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特開2024-162475外傷性皮膚疾患抑制剤、皮膚コラーゲン産生促進剤、皮膚有害菌増殖抑制剤、および、これらを含有する医薬品、化粧品、食品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162475
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】外傷性皮膚疾患抑制剤、皮膚コラーゲン産生促進剤、皮膚有害菌増殖抑制剤、および、これらを含有する医薬品、化粧品、食品
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/702 20060101AFI20241114BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20241114BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20241114BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241114BHJP
   A61K 8/60 20060101ALI20241114BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20241114BHJP
   A23L 33/125 20160101ALI20241114BHJP
【FI】
A61K31/702
A61P17/00
A61P17/02
A61P43/00 107
A61P43/00 111
A61K8/60
A61Q19/00
A23L33/125
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023078012
(22)【出願日】2023-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】000125381
【氏名又は名称】学校法人藤田学園
(71)【出願人】
【識別番号】598096991
【氏名又は名称】学校法人東京農業大学
(71)【出願人】
【識別番号】511045475
【氏名又は名称】株式会社農
(71)【出願人】
【識別番号】313014608
【氏名又は名称】ウェルネオシュガー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001726
【氏名又は名称】弁理士法人綿貫国際特許・商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】廣岡 芳樹
(72)【発明者】
【氏名】舩坂 好平
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 彩子
(72)【発明者】
【氏名】藤井 匡
(72)【発明者】
【氏名】栃尾 巧
(72)【発明者】
【氏名】須釜 淳子
(72)【発明者】
【氏名】臺 美佐子
(72)【発明者】
【氏名】山根 拓実
(72)【発明者】
【氏名】朝比奈 学之
(72)【発明者】
【氏名】原 和志
(72)【発明者】
【氏名】近藤 修啓
(72)【発明者】
【氏名】山川 早紀
(72)【発明者】
【氏名】平林 克樹
【テーマコード(参考)】
4B018
4C083
4C086
【Fターム(参考)】
4B018LB01
4B018LB08
4B018LB09
4B018LE01
4B018LE02
4B018LE03
4B018LE05
4B018MD31
4B018ME14
4B018MF01
4B018MF12
4C083AD211
4C083AD212
4C083CC02
4C083EE13
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA01
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086MA63
4C086NA14
4C086ZA89
4C086ZB22
4C086ZC41
(57)【要約】
【課題】ケストースのこれまで知られていない新規な効能を利用した剤を提供する。
【解決手段】本発明の一実施形態は、ケストースを有効成分とする外傷性皮膚疾患抑制剤である。また、本発明の他の一実施形態は、ケストースを有効成分とする皮膚有害菌増殖抑制剤である。また、本発明の他の一実施形態は、ケストースを有効成分とする皮膚コラーゲン産生促進剤である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケストースを有効成分とする外傷性皮膚疾患抑制剤。
【請求項2】
皮膚細胞のアポトーシス抑制剤であること
を特徴とする請求項1記載の外傷性皮膚疾患抑制剤。
【請求項3】
皮膚細菌叢の多様性向上剤であること
を特徴とする請求項1記載の外傷性皮膚疾患抑制剤。
【請求項4】
皮膚コラーゲン産生促進剤であること
を特徴とする請求項1記載の外傷性皮膚疾患抑制剤。
【請求項5】
外傷性皮膚疾患発症抑制剤であること
を特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の外傷性皮膚疾患抑制剤。
【請求項6】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の外傷性皮膚疾患抑制剤を含有する、医薬品、化粧品、または食品。
【請求項7】
ケストースを有効成分とする皮膚有害菌増殖抑制剤。
【請求項8】
請求項7記載の皮膚有害菌増殖抑制剤を含有する、医薬品、化粧品、または食品。
【請求項9】
ケストースを有効成分とする皮膚コラーゲン産生促進剤。
【請求項10】
請求項9記載の皮膚コラーゲン産生促進剤を含有する、医薬品、化粧品、または食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外傷性皮膚疾患抑制剤、皮膚コラーゲン産生促進剤、皮膚有害菌増殖抑制剤、および、これらを含有する医薬品、化粧品、食品に関する。
【背景技術】
【0002】
ケストースは、上部消化管で分解、吸収されずに下部消化管に到達し、大腸に共生する有益な細菌(善玉菌)の選択的な基質となって、それらの増殖を促進しまたは代謝を活性化し、これにより腸内細菌叢を健康的なバランスに改善しまたは維持して、ヒトの健康に有益な効果を誘導するプレバイオティクスとして知られている。
【0003】
特許文献1(特開2006-321786号公報)には、プレバイオティクスであるケストース(1-ケストース)を摂取することによるアレルギー抑制効果が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-321786号公報
【特許文献2】特開昭58-201980号公報
【特許文献3】特開2000-232878号公報
【特許文献4】特公平6-70075号公報
【特許文献5】特開2021-040517号公報
【特許文献6】特開2020-094047号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】栃尾巧、蓑田香奈子、渡邊重夫、「機能性オリゴ糖1-ケストースの機能とオリゴ糖類食品「ベビーオリゴ(登録商標)」」、食品と開発、インフォーマ マーケッツ ジャパン株式会社、2014年12月、Vol.49、No.12、p.8-10
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、アレルギー反応は、アレルゲンに対する過剰な免疫反応であって、アレルゲン自体は外来抗原であるものの、アレルゲンに対して過剰に反応を起こす内在の免疫そのものをアレルギー反応因子と捉えることができる。
【0007】
これまで、特許文献1に例示されるように、アレルギーのような内在因子による内因性の疾患に対するケストースの有益な効能については、知られているものがあった。一方、例えば、ケストースが外部(体外)からの物理的刺激等によって引き起こされる外因性の疾患へ与える影響に関しては、一切解明されていない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明者らは、「外因性の疾患」として、外傷性皮膚疾患へ与えるケストースの影響について研究し、さらに研究を発展させて、外傷性皮膚疾患を進行、悪化させる有害菌へ与えるケストースの影響について、ならびに、頑健な皮膚を作る皮膚コラーゲンへ与えるケストースの影響についても研究した。その結果、ケストースについてこれまで知られていない全く新しい効能を発見し、本発明に至った。
【0009】
すなわち、本発明は、ケストースのこれまで知られていない新規な効能を利用した剤を提供することを目的とする。
【0010】
そして、本発明は、一実施形態として以下に記載するような解決手段により、前記課題を解決する。
【0011】
本発明の一実施形態は、ケストースを有効成分とする外傷性皮膚疾患抑制剤である。
【0012】
また、本発明の他の一実施形態は、ケストースを有効成分とする皮膚有害菌増殖抑制剤である。
【0013】
また、本発明の他の一実施形態は、ケストースを有効成分とする皮膚コラーゲン産生促進剤である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ケストースを有効成分として、外傷性皮膚疾患を抑制することができる。また、本発明によれば、ケストースを有効成分として、皮膚有害菌の増殖を抑制し、その数の増加を抑制しまたはその数を減少させることができる。また、本発明によれば、ケストースを有効成分として、皮膚コラーゲンの産生を促進し、その量の減少を抑制しまたはその量を増加させることができる。ケストースによれば、皮膚疾患の有無に関わらず、皮膚コラーゲンの産生を促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、対照群および実施例群における、マウスの皮膚圧迫解除後1日目の定量化された褥瘡範囲を示す棒グラフである。
図2図2Aは、対照群における、マウスの皮膚圧迫解除後1日目の褥瘡部から採取した組織切片にマッソントリクローム染色を施した標本の電子顕微鏡画像である。図2Bは、実施例群における、マウスの皮膚圧迫解除後1日目の褥瘡部から採取した組織切片にマッソントリクローム染色を施した標本の電子顕微鏡画像である。
図3図3Aは、対照群における、マウスの皮膚圧迫解除後1日目の褥瘡部から採取した組織切片にタネル染色を施した標本の電子顕微鏡画像である。図3Bは、実施例群における、マウスの皮膚圧迫解除後1日目の褥瘡部から採取した組織切片にタネル染色を施した標本の電子顕微鏡画像である。
図4図4Aは、対照群および実施例群における、マウスの正常皮膚から採取した組織切片にマッソントリクローム染色を施した標本おける、定量化されたコラーゲン線維の範囲(コラーゲンの沈着)を示す棒グラフである。図4Bは、当該コラーゲン層が形成される真皮の厚みを示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0017】
本発明の第1の実施形態は、ケストースを有効成分とする外傷性皮膚疾患抑制剤である。本実施形態は、ケストースが外傷性皮膚疾患の抑制に有益な効果を発揮するという新規な効能を利用した剤である。ここでいう「外傷性皮膚疾患の抑制効果」は、ケストースを皮膚疾患の発症前に予め摂取しておくことで疾患の発症を抑制する予防効果、発症した炎症の進行および悪化を抑制する効果、ならびに、その結果として炎症の緩和および改善を促進する効果を含む。
【0018】
本実施形態が適用可能な外傷性皮膚疾患は、前述の通り、アレルギーのような内在因子(免疫)による内因性の疾患と違って、外部(体外)からの物理的刺激等によって引き起こされる外因性の疾患の一つである。具体的には、外傷性皮膚疾患として、褥瘡、火傷、切創、擦過傷、挫傷、挫滅創、刺創、咬傷、手術による傷、その他の創傷等を例示することができる。以下、本明細書では、外傷性皮膚疾患として褥瘡を例にして説明する。
【0019】
褥瘡は、一般社団法人日本褥瘡学会によれば、「褥瘡とは、寝たきりなどによって、体重で圧迫されている場所の血流が悪くなったり滞ることで、皮膚の一部が赤い色味をおびたり、ただれたり、傷ができてしまうこと」(http://www.jspu.org/jpn/patient/about.html)と説明され、一般的には「床ずれ」とも呼称される。つまり、褥瘡は、外的な物理的圧力(例えば、自身の体重)によって引き起こされる皮膚の炎症または損傷であり、長時間圧迫された皮膚細胞に十分な酸素や栄養が行き渡らなくなって発症する。また、褥瘡部では、皮膚細胞がアポトーシスを起こしており組織の恒常性が失われ、さらに進行、悪化すると、体液が漏れ出ることで低蛋白血症を起こすこともある。或いは、炎症が進行、悪化し、水膨れや膿瘍が形成されることもある。また、圧迫だけでなく摩擦やずれ等の刺激が繰り返されることで皮膚が損傷し、さらに、傷口に皮膚表面に常在する有害菌等が保菌、感染して細菌感染症を起こすこともある。
【0020】
また、本実施形態の有効成分であるケストースは、スクロースに1分子のフルクトースが結合した三糖のオリゴ糖である。ケストースは、フルクトースの結合位置により、1-ケストース、6-ケストースおよびネオケストースの3種類が生じ得る。本発明の全実施形態に係る「ケストース」は、スクロースに1分子のフルクトースが結合した三糖のオリゴ糖を意味し、1-ケストース、6-ケストースおよびネオケストースを包含する。
【0021】
ケストースは、工業的には、一例として、スクロースを基質として、特許文献2:特開昭58-201980号公報に開示されているような酵素による酵素反応を行うことにより、製造することができる。一例として、先ず、β-フルクトフラノシダーゼをスクロース溶液に添加し、37℃~50℃で20時間程度静置することにより、酵素反応を行って、酵素反応液を得る。この酵素反応液は1-ケストースを相当量含む糖液であるため、これをそのまま本実施形態に係る製剤成分としてもよい。
【0022】
或いは、当該酵素反応液を、特許文献3:特開2000-232878号公報で開示されているようなクロマト分離法に供することより、1-ケストースと他の糖(グルコース、フルクトース、スクロース、および四糖以上のオリゴ糖等)とを分離して精製し、比較的高純度の1-ケストース溶液を得ることができる。この溶液を本実施形態に係る製剤成分としてもよい。或いは、当該1-ケストース溶液を濃縮した後、特許文献4:特公平6-70075号公報に開示されているような結晶化法で結晶化することにより、1-ケストースの結晶、または、純度98質量%以上で1-ケストースを含有する組成物を得ることができる。この結晶または組成物を、本実施形態に係る製剤成分としてもよい。なお、ここでいう「純度」は、糖の総質量中の1-ケストースの質量%を意味する。
【0023】
また、市販のフラクトオリゴ糖はケストースを含有するため、これをそのまま本実施形態に係る製剤成分としてもよい。或いは、市販のフラクトオリゴ糖から、上記の方法により、1-ケストースを精製したもの、または、さらに結晶化したもの、等を製剤成分としてもよい。勿論、市販のケストースも存在するため、これをそのまま製剤成分としてもよい。
【0024】
さらに、ケストースは、タマネギ、ニンニク、バナナ、大麦、ライ麦等の野菜、果物、穀物等にも少量ながら含まれているため、これらのケストースを含有する植物体からの抽出物を、本実施形態に係る製剤成分としてもよい。
【0025】
1-ケストースは、通常知られている分析法のうち、分析試料の状況に適した方法により分析することが可能であり、当業者により分析試料の状況に応じて通常選択される方法を使用できる。常法として、分析試料を水に溶解し、或いは液体試料は必要に応じて水で希釈し、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に供して糖組成を分析することで、1-ケストースの含有を分析できる。また、クロマトグラムのピーク面積の割合を質量の割合として、1-ケストースの含有量も算出できる。
【0026】
本発明者らは、ケストースに、褥瘡を抑制する新たな効能を見出した。すなわち、24時間の皮膚圧迫を加えた褥瘡モデルマウスを用いた実験において、ケストースを配合した飼料を給餌したマウス群では、対照飼料を給餌した対照群と比較して、皮膚圧迫解除後1日目の定量化された褥瘡範囲の値が有意に小さくなった(実施例1-1参照)。これは、従来、ケストースによるアトピー性皮膚炎のような内因性の皮膚疾患の抑制効果は知られていたのに対して、ケストースを摂取することで、褥瘡のような外因性の皮膚疾患に対して抑制効果を発揮するという新規の効能を新たに知得したものである。そこで、本知見に基づく技術思想として、第1の実施形態は、ケストースを有効成分とする外傷性皮膚疾患抑制剤に具現される。また、実施された試験では、ケストースが褥瘡の発症前から摂取され、褥瘡の発症の段階で発症の抑制効果が見られたことに着目すると、第1の実施形態の下位概念として、外傷性皮膚疾患の発症前に摂取または投与される剤、すなわち、外傷性皮膚疾患発症抑制剤または外傷性皮膚疾患予防剤としても適用できる。
【0027】
また、褥瘡の抑制効果について、ケストースによる褥瘡部における皮膚コラーゲンの産生促進効果が新たに見出された。すなわち、上記の褥瘡モデルマウスの皮膚圧迫解除後1日目の褥瘡部から採取した組織切片にマッソントリクローム(Masson’s trichrome)染色を施した標本について、対照飼料を給餌した対照群では、皮膚コラーゲン(コラーゲン線維)の広がりが途切れた状態が観察されたのに対して、ケストースを配合した飼料を給餌したマウス群では、皮膚コラーゲン(コラーゲン線維)が途切れることなく、より広範囲に亘って形成されている状態が観察された(実施例1-2)。
【0028】
皮膚コラーゲンは、老化に伴う慢性的な減少以外に、紫外線や皮膚の乾燥等による肌ストレスでも減少することが知られており、皮膚の頑健性を示す指標の一つであると言える。また、褥瘡のような創傷によって真皮や皮下組織が失われると、線維芽細胞の増殖やコラーゲン線維を多く含む肉芽によって修復され、瘢痕が形成される。したがって、褥瘡部におけるコラーゲンの産生促進は、褥瘡の緩和、改善に繋がると共に、褥瘡の進行、悪化の抑制にも繋がると考えられる。このことから、第1の実施形態に係る外傷性皮膚疾患抑制剤は、その下位概念として皮膚コラーゲン産生促進剤として適用できる。なお、ここでいう「皮膚コラーゲンの産生促進効果」は、皮膚コラーゲンの産生を促進し、その量の減少を抑制する効果、および、その量を増加させる効果を含む。
【0029】
また、褥瘡の抑制効果について、ケストースによる褥瘡部における皮膚細胞のアポトーシスの抑制効果が新たに見出された。すなわち、上記の褥瘡モデルマウスの皮膚圧迫解除後1日目の褥瘡部から採取した組織切片にタネル(TUNEL)染色を施した標本について、ケストースを配合した飼料を給餌したマウス群では、圧迫部位においても皮膚細胞のアポトーシスが殆ど起こっておらず、染色状態が隣接する正常皮膚部位と殆ど変わらない状態であった(実施例1-3参照)。前述の通り、褥瘡部における細胞のアポトーシスは、褥瘡を進行、悪化させる要因となる現象であるため、アポトーシスの抑制は褥瘡の抑制に繋がると考えられる。このことから、第1の実施形態に係る外傷性皮膚疾患抑制剤は、その下位概念として皮膚細胞のアポトーシス抑制剤として適用できる。なお、ここでいう「皮膚細胞のアポトーシスの抑制効果」は、アポトーシスを起こす皮膚細胞数の増加を抑制する効果、および、その数を減少させる効果を含む。
【0030】
また、褥瘡の抑制効果について、ケストースによる皮膚細菌叢の多様性の向上効果が新たに見出された。すなわち、上記の褥瘡モデルマウスの褥瘡部から採取したDNAサンプルの遺伝子解析の結果、ケストースを配合した飼料を給餌したマウス群では、対照飼料を給餌した対照群と比較して、細菌叢の種多様性を表すα多様性を示すシャノン指数(Shannon index)が、圧迫解除後0日目、1日目、7日目においていずれも高い傾向を示した(実施例2-1参照)。
【0031】
皮膚表面には、多数の常在菌が生息する皮膚細菌叢が存在している。そして、皮膚細菌叢の多様性は皮膚の健康状態を表す。一例として、特許文献5:特開2021-040517号公報には、皮膚細菌叢のバランスが崩れてしまうと、皮膚の抵抗力が弱まり、通常無害である菌が炎症や発疹等の要因に繋がることが記載されている。また、一例として、特許文献6:特開2020-094047号公報には、アトピー性皮膚炎の病態部では、皮膚細菌叢の多様性が低下し、有害菌である黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の割合が増加することが知られている。したがって、褥瘡部における皮膚細菌叢の多様性の向上は褥瘡の抑制に繋がると考えられる。このことから、第1の実施形態に係る外傷性皮膚疾患抑制剤は、その下位概念として皮膚細菌叢の多様性向上剤として適用できる。
【0032】
さらに、上記の遺伝子解析から、ケストースを配合した飼料を給餌したマウス群では、対照飼料を給餌した対照群と比較して、感染症を起こす複数種類の有害菌の相対占有率が著しく低くなることが突き止められた(実施例2-2参照)。当該有害菌は、褥瘡のような外傷性皮膚疾患部における保菌、感染が認められ、当該疾患の進行、悪化に関与すると考えられているStreptococcus属(ストレプトコッカス属)、Staphylococcus属(スタフィロコッカス属)、およびPseudomonas属(シュードモナス属)の細菌である。これらの属には、一例として、化膿レンサ球菌とも呼称されるStreptococcus pyogenes、黄色ブドウ球菌とも呼称されるStaphylococcus aureus、緑膿菌とも呼称されるPseudomonas aeruginosa等の、病院等におい感染制御対象とされる種が含まれ、外因性および内因性に関わらず、広く皮膚疾患における有害菌に該当するものである。
【0033】
そして、本知見は、食品組成物として食品にも配合可能なオリゴ糖であるケストースを経口摂取することで、皮膚有害菌の増殖を制御できるという新規の効能を新たに知得したものである。そこで、本知見に基づく技術思想として、第2の実施形態は、ケストースを有効成分とする皮膚有害菌増殖抑制剤に具現される。ここでいうケストースおよびその製造方法等については第1の実施形態で説明した通りである。第2の実施形態は、食品組成物として食品にも配合可能な物質によって皮膚有害菌の増殖を抑制できる剤を提供するという課題を解決する技術的手段であると言うこともできる。ここでいう「皮膚有害菌の増殖抑制効果」は、皮膚有害菌数の増加を抑制する効果、および、その数を減少させる効果を含む。
【0034】
また、ここでいう「皮膚有害菌」は、皮膚疾患部において保菌、感染が認められ、当該疾患の進行、悪化に関与すると考えられている細菌を意味し、Streptococcus属、Staphylococcus属、およびPseudomonas属の細菌を含む。
【0035】
Streptococcus属に含まれる有害菌として、Streptococcus pyogenes、Streptococcus agalactiae、Streptococcus dysgalactiae subsp.equisimilis等が例示される。Staphylococcus属に含まれる有害菌として、Staphylococcus aureus、Methicillin - Resistant Staphylococcus aureus(MRSA)等が例示される。Pseudomonas属に含まれる有害菌として、Pseudomonas aeruginosa等が例示される。
【0036】
さらに、皮膚疾患のない健常な皮膚である正常皮膚から採取した組織切片にマッソントリクローム染色を施した標本について、ケストースを配合した飼料を給餌したマウス群では、対照飼料を給餌した対照群と比較して、定量化されたコラーゲン線維の範囲の値が有意に大きくなることが突き止められた(実施例3)。その結果、正常皮膚における本知見と前述の褥瘡部における知見とから、ケストースには、皮膚疾患の有無に関わらず、皮膚コラーゲンの産生を促進する効能を有することが新たに見出された。そこで、本知見に基づく技術思想として、第3の実施形態は、ケストースを有効成分とする皮膚コラーゲン産生促進剤に具現される。ここでいうケストースおよびその製造方法等については第1の実施形態で説明した通りである。第3の実施形態は、外傷性皮膚疾患の抑制に限らず、一例として、抗老化として、または肌ストレスによる皮膚コラーゲンの減少に対しても適用できる。すなわち、医療、美容、健康、抗老化等の幅広い目的で、皮膚の状態に関わらず皮膚コラーゲンの産生を促進できる剤を提供するという課題を解決する技術的手段であると言うこともできる。ここでいう「皮膚コラーゲンの産生促進効果」は、皮膚コラーゲン量の減少を抑制する効果、および、その量を増加させる効果を含む。
【0037】
以上の、第1の実施形態に係る外傷性皮膚疾患抑制剤、第2の実施形態に係る皮膚有害菌増殖抑制剤、および第3の実施形態に係る皮膚有害菌増殖抑制剤(以下、本剤)のヒトへの有効量は、ケストースとして0.45~0.76(g/kg体重/日)の投与量である。ただし、前述の通り、ケストースは、ヒトが日常的に摂取する食物にも含まれており、古来より食経験を有する物質であること、また、毒性試験および遺伝毒性試験においても毒性および変異原性が認められていないことから、高い安全性を有する(非特許文献1:食品と開発、Vol.49、No.12、p.9)。したがって、上記の投与量を超える量が投与(摂取)されてもよい。また、本剤は、1日当たり単回または複数回に分けて投与(摂取)されてもよい。以上のことから、本剤は、ケストースの用量として少なくとも0.45~0.76(g/kg体重/日)がヒトに投与(摂取)されるとよい。
【0038】
上記の投与量は、本剤に係る作用効果が認められた、後述のモデルマウスを使用した実施例に基づいて算出した。すなわち、公表されているマウスの平均的な1日当たり摂餌量:約3~5gを使用して(https://www.eptrading.co.jp/service/researchdiets/s02.html)、各実施例で自由摂食として給餌された、1-ケストースが飼料総質量の5質量%配合された「ケストース配合飼料」から、ケストースの1日当たり摂取量0.15~0.25gを算出した。次いで、各実施例で使用された12週齢の雄性のモデルマウスC57BL/6Jについて、公表されている同系統の同性、同週齢の平均体重:26.7gを使用して(https://www.jax.or.jp/cms/jaxweb/pdf/product/rm/information/b6j/Body_weight_B6J_2009.pdf)、実施例に係るマウスへのケストースの投与量:5.6179~9.3632(g/kg体重/日)を算出した。次いで、FDAガイドライン(U.S. Department of Health and Human Services Food and Drug Administration Center for Drug Evaluation and Research (CDER), "Guidance for Industry: Estimating the Maximum Safe Starting Dose in Initial Clinical Trials for Therapeutics in Adult Healthy Volunteers," July 2005.)に準じて、当該マウスへの投与量を換算係数:12.3で除すことで、ヒトへの投与量:0.4567~0.7612(g/kg体重/日)を算出した。
【0039】
また、本剤は、ケストースを有効成分として適宜製剤化されたものを含む。すなわち、本剤は、ケストースのみからなる製剤、ならびに、ケストースおよびケストース以外の成分からなる製剤、を含む。ケストース以外の成分は、一例として、ケストースの製造工程における酵素反応の基質等に含まれる不純物、また、ケストースの製造工程における中間生成物もしくは副生成物等として残存するグルコース、フルクトース、スクロース、四糖のニストース、五糖のフラクトフラノシルニストース等の糖、また、製剤に配合される食物線維、ポリフェノール、アミノ酸、タンパク質、脂質、ビタミン、ビタミン様物質、ミネラル等の栄養素、また、所定の剤型に成形する目的等で添加される賦形剤、結合剤、滑沢剤、着色剤、崩壊剤、増粘剤、保存剤、安定化剤、pH調整剤等の添加物、等を含む。なお、ケストースはプレバイオティクスであることから、本剤を、各実施形態に係る特定の機能に加えて、プレバイオティクスとしての機能も有するように構成することもできる。したがって、一例として、本剤を、ケストースに他のプレバイオティクスもしくはプロバイオティクスを組み合わせた製剤に構成することもできる。
【0040】
また、本剤の剤型は限定されず、一例として、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等の経口用固形製剤(サプリメントを含む)、また、内服液剤、シロップ剤等の経口用液体製剤、また、注射剤等の非経口用液体製剤、等の剤型に適宜成形することができる。また、適切なドラッグデリバリーシステム(DDS)が適用されてもよい。各剤型は、当業者に公知の方法で適宜成形することができる。また、本剤の投与方法も限定されず、ヒトまたはヒト以外の哺乳動物に対して、経口投与、静脈内投与、腹腔内投与、皮内投与、舌下投与、局所投与等を適宜選択することができる。
【0041】
また、本剤は、それ自体を医薬品、化粧品、食品等として適用できる。或いは、本剤を、医薬品組成物、化粧品組成物、食品組成物等としても適用できる。すなわち、本剤を組成物として適用する場合、組成物としての本剤が配合された医薬品、化粧品、食品等の形態を取ることができる。換言すると、組成物としての本剤を含有する医薬品、化粧品、食品等の形態を取ることができる。ここでいう「医薬品」は、ヒトまたはヒト以外の哺乳動物の疾病の治療または予防に使用されることが目的とされている物全般を意味し、法(日本国では、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)上の医薬品および医薬部外品を含む。ここでいう「食品」は、飲食される物全般を意味し、飲料を含む。本剤を食品または食品組成物として適用する場合、本剤である食品または本剤を含有する食品を、特に、各実施形態に係る特定の保健機能を目的として摂取する食品として適用することができる。すなわち、日本国を例にすると、健康増進法に基づく特定保健用食品や、食品表示法に基づく機能性表示食品等として、特定の保健機能を表示・標榜した製品として適用可能性がある。
【0042】
なお、組成物としての本剤を含有する製品の形態も限定されない。すなわち、組成物としての本剤を含有する医薬品、化粧品、食品等もまた、本剤同様に、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等の経口用固形製剤(サプリメントを含む)、また、内服液剤、シロップ剤等の経口用液体製剤、また、注射剤などの非経口用液体製剤、等の剤型の形態であってもよい。したがって、ケストースおよびケストース以外の成分からなる製剤は、本剤そのものに該当すると共に、組成物としての本剤を含有する製剤にも該当する場合がある。
【0043】
さらに、前述の通り、ケストースは、食品成分として高い安全性を有する。また、ケストースは、吸湿性が極めて低く、溶解性および耐熱性に優れることから、食品加工時の利便性が高く、さらに、砂糖に類似した甘味を示すことから、砂糖の代替品としても使用できる。このようなケストースの特性を活かして、組成物としての本剤を含有する食品は、一例として、ケストースが配合された、ガム、グミ、キャンディーその他の菓子、また、フレーク状もしくはパフ状のシリアル、また、バー、ゼリー、嚥下食品、飲料等の各種の食品として好適に適用できる。
【実施例0044】
(実施例1-1)
12週齢の雄性のC57BL/6Jマウス(日本クレア株式会社)を、順化飼育後、3匹ずつの対照群および実施例群に分けた。試験飼育は、対照群には、標準精製飼料「AIN-93G」(日本クレア株式会社)を対照飼料として給餌した。一方、実施例群には、当該「AIN-93G」中のコーンスターチの一部を市販の1-ケストース(iKesクリスタル(iKesは登録商標)、純度95質量%、伊藤忠製糖株式会社)に置換することにより、1-ケストースが飼料総質量の5質量%配合されるように調整した「ケストース配合飼料」を給餌した。マウスは、全期間を通して、同一の飼育室で、温度23℃~25℃、湿度50%~60%、明期12時間および暗期12時間、1匹/ケージで、自由飲水、自由摂食の飼育環境で飼育した。
【0045】
7日間の馴化飼育および14日間の試験飼育の後、マウスの背部を除毛した後、除毛皮膚を磁石で摘まむように左右側から挟み込んで24時間圧迫した後に磁石を取り除いた。このようにして作製した両群の褥瘡モデルマウスについて、圧迫解除後(磁石を取り除いた後)の皮膚の所見を7日間(皮膚圧迫解除日を0日として起算)で観察した。現れた褥瘡部の画像データを基に、褥瘡部の大きさ(褥瘡範囲)を解析ソフト(ImageJ)で定量化した。図1に両群の皮膚圧迫解除後1日目の定量化された褥瘡範囲の平均値を示す。
【0046】
図1に示すように、圧迫解除後1日目において、実施例群では、対照群と比較して褥瘡範囲の値が有意に小さくなった。また、その後の圧迫解除後7日目の観察においては、実施例群で、褥瘡部の瘢痕が観察され、褥瘡部の緩和、改善が確認された(不図示)。
【0047】
(実施例1-2)
また、実施例1-1と同様に試験系を設定し、作製した両群の褥瘡モデルマウスについて、圧迫解除後1日目の褥瘡部から採取した組織切片に、コラーゲン線維と他の組織構成物とを視覚的に区別可能にするマッソントリクローム染色を施した標本を作製した。図2Aに対照群における標本の電子顕微鏡画像を、図2Bに実施例群における標本の電子顕微鏡画像をそれぞれ示す。
【0048】
マッソントリクローム染色によれば、コラーゲン線維は青色に染色され、一方、細胞質は赤色に染色される。特許図面としては色の濃淡で識別され、相対的に淡い染色がコラーゲン線維(元の青色)、相対的に濃い染色が細胞質(元の赤色)に該当する。図2Aに示すように、対照群では、写真の左右両端がコラーゲン繊維として淡く染色されているが、中央の破線で囲んだ箇所では、上側は細胞質としてより濃い染色、下側は非染色となっている。すなわち、皮膚コラーゲン(コラーゲン線維)の広がりが途切れた状態が観察され、皮膚コラーゲンの減少(欠損)と推測される状態が観察された。これに対して、図2Bに示すように、実施例群では、淡く染色された皮膚コラーゲン(コラーゲン線維)が途切れることなく、より広範囲に亘って形成されている状態が観察された。
【0049】
(実施例1-3)
さらに、実施例1-1と同様に試験系を設定し、作製した両群の褥瘡モデルマウスについて、圧迫解除後1日目の褥瘡部から採取した組織切片に、アポトーシスを起こした組織、細胞を染色するタネル染色を施した標本を作製した。図3Aに対照群における標本の電子顕微鏡画像を、図3Bに実施例群における標本の電子顕微鏡画像をそれぞれ示す。
【0050】
タネル法による染色は、特許図面としては色の濃淡で識別され、アポトーシスを起こした組織および細胞は、相対的に濃い染色として現れる。図3Aに示すように、対照群では、圧迫部位(特に左上箇所)において、隣接する正常皮膚部位では見られない濃い染色の広がりが見られる。このことから、圧迫部位において、褥瘡の進行によって皮膚細胞のアポトーシスが顕著に引き起こされていることが分かる。これに対して、図3Bに示すように、実施例群では、正常皮膚部位および圧迫部位のいずれにおいても、対照群の圧迫部位で見られた濃い染色はほぼ確認されず、圧迫部位と正常皮膚部位とで染色状態は殆ど変わらなかった。このことから、圧迫部位において、正常皮膚部位と同様に皮膚細胞のアポトーシスはほぼ起こっていない状態であった。
【実施例0051】
(実施例2-1)
実施例1-1と同様に試験系を設定し、作製した両群の褥瘡モデルマウスについて、圧迫解除後0日目、1日目、7日目における皮膚細菌叢の多様性を、アンプリコンシークエンス解析によって種多様性を表すα多様性を示すシャノン指数を算出し、比較することで、解析した。先ず、スワブ(4N6 FLOQ Swabs(FLOQは登録商標)、COPAN Diagnostics社)を使用して、褥瘡部のDNAサンプルを採取した。スワブの先端の綿球を2mLチューブ内の保存液に湿らせた後、次いで前記綿球で褥瘡部を10往復程度万遍なく拭き取り、次いで当該綿球を先程のチューブの保存液中に挿入し、ブレークポイントで当該スワブの柄を折り切り、当該綿球が収容されたチューブの蓋を閉めて、サンプル溶液を採取した。次に、サンプル溶液を専用の2mLチューブ(TM-626)に入れ、さらに当該チューブにジルコニアおよびシリカを含む専用の破砕用ビーズ(ZSB-01)を入れた後、次いでビーズ式細胞破砕装置(MS-100R、株式会社トミー精工)を使用して、「500rpm、1分で破砕運転し、30秒停止する」破砕処理を3回実施した後、次いでRCF10,000×g、1分の遠心でビーズを落とした。こうして得た上清200μLをDNA抽出に供した。DNA抽出は、キット(QIAamp DNA Mini Kit(QIAampは登録商標)、QIAGEN GmbH社)を使用して、添付のプロトコルに従って実施した。
【0052】
続いて、抽出したDNAを、16SrRNA遺伝子のV3-V4領域を増幅するプライマーを使用したPCRを行った後、アンプリコンシークエンス解析を行うことにより、褥瘡部における皮膚細菌叢の多様性を解析した。PCRおよびアンプリコンシークエンス解析は、株式会社生物技研に依頼して実施した。PCRは、抽出したDNAをテンプレートDNAとし、これと、16SrRNA遺伝子との相同配列から設計したForwardプライマー(V3V4f_q:5’-CCTACGGGNGGCWGCAG-3’)(「配列番号1」と称する)およびReverseプライマー(V3V4r_q:5’-GACTACHVGGGTATCTAATCC-3’)(「配列番号2」と称する)と、を使用し、PCR酵素にはTaKaRa Ex-taq(TaKaRaは登録商標)(タカラバイオ株式会社)を使用して実施した。反応プログラムは、94℃、2分の初回変性ステップの後、94℃、30秒の熱変性、55℃、30秒のアニーリング、72℃、30秒の伸長反応からなる20サイクルで実施し、最後に72℃、5分の最終伸長ステップを実施した。
【0053】
PCRで得られた20μLの増幅産物を次世代シーケンサー(MiSeq System(MiSeqは登録商標)、Illumina社)で解析し、シークエンシングを実施した。さらに、得られた配列データを、菌叢解析用パイプライン:QIIME2(Quantitative Insights into Microbial Ecology 2)のバージョン2022.2を使用して解析した。QIIME2のソフトウェアパッケージDADA2(Divisive Amplicon Denoising Algorithm 2)を使用して品質フィルタリングおよびノイズ除去を行った後、「Silva 138 SSU Ref NR 99」を参照配列として、出力配列を分類群に割り当てた。そして、サンプリング深度をサンプル当たりの最小リード数に設定して、シャノン指数を算出した。各群のシャノン指数(中央値)を表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
種多様性を表すα多様性を示すシャノン指数は、値が大きい程種多様性が高いことを表す。表1に示すように、実施例群では、圧迫解除後0日目、1日目、7日目において、いずれも対照群と比較してシャノン指数の値が高い傾向が見られた。
【0056】
(実施例2-2)
また、上記の解析によって、複数種類の特定の属の細菌についての相対占有率を両群の間で比較した。各群の相対占有率(中央値)を表2に示す。
【0057】
【表2】
【0058】
ここで比較した、Streptococcus属、Staphylococcus属、およびPseudomonas属の細菌は、いずれも褥瘡を含む外傷性皮膚疾患部における保菌、感染が認められ、当該疾患の進行、悪化に関与すると考えられている有害菌を含む。表2に示すように、実施例群では、対照群と比較して、Streptococcus属の細菌の相対占有率が圧迫解除後0日目、1日目、7日目いずれにおいても低くなった。また、Staphylococcus属の細菌の相対占有率が圧迫解除後1日目、7日目において著しく低くなった。また、Pseudomonas属の細菌の相対占有率が圧迫解除後7日目において有意に低くなった。
【実施例0059】
12週齢の雄性のC57BL/6Jマウス(日本クレア株式会社)を、順化飼育後、5匹ずつの対照群および実施例群に分けた。試験飼育は、対照群には、標準精製飼料「AIN-93G」(日本クレア株式会社)を対照飼料として給餌した。一方、実施例群には、当該「AIN-93G」中のコーンスターチの一部を市販の1-ケストース(iKesクリスタル、純度95質量%、伊藤忠製糖株式会社)に置換することにより、1-ケストースが飼料総質量の5質量%配合されるように調整した「ケストース配合飼料」を給餌した。マウスは、全期間を通して、同一の飼育室で、温度23℃~25℃、湿度50%~60%、明期12時間および暗期12時間、1匹/ケージで、自由飲水、自由摂食の飼育環境で飼育した。
【0060】
7日間の馴化飼育および14日間の試験飼育の後、マウスの背部の正常皮膚(皮膚疾患のない健常な皮膚)から採取した組織切片にマッソントリクローム染色を施した標本を作製した。染色により識別されたコラーゲン線維の範囲を、画像データに基づいて解析ソフト(cellSens Demension(cellSensは登録商標)、株式会社エビデント)で定量化した。また、識別されたコラーゲン層が形成される真皮の厚みを同ソフトで測定した。図4Aに両群の定量化されたコラーゲン線維の範囲の平均値を示す。図4Bに両群の測定された真皮の厚みの平均値を示す。
【0061】
図4Bに示すように、対照群と実施例群とでは、真皮の厚みに殆ど差が見られないことから、図4Aに示すコラーゲン線維の範囲を両群で比較することで、実質的に両群のコラーゲンの産生量を比較することができる。そして、図4Aに示すように、実施例群では、対照群と比較してコラーゲン線維の範囲の値が有意に大きくなった。したがって、実施例1-2および実施例3の結果から、皮膚疾患の有無に関わらない(皮膚の状態に関わらない)、ケストースによるコラーゲン産生促進効果が示された。
【0062】
以上に説明した実施形態は、以下の技術思想を包含する。
(態様1)外傷性皮膚疾患抑制剤としての使用のためのケストース。
【0063】
(態様2)皮膚有害菌増殖抑制剤としての使用のためのケストース。
【0064】
(態様3)皮膚コラーゲン産生促進剤としての使用のためのケストース。
【0065】
(態様4)ケストースを含有する外傷性皮膚疾患抑制剤。
【0066】
(態様5)ケストースを含有する皮膚有害菌増殖抑制剤。
【0067】
(態様6)ケストースを含有する皮膚コラーゲン産生促進剤。
【0068】
(態様7-1)ケストースを使用する外傷性皮膚疾患の抑制方法。
【0069】
(態様7-2)前記ケストースを使用して皮膚細胞のアポトーシスを抑制することによって、外傷性皮膚疾患を抑制すること
を特徴とする(態様7-1)記載の外傷性皮膚疾患の抑制方法。
【0070】
(態様7-3)前記ケストースを使用して皮膚細菌叢の多様性を向上させることによって、外傷性皮膚疾患を抑制すること
を特徴とする(態様7-1)記載の外傷性皮膚疾患の抑制方法。
【0071】
(態様7-4)前記ケストースを使用して皮膚コラーゲンの産生を促進することによって、外傷性皮膚疾患を抑制すること
を特徴とする(態様7-1)記載の外傷性皮膚疾患の抑制方法。
【0072】
(態様7-5)前記ケストースを、皮膚疾患の発症前に投与すること
を特徴とする(態様7-1)記載の外傷性皮膚疾患の抑制方法。
【0073】
(態様7-6)前記ケストースを、外傷性皮膚疾患の抑制を必要とするヒトまたはヒト以外の哺乳動物に有効量経口投与すること
を特徴とする(態様7-1)記載の外傷性皮膚疾患の抑制方法。
【0074】
(態様7-7)前記ケストースを、外傷性皮膚疾患の抑制を必要とするヒトに0.45~0.76(g/kg体重/日)を経口投与すること
を特徴とする(態様7-1)記載の外傷性皮膚疾患の抑制方法。
【0075】
(態様8-1)ケストースを使用する皮膚有害菌の増殖抑制方法。
【0076】
(態様8-2)前記ケストースを、皮膚有害菌の増殖抑制を必要とするヒトまたはヒト以外の哺乳動物に有効量経口投与すること
を特徴とする(態様8-1)記載の皮膚有害菌の増殖抑制方法。
【0077】
(態様8-3)前記ケストースを、皮膚有害菌の増殖抑制を必要とするヒトに0.45~0.76(g/kg体重/日)を経口投与すること
を特徴とする(態様8-1)記載の皮膚有害菌の増殖抑制方法。
【0078】
(態様9-1)ケストースを使用する皮膚コラーゲンの産生促進方法。
【0079】
(態様9-2)前記ケストースを、皮膚コラーゲンの産生促進を必要とするヒトまたはヒト以外の哺乳動物に有効量経口投与すること
を特徴とする(態様9-1)記載の皮膚コラーゲンの産生促進方法。
【0080】
(態様9-3)前記ケストースを、皮膚コラーゲンの産生促進を必要とするヒトに0.45~0.76(g/kg体重/日)を経口投与すること
を特徴とする(態様9-1)記載の皮膚コラーゲンの産生促進方法。
【0081】
(態様10)外傷性皮膚疾患を抑制するためのケストースの使用。
【0082】
(態様11)皮膚有害菌の増殖を抑制するためのケストースの使用。
【0083】
(態様12)皮膚コラーゲンの産生を促進するためのケストースの使用。
【0084】
(態様13)外傷性皮膚疾患抑制剤の製造のためのケストースの使用。
【0085】
(態様14)皮膚有害菌増殖抑制剤の製造のためのケストースの使用。
【0086】
(態様15)皮膚コラーゲンの産生促進剤の製造のためのケストースの使用。
図1
図2
図3
図4