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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162484
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】摩擦材
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/14 20060101AFI20241114BHJP
   F16D 69/02 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
C09K3/14 530G
C09K3/14 520M
C09K3/14 530E
F16D69/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023078023
(22)【出願日】2023-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】000000516
【氏名又は名称】曙ブレーキ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】丸田 早紀
(72)【発明者】
【氏名】高城 敦子
【テーマコード(参考)】
3J058
【Fターム(参考)】
3J058AA01
3J058AA41
3J058BA41
3J058BA61
3J058CA02
3J058CA42
3J058EA13
3J058EA37
3J058EA39
3J058GA04
3J058GA55
3J058GA57
3J058GA64
3J058GA65
3J058GA68
3J058GA92
3J058GA93
(57)【要約】
【課題】熱成形時間が短縮でき、摩耗特性が良好な摩擦材を提供すること。
【解決手段】摩擦調整材、結合材及び繊維基材を含む摩擦材であって、前記結合材として、ノボラック型フェノール樹脂、エポキシ樹脂、及び固形レゾール型フェノール樹脂を含有するフェノール樹脂組成物と、熱硬化性樹脂とを含有する摩擦材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦調整材、結合材及び繊維基材を含む摩擦材であって、
前記結合材として、ノボラック型フェノール樹脂、エポキシ樹脂、及び固形レゾール型フェノール樹脂を含有するフェノール樹脂組成物と、熱硬化性樹脂とを含有する摩擦材。
【請求項2】
前記フェノール樹脂組成物及び前記熱硬化性樹脂の質量比率が3:1~1:1である、請求項1に記載の摩擦材。
【請求項3】
前記フェノール樹脂組成物の含有量が1~10質量%である、請求項1又は2に記載の摩擦材。
【請求項4】
前記熱硬化性樹脂の含有量が1~7質量%である、請求項1又は2に記載の摩擦材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は摩擦材に関し、更に詳しくは、産業機械、鉄道車両、貨物車両、乗用車等のブレーキパッド、ブレーキライニング、クラッチフェーシング等に用いられる摩擦材に関する。
【背景技術】
【0002】
摩擦材は、ディスクブレーキやドラムブレーキなどのブレーキ、あるいはクラッチ等に使用され、ディスクロータ等の相手材と摩擦することにより制動の役割を果たしている。
【0003】
摩擦材は、補強作用をする繊維基材、摩擦作用を与えかつその摩擦性能を調整する摩擦調整材、これらの成分を一体化する結合材などの原材料からなっている。
【0004】
結合材としては、種々の樹脂材料を用いることができる。たとえば、特許文献1には、結合材として、平均粒子径10μm以下のフェノール樹脂粉末を5~25体積%配合した摩擦材が記載されている。また、特許文献2には、変性無しのフェノール樹脂6.0~6.6質量%及び未加硫のニトリルゴム粉末1~2質量%を結合材として配合したブレーキ摩擦材が記載されている。
【0005】
一方、製造効率の観点から、熱成形時間の短縮化が望まれている。たとえば、特許文献3には、(a)繊維状物質、摩擦調整剤及び結合材を含む原料を混合し、原料混合物を得る工程、(b)原料混合物の一部に常温で固体状のゴムを加え、原料混合物を被覆する工程、(c)更に、原料混合物の残部を加え混合し、摩擦材組成物を得る工程、(d)摩擦材組成物を0~100℃にて加圧成形する工程により、加圧成形が、数秒~数十秒で行われる摩擦材の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002-097286号公報
【特許文献2】特開2008-057693号公報
【特許文献3】特開2011-075107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
摩擦材は、通常、繊維基材、摩擦調整材、結合材等の原材料を混合し、所定の形状に熱成形し、熱処理、加工することで製造される。
特許文献1や特許文献2に記載されたフェノール樹脂は、熱成形時に樹脂がゲル化してから硬化する必要があるため、熱成形に時間を要する点で改善の余地があった。
【0008】
また、特許文献3に記載された製造方法は、加圧成形が、数秒~数十秒で行われるとあるが、原料混合物の一部に常温で固体状のゴムを加える必要があるため、耐熱性の低下が懸念される。
【0009】
本発明では、熱成形時間が短縮でき、摩耗特性が良好な摩擦材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、結合材として所定のフェノール樹脂組成物と、熱硬化性樹脂とを併用することで、上記課題を解決できることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は下記摩擦材に関するものである。
摩擦調整材、結合材及び繊維基材を含む摩擦材であって、
前記結合材として、ノボラック型フェノール樹脂、エポキシ樹脂、及び固形レゾール型フェノール樹脂を含有するフェノール樹脂組成物と、熱硬化性樹脂とを含有する摩擦材。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、熱成形時間を短縮でき、摩耗特性にも優れた摩擦材を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の摩擦材について詳細に説明する。
【0014】
本発明の摩擦材は、摩擦調整材、結合材及び繊維基材を含む摩擦材であって、前記結合材として、ノボラック型フェノール樹脂、エポキシ樹脂、及び固形レゾール型フェノール樹脂を含有するフェノール樹脂組成物と、熱硬化性樹脂とを含有する。
【0015】
<摩擦調整材>
摩擦調整材は、耐摩耗性、耐熱性、耐フェード性等の所望の摩擦特性を摩擦材に付与するために用いられる。
摩擦調整材としては、例えば、無機充填材、有機充填材、研削材、固体潤滑材、金属粉末等を挙げることができる。
【0016】
無機充填材としては、例えば、チタン酸カリウム、チタン酸リチウム、チタン酸リチウムカリウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸マグネシウムカリウム等のチタン酸塩、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、バーミキュライト、マイカ等の無機材料が挙げられる。これらは各々単独で、または2種以上組み合わせて用いられる。
【0017】
無機充填材は、摩擦材全体中、好ましくは30~80質量%、より好ましくは40~70質量%用いられる。
【0018】
有機充填材としては、例えば、各種ゴム粉末(生ゴム粉末、タイヤ粉末等)、ゴムダスト、レジンダスト、カシューダスト、タイヤトレッド、メラミンダスト等が挙げられる。これらは各々単独、または2種以上組み合わせて用いられる。
【0019】
有機充填材は、摩擦材全体中、好ましくは1~15質量%、より好ましくは1~10質量%用いられる。
【0020】
研削材としては、例えば、酸化ジルコニウム、アルミナ、シリカ、酸化マグネシウム、ジルコニア、珪酸ジルコニウム、酸化クロム、四三酸化鉄(Fe)、クロマイト等が挙げられる。これらは各々単独で、または2種以上組み合わせて用いられる。
【0021】
研削材は、摩擦材全体中、好ましくは1~20質量%、より好ましくは3~15質量%用いられる。
【0022】
固体潤滑材としては、例えば、黒鉛(グラファイト)、コークス、三硫化アンチモン、二硫化モリブデン、硫化スズ、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等が挙げられる。これらは各々単独で、または2種以上組み合わせて用いられる。
【0023】
固体潤滑材は、摩擦材全体中、好ましくは1~25質量%、より好ましくは3~20質量%用いられる。
【0024】
金属粉末としては、例えば、アルミニウム、スズ、亜鉛等の粉末が挙げられる。これらは各々単独、または2種以上組み合わせて用いられる。
【0025】
金属粉末は、摩擦材全体中、好ましくは1~10質量%、より好ましくは1~5質量%用いられる。
【0026】
摩擦材における摩擦調整材全体の含有量は、所望する摩擦特性に応じて適宜調整すればよく、摩擦調整材総量を、摩擦材全体に対し60~90質量%とすることが好ましく、65~85質量%とすることがより好ましい。
【0027】
<繊維基材>
繊維基材は摩擦材としたときの補強用に用いられる。
繊維基材としては、有機繊維、無機繊維、金属繊維等が挙げられる。繊維基材は各々単独で、または2種以上組み合わせて用いられる。
【0028】
有機繊維としては、例えば、芳香族ポリアミド(アラミド)繊維、耐炎性アクリル繊維等が挙げられる。
【0029】
無機繊維としては、例えば、生体溶解性無機繊維、セラミック繊維、ガラス繊維、カーボン繊維、ロックウール等が挙げられる。生体溶解性無機繊維としては、例えば、SiO-CaO-MgO系繊維、SiO-CaO-MgO-Al系繊維、SiO-MgO-SrO系繊維等の生体溶解性セラミック繊維や生体溶解性ロックウール等が挙げられる。
【0030】
金属繊維としては、例えばスチール繊維が挙げられる。なお、銅成分を含む銅繊維や青銅繊維は使用しないことが好ましい。
【0031】
摩擦材における繊維基材の含有量は、摩擦材の強度確保の観点から、繊維基材全量で好ましくは3~30質量%、より好ましくは5~20質量%である。
【0032】
<結合材>
結合材は摩擦材に含まれる繊維基材及び摩擦調整材を一体化するために用いられる。
本発明の実施形態に係る摩擦材は、ノボラック型フェノール樹脂、エポキシ樹脂、及び固形レゾール型フェノール樹脂を含有するフェノール樹脂組成物(以下、「特定のフェノール樹脂組成物」とも記載する。)と、熱硬化性樹脂とを、結合材として含有する。特定のフェノール樹脂組成物は、硬化速度が早く熱成形時間の短縮が可能という利点を有する一方で、摩擦材の耐熱性が十分ではなかった。特定のフェノール樹脂組成物と熱硬化性樹脂とを併用することで、熱成形時間を短縮でき、かつ、良好な摩耗特性を有する摩擦材が得られる。これは、耐熱性に優れた熱硬化性樹脂を併用することにより、成形性を損なうことなく、摩擦材を製造することができるためと考えられる。
【0033】
特定のフェノール樹脂組成物に用いられるノボラック型フェノール樹脂は、通常、フェノール類とアルデヒド類とを、塩酸、硫酸などの酸性触媒の存在下で、フェノール類(P)に対するアルデヒド類(F)の反応モル比(F/P)を0.5~0.9として得られるものである。
【0034】
フェノール類としては特に限定されないが、例えば、フェノール、オルソクレゾール、メタクレゾール、パラクレゾール、キシレノール、パラターシャリーブチルフェノール、パラオクチルフェノール、パラフェニルフェノール、ビスフェノールA、 ビスフェノールF、レゾルシンなどのフェノール類が挙げられ、通常、フェノール、クレゾールが多く用いられる。また、同様にアルデヒド類としても特に限定されないが、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ブチルアルデヒド、アクロレイン等のアルデヒド類、あるいはこれらの混合物であり、これらのアルデヒド類の発生源となる物質、あるいはこれらのアルデヒド類の溶液を使用することもできるが、通常はホルムアルデヒドが多く用いられる。このようにして得られたノボラック型フェノール樹脂の形態は特に限定されず、液状、固形、粉末など、いずれの形態のものでも使用することができる。
【0035】
特定のフェノール樹脂組成物におけるノボラック型フェノール樹脂の配合量としては特に限定されないが、組成物全体に対して50~95質量%であることが好ましく、さらに好ましくは60~90質量%である。ノボラック型フェノール樹脂の配合量が前記上限値以下であれば、組成物の硬化が十分であり、下限値以上であれば樹脂の硬化が早すぎず成形時の流動性が低下しないため、摩擦材の機械的強度が良好である。
【0036】
特定のフェノール樹脂組成物において用いられるエポキシ樹脂としては特に限定されないが、1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有するもので、室温で固形または液体のものであればよく、例えばビスフェノールA型、ビスフェノールS型、フェノールノボラック型、クレゾールノボラック型、ビフェニル型、ナフタレン型、芳香族アミン型などが挙げられる。また、これらは単独または複数を組み合わせて使用することができる。
【0037】
特定のフェノール樹脂組成物におけるエポキシ樹脂の配合量としては特に限定されないが、組成物全体に対して1~50質量%であることが好ましく、さらに好ましくは5~40質量%である。エポキシ樹脂の配合量がかかる範囲内であれば、樹脂成分の硬化が十分であり、摩擦材として十分な機械的強度が得られる。
【0038】
特定のフェノール樹脂組成物において用いられる固形レゾール型フェノール樹脂は、通常、フェノール類とアルデヒド類とを、アルカリ金属の水酸化物、第3級アミン、アルカリ土類金属の酸化物及び水酸化物、アルカリ性物質などのアルカリ性触媒の存在下で、フェノール類(P)に対するアルデヒド類(F)の反応モル比(F/P)が0.7~3.0であることが好ましく、さらに好ましくは0.9~1.8である。
【0039】
ここで用いられるフェノール類としては特に限定されないが、例えば、フェノール、オルソクレゾール、メタクレゾール、パラクレゾール、キシレノール、パラターシャリーブチルフェノール、パラオクチルフェノール、パラフェニルフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、レゾルシンなどのフェノール類が挙げられ、通常、フェノール、クレゾールが多く用いられる。また、同様にアルデヒド類としても特に限定されないが、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ブチルアルデヒド、アクロレイン等のアルデヒド類、あるいはこれらの混合物であり、これらのアルデヒド類の発生源となる物質、あるいはこれらのアルデヒド類の溶液を使用することもできるが、通常はホルムアルデヒドが多く用いられる。このようにして得られたレゾール型フェノール樹脂の形態は固形の形態のものを使用する。
【0040】
特定のフェノール樹脂組成物における固形レゾール型フェノール樹脂の配合量としては特に限定されないが、組成物全体に対して1~50質量%であることが好ましく、さらに好ましくは5~40質量%である。固形レゾール型フェノール樹脂の配合量が上記下限値以上であることで、組成物の硬化が十分であり、また、上記上限値以下であることで、樹脂の硬化が早くなり過ぎず成形時の流動性が低下しにくいため、硬化物の機械的強度が低下しにくい。
【0041】
本発明において、特定のフェノール樹脂組成物は、ノボラック型フェノール樹脂、エポキシ樹脂、硬化触媒、及び固形レゾール型フェノール樹脂を含む原材料を溶融混練することで製造できる。ここで、少なくともノボラック型フェノール樹脂と、エポキシ樹脂及び/又は硬化剤とを、加圧式混練装置を用いて溶融混練することが好ましい。さらに、ノボラック型フェノール樹脂、エポキシ樹脂、硬化触媒、固形レゾール型フェノール樹脂が融解し、流動する状態において、フェノール樹脂とエポキシ樹脂の硬化が実質的に起きない状態で、均一に混合することがより好ましい。混合時の温度は、フェノール樹脂とエポキシ樹脂が溶融はするが、硬化は開始しない温度が適当である。また、加圧式混練装置を用いることにより、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、硬化触媒を均一に分散させることが可能となる。
【0042】
特定のフェノール樹脂組成物としては、たとえば、特開2008-222851号公報に記載されたフェノール樹脂組成物を使用できる。
【0043】
本発明の実施形態に係る摩擦材は、結合材として熱硬化性樹脂を含む。
熱硬化性樹脂とは、熱を加えることで液体状態を経て固化する性質を有する樹脂をいう。
上記特定のフェノール樹脂組成物と、熱硬化性樹脂とを結合材として含むことで、特定のフェノール樹脂組成物により硬化速度が高くなるため摩擦材の熱成形時の時間が短縮でき、また、熱硬化性樹脂の耐熱性により摩擦材の耐摩耗性が良好になる。
熱硬化性樹脂としては、ストレートフェノール樹脂、エラストマー等による各種変性フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂等が挙げられる。エラストマー変性フェノール樹脂としては、アクリルゴム変性フェノール樹脂やシリコーンゴム変性フェノール樹脂、NBRゴム変性フェノール樹脂などの各種変性フェノール樹脂が挙げられる。これらの熱硬化性樹脂は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0044】
特定のフェノール樹脂組成物と熱硬化性樹脂との質量比率は、好ましくは3:1~1:1であり、より好ましくは2:1~1:1である。質量比率が上記下限値以上であることで樹脂の硬化速度が十分であり、また、上記上限値以下であることで樹脂の硬化が十分であり、その結果、短時間の熱成形時間で製造しても耐摩耗性に優れた摩擦材が得られる。
【0045】
また、摩擦材における特定のフェノール樹脂組成物の含有量は好ましくは1~10質量%であり、より好ましくは3~8質量%である。特定のフェノール樹脂組成物の含有量が上記下限値以上であることで樹脂の硬化速度が十分であり、また、上記上限値以下であることで成形性が良好であり、その結果、短時間で熱成形しても耐摩耗性に優れた摩擦材が得られる。
【0046】
また、摩擦材における熱硬化性樹脂の含有量は好ましくは1~7質量%であり、より好ましくは2~6質量%である。熱硬化性樹脂の含有量が上記下限値以上であることで耐熱性が十分であり、また、上記上限値以下であることで安定した摩擦特性を得ることができ、その結果、短時間の熱成形時間で製造しても耐摩耗性に優れた摩擦材が得られる。
【0047】
なお、熱硬化性樹脂がストレートフェノール樹脂である場合、特定のフェノール樹脂組成物に含まれるフェノール樹脂との合計含有量が、摩擦材において1~15質量%であることが好ましい。
【0048】
結合材としては、上記した特定のフェノール樹脂組成物と熱硬化性樹脂の他に、他の樹脂を含んでもよい。
【0049】
摩擦材における結合材の含有量は、十分な機械的強度、耐摩耗性を確保するため、1~20質量%とすることが好ましく、3~15質量%がより好ましい。
【0050】
本発明の実施形態に係る摩擦材は、繊維基材、摩擦調整材及び結合材以外に、必要に応じてその他の材料を配合することができる。
【0051】
ただし、環境負荷低減の観点から、本発明の実施形態に係る摩擦材は、銅成分を含有しない。銅成分を含有しないとは、実質的に含有しないことを意味し、不可避的に含有することを除外しない。より詳しくは、元素としての銅含有量が0.5質量%以下であることを意味する。
【0052】
本発明の実施形態に係る摩擦材は、結合材として、ノボラック型フェノール樹脂、エポキシ樹脂、及び固形レゾール型フェノール樹脂を含有するフェノール樹脂組成物と、熱硬化性樹脂とを含有することで、熱成形時間の短縮化と、優れた摩耗特性とを両立できる。
【0053】
本発明の摩擦材の製造は、公知の製造工程により行うことができ、例えば、摩擦材組成物の予備成形、熱成形、加熱、研摩等の工程を経て摩擦材を作製することができる。
摩擦材を備えたブレーキパッドの製造方法は、一般的に以下の工程を有する。
(a)板金プレスにより鋼板(プレッシャプレート)を所定の形状に成形する工程
(b)上記プレッシャプレートに脱脂処理、化成処理およびプライマー処理を施し、接着剤を塗布する工程
(c)繊維基材と、摩擦調整材と、結合材等の粉末原料とを配合し、混合により十分に均質化した摩擦材組成物を、常温にて所定の圧力で成形して予備成形体を作製する工程
(d)上記予備成形体と接着剤が塗布されたプレッシャプレートとを、所定の温度および圧力を加えて両部材を一体に固着する熱成形工程(成形温度130~180℃、成形圧力30~80MPa、成形時間1分間~10分間)
(e)アフターキュア(150~300℃、1~5時間)を行って、最終的に研摩や表面焼き、塗装等の仕上げ処理を施す工程
このような工程により、本発明の実施形態に係る摩擦材を製造することができる。
特に、工程(d)における成形時間に関し、従来の摩擦材は好ましくは4分間以上、より好ましくは5分間以上を要していたが、本実施形態に係る摩擦材は3分間以下の成形時間でも成形性や耐摩耗性に優れた摩擦材を製造できる。
【0054】
以上より、本明細書は以下の摩擦材を開示する。
〔1〕摩擦調整材、結合材及び繊維基材を含む摩擦材であって、
前記結合材として、ノボラック型フェノール樹脂、エポキシ樹脂、及び固形レゾール型フェノール樹脂を含有するフェノール樹脂組成物と、熱硬化性樹脂とを含有する摩擦材。
〔2〕前記フェノール樹脂組成物及び前記熱硬化性樹脂の質量比率が3:1~1:1である、〔1〕に記載の摩擦材。
〔3〕前記フェノール樹脂組成物の含有量が1~10質量%である、〔1〕又は〔2〕に記載の摩擦材。
〔4〕前記熱硬化性樹脂の含有量が1~7質量%である、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の摩擦材。
【実施例0055】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに説明するが、本発明は下記例に制限されない。
【0056】
<摩擦材の製造>
(実施例1~2、比較例1~2)
表1に示す配合材料を、混合攪拌機に投入し、常温で4分間混合し、摩擦材組成物を得た。その後、得られた摩擦材組成物を以下の(i)予備成形、(ii)熱成形、(iii)熱処理の工程を経て、摩擦材を備えたブレーキパッドを作製した。
(i)予備成形
混合物を予備成形プレスの金型に投入し、常温にて20MPaで10秒間成形を行い、予備成形体を作製した。
(ii)熱成形
この予備成形体を熱成形型に投入し、予め接着剤を塗布した金属板(プレッシャプレート)を重ね、150℃、50MPaで2分間の加熱加圧成形を行った。
(iii)熱処理
この加熱加圧成形体に、250℃、3時間の熱処理を実施した後、表面を研摩した。
次いで、この加熱加圧成形体の表面に仕上げ塗装を行い、摩擦材を得た。
【0057】
フェノール樹脂組成物として、住友ベークライト株式会社製のフェノール樹脂組成物(ノボラック型フェノール樹脂と固形レゾール型フェノール樹脂とを合計65質量%と、エポキシ樹脂を35質量%含むフェノール樹脂組成物)を使用した。
熱硬化性樹脂として、ストレートフェノール樹脂を使用した。
【0058】
得られた摩擦材に対して以下の方法および基準により、成形性と耐摩耗性の評価を行った。
【0059】
<成形性評価>
得られた摩擦材に対し、打音検査および目視にて、クラックや膨れの有無を確認することにより歩留まりを算出した。
評価基準は以下のとおりである。
○:歩留まりが100%(クラックおよび膨れ無し)
×:歩留まりが100%未満
【0060】
<耐摩耗性評価>
得られた摩擦材からテストピース(20mm×30mm)を切り出し、1/7スケールテスタを用いて耐摩耗性の評価試験を下記条件にて実施し、パッド摩耗量を測定した。なお、相手材は鋳鉄ロータ(FC200)を使用した。
(1)摺り合わせ:初速度50km/h、液圧2.0MPa、制動開始ロータ温度100℃、制動回数200回
(2)300℃摩耗:初速度50km/h、液圧2.0MPa、制動開始ロータ温度300℃、制動回数200回
パッド摩耗量は1000回制動相当に換算した。
評価基準は以下のとおりである。
◎:0.20g未満
○:0.20g以上0.40g未満
×:0.40g以上
【0061】
各試験の結果を表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
上記結果より、結合材としてフェノール樹脂組成物と熱硬化性樹脂とを含む実施例1および実施例2の摩擦材は、歩留まりが100%であり、かつ、パッド摩耗量が0.40g以下であることから、成形性と耐摩耗性のいずれにおいても優れた摩擦材であることが分かる。
結合材としてフェノール樹脂組成物のみを含む比較例1の摩擦材は、歩留まりが低く成形性が悪い結果となった。結合材として熱硬化性樹脂のみを含む比較例2の摩擦材は、パッド摩耗量が大きく耐摩耗性が悪い結果となった。