(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162468
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】蛇行度算出装置、蛇行度算出方法、及び蛇行度算出プログラム
(51)【国際特許分類】
G06T 7/60 20170101AFI20241114BHJP
【FI】
G06T7/60 150S
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023078001
(22)【出願日】2023-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】カナデビア株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
(71)【出願人】
【識別番号】501235404
【氏名又は名称】川田 礼治
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】内野 英治
(72)【発明者】
【氏名】向田 眞志保
(72)【発明者】
【氏名】武藤 颯駿
(72)【発明者】
【氏名】川田 礼治
(72)【発明者】
【氏名】藤丸 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】横林 孝康
【テーマコード(参考)】
5L096
【Fターム(参考)】
5L096AA06
5L096BA06
5L096CA02
5L096EA04
5L096EA43
5L096FA32
5L096FA33
5L096FA64
5L096FA67
5L096GA51
(57)【要約】
【課題】対象物の蛇行度をより高い精度で算出する蛇行度算出装置を実現する。
【解決手段】蛇行度算出装置(1)は、対象物の像を含む画像が示す像の蛇行状態を反映した線上の異なる点を第1検出点P1、第2検出点P2としたときに、線を構成する複数のピクセルにおける互いに隣り合う2つのピクセルを結ぶ第1ベクトルと、第1検出点P1と第2検出点P2とを結ぶ第2ベクトルとのなす角度を、第1検出点P1から第2検出点P2に至るまでの複数の隣り合うピクセルの組のうちの少なくとも一部についてそれぞれ算出する第1算出部(134)と、第1検出点P1と第2検出点P2との間の蛇行度として、第1算出部により算出された複数の角度の特徴を示す統計量を算出する第2算出部(135)と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛇行状に延びる対象物の蛇行度を算出する蛇行度算出装置であって、
前記対象物の像を含む画像が示す前記像の蛇行状態を反映した線上の異なる点を第1検出点、第2検出点としたときに、
前記線を構成する複数のピクセルにおける互いに隣り合う2つのピクセルを結ぶ第1ベクトルと、前記第1検出点と前記第2検出点とを結ぶ第2ベクトルとのなす角度を、前記第1検出点から前記第2検出点に至るまでの複数の隣り合うピクセルの組のうちの少なくとも一部についてそれぞれ算出する第1算出部と、
前記第1検出点と前記第2検出点との間の蛇行度として、前記第1算出部により算出された複数の前記角度の特徴を示す統計量を算出する第2算出部と、
を備える蛇行度算出装置。
【請求項2】
前記第1算出部は、以下の式(1)に基づき前記角度を算出し、
【数1】
P:第2ベクトル
V
i:前記第1検出点からi番目のピクセルとi+1番目のピクセルとを結ぶ前記第1ベクトル
前記第2算出部は、以下の式(2)に基づき前記統計量としての角度分散を算出する、請求項1に記載の蛇行度算出装置。
【数2】
V:角度分散
R:平均合成ベクトル長
n:前記第1ベクトルの数
【請求項3】
前記統計量に基づいて前記対象物の異常の有無を示す指標値を算出する第3算出部を備える、請求項1または2に記載の蛇行度算出装置。
【請求項4】
前記対象物は、眼底画像に含まれる血管である、請求項3に記載の蛇行度算出装置。
【請求項5】
前記第3算出部は、特定の個人に係る複数の経時的な眼底画像から得られる複数の前記画像を用いて前記第2算出部が算出した前記統計量の経時的な変化に基づいて、前記指標値を算出する、請求項4に記載の蛇行度算出装置。
【請求項6】
蛇行状に延びる対象物の蛇行度を算出する蛇行度算出方法であって、
前記対象物の像を含む画像が示す前記像の蛇行状態を反映した線上の異なる点を第1検出点、第2検出点としたときに、
前記線を構成する複数のピクセルにおける互いに隣り合う2つのピクセルを結ぶ第1ベクトルと、前記第1検出点と前記第2検出点とを結ぶ第2ベクトルとのなす角度を、前記第1検出点から前記第2検出点に至るまでの複数の隣り合うピクセルの組のうちの少なくとも一部についてそれぞれ算出する第1ステップと、
前記第1検出点と前記第2検出点との間の蛇行度として、前記第1ステップにて算出された複数の前記角度の特徴を示す統計量を算出する第2ステップと、
を含む蛇行度算出方法。
【請求項7】
請求項1に記載の蛇行度算出装置としてコンピュータを機能させるための蛇行度算出プログラムであって、上記第1算出部及び上記第2算出部としてコンピュータを機能させるための蛇行度算出プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、蛇行度算出装置、蛇行度算出方法、及び蛇行度算出プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
血管の蛇行度を評価する技術が知られている(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4-288124号公報
【特許文献2】特開平5-123296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1、2の技術は、実際の医師の所見とズレを生じる場合があり、検査精度への影響が懸念される。血管の蛇行度に係る定量的な評価方法の更なる改良が望まれている。
【0005】
本開示の一態様は、上記課題を鑑み、対象物の蛇行度をより高い精度で算出する蛇行度算出装置等を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本開示の一態様に係る蛇行度算出装置は、蛇行状に延びる対象物の蛇行度を算出する蛇行度算出装置であって、前記対象物の像を含む画像が示す前記像の蛇行状態を反映した線上の異なる点を第1検出点、第2検出点としたときに、前記線を構成する複数のピクセルにおける互いに隣り合う2つのピクセルを結ぶ第1ベクトルと、前記第1検出点と前記第2検出点とを結ぶ第2ベクトルとのなす角度を、前記第1検出点から前記第2検出点に至るまでの複数の隣り合うピクセルの組のうちの少なくとも一部についてそれぞれ算出する第1算出部と、前記第1検出点と前記第2検出点との間の蛇行度として、前記第1算出部により算出された複数の前記角度の特徴を示す統計量を算出する第2算出部と、を備える。
【0007】
上記の課題を解決するために、本開示の一態様に係る蛇行度算出方法は、蛇行状に延びる対象物の蛇行度を算出する蛇行度算出方法であって、前記対象物の像を含む画像が示す前記像の蛇行状態を反映した線上の異なる点を第1検出点、第2検出点としたときに、前記線を構成する複数のピクセルにおける互いに隣り合う2つのピクセルを結ぶ第1ベクトルと、前記第1検出点と前記第2検出点とを結ぶ第2ベクトルとのなす角度を、前記第1検出点から前記第2検出点に至るまでの複数の隣り合うピクセルの組のうちの少なくとも一部についてそれぞれ算出する第1ステップと、前記第1検出点と前第2検出点との間の蛇行度として、前記第1ステップにて算出された複数の前記角度の特徴を示す統計量を算出する第2ステップと、を含む。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一態様によれば、対象物の蛇行度をより高い精度で算出する蛇行度算出装置等を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示に係る蛇行度算出装置の実施の形態を示す機能ブロック図である。
【
図2】本開示に係る蛇行度算出装置の処理の流れを示すフローチャートである。
【
図3】第1算出部の動作を説明するための図である。
【
図4】従来方法に従う蛇行度の判定の一例を説明するための図である。
【
図7】7つの血管画像について、医師による所見と評価値との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、本開示に係る蛇行度算出装置1、蛇行度算出方法、及び蛇行度算出プログラムについて説明する。
【0011】
最初に本開示に係る蛇行度算出装置1の概要を説明すると、蛇行度算出装置1は、対象物の像を含む画像が示す像の蛇行状態を反映した線上の異なる点を第1検出点P1、第2検出点P2としたときに、線を構成する複数のピクセルにおける互いに隣り合う2つのピクセルを結ぶ第1ベクトルと、第1検出点P1と第2検出点P2とを結ぶ第2ベクトルとのなす角度を、第1検出点P1から第2検出点P2に至るまでの複数の隣り合うピクセルの組のうちの少なくとも一部についてそれぞれ算出する第1算出部134と、第1検出点P1と第2検出点P2との間の蛇行度として、第1算出部により算出された複数の角度の特徴を示す統計量を算出する第2算出部135と、を備える。
【0012】
以下の実施の形態では、対象物は、眼底画像に含まれる血管であるものとする。「血管」は、人の血管だけでなく、人を除く動物の血管も含む。対象物は、蛇行状に延びる有形物(ホース等)、又は、自動車等が移動する軌道を示す画像などの無体物などであってもよい。「蛇行状」とは、蛇が這う姿のように曲がりくねって進む状態を指すが、広義には、直線的に進む状態も含んでよい。「統計量」は、第1ベクトル(Vi)と第2ベクトル(P)とのなす角度を角度θiとしたときに(詳しくは後述)、cosθの分散、2点間の経路に沿ったcosθの変化度、又はθの角度分散などであってよいが、以下の実施形態では、θの角度分散とする。
【0013】
最初に、眼底画像に含まれる血管を対象物とする背景について説明する。
【0014】
脳内の血管障害の早期発見には、CT(Computed Tomography)やMRI(Magnetic Resonance Imaging)のような人体の内側を可視化する医療機器が使用されている。脳は、発生学的に眼と同一の器官である。そのため、脳内の血管の状態は、眼底の網膜血管の状態から推測できる。脳内の血管障害のリスク診断には、前述の医療機器を必要としない眼底検査が用いられてきている。近年、第3期特定健康診断の改訂により、眼底検査が内科の検査項目に取り入れられている。眼底検査は、眼疾患の予防又は早期発見だけでなく、脳内血管の動脈硬化の進行度の推測にも利用できる。動脈硬化は一定に進行せず、加速度的に進行する。そのため、動脈硬化の早期治療は、動脈硬化の程度を経年で観測し、動脈硬化の進行が加速している患者を発見することにより行われる。
【0015】
一方で、眼底検査には判定医の経験及び技量が大きく寄与する。そのため、専門医ではない内科医にとって、精度の良い眼底検査は困難である。そこで、眼底検査の自動化が求められている。
【0016】
本開示に係る蛇行度算出装置1は、後述の構成を備えることにより、眼底画像に含まれる血管の蛇行度を高い精度で算出できる。血管の蛇行度は、動脈硬化、又は高血圧症等の病状を把握するうえで有用な情報である。さらに、蛇行度算出装置1は、血管の異常の有無を示す指標値を算出できる。以下、蛇行度算出装置1について説明する。
【0017】
(蛇行度算出装置)
図1は、蛇行度算出装置1の実施の形態を示す機能ブロック図である。
【0018】
蛇行度算出装置1は、有線通信方式または無線通信方式を利用するネットワーク(通信回線)を介して、撮像装置2に接続されている。ネットワークは、例えば、インターネット、移動体通信網、LAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)、Wi-Fi(登録商標)、Bluetooth(登録商標)のような通信網である。
【0019】
撮像装置2は、撮像画像を撮像する。撮像画像は、例えば、眼底カメラで撮像された眼底画像、X線撮像装置で撮像されたX線画像、CT装置で撮像されたCT画像、及び通常の光学カメラで撮像された画像等を含む。本開示において、撮像画像には、少なくとも血管が被写体として撮像される。
【0020】
蛇行度算出装置1は、例えば、パーソナルコンピュータにより実現される。蛇行度算出装置1では、蛇行度算出プログラムが動作して、蛇行度算出プログラムが蛇行度算出装置1のハードウェア資源と協働して、蛇行度算出方法を実現する。
【0021】
蛇行度算出プログラムは、コンピュータ(不図示)に蛇行度算出プログラムを実行させることによって、同コンピュータを蛇行度算出装置1と同様に機能させて、同コンピュータに蛇行度算出方法を実行させることができる。
【0022】
蛇行度算出装置1は、通信部11と、記憶部12と、制御部13と、を備える。
【0023】
通信部11は、ネットワークを介して、撮像装置2から撮像画像を取得する。通信部11は、例えば、通信モジュールとアンテナとにより構成される。撮像画像は、記憶部12に記憶される。
【0024】
記憶部12は、蛇行度算出装置1が蛇行度算出方法を実行するために必要な情報を記憶する。記憶部12は、例えば、蛇行度算出装置1が備えるHDD(Hard Disk Drive)またはSSD(Solid State Drive)のような記録装置、RAM(Random Access Memory)のような揮発性メモリ、及び/又は、フラッシュメモリのような可搬性記憶媒体、により構成される。
【0025】
制御部13は、蛇行度算出装置1全体の動作を制御すると共に、蛇行度算出方法を実行する。制御部13は、例えば、蛇行度算出装置1が備えるCPU(Central Processing Unit)と、CPUの作業領域として機能するRAMのような揮発性メモリと、蛇行度算出プログラムなどの各種情報を記憶するROM(Read Only Memory)のような不揮発性メモリと、により構成される。
【0026】
制御部13は、抽出画像生成部131と、細線化画像生成部132と、検出部133と、第1算出部134と、第2算出部135と、第3算出部136と、を備える。
【0027】
抽出画像生成部131、細線化画像生成部132、検出部133、第1算出部134、第2算出部135、及び/又は第3算出部136は、CPUに加え、又は、CPUに代えて、GPU(Graphics Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、又は、FPGA(Field Programmable Gate Array)、などのハードウェアを含んで構成されてもよい。
【0028】
抽出画像生成部131、細線化画像生成部132、検出部133、第1算出部134、第2算出部135、及び/又は第3算出部136は、共通するハードウェア(CPUなど)により構成されてもよく、あるいは、個別のハードウェアにより構成されてもよい。
【0029】
以下、制御部13の各部の構成及び動作を、
図1及び
図2を参照しつつ説明する。
図2は、本開示に係る蛇行度算出装置1の処理の流れを示すフローチャートである。
【0030】
抽出画像生成部131は、撮像画像に基づいて、抽出画像を生成する(
図2のS10)。抽出画像は、撮像画像に含まれる血管の領域を抽出した画像である。
【0031】
具体的に、抽出画像生成部131は、記憶部12から撮像画像を読み出して、撮像画像に公知の画像処理(例えば、学習を用いたCNN(Convolutional Neural Network)による処理、モルフォロジー演算の一種であるBTH(Black-Top-Hat)変換を用いた処理)を実行して、撮像画像に含まれる血管の領域を抽出して、抽出画像を生成する。例えば、抽出画像生成部131は、撮像画像に含まれる血管の領域を白、血管の領域以外の領域(背景領域)を黒、に二値化することにより、撮像画像が二値化された抽出画像を生成する。抽出画像は、記憶部12に記憶される。
【0032】
細線化画像生成部132は、抽出画像に基づいて、細線化画像を生成する(
図2のS20)。細線化画像は、抽出画像に含まれる血管の領域を幅1画素に細線化した画像である。換言すれば、細線化画像は、撮像画像に含まれる血管を細線化した画像である。
【0033】
細線化画像生成部132は、抽出画像に公知の細線化処理を実行して、抽出画像に含まれる血管の領域を幅1画素に細線化して、細線化画像を生成する。細線化画像は、記憶部12に記憶される。
【0034】
公知の細線化処理は、二値化された画像の白の領域を細線化する画像処理であり、例えば、次の文献に記載される処理である。「Zhang T. Y., and Ching Y. Suen, “A fast parallel algorithm for thinning digital patterns”, Communications of the ACM, (米), 1984, Vol.27, No.3, pp.236-239」。
【0035】
検出部133は、細線化画像に基づいて、細線化された血管の交叉点、分岐点及び端点のいずれかに対応する複数の検出点を検出する(
図2のS30)。
【0036】
一例として、検出部133は、細線化画像の各画素にフィルタの各パターンを適用して、検出点となる画素を特定する。すなわち、検出部133は、一例として、細線化画像にフィルタを用いたフィルタ処理を実行することにより検出点を特定する。
【0037】
フィルタは、検出部133が細線化画像の各画素から血管の交叉点、分岐点、端点及び通過点を識別するために細線化画像に適用されるフィルタである。フィルタは、血管の交叉点、分岐点、端点、通過点それぞれに対応する複数のパターンを含む。フィルタは、予め記憶部12に記憶されている。
【0038】
検出部133は、細線化画像と、細線化画像に関連付けられている検出点の座標情報と、に基づいて、各検出点に連結される細線化された血管を探索する。そして、検出部133は、検出された複数の検出点のうち、細線化された血管により連結される2つの検出点の組を特定する。検出点の組情報は、記憶部12に記憶される。
【0039】
以上、抽出画像生成部131、細線化画像生成部132、及び検出部133について説明した。抽出画像生成部131、細線化画像生成部132、及び検出部133による処理は、公知技術を用いた処理でよく、一例を挙げると、本出願人による特許出願(特願2021-26551号)に記載された処理である。
【0040】
蛇行度算出装置1は、抽出画像生成部131、細線化画像生成部132、及び検出部133を内蔵していなくてよい。蛇行度算出装置1は、抽出画像生成部131、細線化画像生成部132、及び検出部133により実行されるべき処理を外部装置(不図示)に実行させて、その実行された結果を、通信部11を介して取得してよい。
【0041】
また、抽出画像生成部131、細線化画像生成部132、及び/又は検出部133により実行される処理は、他の公知の画像処理技術を用いて行われてもよく、特定の画像処理技術に限定されない。
【0042】
(第1算出部)
続いて、第1算出部134について説明する。
【0043】
まず、検出部133により検出された複数の検出点のうち、1組の検出点(以下、「第1検出点P1」及び「第2検出点P2」と称する。)が抽出される。第1検出点P1及び第2検出点P2は、血管の像を含む画像(細線化画像)が示す血管の蛇行状態を反映した線上の異なる点である。第1検出点P1及び第2検出点P2は、医者等により手動にて抽出されてもよいし、無作為に抽出されてもよい。
【0044】
ここで、細線化画像が示す血管の蛇行状態を反映した線を構成する複数のピクセルにおける互いに隣り合う2つのピクセルを結ぶベクトルを第1ベクトル、第1検出点P1と第2検出点P2とを結ぶベクトルを第2ベクトルと称する。第1算出部134は、第1ベクトルと第2ベクトルとのなす角度を、第1検出点P1から第2検出点P2に至るまでの複数の隣り合うピクセルの組のうちの少なくとも一部についてそれぞれ算出する(
図2のS40)。
【0045】
以下、第1算出部134による動作の詳細を
図3により説明する。
図3は、第1算出部134の動作を説明するための図である。
【0046】
図3は、抽出画像に含まれる血管の領域を幅1画素に細線化した画像を示す。
図3において、グレーにより示された画素は、細線化された血管を示す画素である。細線化された血管以外を示す画素は白色で示されている。
図3において、P1は第1検出点P1を示す。P2は第2検出点P2を示す。Pは、第1検出点P1と第2検出点P2とを結ぶ第2ベクトルを示す。
【0047】
図3の符号301は、第1検出点P1から0番目(つまり、第1検出点P1)と第1検出点P1から1番目のピクセルとを結ぶ第1ベクトル(V
0)を説明する図である。
図3の符号302は、第1検出点P1から1番目と第1検出点P1から2番目のピクセルとを結ぶ第1ベクトル(V
1)を説明する図である。
図3の符号303は、第1検出点P1から2番目と第1検出点P1から3番目のピクセルとを結ぶ第1ベクトル(V
2)を説明する図である。
【0048】
まず、
図3の符号301に示す図を参照して、V
0は、第1検出点P1から0番目(つまり、第1検出点P1)と第1検出点P1から1番目のピクセルとを結ぶ第1ベクトルを示す。第1算出部134は、第1ベクトル(V
0)と第2ベクトル(P)とのなす角度(θ
0)を算出する。
【0049】
次に、
図3の符号302に示す図を参照して、V
1は、第1検出点P1から1番目と第1検出点P1から2番目のピクセルとを結ぶ第1ベクトルを示す。第1算出部134は、第1ベクトル(V
1)と第2ベクトル(P)とのなす角度(θ
1)を算出する。
【0050】
続いて、
図3の符号303に示す図を参照して、V
2は、第1検出点P1から2番目と第1検出点P1から3番目のピクセルとを結ぶ第1ベクトルを示す。第1算出部134は、第1ベクトル(V
2)と第2ベクトル(P)とのなす角度(θ
2)を算出する。
【0051】
このようにして、第1算出部134は、第1ベクトルと第2ベクトルとのなす角度を、第1検出点P1から第2検出点P2に至るまでの複数の隣り合うピクセルの組それぞれについて算出する。第1算出部134は、第1ベクトルと第2ベクトルとのなす角度を、第1検出点P1から第2検出点P2に至るまでの複数の隣り合うピクセルの組のうちの少なくとも一部についてそれぞれ算出してもよい。
【0052】
第1算出部134は、第1ベクトル(V
i)と第2ベクトル(P)とのなす角度(θ
i)を、以下の式(1)に基づき算出する。
【数1】
P:第2ベクトル
V
i:第1検出点P1からi番目のピクセルとi+1番目のピクセルとを結ぶ第1ベクトル
(第2算出部)
続いて、第2算出部135について説明する。第2算出部135は、第1検出点P1と第2検出点P2との間の蛇行度として、第1算出部134により算出された複数の角度(θ
i)の角度分散を算出する(
図2のS50)。角度分散は、角度データの散らばり具合を示す指標である。第2算出部135は、以下の式(2)に基づき角度分散(V)を算出する。
【数2】
V:角度分散
R:平均合成ベクトル長
n:前記第1ベクトルの数
式(2)において、角度分散は、0以上1以下の範囲の値をとる。角度分散が1に近づくほど第1ベクトルのばらつきが大きく、血管が蛇行していることを示す。角度分散が0に近づくほど第1ベクトルのばらつきが小さく、血管が直線状であることを示す。そして、この血管の蛇行度の大小には、動脈硬化等の病状を把握するうえで有用な情報が含まれている。
【0053】
(実施例1)
次に、3つの血管画像を用いて、本開示に係る蛇行度算出装置1と従来方法に従う蛇行度の判定との比較結果を
図4~6により説明する。
【0054】
(従来方法に従う蛇行度の判定)
最初に、従来方法に従う蛇行度の判定を説明する。
図4は、従来方法に従う蛇行度の判定の一例を説明するための図である。
図4には、抽出画像に含まれる血管の領域を幅1画素に細線化した画像が示されている。
図4において、グレーにより示された画素は、細線化された血管を示す画素である。細線化された血管以外を示す画素は白色で示されている。
図4の符号401は、血管の蛇行度が低いと認められる場合(以下、「ケース1」と称する。)の細線化画像を示す。
図4の符号402は、血管の蛇行度が高いと認められる場合(以下、「ケース2」と称する。)の細線化画像を示す。
【0055】
従来方法は、第1検出点P1と第2検出点P2との2点間の最小ピクセル数(e0)と血管のピクセル数(e1)の比(e1/e0)に基づき血管の蛇行度を判定する。ケース1とケース2とを比較すると、第1検出点P1と第2検出点P2との2点間の最小ピクセル数(e0)は同数であるが、血管のピクセル数(e1)は、ケース2の方がケース1より多い。従って、比(e1/e0)はケース2の方が大きくなり、蛇行度はケース2の方がケース1よりも大きいと判定される。
【0056】
このように、従来方法は、比(e1/e0)に応じて蛇行度を判定する。以下、従来方法と本開示に従う方法との比較結果を説明する。
【0057】
(比較結果1)
図5は、比較試験に供した3つの写真を示す。
図5において、蛇行度の評価に用いられた血管が白く表示されている。符号501は、蛇行度の低い血管(以下、「血管1」と称する。)を示す写真である。符号502は、蛇行度が中程度の血管(以下、「血管2」と称する。)を示す写真である。符号503は、蛇行度の大きい血管(以下、「血管3」と称する。)を示す写真である。
【0058】
図6は、比較試験の結果を示す図である。上欄は、従来方法に従い算出された比(e1/e0)を示す。下欄は、本開示に係る蛇行度算出装置1により算出された角度分散を示す。
【0059】
図6の上欄を確認すると、血管1、血管2、血管3はそれぞれ、「1.082」、「1.088」、「1.535」という数値であり、血管1と血管2の数値が略同一であった。しかしながら、
図6において血管1と血管2とを見比べると、血管2は血管1よりも一見して蛇行度が大きい。このことから、従来方法に従う蛇行度の判定は、算出された比(e1/e0)と実際の医師の所見とにズレを生じさせる可能性があり、検査精度への影響が懸念される。
【0060】
一方、
図6の下欄を確認すると、血管1、血管2、血管3はそれぞれ、「0.085」、「0.146」、「0.236」という数値であり、血管1、血管2、血管3と進むにつれ、数値が大きくなっている。この結果は、
図5の3つの写真から得られる所見と類似の傾向を示す。以上の結果より、本開示に係る蛇行度算出装置1は、対象物の蛇行度を従来方法よりも高い精度で算出し、それゆえ、実際の医師の所見とズレを生じさせにくいことが分かる。
【0061】
(比較結果2)
続いて、比較結果2を
図7により説明する。
図7は、7つの血管画像(不図示)について、医師による所見と評価値との関係を示す図である。
図7の符号701に示す図は、従来方法に従う蛇行度の判定に関し、蛇行度の小さい順に医師が所見で並べた血管画像の番号を横軸に示し、それぞれの血管画像の評価値(比(e1/e0))を縦軸に示したグラフである。
図7の符号702に示す図は、本開示に係る蛇行度算出装置1により算出された蛇行度に関し、蛇行度の小さい順に医師が所見で並べた血管画像の番号を横軸に示し、それぞれの血管画像の評価値(角度分散)を縦軸に示したグラフである。
図7の2つのグラフでは、右肩上がりになるほど医師の評価と一致していることを示す。
【0062】
最初に、符号701に示すグラフを確認すると、下から4番目であると医師により指摘された血管の比(e1/e0)は約1.15である。この数値は、下から5番目、6番目であると医師により指摘された血管の比よりも高い数値を示す。つまり、下から4~6番目であると医師により指摘された血管については、比(e1/e0)と医師の所見とにズレが生じている。
【0063】
次に、符号702に示すグラフを確認すると、下から4番目であると医師により指摘された血管の角度分散は約0.125である。この数値は、下から5番目であると医師により指摘された血管の角度分散よりも高い数値を示す。つまり、下から4、5番目であると医師により指摘された血管については、角度分散と医師の所見とにズレが生じている。
【0064】
以上の結果より、本開示に係る蛇行度算出装置1は、従来方法に従う蛇行度の判定よりも医師の所見とのズレが少なく、医師の評価に近い評価を示していることが分かる。
【0065】
以上の結果より、本開示に係る蛇行度算出装置1は、対象物の蛇行度を従来方法よりも高い精度で算出し、それゆえ、実際の医師の所見とズレを生じさせにくいことが分かる。
【0066】
(第3算出部)
次に、第3算出部136について説明する。
図1に示すように、本開示に係る蛇行度算出装置1は、第3算出部136を備えてもよい。第3算出部136は、上述した式(2)から算出した角度分散に基づいて血管の異常の有無を示す指標値を算出する。例えば、第3算出部136は、第2算出部135により算出された角度分散(V)と所定の閾値nとの比(V/n)を血管の異常の有無を示す指標値として算出する。一例として、V/nが1よりも大きい場合は、血管に異常があることを示す。V/nが1以下の場合は、血管に異常がないことを示す。このように、V/nという定量的な指標に基づいて、医師は、患者の血管に異常があるかどうか診断できる。
【0067】
所定の閾値nは、記憶部12に記録されていてよい。所定の閾値nは、医師等により適宜変更されてよい。
【0068】
さらに、第3算出部136は、特定の個人に係る複数の経時的な眼底画像から得られる複数の細分化画像を用いて第2算出部135が算出した角度分散の経時的な変化に基づいて、指標値を算出してもよい。例えば、第3算出部136は、経時的に、第2算出部135により算出された角度分散(V)と所定の閾値nとの比(V/n)を血管の異常の有無を示す指標値として算出する。V/nが1よりも大きい場合は、血管に異常があることを示す。V/nが1以下の場合は、血管に異常がないことを示す。あるいは、第3算出部136は、V/nの経時的な変化率を算出してもよい。第3算出部136は、V/nの経時的な変化率が所定の閾値を上回るかどうかで、血管の異常が進行しているかどうかを判断する。これらは一例であるが、このようにして、医師は、特定の個人(患者)の血管に異常があるかどうか、異常が進行しているかどうか、などを第3算出部136による算出結果に基づいて診断できる。
【0069】
また、第3算出部136は、複数人が所属する特定の集団に係る複数人の眼底画像から得られる複数の細分化画像を用いて第2算出部135が算出した角度分散に基づいて、指標値を算出してもよい。例えば、第3算出部136は、複数人の眼底画像から得られる複数の細分化画像を用いて角度分散の平均値を算出する。その平均値と比較して、特定の個人の角度分散が大きい場合には、医師は、特定の個人に対して異常の可能性を注意喚起できる。
【0070】
また、第3算出部136は、複数人が所属する特定の集団に係る複数人の経時的な眼底画像から得られる複数の細分化画像を用いて第2算出部135が算出した角度分散に基づいて、指標値を算出してもよい。例えば、第3算出部136は、複数人の眼底画像から得られる複数の経時的な細分化画像を用いて角度分散の経時的な平均値を算出する。その平均値の変化率と比較して、特定の個人の角度分散の経時的な変化率が大きい場合には、医師は、特定の個人に対して異常の可能性を注意喚起できる。
【0071】
このように、本開示に係る蛇行度算出装置1は、第3算出部136を備えることにより、より定量的な指標に基づいて、対象物の異常の有無を判断する情報を医師等に提供できる。
【0072】
〔まとめ〕
本開示の態様1に係る蛇行度算出装置は、蛇行状に延びる対象物の蛇行度を算出する蛇行度算出装置であって、前記対象物の像を含む画像が示す前記像の蛇行状態を反映した線上の異なる点を第1検出点、第2検出点としたときに、前記線を構成する複数のピクセルにおける互いに隣り合う2つのピクセルを結ぶ第1ベクトルと、前記第1検出点と前記第2検出点とを結ぶ第2ベクトルとのなす角度を、前記第1検出点から前記第2検出点に至るまでの複数の隣り合うピクセルの組のうちの少なくとも一部についてそれぞれ算出する第1算出部と、前記第1検出点と前記第2検出点との間の蛇行度として、前記第1算出部により算出された複数の前記角度の特徴を示す統計量を算出する第2算出部と、を備える。
【0073】
前記の構成によれば、本開示の態様1に係る蛇行度算出装置は、対象物の蛇行度をより高い精度で算出できる。
【0074】
本開示の態様2に係る蛇行度算出装置は、前記の態様1において、前記第1算出部は、以下の式(1)に基づき前記角度を算出し、
【数1】
P:前記第2ベクトル
V
i:前記第1検出点からi番目のピクセルとi+1番目のピクセルとを結ぶ前記第1ベクトル
前記第2算出部は、以下の式(2)に基づき前記統計量としての角度分散を算出する、請求項1に記載の蛇行度算出装置。
【数2】
V:角度分散
R:平均合成ベクトル長
n:前記第1ベクトルの数
前記の構成によれば、本開示の態様2に係る蛇行度算出装置は、前記統計量としての角度分散に基づいて、対象物の蛇行度をより高い精度で算出できる。
【0075】
本開示の態様3に係る蛇行度算出装置は、前記の態様1又は2において、前記統計量に基づいて前記対象物の異常の有無を示す指標値を算出する第3算出部を備える。
【0076】
前記の構成によれば、第3算出部が算出する指標値に基づく、より定量的な指標に基づいて、対象物の異常の有無を判断できる。
【0077】
本開示の態様4に係る蛇行度算出装置は、前記の態様3の何れかにおいて、前記対象物は、眼底画像に含まれる血管である。
【0078】
眼底検査は、眼疾患の予防又は早期発見だけでなく、脳内血管の動脈硬化の進行度の推測にも利用できる。そのため、眼底画像に含まれる血管の蛇行度を算出することにより、動脈硬化、又は高血圧症等の病状を把握することができる。
【0079】
本開示の態様5に係る蛇行度算出装置は、前記の態様4において、前記第3算出部は、特定の個人に係る複数の経時的な眼底画像から得られる複数の前記画像を用いて前記第2算出部が算出した前記統計量の経時的な変化に基づいて、前記指標値を算出する。
【0080】
前記の構成によれば、例えば、前記指標値に基づいて、動脈硬化の進行が加速している患者を発見しやすくなる。
【0081】
本開示の態様6に係る蛇行度算出方法は、蛇行状に延びる対象物の蛇行度を算出する蛇行度算出方法であって、前記対象物の像を含む画像が示す前記像の蛇行状態を反映した線上の異なる点を第1検出点、第2検出点としたときに、前記線を構成する複数のピクセルにおける互いに隣り合う2つのピクセルを結ぶ第1ベクトルと、前記第1検出点と前記第2検出点とを結ぶ第2ベクトルとのなす角度を、前記第1検出点から前記第2検出点に至るまでの複数の隣り合うピクセルの組のうちの少なくとも一部についてそれぞれ算出する第1ステップと、前記第1検出点と前第2検出点との間の蛇行度として、前記第1ステップにて算出された複数の前記角度の特徴を示す統計量を算出する第2ステップと、を含む。
【0082】
前記の構成によれば、本開示の態様6に係る蛇行度算出方法は、対象物の蛇行度をより高い精度で算出できる。
【0083】
本開示の態様7に係る蛇行度算出プログラムは、態様1から5の何れかの蛇行度算出装置としてコンピュータを機能させるための蛇行度算出プログラムであって、上記第1算出部及び上記第2算出部としてコンピュータを機能させる。
【0084】
前記の構成によれば、本開示の態様7に係る蛇行度算出プログラムは、対象物の蛇行度をより高い精度で算出できる。
【0085】
本開示は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本開示の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0086】
1 蛇行度算出装置
2 撮像装置
11 通信部
12 記憶部
13 制御部
131 抽出画像生成部
132 細線化画像生成部
133 検出部
134 第1算出部
135 第2算出部
136 第3算出部
P1 第1検出点
P2 第2検出点