムを示す。
【0092】
試験例1等において、ANS由来の蛍光はp53アモルファス凝集体の指標であり、ThT由来の蛍光はp53アミロイド凝集体の指標である(非特許文献1)。
【0093】
参考例1.p53モノマーの製造
GSTタグ融合p53(野生型)-DBD(DNA Binding Domain)をコードする配列を含むプラスミド(pGEX6p-3-p53DBDwt) にて形質転換したBL21(DE3)大腸菌株を、アンピシリン含有LB培地で37℃にて培養した。OD600 0.3で終濃度3%となるようにエタノールを添加し培養温度を20℃に下げ培養を継続した。OD600 0.6で終濃度0.2 mM となるようにIPTGを添加し終夜培養した。集菌した菌体を超音波破砕し、遠心後の上清画分をDEAEセファロースレジンによる精製に供した後、GSHセファロースレジンによる精製に供した。PreScission Proteaseにてタグを切断し、溶出液をさらにサイズ排除クロマトグラフィーにて精製した。精製タンパク質は限外ろ過にて濃縮した。-80℃で保管し、使用時には測定用緩衝液にて透析し、15,000g, 4℃で2分間遠心後、使用した。
【0094】
試験例1.p53アミロイド凝集体の製造1
反応液(水溶液)(組成:4μM p53モノマー(参考例1)、20 mM HEPES-NaOH、1 mM DTT、10μM ANS、20μM ThT、0~400mM KSCN、pH7.4)を37℃で1時間インキュベートした。インキュベートは、蛍光分光光度計F-7000(日立ハイテクサイエンス)のセルホルダーの石英セル内で行った。励起波長375nm・蛍光波長485nmでANS由来の蛍光強度を測定し、励起波長445nm・蛍光波長485nmでThT由来の蛍光強度を測定した。蛍光強度の測定は2分毎に行った。
【0095】
結果を
図1に示す。KSCNの添加により、p53アモルファス凝集体の生成が抑制され、且つp53アミロイド凝集体の生成が促進されることが分かった。
【0096】
試験例2.p53アミロイド凝集体の製造2
KSCNに代えてNaSCN又はKIを使用する以外は、試験例1と同様にして行った。
【0097】
結果を
図2及び
図3に示す。NaSCN又はKIの添加により、p53アモルファス凝集体の生成が抑制され、且つp53アミロイド凝集体の生成が促進されることが分かった。
【0098】
試験例3.p53アミロイド凝集体の製造3
反応液(水溶液)(組成:4μM p53モノマー(参考例1)、20 mM HEPES-NaOH、1 mM DTT、10μM ANS、20μM ThT、0mM又は400mM 添加剤(KSCN,NaSCN,KI, or NaI)、pH7.4)を37℃で1時間インキュベートした。各添加剤(KSCN,NaSCN,KI, or NaI)についてn数は3とした。インキュベート終了時点で、励起波長375nm・蛍光波長485nmでANS由来の蛍光強度を測定し、励起波長445nm・蛍光波長485nmでThT由来の蛍光強度を測定した。ANS由来の蛍光強度の測定値(単位:a.u.)に対するThT由来の蛍光強度の測定値(単位:a.u.)の比(ThT/ANS)を算出した。
【0099】
なお、ANS由来の蛍光とThT由来の蛍光の両者は、蛍光が由来する色素が異なるので、両者の蛍光強度の差はp53アモルファス凝集体とp53アミロイド凝集体との量の差を表すものではない。すなわち、上記比(ThT/ANS)が1以下であることは、p53アミロイド凝集体の量(ThT由来蛍光強度により反映される)がp53アモルファス凝集体の量(ANS由来蛍光強度により反映される)よりも少ないことを意味するものではない。
【0100】
結果を
図4に示す。試験例1~2の結果と合わせ、チオシアン酸塩及びヨウ化物からなる群より選択される少なくとも1種のイオン化合物の添加により、p53アモルファス凝集体の生成が抑制され、且つp53アミロイド凝集体の生成が促進されることが分かった。
【0101】
試験例4.残存モノマーの評価
反応液(水溶液)(組成:4μM p53モノマー(参考例1)、20 mM HEPES-NaOH、1 mM DTT、400mM KSCN、pH7.4)を37℃で1時間インキュベートした。インキュベート終了後、15,000×g, 20 min遠心し、上清を回収した。上清にタンパク質が残存しているか、微量分光光度計にて測定した。また、インキュベート前の反応液についても同様に測定した。
【0102】
結果を
図5に示す。インキュベート後の遠心上清(凝集体が除去されている液)では、タンパク質に由来する280 nm付近の吸収が見られなかった。このことから、インキュベート後は、p53タンパク質モノマーが残存していないことが分かった。
【0103】
試験例5.凝集体形状の確認1
試験例4と同様にしてインキュベーションを行い、得られた試料を透過型電子顕微鏡観察した。また、KSCNを添加しない以外は同様にして得られた試料についても透過型電子顕微鏡観察した。
【0104】
具体的には、エラスチックカーボン支持膜を親水化処理し、試料を2分間付着させたのち、酢酸ウラン染色液を1分間付着させ、余分な溶液をろ紙で吸い取った後、JEM-1400PLUSにて観察した。
【0105】
結果を
図6に示す。KSCNを添加した場合、繊維状の凝集体(アミロイド凝集体)が存在していることが確認できた。
【0106】
試験例6.p53アミロイド凝集体に対する抗体の製造及び評価
反応液(水溶液)(組成:4μM p53モノマー(参考例1)、20 mM Tris-HCl、1 mM DTT、400mM KSCN、pH7.4)を0.2μmのフィルターにてフィルター滅菌し、37℃で1時間インキュベートした。インキュベート後の反応液300 g, 1分間, 4℃にて遠心し、得られた上清をさらに5000g, 10分, 4℃にて遠心し、得られた沈澱にフィルター滅菌した緩衝液(20 mM Tris-HCl, 400 mM KSCN)をモノマー濃度で0.4mg/mLとなるように添加し、10分間超音波処理し、液体窒素にて急速凍結し、抗原投与時まで凍結保存した。
【0107】
この抗原を用いて、コスモ・バイオ社のファースト抗体サービス(ポリクローナル)を利用し、ポリクローナル抗体を含む血清を得た。血清は、COSMOGEL Ig-Accept Protein Aレジンに結合させ、0.1 M グリシン-HCl, pH2.8 にて溶出した。溶出した溶液は直ちに2 M Tris-HCl, pH10.4で中和し、PBS(-)に一晩透析した。
【0108】
一方で、p53アミロイド凝集体を、PierceTM NHS-Activated Agaroseと混合し、4℃で一晩インキュベート。PBS(-)で洗ったのち、1 M Tris-HCl, pH7.4にてNHSエステルをクエンチした。
【0109】
Protein Aレジンで精製した抗体溶液と、p53アミロイド凝集体を結合させたアガロースを混合し2時間室温にてインキュベートしたのち、0.1 M グリシン-HCl, pH2.8 にて溶出した。溶出液は直ちに2 M Tris-HCl, pH10.4で中和し、PBS(-)に一晩透析して、p53アミロイド凝集体に対する抗体(自作抗体)を得た。
【0110】
自作抗体と市販のp53抗体(Pab240抗体、Santacruz社製)とを用いてドットブロットを行った。具体的には次のとおりである。PVDF膜に試料(p53モノマー(参考例1)、p53アモルファス凝集体(試験例5のKSCNを添加しない場合に得られた凝集体)、p53アミロイド凝集体(試験例5のKSCNを添加した場合に得られた凝集体))0.5μLを滴下し、乾燥させたのち、TBS-Tに浸漬し10分間インキュベートした。その後5%スキムミルク/TBS-T溶液に浸漬し30分間インキュベートしたのち、500倍希釈した自作抗体溶液または2000倍希釈したPab240抗体溶液に浸漬し4℃で一晩インキュベートした。TBS-Tにて3回洗浄したのち、5000倍希釈した二次抗体溶液に浸漬し、1時間インキュベートし、TBS-Tにて3回洗浄した。その後、ケミルミワンSuperにて化学発光させ、イメージングシステムにて撮影した。
【0111】
結果を
図7に示す。自作抗体は、市販抗体に比べて、p53アミロイド凝集体をより強く(p53アモルファス凝集体よりも強く)認識することが分かった。
【0112】
試験例7.凝集体形状の確認2
反応液(水溶液)(組成:1μM p53モノマー(参考例1)、20 mM HEPES-NaOH、1 mM DTT、400mM KSCN、pH7.4)を37℃で1時間インキュベートして、試料を得た。
【0113】
エラスチックカーボン支持膜を親水化処理し、試料を2分間付着させたのち、リンタングステン酸染色液, pH 7.0を5秒間付着させ、余分な溶液をろ紙で吸い取った後、JEM-1400PLUSにて観察した。
【0114】
結果を
図8に示す。KSCNを添加した場合、繊維状の凝集体(アミロイド凝集体)が存在していることが確認できた。